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特許7663811混合粉末及びMgO粒子の製造方法、並びに方向性電磁鋼板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】混合粉末及びMgO粒子の製造方法、並びに方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/00 20060101AFI20250410BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20250410BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20250410BHJP
【FI】
C23C22/00 A
C21D8/12 B
C21D9/46 501B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021130172
(22)【出願日】2021-08-06
(65)【公開番号】P2023024094
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】山縣 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 貴文
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和年
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-176144(JP,A)
【文献】特開昭54-128928(JP,A)
【文献】特開昭62-156227(JP,A)
【文献】特許第3043975(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2020/0095648(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111186850(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00
C21D 1/70-1/72
C21D 9/46
C01F 5/00-5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼鈍分離剤に用いる混合粉末であって、
質量%で50.0%以上99.0%以下のMgO粒子と、
BまたはB化合物の粒子であるMgO外粒子と、
を含み、
前記MgO粒子は、0.020質量%以上0.200質量%以下のBを含有し、前記MgO粒子に含まれる前記Bのうち、3配位ホウ素として存在するBの割合が、75質量%以上90質量%以下であり、
前記混合粉末におけるB含有量が、0.025質量%以上0.225質量%未満である
ことを特徴とする混合粉末。
【請求項2】
前記混合粉末が、さらに、Clを、0.01質量%以上0.20質量%以下含有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の混合粉末。
【請求項3】
前記混合粉末が、さらに、Ca、Sr、Baを、合計で0.02質量%以上4.00質量%以下含有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の混合粉末。
【請求項4】
前記混合粉末全体における、前記MgO外粒子に含まれるBの含有量が、質量%で、0.010%以上0.200%以下であり、
前記MgO外粒子のホウ素量に対する前記MgO粒子のホウ素量の比が、0.30以上3.00未満である
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の混合粉末。
【請求項5】
さらに、質量%で、5.0%以下のTiOを含む、
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の混合粉末。
【請求項6】
請求項1に記載の前記MgO粒子を製造する方法であって、
水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウムのなかから選ばれる1種または2種以上からなる原料粉末であって、前記原料粉末のMgO当量に対するBの質量比が0.020以上0.200以下である原料粉末を、
大気または窒素中で、700~1100℃に加熱して焼成する
ことを特徴とする、MgO粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の前記MgO粒子を製造する方法であって、
