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特許7664023ワーク加工用シートおよび加工済みワークの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】ワーク加工用シートおよび加工済みワークの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20250410BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20250410BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250410BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20250410BHJP
【FI】
H01L21/78 M
B32B7/022
B32B27/00 M
C09J7/38
H01L21/78 Q
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020013365
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021119592
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-10-31
【審判番号】
【審判請求日】2024-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】高麗 洋佑
(72)【発明者】
【氏名】坂本 美紗季
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】三浦 みちる
【審判官】綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/190230(WO,A1)
【文献】特開2012-116932(JP,A)
【文献】特開2004-35777(JP,A)
【文献】国際公開第2019/172439(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
C09J 7/38
B32B 7/022
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の片面側に積層された粘着剤層とを備えたワーク加工用シートであって、
前記基材が、ポリブチレンテレフタレートおよび熱可塑性ポリエステル・エラストマー樹脂の少なくとも一種から構成されるフィルムであり、
120℃で4時間加熱した後における前記基材の23℃におけるヤング率が、600MPa以下であり、
120℃における前記基材の貯蔵弾性率E’が、33MPa以上であり、
前記ワーク加工用シートが、前記粘着剤層における前記基材とは反対の面側に、加工前または加工後のワークを積層した状態で、前記ワーク加工用シートを加熱する工程を備えるワーク加工方法に使用される
ことを特徴とするワーク加工用シート。
【請求項2】
基材と、前記基材の片面側に積層された粘着剤層とを備えたワーク加工用シートであって、
前記基材が、ポリブチレンテレフタレートおよび熱可塑性ポリエステル・エラストマー樹脂の少なくとも一種から構成されるフィルムであり、
120℃で4時間加熱した後における前記基材の23℃における破断伸度が、200%以上であり、
120℃における前記基材の貯蔵弾性率E’が、33MPa以上であり、
前記ワーク加工用シートが、前記粘着剤層における前記基材とは反対の面側に、加工前または加工後のワークを積層した状態で、前記ワーク加工用シートを加熱する工程を備えるワーク加工方法に使用される
ことを特徴とするワーク加工用シート。
【請求項3】
120℃で4時間加熱した後における前記基材の23℃におけるヤング率が、600MPa以下であることと、
120℃で4時間加熱した後における前記基材の23℃における破断伸度が、200%以上であることと
をともに満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のワーク加工用シート。
【請求項4】
前記基材の厚さは、50μm以上、200μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【請求項5】
前記粘着剤層は、活性エネルギー線硬化性粘着剤からなることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のワーク加工用シートの、前記粘着剤層における前記基材とは反対側の面にワークを貼合する貼合工程と、
前記ワーク加工用シート上にて前記ワークをダイシングすることで、前記ワークが個片化してなる加工後のワークを得るダイシング工程と、
前記加工後のワークを、前記ワーク加工用シート上に貼合された状態で、加熱を伴う処理に供する加熱工程と、
前記加工後のワークを前記ワーク加工用シートからピックアップするピックアップ工程と
を備えることを特徴とする加工済みワークの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等のワークの加工に好適に使用することができるワーク加工用シートに関するものであり、特に、加工前または加工後のワークを積層した状態でワーク加工用シートを加熱する工程を含むワークの加工方法に好適に使用することができるワーク加工用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造方法は、一般的に、ワーク加工用シート上において、ワークとしての半導体ウエハを個片化(ダイシング)して、複数の半導体チップを得るダイシング工程と、得られた半導体チップをワーク加工用シートから個々に取り上げる(ピックアップ)ピックアップ工程とを含む。
