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特許7664593企業の株式価値算定装置、株式価値算定方法及び株式価値算定プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】企業の株式価値算定装置、株式価値算定方法及び株式価値算定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 40/06 20120101AFI20250411BHJP
【FI】
G06Q40/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024018203
(22)【出願日】2024-02-08
【審査請求日】2024-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】518173849
【氏名又は名称】株式会社デジタルキューブ
(74)【代理人】
【識別番号】110003627
【氏名又は名称】Authense弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】和田 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】石澤 直人
【審査官】佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第1749474(KR,B1)
【文献】特開2009-116704(JP,A)
【文献】特開2018-037048(JP,A)
【文献】特開2001-273407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未上場の評価対象企業の現在の株式価値を算定する株式価値算定装置(10、11)であって、
前記未上場の評価対象企業の財務データ、前記未上場の評価対象企業に類似する上場企業に関する類似企業情報及び算定指標データを含む財務関連情報をユーザー入力部(111)から取得する取得部(100)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、インカム・アプローチによって第1の株式価値を算定する第1算定部(101)と、
前記財務データ、前記類似企業情報及び前記算定指標データに基づいて、マーケット・アプローチによって第2の株式価値を算定する第2算定部(102)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、ネットアセット・アプローチによって第3の株式価値を算定する第3算定部(103)と、
前記第1の株式価値、前記第2の株式価値及び前記第3の株式価値に対して所定の折衷割合で加重平均し、加重平均された株式価値を算定する加重平均算定部(104)と、
前記第1の株式価値、前記第2の株式価値、前記第3の株式価値及び前記加重平均された株式価値を表示装置(112)へ出力する出力部(105)と、を備える、
株式価値算定装置(10、11)。
【請求項2】
前記財務データは、財務テンプレート(201)を用いてユーザーから提供され、
前記第1算定部(101)は、DCF法により前記第1の株式価値を算定する、
請求項1に記載の株式価値算定装置。
【請求項3】
前記第2算定部(102)は、類似企業財務データ取得部(301)と、株価情報取得部(302)と、を備え、
前記類似企業財務データ取得部(301)は、前記類似企業情報に基づいて、APIを使用して外部データベース(303)から類似企業の財務データを取得し、
前記株価情報取得部(302)は、前記類似企業情報に基づいて、株価データベース(304)から前記類似企業の株価情報を取得し、
前記第2算定部(102)は、前記類似企業の財務データ及び前記類似企業の株価情報を用いてマルチプル法により前記第2の株式価値を算定する、
請求項1に記載の株式価値算定装置。
【請求項4】
前記第3算定部(103)は、年買法により前記第3の株式価値を算定する、
請求項1に記載の株式価値算定装置。
【請求項5】
前記所定の折衷割合は、前記第1~第3の株式価値に関して1/3ずつである、
請求項1に記載の株式価値算定装置。
【請求項6】
少なくとも3つの評価アプローチを適用し、折衷法により加重平均を行うことによって未上場の評価対象企業の現在の株式価値を算定する株式価値算定方法であって、
取得部(100)において、前記未上場の評価対象企業の財務データ、前記未上場の評価対象企業に類似する上場企業に関する類似企業情報及び算定指標データを含む財務関連情報をユーザー入力部(111)から取得するステップ(S10)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、第1算定部(101)においてインカム・アプローチによって第1の株式価値を算定するステップ(S11)と、
前記財務データ、前記類似企業情報及び前記算定指標データに基づいて、第2算定部(102)においてマーケット・アプローチによって第2の株式価値を算定するステップ(S12)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、第3算定部(103)においてネットアセット・アプローチによって第3の株式価値を算定するステップ(S13)と、
加重平均算定部(104)において、前記第1算定部(101)で算定された前記第1の株式価値、前記第2算定部(102)で算定された前記第2の株式価値及び前記第3算定部(103)で算定された前記第3の株式価値に対して加重平均し、加重平均された株式価値を算定するステップ(S14)と、
前記第1算定部(101)で算定された前記第1の株式価値、前記第2算定部(102)で算定された前記第2の株式価値、前記第3算定部(103)で算定された前記第3の株式価値及び前記加重平均算定部(104)で算定された前記加重平均された株式価値を出力部(105)から表示装置(112)へ出力するステップ(S15)と、
を備える、株式価値算定方法。
【請求項7】
少なくとも3つの評価アプローチを適用し、折衷法により加重平均を行うことによって未上場の評価対象企業の現在の株式価値を算定する株式価値算定プログラムであって、
取得部(100)において、前記未上場の評価対象企業の財務データ、前記未上場の評価対象企業に類似する上場企業に関する類似企業情報及び算定指標データを含む財務関連情報をユーザー入力部(111)から取得するステップ(S10)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、第1算定部(101)においてインカム・アプローチによって第1の株式価値を算定するステップ(S11)と、
