(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】金属粉体、焼結体、焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/00 20210101AFI20250410BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20250410BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20250410BHJP
B22F 3/11 20060101ALI20250410BHJP
C22C 1/08 20060101ALI20250410BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20250410BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20250410BHJP
B22F 3/105 20060101ALN20250410BHJP
B22F 3/16 20060101ALN20250410BHJP
H01M 10/52 20060101ALN20250410BHJP
【FI】
B22F3/00 A
C22C14/00 Z
C22C1/04 E
B22F3/11 A
C22C1/08 F
H01M4/66 A
B22F1/00 R
B22F3/105
B22F3/16
H01M10/52 102
(21)【出願番号】P 2020159005
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2019174443
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591261026
【氏名又は名称】トーホーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】竹中 茂久
(72)【発明者】
【氏名】滝 千博
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05061358(US,A)
【文献】特開昭63-218163(JP,A)
【文献】特開平04-218263(JP,A)
【文献】特開平01-294836(JP,A)
【文献】特開平01-165785(JP,A)
【文献】特開平04-110485(JP,A)
【文献】特開平09-049001(JP,A)
【文献】特開昭54-015140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
C22C 14/00
C22C 1/04-1/059
C22C 1/08-1/10
C22C 47/00-49/14
H01M 4/64-4/84
H01M 10/52-10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti
2Niを90質量%以上含む、
焼結体である水溶液電解陽極製造用
の金属粉体
からなる成形体。
【請求項2】
前記金属粉体の粒子径D
50が150μm以下である、請求項1に記載の
成形体。
【請求項3】
空隙率が20%以上80%以下、厚さが100μm以上であり、
Ti
2
Niが90質量%以上からなる水溶液電解陽極
として用いられる焼結体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の
成形体を焼結すること、を含む、Ti
2Niを90質量%以上含む水溶液電解陽極用である焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記金属粉体を、乾式且つ無加圧で成形型に充填することで成形し、
炉内圧力10
-2Pa以下、炉内温度600℃以上1100℃以下で焼結すること、を含む請求項4に記載の焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記焼結体の空隙率が20%以上80%以下、厚さが100μm以上である、請求項4に記載の焼結体の製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載の焼結体を陽極として使用する、水溶液電解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ti2Niを含む金属粉体、Ti2Niを含む金属粉体を焼結することにより得られる焼結体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の性能や水溶液電解の能力を向上するためには、電解液はよりイオン伝導性が高いものが求められ、電極はより電子伝導性が高く、且つ電解液に対して化学的に安定であることが求められる。
【0003】
電極としては、電解液によってステンレス鋼、銅、亜鉛、カーボン等を用いることができるが、陽極電極として使用する場合、溶解が起こる場合が多く、減肉(腐食)が避けられない。この場合、経年により電極間距離が増大し、槽電圧が上昇することから、電極の交換が余儀なくされる。
【0004】
