(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】硬質表面用酵素洗浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
C11D 7/42 20060101AFI20250410BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20250410BHJP
C12N 9/20 20060101ALN20250410BHJP
C12N 9/48 20060101ALN20250410BHJP
【FI】
C11D7/42
C11D7/32
C12N9/20
C12N9/48
(21)【出願番号】P 2021092163
(22)【出願日】2021-06-01
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】末吉 政智
(72)【発明者】
【氏名】種村 淳
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-172814(JP,A)
【文献】特開2018-024723(JP,A)
【文献】特開2020-100791(JP,A)
【文献】特開2020-033473(JP,A)
【文献】特開平09-121857(JP,A)
【文献】特開平09-299084(JP,A)
【文献】特開2010-285492(JP,A)
【文献】特開2018-115286(JP,A)
【文献】特開2020-084141(JP,A)
【文献】特開2000-060547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00-19/00
C12N 9/00-9/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)pH12.0における活性値が至適pHでの活性値の85%以上;
(2)EDTA-4Na0.2質量%添加時の活性値がEDTA-4Na無添加時の活性値に対して90%以上;
(3)至適温度60℃以上
の3つの特性をすべて有するプロテアーゼ(ただし、Esperase(登録商標)を除く)と、リパーゼとを含む
医療器具用酵素洗浄剤組成物
であって、組成物中のプロテアーゼの割合が0.05~10質量%である、前記医療器具用酵素洗浄剤組成物。
【請求項2】
前記組成物中の前記リパーゼの割合が0.05~5質量%である、請求項1に記載の医療器具用酵素洗浄剤組成物。
【請求項3】
さらに、アミノカルボン酸系キレート剤を含む請求項1に記載の
医療器具用酵素洗浄剤組成物。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか一項に記載の
医療器具用酵素洗浄剤組成物を用いて洗浄する洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテアーゼ、リパーゼ混合洗浄剤組成物の各酵素の長期間安定性に優れる硬質表面用酵素洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
病院等の医療施設における使用済みのメス、鉗子、注射筒等の医療器具や、食堂等における使用済みの食器類は、可能な限り洗浄リサイクルが行われる。
これらの材質は、金属、プラスチック、ゴム、ガラス、陶磁器等の硬質素材でできている。
【0003】
また診察や治療に使用した医療器具の汚れは血液、リンパ液、組織液などであり、食器の汚れはソース、ケチャップ、マヨネーズなどであり、これらは主にタンパク質や油脂等から構成されている。そのため効率的にこれらの汚れを除去するには、タンパク質分解酵素であるプロテアーゼや油脂分解酵素であるリパーゼを配合することは有効な手段である。つまり、プロテアーゼやリパーゼによってタンパク質や油脂を分解することで、効率よく血液、リンパ液、組織液、ソース、ケチャップ、マヨネーズなどの汚れを落とすことが可能となる。また、酵素の働きの違いに着目して、プロテアーゼとリパーゼとを同時に含む洗浄剤組成物も知られている(特許文献1、2)。
【0004】
たとえば、特許文献1には、(A)成分として非イオン界面活性剤、(B)成分として芳香族スルホン酸又はその塩、(C)成分として多価アルコール、(D)成分としてアミラーゼ、(E)成分としてプロテアーゼ、(F)成分として水を含有し、質量比で(C)/(B)の値が0.7~200である、中性洗浄剤組成物が記載されている。
【0005】
