(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】優れたイオン伝導度を示す非晶質硫化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20250410BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250410BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250410BHJP
H01B 1/10 20060101ALN20250410BHJP
H01B 1/06 20060101ALN20250410BHJP
C01B 17/20 20060101ALN20250410BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/10
H01B1/06 A
C01B17/20
(21)【出願番号】P 2023566992
(86)(22)【出願日】2022-06-23
(86)【国際出願番号】 KR2022008949
(87)【国際公開番号】W WO2023277449
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】10-2021-0083637
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523373474
【氏名又は名称】ベイラブ コープ
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】ジヒョン セオ
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098351(WO,A1)
【文献】特開平09-110404(JP,A)
【文献】CHEN, Hao et al.,Unifom High Ionic Conducting Lithium Sulfide Protection Layer for Stable Lithium Metal Anode,ADVANCED ENERGY MATERIALS,ドイツ,WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim,2019年04月30日,Vol.9, No.22,p.1900858(inner pp.1-8)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01B 1/10
H01B 1/06
C01B 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属または前記金属を含む合金を準備する段階と、
前記金属または合金の表面上に硫黄ソースを気相で供給する段階と、
前記硫黄ソースと前記金属または合金との硫化反応温度を常温~300℃に調節し、反応速度を制御して非晶質硫化物の密度を調節する段階と、を含み、
前記金属または前記金属を含む合金は、リチウム(Li)、銅(Cu)、ランタン(La)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びジルコニウム(Zr)からなる群から選択される1種以上であり、
イオン伝導度を高めるために、反応速度を大きくして前記金属の原子と硫黄原子との面間距離を大きくし、非晶質硫化物の密度を低くすることを特徴とする、優れたイオン伝導度を示す非晶質硫化物の製造方法。
【請求項2】
前記硫黄ソースは、硫化水素(H
2S)、硫黄蒸気(S vapor)、メチルメルカプタン(methyl mercaptan)またはチオール(thiol)基を含む化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の優れたイオン伝導度を示す非晶質硫化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は非晶質硫化物の密度を制御する方法に関し、より詳しくは、金属または合金表面上に硫黄ソースを気相で供給して硫化反応を実施するにあたり、反応温度及び速度を調節して金属原子とカルコゲン原子(例えば、硫黄原子)との面間距離を制御することにより、リチウムイオンのイオン伝導度の高い非晶質硫化物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ及び携帯電話などの情報関連器機や通信器機などの急速な普及に伴って、その電源として用いられる電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界などにおいても、電気自動車用またはハイブリッド自動車用の高出力および高容量の電池の開発が行われている。現在、さまざまな電池のうちでもエネルギー密度が高いという観点で、リチウム電池が注目を引いている。
【0003】
