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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】パン生地用ミックス粉
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20250411BHJP
   A21D 2/36 20060101ALI20250411BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20250411BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20250411BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D2/36
A21D13/00
A21D10/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021037885
(22)【出願日】2021-03-10
(65)【公開番号】P2021087456
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浦上 淳一
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-254520(JP,A)
【文献】特開2015-195770(JP,A)
【文献】特開平10-295253(JP,A)
【文献】特開2015-165777(JP,A)
【文献】特開2012-100559(JP,A)
【文献】特開2002-345394(JP,A)
【文献】特開2010-154801(JP,A)
【文献】特開平05-292870(JP,A)
【文献】特開2009-273421(JP,A)
【文献】特開平10-150957(JP,A)
【文献】特表2007-506436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/18 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ヒドロキシプロピル化澱粉、
(B)α化澱粉、
(C)澱粉分解物、及び
(D)酸化澱粉を含むパン生地用ミックス粉であって、その配合量が以下の(a)及び(b)を満たすパン生地用ミックス粉:
(a) (A)>(B)>(C)>(D)、
(b) [(A)+(B)]:[(C)+(D)]=[2~10]:[1]。
【請求項2】
前記(A)が、ワキシータピオカ澱粉、ワキシーコーン澱粉及びワキシー馬鈴薯澱粉からなる群より選ばれる一以上を原料とするDS0.03~0.2 のヒドロキシプロピル化澱粉である、請求項1記載のパン生地用ミックス粉。
【請求項3】
前記(A)が、沈降積6.0~10.0のヒドロキシプロピル化澱粉である、請求項1又は2記載のパン生地用ミックス粉。
【請求項4】
前記(B)が、冷水膨潤度15~75のヒドロキシプロピル化架橋澱粉のα化品である、請求項1~3のいずれか一項に記載のパン生地用ミックス粉。
【請求項5】
前記(C)が、DE1~20の澱粉分解物である、請求項1~4のいずれか一項に記載のパン生地用ミックス粉。
【請求項6】
前記(D)が、30℃における20%(w/v)粘度が10~100mPa・sの酸化澱粉である、請求項1~5のいずれか一項に記載のパン生地用ミックス粉。
【請求項7】
前記(D)が、馬鈴薯澱粉を原料とする酸化澱粉である、請求項1~6のいずれか一項に記載のパン生地用ミックス粉。
【請求項8】
穀粉100質量部のうち2~30質量部の割合で使用される、請求項1~7のいずれか一項に記載のパン生地用ミックス粉。
【請求項9】
穀粉100質量部のうち、請求項1~8のいずれか一項に記載のパン生地用ミックス粉を2~30質量部の割合で含む、パン生地用ミックス粉。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のパン生地用ミックス粉を含んでなる、パン生地。
【請求項11】
請求項10記載のパン生地を焼成してなるパン類。
【請求項12】
