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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20250409BHJP
【FI】
H01G4/30 512
H01G4/30 515
H01G4/30 201K
H01G4/30 201L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022524376
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2021017470
(87)【国際公開番号】W WO2021235238
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2024-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2020087715
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186060
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤川 信儀
(72)【発明者】
【氏名】松原 聖
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-102436(JP,A)
【文献】特開2001-035741(JP,A)
【文献】国際公開第2012/105437(WO,A1)
【文献】特開2007-173714(JP,A)
【文献】特開平10-004027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互に積層された誘電体層と内部電極層とを有する積層体と、
前記積層体の表面に位置し、前記内部電極層に電気的に接続された外部電極と、を備えるコンデンサであって、
前記積層体は、前記誘電体層と前記内部電極層との間に位置し、前記誘電体層の誘電体成分と、前記内部電極層の導電性成分とを含む中間層をさらに有し、
前記中間層は、前記導電性成分の濃度が、前記内部電極層から前記誘電体層にかけて減少する濃度勾配を有し、
前記誘電体成分は、チタン酸バリウムを含み、前記導電性成分は、ニッケルを含む、コンデンサ。
【請求項2】
前記中間層の厚さは、0.04~0.2μmである、請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項3】
前記中間層における前記導電性成分の含有量は、0.005~0.035mol%である、請求項1または2に記載のコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層型のコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の一例は、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-4027号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示のコンデンサは、交互に積層された誘電体層と内部電極層とを有する積層体と、前記積層体の表面に位置し、前記内部電極層に電気的に接続された外部電極と、を備える。前記積層体は、前記誘電体層と前記内部電極層との間に位置し、前記誘電体層の誘電体成分と、前記内部電極層の導電性成分とを含む中間層をさらに有する。前記中間層は、前記導電性成分の濃度が、前記内部電極層から前記誘電体層にかけて減少する濃度勾配を有する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本開示の目的、特色、および利点は、下記の詳細な説明と図面とからより明確になるであろう。
【0006】
図1】コンデンサの外観斜視図である。
図2図1の切断面線における断面図である。
図3】積層体断面の拡大模式図である。
図4A】中間層におけるニッケル濃度の変化を示す比較例のグラフである。
図4B】中間層におけるニッケル濃度の変化を示す実施例2のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
電子機器に搭載される電子部品の1つである本開示の基礎となる構成のコンデンサには、高い静電容量が求められるとともに、種々の特性向上が望まれている。
