(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】R-T-B系永久磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20250410BHJP
B22F 3/00 20210101ALN20250410BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20250410BHJP
【FI】
H01F1/057 170
B22F3/00 F
C22C38/00 303D
(21)【出願番号】P 2020204540
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】古田 敦
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】工藤 光
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-174323(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108022708(CN,A)
【文献】国際公開第2018/181594(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R
2T
14B化合物(Rは希土類元素、Tは遷移金属元素、Bはホウ素)からなる主相粒子と、粒界と、を含むR-T-B系焼結磁石であって、
前記R-T-B系焼結磁石全体を100質量%として、
Coの含有量が0.50質量%以上3.00質量%以下であり、
RはCeを含み、
前記粒界は、3個以上の前記主相粒子と隣接する多粒子粒界を含み、
前記多粒子粒界はRリッチ相を含み、前記Rリッチ相に板状または針状のR-T析出物が含まれるR-T-B系永久磁石。
【請求項2】
前記R-T析出物がCeを含む請求項1に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項3】
前記R-T-B系焼結磁石の一の断面において前記R-T析出物が含まれる前記Rリッチ相を含む前記多粒子粒界の数密度が1000個/mm
2以上である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項4】
前記R-T-B系焼結磁石におけるRに対するCeの含有量が15質量%以上25質量%以下である請求項1~3のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項5】
LaおよびYを実質的に含まない請求項1~4のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項6】
前記R-T-B系焼結磁石全体を100質量%として、
Rの合計含有量が30.00質量%以上34.00質量%以下、
Bの含有量が0.70質量%以上0.95質量%以下、
Coの含有量が0.50質量%以上3.00質量%以下、
Gaの含有量が0質量%以上0.60質量%以下、
Alの含有量が0.20質量%以上1.00質量%以下、
Cuの含有量が0質量%以上0.50質量%以下、
Zrの含有量が0.10質量%以上1.00質量%以下であり、
Feが実質的な残部であり、
前記R-T-B系焼結磁石におけるRに対するCeの含有量が15質量%以上25質量%以下である請求項1~5のいずれかに記載のR-T-B系永久磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-T-B系永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、RとしてCeを含むR-T-B系永久磁石であって、R-T相を所定の範囲内で含む磁石が記載されている。上記の特徴により、抗折強度が向上したR-T-B系永久磁石を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、希土類元素の中ではCeのコストが低い。そのため、Ceを用いて十分な磁気特性、特に十分な保磁力(HcJ)を有する希土類磁石を得ることが求められている。
【0005】
本発明は、Ceを含む低コストな希土類磁石であって、HcJが高い希土類磁石を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るR-T-B系永久磁石は、
