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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】わかめ種苗糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/00 20060101AFI20250409BHJP
【FI】
A01G33/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022092665
(22)【出願日】2022-06-08
(65)【公開番号】P2023179832
(43)【公開日】2023-12-20
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591124385
【氏名又は名称】理研食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100188499
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100127568
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 善典
(74)【代理人】
【識別番号】100171402
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 ▲茂▼
(74)【代理人】
【識別番号】100213779
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 有佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 陽一
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 大輔
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】実公昭50-013831(JP,Y1)
【文献】特開2011-030509(JP,A)
【文献】特開2023-048268(JP,A)
【文献】特開昭61-092517(JP,A)
【文献】特開2013-078283(JP,A)
【文献】特開2002-176866(JP,A)
【文献】特開平08-256618(JP,A)
【文献】特開2010-263815(JP,A)
【文献】特開2006-042687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水に浮遊可能な糸状の着生基質にわかめ胞子を着生させ、海水に浮遊可能なわかめ種糸を得る工程と、前記わかめ種糸又は前記わかめ種糸を育苗して得られる海水に浮遊可能なわかめ種苗糸を培養装置内で流動する海水に浮遊させながら培養する工程とを有するわかめ幼胞子体が着生したわかめ種苗糸の製造方法。
【請求項2】
糸状の着生基質が、直径5mm以下及び/又は長さ10cm以下を充足する、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で得られるわかめ幼胞子体が着生したわかめ種苗糸を支持体に装着する工程と、前記工程で得られる支持体を海中に設置する工程とを有するわかめの養殖方法。
【請求項4】
海水に浮遊可能な糸状の着生基質(ただし、養殖剤を処理した糸状芯材の外周に、連通及び独立した気泡が混在せる発泡材を被覆したものである場合を除く)と、当該基質に着生したわかめ胞子とで構成されたわかめ種糸、又は海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生したわかめ幼胞子体とで構成されたわかめ種苗糸であって、浮遊培養用である、わかめ種糸又はわかめ種苗糸。
【請求項5】
海水に浮遊可能な直径5mm以下の糸状の着生基質と、当該基質に着生したわかめ胞子とで構成されたわかめ種糸、又は海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生したわかめ幼胞子体とで構成されたわかめ種苗糸であって、浮遊培養用である、わかめ種糸又はわかめ種苗糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、わかめの養殖に用いられるわかめ種苗糸の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
わかめの養殖は、一般的に、わかめ胞子を糸状の着生基質に着生させ、わかめ胞子が着生したわかめ種糸を得る工程、得られたわかめ種糸に着生したわかめ胞子を育苗し、わかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体が着生したわかめ種苗糸を得る工程、わかめ種苗糸を養殖前に海中でさらに育苗し、その海域の環境に馴らす、いわゆる「馴致養殖」工程、馴致養殖で成長したわかめ幼胞子体が着生したわかめ種苗糸を親縄に装着する工程、及びわかめ幼胞子体が着生したわかめ種苗糸が装着された親縄を筏に吊り下げる等して海中等でわかめ幼胞子体を成長させる工程がとられる。これらの工程のなかでも、馴致養殖は、わかめの養殖に欠かせない重要な工程の一つであり、馴致養殖を経ることなく、わかめ種苗糸を親縄に装着し、養殖すると、わかめの成長不良や枯死が発生しやすくなり、わかめの生産性に影響を及ぼす結果となる。一方で、馴致養殖は、その海域の環境によっては、わかめ種苗が枯死する、いわゆる芽落ちが発生するリスクも有している。また、馴致養殖は、海上での大掛かりな作業を要する等、養殖事業者にとっては大きな負担であるため、より効率的でわかめの品質、生産性向上が見込まれる馴致養殖に代わる手法が望まれている。
【0003】
馴致養殖に代わる方法として、わかめ種苗糸に着生させたわかめ種苗を養殖に耐え得るわかめ幼胞子体まで成長させる方法が考えられるが、従来のクレモナ糸等を着生基質に用いたわかめ種苗糸は、培養タンク内の底面に沈降するため、わかめ種苗糸がその底面に密集し、わかめ種苗の生育不良を引き起こすという問題がある。
わかめ種苗を沈降させることなく浮遊させて培養する技術としては、海藻の胞子を1cm当たり10個以上の高密度で平板上に播種して培養し、複数の胞子が連結した胞子集塊若しくはそれら胞子が発芽した発芽体が絡みあった発芽体集塊を形成させ平板からはがす工程を経ることを特徴とする海藻養殖法(特許文献1)、褐藻類の幼体を種苗として培養養成する方法であって、(a)褐藻類の胞子又は幼胚を基盤上に播種し幼体に培養する工程、(b)前記幼体を前記基盤から剥離する工程、及び(c)前記剥離された幼体を水槽に移し、各幼体単独での浮遊状態を維持できるように海水注水及びエアレーションにより水槽内を攪拌しながら培養する工程、を含むことを特徴とする培養養成法(特許文献2)等が開示されている。