【0003】
上記ピックアップ工程では、半導体チップのピックアップを容易にするために、ワーク加工用シートにおける半導体チップが積層された面とは反対の面から、半導体チップを個々に突き上げることを行う場合がある。特に、上記ピックアップ工程では、ピックアップの際の半導体チップ同士の衝突を抑制するとともに、ピックアップを容易にするために、通常、ワーク加工用シートを延伸(エキスパンド)させて、半導体チップ同士を離間させることが行われる。そのため、ワーク加工用シートには、良好なエキスパンドを可能にする優れた柔軟性を有することが求められる。
【0004】
近年、個片化された半導体チップをワーク加工用シートに積層した状態で加熱することが増えている。例えば、ワーク加工用シート上の半導体チップに対して、蒸着、スパッタリング、脱湿のためのベーキング等の処理が行われたり、半導体チップが高温環境下で使用される場合には、高温環境下での信頼性を確認するための加熱試験が行われる。このような加熱を伴う処理においては、加熱によってワーク加工用シートが装置等に融着することがあり、その場合、続く工程に向けてワーク加工用シートを搬送できなくなるという問題が生じる。そのため、加熱を伴う工程に供されるワーク加工用シートには、所定の耐熱性も求められる。
【0005】
耐熱性を有するワーク加工用シートの例として、特許文献1には、ガラス転移温度が70℃以上である基材の少なくとも片面に、昇温速度2℃/minで室温から200℃まで昇温した際の熱重量減少率が2%未満である粘着剤層を設けてなる耐熱ダイシングテープ又はシートであって、当該粘着剤層が、所定の組成を有するエネルギー線硬化型粘着剤で構成されているとともに、加熱を含む処理を行った後の粘着力が所定の値を示す耐熱ダイシングテープ又はシートが開示されている。
【0006】
また、耐熱性を有するワーク加工用シートの別の例として、特許文献2には、所定の熱収縮率を有する基材と、当該基材上に設けられ、所定の組成を有する粘着剤層とを備える耐熱性粘着シートが開示されている。さらに、特許文献3には、所定の熱収縮率および線膨張係数を有する基材と、当該基材上に設けられ、所定の組成を有する粘着剤層とを備える耐熱性粘着シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4781185号
【文献】国際公開第2015/174381号
【文献】国際公開第2014/199993号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3に開示されるワーク加工用シートは、所定の耐熱性を有するものの、加熱処理を行った後においては、柔軟性が不十分となるものであった。特に、加熱時間が数時間単位といった長時間に及ぶ場合には、柔軟性が大きく損なわれるものであった。このように、従来の半導体加工用シートでは、加熱後における優れた取り扱い性と優れたエキスパンド性とを両立させることが難しく、一方の特性を優先させると、他方の特性が損なわれ易いものであった。
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、加熱後であっても、取り扱い性とエキスパンド性とを良好に両立できるワーク加工用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材の片面側に積層された粘着剤層とを備えたワーク加工用シートであって、120℃で4時間加熱した後における前記基材の23℃におけるヤング率が、2000MPa以下であり、120℃における前記基材の貯蔵弾性率E’が、33MPa以上であることを特徴とするワーク加工用シートを提供する(発明1)。
【0011】
上記発明(発明1)に係るワーク加工用シートは、上述したヤング率および貯蔵弾性率E’を満たすことにより、加熱後においても、取り扱い性に優れるとともに、エキスパンド性にも優れたものとなっている。
【0012】
第2に本発明は、基材と、前記基材の片面側に積層された粘着剤層とを備えたワーク加工用シートであって、120℃で4時間加熱した後における前記基材の23℃における破断伸度が、100%以上であり、120℃における前記基材の貯蔵弾性率E’が、33MPa以上であることを特徴とするワーク加工用シートを提供する(発明2)。
【0013】
上記発明(発明2)に係るワーク加工用シートは、上述した判断伸度および貯蔵弾性率E’を満たすことにより、加熱後においても、取り扱い性に優れるとともに、エキスパンド性にも優れたものとなっている。
【0014】
上記発明(発明1,2)において、120℃で4時間加熱した後における前記基材の23℃におけるヤング率が、2000MPa以下であることと、120℃で4時間加熱した後における前記基材の23℃における破断伸度が、100%以上であることとをともに満たすことが好ましい(発明3)。
【0015】
上記発明(発明1~3)において、前記基材の厚さは、50μm以上、200μm以下であることが好ましい(発明4)。
【0016】
上記発明(発明1~4)において、前記粘着剤層は、活性エネルギー線硬化性粘着剤からなることが好ましい(発明5)。
【0017】
上記発明(発明1~5)において、前記粘着剤層における前記基材とは反対の面側に、加工前または加工後のワークを積層した状態で、前記ワーク加工用シートを加熱する工程を備えるワーク加工方法に使用されることが好ましい(発明6)。