チタンは、その耐腐食性の高さより、多くの用途に電極として使用され得る。しかし、チタン製の陽極を使用するとチタン酸化物(TiO2)が陽極の表面に厚く成長して陽極が機能しなくなる場合もある。よって、チタンを電池または水溶液電解の陽極として使用する場合には、一般に、チタン表面を白金族元素(もしくはその酸化物)で被覆し、その白金族元素表面において酸化反応を起こさせる。白金族元素(もしくはその酸化物)は電子伝導性がよく、溶解度積が極めて小さいことから、陽極として使用しても溶出することのない金属の安定域にある。しかしながら、高価な白金族元素もしくはその酸化物を使用するため、価格が高くなる。また、表面処理ゆえのメンテナンスが必要となる場合もあり、維持費がかかる。
【0005】
他にチタンを含む電極としては、例えば、特許文献1には水素を吸蔵するTi2Niから構成されたガス消失電極を備える密閉形アルカリ蓄電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一実施形態は、低コストで製造でき耐腐食性を向上した電池陽極製造用金属粉体、電池陽極用焼結体、電池陽極用焼結体の製造方法、水溶液電解陽極製造用金属粉体、水溶液電解陽極用焼結体、および水溶液電解陽極用焼結体の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、陽極として電極表面において酸化反応が起こり、且つ良好な耐腐食性を維持した陽極材料としてチタンの金属間化合物であるTi2Niを見いだした。
【0009】
本発明の一実施形態において電池陽極製造用金属粉体は、Ti2Niを90質量%以上含む。
【0010】
また、本発明の一実施形態において電池陽極用焼結体は、Ti2Niを90質量%以上含み、空隙率が20%以上80%以下、厚さが100μm以上である。
【0011】
また、本発明の一実施形態においてTi2Niを90質量%以上含む電池陽極用焼結体の製造方法は、電池陽極製造用金属粉体を成形し、焼結すること、を含む。
【0012】
本発明の一実施形態において水溶液電解陽極製造用金属粉体は、Ti2Niを90質量%以上含む。
【0013】
また、本発明の一実施形態において水溶液電解陽極用焼結体は、Ti2Niを90質量%以上含み、空隙率が20%以上80%以下、厚さが100μm以上である。
【0014】
また、本発明の一実施形態においてTi2Niを90質量%以上含む水溶液電解陽極用焼結体の製造方法は、水溶液電解陽極製造用金属粉体を成形し、焼結すること、を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態は、低コストで製造でき耐腐食性を向上した電池陽極製造用金属粉体、電池陽極用焼結体、電池陽極用焼結体の製造方法、水溶液電解陽極製造用金属粉体、水溶液電解陽極用焼結体、および水溶液電解陽極用焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係る電池陽極用焼結体の光学顕微鏡写真である。
【
図2】一実施形態に係る電池陽極用焼結体を陽極として用いたアノード分極挙動である。
【
図3】一実施形態に係る電池陽極用焼結体を陽極として用いたアノード分極挙動である。
【
図4】チタン製の電極を陽極として用いたアノード分極挙動である。
【
図5】一実施形態に係る電池陽極用焼結体を陽極として用いた定電流試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の各実施形態について説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0018】
<本件発明に至る経緯>
水の電気分解は以下の式で示すことができる。
陽極: 2OH- → O2+2H++4e- (1)
陰極: 2H++2e- → H2 (2)
しかしながら、チタンを単独で陽極として使用したところ、酸化反応による酸素の発生(1)はほとんど起こらなかった。これは、チタンの表面が以下の式(3)で示す酸化反応を起こし、チタン酸化膜(TiO2、不動態酸化皮膜)が形成されたためであると考えられる。
Ti+2OH- → TiO2+2H++4e- (3)
電気分解の反応(1)を進めようと陽極により高い電位を印加しても、チタンの酸化反応(3)が優先して進み、チタン酸化膜がさらに厚みを増し、抵抗が増すため電流が流れず、結果、電気分解を進行することはできなかった。これは、チタンと酸素との結合力が高いことに起因する。
上記説明は水の電気分解を例としたが、他の物質を電気分解する場合であっても、陽極で酸素が発生するような電気分解であれば同様にチタン酸化膜が成長することが考えられる。即ち、陽極では(3)の反応が進行しチタン酸化膜が成長することが考えられる。チタン酸化膜が成長するとその部分には電流が流れないため、チタン単独である組成では陽極として使用することができない。
【0019】
本発明者らは、チタンの酸化反応(3)を抑制するため、種々の研究を重ねた結果、チタンの活量を低下させることに行きついた。種々のチタン合金や金属間化合物を溶製および熱処理し、陽極として使用可能かどうか検討した結果、チタンの金属間化合物は、場合によりチタンの活量を大きく低下させ、チタンの酸化反応(3)を抑制し、電気分解の反応(1)が優先的に進むことが見いだされた。耐腐食性があり、且つチタンの酸化反応(3)が抑えられ、電気分解の反応(1)が優先的に起こるチタンの金属間化合物として、本発明者らはTi2Niを見いだした。
