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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】工事用充填材
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20250411BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20250411BHJP
   C04B 18/10 20060101ALI20250411BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20250411BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20250411BHJP
   E21D 11/00 20060101ALI20250411BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/08 Z
C04B18/10 A
C09K17/10 P
E02D3/12 101
E21D11/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021012844
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2021120340
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2020013998
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591130319
【氏名又は名称】東京パワーテクノロジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520037234
【氏名又は名称】相双生コンクリート協同組合
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】山本 義昭
(72)【発明者】
【氏名】辻 光俊
(72)【発明者】
【氏名】太田 信孝
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英明
(72)【発明者】
【氏名】平野 義昭
(72)【発明者】
【氏名】桐生 有朋
(72)【発明者】
【氏名】亀井 達也
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/018033(WO,A1)
【文献】特開平04-182335(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0550268(KR,B1)
【文献】特開2006-160544(JP,A)
【文献】特開2006-69855(JP,A)
【文献】特開2013-79164(JP,A)
【文献】特開2003-49401(JP,A)
【文献】特開2018-150211(JP,A)
【文献】特開2014-132045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
E21D 11/00
C09K 17/10
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂、セメント及び水が混合されている土木・建築工事用の空洞充填用充填材であって前記セメントはポルトランドセメント及び/又は高炉セメントであり、以下の(1)、(2)及び(3)を満たす土木・建築工事用の空洞充填用充填材。
(1)前記クリンカアッシュ、前記フライアッシュ、前記砂及び前記セメントの合計含有量に対する前記水の含有量が20~30質量%である。
(2)前記クリンカアッシュ、前記フライアッシュ、前記砂及び前記セメントの合計含有量に対して、前記クリンカアッシュ及び前記砂の合計含有量が45~55質量%であり、前記クリンカアッシュ及び前記砂の合計含有量に対する前記クリンカアッシュの含有量が50~90質量%である。
(3)前記クリンカアッシュ、前記フライアッシュ、前記砂及び前記セメントの合計含有量に対して、前記フライアッシュ及び前記セメントの合計含有量が35~55質量%であり、前記フライアッシュ及び前記セメントの合計含有量に対する前記セメントの含有量が20~40質量%である。
【請求項2】
クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂、セメント及び水を混合して土木・建築工事用の空洞充填用充填材を製造する製造方法であって、前記セメントはポルトランドセメント及び/又は高炉セメントであり、前記クリンカアッシュ、前記フライアッシュ、前記砂、前記セメント及び前記水を以下の(a)、(b)及び(c)を満たす割合で混合する土木・建築工事用の空洞充填用充填材の製造方法。
(a)前記クリンカアッシュ、前記フライアッシュ、前記砂及び前記セメントの合計に対して前記水が20~30質量%である。
