(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】粉体成形品の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B30B 11/00 20060101AFI20250410BHJP
【FI】
B30B11/00 V
(21)【出願番号】P 2022033505
(22)【出願日】2022-03-04
【審査請求日】2024-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591011384
【氏名又は名称】株式会社パウレック
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】田辺 和也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】長門 琢也
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/084611(WO,A1)
【文献】特表2016-523717(JP,A)
【文献】特表2004-537338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 11/00 ー 11/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
秤量された二種以上の粉体原料が供給される成形孔を有する成形型と、
前記成形型の成形孔に供給された前記粉体原料を前記成形孔内で混合する混合部と、
前記混合部で混合された前記成形孔内の前記粉体原料を圧縮成形して粉体成形品を形成する圧縮成形部と、
前記粉体成形品を排出する排出部と、
前記成形型を前記各部に移送する移送機構と、を備えた粉体成形品の製造装置。
【請求項2】
前記混合部は、前記粉体原料を前記成形孔内で気体流により流動させて混合する請求項1に記載の粉体成形品の製造装置。
【請求項3】
前記混合部で混合された前記粉体原料および前記圧縮成形部で圧縮成形された前記粉体成形品のうち、少なくとも一方の品質を前記成形孔内で検査する検査部を更に備えている請求項1又は2に記載の粉体成形品の製造装置。
【請求項4】
前記検査部は近赤外分光センサを備えている請求項3に記載の粉体成形品の製造装置。
【請求項5】
秤量された二種以上の粉体原料を成形型の成形孔に供給する工程と、
前記粉体原料を前記成形孔内で混合する工程と、
前記成形孔内の前記粉体原料を圧縮成形して粉体成形品を形成する工程と、
前記粉体成形品を排出する工程と、を備えた粉体成形品の製造方法。
【請求項6】
前記混合する工程において、前記成形孔内の前記粉体原料を気体流により流動させて混合する請求項5に記載の粉体成形品の製造方法。
【請求項7】
前記混合する工程で混合された前記粉体原料および前記圧縮成形する工程で形成された前記粉体成形品のうち、少なくとも一方の品質を前記成形孔内で検査する工程を更に備えている請求項5又は6に記載の粉体成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、食品、農薬等の錠剤や電子部品等の粉体成形品を製造するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬錠剤等の粉体成形品を製造する装置として、回転式粉体圧縮成形機(回転式打錠機、ロータリータブレットプレスとも呼ばれる。)が広く用いられている(例えば、下記の特許文献1)。回転式粉体圧縮成形機は、周知のように、上下に貫通した多数の臼孔が設けられた回転テーブルと、回転テーブルの臼孔に粉体原料を充填する充填装置と、回転テーブルの臼孔に充填された粉体原料を圧縮して粉体成形品を成形する上杵及び下杵とを備えている。臼孔に充填される粉体原料は、二種以上(主剤、賦形剤、滑沢剤等)の粉体が混合された混合粉体であり、予め混合装置で均一に混合された後、充填装置を介して臼孔に充填される。