特許文献2には、(イ)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテルおよび(ロ)トリメチロールプロパンのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイド付加物およびグリセリンのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイド付加物の少なくとも一方を(イ):(ロ)=3:1~20:1の質量比で配合してなる非イオン界面活性剤(A)と、アルカノールアミン(B)と、酵素(C)と、キシレンスルホン酸塩およびクメンスルホン酸塩の少なくとも一方からなる可溶化剤(D)と、カルシウム添加剤と、水とを含有し、硬質表面用液体洗浄剤組成物全体に対し、上記非イオン界面活性剤(A)が1~10質量%、アルカノールアミン(B)が10~30質量%、酵素(C)が0.1~5質量%含有され、硬質表面用液体洗浄剤組成物の25℃におけるpHが8.0~10.0の範囲に設定されていることを特徴とする硬質表面用液体洗浄剤組成物が記載されている。
【0006】
しかしながら、リパーゼはタンパク質で構成されていることから、プロテアーゼとリパーゼの混合洗浄剤組成物を長期に保存した場合、タンパク質分解酵素であるプロテアーゼにより、タンパク質のリパーゼが分解されてしまうことで油脂分解効果が十分に発揮されない問題点がある。そのような分解を防ぐために、プロテアーゼとリパーゼの混合洗浄剤組成物には種々他の成分を配合しているが、それでもなお酵素の安定性が不十分であるといった問題点があった。
このため、プロテアーゼ、リパーゼ混合洗浄剤組成物の各酵素の長期間安定性に優れる硬質表面用酵素洗浄剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-115286号公報
【文献】特開2016-172814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、プロテアーゼ、リパーゼ混合洗浄剤組成物の各酵素の長期間安定性に優れる硬質表面用酵素洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、特定の特性を有するプロテアーゼとリパーゼとを含む硬質表面用酵素洗浄剤組成物を使用することで、斯かる課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の点を特徴とする。
【0010】
1.(1)pH12.0における活性値が至適pHでの活性値の85%以上;(2)EDTA-4Na0.2質量%添加時の活性値がEDTA-4Na無添加時の活性値に対して90%以上;(3)至適温度60℃以上の3つの特性をすべて有するプロテアーゼ(ただし、Esperase(登録商標)を除く)と、リパーゼとを含む硬質表面用酵素洗浄剤組成物。
2.さらに、アミノカルボン酸系キレート剤を含む、硬質表面用酵素洗浄剤組成物。
3.上記1、2に記載の硬質表面用酵素洗浄剤組成物を用いて洗浄する、洗浄方法。
なお、ここでいう活性値とは、酵素(プロテアーゼ)のある特定条件下(pH、温度、時間等)でのタンパク分解能を表している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プロテアーゼ、リパーゼ混合洗浄剤組成物の各酵素の長期間安定性に優れ、結果として長期に保存しても洗浄性に優れる組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の組成物は、(1)pH12.0における活性値が至適pHでの活性値の85%以上、(2)EDTA-4Na0.2質量%添加時の活性値がEDTA-4Na無添加時の活性値に対して90%以上、(3)至適温度60℃以上という3つの特性をすべて有するプロテアーゼと、リパーゼとを含むものである。
プロテアーゼは、ペプチド結合加水分解酵素の総称であり、リパーゼは油脂を構成するエステル結合加水分解酵素の総称であって、洗浄剤組成物において広く使用されている。本発明で使用されるプロテアーゼは、下記に説明する3つの特性をすべて満たすことが必要である。
【0013】
本発明の組成物に含まれるプロテアーゼが満たす3つの特性について、その決定方法を順番に説明する。
【0014】
(1)pH12.0における活性値が至適pHでの活性値の85%以上(至適pH)
本発明の組成物に含まれるプロテアーゼは、pH12.0で使用しても、至適pHでの活性に比して85~100%活性の維持を示すものである。