(b)前記クリンカアッシュ、前記フライアッシュ、前記砂及び前記セメントの合計に対して、前記クリンカアッシュ及び前記砂の合計が45~55質量%であり、前記クリンカアッシュ及び前記砂の合計に対して前記クリンカアッシュが50~90質量%である。
(c)前記クリンカアッシュ、前記フライアッシュ、前記砂及び前記セメントの合計に対して、前記フライアッシュ及び前記セメントの合計が35~55質量%であり、前記フライアッシュ及び前記セメントの合計に対して前記セメントが20~40質量%である。
【請求項3】
請求項1記載の土木・建築工事用の空洞充填用充填材を空洞に充填することを特徴とする充填工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂、セメント及び水を含む土木・建築工事用の充填材並びに前記充填材を使用する工法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木・建築工事において埋戻し、空洞部の充填、盛土等に用いる充填材としては、建設残土等に水、セメント等を混ぜて作る流動化処理土が知られている。流動化処理土は、都市部では専用の製造工場から出荷されよく利用されているが、非人口密集地では都市部ほどの需要がないため採算性が低く、また建設残土等の原材料の調達も難しい。そのため、製造工場が少なく調達が難しい状況となっている。また、充填材の材料として石炭灰であるフライアッシュを利用することが提案されている。フライアッシュは形状が球形の微粉であるため、フライアッシュを使用するとボールベアリング作用により流動性を高くすることができる。そこで、フライアッシュとセメントを混合した充填材が提案されている(特許文献1参照)。一方、石炭灰の1種であるもののクリンカアッシュは多孔質の粒子であり吸水性が高いため、充填材に使用すると流動性が低下し、流動性の低下を防ぐために練混ぜ水を増加させるとブリーディングが大きくなる。そのため、従来、クリンカアッシュは路盤材の材料としては使用されるが(特許文献2参照)、充填材の材料としてはほとんど使用されてこなかった。フライアッシュ、クリンカアッシュ及びセメントを使用した自硬性埋戻し材料が提案されているが(特許文献3参照)、この埋戻し材料は、単位体積重量が1.03t/mであることから分かるように、起泡剤を使用して起泡率を大きくすることによりブリーディングを抑制するものであり、このような起泡率の大きな材料(いわゆるエアモルタル)では、起泡の減少による材料沈下がおこる、水に対して脆弱であるため水中分離抵抗性が低く、地下水や滞留水のある空隙の充填は困難である等の問題があった。また、フライアッシュを使用した場合は、フライアッシュに含まれる土壌汚染対策法に規定された第二種特定有害物質(重金属やフッ素及びフッ素化合物等)が溶出するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-227199号公報
【文献】特開2003-49401号公報
【文献】特開平4-182335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、クリンカアッシュを使用しながら流動性が良く、ブリーディングが抑制された土木・建築工事用に適した充填材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、土木・建築工事用の充填材に石炭灰の1種であるクリンカアッシュを使用する検討を開始した。クリンカアッシュは、火力発電所の近辺において調達の容易な材料であるため、クリンカアッシュを充填材の材料に使用できれば、流動化処理土の調達が難しい地域でも土木・建築工事用の充填材を製造することができる。さらに、フライアッシュに比べて利用率が低いクリンカアッシュを利用できれば、石炭火力発電により発生する副生物の有効利用ができ、廃棄される量を減少できる。そこで、従来あまり使用されてこなかった充填材へクリンカアッシュを適用する検討を進めたところ、クリンカアッシュと砂を組み合わせることにより流動性がよくブリーディングが抑制された充填材が得られることを見いだした。
【0006】
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
(1)クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂、セメント及び水を含み、前記フライアッシュ及びセメントの合計含有量に対する前記水の含有量が150体積%以下である土木・建築工事用の充填材。
(2)クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂及びセメントの合計含有量に対して、前記クリンカアッシュ及び砂の合計含有量が45~65質量%であり、前記クリンカアッシュ及び砂の合計含有量に対する前記クリンカアッシュの含有量が50~90質量%であることを特徴とする上記(1)記載の充填材。
(3)クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂及びセメントの合計含有量に対して、前記フライアッシュ及びセメントの合計含有量が35~55質量%であり、前記フライアッシュ及びセメントの合計含有量に対する前記セメントの含有量が20~40質量%であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の充填材。
