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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】軸受シールおよび転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20250410BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20250410BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20250410BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20250410BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C33/66 Z
F16C19/06
F16J15/3204 201
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021028021
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022129396
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】中尾 吾朗
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-184895(JP,A)
【文献】特開2017-215003(JP,A)
【文献】特開2012-077253(JP,A)
【文献】特開2017-087629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/06
F16C 33/66
F16C 33/78
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から供給される潤滑剤が軸方向一方側から軸受空間に流入する転がり軸受に装着される環状の軸受シールであって、
前記軸受シールは、外輪または内輪のいずれか一方の軌道輪に形成されたしゅう接面にしゅう接するリップ部を有し、前記転がり軸受の軸方向他方側に圧入固定されたシールであり、
前記リップ部は、前記軸受空間の外側から内側に向かって延びるとともに、該リップ部の先端面のしゅう接面側に面取り部が形成されており、前記面取り部の前記軸受シールの径方向における幅が、前記軸受シールの径方向における締め代よりも大きく、
前記リップ部は、前記軸受空間の外側から内側に向かうにしたがって縮径する傾斜部を有し、
前記面取り部の前記軸受シールの軸方向に対する傾斜角度は30度以上であり、かつ、前記面取り部の前記傾斜角度は、前記軸受シールの軸方向に対する前記傾斜部の傾斜角度よりも大きいことを特徴とする軸受シール。
【請求項2】
前記軸受シールはエラストマーが配合された樹脂組成物の成形体、またはゴム硬度(JIS K6301)がHs85以上のゴム材からなることを特徴とする請求項1記載の軸受シール。
【請求項3】
前記軸受シールの軸方向に対する前記傾斜部の前記傾斜角度が45度以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の軸受シール。
【請求項4】
前記リップ部のしゅう接面側の端部が、前記傾斜部と前記面取り部によって断面略三角形の突起状に形成され、その先端が前記しゅう接面にしゅう接することを特徴とする請求項3記載の軸受シール。
【請求項5】
前記しゅう接面にしゅう接する前記リップ部のシール面の算術平均粗さRaが1.6μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の軸受シール。
【請求項6】
内輪と、外輪と、該内輪および外輪の間に介在する複数の転動体と、該転動体を保持する保持器とを備え、外部から供給される潤滑剤が軸方向一方側から軸受空間に流入する転がり軸受であって、
前記転がり軸受は、軸方向他方側に圧入固定された軸受シールを有し、該軸受シールが請求項1から請求項までのいずれか1項記載の軸受シールであることを特徴とする転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に装着される軸受シール、および該軸受シールを備える転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、各種機械などの回転支持部に用いられる転がり軸受には、内・外輪の軸方向両側の開口部に軸受シールが配置されている。軸受シールは、一般に、軸受外部からの異物の浸入を防ぐ目的や、軸受内部からの潤滑剤の漏れを防ぐ目的で使用されている。軸受シールには、主に、鉄製の芯金と、この芯金に一体に加硫接着されたゴム製の弾性部材とからなるものが使用されている。また、軸受シールは内輪または外輪に形成されるしゅう接面に対して、弾性部材のリップ部を接触させて密閉性を保つのが一般的である。
