(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】多孔質炭素材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20250409BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20250409BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20250409BHJP
H01G 11/44 20130101ALI20250409BHJP
H01G 11/34 20130101ALI20250409BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20250409BHJP
C08G 73/00 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
C01B32/05
H01G11/86
H01G11/38
H01G11/44
H01G11/34
H01G11/42
C08G73/00
(21)【出願番号】P 2023218386
(22)【出願日】2023-12-25
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 成之
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸治
(72)【発明者】
【氏名】堂浦 剛
(72)【発明者】
【氏名】高宮 祥太
(72)【発明者】
【氏名】米田 美佳
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-040857(JP,A)
【文献】特開2020-059849(JP,A)
【文献】特開2020-125224(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0266885(US,A1)
【文献】特開2018-115103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B31F 1/00-7/02
C01B 32/00-32/991
C08G 73/00-73/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2ヒドロキシ1,3,5-ベンゼントリカルボキシアルデヒドと、1,4-ジアミノベンゼンとの合成反応により、環状内に窒素を有する共有結合性有機構造体を合成する合成工程と、
当該共有結合性有機構造体を600℃±30℃で焼成して、XPS分析による結合エネルギー396eV~404eVの間に、大きな二つのピークが形成され、結合エネルギーが高い側のピークよりも、結合エネルギーが低い側のピークが大きく形成される多孔質炭素材料を得る焼成工程と、を具備することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項2】
合成工程において、小粒径の共有結合性有機構造体を得る場合は低温とし、大粒径の共有結合性有機構造体を得る場合は高温とし、120℃~180℃の所望の温度で合成することで、所望の粒径の共有結合性有機構造体を得る請求項1に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の多孔質炭素材料の製造方法によって得られる多孔質炭素材料であって、
XPS分析によるグラファイト型窒素のピークよりも、ピリジン型窒素のピークが大きく形成され、
略真球状に形成されてな
り、
活物質としての前記多孔質炭素材料と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂とを、8:1:1の重量比で混練し、錠剤成型機を用いて、13mmφディスク状上の電極に成型し、 この成型電極をチタンメッシュに圧着して、電極試験片を調製し、この電極試験片を作用極とし、Ag/AgClを参照電極とし、白金を対極とし、1M希硫酸を電解液として三電極法による三極セルを構成し、電極活物質重量あたり、50mA(50mA/gの電流密度)の一定電流を0~0.8Vまで充電し、そして0.8~0Vまで放電し、その放電時に流れた全電気量(ΔQ)、放電電圧ΔV、電極活物質体積から、(ΔQ/ΔV)/電極活物質体積で求められた体積比容量(C)が、158~186F/cm3となされた多孔質炭素材料。
