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特許7664069エンジンオイル性状予測モデル生成プログラム及びこれによって生成されたエンジンオイル性状予測モデル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】エンジンオイル性状予測モデル生成プログラム及びこれによって生成されたエンジンオイル性状予測モデル
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20250410BHJP
   F01M 11/10 20060101ALI20250410BHJP
【FI】
G06N20/00
F01M11/10 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021062359
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157881
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2024-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】517436615
【氏名又は名称】シェルルブリカンツジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100135862
【弁理士】
【氏名又は名称】金木 章郎
(72)【発明者】
【氏名】大宮 尊
(72)【発明者】
【氏名】羽生田 清志
【審査官】千葉 久博
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-159279(JP,A)
【文献】特開2007-211685(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0299080(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110991939(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 20/00
F01M 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両タイプ、エンジン排気量、車両サイズ、最大オイル負荷、車両総走行距離及び所定期間走行距離の1以上を含む第1の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、エンジンオイル使用距離を含む第2の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、エンジンオイルの性状を示す性状パラメータのデータと、のうちの学習に用いる学習用データを説明変数として機械学習して、エンジンオイルの性状を予測するための複数の予測モデルを生成する機械学習工程と、
前記第1の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、前記第2の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、エンジンオイルの性状を示す性状パラメータのデータと、のうちの検証に用いる検証用データを用いて、前記複数の予測モデルを検証し、良好要件を満たす予測モデルを良好予測モデルとして決定する良好予測モデル決定工程と、を備え、
前記検証用データは、性状パラメータの実測値を含み、
前記良好予測モデル決定工程は、前記複数の予測モデルのうち、前記検証用データに含まれる性状パラメータの実測値が、前記予測モデルにより算出された性状パラメータの算出値と最も近い予測モデルを、前記良好要件を満たす良好予測モデルとして決定する、エンジンオイル性状予測モデル生成プログラム。
【請求項2】
前記機械学習工程は、ランダムフォレスト、線形回帰、決定木、サポートベクターマシーン、ガウス過程回帰、ブースティングによるアンサンブル学習のうちの少なくとも一の機械学習である、請求項1に記載のエンジンオイル性状予測モデル生成プログラム。
【請求項3】
前記機械学習工程は、
前記学習用データから、重複を許してランダムに抽出するブートストラップサンプリングモジュールと、
前記説明変数を用いて複数の決定木を生成する決定木生成モジュールと、
前記決定木の集合体からなる予測モデルを評価する評価モジュールと、
を有する、請求項2に記載のエンジンオイル性状予測モデル生成プログラム。
【請求項4】
前記性状パラメータは、エンジンオイルの単位特性を示す少なくとも1つの単位特性パラメータを含み、
一の単位特性パラメータに、前記第1の車両パラメータから選択された少なくとも1つのパラメータと、前記第2の車両パラメータから選択された少なくとも1つのパラメータと、が対応付けられ、一の単位特性パラメータに対応する少なくとも1つの予測モデルが生成される、請求項1ないし3のいずれかに記載のエンジンオイル性状予測モデル生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
車両のエンジンに用いられるエンジンオイルの劣化を予測する予測モデルを生成するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンは、潤滑や冷却のためにエンジンオイルを用いる。エンジン内でエンジンオイルは高温にさらされ、さらに、エンジンのピストンは、高速で運動するので摩耗しやすい。このため、車両の走行距離が増えるにつれて、熱負荷や摩耗により様々な物質がエンジンオイルに蓄積し、エンジンオイルが劣化していく。
【0003】
従前では、エンジンオイルの温度や汚染係数などからエンジンオイルの残存寿命を予測するものや(例えば、特許文献1参照)、赤外線吸光度や走行距離などからペンタン不溶解分や全酸価を求めてエンジンオイルの劣化の程度を予測するもの(例えば、特許文献2参照)、年間走行距離や使用期間を用いて使用コンディションからオイル寿命を判定するもの(例えば、特許文献3参照)などがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6557549号
【文献】特開平9-100712号公報
【文献】特許第6292544号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従前のエンジンオイルの劣化の予測手法では、ある特定のエンジン構造に対するものであり、他の異なるエンジン構造に対しては、予測することが困難になる場合があった。また、エンジンオイルについても特定のもので予測するものが多く、異なるエンジンオイルに対しては予測が困難になる場合があった。