【0008】
例えば、特許文献1記載の積層セラミックコンデンサは、内部電極材料をセラミック体内に拡散させ、内部電極材料の拡散距離を内部電極間距離の3~30%とすることで、静電容量の温度変化が小さく、高温条件下において高い信頼性を得ている。
【0009】
以下、本開示のコンデンサについて、図面を基に説明する。なお、本開示のコンデンサは、以下に記述する特定の実施形態に限定されるものではない。本開示のコンデンサは、添付の特許請求の範囲によって定義される総括的な概念の精神または範囲に沿ったものであれば、様々な態様を含むものとなる。
【0010】
図1は、コンデンサの外観斜視図である。図2は、図1の切断面線における断面図である。本開示の実施形態の一例として示すコンデンサ100は、積層体1と、その表面に位置する外部電極3とを備える。積層体1は、誘電体層5と内部電極層7とを有しており、誘電体層5と内部電極層7とは交互に積層されている。本実施形態の積層体1は、例えば、直方体形状であって、誘電体層5と内部電極層7とは、積層方向から見た平面視において、いずれも矩形状である。内部電極層7は、一辺が積層体1の側面に露出しており、外部電極3が、この側面を覆うことによって内部電極層7と外部電極3とが電気的に接続される。図2では、誘電体層5と内部電極層7との積層数を数層に簡略して描いているが、誘電体層5および内部電極層7の積層数は、例えば、数百層に及ぶ積層数であってもよい。
【0011】
図3は、誘電体層断面の拡大模式図である。誘電体層5は、例えば、チタン酸塩を含む複数の結晶粒子で構成されている。結晶粒子は、チタン酸塩を主成分とする誘電体成分を含む結晶粒子であってよい。ここで、主成分とは、結晶粒子中に最も多く含まれている成分のことである。チタン酸塩を主成分とするとは、結晶粒子中にチタン酸塩の含有量が他の成分よりも多く含まれている状態のことである。チタン酸塩としては、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウムおよびチタン酸ランタンなどが挙げられる。チタン酸塩としては、これらの複数種類のチタン酸塩を混合して用いてもよい。誘電率が高いチタン酸バリウムを用いれば、コンデンサ100の静電容量を高くすることができる。
【0012】
チタン酸塩を含む結晶粒子は、平均粒子径が、例えば、0.1~0.5μmの結晶粒子である。結晶粒子の平均粒径は、例えば、以下の手順で測定する。まず、焼成後の積層体1である試料の破断面を研磨する。この後、研磨した試料を、走査型電子顕微鏡を用いて内部組織の写真を撮り、その写真上で結晶粒子が50~100個入る円を描き、円内および円周にかかった結晶粒子を選択する。次いで、既存の画像解析プログラムを用いて、領域内に含まれる各結晶粒子の輪郭を抽出して断面積を求める。得られた断面積に基づいて、各結晶粒子の円相当直径を算出し、その平均値から平均粒子径を求める。
【0013】
内部電極層7は、金属材料などの導電性成分で構成されており、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)および銀(Ag)などを用いることができる。また、これらの金属材料を含む合金を用いることもできる。外部電極3も内部電極層7と同一または類似の金属材料を用いることができる。
【0014】
本実施形態では、積層体1が、誘電体層5と内部電極層7との間に位置し、誘電体層5の誘電体成分と、内部電極層7の導電性成分とを含む中間層6をさらに有する。中間層6は、導電性成分の濃度が、内部電極層7から誘電体層5にかけて減少する濃度勾配を有する。中間層6のような含有成分が濃度勾配を有する層は、いわゆる傾斜層と呼ばれる。中間層6においては、厚さ方向に沿って導電性成分の濃度が徐々に変化する。中間層6の内部電極層7側で導電性成分濃度が最も高く、誘電体層5側で導電性成分濃度が最も低い。
【0015】
積層体1では、内部電極層7に含まれる導電性成分が、誘電体層5へと進入して、誘電体層5の誘電体成分と、内部電極層7の導電性成分とを含む領域が形成される。従来、導電性成分が、誘電体層5へと進入した領域は、例えば、導電性成分が一様にまたは無秩序に存在している。また、拡散した導電性成分の濃度は、低いものとなっている。本実施形態では、上記のように、中間層6が、導電性成分の濃度勾配を有する傾斜層であり、高温条件下において、誘電体層5と内部電極層7との間に生じる熱応力を緩和する。これにより、熱衝撃に強く高温環境下において、コンデンサ100の信頼性を向上させることができる。