本指標は、基質にミルクカゼインを用いた時のプロテアーゼ活性が最も高いpHを至適pHとし、pH=12.0におけるプロテアーゼの活性値が、至適pHの活性値の85%以上を有することをもって、「pH12.0における活性値が至適pHでの活性値の85%以上」としたものである。
【0015】
(2)EDTA-4Na0.2質量%添加時の活性値がEDTA-4Na無添加時の活性
値に対して90%以上(耐キレート安定性)
本発明の組成物に含まれるプロテアーゼは、高い耐キレート安定性を有している。
本指標は、プロテアーゼを0.01質量%含有する溶液に、EDTA-4Naが0.2質量%になるように添加し、pH=7.5にて40℃×30分保持した際の活性値を測定し、この値が、EDTA-4Na無添加時の活性値に対して90%以上であったものを、「EDTA-4Na0.2%添加時の活性値がEDTA-4Na無添加時の活性値に対して90%以上」としたものである。
【0016】
(3)至適温度60℃以上(至適温度)
本発明の組成物に含まれるプロテアーゼは、60℃以上の温度において高い活性を示すものである。
本指標は、基質にミルクカゼインを用いてpH=10.0におけるプロテアーゼ活性を各温度で測定した際に、最も活性の高かった温度が60℃以上であったものを「至適温度60℃以上」としたものである。
【0017】
なお、組成物中のプロテアーゼの割合は適宜調整されるが、組成物を基準に、0.05~10質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることがさらにより好ましい。プロテアーゼが0.05質量%未満では十分な洗浄性が得られなくなる傾向があり、10質量%を超える場合にはそれ以上の洗浄性の向上が見られなくなる傾向がある。
【0018】
次に、本発明の組成物のもう一つの成分であるリパーゼについては、その種類は特に限定されるものではなく、例えば、エンチロン LP CONC(洛東化成工業(株)製)やLipex Eveis 900L(ノボザイムズジャパン(株)製)、クリナーゼL-50L(日本酵研(株)製)が挙げられる。
【0019】
組成物中のリパーゼの割合は適宜調整されるが、組成物を基準に、0.05~5質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることがさらにより好ましい。リパーゼが0.05質量%未満では十分な洗浄性が得られなくなる傾向があり、5質量%を超える場合にはそれ以上の洗浄性の向上が見られなくなる傾向がある。
【0020】
本発明の硬質表面用酵素洗浄剤組成物の形態は、洗浄機における供給のしやすさや溶け残りを防ぐという観点から、液体組成物(分散粒子を含んでいてもよい)であることが好ましい。また、本発明の硬質表面用酵素洗浄剤組成物はそのまま使用してもよいが、通常、該組成物を水(イオン交換水、純水等)で希釈して各成分の合計量が所定の濃度になるよう調製した処理液を洗浄に用いることが好ましい。
【0021】
本発明の組成物には、本発明の性能に影響を及ぼさない範囲で、洗浄剤の技術分野で、洗浄剤組成物に配合することが知られている他の成分を配合することができる。
そのような成分として、アミノカルボン酸系キレート剤、ポリカルボン酸及び/又はその塩、安定化剤、界面活性剤、水混和性有機溶剤、増粘剤、減粘剤、可溶化剤、アルカリ剤、他のキレート剤、酸化防止剤、防腐剤、他の酵素、香料、着色料、乳濁化剤、天然物、pH調整剤、消泡剤、風合い向上剤、保存安定性向上剤、蛍光剤、移染防止剤、再汚染防止剤、パール剤を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
アミノカルボン酸系キレート剤は、組成物中の各成分を安定化させる機能を有している。具体的には、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、1,3―プロパンジアミン四酢酸及びこれらの塩等が挙げられ、塩としては、ナトリウム塩、カ
リウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩が挙げられる。製品安定性の観点から、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ三酢酸及びこれらの塩が好ましい。
【0023】
組成物中のアミノカルボン酸系キレート剤の割合は適宜調整されるが、組成物を基準に、0.05~6質量%であることが好ましく、0.5~4質量%であることがより好ましく、1~2質量%であることがさらにより好ましい。アミノカルボン酸系キレート剤が0.05質量%未満では製品安定性が得られなくなる傾向があり、6質量%を超える場合にはそれ以上の製品安定性の向上が見られなくなる傾向がある。