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載の充填材を空洞に充填することを特徴とする充填工法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の充填材は、クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂、セメント及び水を含むことにより、クリンカアッシュを使用するにもかかわらず、流動性に優れ、ブリーディングの発生が抑制された土木・建築工事用に適した充填材となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の土木・建築工事用の充填材は、クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂、セメント及び水を含むことを特徴とする。クリンカアッシュは、石炭火力発電所でボイラ内に残った石炭灰がボイラ底部に落下したものを採取したものであり、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムを主成分とする。本発明におけるクリンカアッシュとしては、一般にクリンカアッシュといわれるものであれば特に制限されないが、例えば、粒径が0.1~30mmの範囲にあるものを挙げることができる。なかでも、粒径が0.1~5mmの範囲にあるものが好ましいため、粒径が5mm以下の粒子が80質量%以上である粒度分布を有するものが好ましい。ここで、粒径とはふるい分け法により測定される粒径であり、粒径が0.1~30mmの範囲にあるとは、30mmふるいを通過し0.1mmふるいを通過しないことをいう。粒径が5mm以下の粒子が80質量%以上とは、5mmふるいを通過する粒子が80質量%以上であることをいう。フライアッシュは、石炭火力発電所でボイラの排煙から集塵機で採取された石炭灰であり、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムを主成分とする。本発明におけるフライアッシュとしては、一般にフライアッシュといわれるものであれば特に制限されない。フライアッシュは、通常、粒度を調整したものが用いられることが多いが、本発明においてはボイラから発生したままのフライアッシュ原粉を用いることができ、JIS規格外品であっても用いることができる。また、粒度調整後のフライアッシュやJIS規格品を用いてもよい。比表面積は特に制限されず、例えば1200cm/g以上を挙げることができる。本発明における砂としては特に制限されず、例えば、山砂、陸砂、川砂、海砂、砕砂、再生砂等を挙げることができる。JISA5308で規定されたレディーミクストコンクリートに使用される砂を好適に例示することができる。粒径としては、コンクリート用骨材として細骨材に分類される10mm網ふるいを全部通り、5mm網ふるいを質量で85%以上通るものが好ましい。本発明におけるセメントとしては特に制限されず、例えば、各種のポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメント、各種の特殊セメントを挙げることができる。中でも高炉セメントが好ましい。本発明における土木・建築工事用の充填材とは、土木・建築工事において一定空間を埋めるために用いられるものであり、一般に充填材と呼ばれるものだけでなく、埋戻材、中詰材、裏込材、盛土材と呼ばれるもの等を含む。
【0009】
本発明の充填材は、充填材中のフライアッシュ及びセメントの合計含有量に対する水の含有量が150体積%以下であることを特徴とする。クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂及びセメントの中で相対的に粒径が小さい粉分であるフライアッシュ及びセメントに対する水の割合([水の体積/(フライアッシュの体積+セメントの体積)])を150体積%以下とすることにより、流動性をよくしながら、ブリーディングの発生を抑制することができる。[水の体積/(フライアッシュの体積+セメントの体積)]は100体積%以上であることが好ましい。また、クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂及びセメントの合計含有量に対する水の含有量は、20~30質量%であることが好ましい。本発明の充填材は、クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂、セメント及び水以外に他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、AE減水剤、高性能減水剤、AE減水剤高機能型等の混和剤、ドロマイト、石粉、再生砕石、IGCCスラグなどを挙げることができる。これら他の成分の添加量は、特に制限されないが、前記混和剤の添加量は、充填材中のフライアッシュ及びセメントの合計含有量に対して0.5~2.0質量%が好ましい。
【0010】