R2T14B化合物(Rは希土類元素、Tは遷移金属元素、Bはホウ素)からなる主相粒子と、粒界と、を含むR-T-B系永久磁石であって、
RはCeを含み、
前記粒界は、3個以上の前記主相粒子と隣接する多粒子粒界を含み、
前記多粒子粒界はRリッチ相を含み、前記Rリッチ相に板状または針状のR-T析出物が含まれる。
【0007】
前記R-T析出物がCeを含んでもよい。
【0008】
前記R-T-B系永久磁石の一の断面において前記R-T析出物が含まれる前記Rリッチ相を含む前記多粒子粒界の数密度が1000個/mm2以上であってもよい。
【0009】
前記R-T-B系永久磁石におけるRに対するCeの含有量が15質量%以上25質量%以下であってもよい。
【0010】
LaおよびYを実質的に含まなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、実施形態に基づき説明する。本発明のR-T-B系永久磁石は、R-T-B系焼結磁石とすることができる。
【0013】
(組成)
R-T-B系焼結磁石の組成について説明する。Rは希土類元素である。Rはセリウム(Ce)を含む。RがCeを含むことで、原料コストが低下する。さらに、後述する板状または針状のR-T析出物を含みやすくなる。また、R-T-B系焼結磁石の原料コストおよびR-T-B系焼結磁石の磁気特性を好適に制御するため、Rとしてネオジム(Nd)およびプラセオジム(Pr)から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0014】
Tは、遷移金属元素である。Tは鉄族元素(鉄(Fe),コバルト(Co),およびニッケル(Ni))であってもよい。Tは、Feであってもよく、FeとCoとの組合せであってもよい。Bはホウ素である。
【0015】
さらに、R-T-B系焼結磁石は遷移金属元素以外の金属元素から選択される1種以上を含んでもよい。例えばアルミニウム(Al)およびガリウム(Ga)から選択される1種以上を含んでもよい。さらに、炭素(C)を含んでもよい。
【0016】
以下、R-T-B系焼結磁石における各元素の含有量について説明する。
【0017】
R-T-B系焼結磁石における各元素の含有量には特に制限はない。Rの合計含有量は、R-T-B系焼結磁石全体を100質量%として、30.00質量%以上34.00質量%以下であってもよく、32.00質量%以上34.00質量%以下であってもよい。なお、以下に示す各元素の含有量は、特に記載が無い限り、R-T-B系焼結磁石全体を100質量%とした場合の含有量である。
【0018】
Bの含有量は、0.70質量%以上0.95質量%以下であってもよく、0.80質量%以上0.90質量%以下であってもよい。
【0019】
Coの含有量は0.50質量%以上3.00質量%以下であってもよく、2.00質量%以上3.00質量%以下であってもよい。
【0020】
R-T-B系焼結磁石はGaを含んでもよく、Gaを含まなくてもよい。Gaの含有量は0質量%以上0.60質量%以下であってもよく、0質量%以上0.10質量%以下であってもよい。Gaの含有量が少ないほどR-T-B系焼結磁石の製造安定性が向上しやすくなるため、Gaの含有量が少ないほど好ましい。
【0021】
R-T-B系焼結磁石はAlを含んでもよく、Alを含まなくてもよい。Alの含有量は0.20質量%以上1.00質量%以下であってもよく、0.30質量%以上0.90質量%以下であってもよい。
【0022】
R-T-B系焼結磁石はTとして銅(Cu)を含んでもよく、Cuを含まなくてもよい。Cuの含有量は0質量%以上0.50質量%以下であってもよく、0質量%以上0.25質量%以下であってもよい。
【0023】
R-T-B系焼結磁石はTとしてジルコニウム(Zr)を含んでもよく、Zrを含まなくてもよい。Zrの含有量は0.10質量%以上1.00質量%以下であってもよく、0.40質量%以上0.60質量%以下であってもよい。
【0024】
Rに対するCeの含有量は15質量%以上25質量%以下であってもよい。Rの含有量が上記の範囲内であることにより、後述する板状または針状のR-T析出物を含みやすくなる。また、Rに対するCeの含有量が15質量%以上であることにより、原料コストが十分に低下しやすくなる。
