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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】生体内温度制御システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20250410BHJP
【FI】
A61B18/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020560511
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(86)【国際出願番号】 JP2020039848
(87)【国際公開番号】W WO2021079974
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2019193137
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榊原 甫
(72)【発明者】
【氏名】岡田 達弥
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 博樹
(72)【発明者】
【氏名】松熊 哲律
(72)【発明者】
【氏名】原田 紘行
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-176693(JP,A)
【文献】特開2016-119936(JP,A)
【文献】特表2012-515612(JP,A)
【文献】特開2000-300666(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0161890(US,A1)
【文献】特表2014-508547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12-18/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に挿入可能なカテーテルと、
温度センサを有する前記カテーテルに挿入可能な温度プローブと、
温度制御された液体を貯留する液体貯留部と、
前記液体貯留部からの液体を前記カテーテルに供給するポンプと、
前記温度プローブから検知された信号に基づいて前記ポンプの駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記信号が予め設定した閾値に達した場合に前記ポンプを制御し、
前記ポンプは、前記液体貯留部内の液体を前記カテーテルを介して外部に放出するよう駆動し、かつ、外部の液体を前記カテーテルを介して吸引するよう駆動し、
前記制御部は、液体の送液時の回転数よりも液体の吸引時の回転数が小さくなるようにポンプを駆動させ、かつ、予め設定した、送液を停止してからの時間、又は予め設定した、送液された液体の温度に達した場合に前記ポンプを制御する、
生体内温度制御システム。
【請求項2】
前記カテーテルの内部圧力を検出する圧力センサを備え、
前記制御部は、前記圧力センサで検知された信号に基づいて前記ポンプの吸引方向の駆動を制御する、
請求項1記載の生体内温度制御システム。
【請求項3】
生体内に挿入可能なカテーテルと、
温度センサを有する前記カテーテルに挿入可能な温度プローブと、
温度制御された液体を貯留する液体貯留部と、
前記液体貯留部からの液体を前記カテーテルに供給するポンプと、
前記温度プローブから検知された信号に基づいて前記ポンプの駆動を制御する制御部と、
前記カテーテルの内部圧力を検出する圧力センサと、
を備え、
前記制御部は、前記信号が予め設定した閾値に達した場合に前記ポンプを制御し、
前記ポンプは、前記液体貯留部内の液体を前記カテーテルを介して外部に放出するよう駆動し、かつ、外部の液体を前記カテーテルを介して吸引するよう駆動し、
前記制御部は、液体の送液時の回転数よりも液体の吸引時の回転数が小さくなるようにポンプを駆動させ、かつ、前記制御部は、前記圧力センサで検知された信号に基づいて前記ポンプの吸引方向の駆動を制御する、
生体内温度制御システム。
【請求項4】
前記温度プローブから検知された信号をデジタル数字、バーグラフ又はトレンドグラフで表記するモニタを備え、
前記温度プローブから検知された信号が予め設定した閾値を越えた場合に前記モニタ上のデジタル数字、バーグラフ又はトレンドグラフの表示色の変化によって操作者に知らせる手段を有する、
請求項1~3のいずれか一項記載の生体内温度制御システム。
【請求項5】
前記ポンプは、送液用ポンプ及び吸引用ポンプであり、
前記制御部は、液体の送液時に前記送液用ポンプを駆動させ、液体の吸引時に前記吸引用ポンプを駆動させる、
請求項1~4のいずれか一項記載の生体内温度制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内温度制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動は不整脈の一種で、心房が不規則な収縮を繰り返すことで血液循環が悪化し、不快感や倦怠感を引き起こすことが知られている。そのため、心房細動の主な発生源である肺静脈及びその周辺の左心房後壁等の心筋組織を焼灼するカテーテルアブレーション術(肺静脈隔離術)により、心房細動を治療する方法が広く行われている。
【0003】
一方で、カテーテルアブレーション術による治療の際、焼灼部位(左心房)と食道が近接していることから、食道が損傷を受け、左房食道瘻、食道迷走神経麻痺等の重大な食道合併症を引き起こす危険性が指摘されており、食道内の温度を適切に管理することが求められている。
【0004】
食道内の温度管理を行う手段としては、患者の鼻(経鼻的)又は患者の口(経口的)を介したアプローチにより、食道内に温度センサを備えたカテーテルを挿入し、温度センサにより食道の内部温度を測定するとともに、内部温度が閾値に到達したと判断された場合に、外部に警報を出力する温度測定装置が報告されている(特許文献1)。
【0005】
