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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】ポリイミド成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20250410BHJP
   B29C 45/02 20060101ALI20250410BHJP
   B29B 9/08 20060101ALI20250410BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20250410BHJP
   B29K 79/00 20060101ALN20250410BHJP
【FI】
C08J5/00 CFG
B29C45/02
B29B9/08
C08L79/08 A
B29K79:00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024173039
(22)【出願日】2024-10-02
【審査請求日】2024-10-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593022021
【氏名又は名称】山形県
(73)【特許権者】
【識別番号】520157093
【氏名又は名称】株式会社カナック
(73)【特許権者】
【識別番号】000146179
【氏名又は名称】エムテックスマツムラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大津加 慎教
(72)【発明者】
【氏名】平田 充弘
(72)【発明者】
【氏名】千葉 一生
(72)【発明者】
【氏名】金澤 直一郎
(72)【発明者】
【氏名】舩山 玄也
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-077956(JP,A)
【文献】特開2020-012103(JP,A)
【文献】特開2022-146684(JP,A)
【文献】特開2022-134208(JP,A)
【文献】国際公開第2021/132434(WO,A1)
【文献】特開平02-050806(JP,A)
【文献】特開昭62-261405(JP,A)
【文献】特開平08-039549(JP,A)
【文献】特開平05-345331(JP,A)
【文献】特開2002-144331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
B29C 45/00-45/84
H01L 21/56
C08G 73/00-73/26
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B29B 7/00-11/14
B29B 13/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドの前駆体粉末を含み、イミド化率が40%以下の成形原料(ただし、オレフィン性不飽和基を含有するイミド化合物を除く)を、トランスファーモールド法により成形することを特徴とするポリイミド成形体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリイミドの前駆体粉末を多孔質体で押圧することにより成形して、タブレット状の成形原料を得る工程をさらに備える請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリイミドの前駆体粉末は、硬化剤、充填剤、難燃剤、希釈剤、吸湿剤、離型剤、カップリング剤、着色剤および炭素成分からなる群から選択される少なくとも一種とともに押圧される請求項2記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体パッケージに対しては、耐湿性、耐熱性、寸法安定性、および低誘電率等の要求が高まってきている、現行のエポキシ樹脂封止においては、無機充填剤の増量、樹脂組成の変更といった手段で対応しているものの、より高い要求には対応が困難になりつつある。
【0003】
耐熱性に優れる樹脂としてポリイミド樹脂が挙げられるが、ポリイミド樹脂は、高温域でも流動性が得られない。半導体パッケージングにおいては、ポリイミドフィルムを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、比較的大きな形状のポリイミド成形体を製造するには、まずポリアミック酸溶液からフィルム状の製品を成形し、次いで粉末状に粉砕した後、高温で焼結してブロック状の成形体を作製する。こうして得られたブロック状の成形体を、所望の形状へと切削加工するのという方法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2022-500845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のポリイミド成形体の製造方法は、労力的・エネルギー的観点から見て著しく非効率的である。このため、容易にポリイミド樹脂の成形加工を行って、ポリイミド成形体を製造する方法が求められている。
【0006】
