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特許7664134地盤改良材の製造方法、及び地盤改良方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-09
(45)【発行日】2025-04-17
(54)【発明の名称】地盤改良材の製造方法、及び地盤改良方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/10 20060101AFI20250410BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20250410BHJP
   C04B 7/24 20060101ALI20250410BHJP
   B01D 53/50 20060101ALI20250410BHJP
   B01D 53/83 20060101ALN20250410BHJP
【FI】
C09K17/10 P ZAB
C09K17/06 P
C04B7/24
B01D53/50 100
B01D53/83
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021153485
(22)【出願日】2021-09-21
(65)【公開番号】P2022097374
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2020210540
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】北澤 健資
(72)【発明者】
【氏名】浜田 航綺
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-199166(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0020985(KR,A)
【文献】特開2004-231479(JP,A)
【文献】特開2017-031033(JP,A)
【文献】特開2020-001963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K17/00-17/52
B01D53/34-53/96
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスに対して脱硫剤を投入して乾式で脱硫する脱硫工程と、
前記脱硫工程で使用された脱硫剤を回収する回収工程と、
前記回収工程で回収された使用済み脱硫剤を、セメントクリンカ及び石膏を含む材料からなる地盤改良材に含有せしめる添加工程を含む地盤改良材の製造方法であって、
前記脱硫工程で前記排ガスに対して投入される脱硫剤が、セメント硬化体系廃材、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物から選ばれる少なくとも1種であり、
前記回収工程と前記添加工程との間に、前記使用済み脱硫剤に含まれるSO 濃度を測定するSO 濃度測定工程を更に含み、前記使用済み脱硫剤に含まれるSO 濃度が使用前と比べて3質量%以上増加している該脱硫剤を選別し、前記添加工程に用いる、地盤改良材の製造方法
【請求項2】
前記回収工程で回収された前記使用済み脱硫剤を、塩素バイパスダストとともに、前記地盤改良材に含有せしめる、請求項1に記載の地盤改良材の製造方法。
【請求項3】
前記添加工程後に得られる前記地盤改良材の塩素濃度が500ppm以上6,000ppm以下である、請求項2に記載の地盤改良材の製造方法。
【請求項4】
前記回収工程と前記添加工程との間に、更に、前記使用済み脱硫剤の水分含有率を測定する含水率測定工程を更に含み、前記使用済み脱硫剤に含まれるSO濃度が使用前と比べて3質量%以上増加しており、且つ、水分含有率が40質量%未満である該脱硫剤を選別し、前記添加工程に用いる、請求項1~のいずれか1項に記載の地盤改良材の製造方法。
【請求項5】
前記含水率測定工程における測定に基づき、前記使用済み脱硫剤の水分含有率が40質量%以上である場合には、その水分含有率が40質量%未満になるまで乾燥したうえ、前記添加工程に用いる、請求項に記載の地盤改良材の製造方法。
【請求項6】
前記排ガス及び前記使用済み脱硫剤は、セメント製造設備で産み出されるものである、請求項1~のいずれか1項に記載の地盤改良材の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法で得られた地盤改良材と対象土壌を混合することを特徴とする地盤改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良材の製造方法、及び地盤改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、路床の強化や建設作業現場等における重機や運搬車両の作業性の確保、建物の建設立地の地盤の強化などのため、セメント系固化材を用いて対象土壌と混合して、目的にかなう地盤に改良することが行われている。
【0003】
しかしながら、天然資源を原料として製造されるセメント系固化材には、自然界に広く存在する天然鉱物の重金属が極微量ながら含まれており、土質配合条件によってはセメント系固化材を用いた改良土から重金属が土壌環境基準を超える濃度で溶出するおそれもある。
【0004】
このような問題に関連して、例えば、特許文献1~3では、セメントクリンカの焼成部からの排ガスに含まれる亜硫酸ガスを、カルシウム化合物を含むスラリーに吸収させて、これをセメント原料に混合してセメント組成物を得ることで、六価クロムの溶出低減に有効なセメント組成物が得られることが記載されている。
【0005】
一方、特許文献4には、軽量気泡コンクリート等のセメント硬化体系廃材を有効活用して、セメントキルン設備から排出される排ガスに乾式で投入して脱硫処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-1963号公報
【文献】特開2020-23415号公報
【文献】特開2020-23416号公報
【文献】特開2019-141795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3の技術では、排ガスを湿式で脱硫処理を行ったあとに残るスラリー状のものをセメント組成物の原料とするので、水分除去のためのエネルギーが必要であった。また、特許文献4では、排ガスの脱硫処理を行ったあとに残る硫黄含有物を資源化することは着眼されていなかった。
【0008】
本発明の目的は、排ガスの脱硫処理を行ったあとに残る硫黄含有物を有効に資源利用して、地盤改良性能に優れた地盤改良材及び地盤改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、その第1の観点では、
排ガスに対して脱硫剤を投入して乾式で脱硫する脱硫工程と、
前記脱硫工程で使用された脱硫剤を回収する回収工程と、