【請求項4】
請求項1に記載の多孔質炭素材料の製造方法によって得られる多孔質炭素材料であって、
XPS分析によるグラファイト型窒素のピークよりも、ピリジン型窒素のピークが大きく形成され、
略真球状に形成されてなり、
活物質としての前記多孔質炭素材料と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂とを、8:1:1の重量比で混練し、錠剤成型機を用いて、13mmφディスク状上の電極に成型し、 この成型電極をチタンメッシュに圧着して、電極試験片を調製し、この電極試験片を作用極とし、Ag/AgClを参照電極とし、白金を対極とし、1M希硫酸を電解液として三電極法による三極セルを構成し、
この多孔質炭素材料を作用極として作製した三極セルの電位を0.2~0.8Vまで1.0mV/secで掃引し、到達後、同じ掃引速度で0.8~0.2Vまで掃引し、0.7Vの酸化電流値に対して0.25~0.5Vの酸化電流値が大きく、0.7Vの還元電流値の絶対値に対して0.25~0.5Vの還元電流値の絶対値が大きくなされた多孔質炭素材料。
【請求項5】
掃引速度1.0mV/secで測定した際の、0.2~0.7Vの酸化電流値の積分値mA・Vに対する、0.7Vの酸化電流値を上回る酸化電流値の積分値の割合が、0.37となされた請求項4に記載の多孔質炭素材料。
【請求項6】
掃引速度1.0mV/secで測定した際の、0.2~0.7Vの還元電流値の絶対値の積分値mA・Vに対する、0.7Vの還元電流値の絶対値を上回る還元電流値の絶対値の積分値mA・Vの割合が、0.66となされた請求項4に記載の多孔質炭素材料。
【請求項7】
請求項1に記載の多孔質炭素材料の製造方法によって得られる多孔質炭素材料であって、
XPS分析によるグラファイト型窒素のピークよりも、ピリジン型窒素のピークが大きく形成され、
略真球状に形成されてなり、
活物質としての前記多孔質炭素材料と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂とを、8:1:1の重量比で混練し、錠剤成型機を用いて、13mmφディスク状上の電極に成型し、 この成型電極をチタンメッシュに圧着して、電極試験片を調製し、この電極試験片を作用極とし、Ag/AgClを参照電極とし、白金を対極とし、1M希硫酸を電解液として三電極法による三極セルを構成し、電極活物質重量あたり、50mA (50mA/gの電流密度)の一定電流で、0~0.8Vまで充電し、0.8~0Vまで放電し、これを200サイクル繰り返す間は体積比容量が増加する多孔質炭素材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタの電極材料として優れた性能を発揮することができる多孔質炭素材料と、その製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気二重層キャパシタの分極性電極として、表面積が大きく導電性に優れている点から活性炭が用いられている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-176043号公報
【文献】特開2011-233845号公報
【文献】特開2017-155120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、活性炭は、細孔が複雑に入り組んだ構造であるため、分極性電極として採用すると、高出力領域においては、電解質イオンのスムーズな出し入れが難しくなり、高出力領域における容量が低下する。
【0005】
このような活性炭に変わり、規則正しい細孔を形成することができる技術として、ホウ素含有化合物とアルコール類またはアルデヒド類の縮合物を熱処理して得られる共有結合性有機構造体の焼成体が提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
しかし、電気二重層キャパシタ用に作製された炭素は、1nmを中心とするミクロ孔が豊富で、比表面積の大きな多孔質炭素が用いられている。比表面積の大きな炭素は、嵩密度が大きく、それを用いたキャパシタ電極では、セルの体積が大きくなるという不都合を生じる。 また、比表面積が少なすぎても、電荷を蓄えるサイトが存在しなくなり容量が発現しなくなるため、ある程度の比表面積も必要である。
