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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】ペースト
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/08 20060101AFI20250409BHJP
   C08F 299/02 20060101ALI20250409BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20250409BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20250409BHJP
   H01B 3/42 20060101ALI20250409BHJP
   H01B 3/46 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
C08F299/08
C08F299/02
C08F290/06
C09K5/14 E
H01B3/42 G
H01B3/46 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022508271
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2021009724
(87)【国際公開番号】W WO2021187294
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2020046244
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 直子
(72)【発明者】
【氏名】吉山 友章
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-523311(JP,A)
【文献】特開2016-065131(JP,A)
【文献】国際公開第2023/182414(WO,A1)
【文献】特開平10-319770(JP,A)
【文献】特開2001-056018(JP,A)
【文献】特表2008-540754(JP,A)
【文献】国際公開第2012/036036(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 299/08
C08F 299/02
C08F 290/06
C09K 5/14
H01B 3/42
H01B 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(I)~(IV)のいずれかであるペーストであって、下記(I)~(IV)における(A)および(B)が下記(V)を満たし、かつ、該ペーストが下記(VI)を満たす、ペースト。
(I)1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル(A)、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するポリシロキサン(B)およびラジカル開始剤(C)のみからなるペーストであって、
前記ペースト中の前記パーフルオロポリエーテル(A)の含有量が、前記(A)および(B)の合計100質量%に対し、50~96質量%であり、
前記ペースト中のラジカル開始剤(C)の含有量が、前記(A)および(B)の合計100質量部に対し、0.5~20質量部である
(II)1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル(A)、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するポリシロキサン(B)、ラジカル開始剤(C)、および、前記パーフルオロポリエーテル(A)およびポリシロキサン(B)以外の、1分子中にエチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物(D)のみからなるペーストであって、
前記ペースト中の前記パーフルオロポリエーテル(A)の含有量が、前記(A)および(B)の合計100質量%に対し、50~96質量%であり、
前記ペースト中のラジカル開始剤(C)の含有量が、前記(A)および(B)の合計100質量部に対し、0.5~20質量部であり、
前記ペースト中の前記化合物(D)の含有量が、前記(A)および(B)の合計100質量に対し、0.1~3質量部である
(III)1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル(A)、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するポリシロキサン(B)、ラジカル開始剤(C)、および、熱伝導性フィラー(E)のみからなるペーストであって、
前記ペースト中の前記パーフルオロポリエーテル(A)の含有量が、前記(A)および(B)の合計100質量%に対し、50~96質量%であり、
前記ペースト中のラジカル開始剤(C)の含有量が、前記(A)および(B)の合計100質量部に対し、0.5~20質量部であり、
前記ペースト100質量%中の前記熱伝導性フィラー(E)の含有量が、40~70質量%である
(IV)1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル(A)、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するポリシロキサン(B)、ラジカル開始剤(C)、前記パーフルオロポリエーテル(A)およびポリシロキサン(B)以外の、1分子中にエチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物(D)、および、熱伝導性フィラー(E)のみからなるペーストであって、
前記ペースト中の前記パーフルオロポリエーテル(A)の含有量が、前記(A)および(B)の合計100質量%に対し、50~96質量%であり、
前記ペースト中のラジカル開始剤(C)の含有量が、前記(A)および(B)の合計100質量部に対し、0.5~20質量部であり、
前記ペースト中の前記化合物(D)の含有量が、前記(A)および(B)の合計100質量に対し、0.1~3質量部であり、