前記回収工程で回収された使用済み脱硫剤を、セメントクリンカ及び石膏を含む材料からなる地盤改良材に含有せしめる添加工程を含むことを特徴とする地盤改良材の製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明に係る地盤改良材の製造方法によれば、排ガスを乾式で脱硫したあとに残る使用済み脱硫剤を回収して、セメントクリンカ及び石膏を含む材料からなる地盤改良材に含有せしめることで、地盤改良性能に優れた地盤改良材を得ることができる。
【0011】
上記製造方法においては、前記回収工程で回収された前記使用済み脱硫剤を、塩素バイパスダストとともに、前記地盤改良材に含有せしめることが好ましい。これによれば、地盤改良材に、上記使用済み脱硫剤とともに塩素バイパスダストを含有せしめるので、更に性能に優れた地盤改良材を製造することができる。なお、この場合、前記添加工程後に得られる前記地盤改良材の塩素濃度が500ppm~6,000ppmであることが好ましい。
【0012】
上記製造方法においては、前記回収工程と前記添加工程との間に、前記使用済み脱硫剤に含まれるSO濃度を測定するSO濃度測定工程を更に含み、前記使用済み脱硫剤に含まれるSO濃度が使用前と比べて3質量%以上増加している該脱硫剤を選別し、前記添加工程に用いることが好ましい。これによれば、SO量を十分に蓄えた使用済み脱硫剤を用いて、より生産性よく、性能に優れた地盤改良材を製造することができる。
【0013】
上記製造方法においては、前記回収工程と前記添加工程との間に、前記使用済み脱硫剤に含まれるSO濃度を測定するSO濃度測定工程及び前記使用済み脱硫剤の水分含有率を測定する含水率測定工程を更に含み、前記使用済み脱硫剤に含まれるSO濃度が使用前と比べて3質量%以上増加しており、且つ、水分含有率が40質量%未満である該脱硫剤を選別し、前記添加工程に用いることが好ましい。これによれば、SO量を十分に蓄えた使用済み脱硫剤を用いて、より生産性よく、性能に優れた地盤改良材を製造することができるとともに、安定性が悪い水分含有率が40質量%以上のものを避けて、より安定的に、性能に優れた地盤改良材を製造することができる。また、この場合、前記含水率測定工程における測定に基づき、前記使用済み脱硫剤の水分含有率が40質量%以上である場合には、その水分含有率が40質量%未満になるまで乾燥したうえ、前記添加工程に用いることが好ましい。これによれば、SO量を十分に蓄えた使用済み脱硫剤について、水分含有率の条件で排除せずに、乾燥することにより水分含有率を調整したうえで無駄なく地盤改良材の製造に用いることができる。
【0014】
上記製造方法においては、前記脱硫工程で前記排ガスに対して投入される脱硫剤として、セメント硬化体系廃材、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これによれば、これら脱硫剤の脱硫作用により排ガスから硫黄分を効率よく回収して、SO量を十分に蓄えた使用済み脱硫剤を得、これを地盤改良材の製造に用いることができる。また、なかでもセメント硬化体系廃材を用いる場合には、その脱硫剤に係るランニングコストが安価である。
【0015】
上記製造方法においては、前記排ガス及び前記使用済み脱硫剤は、セメント製造設備で産み出されるものであることが好ましい。これによれば、その排ガスを処理した後の使用済み脱硫剤として、地盤改良性能を発揮するのに適した成分を備えたものが得やすく、これを地盤改良材の製造に用いることができる。
【0016】
一方、本発明は、その第2の観点では、上記の製造方法で得られた地盤改良材と対象土壌を混合することを特徴とする地盤改良方法を提供するものである。
【0017】
本発明に係る地盤改良方法によれば、上記の製造方法で得られた地盤改良材と対象土壌を混合することで、その土壌を含む地盤を改良することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、排ガスの脱硫処理を行ったあとに残る硫黄含有物を有効に資源利用して、地盤改良性能に優れた地盤改良材及び地盤改良方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る地盤改良材の製造方法の一実施形態を説明するフロー図である。
図2】本発明に係る地盤改良材の製造方法の他の実施形態を説明するフロー図である。
図3】本発明に係る地盤改良材の製造方法の別の実施形態を説明するフロー図である。
図4】本発明に係る地盤改良材の製造方法の更に別の実施形態を説明するフロー図である。
図5】本発明に係る地盤改良材の製造方法にセメント製造設備で産み出される排ガス及び使用済み脱硫剤を利用する一実施形態を説明する概略構成説明図である。
図6】乾式脱硫装置として吹込式脱硫設備の構成を説明する概略構成説明図である。
図7】本発明に係る地盤改良材の製造方法にセメント製造設備で産み出される排ガス及び使用済み脱硫剤を利用する他の実施形態を説明する概略構成説明図である。
図8】試験例2において脱硫剤Bの水分含有率40質量%のもの(表記:B-3)について、水分含有率の調整の日から室温で1日、7日、14日、28日、及び56日の各期間の保管後に、XRD法(X線回折法)によりカルシウム成分の存在形態を調べた結果を示す図表である。なお、保管期間中に水分が揮発しないよう、試料は密閉容器に入れて保管した。
図9】試験例2において脱硫剤Bの水分含有率30質量%のもの(表記:B-3’)について、水分含有率の調整の日から室温で1日、7日、14日、28日、及び56日の各期間の保管後に、XRD法(X線回折法)によりカルシウム成分の存在形態を調べた結果を示す図表である。なお、保管期間中に水分が揮発しないよう、試料は密閉容器に入れて保管した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について更に具体的に説明する。
【0021】
図1には、本発明に係る地盤改良材の製造方法の一実施形態を説明するフロー図を示す。図1中の実線の矢印は各工程に持ち込まれる物質の流れを表している(以下、図2図4において同様である。)。
【0022】
図1の実施形態に示されるように、本発明に係る地盤改良材の製造方法は、排ガスG1に対して脱硫剤M1を投入して乾式で脱硫する脱硫工程と、その脱硫工程で使用された脱硫剤M2を回収する回収工程と、回収された使用済み脱硫剤M3を、セメントクリンカ及び石膏を含む材料M4からなる地盤改良材に含有せしめる添加工程を備えている。
【0023】
排ガスの乾式脱硫は、例えば、脱硫剤として、セメント硬化体系廃材、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属化合物から選ばれる1種以上を含むものなどを用いて行うことができる。また、排ガスとしては、セメント製造設備のセメントキルンから抽気される塩素バイパス排ガスなどを好ましく例示することができる。後述する試験例で示されるように、亜硫酸半水石膏(CaSO・0.5HO)等の亜硫酸塩は、土壌の固化や六価クロムの溶出抑制に寄与するが、これらの組み合わせであれば、脱硫反応により、そのような亜硫酸塩が効率よく生成するからである。