【0018】
第3に本発明は、前記ワーク加工用シート(発明1~6)の、前記粘着剤層における前記基材とは反対側の面にワークを貼合する貼合工程と、前記ワーク加工用シート上にて前記ワークをダイシングすることで、前記ワークが個片化してなる加工後のワークを得るダイシング工程と、前記加工後のワークを、前記ワーク加工用シート上に貼合された状態で、加熱を伴う処理に供する加熱工程と、前記加工後のワークを前記ワーク加工用シートからピックアップするピックアップ工程とを備えることを特徴とする加工済みワークの製造方法を提供する(発明7)。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るワーク加工用シートは、加熱後であっても、取り扱い性とエキスパンド性とを良好に両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係るワーク加工用シートは、基材と、当該基材における片面側に積層された粘着剤層とを備える。
【0021】
本実施形態に係るワーク加工用シートでは、120℃における基材の貯蔵弾性率E’が33MPa以上である。基材がこのような貯蔵弾性率E’を示すことにより、本実施形態に係るワーク加工用シートは、加熱される工程に供された場合であっても、装置等への基材の融着の発生が抑制される。これにより、加熱処理を行う装置等から、加熱後のワーク加工用シートを取り上げ、次の工程へ良好に搬送することが可能となる。すなわち、本実施形態に係るワーク加工用シートは、加熱された場合であっても、優れた取り扱い性を有するものとなる。より優れた取り扱い性を実現する観点から、上述した貯蔵弾性率E’は、100MPa以上であることが好ましく、特に110MPa以上であることが好ましい。
【0022】
一方、上記貯蔵弾性率E’の上限値については特に限定されないものの、例えば、500MPa以下であることが好ましく、特に300MPa以下であることが好ましく、さらには200MPa以下であることが好ましい。なお、上述した貯蔵弾性率E’とは、基材のMD方向(基材の製造時の流れ方向)およびCD方向(MD方向に直交する方向)のそれぞれについて測定された貯蔵弾性率E’の平均値を指し、その測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。また、上記貯蔵弾性率E’は基材単体についての値であるものの、通常は、当該基材に粘着剤層が積層されてなるワーク加工用シートについての貯蔵弾性率E’も、基材単体のそれとほぼ同じ値となる。
【0023】
また、本実施形態に係るワーク加工用シートでは、120℃で4時間加熱した後における基材の23℃におけるヤング率が、2000MPa以下であることが好ましい。基材がこのようなヤング率を示すことにより、本実施形態に係るワーク加工用シートは、加熱される工程に供された場合であっても、良好な柔軟性を発揮できるものとなる。それにより、加熱処理後において、ワーク加工用シートの良好にエキスパンドすることが可能となる。より優れたエキスパンド性を実現する観点から、上述したヤング率は、1000MPa以下であることがより好ましく、特に600MPa以下であることが好ましく、さらには500MPa以下であることが好ましい。
【0024】
一方、上記ヤング率の下限値については、より優れた柔軟性を実現し、特にエキスパンド時におけるシートの裂けを効果的に防ぐ観点から、50MPa以上であることが好ましく、特に300MPa以上であることが好ましく、さらには400MPa以上であることが好ましい。なお、上述したヤング率は、基材のMD方向およびCD方向のそれぞれについて測定されたヤング率の平均値を指し、その測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。また、上記ヤング率は基材単体についての値であるものの、通常は、当該基材に粘着剤層が積層されてなるワーク加工用シートについてのヤング率も、基材単体のそれとほぼ同じ値となる。
【0025】
また、本実施形態に係るワーク加工用シートでは、120℃で4時間加熱した後における基材の23℃における破断伸度が、100%以上であることも好ましい。基材がこのような破断伸度を示すことにより、本実施形態に係るワーク加工用シートは、加熱される工程に供された場合であっても、良好な柔軟性を発揮できるものとなる。それにより、加熱処理後において、ワーク加工用シートの良好にエキスパンドすることが可能となる。より優れたエキスパンド性を実現する観点から、上述した破断伸度は、特に150%以上であることが好ましく、さらには200%以上であることが好ましい。
【0026】
一方、上記破断伸度の上限値については、750%以下であることが好ましく、特に400%以下であることが好ましい。なお、上述した破断伸度は、基材のMD方向およびCD方向のそれぞれについて測定された破断伸度の平均値を指し、その測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。また、上記破断伸度は基材単体についての値であるものの、通常は、当該基材に粘着剤層が積層されてなるワーク加工用シートについての破断伸度も、基材単体のそれとほぼ同じ値となる。
【0027】
本実施形態に係るワーク加工用シートでは、基材が上述した貯蔵弾性率E’を満たすとともに、上述したヤング率および破断伸度の少なくとも一方を満たすことにより、加熱後における優れた取り扱い性と優れたエキスパンド性とを両立することができるものである。しかしながら、優れた取り扱い性と優れたエキスパンド性とをより高い次元で両立する観点からは、基材が上述した貯蔵弾性率E’を満たすとともに、上述したヤング率および破断伸度の両方を満たすことが好ましい。