前記ペースト100質量%中の前記熱伝導性フィラー(E)の含有量が、40~70質量%である
(V)1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル(A)のB型粘度計で測定した23℃における粘度は0.1~25Pa・sであり、
1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するポリシロキサン(B)のB型粘度計で測定した23℃における粘度は0.1~300Pa・sである
(VI)前記ペーストを150℃以上の温度で15分間加熱した後もペースト状である
【請求項2】
B型粘度計で測定した23℃における粘度が500Pa・s以下である、請求項1に記載のペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態はペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部材やブレーキ部材、振動抑制・吸収部材などの部材には、これら部材の所定の動き、耐摩耗性、耐焼付き性等を確保するために、各部材間にペースト(グリースともいう。)が用いられている。
また、電子部品等における発熱体と放熱部との間には、発熱体からの熱を効率よく放熱部に伝達するために、放熱(熱伝導性)材料が使用されている。この放熱材料としては、主に、シートタイプとペーストタイプの2種類の形態があるが、シートタイプは、発熱体や放熱部などの相手面との馴染みの悪さやシート自体にある程度の厚みが必要である等の点から、接触熱抵抗が大きくなる。このため、塗工時に薄膜化でき、相手面との馴染みもよく、放熱性能に優れる等の点から、ペーストタイプが用いられている。
【0003】
これらペーストには、該ペーストに要求される目的を達成するために、所定の場所に留まることが求められている。しかしながら、従来のペーストは、温度が高くなると粘度が低くなり、所定の場所から流出しやすく(以下「ポンプアウト」ともいう。)、このポンプアウトにより、要求される目的を達成できなかった。さらに、従来のペーストは、高温下において、ペースト自体の劣化や固体化が起こり、これらによっても、ペーストに要求される目的を達成できていなかった。
【0004】
また、前記ペーストは、塗装時の粘度が低ければ、塗装性などの作業性や生産性が向上し、所定量、特に少量のペーストを所定の場所に配置しやすいため、例えば、前記放熱材料の場合、ペースト層の厚みを薄くでき、放熱性能を向上させることができる。なお、所定の場所に形成したペーストは、その場所からの流出を抑制するために、一端加熱増粘させて使用される場合もある。
以上のように、前記ペーストには、塗装時の粘度が低いことが求められるが、一方で、このように粘度が低いと、前記のように一端加熱増粘させた後であってもポンプアウトしやすく、長期にわたる所定の性能の維持が困難であるなどの問題があった。
【0005】
前記問題を解決するために、例えば、特許文献1および2には、シリコーン系の化合物を基油としたシリコーン系ペーストが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-227374号公報
【文献】特開2017-165791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ペーストが用いられる用途では、高温(例:200℃以上)化が進んでおり、例えば、パワーモジュール等の電子部品の更なる小型化・高出力化に伴い、電子部品が高温(約200℃以上)下で作動する場合がある。
しかし、このような高温下に従来のシリコーン系ペーストを用いると、該ペースト自体が劣化し、該ペーストに要求される目的を達成できなかった。
【0008】
本発明の一実施形態は、200℃以上の耐熱性を有し、初期粘度が低く、かつ、加熱増粘後にはポンプアウトを抑制できるペーストを提供する。
なお、ここで初期粘度とは、ペースト調製時の粘度であり、ペーストを加熱増粘する前の粘度であり、通常、塗装時の粘度である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
本発明の構成例は以下の通りである。
【0010】
[1] 1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル(A)、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するポリシロキサン(B)およびラジカル開始剤(C)を含むペースト。
【0011】
[2] 前記パーフルオロポリエーテル(A)の含有量が、前記パーフルオロポリエーテル(A)および前記ポリシロキサン(B)の含有量の合計100質量%に対し、30~96質量%である、[1]に記載のペースト。
【0012】
[3] 前記パーフルオロポリエーテル(A)およびポリシロキサン(B)以外の、1分子中にエチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物(D)を含む、[1]に記載のペースト。
【0013】
[4] 熱伝導性フィラー(E)を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のペースト。
【0014】
[5] B型粘度計で測定した23℃における粘度が500Pa・s以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のペースト。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、200℃以上の耐熱性を有し、初期粘度が低く、かつ、加熱(例:ラジカル開始剤の開始温度以上)増粘後にはポンプアウトを抑制できるペーストを提供することができるため、ペーストが用いられる部材に要求される性能を長期にわたって維持することができる。
また、本発明の一実施形態によれば、例えば、常温下での保管環境であれば、ポットライフがほとんどない(極めて長い)ペーストを提供することができる。
なお、本発明の一実施形態に係るペーストは、高温下でも固体化せず、ペースト状であるため、高温下でも、ペーストが用いられる部材に要求される性能を維持することができる。
【0016】
本発明におけるペーストは、サンプル0.2gを、常温(23℃)、圧力1MPaで圧縮した際に、サンプル厚みが200μm以下となるものとして定義される。
