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特許7663913スパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こし方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】スパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こし方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/00 20200101AFI20250410BHJP
   B63B 77/10 20200101ALI20250410BHJP
   B63B 22/20 20060101ALI20250410BHJP
   B63B 35/34 20060101ALI20250410BHJP
   F03D 13/25 20160101ALI20250410BHJP
【FI】
B63B35/00 T
B63B77/10
B63B22/20
B63B35/34 A
F03D13/25
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023511169
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014408
(87)【国際公開番号】W WO2022210358
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2021054613
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 智昭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 郁
(72)【発明者】
【氏名】田中 康二
(72)【発明者】
【氏名】新川 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】酒井 賢太
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-223113(JP,A)
【文献】特許第5732150(JP,B1)
【文献】特表2011-530676(JP,A)
【文献】国際公開第03/004869(WO,A1)
【文献】宇都宮智昭,佐藤郁,白石崇,五島市椛島における浮体式洋上風力発電について,システム/制御/情報,日本,システム制御情報学会,2016年09月15日,第60巻第9号,pp.402-406,DOI: 10.11509/isciesci.60.9_402,ISSN:2424-1806(online),0916-1600(print)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/00,77/10,22/20,
F03D 13/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上において、横向きで浮かんだスパー型洋上風力発電設備用浮体をバラスト水の注水によって立て起こしするに当たって、
前記スパー型洋上風力発電設備用浮体の外面に対して、着脱自在に取り付けたウエイトからなる重心偏心化手段によって重心位置を偏心させた状態とする第1手順と、
バラスト水の注水を行い、前記スパー型洋上風力発電設備用浮体を直立に起立させる第2手順とからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こし方法。
【請求項2】
海上において、横向きで浮かんだスパー型洋上風力発電設備用浮体をバラスト水の注水によって立て起こしするに当たって、
前記スパー型洋上風力発電設備用浮体の外面に対して、着脱自在に取り付けたウエイトからなる重心偏心化手段によって重心位置を偏心させた状態とする第1手順と、
バラスト水の注水を行い、前記スパー型洋上風力発電設備用浮体が立て起こし動作を開始した後、所定量でバラスト水の注水を停止することによって前記スパー型洋上風力発電設備用浮体を直立に起立する以前の斜め状態で停止させる第2手順と、
更にバラスト水を徐々に注水することにより前記スパー型洋上風力発電設備用浮体を直立に起立させる第3手順とからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こし方法。
【請求項3】