【0024】
なかでもセメント硬化体系廃材を用いる場合には、その脱硫剤に係るランニングコストが安価である。以下には、脱硫剤としてセメント硬化体系廃材を用いる場合について詳述する。ただし、本発明に用いる脱硫剤は、セメント硬化体系廃材を含むものに限られない。
【0025】
(セメント硬化体系廃材からなる脱硫剤)
セメント硬化体系廃材としては、セメントペースト硬化体、モルタル硬化体、コンクリート硬化体等の廃材が挙げられる。これらの廃材は、その構成成分としてC-S-H(ケイ酸カルシウム水和物)、C-A-H(カルシウムアルミネート水和物)、水酸化カルシウム等のセメント水和物を主要構成相とする固体であり、nmサイズからμmサイズの所定量の細孔を有する多孔体である。
【0026】
脱硫剤として用いる上記セメント硬化体系廃材は、その表面が吸着サイトとなって硫黄酸化物等の吸着が生じるので、細孔が多量に存在して比表面積の大きいセメント硬化体系廃材ほど脱硫性能に優れている。よって、例えば、セメント硬化体系廃材のBET比表面積としては、好ましくは5m/g以上、より好ましくは6m/g以上、さらにより好ましくは7m/g以上である。また、その上限の値に特に制限はないが、典型的には例えば、40m/g以下である。なお、上記BET比表面積とは、窒素吸着法で得られたセメント硬化体系廃材の吸着等温線にBETの式を適用して得られる値を意味する。
【0027】
また、上記セメント硬化体系廃材の空隙率は、好ましくは20体積%以上、より好ましくは25体積%以上、さらにより好ましくは30体積%以上である。また、その上限の値に特に制限はないが、典型的には例えば、70体積%以下である。なお、上記空隙率は、水銀圧入式ポロシメータによる測定値を意味する。
【0028】
さらに、上記セメント硬化体系廃材は、水銀圧入式ポロシメータによる細孔径3nm~2000nmの総細孔容積Vt(cm/g)と、細孔径50nm~2000nmにおける細孔容積Va(cm/g)の比Va/Vtが、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.8以下、さらにより好ましくは0.75以下である。
【0029】
上記セメント硬化体系廃材に含まれる骨材(例えば、粒径が5mmを超える粗骨材)や鉄筋、木屑等の夾雑物は、脱硫性能にほとんど寄与しないので、適宜適当な手段により取り除かれていることが好ましい。また、脱硫剤としてのハンドリングの観点から、上記セメント硬化体系廃材の粒径は、例えば20μm~22.4mmに調整されていることが好ましく、より好ましくは20μm~16mmであり、さらにより好ましくは20μm~11.2mmである。
【0030】
より具体的には、脱硫剤を脱硫槽内に滞留させて排ガスと接触させて使用するような場合は、上記セメント硬化体系廃材の粒径は、例えば2.8mm~22.4mmに調整されていることが好ましく、より好ましくは4mm~16mmであり、さらにより好ましくは4mm~11.2mmである。また、脱硫剤を送気管内を流れる排ガスに噴霧して使用するような場合は、上記セメント硬化体系廃材の粒径は、例えば20μm~90μmに調整されていることが好ましく、より好ましくは20μm~75μmであり、さらにより好ましくは20μm~50μmである。
【0031】
ここで、セメント硬化体系廃材の粒径とは、ふるい試験に用いたJIS Z 8801「試験用ふるい」に規定されるふるいの公称目開きを指す。また、その粒径がμmオーダーである場合、レーザー回折式粒度分布測定装置などの汎用の粒子径分布測定装置で規定される値であってもよい。
【0032】
上記セメント硬化体系廃材としては、例えば、軽量気泡コンクリート(ALC)廃材を好適に使用することができる。軽量気泡コンクリートとは、珪石、ポルトランドセメント、生石灰、石膏、アルミニウム粉末等をオートクレーブ養生(例えば、180℃、1MPaの高圧蒸気での10時間養生)して得られる軽量気泡コンクリートであり、通常30m/g以上の比表面積を有する。また、一般的な軽量気泡コンクリート(ALC)廃材(180℃、1MPaの高圧蒸気での10時間養生)の場合、通常は粗骨材を含まず、BET比表面積が20m/g以上、空隙率は40体積%以上、及び細孔容積比Va/Vtが0.65以下である。
【0033】
ただし、乾燥した状態のセメント硬化体系廃材では脱硫効果が小さく、セメント硬化体系廃材の表面に水分が皮膜として存在することによって、又は細孔構造内における細孔水として存在することによって、簡易な方法で得られる脱硫剤でありながらも、いわゆる湿式脱硫法(例えば、脱硫剤をスラリー状にして排ガスと接触させる方法)と同程度の脱硫効果を発現することができる。これは、セメント硬化体系廃材表面に存在する液相部での化学反応、具体的には、セメント硬化体系廃材から液相部に溶出したカルシウム成分と排ガス中の硫黄酸化物が反応して石こう等の固体硫化物を生成することによって、排ガス中の硫黄酸化物をセメント硬化体系廃材内に固定化できるからであると考えられる。よって、例えば、セメント硬化体系廃材の水分含有率は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12.5質量%以上、さらにより好ましくは15質量%以上である。また、その水分含有率の上限としては、ハンドリングの容易な乾式脱硫の方式を実現する観点からは、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらにより好ましくは45質量%以下である。水分含有率の調整は、セメント硬化体系廃材を水に浸漬したり、セメント硬化体系廃材に散水したり、必要に応じてその浸漬や散水の後にトロンメルやふるいにより水切りを行なえばよい。
【0034】
図2には、本発明に係る地盤改良材の製造方法の他の実施形態を説明するフロー図が示される。
【0035】
図2に示す実施形態では、図1において説明した実施形態において、使用済み脱硫剤M3に含まれるSO濃度を測定するSO濃度測定工程を、更に備えている。そして、使用済み脱硫剤M3の使用前に対するSO濃度の増加量に基づいて脱硫剤を選別し、SO濃度により選別された脱硫剤M5を地盤改良材の製造に用いるようにしている。これによれば、例えば、排ガスの脱硫処理に使用された脱硫剤に含まれるSO濃度が使用前と比べてそれほど増加してない脱硫剤については、次の排ガス対して投入する脱硫剤として再利用することができる一方、使用前と比べて例えば3質量%以上増加していてSO量を十分に蓄えた使用済み脱硫剤を用いて、より生産性よく、性能に優れた地盤改良材を製造することができる。
【0036】
なお、本発明及び本明細書の記載において、脱硫剤のSO濃度の測定は、脱硫処理に供される脱硫剤や排ガスの脱硫処理に使用された脱硫剤のうちの一部をサンプリングして、例えば、硫酸バリウム沈殿生成による重量法等の一般的なSOの定量分析方法を利用して行えばよい。脱硫剤のSO濃度の測定は、簡便性の観点からは、蛍光X線分析装置(FP法:ファンダメンタルパラメーター法)を用いた測定方法が好ましい。また、使用前の脱硫剤のSO濃度との比較は、新たに供給される脱硫剤につき、そのSO濃度を測定し、例えば3質量%以上増加しているかどうかを評価してもよく、あるいはあらかじめ使用前の脱硫剤の平均的ないしは標準的なSO濃度を測定ないし設定しておき、もしくはそれに対応した閾値(3質量%増の値)を設定しておき、その値に基づき、例えば3質量%以上増加しているかどうかを評価するようにしてもよい。
