(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】銅皮膜の密着性を向上させる熱処理方法及びガラス回路基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/38 20060101AFI20250410BHJP
C23C 18/40 20060101ALI20250410BHJP
C23C 8/42 20060101ALI20250410BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20250410BHJP
C25D 5/48 20060101ALI20250410BHJP
C25D 5/54 20060101ALI20250410BHJP
H05K 3/16 20060101ALI20250410BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20250410BHJP
【FI】
H05K3/38 B
C23C18/40
C23C8/42
C25D7/00 J
C25D5/48
C25D5/54
H05K3/16
H05K1/09 C
(21)【出願番号】P 2021113931
(22)【出願日】2021-07-09
【審査請求日】2024-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000168078
【氏名又は名称】江東電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】高山 昌敏
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩徳
【審査官】沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/230967(WO,A1)
【文献】特開2017-199901(JP,A)
【文献】特開2017-199900(JP,A)
【文献】特開2016-103543(JP,A)
【文献】特開2000-340504(JP,A)
【文献】特開2010-123931(JP,A)
【文献】国際公開第2019/135137(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/38
C23C 18/40
C23C 8/42
C25D 7/00
C25D 5/48
C25D 5/54
H05K 3/16
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の表面に成膜された銅皮膜の密着性を向上させる熱処理方法であって、
前記銅皮膜の表面を酸化処理することによって、前記銅皮膜の表面に酸化銅皮膜を形成する酸化処理工程と、
前記酸化銅皮膜を形成した前記ガラス基板を加熱する熱処理工程と、
エッチングによって前記酸化銅皮膜を除去する除去工程とを含むことを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
前記酸化銅皮膜の膜厚は、0.01μm以上5.0μm以下である請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項3】
前記酸化処理工程は、水酸化ナトリウムとペルオキソ二硫酸ナトリウムとを含有する水溶液に浸漬することによって行う請求項1又は請求項2に記載の熱処理方法。
【請求項4】
前記酸化処理工程は、亜塩素酸ナトリウムとリン酸三ナトリウム12水和物と水酸化ナトリウムとを含有する水溶液に浸漬することによって行う請求項1又は請求項2に記載の熱処理方法。
【請求項5】
前記酸化処理工程は、ペルオキソ二硫酸カリウムと水酸化カリウムとを含有する水溶液に浸漬することによって行う請求項1又は請求項2に記載の熱処理方法。
【請求項6】