水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウムのなかから選ばれる1種または2種以上からなる原料粉末であって、前記原料粉末のMgO当量に対するBの質量比が0.001~0.020である原料粉末に、
前記原料粉末のMgO当量に対して、質量比でのホウ素当量が0.020~0.180である、ホウ素、ホウ酸塩およびホウ化物の1種以上を混合したのち、大気または窒素中で、700~1100℃に加熱して焼成する
ことを特徴とする、MgO粒子の製造方法。
【請求項8】
鋼スラブを、熱間圧延して熱延板を得る熱間圧延工程と、
前記熱延板に焼鈍を行う熱延板焼鈍工程と、
前記熱延板焼鈍工程後の前記熱延板に、冷間圧延を行い、冷延板を得る、冷間圧延工程と、
前記冷延板に対して脱炭焼鈍を行う脱炭焼鈍工程と、
脱炭焼鈍工程後の前記冷延板に、焼鈍分離剤を塗布し、乾燥させた後、仕上げ焼鈍を行う、仕上げ焼鈍工程と、
を含み、
前記焼鈍分離剤として、請求項1~5のいずれか一項に記載の前記混合粉末と水とを混合してスラリー状にした焼鈍分離剤を用いる
ことを特徴とする、方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合粉末及びMgO粒子の製造方法、並びに方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、軟磁性材料であり、主に、変圧器の鉄心材料として用いられる。そのため、方向性電磁鋼板には、高磁化特性および低鉄損という磁気特性が要求される。鉄損とは、鉄心を交流磁場で励磁した場合に、熱エネルギとして消費される電力損失であり、省エネルギの観点から、鉄損はできるだけ低いことが求められる。
方向性電磁鋼板の製造では、一般に、所定の成分組成に調整した鋼スラブに、熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、脱炭焼鈍、及び仕上焼鈍を含む製造方法が適用される。
これらの工程のうち、仕上焼鈍工程では、コイル状に巻き取られた鋼板を、高温で長時間焼鈍することで、結晶方位を磁気特性に良好なGOSS方位へ集積させる(方位集積度を高める)。その際、コイルの焼付きを防止するため、焼鈍分離剤が塗布される。
【0003】
コイルに塗布される焼鈍分離剤としては、酸化マグネシウム(MgO)を主成分とする焼鈍分離剤が用いられることが多い。その理由としては、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を用いると、仕上げ焼鈍時に、鋼板の表面の二酸化ケイ素(SiO)とMgOとが反応して、鋼板の表面に、鋼板表面に張力を付加し、また鋼板に絶縁性を付与する役割を果たすフォルステライト(MgSiO)系被膜(一次被膜)を、形成することができるからである。すなわち、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を用いることで、仕上焼鈍時の焼付き防止だけでなく、方向性電磁鋼板の磁気特性の向上を図ることができるからである。
【0004】
上述の通り、方向性電磁鋼板の製造において、焼鈍分離剤によって、方向性電磁鋼板の特性は変化し得る。そのため、近年、焼鈍分離剤に含まれる酸化マグネシウムに含有される微量成分についての研究が行われている。更に、微量成分の含有量だけでなく、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム中の、微量成分元素を含む化合物の構造についても検討が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ホウ素を0.04質量%以上0.30質量%以下含有し、酸化マグネシウムを主成分とする焼鈍分離剤用粉末であって、前記ホウ素中の3配位ホウ素の割合が80%以上95%以下である、焼鈍分離剤用粉末が開示されている。
また、特許文献2には、水酸化マグネシウムおよび炭酸マグネシウムのいずれか一方または両方と、ホウ素とを含む原料を焼成し、その後、焼成物の湿度調節により3配位ホウ素比率を調整することを特徴とする、焼鈍分離剤用粉末の製造方法であって、該焼鈍分離剤用粉末に含有されるホウ素中の3配位ホウ素の割合が、70%以上95%以下である、焼鈍分離剤用粉末の製造方法が開示されている。
特許文献1及び2は、いずれも、1)不純物の純化には高温(1100℃以上)での被膜反応挙動が影響している、2)高温での被膜反応挙動には3配位の存在形態のホウ素が影響を及ぼしている、3)4配位の存在形態のホウ素は、不純物の純化に寄与しないばかりか、高温焼鈍時に鋼板へ侵入してFeBを形成し、繰り返し曲げ劣化の原因を作る、という知見に基づいて、3配位ホウ素の割合が規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6613919号公報