【0016】
中間層6は、厚さが0.04~0.2μmである。厚さが0.2μmを超えると、中間層6の導電性成分含有量が多くなり、その分、内部電極層7の導電性成分が減少し、内部電極層7の連続性が低下して、静電容量が低下するおそれがある。
【0017】
中間層6における導電性成分の含有量は、0.005~0.035mol%である。これは、導電性成分濃度が最も高い中間層6の内部電極層7側における導電性成分の含有量が、例えば最大で0.035mol%であり、導電性成分濃度が最も低い中間層6の誘電体層5側における導電性成分の含有量が、例えば、最小で0.005mol%である。中間層6における導電性成分の濃度勾配は、0.005~0.035mol%の範囲に含まれるような濃度勾配であればよい。例えば、内部電極層7側における導電性成分の含有量が0.015mol%であり、誘電体層5側における導電性成分の含有量が0.005mol%である濃度勾配を有する中間層6であってよい。また、例えば、内部電極層7側における導電性成分の含有量が0.02mol%であり、誘電体層5側における導電性成分の含有量が0.01mol%である濃度勾配を有する中間層6であってよい。また、例えば、内部電極層7側における導電性成分の含有量が0.035mol%であり、誘電体層5側における導電性成分の含有量が0.02mol%である濃度勾配を有する中間層6であってよい。
【0018】
以下では、誘電体層5の誘電体成分をチタン酸バリウムとし、内部電極層7の導電性成分をニッケルとして、説明する。中間層6は、チタン酸バリウムとニッケルとを含み、ニッケル濃度が、内部電極層7から誘電体層5にかけて減少する濃度勾配を有する。例えば、焼成時にニッケルがチタン酸バリウムに拡散することは知られているが、拡散する量は僅かに過ぎない。積層体1の焼成工程において、酸化雰囲気で熱処理した後、従来通りの還元雰囲気で熱処理(本焼成)することにより、高い濃度でチタン酸バリウム中にニッケルを存在させることができることを見出した。機構について詳細は不明であるが、次のように推測される。酸化雰囲気の熱処理でニッケルの一部が酸化して酸化ニッケルが生成される。生成した酸化ニッケルは、ニッケルよりも未焼結のチタン酸バリウムとの親和性が高く、チタン酸バリウム内に進入する。その後の還元雰囲気での熱処理によって、チタン酸バリウムの焼結が進行するとともに、酸化ニッケルがニッケルに還元される。得られた積層体1においては、誘電体層5と内部電極層7との間に、ニッケルが濃度勾配を有する中間層6が形成される。
【0019】
中間層6の厚さ、中間層6におけるニッケル含有量、濃度勾配の傾きなどは、酸化ニッケルのチタン酸バリウム内への進入深さ、進入量によるものであるので、酸化雰囲気の熱処理における、雰囲気ガス組成、熱処理温度、熱処理時間によって、制御することが可能である。熱処理において、ニッケルが酸化する酸化雰囲気であるか、酸化ニッケルが還元するまたはニッケルが酸化しない還元雰囲気であるかは、雰囲気ガス成分の酸素分圧で制御することができる。雰囲気ガス成分の酸素分圧は、雰囲気ガス中の水素ガスと水蒸気ガスの分圧によって決まる。雰囲気ガス中の水素ガスと水蒸気ガスの比率が大きいほど、酸素分圧は低くなる。また、雰囲気ガスの温度が高いほど、酸素分圧は高くなる。雰囲気ガスの酸素分圧が、ニッケルの平衡酸素分圧より高い場合、ニッケルが酸化される酸化雰囲気となり、雰囲気ガスの酸素分圧が、ニッケルの平衡酸素分圧より低い場合、ニッケルが還元される還元雰囲気となる。
【0020】
例えば、雰囲気ガス中の水素ガスと水蒸気ガスとの比率(H/HO)を1/2000とし、温度を700~800℃とした場合、雰囲気ガスの酸素分圧が平行酸素分圧より高くなり酸化雰囲気となる。このような酸化雰囲気で熱処理することによりニッケルが酸化して未焼結のチタン酸バリウム内に進入する。その後、例えば、雰囲気ガス中の水素ガスと水蒸気ガスとの比率(H/HO)を1/20とし、温度を800℃以上とした場合、雰囲気ガスの酸素分圧が平行酸素分圧より低くなり還元雰囲気に変化する。還元雰囲気で、チタン酸バリウムの焼結と酸化ニッケルの還元とが進行し、中間層6を含む積層体1が得られる。
【0021】