【0025】
Rとして含まれる重希土類元素の合計含有量は0質量%以上0.10質量%以下であってもよい。重希土類元素の含有量が多いほどHcJが上昇しやすくなるが高コストとなる。また、重希土類元素の含有量が多いほどBrが低下しやすくなる。重希土類元素とはGd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luのことをいう。
【0026】
また、Rとしてイットリウム(Y)およびランタン(La)を実質的に含まないことが好ましい。YおよびLaを実質的に含まないとは、Rに対するYの含有量およびRに対するLaの含有量が合計で0.5質量%以下であるという意味である。YおよびLaを実質的に含む場合には、後述する板状または針状のR-T析出物を含みにくくなり、HcJが低下しやすくなる。Laを含む場合には耐食性も低下しやすくなる。
【0027】
R-T-B系焼結磁石はCを含んでもよく、Cを含まなくてもよい。Cの含有量は0質量%以上0.3質量%以下であってもよい。
【0028】
FeはR-T-B系焼結磁石の構成要素における実質的な残部であってもよい。Feが実質的な残部であるとは、R,B,Co,Ga,Al,Cu,ZrおよびCからなる群以外に含まれる元素がFeおよび不可避的不純物のみであるという意味である。そして、不可避的不純物の含有量がR-T-B系焼結磁石に対して合計で0.5質量%以下(0を含む)であってもよい。
【0029】
(微細構造)
以下、R-T-B系焼結磁石1について、図面、特に
図1Aおよび
図1Bを用いて説明する。なお、
図1Aは後述する実施例1の断面を電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)で観察して得られた反射電子像である。FE-SEMで観察して得られた反射電子像のことを単にSEM画像と呼ぶ場合がある。
図1Bは
図1Aの一部を拡大した画像である。
【0030】
R-T-B系焼結磁石1の一つの断面をSEMで観察すると、
図1Aに示すように主相粒子11、および、粒界に存在する複数種の粒界相が見える。そして、複数種の粒界相は、それぞれ組成に応じた色の濃淡や結晶系に応じた形状を有する。
【0031】
例えば、FE-SEMに付属したエネルギー分散型X線分光器(EDS)、電子線マイクロアナライザ(EPMA)、透過電子顕微鏡(TEM)等を用いて各粒界相を点分析し組成を明らかにすることで、それらがどのような粒界相であるかを特定することができる。
【0032】
さらに各粒界相の結晶構造を透過電子顕微鏡(TEM)により確認してもよい。TEMにより各粒界相の結晶構造を確認することで、各粒界相をさらに明確に特定することができる。
【0033】
R-T-B系焼結磁石1は、
図1AのSEM画像に示すように、主相粒子11および主相粒子11の間に存在する粒界を含む。主相粒子11は、R
2T
14B化合物からなる。R
2T
14B化合物は、R
2T
14B型の正方晶からなる結晶構造を有する化合物である。主相粒子11はSEM画像では黒色である。主相粒子11の大きさには特に制限はないが、円相当径が概ね1.0μm~10.0μmである。主相粒子11は後述する板状または針状のR-T析出物13bよりも明らかに大きい。
【0034】
粒界は、多粒子粒界や二粒子粒界を含む。多粒子粒界とは3つ以上の主相粒子に囲まれた粒界であり、二粒子粒界とは隣り合う2つの主相粒子の間に存在する粒界である。
【0035】
粒界は、少なくとも2種類の粒界相を含む。
図1では、R-T相13a、および、Rリッチ相15を含む。
【0036】
R-T相13aは主にR-T化合物を含む。R-T化合物は、RおよびTを含む。Rの含有量は20.0at%以上40.0at%以下であり、Tの含有量は55.0at%以上80.0at%以下である。そして、R-T相13aに含まれるR、T以外の元素の含有量が合計10.0at%以下であるように、R-T相13aはR-T化合物を含む。なお、R、TおよびR、T以外の元素の含有量は、酸素(O)、Cおよび窒素(N)を除いた含有量である。
【0037】
Rリッチ相15は、Rの含有量が40.0at%以上であり、Tの含有量がR-T相13aよりも低い相を指す。Tの含有量は55.0at%以下であってもよい。なお、RおよびTの含有量は、O、CおよびNを除いた含有量である。
【0038】