【0004】
しかし、これらの技術では、平板や基盤からわかめ種苗を剥離させる手間と技術が必要となる。また、剥離させたわかめ種苗をわかめ幼胞子体に成長させたとしても、糸等の着生基質を有さないため、養殖に用いる親縄に着生基質を介して固定、装着することが困難であり、また、わかめ幼胞子体自体を無理に親縄に挟み込んだとしても、わかめ幼胞子体が傷んだり、親縄に着生しなかったりするため、わかめの成長に影響がでる結果となる。そのため、より実用性があり、わかめの品質、生産性向上に寄与することができるわかめ種苗に関する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-176866号公報
【文献】特開2004-187574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規な(例えば、浮遊培養において有用な)わかめ種糸やわかめ種苗糸、これらの製造方法、前記わかめ種糸やわかめ種苗糸を用いた培養方法(わかめ種苗糸の製造方法)等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題に対して鋭意検討を行った結果、海水に浮遊可能な糸状の着生基質を用いてわかめ胞子を着生させること(さらには、それにより得られる海水に浮遊可能なわかめ種糸又はわかめ種苗糸を培養装置内において流動する海水に浮遊させながら培養する工程をとること)により、前記課題が解決されること等を見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の発明等に関する。
[1]海水に浮遊可能な糸状の着生基質にわかめ胞子を着生させ、わかめ種糸(又は海水に浮遊可能なわかめ種糸)[海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ胞子とで構成された種糸(わかめ種糸、海水に浮遊可能なわかめ種糸)]を得る工程(以下、着生工程等ということがある)を含む、わかめ種糸の製造方法。
【0009】
[2]海水に浮遊可能な糸状の着生基質にわかめ胞子を着生させ、わかめ種糸(又は海水に浮遊可能なわかめ種糸)[海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ胞子とで構成された種糸(わかめ種糸、海水に浮遊可能なわかめ種糸)]を得る工程(以下、着生工程等ということがある)を少なくとも含む(又は[1]に記載の着生工程を少なくとも含む)、わかめ種苗糸(例えば、後述のわかめ種苗糸(A)又はわかめ種苗糸(B))の製造方法。
【0010】
[3]着生工程後、さらに、育苗(わかめ種糸を育苗)し、わかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体(以下、わかめ幼胞子体(a)等ということがある)まで成長させたわかめ種苗糸(又は海水に浮遊可能なわかめ種苗糸、以下、わかめ種苗糸(A)等ということがある)[海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(a))とで構成されたわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))]を得る工程(以下、育苗工程等ということがある)を含む、[2]記載の方法。
【0011】
[4]着生工程後[又は着生工程後であって、さらに、育苗工程後(育苗工程([3]記載の育苗工程)後)]、さらに、わかめ種糸又はわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))を、培養装置内で流動する海水に浮遊させながら培養する{培養し、わかめ幼胞子体(以下、わかめ幼胞子体(b)等ということがある)が着生したわかめ種苗糸(以下、わかめ種苗糸(B)等ということがある)[培養し、海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(b))とで構成されたわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))]を得る}工程(以下、培養工程等ということがある)を含む、[2]又は[3]記載の方法。
【0012】
[5]海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(b))とで構成されたわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))[又は[4]に記載の培養工程後、わかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))]を用いて、わかめを養殖する方法。
【0013】
[6]わかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))を支持体(例えば、親縄)に装着する工程(以下、装着工程等ということがある)と、この工程(装着工程)で得られる支持体(他例えば、親縄)を海中に設置する工程(以下、設置工程等ということがある)とを経て、養殖する[5]記載の方法。
【0014】
[7]海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ胞子とで構成されたわかめ種糸。
【0015】
[8]海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(a))とで構成されたわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))。
【0016】
[9]浮遊培養用である(海水中で浮遊培養するための)、[7]又は[8]記載のわかめ種糸又はわかめ種苗糸。
【0017】
[10]海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(b))とで構成されたわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))。
【0018】
[11]養殖用である(わかめの養殖のための)、[10]記載のわかめ種苗糸。
【0019】
[12]海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめとで構成された着生基質(わかめ着生基質)。