そこで本発明は、容易にポリイミド樹脂の成形加工を行って、ポリイミド成形体が得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、イミド化率が所定値以下のポリイミド前駆体の粉末を含む成形原料を用いることで、高温域でも流動性を確保することができ、ポリイミド成形体を容易に製造可能となることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリイミドの前駆体粉末を含み、イミド化率が40%以下の成形原料を、トランスファーモールド法により成形することを特徴とするポリイミド成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、容易にポリイミド樹脂の成形加工を行って、ポリイミド成形体が得られる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ポリアミック酸粉末のタブレット化を説明する図であり、図1(a)は加圧前の状態を示し、図1(b)は加圧後の状態を示す。
図2】トランスファーモールド法による成形フローを説明する図である。
図3】トランスファーモールド法による成形フローを説明する図である。
図4】トランスファーモールド法による成形フローを説明する図である。
図5】トランスファーモールド法による成形フローを説明する図である。
図6】トランスファーモールド法による成形フローを説明する図である。
図7】スパイラルフロー試験用上金型を示す図であり、図7(a)は上面を示し、図7(b)は図7(a)におけるY-Y断面を示し、図7(c)は図7(a)におけるZ-Z断面を示す。
図8】ポリアミック酸のイミド化率とスパイラルフロー試験による樹脂重量との関係を示すグラフである。
図9】トランスファー成形試験用上金型を示す図であり、図9(a)は上面を示し、図9(b)は図9(a)におけるY-Y断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のポリイミド成形体の製造方法について詳細に説明する。
本発明のポリイミド成形体の製造方法においては、所定のポリイミド前駆体の粉末を含有する成形材料を用いて、トランスファーモールド法により成形が行われる。ポリイミド前駆体は、イミド化率が40%以下に規定される。イミド化率が40%以下であるので、高温域においても良好な流動性を示し、成形体を容易に得ることが可能となった。ポリイミド前駆体のイミド化率は、30%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。
【0012】
ポリイミド前駆体としては、例えば、ポリアミック酸が挙げられる。ポリアミック酸は、例えば、下記化学式に示されるような、ジアミンと酸無水物との重縮合体である。
【0013】
【化1】
【0014】
ポリイミド前駆体の粉末は、ポリアミック酸を非プロトン性極性溶媒に希釈したもの(以下「ポリアミック酸ワニス」ともいう。)を、過剰量の貧溶媒中に滴下し、マイクロメートルオーダーのサイズを持つポリアミック酸の球状固体を析出させることにより、調製することができる。
このような微細な球状形状のポリアミック酸を製造する方法には、公知の滴下法、または液体の微粒化技術である超音波霧化分離や二流体式(液体混合式)の霧化分離を用いることができる。これらの微粒化技術を用いたポリアミック酸の製造方法について、以下に説明する。
【0015】
ポリアミック酸ワニスとしては、例えば、PAA-1((株)T&K TOKA製)など、ポリアミック酸をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)で希釈した市販品をそのまま用いてもよい。或いは、必要に応じて、市販のポリアミック酸ワニスをさらに少量のNMP、またはNMP以外の非プロトン性極性溶媒、例えば、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)およびN,N’-ジメチルアセトアミド(DMAC)などで希釈して用いることもできる。
【0016】
次いで、ポリアミック酸ワニスに対して、水、アルコール、ケトン、エーテル、芳香族系溶剤などの貧溶媒を混合する。
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノールおよびイソプロパノール(IPA)などが挙げられる。ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)およびメチルイソブチルケトンなどが挙げられる。エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサンおよびブチルセルソルブなどが挙げられる。芳香族系溶剤としては、例えば、ベンゼンおよびトルエンなどが挙げられる。貧溶媒の添加量は、ポリアミック酸が析出して霧化が困難にならない範囲である。例えば、NMPで希釈したポリアミック酸ワニスにIPAを添加する場合であれば、ポリアミック酸ワニスに対して0.5~2重量倍とする。
【0017】
ポリアミック酸ワニスに貧溶媒を混合した後、霧化分離を行う。超音波霧化分離を用いる場合は、超音波振動子による先端振幅による霧化を行う。二流体式の霧化分離を用いる場合は、0.03~0.15Paのスプレー圧で気液二流体による噴霧導入を行う。こうした霧化分離を行うことによって、マイクロメートルサイズの液滴が形成される。
【0018】