【0007】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、電気二重層キャパシタの電極材料として優れた性能を発揮することができる多孔質炭素材料と、その製造方法とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法は、2ヒドロキシ1,3,5-ベンゼントリカルボキシアルデヒドと、1,4-ジアミノベンゼンとの合成反応により、環状内に窒素を有する共有結合性有機構造体を合成する合成工程と、当該共有結合性有機構造体を600℃±30℃で焼成して、XPS分析による結合エネルギー396eV~404eVの間に、大きな二つのピークが形成され、結合エネルギーが高い側のピークよりも、結合エネルギーが低い側のピークが大きく形成される多孔質炭素材料を得る焼成工程と、を具備するものである。
【0009】
上記多孔質炭素材料の製造方法は、合成工程において、小粒径の共有結合性有機構造体を得る場合は低温とし、大粒径の共有結合性有機構造体を得る場合は高温とし、120℃~180℃の所望の温度で合成することで、所望の粒径の共有結合性有機構造体を得るものであってもよい。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の多孔質炭素材料は、上記の多孔質炭素材料の製造方法によって得られる多孔質炭素材料であって、XPS分析によるグラファイト型窒素のピークよりも、ピリジン型窒素のピークが大きく形成され、略真球状に形成されてなるものである。
【0011】
上記多孔質炭素材料は、活物質としての前記多孔質炭素材料と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂とを、8:1:1の重量比で混練し、錠剤成型機を用いて、13mmφディスク状の電極に成型し、この成型電極をチタンメッシュに圧着して、電極試験片を調製し、この電極試験片を作用極とし、Ag/AgClを参照電極とし、白金を対極とし、1M希硫酸を電解液として三電極法による三極セルを構成し、電極活物質重量あたり、50mA(50mA/gの電流密度)の一定電流を0~0.8Vまで充電し、そして0.8~0Vまで放電し、その放電時に流れた全電気量(ΔQ)、放電電圧ΔV、電極活物質体積から、(ΔQ/ΔV)/電極活物質体積で求められた体積比容量(C)が、158~186F/cm3となされたものであってもよい。
【0012】
上記多孔質炭素材料は、活物質としての前記多孔質炭素材料と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂とを、8:1:1の重量比で混練し、錠剤成型機を用いて、13mmφディスク状の電極に成型し、この成型電極をチタンメッシュに圧着して、電極試験片を調製し、この電極試験片を作用極とし、Ag/AgClを参照電極とし、白金を対極とし、1M希硫酸を電解液として三電極法による三極セルを構成し、この多孔質炭素材料を作用極として作製した三極セルの電位を0.2~0.8Vまで1.0mV/secで掃引し、到達後、同じ掃引速度で0.8~0.2Vまで掃引し、0.7Vの酸化電流値に対して0.25~0.5Vの酸化電流値が大きく、0.7Vの還元電流値の絶対値に対して0.25~0.5Vの還元電流値の絶対値が大きくなされたものであってもよい。
【0013】
上記多孔質炭素材料は、掃引速度1.0mV/secで測定した際の、0.2~0.7Vの酸化電流値の積分値mA・Vに対する、0.7Vの酸化電流値を上回る酸化電流値の積分値の割合が、0.37となされたものであってもよい。
【0014】
上記多孔質炭素材料は、掃引速度1.0mV/secで測定した際の、0.2~0.7Vの還元電流値の絶対値の積分値mA・Vに対する、0.7Vの還元電流値の絶対値を上回る還元電流値の絶対値の積分値mA・Vの割合が、0.66となされたものであってもよい。
【0015】
上記多孔質炭素材料は、活物質としての前記多孔質炭素材料と、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂とを、8:1:1の重量比で混練し、錠剤成型機を用いて、13mmφディスク状の電極に成型し、この成型電極をチタンメッシュに圧着して、電極試験片を調製し、この電極試験片を作用極とし、Ag/AgClを参照電極とし、白金を対極とし、1M希硫酸を電解液として三電極法による三極セルを構成し、電極活物質重量あたり、50mA (50mA/gの電流密度)の一定電流で、0~0.8Vまで充電し、0.8~0Vまで放電し、これを200サイクル繰り返す間は体積比容量が増加するものであってもよい。