前記熱処理工程は、300℃以上600℃以下の雰囲気で行う請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の熱処理方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の熱処理方法でガラス基板の表面に成膜された銅皮膜の密着性を向上したことを特徴とするガラス回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、ガラス基板の表面に成膜された銅皮膜の密着性を向上させる熱処理方法、及び当該熱処理方法でガラス基板の表面に成膜された銅皮膜の密着性を向上したガラス回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信システムのデータ通信速度がシステム世代を経るごとに高速化し、またIoTや人工知能の利用が増加するなどして、データ通信機器には、より一層の高速演算機能や高速データ伝送、低消費電力化などが求められている。従来、装置間や回路基板間、電子デバイス間のデータ通信には電気配線が用いられてきたが、電気配線には、データ伝送速度が増加するにつれて伝送損失が大きくなり、また消費電力も増大する欠点があった。一方、光通信は、データ伝送速度が増大しても、伝送損失は一定であり、消費電力の増加も小さいという特徴がある。そこで、回路基板間や電子デバイス間のデータ通信に、電気配線に代えて光通信を適用し、データ伝送速度の高速化と低消費電力化を実現する光インターコネクションの検討が進められている。
【0003】
光インターコネクションを用いたデータ伝送システムでは、光デバイスと従来の電子部品や回路基板といった、デザインルールの異なる部品が混在する。そこで、これらを相互に接続するためのインターポーザを用いた回路設計が進められている。そして、インターポーザとしては、耐熱性や耐薬品性に優れ、高い透明性と平滑な表面を有し、熱膨張率がシリコンと同等であるガラス基板を使用することが検討されている。その際、ガラス基板の表面及びガラス基板の貫通孔の表面には、配線材料である銅を成膜する必要がある。ガラス基板の銅配線上には、光デバイスや電子部品が接続されることから、銅配線が剥がれて接続不良を起こすことの無いよう、銅配線のガラス基板への高い密着性が求められる。しかしながら、従来の成膜方法では、平滑な表面を有するガラス基材と配線材である銅との良好な密着性を実現することが困難だった。
【0004】
そこで特許文献1は、ガラス基板の表面にプラズマ処理を行った後、スパッタリング成膜法等によって銅皮膜を成膜し、その後、不活性ガス雰囲気などの非酸化性雰囲気中で、100℃以上の温度で10秒から24時間程度の熱処理を行うことによって、密着性を向上させる処理を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この熱処理では、不活性ガス雰囲気や還元性雰囲気などの非酸化性雰囲気で行うため、この非酸化性ガスを必要とする。一方、この熱処理を大気中で行うと、熱処理は一般的に高温で行うことから、銅皮膜の表面が強固に酸化した銅ヤケと言われる状態になってしまうため、このままではインターポーザなどの回路基板に適さない。また、回路基板として使用できるよう、銅ヤケをエッチングで除去する場合、銅皮膜の表面が粗雑化しやすく、銅皮膜の表面にピンホールやピットが生じるという課題がある。さらに、銅ヤケをエッチングで除去する場合、エッチング量が多く、銅皮膜の膜厚の減少量が多いという課題がある。
【0007】
本件発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、ガラス基板と成膜された銅皮膜との密着性を向上させるための熱処理を大気中で行うことが可能であり、熱処理後に銅皮膜の表面の酸化膜をエッチングで除去しても、銅皮膜の表面にピンホールやピットが生じない熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下の発明に想到した。