【0020】
[13]支持体(例えば、親縄)と、この支持体(例えば、親縄)に装着された[12]記載のわかめ着生基質とで構成された支持体(わかめ着生支持体)。
【0021】
本発明は、例えば、次の発明、
(1)海水に浮遊可能な糸状の着生基質にわかめ胞子を着生させ、わかめ種糸(海水に浮遊可能なわかめ種糸)を得る工程と、前記わかめ種糸又は前記わかめ種糸を育苗して得られる海水に浮遊可能なわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))を培養装置内で流動する海水に浮遊させながら培養する工程とを有するわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(b))が着生したわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))の製造方法、
(2)(1)に記載の製造方法で得られるわかめ幼胞子体が着生したわかめ種苗糸を支持体(例えば、親縄)に装着する工程と、前記工程で得られる支持体(例えば、親縄)を海中に設置する工程とを有するわかめの養殖方法、
から成っていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、新規な(例えば、浮遊培養において有用な)わかめ種糸やわかめ種苗糸、これらの製造方法、前記わかめ種糸やわかめ種苗糸を用いた培養方法(わかめ種苗糸の製造方法)等を提供できる。
このようなわかめ種糸やわかめ種苗糸は、浮遊培養(培養工程)に好適に使用できる。このような浮遊培養を経て得られるわかめ種苗糸(例えば、本発明のわかめ種苗糸の製造方法で得られるわかめ幼胞子体が着生したわかめ種苗糸)は、良好な品質[例えば、馴致養殖を経なくても養殖が可能な品質]を有しており、養殖時には着生基質を介して、容易に親縄等へと装着することができる。その結果、わかめの成長不良や枯死が抑制され、わかめ養殖におけるわかめの品質、生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、培養開始前の育苗後のわかめ種苗糸Aを示す写真である。
図2図2は、実施例1及び2で得られるわかめ種苗糸におけるわかめ種苗の生育状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のわかめ種糸又はわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A)、わかめ種苗糸(B))の製造方法では、まず、海水に浮遊可能な糸状の着生基質にわかめ胞子を着生させ、わかめ種糸(海水に浮遊可能なわかめ種糸)を得る。つまり、このような本発明の方法は、海水に浮遊可能な糸状の着生基質にわかめ胞子を着生させ、わかめ種糸を得る工程(着生工程)を含む。
なお、本明細書では、「わかめ種糸」とは、わかめ胞子が着生した糸状の着生基質のことをいう。
【0025】
糸状の着生基質は、海水に浮遊し、わかめ胞子が着生可能な糸状の材質及び形状であれば特に制限はないが、材質としては、例えば、プラスチック[例えば、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、非オレフィン系樹脂(例えば、ポリアミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂)等]等を含むものを挙げることができる。
糸状の着生基質は、同一(又は同系統)の材質で構成してもよく、複数の異なる材質を組み合わせて(例えば、オレフィン系樹脂と、非オレフィン系樹脂とを組み合わせて)構成してもよい。
特に、糸状の着生基質は、浮遊と着生しやすさのバランスの観点で、少なくともオレフィン系樹脂で構成(例えば、オレフィン系樹脂と非オレフィン系樹脂とで構成)してもよい)
【0026】
糸状の着生基質としては、例えば、直径において、0.1mm以上、0.3mm以上、0.5mm以上、10mm以下、5mm以下等のものを使用してもよい。また、糸状の着生基質は、単糸であってもよく、撚糸であってもよく、特に撚糸であってもよい。
撚糸において、各糸の直径は同一であっても、異なっていてもよい。特に、着生のしやすさを考慮すると、各糸の直径は異なるのが好ましい。
糸状の着生基質は、同一(又は同系統)の材質で構成してもよく、浮遊と着生しやすさのバランスの観点で、複数の異なる材質で構成してもよい[例えば、撚糸を構成する各糸を異なる材質で(例えば、オレフィン系樹脂と、非オレフィン系樹脂とを組み合わせて)構成する等してもよい]。
糸状の着生基質の長さは、特に限定されないが、例えば、1cm以上、3cm以上、5cm以上、1m以下、50cm以下、30cm以下、20cm以下、10cm以下等であってもよい。
【0027】
代表的な糸状の着生基質(形状)としては、例えば、1~3mmの直径を有し、複数の繊維が撚り集まった糸状の形状を有するものを挙げることができる。長さとしては、特に制限はないが、後述する培養装置内で流動しやすい点や支持体(親縄等)へ装着しやすい点で、好ましくは5~10cmの長さにあらかじめ調整したものを用いてもよい。
本明細書では、「海水に浮遊」とは、海水面又は海水中に浮遊状態を維持していることをいい、海水に浮遊可能な糸状の着生基質或いは海水に浮遊可能なわかめ種糸か否かは、海水を充填したビーカー等の透明な容器に、糸状の着生基質或いはわかめ種糸を投入、攪拌した後に、静置状態において容器の底面に沈降すれば、海水に浮遊しない糸状の着生基質或いは海水に浮遊しないわかめ種糸と判断でき、静置状態において経時的に海水面又は海水中に浮遊状態を維持していれば、海水に浮遊可能な糸状の着生基質或いは海水に浮遊可能なわかめ種糸と判断できる。
海水に浮遊可能な糸状の着生基質としては、例えば、DR-2号(商品名;直径2mm;第一製網社製)等が商業的に市販されており、本発明ではこのような市販品を用いることもできる。
【0028】
わかめ胞子は、分類学的にはコンブ目チガイソ科ワカメ属に属するわかめに由来する胞子をいい、わかめの種類としては、ワカメ(Undaria pinnatifida)、ヒロメ(U.undarioides)、アオワカメ(U.peterseniana)があり、本発明ではいずれの種類のわかめに由来する胞子でも好ましく用いることができる。本発明で用いられるわかめ胞子としては、従来のわかめ養殖に用いられるわかめ胞子であればよく、例えば、メカブから放出させたわかめ遊走子、あらかじめわかめ遊走子を基質に付着させた後に配偶体へと発芽させてフリー配偶体へと培養したわかめ配偶体等を挙げることができる。
