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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】インパクト工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/02 20060101AFI20250410BHJP
【FI】
B25B21/02 G
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021001036
(22)【出願日】2021-01-06
(65)【公開番号】P2022106194
(43)【公開日】2022-07-19
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】川合 靖仁
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-128820(JP,A)
【文献】特開2009-184040(JP,A)
【文献】特開2006-123080(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1765590(CN,A)
【文献】特表2010-519059(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0326686(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータにより回転し、前方へ延びるスピンドルと、
前記スピンドルにより保持されるハンマと、
前記ハンマにより回転方向に打撃されるアンビルと、を有し、
前記スピンドルは、減速部を有するキャリア部と、前記キャリア部の前方に配置されて前記ハンマを保持する軸部とに分割され、前記キャリア部と前記軸部との間には、前記キャリア部の回転を前記軸部に伝達するカム機構が設けられて、
前記ハンマは、前記軸部との間に介在されたボールを介して保持されて、前記ボールが前記軸部の外周面に形成されたカム溝内で転動することで、前記ハンマは、前記アンビルと回転方向で係合する前進位置と、前記アンビルと回転方向で非係合となる後退位置との間を前後移動可能に設けられると共に、前記軸部に外装されたコイルバネにより前記前進位置へ付勢されており、
前記カム機構は、前記キャリア部の中心から前方へ突設されるカム突起と、前記軸部に対して一体回転可能且つ前後移動可能に結合され、後退位置で前記カム突起と係合して前記キャリア部の回転を前記軸部に伝達し、前進位置で前記キャリア部と前記軸部とを相対回転させるカムと、前記カムを前記後退位置に付勢する付勢手段とを含むと共に、前記カム突起と前記カムとは、カム用ボールを介して係合して前記キャリア部の回転を前記軸部に伝達するものであり、
前記カム機構は、前記アンビルへの前記回転方向の負荷の高まりによって前記ボールが前記カム溝の最後端に達する前記ハンマの後退位置でも前記ハンマの回転エネルギーが減衰されず、当該回転エネルギーが前記付勢手段による前記カムと前記カム突起との係合力を越えた際に、前記軸部を前記キャリア部に対して相対回転させるインパクト工具。
【請求項2】
前記カム突起の外周面には、前記カム用ボールを保持する後カム凹部が形成され、前記カムの後端には、前記カム用ボールが係合する前カム凹部が形成されている請求項に記載のインパクト工具。
【請求項3】
前記カム用ボールと前記後カム凹部と前記前カム凹部とは、複数設けられる請求項に記載のインパクト工具。
【請求項4】
前記カムは、結合用ボールを介して前記軸部に対して一体回転可能且つ前後移動可能に結合される請求項1乃至3の何れかに記載のインパクト工具。
【請求項5】
前記軸部は、後端を開口する筒状に形成され、前記カムと前記付勢手段とは、前記軸部内に収容されている請求項1乃至4の何れかに記載のインパクト工具。
【請求項6】
前記軸部内には、後部が前部よりも大径となるカム収容孔が形成され、前記カムは、前記カム収容孔の前部に挿入される小径部と、前記カム収容孔の後部に挿入される大径部とを有する2段径の軸体である請求項に記載のインパクト工具。
【請求項7】
前記付勢手段は、前記小径部に外装される複数の皿バネである請求項に記載のインパクト工具。
【請求項8】
前記軸部の後端は、前記カム突起を収容して前記キャリア部へ回転可能に結合されている請求項5乃至7の何れかに記載のインパクト工具。
【請求項9】
前記キャリア部の前面には、前記カム突起と同心円となるリング状の連結部が形成され、前記連結部の内側に前記軸部の後端が回転可能に連結される請求項に記載のインパクト工具。