【0003】
ここで、外部から供給される潤滑剤を利用して潤滑を行う形式の軸受が知られている。この軸受の一例を図5に示す。転がり軸受21は、内輪22と、外輪23と、複数の玉24と、玉24を保持する保持器25とを備える。転がり軸受21の軸受空間27には潤滑剤28が軸方向一方側(図右側)から流入し、転がり軸受21は流入した潤滑剤によって潤滑される。潤滑剤28はオイルポンプなどによって圧送されて供給される。このように外部から潤滑剤が供給される場合、一般的な軸受シールでは潤滑剤の圧力に耐えることが困難である。そのため、図5では、転がり軸受21の外部に、耐圧シールとしてシール部材26が別途設けられている。これにより、潤滑剤28が装置外部へ漏れることを防止している。
【0004】
また、転がり軸受の内部に耐圧シールが装着された構造も知られている(例えば、特許文献1~4参照)。図6には、その一例として、特許文献1に記載されている耐圧シール軸受を示す。転がり軸受31は、内輪32と、外輪33と、複数の玉34と、玉34を保持する保持器35とを備える。転がり軸受31では、潤滑剤38が供給される側、つまり潤滑剤38の圧力が加わる側(高圧側)に軸受シール36が装着されている。この場合、軸受シール36から軸受空間37に漏れ出る潤滑剤によって、転がり軸受31は潤滑される。軸受シール36は、芯金36aと弾性部材36bとからなり、外径側端部が外輪33のシール溝に固定されている。また、内輪32の肩部には段部が設けられており、その段部の側壁に弾性部材36bのリップ部36cの先端がしゅう接する。この構造では、軸方向一方側(高圧側)から潤滑剤38の圧力が加わると、リップ部36cの締め代が増加することで、耐圧性が向上するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公平6-19859号公報
【文献】特開2003-166548号公報
【文献】特開2006-283782号公報
【文献】特開2015-200393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、転がり軸受において種々のシール構造が知られている。しかし、図5に示す構造(別シール構造)では、転がり軸受と耐圧シールの2部品を取り付けるためのスペースが必要となるため、装置がサイズアップしやすく、また、装置の組み立ても煩雑になりやすい。また、図6に示す構造(軸受一体耐圧シール構造)では、軸受空間の潤滑状態を良好に維持することが困難であり、軸受を潤滑するための工夫が必要となる。
【0007】
本発明は、外部から供給される潤滑剤を利用して潤滑させる転がり軸受において、装置のサイズダウンおよび組み立て性の向上が図れるとともに、良好な潤滑状態を維持できる軸受シール、および該軸受シールを備える転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の軸受シールは、外部から供給される潤滑剤が軸方向一方側から軸受空間に流入する転がり軸受に装着される環状の軸受シールであって、上記軸受シールは、外輪または内輪のいずれか一方の軌道輪に形成されたしゅう接面にしゅう接するリップ部を有し、上記転がり軸受の軸方向他方側に圧入固定されたシールであり、上記リップ部は、上記軸受空間の外側から内側に向かって延びるとともに、該リップ部の先端面のしゅう接面側に面取り部が形成されており、上記面取り部の上記軸受シールの径方向における幅が、上記軸受シールの径方向における締め代よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
上記軸受シールはエラストマーが配合された樹脂組成物の成形体、またはゴム硬度(JIS K6301)がHs85以上のゴム材からなることを特徴とする。
【0010】
上記リップ部は、上記軸受空間の外側から内側に向かうにしたがって縮径する傾斜部を有し、上記軸受シールの軸方向に対する上記傾斜部の傾斜角度が45度以下であることを特徴とする。
【0011】
上記リップ部のしゅう接面側の端部が、上記傾斜部と上記面取り部によって断面略三角形の突起状に形成され、その先端が上記しゅう接面にしゅう接することを特徴とする。