前記財務データ、前記類似企業情報及び前記算定指標データに基づいて、第2算定部(102)においてマーケット・アプローチによって第2の株式価値を算定するステップ(S12)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、第3算定部(103)においてネットアセット・アプローチによって第3の株式価値を算定するステップ(S13)と、
加重平均算定部(104)において、前記第1算定部(101)で算定された前記第1の株式価値、前記第2算定部(102)で算定された前記第2の株式価値及び前記第3算定部(103)で算定された前記第3の株式価値に対して加重平均し、加重平均された株式価値を算定するステップ(S14)と、
前記第1算定部(101)で算定された前記第1の株式価値、前記第2算定部(102)で算定された前記第2の株式価値、前記第3算定部(103)で算定された前記第3の株式価値及び前記加重平均算定部(104)で算定された前記加重平均された株式価値を出力部(105)から表示装置(112)へ出力するステップ(S15)と、
を備える、株式価値算定プログラム。
【請求項8】
未上場の評価対象企業の現在の株式価値を算定する株式価値算定装置であって、
プロセッサ(CPU)(1001)と、
前記プロセッサによって実行されると、当該株式価値算定装置に以下のステップを実行させる命令を保存する少なくとも1つのメモリ(1002)と、
を備え、前記命令は、
取得部(100)において、前記未上場の評価対象企業の財務データ、前記未上場の評価対象企業に類似する上場企業に関する類似企業情報及び算定指標データを含む財務関連情報をユーザー入力部(111)から取得するステップ(S10)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、第1算定部(101)においてインカム・アプローチによって第1の株式価値を算定するステップ(S11)と、
前記財務データ、前記類似企業情報及び前記算定指標データに基づいて、第2算定部(102)においてマーケット・アプローチによって第2の株式価値を算定するステップ(S12)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、第3算定部(103)においてネットアセット・アプローチによって第3の株式価値を算定するステップ(S13)と、
加重平均算定部(104)において、前記第1算定部(101)で算定された前記第1の株式価値、前記第2算定部(102)で算定された前記第2の株式価値及び前記第3算定部(103)で算定された前記第3の株式価値に対して加重平均し、加重平均された株式価値を算定するステップ(S14)と、
前記第1算定部(101)で算定された前記第1の株式価値、前記第2算定部(102)で算定された前記第2の株式価値、前記第3算定部(103)で算定された前記第3の株式価値及び前記加重平均算定部(104)で算定された前記加重平均された株式価値を出力部(105)から表示装置(112)へ出力するステップ(S15)と、
を備え、
前記第2の株式価値を算定するステップ(S12)において、
前記類似企業情報に基づいて、類似企業財務データ取得部(301)においてAPIを使用して外部データベース(303)から類似企業の財務データを取得するステップ(S201)と、
前記類似企業情報に基づいて、株価情報取得部(302)において株価データベース(304)から前記類似企業の株価情報を取得するステップ(S202)と、
前記第2算定部(102)において、さらに前記類似企業の財務データ及び前記類似企業の株価情報に基づいて、前記第2の株式価値を算定するステップ(S203)と、
を備える、
株式価値算定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、会計情報に基づいて、評価対象企業の株式価値を算定する株式価値算定装置、株式価値算定方法及び株式価値算定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、上場、未上場会社の株式価値の算定を行う際において、評価手法の多様化や類似会社や財務に関するパラメータの多様化等により、高度な専門知識が必要とされる。また、株式価値算定書の作成に際して、算定式数が数万以上必要となる場合があり、作成に多大な時間と労力を有し、誤入力等のリスクも高まる。
【0003】
また、株式価値の算定において、評価アプローチ及び評価法の選定や総合評価の方法の選定が重要となるが、評価アプローチの選定においては、評価の目的、評価対象会社を取り巻く環境、評価アプローチが持つ特徴、業種的な特性等に鑑みながら、適切と思われる評価アプローチ及び評価法を選定する必要があり、さらに高度な専門知識が必要となる。また、総合評価の方法の選定において、単独又は複数の評価法を採用する場合があるが、企業価値等の形成要因は、評価対象会社によって様々であり、評価法にはそれぞれ長所・短所がある。専門家によって、評価対象会社の価値形成要因が単純で、評価する方法として特定の評価法が適切であると判断された場合には、単独法が採用されるが、そうでないと判断した場合には、複数の評価法を採用し、併用法又は折衷法のいずれかで総合評価を行うことになる。
【0004】
しかしながら、中小企業やベンチャー企業にとって、株式価値の算定のために、コンサルティング会社、税理士、公認会計士等の専門家に相談することについて、費用や専門知識の観点から敷居が高い。そのため、専門家に相談する前の目安として、又は専門家の算定結果の妥当性を判断するための目安として、自社の株式価値を簡易に迅速に算定するニーズが存在している。
【0005】
このような問題に鑑みて、例えば特許文献1には、コンピュータにおいて財貨台帳データを用いて企業価値を算出する装置に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-37048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、データの入力に際して検討すべき項目が多岐に渡っており、さらに株式価値ではなく企業価値を算出するため、中小企業やベンチャー企業が自社の株式価値を簡易にかつ迅速に算定したいというニーズを依然として満たすことができない。
【0008】
また、株式価値の算定の信頼性を上げるため、価値算定の総合評価の方法として、複数の評価法を適用し、それぞれの評価結果に一定の折衷割合を適用して、加重平均値から評価結果を導く方法である折衷法を採用することが望ましいが、折衷割合の決定が重要となり、高度な専門知識が必要となる。そのため、中小企業やベンチャー企業が自社の株式価値を簡易にかつ迅速に算定する際に、折衷割合の決定及び微調整を容易にかつ迅速に行うことが困難である。
【0009】
そこで、本発明は、企業の株式価値の算定において、少なくとも3つの評価法を適用し、総合評価の方法として折衷法を適用した場合における、企業の株式価値算定の簡易化、迅速化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本開示の株式価値算定装置は、