【0029】
海水に浮遊可能な糸状の着生基質にわかめ胞子を着生(付着)させる方法(着生工程)としては、特に制限はないが、例えば、海水に浮遊可能な糸状の着生基質をわかめ胞子を含む液状物ないし液体(溶液等)に浸漬する方法、海水に浮遊可能な糸状の着生基質にわかめ胞子を含む液状物ないし液体(溶液等)を塗布或いは噴霧する方法等を挙げることができる。
なお、後述のように、着生工程後、枠等に固定して育苗工程を行う場合、枠等に固定した状態で、着生工程を行ってもよい。
海水に浮遊可能な糸状の着生基質へのわかめ胞子の着生数としては、わかめ養殖が可能な数の胞子が着生していれば、特に制限はなく、わかめの収穫量、わかめの品質(藻体の形状、葉体表面のシワの有無等)等を考慮した場合、例えば、好ましくは5~20個/10cm、より好ましくは8~12個/10cmである。前記範囲内であると、わかめは相互被覆を回避しようとして縦方向への成長が促されて長くなり、さらに成長したわかめは葉体表面のシワが少ない形状を呈するため好ましい。
【0030】
本発明のわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A)、わかめ種苗糸(B))の製造方法では、海水に浮遊可能な糸状の着生基質にわかめ胞子を着生させ、海水に浮遊可能なわかめ種糸を得る工程(着生工程)の後(さらには培養工程の前)に、さらに、わかめ種糸を育苗し、わかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))[わかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(a))まで成長させたわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))]を得る工程(育苗工程)をとる(含む)こともできる。なお、本明細書では、「わかめ種苗」とは、わかめ胞子を育苗して得られるわかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体をいい、「わかめ種苗糸」とは、わかめ種苗が着生した糸状の着生基質のことをいう。
【0031】
わかめ種糸を育苗し、わかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(a))まで成長させる方法としては、従来のわかめ養殖用のわかめ種苗糸で行われている育苗方法を採用することができる。
育苗工程において、温度(育苗温度)、別途の光照射の有無やその量(光量)、通気の有無やその量、期間等の条件(育苗条件)は、適宜選択してもよい。
【0032】
例えば、わかめ配偶体からわかめ芽胞体を形成させ、わかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体(例えば、大きさ1~5mm程度のわかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体)まで成長させる場合は、海水温5℃以上(例えば、10℃以上、15℃以上、30℃以下、25℃以下、18~20℃)、光量10μmol/m/s以上(例えば、20μmol/m/s以上、30μmol/m/s以上、150μmol/m/s以下、100μmol/m/s未満、90μmol/m/s以下、45~80μmol/m/s)の条件で、所定期間以上[例えば、3日以上、1週間以上、2週間以上、3週間以上、30日間以上(例えば、30日間)]通気培養する方法等を採用することができる。
【0033】
なお、光量は、平均値(平均光量)であってもよい。また、光量は、後述の培養工程における光量よりも小さい光量であってもよい。
【0034】
育苗工程において、海水には、必要に応じて栄養分を配合してもよい。
【0035】
育苗工程は、海水中で行うことができるが、その際、海水は流動させてもよく、流動させなくてもよい。
【0036】
また、育苗工程において、海水は交換してもよく、しなくてもよいが、好ましくは交換してもよい。
【0037】
さらに、育苗工程は、通常、わかめ種糸を浮遊又は流動をさせることなく(わかめ種糸の浮遊又は流動を制限して)[例えば、わかめ種糸を固定(枠等の固定手段に固定)して]行ってもよい。
【0038】
このような着生工程や育苗工程を経て、わかめ種糸[海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ胞子とで構成されたわかめ種糸]や、わかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))[海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(a))とで構成されたわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))]が得られる。
【0039】
このようにして得られるわかめ種糸及びわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))は、わかめ胞子、わかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(a))が前記糸状の着生基質に着生しており、通常、海水に浮遊する(浮遊可能である)。わかめ種糸を育苗し、わかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(a))まで成長させた場合、わかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))に着生しているわかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(a))の大きさ(長さ)は、0.5mm以上、20mm以下、10mm以下、8mm以下等であってもよく、1~5mmが好ましい。
このようなわかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(a))の大きさ(長さ)は、通常、後述のわかめ幼胞子体(b)の大きさ(長さ)よりも小さい。
なお、海水に浮遊可能なわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))か否かは、海水に浮遊可能な糸状の着生基質或いは海水に浮遊可能なわかめ種糸か否かを判断する方法と同様の方法を用いて確認することができる。
【0040】