【0012】
上記しゅう接面にしゅう接する上記リップ部のシール面の算術平均粗さRaが1.6μm以下であることを特徴とする。
【0013】
上記面取り部の上記軸受シールの軸方向に対する傾斜角度が30度以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明の転がり軸受は、内輪と、外輪と、該内輪および外輪の間に介在する複数の転動体と、該転動体を保持する保持器とを備え、外部から供給される潤滑剤が軸方向一方側から軸受空間に流入する転がり軸受であって、上記転がり軸受は、軸方向他方側に圧入固定された軸受シールを有し、該軸受シールが本発明の軸受シールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の軸受シールは、外輪または内輪のいずれか一方の軌道輪に形成されたしゅう接面にしゅう接するリップ部を有し、軸受空間に潤滑剤が流入する側(軸方向一方側)とは反対側(軸方向他方側)に圧入固定されているので、良好な潤滑状態を維持できるとともに、軸受内部から加わる圧力に耐えることができる。さらに、リップ部の先端面のしゅう接面側に面取り部を形成し、その面取り部の幅を軸受シールの締め代よりも大きくすることで、軸受内部からの耐圧性を保持しながら、組み込み性に優れる軸受シールになる。これにより、装置のサイズダウンおよび組み立て性の向上が図れるとともに、良好な潤滑状態を維持できる。
【0016】
1つの形態として、軸受シールはエラストマーが配合された樹脂組成物の成形体からなるので、従来の軸受シールのような芯金を持たない。また、芯金がないことでインサート成形が不要になり、軸受シールの製造を簡略化できる。なお、樹脂組成物には、エラストマーが配合されることで靭性が向上される。
【0017】
リップ部は、軸受空間の外側から内側に向かうにしたがって縮径する傾斜部を有し、軸受シールの軸方向に対する傾斜部の傾斜角度が45度以下であるので、軸受シールを軸受空間に挿入する際に軸受シールを縮径する抵抗を小さくでき、組み込み性に優れる。
【0018】
リップ部のしゅう接面側の端部が、傾斜部と面取り部によって断面略三角形の突起状に形成され、その先端がしゅう接面にしゅう接するので、軌道輪との接触面積を小さくでき、シール接触部における摩擦抵抗の増大を抑制できる。
【0019】
しゅう接面にしゅう接するリップ部のシール面の算術平均粗さRaが1.6μm以下であるので、軌道輪とのしゅう接によるリップ部の摩耗を抑制することができる。
【0020】
面取り部の軸受シールの軸方向に対する傾斜角度が30度以上であるので、軸受シールを挿入する際の軸受シールの挿入抵抗の増加を抑制でき、軸受シールの変形や捲れの発生を抑制できる。
【0021】
本発明の転がり軸受は、軸受空間に潤滑剤が流入する側(軸方向一方側)とは反対側(軸方向他方側)に圧入固定された軸受シールを有し、その軸受シールが本発明の軸受シールであるので、装置のサイズダウンおよび組み立て性の向上が図れるとともに、良好な潤滑状態を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の転がり軸受の一例を示す拡大断面図である。
図2】本発明の軸受シールの拡大断面図である。
図3図1の転がり軸受の使用形態を示す図である。
図4】本発明の転がり軸受の他の例を示す拡大断面図である。
図5】従来の転がり軸受のシール構造の一例を示す拡大断面図である。
図6】従来の転がり軸受のシール構造の他の例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の軸受シールおよび転がり軸受について、図面に基づいて以下に説明する。図1は、本発明の転がり軸受の一例である深溝玉軸受の軸方向断面図である。転がり軸受1は、外周に内輪軌道面2aを有する内輪2と、内周に外輪軌道面3aを有する外輪3と、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間を転動する複数の転動体としての玉4と、玉4を保持する保持器5とを備える。転がり軸受1は、内輪回転型の軸受であり、内輪2が回転軌道輪、外輪3が固定軌道輪である。
【0024】
転がり軸受1において、内輪2、外輪3、玉4は鉄系金属材料からなる。鉄系金属材料は、軸受材料として一般的に用いられる任意の材料であり、例えば、高炭素クロム軸受鋼(SUJ1、SUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5など;JIS G 4805)、浸炭鋼(SCr420、SCM420など;JIS G 4053)、ステンレス鋼(SUS440Cなど;JIS G 4303)、高速度鋼(M50など)、冷間圧延鋼などが挙げられる。