【請求項10】
前記連結部と前記軸部の後端とは、前記連結部及び前記軸部の周方向に配列された複数の連結用ボールを介して連結される請求項に記載のインパクト工具。
【請求項11】
前記軸部には、前記コイルバネの後端を受けるフランジが形成されている請求項1乃至10の何れかに記載のインパクト工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパクトドライバ等のインパクト工具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばインパクトドライバにおいては、特許文献1に開示されるように、後部にモータを、前部にモータの駆動によって回転打撃するアンビルを含む出力部を備える。出力部は、モータの回転によって回転するスピンドルと、スピンドルにボールを介してカム結合されるハンマとをさらに備える。ハンマは、スピンドルに外装されるコイルバネによって前進位置に付勢されて、前面に設けた爪が回転方向でアンビルのアームと係合可能となっている。
よって、モータが駆動してスピンドルが回転すると、ハンマを介してアンビルが回転し、アンビルに装着したビットによるネジ締めが可能となる。ネジ締めが進んでアンビルのトルクが高まると、ハンマが、ボールをスピンドルに設けたカム溝に沿って転動させながらコイルバネの付勢に抗して後退する。爪がアームから離れると、コイルバネの付勢とカム溝の案内とにより、ハンマは前進しながら回転して爪を再びアームに係合させ、アンビルに回転打撃力(インパクト)を発生させる。この繰り返しによってさらなる締め付けが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなインパクト工具において、高負荷でネジ締めを行うと、ハンマは、インパクトの反力により、ボールがカム溝の後端位置に位置するまで完全後退することがある。ハンマが完全後退しても、回転エネルギーによって回転し続けようとするため、ボールを介したスピンドルへの衝撃負荷が前段のプラネタリギヤ等の内部機構に加わる過負荷状態となる。よって、耐久性の低下を招くおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、衝撃負荷による耐久性の低下を効果的に抑制できるインパクト工具を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、モータと、
前記モータにより回転し、前方へ延びるスピンドルと、
前記スピンドルにより保持されるハンマと、
前記ハンマにより回転方向に打撃されるアンビルと、を有し、
前記スピンドルは、減速部を有するキャリア部と、前記キャリア部の前方に配置されて前記ハンマを保持する軸部とに分割され、前記キャリア部と前記軸部との間には、前記キャリア部の回転を前記軸部に伝達するカム機構が設けられて、
前記ハンマは、前記軸部との間に介在されたボールを介して保持されて、前記ボールが前記軸部の外周面に形成されたカム溝内で転動することで、前記ハンマは、前記アンビルと回転方向で係合する前進位置と、前記アンビルと回転方向で非係合となる後退位置との間を前後移動可能に設けられると共に、前記軸部に外装されたコイルバネにより前記前進位置へ付勢されており、
前記カム機構は、前記キャリア部の中心から前方へ突設されるカム突起と、前記軸部に対して一体回転可能且つ前後移動可能に結合され、後退位置で前記カム突起と係合して前記キャリア部の回転を前記軸部に伝達し、前進位置で前記キャリア部と前記軸部とを相対回転させるカムと、前記カムを前記後退位置に付勢する付勢手段とを含むと共に、前記カム突起と前記カムとは、カム用ボールを介して係合して前記キャリア部の回転を前記軸部に伝達するものであり、
前記カム機構は、前記アンビルへの前記回転方向の負荷の高まりによって前記ボールが前記カム溝の最後端に達する前記ハンマの後退位置でも前記ハンマの回転エネルギーが減衰されず、当該回転エネルギーが前記付勢手段による前記カムと前記カム突起との係合力を越えた際に、前記軸部を前記キャリア部に対して相対回転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ボールがカム溝の最後端に達するハンマの後退位置でもハンマの回転エネルギーが減衰されない際にはキャリア部と軸部とが相対回転することで回転エネルギーを吸収できる。よって、衝撃負荷による耐久性の低下を効果的に抑制可能となる。