このサンプル厚みの測定方法は、具体的には、下記実施例に記載の通りである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪ペースト≫
本発明の一実施形態に係るペースト(以下「本ペースト」ともいう。)は、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル(A)[以下「成分(A)」ともいう。他の成分についても同様。]、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するポリシロキサン(B)およびラジカル開始剤(C)を含む。
【0018】
<パーフルオロポリエーテル(A)>
成分(A)は、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテルであれば特に制限されない。
このような成分(A)を用いることで、耐熱性に優れるペーストを得ることができる。
本ペーストに用いる成分(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0019】
本発明におけるエチレン性不飽和結合としては、例えば、ビニル基、メチルビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等の炭素原子数2~8のアルケニル基、ビニルフェニル基、(メタ)アクリロイル基、アリルオキシ基、スチリル基、プロパルギル基が挙げられる。これらの中でも、アルケニル基が好ましく、炭素数2~4のアルケニル基がより好ましく、ビニル基が特に好ましい。
エチレン性不飽和結合を有する各成分は、特に制限されない限り、2種以上のエチレン性不飽和結合を有していてもよい。
【0020】
成分(A)の好適例としては、特開2003-183402号公報、特開平11-116684号公報、特開平11-116685号公報、特開2015-67737号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0021】
成分(A)としては、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
1-(X)p-(Rf-Q)a-Rf-(X)p-Z2 ・・・(1)
【0022】
Xは独立に-CH2-、-CH2O-、-CH2OCH2-、*-Si(R2)2-Ph-(Ph:フェニレン基)、*-Y-NR1SO2-または*-Y-NR1-CO-(但し、Yは-CH2-または*-Si(R2)2-Ph-である。なお、前記*部分が、Z1またはZ2に結合する。)である。
Rfは2価パーフルオロポリエーテル基(2価パーフルオロオキシアルキレン基)である。
pは独立に0または1である。aは0以上の整数であり、好ましくは0~10の整数、より好ましくは1~6の整数である。
Qは下記式(2)、(3)または(4)で表される基である。
【0023】
2は、炭素数1~10、特に炭素数1~8の置換または非置換の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、これらの基の水素原子の一部または全部をハロゲン原子等で置換した、クロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、6,6,6,5,5,4,4,3,3-ノナフルオロヘキシル基等のフッ素置換アルキル基が挙げられる。
【0024】
1は、水素原子または前記R2として例示した基と同様の炭素数1~10、特に炭素数1~8の置換または非置換の1価炭化水素基であり、水素原子またはR2と同様の基が挙げられる。R1としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、これらの基の水素原子の一部をハロゲン原子等で置換した、クロロメチル基、クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、6,6,6,5,5,4,4,3,3-ノナフルオロヘキシル基等のフッ素置換アルキル基が挙げられる。
【0025】
1およびZ2はそれぞれ独立に、エチレン性不飽和結合含有基であり、-Si(エチレン性不飽和結合含有基)(R’)2であってもよい。
該エチレン性不飽和結合含有基としては、1価のアルケニル基が好ましく、炭素数2~4の1価のアルケニル基がより好ましく、1価のビニル基が特に好ましい。
R’は独立に、置換または非置換の1価の炭化水素基であり、具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基などのアリール基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などのハロゲン化アルキル基が挙げられる。これらの中でも、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。
【0026】
【化1】
【0027】
式(2)~(4)において、X、pおよびR1は前記式(1)中のX、pおよびR1と同義である。R3およびR4はそれぞれ独立に、結合途中に酸素原子、窒素原子、ケイ素原子および硫黄原子から選ばれる1種以上を介在させてもよい置換または非置換の2価炭化水素基であり、式(2)中のR3および式(3)中のR4はそれぞれ独立に、下記式(5)または(6)で表される基であってもよい。
【0028】
【化2】
【0029】
式(5)、(6)において、R5は置換または非置換の1価炭化水素基であり、R6は炭素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子および硫黄原子から選ばれる1種以上を含む基である。
【0030】
3およびR4としては、置換または非置換の2価炭化水素基であれば特に限定されないが、炭素数1~20、特に炭素数2~10の2価炭化水素基が好適であり、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基等のアルキレン基、シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等のアリーレン基、これらの基の水素原子の一部をハロゲン原子等で置換した基、これらの置換または非置換のアルキレン基、アリーレン基の組み合わせが例示される。
【0031】