また、患者の心臓内でアブレーションを行なうアブレーションカテーテルに対し直接温度センサと制御器が接続されていて、食道の内部温度が、許容できないレベル(閾値)又は所定値(温度)を越えて上昇した場合、食道の過熱及び損傷を防止するため、制御器がアブレーションカテーテルの出力を自動的に調節する装置が報告されている(特許文献2)。
【0006】
また、食道冷却用のバルーンカテーテルとして、食道に挿入するのに適合し、外側に熱伝達表面を備えるとともに、バルーン内の内腔が熱交換媒体を保持するのに適合した拡張可能バルーンを備えた熱交換バルーンアッセンブリが報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-119936
【文献】特開2019-10500
【文献】特表2009-504284
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の装置は、アブレーション治療時に食道の内部温度を監視し、内部温度が閾値に到達したと判断された場合に外部に警報を出力することで、食道が加熱又は冷却されて損傷を受ける前にアブレーションを一時中止する等の事前の措置を講じることが可能であるものの、警報の確認が遅れた場合、必要な処置が遅れる可能性がある。
【0009】
特許文献2に記載の装置は、食道の内部温度に応じて制御器が自動的にアブレーションの出力を制御するため、操作者はアブレーションの手技に専念することができる。しかしながら、アブレーションの出力を制御する場合、食道は自然冷却となるため、冷却までに時間がかかり患者への負担が大きくなる可能性がある。さらに、アブレーションの出力制御による過熱の防止を行なっているため、例えば、クライオバルーンのような冷却によりアブレーションを行なうカテーテルにはそのまま適用できない。
【0010】
特許文献3に記載の装置は、食道内に留置したバルーンを介して食道を冷却することでアブレーション術時の食道損傷を防止することができる。しかしながら、アブレーション術中の熱害から食道損傷を防止するためには、焼灼中の心臓近傍の食道内にバルーンを拡張する必要があり、かえって食道を焼灼源に近づけることで食道損傷のリスクを高める可能性がある。
【0011】
そこで本発明は、食道等の生体器官の内部温度を監視するとともに、監視に応じて直接器官側の温度を調節する手段を有する生体内温度制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の(1)~(7)の発明を見出した。
(1) 生体内に挿入可能なカテーテルと、温度センサを有する上記カテーテルに挿入可能な温度プローブと、温度制御された液体を貯留する液体貯留部と、上記液体貯留部からの液体を上記カテーテルに供給するポンプと、上記温度プローブから検知された信号に基づいて上記ポンプの駆動を制御する制御部と、を備え、上記制御部は、上記信号が予め設定した閾値に達した場合に上記ポンプを制御し、上記ポンプは、上記液体貯留部内の液体を上記カテーテルを介して外部に放出するよう駆動する、生体内温度制御システム。
(2) 上記制御部は、予め設定した時間又は温度に達した場合に上記ポンプを制御し、上記ポンプは、外部の液体を上記カテーテルを介して吸引するよう駆動する、(1)記載の生体内温度制御システム。
(3) 上記カテーテルの内部圧力を検出する圧力センサを備え、上記制御部は、上記圧力センサで検知された信号に基づいて上記ポンプの駆動を制御する、(1)又は(2)記載の生体内温度制御システム。
(4) 上記制御部は、液体の送液時の回転数よりも液体の吸引時の回転数が小さくなるようにポンプを駆動させる、(1)~(3)のいずれか記載の生体内温度制御システム。
(5) 上記温度プローブから検知された信号をデジタル数字、バーグラフ又はトレンドグラフで表記するモニタを備え、上記温度プローブから検知された信号が予め設定した閾値を越えた場合に上記モニタ上のデジタル数字、バーグラフ又はトレンドグラフの表示色の変化によって操作者に知らせる手段を有する、(1)~(4)のいずれか記載の生体内温度制御システム。
(6) 上記ポンプは、送液用ポンプ及び吸引用ポンプであり、上記制御部は、液体の送液時に上記送液用ポンプを駆動させ、液体の吸引時に上記吸引用ポンプを駆動させる、(1)~(5)のいずれか記載の生体内温度制御システム。
(7) 生体内に挿入可能なカテーテルと、温度センサを有する上記カテーテルに挿入可能な温度プローブと、温度制御された液体を貯留する液体貯留部と、上記液体貯留部からの液体を上記カテーテルに供給するポンプと、上記温度プローブから検知された信号に基づいて上記ポンプの駆動を制御する制御部と、を備えた生体内温度制御システムを制御する方法であり、上記制御部が上記温度プローブから検知された信号と予め設定した閾値とを比較するステップと、上記信号が上記閾値に達したと判断した場合に、上記制御部が上記カテーテルを介して上記液体貯留部内の液体を外部に放出するように上記ポンプを駆動させるステップと、を含む、方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温度プローブが生体器官の内部温度を測定するとともに、予め設定している温度に達したことを制御部が感知した場合、制御部がポンプを駆動し、液体貯留部からの液体をカテーテル外部に自動的に放出することで、生体器官の内部温度を、液体を用いて所定の温度に調節することができる。これにより、例えば、アブレーション術による不整脈治療の際に、食道の内部温度に応じて自動的に食道内へ液体が送液されることで、アブレーション術中における食道の内部温度を適切に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係る生体内温度制御システムの外観図である。
図2図1に示した生体内温度制御システムの内部構造を示した概略図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る生体内温度制御システムの内部構造を示した概略図である。
図4図2の生体内温度制御システムにおける送液吸引兼用チューブのより具体的な構成を示す概略図である。
図5図2の生体内温度制御システムの送液時における液体の流れを示す概略図である。
図6図2の生体内温度制御システムの吸引時における液体の流れを示す概略図である。
図7】本発明の生体内温度制御システムの第1の制御動作を示すタイムチャートである。