【0016】
上記多孔質炭素材料の製造方法において、合成工程では、使用される溶媒としては、特に限定されるものではなく、メシチレン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルアセトン、ジクロロベンゼン、テトラヒドロフラン、メタノール、トルエン、酢酸の中から選択される1種以上の単独溶媒または混合溶媒を使用することができる。例えば、1,4-ジオキサンを単独で溶媒として使用するものであってもよいし、メシチレンと1,4-ジオキサン、N,Nジメチルアセトンとジクロロベンゼン、テトラヒドロフランとメタノール、1,4-ジオキサンとトルエン、1,4-ジオキサンと酢酸、メシチレンと1,4-ジオキサンと酢酸、それぞれの混合溶媒等を使用するものであってもよい。
【0017】
上記多孔質炭素材料の製造方法において、共有結合性有機構造体を合成する合成工程では、反応条件としては、2ヒドロキシ1,3,5-ベンゼントリカルボキシアルデヒドと、1,4-ジアミノベンゼンとの合成反応により、格子状、六角形状等の規則性のある環状の構造体が連なった形状のものを形成し、環状内に窒素を有する共有結合性有機構造体(COF:Covalent Organic Framework)を合成することができるものであれば、特に限定されるものではなく、必要に応じて加熱、加圧、減圧、攪拌、冷却等の操作が行われる。合成工程において、これらの操作は、複数を組み合わせる場合も、段階的に行う場合も含む。その中でも、この共有結合性有機構造体を合成する際の温度を、例えば、120~180℃程度の温度範囲で合成した場合、低温では出来る共有結合性有機構造体の粒子径が小さくなり、高温では出来る共有結合性有機構造体の粒子径が大きくなることが確認できているので、所望の温度で合成することで、出来る共有結合性有機構造体の粒子径を制御して、必要とされる粒子径の共有結合性有機構造体を得ることができる。また、例えば、溶媒として1,4-ジオキサンを単独で使用した場合は、1,4-ジオキサンと酢酸との混合溶媒を使用した場合よりも粒子径が大きくなるので、使用する溶媒によって粒子径の当たりを付けておいて、所望の温度で合成して得られる共有結合性有機構造体の粒子径を制御してもよい。
図1は、溶媒として1,4-ジオキサンを単独で使用した場合の120℃で合成した際の粒子径の分布と180℃で合成した際の粒子径の分布を示している。120℃で合成した際の共有結合性有機構造体の粒子径は、0~100μm(0は含まない)の範囲に略納まる。
【0018】
上記合成工程で得られる共有結合性有機構造体は、略真球状となる。ここで、略真球状とは、画像解析上、共有結合性有機構造体の各粒子の外郭に外接する外接円の中心から、当該外接円の中心角5度間隔で、前記中心から実際の粒子の外郭までの半径距離を測定し、これら計測された半径距離のデータの平均値から±10%以内に、計測された半径距離のデータの全てが入り、かつ、これら計測された半径距離のデータの平均値から±5%以内に、計測された半径距離のデータの90%以上が入ることを言う。
図2(a)は、共有結合性有機構造体の電子顕微鏡写真を示している。得られた各共有結合性有機構造体の粒子は、上記した略真球状に該当する。
【0019】
上記多孔質炭素材料の製造方法において、共有結合性有機構造体を焼成する焼成工程では、焼成条件としては、当該共有結合性有機構造体を炭化することができる条件であれば、特に限定されるものではなく、共有結合性有機構造体の分解温度以上の温度で30分~5時間程度の焼成を行うことが好ましい。例えば600℃±30℃の範囲、より好ましくは600℃±5℃の範囲で焼成することができる。
図3に示すように、焼成温度が600℃+30℃よりも高すぎると、出来上がる焼成体は、ピリジン型窒素が減少してグラファイト型窒素が増加することとなる。また、
図3に示すように、焼成温度が600℃-30℃よりも低すぎると、出来上がる焼成体は、ピリジン型窒素のピークが出ているように見えるが、実際は導電性が発現するまでに炭素の焼成が十分に出来ておらず、多孔質炭素材料としての機能を十分に果たすことができない。表1は各温度で焼成した多孔質炭素材料を用いて調製した電極試験片の電気抵抗値を測定した結果を示している。