3およびR4において、窒素原子が介在する場合、-NR’-(R’は水素原子または炭素数1~8、特に炭素数1~6のアルキル基もしくはアリール基である。)として介在することができ、また、ケイ素原子が介在する場合、例えば、以下の基のように直鎖状または環状のオルガノシロキサンを含有する基もしくはオルガノシリレン基として介在することができる。
【0032】
【化3】
【0033】
R’’は独立に、前記R2として例示した基と同様の炭素数1~8のアルキル基またはアリール基であり、R’’’は独立に、前記R3として例示した基と同様の炭素数1~6のアルキレン基またはアリーレン基であり、nは0~10、好ましくは0~5の整数である。
【0034】
3およびR4の具体例としては、以下の基が挙げられる。
【0035】
【化4】
【0036】
式(2)および(4)における、-C(=O)-以外の部分の構造としては、例えば、下記構造が挙げられる。
【0037】
【化5】
【0038】
【化6】
【0039】
【化7】
【0040】
-(X)p-(Rf-Q)a-Rf-(X)p-は、-(O-R7n-[R7はパーフルオロアルカンジイル基を示し、nは2以上の整数を示す。複数存在するR7は互いに同一でも異なっていてもよい。]であることが好ましい。
【0041】
7で表されるパーフルオロアルカンジイル基としては、例えば、Cm2mで表される基(mは2以上の整数)が挙げられ、直鎖状でも分岐状であってもよい。パーフルオロアルカンジイル基の炭素数(すなわちm)は、例えば1~10であり、好ましくは2~6、より好ましくは2~4、特に好ましくは2~3である。
【0042】
nは2以上であればよく、例えば10以上、好ましくは40以上、より好ましくは70以上である。また、nは、例えば300以下、好ましくは200以下、より好ましくは150以下である。
【0043】
-(O-R7n-は、下記Rfと同様の基であってもよい。
【0044】
前記式(1)で表される化合物は、下記式(1-1)で表される化合物であることが好ましい。
CH2=CH-(X)p-(Rf-Q)a-Rf-(X)p-CH=CH2 ・・・(1-1)
[式(1-1)中の各符号の定義は、式(1)中の各符号の定義と同様ある。]
【0045】
また、前記式(1-1)で表される化合物は、aが0である化合物であることが好ましく、この場合、下記式(1-1-1)で表される。
CH2=CH-(X)p-Rf-(X)p-CH=CH2 ・・・(1-1-1)
[式(1-1-1)中の各符号の定義は、式(1)中の各符号の定義と同様ある。]
【0046】
前記Rfの具体例としては、以下の基が挙げられる。
-[CF(Z)OCF2p-(CF2r-[CF2OCF(Z)]q
(Zは、フッ素原子または-CF3であり、p、qおよびrは、p≧1、q≧1、2≦p+q≦200、好ましくは2≦p+q≦110、0≦r≦6を満たす整数である。)、
-CF2CF2OCF2-(CF(CF3)OCF2s-(CF2r-(CF2OCF(CF3))t-CF2OCF2CF2
(r、sおよびtは、0≦r≦6、s≧0、t≧0、0≦s+t≦200、好ましくは2≦s+t≦110を満たす整数である。)、
-CF(Z)-(OCF(Z)CF2u-(OCF2v-OCF(Z)-
(Zは、フッ素原子または-CF3であり、uおよびvは、1≦u≦100、1≦v≦50を満たす整数である。)、
-CF2CF2-[OCF2CF2CF2w-OCF2CF2
(wは、1≦w≦100を満たす整数である。)
【0047】
成分(A)としては、従来公知の方法で合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
【0048】
成分(A)のB型粘度計で測定した23℃における粘度は、好ましくは0.1~100Pa・s、より好ましくは0.1~10Pa・sである。
成分(A)の粘度が前記範囲にあると、初期粘度が低く、塗装性に優れるペーストを容易に得ることができる。また、このような初期粘度が低いペーストが放熱ペーストである場合、例えば、発熱体と放熱部の間などの所定の場所に厚みの薄いペースト層を容易に形成することができ、発熱体や放熱部などの相手面と馴染みやすいペースト層を容易に形成することができるため、該ペースト層による熱抵抗を低減することができ、放熱特性に優れる電子部品等を容易に得ることができる。
【0049】
本ペースト中の成分(A)の含有量は、200℃以上の耐熱性と、低い初期粘度と、ポンプアウトの抑制性とにバランスよく優れるペーストを容易に得ることができる等の点から、本ペースト中の成分(A)および(B)の合計100質量%に対し、好ましくは30~96質量%、より好ましくは50~96質量%、さらに好ましくは70~96質量%、特に好ましくは90~95質量%である。
【0050】
<ポリシロキサン(B)>
成分(B)は、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するポリシロキサンであれば特に制限されない。
このような成分(B)を成分(A)と共に用いることで、初期粘度が低くても、加熱増粘(但し、固体化せず、あくまでペースト状である)によって流動抵抗が高まり、ポンプアウトが抑制されたペーストを容易に得ることができる。
通常、前記成分(A)からなる初期粘度の低いペーストは、ラジカル開始剤を用いても粘度増加は非常に小さいため、加熱増粘したとしてもポンプアウトしやすかったが、本発明の一実施形態によれば、初期粘度の低いペーストであっても、加熱増粘後にはポンプアウトを抑制することができる。
本ペーストに用いる成分(B)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0051】
成分(B)としては、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有し、かつ、ケイ素原子に有機基が結合したオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
前記エチレン性不飽和結合の結合位置は特に制限されない。
【0052】
ケイ素原子に結合した有機基としては、例えば、前記エチレン性不飽和結合、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基が挙げられる。
直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等の炭素数1~20、好ましくは炭素数1~6の基が挙げられる。