【0028】
1.ワーク加工用シートの構成
(1)基材
本実施形態における基材は、上述した貯蔵弾性率E’を示すとともに、上述したヤング率および破断伸度の少なくとも一方を示すものとなる限り、その組成は限定されない。これらの物性を達成し易いという観点からは、基材は、ポリブチレンテレフタレートおよび熱可塑性ポリエステル・エラストマーの少なくとも一種を材料とするものであることが好ましい。
【0029】
また、基材の材料の上記以外の例としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン-ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;ポリスチレンフィルム;ポリエーテルイミドフィルム;ポリエーテルエーテルケトンフィルム;フッ素樹脂フィルム等が挙げられる。また、基材は、これらの架橋フィルム、アイオノマーフィルムのような変性フィルムであってもよい。
【0030】
本実施形態における基材は、上述した材料の1種からなるフィルムでもよいし、さらにこれらを2種類以上組み合わせた積層フィルムであってもよい。
【0031】
粘着剤層との密着性を向上させる目的で、基材における粘着剤層を積層する面には、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施してもよい。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。
【0032】
本実施形態における基材は、着色剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤を含有してもよい。また、粘着剤層が、活性エネルギー線により硬化する材料を含む場合、基材は活性エネルギー線に対する透過性を有することが好ましい。
【0033】
本実施形態における基材の製造方法は、前述した物性を達成する基材を製造できる限り特に限定されず、例えば、Tダイ法、丸ダイ法等の溶融押出法;カレンダー法;乾式法、湿式法等の溶液法等によって、上述した材料をシート状に成形することで製造することができる。
【0034】
本実施形態における基材の厚さは、50μm以上、200μm以下であることが好ましい。基材の厚さが当該範囲であることで、基材が前述した物性を満たし易くなり、それにより、優れた取り扱い性と優れたエキスパンド性とをより高い次元で実現し易いものとなる。
【0035】
(2)粘着剤層
本実施形態における粘着剤層を構成する粘着剤としては、被着体に対する十分な粘着力(特に、ワークの加工を行うために十分となるような対ワーク粘着力)を発揮することができる限り、特に限定されない。粘着剤層を構成する粘着剤の例としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、所望の粘着力を発揮し易いという観点から、アクリル系粘着剤を使用することが好ましい。
【0036】
本実施形態における粘着剤層を構成する粘着剤は、活性エネルギー線硬化性を有しない粘着剤であってもよいものの、活性エネルギー線硬化性を有する粘着剤(以下、「活性エネルギー線硬化性粘着剤」という場合がある。)であることが好ましい。粘着剤層が活性エネルギー線硬化性粘着剤から構成されていることで、活性エネルギー線の照射により粘着剤層を硬化させて、ワーク加工用シートの被着体に対する粘着力を容易に低下させることができる。特に、活性エネルギー線の照射によって、加工後のワークを当該ワーク加工用シートから容易に分離することが可能となる。
【0037】
粘着剤層を構成する活性エネルギー線硬化性粘着剤としては、活性エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とするものであってもよいし、活性エネルギー線非硬化性ポリマー(活性エネルギー線硬化性を有しないポリマー)と少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とするものであってもよい。また、活性エネルギー線硬化性粘着剤は、活性エネルギー線硬化性を有するポリマーと、少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物であってもよい。
【0038】
上記活性エネルギー線硬化性を有するポリマーは、側鎖に活性エネルギー線硬化性を有する官能基(活性エネルギー線硬化性基)が導入された(メタ)アクリル酸エステル重合体(以下「活性エネルギー線硬化性重合体」という場合がある。)であることが好ましい。この活性エネルギー線硬化性重合体は、官能基含有モノマー単位を有するアクリル系重合体と、その官能基に結合する官能基を有する不飽和基含有化合物とを反応させて得られるものであることが好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。さらに、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0039】
上述した官能基含有モノマー単位を有するアクリル系重合体は、官能基含有モノマーとともに、その他のモノマーを重合させてなるものであってよい。このような官能基含有モノマーおよびその他のモノマー、ならびに上述した不飽和基含有化合物としては、公知のものを使用することができ、例えば国際公開第2018/084021号に開示されるものを使用することができる。
【0040】