前記ウエイトは、立て起こしした際に、海面上の位置に取り付けてある請求項1,2いずれかに記載のスパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こし方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的水深の深い海上に設置されるスパー型洋上風力発電設備浮体の立て起こし方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1では、浮体と、係留索と、タワーと、タワーの頂部に設備されるナセル及び複数のブレードとからなる洋上風力発電設備であって、前記浮体は、コンクリート製のプレキャスト筒状体を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体をPC鋼材により緊結し一体化を図った下側コンクリート製浮体構造部と、この下側コンクリート浮体構造部の上側に連設された上側鋼製浮体構造部とからなるスパー型の浮体構造とした洋上風力発電設備が提案されている。なお、スパー型とは、棒状の釣り浮きのように細長い円筒形状の浮体構造を言う。
【0003】
前記スパー型洋上風力発電設備を海上に設置する場合、波の穏やかな湾内で施工を行うのが望ましいが、浮体の吃水(水面下の部分)が概ね70m以上と深いのに対して、湾内の水深は一般的にこれよりも浅いため、湾内での施工は困難であった。このため、前記スパー型洋上風力発電設備の設置に当たっては、下記特許文献2に示されるように、製作ヤードに隣接した海上で、浮体を横向きに浮かべて曳航船により設置場所まで運搬するか、浮体を台船に搭載して曳航して設置場所まで運搬するかした後、浮体の立て起こしに当たっては、バラスト水を注水するとともに、浮体の底部に結んだウインチからのワイヤーを徐々に繰り出すことによりゆっくりと浮体を直立状態に立て起こしするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5274329号公報
【文献】特開2012-201219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウインチからの繰出したワイヤーで補助しながら浮体の立て起こしを行うのは、バラスト水を注水していくとある時点で急激に浮体が直立に起立し、その浮体の慣性力によって直立状態になった際に揺動(振動)を発生させ、それによって浮体或いはその付帯設備に損傷が発生するおそれがあるからである。従って、洋上における浮体の立て起こし作業は細心の注意と慎重さを要する危険作業となっていた。
【0006】
そこで本発明の主たる課題は、洋上において、バラスト水の注水によるスパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こしを安全かつ効率的に行う方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、海上において、横向きで浮かんだスパー型洋上風力発電設備用浮体をバラスト水の注水によって立て起こしするに当たって、
前記スパー型洋上風力発電設備用浮体の外面に対して、着脱自在に取り付けたウエイトからなる重心偏心化手段によって重心位置を偏心させた状態とする第1手順と、
バラスト水の注水を行い、前記スパー型洋上風力発電設備用浮体を直立に起立させる第2手順とからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こし方法が提供される。
【0008】
上記請求項1記載の発明は、本発明に係る立て起こしの第1発明方法である。具体的には、浮体の立て起こしに当たって、事前にスパー型洋上風力発電設備用浮体の外面に対して、着脱自在に取り付けたウエイトからなる重心偏心化手段によって重心位置を偏心させた状態とする(第1手順)。重心位置を偏心させておくと、後述の〔実施例〕に示されるように、バラスト水の注水によって横向きで浮かんだ状態から立上り動作に移行した際に、この立上り動作が緩慢になるとともに、直立状態に近くなってからの動揺を小さく押さえられるようになる。ここで、「重心位置の偏心」とは、浮体の長手方向中心軸に沿った方向のみの偏心を意味するものではなく、浮体の長手方向中心軸に直交する面方向への偏心を含む重心位置の移動を意味するものである。
【0009】
従って、本発明によれば、洋上において、バラスト水の注水によるスパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こしを安全かつ効率的に行うことが可能になる。
【0010】
請求項2に係る本発明として、海上において、横向きで浮かんだスパー型洋上風力発電設備用浮体をバラスト水の注水によって立て起こしするに当たって、
前記スパー型洋上風力発電設備用浮体の外面に対して、着脱自在に取り付けたウエイトからなる重心偏心化手段によって重心位置を偏心させた状態とする第1手順と、