分岐鎖状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基等の炭素数1~20、好ましくは炭素数1~6の基が挙げられる。
環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3~20の基が挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基等の炭素数6~20の基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基等の炭素数7~20の基が挙げられる。
ハロゲン化アルキル基としては、例えば、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-(ノナフルオロブチル)エチル基、2-(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基等の炭素数1~20、好ましくは炭素数1~6の基が挙げられる。
【0053】
前記ケイ素原子に結合した有機基としては、直鎖状アルキル基、アルケニル基、アリール基が好ましく、炭素数1~6の直鎖状アルキル基、アルケニル基、アリール基がより好ましく、メチル基、ビニル基、フェニル基が特に好ましい。
【0054】
成分(B)の分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、樹枝状(デンドリマー状)が挙げられ、好ましくは直鎖状、一部分岐を有する直鎖状である。成分(B)は、これらの分子構造を有する単一の重合体、これらの分子構造を有する共重合体、これらの重合体の2種以上の混合物であってもよい。
【0055】
成分(B)としては、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端メチルフェニルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ポリシロキサン、式:(CH33SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:(CH32(CH2=CH)SiO1/2で表されるシロキサン単位と式:CH3SiO3/2で表されるシロキサン単位と式:(CH32SiO2/2で表されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、下記式(7)で表される化合物が挙げられる。
【0056】
【化8】
[式(7)中、R1はそれぞれ独立に、非置換または置換の1価炭化水素基であり、R2は独立に、アルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基またはアシル基であり、bは2~100の整数であり、aは1~3の整数である。但し、式(7)中のR1およびR2のうち少なくとも2つは、前記エチレン性不飽和結合を含む。]
【0057】
式(7)中、R1はそれぞれ独立に、非置換または置換の、好ましくは炭素数1~10の1価炭化水素基であり、その例としては、前記ケイ素原子に結合した有機基として例示した基と同様の基が挙げられる。これらの中では、炭素数1~6の1価炭化水素基が好ましく、アルケニル基、アリール基、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0058】
式(7)中のR2におけるアルキル基およびアルケニル基としては、例えば、前記ケイ素原子に結合した有機基として例示した基と同様の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基が挙げられる。
式(7)中のR2におけるアルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、メトキシプロピル基等の炭素数2~10の基が挙げられる。
式(7)中のR2におけるアシル基としては、例えば、アセチル基、オクタノイル基等の炭素数2~10の基が挙げられる。
【0059】
式(7)中のbは、好ましくは10~50の整数であり、aは、好ましくは3である。
【0060】
成分(B)のB型粘度計で測定した23℃における粘度は、初期粘度が低く、塗装性に優れるペーストを容易に得ることができる等の点から、好ましくは0.1~300Pa・s、より好ましくは0.1~100Pa・sである。
【0061】
本ペースト中の成分(B)の含有量は、200℃以上の耐熱性と、低い初期粘度と、ポンプアウトの抑制性とにバランスよく優れるペーストを容易に得ることができる等の点から、本ペースト中の成分(A)および(B)の合計100質量%に対し、好ましくは4~70質量%、より好ましくは4~50質量%、さらに好ましくは4~30質量%、特に好ましくは5~10質量%である。
【0062】
<ラジカル開始剤(C)>
成分(C)はラジカル開始剤であれば特に制限されず、従来公知のラジカル開始剤を用いることができる。
成分(A)と(B)とを、成分(C)を用いて反応(架橋)させることで、従来のペーストに用いられている白金系触媒を用いることなく、ポンプアウトが抑制されたペーストを得ることができ、例えば、常温下での保管環境であれば、ポットライフがほとんどない(極めて長い)ペーストを得ることができる。
本ペーストに用いる成分(C)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0063】
成分(C)としては、例えば、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ-(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーベンゾエート等の過酸化物、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソバレロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)、2,2’-アゾビス(イソ酪酸メチル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩等のアゾ化合物が挙げられる。
これらの中でも、ポンプアウトをより抑制でき、ポットライフがほとんどない(極めて長い)ペーストを容易に得ることができる等の点から、過酸化物が好ましく、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3がより好ましく、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートが特に好ましい。