リチウム二次電池はリチウムイオンの酸化還元反応を用いて充電及び放電を行う電池であり、イオン交換膜を間に挟んで形成された正極および負極並びに電解液からなる。
【0004】
このようなリチウム二次電池を、電気自動車を含めたより大容量な電池を要求するシステムに使用するために、負極活物質の容量を増やして出力特性及び寿命特性を向上させる必要性がある。
【0005】
現在、市販されているリチウム電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液を使用しているので、短絡時の温度上昇を抑制する安全装置の装着や短絡防止のための構造および材料の面での改善が必要である。このような電解質材料として硫化物が使用されており、硫化物電解質材料はLiイオン伝導性が高くて電池の高出力化を図るのに有用である。
【0006】
従来は、多様な方法で硫化物材料を合成して製造した。CuKa線を用いたX線回折測定において2θ角のピークを測定することによって結晶性を定義したが、このような方法によっては金属原子とカルコゲン原子との面間距離を制御することができないので、イオン伝導性の調節が難しい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は非晶質硫化物の密度を制御してリチウムイオンのイオン伝導度の高い非晶質硫化物を製造する方法を提供するためのものである。具体的には、本開示は、リチウムイオンのイオン伝導度を高めるために、非晶質硫化物の密度をできるだけ低く制御することができる非晶質硫化物を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一方で、本開示は、
金属または前記金属を含む合金を準備する第1段階と、
前記金属または合金の表面上に硫黄ソースを気相で供給する第2段階と、を含み、
前記第2段階で、前記硫黄ソースと前記金属または合金との硫化反応温度、及び硫黄ソースの流量または流速のうちの少なくとも一つを調節することを特徴とする、優れたイオン伝導度を示す非晶質硫化物の製造方法を提供する。
【0010】
前記硫黄ソースと前記金属または合金との硫化反応温度、及び硫黄ソースの流量または流速のうちの少なくとも一つの調節によって非晶質硫化物の密度を調節することができる。
【0011】
前記硫化反応温度の調節によって反応速度(硫化反応速度)を制御し、前記硫化反応温度は常温(約20℃~25℃)~300℃であり得る。
【0012】
前記硫黄ソースの流量または流速の調節によって反応速度(硫化反応速度)を制御することができる。
【0013】
前記反応速度の制御によって前記非晶質硫化物の密度を調節することができる。例えば、反応速度が早くなるほど非晶質硫化物の密度が低下することができる。
【0014】
第1段階で、前記合金は反応器内に準備し、第2段階で、前記硫黄ソースは前記反応器内に供給することができる。
【0015】
第2段階で、前記硫黄ソースは連続的にまたはパルス方式で供給することができる。
【0016】
前記硫黄ソースは、硫化水素(H2S)、硫黄蒸気(S vapor)、メチルメルカプタン(methyl mercaptan)またはチオール(thiol)基を含む化合物であり得る。
【0017】
前記金属または前記金属を含む合金は、リチウム(Li)、銅(Cu)、ランタン(La)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びジルコニウム(Zr)からなる群から選択される1種以上であり得る。
【0018】
また、本開示はリチウムイオンバッテリーに関するものであり、正極、負極、及び電解質を含み、前記電解質は前述した方法で製造された非晶質化合物を含む、リチウムイオンバッテリーを提供する。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、硫化反応の温度及び速度を調節して金属原子とカルコゲン原子との面間距離を制御することによってリチウムイオンのイオン伝導度の高い非晶質硫化物を製造することができる。
【0020】
また、本開示による方法によって製造された非晶質硫化物をリチウムイオンバッテリーの電解質に含むことができ、リチウムイオンのイオン伝導性を高めて優れた寿命特性及び安全性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の一実施形態による製造方法の全体工程図である。
【
図2】本開示の硫化反応速度によって密度が制御された硫化物合成の例を示す図である。
【
図3】金属原子およびカルコゲン原子の温度による平均面間距離を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示をより詳細に説明する。
本開示の一実施形態は優れたイオン伝導度を示す非晶質硫化物の製造方法に関するものであり、
金属または前記金属を含む合金を準備する段階と、
前記金属または合金の表面上に硫黄ソースを気相で供給する段階と、