本発明のわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))の製造方法では、次に、前記工程(着生工程、育苗工程)で得られるわかめ種糸又はわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))を培養装置内で流動する海水に浮遊させながら培養する工程(培養工程)をとる。
【0041】
培養工程において、わかめ種糸又はわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))は、前記工程で得られるものをそのまま用いてもよく、培養装置内での流動性を考慮し、好ましくは5~10cmの長さに調整したものを用いてもよい。
【0042】
わかめ種糸又はわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))を培養装置内で流動する海水に浮遊させながら培養する工程で用いられる培養装置は、海水を流動させることができれば、特に限定されないが、通常、タンク(容器)を備えている(有している)。このようなタンク(培養タンク)の材質としては、例えば、プラスチック(アクリル、ポリカーボネート等)、ガラス、FRP(繊維強化プラスチック)等を挙げることができる。
【0043】
なお、タンクは、効率よい光供給や視認性等の観点から、少なくとも透明性を有する部分[例えば、側面(側部)、側面(側部)及び底面(底部)]において、透明性を有していてもよい。
【0044】
培養タンクの形状としては、海水の流動性の点で、円形状(円筒状、円柱状)が好ましい。
また、タンクは、開口部を有してもよく、有していなくてもよい。例えば、タンクは、その上部(上面)に開口部を有していてもよい。
【0045】
培養タンクの容量としては、わかめ種苗糸の生産性の点で、500L以上が好ましく、1000L以上がより好ましい。培養装置には、培養タンク内の海水を流動させるための装置(流動装置)を有することが好ましい。このような装置としては、培養タンク内の海水に空気等を送り込むエアーポンプ、培養タンク内からの海水の排出や培養タンク内への海水の供給を行う排出・供給ポンプ、培養タンク内の海水を攪拌する攪拌装置等を挙げることができる。培養装置には、海水温を測定する水温計を有することが好ましい。培養装置には、培養タンク内に光を供給するための照明や光を遮光するための遮光設備を有することが好ましく、光量を測定する光量子計を有することが好ましい。培養装置には、培養タンク内の海水を濾過する濾過装置を有することが好ましい。培養装置の設置場所に、特に制限はなく、屋内又は屋外であってもよい。
【0046】
なお、培養工程は、装置(タンク)の仕様等にもよるが、開放系でおこなってよく、閉鎖系で行ってもよい。代表的には、培養工程は、開口部(例えば、上部に開口部)を有するタンクを用い、開放系にて(例えば、上部を開放して)行ってもよい。
【0047】
わかめ種糸又はわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))を培養装置内で流動する海水に浮遊させながら培養する方法としては、例えば、(1)培養タンク内に充填した海水に気体(空気等)を送り込み海水を流動させて培養する方法、(2)培養タンク内に充填した海水を保持し(特に一定に保ち)ながら海水を排出、供給することで海水を流動させて培養する方法、(3)培養タンク内に充填した海水を攪拌し海水を流動させて培養する方法、(4)これらを組み合わせる方法等を挙げることができ、そのなかでも、新鮮な海水を培養タンクへ供給し、わかめ種苗の生育環境を良好に保つ点で、少なくとも方法(2)[例えば、排水・供給ポンプ等を用いて、海水を一定に保ちながら海水を排出、供給することで海水を流動させて培養する方法]をとることが好ましい。
【0048】
培養タンク内の海水量を保持し(特に一定に保ち)ながら、培養タンク内の海水を排出し、新しい海水を供給する場合、培養タンク内に保持され(特に一定に保たれ)た海水量(L)に対する一日あたりの新しい海水の供給量(L)の比率を「流量比」とすると、流量比(新しい海水の供給量(L)/培養タンク内に一定に保たれた海水量(L))は、10以上が好ましく、20以上がより好ましい。
【0049】
培養する際の培養タンク内の海水量(L)に対するわかめ種糸又はわかめ種苗糸(又は糸状の着生基質)の長さの合計(cm)の比率を「培養密度」とすると、培養密度(わかめ種糸又はわかめ種苗糸の長さの合計(cm)/培養タンク内の海水量(L))は、珪藻の付着を抑制し、わかめ種苗の生育環境を良好に保つ点で、80cm/L以下(例えば、60cm/L以下、50cm/L以下)等であってもよく、20~40cm/Lが好ましく、30~40cm/Lがより好ましい。
【0050】
培養に用いる海水(前記方法(2)において供給する海水を含む)は、わかめ種苗の生育に適した海水温とするため、5℃以上(例えば、10℃以上、15℃以上、30℃以下、25℃以下、10~20℃)が好ましい。培養に用いる海水には、わかめ種苗の生育を促進させる目的で、施肥材料を添加してもよい。施肥材料としては、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、尿素、硝酸カリウム、過リン酸石灰等を挙げることができる。施肥材料の添加方法は、例えば、硝酸アンモニウムの場合、培養タンク内の海水量1Lに対して、一日あたり0.01g以上使用することが好ましい。培養に用いる海水は、濾過装置で濾過することが好ましい。
【0051】
培養する際に、わかめ種苗に一定の光を供給するために、培養タンク内の海水に照明等を用いて光を照射してもよく、屋外で培養する場合は、培養タンク内の海水を遮光設備等を用いて光量調整を行ってもよい。培養タンク内の海水面における光量は、わかめ種苗の生育促進と珪藻の発生抑制を両立させる点で、50μmol/m/s以上、10000μmol/m/s以下、8000μmol/m/s以下、5000μmol/m/s以下、3000μmol/m/s以下、2000μmol/m/s以下、1500μmol/m/s以下、1000μmol/m/s以下、800μmol/m/s以下等であってもよく、100~500μmol/m/sが好ましく、100~300μmol/m/sがより好ましい。なお、このような光量は、平均値(平均光量)であってもよい。
【0052】
培養日数は、通常は10~45日、好ましくは15~40日、より好ましくは20~30日である。
【0053】