【0006】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジン構造やエンジンオイルの種類によることなく、エンジンオイルの劣化を、汎用性を高くして的確に予測できるエンジンオイル性状予測モデルを生成するためのエンジンオイル性状予測モデル生成プログラムなどを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるエンジンオイル性状予測モデル生成プログラムの特徴は、
車両タイプ、エンジン排気量、車両サイズ、最大オイル負荷、車両総走行距離及び所定期間走行距離の1以上を含む第1の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、エンジンオイル使用距離を含む第2の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、エンジンオイルの性状を示す性状パラメータのデータと、のうちの学習に用いる学習用データを説明変数として機械学習して、エンジンオイルの性状を予測するための複数の予測モデルを生成する機械学習工程と、
前記第1の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、前記第2の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、エンジンオイルの性状を示す性状パラメータのデータと、のうちの検証に用いる検証用データを用いて、前記複数の予測モデルを検証し、良好要件を満たす予測モデルを良好予測モデルとして決定する良好予測モデル決定工程と、を備え
前記検証用データは、性状パラメータの実測値を含み、
前記良好予測モデル決定工程は、前記複数の予測モデルのうち、前記検証用データに含まれる性状パラメータの実測値が、前記予測モデルにより算出された性状パラメータの算出値と最も近い予測モデルを、前記良好要件を満たす良好予測モデルとして決定することである。
【発明の効果】
【0008】
エンジン構造やエンジンオイルの種類によることなく、エンジンオイルの劣化を、汎用性を高くして的確に予測できる予測モデルを生成できるエンジンオイル性状予測モデル生成プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測で用いる車両特徴パラメータの一例を示すテーブル(a)と、性状パラメータの一例を示すテーブル(b)とである。
図2】本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測の全体的の流れの概略を示すフローチャートである。
図3】本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測の機能ブロック図である。
図4】本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測における対応関係の概念を示す図である。
図5】本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測モデルから得られる性状パラメータと車両特徴パラメータとの関係の一覧の例を示す図である。
図6A】車両関連パラメータの組み合わせの例を示す表である。
図6B】車両関連パラメータの組み合わせの例を示す表である。
図6C】車両関連パラメータの組み合わせの例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<<<<本実施の形態の概要>>>>
<<第1の実施の態様>>
第1の実施の態様によれば、
車両タイプ、エンジン排気量、車両サイズ、最大オイル負荷、車両総走行距離及び所定期間走行距離の1以上を含む第1の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、エンジンオイル使用距離を含む第2の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、エンジンオイルの性状を示す性状パラメータのデータと、のうちの学習に用いる学習用データを説明変数として機械学習して、エンジンオイルの性状を予測するための少なくとも1つの予測モデルを生成する機械学習工程と、
前記第1の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、前記第2の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、エンジンオイルの性状を示す性状パラメータのデータと、のうちの検証に用いる検証用データを用いて、前記少なくとも1つの予測モデルを検証し、良好要件を満たす予測モデルを良好予測モデルとして決定する良好予測モデル決定工程と、を備えるエンジンオイル性状予測モデル生成プログラムが提供される。
【0011】
エンジンオイル性状予測モデル生成プログラムは、エンジンオイルの性状を予測するための予測モデルを生成するプログラムである。生成された予測モデルによって、エンジンオイルの性状を予測することができる。エンジンオイル性状予測モデル生成プログラムは、機械学習工程と良好予測モデル決定工程と、を備える。
【0012】
機械学習工程は、学習用データを説明変数として機械学習し、エンジンオイルの性状を予測するための少なくとも1つの予測モデルを生成する。機械学習によって生成される予測モデルは、候補となる予測モデルである。機械学習工程は、最終的な予測モデル(良好予測モデル決定)を生成する工程ではなく、最終的な予測モデルを選択するための少なくとも1つの候補用の予測モデルを生成するための工程である。学習用データは、性状パラメータ及び車両特徴パラメータのデータのうちの機械学習のために用いるデータである。
【0013】
車両特徴パラメータは、第1の車両パラメータと第2の車両パラメータとを有する。第1の車両パラメータは、車両タイプと、エンジン排気量と、車両サイズと、最大オイル負荷と、車両総走行距離と、所定期間走行距離とのうちの1以上のパラメータである。第2の車両パラメータは、エンジンオイル使用距離を含むパラメータである。第2の車両パラメータには、第1の車両パラメータは含まれない。第2の車両パラメータには、エンジンオイル使用距離が含まれていればよい。すなわち、車両特徴パラメータは、エンジンオイル使用距離を常に含み、エンジンオイル使用距離と他の車両パラメータとの組み合わせからなる。