通常、貧溶媒を混合したポリアミック酸ワニスは、霧化処理と同時に貧溶媒中に投入される。ここで用いる貧溶媒は、前記したものと同様である。霧化分離により、液滴が形成されたポリアミック酸ワニスを貧溶媒中に投入すると、ポリアミック酸ワニス中の良溶媒が貧溶媒中に拡散し、ポリアミック酸の繊維状球形粒子が形成される。貧溶媒が非流動相になると、比重の大きいポリアミック酸粒子が凝集することなく、自重で沈降する。
【0019】
貧溶媒中で形成された固形ポリアミック酸粒子を公知の方法でろ過し、乾燥させることで、マイクロメートルオーダーの粒子サイズを有するポリアミック酸の球状固体を得ることができる。
【0020】
上述したとおり、本発明において用いられるポリアミック酸のイミド化率は、40%以下である。イミド化率は、ポリイミドとその前駆体の両方について、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)によりIRスペクトルを測定し、そのピーク強度の変化から求めることができる。例えば、芳香族ポリイミドでは、芳香環由来のピークは、加熱の前後で変化しないため、イミド基由来のピーク(1775cm-1)と芳香環由来のピーク(1519cm-1)とのピーク強度比から求められる。
【0021】
イミド化は、ポリアミック酸の加熱により進行するため、加熱温度を調節することによって、イミド化率を制御することができる。イミド化の温度は、通常100~400℃であり、140~350℃が好ましい。イミド化反応により生成する水を反応系外に除きつつ、所定温度で加熱を行う。この加熱は、水が効率良く除去できる程度に0.7~0.01気圧の減圧下で行なわれてもよい。
【0022】
ポリアミック酸の球状固体の粒子サイズは、二流体霧化スプレーノズル装置のスプレー圧やノズル径を変更することにより、調節することができる。また、ポリアミック酸ワニスを少量の貧溶媒で希釈後、パスツールピペットで滴下した場合、約3000μmの粒子サイズを有するポリアミック酸の球状固体が得られる。ポリアミック酸の球状固体は、50%径D50が10~3000μmである。
【0023】
成形材料としてのポリアミック酸粉末は、そのまま粉末の状態で成形原料として用いてトランスファーモールド法によりポリイミド成形体を製造してもよいが、タブレット状に成形したポリアミック酸タブレットとして用いた場合には、ポリイミド成形体の量産化が図れる点で有利となる。尚、粉末とは、粉状、粒状、及び顆粒状等のものを含むこととしてもよい。タブレット状とは、円柱状、四角柱状、円盤状、不定形状等の固形物を指すこととしてもよい。
【0024】
ポリアミック酸タブレットは、タブレット成形金型を用いてポリアミック酸粉末を押圧してタブレット状に成形することにより得られる。図1を参照して、ポリアミック酸粉末のタブレット化について説明する。
【0025】
タブレット成形金型10は、図1(a)に示すように、第1の壁側ダイス12、第2の壁側ダイス13、第3の壁側ダイス14、第1のエア抜きダイス15、加圧ダイス16、および第2のエア抜きダイス17から構成される。ポリアミック酸粉末20と接触する第1のエア抜きダイス15の上部15a、および第2のエア抜きダイス17の下部17aは、多孔質部品からなる。具体的には、多孔質部品はポーラス超硬である。多孔質部品を使用することで、タブレット加圧時におけるエアーの抜けを改善することが可能となる。具体的には、タブレット内部のボイドが改善される。
【0026】
プレス装置を用いて、図1(b)に示すように加圧ダイス16を加圧する。例えば、プレス荷重5~15kNで1~10秒程度で加圧を行うことによって、ポリアミック酸タブレット20aが得られる。ポリアミック酸タブレット20aは、例えば直径10~20mm、高さ5~30mm程度とすることができる。ポリアミック酸タブレット20aの寸法は、ダイス径及びポリアミック酸粉末の量等を変更することにより適宜調整することができる。
【0027】
ポリアミック酸粉末をタブレット化する際には、硬化剤、充填剤、難燃剤、希釈剤、吸湿剤、離型剤、カップリング剤、着色剤および炭素成分からなる群から選択される少なくとも一種の添加剤を配合してもよい。例えば、充填剤としてのシリカ粉末を10~90体積%程度は配合した場合には、最終製品であるポリイミド成形体の収縮を抑制して、割れの発生を低減することができる。シリカ粉末としては、例えば溶融球状シリカ等が挙げられる。シリカ末の粒径は5~30μmの範囲内で適宜選択することができる。
【0028】
図2~6を参照して、ポリアミック酸タブレット20aを用いたトランスファーモールド法による成形方法について説明する。
まず、図2に示すように、上金型30と下金型32とを離間して配置する。上金型30には、溶融したポリアミック酸が充填される所定形状の空間30aが設けられている。下金型32においては、下降したトランスファー34の上にポリアミック酸タブレット20aが配置される。上金型30および下金型32は、180~280℃の範囲で昇温可能である。
【0029】
上金型30においては、特開2022-129893号公報に記載されているように、ラミネートフィルムとポーラス超硬とを組み合わせて使用してもよい。ポーラス超硬を用いることによって、トランスファー時の圧縮気体および成形時アウトガスの通気性が確保される。
【0030】