【0064】
本ペースト中の成分(C)の含有量は、ポンプアウトを抑制でき、ポットライフがほとんどない(極めて長い)ペーストを容易に得ることができる等の点から、本ペースト中の成分(A)および(B)の合計100質量部に対し、好ましくは0.05~30質量部、より好ましくは0.5~20質量部、特に好ましくは1~10質量部である。
【0065】
<化合物(D)>
成分(D)は、前記成分(A)および(B)以外の、1分子中にエチレン性不飽和結合を2個以上有する化合物であれば特に制限されず、従来公知の化合物(共架橋剤)を用いることができる。
成分(D)を用いることで、ポンプアウトをより抑制することができる。
本ペーストに成分(D)を用いる場合、用いる成分(D)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0066】
成分(D)におけるエチレン性不飽和結合の数は2個であってもよいが、ポンプアウトをより抑制することができる等の点から、好ましくは3個以上であり、より好ましくは3~6である。
【0067】
成分(D)としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N'-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタルアミド、エチレングリコール・ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。
これらの中では、反応性に優れ、耐熱性に優れるペーストを容易に得ることができる等の点から、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0068】
成分(D)は、モノマーであることが好ましく、該モノマーとしては、例えば、分子量が1000以下の化合物が挙げられる。
【0069】
本ペーストが成分(D)を含有する場合、本ペースト中の成分(D)の含有量は、ポンプアウトをより抑制することができる等の点から、本ペースト中の成分(A)および(B)の合計100質量部に対し、好ましくは0.05~10質量部、より好ましくは0.05~5質量部、特に好ましくは0.1~3質量部である。
【0070】
<熱伝導性フィラー(E)>
本ペーストを放熱ペーストとして用いる場合、本ペーストは、成分(E)を含有することが好ましい。
本ペーストに成分(E)を用いる場合、用いる成分(E)は、1種でもよく、2種以上でもよい。2種以上の成分(E)を用いる場合、材質の異なる2種以上の成分(E)を用いてもよく、形状や平均粒子径等の異なる2種以上の成分(E)を用いてもよい。
【0071】
成分(E)としては、熱伝導率が1W/m・K以上のフィラーを用いることが好ましい。
このような成分(E)としては、例えば、金属粉、金属酸化物粉、金属窒化物粉、金属水酸化物粉、金属酸窒化物粉、金属炭化物粉、炭素材料が挙げられ、具体的には、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化ケイ素(Si34)、窒化ホウ素(例:六方晶BNや立方晶BN)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、グラファイト、ダイヤモンド、カーボンナノチューブが挙げられる。
【0072】
成分(E)の形状は特に制限されず、例えば、粒状、鱗片状、針状が挙げられるが、より高密度充填できることから粒状であることが好ましい。
粒状である成分(E)の平均粒子径は、例えば0.1~100μmであり、好ましくは0.5~50μmである。該平均粒子径は、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)により得られる粒径分布におけるd50の値である。
【0073】
本ペーストが成分(E)を含有する場合、初期粘度が低く、かつ、放熱性により優れるペーストを容易に得ることができる等の点から、本ペースト100質量%中の成分(E)の含有量は、好ましくは10~90質量%、より好ましくは40~70質量%である。
【0074】
<その他の成分>
本ペーストは、必要に応じて、本発明の効果を損なわない限り、フッ素系オイル等の可塑剤;シランカップリング剤;界面活性剤;架橋促進剤;溶剤;分散剤;老化防止剤;酸化防止剤;難燃剤;顔料等の、前記成分(A)~(E)以外のその他の成分を含んでもよい。
該その他の成分は、それぞれ1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0075】
本ペーストは、例えば、常温下での保管環境であれば、ポットライフがほとんどない(極めて長い)ペーストを得ることができる等の点から、白金系触媒を含まないことが好ましい。
従来のペーストは、白金系触媒を用いていたが、白金系触媒を用いると、ポットライフが短く、ペーストの長期保存ができなかった。
なお、白金系触媒を含まないとは、成分(A)および(B)の合計100質量部に対する白金系触媒の含有量が、例えば0.0001質量部以下であることをいい、下限は好ましくは0質量部である。
【0076】
前記成分(A)は、通常、主鎖中にパーフルオロアルキルエーテル構造を有し、分子末端にヒドロシリル基を1~2個有する化合物(Z)と共に用いられるため、本ペーストでも、該化合物(Z)を用いてもよいが、本ペーストが白金触媒を含まない場合、該化合物(Z)が成分(A)と反応しにくく、可塑剤として働くため、加熱による増粘を妨げ、ポンプアウトを促進する傾向にある等の点から、本ペーストは、化合物(Z)を含まないことが好ましい。
なお、該化合物(Z)を含まないとは、成分(A)および(B)の合計100質量部に対する化合物(Z)の含有量が、例えば0.1質量部以下であることをいい、下限は好ましくは0質量部である。
【0077】
<本ペーストの調製方法>
本ペーストは、前記成分(A)~(C)および必要により用いられる前記成分(D)、(E)やその他の成分を混合し、ミキサーやロール等を用いて混練分散させることにより調製することができる。
【0078】
<本ペーストの物性>