財務データ、類似企業情報及び算定指標データを含む財務関連情報をユーザー入力部(111)から取得する取得部(100)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、インカム・アプローチによって第1の株式価値を算定する第1算定部(101)と、
前記財務データ、前記類似企業情報及び前記算定指標データに基づいて、マーケット・アプローチによって第2の株式価値を算定する第2算定部(102)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、ネットアセット・アプローチによって第3の株式価値を算定する第3算定部(103)と、
前記第1の株式価値、前記第2の株式価値及び前記第3の株式価値に対して所定の折衷割合で加重平均し、加重平均された株式価値を算定する加重平均算定部(104)と、
前記第1の株式価値、前記第2の株式価値、前記第3の株式価値及び前記加重平均された株式価値を表示装置(112)へ出力する出力部(105)と、を備える。
【0011】
また、さらに、本開示の株式価値算定方法は、
少なくとも3つの評価アプローチを適用し、折衷法により加重平均を行うことによって企業の株式価値を算定する株式価値算定方法であって、
取得部(100)において、財務データ、類似企業情報及び算定指標データを含む財務関連情報をユーザー入力部(111)から取得するステップ(S10)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、第1算定部(101)においてインカム・アプローチによって第1の株式価値を算定するステップ(S11)と、
前記財務データ、前記類似企業情報及び前記算定指標データに基づいて、第2算定部(102)においてマーケット・アプローチによって第2の株式価値を算定するステップ(S12)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、第3算定部(103)においてネットアセット・アプローチによって第3の株式価値を算定するステップ(S13)と、
加重平均算定部(104)において、前記第1算定部(101)で算定された前記第1の株式価値、前記第2算定部(102)で算定された前記第2の株式価値及び前記第3算定部(103)で算定された前記第3の株式価値に対して加重平均し、加重平均された株式価値を算定するステップ(S14)と、
前記第1算定部(101)で算定された前記第1の株式価値、前記第2算定部(102)で算定された前記第2の株式価値、前記第3算定部(103)で算定された前記第3の株式価値及び前記加重平均算定部(104)で算定された前記加重平均された株式価値を出力部(105)から表示装置(112)へ出力するステップ(S15)と、
を備える。
【0012】
また、さらに、本開示の株式価値算定プログラムは、
少なくとも3つの評価アプローチを適用し、折衷法により加重平均を行うことによって企業の株式価値を算定する株式価値算定プログラムであって、
取得部(100)において、財務データ、類似企業情報及び算定指標データを含む財務関連情報をユーザー入力部(111)から取得するステップ(S10)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、第1算定部(101)においてインカム・アプローチによって第1の株式価値を算定するステップ(S11)と、
前記財務データ、前記類似企業情報及び前記算定指標データに基づいて、第2算定部(102)においてマーケット・アプローチによって第2の株式価値を算定するステップ(S12)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、第3算定部(103)においてネットアセット・アプローチによって第3の株式価値を算定するステップ(S13)と、
加重平均算定部(104)において、前記第1算定部(101)で算定された前記第1の株式価値、前記第2算定部(102)で算定された前記第2の株式価値及び前記第3算定部(103)で算定された前記第3の株式価値に対して加重平均し、加重平均された株式価値を算定するステップ(S14)と、
前記第1算定部(101)で算定された前記第1の株式価値、前記第2算定部(102)で算定された前記第2の株式価値、前記第3算定部(103)で算定された前記第3の株式価値及び前記加重平均算定部(104)で算定された前記加重平均された株式価値を出力部(105)から表示装置(112)へ出力するステップ(S15)と、
を備える。
【0013】
また、別の態様として、本開示の株式価値算定装置は、
プロセッサ(CPU)(1001)と、
前記プロセッサによって実行されると、前記株式価値算定装置に以下のステップを実行させる命令を保存する少なくとも1つのメモリ(1002)と、
を備え、前記命令は、
取得部(100)において、財務データ、類似企業情報及び算定指標データを含む財務関連情報をユーザー入力部(111)から取得するステップ(S10)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、第1算定部(101)においてインカム・アプローチによって第1の株式価値を算定するステップ(S11)と、
前記財務データ、前記類似企業情報及び前記算定指標データに基づいて、第2算定部(102)においてマーケット・アプローチによって第2の株式価値を算定するステップ(S12)と、
前記財務データ及び前記算定指標データに基づいて、第3算定部(103)においてネットアセット・アプローチによって第3の株式価値を算定するステップ(S13)と、
加重平均算定部(104)において、前記第1算定部(101)で算定された前記第1の株式価値、前記第2算定部(102)で算定された前記第2の株式価値及び前記第3算定部(103)で算定された前記第3の株式価値に対して加重平均し、加重平均された株式価値を算定するステップ(S14)と、
前記第1算定部(101)で算定された前記第1の株式価値、前記第2算定部(102)で算定された前記第2の株式価値、前記第3算定部(103)で算定された前記第3の株式価値及び前記加重平均算定部(104)で算定された前記加重平均された株式価値を出力部(105)から表示装置(112)へ出力するステップ(S15)と、
を備え、
前記第2の株式価値を算定するステップ(S12)において、
前記類似企業情報に基づいて、類似企業財務データ取得部(301)においてAPIを使用して外部データベース(303)から類似企業の財務データを取得するステップ(S201)と、
前記類似企業情報に基づいて、株価情報取得部(302)において株価データベース(304)から前記類似企業の株価情報を取得するステップ(S202)と、
前記第2算定部(102)において、さらに前記類似企業の財務データ及び前記類似企業の株価情報に基づいて、前記第2の株式価値を算定するステップ(S203)と、