穀粉100質量部のうち、請求項1~7のいずれか一項に記載のミックス粉を2~30質量部の割合で配合し、副原料を加えて混捏し、発酵工程及び焼成工程をとる、パン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン生地用ミックス粉、そのミックス粉を使用したパン生地、及びそのパン生地を焼成してなるパン類、並びにそのパン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類は、主成分が澱粉質であって、その水分含有率は、澱粉が老化しやすいとされる30~60%(w/w)の範囲にある。よって、焼成により一旦は糊化した澱粉質が経時的に老化しやすく、保存中にパサつくこととなる。そこで、これを改善しようと、これまでに種々の改良がされている。
【0003】
まず、老化によるパサつきを抑えるため、パン類の主原料である小麦粉の一部をα化澱粉に置き換える方法がよく知られている(例えば、特許文献1)。これは、α化澱粉をパン生地の原料として用いると加水量が多くなるため、保水性が向上してソフト感を維持できることに因るものである。しかし、α化澱粉をパン生地に多用すると、老化によるパサつきは抑えられるものの、パン生地製造工程中にベタつきが生じて作業性が悪くなることに加えて、焼成してなるパン類の食感はクチャついて口どけが悪くなる。そこで、これを改善するため、架橋処理により膨潤しにくくした澱粉をα化して用いること(例えば、特許文献2)や、澱粉グルコース残基の水酸基をプロピレンオキサイド又は酢酸で予め置換することにより老化耐性を付与したヒドロキシプロピル澱粉又はアセチル化澱粉を用いることが提案されている(例えば、特許文献3)。また、これらα化澱粉とヒドロキシプロピル澱粉若しくはアセチル化澱粉をあえて組み合わせて、パン類に餅様のもちもち食感を付与することも提案されている(特許文献4)。
【0004】
しかし、上述したα化澱粉や置換型加工澱粉を小麦粉に一部代替して焼成されたパン類は、ソフト感は維持できるもののクチャついた食感がどうしても排除できないという難点があった。そこで、ソフト感に加えて歯切れ感を両立させようと、酸化澱粉(特許文献6)、デキストリン類(特許文献7)の利用が提案されている。
【0005】
しかし、酸化澱粉やデキストリンは、澱粉が一部分解されて低分子化されたものであるため、α化澱粉や置換型加工澱粉を用いたときのようなクチャついた食感を付与せず、歯切れのよいパン類を提供できるものの、今度は、経時的な老化によるパサつき防止効果が十分に得られないとう不具合があり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭59-175845号公報
【文献】特開平4-91744号公報
【文献】特開平3-87135号公報
【文献】特開平10-295253号公報
【文献】特開2005-52014号公報
【文献】特開2009-273421号公報
【文献】特開平5-292870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、経時安定性及び食感が改良されたパン類を提供すること、及びそのパン類を提供するためのパン生地若しくはパン生地用ミックス粉を提供すること、並びにそのパン類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく種々検討したところ、特定の種類のヒドロキシプロピル化澱粉、α化澱粉、酸化澱粉及び澱粉分解物を特定の割合で配合したミックス粉を利用することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、主に4つの発明からなり、第一の発明は、以下[1]~[9]のパン生地用ミックス粉である。
[1](A)ヒドロキシプロピル化澱粉、(B)α化澱粉、(C)澱粉分解物、及び(D)酸化澱粉を含むパン生地用ミックス粉であって、その配合量が以下の(a)及び(b)を満たすパン生地用ミックス粉:
(a) (A)>(B)>(C)>(D)、
(b) [(A)+(B)]:[(C)+(D)]=[2~10]:[1]。
[2]前記(A)が、ワキシータピオカ澱粉、ワキシーコーン澱粉及びワキシー馬鈴薯澱粉からなる群より選ばれる一以上を原料とするDS0.03~0.2のヒドロキシプロピル化澱粉である、上記[1]記載のパン生地用ミックス粉。
[3]前記(A)が、沈降積6.0~10.0のヒドロキシプロピル化澱粉である、上記[1]又は[2]記載のパン生地用ミックス粉。
[4]前記(B)が、冷水膨潤度15~75のヒドロキシプロピル化架橋澱粉のα化品である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のパン生地用ミックス粉。