【0020】
<第1実施形態>
本実施形態では、本発明に係る実施形態の一つである電池陽極製造用金属粉体の構造と特性を説明する。なお、本明細書において金属粉体とは、その主成分が後述のように合金や金属間化合物である粉体を意味する。
【0021】
本実施形態に係る電池陽極製造用金属粉体は複数の金属間化合物粒子を主とする集合体であり、金属間化合物としてTi2Niを含む。電池陽極製造用金属粉体は、Ti2Niを90質量%以上含むことが好ましい。電池陽極製造用金属粉体は、Ti2Niを95質量%以上含むことがより好ましい。電池陽極製造用金属粉体がTi2Niを90質量%以上含むことで、Ti2Niを90質量%以上含む電池陽極用焼結体を製造することができる。
【0022】
電池陽極製造用金属粉体の粒子径D50は150μm以下であることが好ましい。電池陽極製造用金属粉体の粒子径D50は20μm以上100μm以下であってもよく、50μm以上80μm以下であることがより好ましい。電池陽極製造用金属粉体の粒子径D50が150μm以下であることで、効率よく電池陽極製造用金属粉体を成形することができ、また効率よく本発明の一実施形態に係る電池陽極用焼結体を製造することができる。電池陽極製造用金属粉体の粒子径D50が20μm以上であることで、所定範囲の空隙率および嵩密度を有する電池陽極用焼結体を製造しやすくなる。ここで電池陽極製造用金属粉体の粒子径は分布を持っており、全電池陽極製造用金属粉体約1000個の積算%の体積分布曲線が50%の粒子径(メディアン径)が上記範囲内であればよい。また、電池陽極製造用金属粉体の粒子径とは、レーザー回折法により測定した体積相当球の直径を示す。
【0023】
電池陽極製造用金属粉体は粉砕粉であってもよい。原子比でTi:Ni=2:1のインゴットを鋳造し、該インゴットを粉砕処理に供することで上述の電池陽極製造用金属粉体を得ることができる。粉砕により製造した電池陽極製造用金属粉体は個々の粒子の形状が角ばっており、堆積した場合、空隙を有しつつ金属粉体同士の接触点を確保することができる。この状態で焼結処理することで、焼結部位が適切に増えて電池陽極用焼結体の強度を確保しやすくなる。よって、例えばアトマイズ法により製造された球状の粒子よりも粉砕により製造した金属粉体を焼結した焼結体は、空隙率を高くしつつ所望の強度を確保しやすいという利点がある。
【0024】
<第2実施形態>
本実施形態では、本発明に係る実施形態の一つである電池陽極用焼結体の構造と特性を説明する。
【0025】
本実施形態に係る電池陽極用焼結体は、Ti2Niを90質量%以上含むことが好ましい。電池陽極用焼結体は、Ti2Niを95質量%以上含むことがより好ましい。電池陽極用焼結体がTi2Niを90質量%以上含むことで、チタンの酸化反応(3)を抑制することができ、電気分解の反応(1)が優先的に起こる電池陽極用焼結体を製造することができる。
【0026】
電池陽極用焼結体の空隙率は20%以上80%以下であることが好ましい。電池陽極用焼結体の空隙率は25%以上70%以下であってもよく、50%以上60%以下であることがより好ましい。電池陽極用焼結体の空隙率は20%以上であることで、電解液と接する表面積を増加することができ、電池陽極における電気分解の反応(1)の効率を向上することができる。つまり、電池陽極において陽極反応面積が増大することを意味し、より低い電圧で電池反応を進行させることができる。これは、電池特性を向上させるとともに(3)の反応を抑制する。電池陽極用焼結体の空隙率は80%以下であることで、電極としての強度を維持することができる。ここで電池陽極用焼結体の空隙率とは、(1-(電池陽極用焼結体の嵩密度g/cm3)/(Ti2Niの真密度g/cm3))×100から算出した値を示す。ここでTi2Niの真密度とは、電池陽極用焼結体の組成にかかわらず、Ti2Ni100%の理論値(5.7g/cm3)とする。
【0027】
電池陽極用焼結体の嵩密度は2g/cm3以上5g/cm3以下であることが好ましい。電池陽極用焼結体の嵩密度は2g/cm3以上3g/cm3以下であることがより好ましい。電池陽極用焼結体の嵩密度は2g/cm3以上であることで、電極としての強度を維持することができる。電池陽極用焼結体の嵩密度は5g/cm3以下であることで、電解液と接する表面積を増加することができ、電池陽極における電気分解の反応(1)の効率を向上することができる。ここで電池陽極用焼結体の嵩密度とは、重量/見かけ体積を示す。
【0028】
電池陽極用焼結体の形状は特に限定しない。電池陽極用焼結体の形状は、例えば、5mm程度の厚みを有する板状または棒状であってもよい。電池陽極用焼結体の形状は、例えば、0.1mm程度の厚みを有する薄い膜状であってもよい。薄い膜状に形成された電池陽極用焼結体は可撓性を有することから、曲線状または任意の形状に変形することができる。電池陽極用焼結体の形状は適宜選択することができ、このため電池陽極としての利用範囲をさらに向上することができる。
【0029】