をさらに備える。
【発明の効果】
【0014】
上述のような構成により、本開示の株式価値算定装置、株式価値算定方法及び株式価値算定プログラムは、企業の株式価値の算定の信頼性を保ちつつ、株式価値算定の簡易化及び迅速化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態1の株式価値算定装置の構成例を示すブロック図
図2】実施形態1の株式価値算定方法の処理フローを示すフローチャート
図3】実施形態2の第1算定部の動作例を示すブロック図
図4a】実施形態2の財務テンプレートの例を示す図
図4b】実施形態2の財務テンプレートの例を示す図
図5a】実施形態2のDCF法による第1の株式価値を算定する際の説明図
図5b】実施形態2のDCF法による第1の株式価値を算定する際の説明図
図5c】実施形態2のDCF法による第1の株式価値を算定する際の説明図
図6】実施形態3の第2算定部の構成例を示すブロック図
図7】実施形態3の第2算定部の処理フローを示すフローチャート
図8a】実施形態3の第2算定部の動作を説明する説明図
図8b】実施形態3の第2算定部の動作を説明する説明図
図9】実施形態4の第3算定部の構成例を示すブロック図
図10a】実施形態4の第2算定部の動作を示す説明図
図10b】実施形態4の第2算定部の動作を示す説明図
図11】実施形態5の加重平均算定部の構成を示すブロック図
図12】実施形態5の加重平均算定部の動作を説明する説明図
図13】実施形態5の加重平均算定部の動作を説明する説明図
図14a】各実施形態の表示装置/印刷装置の表示例を示す図
図14b】各実施形態の表示装置/印刷装置の表示例を示す図
図15】各実施形態の株式価値算定装置の構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、前提として、評価対象企業の株式価値を算定するものであり、事業価値や企業価値を算定するものではない。そのため、評価法によっては、評価対象企業の非事業資産(金融資産、不動産)及び有利子負債を考慮して株式価値を算定する。
【0017】
本発明における「評価アプローチ」及び「評価法」は、企業価値評価や株式価値評価に一般的に用いられる評価アプローチ及び評価法であればよい。一般的に、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチ(コスト・アプローチとも言う)の3つの評価アプローチに主に分類される。インカム・アプローチの一例として、DCF法や配当還元法等の評価法が挙げられる。マーケット・アプローチの一例として、類似企業比較法や類似取引比較法等の評価法が挙げられる。ネットアセット・アプローチの一例として、簿価純資産法、時価純資産法等の評価法が挙げられる。
【0018】
本発明においては、企業の株式価値を算定する際に、少なくとも3つの評価アプローチを適用し、それぞれの評価結果に所定の折衷割合を適用して加重平均値から評価結果を導く方法である折衷法を採用する。
【0019】
本発明の株式価値算定装置は、企業の株式価値を算定する処理を実行する機能を有する。この機能の詳細については、以下の実施形態において詳述する。
【0020】
以下、本発明にかかる各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
1.実施形態1
(1)株式価値算定装置の構成
図1に、本実施形態の株式価値算定装置のブロック図を示す。株式価値算定装置10は、ユーザーが入力したデータをユーザー入力部111から取得する取得部100と、インカム・アプローチ法によって第1の株式価値を算定する第1算定部101と、マーケット・アプローチ法によって第2の株式価値を算定する第2算定部102と、ネットアセット・アプローチ法によって第3の株式価値を算定する第3算定部103と、第1の株式価値、第2の株式価値及び第3の株式価値に折衷割合を適用し、加重平均された株式価値を算定する加重平均算定部104と、第1の株式価値、第2の株式価値、第3の株式価値及び加重平均された株式価値である加重平均された株式価値を表示装置112へ出力する出力部105と、を備える。
【0022】
取得部100は、ユーザーがユーザー入力部111(例えば、キーボード、タッチパネル、マウス、タッチペン等の一般的なデータ入力装置)において入力した財務関連情報を取得する。財務関連情報は、i)財務データ、ii)類似企業情報、iii)算定指標データ、を少なくとも含む。また、後述するとおり、財務関連情報の一部、特に財務データの入力に際して、財務テンプレートを使用してもよい。
【0023】
財務関連情報に含まれる「財務データ」とは、評価対象企業の財務状況を示す各種データのことである。財務データの一例として、売上高、売上原価、販売費、営業利益、法人税率(%)、法人税、当期純利益、NOPAT、減価償却費、設備投資額、売上債権、仕入債務、運転資本増加額、純資産、非事業資産、有利子負債などが挙げられる。
【0024】
財務関連情報に含まれる「類似企業情報」とは、評価対象企業に類似する企業を特定できる情報であればよく、例えば、企業名や証券コード(各上場企業に付与される固有番号及び記号)等である。
【0025】
財務関連情報に含まれる「算定指標データ」とは、各評価手法において株式価値を算定する際に必要となるデータであり、各評価手法によって必要なデータが予め決められている。例えば、DCF法による評価の場合、算定指標データとして、割引率の数値が挙げられる。また、マルチプル法による評価の場合、算定指標データとして、非流動性ディスカウント及び調整幅の数値が挙げられる。また、年買法による評価の場合、算定指標データとして、のれん計算期間の数値が挙げられる。
【0026】
第1算定部101は、取得部100から財務データ及び算定指標データを取得し、財務データ及び算定指標データに基づいて、インカム・アプローチによって第1の株式価値を算定する。第1算定部101で算定された第1の株式価値は、加重平均算定部104及び出力部105にそれぞれ出力される。
【0027】
第2算定部102は、取得部100から財務データ、類似企業情報及び算定指標データを取得し、財務データ、類似企業情報及び算定指標データに基づいて、マーケット・アプローチによって第2の株式価値を算定する。第2算定部102で算定された第2の株式価値は、加重平均算定部104及び出力部105にそれぞれ出力される。
【0028】
第3算定部103は、取得部100から財務データ及び算定指標データを取得し、財務データ及び算定指標データに基づいて、ネットアセット・アプローチによって第3の株式価値を算定する。第3算定部103で算定された第3の株式価値は、加重平均算定部104及び出力部105にそれぞれ出力される。
【0029】
加重平均算定部104は、第1~第3算定部において算定された第1~第3の株式価値に対して所定の折衷割合を適用し、加重平均された株式価値を算定し、加重平均された株式価値を出力部105へ出力する。