【0014】
すなわち、エンジンオイルの性状を予測する予測モデルを生成するために、エンジンオイル使用距離及び他の車両パラメータのデータの組み合わせと、性状パラメータとを説明変数として機械学習する。言い換えれば、エンジンオイル使用距離を基本の車両パラメータとし、エンジンオイル使用距離を補うためのパラメータとして、他の車両パラメータと組み合わせて機械学習する。エンジンオイルの性状に応じて、エンジンオイル使用距離だけでなく、他の車両パラメータと組み合わせることで、予測対象のエンジンオイルの性状をより的確に予測できる予測モデルを生成することができる。
【0015】
良好予測モデル決定工程は、第1の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、第2の車両パラメータのうちの少なくとも1つのパラメータのデータと、エンジンオイルの性状を示す性状パラメータのデータと、のうちの検証に用いる検証用データを用いる。検証用データは、全ての学習用のデータと異なっても、一部が重複してもよい。
【0016】
検証用データによって、少なくとも1つの予測モデルを検証し、良好要件を満たす予測モデルを良好予測モデルとして決定する。すなわち、少なくとも1つの候補の予測モデルを検証して、最終的に良好予測モデルを決定する。例えば、良好予測モデル決定工程は、機械学習工程で生成した予測モデルを使って求めた性状パラメータの値と、検証用データの性状パラメータの値との決定係数を算出して、決定係数から良好か否かを判定してもよい。
【0017】
このようにして、エンジンオイル性状予測モデルを生成するためのエンジンオイル性状予測モデル生成プログラムと、エンジンオイル性状予測モデル生成プログラムによって生成されたエンジンオイル性状予測モデルと、を提供することができる。
【0018】
<<第2の実施の態様>>
第2の実施の態様は、第1の実施の態様において、
前記機械学習工程は、ランダムフォレスト、線形回帰、決定木、サポートベクターマシーン、ガウス過程回帰、ブースティングによるアンサンブル学習のうちの少なくとも一の機械学習である。
【0019】
エンジンオイル使用距離と、他の車両パラメータとの組み合わせに応じて、最適な予測モデルを生成できる機械学習のアルゴリズムを適宜に選択すればよい。
【0020】
<<第3の実施の態様>>
第3の実施の態様は、第1の実施の態様において、
前記機械学習工程は、
前記学習用データから、重複を許してランダムに抽出するブートストラップサンプリングモジュールと、
前記説明変数を用いて複数の決定木を生成する決定木生成モジュールと、
前記決定木の集合体からなる予測モデルを評価する評価モジュールと、
を有する。
【0021】
機械学習工程は、ブートストラップサンプリングモジュールと、決定木生成モジュールと、評価モジュールとを有する。
【0022】
ブートストラップサンプリングモジュールは、機械学習をする際に、母集団である学習用データから重複込みでランダムに、部分集合である標本データを取り出す(復元抽出)ためのモジュールである。
【0023】
決定木生成モジュールは、YES又はNOで決定できる条件によって予測するモジュールである。決定木は、特徴量の値そのものに対して条件を定めて判断する。
【0024】
評価モジュールは、学習用データを用いて生成された予測モデルに対して、実際に分析したオイル性状の実測値を有するデータを入力してオイル性状の実測値を試算するモジュールである。
【0025】
そのほか、評価モジュールは、選定した説明変数に対する車両パラメータの依存度や、OOB error rateの安定性等を評価することができる。
【0026】
<<第4の実施の態様>>
第4の実施の態様は、第1ないし第3の実施の態様において、
前記性状パラメータは、エンジンオイルの単位特性を示す少なくとも1つの単位特性パラメータを含み、
一の単位特性パラメータに、前記第1の車両パラメータから選択された少なくとも1つのパラメータと、前記第2の車両パラメータから選択された少なくとも1つのパラメータと、が対応付けられ、一の単位特性パラメータに対応する少なくとも1つの予測モデルが生成される。
【0027】
性状パラメータは、エンジンオイルの単位特性を示す少なくとも1つの単位特性パラメータを含む。例えば、単位特性は、塩基価、Cu、Fe、残留炭素分、動粘度、Pbなどにすることができる。単位特性は、エンジンオイルの特性を示すものであればよい。単位特性は、エンジンオイルの種類によって、適宜に定めればよい。
【0028】
一の単位特性パラメータに、第1の車両パラメータから選択された少なくとも1つのパラメータと、第2の車両パラメータから選択された少なくとも1つのパラメータと、が対応付けられて、機械学習した結果として、一の単位特性パラメータに対応する少なくとも1つの候補用の予測モデルが生成される。単位特性パラメータ毎に少なくとも1つの候補用の予測モデルが生成される。
【0029】
さらに、良好予測モデル決定工程によって、少なくとも1つの候補用の予測モデルから良好予測モデルが決定される。すなわち、機械学習工程によって、単位特性パラメータ毎に少なくとも1つの候補用の予測モデルが生成され、良好予測モデル決定工程によって、単位特性パラメータ毎に良好予測モデルが決定される。このようにして、単位特性パラメータの各々に対して、適切な良好予測モデルを生成することができる。
【0030】
<<第5の実施の態様>>
第5の実施の態様によれば、
第1の実施の態様のエンジンオイル性状予測モデル生成プログラムを提供可能なサーバが提供される。エンジンオイル性状予測モデル生成プログラムを提供できるので、エンジン構造やエンジンオイルの種類に応じて、適切なエンジンオイル性状予測モデルを生成するためのエンジンオイル性状予測モデル生成プログラムを提供することができる。
【0031】
<<第6の実施の態様>>
第6の実施の態様によれば、
第1の実施の態様のエンジンオイル性状予測モデル生成プログラムによって生成されたエンジンオイル性状予測モデルを提供可能なサーバが提供される。
【0032】
<<<<本実施の形態の詳細>>>>
本実施の形態によるエンジンオイル性状予測モデル生成プログラム及びこれによって生成されたエンジンオイル性状予測モデルは、各種の車両情報からエンジンオイルのオイル性状や性能を予測する。以下では、主として、エンジンオイル性状予測モデル生成プログラムについて説明するが、エンジンオイル性状予測モデル生成プログラムを提供可能なサーバや、エンジンオイル性状予測モデル生成プログラムによって生成されたエンジンオイル性状予測モデルを提供可能なサーバについても説明する。