【文献】特開2020-15982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2に記載されているように、焼鈍分離剤用粉末における、ホウ素量や3配位ホウ素比率を制御することによって、高温下での反応性の不足に起因する被膜外観不良や鋼中からの不純物の純化不良の問題を解決することができる。しかしながら、本発明者らが検討した結果、特許文献1、2の技術では、磁気特性の向上を課題としておらず、とりわけ、磁気特性に影響を及ぼす結晶方位の最適化と密着性の改善とを両立するには必ずしも最適な条件とは言えず、近年のより高い磁気特性に対する要求に対しては、十分とは言えなかった。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされた。
本発明は、仕上焼鈍前に鋼板に塗布される焼鈍分離剤に用いられる混合粉末であって、これを用いることで仕上焼鈍後の方向性電磁鋼板において、優れた磁気特性、外観および被膜密着性が得られる、混合粉末を提供することを課題とする。また、本発明は、この焼鈍分離剤用の混合粉末を用いる方向性電磁鋼板の製造方法、及びこの混合粉末に含まれるMgO粒子の製造方法、並びに方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、焼鈍分離剤の制御による方向性電磁鋼板の被膜特性の向上について検討を行った。その結果、焼鈍分離剤に含まれる、ホウ素(B)を含む混合粉末において、MgO粒子にホウ素(B)を含有させること、及び、ホウ素の存在形態(3配位ホウ素であるか4配位ホウ素であるか)を制御することで、被膜密着性を改善し、仕上焼鈍後の方向性電磁鋼板の被膜特性及び磁気特性を改善することができることを見出した。
【0010】
本発明は上記の知見に基づいてなされた。本発明の要旨は以下の通りである。
[1]焼鈍分離剤に用いる混合粉末であって、質量%で50.0%以上99.0%以下のMgO粒子と、BまたはB化合物の粒子であるMgO外粒子と、を含み、前記MgO粒子は、0.020質量%以上0.200質量%以下のBを含有し、前記MgO粒子に含まれる前記Bのうち、3配位ホウ素として存在するBの割合が、75質量%以上90質量%以下であり、前記混合粉末におけるB含有量が、0.025質量%以上0.225質量%未満である、混合粉末。
[2]前記混合粉末が、さらに、Clを、0.01質量%以上0.20質量%以下含有する、[1]に記載の混合粉末。
[3]前記混合粉末が、さらに、Ca、Sr、Baを、合計で0.02質量%以上4.00質量%以下含有する、[1]または[2]に記載の混合粉末。
[4]前記混合粉末全体における、前記MgO外粒子に含まれるBの含有量が、質量%で、0.010%以上0.200%以下であり、前記MgO外粒子のホウ素量に対する前記MgO粒子のホウ素量の比が、0.30以上3.00未満である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の混合粉末。
[5]さらに、質量%で、5.0%以下のTiOを含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載の混合粉末。
[6][1]に記載の前記MgO粒子を製造する方法であって、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウムのなかから選ばれる1種または2種以上からなる原料粉末であって、前記原料粉末のMgO当量に対するBの質量比が0.020以上0.200以下である原料粉末を、大気または窒素中で、700~1100℃に加熱して焼成する、MgO粒子の製造方法。
[7][1]に記載の前記MgO粒子を製造する方法であって、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウムのなかから選ばれる1種または2種以上からなる原料粉末であって、前記原料粉末のMgO当量に対するBの質量比が0.001~0.020である原料粉末に、前記原料粉末のMgO当量に対して、質量比でのホウ素当量が0.020~0.180である、ホウ素、ホウ酸塩およびホウ化物の1種以上を混合したのち、大気または窒素中で、700~1100℃に加熱して焼成する、MgO粒子の製造方法。