【0003】
上記の回転式粉体圧縮成形機は単一品種の粉体成形品を量産するのに適した装置であり、成分が異なる複数品種の粉体成形品を必要に応じて適宜に製造するといった製造プロセスには適さない。また、回転式粉体圧縮成形機は概して大型であり、病院、診療所、薬局等の薬剤室、大学、研究機関、企業等の研究室などの比較的狭いスペースでの使用には適さない。
【0004】
例えば、医薬品の分野では、患者の容態に応じて、必要な服用薬をタイムリーに患者に提供すること、すなわち、服用薬の個別化・オンデマンド化の需要が高まってきており、このような需要に対応できる医薬品製造システムの構築が進められている。
【0005】
下記の特許文献2は、医薬錠剤を製造するシステムを開示している。このシステムは、錠剤材料(粉体)を分注する複数の分注器と、分注器で分注された材料を秤量する重量計と、秤量された材料を混合するブレンダと、ブレンダで混合された材料(ブレンドミックス:混合粉体)を分注して打錠ユニットに供給するブレンドミックス分注器と、ブレンドミックスを圧縮成形して錠剤を形成する打錠ユニットとを主要な要素として構成されている。打錠ユニットは、ブレンドミックスが供給される錠剤ダイと、錠剤ダイ内でブレンドミックスを圧縮成形するパンチとを備えている。
【0006】
特許文献2の医薬錠剤製造システムは、成分が異なる複数品種の医薬錠剤を必要に応じて適宜に製造することが可能であり、また、小型の携帯型ユニットとして構築することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020―168634号公報
【文献】特表2020-510636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の医薬錠剤製造システムでは、二種以上の錠剤材料(粉体原料)をブレンダで混合し、ブレンダで混合したブレンドミックス(混合粉体)を打錠ユニットに供給して錠剤を形成する。しかし、ブレンダで混合されるブレンドミックスには、混合操作の態様や錠剤材料の性質(分散性、粒子径、粒子形状、比重等)により、材料の偏在が生じることがある。そのため、打錠ユニットに供給されるブレンドミックスの材料比率にバラツキが生じ、打錠ユニットで成形される錠剤の成分含量にバラツキが生じる原因となる。また、秤量された錠剤材料をブレンダ等を経由して錠剤ダイに移送する過程で材料ロスが生じ易い。
【0009】
本発明は、粉体成形品の個別化・オンデマンド化の需要に対応することができ、また、成分含量のバラツキが少ない粉体成形品を形成することができ、かつ、材料ロスを極小化することができる粉体成形品の製造装置および製造方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、秤量された二種以上の粉体原料が供給される成形孔を有する成形型と、前記成形型の成形孔に供給された前記粉体原料を前記成形孔内で混合する混合部と、前記混合部で混合された前記成形孔内の前記粉体原料を圧縮成形して粉体成形品を形成する圧縮成形部と、前記粉体成形品を排出する排出部と、前記成形型を前記各部に移送する移送機構とを備えた粉体成形品の製造装置を提供する。
【0011】
また、上記課題を解決するため、本発明は、秤量された二種以上の粉体原料を成形型の成形孔に供給する工程と、前記粉体原料を前記成形孔内で混合する工程と、前記成形孔内の前記粉体原料を圧縮成形して粉体成形品を形成する工程と、前記粉体成形品を排出する工程とを備えた粉体成形品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粉体成形品の個別化・オンデマンド化の需要に対応することができ、また、成分含量のバラツキが少ない粉体成形品を形成することができ、かつ、材料ロスを極小化することができる粉体成形品の製造装置および製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る錠剤製造装置を前方から見た図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る錠剤製造装置を上方から見た図である。