【0033】
以下に、実施の形態について図面に基づいて説明する。図1は、本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測で用いる車両特徴パラメータの一例を示すテーブル(a)と、性状パラメータの一例を示すテーブル(b)とである。図2は、本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測の全体的の流れの概略を示すフローチャートである。図3は、本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測の機能ブロック図である。図4は、本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測における対応関係の例を示す図である。図5は、本実施の形態によるエンジンオイル性状予測モデルから得られる性状パラメータと車両特徴パラメータとの関係の一覧の例を示す図である。図6A図6Cは、車両関連パラメータの組み合わせの例を示す表である。
【0034】
<<<内燃エンジンにおけるエンジンオイルの流れ>>>
エンジンオイルは、エンジンオイルポンプによって、内燃エンジンの各所に供給される。例えば、エンジンオイルは、シリンダやクランク軸などの各種の可動部材の近傍に供給される。
【0035】
エンジンオイルは、内燃エンジンの稼働中に循環する。このため、エンジンオイルは、内燃エンジンの可動部の金属摩擦や温度などによって徐々に劣化していく。劣化の度合いによっては、エンジンオイルの機能を十分に発揮できないことが生じる。
【0036】
<エンジンオイルの機能>
エンジンオイルは、潤滑機能、密封機能、冷却機能、清浄分散機能、防錆機能などの各種の機能を有する。潤滑機能は、金属摩擦を減らし、可動部材などを円滑に動かすための機能である。密封機能は、ピストンとピストンリングとの隙間を密閉して、気密性を保つための機能である。冷却機能は、燃焼などで発生する熱を吸収して放出するための機能である。清浄分散機能は、燃焼によって発生した内燃エンジンの内部の汚れを取り込むための機能である。防錆機能は、内燃エンジン内の水分や酸が原因で発生する錆や腐食から内燃エンジンを守るための機能である。
【0037】
エンジンオイルの潤滑機能や清浄分散機能のように、エンジンオイルは、使用するに従って汚染されていく。すなわち、車両が走行するに従って、エンジンオイルは、劣化していく。エンジンオイルが劣化していくと、潤滑機能や清浄分散機能などの各種の機能を十分に発揮できなくなる。このため、エンジンオイルの状態(劣化の程度など)を管理する必要がある。
【0038】
<<<車両特徴パラメータ及び性状パラメータ>>>
本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測では、エンジンオイルの性状予測に必要となる各種のパラメータのデータを蓄積し、蓄積したデータを用いて機械学習することで予測モデルを生成する。エンジンオイルの性状予測に用いるパラメータは、車両特徴パラメータ及び性状パラメータがある。
【0039】
車両特徴パラメータは、車両のエンジン排気量や車両総走行距離などの車両の仕様や車両の走行履歴などによって特徴づけられるパラメータである。車両の仕様によって定まる車両特徴パラメータは、事前に取得することができる。また、車両の走行履歴などエンジンの稼働によって定まる車両特徴パラメータは、走行記録装置などから取得することができる。
【0040】
性状パラメータは、エンジンオイルに蓄積される各種の物質などで特徴づけられるパラメータである。可動部材の摩耗などによって、金属などの各種の物質が徐々にエンジンオイルに溶出する。エンジンオイルに溶出される物質の種類や量などによって、エンジンオイルの性状(劣化の程度)が定まる。エンジンオイルの性状は、車両の非営業時や休日やメンテナンス時などのエンジンの非稼働時に取得することができる。エンジンの非稼働時にエンジンオイルを抽出し、抽出したエンジンオイルを分析装置によって分析したり解析したりすることで、エンジンオイルに溶出された物質の種類や量を取得できる。
【0041】
このように取得された車両特徴パラメータ及び性状パラメータのデータは、所定のタイミングで、エンジンオイルの性状予測システムや装置などの記憶装置(例えば、後述するデータ記憶部100など)に収集されて、徐々に蓄積されていく。蓄積することによって、機械学習の説明変数のデータを構成することができる。
【0042】
車両特徴パラメータは、後述する機械学習における説明変数として機能する。性状パラメータは、機械学習における目的変数として機能する。
【0043】
図1(a)は、本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測で用いる車両特徴パラメータの一例を示すテーブルである。図1(b)は、本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測で用いる性状パラメータの一例を示すテーブルである。
【0044】
<<車両特徴パラメータ>>
車両特徴パラメータには、経時的に変化しないパラメータと、経時的に変化するパラメータとがある。
【0045】
<経時的に変化しないパラメータ>
経時的に変化しないパラメータは、車両の車種や型式などの仕様によって一義的に定まるパラメータである。経時的に変化しないパラメータは、例えば、図1(a)に示す車両特徴パラメータのうち、車両サイズや車両タイプやエンジン排気量や最大オイル負荷や積載量などである。
【0046】
<車両サイズ及び車両タイプ>
車両サイズは、小型、中型、大型などにすることができる。車両タイプは、トラック、バス、セダン、SUVなどがある。車両サイズや車両タイプは、車両の仕様が決まると一義的に定まる。車両サイズや車両タイプは、これらの分類に限られず、さらに細分化したり、他の分類の仕方にしたりすることができる。車両サイズ及び車両タイプは、エンジンオイルの劣化に関連する可能性がある。
【0047】
<エンジン排気量>
エンジン排気量は、車種や型式によって一義的に定まる具体的な数値である。なお、エンジン排気量は、具体的な数値ではなく、大、中、小などでもよい。一般に、エンジン排気量が多ければ、エンジンオイルへの負荷は大きく、エンジン排気量が少なければ、エンジンオイルへの負荷は小さい。このため、エンジン排気量は、エンジンオイルの劣化に関連する。
【0048】
<最大オイル負荷>