また、ハンマを付勢するコイルバネを弱くすることができるため、インパクトが最初に発生するタイミングを早くすることができる。よって、カムアウト(ビットの先端が浮き上がり、ねじ頭の外へ逃げてしまう現象)が起こりにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】インパクトドライバの側面図である。
図2】インパクトドライバの中央縦断面図である。
図3図2のハンマケース部分の拡大図である。
図4】ハンマケース内の分解斜視図である。
図5図3のA-A線拡大断面図である。
図6図3のB-B線拡大断面図である。
図7図3のC-C線拡大断面図である。
図8】ハンマが前進位置にある打撃機構の状態を示す説明図で、図8Aは斜視、図8Bは縦断面をそれぞれ示す。
図9】ハンマが完全後退位置にある打撃機構の状態を示す説明図で、図9Aは斜視、図9Bは縦断面をそれぞれ示す。
図10】カム機構が作動した打撃機構の状態を示す説明図で、図10Aは斜視、図10Bは縦断面をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、インパクト工具の一例である充電式のインパクトドライバの側面図である。図2は、インパクトドライバの中央縦断面図である。
インパクトドライバ1は、本体部2とグリップ部3とを有する。本体部2は、中心軸を前後方向として形成されている。グリップ部3は、本体部2から下方へ突出する。インパクトドライバ1は、ハウジングとして、本体ハウジング4と、リヤカバー5と、ハンマケース6とを備えている。本体ハウジング4は、モータハウジング7と、グリップハウジング8と、バッテリ装着部9とを含んでいる。モータハウジング7は、筒状に形成されて本体部2の後側を形成する。グリップハウジング8は、グリップ部3を形成する。バッテリ装着部9には、電源となるバッテリパック10が装着される。
【0010】
本体ハウジング4及びリヤカバー5は、樹脂製である。本体ハウジング4は、左右の半割ハウジング4a,4bに分割され、右側から複数のネジ11,11・・によって組み付けられる。リヤカバー5は、キャップ状で、後方から左右2本のネジによってモータハウジング7に組み付けられる。
ハンマケース6は、金属製で、モータハウジング7の前部に組み付けられて本体部2の前側を形成する。ハンマケース6の左右でモータハウジング7との間には、前方を照射する図示しないライトが設けられている。
【0011】
本体部2には、後方から、ブラシレスモータ12、減速機構13、スピンドル14、打撃機構15の順で設けられている。ブラシレスモータ12は、モータハウジング7及びリヤカバー5内に収容される。減速機構13、スピンドル14、打撃機構15は、ハンマケース6内に収容される。打撃機構15には、アンビル16が設けられる。アンビル16の前端は、ハンマケース6から前方へ突出している。
グリップ部3の上部には、スイッチ17が収容されている。スイッチ17は、トリガ18を前方へ突出させている。
ハンマケース6とスイッチ17との間には、ブラシレスモータ12の正逆切替レバー19が設けられている。正逆切替レバー19の前方には、切替スイッチ20が設けられている。切替スイッチ20は、ボタン部を前面に露出させた前向き姿勢で保持されている。ボタン部の押し操作の繰り返しにより、打撃力や登録した打撃モードが切り替わるようになっている。
【0012】
バッテリ装着部9内には、バッテリパック10に内包される複数の電池セルと電気的に接続される端子台21と、その上方に位置するコントローラ22とが収容されている。コントローラ22には、マイコンやスイッチング素子等を搭載した制御回路基板23が設けられている。バッテリ装着部9の上面には、表示パネル24が設けられている。表示パネル24は、制御回路基板23へ電気的に接続されて、ブラシレスモータ12の回転数やバッテリパック10の残量表示を行う。表示パネル24では、ライトのON/OFFの切替等の操作も可能となっている。
【0013】
ブラシレスモータ12は、ステータ25とロータ26とを有するインナロータ型である。ステータ25は、ステータコア27と、ステータコア27の前後に位置するインシュレータ28,28と、複数のコイル29,29・・とを含む。コイル29は、インシュレータ28を介してステータコア27に巻回される。
前側のインシュレータ28には、センサ回路基板30が設けられている。センサ回路基板30は、ロータ26のセンサ用永久磁石34の位置を検出して回転検出信号を出力する3つの回転検出素子(図示略)を搭載している。
ロータ26は、回転軸31と、筒状のロータコア32と、永久磁石33と、センサ用永久磁石34とを有する。回転軸31は、ロータ26の軸心に位置して前後方向に延びる。永久磁石33は、ロータコア32の外側に配置される筒状である。センサ用永久磁石34は、ロータコア32の前側に配置される。