電池陽極用焼結体の厚さは100μm以上であることが好ましい。電池陽極用焼結体の厚さは0.1mm以上5mm以下であってもよく、0.5mm以上2mm以下であることがより好ましい。電池陽極用焼結体の厚さは100μm以上であることで、電極としての強度を維持することができる。電池陽極用焼結体の厚さは5mm以下であると焼結体を製造しやすく、主に焼結時間短縮による歩留り向上が見込める。ここで電池陽極用焼結体の厚さとは、電池陽極用焼結体を長尺方向に12等分し、その両端部を除外した内側10点における厚さの平均値を示す。例えば、箔や板の形状である電池陽極用焼結体は、その長辺を長尺方向として板や箔の厚さを求めればよい。また、例えば、断面円形や楕円形である棒状の電池陽極用焼結体は、長さ方向を長尺方向とし、上記内側10点において断面の直径(楕円形の場合は短軸の径)を厚さとすればよい。
【0030】
本実施形態に係る電池陽極用焼結体は、後述するように、電池陽極製造用金属粉体を焼結することで製造された多孔質体である。電池陽極製造用金属粉体を焼結することによって、電池陽極製造用金属粉体同士はより強固に結合して高い強度を示す。一方で、本実施形態に係る電池陽極用焼結体は、空隙を含んでいることから、電解液と接する表面積を増加することができ、電池陽極における電気分解の反応(1)の効率を向上することができる。本実施形態に係る電池陽極用焼結体は、上述する構成を有することで、低コストで製造でき耐腐食性を向上した電池陽極として使用することができる。
【0031】
<第3実施形態>
本実施形態では、本発明に係る実施形態の一つである電池陽極製造用金属粉体および電池陽極用焼結体の製造方法を説明する。
【0032】
まず、チタンおよびニッケル原料を原子比でTi:Ni=2:1になるように混合し、溶解、鋳造を経てTi2Niインゴットを製造する。例えば、チタンおよびニッケル原料を原子比でTi:Ni=2:1になるように混合し、アーク炉に装入し、真空または不活性ガス雰囲気下において電流を流して溶解させることによってTi2Niインゴットを製造する。
【0033】
製造されたTi2Niインゴットの大部分はTi2Ni相であり、それ以外に少量のα-Ti相、TiNi相の計3相が混在し得る。2:1の比率を若干チタン側にした場合には、大部分のTi2Ni相と、少量のα-Ti相の2相が存在し得る。また、2:1の比率を若干ニッケル側にした場合には、大部分のTi2Ni相と、少量のTiNi相の2相が存在し得る。
【0034】
Ti2Niインゴットは、Ti2Niを90質量%以上含むことが好ましい。Ti2Niインゴットは、Ti2Niを95質量%以上含むことがより好ましい。なお、上述のインゴットの製造方法により上記Ti2Ni含有量のインゴットを製造可能である。Ti2NiインゴットがTi2Niを90質量%以上含むことで、Ti2Niを90質量%以上含む電池陽極製造用金属粉体を製造することができる。
【0035】
Ti2Niインゴットは、展延性が低く、脆い性質を有することから、塑性加工によりサイズ・形状を制御することが難しい。ダイヤモンドカッターなどでTi2Niインゴットから切り出した板材を陽極として使用したところ、チタンの酸化反応(3)が抑えられ、電気分解の反応(1)が進んだ。Ti2Niの板材は溶解(腐食)しなかったが、酸素ガスの発生と共に電極表面からTi2Niの細かい粉が脱落し得る。これは、酸素ガスの気泡が発生する際、電極表面に衝撃を与えるため、Ti2Niの板材の表面が砕かれるものと思われる。なお、酸素以外の気泡が発生する場合でも、Ti2Niの板材の表面が砕かれるものと思われる。従って、このままの状態では、陽極として工業的に使用するには適切でないことがわかった。
【0036】
陽極としての使用に伴う粉体の脱落を抑制するため、一旦Ti2Niを主成分とする電池陽極製造用金属粉体を製造し、該粉体を使用して焼結体を製造する。例えば、Ti2Niインゴットは切削加工により切粉にし、その切粉を機械粉砕することによって電池陽極製造用金属粉体を製造する。機械粉砕したのち、分級および/または篩別してTi2Niの微粉を除去する。Ti2Niの機械的粉砕には、ボールミル、振動ミルなどの粉砕装置が使用でき、Ti2Ni粉末の粒度調整には円形振動篩、気流分級機などの篩別分級装置を用いてもよい。
【0037】
粉砕工程において、電池陽極製造用金属粉体は粒子径がmm単位からμm単位の粉を目的に合わせて調整することができる。本実施形態に係る電池陽極製造用金属粉体の粒子径D50は150μm以下に粉砕することが好ましい。電池陽極製造用金属粉体の粒子径D50は10μm以下に粉砕することも可能であるが、工業的にはコストおよび時間の制限があることから、粒子径D50150μm以下であればよい。電池陽極製造用金属粉体の粒子径D50を150μm以下に粉砕することで、効率よく電池陽極製造用金属粉体を成形することができ、本発明の一実施形態に係る電池陽極用焼結体を製造することができる。本実施形態に係る電池陽極製造用金属粉体の粒子径D50は20μm以上に分級および/または篩別することが好ましい。電池陽極製造用金属粉体の粒子径D50を20μm以上に分級および/または篩別することで、所定範囲の空隙率および嵩密度を有する電池陽極用焼結体を製造することができる。
【0038】