【0030】
本実施形態の一例として、所定の折衷割合として、平均値、すなわち、3分の1ずつの加重平均値を取ることにより、加重平均された株式価値を算定してもよい。この場合は折衷割合が予め設定された折衷割合(固定値)であってもよい。3つの異なる評価アプローチによって算定された株式価値について、バランスよく考慮することによって、平均値として加重平均された株式価値を算定し、株式価値算定の簡易化、迅速化が実現できる。
【0031】
また、本実施形態の別の例として、予め設定された折衷割合(固定値)ではなく、折衷割合を適時変更してもよい。折衷割合を変更する場合、取得部100で取得された情報に基づいて折衷割合を決定する事前変更方法と、第1~第3の株式価値の算定額を算定した後に折衷割合を変更(修正)する事後変更方式、の2つのパターンが挙げられる。事前決定方式の場合、財務関連情報はさらにiv)企業の規模や経営状況に関する判定情報、を含み、この判定情報に基づいて折衷割合を決定してもよい。事後決定方式の場合、また、出力部105から出力された第1~第3の株式価値の算定額を踏まえて、折衷割合を変更・修正してもよい。このように折衷割合を固定ではなく可変とする例の詳細については、後述の実施形態5において説明する。
【0032】
出力部105は、第1~第3算定部から出力された第1~第3の株式価値と、加重平均算定部104から出力された加重平均された株式価値を表示装置へ出力する。表示装置112は、例えばディスプレイ等の画面上に情報やデータを表示するデバイスや、情報やデータを印刷するプリンタ等を含んでもよい。また、表示装置112は、株式価値算定装置10の内部に設けてもよく、図示の通りに株式価値算定装置10の外部に設けてもよい。図14(a)、(b)において、第1~第3の株式価値及び加重平均された株式価値を表示装置に表示する例を示す。図14(a)、(b)に示すとおり、第1~第3の株式価値及び加重平均された株式価値は、一定の幅を有する数値として示される。図14(a)、(b)に示す例では、折衷割合は3分の1ずつの加重平均値である。
【0033】
(2)株式価値算定方法のフロー
図2に、本実施形態の株式価値算定方法の処理フローを含むフローチャートを示す。
【0034】
取得部100は、ユーザー入力部111から財務データ、類似企業情報及び算定指標データを含む財務関連情報を取得する(S10)。第1算定部101は、財務データ及び算定指標データに基づいて、インカム・アプローチによって第1の株式価値を算定する(S11)。第2算定部102は、類似企業情報及び算定指標データに基づいて、マーケット・アプローチによって第2の株式価値を算定する(S12)。第3算定部103は、財務データ及び算定指標データに基づいて、ネットアセット・アプローチによって第3の株式価値を算定する(S13)。加重平均算定部104は、第1~第3算定部において算定された第1~第3の株式価値に対して、予め設定された折衷割合、又は企業規模データに基づく折衷割合を適用し、加重平均された株式価値を算定する(S14)。出力部105は、加重平均された株式価値及び第1~第3の株式価値を表示装置112に出力する。なお、図2において、ステップS11からS13は順列に記載されているが、順序を入れ替えてもよく、また、ステップS11からS13の2つ又は3つのステップを並列にしてもよい。
【0035】
(3)実施形態1の効果
以上、本実施形態によれば、企業の株式価値評価の算定において、少なくとも3つの評価アプローチを適用し、総合評価の方法として折衷法を適用した場合において、ユーザーが入力した財務関連情報に含まれる財務データ、類似企業情報、算定指標データに基づいて各評価アプローチを行うことによって、株式価値算定の簡易化及び迅速化を実現できる。また、折衷法による折衷割合を予め固定値にすることにより、さらなる株式価値算定の簡易化及び迅速化を実現できる。あるいは、折衷割合を事前及び事後的に可変にすることにより、株式価値算定結果の信頼性を高めつつ、簡易化及び迅速化を実現できる。
【0036】
2.実施形態2
本実施形態では、第1算定部101の動作の詳細について説明する。本実施形態では、インカム・アプローチに分類される評価法のうち、DCF法を採用して第1の株式価値を算定する。DCF法は将来キャッシュフローを考慮できる優れた方法であるが、算定の際の計算式が多数あり、計算内容も複雑となるため、専門家以外が利用することは困難である。そこで、本実施形態では、DCF法によって株式価値を算定する際に必要となるデータに関して、財務テンプレートを用いることによって、ユーザーが必要な情報を容易に入力し、DCF法による株式価値の算定を容易にかつ迅速にする。
【0037】
図3は、本実施形態の財務テンプレートを用いた場合の第1算定部101の動作を示すブロック図である。図3において、図1に開示された構成・機能と同一の構成・機能については、同一の参照番号を使用する。本実施形態において、ユーザー入力部111において、財務テンプレート201を用いる。取得部100は、ユーザー入力部111から、財務テンプレート201(財務関連情報)と、割引率1及び割引率2(算定指標データ)を取得する。財務テンプレート201の詳細については、図4(a)、(b)を用いて説明する。
【0038】
図4(a)に、ユーザーがデータを入力する前の財務テンプレート201を示す。財務テンプレート201は財務データを含み、財務データの一例として、前述の通りに、売上高、売上原価、販売費、営業利益、法人税率(%)、法人税、当期純利益、NOPAT、減価償却費、設備投資額、売上債権、仕入債務、運転資本増加額、純資産、非事業資産、有利子負債等の項目を含む。また、財務テンプレート201は、当期の数値に加え、一例として過去3年分及び将来3年分の数値を記入するように構成されてもよい。一般的には、過去及び将来の年数は3~5年であるため、任意の年数分の数値を記入するように構成されてもよい。図4(b)に、ユーザーが実際に入力したデータを含む財務テンプレート201の一例を示す。この例のように財務テンプレート201に含まれる各種数値が企業の財務状況を示す財務データに相当する。ユーザーがユーザー入力部において入力した財務テンプレート201は、取得部100のメモリ等に保存され、後の各種ステップにおいてそれぞれの情報、数値が使用される。
【0039】
また、本実施形態では、DCF法による株式価値の算定を行うため、算定指標データの一つとして、割引率1及び割引率2の数値をユーザーが入力する。この割引率1及び2は、例えば、14%、16%であり、一般的に割引率は4~18%である。割引率1及び2は、ユーザーがWebサイト上で数値を直接入力(又はプルダウン等で数値を選択)してもよい。また、財務テンプレート201の中に割引率1及び2の項目を設け、ユーザーが割引率1及び2の数値を記入できるようにしてもよい。
【0040】