【0014】
リヤカバー5の後側内面の中央部には、軸受35が保持されている。軸受35は、回転軸31の後端を軸支している。軸受35の前方で回転軸31には、モータ冷却用のファン36が取り付けられている。ファン36の外側でリヤカバー5の周面には、複数の排気口37,37・・が形成されている。排気口37の前方でモータハウジング7の左右の側面には、複数の吸気口38,38・・が形成されている。
【0015】
ブラシレスモータ12の前方でモータハウジング7内には、ベアリングボックス40が保持されている。ベアリングボックス40は、中央部を後側に突出させた段差形状を有する円盤状となっている。モータハウジング7の内面には、ベアリングボックス40に係止する係止リブ41が設けられている。
ベアリングボックス40は、中心に回転軸31を貫通させて、後側で保持した軸受42で回転軸31を支持している。回転軸31の前端には、ピニオン43が取り付けられている。
図3にも示すように、ベアリングボックス40の外周には、前方へ延びるリング状の内壁部44が形成されている。内壁部44の外周面には、ネジ部が形成され、ハンマケース6の後端内周には、雌ネジ部が形成されている。内壁部44は、ハンマケース6にねじ込み結合される。ハンマケース6の下面には、突起45が形成されている。突起45は、左右の半割ハウジング4a,4bに挟持される。よって、ハンマケース6は、モータハウジング7内で回り止めされる。また、ハンマケース6は、ベアリングボックス40に係止する係止リブ41によって前後方向に位置決めされる。
【0016】
内壁部44内には、減速機構13を形成するインターナルギヤ46が保持されている。インターナルギヤ46は、図4にも示すように、外周面に、前方へ突出する複数の凸部47,47・・を有する。各凸部47は、内壁部44とハンマケース6との間に挟持される。ハンマケース6の内周面には、各凸部47が嵌合する複数の凹部48,48・・を有する。インターナルギヤ46は、図5に示すように、凸部47と凹部48との係合によって回転規制されている。内壁部44の内側には、インターナルギヤ46の後端を受けるOリング49が設けられている。
ハンマケース6は、前方へ向けて先細りのテーパ形状となる筒状体である。ハンマケース6の前端には、アンビル16を支持する軸受50が設けられている。軸受50の後方でアンビル16には、一対のアーム51,51が設けられている。アーム51,51の前側でハンマケース6の内壁面には、アーム51,51を受ける受けリング52が設けられている。
【0017】
スピンドル14は、前側の軸部55と後側のキャリア部56とに分割されている。キャリア部56は、中空で円盤状を有する。キャリア部56の中心には、後方へ開口する筒部57が形成されている。筒部57は、軸受58を介してベアリングボックス40に保持される。回転軸31のピニオン43は、筒部57内に突出している。キャリア部56は、インターナルギヤ46の内歯に噛み合う3つのプラネタリギヤ59,59・・を備えている。各プラネタリギヤ59は、ピン60によって回転可能に支持されている。各プラネタリギヤ59は、ピニオン43と噛合して減速機構13を形成している。
【0018】
キャリア部56の前面中心には、カム突起61が前向きに突設されている。カム突起61は、軸部55の後部内に突出している。カム突起61の周面には、図6にも示すように、3つの後カム凹部62,62・・が形成されている。各後カム凹部62は、カム突起61を前端から後方へ向けて切り欠いた形状となっている。各後カム凹部62は、カム突起61の周方向に延びる内面及び底面を有して、カム突起61の周方向へ等間隔に配置されている。後カム凹部62,62・・に、3つのカム用ボール63,63・・が収容されている。各カム用ボール63は、後述するカム75の拡開部77によってカム突起61の径方向外側への移動が規制されて、後カム凹部62内で周方向へ転動可能となっている。
キャリア部56の前面でカム突起61の周囲には、連結部64が形成されている。連結部64は、カム突起61と同心で前方へ突設されるリング状の突起である。連結部64の内周面には、外凹部65が全周に亘って形成されている。
【0019】
軸部55は、キャリア部56の連結部64の内径よりも小さい外径を有する筒状である。軸部55の後端は、カム突起61と連結部64との間に配置される。軸部55の後端外周面には、連結部64の外凹部65と対向する内凹部66が全周に亘って形成されている。外凹部65と内凹部66との間には、図5にも示すように、複数の連結用ボール67,67・・が両者に跨がって嵌合している。よって、軸部55は、キャリア部56に対して抜け止めされ、且つ同軸で回転可能に連結される。