一実施形態にかかる電池陽極用焼結体の製造方法では、電池陽極製造用金属粉体を成形し、焼結すること、を含む。次に電池陽極製造用金属粉体は、例えば、乾式且つ無加圧で成形型に充填することによって電池陽極製造用金属成形体を形成する。しかしながらこれに限定されず、電池陽極製造用金属粉体は、例えば、グラファイト製の型の上に乾式且つ無加圧で堆積することによって電池陽極製造用金属成形体を形成してもよい。また、加圧して圧粉体を形成してもよく、結着材を用いてもよい。さらには、積層造形技術や射出成型技術を活用することで、複雑な形状に形成することもできる。電池陽極製造用金属成形体は、目的とする電池陽極用焼結体の形状に合わせて、任意の形状を適宜選択することができる。
【0039】
電池陽極製造用金属成形体は、例えば、炉内圧力10-2Pa以下、炉内温度600℃以上1100℃以下の条件で焼結することによって電池陽極用焼結体を製造する。しかしながらこれに限定されず、電池陽極製造用金属成形体を焼結することによって、電池陽極製造用金属粉体同士が強固に結合すればよい。電池陽極製造用金属成形体を焼結することによって、多孔質体である電池陽極用焼結体を製造することができる。
【0040】
図1は、本実施形態に係る電池陽極用焼結体の写真である。電池陽極用焼結体は、光学顕微鏡を用いて観察した。本実施形態に係る電池陽極用焼結体の製造方法で製造された電池陽極用焼結体は、
図1に示すように空隙を含む多孔質体である。このため、電池陽極用焼結体は、電解液と接する表面積を増加することができ、電池陽極における電気分解の反応(1)の効率を向上することができる。即ち、電池陽極における陽極反応の効率を向上し、さらには(3)の反応を抑制することができる。また、本実施形態に係る電池陽極用焼結体は、上述する構成を有することで、低コストで製造でき耐腐食性を向上した電池陽極として使用することができる。本実施形態に係る電池陽極用焼結体は、焼結によりTi
2Ni粉同士を強固に結合し脆いTi
2Niの脱落を防ぐことが低コストで可能となり、脱落の問題も解決でき、通電性および耐久性を兼ね備えた電池陽極として使用することができる。
【0041】
<第4実施形態>
本実施形態では、本発明に係る実施形態の一つである水溶液電解陽極製造用金属粉体の構造と特性を説明する。
【0042】
本実施形態に係る水溶液電解陽極製造用金属粉体は複数の金属間化合物粒子を主とする集合体であり、金属間化合物としてTi2Niを含む。水溶液電解陽極製造用金属粉体は、Ti2Niを90質量%以上含むことが好ましい。水溶液電解陽極製造用金属粉体は、Ti2Niを95質量%以上含むことがより好ましい。水溶液電解陽極製造用金属粉体がTi2Niを90質量%以上含むことで、Ti2Niを90質量%以上含む水溶液電解陽極用焼結体を製造することができる。
【0043】
水溶液電解陽極製造用金属粉体の粒子径D50は150μm以下であることが好ましい。水溶液電解陽極製造用金属粉体の粒子径D50は20μm以上100μm以下であってもよく、50μm以上80μm以下であることがより好ましい。水溶液電解陽極製造用金属粉体の粒子径D50が150μm以下であることで、効率よく水溶液電解陽極製造用金属粉体を成形することができ、また効率よく本発明の一実施形態に係る水溶液電解陽極用焼結体を製造することができる。水溶液電解陽極製造用金属粉体の粒子径D50が20μm以上であることで、所定範囲の空隙率および嵩密度を有する水溶液電解陽極用焼結体を製造しやすくなる。ここで水溶液電解陽極製造用金属粉体の粒子径は分布を持っており、全水溶液電解陽極製造用金属粉体約1000個の積算%の体積分布曲線が50%の粒子径(メディアン径)が上記範囲内であればよい。また、水溶液電解陽極製造用金属粉体の粒子径とは、レーザー回折法により測定した体積相当球の直径を示す。
【0044】
水溶液電解陽極製造用金属粉体は粉砕粉であってもよい。原子比でTi:Ni=2:1のインゴットを鋳造し、該インゴットを粉砕処理に供することで上述の水溶液電解陽極製造用金属粉体を得ることができる。粉砕により製造した水溶液電解陽極製造用金属粉体は個々の粒子の形状が角ばっており、堆積した場合、空隙を有しつつ金属粉体同士の接触点を確保することができる。この状態で焼結処理することで、焼結部位が適切に増えて水溶液電解陽極用焼結体の強度を確保しやすくなる。よって、例えばアトマイズ法により製造された球状の粒子よりも粉砕により製造した金属粉体を焼結した焼結体は、空隙率を高くしつつ所望の強度を確保しやすいという利点がある。
【0045】
<第5実施形態>
本実施形態では、本発明に係る実施形態の一つである水溶液電解陽極用焼結体の構造と特性を説明する。
【0046】
本実施形態に係る水溶液電解陽極用焼結体は、Ti2Niを90質量%以上含むことが好ましい。水溶液電解陽極用焼結体は、Ti2Niを95質量%以上含むことがより好ましい。水溶液電解陽極用焼結体がTi2Niを90質量%以上含むことで、チタンの酸化反応(3)を抑制することができ、電気分解の反応(1)が優先的に起こる水溶液電解陽極用焼結体を製造することができる。
【0047】