【0037】
図3には、本発明に係る地盤改良材の製造方法の別の実施形態を説明するフロー図が示される。
【0038】
図3に示す実施形態では、図1又は図2において説明した実施形態において、使用済み脱硫剤M3に含まれるSO濃度を測定するSO濃度測定工程と、使用済み脱硫剤M3の水分含有率を測定する含水率測定工程を、更に備えている。そして、使用済み脱硫剤M3の使用前に対するSO濃度の増加量に基づいて脱硫剤を選別するとともに、使用済み脱硫剤M3の水分含有率に基づいて選別を行って、選別後の脱硫剤M6を地盤改良材の製造に用いるようにしている。これによれば、例えば、使用済み脱硫剤に含まれるSO濃度が使用前と比べてそれほど増加してない脱硫剤については、次の排ガス対して投入する脱硫剤として再利用することができる一方、使用前と比べて例えば3質量%以上増加していてSO量を十分に蓄えた使用済み脱硫剤を用いて、より生産性よく、性能に優れた地盤改良材を製造することができる。加えて、水分含有率が例えば40質量%以上では、亜硫酸塩の安定性に乏しいので、それを避けて40質量%未満のものを用いて、より安定的に、性能に優れた地盤改良材を製造することができる。
【0039】
なお、本発明及び本明細書の記載において、脱硫剤の水分含有率の測定は、脱硫処理に供される脱硫剤や排ガスの脱硫処理に使用された脱硫剤のうちの一部をサンプリングして、例えば、乾燥温度200℃で恒量となった場合の室温からの質量減少率を求めることにより行うことができる。また、このような乾燥温度200℃の質量減少率は、熱重量測定(TG)等の汎用の熱分析装置を用いた熱分析における、10℃/分以下の昇温速度による200℃での重量減少率で代替してもよい。
【0040】
本発明の限定されない別の態様においては、上記SO濃度測定工程又は含水率測定工程のいずれか一方における測定結果に基づき、他の工程を行うかどうか決定してもよい。例えば、SO濃度が満たない場合は、含水率の測定を行うことなく、その脱硫剤を地盤改良材の製造に用いないことを決定してもよい。これによれば、無駄な測定を省くことができる。
【0041】
図4には、本発明に係る地盤改良材の製造方法の更に別の実施形態を説明するフロー図が示される。
【0042】
図4に示す実施形態では、図3において説明した実施形態において、含水率測定工程における測定に基づき、使用済み脱硫剤の水分含有率が40質量%以上である場合には、その水分含有率が40質量%未満になるまで乾燥したうえで、上記SO濃度及び含水率により選別された脱硫剤M7を得、これを地盤改良材の製造に用いるようにしている。これによれば、使用前と比べて例えば3質量%以上増加していてSO量を十分に蓄えた使用済み脱硫剤を用いて、より生産性よく、性能に優れた地盤改良材を製造することができる。加えて、水分含有率が例えば40質量%以上では、亜硫酸塩の安定性に乏しいので、それを乾燥により改良して、40質量%未満のものを用いて、より安定的に、性能に優れた地盤改良材を製造することができる。そして、水分含有率の条件で排除せずに、乾燥することにより水分含有率の調整したうえで無駄なく地盤改良材の製造に用いることができる。
【0043】
本発明の限定されない別の態様においては、上記乾燥の工程を経ないでSO濃度及び含水率により選別された脱硫剤M6を得るとともに、上記乾燥の工程を経て上記SO濃度及び含水率により選別された脱硫剤M7を得、その両者を地盤改良材の製造に用いるようにしてもよい。例えば、あるタイミングの使用済み脱硫剤の供給フローでは、含水率40質量%未満の要件を満たすので、上記SO濃度及び含水率により選別された脱硫剤M6として、これを乾燥する工程を経ない経路で所定のタンク等に貯留などしておき、他のタイミングの使用済み脱硫剤の供給フローでは、含水率40質量%未満の要件を満たないので、乾燥工程を経て含水率40質量%未満の要件を満たすようにして、上記SO濃度及び含水率により選別された脱硫剤M7を得たうえ、上記選別された脱硫剤M6と混合し、これを地盤改良材の製造に用いるようにしてもよい。これによれば、使用済み脱硫剤の含水率にバラツキがあっても、SO量を十分に蓄えた使用済み脱硫剤について、水分含有率の条件で排除せずに、乾燥することにより水分含有率の調整したうえで無駄なく地盤改良材の製造に用いることができる。
【0044】
なお、本発明の限定されない別の態様においては、回収された使用済み脱硫剤M3は、塩素バイパスダストとともに、セメントクリンカ及び石膏を含む材料M4からなる地盤改良材に含有せしめるようにしてもよい。一般に、セメント製造設備においてプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす塩素の処理について、塩素バイパスシステムが採用されている。塩素バイパスシステムは、セメントキルン設備におけるセメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路から燃焼ガスの一部を抽気したうえ、その抽気ガスから塩素を除去して、セメントキルン系内に存在する塩素を系外除去するものである。抽気ガスに含まれる塩素は、冷却による凝縮等によって、抽気ガスに含まれるダスト(塩素バイパスダスト)と一緒になって固相に移行するので、相対的に塩素含有量が低く、セメントキルン系に戻すことが可能なダストの粗粉をサイクロン等の分級機により分離したうえで、塩素含有量が高められた微粉を含むダストをバグフィルタ等の固気分離装置により分離して回収している。塩素バイパスダストは、その一部がセメント製造の仕上げ工程などでセメント原料としての資源化が実現されているものの、処理量に対し発生量が勝っており、コスト増加の一因となっている。そこで地盤改良材に含有せしめようにすれば、その資源化が図られるので好ましい。
【0045】
また、後述の実施例によれば、地盤改良材に水分を混合したとき、脱硫剤の添加によって場合によっては流動性の低下を引き起こす傾向があるところ、地盤改良材に更に塩素バイパスダストを含有せしめることでその流動性の低下を抑える効果があり、ひいては地盤改良材を用いるときの作業性が損なわれるのを防ぐことができる。
【0046】
図5には、セメント製造設備で産み出される排ガス及び使用済み脱硫剤を利用する一実施形態を説明する概略構成説明図を示す。図5中の実線の矢印は脱硫剤等の固体の流れを、点線の矢印はセメント設備の焼成キルンからの燃焼排ガス等の気体の流れを、鎖線は排ガスの脱硫処理に使用された脱硫剤のうちの一部をサンプリングして所定の測定を行う経路をそれぞれ表わしている(以下、図6図7において同様である。)。
【0047】