バラスト水の注水を行い、前記スパー型洋上風力発電設備用浮体が立て起こし動作を開始した後、所定量でバラスト水の注水を停止することによって前記スパー型洋上風力発電設備用浮体を直立に起立する以前の斜め状態で停止させる第2手順と、
更にバラスト水を徐々に注水することにより前記スパー型洋上風力発電設備用浮体を直立に起立させる第3手順とからなることを特徴とするスパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こし方法が提供される。
【0011】
上記請求項2記載の発明は、本発明に係る立て起こしの第2発明方法である。具体的には、浮体の立て起こしに当たって、事前にスパー型洋上風力発電設備用浮体の外面に対して、着脱自在に取り付けたウエイトからなる重心偏心化手段によって重心位置を偏心させた状態とする(第1手順)。重心位置を偏心させておくと、第2手順時に、バラスト水の注水によって横向きで浮かんだ状態から起立する動作に移行した際に、この立上り動作を緩慢化できるようになる。
【0012】
次いで、バラスト水の注水を行い、前記スパー型洋上風力発電設備用浮体が立て起こし動作を開始した後、所定量でバラスト水の注水を停止することによって前記スパー型洋上風力発電設備用浮体を直立に起立する以前の斜め状態で停止させるようにする(第2手順)。第2手順では、浮体の重心位置を偏心させることにより立上り動作を緩慢化できたことにより、バラスト水を所定の注水量で停止することで、浮体を直立に起立する以前の斜め状態で停止させることが容易に可能になる。
【0013】
最後に、更にバラスト水を徐々に注水することにより前記スパー型洋上風力発電設備用浮体を直立に起立させる(第3手順)。浮体が斜めに停止した状態から直立させる場合は、浮体に慣性力は僅かしか作用しないため直立直後の動揺をほぼ無くすことが可能になる。
【0014】
従って、本発明によれば、洋上において、バラスト水の注水によるスパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こしを安全かつ効率的に行うことが可能になる。
【0015】
請求項に係る本発明として、前記ウエイトは、立て起こしした際に、海面上の位置に取り付けてある請求項1,2いずれかに記載のスパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こし方法が提供される。
【0016】
上記請求項記載の発明は、前記ウエイトは、立て起こしした際に、海面上の位置に取り付けるようにしたものである。浮体を立て起こした後、不要になったウエイトの撤去が容易に行えるようになる。
【発明の効果】
【0017】
以上詳説のとおり本発明によれば、洋上において、バラスト水の注水によるスパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こしを安全かつ効率的に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】スパー型浮体式洋上風力発電設備1の全体側面図である。
図2】浮体4の縦断面図である。
図3】プレキャスト筒状体15を示す、(A)は縦断面図、(B)は平面図(B-B線矢視図)、(C)は底面図(C-C線矢視図)である。
図4】プレキャスト筒状体15同士の緊結要領図(A)(B)である。
図5】下側コンクリート製浮体構造部4Aと上側鋼製浮体構造部4Bとの境界部を示す縦断面図である。
図6】第1形態例に係る浮体4の立て起こし手順(その1)である。
図7】第1形態例に係る浮体4の立て起こし手順(その2)である。
図8】第1形態例に係る浮体4の立て起こし手順(その3)である。
図9】第1形態例に係る浮体4の立て起こし手順(その4)である。
図10】立て起こし後の洋上風力発電設備1の施工手順(その1)である。
図11】立て起こし後の洋上風力発電設備1の施工手順(その2)である。
図12】第2形態例に係る浮体4の立て起こし手順(その1)である。
図13】第2形態例に係る浮体4の立て起こし手順(その2)である。
図14】第2形態例に係る浮体4の立て起こし手順(その3)である。
図15】第2形態例に係る浮体4の立て起こし手順(その4)である。
図16】浮体模型40の側面図である。
図17】実験値と解析結果の比較を示すグラフである。
図18】浮体重心位置の偏心による応答(立て起こし動作)への影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
〔スパー型浮体式洋上風力発電設備1〕
本発明の係る「スパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こし方法」を説明する前に、スパー型浮体式の洋上風力発電設備1の構造例について、図1図5に基づいて詳述する。
【0020】