【0009】
本件発明に係る熱処理方法は、ガラス基板の表面に成膜された銅皮膜の密着性を向上させる熱処理方法であって、前記銅皮膜の表面を酸化処理することによって、前記銅皮膜の表面に酸化銅皮膜を形成する酸化処理工程と、前記酸化銅皮膜を形成した前記ガラス基板を加熱する熱処理工程と、エッチングによって前記酸化銅皮膜を除去する除去工程とを含むことを特徴とする熱処理方法を採用した。
【0010】
前記前記酸化銅皮膜の膜厚は、0.01μm以上5.0μm以下であることが好ましい。
【0011】
前記酸化処理工程は、水酸化ナトリウムとペルオキソ二硫酸ナトリウムとを含有する水溶液に浸漬して行うことが好ましい。
【0012】
前記酸化処理工程は、亜塩素酸ナトリウムとリン酸三ナトリウム12水和物と水酸化ナトリウムとを含有する水溶液に浸漬して行うことが好ましい。
【0013】
前記酸化処理工程は、ペルオキソ二硫酸カリウムと水酸化カリウムとを含有する水溶液に浸漬して行うことが好ましい。
【0014】
前記熱処理工程は、300℃以上600℃以下の雰囲気で行うことが好ましい。
【0015】
本件発明に係るガラス回路基板は、上述の熱処理方法でガラス基板の表面に成膜された銅皮膜の密着性を向上したことを特徴とするガラス回路基板を採用した。
【発明の効果】
【0016】
本件発明に係る熱処理方法は、ガラス基板の表面に成膜された銅皮膜の密着性を向上させる熱処理方法であって、前記銅皮膜の表面を酸化処理することによって、前記銅皮膜の表面に酸化銅皮膜を形成する酸化処理工程と、前記酸化銅皮膜を形成した前記ガラス基板を加熱する熱処理工程と、エッチングによって前記酸化銅皮膜を除去する除去工程と、を含むことを特徴とする熱処理方法である。当該熱処理方法を施すことによって、ガラス基板と銅皮膜との密着性を向上できる。熱処理工程の前に、銅皮膜の表面に、酸化銅皮膜を形成することによって、大気中で熱処理を行っても、銅皮膜の表面が強固に酸化した銅ヤケ状態が生じない。そして、酸化処理によって形成した酸化銅皮膜は、熱処理後にエッチングで除去しても銅皮膜の表面が粗雑化せず、銅皮膜の表面にピンホールやピットが生じない。さらに、当該酸化銅皮膜は、薄膜で上述の効果を奏することから、エッチングで除去しても、銅皮膜の膜厚の減少量が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】下地密着層を成膜したガラス基板の一部断面図である。
【
図3】銅皮膜を成膜したガラス基板の一部断面図である。
【
図4】酸化銅皮膜を形成したガラス基板の一部断面図である。
【
図5】酸化銅皮膜を除去したガラス基板の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本件発明に係るガラス基板の表面に成膜された銅皮膜の密着性を向上させる熱処理方法の実施の形態について説明する。
【0019】
1.熱処理方法
本件発明に係る熱処理方法は、ガラス基板の表面に成膜された銅皮膜の密着性を向上させる熱処理方法であって、前記銅皮膜の表面を酸化処理することによって、前記銅皮膜の表面に酸化銅皮膜を形成する酸化処理工程と、前記酸化銅皮膜を形成した前記ガラス基板を加熱する熱処理工程と、エッチングによって前記酸化銅皮膜を除去する除去工程とを含む熱処理方法である。
【0020】
ガラス基板の表面に成膜された銅皮膜の密着性を向上させる当該熱処理方法の熱処理工程は、大気中で行うことができる。したがって、不活性ガス雰囲気や還元性雰囲気などの非酸化性雰囲気中で行う必要がない。そして、熱処理工程の前に、銅皮膜の表面に、酸化銅皮膜を形成することによって、大気中で熱処理を行っても、銅皮膜の表面が強固に酸化した銅ヤケ状態が生じない。また、酸化処理によって形成した酸化銅皮膜は、熱処理後にエッチングで除去しても銅皮膜の表面が粗雑化せず、銅皮膜の表面にピンホールやピットが生じない。さらに、当該酸化銅皮膜は、薄膜で上述の効果を奏することから、エッチングで除去しても、銅皮膜の膜厚の減少量が少ない。