軸部55は、後方へ開口するカム収容孔68を有する。カム収容孔68は、前側が小径孔69、後側が大径孔70となる二段径を有する。内凹部66の前方で軸部55には、連結部64よりも大径のフランジ71が形成されている。
【0020】
カム収容孔68には、カム75が収容されている。カム75は、前軸部76と拡開部77,77・・とを有する。前軸部76は、小径孔69に挿入される。拡開部77,77・・は、周方向に3つ設けられて大径孔70に挿入される。前軸部76の外周面には、図7にも示すように、3つの内溝78,78・・が設けられている。各内溝78は、前軸部76の周方向へ等間隔に配置されて、前後方向に延びている。内溝78と対向する小径孔69の内周面には、3つの外溝79,79・・が設けられている。各外溝79は、小径孔69の後端から前方に延びている。内溝78と外溝79との間には、3つの結合用ボール80,80・・が両者に跨がって嵌合している。結合用ボール80により、カム75は軸部55と回転方向で一体に結合される。但し、カム75は、両溝78,79を結合用ボール80が前後に転動する範囲で軸部55に対して前後方向へ相対移動可能となる。
拡開部77,77・・の後端には、3つの前カム凹部81,81・・が形成されている。各前カム凹部81は、前方へ凹む円弧状に形成されている。前カム凹部81は、後カム凹部62に収容されたカム用ボール63に前方から嵌合している。
前軸部76には、複数の皿バネ82,82・・が外装されている。皿バネ82は、大径孔70の前側の内底面と拡開部77の前面との間に配置されて、カム75を後方へ付勢している。よって、皿バネ82の付勢力により、各前カム凹部81にはカム用ボール63が係合する。これにより、カム突起61の回転はカム75に伝達される。
【0021】
軸部55には、ハンマ85が外装されている。ハンマ85は、前面に一対の爪86,86を有する。ハンマ85の内周面には、一対の外カム溝87,87が形成されている。外カム溝87は、ハンマ85の軸線を中心とした点対称位置に配置されて、前端から後方へ延びる。軸部55の外周面には、一対の内カム溝88,88が形成されている。内カム溝88は、軸部55の軸線を中心とした点対称位置に配置されて、尖端が前側となるV字形状となっている。外カム溝87と内カム溝88との間には、両溝に跨がって2つのボール89,89が嵌合している。このボール89,89により、ハンマ85と軸部55とは回転方向で結合される。
【0022】
ハンマ85の後面には、リング状の溝90が形成されている。溝90の底部には、複数のバネ用ボール91,91・・が収容されている。バネ用ボール91の後方には、ワッシャー92が配置されている。
軸部55には、コイルバネ93が外装されている。コイルバネ93は、後方へ向かうに従って縮径するテーパ形状で、後端が軸部55のフランジ71に当接し、前端が溝90内でワッシャー92に当接している。溝90の内側の周面を形成するハンマ85の中央筒部94は、コイルバネ93と同様に、後方へ向かうに従って縮径するテーパ形状となっている。中央筒部94は、溝90の外側の周面を形成するハンマ85の外径側よりも後方へ突出している。
【0023】
よって、ハンマ85は、コイルバネ93により、図8に示す前進位置に付勢される。この前進位置では、ボール89,89が外カム溝87,87の後端と内カム溝88,88の尖端とに位置している。
軸部55の前端中心には、嵌合凹部95が形成されている。アンビル16の後面中心には、嵌合凹部95に嵌合する嵌合凸部96が形成されている。軸部55の軸心には、嵌合凹部95とカム収容孔68とを連通させる連通孔97が形成されている。連通孔97の前端には、嵌合凸部96の後端を受ける受けボール98が嵌合している。
軸部55には、前グリス供給孔99と後グリス供給孔100とが形成されている。前グリス供給孔99は、内カム溝88,88の間で連通孔97と連通して軸部55の外周面に開口する。後グリス供給孔100は、カム収容孔68の小径孔69及び外溝79と連通して軸部55の外周面に開口する。前グリス供給孔99と後グリス供給孔100とは、前方から見て互いに直交している。
【0024】
以上の如く構成されたインパクトドライバ1では、アンビル16に図示しないビットを装着した後、トリガ18を押し込んでスイッチ17をONさせる。すると、ブラシレスモータ12に給電されて回転軸31が回転する。具体的には、制御回路基板23のマイコンが、センサ回路基板30の回転検出素子から出力される回転検出信号(ロータ26のセンサ用永久磁石34の位置を示す回転検出信号)を得てロータ26の回転状態を取得する。そして、取得した回転状態に応じて各スイッチング素子のON/OFFを制御し、ステータ25の各コイル29に対し順番に電流を流すことでロータ26を回転させる。