上記活性エネルギー線硬化性重合体の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、特に15万以上であることが好ましく、さらには20万以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、150万以下であることが好ましく、特に100万以下であることが好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0041】
上述した活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分としては、例えば、不飽和基含有化合物を反応させる前の上記アクリル系重合体を使用することができる。
【0042】
上記活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分としてのアクリル系重合体の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、特に15万以上であることが好ましく、さらには20万以上であることが好ましい。また、当該重量平均分子量は、150万以下であることが好ましく、特に100万以下であることが好ましい。
【0043】
また、上述した少なくとも1つ以上の活性エネルギー線硬化性基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル等を使用することができる。
【0044】
なお、活性エネルギー線硬化性粘着剤を硬化させるための活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、当該粘着剤に対して、光重合開始剤を添加することが好ましい。また、当該粘着剤には、活性エネルギー線非硬化性ポリマー成分またはオリゴマー成分や、架橋剤等を添加してもよい。
【0045】
本実施形態における粘着剤層の厚さは、5μm以上、30μm以下であることが好ましい。粘着剤層の厚さが当該範囲であることで、本実施形態に係るワーク加工用シートが所望の粘着性を発揮し易いものとなる。また、活性エネルギー線硬化性粘着剤から粘着剤層がなる場合には、その厚さが上述した範囲であることで、硬化前においてはワークを十分に固定することが可能となるとともに、硬化後においては粘着剤層から加工後のワークを分離し易いものとなる。
【0046】
(3)剥離シート
本実施形態に係るワーク加工用シートでは、粘着剤層における基材とは反対側の面(以下、「粘着面」という場合がある。)をワークに貼付するまでの間、当該面を保護する目的で、当該面に剥離シートが積層されていてもよい。
【0047】
上記剥離シートの構成は任意であり、プラスチックフィルムを剥離剤等により剥離処理したものが例示される。当該プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムが挙げられる。上記剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等を用いることができ、これらの中でも、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。
【0048】
上記剥離シートの厚さについては特に制限はなく、例えば、20μm以上、250μm以下であってよい。
【0049】
(4)その他
本実施形態に係るワーク加工用シートでは、粘着剤層における基材とは反対側の面に接着剤層が積層されていてもよい。この場合、本実施形態に係るワーク加工用シートは、例えばダイシング・ダイボンディングシートとして使用することができる。当該シートでは、接着剤層における粘着剤層とは反対側の面にワークを貼付し、当該ワークとともに接着剤層をダイシングすることで、個片化された接着剤層が積層されたチップを得ることができる。当該チップは、この個片化された接着剤層によって、当該チップが搭載される対象に対して容易に固定することが可能となる。上述した接着剤層を構成する材料としては、熱可塑性樹脂と低分子量の熱硬化性接着成分とを含有するものや、Bステージ(半硬化状)の熱硬化型接着成分を含有するもの等を用いることが好ましい。
【0050】
また、本実施形態に係るワーク加工用シートでは、粘着剤層における粘着面に保護膜形成層が積層されていてもよい。この場合、本実施形態に係るワーク加工用シートは、例えば保護膜形成兼ダイシング用シートとして使用することができる。このようなシートでは、保護膜形成層における粘着剤層とは反対側の面にワークを貼付し、当該ワークとともに保護膜形成層をダイシングすることで、個片化された保護膜形成層が積層されたチップを得ることができる。当該ワークとしては、片面に回路が形成されたものが使用されることが好ましく、この場合、通常、当該回路が形成された面とは反対側の面に保護膜形成層が積層される。個片化された保護膜形成層は、所定のタイミングで硬化させることで、十分な耐久性を有する保護膜をチップに形成することができる。保護膜形成層は、未硬化の硬化性接着剤からなることが好ましい。
【0051】
2.ワーク加工用シートの製造方法
本実施形態に係るワーク加工用シートの製造方法は特に限定されない。例えば、剥離シート上に粘着剤層を形成した後、当該粘着剤層における剥離シートとは反対側の面に基材の片面を積層することで、ワーク加工用シートを得ることが好ましい。
【0052】
上述した粘着剤層の形成は、公知の方法により行うことができる。例えば、粘着剤層を形成するための粘着性組成物、および所望によりさらに溶媒または分散媒を含有する塗布液を調製する。そして、剥離シートの剥離性を有する面(以下、「剥離面」という場合がある。)に上記塗布液を塗布する。続いて、得られた塗膜を乾燥させることで、粘着剤層を形成することができる。