図5には、セメント製造設備のキルン燃焼排ガス系10が示されている。この実施形態に示すキルン燃焼排ガス系10では、セメント製造設備においてプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす塩素の処理について、上述した塩素バイパスシステムが採用されている。すなわちこの実施形態に示すキルン燃焼排ガス系10では、セメントキルン系に戻すことが可能なダストの粗粉をサイクロン等の分級機1により分離したうえで、塩素含有量が高められた微粉を含むダスト(塩素バイパスダストM8)をバグフィルタ等の固気分離装置2により分離して回収することにより、抽気ガスから塩素を除くようにしている。
【0048】
塩素バイパスシステムを採用したキルン燃焼排ガス系10から排出される塩素バイパス排ガスには、高濃度の硫黄酸化物が含まれるため、塩素除去後の排ガスをそのまま系外へ放出することができず、プレヒータ等のセメントキルン系に戻す必要があった。しかし、塩素バイパス排ガスをプレヒータ等に戻すことは、セメントキルン系内での硫黄分の濃縮を促進させる結果となり、セメントキルンやプレヒータでの硫黄由来のコーチングトラブルが生じて、ひいてはセメントの安定製造が困難になるという問題があった。
【0049】
そこで、図5に示す実施形態では、含水処理装置3と乾式脱硫装置4とからなる排ガス脱硫系20が設けられている。
【0050】
含水処理装置3では、脱硫剤を水に浸漬したり、脱硫剤に散水したり、必要に応じてその浸漬や散水の後にトロンメルやふるいにより水切りを行なうことなどにより、乾式脱硫装置4に供される脱硫剤M1(図5中、新たに供給される脱硫剤M1a及び/又は再利用される脱硫剤M1bを含む。以下、特に言及しない限り同様とする。)の水分含有率の調整を行うことができるようにしている。乾式脱硫装置4に供される脱硫剤M1の水分含有率の調整は、必要に応じて行えばよく、あるいは行わなくてもよい。
【0051】
含水処理装置3においては、乾式脱硫装置4に供される脱硫剤M1に水を接触させて、好ましくは水分含有率が10質量%以上55質量%以下とする。水分含有率は、乾燥温度200℃で恒量となった脱硫剤M1の乾燥質量Wと室温時の脱硫剤M1の質量Wとの質量差(W-W)と、室温時の質量Wとの百分率(W-W)/W×100で求まる値である。
【0052】
含水処理装置3としては、具体的には、散水スプレーや脱硫剤M1を水に浸漬させるための浸漬枡等、簡易な装置から構成することができる。ここで、脱硫剤M1が微粉を含む場合、水との濡れ性や水中での分散性が低下する場合があるので、攪拌翼が付設された浸漬枡等を使用するのが効率的である。攪拌翼としては、例えば、一般的な、スクリューやリボンを用いればよい。また、余分な水分を除く手段としては、トロンメルやふるいによる水切り等を用いればよい。含水処理装置3に供給される水としては、上水道水、工業用水、及びセメント製造工場における工程水が使用でき、その温度に制限はない。
【0053】
乾式脱硫装置4は、キルン燃焼排ガス系10から排出される排ガスG1に脱硫剤M1を投入して乾式で脱硫処理を行うようにした装置である。
【0054】
図6には、乾式脱硫装置4として、吹込式脱硫設備の構成の一例が示されている。この実施形態に示す吹込式脱硫設備では、排ガスG1が流れる送気管11の一部が排ガスG1の乾式脱硫処理を行う脱硫搭12を構成している。また、新たに供給される脱硫剤M1a及び/又は再利用される脱硫剤M1bを搬送する搬送装置として、送風機(図示せず)からの気体とともに脱硫剤を空気圧送させるようにした圧送管13を使用している。そして、圧送管13が送気管11の側壁からその内部に貫通しており、その圧送管13を通じて、脱硫剤を送気管11内を流れる排ガスG1に対して噴霧して、排ガスG1が脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bに接触するようにしている。また、使用された脱硫剤M2を回収する手段として、脱硫搭12を経て脱硫化された排ガスG2が送気管11を通じて導入されるように配された回収用固気分離装置14を使用している。
【0055】
なお、乾式脱硫装置4としては、吹込式脱硫設備の構成に限られず、例えば、脱硫剤が充填された充填槽内を排ガスG1が連続的に通気する設備として構成さされていてもよい。
【0056】
ここで、塩素バイパスシステムからの一般的な排ガスは、温度が100℃~250℃、SO濃度が500ppm~10000ppm、排ガス流量が2.5mN/s~25mN/sである。この実施形態においては、そのような排ガスが、排ガスG1に相当している。また、塩素バイパスシステムからの排気経路の一般的な排気管の内径は、600mm~1300mmである。この実施形態においては、そのような排気経路の排気管が、送気管11に相当している。
【0057】
そして、送気管11の一部で構成された脱硫搭12内においては、脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bと排ガスG1が接触し、脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1b中の液相に溶出しているカルシウム成分が、排ガスG1中の硫黄酸化物(SO)と反応して、直ちに二水石膏(CaSO・2HO)及び/又は亜硫酸半水石膏(CaSO・0.5HO)等の固体硫化物が生成する。これにより、排ガスG1中の硫黄酸化物を固体として除去して、排ガスを脱硫化することができるようにしている。
【0058】
図6には、圧送管13と送気管11の固定の位置関係が示されている。図6中、αは、圧送管13と送気管11の内壁が成す鋭角(°)である。
【0059】
一般に、脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bの噴霧方向が、排ガスG1の下流側、すなわち、回収用固気分離装置14側の場合、脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bと排ガスG1が並流してしまい、脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bと排ガスG1の混合が充分に生じずに、脱硫効果が低下してしまう場合がある。
【0060】
そのため、図6に示す実施形態において、圧送管13は、送気管11内の排ガスG1のガス流に対して上流側に傾けた状態で送気管11に固定されている。すなわち、図6に示す一例は、送気管11の垂直部(ライジングダクト)に脱硫搭12を設置した場合であるが、送気管11への圧送管13の固定位置は、圧送管13の送気管11を貫通させた先端側を下向きに配して、送気管11内を上向きに流れてくる排ガスG1に向流させている。このような固定の位置関係にすることで、脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bと排ガスG1が充分に混合することができ、ひいては上記固体硫化物の生成反応をより効率的に生じさせることができる。
【0061】