【0025】
回転軸31が回転すると、ピニオン43と噛合するプラネタリギヤ59がインターナルギヤ46内で公転運動する。よって、キャリア部56が減速して回転する。キャリア部56と一体のカム突起61の回転は、図6に二点鎖線で示すように、後カム凹部62の周方向の端部に転動したカム用ボール63を介してカム75に伝わる。カム75の回転は、結合用ボール80,80・・を介して軸部55に伝わる。すると、ハンマ85は、ボール89,89を介して軸部55と共に回転し、爪86,86が係合するアーム51,51を介してアンビル16を回転させる。よって、ビットによるネジ締めが可能となる。
ネジ締めが進んでアンビル16のトルクが高まると、ハンマ85が、ボール89,89を軸部55の内カム溝88,88に沿って転動させながらコイルバネ93の付勢に抗して後退する。そして、爪86,86がアーム51,51から離れると、ハンマ85は、コイルバネ93の付勢と内カム溝88,88の案内とにより、前進しながら回転して爪86,86を再びアーム51,51に係合させる。よって、アンビル16に回転打撃力(インパクト)が発生する。この繰り返しによってさらなる締め付けが可能となる。
【0026】
そして、高負荷状態でネジ締めが行われると、ハンマ85が後退する際、図9に示すように、ボール89,89が内カム溝88,88の後端まで転動する場合がある(ハンマ85の完全後退状態)。このときハンマ85の中央筒部94の後端は、軸部55のフランジ71に当接しない。
こうしてハンマ85が完全後退しても回転エネルギーが減衰されない場合、ハンマ85及び軸部55とがさらに回転し続けようとする。このため、軸部55の回転エネルギーが、皿バネ82によるカム75とカム突起61との係合力を越えることになる。すると、図10に示すように、軸部55と回転方向で一体のカム75が、前カム凹部81の周方向の端部側へカム用ボール63を相対的に転動させて、皿バネ82を圧縮変形させて付勢に抗して回転しながら前進する。このカム75の前進と皿バネ82の圧縮変形とにより、カム突起61と軸部55との位相がずれて回転エネルギーが減衰される。よって、ハンマ85が完全後退してもキャリア部56に衝撃荷重は伝わらない。
なお、完全後退したハンマ85がコイルバネ93の付勢により前進を開始すると、皿バネ82の付勢により、カム75は後退して前カム凹部81の周方向の中央にカム用ボール63を相対的に転動させる。よって、カム突起61と軸部55との位相のずれが解消される。
【0027】
上記形態のインパクトドライバ1は、ブラシレスモータ12(モータ)と、ブラシレスモータ12により回転し、プラネタリギヤ59(減速部)を有するキャリア部56と、キャリア部56の回転が伝達され、且つ過負荷時にはキャリア部56に対して相対回転可能な軸部55とを含む。また、インパクトドライバ1は、軸部55により保持されるハンマ85と、ハンマ85により回転方向に打撃されるアンビル16とを有する。
この構成により、過負荷時にはキャリア部56と軸部55とが相対回転することで回転エネルギーを吸収できる。よって、衝撃負荷による耐久性の低下を効果的に抑制可能となる。また、ハンマ85を付勢するコイルバネ93を弱くすることができる。よって、ネジ締めが進んで最初にインパクトが発生するタイミングが早くなり、カムアウトが起こりにくくなる。
【0028】
軸部55は、前方へ延び、ハンマ85は、軸部55との間に介在されたボール89を介して保持される。また、ハンマ85は、ボール89が軸部55の外周面に形成された内カム溝88(カム溝)内で転動することで、アンビル16と回転方向で係合する前進位置と、アンビル16と回転方向で非係合となる後退位置との間を前後移動可能に設けられる。また、ハンマ85は、軸部55に外装されたコイルバネ93により前進位置へ付勢されている。そして、ボール89が内カム溝88の最後端に達するハンマ85の後退位置で過負荷が発生した際に、軸部55がキャリア部56に対して相対回転する。
よって、スピンドル14を軸部55とキャリア部56との分割構造とすることで、過負荷時の相対回転を実現可能となる。
【0029】
キャリア部56と軸部55との間に、キャリア部56の回転を軸部55に伝達し、軸部55への過負荷時にはキャリア部56と軸部55とを相対回転させるカム機構(カム突起61、カム75、皿バネ82)が設けられている。
