(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20250411BHJP
【FI】
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2020147803
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 圭一郎
【審査官】渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-164636(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103565401(CN,A)
【文献】特開2020-054480(JP,A)
【文献】特開2001-108941(JP,A)
【文献】特開平08-114780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光を出力する第1の光源と、
第2の光を出力する第2の光源と、
前記第1の光源から出力される前記第1の光を被検眼の第1の範囲で走査する第1スキャン光学系と、
前記第2の光源から出力される前記第2の光を前記被検眼の前記第1の範囲とは異なる第2の範囲で走査する第2スキャン光学系と、
前記被検眼からの前記第1の光の反射光から得られる第1の干渉光に基づいて、前記第1の範囲の断層情報を取得する第1の干渉計と、
前記被検眼からの前記第2の光の反射光から得られる第2の干渉光に基づいて、前記第2の範囲の断層情報を取得する第2の干渉計と、
前記被検眼と対向する見口部と、
前記第1の光を反射する一方で、前記第2の光を透過する第1ダイクロイックミラーと、
を備え、
前記第1の光の中心波長と、前記第2の光の中心波長が異なっており、
前記第1スキャン光学系は、前記第1の光を前記被検眼の前記第1の範囲に照射する第1の対物レンズ部を備えており、
前記第2スキャン光学系は、前記第2の光を前記被検眼の前記第2の範囲に照射する第2の対物レンズ部を備えており、
前記第1の光は、前記第2の対物レンズ部を透過しない一方で、前記第1の対物レンズ部を透過し、
前記第2の光は、前記第1の対物レンズ部を透過しない一方で、前記第2の対物レンズ部を透過し、
前記第1の光の光路である第1光路は、前記第2の光の光路である第2光路と重複する重複区間と、前記第2光路と重複しない第1非重複区間と、を備えており、
前記第2光路は、前記重複区間と、前記第1光路と重複しない第2非重複区間と、を備えており、
前記第1の対物レンズ部は、前記第1非重複区間に配置されており、
前記第2の対物レンズ部は、前記第2非重複区間に配置されており、
前記第1の範囲は、前記被検眼の前眼部であり、
前記第2の範囲は、前記被検眼の眼底部であり、
前記重複区間は、前記被検眼と前記見口部とを結ぶ区間を含む第1重複区間を備えており、
前記第1ダイクロイックミラーは、前記第1重複区間から前記第1非重複区間と前記第2非重複区間とに分岐する第1位置に配置されており、
前記第1ダイクロイックミラーの裏面には、前記第1の光の波長帯域と前記第2の光の波長帯域のうち、前記第1の光の波長帯域に対してARコート(Anti Reflection Coating)が施されている、眼科装置。
【請求項2】
前記第1スキャン光学系は、前記第1の光源から出力される前記第1の光を走査する第1スキャナを備えており、
前記第2スキャン光学系は、前記第2の光源から出力される前記第2の光を走査する第2スキャナを備えており、
前記第1スキャナは、前記第1非重複区間に配置されており、
前記第2スキャナは、前記第2非重複区間に配置されている、請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記第1の光源から出力される前記第1の光を走査すると共に、前記第2の光源から出力される前記第2の光を走査するスキャナをさらに備えており、
前記スキャナは、前記重複区間に配置され、前記第1スキャン光学系と前記第2スキャン光学系とで共用されており、
前記第1の対物レンズ部は、前記スキャナと前記被検眼の間に配置され、
前記第2の対物レンズ部は、前記スキャナと前記被検眼の間に配置されている、請求項1に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記重複区間は、前記第1非重複区間と前記第2非重複区間とが合流・分岐する第2位置と前記スキャナとを結ぶ区間を含む第2重複区間を備えており、
前記第2位置に配置される第2ダイクロイックミラーをさらに備えており、
前記第2ダイクロイックミラーは、前記第1の光を反射する一方で、前記第2の光を透過する、