本ペーストのB型粘度計で測定した23℃における粘度(この粘度は、初期粘度のことである。)は、低いことが好ましく、具体的には、好ましくは500Pa・s以下、より好ましくは200Pa・s以下、特に好ましくは150Pa・s以下であり、好ましくは0.1Pa・s以上である。
本ペーストの初期粘度が前記範囲にあると、塗装性に優れるペーストを容易に得ることができる。また、このような初期粘度が低いペーストが放熱ペーストである場合、例えば、発熱体と放熱部の間などの所定の場所に厚みの薄いペースト層を容易に形成することができ、発熱体や放熱部などの相手面と馴染みやすいため、該ペースト層による熱抵抗を低減することができ、放熱特性に優れる電子部品等を容易に得ることができる。
通常、初期粘度の低いペーストは、加熱増粘したとしてもポンプアウトしやすかったが、本発明の一実施形態によれば、初期粘度の低いペーストであっても、加熱増粘後にはポンプアウトを抑制することができる。
【0079】
本ペーストを成分(C)の開始温度以上の温度で15分間加熱した後、23℃まで降温させた際のB型粘度計で測定した粘度(加熱後粘度)の、前記初期粘度に対する比(加熱後粘度/初期粘度)は、好ましくは5倍以上、より好ましくは6倍以上、さらに好ましくは7倍以上である。特に、ポンプアウトの抑制が極めて重要な用途に本ペーストを用いる場合には、該初期粘度に対する加熱後粘度の比は、好ましくは50倍以上、より好ましくは70倍以上、特に好ましくは100倍以上である。
初期粘度に対する加熱後粘度の比が前記範囲にあると、低い初期粘度と、ポンプアウトの抑制性とにバランスよく優れるペーストを容易に得ることができる。
【0080】
前記加熱後粘度は、初期粘度に対する加熱後粘度の比が前記範囲となるような粘度であることが好ましいが、ポンプアウトを抑制できる等の点から、好ましくは40Pa・s以上、より好ましくは50Pa・s以上であり、ポンプアウトの抑制が極めて重要な用途に本ペーストを用いる場合、加熱後粘度の具体的な数値の例としては、好ましくは500Pa・s以上、より好ましくは3000Pa・s以上、特に好ましくは8000Pa・s以上である。
加熱後粘度が前記範囲にあると、流動抵抗により、加熱増粘後にはポンプアウトを容易に抑制することができる。
【0081】
下記実施例に記載の方法で測定した本ペーストの耐熱温度は、好ましくは200℃以上であり、本発明の効果がより発揮される等の点から、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは250℃以上であり、上限は特に制限されないが、例えば、300℃である。
【0082】
<本ペーストの用途>
本ペーストは、従来のペーストが用いられてきた用途に制限なく用いることができるが、本発明の効果がより発揮される等の点から、高温(例:200℃以上)下に曝される可能性のある用途、温度がかかっても(加熱下でも)所定の場所にペースト状で留まることが求められている用途、特に、塗装や流し込みなどにより所定の場所にペーストを形成する際には粘度が低く、温度がかかっても(加熱下でも)所定の場所にペースト状で留まることが求められている用途に好適に用いることができる。
【0083】
前記用途としては、具体的には、摺動部材やブレーキ部材、振動抑制・吸収部材などの部材用が挙げられ、また、前記成分(E)を含む本ペーストは、電子部品等における発熱体と放熱部との間などに用いられる放熱ペースト用が挙げられる。前記ポンプアウトの抑制が極めて重要な用途としては、該放熱ペースト用が挙げられる。
【0084】
特に、前記成分(E)を含む本ペーストは、初期粘度が低く、かつ、加熱後には、ポンプアウト、基油抜け、固化、タレ落ち等が抑制されたペーストであり、放熱性(熱伝導性)を長期にわたって維持することができるため、発熱体を有する装置、機器、部品等に好適に用いることができ、これらに本ペーストを用いることで、長期信頼性に優れる装置、機器、部品等を得ることができる。特に、該ペーストは、初期粘度が低く、発熱体や放熱部との馴染みがよいため、発熱体と放熱部との間に薄いペースト層を形成することができ、該ペースト層による熱抵抗を低減できるため、発熱体と放熱部との間に設けられる放熱ペーストとして好適に用いられ、さらには、固化せず、割れ難く、振動を吸収(抑制)することができるため、自動車等の乗り物用の放熱ペーストとして好適に用いられる。
【0085】
本ペーストを所定の場所に形成する方法としては、例えば、従来公知の塗装方法により本ペーストを所定の場所に塗布することや、本ペーストを所定の場所に流し込む方法が挙げられる。2つの部材間に本ペーストを形成する場合、これら部材間に本ペーストを塗布または流し込んだ後、必要により下記加熱をしながら、圧力をかけてもよい。例えば、発熱体と放熱部との間に本ペーストを形成する場合、熱抵抗を考慮すると、形成される本ペースト(層)の厚みは薄い方が好ましい。従って、この場合には、発熱体と放熱部との間に本ペーストを形成した後、圧力をかけて、本ペーストを伸ばすことが好ましい。
【0086】
前記のように所定の場所に形成した本ペーストを加熱(加熱増粘)することで、該ペーストを形成した所定の場所から移動しないようにすることができる。
この際の加熱温度としては本ペーストの調製に用いる各成分に応じて適宜設定すればよく、特に、用いる成分(C)の種類に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは80~200℃、より好ましくは100~170℃である。
【実施例
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0088】
[実施例1~6および比較例1~4]
表1に示す配合比率(数値の単位は質量部である)で、表1の各配合成分を混合することでペーストを調製した。
表1中の各成分は、以下の通りである。
【0089】
・パーフルオロポリエーテル1:信越化学工業(株)製の「X-71-8115A」(1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル、23℃における粘度(B型粘度計で測定):4.3Pa・s)
・パーフルオロポリエーテル2:信越化学工業(株)製の「X-71-6207 A)」(1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル、23℃における粘度(B型粘度計で測定):25Pa・s)
・ポリシロキサン1:信越化学工業(株)製の「KE-1950-10A」(1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するジメチルポリシロキサン、23℃における粘度(B型粘度計で測定):60Pa・s)