上記は、導電性成分をニッケルとして説明したが、その他の導電性成分であっても同様である。雰囲気ガスの酸素分圧と例えば銅などの導電性成分の平衡酸素分圧との大小関係によって、銅の酸化雰囲気と還元雰囲気とを制御することができる。
【0022】
本実施形態のコンデンサを製造する方法について説明する。
まず、誘電体粉末をポリビニルブチラール樹脂などの有機樹脂やトルエンおよびアルコールなどの溶媒とともにボールミルなどを用いてセラミックスラリを調製し、次いで、セラミックスラリをドクターブレード法やダイコータ法などのシート成形法を用いて基材上にセラミックグリーンシートを形成する。セラミックグリーンシートの厚みは、誘電体層5の高容量化のための薄層化、高絶縁性を維持するという点で0.8~1.5μmが良い。
【0023】
ところで、積層セラミックコンデンサの製造に用いる誘電体材料としては、所望とする誘電特性に応じて、チタン酸バリウム(BaTiO、以下BT粉末という)、バリウムサイトにカルシウムまたはストロンチウムなどのアルカリ土類元素を固溶させたBa1-xCaTiO(x=0.01~0.1、以下、BCT粉末という)粉末またはBa1-xSrTiO(x=0.01~0.1、以下、BST粉末という)粉末、あるいは、チタン酸バリウムのバリウムサイトにカルシウムを固溶させるとともに、チタンサイトにジルコニウムを固溶させたBa1-xCaTi1-yZr(x=0.01~0.1、y=0.05~0.5、以下、BCTZ粉末という)粉末を用いることができる。
【0024】
上述した粉末の中で、室温を中心とする広い温度範囲で静電容量の温度変化率が比較的小さい積層セラミックコンデンサを得ることができるという理由から、BT粉末が好適である。BT粉末は、Ba/Tiのモル比が1.001~1.009であり、また、その平均粒径が0.1~0.2μmであるものがよい。これにより誘電体層5の薄層化を容易にし、BT粉末として、後述する焼成条件により、優れた高温負荷寿命を示す積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0025】
また、この実施形態の積層セラミックコンデンサを製造する際に用いる誘電体粉末として、チタン酸バリウム粉末に、バナジウム、マグネシウム、希土類元素(RE)、マンガンおよびSiOを主成分とするガラス粉末などの焼結助剤を所定量添加したものを用いてもよい。これらを用いた場合、高温負荷寿命であり、単位体積当たりの静電容量の高いコンデンサを得ることが可能になる。
【0026】
例えば、純度が99.9%以上、Ba/Tiのモル比が1.001~1.009であり、平均粒径が0.1~0.2μmであるBT粉末に、V粉末と、MgO粉末と、Y粉末、Dy粉末、Ho粉末およびYb粉末から選ばれる少なくとも1種の希土類元素(RE)の酸化物粉末と、およびマンガンを含む粉末(ここでは、MnCO粉末を用いる)とを添加する。この場合、その組成は、BT粉末100モルに対し、V粉末を0.03~0.08モル、MgO粉末を0.9~1.1モル、Y粉末、Dy粉末、Ho粉末、およびYb粉末から選ばれる少なくとも1種の希土類元素(RE)の酸化物粉末を0.4~0.6モルおよびマンガンを含む粉末を0.2~0.3モルの割合で配合してもよい。
【0027】
続いて、上述した範囲で、V粉末、MgO粉末、希土類元素(RE)の酸化物粉末およびマンガンを含む粉末を添加したBT粉末に対し、SiOを主成分とするガラス粉末を添加し、これに有機バインダと溶媒とを加え混合してセラミックスラリを調製する。
【0028】
用いるガラス粉末は、SiO、BaO、CaOおよびLiOを主成分として含むものであり、その組成は、SiOを1モルとしたときに、BaOを0.15~0.70モル、CaOを0.15~0.70モルおよびLiOを0.05~0.45モル含むものを用いてもよい。
【0029】
なお、これらの原料試薬の純度は、得られる誘電体層5となる焼結体への不純物の混入を減らし、高い誘電特性を得るという理由からいずれも99.5%以上であるのがよい。
【0030】
次に、得られたセラミックグリーンシートの表面に矩形状の内部電極パターンを印刷して形成する。内部電極パターンとなる導体ペーストは、ニッケル(Ni)もしくはこれらの合金粉末を主成分金属とし、これに共材としてのセラミック粉末(この場合、BT粉末またはセラミックグリーンシートに用いた誘電体粉末を用いる)を混合し、有機バインダ、溶剤および分散剤を添加して調製する。また、セラミックグリーンシート上の内部電極パターンによる段差を解消するために、内部電極パターンの周囲にセラミックパターンを内部電極パターンと実質的に同一厚みで形成してもよい。この場合、セラミックパターンを構成するセラミック成分は、同時焼成での焼成収縮を同じにするという点でセラミックグリーンシートに用いた誘電体粉末を用いてもよい。