送気管11内への脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bの圧送量は、脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bの液相部に溶出しているカルシウム成分のCaO換算量と、排ガスG1に含有される硫黄酸化物のモル比CaO/SOが、1.5~4.0であることが好ましく、3.0~4.0であることがより好ましい。通常、このようなモル比範囲とすることにより、排ガスG1に含有される硫黄酸化物の80%以上を固体硫化物(二水石膏、亜硫酸半水石膏等)に変化させることができる。
【0062】
圧送されて送気管11に到達した脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bが、送気管11の内壁に付着すると、送気管11内にセメント硬化体系廃材のコーチングを形成して、排ガスG1の流れの阻害につながる。したがって、送気管11内で噴出される脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bは、送気管11の内壁に到達しないように圧送管13と送気管11の固定の位置関係の適正化を行うことが好ましい。
【0063】
具体的には、圧送管13と送気管11の固定の位置関係は、以下の関係を有していることが好ましい。
β<α+β≦90°、且つ、αは排ガスG1に向流する側に存する。
α:圧送管13と送気管11の内壁が成す鋭角(°)
β:脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bの噴霧角(°)
【0064】
すなわち、脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bは、圧送管13と鋭角を形成する送気管11の内壁面に平行な方向から、かかる内壁面に垂直な方向までの範囲であって、排ガスG1に対して向流する方向に噴霧することが好ましい。
【0065】
また、圧送管13から送気管11内への脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bの噴霧速度V(m/s)と、送気管11内を流れる排ガスG1の流速V(m/s)との関係は、V/V比が1.0~4.0であることが好ましく、1.0~2.0であることがより好ましい。この範囲であれば、脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bと排ガスG1が充分に混合するので、上記固体硫化物の生成反応をより効率的に生じさせることができる。
【0066】
送気管11内に噴出される脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bの粒径R(μm)は、小さいほど上記固体硫化物の生成反応に優れ、その結果脱硫効率に優れる。具体的には、脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bの粒径R(μm)は、90μm以下が好ましく、75μm以下がより好ましく、50μm以下がさらにより好ましい。一方、脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bの粒径Rが90μmを超えると、例えば、上記の圧送管13と送気管11の固定の位置関係がα+β=90°の場合など、あるいはその位置関係に近い場合などにおいては、送気管11の対面の内壁に脱硫剤M1a及び/又は脱硫剤M1bが到達するおそれがある。
【0067】
回収用固気分離装置14としては、遠心力式、ろ過式、静電気式等の一般的な集塵装置を用いることができるが、操作性等からバグフィルタ(ろ過式)が好ましい。使用された脱硫剤M2は、再利用のため図示しない搬送手段、ベルトコンベア、空気圧送、スクリューコンベア等を別途設けて、これにより、上記した再利用される脱硫剤M1bを搬送するための圧送管13に戻すようにしている。このとき、再利用される脱硫剤M1bは、含水処理装置3による水分含有率の調整に付してから圧送管13に戻すようにしてもよく、水分含有率の調整を経ずに圧送管13に戻すようにしてもよい。
【0068】
図5に示される実施形態においては、乾式脱硫装置4において排ガスG1の脱硫処理に使用された後の脱硫剤を回収し、その使用済み脱硫剤M3に含まれるSO濃度をSO濃度測定装置5で測定するようにしている。使用済み脱硫剤M3の回収は、例えば、図6で説明した吹込式脱硫設備における回収用固気分離装置14を介して、同様に別途、ベルトコンベア、空気圧送、スクリューコンベア等の搬送手段を設けて行えばよい。そして、使用済み脱硫剤M3について、使用前と比べて3質量%以上増加しているかどうかを判定して、3質量%以上増加していれば、使用済み脱硫剤M5として地盤改良材の原料に使用するようにし、3質量%以上増加していなければ地盤改良材の原料に使用することなく、例えば、再利用される脱硫剤M1bの経路に戻すことができるようにしている。なお、上述したように、脱硫剤のSO濃度の測定は、脱硫処理に供される脱硫剤や排ガスの脱硫処理に使用された脱硫剤のうちの一部をサンプリングして行えばよい。SO濃度測定装置5としては、定量分析精度、操作性、分析に要する所要時間、及びオンライン分析への展開可能性の観点から、蛍光X線分析装置が好ましい。また、使用前の脱硫剤のSO濃度との比較は、新たに供給される脱硫剤につき、そのSO濃度を測定し、例えば3質量%以上増加しているかどうかを評価してもよく、あるいはあらかじめ使用前の脱硫剤の平均的ないしは標準的なSO濃度を測定ないし設定しておき、もしくはそれに対応した閾値(3質量%増の値)を設定しておき、その値に基づき、例えば3質量%以上増加しているかどうかを評価するようにしてもよい。
【0069】
図7には、セメント製造設備で産み出される排ガス及び使用済み脱硫剤を利用する別の実施形態を説明する概略構成説明図を示す。
【0070】
図7に示す実施形態では、図5において説明した実施形態において、更に、水分含有率測定装置6を備えている。そして、SO濃度により選別した使用済み脱硫剤M5について、その含水率に基づく選別を行うようにしている。そして、使用済み脱硫剤M3について、含水率が40質量%未満であるかどうかを判定して、40質量%未満であれば、使用済み脱硫剤M6として地盤改良材の原料に使用するようにし、40質量%以上であれば地盤改良材の原料に使用することなく、例えば、再利用される脱硫剤M1bの経路に戻すことができるようにしている。なお、上述したように、脱硫剤の水分含有率の測定は、脱硫処理に供される脱硫剤や排ガスの脱硫処理に使用された脱硫剤のうちの一部をサンプリングして行えばよい。水分含有率測定装置6としては、定量分析精度、操作性、分析に要する所要時間、及びオンライン分析への展開可能性の観点から、静電容量式や高周波方式水分計装置が好ましい。
【0071】