従来、クリンカアッシュは流動性の向上とブリーディングの抑制を両立させることが難しい材料であるため、土木・建築工事用の充填材用の材料としては使用されてこなかった。しかし、フライアッシュ、セメント及び水と共にクリンカアッシュと砂を組み合わせて用いることにより、本発明の充填材は、流動性とブリーディング特性に優れる。本発明の充填材は、クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂、セメント及び水を含み、充填材中のクリンカアッシュ、フライアッシュ、砂及びセメントの合計含有量に対して、クリンカアッシュ及び砂の合計含有量が45~65質量%であり、クリンカアッシュ及び砂の合計含有量に対するクリンカアッシュの含有量が50~90質量%であることが好ましい。本発明においては、クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂及びセメントの合計含有量に対するクリンカアッシュ及び砂の合計含有量[(クリンカアッシュの含有量+砂の含有量)/(クリンカアッシュの含有量+フライアッシュの含有量+砂の含有量+セメントの含有量)]と、クリンカアッシュ及び砂の合計含有量に対するクリンカアッシュの含有量[クリンカアッシュの含有量/(クリンカアッシュの含有量+砂の含有量)]が前記範囲にありクリンカアッシュの含有量が多くても、流動性をよくし、ブリーディングの発生を抑制することができる。クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂及びセメントの合計含有量に対するクリンカアッシュ及び砂の合計含有量は、45~55質量%がより好ましく、48~52質量%が更に好ましい。また、クリンカアッシュ及び砂の合計含有量に対するクリンカアッシュの含有量は、60~85質量%がより好ましく、70~85質量%が更に好ましい。本発明においては、砂を含むことによりブリーディングを抑制するので、クリンカアッシュ及び砂の含有量が前記範囲にあると、流動性を向上させつつ、ブリーディングの発生を抑制する効果がより向上する。また、クリンカアッシュは重金属等の有害物質をあまり含まないため、重金属等の有害物質の溶出を低減することもできる。また、天然資源である砂は調達が制限されるのに対し、クリンカアッシュは石炭火力発電により発生する副生物であり、その有効利用は廃棄物の減少、資源の有効利用になる。
【0011】
本発明の充填材は、充填材中のクリンカアッシュ、フライアッシュ、砂及びセメントの合計含有量に対して、フライアッシュ及びセメントの合計含有量が35~55質量%であり、フライアッシュ及びセメントの合計含有量に対するセメントの含有量が20~40質量%であることが好ましい。フライアッシュとセメントは、本発明の充填材の成分の中で、細粒分にあたりバインダーとしての機能を有することから、流動性を確保しながらブリーディングを抑制するために、クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂及びセメントの合計含有量に対するフライアッシュ及びセメントの合計含有量[(フライアッシュの含有量+セメントの含有量)/(クリンカアッシュの含有量+フライアッシュの含有量+砂の含有量+セメントの含有量)]と、フライアッシュ及びセメントの合計含有量に対するセメントの含有量[セメントの含有量/(フライアッシュの含有量+セメントの含有量)]が前記範囲にあることが好ましい。また、セメントの含有量は130kg/m以上であることが好ましい。クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂及びセメントの合計含有量に対するフライアッシュ及びセメントの合計含有量は、45~55質量%がより好ましく、48~52質量%が更に好ましい。フライアッシュ及びセメントの合計含有量に対するセメントの含有量は、20~30質量%がより好ましい。
【0012】
本発明の充填材は、クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂、セメント及び水を含み、フライアッシュ及びセメントの合計含有量に対する水の含有量が150体積%以下であることにより、フロー値が150mm以上、180mm以上又は200mm以上といった優れた流動性を有しながら、ブリーディングを3%以下に抑制できる。本発明の充填材は、クリンカアッシュ、フライアッシュ、砂、セメント及び水を、混合するフライアッシュとセメントの合計体積に対して水の体積が150体積%以下となるように前記5成分を混合することにより製造することができる。また、本発明の好ましい形態の充填材は、さらに前記5成分を上記段落[0009]~[0011]に記載した割合で混合することにより製造することができる。所定の割合で混合することにより製造することができ、混合する方法は特に制限されず、例えば、既存の混合方法を適宜使用することができる。本発明の充填工法は、土木・建築工事の分野において、地中の空洞等を本発明の充填材で充填することを特徴とし、例えば、既存の充填工法において、使用する充填材を本発明の充填材に代えることにより本発明の充填工法とすることができる。
【実施例
【0013】
[実施例1~3]