【0031】
次に、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを所望枚数重ねて、その上下に内部電極パターンを形成していないセラミックグリーンシートを複数枚、上下層が同じ枚数になるように重ねて仮積層体を形成する。仮積層体中における内部電極パターンは長寸方向に半パターンずつずらしてある。このような積層工法により切断後の積層体の端面に内部電極パターンが交互に露出されるように形成できる。
【0032】
なお、本実施形態の積層セラミックコンデンサは、セラミックグリーンシートの主面に内部電極パターンを予め形成した後に積層する工法の他に、セラミックグリーンシートを一旦下層側の機材に密着させた後に、内部電極パターンを印刷し、乾燥させ、印刷、乾燥された内部電極パターン上に、内部電極パターンを印刷していないセラミックグリーンシートを重ねて仮密着させ、セラミックグリーンシートの密着と内部電極パターンの印刷を逐次行う工法によっても形成できる。
【0033】
次に、仮積層体を上記仮積層時の温度圧力よりも高温、高圧の条件にてプレスを行い、セラミックグリーンシートと内部電極パターンとが強固に密着された成形体を形成する。成形体を格子状に切断することにより内部電極パターンの端部が露出する積層体(未焼成)を得る。
【0034】
次に、未焼成の積層体を、所定の焼成条件で焼成して積層体1を形成する。場合によっては、積層体1の稜線部分の面取りを行うとともに、積層体1の対向する端面から露出する内部電極層7を露出させるためにバレル研磨を施してもよい。焼成条件については、上記のように、ニッケルの平衡酸素分圧より高い酸素分圧となるような雰囲気ガスの成分および温度条件の酸化雰囲気で熱処理し、雰囲気ガスの成分および温度条件を変えて還元雰囲気で焼成すればよい。
【0035】
次に、この積層体1の対向する端部に、外部電極ペーストを塗布して焼付けを行い、外部電極3を形成する。また、場合によっては、この外部電極3の表面に実装性を高めるためにめっき膜を形成する。こうして本実施形態のコンデンサが得られる。
【実施例
【0036】
実施例のコンデンサの製造方法について説明する。チタン酸バリウムの原料粉末には、純度が99.9%、平均粒子径が0.2μm、Ba/Tiのモル比が1.005の粉末を準備した。希土類元素として、ジプロシウムをDyとして添加した。その他の添加剤として、炭酸カルシウム粉末(CaCO)、炭酸マンガン粉末(MnCO)およびガラス粉末(SiO、BaO、CaOおよびLiOを主成分として含む)を用いた。これらを直径5mmのジルコニアボールを用いて、溶媒としてトルエンとアルコールとを含む混合溶媒を添加し湿式混合した。
【0037】
次に、湿式混合した粉末を、ポリビニルブチラール樹脂を溶解させたトルエンおよびアルコールの混合溶媒中に投入し、直径5mmのジルコニアボールを用いて湿式混合してセラミックスラリを調製し、ドクターブレード法により成形用フィルム上に厚さが約3μmのセラミックグリーンシートを作製した。
【0038】
内部電極層を形成するための金属ペーストの金属としてニッケル粉末を用いた。金属ペーストを調製するための樹脂としてはエチルセルロースを用いた。溶媒としてはジヒドロターピネオール系溶媒とブチルセロソルブとを混合して用いた。
【0039】
次に、作製したセラミックグリーンシートに金属ペーストを印刷して金属ペースト付きグリーンシートを作製した。次に、作製した金属ペースト付きグリーンシートを400層積層し、上面側および下面側にカバー層としてセラミックグリーンシートをそれぞれ重ねて成形体を作製した。この後、成形体を切断して未焼成の積層体を作製した。
【0040】
以下の条件で焼成工程を実施した。焼成では、酸化雰囲気で熱処理した後、還元雰囲気で本焼成した。ここで、酸化雰囲気を変えることで、中間層の濃度勾配が異なる実施例1~4が得られる。具体的には、酸化雰囲気での熱処理時間を20分間とし、温度条件と成分比率(水素ガスと水蒸気ガスとの比率(H/HO))を表1に示すように変化させた。還元雰囲気の本焼成では、実施例1~4で共通の条件とした。具体的には、温度条件を最高温度1200℃で30分間保持するものとし、水素ガスと水蒸気ガスとの比率(H/HO)を1/10とした。得られた積層体のサイズは、2.0mm×1.25mm×1.25mmであった。