【0024】
ポリカルボン酸及び/又はその塩は洗浄性を向上させる機能を有している。具体的には、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、アクリル酸とマレイン酸の共重合体等が挙げられ、塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩が挙げられる。
【0025】
ポリアクリル酸及び/又はその塩としては、具体的には、アロンA-210(東亜合成(株)製)、アクアリックDL-40((株)日本触媒製)、セロポールPC-300(三洋化成工業(株)製)、ソカランPA-40(BASFジャパン(株)製)、アクアリックDL-453((株)日本触媒製)等が挙げられ、ポリマレイン酸及び/又はその塩としては、ノンポールPMA-50W(日油(株)製)等が挙げられ、アクリル酸とマレイン酸の共重合体としては、アクアリックTL-37((株)日本触媒製)等が挙げられる。洗浄性の観点から、ポリアクリル酸及び/又はその塩が好ましい。
【0026】
ポリカルボン酸の重量平均分子量は、2000~60000が好ましく、5000~20000がより好ましい。ポリカルボン酸塩の重量平均分子量は、2000~100000が好ましく、2000~30000がより好ましく、5000~30000がさらに好ましい。ポリカルボン酸の分子量が2000未満では十分な洗浄性が得られなくなる傾向があり、60000を超える場合には製品安定性が悪くなる傾向があり、また取り扱い性が悪くなる傾向がある。ポリカルボン酸塩の分子量が2000未満では十分な洗浄性が得られなくなる傾向があり、100000を超える場合には製品安定性が悪くなる傾向があり、また取り扱い性が悪くなる傾向がある。
【0027】
ポリカルボン酸及び/又はその塩の濃度は、組成物を基準に、0.5~15質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、5~10質量%であることがさらにより好ましい。
ポリカルボン酸及び/又はその塩が0.5質量%未満では十分な洗浄性が得られなくなる傾向があり、15質量%を超える場合にはそれ以上の洗浄性の向上が見られなくなる傾向があり、また製品安定性が悪くなる傾向がある。
【0028】
次に、被洗浄物について説明する。
本発明の組成物を用いた洗浄は、いわゆる硬質表面の洗浄に適している。ここで、「硬質表面」とは、例えば、特許第6715126号で使用されているように、それ自身が所定の形状を保つことのできる程度の硬さを有する物体の表面を意味している。
被洗浄物を構成する素材は、硬質な表面を有している物質であれば、特に限定されるものではないが、例えば、鉄、アルミニウム、銀、銅、チタン等の金属;石英ガラス、ソーダガラス、カリガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス等のガラス;ステンレス、真鍮、ジュラルミン・チタン合金等の合金;トタン等のメッキ加工した金属;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、塩ビ、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド等のプラスチック;イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ウレタンゴムなどのゴム;陶磁器、セラミックス等が挙げられる。被洗浄物としては、上記したような素材で構成されるメス、鉗
子、注射筒などの医療機器や、食器等が挙げられる。
【0029】
次に、洗浄方法について説明する。
具体的な洗浄方法としては、被洗浄物を水溶液に浸漬する方法、水溶液を被洗浄物に噴霧する方法、ウォッシャーディスインフェクターと呼ばれる自動洗浄機を用いて被洗浄物を水溶液で洗浄する方法等が挙げられる。
【0030】
洗浄に際しての本発明の硬質表面用酵素洗浄剤組成物の使用量は、特に限定されるものではなく、原液で使用しても希釈してしてもよく、洗浄に際して適宜決定される。
【0031】
洗浄性や経済性の観点から、プロテアーゼが、洗浄液を基準に0.0001~0.1質量%になるよう希釈することが好ましく、0.0005~0.1質量%がより好ましく、0.001~0.1質量%がさらに好ましい。
【0032】
洗浄液の温度は、特に限定されるものではなく、洗浄に際して適宜決定されるが、洗浄性の観点から、10~70℃が好ましく、40~60℃がより好ましい。
【0033】