よって、キャリア部56と軸部55とをカム機構を用いて容易に相対回転させることができる。
カム機構を、キャリア部56の中心から前方へ突設されるカム突起61と、軸部55に対して一体回転可能且つ前後移動可能に結合され、後退位置でカム突起61と係合してキャリア部56の回転を軸部55に伝達し、前進位置でキャリア部56と軸部55とを相対回転させるカム75と、カム75を後退位置に付勢する皿バネ82(付勢手段)とを含む構成としている。
よって、ハンマ85が完全後退した際の衝撃荷重を皿バネ82の変形に変換して回転エネルギーを効果的に減衰させることができる。
【0030】
カム突起61とカム75とは、カム用ボール63を介して係合してキャリア部56の回転を軸部55に伝達する。よって、キャリア部56の回転がスムーズにカム75へと伝達可能となる。
カム突起61の外周面には、カム用ボール63を保持する後カム凹部62が形成され、カム75の後端には、カム用ボール63が係合する前カム凹部81が形成されている。よって、カム突起61からカム75への回転伝達とカム75の前進による皿バネ82の変形とを容易に実現することができる。
カム用ボール63と後カム凹部62と前カム凹部81とは、3つ設けられる。よって、カム突起61からカム75への回転伝達とカム75の前進による皿バネ82の変形とをバランス良く実現することができる。
【0031】
カム75は、結合用ボール80を介して軸部55に対して一体回転可能且つ前後移動可能に結合される。よって、カム75から軸部55への回転伝達と相対回転との切換を確実に行うことができる。
軸部55は、後端を開口する筒状に形成され、カム75と皿バネ82とは、軸部55内に収容されている。よって、軸部55を利用してカム機構を省スペースで設置可能となる。
軸部55内には、後部が前部よりも大径となるカム収容孔68が形成され、カム75は、カム収容孔68の前部に挿入される前軸部76(小径部)と、カム収容孔68の後部に挿入される拡開部77(大径部)とを有する2段径の軸体となっている。
付勢手段は、前軸部76に外装される複数の皿バネ82となっている。よって、付勢手段を軸部55内で省スペースで形成できる。
【0032】
軸部55の後端は、カム突起61を収容してキャリア部56へ回転可能に結合されている。よって、スピンドル14を分割しても軸部55とキャリア部56とをコンパクトに一体化できる。
キャリア部56の前面には、カム突起61と同心円となるリング状の連結部64が形成され、連結部64の内側に軸部55の後端が回転可能に連結される。よって、連結部64を利用して軸部55の連結が容易に行える。
連結部64と軸部55の後端とは、連結部64及び軸部55の周方向に配列された複数の連結用ボール67を介して連結される。よって、相対回転を許容した軸部55とキャリア部56との連結が確実に行える。
軸部55には、コイルバネ93の後端を受けるフランジ71が形成されている。よって、コイルバネ93を軸部55と一体に回転させることができる。
【0033】
以下、変更例について説明する。
上記形態では、キャリア部にカム突起を、カムに、カム突起に被さる拡開部を設けているが、これと逆に、カムの後部にカム突起を、キャリア部の前面に、カム突起に被さる拡開部を設けてもよい。前後のカム凹部とボールとの数も増減可能である。
カムを付勢する皿バネの数は適宜変更可能である。付勢手段としては皿バネ以外にコイルバネ等も採用できる。
軸部とカムとを結合する内外溝及びボールの数は増減可能である。ボールを用いず、キー結合やスプライン結合を採用してもよい。
減速機構のプラネタリギヤの数も増減可能である。
モータはブラシレスに限らない。電源もバッテリパックに限らず、商用電源であってもよい。
本発明は、インパクトドライバ以外に、アングルインパクトドライバ等の他のインパクト工具にも適用できる。
【符号の説明】
【0034】
1・・インパクトドライバ、2・・本体部、3・・グリップ部、4・・本体ハウジング、6・・ハンマケース、12・・ブラシレスモータ、13・・減速機構、14・・スピンドル、15・・打撃機構、16・・アンビル、22・・コントローラ、31・・回転軸、43・・ピニオン、55・・軸部、56・・キャリア部、59・・プラネタリギヤ、61・・カム突起、62・・後カム凹部、63・・カム用ボール、64・・連結部、67・・連結用ボール、68・・カム収容孔、71・・フランジ、75・・カム、76・・前軸部、77・・拡開部、81・・前カム凹部、82・・皿バネ、85・・ハンマ、89・・ボール、93・・コイルバネ。
図1
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図10