【0020】
【0021】
この結果から、500℃では導電性が発現するまでに十分に炭化していないため、導電性が得られず、600℃、800℃、1000℃では導電性が得られており、特に600℃付近で焼成した場合には、優れた導電性が得られることが確認できる。
【0022】
この焼成は、通常の空気中の雰囲気下にて行うものであってもよいし、不活性ガス雰囲気(窒素ガスもしくはアルゴンガス雰囲気)にて行うものであってもよい。この際、不活性ガス雰囲気は、0.1~1.0リットル/分のガス流量で焼成雰囲気を置換しながら行うものであってもよい。また、焼成時に所定の温度から5~25℃/分程度の昇温速度で昇温して焼成を行うものであってもよい。なお、上記600℃±30℃の温度域においては、焼成した後の焼成体が酸化するのを防止するために、不活性ガス雰囲気で焼成するか、減圧雰囲気下で焼成することが好ましい。
【0023】
このようにして構成される多孔質炭素材料は、
図3に示すように、結合エネルギー396eV~404eVの間に、大きな二つのピークが形成され、結合エネルギーが高い側のグラファイト型窒素のピークよりも、結合エネルギーが低い側のピリジン型窒素のピークが大きく、当該ピリジン型窒素が多く含まれた多孔質炭素材料となる。また、多孔質炭素材料は、
図2(b)に示すように、焼成前の共有結合性有機構造体と同様に略真球状とすることができるので、電極作製の加圧成型時に、高嵩密度にすることができる。さらに、焼成前の共有結合性有機構造体と同様に略真球状とすることができることから、焼成後の多孔質炭素材料についても、共有結合性有機構造体の合成時の温度に比例した粒子径の多孔質炭素材料となる。すなわち、低温で出来た共有結合性有機構造体を焼成した多孔質炭素材料は粒子径を小さくすることができ、高温で出来た共有結合性有機構造体を焼成した多孔質炭素材料は粒子径を大きくすることができる。
図1(b)は、120℃で合成した共有結合性有機構造体を焼成した多孔質炭素材料の粒子径の分布を示している。
【0024】
また、この多孔質炭素材料は、グラファイト型窒素よりもピリジン型窒素を多く含むことにより、この多孔質炭素材料によって電極を形成した場合、酸化電流および還元電流が多く得られることとなる。
図5は、この多孔質炭素材料を作用極として作製した三極式セルの電位を0.2~0.8Vまで1.0 mV/secで掃引し、到達後、同じ掃引速度で0.8~0.2Vまで掃引した際の、サイクリック・ボルタンメトリ―(CV)曲線を示している。内部抵抗が低い場合、電圧印加時に急激に立ち上がり、放電時に急激に低下するため、純粋な電気二重層の容量を発現する場合は、CV曲線は理想的には長方形型になり、長方形型に近い程、内部抵抗が低いこととなる。本発明の多孔質炭素材料を用いた電極の場合、酸化電流および還元電流の電流値が最も小さい0.7Vの位置のレンジ幅でCV曲線が長方形型を形成するものと考えられるが、0.25~0.5Vの全範囲において、この0.7Vのレンジ幅よりも電圧印加時の酸化電流が大きく、かつ、還元電流が大きくなっている、つまり、酸化電流が多く還元電流が多く得られていることが確認できる。
【0025】
さらに、この多孔質炭素材料によって形成した電極は、充電および放電を繰り返し行うと、50サイクルまでは体積比容量が顕著に増加し、50サイクルから100サイクルまで、100サイクルから150サイクルまでは増加率が徐々に低下するものの徐々に体積比容量が増加し、約200サイクルの充電および放電を繰り返している間、容量の増加が認められることとなる。
図6は繰り返して行った充電および放電の結果を示しており、約200サイクルの間、容量が増大し、その後は438サイクルで測定された最大値である186F/cm
3に漸近しながら、反復して充電および放電を繰り返して行うことができることが確認できる。
【0026】
本発明の多孔質炭素材料は、これらのことから、非常に高い電荷密度を得ることができ、優れた体積比静電容量を達成することができる。表2は、本発明の多孔質炭素材料と市販品との性能を比較している。
【0027】
【0028】
この表2からわかるように、本発明の多孔質炭素材料は、優れた体積比容量で、電荷を蓄えることができるので、電気二重層キャパシタとして構成した場合、よりコンパクトな製品設計が可能となる。
【発明の効果】
【0029】