洗浄時間は、被洗浄物の形状・大きさ、洗浄方法、洗浄条件に応じて変わり、特に限定されるものではなく、洗浄に際して適宜決定されるが、洗浄性や作業性の観点から、1~60分が好ましく、5~20分がより好ましい。
【0034】
洗浄液のpHは、特に限定されるものではなく、洗浄に際して適宜決定されるが、洗浄性や被洗浄物の保護、リパーゼ活性値維持の観点から、20℃のpHが6.0~9.0であることが好ましい。洗浄液のpHを調整する方法は特に限定されるものではないが、具体的にはpHが6.0未満の場合の調整には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリエタノールアミン等のアルカリを、pHが9.0を超える場合の調整には、塩酸、硫酸、乳酸、ギ酸、クエン酸等の酸を用いることができる。
【0035】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
[プロテアーゼの選定]
プロテアーゼとして、Progress UNO 100L、Esperase 8.0L、Savinase 16L(以上、ノボザイムズジャパン(株)製)、クリナーゼSAP-200L、クリナーゼCAP-200L、クリナーゼAP-200L(以上、日本酵研(株)製)、ビオプラーゼAPL-30、ビオプラーゼ30L(以上、ナガセケムテックス(株)製)、EFFECTENZ P150(以上、東レ・デュポン(株)製)を用いて、以下の方法に従って、各プロテアーゼが、(1)pH12.0における活性値が至適pHでの活性値の85%以上<至適pH>、(2)EDTA-4Na0.2質量%添加時の活性値がEDTA-4Na無添加時の活性値に対して90%以上<耐キレート安定性>、(3)至適温度60℃以上<至適温度>という、本発明での要件を満たすか否かを判定した。
【0037】
<(1)至適pH>
100mMの、リン酸-ナトリウム緩衝液(pH6.0-8.0)、トリス-塩酸緩衝液(pH8.0-9.0)、グリシン-水酸化ナトリウム酸緩衝液(pH9.0-10.0)、ホウ酸-水酸化ナトリウム緩衝液(10.0-11.0)またはリン酸-水酸化ナトリウム緩衝液(pH11.0-12.0)を用いて、基質としてミルクカゼインを0.6質量%含有する、異なるpH値を示す種々の溶液を調整し、他は下記の酵素活性値の測
定方法に従って、種々のpH条件についてプロテアーゼ活性を測定した。最もプロテアーゼ活性の高いpHの条件をそのプロテアーゼの至適pHとした。またpH12におけるプロテアーゼ活性値を至適pH条件下のプロテアーゼ活性値に対する百分率で算出した。その結果、85%以上となるものを〇と評価し、それ以外を×と評価した。
【0038】
<(2)耐キレート安定性>
希釈液(塩化ナトリウム3g/l、酢酸カルシウム0.175g/l、酢酸ナトリウム1.667g/l、(pH7.5))にて0.01%に希釈した酵素原料溶液に、EDTA-4Naを0.2質量%になるように加え、pH7.5で40℃×30分保持した後に残存するプロテアーゼ活性を、下記の酵素活性値の測定方法に従って測定した。同様に、EDTA-4Na未添加の場合のプロテアーゼ活性値を測定し、EDTA-4Na添加時のEDTA-4Na未添加時に対する割合を算出した。その結果、90%以上となるものを〇と評価し、それ以外を×と評価した。
【0039】
<(3)至適温度>
ホウ酸-水酸化ナトリウム緩衝液を用いてpH=10.0に調整したミルクカゼイン0.6質量%溶液を用い、下記の酵素活性値の測定方法に準じて、各温度で10分間反応させた時のプロテアーゼ活性を求め、最も活性値の高かった温度を至適温度とした。至適温度が60℃以上となるものを〇と評価し、それ以外を×と評価した。
【0040】
<酵素活性値>
反応液(0.6質量%ミルクカゼイン(メルク(株)製)、0.55質量%リン酸水素二ナトリウム(pH7.5))5mlに、希釈液(塩化ナトリウム3g/l、酢酸カルシウム0.175g/l、酢酸ナトリウム1.667g/l、(pH7.5))にて0.01質量%に希釈した酵素原料溶液1mlを加え、30℃で10分間反応させる。反応後、トリクロロ酢酸液(トリクロロ酢酸17.97g/l、無水酢酸ナトリウム18.04g/l、酢酸19.81g/l)5mlを加えて、30℃で30分間放置後、メンブランフィルター(0.45μm)でろ過する。ろ液2mlに0.55M炭酸ナトリウム5ml、Folin試薬(Folin試薬:イオン交換水=1:2)1mlを加えて30℃で30分間放置後、吸光度(660nm)を測定した。L-チロジンの呈するFolin呈色度(吸光度)を基準にとり、30℃で1分間に反応液全体で1μgのL-チロジンの呈する吸光度に相当する吸光度を与えた酵素活性を1プロテアーゼ単位(1PU)として酵素活性値を算出した。