請求項3に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記第2ダイクロイックミラーの裏面には、前記第1の光の波長帯域に対してARコート(Anti Reflection Coating)が施されている、請求項4に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記第2重複区間の両端の位置のうち前記第2位置とは異なる第3位置には、第3ダイクロイックミラーがさらに配置されており、
前記第3ダイクロイックミラーは、前記第1の光を反射する一方で、前記第2の光を透過する、請求項4又は5に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記第3ダイクロイックミラーの裏面には、前記第1の光の波長帯域に対してARコート(Anti Reflection Coating)が施されている、請求項6に記載の眼科装置。
【請求項8】
第1の光を出力する第1の光源と、
第2の光を出力する第2の光源と、
前記第1の光源から出力される前記第1の光を被検眼の第1の範囲で走査する第1スキャン光学系と、
前記第2の光源から出力される前記第2の光を前記被検眼の前記第1の範囲とは異なる第2の範囲で走査する第2スキャン光学系と、
前記被検眼からの前記第1の光の反射光から得られる第1の干渉光に基づいて、前記第1の範囲の断層情報を取得する第1の干渉計と、
前記被検眼からの前記第2の光の反射光から得られる第2の干渉光に基づいて、前記第2の範囲の断層情報を取得する第2の干渉計と、
を備え、
前記第1の範囲は、前記被検眼の前眼部であり、
前記第2の範囲は、前記被検眼の眼底部であり、
前記第1の光の中心波長と、前記第2の光の中心波長が異なっており、
前記第1の光の光路である第1光路は、前記第2の光の光路である第2光路と重複する重複区間と、前記第2光路と重複しない第1非重複区間と、を備えており、
前記第2光路は、前記重複区間と、前記第1光路と重複しない第2非重複区間と、を備えており、
前記被検眼と対向する見口部をさらに備えており、
前記重複区間は、前記被検眼と前記見口部とを結ぶ区間を含む第1重複区間を備えており、
前記第1重複区間から前記第1非重複区間と前記第2非重複区間とに分岐する第1位置に配置される第1ダイクロイックミラーをさらに備えており、
前記第1ダイクロイックミラーは、前記第1の光を反射する一方で、前記第2の光を透過し、
前記第1ダイクロイックミラーの裏面には、前記第1の光の波長帯域と前記第2の光の波長帯域のうち、前記第1の光の波長帯域に対してARコート(Anti Reflection Coating)が施されている、眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は眼科装置に関する。詳細には、被検眼の異なる測定範囲(例えば、前眼部、眼底等)のそれぞれについて断層情報を取得可能な眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の異なる測定範囲のそれぞれについて断層情報を取得する眼科装置が開発されている。例えば、特許文献1の眼科装置は、被検眼の前眼部の断層像と、被検眼の眼底の断層像を取得可能となっている。この眼科装置は、前眼部用光源と、前眼部用光源とは波長が異なる眼底用光源を備えている。前眼部用光源からの光は、スキャナ及び対物レンズが配置された前眼部用光路を通って被検眼の前眼部に照射される。眼底用光源からの光は、スキャナを通って前眼部用光路からリレーレンズが配置された眼底用光路に分岐し、眼底用光路から再び前眼部用光路に合流し、同一の対物レンズを介して被検眼の眼底に照射される。すなわち、眼底用光路は、その一部が前眼部用光路と同一となっている。この眼科装置では、前眼部と眼底とでスキャナ及び対物レンズを共用する一方で、スキャナと対物レンズの間に前眼部用光路から分岐・合流する眼底用光路を設けることで、前眼部断層像と眼底断層像の両者を取得している。
【0003】
また、特許文献2の眼科装置も、被検眼の前眼部の断層像と、被検眼の眼底の断層像を取得可能となっている。この眼科装置では、前眼部用光源からの光は、前眼部用のスキャナ及び対物レンズを通って被検眼の前眼部に照射される。眼底用光源からの光は、眼底用のスキャナを通ってリレーレンズを透過し、同一の対物レンズを介して被検眼の眼底に照射される。すなわち、特許文献2の眼科装置は、前眼部用のスキャナと眼底用のスキャナをそれぞれ装備する一方で対物レンズを共用し、前眼部断層像と眼底断層像の両者を取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第9072460号公報