下金型32が上昇することで、図3に示すように、上金型30の頂面が下金型32の底面に接触して、両金型がクランプする。クランプ力は、170~210kNの範囲で適宜設定することができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0031】
上下金型のクランプ後、5~10秒程度経過すると、図4に示すようにトランスファー34が上昇する。トランスファー34の上昇速度は、0.5~3.0mm/secの範囲で適宜設定することができるが、この範囲に限定されるものではない。ポリアミック酸タブレット20aは昇温して、溶融したポリアミック酸20bが上金型30の空間30a内に流れ始める。
【0032】
続いて、図5に示すように、トランスファー34をさらに上昇させる。これによって、溶融したポリアミック酸20bが、上金型30における空間30a内の全域に充填される。充填後、トランスファー34をさらに上昇させて、空間30a内のポリアミック酸20bに圧力を加える。トランスファー推力は、1.806~3.284kNの範囲で適宜選択することができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0033】
40~3600secの硬化時間が経過すると、空間30a内のポリアミック酸が縮合反応によりイミド化する。その後、図6に示すように下金型32を下降させて、上下金型30、32を開放する。下金型32の頂面には、硬化したポリイミド成形体24が配置されることとなる。
【0034】
ポリイミド成形体24は、アフターベーク処理を施すことによって、イミド化率を高めることができる。アフターベーク処理とは、トランスファーモールド法によるポリイミド成形体24を成形する成形工程の後に行われる工程(アフターベーク工程)である。アフターベーク工程では、成形工程における加熱温度以上の温度(再加熱温度)でポリイミド成形体24を再加熱する。
【0035】
アフターベーク工程では、ポリイミド成形体24を、別の再加熱炉(ベーク炉)に入れ、その再加熱炉によってポリイミド成形体24を再加熱する。これにより、100%のイミド化率を達成することも可能である。アフターベーク工程では、ベーク炉内等で、200~350℃で1~8時間、例えば280℃で2時間加熱してもよいが、この範囲に限定されるものではない。
【0036】
本発明の方法において用いられる成形原料は、高温域における流動性に優れることから、ポリイミド成形体をトランスファーモールド法により容易に製造することが可能となった。優れた流動性は、イミド化率が40%以下であることに起因するものである。
【実施例
【0037】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきではない。
【0038】
ポリイミド前駆体の粉末としてイミド化率が所定値のポリアミック酸粉末を調製し、これをタブレット化したものを成形原料として用いて、トランスファーモールド法によりポリイミド成形体を製造する。
【0039】
<ポリアミック酸粉末の調製>
ポリアミック酸ワニス(商品名PAA-1、(株)T&KTOKA製)を原料として用いて、特開2022-134208号公報の実施例を基に粉末化を行った。
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)とイソプロパノール(IPA)との1:1(質量比)混合溶液を準備した。PAA-1ワニスと混合溶液とを1:2(質量比)で混合して、ポリアミック酸ワニス希釈液を調製した。
【0040】
得られたポリアミック酸ワニス希釈液を霧化し、これをIPA浴に噴霧して粉末を沈殿させた。具体的には、二流体霧化スプレーノズル装置(製品名SUJ22;スプレーイングジャパン(株)製)を用いて、液圧0.05MPa、スプレー圧0.05MPaで、ポリアミック酸ワニス希釈液750gを霧化した。IPA浴には約1300mLのIPAを収容し、ノズル-液間距離250mmで噴霧した。粉末の濾過とIPA洗浄とを繰り返して減圧乾燥して、ポリアミック酸(PAA(1))粉末を調製した。
【0041】
ポリアミック酸(PAA(1))のイミド化率は、0%であった。イミド化率は、日本分光(株)社製の赤外分光分析装置FT/IR-4200)により求めた。
また、マイクロトラック・ベル(株)社製の粒度分布測定装置MT3300EXIIによりPAA(1)の粉末の粒度分布を測定した。PAA(1)の粉末の50%径D50は、63~94μmであった。
【0042】
上述のPAA(1)を加熱処理して、所定のイミド化率(21~92%)のポリアミック酸の粉末を調製した。具体的には、約20gのPAA(1)を、アルミ製角容器(15×25cm)に敷き詰めて、加熱装置内で所定時間、所定温度で加熱することにより、下記のPAA(2)~PAA(8)を得た。ここで用いた加熱装置は、ヤマト科学(株)製 定温乾燥機DY300である。
【0043】
80℃で30分間の加熱処理を行って、イミド化率21%のポリアミック酸(PAA(2))を得た。
【0044】
80℃で60分間、10℃で30分間、さらに120℃で30分間の加熱処理を行って、イミド化率27%のポリアミック酸(PAA(3))を得た。
【0045】
150℃で15分間の加熱処理を行って、イミド化率49%のポリアミック酸(PAA(4))を得た。
【0046】
130℃で60分間の加熱処理を行って、イミド化率42%のポリアミック酸(PAA(5))を得た。