[8]鋼スラブを、熱間圧延して熱延板を得る熱間圧延工程と、前記熱延板に焼鈍を行う熱延板焼鈍工程と、前記熱延板焼鈍工程後の前記熱延板に、冷間圧延を行い、冷延板を得る、冷間圧延工程と、前記冷延板に対して脱炭焼鈍を行う脱炭焼鈍工程と、脱炭焼鈍工程後の前記冷延板に、焼鈍分離剤を塗布し、乾燥させた後、仕上げ焼鈍を行う、仕上げ焼鈍工程と、を含み、前記焼鈍分離剤として、[1]~[5]のいずれか一項に記載の前記混合粉末と水とを混合してスラリー状にした焼鈍分離剤を用いる、方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、方向性電磁鋼板の製造過程において仕上焼鈍前に鋼板に塗布される焼鈍分離剤に用いられる混合粉末であって、これを用いることで仕上焼鈍後の方向性電磁鋼板において、優れた磁気特性、外観および被膜密着性が得られる、混合粉末を提供することができる。また、本発明によれば、この焼鈍分離剤用の混合粉末を用いる方向性電磁鋼板の製造方法、及びこの混合粉末に含まれるMgO粒子の製造方法、並びに方向性電磁鋼板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る混合粉末(本実施形態に係る混合粉末)は、焼鈍分離剤に用いる混合粉末であって、
質量%で50.0%以上99.0%以下のMgO粒子と、
B(ホウ素)またはB化合物(ホウ素化合物)の粒子であるMgO外粒子と、
を含み、
前記MgO粒子は、0.020質量%以上0.200質量%以下のBを含有し、前記MgO粒子に含まれる前記Bのうち、3配位ホウ素として存在するBの割合が、40質量%以上90質量%以下であり、
前記混合粉末におけるB含有量が、0.025質量%以上0.225質量%未満である。
以下、それぞれの限定理由について説明する。
【0013】
[混合粉末におけるB含有量が、0.025質量%以上0.225質量%未満]
混合粉末にホウ素(B)を含有させることで、この混合粉末を用いた焼鈍分離剤を塗布して仕上焼鈍を行うことで得られる方向性電磁鋼板の、被膜特性および磁気特性を改善することができる。
混合粉末に含まれるB含有量が、0.025質量%未満では、上記効果が十分得られない。そのため、混合粉末(全体)におけるB含有量を0.025質量%以上とする。
一方、MgOに含まれるB含有量が多すぎると、鋼板中にホウ素が多く侵入することで、かえって二次再結晶および純化が阻害される。そのため、混合粉末(全体)におけるB含有量を0.225質量%未満とする。
ここで、混合粉末のB含有量は、後述するMgO粒子に含まれるB、MgO粒子とは異なる粒子(MgO外粒子)に含まれるB、の両方を含む、混合粉末全体におけるB含有量である。
【0014】
本実施形態に係る混合粉末は、質量%で50.0%以上99.0%以下のMgO粒子と、BまたはB化合物の粒子であるMgO外粒子と、を含む。MgO粒子の割合は、好ましくは、80.0%以上であり、より好ましくは90.0%以上である。
MgO粒子及びMgO外粒子としては、後述するような粒子とする。
混合粉末において、MgO粒子、MgO外粒子、以外に、例えばTiOなどが含まれてもよい。TiOを含む場合、混合粉末に占めるTiOの割合は限定されないが、10.0%以下とすることが好ましく、5.0%以下とすることがより好ましい。TiOは、混合粉末から焼鈍分離剤を製造する際に、混合粉末に対して添加してもよい。
【0015】
[MgO粒子:0.020質量%以上0.200質量%以下のBを含有し、MgO粒子に含まれるBのうち、3配位ホウ素として存在するBの割合が、40質量%以上90質量%以下]
上述の通り、混合粉末に含まれるBは、最終的に得られる方向性電磁鋼板の磁気特性、被膜特性の向上に寄与する。また、MgO粒子に含まれるBは、MgO粒子に含まれない(その他の粒子、すなわちMgO外粒子として含まれる)Bに比べ、被膜との反応性がよい(例えば低温でも反応する)。そのため、MgO粒子のB含有量を一定量以上とすることで、混合粉末中のB含有量が少なくても、十分な効果が得られることになる。そのため、MgO粒子のB含有量を0.020質量%以上とする。
一方、MgO粒子のB含有量が0.200質量%超であると、鋼板へのBの侵入が過剰となり、方向性電磁鋼板の磁気特性が劣化する。そのため、MgO粒子のB含有量を0.200質量%以下とする。
また、MgO粒子に含有されるホウ素(B)は、主に3配位ホウ素(BO)または4配位ホウ素(BO)の状態で存在する。このうち、3配位ホウ素は、4配位ホウ素に比べて被膜との反応性がよい。すなわち、3配位ホウ素の割合が高いほど、少ないB含有量で、高い効果が得られる。そのため、MgO粒子に含まれるBのうち、3配位ホウ素の占める割合(BO割合という場合がある)を40質量%以上とする。
一方、BO割合を高めすぎると、活性が高くなりすぎ、かえってAlとの複合酸化物を形成しやすくなり、析出物を分解が促進される。そのため、析出物分解抑制の観点から、MgO粒子に含まれるBのうち、3配位ホウ素の割合は、90質量%以下とする。