表1の質量配合割合で実施例1~3の充填材を作製した。まず、18Lのペール缶にクリンカアッシュ、セメント、フライアッシュ及び砂を投入し、ハンドミキサで空練りを15秒間行った。次に、予め混合した水と混和剤を投入し、ハンドミキサで180秒間練り混ぜてスラリー状の充填材を得た。クリンカアッシュとしては粒径が5mm以下の粒子が80質量%以上であるものを使用し、フライアッシュとしてはフライアッシュ原粉を使用した。セメントとしては実施例1で普通ポルトランドセメントを実施例2と3で高炉セメントB種を使用し、砂としてはコンクリートに用いられる山砂でJIS規格を満足するものを使用した。混和剤としてはJISA6204規格品の減水剤を使用し、実施例3ではチューポール(登録商標)EX60(竹本油脂(株))、それ以外の実施例ではフローリック(登録商標)SV10((株)フローリック)を使用した。また、表1の配合割合を比重により換算して求めたフライアッシュとセメントの合計体積に対する水の体積は、実施例1で147.8%、実施例2で127.0%、実施例3で136.1%であった。得られた充填材の特性を以下の方法により測定した。測定結果を表1に示す。なお、ブリーディングについては3%超5%以下のものを「悪い」、5%を超えるものを「極めて悪い」とした。
(フロー値) 「エアモルタル及びエアミルクの試験方法」(φ80×h180mmシリンダ法 JHS A 313-1992)
(ブリーディング) 土木学会基準「プレパックドコンクリートの注入モルタルのブリーディング率及び膨張率試験方法」(JSCE-F522)
(セレンの溶出) 平成3年環境庁告示46号の方法で検液を作成し、JIS K 0102.67.4の方法で分析した。フライアッシュ原粉の溶出量に対する得られた充填材の溶出量の比率(充填材の溶出量/フライアッシュ原粉の溶出量)をセレン溶出率(%)とした。
(フッ素及びフッ素化合物の溶出) フライアッシュ原粉の溶出量の測定は、吸光光度法(JIS K 0102.34.1)で行い、得られた充填材の溶出量の測定はイオンクロマトグラフ法(昭和46年 環境庁告示第59号 付表7)で行った。
【0014】
【表1】
【0015】
[比較例1~4]
表2の質量配合割合で実施例と同様に充填材を作製し、特性の評価を行った。減水剤については、比較例4ではチューポールEX60(竹本油脂(株))、それ以外の比較例ではフローリックSV10((株)フローリック)を使用した。実施例と同様に求めた配合したフライアッシュとセメントの合計体積に対する水の体積は、比較例1で218.3%、比較例2で147.8%、比較例3で155.7%、比較例4で160.9%であった。測定結果を表2に示す。なお、ブリーディングについては3%超5%以下のものを「悪い」、5%を超えるものを「極めて悪い」とした。
【0016】
【表2】
【0017】
実施例では、フロー値181mm以上、ブリーディング3%以下の、流動性及びブリーディング抑制効果共に優れた充填材が得られた。一方、砂を使用しなかった比較例1及び2は、ブリーディングが5%を超え固形分と水の分離が大きかった。比較例1は、クリンカアッシュの吸水性が高いため、流動性を良くするためには水を多く添加する必要があり、その結果ブリーディングが大きくなっている。また、比較例2は、水の添加量を少なくしたにもかかわらずブリーディング特性はそれほど向上せず、フロー値は169mmと低くなった。また、比較例3及び4は、フライアッシュとセメントの合計体積に対する水の体積が150%を超えていたため、流動性は向上したがブリーディングが5%を超え固形分と水の分離が大きくなった。
【0018】
表3の質量配合割合で実施例と同様に充填材を作製した(減水剤はフローリックSV10((株)フローリック)を使用)。フライアッシュ由来の重金属等については、土壌汚染対策法に規定された第二種特定有害物質が対象となる。その中でもセレンやフッ素及びフッ素化合物が溶出基準を上回る可能性が高いので、クリンカアッシュがセレン並びにフッ素及びフッ素化合物の溶出量に与える影響を測定した。実施例2及び参考例1で得られた充填材のセレン溶出率を測定したところ、クリンカアッシュを含まずフライアッシュを使用した参考例1でのセレン溶出率は10.5%であったのに対し、クリンカアッシュを含む実施例2でのセレン溶出率は9.5%であり、セレン溶出率が改善していた。また、クリンカアッシュがフッ素及びフッ素化合物の溶出量に与える影響をよりよく示すために、フライアッシュとセメントに加えてクリンカアッシュを含む場合と、クリンカアッシュを含まずにフライアッシュとセメントに加えて砂を含む場合のフッ素及びフッ素化合物の溶出量を示す。クリンカアッシュを含まない参考例2でのフッ素及びフッ素化合物の溶出量が0.83mg/Lであったのに対し、クリンカアッシュを含む比較例2でのフッ素及びフッ素化合物の溶出量は0.77mg/Lであり環境基準値の0.8mg/L以下の値となった。このことからクリンカアッシュがフッ素及びフッ素化合物の溶出量を低減させることが分かり、本発明の充填材においてもクリンカアッシュの効果が得られる。このように、フライアッシュに有害物質をあまり含まず、pHが高いクリンカアッシュを組み合わせることにより、フライアッシュからの重金属やフッ素及びフッ素化合物(第二種特定有害物質)の溶出を抑制し、溶出量を低減することも可能である。これは、これらの有害物質はセメントで固定化されるが、クリンカアッシュの作用により固定化される量が増加するためと考えられる。
【0019】
【表3】
【0020】