このような培養工程を経て、わかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))[海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(b))とで構成されたわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))]が得られる。
【0054】
このようにして得られるわかめ種苗糸には、わかめ幼胞子体が、成長しており、馴致養殖を経ることなく養殖に用いることができる。
わかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(b))の大きさ(長さ)は、例えば、0.5cm超(例えば、0.8cm以上)、10cm以下等であってもよく、好ましくは1~5cm等であってもよい。
なお、わかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))もまた、海水に浮遊可能な糸状の着生基質を有しているため、通常、海水に浮遊可能である。海水に浮遊可能であるか否かは、前記と同様の方法を用いて確認することができる。
このわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(b))が着生したわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))を支持体(親縄等)に装着する工程(装着工程)と、前記工程(装着工程)で得られる支持体(親縄等)を海中に設置する工程(設置工程)とを有するわかめの養殖方法も本発明の形態の一つである。
【0055】
装着工程で用いられる支持体は、通常、親縄と称される。このような支持体(親縄)は、通常、わかめ養殖で用いられるものであればよく、その材質及び形状に特に制限はない。具体的な材質としては、例えば、ポリエステル、ビニロン等の化学繊維等を挙げることができる。具体的な形状としては、例えば、複数の縄が撚り集まった20~50mmの直径を有するロープ状のものを挙げることができ、長さは養殖場によって様々であるが一般的には50~200m程度のものを挙げることができる。さらに、前記ロープ状の親縄の中心部に鋼鉄製のワイヤーを装備した親縄も用いることができる。
【0056】
わかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(b))が着生したわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))を支持体(親縄)に装着する方法としては、特に制限はないが、わかめ養殖で行われている従来の方法を採用することができる。例えば、わかめ種苗糸を、親縄の撚り集まった縄と縄の間に挟み込み装着する方法、親縄に直接タッカー等で固定させ装着する方法、親縄に巻き付けた後、縄と縄の間に挟み込み又はタッカー等で固定させ装着する方法等を挙げることができる。この際、親縄60cmの長さに対し、わかめ種苗糸の合計の長さが5~10cmとなるよう装着することが好ましい。例えば、わかめ種苗糸が一本5cmの長さであれば、親縄60cmの長さに対し、1~2本を装着することが好ましい。
【0057】
このようにして得られるわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(b))が着生したわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))を装着した支持体(親縄)を海中に設置する方法としては、従来のわかめ養殖で採用される方法を用いることができる。例えば、わかめ養殖場の海底に設置したアンカーから水面に向かって張ったロープにわかめ種苗糸を装着した親縄の一端をくくりつけて、親縄の長さの分だけ海面に水平に張り込んでもう一端を別のアンカーから水面に張ったロープにくくりつける。この際、わかめ種苗糸を装着した親縄は、フロートを用いて水深1~2mになるように設置する等の方法を採用することができる。
【0058】
前記のようにわかめ養殖場に設置したわかめ種苗糸を装着した親縄は、従来のわかめ養殖で採用される方法でわかめを養殖することができる。例えば、一般的に水温が約18℃を下回った時期、三陸沿岸であれば通常10月中旬から11月下旬にかけて養殖を開始して、約3ヶ月以上が経過した3月から4月末にかけて収穫する。
【0059】
本発明のわかめの養殖方法によって養殖されたわかめは、従来の方法で収穫することが可能であり、さらに従来の方法で加工することが可能である。収穫された生わかめは、湯通し、冷凍、塩蔵等の従来の加工を行うことによってボイル冷凍わかめ、ボイル塩蔵わかめ等の加工品とすることができ、さらにはボイル塩蔵わかめ等を洗浄、カット、乾燥等の加工をすることによってカット乾燥わかめ等の加工品とすることができる。本発明のわかめの養殖方法によって養殖されたわかめは、従来の馴致養殖を要する養殖によって得られるわかめと比較し、同等以上の品質、収量を得ることができる。そのため、養殖事業者は、馴致養殖による手間やリスクから解放され、わかめの品質、生産性を向上させることができる。
【0060】
なお、本発明には、次の発明(物の発明)も含まれる。
【0061】
海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ胞子とで構成されたわかめ種糸[例えば、浮遊培養(培養工程)用のわかめ種糸]。
【0062】
海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ芽胞体又はわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(a))とで構成されたわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))[例えば、浮遊培養(培養工程)用のわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(A))]。
【0063】
海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめ幼胞子体(わかめ幼胞子体(b))とで構成されたわかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))[例えば、養殖用(わかめの養殖のための)わかめ種苗糸(わかめ種苗糸(B))]。
【0064】
海水に浮遊可能な糸状の着生基質と、当該基質に着生(付着)したわかめとで構成された着生基質(わかめ着生基質)。
【0065】
支持体(例えば、親縄)と、この支持体(例えば、親縄)に装着された前記わかめ着生基質とで構成された支持体(わかめ着生支持体)。
【0066】