【0021】
〔ガラス基板〕
表面に銅皮膜が成膜されたガラス基板は、一例を挙げれば、光インターコネクションに用いるインターポーザに適するものであって、SiO
2を主成分とするガラスからなり、貫通孔を有しているものもある。
図1に、一例として、銅皮膜を成膜する前の、貫通孔10を有するガラス基板1の一部断面図を示す。インターポーザとして使用する場合、ガラス基板1の厚さは0.3~0.8mm程度であり、貫通孔10の直径は、30~120μm程度である。貫通孔10の形成には、例えばCO
2レーザやエキシマレーザ、ウェットエッチング技術やドライエッチング技術によるもの、サンドブラストなど、ガラス基板1の厚さや貫通孔10の直径に応じて、選択して使用することができる。上述は一例であって、ガラス基板の厚さや、貫通孔の有無、貫通孔の直径などは、使用用途に適したものを適宜用いることができる。
【0022】
ガラス基板の表面は平滑であることから、以下で説明する下地密着層を成膜する前に、ガラス基板の表面を例えばアルカリ溶液などを用いる湿式法や、乾式法によって洗浄し、その後、一例として、酸素プラズマによるガラス基板の表面のプラズマ処理を行う。このプラズマ処理によって、ガラス基板1の表面が活性化され、下地密着層を形成する金属とガラス基板1との結合性が向上する。また、化学エッチングでガラス基板の表面を親水化し、その後触媒金属を析出させることによって、その後の湿式めっきによって成膜した銅皮膜の密着性を確保する方法もある。
【0023】
〔下地密着層の形成〕
平滑なガラス基板の表面との良好な密着性を有する銅皮膜を成膜するためには、主に乾式成膜法によって、銅やニッケルやクロム、チタンなどの材料からなりアンカーとして機能する下地密着層を必要に応じて成膜する。
図2に、下地密着層2を成膜したガラス基板1の一部断面図を示す。この下地密着層2の膜厚は、例えば0.01μm以上10μm以下である。なお、ガラス基板との密着性が確保できる厚さであれば、下地密着層2の膜厚は、上述した範囲に制限されない。
【0024】
乾式成膜法によって下地密着層2を成膜する方法として、例えば、スパッタリング成膜法が挙げられる。スパッタリング成膜法を用いて下地密着層2の成膜を行うには、アルゴンなどの不活性ガスに高電圧を印加してプラズマ化し、アルゴンイオンを生成する。成膜対象であるガラス基板1を陽極側に設置し、下地密着層を形成する金属からなるターゲット(以下、単に「ターゲット」と称する)を陰極側に設置したチャンバー内に、イオン化したアルゴンガスを所定の成膜圧力となるよう導入し、陽極と陰極の間に高電圧を印加する。すると、プラスの電荷を帯びたアルゴンイオンは、ターゲットのある陰極側に引き寄せられて、ターゲットに衝突する。このとき、ターゲットの表面が分子レベルの大きさで弾き飛ばされ、下地密着層を形成する金属がガラス基板1の表面に付着する。
【0025】
〔銅皮膜の成膜〕
下地密着層2の表面には、真空蒸着法やイオンスパッタリング成膜法、化学気相蒸着法(CVD)、超臨界流体中薄膜堆積法(SFCD)、湿式めっき法などを用いて、銅皮膜を成膜することができる。
図3に、下地密着層2の表面に銅皮膜3を成膜したガラス基板1の一部断面図を示す。例えば、湿式めっき法を用いた場合、ガラス基板1の平坦部の下地密着層2の表面だけでなく、貫通孔10の下地密着層2の表面にもめっき液が到達して、下地密着層2の膜厚よりも厚く、銅皮膜3を成膜できる。この銅皮膜3の膜厚は、以降の工程で酸化銅皮膜としてエッチングされる部分を考慮して、配線として要求される電気抵抗値の範囲などを満足できる厚さであれば良い。
【0026】
湿式めっき法としては、電解めっきや無電解めっきなどが挙げられる。電解めっきは、例えば、めっき液に成膜させる金属と被めっき物を浸漬し、電圧を印加することによって、被めっき物の表面に成膜させる金属を析出させて、成膜するものである。無電解めっきは、例えば、錯化剤によって錯化された成膜させる金属の錯体を含むめっき液に被めっき物を浸漬し、還元剤の作用によって、被めっき物の表面に金属を析出させることによって、成膜するものである。これらのめっき法は、被めっき物の形状や膜厚などの条件に応じて、任意に選択することができる。