水溶液電解陽極用焼結体の空隙率は20%以上80%以下であることが好ましい。水溶液電解陽極用焼結体の空隙率は25%以上70%以下であってもよく、50%以上60%以下であることがより好ましい。水溶液電解陽極用焼結体の空隙率は20%以上であることで、電解液と接する表面積を増加することができ、水溶液電解陽極における電気分解の反応(1)の効率を向上することができる。つまり、水溶液電解陽極において陽極反応面積が増大することを意味し、より低い電圧で電気分解反応を進行させることができる。これは、電気分解特性を向上させるとともに(3)の反応を抑制する。水溶液電解陽極用焼結体の空隙率は80%以下であることで、電極としての強度を維持することができる。ここで水溶液電解陽極用焼結体の空隙率とは、(1-(水溶液電解陽極用焼結体の嵩密度g/cm3)/(Ti2Niの真密度g/cm3))×100から算出した値を示す。ここでTi2Niの真密度とは、水溶液電解陽極用焼結体の組成にかかわらず、Ti2Ni100%の理論値(5.7g/cm3)とする。
【0048】
水溶液電解陽極用焼結体の嵩密度は2g/cm3以上5g/cm3以下であることが好ましい。水溶液電解陽極用焼結体の嵩密度は2g/cm3以上3g/cm3以下であることがより好ましい。水溶液電解陽極用焼結体の嵩密度は2g/cm3以上であることで、電極としての強度を維持することができる。水溶液電解陽極用焼結体の嵩密度は5g/cm3以下であることで、電解液と接する表面積を増加することができ、水溶液電解陽極における電気分解の反応(1)の効率を向上することができる。ここで水溶液電解陽極用焼結体の嵩密度とは、重量/見かけ体積を示す。
【0049】
水溶液電解陽極用焼結体の形状は特に限定しない。水溶液電解陽極用焼結体の形状は、例えば、5~50mm程度の厚みを有する板状、棒状、または網状であってもよい。水溶液電解陽極用焼結体の形状は、例えば、0.1mm程度の厚みを有する薄い膜状であってもよい。薄い膜状に形成された水溶液電解陽極用焼結体は可撓性を有することから、曲線状または任意の形状に変形することができる。水溶液電解陽極用焼結体の形状は適宜選択することができ、このため水溶液電解陽極としての利用範囲をさらに向上することができる。
【0050】
水溶液電解陽極用焼結体の厚さは100μm以上であることが好ましい。水溶液電解陽極用焼結体の厚さは0.1mm以上50mm以下であってもよく、0.5mm以上5mm以下であることがより好ましい。水溶液電解陽極用焼結体の厚さは100μm以上であることで、電極としての強度を維持することができる。水溶液電解陽極用焼結体の厚さは50mm以下であると焼結体を製造しやすく、主に焼結時間短縮による歩留り向上が見込める。ここで水溶液電解陽極用焼結体の厚さとは、水溶液電解陽極用焼結体を長尺方向に12等分し、その両端部を除外した内側10点における厚さの平均値を示す。例えば、箔や板の形状である水溶液電解陽極用焼結体は、その長辺を長尺方向として板や箔の厚さを求めればよい。また、例えば、断面円形や楕円形である棒状の水溶液電解陽極用焼結体は、長さ方向を長尺方向とし、上記内側10点において断面の直径(楕円形の場合は短軸の径)を厚さとすればよい。
【0051】
本実施形態に係る水溶液電解陽極用焼結体は、後述するように、水溶液電解陽極製造用金属粉体を焼結することで製造された多孔質体である。水溶液電解陽極製造用金属粉体を焼結することによって、水溶液電解陽極製造用金属粉体同士はより強固に結合して高い強度を示す。一方で、本実施形態に係る水溶液電解陽極用焼結体は、空隙を含んでいることから、電解液と接する表面積を増加することができ、水溶液電解陽極における電気分解の反応(1)の効率を向上することができる。本実施形態に係る水溶液電解陽極用焼結体は、上述する構成を有することで、低コストで製造でき通電性および耐久性を向上した水溶液電解陽極として使用することができる。
【0052】
<第6実施形態>
本実施形態では、本発明に係る実施形態の一つである水溶液電解陽極製造用金属粉体および水溶液電解陽極用焼結体の製造方法を説明する。
【0053】
まず、チタンおよびニッケル原料を原子比でTi:Ni=2:1になるように混合し、溶解、鋳造を経てTi2Niインゴットを製造する。例えば、チタンおよびニッケル原料を原子比でTi:Ni=2:1になるように混合し、アーク炉に装入し、真空または不活性ガス雰囲気下において電流を流して溶解させることによってTi2Niインゴットを製造する。
【0054】
製造されたTi2Niインゴットの大部分はTi2Ni相であり、それ以外に少量のα-Ti相、TiNi相の計3相が混在し得る。2:1の比率を若干チタン側にした場合には、大部分のTi2Ni相と、少量のα-Ti相の2相が存在し得る。また、2:1の比率を若干ニッケル側にした場合には、大部分のTi2Ni相と、少量のTiNi相の2相が存在し得る。
【0055】
Ti2Niインゴットは、Ti2Niを90質量%以上含むことが好ましい。Ti2Niインゴットは、Ti2Niを95質量%以上含むことがより好ましい。なお、上述のインゴットの製造方法により上記Ti2Ni含有量のインゴットを製造可能である。Ti2NiインゴットがTi2Niを90質量%以上含むことで、Ti2Niを90質量%以上含む水溶液電解陽極製造用金属粉体を製造することができる。
【0056】