【0041】
得られた積層体1をバレル研磨した後、積層体1の両端部に外部電極ペーストを塗布し、800℃の温度にて焼き付けを行って外部電極を形成した。外部電極ペーストは、Cu粉末およびガラスを添加したものを用いた。その後、電解バレル機を用いて、この外部電極の表面に順にNiめっきおよびSnめっきを形成してコンデンサを得た。作製したコンデンサの静電容量の設計値は10.0μFに設定した。
【0042】
焼成工程が異なること以外は、各実施例と同じ製造方法で比較例を作製した。比較例は、焼成工程において、酸化雰囲気での熱処理を行なわず、還元雰囲気のみで焼成を行なった。
【0043】
耐熱衝撃性は、耐はんだ試験によって評価した。耐はんだ試験は、305℃に保持した、はんだ浴に実施例1~4および比較例のコンデンサ(各100個)を5秒間投入し、取り出した後、クラックが発生した個数を調べた。結果を、クラック発生個数/投入個数として表1に示す。
【0044】
また、中間層については、中間層厚さ、内部電極層側濃度(最大濃度)、誘電体層側濃度(最小濃度)を測定した。測定方法は、次のとおりとした。実施例1~4の内部電極層を剥離し、中間層を露出させた剥離試料を準備する。内部電極層の剥離は、中間層の表面に内部電極層が残らないように、電気化学的なニッケル溶解処理で行なった。二次イオン質量分析法(SIMS)によって、剥離資料の中間層表面から深さ方向にニッケルを定量した。SIMSの測定条件を以下に示す。なお、比較例についても同一または類似にSIMSによって、誘電体層のニッケル濃度を測定した。測定結果を表1に示す。
分析方法:飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF-SIMS)
分析装置:ULVAC-PHI製 PHI nano ToF II 一次イオン:Biクラスターイオン
測定領域:100μm角
深さ方向スパッタ:Arイオン 4keV
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示す結果からわかるように、耐はんだ試験では、比較例に比べて実施例1~4は、クラックの発生個数が大幅に低減されており、優れた耐熱衝撃性が得られた。また、実施例1~4は、中間層厚さ、最大濃度、最小濃度がいずれも変化しており、酸化雰囲気の条件によって中間層を制御できることがわかった。比較例は、誘電体層5中のニッケル濃度が実施例における最小濃度よりも低く、誘電体層の厚さ方向の濃度変化も見られなかった。
【0047】
SIMSによる測定結果の例を図4Aおよび図4Bに示す。図4Aは、比較例の測定結果を示し、図4Bは、実施例2の測定結果を示す。図4のグラフは、縦軸がニッケル量(mol%)を示し、横軸が試料表面からの深さ(nm)を示す。比較例では、深さにかかわらず、ニッケル量は0.003mol%で一定であった。実施例2では、深くなるにつれてニッケル量が減少しており、濃度勾配を有する中間層が形成されていることが確認できた。
【0048】
本開示は次の実施の形態が可能である。
【0049】
本開示のコンデンサは、交互に積層された誘電体層と内部電極層とを有する積層体と、前記積層体の表面に位置し、前記内部電極層に電気的に接続された外部電極と、を備える。前記積層体は、前記誘電体層と前記内部電極層との間に位置し、前記誘電体層の誘電体成分と、前記内部電極層の導電性成分とを含む中間層をさらに有する。前記中間層は、前記導電性成分の濃度が、前記内部電極層から前記誘電体層にかけて減少する濃度勾配を有する。
【0050】
本開示のコンデンサによれば、高温条件下においてコンデンサの信頼性を向上させることができる。
【0051】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、また、本開示は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。上記各実施形態をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1 積層体
3 外部電極
5 誘電体層
6 中間層
7 内部電極層
100 コンデンサ
図1
図2
図3
図4A
図4B