【0027】
電解めっきには、例えば、硫酸銅(II)五水和物や及び硫酸を含有するめっき液や、ピロリン酸銅(II)四水和物、ピロリン酸カリウム及びシュウ酸カリウム一水和物を含有するめっき液などが使用できる。
【0028】
〔酸化処理工程〕
上述のように下地密着層2と銅皮膜3とが成膜されたガラス基板1においては、アンカーとして機能する下地密着層2と銅皮膜3とは比較的に強固に密着しているものの、ガラス基板1の表面は平滑であることから、ガラス基板1と下地密着層2との密着性の向上が必要である。すなわち、ガラス基板1と下地密着層2との密着性を向上させることによって、銅皮膜3が下地密着層2と共にガラス基板1から剥離することを抑制できる。そこで、主にガラス基板1と下地密着層2との密着性を向上させるために、当該ガラス基板1に熱処理を施す。ここで、本件発明に係る熱処理方法は、熱処理工程の前に、銅皮膜3の表面に酸化銅皮膜を形成する酸化処理工程を有している。
【0029】
図4に、銅皮膜3の表面に、酸化銅皮膜4を形成したガラス基板1の一部断面図を示す。酸化銅被膜4は、銅皮膜3の表面を意図的に酸化処理することによって得ることができる。意図的に制御して銅皮膜3の表面を酸化することによって、酸化銅皮膜4は、ガラス基板1の平坦部の銅皮膜3の表面だけでなく、貫通孔10の銅皮膜3の表面にも、均一で一定な膜厚の皮膜として形成される。この酸化銅皮膜4によって、以降の大気中における熱処理工程において、銅皮膜3の表面は大気中の酸素に直接曝されない。したがって、大気中の酸素による銅皮膜3の表面が強固に酸化した銅ヤケと言われる状態が生じない。
【0030】
酸化銅皮膜4の膜厚は、以降の大気中における熱処理工程において、大気中の酸素による銅皮膜3の表面が強固に酸化した銅ヤケと言われる状態が生じない限りにおいては特に制限されないが、0.01μm以上5.0μm以下が好ましい。上述のように、銅皮膜3の表面が大気中の酸素に直接曝されないようにすることができるからである。なお、酸化銅皮膜4の膜厚の下限値は、0.1μmがより好ましい。熱処理中に、銅皮膜3の表面が大気中の酸素に直接曝されない効果をより向上するからである。また、酸化銅皮膜4の膜厚の上限値は、2.0μmがより好ましい。銅皮膜3の表面が大気中の酸素に直接曝されない効果を有しつつ、熱処理後の酸化銅皮膜を除去するエッチング工程で、エッチング量を少なくできるからである。
【0031】
酸化銅皮膜4を形成するための酸化処理は、化学的手法で行うことが好ましい。酸化に用いる化合物の濃度を正確に管理でき、かつ、反応温度や時間を制御できることから、銅皮膜3の表面に、酸化銅被膜4を均一で一定な膜厚の皮膜として形成できるからである。当該酸化処理は、例えば、水酸化ナトリウム(20~50g/L)とペルオキソ二硫酸ナトリウム(10~40g/L)とを含有する水溶液に、40~60℃で3~8分間、銅皮膜3が成膜されたガラス基板1を浸漬することで行うことができる。また、亜塩素酸ナトリウム(5~40g/L)とリン酸三ナトリウム12水和物(5~20g/L)と水酸化ナトリウム(10~20g/L)とを有する水溶液に、80~100℃で1~5分間、銅皮膜3が成膜されたガラス基板1を浸漬することで行うこともできる。また、ペルオキソ二硫酸カリウム(10~40g/L)と水酸化カリウム(20~50g/L)とを含有する水溶液に、40~60℃で3~8分間、銅皮膜3が成膜されたガラス基板1を浸漬することで行うこともできる。なお、銅皮膜3の表面に、酸化銅被膜4を均一で一定な膜厚の皮膜として形成できる限りにおいては、当該酸化処理は、上述の例に制限されない。
【0032】
〔熱処理工程〕