【0016】
[MgO外粒子]
本実施形態に係る混合粉末は、MgO粒子以外に、BまたはB化合物の粒子(以下、MgO外粒子と言う場合がある)を含む。
MgO外粒子は、例えば、Na、ホウ砂、ホウ酸カルシウム、ホウ素(純物質)、ホウ酸マグネシウムなどである。
【0017】
[好ましくは、混合粉末全体における、MgO外粒子に含まれるBの含有量が、質量%で、0.010%以上0.200%以下]
混合粉末の全体(総量)に対して、MgO外粒子に含まれるBの含有量が0.010%以上0.200%以下である(MgO外粒子に含まれるBの質量/混合粉末全体の質量×100=0.010~0.200%である)と、ホウ素による被膜の耐熱化に応じて被膜密着性が増加するとともに、ホウ素の鋼板への侵入が抑えられ、二次再結晶や純化への悪影響が軽微となるので、好ましい。
【0018】
[好ましくは、MgO外粒子のホウ素量に対するMgO粒子のホウ素量の比が、0.30以上3.00未満]
MgO外粒子のホウ素は低温でMgOの被膜形成を補助する。MgO外粒子に含まれるB(ホウ素)の総量に対するMgO粒子に含まれるB(ホウ素)の総量の比が、0.30以上3.00未満であると、高温でのMgOからのホウ素の侵入による、磁気特性・純化への影響が小さくなるので、好ましい。
【0019】
上述した混合粉末の総量に対するMgO外粒子のB含有量、MgO外粒子のホウ素量に対するMgO粒子のホウ素量の比は、スラリー調製時の添加材の添加量で調整することができる。
【0020】
[好ましくは、混合粉末が、さらに、Clを、0.01質量%以上0.20質量%以下、及び/またはCa、Sr、Baを、合計で0.02質量%以上4.00質量%以下含有する]
Cl(塩素)、または、アルカリ土類金属は、混合粉末とSiOとの反応性を高める元素である。そのため、本実施形態に係る混合粉末が、Clを、0.01質量%以上、及び/または、Ca、Sr、Baからなる群から選択される1種以上を合計で、0.02質量%以上含有することで、さらに被膜特性(外観、被膜密着性)が改善するので好ましい。
一方、Cl含有量が0.20質量%を超える、または、Ca、Sr、Baからなる群から選択される1種以上の合計含有量が4.00質量%を超えると、その硫化傾向の強さから、鋼板の脱硫が促進され、二次再結晶を制御する析出物である硫化物の分解が進行して二次再結晶に悪影響となる場合があるので、好ましくない。
【0021】
本実施形態に係る混合粉末において、B、Cl、Ca、Sr、Baの含有量は、混合粉末を、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP―MS)を用いて定量分析することによって、測定することができる。
【0022】
また、MgO粒子、MgO外粒子に含まれるBの総量は、それぞれ、MgO粒子およびMgO外粒子を誘導結合プラズマ質量分析法(ICP―MS)による定量分析を行い、測定したB含有量(質量%)とそれぞれの添加量との積として求められる。
MgO粒子と、MgO外粒子のB含有量は混合前であればそれぞれをICP-MSで測定することができる。
また、混合後の粉末(混合粉末)中のMgO粒子のB含有量は、MgO粒子を浮沈法(比重)や分級、溶液中での分離などの手法によって混合粉末から選別し、その後ICP-MSで測定することで得られる。
また、混合粉末全体における、MgO外粒子に含まれるBの含有量は、当該混合粉末中のMgO粒子中のB含有量と混合粉末全体のB含有量、および混合粉末からMgOを選別して得られたMgO含有量から、以下の式に基づいて求められる。
(混合粉末全体における、前記MgO外粒子に含まれるBの含有量)=((混合粉末全体のB含有量)―(MgO内のB含有量)×(MgO粒子の重量)))
また、上記の通り求めたMgO外粒子のB含有量とMgO粒子のB含有量の比は下記の通りとして求められる。
MgO外粒子のB含有量とMgO粒子のB含有量の比=(MgO粒子のB含有量)×(MgO粒子の重量)/混合粉末全体における、MgO外粒子に含まれるBの含有量
【0023】
MgO粒子に含まれるBについて、3配位ホウ素として存在する割合は、以下の方法で求める。
MgO粒子に対してNMR(Nuclear Magnetic Resonance)で測定を行い、得られたスペクトルのうち、27~6ppmの範囲にあるものを3配位ホウ素、6未満~-6ppmの範囲にあるものを4配位ホウ素として、前者の積分面積を、前者と後者合計の積分面積で除した比から、3配位ホウ素と4配位ホウ素の存在比率を求める。
【0024】
<混合粉末の製造方法>