なお、ここでいう「プロテアーゼ活性」の活性値とは、酵素(プロテアーゼ)のある特定条件下(pH、温度、時間等)でのタンパク分解能を表し、酵素活性値とは、酵素の活性値を示す単位で、PU/mlで表す。
結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
表1が示すように、実験に用いた9種類のプロテアーゼのうち、Progress UNO 100L、Esperase 8.0Lの二種類のみが、(1)pH12.0における活性値が至適pHでの活性値の85%以上、(2)EDTA-4Na0.2%添加時の活性値がEDTA-4Na無添加時の活性値に対して90%以上、(3)至適温度60℃以上を満たすことが確認できた。それ以外のものは、(1)~(3)の要件のうち、少なくとも1つの要件を満たさないものである。
【0043】
[洗浄剤組成物の調整]
表2に記載の組成(質量%)で、洗浄剤組成物を調整した。
プロテアーゼ以外に使用した各成分は以下のとおりである。
<リパーゼ>
・エンチロン LP CONC(洛東化成工業(株)製)活性値:110000
・Lipex Eveis 900L(ノボザイムズジャパン(株)製)活性値:130000
・クリナーゼL-50L(日本酵研(株)製)活性値:60000
リパーゼは活性値が同じになるように配合した。
【0044】
なお、基準のプロテアーゼ/リパーゼと同等の活性値を示すために必要となる該当プロテアーゼ/リパーゼの相対的な量を、表中に「酵素換算」として記載した。
【0045】
<アミノカルボン酸系キレート剤>
・ニトリロ三酢酸ナトリウム:クレワットPC-C3(ナガセケムテックス(株)製)
・エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム:クレワットS2(ナガセケムテックス(株)製)
【0046】
<ポリカルボン酸>
・ポリアクリル酸Na塩:セロポールPC-300(三洋化成工業(株)製)重量平均分子量10000
【0047】
[評価]
●血液洗浄性
各洗浄剤組成物の血液洗浄性は、調整直後、または37℃×2か月保存した後の洗浄液で評価した。
【0048】
被洗浄物作成方法 :
開封後2ヶ月以内のヘパリン添加羊全血及び1%硫酸プロタミン水溶液を容量比10:1で混合して擬似血液汚染物とする。市販のステンレス(JIS規格:SUS304)(50×25×1.0mm)にマイクロピペットを用いて上記擬似汚染物50μLを滴下し、室温下で24時間乾燥させたものを被洗浄物とする。
【0049】
洗浄・評価方法 :
1.表2に記載の各洗浄剤組成物をイオン交換水にて0.75v/v%になるよう希釈し、洗浄液とした。
2.(洗浄工程)各洗浄液100ml浴に被洗浄物を浸漬(45℃)、15分間放置する。3.(すすぎ工程)ピンセットで洗浄工程を終えた被洗浄物を取り出し、1Lの水を入れた1000mLビーカーに被洗浄物を浸す。ピンセットで挟んだまま被洗浄物をビーカー内で10cmの範囲にて2往復させる。
4.すすぎ工程を終えた被洗浄物を取り出し、室温乾燥後、残存タンパク質量をBCA法で測定する。
<評価基準>
5:残留タンパク質量が50μg未満
4:残留タンパク質量が50~100μg未満
3:残留タンパク質量が100~150μg未満
2:残留タンパク質量が150~200μg未満
1:残留タンパク質量が200μg以上
2以上を合格とした。
【0050】
●油脂洗浄性
各洗浄剤組成物の油脂洗浄性は、調整直後、または37℃×2か月保存した後の洗浄液で評価した。
【0051】
試験片作成方法 :
トリオレイン(試薬、関東化学(株)製)を擬似油脂汚染物とする。市販のステンレス(JIS規格:SUS304)(50×25×1.0mm)の中央部にマイクロピペットを用いて上記擬似油脂汚染物約50μgを塗布し、その後薬さじの背部分を用いて15×40mmの範囲に塗り広げ、室温下で24時間乾燥させたものを被洗浄物とする。この際、添着させた疑似油脂汚染物の重量(洗浄前の疑似油脂汚染物重量(μg))を精密に測定する。
洗浄・評価方法 :
1.表2に記載の各洗浄剤組成物をイオン交換水にて0.75v/v%になるよう希釈し、洗浄液とした。
2.(洗浄工程)各洗浄液100ml浴に被洗浄物を浸漬(50℃)、15分間放置する。3.(すすぎ工程)ピンセットで洗浄工程を終えた被洗浄物を取り出し、1Lの水を入れた1000mLビーカーに被洗浄物を浸す。ピンセットで挟んだまま被洗浄物をビーカー内で10cmの範囲にて2往復させる。
4.すすぎ工程を終えた被洗浄物を取り出し、室温乾燥させる。