Rリッチ相15に板状または針状のR-T析出物13bが含まれる。板状または針状とは、SEM画像において長手方向と短手方向との長さの比が2以上であり、かつ、短手方向の長さが100nm以上である形状を指す。以下、板状または針状のR-T析出物のことを単に板状R-T析出物と呼ぶ場合がある。また、板状R-T析出物13bの長手方向の長さには特に制限はないが、200nm以上10000nm以下であってもよい。
【0039】
板状R-T析出物13bの組成はR-T相13aに含まれるR-T化合物の組成と同様である。
【0040】
板状R-T析出物13bがRリッチ相15に含まれる状態とは、SEM画像において板状R-T析出物13bの外周の30.0%以上がRリッチ相15に覆われている状態を指す。
【0041】
以上より、R-T-B系焼結磁石1に含まれる多粒子粒界はRリッチ相15を含み、Rリッチ相15に板状R-T析出物13bが含まれる。
【0042】
主相粒子11と、R-T相13aおよび板状R-T析出物13bと、Rリッチ相15と、でSEM画像での明るさを比較すると、主相粒子11が最も暗く、Rリッチ相15が最も明るい。
【0043】
本発明者らは、Nd、Prと比べて低コストであるがHcJを低下させる希土類元素であるCeを用いたR-T-B系焼結磁石において、多粒子粒界に含まれるRリッチ相に板状R-T析出物が含まれる場合には、板状R-T析出物が含まれない場合と比較してHcJが向上することを見出した。Rリッチ相に板状R-T析出物が含まれる場合にHcJが向上するメカニズムが完全に解明されているわけではない。本発明者らは、以下に示すメカニズムを推察している。
【0044】
RとしてCeを含むR-T-B系焼結磁石においては、粒界に上記のR-T相およびRリッチ相が生成されやすい。R-T相は飽和磁化が高い。しかし、R-T相が主相粒子と接する場合には、主相粒子とR-T相の接点から磁化反転核が形成されやすい。磁化反転核が形成されることでR-T-B系焼結磁石のHcJが低下する。
【0045】
板状R-T析出物がRリッチ相に含まれる場合には、板状R-T析出物がRリッチ相に被覆される。Rリッチ相に被覆された板状R-T析出物は飽和磁化がR-T相と同様に高い。そして、Rリッチ相に被覆された板状R-T析出物は主相粒子に接しにくい。すなわち、主相粒子とRリッチ相に被覆された板状R-T析出物とでは磁気分断が促されており、磁化反転核が形成されにくい。その結果、R-T-B系焼結磁石のHcJが向上する。
【0046】
板状R-T析出物がCeを含んでもよい。この場合にはさらにHcJが向上しやすい。
【0047】
R-T-B系焼結磁石の一の断面において、板状R-T析出物が含まれるRリッチ相を含む多粒子粒界の数密度が1000個/mm2以上であってもよい。この場合には、上記の磁気分断がさらに促進されてHcJが向上しやすくなる。以下、板状R-T析出物が含まれるRリッチ相を含む多粒子粒界のことを単に板状R-T析出物を含む多粒子粒界と呼ぶ場合がある。
【0048】
板状R-T析出物を含む多粒子粒界の数密度はSEM画像から目視にて算出する。板状R-T析出物を含む多粒子粒界の数密度を測定するためのSEM画像の観察範囲の面積には特に制限はないが、板状R-T析出物を含む多粒子粒界の数密度を測定するために十分に広くする。例えば観察範囲の面積は0.01mm2以上としてもよい。
【0049】
SEM画像の観察倍率については多粒子粒界が板状R-T析出物を含む多粒子粒界を含むか否かを明確に確認するために十分な高さの観察倍率とすることができる。例えば1000倍以上10000倍以下とすることができる。さらに、特定の多粒子粒界が板状R-T析出物を含む多粒子粒界を含むか否かを確認するために観察倍率を適宜変化させてもよい。例えば、
図1Aに含まれる特定の多粒子粒界を拡大させたSEM画像が
図1Bである。
【0050】
粒界は上記のR-T相13aおよびRリッチ相15以外の相を含んでもよい。また、板状R-T析出物13b以外の析出物を含んでもよい。
【0051】
(製造方法)
以下、R-T-B系焼結磁石を製造する方法の一例について説明する。R-T-B系焼結磁石を製造する方法は、以下の工程を有する。
【0052】
(a)R-T-B系焼結磁石用合金(原料合金)を作製する合金準備工程
(b)原料合金を粉砕する粉砕工程
(c)得られた合金粉末を成形する成形工程
(d)成形体を焼結し、R-T-B系焼結磁石を得る焼結工程