以上述べたように、本発明によると、多孔質炭素材料は、ピリジン型窒素、グラファイト型窒素、ピロール型窒素、酸化型窒素のうち、ピリジン型窒素を最も多く有することとなり、電気二重層キャパシタの電極材料として優れた性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】(a)は本発明の実施例1および実施例4に係る共有結合性有機構造体の粒子径分布図、(b)は実施例1に係る多孔質炭素材料の粒子径分布図である。
【
図2】(a)は本発明の実施例1に係る共有結合性有機構造体の電子顕微鏡写真、(b)は同実施例1に係る多孔質炭素材料の電子顕微鏡写真である。
【
図3】本発明の実施例1に係る多孔質炭素材料、および比較例1~3に係る多孔質炭素材料、のそれぞれのX線光電子分光法(XPS)の結果を示すグラフである。
【
図4】(a)は本発明の実施例1に係る多孔質炭素材料の窒素吸脱着測定による窒素吸脱着等温線の結果を示すグラフ、(b)は同細孔径分布測定の結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例1に係る多孔質炭素材料を用いた電極試験片、比較例2に係る電極試験片、および、比較例3に係る電極試験片、のサイクリック・ボルタンメトリーによる酸化電流と還元電流の測定結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例1に係る多孔質炭素材料を用いた電極試験片の充電、放電を繰り返した際の体積比容量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0032】
[実施例1]
(粉末(合成材料))
下記式(1)で表される分子構造の2ヒドロキシ1,3,5-ベンゼントリカルボキシアルデヒド(以下、HBTAという)と、下記式(2)で表される分子構造の1,4-ジアミノベンゼン(以下、DABという)の2種類の粉末を使用した。
【0033】
【0034】
(溶媒)
1,4-ジオキサンを溶媒として使用した。
【0035】
(共有結合性有機構造体の合成)
HBTA:0.024g、DAB:0.024g、1,4-ジオキサン水溶液:25mLを、50mL用水熱合成容器(HU-50:三愛科学株式会社製)内に入れたものを作製した。その後、その50mL用水熱合成容器(以下、水熱合成容器という)を30分間超音波分散させた後、120℃で24時間加熱して共有結合性有機構造体の合成(脱水縮合による合成)を行った。合成後、上澄みを捨てて、新たに低水分アセトン800ミリリットルを加えて、2時間程度60℃で加熱攪拌し、1日静置し、上澄み溶液を回収する. この工程を7回行った後、粉末を120度20時間で減圧乾燥させた。
【0036】
(多孔質炭素材料)
上記の共有結合性有機構造体を、窒素ガス雰囲気にて、ガス流量0.2リットル/分、室温25℃から昇温速度25℃/分で昇温し、600℃到達後、その温度で1時間の焼成を行い、その後自然冷却して共有結合性有機構造体の焼成体である多孔質炭素材料を得た。
【0037】
(窒素吸脱着測定(細孔比表面積/細孔径分布測定))
このようにして得られた多孔質炭素材料の粉末0.2gをサンプル管に入れ、液体窒素温度下で比表面積/細孔分布測定装置(BELLSORP-miniII:マイクロトラックベル株式会社製)によって窒素吸脱着等温曲線を測定した。また、同装置の解析プログラム(I型(ISO9277)BET自動解析)により比表面積および細孔径分布を測定した。結果を
図4に示す。その結果、このようにして得られた多孔質炭素材料は、細孔比表面積479m
2/g、平均細孔径1.0457nmであリ、1nm以上の細孔容積(cm
3/g)が49.1%有ることが確認できた。
【0038】
(電子顕微鏡写真)
上記で得られた共有結合性有機構造体および多孔質炭素材料は、以下の条件でそれぞれ電子顕微鏡写真を撮影した。
測定:走査型電子顕微鏡(SEM)
測定装置:JSM-6010LA(日本電子株式会社製)
測定条件:加速電圧15kV、二次電子モード
その結果、このようにして得られた共有結合性有機構造体および多孔質炭素材料は、
図2に示すように、何れも略真球状であることが確認できた。
【0039】
[実施例1-4]
(粒子径分布)