本実施の形態では、最大オイル負荷は、定格出力/エンジンオイルの量と定義される。定格出力は、内燃エンジンから取り出せる機械的な出力である。定格出力は、指定された条件下で安全に達成できる内燃エンジンの最大の出力にすることができる。定格出力は、車両の仕様が決まると一義的に定まる。一般に、定格出力が低いとエンジンオイルへの負荷は小さく、定格出力が高いとエンジンオイルへの負荷は大きい。最大オイル負荷は、エンジンオイルの劣化に関連する。
【0049】
エンジンオイルの量は、内燃エンジンに供給することができるエンジンオイルの総量である。エンジンオイルの量は、エンジンオイルを保持するためのエンジンオイルタンクの容量や経路など、車両の仕様が決まると一義的に定まる。一般に、エンジンオイルの量が多いとエンジンオイルへの負荷は小さく、エンジンオイルの量が少ないとエンジンオイルへの負荷は大きい。
【0050】
最大オイル負荷は、定格出力/エンジンオイルの量と定義され、エンジンオイルの総量に対する内燃エンジンから取り出せる最大の出力である。最大オイル負荷は、エンジンオイルの総量が、定格出力に対して、十分に余裕を持たせた設計か、余裕を少なくした設計かなどを示すパラメータである。このように、最大オイル負荷は、車種や型式や対象の顧客や価格帯や車両コンセプトや車両メーカなど、車両の設計思想が反映されるパラメータである。
【0051】
<積載量>
積載量は、車両に積むことができる荷物の重さである。一般に、積載量が小さい場合には、エンジンオイルへの負荷は小さく、積載量が大きいとエンジンオイルへの負荷は大きい。積載量は、エンジンオイルの劣化に関連する可能性がある。
【0052】
<経時的に変化するパラメータ>
経時的に変化するパラメータは、車両の走行(使用)に従って、変化するパラメータである。車両の走行状態に応じて定めることができる情報である。例えば、図1(a)に示す車両特徴パラメータのうち、オイル使用距離や、エンジン総走行距離や、月間走行距離などがある。経時的に変化するパラメータのデータは、車両に搭載された走行記録装置などによって取得することができる。
【0053】
<オイル使用距離>
オイル使用距離は、エンジンオイルが交換されたときを基準にして、そのエンジンオイルを使用し続けて走行した距離である。オイル使用距離が短ければ、エンジンオイルの劣化はあまり進行しておらず、オイル使用距離が長ければ、エンジンオイルの劣化は進行している。一般に、オイル使用距離は、後述するエンジン総走行距離よりも短く、月間走行距離よりも長い。
【0054】
<エンジン総走行距離>
エンジン総走行距離は、車両が製造されたときを基準にして、これまでに走行した距離である。エンジン総走行距離は、製造時から現在に至るまでの車両の状態を示し、主に、車両の走行による使用の程度を示す。一般に、エンジン総走行距離は、前述したオイル使用距離や後述する月間走行距離よりも長い。
【0055】
エンジン総走行距離が短ければ、新車に近いため、内燃エンジンの部材の摩耗は進んでおらず、エンジンオイルに様々な物質が溶出されにくい状態にある。一方、エンジン総走行距離が長ければ、使い込んだ車両であり、内燃エンジンの部材の摩耗は進んでおり、エンジンオイルに様々な物質が溶出されやすい状態にある。エンジン総走行距離が長い車両の場合には、エンジンオイルを交換しても様々な物質が溶出されやすい傾向にある。
【0056】
<月間走行距離>
月間走行距離は、車両が1か月間に走行した距離である。月間走行距離は、直近の1か月間の車両の状態を示し、主に、1か月間における車両の使用頻度を示す。月間走行距離が短ければ、使用頻度は低く、エンジンオイルを短期間で劣化させていない可能性が高い。一方、月間走行距離が長ければ、使用頻度が高く、エンジンオイルが常に高温にさらされるため、エンジンオイルを短期間で劣化させる可能性が高い。
【0057】
エンジン総走行距離が短く、月間走行距離が長い場合には、新車に近いが使用頻度が高く、短期間でエンジンオイルを急激に劣化させやすい。また、エンジン総走行距離が長く、月間走行距離が短い場合には、使い込んだ車両ではあるが使用頻度が低く、エンジンオイルを急激には劣化させにくい可能性がある。
【0058】
<<性状パラメータ>>
性状パラメータは、例えば、エンジンオイルの動粘度や、エンジンオイルに溶出している物質の種類や量などがある。物質は、Cu、Fe、残留炭素分、Pbなどがある。また、塩基価も性状パラメータに含まれる。
【0059】
前述したように、エンジンオイルは、潤滑機能や清浄分散機能を有する。このため、内燃エンジンの稼働に従って、摩耗した金属や、燃焼で発生した炭素などが、エンジンオイルに取り込まれる。これらの物質の量が少なければ、エンジンオイルは潤滑機能や清浄分散機能の効果を十分に発揮できるが、物質の量が多いと、エンジンオイルは十分にその効果を発揮できない。
【0060】
性状パラメータによって劣化の程度を判断したり、劣化の変化率によって劣化の速度を判断したりできる。
【0061】
<不特定の車両におけるエンジンオイルの劣化の予測>
車両総走行距離が同じであっても、車種などによって、摩耗によるエンジンオイルへの溶出量や変化の傾向が異なる。特に、車両メーカや車両タイプが異なれば、設計思想が異なるため、エンジンオイルへの溶出量や変化の傾向なども異なる可能性が高くなる。エンジンオイルの劣化を予測できる予測モデルの生成プログラムや生成方法を構築しておくことで、不特定の車両であっても、車両特徴パラメータ及び性状パラメータのデータを収集して機械学習することで予測モデルを生成できる。予測モデルの生成プログラムや生成方法を構築することで、不特定の車両に対するエンジンオイルの劣化も予測することができる。
【0062】
<<<エンジンオイルの性状予測モデル生成処理>>>
図2は、本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測モデル生成処理の全体的な流れを示すフローチャートである。なお、図2に示す処理は、コンピュータの中央処理装置などが全て実行するプログラムとして示すが、一部の処理については、手動で行ってもよい。手動の処理は、適宜に定めることができる。
【0063】
まず、車両関連パラメータのデータ及び性状パラメータのデータを収集する(ステップS311)。前述したように、エンジンの非稼働時又は可能であれば稼働時に車両関連パラメータのデータ及び性状パラメータのデータを収集する。収集したデータは、機械学習による予測モデルの生成に用いたり、生成した予測モデルの検証に用いたりすることができる。例えば、収集したデータの80%を予測モデルの生成に用い、残りの20%を予測モデルの検証に用いる。なお、この割合は、これらに限られず、全データの数や機械学習の種類やデータの特質などに応じて、適宜に変更することができる。また、収集したデータのうち、予測モデルの生成に用いるデータと、検証に用いるデータとは、完全に別個に扱っても、一部を重複して扱ってもよい。