【0053】
上述した塗布液の塗布は公知の方法により行うことができ、例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等により行うことができる。なお、塗布液は、塗布を行うことが可能であればその性状は特に限定されず、粘着剤層を形成するための成分を溶質として含有する場合もあれば、分散質として含有する場合もある。また、剥離シートは工程材料として剥離してもよいし、被着体に貼付するまでの間、粘着剤層を保護していてもよい。
【0054】
粘着剤層を形成するための粘着性組成物が前述した架橋剤を含有する場合には、上記の乾燥の条件(温度、時間など)を変えることにより、または加熱処理を別途設けることにより、塗膜内のポリマー成分と架橋剤との架橋反応を進行させ、粘着剤層内に所望の存在密度で架橋構造を形成することが好ましい。さらに、上述した架橋反応を十分に進行させるために、粘着剤層と基材とを貼り合わせた後、例えば23℃、相対湿度50%の環境に数日間静置するといった養生を行ってもよい。
【0055】
3.ワーク加工用シートの使用方法
本実施形態に係るワーク加工用シートは、半導体ウエハ等のワークの加工のために使用することが好適である。この場合、本実施形態に係るワーク加工用シートの粘着面をワークに貼付した後、ワーク加工用シート上にてワークの加工を行うことができる。当該加工に応じて、本実施形態に係るワーク加工用シートは、バックグラインドシート、ダイシングシート、エキスパンドシート、ピックアップシート等として使用することができる。ここで、ワークの例としては、半導体ウエハ、半導体パッケージ等の半導体部材、ガラス板等のガラス部材が挙げられる。
【0056】
本実施形態に係るワーク加工用シートは、前述した通り、基材が前述した貯蔵弾性率E’を満たすとともに、前述したヤング率および破断伸度の少なくとも一方を満たすことにより、加熱後であっても、優れた取り扱い性と優れたエキスパンド性とを両立することができる。そのため、本実施形態に係るワーク加工用シートは、粘着面側に加工前または加工後のワークを積層した状態で、当該ワーク加工用シートを加熱する工程を備えるワーク加工方法に使用することが特に好適である。
【0057】
例えば、本実施形態に係るワーク加工用シートは、その粘着剤層における基材とは反対側の面にワークを貼合する貼合工程と、ワーク加工用シート上にてワークをダイシングすることで、当該ワークが個片化してなる加工後のワークを得るダイシング工程と、当該加熱後のワークを、ワーク加工用シート上に貼合された状態で、加熱を伴う処理に供する加熱工程と、当該加工後のワークをワーク加工用シートからピックアップするピックアップ工程とを備える加工済みワークの製造方法に好適に使用することができる。
【0058】
上述した、貼合工程、ダイシング工程、およびピックアップ工程は、それぞれ公知の方法により行うことができる。また、上述した加熱工程としては特に限定はなく、例えば、加工前または加工後のワークに対する、蒸着、スパッタリング、ベーキング等の処理や、高温環境下での信頼性を確認するための加熱試験等が挙げられる。
【0059】
上記加熱工程における上記加熱の条件は、加熱の目的に応じて適宜設定することができる。例えば、上記加熱の温度としては、80℃以上であってよく、特に100℃以上であってよく、さらには110℃以上であってもよい。また、当該温度は、例えば、300℃以下であってよく、特に270℃以下であってよく、さらには200℃以下であってもよい。上記加熱の時間としては、例えば、10分以上であってよく、特に30分以上であってよく、さらには120分以上であってもよい。また、当該時間は、例えば、25時間以下であってよく、特に10時間以下であってよく、さらには5時間以下であってもよい。加熱のための装置としては、加熱の目的に応じたものを使用することができ、例えば、オーブン、加熱可能なテーブル等を使用することができる。
【0060】
また、本実施形態に係るワーク加工用シートにおける粘着剤層が、前述した活性エネルギー線硬化性粘着剤から構成される場合には、前述した加工済みワークの製造方法において、ワーク加工用シートにおける粘着剤層に対して活性エネルギー線を照射し、当該粘着剤層を硬化させる活性エネルギー線照射工程を設けることも好ましい。これにより、粘着剤層が硬化して、加工後のワークに対するワーク加工用シートの粘着力が良好に低下し、加工後のワークの分離が容易となる。
【0061】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0062】
例えば、基材における粘着剤層とは反対の面側や、基材と粘着剤層との間には、その他の層が設けられてもよい。
【実施例
【0063】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0064】
〔実施例1〕
(1)粘着性組成物の調製
アクリル酸2-エチルヘキシル50質量部と、メタクリル酸40質量部と、アクリル酸10質量部とを、溶液重合法により重合させて、アクリル系重合体を得た。このアクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)を後述する方法により測定したところ、60万であった。
【0065】