本件発明に係る熱処理方法は、上述の銅皮膜3の表面に酸化銅皮膜を形成する酸化処理工程の後に、熱処理工程を有している。酸化処理工程の後に、ガラス基板1に熱処理を行うことによって、主にガラス基板1と下地密着層2との密着性を向上させることができる。ここで、酸化処理工程の後に熱処理を行うことによって、熱処理が大気中であっても、銅皮膜3の表面は大気中の酸素に直接曝されない。したがって、大気中の酸素による銅皮膜3の表面が強固に酸化した銅ヤケと言われる状態が生じない。
【0033】
ガラス基板1と下地密着層2との密着性向上は、以下の理由によるものであると考えられる。上述した、ガラス基板1のプラズマ処理によって、ガラス基板1の表面に極薄い酸化Si層(以下、単に酸化Si層と称する)が形成される。そして、例えば下地密着層が銅である場合、酸化Si層と下地密着層2との接触部分において、熱処理によって酸化Si層の酸素と下地密着層2の銅が結びついて酸化銅(I)及び酸化銅(II)が形成されることによって、ガラス基板1と下地密着層2との密着性が向上すると考えられる。
【0034】
熱処理処理は、300℃以上600℃以下の雰囲気で行うことが好ましい。上述した理由の反応が発生し、ガラス基板1と下地密着層2との密着性を向上できるからである。当該温度範囲で行う熱処理の時間は、密着性の向上が達成できる限りにおいて特に制限されないが、10分~60分が好ましい。
【0035】
〔除去工程〕
酸化銅皮膜4は、エッチングによって除去することができる。
図5に、熱処理工程の後、酸化銅皮膜4を除去したガラス基板1の一部断面図を示す。エッチングにはドライエッチングやウェットエッチングがあるが、ウェットエッチングが好ましい。エッチング液には、酸化銅皮膜4を除去できるものであれば、特に制限されないが、塩素水溶液や過硫酸ナトリウム水溶液、硫酸/過酸化水素水溶液などを使用することができる。
【0036】
酸化銅皮膜4は、酸化銅皮膜の形成工程において、意図的に制御して銅皮膜3の表面を酸化することによって、酸化銅皮膜4は、ガラス基板1の平坦部の銅皮膜3の表面だけでなく、貫通孔10の銅皮膜3の表面にも、均一で一定な膜厚の皮膜として形成されたものである。したがって、熱処理後にエッチングで酸化銅皮膜4を除去しても銅皮膜3の表面が粗雑化せず、銅皮膜3の表面にピンホールやピットが生じない。さらに、酸化銅皮膜4は、薄膜で上述の効果を奏することから、エッチングで除去しても、銅皮膜3の膜厚の減少量が少ない。
【0037】
2.ガラス回路基板
本件発明に係るガラス回路基板は、上述した熱処理方法でガラス基板の表面に成膜された銅皮膜の密着性を向上したガラス基板に、エッチングなどの方法を用いて回路パターンを形成したガラス回路基板である。そのため、ガラス基板1と下地密着層2との密着性に優れており、かつ、銅皮膜3の表面にはピンホールやピットが生じていない。このような特徴を有する当該ガラス回路基板は、一例を挙げれば、光インターコネクションに用いるインターポーザとして使用することができる。
【0038】
以上説明した本件発明に係る実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、以下実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
ガラス基板は、無アルカリガラスEAGLE XG(Corning社製)の縦50mm、横50mm、厚さ0.3mmを使用した。当該ガラス基板には、開口径が80μmの貫通孔(アスペクト比3.75)が、0.5mm間隔で形成されている。
【0040】
まず、高出力低圧水銀ランプKOL1-1200(江東電気株式会社製)を用いて、ガラス基板の表面に、波長184.9nmと253.7nmのUV光を10分間照射した。その後、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの混合液でガラス基板を洗浄した。
【0041】
次に、酸素プラズマを用いて、2100Wのエネルギーで180秒間ガラス基板をプラズマ処理し、ガラス基板の表面を活性化した。
【0042】