また、上述したとおり、本発明の限定されない別の態様においては、含水率測定装置6における測定に基づき、使用済み脱硫剤M3の水分含有率が40質量%以上である場合には、その水分含有率が40質量%未満になるまで乾燥したうえで、上記SO濃度及び含水率により選別された脱硫剤M7を得、これを地盤改良材の製造に用いるようにしてもよい。図7に示す実施形態において乾燥装置7を用いている。この乾燥装置7は、具体的には、使用済み脱硫剤3に対して、プレヒータ出口からの排ガス、廃熱ボイラからの排ガス等の排ガスを200~400℃の温度で吹き付ける構成とすることが好ましい。これによれば、廃熱エネルギーを利用するのでエネルギー効率がよい。また、当該排ガスが、通常、低酸素(O濃度3~6%程度)であるので、土壌の固化や六価クロムの溶出抑制に寄与する成分、例えば、亜硫酸半水石膏(CaSO・0.5HO)等の亜硫酸塩を酸化してしまうことがない。
【0072】
本発明の限定されない別の態様においては、図4のフロー図でも説明したとおり、乾燥装置7における乾燥の工程を経ないで上記SO濃度及び含水率により選別された脱硫剤M6を得るとともに、乾燥装置7における乾燥の工程を経て上記SO濃度及び含水率により選別された脱硫剤M7を得、その両者を地盤改良材の製造に用いるようにしてもよい。例えば、あるタイミングの使用済み脱硫剤の供給フローでは、含水率40質量%未満の要件を満たすので、上記SO濃度及び含水率により選別された脱硫剤M6として、これを乾燥する工程を経ない経路で所定のタンク等に貯留などしておき、他のタイミングの使用済み脱硫剤の供給フローでは、含水率40質量%未満の要件を満たないので、乾燥装置7における乾燥工程を経て含水率40質量%未満の要件を満たすようにして、上記SO濃度及び含水率により選別された脱硫剤M7を得たうえ、上記選別された脱硫剤M6と混合し、これを地盤改良材の製造に用いるようにしてもよい。これによれば、使用済み脱硫剤M3の含水率にバラツキがあっても、SO量を十分に蓄えた使用済み脱硫剤について、水分含有率の条件で排除せずに、乾燥することにより水分含有率の調整したうえで無駄なく地盤改良材の製造に用いることができる。
【0073】
なお、本発明の限定されない別の態様においては、上述したとおり、塩素バイパスダストを地盤改良材に含有せしめるようにしてもよい。この場合、図5図7において説明されたキルン燃焼排ガス系からは、その固気分離装置2を通じて塩素バイパスダストM8を分離回収することができるので、これが好適に用いられる。
【0074】
本発明においては、上記のようにして得られた使用済み脱硫剤を所定量でセメントクリンカ及び石膏を含む材料からなる地盤改良材に含有せしめることで、性能に優れた地盤改良材を得るものである。本発明を適用し得る地盤改良材としては、セメントクリンカ及び石膏を含む材料からなるものであればよく(例えばセメント系固化材等であってよく)、特に制限はない。地盤改良材中に含有せしめる使用済み脱硫剤の含有量としては、特に制限はないが、地盤改良材の性能向上の観点からは、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが更により好ましい。
【0075】
また、塩素バイパスダストを含有せしめる場合には、それを地盤改良材中に含有せしめる含有量としては、特に制限はないが、地盤改良材の性能向上の観点からは地盤改良材の塩素濃度として、500ppm以上6,000ppm以下であることが好ましく、1,000ppm以上5,000ppm以下であることがより好ましく、1,500ppm以上3,000ppm以下であることが最も好ましい。また、地盤改良材中に含有せしめる塩素バイパスダストの含有量としては、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下であることが最も好ましい。
【0076】
一方、本発明は、別の観点では、地盤改良方法を提供することができる。すなわち、上記のようにして得られた地盤改良材と対象土壌を混合して、その土壌を含む地盤を改良することができる。すなわち、例えば、道路の路床の強化や、建設作業現場における重機や運搬車両の作業性の確保や、構造物や建物の建設立地の地盤の強化のため等に好適に用いられる。特に限定されないが、その場合、上記地盤改良材を対象土壌の1mあたりに50kg以上600kg以下混合することが好ましく、100kg以上500kg以下混合することがより好ましく150kg以上400kg以下混合することが更により好ましい。また、上記使用済み脱硫剤の量に換算した場合、対象土壌の1mあたりに0.5kg以上300kg以下混合することが好ましく、3kg以上150kg以下混合することがより好ましく4.5kg以上60kg以下混合することが更により好ましい。
【実施例
【0077】
以下、試験例を挙げて本発明について更に詳細に説明する。ただし、これらの試験例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0078】
〔1.脱硫剤〕
・脱硫剤A:消石灰(奥多摩工業社製)(BET比表面積:44m/g、細孔容積:0.2mL/g、見かけ密度:0.4g/mL)
・脱硫剤B:軽量気泡コンクリート(ALC)の端材を粉砕して公称目開き1mmのふるいを通過したもの(BET比表面積:25m/g、空隙率:59体積%)
【0079】
〔2.乾式脱硫〕
セメント工場の排ガスに対して脱硫剤A又は脱硫剤Bを乾式で投入して、その排ガスの脱硫処理に使用した。
【0080】
表1、2には、その使用状態ごとの脱硫剤の組成成分を、蛍光X線装置(FP法:ファンダメンタルパラメーター法)によって測定した結果をまとめて示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
〔3.使用済み脱硫剤の水分調整〕
脱硫剤Bの使用後のもの(表記:B-3)の水分含有率を赤外線水分計(FD-720)により測定したところ40質量%であった。その一部をとって窒素乾燥処理を施して水分含有率30質量%のものを調整した(表記:B-3’)。
【0084】
【表3】
【0085】
〔4.塩素バイパスダスト〕
セメント製造設備の塩素バイパスシステムで回収された塩素バイパスダストを使用した。表4には、その組成成分を、蛍光X線装置(FP法:ファンダメンタルパラメーター法)によって測定した結果を示す。
【0086】
【表4】
【0087】
〔5.試験〕
<試験例1>
セメント系固化材のベース材料である高炉B種セメントを準備し、これに上記で調製した各種の使用済み脱硫剤、塩素バイパスダストを添加、混合して、地盤改良材を調製した。
【0088】
(材料)
・固化材ベース:高炉B種セメント(普通ポルトランドセメント60質量%:高炉スラグ40質量%)(Cl濃度190ppm)
・使用済み脱硫剤(表記:A-1、B-1、B-2、B-3、B-3’)
・塩素バイパスダスト(表記:KP)
・地盤改良材:固化材ベース±使用済み脱硫剤±塩素バイパスダスト
・共試土:土壌(関東ローム、湿潤密度1.508g/cm
【0089】
(評価1)
調製した各種の地盤改良材について、土壌固化性能と六価クロム等の溶出特性を評価した。具体的には、以下のようにして土壌と混練して供試体を作成し、標準法による試験を行った。
【0090】
(供試体作成方法)