上述した本実施形態に係る混合粉末は、0.020質量%以上0.200質量%以下のBを含有し、含まれるBのうち、3配位ホウ素として存在するBの割合が、40質量%以上90質量%以下であるMgO粒子と、BまたはB化合物の粒子とを、混合粉末のB含有量が、0.025質量%以上0.225質量%未満となるように混合することで得られる。
ここで、B化合物は、例えば、ホウ砂、四ホウ酸ナトリウム、ホウ化窒素、ホウ酸カルシウムなどである。
【0025】
<MgO粒子の製造方法>
また、上述した混合に供されるMgO粒子は、以下の製造方法(I)または(II)に依って製造することができる。
(I)
水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウムのなかから選ばれる1種または2種以上からなる原料粉末であって、原料粉末のMgO当量に対するBの質量比が0.020以上0.200以下である(MgO当量を100%としたときに、B含有量が0.020質量%以上0.200質量%以下である)原料粉末を、
大気または窒素中で、700℃以上1100℃以下に加熱して焼成する。
(II)
水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウムのなかから選ばれる1種または2種以上からなる原料粉末であって、原料粉末のMgO当量に対するBの質量比が0.001~0.020以下である原料粉末に、
原料粉末のMgO当量に対して、質量比でのホウ素当量が0.020~0.180である(MgO当量を100%としたときに、B含有量が0.020質量%以上0.180質量%以下である)、ホウ素、ホウ酸塩およびホウ化物の1種以上を混合したのち、700~1100℃に加熱して焼成する。
すなわち、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウムのなかから選ばれる1種または2種以上からなる原料粉末を、原料粉末に(例えば不純物として)含まれていたB含有量によって、必要に応じてホウ素、ホウ酸塩やホウ化物のホウ素化合物を添加した上で、大気または窒素中で焼成し、MgO粒子とする。
焼成温度が700℃未満では、焼成が不十分となるので焼成温度を700℃以上とする。一方、焼成温度を1100℃以下にすることで、焼成されたBOの化学構造が安定化されながら、粒径を大きく変化させることなく焼成MgO粒子中の3配位ホウ素の割合を高めることができるので、好ましい。
焼成雰囲気は、大気または窒素中が好ましく、それ以外の条件では経済的に不利となるので、好ましくない。
添加するホウ素化合物としては、例えば、ホウ素、Na(OH)・8HO、ホウ酸マグネシウムなどである。
【0026】
<方向性電磁鋼板の製造方法>
鋼スラブを、熱間圧延して熱延板を得る熱間圧延工程と、
前記熱延板に焼鈍を行う熱延板焼鈍工程と、
前記熱延板焼鈍工程後の前記熱延板に、冷間圧延を行い、冷延板を得る、冷間圧延工程と、
前記冷延板に対して脱炭焼鈍を行う脱炭焼鈍工程と、
脱炭焼鈍工程後の前記冷延板に、焼鈍分離剤を塗布し、乾燥させた後、仕上げ焼鈍を行う、仕上げ焼鈍工程と、
を含む製造方法によれば、方向性電磁鋼板を製造することができる。
本実施形態においては、仕上焼鈍前に塗布する焼鈍分離剤として、上述した本実施形態に係る混合粉末と水とを混合してスラリー状にした焼鈍分離剤を用いる。混合粉末にTiOが含まれていない場合には、さらにTiOを混合してもよい。
この焼鈍分離剤を用いることで、被膜の外観に優れ、被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板を製造することができる。
上記製造方法において、鋼スラブの化学組成や、各工程の条件について、用いる焼鈍分離剤以外は、公知の方向性電磁鋼板の製造条件を適用することができる。
【実施例
【0027】
<実施例1>
所定の化学組成を有するMgO粒子と、Na粉末と、TiOとを混合し、表1A、表1Bに示す混合粉末を得た。
また、これらの混合粉末に水を加えて、焼鈍分離剤の水性スラリーを得た。
この焼鈍分離剤の水性スラリーを、一次再結晶焼鈍後の冷延板(方向性電磁鋼板の素材として用いられる公知の鋼板)に対して塗布した。
水性スラリーが表面に塗布された冷延板に対して、300℃にて30秒焼付け処理を実施して、水性スラリーを乾燥させた。焼付け後、鋼板に対し、1200℃で20時間保持する仕上げ焼鈍処理を実施した。
以上の製造工程により、母材鋼板とフォルステライト(MgSiO)等の複合酸化物を含む一次被膜とを有する方向性電磁鋼板を製造した。
【0028】
得られた方向性電磁鋼板について、以下の要領で、磁気特性(B8)、外観および被膜密着性の評価を行った。
【0029】
[磁気特性]
次の方法により、各No.の方向性電磁鋼板の磁気特性を評価した。