[実施例4]
表4の質量配合割合で実施例1~3と同じ方法により実施例4の充填材を作製した。クリンカアッシュ、フライアッシュ及び砂は、実施例1~3と同じものを使用した。セメントとしては高炉セメントB種を使用し、混和剤としてはJISA6204規格品の減水剤であるチューポール(登録商標)EX60(竹本油脂(株))を使用した。表4の配合割合を比重により換算して求めたフライアッシュとセメントの合計体積に対する水の体積は、127.0%であった。得られた充填材の加圧時のブリーディング特性を以下の方法により測定した。
(加圧ブリーディング試験)
加圧用の容器(筑波丸東、内径125mm、高さ200mm)に実施例4で作製した充填材を高さ170mmまで入れて、油圧ジャッキを用いて容器内部の圧力が0.14MPaになるように加圧し、この加圧状態を非排水条件にて5分間維持した後、上記ブリーディング試験と同様にしてブリーディングを測定した。
【0021】
加圧ブリーディング試験の結果、加圧した試料のブリーディング率は2.0%であった。一方、実施例4で作製した充填材の加圧しない状態でのブリーディング率は2.5%であり、加圧によりブリーディング率が0.5%下がった。加圧した試料のブリーディング率をBrp、加圧しない試料のブリーディング率をBrとすると、ブリーディング発生率BroをBrp/Br×100(%)で表すことができる。上記加圧試験結果ではブリーディング発生率(Bro)が80%であった。充填材を打設すると、充填材自体の重量により充填材に圧力が加わる。上記加圧試験で加えた圧力(0.14MPa)は、充填材を打設したときの打設深さ0.809mの地点の圧力に相当する。深さ0mの地点、すなわち打設表面では、加圧されないのでBrpとBrは等しくなり、Broは100%となる。通常の充填材では、加圧してもブリーディング率はそれほど変化しない。これに対し本発明の充填材は、多孔質粒子であるクリンカアッシュを含むため、加圧により水が粒子の孔内に取り込まれることによりブリーディング率が低下するものと推測される。本発明の充填材は、ブリーディングの発生を抑制できるものであり、打設リフト(打設厚み)が厚い場合にもブリーディングの発生を抑制でき、打設リフトを厚くするとブリーディング率が低下するので、発泡剤、膨張剤等の特殊な添加剤を用いることなく、トンネル等の天井のある空洞の充填施工に好適に使用できる。例えば、深さ0mでBroが100%、深さ0.809mでBroが80%のデータから深さとBroの関係式を導き計算すると深さが2.1mに達するとBroが50%に低下する。したがって、打設リフトを4.2mとした場合、全体のブリーディング発生量を50%低減させることが可能となる。
(加圧圧力に相当する打設深さの算出)
H=p/ρg=0.809m
Hは圧力水頭、pは圧力(0.14MPa=0.14×10N/m)、ρは充填材の単位体積重量(1.76tf/m=1.76×10N/m)、g=9.81
【0022】
[実施例5]
表2の質量配合割合で実施例1~3と同じ方法により実施例5の充填材を作製した。クリンカアッシュ、フライアッシュ及び砂は、実施例1~3と同じものを使用した。セメントとしては高炉セメントB種を使用し、混和剤としてはJISA6204規格品の減水剤であるチューポール(登録商標)EX60(竹本油脂(株))を使用した。表4の配合割合を比重により換算して求めたフライアッシュとセメントの合計体積に対する水の体積は、130.3%であった。得られた充填材の水中打設時の特性を以下の方法により測定した。
(水中打設試験)
水中採取はサミット缶を使用し、サミット缶を水槽に冠水したうえでJSCE-F504-1990に準拠して行った。バケツ採取は、容量7Lのバケツ内にビニール袋を入れ、水を約2.8L(水深約10cm)満たしたところに水と同量の充填材を流し込んだ。
【0023】
水中採取により作製した供試体と、サミット缶を使用して気中採取により作製した供試体を用いて圧縮強度試験を行った。圧縮強度は、供試体3体の平均値とした。その結果、気中採取で9.24N/mm、水中採取で5.53N/mmの圧縮強度が得られた。この両圧縮強度は必要とされる圧縮強度4N/mm以上を満たすものであった。また、気中採取、水中採取及びバケツ採取で得たそれぞれの供試体を切り出し、溶出量試験を行った。その結果を表5に示す。気中採取、水中採取及びバケツ採取のいずれも、溶出量は土壌環境基準を下回っていた。このように本発明の充填材は、重金属等の溶出抑制を目的とする添加剤を使用しなくても、溶出量が土壌環境基準を下回るようにできる。なお、セレン並びにフッ素及びフッ素化合物については、段落0013記載の方法で測定を行い、クロム(VI)についてはJIS K 0102.65.2.1に、鉛についてはJIS K 0102.54.4に、ヒ素についてはJIS K 0102.61.4に、ほう素についてはJIS K 0102.47.4に、それぞれ準拠して測定を行った。表5中、「-」は定量下限値未満を示す。
【0024】
【表4】
【0025】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の充填材は、流動性に優れ、ブリーディングの発生が抑制されるため、埋戻材、中詰材、裏込材、盛土材を含む土木・建築工事用の充填材として好適に使用できる。