(e)R-T-B系焼結磁石を時効処理する時効処理工程
(f)R-T-B系焼結磁石を加工する加工工程
(g)R-T-B系焼結磁石の粒界に重希土類元素を拡散させる粒界拡散工程
(h)R-T-B系焼結磁石に表面処理する表面処理工程
【0053】
[合金準備工程]
R-T-B系焼結磁石用合金を準備する(合金準備工程)。以下、合金準備方法の一例としてストリップキャスティング法について説明するが、合金準備方法はストリップキャスティング法に限定されない。
【0054】
R-T-B系焼結磁石の組成に対応する原料金属を準備し、真空またはアルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガス雰囲気中で準備した原料金属を溶解する。その後、溶解した原料金属を鋳造することによってR-T-B系焼結磁石の原料となる原料合金を作製する。なお、以下の記載では、1合金法について説明するが、第1合金と第2合金との2合金を混合して原料粉末を作製する2合金法でもよい。
【0055】
原料金属の種類には特に制限はない。例えば、希土類金属、純鉄、純コバルト、さらには、フェロボロン(FeB)等の化合物、希土類合金等の合金を使用することができる。原料金属を鋳造する鋳造方法には特に制限はない。例えばインゴット鋳造法やストリップキャスト法やブックモールド法や遠心鋳造法などが挙げられる。得られた原料合金は、凝固偏析がある場合は必要に応じて均質化処理(溶体化処理)を行ってもよい。
【0056】
[粉砕工程]
原料合金を作製した後、原料合金を粉砕する(粉砕工程)。粉砕工程は、粒径が数百μm~数mm程度になるまで粉砕する粗粉砕工程と、粒径が数μm程度になるまで微粉砕する微粉砕工程との2段階で行ってもよいが、微粉砕工程のみの1段階で行ってもよい。
【0057】
(粗粉砕工程)
原料合金を粒径が数百μm~数mm程度になるまで粗粉砕する(粗粉砕工程)。これにより、原料合金の粗粉砕粉末を得る。粗粉砕は、例えば原料合金に水素を吸蔵させた後、異なる相間の水素吸蔵量の相違に基づいて水素を放出させ、脱水素を行なうことで自己崩壊的な粉砕を生じさせること(水素吸蔵粉砕)によって行うことができる。脱水素の条件には特に制限はないが、例えば300~650℃、Arフロー中または真空中で脱水素を行う。
【0058】
粗粉砕の方法は、上記の水素吸蔵粉砕に限定されない。例えば、不活性ガス雰囲気中にて、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等の粗粉砕機を用いて粗粉砕を行ってもよい。
【0059】
高い磁気特性を有するR-T-B系焼結磁石を得るために、粗粉砕工程から後述する焼結工程までの各工程の雰囲気は、低酸素濃度の雰囲気とすることが好ましい。酸素濃度は、各製造工程における雰囲気の制御等により調節される。各製造工程の酸素濃度が高いと原料合金を粉砕して得られる合金粉末中の希土類元素が酸化してR酸化物が生成されてしまう。R酸化物は、焼結中に還元されず、R酸化物の形でそのまま粒界に析出する。その結果、得られるR-T-B系焼結磁石の保磁力HcJが低下しやすくなる。そのため、例えば、各工程(微粉砕工程、成形工程)は酸素濃度を100ppm以下の雰囲気で実施することが好ましい。
【0060】
(微粉砕工程)
原料合金を粗粉砕した後、得られた原料合金の粗粉砕粉末を平均粒子径が数μm程度になるまで微粉砕する(微粉砕工程)。これにより、原料合金の微粉砕粉末を得ることができる。微粉砕粉末に含まれる粒子のD50には特に制限はない。例えば、D50が1.0μm以上10.0μm以下であってもよい。
【0061】
微粉砕は、粉砕時間等の条件を適宜調整しながら、例えば気流式粉砕機(ジェットミル)等の微粉砕機を用いて粗粉砕した粉末の更なる粉砕を行なうことで実施される。以下、ジェットミルについて説明する。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(たとえば、Heガス、N2ガス、Arガス)を狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により原料合金の粗粉砕粉末を加速して原料合金の粗粉砕粉末同士の衝突やターゲットまたは容器壁との衝突を発生させて粉砕する微粉砕機である。
【0062】