これらの発明における構成要件(例えば、着生基質、わかめ胞子、わかめ種糸、わかめ芽胞体、わかめ幼胞子体、わかめ種苗糸、支持体等)の態様は、好ましい態様を含め、すべて前記と同様である(同様のものから選択できる)。
【0067】
なお、このような発明対象(わかめ種糸、わかめ種苗糸、わかめ着生基質、わかめ着生支持体)は、例えば、前述の方法で製造することができる。
【0068】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例
【0069】
[海水に浮遊可能な糸状の着生基質の選定]
糸状の着生基質として、クレモナ糸(商品名;直径1.4mm;第一製網社製)及びDR-2号(商品名;直径2mm;第一製網社製)それぞれ5cmを、海水を充填した500mLビーカーに投入し、30秒間攪拌した。その後、5分間静置し、海水に浮遊可能か否かを確認した。その結果、クレモナ糸は、ビーカーの底面に沈降し、海水に浮遊しないことがわかった。一方、DR-2号は、海水面付近に浮遊し、海水に浮遊可能であることがわかった。
【0070】
[わかめ胞子含有溶液の作製]
わかめ配偶体(岩手県株)の雌約0.1g、雄約0.1gを滅菌海水10gに加え、ホモジナイザー(型式:Pro200ホモジナイザー;Pro Scientific社製)を用いて5000rpmで2分間破砕処理し、滅菌海水90gを加えてわかめ胞子含有溶液約100gを得た。得られたわかめ胞子含有溶液を倒立顕微鏡を用いて確認したところ、破砕された雌雄それぞれの胞子の細胞数は5~30細胞であった。
【0071】
[わかめ種苗糸の作製1]
(1)糸状の着生基質へのわかめ胞子の着生
ポリ塩化ビニル製の配管を用いて作成した枠に、糸状の着生基質としてDR-2号(商品名;直径2mm;第一製網社製)を巻き付けて固定した後、DR-2号に前記わかめ胞子含有溶液を刷毛で塗布し、わかめ種糸Aを作製した。
【0072】
(2)わかめ種糸の育苗
枠に固定されたわかめ種糸Aを水温18℃のUV殺菌処理済みの海水に漬けて、光量45μmol/m/sの条件で30日間通気しながら育苗した。なお、海水は3~10日に1回交換し、換え水の際に栄養分としてノリシード(商品名;第一製網社製)を海水1Lあたり0.2mL加えた。育苗を終え、得られたわかめ種苗糸Aは、わかめ胞子から発芽した5mm程度の芽胞体が、わかめ種苗糸A1cm当たり30~100個付着していることを確認した。約7cmに調整したわかめ種苗糸Aの写真を図1に示す。
【0073】
(3)海水への浮遊確認試験
わかめ種苗糸A5cmを、海水を充填した500mLビーカーに投入し、30秒間攪拌した。その後、5分間静置したところ、海水面付近に浮遊したため、わかめ種苗糸Aは、海水に浮遊可能であることがわかった。
【0074】
[わかめ種苗糸の作製2]
(1)糸状の着生基質へのわかめ胞子の着生
ポリ塩化ビニル製の配管を用いて作成した枠に、糸状の着生基質としてクレモナ糸(商品名;直径1.4mm;第一製網社製)を巻き付けて固定した後、クレモナ糸に前記わかめ胞子含有溶液を刷毛で塗布し、わかめ種糸Bを作製した。
【0075】
(2)わかめ種糸の育苗
枠に固定されたわかめ種糸Bを水温18℃のUV殺菌処理済みの海水に漬けて、光量45μmol/m/sの条件で30日間通気しながら育苗した。なお、海水は3~10日に1回交換し、換え水の際に栄養分としてノリシード(商品名;第一製網社製)を海水1Lあたり0.2mL加えた。育苗を終え、得られたわかめ種苗糸Bは、わかめ胞子から発芽した5mm程度の芽胞体が、わかめ種苗糸B1cm当たり30~100個付着していることを確認した。
【0076】
(3)海水への浮遊確認試験
わかめ種苗糸B5cmを、海水を充填した500mLビーカーに投入し、30秒間攪拌した。その後、5分間静置したところ、ビーカーの底面へ沈降したため、わかめ種苗糸Bは、海水に浮遊しないことがわかった。
【0077】
[培養装置内での浮遊培養によるわかめ種苗糸の作製1]
(1)実施例1
培養タンクとして、500Lアルテミア水槽(商品名:アルテミア孵化槽;アース社製)を屋外に設置し、500Lの海水を充填した後、枠からはずして一本約7cmに調整したわかめ種苗糸A約2280本を投入した(培養密度:32cm/L)。次に、培養タンクの海水にエアーポンプで通気しながら、培養タンクの海水量が500Lに保たれるよう排出ポンプで4800L/日の海水を培養タンクから排出しながら、供給ポンプで4800L/日の海水を培養タンクへ供給し(流量比:9.6)、わかめ種苗糸Aを海水に浮遊させながら培養を開始した。培養中は、光量子計(商品名:ライトアナライザー;日本医化器械製作所社製)で培養タンク内の海水面の光量を測定し、日中は培養タンクを遮光ネットで遮光し、夜間は照明を点灯することで、培養タンク内の海水面の日中平均光量が100~200μmol/m/sになるよう調整し、施肥材料として硝酸アンモニウムを一日あたり5g添加した。また、培養中の海水温は、18~24℃であった。培養開始17日後に得られたわかめ種苗糸を取り出し、わかめ幼胞子体の生育状態の確認を行った。その際のわかめ種苗糸の写真を図2に示す。
【0078】
(2)実施例2
培養タンクとして、500Lアルテミア水槽(商品名:アルテミア孵化槽;アース社製)を屋内に設置し、500Lの海水を充填した後、枠からはずして一本約7cmに調整したわかめ種苗糸A約2280本を投入した(培養密度:32cm/L)。次に、培養タンクの海水にエアーポンプで通気しながら、培養タンクの海水量が500Lに保たれるよう排出ポンプで4800L/日の海水を培養タンクから排出しながら、供給ポンプで4800L/日の海水を培養タンクへ供給し(流量比:9.6)、わかめ種苗糸Aを海水に浮遊させながら培養を開始した。培養中は、光量子計(商品名:ライトアナライザー;日本医化器械製作所社製)で培養タンク内の海水面の光量を測定し、培養タンクに白色LED光を照射することで、培養タンク内の海水面の光量が50~150μmol/m/sになるよう調整し、施肥材料として硝酸アンモニウムを一日あたり5g添加した。また、培養中の海水温は、14~19℃であった。培養開始17日後に得られたわかめ種苗糸を取り出し、わかめ幼胞子体の生育状態の確認を行った。その際のわかめ種苗糸の写真を図2に示す。
【0079】
(3)比較例1