【
図3】秤量部で秤量した二種以上の粉体原料を成形型の成形孔に供給する工程の一例を模式的に示す図である。
【
図4】混合部を左方向から見た図{
図4(a)}、混合部を前方から見た図{
図4(b)}である。
【
図7】検査部を後方から見た図であり、成形孔内の原料粉体の品質を検査する工程を示す。
【
図8】検査部を後方から見た図であり、成形孔内の錠剤の品質を検査する工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1及び
図2は、この実施形態に係る粉体成形品の製造装置の全体構成を示している。この実施形態の製造装置は、粉体成形品としての医薬錠剤(以下、「錠剤」という。)を製造する装置であり、患者の容態に応じて、必要な錠剤をタイムリーに製造する機能を有する。また、この実施形態の製造装置(以下、「錠剤製造装置」という。)は、病院、診療所、薬局等の薬剤室、大学、研究機関、企業等の研究室などの比較的狭いスペースで使用することができ、また、所望の位置に移動させることができるように、小型の卓上形態に構成されている。
【0016】
この実施形態の錠剤製造装置は、粉体原料を秤量する秤量部1と、秤量部1で秤量された二種以上の粉体原料が供給される成形孔2aを有する筒状の成形型2と、成形型2の成形孔2aに供給された粉体原料を成形孔2a内で混合する混合部3と、混合部3で混合された成形孔2a内の粉体原料を圧縮成形して錠剤を形成する圧縮成形部4と、混合部3で混合された粉体原料および圧縮成形部4で圧縮成形された錠剤の品質を成形孔2a内で検査する検査部5と、錠剤を排出する排出部6と、成形型2を各部に移送可能な移送機構7とを主要な要素として構成される。混合部3、圧縮成形部4と、検査部5、排出部6は、それぞれ、架台テーブル8のテーブル面8aの上方に配置され、成形型2は、移送機構7により、架台テーブル8のテーブル面8aに沿って各部に移送される。また、架台テーブル8の側部には、各部(混合部3、圧縮成形部4と、検査部5、排出部6)と移送機構7を制御する制御機能やその他の機能(起動・停止ボタン等)を備えた制御部9が取り付けられている。以下、
図1の紙面において、テーブル面8aに沿った方向(移送機構7の移動方法)を左右方向、テーブル面8aと水平方向に直交する方向を前後方向(紙面手前側が前方、紙面奥側が後方)、テーブル面8aと鉛直方向に直交する方向を上下方向として説明を進める。
【0017】
この実施形態において、移送機構7は、成形型2を保持する保持部7aと、保持部7aをテーブル面8aに沿って左右方向に移動させる駆動部7bとを主要な要素として構成される。駆動部7bは、例えば、サーボモータ7b3で駆動されるリニアガイドであり、テーブル面8aの前縁に沿って左右方向に延びるレール7b1と、レール7b1上を左右方向に直線移動するキャリッジ(ブロック)7b2とを備えている。保持部7aは、キャリッジ7b2に連結されると共に、成形型2を収容して保持する貫通孔形状の保持孔7a1を備えている。サーボモータ7b3が作動して、キャリッジ7b2がレール7b1に沿って左右方向に移動すると、保持部7aの保持孔7a1に保持された成形型2は、その下端面がテーブル面8aに接触した状態で、テーブル面8a上を左右方向に移動する。
【0018】