5.乾燥した被洗浄物に残留する擬似油脂汚染物をアセトンを用いて抽出し、残留する疑似油脂汚染物を精密に測定(洗浄後の疑似油脂汚染物重量(μg))し、以下の計算式にて疑似油脂汚染物の除去率(%)を算出した。
疑似油脂汚染物の除去率(%)=
{(洗浄前の疑似油脂汚染物重量(μg)-洗浄後の疑似油脂汚染物重量(μg))/洗浄前の疑似油脂汚染物重量(μg)}×100
[測定機器]精密天秤:HR―250AZ(研精工業(株))
<評価基準>
5:疑似油脂汚染物の除去率が80%以上
4:疑似油脂汚染物の除去率が60以上80%未満
3:疑似油脂汚染物の除去率が40%以上60%未満
2:疑似油脂汚染物の除去率が20%以上40%未満
1:疑似油脂汚染物の除去率が20%未満
2以上を合格とした。
【0052】
さらに、各洗浄剤組成物の酵素(プロテアーゼ、リパーゼ)の安定性は、37℃×2か月保存した後の洗浄液の酵素活性値が調整直後の酵素活性値と比較してどの程度残存したかで評価した。
【0053】
●プロテアーゼ活性値
<プロテアーゼ活性値の測定方法>
反応液(0.6質量%ミルクカゼイン(メルク(株)製)、0.55質量%リン酸水素二ナトリウム(pH7.5))5mlに、希釈液(塩化ナトリウム3g/l、酢酸カルシウム0.175g/l、酢酸ナトリウム1.667g/l、(pH7.5))にて0.01質量%に希釈した各洗浄剤組成物(調整後、37℃ 2ヵ月保存)1mlを加え、30℃で10分間反応させる。反応後、トリクロロ酢酸液(トリクロロ酢酸17.97g/l、無水酢酸ナトリウム18.04g/l、酢酸19.81g/l)5mlを加えて、30℃で30分間放置後、メンブランフィルター(0.45μm)でろ過する。ろ液2mlに0.55M炭酸ナトリウム5ml、Folin試薬(Folin試薬:イオン交換水=1:2)1mlを加えて30℃で30分間放置後、吸光度(660nm)を測定した。L-チロジンの呈するFolin呈色度(吸光度)を基準にとり、30℃で1分間に反応液全体で1μgのL-チロジンの呈する吸光度に相当する吸光度を与えた酵素活性を1プロテアーゼ単位(1PU)として酵素活性値を算出した。
【0054】
なお、ここでいう「プロテアーゼ活性」の活性値とは、酵素(プロテアーゼ)のある特定条件下(pH、温度、時間等)でのタンパク分解能を表わす単位で、PU/mlで表す。
【0055】
<評価基準>
(各洗浄剤組成物のプロテアーゼ活性(37℃×2か月保存)/各洗浄剤組成物のプロテ
アーゼ活性(調整後))×100で評価した。
5:80%以上
4:60~80%未満
3:40~60%未満
2:20~40%未満
1:20%未満
2以上を合格とした。
【0056】
●リパーゼ活性値
<リパーゼ活性値の測定方法>
以下キットを用いて洗浄剤組成物のリパーゼ活性値(IU/L)を測定した。
[使用キット]
リパーゼキットS[対外診断用医薬品] SBバイオサイエンス(株)製
<評価基準>
(各洗浄剤組成物のリパーゼ活性(37℃×2か月保存)/各洗浄剤組成物のリパーゼ活性(調整後))×100で評価した。
5:80%以上
4:60~80%未満
3:40~60%未満
2:20~40%未満
1:20%未満
2以上を合格とした。
【0057】
●経時の製品外観
作成した洗浄剤組成物を希釈することなく200mlマヨネーズ瓶に入れ、37℃の恒温槽で2か月静置した。2か月後の外観を目視で評価した。
<評価基準>
3:分離沈殿が無い
2:分離沈殿はあるが攪拌消失する
1:分離沈殿が発生し、攪拌で消失しない
2以上を合格とした。
【0058】
[結果]
実験の結果を、表2に記載する。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
本願請求項に係る発明の実施例である実施例1~15は、(1)pH12.0における活性値が至適pHでの活性値の85%以上;(2)EDTA-4Na0.2質量%添加時の活性値がEDTA-4Na無添加時の活性値に対して90%以上;(3)至適温度60℃以上の3つの特性をすべて有するプロテアーゼとリパーゼとを組み合わせた洗浄剤組成物を使用するものであって、洗浄剤組成物調整後2か月経過後も、調整時点と同等の血液洗浄性、油脂洗浄性を示すのに対して、比較例3~9、11~17は、(1)pH12.0における活性値が至適pHでの活性値の85%以上;(2)EDTA-4Na0.2質量%添加時の活性値がEDTA-4Na無添加時の活性値に対して90%以上;(3)至適温度60℃以上の3つの特性をすべて有するプロテアーゼ以外のプロテアーゼとリパーゼとを組み合わせた洗浄剤組成物を使用するものであり、2カ月後のリパーゼ活性が著しく損なわれていて、油脂洗浄性に劣るものとなっている。