次に、チャンバー内のスパッタガスの成膜圧力を0.5-5.0Paとして、35kWのエネルギーで28秒間スパッタリングすることによって、プラズマ処理したガラス基板に膜厚が3μmの下地密着層を形成した。
【0043】
次に、硫酸銅(II)五水和物を100g/L、硫酸を180g/L、塩化物イオンを50mg/L含有する水溶液を用いて、25℃で空気撹拌下において、1A/dm2の電流密度で電解銅めっきを行った。これによって、下地密着層の表面に、膜厚が20μmの銅皮膜を成膜した。
【0044】
熱処理工程の前に、酸化処理工程を実施して、銅皮膜の表面に酸化銅皮膜を形成した。具体的には、水酸化ナトリウムを40g/L、ペルオキソ二硫酸ナトリウムを20g/L含有する50℃の水溶液に、銅皮膜を成膜したガラス基板を4分間浸漬して、銅皮膜の表面を酸化処理し、膜厚が0.5μmの酸化銅皮膜を形成した。
【0045】
次に、酸化銅皮膜を形成したガラス基板を、550℃に維持された大気が満たされた恒温槽に30分間放置する熱処理工程を実施した。
【0046】
最後に、ペルオキソ二硫酸ナトリウムを50g/L 、硫酸を1vol%含有する50℃の水溶液に、熱処理工程を経たガラス基板を4分間浸漬して、酸化銅皮膜を除去した。
【実施例2】
【0047】
銅皮膜の成膜を以下に説明する方法で行った以外は、実施例1と同じ方法で密着性を向上したガラス基板を得た。
【0048】
ピロリン酸銅(II)四水和物を90g/L、ピロリン酸カリウムを340g/L、シュウ酸カリウム一水和物を3g/L含有し、pHが8.8の水溶液を用いて、55℃で空気撹拌下において、1A/dm2の電流密度で電解銅めっきを行った。これによって、下地密着層の表面に、膜厚が20μmの銅皮膜を成膜した。
【実施例3】
【0049】
実施例1と同じガラス基板を用いた。そして、実施例1と同様に、高出力低圧水銀ランプKOL1-1200(江東電気株式会社製)を用いて、ガラス基板の表面に、波長184.9nmと253.7nmのUV光を10分間照射した。その後、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの混合液でガラス基板を洗浄した。
【0050】
次に、ガラス基板の表面を活性化するために、センシタイザー(奥野製薬工業株式会社製)を5ml/L含有する25℃の水溶液に、1分間浸漬した。さらに、アクチベーター(奥野製薬工業株式会社製)を100ml/L含有する25℃の水溶液に、1分間浸漬した。
【0051】
次に、硫酸銅(II)五水和物を10g/L、酒石酸カリウムナトリウム四水和物を28g/L、パラホルムアルデヒドを6.6g/L含有し、pHが12.5で50℃の無電解銅めっき溶液に、上記の、表面を活性化したガラス基板を20分間浸漬して、膜厚が0.5μmの下地密着層としての無電解銅めっき皮膜を成膜した。
【0052】
さらに、硫酸銅(II)五水和物を100g/L、硫酸を98ml/L、塩化物イオンを50mg/L含有する水溶液を用いて、30℃で空気撹拌下において、1A/dm2の電流密度で電解銅めっきを行った。これによって、下地密着層の表面に、膜厚が20μmの電解銅めっき銅皮膜を成膜した。
【0053】
熱処理工程の前に、実施例1と同じ酸化処理工程を実施して、電解銅めっき銅皮膜の表面に酸化銅皮膜を形成した。さらに、酸化銅皮膜を形成したガラス基板を、実施例1と同じ熱処理工程を実施した。最後に、実施例1と同じ方法で、酸化銅皮膜を除去した。
【比較例】
【0054】
〔比較例1〕
電解銅めっきを行って、下地密着層の表面に、膜厚が20μmの銅皮膜を成膜するまでは、実施例1と同じ方法で行った。
【0055】
次に、酸化処理工程を実施せずに、実施例1と同じ熱処理工程を実施した。
【0056】
最後に、ペルオキソ二硫酸ナトリウムを50g/L 、硫酸を1vol%含有する50℃の水溶液に、熱処理工程を経たガラス基板を4分間浸漬して、銅皮膜の表面に熱処理工程で形成された酸化膜を除去した。
【0057】
〔比較例2〕