図8】本発明の生体内温度制御システムの第1の制御動作における制御部の動作手順を示すフローチャートである。
図9】生体内温度制御システムにおける第2の制御動作を示すタイムチャートである。
図10】本発明の生体内温度制御システムの第2の制御動作における制御部の動作手順を示すフローチャートである。
図11】本発明の生体内温度制御システムを用いた温度測定の結果を表わした図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態を図を交えて説明するが、本発明がこれらの態様に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。なお、同一の要素には同一符号を用いるものとする。
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る生体内温度制御システム1の外観図である。生体内温度制御システム1は、例えば、高周波電流でバルーン内を加熱するバルーンアブレーションカテーテルによりアブレーション術を行う際、アブレーション対象の心臓に近接する食道の内部温度を監視するとともに、食道の内部温度を液体により冷却するために用いることができる。生体内温度制御システム1を適用可能な生体器官は特に限定されるものではなく、咽頭、喉頭、肺、食道及び胃等に適用してもよいが、特に食道内部の冷却に用いることが好ましい。
【0016】
ここで生体内温度制御システム1は、カテーテル3へ温度制御された液体の送液又は吸引を行なう生体内温度制御装置2と、生体内に液体を送液・吸引可能な孔を有する、生体内に挿入可能なカテーテル3と、温度センサを有し、カテーテル3に挿入可能な温度プローブ4と、温度プローブ4からの信号を表示可能なモニタ5と、ポンプ21と圧力センタ22に接続されて生体内温度制御装置2とカテーテル3を繋ぐ送液吸引兼用チューブ6と、廃液部7を備えている。
【0017】
図2は、図1に示した生体内温度制御装置2の内部構造を示した概略図である。
【0018】
生体内温度制御装置2は、カテーテル3への液体の送液又は吸引を行なうポンプ21、カテーテル3の内部圧力を検出する圧力センサ22、温度制御された液体を貯留する液体貯留部23、温度プローブ4から検知された信号又は圧力センサ22から検知された信号に基づいてポンプの駆動を制御する制御部24を備えている。
【0019】
生体内温度制御装置2が備えるポンプ21は、ローラ方式のチューブポンプであり、ポンプ21のローラを正回転することで、液体貯留部23からカテーテル3に対し液体を送液することができ、ポンプ21のローラを逆回転することでカテーテル3の先端部又は孔から液体を吸引する事ができる。
【0020】
ポンプ21に用いられるポンプの駆動方式は限定されるものではないが、生体内に送液又は吸引する液体の清浄性を保つことができ、液体の流量管理が容易なチューブポンプを用いることが好ましく、ローラ方式やフィンガ方式のチューブポンプがより好ましい。
【0021】
また、生体内温度制御装置2は、ポンプを複数備えていてもよい。例えば、第1の実施形態とは別の形態として、図3に2つのポンプを備えた生体内温度制御装置2を示す。この場合、生体内温度制御装置2は、送液用ポンプ211と吸引用ポンプ212を別個に備える。カテーテル3が送液用ルーメンと液体を吸引するための吸引用ルーメンを有するマルチルーメンを備えている場合、送液用ポンプ211と吸引用ポンプ212をそれぞれのルーメンに通じるポートに接続することで、液体の送液動作及び吸引動作を同時に実施することが可能である。上記の構成とすることで、生体内へ持続的に液体を送液することができ、かつ、熱交換した液体を体外に排出することができるため、効率的に生体内の温度制御を行うことができる。
【0022】
生体内温度制御装置2が備える圧力センサ22は、接触型位置変位計221と、接触型位置変位計221と接触した送液吸引兼用チューブ6の膨大部61からなる。送液吸引兼用チューブ6の膨大部61は、送液吸引兼用チューブ6の一部が袋状に成形された部分であり、チューブ内の圧力により膨張又は収縮するように設計されている。このため、膨大部61の変位量を接触型位置変位計221により信号として検出することで、送液吸引兼用チューブ6を介して送液吸引兼用チューブ6に接続されたカテーテル3の内部圧力を測定することができる。
【0023】
圧力センサ22の検出方式は限定されるものではなく、送液又は吸引動作中のカテーテル3の内圧を検出し、制御部24に信号として送ることができればどのような検出方式でもよい。例えば、第1の実施形態とは別の形態として、ダイヤフラム式のインライン圧力センサを付加する方法や、送液吸引兼用チューブ6から細管を分岐させ細管の圧力を測定する方法を用いてもよい。
【0024】
第1の実施形態の生体内温度制御システム1の液体貯留部23は、一般的に市販されている生理食塩液やブドウ糖液等の輸液バッグであり、生体内温度制御装置2内に内包できるような構造となっている。また、生体内温度制御装置2は、液体貯留部23と接触するようペルチェ素子231及び液体貯留部23内部の温度を測定する不図示の装置内温度センサが配置されており、装置内温度センサから検出された信号に基づいて、ペルチェ素子231の温度を制御することで、液体貯留部23内に貯留された液体の温度制御を行うことができる。ホットバルーンによるカテーテルアブレーション術を行う場合、液体貯留部23内部の液体の温度は、0℃~15℃に制御されていることが好ましく、0℃~10℃に制御されていることがより好ましい。
【0025】
液体貯留部23は、生理食塩液等の液体を貯留することができればどの様な形態でもよく、生体内温度制御装置2に内蔵されていても、生体内温度制御装置2の外部にあってもよい。液体貯留部23が生体内温度制御装置2に内蔵されている場合、上記に記載のとおり、液体貯留部23の液体の温度制御が行えることが好ましい。第1の実施形態とは別の形態として、ペルチェ素子231に代えて氷等の保冷剤で輸液バッグを冷却してもよく、予め冷凍した輸液バッグを解凍しながら用いてもよい。また、用いられる液体として、生理食塩液やブドウ糖液以外にも精製水や水道水を用いてもよい。
【0026】