上記120℃とした共有結合性有機構造体の合成温度を、20℃毎変化させ140℃(実施例2)、160℃(実施例3)、180℃(実施例4)でそれぞれ合成した以外、上記と同様にして共有結合性有機構造体を合成し、それぞれを上記と同条件で焼成して各多孔質炭素材料を得た。得られた各多孔質炭素材料は、以下の条件で粒子径分布を測定した。
測定原理:レーザー回折散乱法
測定装置:島津製作所社製SALD-2300
測定条件:屈折率1.75-0.1i(複素屈折率)、
使用分散媒:エタノール、レーザーの透過率(0.1~0.2)
測定方法:エタノールに投入した試料を超音波分散後、専用セルに移し、測定した。
その結果、このようにして得られた各多孔質炭素材料は、共有結合性有機構造体の合成温度が120℃から上昇するにしたがって、多孔質炭素材料の粒子径分布が上昇し、180℃の合成温度では最も粒子径分布が大きな多孔質炭素材料が得られることが確認できた。
図1に、120℃で合成した共有結合性有機構造体による多孔質炭素材料(実施例1)の粒子径分布と180℃で合成した共有結合性有機構造体による多孔質炭素材料(実施例4)の粒子径分布を示す。
【0040】
[実施例1、比較例1-比較例3]
(X線光電子分光法(XPS)による分析)
120℃で合成した共有結合性有機構造体を600℃で焼成した上記多孔質炭素材料において、多孔質炭素材料の焼成温度を、600℃(実施例1)から500℃(比較例1)、800℃(比較例2)、1000℃(比較例3)にそれぞれ変更した以外は、窒素ガス流量、室温、昇温条件等は、上記と同様にして各多孔質炭素材料を得た。
上記で得られた各多孔質炭素材料について、以下の条件でX線光電子分光法(XPS)による分析を行った。結果を
図3に示す。
測定機種:JPS-901MC(日本電子株式会社製)
X線光源:MgΚα
その結果、500℃で焼成した比較例1に係る多孔質炭素材料は、結合エネルギー396eV~404eVの間に、大きな一つのピークが形成され、ピリジン型窒素とグラファイト型窒素とのピークが十分に分離しておらず、焼成不足であることが確認できた。600℃で焼成した実施例1に係る多孔質炭素材料は、結合エネルギー396eV~404eVの間に、大きな二つのピークが形成され、結合エネルギーが高い側のグラファイト型窒素のピークよりも、結合エネルギーが低い側のピリジン型窒素のピークが大きく、当該ピリジン型窒素が多く含まれていることが確認できた。800℃で焼成した比較例2に係る多孔質炭素材料は、結合エネルギー396eV~404eVの間に、大きな二つのピークが形成され、結合エネルギーが低い側のピリジン型窒素のピークよりも、結合エネルギーが高い側のグラファイト型窒素のピークが大きく、当該グラファイト型窒素が多く含まれていることが確認できた。1000℃で焼成した比較例3に係る多孔質炭素材料は、結合エネルギー396eV~404eVの間に、小さな一つのピークが形成され、結合エネルギーが低い側のピリジン型窒素が分解されて、当該ピリジン型窒素のピークが消失し、結合エネルギーが高い側のグラファイト型窒素のピークも800℃で焼成した際よりもピークが小さくなって一部分解されて消失していることが確認できた。
【0041】
(三電極セルの電極試験片の作製)
上記実施例1で得られた30mgの多孔質炭素材料を活物質として用い、3.75mgの導電助剤としてのアセチレンブラックと、3.75mgの結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂とを、8:1:1の重量比で混練し、錠剤成型機を用いて、13mmφのディスク型の電極に成型した。その結果、電極厚みは232μmであった。この成型電極をチタンメッシュに圧着して、電極試験片を調製した。この電極試験片を作用極とし、Ag/AgClを参照電極とし、白金を対極とし、1M希硫酸を電解液として三電極法による三極セルを構成した。比較例1-3に係る各多孔質炭素材料についても、同様に電極試験片を構成し、当該電極試験片を作用極とした三極セルを構成した。
【0042】
電気化学計測器(VSP300 Biologic社製)を用いて、印加電圧5mV、測定周波数1mHz~1MHzで、実施例1、比較例1-3に係る各多孔質炭素材料を用いた各電極試験片の交流インピーダンス測定を行い、各電極試験片の抵抗値を求めた。結果を表1に示す。
表1の結果から、500℃で焼成した比較例1の多孔質炭素材料を用いた電極試験片は、導電性が得られない。これは、焼成温度が低いので、導電性が発現するまでに十分炭化していないものと考えられる。また、600℃で焼成した実施例1に係る多孔質炭素材料を用いた電極試験片は、800℃や1000℃で焼成した比較例2、3に係る多孔質炭素材料を用いた電極試験片と比較して抵抗値が低いことが確認できた。