上記の通り得られたアクリル系重合体100質量部(固形分換算,以下同じ)と、活性エネルギー線硬化性基を有する成分としての多官能型紫外線硬化性樹脂(三菱ケミカル社製,製品名「紫光UV-5806」,Mw:2000,8~10官能性)40質量部と、架橋剤としてのヘキサメチレンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製,製品名「コロネートHL」)4.0質量部と、光重合開始剤としての2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(BASF社製,製品名「オムニラッド127」)3.0質量部とを溶媒中で混合し、粘着性組成物の塗布液を得た。
【0066】
(2)粘着剤層の形成
上記工程(1)で得られた粘着性組成物の塗布液を、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面がシリコーン系剥離剤により剥離処理された剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET381031」)の剥離処理面に塗布し、得られた塗膜を100℃で1分間乾燥させた。これにより、剥離シートにおける剥離面上に、厚さ10μmの粘着剤層が形成されてなる積層体を得た。
【0067】
(3)ワーク加工用シートの作製
基材としてのポリブチレンテレフタレートフィルム(オージーフィルム社製,製品名「PBT-SS80」,厚さ:80μm)の片面と、上記工程(2)で得られた積層体における粘着剤層側の面とを貼り合わせることで、ワーク加工用シートを得た。
【0068】
ここで、前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・測定装置:東ソー社製,HLC-8320
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK gel superH-H
TSK gel superHM-H
TSK gel superH2000
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0069】
〔実施例2〕
基材として、ポリブチレンテレフタレートフィルム(オージーフィルム社製,製品名「BM-140」,厚さ:140μm)を使用した以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0070】
〔実施例3〕
熱可塑性ポリエステル・エラストマー樹脂(東レ・デュポン社製,製品名「ハイトレル7247」)のペレットを厚さ100μmに製膜したフィルムを基材として使用した以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0071】
〔実施例4〕
熱可塑性ポリエステル・エラストマー樹脂(東レ・デュポン社製,製品名「ハイトレル4767」)のペレットを厚さ100μmに製膜したフィルムを基材として使用した以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0072】
〔比較例1〕
基材として、homoポリブチレンテレフタレートフィルム(オージーフィルム社製,製品名「PBT-50」,厚さ:50μm)を使用した以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0073】
〔比較例2〕
基材として、エチレン-メタクリル酸共重合体フィルム(アキレス社製,製品名「EANU80―AL―ND」,厚さ:80μm)を使用した以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0074】
〔比較例3〕
基材として、片面に易接着層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製,製品名「コスモシャインA4100」,厚さ:100μm)を使用し、当該基材における易接着層側の面に粘着剤層を積層した以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0075】
〔比較例4〕
基材として、ポリプロピレンフィルム(ダイヤプラスフィルム社製,製品名「PL108」,厚さ:80μm,)を使用した以外は、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを得た。
【0076】
〔試験例1〕(基材のヤング率および破断伸度の測定)
実施例および比較例で作製・使用した基材を、15mm×150mmの試験片に裁断した。このとき、試験片の長辺(150mmの辺)が、基材のMD方向(基材の製造時の流れ方向)と平行となるように裁断した。
【0077】
得られた試験片をオーブンにて120℃で4時間加熱した。その後、23℃まで冷却した試験片について、引張試験機(島津製作所製,製品名「オートグラフAG-IS 500N」)を用いて、つかみ具間の距離を100mmとした上で、200mm/minの速度で引張試験を行い、ヤング率(MPa)および破断伸度(%)を測定した。それらの結果を、MD方向に係るヤング率および破断伸度として、表1に示す。
【0078】
また、試験片の長辺(150mmの辺)が、基材のCD方向(上記MD方向に直交する方向)と平行となるように裁断した試験片も作製し、当該試験片についても、上記と同様にヤング率(MPa)および破断伸度(%)を測定した。それらの結果を、CD方向に係るヤング率および破断伸度として、表1に示す。
【0079】
さらに、MD方向に係るヤング率とCDに係るヤング率との平均値(MPa)、およびMD方向に係る破断伸度とCDに係る破断伸度との平均値(%)を算出した。これらの結果も、ヤング率の平均値および破断伸度の平均値として、表1に示す。