前記硫黄ソースと前記金属または合金との硫化反応温度を常温~300℃に調節して反応速度を制御する段階と、
前記反応速度を制御して非晶質硫化物の密度を調節する段階と、を含むことを特徴とする。
【0023】
本開示による製造方法は、金属または合金表面上に硫黄ソースを気相で供給して硫化反応を実施するにあたり、反応速度を調節して金属原子とカルコゲン(Chalcogen)原子との面間距離を制御することによってリチウムイオンのイオン伝導度の高い非晶質硫化物を製造することを特徴とする。
【0024】
例えば、
図1は本開示の一実施形態による製造方法の全体工程図である。具体的には、
図1は反応温度及び硫黄ソースの流量(または流速)の調節による硫化反応速度の差を示す。
【0025】
図1を参照すると、硫化反応速度1は硫化反応速度2より大きく(早く)、硫化反応速度2に比べて、硫化反応速度1で金属原子とカルコゲン原子との平均面間距離が大きい。よって、硫化反応速度1での結果物の厚さt1が硫化反応速度2での結果物の厚さt2より大きいことが分かる。
【0026】
そして、硫化反応速度2に比べて、硫化反応速度1で、金属原子とカルコゲン原子との面間距離(または、非晶質硫化物の原子の平均面間距離)が相対的に大きくなり、密度が相対的に低くなったことが分かる。
【0027】
例えば、硫黄ソースの流量(または流速)が一定した状態で、反応温度が高くなるほど、硫化反応速度が早くなることができる。ここで、反応温度は、後述するように、300℃を超えない範囲に設定することが好ましい。
【0028】
図3を参照すると、温度による金属原子とカルコゲン原子との平均面間距離が分かる。また、平均面間距離に基づいて非晶質温度区間と結晶質温度区間とを区分することができる。
【0029】
反応温度が非晶質温度区間(例えば、常温~300℃)を超えれば、反応物が高温で結晶化するので、金属原子とカルコゲン原子との平均面間距離を制御することができなくなる。すなわち、反応温度が非晶質温度区間を超えれば、相対的に低密度を有する非結晶質硫化物の製造が不可能になる。
【0030】
本開示によれば、反応温度の制御により、金属原子とカルコゲン原子との面間距離を相対的に大きく確保しながら非晶質硫化物の特性を維持することができる。
【0031】
前述した反応温度は、硫黄ソースと反応させる金属またはこれを含む合金を構成する元素に基づいて決定することができる。
【0032】
一方、反応温度が一定した状態で、硫黄ソースの流量(または流速)が増加するほど硫化反応速度が早くなることができる。
【0033】
図2は硫化反応温度を300℃に固定し、硫黄ソースの供給流量(または流速)を変えて反応させた合金の断面の電子顕微鏡写真である。硫黄ソースの供給流量(または流速)によって結果物の厚さがt1~t3に変わったことが分かる。すなわち、
図2を参照すると、一定時間供給される硫黄ソースの供給流量(または流速)の調節による反応速度の制御によって非晶質硫化物の成長速度及び密度を制御することが分かる。
【0034】
図2を参照すると、左側から右側に行くほど、一定の時間に硫黄ソースの流量(または流速)を減少させた場合の結果物を示す。
【0035】
反応温度が一定(例えば、約300℃)した状態で、硫黄ソースの流量(または流速)が大きくなるほど非晶質硫化物の厚さが厚くなることが分かる。すなわち、硫黄ソースの流量(または流速)を相対的に大きくした場合の結果物の厚さt1が一番左側に示されており、硫黄ソースの流量(または流速)を相対的に小さくした場合の結果物の厚さt3が一番右側に示されている。
【0036】
図2に示したように、反応温度が一定した状態では、硫黄ソースの流量(または流速)を増加させることにより、金属原子と硫黄原子との面間距離(または、非晶質の平均面間距離)が相対的に大きくなり、結果物の厚さが厚くなり、密度が相対的に低くなったことが分かる。
【0037】
本開示による製造方法によって製造される硫化物は、X線回折測定などにおいてピークを有しないほどに結晶としての周期性が観測されない非晶質の特性を示すことを特徴とし、これによって優れたイオン伝導性を示すことができる。
【0038】
本開示の一実施形態で、前記カルコゲン(Chalcogen)は酸素族元素であり、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)及びポロニウム(Po)を意味する。本開示で産出される硫化物は、Li、Ba、Cu、P、Clが含まれた化合物がカルコゲン元素として硫黄元素を使用することが好ましく、これを提供するために硫黄元素を含む黄ソースを使用する。
【0039】
前記硫黄ソースは、硫化水素(H2S)、硫黄蒸気(S vapor)、メチルメルカプタン(methyl mercaptan)、またはチオール(thiol)基を含む化合物などを使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0040】