図3は、秤量部1で秤量した二種以上の粉体原料を成形型2の成形孔2aに供給する工程の一例を模式的に示している。秤量部1は、各粉体原料の原料カートリッジから逐次に供給(分注)される所要量の粉体原料を秤量する。この例において、二種以上の粉体原料は、主薬(有効成分:主剤)P1、乳糖等の賦形剤P2、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤P3である。まず、粉体原料を受け入れ可能な受け孔10aを有する受け部材10を、ゲート板11を介して成形型2の上面に載置した成形型アッセンブリ2’を秤量部1にセットし、秤量部1で秤量した主薬P1、賦形剤P2および滑沢剤P3を受け部材10の受け孔10aに逐次に収容する。そして、上記の成形型アッセンブリ2’を秤量部1から取り出して、レール7b1の左端側の初期位置で待機する保持部7aの保持孔7a1に成形型2を収容する。その後、ゲート板11を引き抜いて、主薬P1、賦形剤P2および滑沢剤P3を受け部材10の受け孔10aから成形型2の成形孔2aに移す。これにより、成形型2の成形孔2aには、秤量部1で秤量された規定量の主薬P1、賦形剤P2および滑沢剤P3が供給される。その後、受け部材10を成形型2から外す。尚、これらの作業は、作業者(調剤者)が手動で行うが、必要に応じて自動化することもできる。
【0019】
上記のようにして、初期位置に在る成形型2の成形孔2aに規定量の主薬P1、賦形剤P2および滑沢剤P3を供給した後、制御部9の起動スイッチを押して装置を稼働させると、移送機構7が作動して、保持部7aに保持された成形型2が混合部3に移送される。
【0020】
図4及び
図5に示すように、この実施形態において、混合部3は、成形型2の成形孔2aに対応するフィルター3a1を備えたフィルタープレート3aと、フィルタープレート3aを昇降駆動する昇降駆動部3bと、成形型2の成形孔2aに流動化気体、例えば流動化空気を供給する気体供給部3cと、フィルタープレート3aのフィルター3a1に付着した粉体を払い落とす払い落とし部3dとを主要な要素として構成される。例えば、フィルター3a1は、フィルタープレート3aの中心部に設けられた段付き孔に収容され、適宜の押え手段(この例では、中空状の押しボルト、ナット、ネジプレート及びOリングで構成)で段付き孔に固定される。また、フィルタープレート3aの下面には、フィルター3a1の周囲を囲むようにOリング3a2が装着されている。昇降駆動部3bは、フィルタープレート3aに複数本の支柱部材3b1を介して連結されたシリンダプレート3b2と、シリンダプレート3b2に連結された直動アクチュエータ、例えばエアーシリンダ3b3とで構成される。エアーシリンダ3b3は、架台テーブル8に固定された取付フレーム3b4に取り付けられる。また、気体供給部3cは、架台テーブル8のテーブル面8aを上下方向に貫通するように形成された多数の微細な通気孔を有する通気部3c1と、通気部3c1に流動化空気(連続流又は脈動流)を流通させる気体通路3c2とで構成される。通気部3c1は、フィルタープレート3aのフィルター3a1と対向するテーブル面8aのエリアに設けられ、成形型2の成形孔2aの横断面積に対応する面積を有する。気体通路3c2は、流動化空気の供給源に通じる。払い落とし部3dは、例えば、エアー式のノッカー(圧縮空気の力でピストンがベース面を叩き、その衝撃によって粉体の付着や閉塞を防止する機器)、特にステンレスノッカーで構成され、フィルタープレート3aに取り付けられる。
【0021】
昇降駆動部3b、常時は、フィルタープレート3aを所定の待機位置に上昇させているが、移送機構7により、保持部7aに保持された成形型2が混合部3に移送されると、エアーシリンダ3b3が作動し、フィルタープレート3aが下降して、フィルタープレート3aの下面がOリング3a2を介して成形型2の上面に密着する。これにより、成形型2の成形孔2aの上端開口の周囲とフィルター3a1の周囲がOリング3a2によってシールされる。この状態で、流動化空気の供給源から気体通路3c2に流動化空気が供給される。