財務テンプレート中の財務データ及び算定指標データである割引率1及び割引率2に基づいて,DCF法によって第1の株式価値を算定する。本実施の形態において、第1の株式価値は、割引率1及び2に対応するそれぞれの数値の幅として算出される。図5(a)は、図4(b)に示した財務テンプレートに含まれる財務関連情報から抽出された財務データの一例を示す図である。図5(b)は、図5(a)に示された財務データ及び割引率1及び2(算定指標データ)を用いて算定された事業価値を示す図である。図5(b)ではDCF法によって事業価値を算定しており、割引率1(16%)の場合に事業価値は2,246,635(千円)となり、割引率2(14%)の場合に事業価値は2,596,921(千円)となる。図5(c)は、図5(b)で算定された事業価値に対して、「非事業資産」を足し、「有利子負債」を控除することにより、株式価値を算定するプロセスを示す図である。上述した通り、非事業資産及び有利子負債は、財務データに含まれている。割引率1(16%)の場合、株式価値は、2,246,635(事業価値)+212,000(非事業資産)-106,000(有利子負債等)=2,353,635(千円)となり、割引率2(14%)の場合、株式価値は、2,596,921(事業価値)+212,000(非事業資産)-106,000(有利子負債等)=2,702,912(千円)となる。このようにして、DCF法によって算定された第1の株式価値は、2,353,635(千円)~2,702,912(千円)となる。
【0041】
以上の通り、本実施形態によれば、財務テンプレート及び割引率1及び割引率2(算定指標データ)に基づいて、DCF法によって第1の株式価値を算定することにより、ユーザーが高度な専門知識や複雑な計算式を用いることなく、簡易で迅速に第1の株式評価を算定することができる。
【0042】
3.実施形態3
本実施形態では、第2算定部102の構成及び動作の詳細について説明する。本実施形態では、マーケット・アプローチに分類される評価法のうち、マルチプル法(類似企業比較法)を採用して第2の株式価値を算定する。マルチプル法とは、評価対象企業と類似する上場企業の株価等を参考に売上や利益などの指標に倍率(マルチプル)をかけて、評価対象企業の相対的な価値を求める手法である。評価対象企業と類似する企業の情報が多ければ、特定の企業への偏りを排除できるため、少なくとも8社以上の類似企業の入力が望ましい。そこで、本実施形態においては、企業名や証券コード等の類似企業情報を用いて、簡易にかつ迅速にマルチプル法の算定に必要な情報を取得し、第2の株式価値を算定する方法について説明する。
【0043】
(1)第2算定部の構成
本実施形態の第2算定部102の構成及び動作を図6に示す。図6において、図1に開示された構成・機能と同一の構成・機能については、同一の参照番号を使用する。図6において、第2算定部102は、類似企業財務データ取得部301と株価情報取得部302を備える。また、取得部100は、ユーザー入力部111から、財務データ、類似企業の企業名又は証券コードを含む類似企業情報と、非流動性ディスカウント及び調整幅(いずれも算定指標データ)を取得する。本実施形態では、マルチプル法によって株式価値を算定する際に必要となるデータに関して、類似企業財務データ取得部301及び株価情報取得部302を用いることによって、マルチプル法による株式価値の算定を容易にかつ迅速にする。
【0044】
類似企業財務データ取得部301は、類似企業情報に含まれる企業名又は証券コードに基づいて、外部データベース(DB)303に保存されている当該類似企業の発行済株式数、売上高、当期純利益、PSR、PER等の財務データ(類似企業の財務データに相当)を取得する。本実施形態では、外部データベース303から類似企業の財務データを取得する際に、Web API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を使用する。Web APIの一例として、バフェットコード社が提供する法人向け「バフェット・コードAPI」等が挙げられる。このようにAPIを利用して外部データベースから類似企業の財務データを取得することにより、迅速かつ正確な情報を入手できる。
【0045】
株価情報取得部302は、類似企業情報に含まれる企業名又は証券コードに基づいて、株式価値算定装置10の内部又は外部に設けられた株価データベース304から株価情報を取得する。なお、株価データベース304は、例えば毎日、株価情報をアップデートし、最新の株価情報を保持している。図6において、株価データベース304は、第2算定部102の中に配置しているが、株式算定装置10の任意の場所に設けてもよく、又は株式算定装置10の外部に設けてもよい。
【0046】
(2)第2算定部の算定方法のフロー
本実施形態の第2算定部の第2の株式価値算定方法の処理フローを示すフローチャートを図7に示す。
【0047】
本実施形態では、第2の株式価値を算定するステップ(12)において、さらに、3つのサブステップを備える。類似企業財務データ取得部(301)は、ユーザーが入力した類似企業情報に基づいて、APIを使用して外部データベース(303)から類似企業の財務データを取得する(S201)。株価情報取得部(302)は、ユーザーが入力した類似企業情報に基づいて、株価データベース(304)から類似企業の株価情報を取得する(S202)。最後に、類似企業財務データ取得部(301)で取得された類似企業の財務データ及び前記株価情報取得部(302)で取得された類似企業の株価情報に基づいて、第2算定部102において、マルチプル法によって前記第2の株式価値を算定する(S203)。なお、図7において、ステップS201とS202は順列に記載されているが、順序を入れ替えてもよく、又はステップS201とS202を並列にしてもよい。
【0048】
図8(a)は、マルチプル法に必要となる複数の類似企業の財務データを示している。ユーザーが入力した類似企業名又は証券コードに基づいて、時価総額、売上高、当期純利益、PSR、PERの数値が得られる。時価総額は、類似企業財務データ取得部301がバフェットコード社のWeb APIを使用して、企業名又は証券コードで特定された類似企業の「発行済株式数(自己株式控除後)」を外部データベース303から取得し、株価情報取得部302において取得された「株価」情報を用いて、「発行済株式数(自己株式控除後)」×「株価」で算出したものである。売上高は、Web APIを使用して、企業名又は証券コードで特定された類似企業の業績予想の「売上高」を外部データベース303から取得したものである。当期純利益は、Web APIを使用して、企業名又は証券コードで特定された類似企業の業績予想の「当期純利益」を外部データベース303から取得したものである。PSRは株価売上高倍率を示し、「時価総額/売上高」に相当する。PERは株式価値が当期純利益の何倍になっているかを示し、「時価総額/当期純利益」に相当する。例えば、類似企業Aに関して、APIによって取得した株式会社Aの発行株式数7,794,995であり、株価データベースに保存されている株式会社Aの2024年1月X日終値3,770円であり、「発行済株式数(自己株式控除後)」×「株価」で算出すると時価総額は29,387(百万円)となる。またAPIによって取得した株式会社Aの売上高は、22,693(百万円)、当期純利益は、272(百万円)であり、PSRは、1.29、PERは、108.04と算定される。同様に類似企業B~Hの財務データを算定する。