[5]前記(C)が、DE1~20の澱粉分解物である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のパン生地用ミックス粉。
[6]前記(D)が、30℃における20%(w/v)粘度が10~100mPa・sの酸化澱粉である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のパン生地用ミックス粉。
[7]前記(D)が、馬鈴薯澱粉を原料とする酸化澱粉である、上記[1]~[6]のいずれかに記載のパン生地用ミックス粉。
[8]穀粉100質量部のうち2~30質量部の割合で使用される、上記[1]~[7]のいずれかに記載のパン生地用ミックス粉。
[9]穀粉100質量部のうち、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載のパン生地用ミックス粉を2~30質量部の割合で含む、パン生地用ミックス粉。
【0010】
第二の発明は、第一の発明であるパン生地用ミックス粉を使用した、以下[10]のパン生地である。
[10]上記[1]~[9]のいずれか一項に記載のパン生地用ミックス粉を含んでなる、パン生地。
【0011】
第三の発明は、第二の発明であるパン生地を焼成してなる、以下[11]のパン類である。
[11]上記[10]のパン生地を焼成してなるパン類。
【0012】
第四の発明は、以下[12]の、第三の発明のパン類を製造する方法である。
[12]穀粉100質量部のうち、上記[1]~[7]のいずれかに記載のミックス粉を2~30質量部の割合で配合し、副原料を加えて混捏し、発酵工程及び焼成工程をとる、パン類の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、経時安定性及び食感が改良されたパン類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ヒドロキシプロピル化澱粉とは、一般に、澱粉にプロピレンオキサイドを定法により作用させて得られる水酸基置換型加工澱粉をいい、本発明においては、とくに断りのない限り、当該ヒドロキシプロピル化の反応と同時又は異時に架橋化剤のトリメタリン酸ナトリウムやオキシ塩化リンなどを定法により作用させて得られるヒドロキシプロピル化架橋澱粉を含む。本発明において用いるヒドロキシプロピル化澱粉は、米澱粉、コーン澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、エンドウ豆澱粉、小麦澱粉及びこれらのワキシー種の澱粉など、いずれの澱粉を原料として得られるものでも構わないが、ワキシーコーン、ワキシータピオカ、ワキシー馬鈴薯の澱粉を原料とすることがより好ましい。また、上記の置換度や架橋度はとくに限定されるものではないが、本発明の効果をより効率的に得る観点から、置換度(澱粉を構成するグルコース残基の3つのフリーの水酸基すべてが置換されたときの置換度を3とする)にあっては、0.03~0.2の範囲にあるものが好ましく、0.07~0.18、さらには0.09~0.18の範囲にあるものがより好ましい。また、ヒドロキシプロピル化の置換に加えて架橋化された澱粉を用いる場合、その架橋程度は低度であることが好ましく、ヒドロキシプロピル化架橋澱粉としての沈降積でいえば、6.0~10mlであることが好ましく、8.0~10ml、さらには9.0~10mlのものがより好ましい。
【0015】
本発明にいう沈降積は、よく知られる一般的な分析項目であるが、測定方法は以下である。まず、澱粉試料0.15g(固形分換算)を試験管に計量し、あらかじめ調整しておいた試薬(塩化アンモニウム26質量%、塩化亜鉛10質量%、水64質量%により調整)15mlを注ぎ込む。次に、卓上バイブレーターを用いて、試験管中の澱粉試料中の澱粉資料を均一に分散させ、直ちに沸騰浴中に固定して10分間加熱後、25~35℃まで冷却する。この試験管中の澱粉試料を、卓上バイブレーターを用いて再度分散させ、10ml容量メスシリンダーの10mlの目盛りまで流し込み、25℃にて20時間静置後、沈降物の目盛りを読み取り、この値を沈降積とする。なお、沈降積の値は、架橋度の高い澱粉(高架橋澱粉)ほど小さくなる。
【0016】