図5に拡大して示すように、気体通路3c2に供給された流動化空気Aは、気体通路3c2を流通して通気部3c1に入り、通気部3c1の通気孔から成形型2の成形孔2a内に噴出する。この通気部3c1の通気孔から噴出する流動化空気Aの気体流により、成形孔2a内の原料粉体P(主薬P1、賦形剤P2および滑沢剤P3)が流動して混合される。そして、成形孔2a内で原料粉体Pを流動させた流動化空気Aは、フィルタープレート3aのフィルター3a1を通過する際に固気分離されて外部に排気される。このような流動混合動作が所定時間行われることにより、成形孔2a内の原料粉体Pが均一に混合される。
【0022】
上記の所定時間が経過し、成形孔2a内の原料粉体Pが均一に混合されると、気体通路3c2への流動化空気の供給が停止され、払い落とし部3dによる払い落とし動作が開始される。払い落とし部3dの作動により、フィルタープレート3aに衝撃が加えられ、フィルター3a1に付着した粉体が払い落とされて、成形型2の成形孔2a内に戻される。そして、所定時間が経過し、払い落とし部3dが停止すると、エアーシリンダ3b3が作動して、フィルタープレート3aを待機位置まで上昇させる。その後、移送機構7により、保持部7aに保持された成形型2は混合部3から圧縮成形部4に移送される。
【0023】
図6に示すように、圧縮成形部4は、成形型2の成形孔2aに挿入されるパンチ4aと、パンチ4aを昇降駆動する昇降駆動部4bとを主要な要素として構成される。例えば、昇降駆動部4bは、サーボモータ駆動のプレス機で構成され、架台テーブル8を跨ぐように床面上に設置された門型のフレーム4cに取り付けられる。パンチ4aの昇降移動は、樹脂製のガイド部材4dによってガイドされる。ガイド部材4dは、テーブル面8aに固定されたブラケット4eに取り付けられる。また、パンチ4aによる圧縮成形荷重をテーブル面8aの下面から支持する台座ブロック4fが設けられている。
【0024】
昇降駆動部4cは、常時は、パンチ4aを所定の待機位置に上昇させているが、移送機構7により、保持部7aに保持された成形型2が圧縮成形部4に移送されると、昇降駆動部4cが作動し、パンチ4aが下降して成形型2の成形孔2aに入り、成形孔2a内の原料粉体P(主薬P1、賦形剤P2および滑沢剤P3の混合粉体)が圧縮される。
【0025】
この実施形態において、圧縮成形部4は、成形型2の成形孔2a内の原料粉体Pに対して、軽圧縮と本圧縮の2工程を別々に行う。軽圧縮は、成形孔2a内の原料粉体Pをパンチ4aにより軽く圧縮して、原料粉体Pの内部に混在している空気を抜くと共に、成形孔2a内での原料粉体Pの高さを所定高さに調整する工程である。この軽圧縮工程は、後述する検査部5で成形孔2a内の原料粉体Pの品質を検査する際に、原料粉体Pの上面の高さを一定にして、検査部5での品質検査の精度を高めることを主目的として行う。本圧縮は、成形孔2a内の原料粉体Pをパンチ4aにより所定の加圧力で圧縮成形して、錠剤を形成する工程である。
【0026】
移送機構7により、保持部7aに保持された成形型2が混合部3から圧縮成形部4に移送されると、圧縮成形部4で軽圧縮が行われ、成形孔2a内での原料粉体Pの高さが所定高さに調整される。その後、保持部7aに保持された成形型2は、移送機構7により、検査部5に移送される。
【0027】
図7、
図8に示すように、この実施形態において、検査部5は、測定対象物の品質に相関する光学情報(スペクトル)を取得する分光センサ、例えば近赤外分光センサ(NIRセンサ)5aと、近赤外分光センサ5aにより取得された測定対象物のスペクトル(NIRスペクトル)を分析して、測定対象物の品質を求める機能を有するセンサ本体部5b(
図1を参照)とを備えている。近赤外分光センサ5aは、架台テーブル8に取り付けられる。
【0028】
一般に、近赤外分光センサは、近赤外光を測定対象物に照射し、測定対象物で反射した反射光、または、測定対象物を透過した透過光を受光して、その測定対象物の反射光または透過光のスペクトル(NIRスペクトル)を取得する光学測定器である。この実施形態において、検査部5は、圧縮成形部4で軽圧縮された成形孔2a内の原料粉体Pの品質を反射方式で検査する工程(