具体的には、各No.の方向性電磁鋼板から圧延方向長さ300mm×幅60mmのサンプルを採取した。サンプルに対して、800A/mの磁場を付与して、磁束密度B8を求めた。表1A、表1Bに試験結果を示す。磁束密度が1.93T以上であれば磁気特性に優れると判断した。
【0030】
[外観]
各No.の方向性電磁鋼板から圧延方向長さ50mm×幅60mmのサンプルを採取した。サンプルに対し、色調を評価し、その後、公知の絶縁被膜を形成して、被膜欠陥を評価した。
各No.の方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成前の色調が均一であり、絶縁被膜形成後に4mm以上の被膜欠陥(穴及び腐食)がない場合に、磁気特性に優れると判断した。
〇:絶縁被膜形成前の色調に色むらがなく、絶縁被膜形成後に4mm以上の被膜欠陥がない
×:絶縁被膜形成前の色調に色むらがある、または、絶縁被膜形成後に4mm以上の被膜欠陥がある
【0031】
[被膜密着性]
次の方法により、各No.の方向性電磁鋼板の被膜密着性を評価した。
具体的には、仕上焼鈍後の方向性電磁鋼板から圧延方向長さ100mm×幅30mmのサンプルを採取した。サンプルに対して、φ15で180°曲げ、曲げ戻した際の内側の被膜を確認し、剥離の程度を確認した。
◎:剥離が目視で確認されない場合
〇:最大の剥離箇所1か所の面積が4mm以下の場合
△:最大の剥離箇所1か所の面積が4mmを超える場合
ただし、上記の曲げ加工面において、幅1mm以内、長さ4mm以上の線状剥離は、曲げによって生じる双晶変形より生じた剥離とみなして再測定した。
【0032】
【表1A】
【0033】
【表1B】
【0034】
表1A、表1Bから分かるように、No.1、2、5、6、10、11、14、15、17~19の混合粉末では、混合粉末及びMgO粒子のB含有量、MgO粒子の割合、BまたはB化合物の粒子であるMgO外粒子と、MgO粒子に含まれる3配位ホウ素の割合が本発明範囲内にあった。そのため、これらを用いた焼鈍分離剤を塗布して得られた方向性電磁鋼板では、優れた外観と、優れた被膜密着性と、優れた磁気特性とが得られた。
これに対し、No.3、4、12および13の混合粉末は、MgO粒子のB含有量が範囲外であり、方向性電磁鋼板において磁気特性が劣位となった。また、No.4、12では、被膜密着性も低下した。
No.7、8は、MgO粒子のBO割合が範囲外であり、方向性電磁鋼板において外観が劣位となった。また、No.8では被膜密着性も低下した。
No.9は、混合粉末のB含有量が高すぎ、方向性電磁鋼板において磁気特性が劣位であった。
No.16、20では、混合粉末におけるMgOの含有量が、本発明範囲外であり、方向性電磁鋼板において磁気特性が劣位であった。
【0035】
<実施例2>
表2に示す原料粉末および、必要に応じてホウ化物を添加した混合粉末を、窒素雰囲気中で、表2に示す焼成温度で5分間焼鈍してMgO粒子を得た。
これらのMgO粒子と、Na粉末と、TiOとを混合して、表3A、表3Bに示す混合粉末を得た。
また、これらの混合粉末に水を加えて、焼鈍分離剤の水性スラリーを得た。
この焼鈍分離剤の水性スラリーを、脱炭焼鈍後(一次再結晶焼鈍後)の冷延板(方向性電磁鋼板の素材として用いられる公知の鋼板)に対して塗布し、水性スラリーが表面に塗布された冷延板に対して、300℃にて30秒焼付け処理を実施して、水性スラリーを乾燥させた。焼付け後、鋼板に対し、1200℃で20時間保持する仕上げ焼鈍処理を実施した。
以上の製造工程により、母材鋼板とフォルステライト(MgSiO)等の複合酸化物を含む一次被膜とを有する方向性電磁鋼板を製造した。
【0036】
得られた方向性電磁鋼板について、実施例1と同じ要領で、磁気特性(B8)、外観および被膜密着性の評価を行った。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3A】
【0039】
【表3B】
【0040】
表2、表3A、表3Bから分かるように、No.21~29は、本発明範囲内で原料粉末と添加物とを混合して焼成することによって、所定のMgO粒子を得ることができ、これを所定のBまたはB化合物の粒子と混合することで、本発明範囲内の混合粉末が得られた。また、これらの混合粉末を用いて焼鈍分離剤を塗布して製造された方向性電磁鋼板は、磁気特性、外観、及び被膜密着性に優れていた。
これに対し、No.30~37では、原料粉末のB含有量が本発明範囲を外れたことで、MgO粒子のB含有量、及び混合粉末のB含有量が本発明範囲を外れた。また、この混合粉末を用いた焼鈍分離剤を塗布して製造された方向性電磁鋼板では、磁気特性、及び被膜密着性のいずれか1つ以上が劣位であった。