前記洋上風力発電設備1は、図1に示されるように、筒状形状の浮体4と、係留索5と、タワー6と、タワー6の頂部に設備されるナセル8及び複数のブレード9,9…からなる風車7とから構成されるものである。
【0021】
前記浮体4は、図2に示されるように、コンクリート製のプレキャスト筒状体15、15…を高さ方向に複数段積み上げ、各プレキャスト筒状体15、15…をPC鋼材19により緊結し一体化を図った下側コンクリート製浮体構造部4Aと、この下側コンクリート浮体構造部4Aの上側に連設された上側鋼製浮体構造部4Bとからなる。
【0022】
前記浮体4の中空部内には、水、砂利、細骨材又は粗骨材、金属粒などのバラスト材が投入又は排出可能とされ、浮力(喫水)が調整可能とされる。バラスト材の投入/排出は、本出願人が先に、特開2012-201217号公報において提案した流体輸送方法を採用することによって可能である。
【0023】
前記下側コンクリート浮体構造部4Aを構成している前記プレキャスト筒状体15は、図3に示されるように、軸方向に同一断面とされる円形筒状のプレキャスト部材であり、それぞれが同一の型枠を用いて製作されるか、遠心成形により製造された中空プレキャスト部材が用いられる。
【0024】
壁面内には鉄筋20の他、周方向に適宜の間隔でPC鋼棒19を挿通するためのシース21、21…が埋設されている。このシース21、21…の下端部にはPC鋼棒19同士を連結するためのカップラーを挿入可能とするためにシース拡径部21aが形成されているとともに、上部には定着用アンカープレートを嵌設するための箱抜き部22が形成されている。また、上面には吊り金具23が複数設けられている。
【0025】
プレキャスト筒状体15同士の緊結は、図4(A)に示されるように、下段側プレキャスト筒状体15から上方に延長されたPC鋼棒19、19…をシース21、21…に挿通させながらプレキャスト筒状体15,15を積み重ねたならば、アンカープレート24を箱抜き部22に嵌設し、ナット部材25によりPC鋼棒19に張力を導入し一体化を図る。また、グラウト注入孔27からグラウト材をシース21内に注入する(図4(B)参照)。なお、前記アンカープレート24に形成された孔24aはグラウト注入確認孔であり、該確認孔からグラウト材が吐出されたことをもってグラウト材の充填を終了する。
【0026】
次に、図4(B)に示されるように、PC鋼棒19の突出部に対してカップラー26を螺合し、上段側のPC鋼棒19、19…を連結したならば、上段となるプレキャスト筒状体15のシース21、21…に前記PC鋼棒19、19…を挿通させながら積み重ね、前記要領によりPC鋼棒19の定着を図る手順を順次繰り返すことにより高さ方向に積み上げられる。この際、下段側プレキャスト筒状体15と上段側プレキャスト筒状体15との接合面には止水性確保及び合わせ面の接合のためにエポキシ樹脂系などの接着剤28やシール材が塗布される。
【0027】
前記上側鋼製浮体構造部4Bは、図2に示されるように、相対的に下段側に位置する鋼製筒状体17と、相対的に上段側に位置する鋼製筒状体18とで構成されている。下段側の鋼製筒状体17は、下側部分がプレキャスト筒状体15と同一の外径寸法とされ、プレキャスト筒状体15に対して連結されている。前記鋼製筒状体17の上側部分は漸次直径を窄めた截頭円錐台形状を成している。
【0028】
上段側の鋼製筒状体18は、前記下段側の鋼製筒状体17の上部外径に連続する外径寸法とされる筒状体とされ、下段側の鋼製筒状体17に対してボルト又は溶接等(図示例はボルト締結)によって連結される。
【0029】
一方、前記タワー6は、鋼材、コンクリート又はPRC(プレストレスト鉄筋コンクリート)から構成されるものが使用されるが、好ましいのは総重量が小さくなるように鋼材によって製作されたものを用いるのが望ましい。タワー6の外径と前記上段側鋼製筒状体18の外径とはほぼ一致しており、外形状は段差等が無く上下方向に連続している。図示例では、上段側鋼製筒状体18の上部に梯子13が設けられ、タワー6と上段側鋼製筒状体18とのほぼ境界部に周方向に歩廊足場14が設けられている。
【0030】
前記係留索5の浮体4への係留点Kは、図1に示されるように、海面下であってかつ浮体4の重心Gよりも高い位置に設定してある。従って、船舶が係留索5に接触するのを防止できるようになる。また、浮体4の倒れ過ぎを抑えるように係留点に浮体4の重心Gを中心とする抵抗モーメントを発生させるため、タワー6の傾動姿勢状態を適性に保持し得るようになる。
【0031】
一方、前記ナセル8は、風車7の回転を電気に変換する発電機やブレード9の角度を自動的に変えることができる制御器などが搭載された装置である。
【0032】
〔スパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こし方法(その1)〕