【0064】
次に、機械学習をするために、車両関連パラメータと性状パラメータとの組み合わせを選択する(ステップS313)。
【0065】
例えば、車両関連パラメータは、図1(a)に示したように、オイル使用距離、エンジン総走行距離、エンジン排気量、車両サイズ、月間走行距離、車両タイプ、最大オイル負荷などである。性状パラメータは、図1(b)に示したように、塩基価、Cu、Fe、残留炭素分、動粘度、Pbなどである。
【0066】
本実施の形態では、性状パラメータである塩基価、Cu、Fe、残留炭素分、動粘度、Pbの各々に対して、車両関連パラメータの全ての組み合わせを対応付ける。なお、図6A図6Cに、車両関連パラメータの組み合わせの例として、車両関連パラメータの組み合わせの一部(A-1-1)~(H-1-1)を示す。塩基価、Cu、Fe、残留炭素分、動粘度、Pbの各々に対して、車両関連パラメータの全ての組み合わせを対応付け、機械学習させることによって、性状パラメータの各々を予測するための好ましい車両関連パラメータ組み合わせを取得することができる。
【0067】
図6Aに示す(A-1-1)~(A-7-1)は、全てにオイル使用距離を含む組み合わせ(A-1-1)の一部である。本実施の形態では、ステップS313の処理では、オイル使用距離を含む車両関連パラメータの全ての組み合わせを選択する。言い換えれば、性状パラメータである塩基価、Cu、Fe、残留炭素分、動粘度、Pbの各々に、オイル使用距離を含む車両関連パラメータの全ての組み合わせを対応づけて、機械学習させる。このように、一の車両関連パラメータ(オイル使用距離)を常に組み合わせることによって、エンジンオイルの劣化に関連する可能性の高いオイル使用距離を含めて、劣化に関連する他の車両関連パラメータを探索することができる。さらに、一の車両関連パラメータ(オイル使用距離)を常に組み合わせることで、機械学習に要する時間を短縮できる。
【0068】
ステップS313は、実行されるたびに、オイル使用距離を含む車両関連パラメータの全ての組み合わせのうちの一つを選択する。後述するステップS327の判断によって、オイル使用距離を含む車両関連パラメータの全ての組み合わせの全てが実行されるまで、ステップS313の処理は、繰り返し実行される。
【0069】
次に、ステップS313の処理で選択された組み合わせのパラメータの機械学習用のデータを読み出し(ステップS315)、読み出したデータを用いてランダムフォレスト法でエンジンオイル性状候補予測モデルを生成する(ステップS317)。
【0070】
例えば、ステップS313の処理で、性状パラメータである塩基価に対して、オイル使用距離とエンジン総走行距離との2つの車両関連パラメータが選択されて対応付けられたときには、塩基価と、オイル使用距離及びエンジン総走行距離との機械学習用のデータによって、オイル使用距離及びエンジン総走行距離を用いて塩基価を予測するためのエンジンオイル性状候補予測モデルが生成される。このようにステップS313の処理で選択されて対応付けられたパラメータの組み合わせごとにエンジンオイル性状候補予測モデルが生成されていく。
【0071】
次に、ステップS313の処理で選択された組み合わせのパラメータの検証用のデータを読み出し(ステップS319)、ステップS317で生成されたエンジンオイル性状候補予測モデルを用いて、性状パラメータの値を予測(算出)する(ステップS321)。例えば、塩基価とオイル使用距離及びエンジン総走行距離との検証用のデータを読出し、生成された塩基価を予測するためのエンジンオイル性状候補予測モデルから塩基価の値を算出する。
【0072】
次に、ステップS321で算出した性状パラメータの値と、実際の検証用のデータの値との決定係数を算出し(ステップS323)、生成された予測モデルの各種の係数と、ステップS321で算出した決定係数とを記憶する(ステップS325)。決定係数は、エンジンオイル性状候補予測モデルから算出した値と実測値との差の程度(あてはまりの尺度)を示す係数である。すなわち、エンジンオイル性状候補予測モデルによって実測値をどれくらい説明できているかを示す係数である。決定係数は、0以上1以下の値を有し、1に近いほどエンジンオイル性状予測モデルがよく当てはまっていることを示す。
【0073】
次に、他の組み合わせが残っているか否か、すなわち、性状パラメータの各々に対応付けた車両関連パラメータの全ての組み合わせについて、エンジンオイル性状候補予測モデルを生成したか否かを判断する(ステップS327)。他の組み合わせが残っている場合には(NO)、ステップS313に処理を戻す。
【0074】
性状パラメータの各々に対応付けた車両関連パラメータの全ての組み合わせについて、エンジンオイル性状候補予測モデルを生成した場合には(YES)、ステップS325で記憶させた決定係数を読み出し、決定係数を比較して、性状パラメータの各々に対する最良のエンジンオイル性状予測モデルを決定する(ステップS329)。
【0075】
例えば、一の性状パラメータである塩基価について、最も実測値に近くなるエンジンオイル性状予測モデルを決定する。すなわち、オイル使用距離を含む車両関連パラメータの全ての組み合わせ毎に生成した複数のエンジンオイル候補性状予測モデルのうち、塩基価の実測値に最も近くなる一のエンジンオイル性状予測モデルを決定する。言い換えれば、複数のエンジンオイル候補性状予測モデルから最良な一のエンジンオイル性状予測モデルを選択する。
【0076】
なお、最良な一のエンジンオイル性状予測モデルを選択するだけでなく、良好ないくつかのエンジンオイル性状予測モデルを選択してもよい。例えば、決定係数が0.8以上となったエンジンオイル性状予測モデルの全てを、良好なエンジンオイル性状予測モデルとして選択してもよい。性状パラメータや車両関連パラメータの時期的変化や経時的な変化などに応じて適宜にエンジンオイル性状予測モデルを選択して予測することができる。
【0077】
なお、一般に、性状パラメータに応じて、最適となる車両関連パラメータの組み合わせは異なる。
【0078】
次に、ステップS329で決定された最良のエンジンオイル性状予測モデルの係数を記憶し(ステップS331)、処理を終了する。
【0079】
生成した最良のエンジンオイル性状予測モデルを実行することで、性状パラメータを的確に予測することができる。
【0080】
<<<エンジンオイルの性状予測の機能>>>