Ti2Niインゴットは、展延性が低く、脆い性質を有することから、塑性加工によりサイズ・形状を制御することが難しい。ダイヤモンドカッターなどでTi2Niインゴットから切り出した板材を陽極として使用したところ、チタンの酸化反応(3)が抑えられ、電気分解の反応(1)が進んだ。Ti2Niの板材は溶解(腐食)しなかったが、酸素ガスの発生と共に電極表面からTi2Niの細かい粉が脱落し得る。これは、酸素ガスの気泡が発生する際、電極表面に衝撃を与えるため、Ti2Niの板材の表面が砕かれるものと思われる。なお、酸素以外の気泡が発生する場合でも、Ti2Niの板材の表面が砕かれるものと思われる。従って、このままの状態では、陽極として工業的に使用するには適切でないことがわかった。
【0057】
陽極としての使用に伴う粉体の脱落を抑制するため、一旦Ti2Niを主成分とする水溶液電解陽極製造用金属粉体を製造し、該粉体を使用して焼結体を製造する。例えば、Ti2Niインゴットは切削加工により切粉にし、その切粉を機械粉砕することによって水溶液電解陽極製造用金属粉体を製造する。機械粉砕したのち、分級および/または篩別してTi2Niの微粉を除去する。Ti2Niの機械的粉砕には、ボールミル、振動ミルなどの粉砕装置が使用でき、Ti2Ni粉末の粒度調整には円形振動篩、気流分級機などの篩別分級装置を用いてもよい。
【0058】
粉砕工程において、水溶液電解陽極製造用金属粉体は粒子径がmm単位からμm単位の粉を目的に合わせて調整することができる。本実施形態に係る水溶液電解陽極製造用金属粉体の粒子径D50は150μm以下に粉砕することが好ましい。水溶液電解陽極製造用金属粉体の粒子径D50は10μm以下に粉砕することも可能であるが、工業的にはコストおよび時間の制限があることから、粒子径D50150μm以下であればよい。水溶液電解陽極製造用金属粉体の粒子径D50を150μm以下に粉砕することで、効率よく水溶液電解陽極製造用金属粉体を成形することができ、本発明の一実施形態に係る水溶液電解陽極用焼結体を製造することができる。本実施形態に係る水溶液電解陽極製造用金属粉体の粒子径D50は20μm以上に分級および/または篩別することが好ましい。水溶液電解陽極製造用金属粉体の粒子径D50を20μm以上に分級および/または篩別することで、所定範囲の空隙率および嵩密度を有する水溶液電解陽極用焼結体を製造することができる。
【0059】
一実施形態にかかる水溶液電解陽極用焼結体の製造方法では、水溶液電解陽極製造用金属粉体を成形し、焼結すること、を含む。次に水溶液電解陽極製造用金属粉体は、例えば、乾式且つ無加圧で成形型に充填することによって水溶液電解陽極製造用金属成形体を形成する。しかしながらこれに限定されず、水溶液電解陽極製造用金属粉体は、例えば、グラファイト製の型の上に乾式且つ無加圧で堆積することによって水溶液電解陽極製造用金属成形体を形成してもよい。また、加圧して圧粉体を形成してもよく、結着材を用いてもよい。さらには、積層造形技術や射出成型技術を活用することで、複雑な形状に形成することもできる。水溶液電解陽極製造用金属成形体は、目的とする水溶液電解陽極用焼結体の形状に合わせて、任意の形状を適宜選択することができる。
【0060】
水溶液電解陽極製造用金属成形体は、例えば、炉内圧力10-2Pa以下、炉内温度600℃以上1100℃以下の条件で焼結することによって水溶液電解陽極用焼結体を製造する。しかしながらこれに限定されず、水溶液電解陽極製造用金属成形体を焼結することによって、水溶液電解陽極製造用金属粉体同士が強固に結合すればよい。水溶液電解陽極製造用金属成形体を焼結することによって、多孔質体である水溶液電解陽極用焼結体を製造することができる。
【実施例】
【0061】
[実施例1]
Ti
2Niインゴットを溶製し、該Ti
2Niインゴットから切粉を得、更に該切粉を粉砕して粉砕粉を得た。該粉砕粉を篩処理に供し、粒子径D
50が100μmであり、Ti
2Ni含有量99質量%以上の電池陽極製造用金属粉体を得た。該電池陽極製造用金属粉体をグラファイト製の型の上に乾式且つ無加圧で堆積させ、炉内圧力0.01Pa、炉内温度950~1000℃の範囲内で60分間焼結することによってTi
2Niを99質量%以上含むシート状の電池陽極用焼結体(60×60×0.5mm)を製造した。該シート状電池陽極用焼結体を切断し、電池陽極用焼結体(20×20×0.5mm)を製造した。該電池陽極用焼結体の嵩密度は2.5g/cm
3、空隙率は56%であった。
図1に、本実施例に係る電池陽極用焼結体の外観写真を示す。
【0062】
[比較例1]
SUS430の薄板から電池陽極(20×25×0.5mm)を製造した。
【0063】
[比較例2]
Cuの板材から電池陽極(20×25×0.5mm)を製造した。
【0064】
[比較例3]
Ti(JIS2種)のチタン粉を焼結して作製したチタン多孔体(WEBTi(登録商標))から電池陽極(31×18×0.5mm)を製造した。該電池陽極の嵩密度は1.6g/cm3、空隙率は64%であった。なお、比較例3はTi2NiではなくTiの粉体を原料として使用したため、空隙率はTiの真密度g/cm3から求める。ここでTiの真密度とは、電池陽極用焼結体の組成にかかわらず、Ti100%の理論値とする。
【0065】
[耐腐食性の比較]
実施例1、比較例1~3をそれぞれ陽極として、温度70℃の5N硫酸の電解液中に約4cm2相当接触させ、白金線を陰極として1Aの電流を印加した。使用後の陽極の重量を測定して実施例1、比較例1~3の耐腐食性を比較した。実施例1、比較例1~3に係る電極の耐腐食性の結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