原料合金の粗粉砕粉末を微粉砕する際には潤滑剤、例えば、有機物潤滑剤や固体潤滑剤を添加してもよい。有機物潤滑剤としては、例えばオレイン酸アミド、ラウリン酸アミド、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。固体潤滑剤としては、例えばグラファイトなどが挙げられる。潤滑剤を添加することで、成形工程において磁場を印加した際に配向が生じやすい微粉砕粉末を得ることができる。有機物潤滑剤および固体潤滑剤は、いずれか一方のみを使用してもよいが、両方を混合して使用してもよい。
【0063】
[成形工程]
微粉砕粉末を目的の形状に成形する(成形工程)。成形工程では、微粉砕粉末を、磁場中に配置された金型内に充填して加圧することによって、微粉砕粉末を成形し、成形体を得る。このとき、磁場を印加しながら成形することで、微粉砕粉末の結晶軸を特定の方向に配向させた状態で成形することができる。得られる成形体は、特定方向に配向するので、より磁性の強い異方性を有するR-T-B系焼結磁石が得られる。成形時に、成形助剤を添加してもよい。成形助剤の種類には特に制限はない。上記の潤滑剤を用いてもよい。
【0064】
加圧時の圧力は、例えば30MPa以上300MPa以下としてもよい。印加する磁場は、例えば1.0T以上5.0T以下としてもよい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場とを併用することもできる。
【0065】
なお、成形方法としては、上記のように微粉砕粉末をそのまま成形する乾式成形のほか、微粉砕粉末を油等の溶媒に分散させたスラリーを成形する湿式成形を適用することもできる。
【0066】
微粉砕粉末を成形して得られる成形体の形状は特に限定されるものではなく、例えば直方体、平板状、柱状、リング状、C型等、所望とするR-T-B系焼結磁石の形状に応じた形状とすることができる。
【0067】
[焼結工程]
得られた成形体を真空または不活性ガス雰囲気中で焼結し、R-T-B系焼結磁石を得る(焼結工程)。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要がある。焼結温度には特に制限はないが、例えば950℃以上1100℃以下としてもよい。焼結時間には特に制限はないが、例えば2時間以上10時間以下としてもよい。焼結時の雰囲気には特に制限はない。例えば、不活性ガス雰囲気としてもよく、100Pa未満の真空雰囲気としてもよい。
【0068】
[時効処理工程]
成形体を焼結した後、R-T-B系焼結磁石を時効処理する(時効処理工程)。焼結後、得られたR-T-B系焼結磁石を焼結時よりも低い温度でR-T-B系焼結磁石に時効処理を施す。
【0069】
時効処理では、時効温度は400℃以上600℃以下、時効時間は10分以上300分以下とする。時効温度は500℃以上600℃以下とすることが好ましい。RとしてCeを含む場合には、上記の条件で時効処理を行うことにより、板状R-T析出物を含む多粒子粒界を形成させることができる。特にRに対するCeの含有量が15質量%以上25質量%以下である場合に板状R-T析出物を含む多粒子粒界が形成されやすい。Rに対するCeの含有量が25質量%を超える場合には板状R-T析出物を含む多粒子粒界が形成されにくい。
【0070】
時効温度が低すぎる場合には、板状R-T析出物が十分に形成されず、板状R-T析出物を含む多粒子粒界が形成されない。時効温度が高すぎる場合には、粗大なR-T析出物が形成されてしまう。粗大なR-T析出物は形状が板状または針状ではない。したがって、板状R-T析出物を含む多粒子粒界が形成されない。どちらの場合でもHcJを向上させることができない。
【0071】
また、Nd、Pr、Ce以外の軽希土類元素を含む場合には板状R-T析出物を含む多粒子粒界が形成されにくい。La、Yを含む場合には特に板状R-T析出物を含む多粒子粒界が形成されにくい。
【0072】
時効処理時の雰囲気には特に制限はない。例えば大気圧以上の圧力の不活性ガス雰囲気(例えば、Heガス、Arガス)としてもよい。また、時効処理工程は後述する加工工程の後に行ってもよい。
【0073】
[加工工程]
得られたR-T-B系焼結磁石は、必要に応じて所望の形状に加工してもよい(加工工程)。加工方法は、例えば切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などが挙げられる。