また、クライオアブレーションに用いられる場合や、がん治療(特に咽頭がん、喉頭がん、肺がん、食道がん及び胃がん)用の高周波ハイパーサーミア(温熱)治療に用いられる場合は生体内を通常より暖める必要があるが、これに本発明の生体内温度制御システムを用いてもよい。この場合、発熱抵抗体を用いて、液体貯留部23に貯留する液体の温度を30~45℃に加熱してもよい。
【0027】
生体内温度制御装置2が備える制御部24は、ポンプ21を制御しており、温度プローブ4から検知された信号に基づいて、液体貯留部23の液体を、カテーテル3を介して外部に放出するようポンプ21を駆動する。具体的な制御動作については後述する。加えて、生体内温度制御装置2が備える制御部24は、圧力センサ22で検出された信号に基づいて、ポンプ21の駆動を制御するための回路を備えていることが好ましい。例えば、第1の実施形態に係る生体内温度制御システム1の制御部24は、送液吸引兼用チューブ6からの変位量に関する情報を圧力情報に数値変換できる仕組みを備えている。
【0028】
また、制御部24は、液体貯留部23内部の温度を測定する装置内温度センサから検出された信号に基づいて、液体貯留部23の内部温度を制御するための回路を備えていることが好ましい。
【0029】
カテーテル3は、経鼻的又は経口的なアプローチにより生体内へ挿入可能な筒状の部材であり、ルーメンを通ってカテーテル先端又は表面に開いた孔から液体を送液又は吸引することができる。カテーテル3は、具体的な構造として、生体内に挿入可能なチューブ部31と、チューブ部31の長手方向における基端側に固定された弁付きコネクタ32を有する。
【0030】
チューブ部31の素材は、経鼻的又は経口的に生体内へ挿入可能な可撓性を有する素材であればどのような素材を用いてもよく、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、シリコーン等の熱可塑性樹脂が使用できる。また、生体内への留置部位を確認するため、X線造影性ある材料が配合されているとなおよい。
【0031】
例えば、チューブ部31を鼻から経鼻的に生体内へ挿入する場合、チューブ部31の長さは、200mm~1000mm程度が好ましく、外径はφ1.7mm~6.0mm程度、内径はφ1.0mm~5.0mm程度が好ましい。
【0032】
弁付きコネクタ32は、チューブ部31の基端側に固定されており、送液吸引兼用チューブ6と接続可能であり、チューブ部31の先端側から液体を送液もしくは吸引するためのポート321と、温度プローブ4をカテーテル3へ挿入する場合に、温度プローブ4を固定するための弁322を備えている。弁322は、回転運動等により弁が開閉可能であるとなおよい。上記構成とすることで、弁322の開放時には温度プローブ4が操作可能となり、弁322の閉止時には温度プローブ4が固定可能となる。
【0033】
第1の実施形態とは別の形態として、図3に記載のように、カテーテル3の弁付きコネクタ32は第1のポート323と第2のポート324を備えてもよい。液体貯留部23と送液用ポンプ212に接続された送液用チューブ600を第1のポート323に、吸引用ポンプ212と廃液部7に接続された吸引用チューブ601を第2のポート324に接続することで、送液ラインと吸引ラインを独立することができる。これにより、冷却された液体を常に生体内へ送液することができる。
【0034】
さらに、カテーテル3は、液体を送液するための送液用ルーメンと液体を吸引するための吸引用ルーメンを有するマルチルーメンであって、第1のポート323が送液用ルーメンに通じる送液ポート、第2のポート324が吸引用ルーメンに通じる吸引ポートであってもよい。これにより、液体の送液動作及び吸引動作を同時に実施することが可能である。
【0035】
温度プローブ4は、経鼻的又は経口的に生体内へ挿入されて、生体器官の内部温度を測定するために使用される部材であり、生体内に挿入されるシャフト部41と、先端側に配置された温度センサ42と、ハンドル部43からなる。
【0036】
シャフト部41の素材は、経鼻的又は経口的に生体内へ挿入可能な可撓性を有する素材であればどのような素材を用いてもよく、ポリエーテルブロックアミド、ポリウレタン、ナイロン、ポリオレフィン、ポリアミド及びポリエーテルポリアミド等の熱可塑性樹脂が使用できる。
【0037】
シャフト部41の外径としては、φ1.0mm~4.0mm程度が好ましく、カテーテル3の内腔に挿通できる径であればなおよい。また、長さとしては、300mm~1100mm程度が好ましく、カテーテル3の内腔へ挿入して使用する場合は、カテーテル3の先端側から突出する位置にシャフト部41上の温度センサ42が配置されていることが好ましい。
【0038】
シャフト部41は、ハンドル部43の操作により先端側が偏向可能な機能を備えていてもよい。これにより、特に食道に適用する場合、経鼻的又は経口的に温度プローブ4を食道内に挿入する際に、気道への迷入リスクを低減することができる。また、食道は、咽頭部から胃の噴門にかけて直線的でなく蛇行していることから、偏向操作により、目的とする食道部位に温度センサ42を配置することが可能となる。
【0039】
温度センサ42は、シャフト部41の先端側に1個以上取り付けられているが、生体器官内において、より広域の内部温度を測定可能とするため、複数個の温度センサ42を有していることが好ましい。
【0040】
温度センサ42の素材としては、熱伝導性の良好な素材であればどのような素材を用いてもよく、アブレーション部位に近接した箇所の温度を測定するために、X線造影性があるとなおよい。
【0041】
ハンドル部43は、生体内温度制御装置2と接続するためのコネクタ431を備えており、第1の実施形態に係る生体内温度制御システム1は、接続ケーブル44を介して生体内温度制御装置2と温度プローブ4は接続されている。
【0042】
モニタ5は、温度プローブ4で検知された生体内の内部温度情報を、デジタル数字、バーグラフ又はトレンドグラフで表記できる。また、モニタ5は、生体器官内の温度が予め設定した閾値を超えた場合に、表示色が変化し操作者に温度変化を視覚情報として提示できる機能を有している。例えば、温度が低温から高温に上昇するにつれて寒色から暖色にするよう設定してもよい。これにより、生体内の長手方向に配置された温度プローブ4が検出する温度を、生体内の位置に呼応して確認できるため、操作者は生体器官のどの部位が他の部位よりも温度が上がっているかを感覚的につかむことができる。また、デジタル数字での表示と並行してバーグラフで温度が示されるため、生体内の各部位で温度比較を行うことができる。さらに、生体器官が損傷を受けるリスクが高くなるほどに生体の内部温度が上昇したことを視覚的に操作者へ伝えることができる。