前記硫黄ソースは気体状態で供給し、連続的にまたはパルス方式で供給することができる。
【0041】
本開示の一実施形態で、前記金属またはこれを含む合金は、リチウム(Li)、銅(Cu)、ランタン(La)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びジルコニウム(Zr)からなる群から選択される1種以上を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0042】
本開示の一実施形態で、前記気相の硫黄ソースを同じ反応器内で連続的にまたはパルス方式で供給し、常温~300℃の温度範囲で0.1~5時間実施することが好ましい。反応器内には、水素(H2)、アルゴン(Ar)、窒素(N2)などの気体が一定の流量で流れることができる。
【0043】
本開示の一実施形態で、遷移金属カルコゲン化合物(Transition Metal Dichalcogenides、TMD)は二次元構造を有する。遷移金属カルコゲン化合物のような二次元素材は一層内の原子の間には共有結合によって非常に強い結合力を有しており、その層等は互いに弱く結合しているので、多層に積層されている形態で存在する。遷移金属カルコゲン化合物は電気移動度が200cm2/Vs程度に高く、オンオフ比(on-off ratio)が108の非常に優れた物質である。また、遷移金属カルコゲン化合物は柔軟な特性を有しているので、柔軟な薄膜トランジスタ、フレキシブル(flexible)ディスプレイを具現するためのチャネル層などに使用するのに適した利点を有している。
【0044】
このような二次元遷移金属カルコゲン化合物を製造する方法としては、基板上に大面積の均一な膜を形成する蒸着法を用いる。蒸着法は、大別して化学気相蒸着(Chemical Vapor Deposition、CVD)または原子層蒸着(Atomic Layer Deposition、ALD)法などを用いる。しかし、前記方法はバルク(Bulk)形態に合成するのには適しないことがある。
【0045】
また、従来の化学気相蒸着法は、蒸着速度が遅いから、厚さ3μm以下の薄膜を蒸着するのに主に使用し、それ以上の厚さを有する厚膜を蒸着するためには、チャンバー(反応器)内の原料物質の濃度をかなり増加させなければならない。しかし、チャンバー内に高濃度の原料物質を注入すると、原料物質がチャンバーの全体に拡散してチャンバーの内壁などの構造物に蒸着する現象が起こって汚染粒子が発生する問題点がある。
【0046】
したがって、本開示による製造方法は、遷移金属カルコゲン化合物をバルク(Bulk)形態に合成するために、対象金属及び合金の表面に、硫黄前駆体または硫黄ソース物質の気相反応によって非晶質硫化物を直接形成する方法を使用する。
【0047】
本開示の一実施形態で、前記硫黄ソースと前記金属または合金との硫化反応の温度は常温~300℃であることが好ましい。
【0048】
前記反応温度が前記範囲を満たしていない場合(例えば、反応温度が前記範囲を超える場合)、反応物が高温で結晶化するから、平均面間距離を制御することができず、素材や試料を支持する集電体と副反応を引き起こして集電体を損傷させることがあり、当該工程温度で工程装備の内部または内部部品の腐食も引き起こすことがある。
【0049】
本開示の一実施形態で、前記硫黄ソースと前記金属または合金との硫化反応の速度は前記反応温度を制御することによって調節可能であり、これにより非晶質硫化物の密度を調節することができる。
【0050】
また、前記反応速度を制御することにより、前記金属原子と硫黄原子との面間距離(または、非晶質の平均面間距離)を調節することができる。非晶質の場合、原子間距離は材料の固定定数ではなく、一定の範囲内で多様な値を有することができる。反応速度が高い場合、熱力学的に十分な平衡を有することができなくて緻密化が足りない非晶質状態を有することがある。よって、同じ組成の結晶質に比べて密度が低い非晶質素材の形成が可能である。
【0051】
本開示は、正極、負極、及び電解質を含み、前記電解質は前述した方法によって製造される非晶質硫化物を含むリチウムイオンバッテリーに関する。
【0052】
本開示によれば、前述した非晶質硫化物を含むことにより、リチウムイオンのイオン伝導性を向上させて寿命特性及び安全性に優れたリチウムイオンバッテリーを製造することができる。
【0053】
以上、本開示の特定の部分を詳細に記述したが、本開示が属する技術分野で通常の知識を有する者にこのような具体的な技術は単に好適な具体例であるだけで、これに本開示の範囲が制限されるものではないというのは明らかである。本開示が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば前記内容に基づいて本開示の範疇内で多様な応用及び変形が可能であろう。
【0054】
したがって、本開示の実質的な範囲は添付する特許請求の範囲およびその等価物によって定義されると言える。