図7)と、圧縮成形部4で本圧縮されて成形された成形孔2a内の錠剤Tの品質を透過方式で検査する工程(
図8)とを行う。透過方式での検査を行うために、成形型2の成形孔2aに臨むテーブル面8aのエリアには、テーブル面8aの下方側から照射される検査光L0(近赤外光)を透過させる透光部材5dが取り付けられている。この透光部材5dは、光学特性に優れたサファイアガラス等の光学ガラスで形成される。
【0029】
圧縮成形部4での軽圧縮を経て、保持部7aに保持された成形型2が移送機構7により検査部5に移送されると、
図7に示すように、近赤外分光センサ5aの投光部から成形孔2a内の原料粉体Pの上面に上方から検査光L0が照射され、原料粉体Pの上面で反射した反射光L1が近赤外分光センサ5aの受光部で受光される。近赤外分光センサ5aの受光部で受光された反射光L1のスペクトルは、センサ本体部5bに入力される。センサ本体部5bは、近赤外分光センサ5aから受領した反射光L1のスペクトルを分析して、原料粉体Pの品質、例えば、原料粉体Pの成分同定、かさ密度、混合度(分散度)、水分量、粒子径等を求め、成形孔2a内の原料粉体Pの品質が所要の品質レベルに適合するか否かを検査する。この検査結果は、「適合」・「不適合」の信号と共に制御部9に出力される。制御部9は、センサ本体部5bから受領した信号が「適合」であったときは、以降の工程を続行させ、センサ本体部5bから受領した信号が「不適合」であったときは、以降の工程を中止させると共に、「不適合」の検査結果(不適合とされた原料粉体Pの品質を含む)を適宜の手段(警告音やディスプレイ表示等)で作業者に通知する。また、制御部9は、保持部7aに保持された成形型2を移送機構7により排出部6(
図9を参照)に移送させ、成形孔7a内の原料粉体Pを押し出しピン6aで押し出してシュート6cに排出させる。シュート6cに排出された「不適合」の原料粉体Pは破棄される。排出部6での原料粉体Pの排出が完了すると、保持部7aは移送機構7により初期位置に戻される。作業者は、「不適合」の検査結果を参考にして、成形型2の成形孔2aに供給する原料粉体P(主薬P1、賦形剤P2および滑沢剤P3)の供給量や供給比率、混合部3における原料粉体Pの混合操作条件(例えば、成形型2の成形孔2a内に噴出される流動化空気Aの流量や流速)等を再調整して、錠剤製造を最初の工程(原料粉体の秤量)からやり直す。
【0030】
一方、制御部9は、センサ本体部5bから受領した信号が「適合」であったときは、保持部7aに保持された成形型2を移送機構7により圧縮成形部4に移送させる。保持部7aに保持された成形型2が検査部5から圧縮成形部4に移送されると、圧縮成形部4で本圧縮が行われ、成形孔2a内の原料粉体Pがパンチ4aで圧縮成形されて錠剤Tが形成される。その後、保持部7aに保持された成形型2は、移送機構7により再び検査部5に移送される。尚、制御部9は、センサ本体部5bから受領した「適合」の検査結果(適合とされた原料粉体Pの品質を含む)に基づいて、圧縮成形時のパンチ4aの加圧力を調整するものであってもよい。
【0031】
圧縮成形部4での本圧縮を経て、保持部7aに保持された成形型2が検査部5に移送されると、
図8に示すように、近赤外分光センサ5aの投光部から成形孔2a内の錠剤Tに下方から検査光L0が照射され、錠剤Tを透過した透過光L2が近赤外分光センサ5aの受光部で受光される。近赤外分光センサ5aの受光部で受光された透過光L2のスペクトルは、センサ本体部5bに入力される。センサ本体部5b、近赤外分光センサ5aから受領した透過光L2のスペクトルを分析して、錠剤Tの品質、例えば、錠剤Tの成分含量、主薬含量、厚さ、硬さ、水分量、溶出性、不純物の有無等を求め、成形孔2a内の錠剤Tの品質が所要の品質レベルに適合するか否かを検査する。この検査結果は、「適合」・「不適合」の信号として制御部9に出力される。制御部9は、センサ本体部5bから受領した信号が「不適合」であったときは、「不適合」の検査結果を適宜の手段(警告音やディスプレイ表示等)で作業者に通知する。