【0043】
また、モニタ5には液体の送液・吸引の動作情報とシステムに発生したエラー並びにアラーム等の警告情報及び運転時間、液体の送液・吸引の回数並びに送液量等の運転情報を操作者に提示する機能を有していることが好ましい。これにより、作動状況、不具合状態及び危険状態を視覚的又は聴覚的に操作者へ伝えることができる。
【0044】
また、モニタ5は、タッチパネルディスプレイ51を備え、システムの作動に係る種々のパラメータを入力でき、かつ、入力したパラメータを生体内温度制御装置2の制御部24に伝達できることが好ましい。これにより、操作者は、離れた位置から生体内温度制御装置2の運転の開始・停止及び各種パラメータの設定・変更をすることが可能となる。
【0045】
送液吸引兼用チューブ6は、液体の送液時において、液体貯留部23からポンプ21を介してカテーテル3に液体を送達し、液体の吸引時において、カテーテル3から廃液部7に液体を送達するためのチューブである。ここで廃液部7は、体内からの液体吸引後、不要になった液体を貯留するための部位である。
【0046】
図4に記載されるように、生体内温度制御システム1の有する送液吸引兼用チューブ6は、膨大部61、流路切替部62、液体貯留部23に接続するための液体供給ポート63及びカテーテル3に接続するための接続ポート64を備える。
【0047】
膨大部61は、前述したとおり、袋状に成形されたチューブであり、チューブ内の圧力により膨張・収縮するように設計されている。これにより、膨大部61の変位量を接触型位置変位計221により検出することで、送液吸引兼用チューブ6を介して送液吸引兼用チューブ6に接続されたカテーテル3の内圧を測定することができる。
【0048】
第1の実施形態における流路切替部62は、三方チェックバルブ621であり、ポンプ21の1次側に接続されている。これにより、液体を送液する場合、図5に記載されるように、ポンプ21が正回転することで、三方チェックバルブ621の流路が液体貯留部23とポンプ21を接続する向きに切り替わり、カテーテル3へ液体が流れる。また、カテーテル3から液体を吸引する場合は、図6に記載されるように、ポンプ21が逆回転することで、三方チェックバルブ621の流路がポンプ21と廃液部7を接続する向きに切り替わり、吸引された液体が廃液部7に排出される。なお、図5及び図6の点線矢印と実線矢印は、上記ポンプ21の回転方向と、液体の流れを示している。
【0049】
第1の実施形態とは別の形態として、三方チェックバルブでなく、T字に分岐した送液吸引兼用チューブと2つのピンチバルブを備えたものを流路切替部62として用いてもよい。この場合は、生体内温度制御装置2にさらにピンチバルブを備え、制御部24は、ポンプ駆動にあわせて、生体内温度制御装置2内のピンチバルブを開閉することで流路を切替るように制御することが好ましい。
【0050】
液体供給ポート63は、液体貯留部23から液体を送液吸引兼用チューブ6内に供給できればどの様な形態でもよい。第1の実施形態の液体供給ポート63は、液体貯留部23が輸液バッグであるため、輸液バッグに刺通できるニードル631であることが好ましい。
【0051】
接続ポート64は、カテーテル3と接続できればどの様な形態でもよいが、三方活栓であることが好ましい。これにより、生体内温度制御システムが機能不全になった際に、シリンジ等を接続することで、手動による液体の送液・吸引をすることが可能となる。
【0052】
以下、カテーテルアブレーション術による不整脈治療の際に、生体内温度制御システムが食道の内部温度を一定に保つための第1の制御動作を示すタイムチャートについて、図7を用いて説明する。
【0053】
ステップ1:温度情報と閾値の比較処理
左心房近傍で心臓組織を焼灼するカテーテルアブレーション術が開始されると、近接している食道の内部温度が徐々に上昇し、温度プローブ4の各温度センサ42で測定される食道の内部温度も徐々に上昇する。制御部24では冷却された液体(冷却水)の送液を開始する食道の内部温度の閾値が予め設定可能であり、温度センサ42の温度情報と上記閾値の比較処理が常に行われる。
【0054】
ステップ2:液体(冷却水)の送液動作
複数の温度センサ42の少なくとも1つの温度情報が上記閾値に達すると、制御部24からポンプ21に送液速度と送液時間の駆動指令が出力され、液体貯留部23から送液吸引兼用チューブ6を介して、液体(冷却水)がカテーテル3に送液される。食道内の温度上昇部位に液体(冷却水)が到達することで、液体(冷却水)との熱交換により食道内を冷却することができる。液体(冷却水)の送液量は、送液速度と送液時間で管理されており、予め制御部24に設定が可能である。液体(冷却水)は短時間で送液することが望ましく、具体的には1mL/min~300mL/minの送液速度での送液が好ましい。
【0055】
ステップ3:液体(冷却水)を食道内に留める動作
ステップ3の動作時間は予め制御部24に設定が可能であり、設定時間の経過後にステップ4に移行する。また別の方法として、食道の内部温度を監視し、食道の内部温度が予め設定した温度に達したタイミングでステップ4に移行する方法を用いてもよい。
【0056】
ステップ4:食道内に送液した液体の吸引動作
送液した液体が気管に流出することによる誤嚥を防止するためには、送液した液体を全量吸引できることが好ましい。また、短時間で液体を吸引すると過吸引により食道損傷を招く可能性があるため、送液速度よりも低速に設定することが好ましい。具体的には、1mL/min~100mL/minの吸引速度での吸引が好ましい。吸引時間は、予め制御部24に設定することができるが、送液量を吸引速度で除算することで全量吸引可能な吸引時間を算出してもよい。また、送液量や吸引量を吸引時間で除算することで吸引速度を算出してもよく、種々の改変が可能である。
【0057】