【0025】
転がり軸受1は、軸受外部から供給される潤滑剤が軸方向一方側(図右側)から軸受空間14に流入する軸受である。転がり軸受1は、例えばエンジンクランクやトランスミッションなどに使用される。図3には、一例としてトランスミッションで使用される場合を示す。
【0026】
図3では、転がり軸受1はアクスルドライブ軸15の一端を支持しており、転がり軸受1の軸方向一方側には潤滑剤16が流れる流路17が形成されている。潤滑剤16は、例えば潤滑油であり、オイルポンプ(図示省略)からギヤインナー(図示省略)などに圧送される。図3では、転がり軸受1は、それ自体が潤滑剤16の流路17の一部を構成している。軸受空間14の軸方向一方側(図右側)は流路17に開口しており、その開口部から潤滑剤16が軸受空間14に流入する。軸受空間14の軸方向他方側(図左側)には軸受シール6が装着されており、軸受空間14に導入された潤滑剤16が軸受外部に漏れ出ることを防止している。転がり軸受1は、軸受ハウジング18に組み込まれており、軸受シール6が軸受ハウジング18に設けられた段差部によってバックアップされている。図3では、転がり軸受1の流路に面する側が高圧側に相当し、反対側が反高圧側に相当する。
【0027】
図3に示すように、転がり軸受1では、従来のシール付転がり軸受(図6参照)とは異なり、軸受シール6が反高圧側に装着されている。そのため、外部から供給される潤滑剤16を軸受空間14に容易に導入でき、軌道面を潤滑させることができる。また、軸受内部からの圧力に対して耐圧性を確保でき、耐圧漏れを防ぐことができる。また、軸受シール6を外輪に圧入固定することで、軸受本体と耐圧シール6を一体化でき、コンパクト設計が実現できる。また、従来のシール付転がり軸受よりも、耐圧性に対する信頼性についても向上する。
【0028】
図1に戻り、軸受シールについて説明する。軸受シール6は、樹脂組成物の成形体またはゴム材からなる。従来の軸受シールには、鉄製の芯金と、この芯金に一体に加硫接着されたゴム製の弾性部材とからなるものが多く用いられているが、この図では、軸受シールは芯金を持たない。
【0029】
また、図1に示すように、軸受シール6は、略円筒状の固定部7と、固定部7の軸方向外側の端部から径方向内側に向かって延びる円環部8と、円環部8から軸受空間14の外側から内側に向かって延びるリップ部9とを有する。軸受シール6では、固定部7と円環部8とリップ部9とが一体に形成されている。また、軸受シール6は、軸方向の断面視が略U字状であり、そのU字状の開口部が軸受空間14に向かって開口するように圧入固定されている。つまり、軸受シール6は、軸受内部からの圧力に耐える方向に圧入固定されている。
【0030】
軸受シール6の固定部7は、軸受空間14の外側から内側に向かって延び、外輪3の内周に設けられ周方向に連続するシール溝に嵌合して固定される。固定部7の外周面はシール溝の底面3bに当接され、固定部7の先端面はシール溝の側面3cに当接されている。固定部7と外輪3との接触面積を多くすることで、軸受シール6の固定がより安定される。一方、リップ部9は、内輪2の外周に設けられ周方向に連続するしゅう接面2bにしゅう接する。図1において、しゅう接面2bは軸方向に平行な面で形成される。なお、リップ部9の先端面は、内輪2の肩部としゅう接面2bとを接続する傾斜面2cには当接していない。
【0031】
図1において、リップ部9の厚さは、固定部7の厚さおよび円環部8の厚さよりも全体的に小さくなっている。ここで、各部の厚さとは、軸受シールの軸方向断面において、各部が延びる方向に対して直交する方向の長さをいう。固定部7の厚さが、リップ部9の厚さよりも大きいことで、固定部7の外輪3に対する緊迫力がリップ部9の内輪2に対する緊迫力よりも大きくなり、固定部7と外輪3との間でしゅう動が生じることを防止できる。
【0032】
続いて、軸受シールの詳細について図2を参照して説明する。図2は、軸受空間に装着される前の状態(自由状態)の軸受シールを示す。軸受シール6において、リップ部9は、円環部8の径方向内側の端部に接続され、軸方向一方側に向かうにしたがって縮径する傾斜部10と、傾斜部10から軸方向に沿って折り曲げられた先端部11とを有する。先端部11の先端面11aの内径側(図1における内輪2のしゅう接面2b側)には面取り部12が形成されている。面取り部12は、該面取り部12の軸受シール6の径方向における幅bが、軸受シール6の径方向における締め代aよりも大きくなるように形成される(b>a)。なお、軸受シール6の締め代aは、軸受シール6の径方向幅Aから、シール溝の底面としゅう接面との間の距離を差し引いた値である。