【0032】
上記の検査工程の後、保持部7aに保持された成形型2は移送機構7により排出部6に移送される。
図9に示すように、排出部6は、成形型2の成形孔2aに挿入される押出しピン6aと、押出しピン6aを昇降駆動する昇降駆動部6bと、テーブル面8aの下方に配置された傾斜状のシュート6cとを主要な要素として構成される。昇降駆動部6bは、直動アクチュエータ、例えばエアーシリンダ6b1を主体として構成される。エアーシリンダ6b1は、架台テーブル8に固定された取付フレーム6dに取り付けられる。また、押出しピン6aと対向するテーブル面8aのエリアには、錠剤Tを通過させる貫通孔6eが設けられている。
【0033】
昇降駆動部6bは、常時は、押出しピン6aを所定の待機位置に上昇させているが、移送機構7により、保持部7aに保持された成形型2が排出部6に移送されると、エアーシリンダ6b1が作動し、押出しピン6aが下降して成形型2の成形孔2aに入り、成形孔2a内の錠剤Tを押し出してシュート6cに排出する。シュート6cに排出された錠剤Tは、シュート6cの下端部の収容部6c1に収容される。排出部6での錠剤Tの排出が完了すると、保持部7aは移送機構7により初期位置に戻される。
【0034】
作業者は、錠剤Tの品質に関し、制御部9から「不適合」の検査結果を通知されていなかった場合は、シュート6cの収容部6c1に収容された錠剤Tを回収して、患者の服用に供する。一方、作業者は、錠剤Tの品質に関し、制御部9から「不適合」の検査結果を通知されていた場合は、シュート6cの収容部6c1に収容された錠剤Tを破棄し、成形型2の成形孔2aに供給する原料粉体P(主薬P1、賦形剤P2および滑沢剤P3)の供給量や供給比率、混合部3における原料粉体Pの混合操作条件(例えば、成形型2の成形孔2a内に噴出される流動化空気Aの流量や流速)、圧縮成形部4における圧縮成形条件(例えば、パンチ4aの加圧力)等を再調整して、錠剤製造を最初の工程(原料粉体の秤量)からやり直す。
【0035】
以上の錠剤製造工程は、必要数の錠剤Tが得られるまで繰り返される。
【0036】
この実施形態の錠剤製造装置は、患者の容態に応じて、必要な錠剤を必要な量だけタイムリーに製造することができ、また、コンパクトである。また、この実施形態の錠剤製造装置および錠剤製造方法によれば、秤量された二種以上の粉体原料を成形型2の成形孔2aに供給し、錠剤製造の各工程(原料粉体の混合、圧縮成形および品質検査、錠剤の品質検査)を全て成形型2の成形孔2a内で行うので、成分含量のバラツキが少なく、目標とする品質の錠剤を製造することができると共に、製造工程での材料ロスを極小化することができる。
【0037】
上記の実施形態において、混合部3は、成形型2の成形孔2aに供給された二種以上の原料粉体を成形孔2a内で気体流により流動させて混合するように構成されているが(流動混合)、混合方式として、例えば、成形型2の成形孔2aに適宜の攪拌部材を挿入して成形孔2a内の粉体原料を攪拌する方式や、成形型2に振動や回転運動等を与えて成形孔2aの原料粉体を混合する方式を採用してもよい。
【0038】
また、排出部6において、成形型2の成形孔2aから原料粉体Pまたは錠剤Tを排出した後、成形孔2aに圧縮空気(パルスエアーを含む)を噴射して、成形孔2aに付着した粉体を除去するようにしてもよい。
【0039】
また、上記の実施形態において、成形型2を移送する移送機構7は、保持部7aと駆動部7b(リニアガイド)で構成されているが、成形型2を多軸ロボットや多関節ロボットでハンドリングして移送する構成にしてもよい。この場合、多軸ロボットや多関節ロボットを取り囲むように構成した架台テーブルのテーブル面の上方に、混合部3、圧縮成形部4と、検査部5、排出部6を順次に配置するとよい。
【符号の説明】
【0040】
1 秤量部
2 成形型
2a 成形孔
3 混合部
4 圧縮成形部
5 検査部
6 排出部