α化澱粉とは、一般的に、澱粉に水分を含有させて加熱糊化したものをいい、α化澱粉として一般に流通するものは、これをさらに乾燥させたものである。α化澱粉は、水などの液体に分散させると水分を吸収して再度糊化するため、インスタント澱粉ともよばれ、粘度付与目的でインスタントスープやインスタントドリンクなどによく用いられる。本発明で用いるα化澱粉は、その原料種及び加工程度に制限はないものの、本発明の効果をより効率的に得る観点から、未加工澱粉よりも架橋された加工澱粉を原料とすることが好ましく、また、架橋澱粉のなかでもヒドロキシプロピル化された架橋澱粉がより好ましい。そして、その冷水膨潤度は、15~75mlが好ましく、20~75mlであることがより好ましい。
【0017】
ここで、α化澱粉の冷水膨潤度の測定方法は、以下である。まず、澱粉試料2.0g(固形分換算)を水50mlに均一に分散させ、この懸濁液を100mlメスシリンダーに入れて水で100mlに調整し、24時間静置する。その後、白濁層の容量(ml)を測定し、その値を冷水膨潤度(ml)とする。架橋の度合いが高いほうが膨潤度は小さくなる。
【0018】
澱粉分解物は、デキストリンともよばれ、澱粉をα-アミラーゼなどの酵素若しくは塩酸などの酸によって加水分解して得られる。本発明で使用する澱粉分解物の原料に制限はないが、少なくともタピオカ澱粉、コーン澱粉、ワキシーコーン澱粉及び甘藷澱粉のいずれかを原料とするのがよく、その分解度にも制限はないものの、DE(Dextrose Equivalentの略。澱粉すべてがグルコース単位まで分解されたときのDEを100とする。)が1~20であればよく、2~18、さらには4~16であることがより好ましい。ここでいうDEは、ウィルシュテッターシューデル法による測定値である。
【0019】
酸化澱粉とは、一般に、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を定法により澱粉に作用させて得られる加工澱粉をいい、酸化剤によって分子内にカルボキシル基とカルボニル基が生成するとともに分子が解重合しているものと推察される。本発明で用いる酸化澱粉は、とくに限定されるものではないが、本発明の効果をより効率的に得る観点からは、比較的高度に酸化されたものが好ましく、30℃における20%(w/v)粘度でいえば、B型粘度計(BM型、ローターNo.1、60rpm、30秒)で測定したときに、10~500mPa・s、より好ましくは10~100mPa・s、さらに好ましくは10~40mPa・sである。また、本発明で使用する酸化澱粉にあっては、その原料澱粉種に制限はないが、本発明の効果をより効率的に得る観点から、馬鈴薯澱粉、ワキシーコーン澱粉及びタピオカ澱粉からなる群より選ばれる一種以上であることが好ましく、馬鈴薯澱粉であることがより好ましい。
【0020】
本発明のパン生地用ミックス粉は、上述のヒドロキシプロピル化澱粉、α化澱粉、酸化澱粉、及び澱粉分解物を必須成分とする組成物である。但し、α化澱粉を多用すると得られるパン類の食感はソフトではあるがクチャつき感が強くなり、そうかといってα化澱粉の使用量が不足すると老化耐性が十分とはならない。また、これをヒドロキシプロピル化澱粉で代替しようとしても、老化耐性の観点から完全には代替できない。よって、この両者は必須成分とはなるが、α化澱粉の量がヒドロキシプロピル化澱粉の使用量を越えてはならないことが一条件となることがわかった。また、この両者を併用すると、クチャつき感をある程度改善できるものの、老化耐性との両立は依然難しく、そこで、極力クチャつき感を排除しつつ、老化耐性の向上を検討したところ、澱粉分解物をある一定量で併用すると老化耐性の向上がみられることもわかった。もっとも、澱粉分解物を一定量以上併用すると、製パン時にベタついて作業性が悪くなることに加えて食感が悪くなるため多用はできず、α化澱粉の使用量を越えてはならないことがさらに一条件となることがわかった。そして、ヒドロキシプロピル化澱粉、α化澱粉、澱粉分解物のほか、酸化澱粉の使用についても比較検討したところ、酸化澱粉のみでソフト感を維持することは難しいものの、小麦粉に代替する澱粉の一部としてこれを少量使用することで、食感と老化耐性が格段に改善されることがわかった。もっとも、酸化澱粉の使用量が澱粉分解物の使用量を上回ると食感が悪くなることもわかった。よって、これら4つの必須成分の使用量は、ヒドロキシプロピル化澱粉>α化澱粉>澱粉分解物>酸化澱粉の順に設定することが理想的といえる。
【0021】
また、この(A)ヒドロキシプロピル化澱粉、(B)α化澱粉、(C)澱粉分解物、及び(D)澱粉分解物の組成比については、上記の使用量の条件を満たした上で、さらに、少なくとも[A+B]:[C+D]=[2~10]:[1]質量部の範囲にあることを要する。