【0047】
130℃で60分間、140℃15分間、さらに150℃で15分間の加熱処理を行って、イミド化率54%のポリアミック酸(PAA(6))を得た。
【0048】
150℃で180分間の加熱処理を行って、イミド化率64%のポリアミック酸(PAA(7))を得た。
【0049】
180℃で15分間の加熱処理を行って、イミド化率92%のポリアミック酸(PAA(8))を得た。
【0050】
<ポリアミック酸粉末のタブレット化>
図1を参照して説明したように、各ポリアミック酸粉末をタブレット成形金型内に収容し、プレス装置(カナック社保有)を用いてタブレット状に成形した。図1(b)に示したように加圧ダイス16をプレス荷重7.5kNで10秒加圧して、直径13.8mm、高さ9mmのポリアミック酸タブレット20aを作製した。
【0051】
<スパイラルフロー試験>
作製されたポリアミック酸タブレットを成形原料として用い、エムテックスマツムラ社所有のATOM-F1プレス機を使用して、スパイラルフロー試験を行った。図7には、スパイラルフロー試験用上金型を示す。図7(a)に示すように、スパイラルフロー試験用上金型40は、渦巻状の流路42を外側に向けて樹脂が流れていく金型である。流路42の寸法は、図7(c)に示すように、幅1.5mm、深さ0.75mmである。破線で囲まれた領域A内の充填部分を抽出し、成形体の重量を測定して流動性を評価する。充填部分の重量が多いほど、流動性に優れることを意味する。
【0052】
クランプ力170kN、圧力10.8MPa、硬化時間1800sとした。試験条件および樹脂流動重量を、下記表に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
イミド化率42%以下であれば、近似値で安定であり、充填性に問題ないことが確認された。イミド化率49%、54%の場合には、流動するものの充填性に問題があった。また、イミド化率64%以上の場合には、ほぼ流動性がない。図8には、イミド化率と樹脂重量との関係を示す。
【0055】
図8に示されるように、イミド化率42~49%の間を境にして、流動性が穏やかに悪化している。流動性は、イミド化率54~64%の間を境に急激に悪化して、ほぼ流動しない。こうした結果から、トランスファーモールド法での成形にはイミド化率40%以下が適切であると判断し、本発明で用いるポリイミド前駆体のイミド化率を40%以下に規定した。
【0056】
<トランスファー成形試験>
ポリアミック酸(PAA(1))のタブレットを成形原料として用い、エムテックスマツムラ社所有の半導体モールド金型を使用して、下記表に示す条件で試験を行った。図9は、トランスファー成形試験用上金型を示す。図9に示すように、トランスファー成形試験用上金型50は、製品部52とカル部54とを有している。
【0057】
【表2】
【0058】
得られた成形体(試験番号1~13)について、外観を目視により観察して評価した。成形体の角部まで完全に充填されている場合、外観評価は“〇”とし、角部が若干不完全な場合には、外観評価は“△”として、結果を上記表にまとめた。いずれの場合でも、成形体を得ることは可能であった。
【0059】
以下においては、充填剤を含有するポリアミック酸タブレットを用いてトランスファー成形試験を行った。
所定量の充填剤をポリアミック酸(PAA(1))の粉末に配合した以外は、上述と同様の手法によりポリアミック酸タブレットを作製した。充填剤としてはシリカ粉末を用い、配合量は、ポリアミック酸粉末に対して20vol%または80vol%とした。
【0060】
充填剤(シリカ)が含有されたポリアミック酸タブレットを用いて、上述と同様の金型によりトランスファー成形試験を行った。成形条件を下記表に示す。いずれにおいても、金型設定温度は280℃とした。
得られた成形体について、外観を目視により観察し、上述と同様に評価した。その結果を、以下にまとめた。
【0061】
【表3】
【0062】
シリカ配合量80vol%(試験番号14,15)およびシリカ配合量20%以下(試験番号16)で、充填が確認された。
【0063】
本発明により、容易にポリイミド樹脂の成形加工を行って、ポリイミド成形体を製造することが可能となった。
【符号の説明】
【0064】
10…タブレット成形用金型 12…第1の壁側ダイス 13…第2の壁側ダイス
14…第3の壁側ダイス3 15…第1のエア抜きダイス1
15a…第1の多孔質ダイス 16…加圧ダイス 17…第2のエア抜きダイス
17a…第2の多孔質ダイス2 20…ポリアミック酸粉末
20a…ポリアミック酸タブレット 20b…流動したポリアミック酸
24…ポリイミド成形体 30…上金型 30a…空間 32…下金型
34…トランスファー 40…スパイラルフロー試験用上金型 42…流路
50…トランスファー成形用上金型 52…製品部 54…カル
【要約】
【課題】容易にポリイミド樹脂の成形加工を行って、ポリイミド成形体が得られる製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリイミド成形体の製造方法は、ポリイミドの前駆体粉末を含み、イミド化率が40%以下の成形原料を、トランスファーモールド法により成形することを特徴とする。
【選択図】なし
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図9