【0043】
(CV曲線の測定)
上記で調製した各多孔質炭素材料を用いた各電極試験片のうち、導電性が得られない比較例1を除く、残りの実施例1、比較例2-3に係る各多孔質炭素材料を用いた各電極試験片について、各多孔質炭素材料を作用極として作製した三極セルの電位を0.2~0.8Vまで1.0mV/secで掃引し、到達後、同じ掃引速度で0.8~0.2Vまで掃引した際の、サイクリック・ボルタンメトリ―(CV)曲線を計測した。計測は、電気化学計測器(VSP300 Biologic社製)を用いて行った。結果を
図5に示す。
【0044】
内部抵抗が低い場合、電圧印加時に急激に立ち上がり、放電時に急激に低下するため、純粋な電気二重層の容量を発現する場合は、CV曲線は理想的には長方形型になり、長方形型に近い程、内部抵抗が低いこととなる。そのことから、比較例2、3に係る電極試験片は、内部抵抗が低く、性能に優れていることが確認できるが、実施例1に係る電極試験片は、それに加えて、低電圧時の酸化電流値が増加し、低電圧時の還元電流値の絶対値が増加し、酸化電流値および還元電流値の絶対値が最も小さい0.7Vの位置と比較しても、この0.7Vの位置の酸化電流値と還元電流値を凌駕することが確認できる。しかも、この酸化電流値と還元電流値の絶対値との合計が最も小さい0.7Vの位置のレンジ幅でCV曲線が長方形型に近い形を形成すると仮定した場合に、本発明に係る実施例1の電極試験片は、0.25~0.5Vの全範囲において、酸化電流値が、0.7Vの位置の電流値よりもさらに大きくなり、かつ、還元電流値の絶対値が、0.7Vの位置の還元電流の絶対値よりもさらに大きくなる。このように酸化電流値と還元電流値の絶対値との合計が最も小さい0.7Vの位置のレンジ幅でCV波形が長方形型に近い形を形成すると仮定して、それを上回る酸化電流値を仮想酸化電流値とし、それを上回る還元電流値を仮想還元電流値として積分によって求めると、0.2~0.7V間における全酸化電流の積分値mA・Vに対する仮想酸化電流の積分値mA・Vは、0.37となり、0.2~0.7V間における全還元電流の積分値mA・Vに対する仮想還元電流の積分値mA・Vは、0.66となることが確認できた。
【0045】
(体積比容量の測定)
上記で行った電極試験片を用い、50mA (50mA/gの電流密度)の一定電流で、0~0.8Vまで充電し、0.8~0Vまで放電し、これを繰り返し行い、各回の体積比容量を測定した。結果を
図6に示す。
図6の結果から、充電と放電とを繰り返す毎に体積比容量が増加し、初期容量81F/cm
3に対して50サイクル目には、当該初期容量からさらに95%容量が増加した158F/cm
3となり、100サイクル目には、当該初期容量からさらに108%容量が増加した169F/cm
3となり、150サイクル目には、当該初期容量からさらに115%容量が増加した174F/cm
3となり、200サイクル目には、当該初期容量からさらに119%容量が増加した177F/cm
3となり、257サイクル目には、当該初期容量からさらに122%容量が増加した180F/cm
3となり、438サイクル目には、当該初期容量から130%容量が増加した186F/cm
3となることが確認できた。
【0046】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【要約】
【課題】電気二重層キャパシタの電極材料として優れた性能を発揮することができる共有結合性有機構造体およびその焼成体と、これらの製造方法を提供する。
【解決手段】2ヒドロキシ1,3,5-ベンゼントリカルボキシアルデヒドと、1,4-ジアミノベンゼンとの合成反応により、環状内に窒素を有する共有結合性有機構造体を合成する合成工程と、当該共有結合性有機構造体を600℃±30℃で焼成して、XPS分析による結合エネルギー396eV~404eVの間に、大きな二つのピークが形成され、結合エネルギーが高い側のピークよりも、結合エネルギーが低い側のピークが大きく形成される多孔質炭素材料を得る焼成工程と、を具備するも多孔質炭素材料の製造方法。この製造方法によって得られ、XPS分析によるグラファイト型窒素のピークよりも、ピリジン型窒素のピークが大きく形成され、略真球状に形成されてなる多孔質炭素材料。
【選択図】
図3