図3は、本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測の機能ブロック図である。
【0081】
エンジンオイルの性状予測処理は、データ記憶部100と、予測モデル生成部200と、通信部300とを有する。
【0082】
<<データ記憶部100>>
データ記憶部100は、車両特徴パラメータ及び性状パラメータのデータの値を記憶する。本実施の形態では、車両特徴パラメータは、オイル使用距離、エンジン総走行距離、エンジン排気量、車両サイズ、月間走行距離、車両タイプ、最大オイル負荷、積載量などである。性状パラメータは、塩基価、Cu、Fe、残留炭素分、動粘度、Pbなどである。前述したように、これらのパラメータの実測値は、内燃エンジンの稼動時又は非稼動時に取得されて収集される。収集された測定値は、データ記憶部100に記憶されて蓄積されていく。蓄積されたデータを用いて機械学習することができる。
【0083】
<<予測モデル生成部200>>
予測モデル生成部200は、パラメータ選択部210と、候補予想モデル生成部220と、候補予測モデル評価部230と、候補予測モデル検証部240と、最良性状予測モデル記憶部250と、を有する。
【0084】
<パラメータ選択部210>
パラメータ選択部210は、性状パラメータを選択したり、車両特徴パラメータを選択したりする。具体的には、性状パラメータの選択は、塩基価、Cu、Fe、残留炭素分、動粘度、Pbなどのうちの一つの性状パラメータを選択する処理である。車両特徴パラメータの選択は、オイル使用距離、エンジン総走行距離、エンジン排気量、車両サイズ、月間走行距離、車両タイプ、最大オイル負荷、積載量などのうちから、少なくとも一つの車両特徴パラメータを選択する処理である。
【0085】
具体的には、車両特徴パラメータは、図6A図6Cに示す組み合わせから選択される。本実施の形態では、オイル使用距離を含む車両関連パラメータの全ての組み合わせ(図6A参照)から選択される。
【0086】
パラメータ選択部210によって、車両関連パラメータと性状パラメータとの組み合わせが選択され、一つの性状パラメータに対して、少なくとも一つの車両特徴パラメータを対応付けることができる。
【0087】
パラメータ選択部210は、図2のステップS313の処理に対応する。
【0088】
<候補予想モデル生成部220>
候補予想モデル生成部220は、パラメータ選択部210で選択された性状パラメータ及び車両特徴パラメータの組み合わせのデータを用いてエンジンオイル性状候補予測モデルを生成する。
【0089】
候補予想モデル生成部220は、車両特徴パラメータを説明変数としてエンジンオイル性状候補予測モデルを生成する。本実施の形態によるエンジンオイルの性状予測では、機械学習アルゴリズムとしてランダムフォレストを用いる。ランダムフォレストによって機械学習することで、エンジンオイル性状候補予測モデルを生成する。
【0090】
候補予想モデル生成部220は、車両関連パラメータと性状パラメータとの組み合わせに対応する機械学習用のデータを読み出し、読み出したデータを用いてランダムフォレスト法でエンジンオイル性状候補予測モデルを生成する。候補予想モデル生成部220は、一の車両関連パラメータ及び性状パラメータの組み合わせに対して、一のエンジンオイル性状候補予測モデルを生成する。
【0091】
候補予想モデル生成部220は、図2のステップS315及びS317の処理に対応する。
【0092】
候補予想モデル生成部220は、ブートストラップサンプリングモジュールと、決定木生成モジュールと、評価モジュールと、を有する。
【0093】
ブートストラップサンプリングモジュールは、学習用データから重複を許して、部分集合である複数の標本データを生成する。
【0094】
決定木生成モジュールは、標本データの各々から決定木を生成し、標本データの数だけ決定木を生成する。所定の数の決定木を生成することで、決定木の集合体からなる予測モデルを生成する。
【0095】
評価モジュールは、学習用データを用いて生成された候補予測モデルに対して、実際に開発したプログラムで不具合発生数の実績値を有するデータを入力して不具合発生数を試算する。算出した不具合発生数と不具合発生数の実績値を比較することによって、生成した候補予測モデルの評価を行う。
【0096】
本実施の形態では、機械学習アルゴリズムとしてランダムフォレストを用いたが、他の機械学習アルゴリズムを用いてもよい。例えば、決定木、サポートベクターマシーン、ガウス過程回帰、ブースティングによるアンサンブル学習などの機械学習アルゴリズムを適宜に用いることができる。性状パラメータ及び車両特徴パラメータの組み合わせや、収集したデータに応じて、機械学習アルゴリズムを適宜に変えて機械学習することができる。また、データを蓄積するに従って、データの傾向が変わる可能性もあり、データの蓄積に従って、適宜にアルゴリズムを切り替えてもよい。
【0097】
また、複数の機械学習アルゴリズムを用いてエンジンオイル性状候補予測モデルを生成し、最適な予測モデルを生成した機械学習アルゴリズム選択するようにしてもよい。機械学習アルゴリズムの選択は、予測の精度や、メモリなどのハードウエア資源や、処理時間などに合わせて適宜に決めればよい。
【0098】
<候補予測モデル評価部230>
候補予測モデル評価部230は、候補予想モデル生成部220で生成されたエンジンオイル性状候補予測モデルを用いて性状パラメータの値を算出し、算出した値と実際の検証用のデータの値との決定係数を算出する。
【0099】
前述したように、本実施の形態では、オイル使用距離を含む車両関連パラメータの全ての組み合わせの各々に対して、エンジンオイル性状候補予測モデルが生成される。候補予測モデル評価部230は、生成されたエンジンオイル性状候補予測モデルの各々の決定係数を算出する。候補予測モデル評価部230は、生成されたエンジンオイル性状候補予測モデルの係数と、決定係数とを記憶させる。
【0100】
候補予測モデル評価部230は、図2のステップS319~S325の処理に対応する。
【0101】
<候補予測モデル検証部240>
候補予測モデル検証部240は、エンジンオイル性状候補予測モデルごとに算出された決定係数から、性状パラメータの各々に対する最良の予測モデルを決定する。
【0102】
候補予測モデル検証部240は、図2のステップS329の処理に対応する。
【0103】
<最良性状予測モデル記憶部250>
最良性状予測モデル記憶部250は、候補予測モデル検証部240によって、性状パラメータ毎に最良と判断されたエンジンオイル性状予測モデルの係数や定数などを最良のエンジンオイル性状予測モデルとして記憶される。
【0104】
<<通信部300>>