また、別の吸引方法として、送液吸引兼用チューブ6の圧力変化を用いてもよい。具体的には、食道内から液体を全量吸引後も吸引を継続すると、食道が扁平しカテーテル3が閉塞されることで、送液吸引兼用チューブ6内の内圧が負圧になる。そのため送液吸引兼用チューブ6内の内圧を圧力センサ22で検知し、その信号を制御部24に送信することで、液体の全量を吸引するか、又は、食道内の液体が無くなったタイミングで、制御部24がポンプ21の駆動を停止することができる。より具体的には、送液吸引兼用チューブ6内の内圧が-20kPaG~-90kPaGの範囲で吸引動作を停止することが好ましい。
【0058】
ステップ4の動作後は再びステップ1に戻り、以降ステップ1~4を繰り返すことで、適正な食道温度に保つことができる。なお、第1の制御動作は、高周波アブレーション術等による心筋の熱焼灼により食道の内部温度が上昇する場合の制御動作であるため、食道温度が閾値を越えた場合を閾値に達したと制御部24が判断するように回路を作成している。しかしながら、冷凍アブレーション術等により食道の内部温度が低下する場合は、上述の第2の制御動作において、送液する液体を加熱水に変更するともに、食道温度が閾値未満になった場合を閾値に達したと制御部24が判断するように回路を作成することで、食道の内部温度を制御することができる。
【0059】
上記第1の制御方法における制御部24の動作手順例を示すフローチャートについて図8を用いて説明する。
【0060】
この動作手順例ではまず、操作者が生体内温度制御装置2に接続されたモニタ5のタッチパネルディスプレイ51を操作することで、送液開始温度、送液量、送液速度、吸引開始温度、吸引開始時間、吸引量、吸引速度、吸引停止時間及び吸引停止圧力のうち、必要ないずれかの数値が、制御部24へ予め設定される。
【0061】
次いで、操作者が自動運転の開始を行うと、制御部24は、生体内温度制御装置2に接続された温度プローブ4における温度センサ42から信号(例えば、熱起電力)を検出し、温度情報(生体内温度)に変換する。
【0062】
続いて、制御部24は、温度センサ42から取得した温度情報の少なくとも1つが予め設定した閾値である送液開始温度に達したか否か、すなわち、液体(冷却水)の送液の開始条件を満たすか否かを数値を比較して判断する。制御部24が生体内温度の少なくとも1つの温度が、予め設定した閾値である送液開始温度に達したと判断した場合、制御部24は、ポンプ21を駆動(正回転)し、液体貯留部23から液体(冷却水)の送液を開始する。液体(冷却水)の送液開始後は、ポンプ21の駆動にあわせてタイマーのカウントを開始し(タイマー1)、予め設定した送液量及び送液速度から算出された送液時間に達するまで、液体(冷却水)の送液を継続する。算出された送液時間に到達後、制御部24は、ポンプ21の駆動を停止する。
【0063】
一方で、いずれの生体内温度も送液開始温度に達したと判断されない場合、温度制御のための送液を必要としない正常温度範囲内であるため、制御部24は、引き続き生体内温度を取得し、液体(冷却水)の送液の開始条件を満たすか否かを判断する。
【0064】
液体(冷却水)の送液完了後、制御部24は、タイマーのカウントを開始し(タイマー2)、タイマー2のカウントが予め設定した閾値である吸引開始時間に達したか否か、すなわち、吸引の第1開始条件を満たすか否かを判断する。ここで、吸引の第1開始条件を満たしたと判断された場合、制御部24は、ポンプ21を駆動(逆回転)し、生体内から液体の吸引を開始する。一方で、タイマー2のカウントが吸引開始時間に達したと判断されない場合、次に制御部24は、取得した生体内温度の少なくとも1つの温度が、予め設定した閾値である吸引開始温度以上に達したか否か、すなわち、吸引の第2の開始条件を満たすか否かを判断する。吸引の第2の開始条件において、生体内温度が予め設定した閾値である吸引開始温度未満であった場合、再度、タイマー2のカウントを開始し、吸引の第1開始条件を満たすか否かを判断する。一方で、生体内温度が予め設定した閾値である吸引開始温度に達したと判断された場合、制御部24は、送液の開始条件を満たすか否かを判断する。
【0065】
送液の開始条件において、生体内温度の少なくとも1つの温度が、生体内温度が予め設定した閾値である送液開始温度以上に達していた場合、生体内温度を正常温度範囲に制御するため、制御部24は、ポンプ21を駆動(正回転)し、液体貯留部23から液体の送液を開始する。一方で、生体内温度が予め設定した閾値である送液開始温度未満であった場合、制御部24は、ポンプ21を駆動(逆回転)し、生体内から液体の吸引を開始する。
【0066】
液体の送液完了後、制御部24は、タイマー2のカウントを開始し、吸引の第1開始条件及び吸引の第2の開始条件を満たすまで液体の送液の動作を繰り返すが、吸引の開始が行われずに送液が繰り返し実施された場合は、液体の過剰投与による誤嚥のリスクが高まるため、警報を鳴らし、操作者に異常を知らせることが望ましい。送液の開始条件を満たしたと判断されない場合、制御部24は、引き続き、吸引の開始条件を満たすか否か、次いで、送液の開始条件を満たすか否かを判断する。
【0067】
吸引開始後は、ポンプ21の駆動にあわせてタイマーのカウントを開始し(タイマー3)、タイマー3のカウントが予め設定した吸引停止時間に達するか否か、すなわち、吸引の第1停止条件を満たすか否かを判断する。吸引停止時間は、予め設定した吸引量及び吸引速度から算出する手段を用いてもよい。タイマー3が吸引時間に達したと判断された場合、制御部24は、ポンプ21の駆動を停止する。一方で、吸引時間に達したと判断されない場合、次に制御部24は、圧力センサ22で検出した信号に基づいてチューブ内圧を算出し、チューブ内圧が予め設定した閾値である吸引停止圧力以下か否か、すなわち、吸引の第2の停止条件を満たすか否かを判断する。チューブ内圧が予め設定した閾値である吸引停止圧力以下と判断された場合、制御部24は、ポンプ21の駆動を停止する。
【0068】
チューブ内圧が予め設定した閾値である吸引停止チューブ内圧以下に達したと判断されない場合、制御部24は、液体(冷却水)の送液の開始条件か否かを判断する。ここで、生体内温度の少なくとも1つの温度が、送液の開始条件を満たしたと判断された場合、生体内温度を正常温度範囲に制御するため、制御部24は、ポンプ21の駆動を逆回転から正回転に転換し、液体貯留部23から液体(冷却水)の送液を開始する。一方で、送液開始温度に達したと判断されない場合、制御部24は、吸引の停止条件を満たすか否か、次いで、送液の開始条件を満たすか否かを繰り返し判断する。