【0022】
本発明のパン生地用ミックス粉は、最終的にはパン類を製造するためのものであるから、混捏時にグルテン膜を形成する小麦粉をはじめとする穀粉とともに使用することとなる。この小麦粉などの穀粉は、パン類の製造時に製造者が好みのものを選択し、本発明のパン生地用ミックス粉に混合して使用するのでもよいし、上述した澱粉群からなるパン生地用ミックス粉と予め混合しておき、小麦粉など穀粉を含有するパン生地用ミックス粉として使用するのでもよい。なお、本発明のパン生地用ミックス粉は、穀粉100質量部のうち2~30質量部の割合で置き換えて使用することが望ましい。
【0023】
上記の小麦粉などの穀粉は、通常のパン類の製造に使用されているものであればよく、全粒粉、ライ麦粉、コーンフラワー、グラハムフラワー、米粉、澱粉、大麦、アマランサス、キヌアなどを併用・置換等することもできるが、製パン性の観点から、いわゆる小麦粉を主体とするのが望ましく、その置換率は小麦粉の30%(w/w)以下、好ましくは5~10%(w/w)程度とするのがよい。なお、本発明にいう「穀粉」には、本発明の必須成分であるヒドロキシプロピル化澱粉、α化澱粉及び酸化澱粉以外の澱粉も含まれる。
【0024】
本発明のパン生地は、上述の本発明のパン生地用ミックス粉に水をはじめとする副原料を加えて混捏し、発酵工程を経て得られる。ここで、副原料とは、一般に、パン類を製造するにあたり、原料として加えられうるものすべてを指し、例えば、水、牛乳、卵、バター、マーガリン、ショートニング、オリーブオイル、ラード、加工油脂、砂糖、黒糖、グルコース、オリゴ糖、異性化糖、水飴、はちみつ、糖アルコール、脱脂粉乳、全乳粉、塩、イースト、乳化剤、食物繊維、グルテン、香辛料、着色料、イーストフード、増粘剤、カカオ、チーズ、木の実、ハーブ、フルーツ、抹茶、紅茶、ココアなどが挙げられる。
【0025】
本発明のパン類は、上述のパン生地を焼成してなるものであって、そのパン類の種類はとくに問わず、食パン類、フランスパン、バンズ、テーブルロール、クロワッサン、デニッシュ、あんぱん、クリームパン、イーストドーナツなど、イーストによる発酵工程と焼成を経てなるパン類であればいずれでもよいが、本発明の効果が効率的に発揮されるパン類の形態は、食パン類である。特に、食パンは、スライスして具材を挟んだサンドイッチとした場合に、家庭や店舗において冷蔵状態で保存・陳列されることが多いため、そのようなチルド状態で長時間保存されるパン類において、本発明の効果はより発揮される。
【実施例
【0026】
以下、実験例を提示して本発明を詳細かつ具体的に説明するが、本発明は、これら実験例に限定されるものではない。
【0027】
[表1]の食パンの基本配合における小麦粉の一部を、(A)ヒドロキシプロピル化澱粉、(B)α化澱粉、(C)澱粉分解物、及び(D)酸化澱粉のうちの一以上(以下、「澱粉等」という。)に置換し、[表2]の手順に沿って食パンを作製した。製パン適性の評価は、日々パンの製造に携わる当業者4名により行い、口どけの評価は、焼き上がり24時間後(室温)の食パンについて、よく訓練されたパネラー10名が試食することにより行った。また、老化耐性(しっとり感の持続)の評価は、焼き上がり24時間後に加えて48時間後(室温)の食パンについて、よく訓練されたパネラー10名が試食することにより行った。官能評価は、[表3]及び[表4]に示す評価基準に従い5段階の点数付け(点数が大きいほど好ましい)で各パネラーが行い、10名の平均値を用いた。また、製パン適性については、製造者4名全員の一致により有無を決定した(表5)。総合評価は、各項目の評価結果を用い、[表6]の基準に従ったランク付け(◎〇△×)により行った。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
【表6】
【0034】
以降の実験で用いる酸化澱粉No.1~4は、以下のとおり調製した。まず、水130部に澱粉100部を分散させたスラリーをpH7~8に調整し、次亜塩素酸ソーダを必要量(2~4%)加えて35℃で反応を開始する。所望する粘度となった時点(1~8時間程度)で、硫酸で中和して反応を止め、水洗、脱水、乾燥して酸化澱粉No.1~4得た。
【0035】