次に、前述したスパー型洋上風力発電設備用の浮体4の立て起こし方法について詳述する。
【0033】
本発明は、海上において、横向きで浮かんだスパー型洋上風力発電設備用浮体をバラスト水の注水によって立て起こしするに当たって、
前記スパー型洋上風力発電設備用浮体4の外面に対して、着脱自在にウエイト2を取り付けることによって重心位置を偏心させた状態とする第1手順と、バラスト水の注水を行い、前記スパー型洋上風力発電設備用浮体4を直立に起立させる第2手順とからなるものである。前記ウエイト2が本発明の「重心偏心化手段」を構成するものである。以下、図6図10に基づいて具体的に詳述する。
【0034】
所定の岸壁エリアにおいて、浮体4の製作を行ったならば、バラスト調整しながら半潜水型台船30に積み込みを行う。この際、浮体4に対して重心位置を偏心させるためのウエイト2を着脱自在に取り付けておくようにする。前記ウエイト2については、取り外しの便宜から、前記浮体4の外面であって、立て起こしした際に、海面上となる位置に取り付けておくことが望ましい。ここで、重心位置の偏心とは、浮体4の長手方向中心軸に沿った方向(Z軸)のみの偏心を意味するものではなく、浮体4の長手方向中心軸に直交する面方向(X,Y軸面)への偏心を含む重心位置の移動を意味するものである。従って、前記ウエイト2は、浮体4の外面の1箇所に設けるようにすればよく、浮体4の外面に対称位置となるように偶数箇所(例えば、180°方向位置又は90°方向位置等)に設けるのは望ましくない。
【0035】
次に、図6に示されるように、曳航船31によって設置場所の海上まで運搬する。浮体4のフロートオフ(浮上・進水)は、前記半潜水型台船30に注水を行って半潜水状態とし、浮体4を海水に浮かばせるとともに、前記半潜水型台船30を浮体4から離隔させるようにする。
【0036】
次に、図7に示されるように、フロートオフされた浮体4に対して、注水が可能なように、バラスト水のポンプ設備を搭載したバラスト台船32を近接させるとともに、バラストホース33を浮体4の内部に挿入してバラスト水の供給を可能とする。
【0037】
バラスト水の注水を行い、浮体4の内部に所定量のバラスト水が注水されると、最初は少しづつではあるが、浮体4のピッチ角(浮体4の長手方向軸線と水面との成す傾斜角度θ)が上昇する。そして、ある時点を過ぎると、図8に示されるように、急激に浮体4は起立動作を開始するようになる。そして、図9に示されるように、浮体4がほぼ垂直に起立する。
【0038】
本願発明では、前記ウエスト2を取り付けて、重心位置を偏心させておくことにより、後述の〔実施例〕に示されるように、バラスト水の注水によって横向きで浮かんだ状態から立上り動作に移行した際に、この立上り動作が緩慢になるとともに、直立状態に近くなってからの動揺を小さく押さえられるようになる。従って、バラスト水の注水による浮体4の立て起こしを安全かつ効率的に行うことが可能になる。
【0039】
前記浮体4を起立させたならば、図10に示されるように、前記ウエイト2を撤去する。また、浮体4内に固形バラスト34を投入する。前記固形バラスト34としては、水より高比重である粉粒状のものが使用され、具体的には、砂、砂利、重晶石を含む鉱物類及び鉄、鉛等の金属粉、金属粒を含む金属類のうち一種または複数種の組み合わせからなるものとすることが好ましい。固形バラスト34の材質を調整することで、適切な比重のバラスト材が投入できるようになる。また、バラスト水とのバランスを図りながら、浮体4の吃水を調整する。
【0040】
また、同図10に示されるように、浮体4の上部に梯子13を取り付けるとともに、歩廊足場14を設ける。更に、前記浮体4に係留索5の一端を繋ぎ止めるとともに、他端を海底に沈設したアンカーに繋ぎ止めて浮体4の安定を図る。
【0041】
次いで、図11に示されるように、タワー6と、これの頂部に連結したナセル8及び複数の風車ブレード9、9…からなる風車7とを一括として、大型起重機船35に設備されたクレーンによって吊り下げながら浮体4の上部に設置する。
【0042】
〔スパー型洋上風力発電設備用浮体の立て起こし方法(その2)〕
次に、スパー型洋上風力発電設備用の浮体4の立て起こし方法の第2形態例について詳述する。
【0043】
本第2形態例は、海上において、横向きで浮かんだスパー型洋上風力発電設備用浮体4をバラスト水の注水によって立て起こしするに当たって、
前記スパー型洋上風力発電設備用浮体4の外面に対して、着脱自在にウエイト2を取り付けることによって重心位置を偏心させた状態とする第1手順と、
バラスト水の注水を行い、前記スパー型洋上風力発電設備用浮体4が立て起こし動作を開始した後、所定量でバラスト水の注水を停止することによって前記スパー型洋上風力発電設備用浮体4を直立に起立する以前の斜め状態で停止させる第2手順と、