【0033】
従来の軸受シール(図6参照)は、軸受外部からの圧力に耐えるように設計されているため、軸受内部からの圧力に対しては耐圧性が劣る。そこで、本発明の軸受シールは、軸受内部からの圧力に耐えるリップ形状としている。また、軸受内部からの圧力に耐えるリップ形状にすると、軸受シール6の組み込み性が低下するおそれがあるため、リップ部9の先端部11の先端面11aの内径側に面取り部12を設けることで、軸受内部からの耐圧性を保持しながら、組み込み性(挿入性)に優れている。特に、面取り部12の幅bを締め代aよりも大きくすることで、組み込む際のリップ部9の変形や捲れの発生を抑制できる。
【0034】
ここで、軸受シール6の軸方向に対する傾斜部10の傾斜角度αは45度以下であることが好ましい。傾斜角度αが45度を超えると、軸受シール6を軸受空間に挿入する際に、リップ部9を縮径する抵抗が大きくなるため、挿入しにくくなるおそれがある。傾斜角度αは20度~45度がより好ましく、25度~40度がさらに好ましい。このように、軸受内部からの圧力に対し、リップ部9が増加する方向にリップ部9が角度をもって内輪に接触するように形成されている。
【0035】
また、図2に示すように、リップ部9の内径側の端部13は、傾斜部10と面取り部12によって断面略三角形の突起状に形成されている。この端部13の先端13aは、装着時にはしゅう接面2bにしゅう接する(図1参照)。リップ部9の内径側の端部13をこのような形状にすることで、しゅう接面2bとの接触が線接触に近くなり、内輪との接触による摩擦抵抗の増大が抑制される。なお、端部13は、傾斜部10と先端部11との境界付近に位置している。
【0036】
軸受シール6において、軌道輪のしゅう接面にしゅう接するシール面の算術平均粗さRaは、耐摩耗性の観点から1.6μm以下が好ましい。Raが1.6μmを超える場合には、軸受シールの摩耗が促進されるおそれがある。より好ましくは、算術平均粗さRaが0.1μm~1.0μmである。算術平均粗さRaは、JIS B 0601に準拠して算出される数値であり、接触式または非接触式の表面粗さ計などを用いて測定される。図2において、軸受シール6のシール面は端部13の先端13a近傍の内周面である。なお、リップ部9の内周面全体の算術平均粗さRaが上記範囲を満たすように、リップ部9を形成してもよい。
【0037】
また、面取り部12の軸受シール6の軸方向に対する傾斜角度βは30度以上が好ましい。傾斜角度βが30度未満であると、軸受シール6を挿入する際に、リップ部9の挿入抵抗が増加し、変形や捲れが発生するおそれがある。傾斜角度βは30度~45度がより好ましい。また、傾斜角度βは、傾斜角度αよりも大きい角度であることが好ましい。
なお、面取り部12は、図2に示すように直線状に形成してもよく、また、湾曲した形状に形成してもよい。後者の場合、傾斜角度βは、面取り部の内径側端部における接線と、軸受シール6の軸方向とがなす角度である。
【0038】
図2に示す軸受シール6では、固定部7はリップ部9よりも軸方向一方側に突出するように形成されている。具体的には、固定部7の先端面7aの軸方向位置はリップ部9の先端面11aの軸方向位置よりも円環部8から離れた位置になっている。また、軸受シール6の挿入性の観点から、固定部7の先端面7aの外径側(図1における外輪3のシール溝の底面3b側)にも面取り部7bを設けることが好ましい。
【0039】
本発明の軸受シールが樹脂組成物の成形体からなる形態において、該樹脂組成物のベース樹脂は、特に限定されないが、射出成形可能な合成樹脂が好ましい。例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ホリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、フェノール(PF)樹脂などが挙げられる。なお、これらの樹脂は単独で使用しても、2種類以上混合したポリマーアロイとしてもよい。
【0040】
上記樹脂組成物には、エラストマーが配合されることが好ましい。エラストマーを配合することで靱性が向上し、軸受シールの組み込み時の変形などを防止しやすくなる。また、エラストマーを配合することで柔軟性が向上し、軌道輪との接触部の密閉性を保つことができる。エラストマーとしては、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマーのいずれでもよいが、熱可塑性エラストマーが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマーなどが挙げられる。