供試体は、供試土1mに対して地盤改良材300kgを添加して行う、JGS 0821「安定処理土の締固めをしない供試体作製方法」に準じて作製成した。具体的には、下記条件で練混ぜ、調製した混合物を、直径50mm×高さ100mmの円柱型枠内にランマーを用いて3層詰めした後、20℃で材齢7日まで密封養生し、各水準の供試体を作製した。
・練混ぜ環境:20℃
・混合手順:地盤改良材+試料土→練混ぜ5分→掻落し→練混ぜ5分→供試体
・練混ぜ手段:5Lソイルミキサ(ホバート社製 A120T)
・1バッチ当たり使用量:地盤改良材量300g、供試土1,508g
【0091】
供試体作成の日から7日目に、JIS A 1216の圧縮強度(7日)を測定した。また、環境庁告示第46号試験に従い、六価クロム、フッ素、セレンの溶出試験を行った。検液の分析は、六価クロムはJIS K 0102「工場排水試験方法 65.2.1ジフェニルカルバジド吸光光度法」、フッ素は環境庁告示第59号付表7 イオンクロマトグラフ法、セレンはJIS K 0102「工場排水試験方法 67.4 ICP質量分析法」により、それぞれ分析を行った。
【0092】
(評価2)
調製した地盤改良材について、水とのスラリーを作製したときの流動性について評価した。具体的には、各試料について、30℃環境下において、水セメント比(W/C)60%のスラリーを作製し、土木学会規準JSCE-F-521「プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法(P漏斗による方法)」に規定されるプレパクトフローコーン(P漏斗)を使用して、流下時間(秒)を測定した。流下時間は90分連続攪拌後に測定した。
【0093】
(評価結果)
表5には、水準ごと、固化材ベースへの各材料の内割り混合比率(質量%)と、上記評価1による7日材齢強度(kN/m)ならびに六価クロム(Cr6+)、フッ素(F)、セレン(Se)の溶出量(mg/L)、上記評価2による流下時間(秒)の結果をまとめて示す。
【0094】
【表5】
【0095】
その結果、以下のことが明らかとなった。
(1)ブランクと水準1~3の比較から、固化材ベースに塩素バイパスダストを0.5~3質量%の割合で混合すると、塩素バイパスダストを添加しない場合に比べて、水とのスラリーを形成したときの流動性が向上すること明らかとなった。ただし、土壌固化性能や六価クロム等の溶出特性については、改善はみられなかった。
(2)ブランクと水準4との比較から、消石灰からなる脱硫剤Aを乾式脱硫に使用してから固化材ベースに10質量%の割合で混合すると、使用済みの脱硫剤を添加しない場合に比べて、土壌固化性能が増大し、六価クロムの溶出量が低減することが明らかとなった。ただし、水にスラリー化したときの流動性については、脱硫剤を添加することにより低下する傾向がみられた。
(3)水準4と水準5~7の比較から、固化材ベースに使用済みの脱硫剤に加えて、塩素バイパスダストを0.5~3質量%の割合で混合すると、水とスラリーを形成したときの流動性が向上することが明らかとなった。また、その際、六価クロムの溶出量については脱硫剤の添加による低減効果を維持することができ、土壌固化性能については脱硫剤の添加による増大効果をほぼ維持することができた。
(4)ブランクと、水準8、水準12、水準16、又は水準20との比較から、軽量気泡コンクリート(ALC)の端材の粉砕物からなる脱硫剤Bを乾式脱硫に使用してから固化材ベースに10質量%の割合で混合すると、使用済みの脱硫剤を添加しない場合に比べて、六価クロムの溶出量が低減した。また、水準20では土壌固化性能が増大した。
(5)水準8、水準12、水準16、又は水準20のそれぞれの比較から、使用済み脱硫剤中に含まれている亜硫酸塩(SO)の量が多いほうが、土壌固化性能や六価クロムの溶出量低減効果がより高くなる傾向がみられた。
(6)水準8に対して水準9~11、水準12に対して水準13~15、水準16に対して水準17~19、水準20に対して水準21~23のそれぞれの比較から、固化材ベースに使用済みの脱硫剤に加えて、塩素バイパスダストを0.5~3質量%の割合で混合すると、水とスラリーを形成したときの流動性が向上することが明らかとなった。また、その際、六価クロムの溶出量については脱硫剤の添加による低減効果を維持することができ、土壌固化性能については脱硫剤の添加による増大効果をほぼ維持することができた。
(7)水準16に対して水準20、水準17に対して水準21、水準18に対して水準22、水準19に対して水準23のそれぞれの比較から、軽量気泡コンクリート(ALC)の端材の粉砕物からなる脱硫剤Bの水分含有率30質量%のもの(B-3’)を使用したほうが、水分含有率40質量%のもの(B-3)を使用した場合に比べて、土壌の固化効果が高くなり、六価クロムの溶出量低減効果が高くなった。
【0096】
以上から、乾式脱硫に使用した脱硫剤を所定割合でセメント系固化材に含有せしめることで、土壌を固化する性能や六価クロムの溶出量を低減する性能がより向上することが明らかとなった。
【0097】
<試験例2>
図8、9には、脱硫剤Bの水分含有率40質量%のもの(表記:B-3)と水分含有率30質量%のもの(表記:B-3’)とについて、水分含有率の調整の日から室温で1日、7日、14日、28日、及び56日の各期間の保管後に、XRD法(X線回折法)によりカルシウム成分の存在形態を調べた結果を示す。なお、保管期間中に水分が揮発しないよう、試料は密閉容器に入れて保管した。
【0098】
その結果、図8に示されるように、水分含有率40質量%のものでは、亜硫酸半水石膏(CaSO・0.5HO)のピークが期間経過とともに小さくなり、代わりに二水石膏(CaSO・2HO)のピークが検出されるようになった。一方、図9に示されるように、水分含有率30質量%のものでは、亜硫酸半水石膏(CaSO:0.5HO)のピークは期間経過とともに小さくならずに、二水石膏(CaSO・2HO)のピークも検出されなかった。
【0099】
以上から、試験例1において、脱硫剤Bの水分含有率30質量%のものが水分含有率40質量%のものに比べて、土壌固化性能が高く、六価クロムの溶出低減効果が高いのは、脱硫剤の水分含有率が40質量%以上となると、脱硫剤B中の亜硫酸半水石膏(CaSO・0.5HO)が二水石膏(CaSO・2HO)に変化しやすく、試験に供試するまでに、土壌固化性能や六価クロムの溶出低減効果に有効に働く亜硫酸塩の量が、低下してしまうためであると考えられた。
【符号の説明】
【0100】
1…分級機、2…固気分離装置、3…含水処理装置、4…乾式脱硫装置、5…SO濃度測定装置、6…水分含有率測定装置、7…乾燥装置、10…キルン燃焼排ガス系、11…送気管、12…脱硫搭、13…圧送管、14…回収用固気分離装置、20…排ガス脱硫系、M1…脱硫剤、M1a…新たに供給される脱硫剤、M1b…再利用される脱硫剤、M2…使用された脱硫剤、M3…使用済み脱硫剤、M4…セメントクリンカ及び石膏を含む材料、M5…SO濃度により選別された脱硫剤、M6、M7…SO濃度及び含水率により選別された脱硫剤、M8…塩素バイパスダスト、G1…排ガス、G2…脱硫化された排ガス
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9