【0080】
なお、比較例2で使用した基材については、120℃で4時間加熱したことにより融解してしまい、シート形状を良好に維持できないものとなった。そのため、比較例2に係る基材のヤング率および破断伸度を測定することはできなかった。
【0081】
〔試験例2〕(基材の貯蔵弾性率E’の測定)
実施例および比較例で作製・使用した基材について、下記の条件で120℃における貯蔵弾性率E’(MPa)を測定した。ここで、当該測定は、基材のMD方向およびCD方向のそれぞれについて測定を行った。その測定結果を表1に示す。
【0082】
<測定条件>
測定装置:動的弾性率測定装置,オリエンテック社製,製品名「レオバイブロン DDV-II-FP」
試験開始温度:0℃
試験終了温度:120℃
昇温速度:10℃/分
周波数:11Hz
【0083】
さらに、MD方向に係る貯蔵弾性率E’とCDに係る貯蔵弾性率E’との平均値(MPa)を算出した。この結果も、貯蔵弾性率E’の平均値として、表1に示す。
【0084】
なお、比較例2で使用した基材については、120℃で4時間加熱したことにより融解してしまい、シート形状を良好に維持できないものとなった。そのため、比較例2に係る基材の貯蔵弾性率E’を測定することはできなかった。
【0085】
〔試験例3〕(搬送性の評価)
実施例および比較例において作製したワーク加工用シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層側の面の周縁部に対して、マルチウエハマウンター(リンテック社製,製品名「Adwill RAD-2700F/12」)を用いて、ダイシング用リングフレーム(ディスコ社製,製品名「2-8-1」)を貼付した。
【0086】
次に、予め120℃に加熱され且つバキュームがONとなっている状態の上記マルチウエハマウンターのマウントテーブルに対し、リングフレームが貼付された状態のワーク加工用シートを、当該貼付された面とは反対の面がマウントテーブルに接するように、搬送アームを用いて静置した。そして、ワーク加工用シートをマウントテーブル上にて、120℃で4時間加熱した。
【0087】
その後、搬送アームを用いて、マウントテーブルからワーク加工用シートを持ち上げて搬送できるか否かを確認した。当該確認は、リングフレームが貼付された状態のワーク加工用シート5セットについて行った。
【0088】
そして、以下の基準に基づいて、ワーク加工用シートの搬送性を評価した。結果を表1に示す。
◎:5セット全てにおいて、マウントテーブルへのワーク加工用シートの融着が生じることなく、問題なく搬送できた。
〇:マウントテーブルへのワーク加工用シートの融着が生じることなく搬送できたセット数が、3または4セットであった。
×:マウントテーブルへのワーク加工用シートの融着が生じることなく搬送できたセット数が、2セット以下であった。
【0089】
〔試験例4〕(エキスパンド性の評価)
(1)ダイシング
実施例および比較例において作製したワーク加工用シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層側の面に対して、マルチウエハマウンター(リンテック社製,製品名「Adwill RAD-2700F/12」)を用いて、シリコンウエハ(直径:8インチ,厚さ:350μm)を貼付した。その後、ワーク加工用シートにおける粘着剤層側の面の周縁部(シリコンウエハとは重ならない位置)に、ダイシング用リングフレーム(ディスコ社製,製品名「2-8-1」)を貼付した。
【0090】
次いで、下記の条件で、ワーク加工用シート上にて、シリコンウエハをダイシングした。
<ダイシング条件>
・ダイシング装置:DISCO社製,製品名「DFD-6362」
・ブレード:DISCO社製,製品名「NBC-ZH2050-27HECC」
・ブレード回転数:30000rpm
・切削速度:50mm/分
・切り込み深さ:基材における深さ20μmの位置に到達するまで
・ダイシングサイズ:3mm×3mm
【0091】
(2)加熱
続いて、得られたチップおよびリングフレームが積層された状態にて、ワーク加工用シートをオーブンにより120℃で4時間加熱した。
【0092】
(3)エキスパンド
続いて、ワーク加工用シートをエキスパンド装置(三菱電機社製,製品名「MELSEC-G0T F930G0T」)を用いてエキスパンドした。このとき、リングフレームを3mm/sの速さで10mm引き落とすことによりエキスパンドを行った。そして、以下に基準に基づいて、ワーク加工用シートのエキスパンド性を評価した。結果を表1に示す。
○:ワーク加工用シートの破断や、リングフレームからのワーク加工用シートの剥がれが生じることなく、良好にエキスパンドできた。
×:ワーク加工用シートの破断、またはリングフレームからのワーク加工用シートの剥がれが生じ、エキスパンドを行うことができなかった。
【0093】
なお、比較例2に係るワーク加工用シートについては、上記工程(2)における加熱の際に基材が融解し、シート形状を良好に維持できなくなり、その結果、エキスパンドの処理を行うことができなかった。そのため、当該比較例2については、エキスパンド性を「×」と評価した。
【0094】
【表1】
【0095】
表1から明らかなように、実施例で製造したワーク加工用シートは、120℃で4時間加熱された後であっても、優れた搬送性(取り扱い性)を有するとともに、優れたエキスパンド性を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のワーク加工用シートは、半導体ウエハ等のワークの加工に好適に使用することができる。