【0041】
エラストマーの配合量は、樹脂組成物全体に対して1~30体積%であることが好ましい。より好ましくは、1~20体積%である。エラストマーの配合割合が30体積%をこえると、成形収縮率が大きくなり十分な寸法精度が得られないおそれがある。また、1体積%未満では上述の靱性向上などの効果を十分に得られないおそれがある。
【0042】
必要に応じて、上記樹脂組成物に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、グラファイト、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、窒化ホウ素などの固体潤滑剤、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどのしゅう動補強材、炭素粉末、酸化鉄、酸化チタンなどの着色剤などを配合してもよい。これらは単独で配合することも、組み合わせて配合することもできる。
【0043】
上記樹脂組成物の好ましい形態として、例えば、ベース樹脂としてのPPS樹脂にPTFE樹脂が配合された組成物が挙げられる。
【0044】
本発明の軸受シールは、例えば射出成形によって成形される。上記樹脂組成物を構成する各材料を、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダーなどにて混合した後、二軸混練押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。なお、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。
【0045】
また、本発明の軸受シールはゴム材から構成されていてもよい。ゴムには、例えば水素化ニトリルゴム(HNBR)、フッ素ゴム、アクリルゴムなどが用いられる。また、軸受シールを構成するゴム材のゴム硬度(JIS K6301)は、Hs85以上が好ましい。
【0046】
本発明の転がり軸受は、上記図1図3の構成に限らず、例えば図4の構成であってもよい。図4の転がり軸受1’は、内輪2と、外輪3と、複数の玉4と、玉4を保持する保持器5とを備え、軸受空間の軸方向一方側に軸受シール6が装着されている。図4の転がり軸受1’は、図1の転がり軸受1とは異なり、内輪2の外周および外輪3の内周にシール溝が形成されていない。図4において、軸受シール6は、内輪2の肩部と外輪3の肩部の間に装着されている。具体的には、軸受シール6は、内輪2の肩部にしゅう接し、外輪3の肩部に圧入固定されている。なお、軸受シール6の構成は、図1の軸受シールの構成と同様である。
【0047】
上記図1図4では、転がり軸受として深溝玉軸受を例示したが、本発明の転がり軸受は、上記以外の円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などとしても使用できる。
【0048】
また、上記図1図4では、転がり軸受として内輪回転型の軸受を示したが、外輪回転型の軸受にも適用できる。この外輪回転型の場合には、転がり軸受の内輪に軸受シールの固定部が固定されるとともに、外輪に軸受シールのリップ部がしゅう接する。この場合、軸受シールは、図1の軸受シール6を上下反転させたようにして装着される。この場合も、上記と同様に、軸受内部の潤滑状態を良好に維持しつつ、耐圧漏れを防ぐことができ、装置のコンパクト化を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の軸受シールは、装置のサイズダウンおよび組み立て性の向上が図れるとともに、良好な潤滑状態を維持できるので、外部から供給される潤滑剤を利用して潤滑させる転がり軸受の耐圧シールとして好適である。
【符号の説明】
【0050】
1、1’ 転がり軸受
2 内輪
2a 内輪軌道面
2b しゅう接面
2c 傾斜面
3 外輪
3a 外輪軌道面
3b 底面
3c 側面
4 玉(転動体)
5 保持器
6 軸受シール
7 固定部
7a 先端面
7b 面取り部
8 円環部
9 リップ部
10 傾斜部
11 先端部
11a 先端面
12 面取り部
13 端部
13a 先端
14 軸受空間
15 アクスルドライブ軸
16 潤滑剤
17 流路
18 軸受ハウジング
図1
図2
図3
図4
図5
図6