【0074】
[粒界拡散工程]
加工されたR-T-B系焼結磁石の粒界に対して、さらに重希土類元素を拡散させてもよい(粒界拡散工程)。粒界拡散の方法には特に制限はない。例えば、塗布または蒸着等により重希土類元素を含む化合物をR-T-B系焼結磁石の表面に付着させた後に熱処理を行うことで実施してもよい。また、重希土類元素の蒸気を含む雰囲気中でR-T-B系焼結磁石に対して熱処理を行うことで実施してもよい。粒界拡散により、R-T-B系焼結磁石のHcJをさらに向上させることができる。
【0075】
[表面処理工程]
以上の工程により得られたR-T-B系焼結磁石は、めっきや樹脂被膜や酸化処理、化成処理などの表面処理を施してもよい(表面処理工程)。これにより、耐食性をさらに向上させることができる。
【0076】
なお、上記の製造方法では、加工工程、粒界拡散工程、表面処理工程を行っているが、これらの工程は必ずしも行う必要はない。
【0077】
以上のようにして得られるR-T-B系焼結磁石は、Ceを含みながらHcJが良好なR-T-B系焼結磁石となる。
【0078】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。例えば、永久磁石であってもよい。すなわち、Ceを含み、かつ、板状R-T析出物を含む多粒子粒界が形成されているのであれば、焼結磁石以外の永久磁石であってもよい。
【0079】
本発明のR-T-B系永久磁石は、一般的なR-T-B系永久磁石の用途に用いることができる。例えば、自動車の回転機などに用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
(合金準備工程)
原料合金として表1に示す組成の合金A~合金Hを準備した。なお、TREは希土類元素の合計含有量を意味する。表1に記載されていない希土類元素の含有量は合計で0.01質量%未満である。
【0082】
まず、所定の元素を含む原料金属を準備した。原料金属としては、それぞれ純度99.9%であるNd、Pr、Ce、Y、La、Fe、Co、FeB、Al、Cu、ZrおよびGaを準備した。
【0083】
次に、これらの原料金属を、表1に示す組成の合金が得られるように秤量し、ストリップキャスティング法により表1に示す組成の薄板形状の原料合金を準備した。そして、試料ごとに表2に示す合金を原料合金として選択した。
【0084】
(粉砕工程)
合金準備工程により得られた原料合金を粉砕し、合金粉末を得た。粗粉砕と微粉砕との2段階で粉砕を行った。粗粉砕は、水素吸蔵粉砕により行った。原料合金に対して水素を室温で吸蔵させた後、Arフロー中、600℃で5時間、脱水素を行った。粗粉砕により、数百μm~数mm程度の粒径の合金粉末を得た。
【0085】
微粉砕は、粗粉砕で得られた合金粉末100質量部に対して潤滑剤としてオレイン酸アミドを0.1質量部、添加し、混合した後にジェットミルを用いて高圧窒素ガス雰囲気中で行った。微粉砕は、合金粉末のD50が3.5μm程度となるまで行った。
【0086】
(成形工程)
粉砕工程により得られた混合粉末を磁場中で成形して成形体を得た。混合粉末を電磁石の間に配置された金型内に充填した後に、電磁石により磁場を印加しながら加圧して成形した。具体的には、混合粉末を2.2Tの磁場中、110MPaの圧力で圧粉成形した。磁場を印加する方向はプレス方向と垂直な方向とした。
【0087】
(焼結工程)
得られた成形体を焼結して焼結体を得た。焼結温度を1000℃、焼結時間を4時間として焼結体を得た。焼結時の雰囲気は真空雰囲気とした。
【0088】
(時効工程)
得られた焼結体に時効処理を行いR-T-B系焼結磁石を得た。時効処理は表2に記載した時効温度および時効時間で行った。時効処理時の雰囲気はAr雰囲気とした。
【0089】
(評価)
各実施例および比較例において最終的に得られたR-T-B系焼結磁石の組成が原料合金の組成と同一の組成、すなわち表1に示す組成となっていることは、蛍光X線分析法、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP法)、およびガス分析により組成分析することで確認した。
【0090】
各実施例および比較例の原料合金から作成されたR-T-B系焼結磁石の磁気特性をB-Hトレーサーを用いて測定した。具体的には、HcJを室温で測定した。結果を表2に示す。HcJは1150kA/m以上を良好とし、1300kA/m以上をさらに良好とした。