通信部300は、外部の装置と送受信することができる。例えば、ネットワークを介して、外部の装置と通信可能に接続されている。外部の装置は、コンピュータなどからなる。
【0105】
通信部300は、予測モデル生成部200で生成されたエンジンオイル性状予測モデルを外部の装置に送信する。生成されたエンジンオイル性状予測モデルを実行するためのプログラムや、実行に必要な係数や定数などが送信される。これにより、外部の装置において、予測モデル生成部200で生成されたエンジンオイル性状予測モデルを実行することができる。
【0106】
また、予測モデル生成部200の処理を実行するためのエンジンオイル性状予測モデル生成プログラム自体を外部の装置に送信する。これにより、外部の装置において、エンジンオイル性状予測モデル生成プログラムを実行することができ、外部の装置において、エンジンオイル性状予測モデルを生成することができる。
【0107】
<<性状判断部>>
性状判断部は、予測モデル生成部200によって生成された性状予測モデルを用いて、実際の車両特徴パラメータのデータを入力して、エンジンオイルの性状を判断する。すなわち、エンジンオイルの劣化の程度を決定する。
【0108】
性状判断部によるエンジンオイルの性状をディスプレイなどに表示することができる。また、通信手段によって、端末装置などに送信するようにしてもよい。さらに、性状に応じて、エンジンオイルの交換の必要性に関する情報を定めて表示してもよい。
【0109】
<<性状パラメータに対する車両特徴パラメータの組み合わせの関係>>
図5は、本実施の形態によるエンジンオイル性状予測モデルを実行することで、一の種類のエンジンオイルについて得られた性状パラメータの各々の予測に適した車両特徴パラメータの組み合わせを示す表である。図5は、一の種類のエンジンオイルについて示す表であり、他の種類のエンジンオイルの場合には、図5とは異なる組み合わせとなり得る。すなわち、エンジン構造やエンジンオイルの種類が変わったときには、性状パラメータの種類が変わったり、性状パラメータの予測に適する車両特徴パラメータの組み合わせが変わったりする場合がある。本実施の形態によるエンジンオイル性状予測モデル生成プログラムによって、エンジン構造やエンジンオイルの種類ごとにエンジンオイル性状予測モデルを生成するので、エンジン構造やエンジンオイルに応じたエンジンオイル性状予測モデルを生成することができる。図5では、最下段に決定係数を示した。
【0110】
性状パラメータである塩基価は、オイル使用距離及び最大オイル負荷の2つの車両特徴パラメータの組み合わせと対応付けられる。性状パラメータであるCuは、オイル使用距離、エンジン総走行距離及びエンジン排気量の3つの車両特徴パラメータの組み合わせと対応付けられる。性状パラメータであるFeは、オイル使用距離、エンジン総走行距離、エンジン排気量、車両サイズ及び最大オイル負荷の5つの車両特徴パラメータの組み合わせと対応付けられる。性状パラメータである残留炭素分は、オイル使用距離、エンジン総走行距離及びエンジン排気量の3つの車両特徴パラメータの組み合わせと対応付けられる。性状パラメータである動粘度は、オイル使用距離、エンジン総走行距離、エンジン排気量、月間走行距離及び車両タイプの5つの車両特徴パラメータの組み合わせと対応付けられる。性状パラメータであるPbは、オイル使用距離、エンジン総走行距離、月間走行距離及び車両タイプの4つの車両特徴パラメータの組み合わせと対応付けられる。
【0111】
図5に示すように、全ての性状パラメータは、オイル使用距離との組み合わせと対応付けることができる。前述したように、オイル使用距離は、エンジンオイルの使用状態を示し、オイル使用距離が短ければ、エンジンオイルは、未だあまり劣化しておらず、オイル使用距離が長ければ、エンジンオイルは、劣化している。したがって、エンジンオイルの劣化を示すための性状パラメータは、オイル使用距離と十分に関連し得る。
【0112】
このため、性状パラメータは、オイル使用距離を基本の車両特徴パラメータとして対応付けることができる(例えば、図4(a)参照)。さらに、オイル使用距離以外の残りの車両特徴パラメータは、オイル使用距離を含む組み合わせを補正するための補正車両特徴パラメータとして機能する。基本の車両特徴パラメータであるオイル使用距離を含む組み合わせを、補正車両特徴パラメータによって強めることができる(例えば、図4(b)参照)。なお、図4(a)及び(b)では、簡便のため、基本の車両特徴パラメータであるオイル使用距離をαとして示し、オイル使用距離以外の補正車両特徴パラメータのうちの一のパラメータをβとして示した。
【0113】
<<<変形例1>>>
前述した例では、性状パラメータとして、塩基価、Cu、Fe、残留炭素分、動粘度、Pbを用いたが、これらには限られない。その他、予測できる可能性のある性状パラメータとして、引火点、水分、Ca、Zn、Cr、Snなどを用いることができる。これらを含めることで、より汎用性を高くしてエンジンオイルの劣化を予想することができる。
【0114】
また、エンジンオイルの劣化の程度だけでなく、劣化の速度(例えば、エンジンオイルに溶出される物質の量の増加速度)や、劣化の加速度(例えば、エンジンオイルに溶出される物質の量の増加の加速度)などを用いて性状を判断してもよい。新車に近い状態でのエンジンオイルの劣化や、使用が進んだ状態でのエンジンオイルの劣化などを判断しやすくできる。
【0115】
<<<変形例2>>>
<<センサーによるエンジンオイルの性状の検出>>>
車両に、エンジンオイルの性状を検出するためのセンサーを設けてもよい。センサーを用いることで、内燃エンジンの稼働状態におけるエンジンオイルの性状を検出できる。エンジンの非稼働時にエンジンオイルを抽出することなく、エンジンオイルの性状を簡便に検出することができる。
【0116】
エンジンオイルをセンサーが検出した各種の情報は、記憶装置に記憶される。記憶装置は、不揮発性RAM(ランダムアクセスメモリ)や、HDD(ハードディスクドライブ)や、SSD(ソリッドステートドライブ)などからなる。記憶装置は、電源が断たれたときでも記憶内容を保持できる記録媒体や記憶媒体であればよい。
【0117】
<<<<実施の形態の範囲>>>>
上述したように、本実施の形態を記載したが、この開示の一部をなす記載及び図面は、限定するものと理解すべきでない。ここで記載していない様々な実施の形態等が含まれる。
【符号の説明】
【0118】
100 データ記憶部
200 予想モデル生成部
300 通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C