【0049】
本実施形態では、8社の類似企業のPERの「中央値」を算出し、このPERの中央値を採用してマルチプル法によって株式価値を算定する。複数の企業のPERの平均値ではなく中央値を採用することによって、特定の類似企業の異常値を排除した計算を行うことが可能となる。また、本実施形態ではPERを採用したが、PERが使用できない企業(例えば、赤字計上企業や債務超過企業)に対しては、PSRを用いてマルチプル法によって株式価値を算定してもよい。また、本実施形態では、類似企業の「売上高」及び「当期純利益」については、確定決算数値ではなく、会社の業績予想数値を採用しており、前述の「時価総額」が業績予想を踏まえた評価であるという点も特徴である。
【0050】
図8(b)は、前述の通りに算定された類似企業のPERの中央値と、取得部100が取得した算定指標データである非流動性ディスカウント及び調整幅の数値を用いて、マルチプル法によって第2の株式価値を算定することを示している。本実施形態では、PERと評価対象企業の当期純利益を乗算し、調整幅及び非流動性ディスカウントを考慮して、評価対象企業の第2の株式価値を算定する。この場合、ユーザーが非流動性ディスカウントの選択を“30%”、調整幅を“1”と入力した場合、0.7×(PER中央値-1)×評価対象企業の当期純利益が第2の株式価値の下限値となり、0.7×(PER中央値+1)×評価対象企業の当期純利益が第2の株式価値の上限値となる。具体的には、0.7×30.04×220,000=4,626,160(千円)が第2の株式価値の下限値、0.7×32.04×220,000=4,934,160(千円)が第2の株式価値の上限値となる。一般的に、非流動性ディスカウントの割合は、20%~30%であり、調整幅の数値は、1~2であるが、これらの数値はユーザーが任意に設定・変更でき、ユーザー入力部111から算定指標データの一つとして入力される。
【0051】
以上の通り、本実施形態によれば、第2算定部102が類似企業財務データ取得部301及び株価情報取得部302を有し、類似企業財務データ取得部301がWeb APIによって類似企業の財務データを外部データベース303から取得し、株価情報を株価情報取得部302が株価データベース304から取得することにより、ユーザーが類似企業名又は証券コードを入力するだけで複数の類似企業のPER等を容易に算定でき、ユーザーが高度な専門知識や複雑な計算式を用いることなく、簡易で迅速にマルチプル法によって第2の株式評価を算定することができる。
【0052】
4.実施形態4
本実施形態では、第3算定部103の構成及び動作の詳細について説明する。本実施形態では、ネットアセット・アプローチに分類される評価法のうち、年買法(年倍法)を採用して第3の株式価値を算定する。年買法とは、企業価値を計算する際に買収の対象となっている企業の時価純資産に営業利益の複数年分(例えば1~3年分)を加算して計算する評価法である。
【0053】
図9は、本実施形態の第3特定部103の構成及び動作を示すブロック図である。取得部100は、ユーザー入力部111から、売上高、営業利益、当期純利益、純資産を含む財務データと、のれん計算期間(算定指標データ)を取得する。第3算定部103は、売上高、営業利益、当期純利益、純資産、のれん計算期間(例えば1~3年)を用いて、年買法により第3の株式価値を算定する。詳細な計算方法については、図10(a)、(b)を用いて説明する。
【0054】
図10(a)は、評価対象企業の直近3年分の売上高、営業利益、当期純利益、それぞれの科目の直近3年分の平均値を示す。本実施形態では、売上高、営業利益、当期純利益に関して、直近3年の平均値(過去3年の平均値)を用いることにより、特定期間の数字に依存せず客観的な数字を元に年買法による算定が可能となる。図10(b)に示すとおり、本実施形態では、のれん(営業権)の計算期間を1~3年とすることにより、第3の株式価値の上限及び下限を算出する。第3の株式価値の上限は、のれん3年分に相当する。この場合の第3の株式価値の上限値の計算式は、純資産+(営業利益平均値×のれん計算期間3年)となり、具体的には、1,060,000(千円)+(291,200×3)=1,933,600(千円)となる。同様に第3の株式価値の下限は、のれん1年分に相当する。この場合の第3の株式価値の下限値の計算式は、純資産+(営業利益平均値×のれん計算期間1年)となり、具体的には、1,060,000(千円)+(291,200×1)=1,351,200(千円)となる。
【0055】
以上の通り、本実施形態によれば、ユーザーが入力した売上高、営業利益、当期純利益、純資産を含む財務データと、のれん計算期間(算定指標データ)を取得部100から取得することにより、ユーザーが高度な専門知識や複雑な計算式を用いることなく、簡易で迅速に年買法により第3の株式評価を算定することができる。
【0056】
5.実施形態5
実施形態1では3つの手法による算定結果に対して、折衷割合として1/3ずつの加重平均値を用いる一例について示した。しかしながら、評価対象企業が属する業界・業種の特殊性、評価対象企業の固有の事情(成長ステージや事業規模等)、競合他社がほとんど存在しない場合、等の状況においては、折衷割合を変更して(加重平均の重みづけの割合を変更して)株式価値を算定することが望ましい。前述の通り、折衷割合の変更については、事前変更方式と事後変更方式の2つの方式が考えられる。以下、各方式の詳細について説明する。
【0057】
(事前変更方式)
図11及び図12を用いて本実施形態の株式価値算定装置11の折衷割合の事前変更方式について説明する。図11において、図1に開示された構成・機能と同一の構成・機能については、同一の参照番号を使用する。ユーザー入力部111においてユーザーが入力する財務関連情報には、前述の通りに判定情報を含む。
【0058】
財務関連情報に含まれる「判定情報」とは、評価対象企業の規模や経営状況に関する情報であればよく、例えば、創業間もないベンチャー企業であることを特定できること、競合他社が少ない業種であること、直近1年及び/又は2年の経営状況が赤字であること、等を特定できる情報である。
【0059】