【0091】
板状R-T析出物の観察については、下記の方法で行った。
【0092】
まず、R-T-B系焼結磁石をエポキシ系樹脂に埋め込んだ。そして、R-T-B系焼結磁石を切断し、得られた断面を研磨した。研磨には市販の研磨紙を用いた。具体的には、番手が180~2000である市販の研磨紙を複数種類、準備した。そして、番手の低い研磨紙から順番に用いてR-T-B系焼結磁石の断面を研磨した。最後に、バフおよびダイヤモンド砥粒を用いて研磨した。なお、研磨時に水などの液体は用いなかった。粒界に含まれる成分が腐食することを避けるためである。
【0093】
得られた焼結体の断面にイオンミリング処理を行い、最表面の酸化膜や窒化膜等の影響を取り除いた。次に、FE-SEMを用いて焼結体の断面を観察した。観察倍率は1000倍とし、観察範囲の面積は0.013mm2とした。観察により得られたSEM画像のコントラストから、主相粒子および粒界が含まれることを確認し、粒界(多粒子粒界)に複数種類の粒界相が含まれることを確認した。また、粒界相に対して適宜FE-SEMに付属したEDSによる点分析を行うことにより、粒界にRリッチ相およびR-T相が含まれることを確認した。さらに、R-T相にはCeが含まれることを確認した。なお、点分析では、原料合金作製時に意図的に添加した元素、すなわち表1に記載した元素の含有量を分析した。
【0094】
さらに、得られたSEM画像について、板状R-T析出物を含む多粒子粒界の個数を数え上げた。そして、板状R-T析出物を含む多粒子粒界の数密度を算出した。結果を表2に示す。なお、
図1Aは実施例1の、
図2Aは実施例2の、
図3は実施例5の、
図4は比較例1の、SEM画像である。また、
図1Bは
図1Aの一部を拡大したSEM画像、
図2Bは
図2Aの一部を拡大したSEM画像である。また、全ての実施例で板状R-T析出物にはCeが含まれることを確認した。
【0095】
【0096】
【0097】
表2より、時効温度および時効時間以外、同条件で実施した実施例1~4および比較例1では、時効温度が900℃と高すぎる比較例1以外のR-T-B系焼結磁石は板状R-T析出物を含む多粒子粒界を含むことが確認された。そして、実施例1~4のR-T-B系焼結磁石は比較例1のR-T-B系焼結磁石と比較して高いHcJを有していた。さらに、時効温度が500~600℃である実施例1~3は、時効温度が400℃である実施例4と比較して板状R-T析出物が含まれるRリッチ相を含む多粒子粒界が多く、高いHcJを有していた。
【0098】
実施例5は実施例1について、Feの一部をGaに置換した実施例である。実施例6は実施例3について、Feの一部をGaに置換した実施例である。時効温度500℃である実施例5は実施例1と比較して板状R-T析出物が含まれるRリッチ相を含む多粒子粒界が多かった。しかし、時効温度600℃である実施例6は実施例3と比較して板状R-T析出物が含まれるRリッチ相を含む多粒子粒界が少なかった。そして、実施例5は実施例6と比較してHcJが高い結果となった。
【0099】
以上より、Gaを含む場合には時効条件の変化に伴い板状R-T析出物が含まれるRリッチ相を含む多粒子粒界の数密度が変化しやすいことが確認できた。すなわち、Gaを含む場合には製造安定性が低下しやすいことが確認できた。
【0100】
比較例2はYを含む組成とした。比較例3はLaを含む組成とした。比較例4はRに対するCeの含有量が50%である組成とした。比較例5はRに対するCeの含有量が40%である組成とした。その他の作製条件は実施例1と同条件とした。比較例2~5はいずれも板状R-T析出物が含まれるRリッチ相を含む多粒子粒界が観察されず、HcJも低い結果となった。
【0101】
実施例7はRに対するCeの含有量が25%でありGaを含む組成とした。実施例8はRに対するCeの含有量が15%でありGaを含む組成とした。その他の作製条件は実施例1と同条件とした。実施例7、8はいずれも板状R-T析出物が含まれるRリッチ相を含む多粒子粒界が観察され、HcJも良好な結果となった。
【符号の説明】
【0102】
1・・・R-T-B系焼結磁石
11・・・主相粒子
13a・・・R-T相
13b・・・板状または針状のR-T析出物(板状R-T析出物)
15・・・Rリッチ相