培養タンクとして、500Lアルテミア水槽(商品名:アルテミア孵化槽;アース社製)を屋外に設置し、500Lの海水を充填した後、枠からはずして一本約7cmに調整したわかめ種苗糸B約2280本を投入した(培養密度:32cm/L)。次に、培養タンクの海水にエアーポンプで通気しながら、培養タンクの海水量が500Lに保たれるよう排出ポンプで4800L/日の海水を培養タンクから排出しながら、供給ポンプで4800L/日の海水を培養タンクへ供給した(流量比:9.6)。しかし、わかめ種苗糸Bは、培養タンクの底面に沈降し、海水に浮遊させながら培養することはできなかった。その後、わかめ種苗糸は培養タンクの底面に密集した状態が続き、今後のわかめ種苗の生育が見込まれないため、培養を中断した。
【0080】
図1及び2のとおり、実施例1及び2により得られたわかめ種苗糸は、培養開始時から良好に成長しており、いずれも養殖可能な品質を有するわかめ種苗糸であった。特に、実施例1により得られたわかめ種苗糸は、生育状態が良好であった。これは、培養タンク内の海水面の光量が、200μmol/m/s付近まで上昇し、わかめ種苗の生育が促進されたことが要因の一つと考えられる。また、比較例1では、培養装置内での浮遊培養をすることができず、クレモナ糸等の従来の海水に浮遊しない糸状の着生基質を用いたわかめ種苗糸では、養殖に耐え得るわかめ種苗を生育できなかった。
【0081】
[培養装置内での浮遊培養によるわかめ種苗糸の作製2]
(1)実施例3
培養タンクとして、1000Lアルテミア水槽(商品名:アルテミア孵化槽;アース社製)を屋外に設置し、1000Lの海水を充填した後、枠からはずして一本約5cmに調整したわかめ種苗糸A約9600本を投入した(培養密度:48cm/L)。次に、培養タンクの海水にエアーポンプで通気しながら、培養タンクの海水量が1000Lに保たれるよう排出ポンプで24000L/日の海水を培養タンクから排出しながら、供給ポンプで24000L/日の海水を培養タンクへ供給し(流量比:24)、わかめ種苗糸Aを海水に浮遊させながら培養を開始した。培養中は、光量子計(商品名:ライトアナライザー;日本医化器械製作所社製)で培養タンク内の海水面の光量を測定し、日中は培養タンクを遮光ネットで遮光し、夜間は照明を点灯することで、培養タンク内の海水面の日中平均光量が100~200μmol/m/sになるよう調整し、大きさ1μmフィルターの濾過装置で培養タンクの海水を濾過した。また、培養中の海水温は、8~12℃であった。培養開始29日後で得られたわかめ種苗糸をそれぞれ10本取り出し、わかめ幼胞子体の生育状態の確認及び質量測定を行った。わかめ種苗の生育状態及びわかめ種苗糸一本あたりの平均質量(g)の結果を表1に示す。
【0082】
(2)実施例4
わかめ種苗糸Aの投入本数を約6400本に変更し、培養密度を32cm/Lにしたこと、及び濾過装置を使用しないことに変更したこと以外は、実施例3と同様な方法でわかめ種苗糸を製造し、わかめ幼胞子体の生育状態の確認及び重量測定を行った。わかめ種苗の生育状態及びわかめ種苗糸一本あたりの平均質量(g)の結果を表1に示す。
【0083】
(3)実施例5
わかめ種苗糸Aの投入本数を約3200本に変更し、培養密度を16cm/Lにしたこと、及び濾過装置を使用しないことに変更したこと以外は、実施例3と同様な方法でわかめ種苗糸を製造し、わかめ幼胞子体の生育状態の確認及び質量測定を行った。わかめ種苗の生育状態及びわかめ種苗糸一本あたりの平均質量(g)の結果を表1に示す。
【0084】
(4)実施例6
わかめ種苗糸Aの投入本数を約6400本に変更し、培養密度を32cm/Lにしたこと、濾過装置を使用しないことに変更したこと、及び培養タンクを遮光ネットで遮光しないことに変更し、培養タンク内の海水面の日中平均光量が2000~5000μmol/m/sになるよう調整したこと以外は、実施例3と同様な方法でわかめ種苗糸を製造し、わかめ幼胞子体の生育状態の確認及び質量測定を行った。わかめ種苗の生育状態及びわかめ種苗糸一本あたりの平均質量(g)の結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1のとおり、実施例3~6により得られたわかめ種苗糸は、いずれも養殖可能な品質を有するわかめ種苗糸であった。これらのなかでも、実施例3及び4により得られたわかめ種苗糸は、珪藻の付着がなく、生育状態が良好であり、特に、実施例4により得られたわかめ種苗糸の生育状態が優れていた。
【0087】
[わかめ種苗糸を用いたわかめの養殖1(養殖場:宮城県歌津)]
(1)実施例7
実施例1により得られたわかめ種苗糸(約7cm)を親縄60cmに一本の間隔で、タッカーを用いて固定した。11月中旬に、わかめ種苗糸を装着した親縄を水深1.5m付近に設置し、養殖を開始した。翌年3月上旬に、わかめを収穫し、わかめの品質を評価した。
【0088】
(2)比較例2
わかめ種苗糸Bを水深2m付近に設置し、2週間海中にて、馴致養殖を行った。次に、馴致養殖で得られたわかめ種苗糸(約5cm)を親縄40cmに一本の間隔で固定した。11月中旬に、わかめ種苗糸を装着した親縄を水深1.5m付近に設置し、養殖を開始した。翌年3月上旬に、わかめを収穫し、わかめの品質を評価した。
【0089】
実施例7により得られたわかめは、色合い、大きさ等の品質及び収量ともに、比較例2により得られたわかめと同等であった。
【0090】
[わかめ種苗糸を用いたわかめの養殖2(養殖場:岩手県越喜来)]
(1)実施例8
実施例1により得られたわかめ種苗糸(約7cm)を親縄25cmに一本の間隔で、タッカーを用いて固定した。11月下旬に、わかめ種苗糸を装着した親縄を水深1.5m付近に設置し、養殖を開始した。翌年4月上旬に、わかめを収穫し、わかめの品質を評価した。
【0091】
(2)比較例3
養殖場を岩手県越喜来に変更すること、養殖開始時期を11月下旬に変更すること、及び収穫時期を4月上旬に変更すること以外は、比較例2と同様の方法でわかめを養殖し、わかめの収量、品質を評価した。
【0092】
実施例8により得られたわかめは、比較例3により得られたわかめよりも大きく、品質が良好であり、収量も多かった。
【0093】
[わかめ種苗糸を用いたわかめの養殖3(養殖場:宮城県松島)]
(1)実施例9
実施例1により得られたわかめ種苗糸(約7cm)を親縄50cmに一本の間隔で、タッカーを用いて固定した。12月上旬に、わかめ種苗糸を装着した親縄を水深1.5m付近に設置し、養殖を開始した。翌年4月中旬に、わかめを収穫し、わかめの品質を評価した。
【0094】
(2)比較例4
養殖場を宮城県松島に変更すること、養殖開始時期を12月上旬に変更すること、及び収穫時期を4月中旬に変更すること以外は、比較例2と同様の方法でわかめを養殖し、わかめの収量、品質を評価した。
【0095】
比較例4により得られたわかめは、色落ちが発生した個体が多かったが、実施例9により得られたわかめは、色落ちがなく、良好な品質であった。また、収量は、ともに同等であった。
図1
図2