実施例1に係るTi2Niを含む電池陽極は、5時間で181mgの電極重量の減少(溶解)が確認された。重量差は時間に対しほぼ一定であったことから、これは30分で18mgの電極重量の減少(溶解)に相当する。一方で、比較例1に係るSUS430を含む電池陽極は、23.5分で液中部分が完全に溶解した。比較例2に係るCuを含む電池陽極は、30分で639mgの電極重量の減少(溶解)が確認された。すなわち、実施例1に係るTi2Niを含む電池陽極の重量の減少(溶解)は、比較例1に係るSUS430を含む電池陽極の重量の減少(溶解)の1/147、比較例2に係るCuを含む電池陽極の重量の減少(溶解)の1/35.5であった。
【0068】
比較例3に係るTiを含む電池陽極は、8分で電気抵抗が大きくなりすぎたため装置のリミッターが作動して停止した。このとき、6mgの重量の増加が確認され、電極表面に酸化チタン膜(青色)の形成が確認された。
【0069】
なお、Ti2Niインゴットから切削によりサイズ20×20×0.5mmの電池陽極を製造し、上記「耐腐食性の比較」試験に供したところ、電解液中に粉体の沈殿が観察された。他方、実施例1の電池陽極用焼結体を使用しても電解液中に粉体の沈殿は観察されなかった。この結果は、Ti2Ni粉体を原料とする焼結体を陽極として使用した場合は粉体脱落を抑制できることを示すと考えられる。
【0070】
[アノード分極挙動]
[実施例2]
実施例1に係るシート状電池陽極用焼結体を、見かけ面積3.6cm
2に切断し、電流を流すためチタンワイヤーをスポット溶接して電極を作製した。実施例2に係る電極の特性を調べるため、以下の条件でアノード分極挙動を調べた。
・1N Na
2SO
4水溶液、室温
・スイープ速度 200mV/min.
・参照電極:Ag/AgCl
・対極 :Pt
実施例2に係る電極のアノード分極挙動を
図2に示す。
【0071】
図2に示すように、電位が1.5Vを超えたあたりから電流が増加しはじめ、酸素の気泡が観察された。2.5Vでは50mA/cm
2の電流が流れ、電位を上げてゆくに従い大量の電流が流れ、大量の酸素ガスの発生が観察された。実験終了後、電極に破断、変形、Ti
2Ni粉の脱落および変色等は観察されなかった。なお、装置の制限から電流量は約350mA/cm
2が最大となっている。
【0072】
[実施例3]
実施例2に係る電極と同じ電極を用いて、より過酷な条件でのアノード分極挙動を調べた。
・5N H
2SO
4水溶液、室温
・スイープ速度 200mV/min.
・参照電極:Ag/AgCl
・対極 :Pt
実施例3に係る電極のアノード分極挙動を
図3に示す。
【0073】
図3に示すように、電位が1.5Vを超えたあたりから電流が増加しはじめ、酸素の気泡が観察された。2.5Vでは200mA/cm
2の電流が流れ、電位を上げてゆくに従い大量の電流が流れ、大量の酸素ガスの発生が観察された。実施例2と比較して、実施例3では明らかに大量の電流が流れていることが分かる。実験終了後、電極に破断、変形、Ti
2Ni粉の脱落および変色等は観察されなかった。なお、装置の制限から電流量は約400mA/cm
2が最大となっている。
【0074】
[比較例4]
純チタンインゴット(JIS2種)より製造されたチタン粉を使用した。すなわち、Ti(JIS2種)のチタン粉を焼結して作製したチタン多孔体(WEBTi(登録商標))を、厚み0.5mm、見かけ面積6cm
2に切断し、電流を流すためチタンワイヤーをスポット溶接して電極を作製した。比較例4に係る電極の特性を調べるため、以下の条件でアノード分極挙動を調べた。
・1N Na
2SO
4水溶液、室温
・スイープ速度 100mV/min.
・参照電極:Ag/AgCl
・対極 :Pt
比較例4に係る電極のアノード分極挙動を
図4に示す。
【0075】
図4に示すように、2V印加しても通電流は0.07mAとほとんど通電せず、酸素の気泡も観察されなかった。試験後、電極には着色が観察された。このため、わずかに流れた電流は陽極酸化反応に使用されたものと考えられる。これによれば、わずかに流れた電流はチタンの酸化膜の成長(反応式(3))に使用されたものであり、電気分解反応には寄与していない。
【0076】
[Ti
2Ni定電流試験]
[実施例4]
実施例1に係る電池陽極用焼結体を、見かけ面積4cm
2に切断し、電流を流すためチタンワイヤーをスポット溶接して電極を作製した。実施例4に係る電極の特性を調べるため、以下の条件で定電流試験を行った。
・5N H
2SO
4水溶液、80℃
・定電流 1000mA(250mA/cm
2)
・通電時間 5時間
・参照電極:Ag/AgCl
・対極 :Pt
実施例4に係る電極の定電流試験の結果を
図5に示す。
【0077】
図5に示すように、5時間定電流試験を行っても、電位にはほとんど変化がなく、電圧の上昇は観察されなかった。このため、電極として安定して電気分解が行われたことがわかる。実験終了後、電極に破断、変形、Ti
2Ni粉の脱落および変色等は観察されなかった。これより、環境が非常に厳しい、強酸且つ80℃の高温域でも定電流電気分解の電極として使用可能であることがわかる。