【0069】
液体の吸引完了後、制御部24は、再び液体(冷却水)の送液の開始条件を満たすか否かを判断し、操作者が自動運転の停止を行うまで、上述のフローに従って生体内の温度制御を行う。
【0070】
また、生体内温度制御システムが食道温度を一定に保つための別の制御方法として、第2の制御方法を示すタイムチャートについて、図9を用いて説明する。
【0071】
制御部24には予め複数の食道温度の閾値と、それに対応する液体の送液速度が設定可能であり、設定温度に応じて持続的に冷却した液体(冷却水)を送液することができる。図9には3段間で設定した場合を示しているが、段階数は操作者が任意に設定可能である。
【0072】
ステップ1:温度情報と閾値の比較処理
左心房近傍で心臓組織を焼灼するカテーテルアブレーション術が開始されると、近接している食道の温度が徐々に上昇し、温度プローブ4の各温度センサ42で測定される食道温度も徐々に上昇する。制御部24では各温度センサ42の温度情報と上記複数の閾値の比較処理が常に行われる。
【0073】
ステップ2:液体(冷却水)の送液動作
測定される温度センサ42の少なくとも1点の温度情報が第1の食道温度の閾値(第1の閾値)に達すると、制御部24からポンプ21に第1の送液速度の駆動指令が出力され、液体貯留部23から送液吸引兼用チューブ6を介して、冷却された液体(冷却水)がカテーテル3に送液される。さらに、カテーテルアブレーション術が進み食道の内部温度が上昇し、測定される食道の内部温度の少なくとも1点の温度情報が第2の食道温度の閾値(第2の閾値)に達すると、制御部24からポンプ21に第2の送液速度の駆動指令が出力される。以降、食道温度の上昇に応じて第3の設定に移行する。
【0074】
また、液体(冷却水)の送液により食道の内部温度が第Nの温度閾値より下がった場合は、ポンプ21に第N-1の送液速度の駆動指令が出力されるように制御され、第1の閾値より温度が下がった場合は、液体(冷却水)の送液が停止する。アブレーション術中は、ステップ2の制御を繰り返すことで、食道の内部温度の上昇、下降に合わせて適切な流量で液体(冷却水)を送液することができ、より効果的に食道内を冷却することができる。
【0075】
このとき、第一の送液速度<第二の送液速度<・・・<第Nの送液速度と、食道温度の上昇に応じて液体(冷却水)の送液速度が増加することが好ましい。具体的には、1~300mL/minの範囲内で送液速度を設定することが好ましい。さらに好ましくは、食道の内部温が度閾値(例えば、危険な内部温度として40℃を閾値として設定する。)を超過した場合の送液速度を高速に(具体的には、200mL/min~300mL/min)、閾値を超過する前までの送液速度を低速に(具体的には、1mL/min~50mL/min)設定することが好ましい。これにより、液体(冷却水)の過剰投与による誤嚥のリスクを低減することができる。
【0076】
ステップ3:食道内に送液した液体の吸引動作
持続的に送液した液体による誤嚥を防止するためには、送液量の積算値が設定した量を超えた場合に吸引動作をすることが好ましい。液体の吸引を始める積算送液量は、吸引開始積算送液量として、予め制御部24に設定することができる。また、第1の制御方法と同様に、短時間で液体を吸引すると過吸引により食道の損傷を招く可能性があるため、送液速度よりも低速に設定することが好ましい。
【0077】
また、別の吸引方法として、送液吸引兼用チューブ6の圧力変化を用いてもよい。具体的には、食道内から液体を全量吸引後も吸引を継続すると、食道が扁平しカテーテル3が閉塞されることで、送液吸引兼用チューブ6内の内圧が負圧になる。そのため送液吸引兼用チューブ6内の内圧を圧力センサ22で検知し、その信号を制御部24に送信することで、液体を全量吸引又は食道内の液体が無くなったタイミングで、制御部24がポンプ21の駆動を停止することができる。より具体的には、送液吸引兼用チューブ6内の内圧が-20kPaG~-90kPaGの範囲で吸引動作を停止することが好ましい。
【0078】
ステップ3の動作後は再びステップ1に戻り、以降ステップ1~3を繰り返すことで、適正な食道温度に保つことができる。なお、第2の制御方法は、高周波アブレーション術等による心筋の熱焼灼により食道の内部温度が上昇する場合の制御方法であるため、食道温度が閾値を越えた場合を閾値に達したと制御部24が判断するように回路を作成している。しかしながら、冷凍アブレーション術等により食道の内部温度が低下する場合は、上述の第2の制御方法において、送液する液体を加熱水に変更するとともに、食道温度が閾値未満になった場合を閾値に達したと制御部24が判断するように回路を作成することで、食道の内部温度を制御することができる。
【0079】
上記第2の制御方法における制御部24の動作手順を示すフローチャートについて図10を用いて説明する。
【0080】
この動作手順例ではまず、操作者が生体内温度制御装置2に接続されたモニタ5のタッチパネルディスプレイ51を操作することで、第1~Nの食道温度の閾値、第1~Nの送液速度、吸引開始積算送液量及び吸引速度のうち、必要ないずれかの数値が、制御部24へ予め設定される。ここで、第Nの送液速度は、第Nの食道温度の閾値に到達した際に、送液される速度である。
【0081】
次いで、操作者が自動運転の開始を行うと、制御部24は、生体内温度制御装置2に接続された温度プローブ4における温度センサ42から信号(例えば、熱起電力)を検出し、温度情報(生体内温度)に変換する。
【0082】
続いて、制御部24は、取得した生体内温度の少なくとも1つの温度が、予め設定した第1~第Nの閾値である食道温度に達したか否か、すなわち、液体(冷却水)の送液の開始条件を満たすか否かを判断する。具体的には、生体内温度が第N-1の閾値である食道温度に達し、かつ、第Nの閾値である食道温度に達していない場合、制御部24は、ポンプ21を駆動(正回転)し、第N-1の送液速度で送液を実施する。ここで、生体内温度が第1の閾値である食道温度に達しておらず、かつ、ポンプ21が駆動している場合、制御部24は、ポンプ21の駆動を停止する。また、生体内温度が第Nの閾値である食道温度に達した場合、制御部24は、ポンプ21の駆動を駆動し第Nの送液速度で送液を行う。