・ポリシロキサン2:信越化学工業(株)製の「KE-1950-30A」(1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有するジメチルポリシロキサン、23℃における粘度(B型粘度計で測定):250Pa・s)
・化合物(D)-1:三菱ケミカル(株)製の「TAIC」(トリアリルイソシアヌレート)
・化合物(D)-2:精工化学(株)製の「ハイクロスM」(トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート)
・ラジカル開始剤:日油(株)製の「パーヘキサ25B」(過酸化物)
【0090】
<初期粘度>
調製したペーストの23℃における粘度(初期粘度)を、B型粘度計(Brookfield社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0091】
<ポットライフ>
白金系触媒を含むペーストの23℃下でのポットライフ(粘度が500Pa・s以上になるまでの時間)は、通常1008時間程度であるが、実施例1~6で得られたペーストは、1008時間経過後であっても、調製直後とほぼ同様の粘度を示した。つまり、実施例1~6で得られたペーストは、ポットライフがほとんどない(極めて長い)ペーストであるといえる。
【0092】
<増粘処理方法>
調製したペーストを、底が約φ30mmのビーカーに約5g量り取り、空気中150℃で15分間加熱した後、空冷することで23℃まで降温させた。降温後のペーストをすり鉢で軽く混練りし、全体を馴染ませ、増粘ペーストとした。
【0093】
<増粘処理後の粘度>
得られた増粘ペーストの粘度を、B型粘度計(Brookfield社製)を用いて測定した。測定は23℃、2rpmにて行った。結果を表1に示す。
なお、実施例5および6で得られたペーストは、増粘処理後であっても、ペースト状である(流動性がある)ことを確認した。一方、比較例2および3で得られたペーストは、完全に硬化(固化)し、ペーストとはいえなかった(流動性はなかった)。
【0094】
なお、ペースト状であるか否か(ペースト性状の有無)は、得られたペースト0.2gを常温(23℃)、圧力1MPaで圧縮した際に、サンプル厚みが200μm以下となる場合を、ペースト状である(ペースト性状の有無では「有」)と判断した。この圧縮の条件等は、以下の通りである。
【0095】
サンプルの圧縮は、金属円盤上に約5mm角程度にサンプルを引き延ばした後、もう一枚の金属円盤によって挟み込み、トルクレンチでねじを締めこむことによって所定の荷重をサンプルに負荷することで行った。
【0096】
厚みの測定は、前もって金属円盤2枚を重ね1MPaを負荷した状態における、2枚の金属円盤両端の長さ(サンプルなし長さ)を測定しておき、サンプルを挟んだ状態における2枚の金属円盤両端の長さ(サンプルあり長さ)を測定した後、サンプルあり長さからサンプルなし長さを引くことで測定した。
なお、圧縮による厚みの変化を考慮し、厚みの測定は、圧縮から3分経過後に実施した。
【0097】
前記圧力をかける際には、Pressure sample holder(ネッチジャパン(株)製、フラッシュアナライザLFA467アクセサリ)とトルクレンチとを用い、厚みの測定は、ライトマチックVL-50((株)ミツトヨ製)を用いた。金属円盤としては、材質がSUS304であり、直径14mm、厚み3mm、表面粗さRa0.2のものを使用した。
【0098】
<耐熱性>
耐熱性の指標として、調製したペーストの、熱劣化後のペースト性状の有無を下記方法により評価した。結果を表1に示す。
調製したペーストを、前記増粘処理方法と同様の方法で増粘させた後、金属板上に2g量り取り、300℃で24時間加熱劣化させ、この熱劣化後のサンプルにペースト性状があるか否か(熱劣化後のサンプルがペーストであるか否か)を前記と同様にして確認した。
【0099】
【表1】
【0100】
[実施例7および比較例5~6]
表2に示す配合比率(数値の単位は質量部である)で、表2の各配合成分を混合することでペーストを調製した。
表2中の熱伝導性フィラーは、以下の通りである。表2中のその他の成分は、表1中の成分と同様である。
【0101】
・熱伝導性フィラー:住友化学(株)製の「アドバンストアルミナAA1.5」(アルミナ)
【0102】
調製したペーストを用い、実施例1と同様にして、初期粘度、増粘処理後の粘度および耐熱性を評価した。結果を表2に示す。
実施例7で得られたペーストは、実施例5および6で得られたペーストと同様に、増粘処理後であっても、ペースト状である(流動性がある)ことを確認した。一方、比較例5で得られたペーストは、完全に硬化(固化)し、ペーストとはいえなかった(流動性はなかった)。
なお、実施例7で得られたペーストも、1008時間経過後であっても、調製直後とほぼ同様の粘度を示した。つまり、実施例7で得られたペーストは、ポットライフがほとんどない(極めて長い)ペーストであるといえる。
【0103】
<熱抵抗値>
放熱性の指標として、調製したペーストの熱抵抗値を、以下の方法で評価した。
金メッキ銅である発熱基板上(縦10mm×横10mm)に、ペーストを0.1g塗布し、塗布したペーストの上に、発熱基板と同じ素材の基板(冷却基板)を載せ、一定荷重(約100kPa)で圧縮した。該荷重をかけたままの状態で、かつ、両基板の、ペーストに接する側の温度をモニタリングした状態で、発熱基板を約20Wの発熱量で加熱し、加熱開始から5分後の両基板の温度、すなわち、発熱基板のペーストと接する側の温度(発熱部の温度:θj1)、および、冷却基板のペーストと接する側の温度(冷却部の温度:θj0)を測定し、それらの測定値を下記式に適用し、熱抵抗を算出した。結果を表2に示す。
熱抵抗(mm2K/W)=(θj1-θj0)×100/発熱量Q
【0104】
<熱劣化後の熱抵抗値>
耐熱性の指標として、調製したペーストの熱劣化後の熱抵抗値を、以下の方法で評価した。
調製したペーストを、金属板上に5g量り取り、空気中150℃で15分間加熱し、増粘させた。次に、この増粘させたサンプルを、空気中300℃で24時間加熱劣化させ、その後空冷することで23℃まで降温させた後のサンプルを用い、前記度同様の方法で熱抵抗値を測定した。結果を表2に示す。
【0105】
【表2】