更にバラスト水を徐々に注水することにより前記スパー型洋上風力発電設備用浮体4を直立に起立させる第3手順とからなるものである。
【0044】
前述した「浮体の立て起こし方法(その1)」と対比すると、浮体4が急激な直立動作を開始したその途中で、バラスト水の注水を停止することによって、浮体4を直立に起立する以前の斜め状態で停止させるようにした点でのみ異なるものとなっている。
【0045】
心位置を偏心させた状態とすることにより、直立動作が緩慢になるため、浮体4が直立する以前の斜め状態で停止させることが可能になる。浮体4を一旦傾斜状態で停止させた後、第3手順では更にバラスト水を徐々に注水することにより前記浮体4を直立に起立させるようにすることで、浮体4が直立した際に生じる慣性力による動揺は僅かしか作用しないようにできるため、より安全にかつ効率的に行うことが可能になる。
【0046】
〔重心偏心化手段の参考的第2形態例〕
上記形態例では、重心偏心化手段としてウエイト2を用いた例を示したが、前記重心偏心化手段として、固形バラスト34を用いた参考例について、図12図15に基づいて詳述する。
【0047】
図12に示されるように、所定の岸壁エリアにおいて、浮体4の製作を行ったならば、バラスト調整しながら半潜水型台船30に積み込みを行う。浮体を積込んだ状態で浮体4の内部に固形バラスト34を投入する。なお、固形バラスト34の投入は半潜水型台船30への積込み前に行うことも可能である。前記固形バラスト34は何らかの手段で拘束されることなく流動可能な状態とする。従って、前記浮体4は横向きの状態で半潜水型台船30に積み込まれるため、前記固形バラスト34は横に広がった状態となっている。すなわち、前記浮体4が横向きの状態では、前記固形バラスト34によって前記浮体4の重心位置は偏心した状態となっている。
【0048】
図12に示されるように、曳航船31によって設置場所の海上まで運搬するしたならば、浮体4を海上に浮かばせる。前記浮体4のフロートオフ(浮上・進水)は、前記半潜水型台船30に注水を行って半潜水状態とし、浮体4を海水に浮かばせた後、前記半潜水型台船30を浮体4から離隔させるようにする。
【0049】
次に、図14に示されるように、フロートオフされた浮体4に対して、注水が可能なように、バラスト水のポンプ設備を搭載したバラスト台船32を近接させるとともに、バラストホース33を浮体4の内部に挿入してバラスト水の供給を可能とする。
【0050】
バラスト水の注水を行い、浮体4の内部に所定量のバラスト水が注水されると、最初は少しづつではあるが、浮体4のピッチ角(浮体の長手方向線と水面との成す角度θ)が上昇する。そして、ある時点を過ぎると、図14に示されるように、急激に浮体4は起立動作を開始するようになる。そして、図15に示されるように、浮体4がほぼ垂直に起立する。
【0051】
前記浮体4が横向きの状態では、内部に投入された固形バラストによって浮体4の重心位置は偏心した状態にあり、バラスト水の注水によって浮体4のピッチ角θは徐々に上昇する。前記浮体4が傾斜しても、前記固形バラスト34は安息角(崩れないで安定を保持し得る斜面角度)の傾斜角度θまでは移動することなく偏在状態を保持する。そして、浮体4の傾斜角θが安息角を越えてから固形バラスト34は移動を開始するが、その移動速度は水と比べて遅いため、起立まで時間を掛けながら固形バラスト34は流動し、最終的に浮体4の底部に充填する状態となることで重心位置の偏心が解消されることになるが、直立する直前までは偏心量は漸減しながらも偏心状態を維持するため、浮体4の立上り動作が緩慢になるとともに、直立状態に近くなってからの動揺を小さく押さえられるようになる。従って、バラスト水の注水による浮体4の立て起こしを安全かつ効率的に行うことが可能になる。
【0052】
前記浮体4を起立させた後は、所定量の固形バラスト34は既に投入されているため、バラスト水を注水することにより浮体4の吃水を調整する。
【0053】
この後の、立て起こし後の洋上風力発電設備1の施工手順については、第1形態例で説明済みのため省略する。
【0054】
〔他の形態例〕
(1)前記重心偏心化手段として、浮体4の外面に取り付けたウエイト2を用いる場合と、浮体4の内部に固形バラスト34を投入する場合との2つの例について説明したが、これらは併用して用いることも可能である。予め浮体4の内部に固形バラスト34を投入しておくことによって、洋上での固形バラスト投入作業を無くすことが可能になり、作業が効率化できるようになる。
【実施例
【0055】
次に、本願発明において、浮体4に対して、重心偏心化手段(ウエイト)によって重心位置を偏心させた状態とすることの効果を検証するために行った実験と解析について詳述する。
【0056】
1.水槽実験
1.1 模型諸元