【0083】
液体の送液中、制御部24は、送液速度及び送液時間から総送液量を算出するとともに、総送液量が吸引開始積算送液量に達したか否かを判断する。総送液量が吸引開始積算送液量に達した場合、制御部24は、ポンプ21を正回転から逆回転に転換し、生体内から液体の吸引を開始する。吸引開始後、制御部24は、圧力センサ22で検出した信号に基づいてチューブの内圧を算出し、チューブ内圧が予め設定した閾値である吸引停止圧力以下となるまで、すなわち、液体を全量吸引するか、又は、食道内の液体が無くなるまで吸引を継続する。
【0084】
液体の吸引完了後、制御部24は、再び液体(冷却水)の送液の開始条件を満たすか否かを判断し、操作者が自動運転の停止を行うまで、上述のフローチャートに従って生体内の温度制御を行う。
【実施例
【0085】
以下、本発明の生体内温度制御システム1の具体的な実施例について図を交えて説明する。
【0086】
図1及び図2に示された、本発明の生体内温度制御システム1を作製した。
【0087】
ポンプ21は、ローラ方式のチューブポンプである送液・吸引を兼用するポンプであり、送液速度及び吸引速度を1mL/min~300mL/minの範囲で任意に設定可能とした。
【0088】
圧力センサ22には、接触型位置変位計221を用い、-80kPaG~150kPaGの範囲で送液吸引兼用チューブ6の内力を測定可能とした。
【0089】
液体貯留部23には、500mLの生理食塩液バッグを用い、ペルチェ素子231を用いて生理食塩液バッグを冷却することで、冷却水(生理食塩液)の温度を0℃~10℃の範囲内に保持した。
【0090】
制御部24には、上記第1の制御方法が実施可能な回路を組み込んだ。具体的には、温度センサ42から得られた温度のうち少なくとも1点の温度が予め設定した閾値に達したとき、ポンプ21を制御して設定した液量及び流量で液体を、液体貯留部23からカテーテル3を介して外部に放出する制御方法を制御部24に組み込んだ。また、設定した吸引開始時間又は吸引開始温度以下に達したとき、ポンプ21を制御して生体内から液体の吸引を開始する制御方法と、設定した吸引停止時間又は圧力センサ22から得られた圧力が予め設定した閾値である吸引停止圧力に達したとき、液体の吸引を停止する制御方法とを、制御部24に組み込んだ。
【0091】
カテーテル3のチューブ部31は、外径φ4.7mm、内径3.3mmとし、手元部に
送液吸引兼用チューブ6に接続するためのポート321と、温度プローブ4を固定するための弁322を備えた弁付きコネクタ32を配置した。
【0092】
温度プローブ4のシャフト部41は、外径2.0mmとし、シャフト部41の先端側から20mmの位置に、温度センサ42を6点配置した。
【0093】
送液吸引兼用チューブ6には、生理食塩液バッグに接続するためのびん針、流路切り替え部に三方チェックバルブ、ポンプ21に接続するチューブ部31、送液吸引兼用チューブ6の内部圧力を検出する圧力センサ22として膨大部61と接触型位置変位計221及びカテーテル3に接続するための接続部を配置した。
(冷却水の送液及び吸引による冷却効果確認実験)
カテーテル3の先端部から突出するように温度プローブ4の温度センサ42を挿入及び固定化した後、模擬食道内に留置した。その後、送液吸引兼用チューブ6を、生体内温度制御装置2とカテーテル3に接続し、6点の温度センサ42のいずれか1点の温度が38℃に達したときに15mLの冷却水が流量300mL/minで送液されるように設定した。また、吸引開始時間、吸引開始温度、吸引量、吸引速度及び吸引停止圧力の数値をそれぞれ設定し、送液後30秒間又は6点の温度センサ42のいずれか1点が36℃に達したときに冷却水を流量60mL/min吸引し、吸引開始から20秒間又は圧力センサ22が-50kPaGに達した場合、冷却水の吸引が停止するように、予め動作を設定した。
【0094】
図11は、模擬食道の内部温度を40℃となるように制御した後、生体内温度制御システム1の自動運転を開始した際に温度プローブ4が検出した模擬食道温度、ポンプ21の送液流量及び吸引流量を示したものである。温度プローブ4が体温により38℃まで温められると、温度プローブから検知された信号が閾値を越えたと制御部24が判断し、予めプログラムした動作に基づいてポンプ21の送液動作を開始して冷却水が食道内に送液される。これにより、食道の内部温度は一時的に27~33℃程度に冷やされたことが分かる。送液後、冷却水は予めプログラムした動作に基づいて吸引されるとともに、体温で温度プローブ4が温められるため、温度プローブ4の測定温度は徐々に上昇し、38℃に達すると再び冷却水が送液される。図11より、送液及び吸引動作を繰り返すことにより、食道の内部温度は常に38℃以下に冷却されることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は医療分野において、術中の体腔の内部温度変化に際し、自動的に体腔の内部温度を制御可能なシステムを提供する。
【符号の説明】
【0096】
1・・・生体内温度制御システム、2・・・生体内温度制御装置、3・・・カテーテル、
4・・・温度プローブ、5・・・モニタ、6・・・送液吸引兼用チューブ、7・・・廃液部、21・・・ポンプ、22・・・圧力センサ、23・・・液体貯留部、24・・制御部、
31・・・チューブ部、32・・・弁付きコネクタ、41・・・シャフト部、42・・・温度センサ、43・・・ハンドル部、44・・・接続ケーブル、51・・・タッチパネルディスプレイ、61・・・膨大部、62・・・流路切替部、63・・・液体供給ポート、64・・・接続ポート、211・・・送液用ポンプ、212・・・吸引用ポンプ、221・・・接触型位置変位計、231・・・ペルチェ素子、321・・・ポート、322・・・弁、323・・・第1のポート、324・・・第2のポート、431・・・コネクタ、600・・・送液用チューブ、601・・・吸引用チューブ、621・・・三方チェックバルブ、631・・・ニードル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11