図11において、取得部100は、判定情報を含む財務関連情報をユーザー入力部111から取得する。加重平均算定部104は、第1~第3算定部において算定された第1~第3の株式価値に対して所定の折衷割合を適用して加重平均された株式価値を算定するが、本実施形態において、この所定の折衷割合は、判定情報に基づいて事前に変更可能である。例えば、判定情報の一例として、図12に示すような判定テーブル0~4を設け、ユーザーが入力部111(例えば、Webサイト上の入力画面)において、判定テーブルをプルダウン形式で選択することで、折衷割合(重みづけ)を変更できるように構成してもよい。例えば、判定テーブル0は、固定(デフォルト)であり、第1~第3の株式価値の重みづけは1/3ずつ、すなわち平均値となる。判定テーブル1は、評価対象企業の直近1年の業績が良好である場合に選択するテーブルであり、この場合は第1の株式価値の重みづけを増やし、例えば、第1の株式価値の重みを0.5、第の株式価値の重みを0.3、第3の株式価値の重みを0.2とする。判定テーブル2は、評価対象企業の競合他社が少ない場合に、第2の株式価値の重みづけを減らすことを示す例である。判定テーブル3は、評価対象企業が二期連続赤字の場合に、第1及び第2の株式価値の重みづけを減らすことを示す例である。判定テーブル4は、評価対象企業がベンチャー企業である場合に、第1の株式価値重みづけを増やすことを示す例である。
【0060】
(事後変更方式)
事後決定方法の場合、また、出力部105から出力された第1~第3の株式価値の算定額を踏まえて、事後的に折衷割合を修正する。この事後決定方式について、図13を用いて詳細なプロセスについて説明する。図13において、図2に開示されたプロセス・機能と同一のプロセス・機能については、同一の参照番号を使用する。本実施形態の事後変更方式では、出力された第1~第3の株式価値及び加重平均された株式価値をユーザーが表示装置112上でチェックし、チェック結果に基づいてユーザーが折衷割合を変更するステップ(S301)をさらに備える。折衷割合を変更した後、新たな折衷割合で加重平均された株式価値を算定する(S14)。具体的には、DCF法、マルチプル法によって算定された株式価値がマイナスの数値になる場合や明らかに異常な数値になった場合に、ユーザーが手動で該当する株式価値の重みづけを0に変更するように入力部111から数値(判定情報に相当)を入力し、判定情報に基づいた新たな折衷割合で加重平均された株式価値を再算定することが可能となる。これにより、より信頼性の高い算定結果が得られる。
【0061】
5.総括
以上、本発明の各実施形態における株式価値算定装置、算定方法等の特徴について説明した。
【0062】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成の範囲において、様々な改変を行ってもよい。
【0063】
本発明は、各実施形態に開示された構成のみに限定されるものではなく、複数の実施形態を組み合わせてもよい。
【0064】
各実施形態で使用した用語は例示であり、同義の用語、あるいは同義の機能を含む用語に置き換えてもよい。
【0065】
各実施形態で使用したブロック図は、装置の構成を機能毎に分類したものであり、各ブロックは、ハードウェア又はソフトウェアの任意の組み合わせで実現される。
【0066】
各実施形態で使用したフローチャートの各フロー及びステップは、図示された順序で実行されなくてもよい。いくつかのフロー及びステップは、特段の制約がない限り、順番を入れ替えてもよく、また並列的に実行されてもよい。
【0067】
各実施形態及び特許請求の範囲で使用する第1、第2、第3・・・第Nの用語は、順序を限定するものではなく、同種の構成や方法を区別するために用いる。
【0068】
本発明は、各実施形態で説明した構成及び機能を有する専用のハードウェアで実現してもよい。また、本発明の株式価値算定プログラムと、実行可能なCPU及びメモリ等を有する汎用のハードウェアとの組み合わせとして実現してもよい。例えば、本発明の株式価値算定装置は、演算処理能力を有するコンピュータによって構成されてもよく、コンピュータにおいて所定の株式価値算定プログラムが実行されることにより、その機能を実現してもよい。また、本発明の株式価値算定プログラムは、コンピュータ等によって所定の処理を行うためのプログラムであり、複数のソフトウェアモジュールを有してもよい。ソフトウェアモジュールは、それぞれ特定の処理を実行するためにモジュール化されたプログラムであり、例えば、プロシージャ、サブルーチン、メソッド、関数及びデータ構造等を用いて作成される。株式価値算定プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。記録媒体の一例としては、上記プログラムを記録したハードディスク、フラッシュメモリ、磁気又は光ディスク等の媒体である。
【0069】
例えば、図15に示す通り、本発明の株式価値算定装置は、CPU1001とメモリ1002とを備える。メモリ1002は、前述の株式価値算定方法を実行させる命令を含むプログラムを保持し、CPU1001が当該方法を実行してもよい。また、通信インターフェース1003を備えてもよく、通信インターフェース1003を介して、ネットワークを介して外部のデータベース、ユーザー入力部、表示装置等とデータのやり取りを行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の株式価値算定装置は、主として中小企業やベンチャー企業が自社の株式価値を簡易にかつ迅速に算定するための株式価値算定装置の分野に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
10、11…株式価値算定装置、100…取得部、101…第1算定部、102…第2算定部、103…第3算定部、104…加重平均算定部、105…出力部、111…ユーザー入力部、112…表示装置/印刷装置、201…財務テンプレート、301…類似企業財務データ取得部、302…株価情報取得部、1001…CPU、1002…メモリ、1003…通信インターフェース

【要約】      (修正有)
【課題】中小企業やベンチャー企業が自社の株式価値を簡易にかつ迅速に算定する。
【解決手段】株式価値算定装置は、財務データ、類似企業情報及び算定指標データを含む財務関連情報をユーザー入力部から取得する取得部と、財務データ及び算定指標データに基づいて、インカム・アプローチによって第1の株式価値を算定する第1算定部と、財務データ、類似企業情報及び算定指標データに基づいて、マーケット・アプローチによって第2の株式価値を算定する第2算定部と、財務データ及び算定指標データに基づいて、ネットアセット・アプローチによって第3の株式価値を算定する第3算定部と、第1の株式価値、第2の株式価値及び第3の株式価値に対して所定の折衷割合で加重平均し、加重平均された株式価値を算定する加重平均算定部と、第1の株式価値、第2の株式価値、第3の株式価値及び加重平均された株式価値を表示装置へ出力する出力部と、を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図5c
図6
図7
図8a
図8b
図9
図10a
図10b
図11
図12
図13
図14a
図14b
図15