図16および表1に、浮体模型40の概要・寸法を示す.想定実機(2MW機)の1/36.11の縮尺となっている.塩化ビニール製パイプを主体として製作し,浮体上部と下部に鉄板を装着することで重量及び重心高さを調整した。また、図16に示すように、浮体上部端より、65mmおよび418mmの2箇所に動揺計測で使用するマーカー41、42を取り付けている。
【0057】
【表1】
【0058】
1.2 計測方法
水槽実験は,試験水槽(幅:24.4 m,長さ:38.8 m,実験時の水深:1.824 m)にて実施した。
【0059】
浮体模型40を水槽中央にて係留した。係留は,浮体上部を水槽副台車から,浮体下部を水槽岸から行い、係留力によって浮体模型40の挙動が妨げられることのないよう予め調整するなどした。
【0060】
浮体模型40の姿勢計測には,リアルタイムでマーカー41、42の動きを捕らえるモーションキャプチャーシステム(Qualysis)を使用した。浮体模型40に取り付けた2つのマーカー41、42は,水槽脇に設置された計4台のカメラ(Qualysis 5+;4 MP,2048x2048 pixels, 180fps)によってその動きを捕らえられ、0.02秒(50 Hz)毎に空間座標値として出力される。変換された座標値を基に、浮体中心軸と水面とのなす傾斜角を算出し、これをPitch角とした。
【0061】
1.3 バラスト水の注水
バラスト水の注水は、浮体上部よりホースを通じておこなった。使用したポンプは、タクミナ製スムーズフローポンプ(最大吐出量1.08 L/min、最大吐出圧:1 MPa)である。実験時の流量は、0.73 L/min(実機換算で5.7 m3/min)とした。
【0062】
2.解析方法
解析は、任意のバラスト水が浮体内部にある状態において、浮体自身に作用する重力、内部バラスト水に作用する重力、偏心のためのウエイトに作用する重力、浮体に作用する浮力、運動する浮体が外部の流体から受ける付加質量力および抗力の6つの力を考慮し、これらと浮体運動にともなう慣性力との動的なつり合い条件から浮体姿勢を求めることをプログラム(ADAMS:機構解析ソフト)により行った。
【0063】
3.実験及び解析結果
3.1 実験値と解析結果の比較(立て起し時)
立て起し時の実験結果を、ADAMSによるシミュレーション解析結果と比較して図17に示す。ここで、内部バラスト水がない状態での浮体自身の重心位置としては、浮体固定座標系に対して(Xg, Yg, Zg)=(0.0022m, 0.0m, 0.788m)を指定している。ただし、浮体固定座標系は浮体底面に原点を取り、浮体中心軸にそって上向きにZ軸を取り、これと直交する方向にX軸およびY軸をとっている。
【0064】
図17より,ADAMSによるシミュレーション解析結果は、実験結果(Experminent No.1)を良好に再現できていることが分かる。
【0065】
3.2 浮体重心位置の偏心による応答への影響(立て起し時)
3.1より、ADAMSによるシミュレーションにより立て起し時における浮体応答を精度よく予測できることが分かったので、次に浮体重心位置の偏心による応答への影響をシミュレーションにより調査する。Xg=0.0(偏心なし)と、ウエイトの取付けによってXg=0.0022m(実験条件と同様)とXg=0.0044m(重心位置の偏心が2倍の場合)とのXgの値を変化させた計3ケースについて、立て起し時の浮体応答のシミュレーションを実施した。その結果を図18に示す。
【0066】
図18より、偏心がない場合(Xg=0.0m)は,立ち上がりが急になるとともに直立状態になって以降大きな動揺を生じることがわかる。一方、重心の偏心をXg=0.0022mとしたケース、更に重心の偏心をその2倍大きくとったケースの場合は、立ち上がりが緩慢になるとともに、直立状態に近くなっても小さな動揺しか生じないことが分かる。重心の偏心をXg=0.0022mとしたケースと、重心の偏心をXg=0.0044mとしたケースとの比較により、偏心を大きくすると起立動作の緩慢が大きくなるとともに、直立後の動揺は小さくなることが判明した。
【0067】
以上により、注水による浮体の立て起しにおいては、重心位置の偏心させることで、立ち上がりを緩慢化でき、かつ直立後の動揺を小さく抑えることができることが判明した。
【符号の説明】
【0068】
1…スパー型浮体式洋上風力発電設備、4…浮体、4A…下側コンクリート製浮体構造部、4B…上側鋼製浮体構造部、5…係留索、6…タワー、7・(7')…風車、8…ナセル、9…ブレード、15…プレキャスト筒状体、17・18…鋼製筒状体、19…PC鋼棒、30…半潜水型台船、31…曳航船、32…バラスト台船、33…バラストホース、34…固形バラスト、35…大型起重機船、40…浮体模型、41・42…マーカー
図1
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