以降の実験で用いるヒドロキシプロピル化澱粉(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)No.1~4は、以下のとおり調製した。まず、水130部に硫酸ナトリウム10部と澱粉100部を分散させたスラリーをpH11~12に調整し、酸化プロピレンを必要量(6~10%)加え、40℃で20時間反応させる。次に、トリメタリン酸ナトリウムを必要量(0.02%~1%)加え、40℃で5時間反応させる。反応後のスラリーを硫酸で中和し、水洗、脱水、乾燥してヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉No.1~4を得た。
【0036】
以降の実験で用いるα化澱粉No.1~4は、以下のとおり調製した。まず、水130部に硫酸ナトリウム10部と澱粉100部を分散させたスラリーをpH11~12に調整し、プロピレンオキサイドを必要量(8~10%)加え40℃で20時間反応させる。次に、オキシ塩化リンを必要量(0.04~0.1%)加え、40℃で1時間反応させる。反応後のスラリーを硫酸で中和・水洗してヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を得て、その水懸濁液をα化(ドラムドライ)し、α化澱粉No.1~4を得た。
【0037】
【表7】
【0038】
上記[表7]のとおり、α化澱粉の使用量がヒドロキシプロピル化澱粉の使用量より多い場合、焼成されたパンのしっとり感が長時間持続する(老化耐性がある)が、製パン時の適性が悪化した(生地が扱いづらくなった)。そこで、別の配合を検討することとした。
【0039】
【表8】
【0040】
[表8]のとおり、ヒドロキシプロピル化澱粉とα化澱粉の組合せでは十分なしっとり感、老化耐性が得られなかった。そこで、澱粉分解物の併用を検討したところ、口どけ及びしっとり感、老化耐性は向上する傾向にあったが、その使用量がα澱粉の使用量を超えると、製パン適性が極端に悪化した。そこで、さらに別の配合を検討することとした。
【0041】
【表9】
【0042】
上記[表9]のとおり、澱粉分解物の替わりに酸化澱粉の併用を検討したところ、酸化澱粉のみの併用では劇的な効果の向上はみられず、添加量を増やすとむしろ老化耐性が悪化した。しかし、澱粉分解物とともに併用すると、各段に口どけと老化耐性が向上した。もっとも、酸化澱粉の使用量が澱粉分解物の使用量を超えると、老化耐性が悪化した。具体的には、当該4成分を必須成分とし、澱粉分解物と酸化澱粉の合計を1としたときに、ヒドロキシプロピル化澱粉とα化澱粉の合計が2~10となる範囲で使用するのが望ましいことがわかった。
【0043】
【表10】
【0044】
上記[表10]のとおり、小麦粉100質量部における4成分の適切な置換割合を検討したところ、小麦粉100質量部のうち31.5質量部で置き換えると評価が悪くなったため、小麦粉100質量部のうち30質量部までの置き換えを目安とするのが望ましいことがわかった。
【0045】
【表11】
【0046】
上記[表11]のとおり、酸化澱粉の原料となる澱粉の種類について検討したところ、20%(w/w)溶液の粘度に大きく影響を受けている様子であり、1,000mPa・sを超える酸化澱粉では、想定した効果が十分には得られなかった。
【0047】
【表12】
【0048】
澱粉分解物として、上記[表12]のとおり、澱粉分解物の好ましいDEについて検討したところ、ほとんどの澱粉分解物で口どけ及び老化耐性が向上した。ただし、DEが25以上の澱粉分解物では、ほかの澱粉分解物と同じく口どけは非常に良好で、老化耐性についても一定の評価が得られたものの、製パン適性が好ましくなかった。
【0049】
【表13】
【0050】
上記[表13]のとおり、糯種タピオカ澱粉以外の澱粉を原料とするヒドロキシプロピル化澱粉の利用可能性について検討したところ、糯種タピオカ澱粉を用いたときとほぼ同様に、口どけ、しっとり感、製パン性ともに良好であり、利用できることがわかった。
【0051】
【表14】
【0052】
上記[表14]のとおり、馬鈴薯澱粉以外の澱粉を原料とするα化澱粉の利用可能性について検討したところ、馬鈴薯澱粉を用いたときとほぼ同様に、口どけ、しっとり感、製パン性ともに良好であり、利用できることがわかった。
【0053】
本発明の食パン(試験10の食パン)と、本発明のミックスを用いない食パンを作製し、それぞれ厚さ1cmにスライスしてレタスとハムを挟み、サンドイッチを作製した。両者を冷蔵庫(4℃)で24時間保存したところ、本発明の食パンを使用したサンドイッチのほうが、24時間後もしっとり感が失われておらず、口どけが良好であった。