電解銅めっきを行って、下地密着層の表面に、膜厚が20μmの銅皮膜を成膜するまでは、実施例3と同じ方法で行った。
【0058】
次に、酸化処理工程を実施せずに、実施例3と同じ熱処理工程を実施した。
【0059】
最後に、ペルオキソ二硫酸ナトリウムを50g/L 、硫酸を1vol%含有する50℃の水溶液に、熱処理工程を経たガラス基板を4分間浸漬して、銅皮膜の表面に熱処理工程で形成された酸化膜を除去した。
【0060】
〔評価結果〕
実施例1~実施例3、及び比較例1、比較例2のガラス基板において、剥離試験機FTN4-15A(アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いて、ガラス基板の表面と銅皮膜との密着強度を評価した。具体的には、幅が10mmの銅皮膜に対して、剥離速度を50mm/minに設定し、有効測定距離10mmを90度の角度で引っ張ることによって、剥離に至る力の大きさ(剥離強度)を計測した。計測結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
表1から、比較例1に対して、実施例1及び実施例2の剥離強度が向上していることが明らかになった。また、比較例2に対して、実施例3の剥離強度が向上していることが明らかになった。比較例1及び比較例2は、酸化銅皮膜を形成することなく大気中で熱処理することによって、銅皮膜の表面が強固に酸化した銅ヤケ状態が生じ、銅ヤケ部分をエッチングで除去しても、残った銅皮膜には高い内部応力が存在して、密着性の低下を招いたと推察される。また、銅皮膜の成膜を、硫酸銅(II)五水和物に代えて、ピロリン酸銅(II)四水和物などを含有した水溶液を用いて電解めっきした実施例2は、実施例1よりも優れた剥離強度を示した。これは、ガラス基板と下地密着層との密着性が向上したのに加えて、実施例1に比べて実施例2の銅皮膜の内部応力が小さいことによって、上述の剥離試験において、より優れた剥離強度を示したものと推察される。
【0063】
次に、実施例1と比較例1とのガラス基板の銅皮膜の表面状態を観察した。
図6に実施例1の銅皮膜の表面の写真を示す。
図6から、実施例1の銅皮膜の表面には酸化膜の残存が無く、銅皮膜の表面にピンホールやピットが生じていない緻密な表面であることが明らかになった。次に、
図7に、比較例1の銅皮膜の表面の写真を示す。
図7から、比較例1の銅皮膜の表面には酸化膜の残存しており粗雑であることが明らかになった。そして、比較例1の銅皮膜の表面を拡大した写真を
図8に示す。
図8から、比較例1の銅皮膜の表面には、ピンホールが生じていることが明らかになった。
【0064】
以上の評価結果から、本件発明に係る熱処理方法を実施することによって、ガラス基板と銅皮膜との密着性を向上できることが明らかになった。そして、大気中で熱処理を行っても、銅皮膜の表面が強固に酸化した銅ヤケ状態が生じないことから、熱処理後にエッチングで除去しても銅皮膜の表面が粗雑化せず、銅皮膜の表面にピンホールやピットが生じないことも明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本件発明に係る熱処理方法は、ガラス基板と銅皮膜との密着性を向上できる。そして、熱処理工程の前に、酸化処理工程を有していることから、熱処理工程を大気中で行うことができる。さらに、大気中で熱処理工程を行っても、銅皮膜の表面が強固に酸化した銅ヤケ状態が生じないことから、熱処理後にエッチングで除去しても銅皮膜の表面が粗雑化せず、銅皮膜の表面にピンホールやピットが生じない。すなわち、本件発明に係る熱処理方法は、銅配線との高い密着性が求められるガラス基板への熱処理に好適である。そして、当該熱処理方法で銅皮膜の密着性を向上したガラス基板に回路パターンを形成した本件発明に係るガラス回路基板は、例えば、光インターコネクションに用いるインターポーザとして好適である。
【符号の説明】
【0066】
1 ガラス基板
2 下地密着層
3 銅皮膜
4 酸化銅皮膜
10 貫通孔