【文献】特表2018-525036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来の眼科装置では、被検眼の異なる測定範囲のそれぞれについて断層情報を取得するために、複数の光源からの光を被検眼の異なる測定範囲に照射している。このため、一つの測定範囲について断層情報を取得するための構成が、他の測定範囲について断層情報を取得する際に影響し、取得される断層情報にノイズが混入するという問題が生じる。本明細書は、被検眼の異なる測定範囲のそれぞれについて断層情報を取得可能な眼科装置において、ノイズが断層情報に混入することを抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示する第1の眼科装置は、第1の光を出力する第1の光源と、第2の光を出力する第2の光源と、第1の光源から出力される第1の光を被検眼の第1の範囲で走査する第1スキャン光学系と、第2の光源から出力される第2の光を被検眼の第1の範囲とは異なる第2の範囲で走査する第2スキャン光学系と、被検眼からの第1の光の反射光から得られる第1の干渉光に基づいて、第1の範囲の断層情報を取得する第1の干渉計と、被検眼からの第2の光の反射光から得られる第2の干渉光に基づいて、第2の範囲の断層情報を取得する第2の干渉計と、を備える。第1の光の中心波長と、第2の光の中心波長は異なっている。第1スキャン光学系は、第1の光を被検眼の第1の範囲に照射する第1の対物レンズ部を備えている。第2スキャン光学系は、第2の光を被検眼の第2の範囲に照射する第2の対物レンズ部を備えている。第1の光は、第2の対物レンズ部を透過しない一方で、第1の対物レンズ部を透過する。第2の光は、第1の対物レンズ部を透過しない一方で、第2の対物レンズ部を透過する。
【0007】
上記の眼科装置では、第1の範囲の断層情報を取得するために専用の第1の対物レンズ部が配置され、第2の範囲の断層情報を取得するために専用の第2の対物レンズ部が配置される。これによって、従来の眼科装置と比較して、断層情報にノイズが混入することを抑制することができる。
すなわち、従来の眼科装置では、前眼部測定と眼底部測定とで対物レンズが共用され、前眼部用光源の光と眼底用光源の光がともに同一の対物レンズを介して被検眼に照射される。かかる構成を備えるため、眼底用光源からの光は、リレーレンズ及び対物レンズといった2枚のレンズを通って被検眼の眼底に照射されている。したがって、眼底に光を走査するために必要なレンズパワー(屈折力)は、2つのレンズに分散することになる。このため、リレーレンズと対物レンズの間の光の主光線は、走査角度によらず常に光軸に対して平行に近くなり、被検眼に配置された対物レンズに垂直に近い角度で入射することになる。その結果、対物レンズの表面で反射される光によるノイズが眼底用断層画像に映り込むという問題が生じる。
上記の眼科装置では、第1の範囲の断層情報を取得するための専用の第1の対物レンズ部と、第2の範囲の断層情報を取得するための専用の第2の対物レンズ部を備えている。したがって、第1の範囲に光を照射するためのレンズパワーは第1の対物レンズ部で付与することができ、第2の範囲に光を照射するためのレンズパワーは第2の対物レンズ部で付与することができる。このため、第1の対物レンズ部への光の入射角を比較的自由に設定でき、また、第2の対物レンズ部への光の入射角を比較的自由に設定できる。これによって、対物レンズ部の表面で反射される光によるノイズが断層情報に混入することを抑制することができる。
なお、上記した「対物レンズ部」は、1枚のレンズ(単レンズ)で構成されていてもよいし、同一の鏡筒内に収まる複数枚のレンズの組合せで構成されていてもよい。複数枚のレンズの組合せで対物レンズ部を構成する場合は、ダブレットレンズやトリプレットレンズのように空気との境界面の数が最少となる貼り合わせレンズで構成することが好ましい。
【0008】
本明細書に開示する第2の眼科装置は、第1の光を出力する第1の光源と、第2の光を出力する第2の光源と、第1の光源から出力される第1の光を被検眼の第1の範囲で走査する第1スキャン光学系と、第2の光源から出力される第2の光を被検眼の第1の範囲とは異なる第2の範囲で走査する第2スキャン光学系と、被検眼からの第1の光の反射光から得られる第1の干渉光に基づいて、第1の範囲の断層情報を取得する第1の干渉計と、被検眼からの第2の光の反射光から得られる第2の干渉光に基づいて、第2の範囲の断層情報を取得する第2の干渉計と、を備える。第1の範囲は、被検眼の前眼部である。第2の範囲は、被検眼の眼底部である。第1の光の中心波長と、第2の光の中心波長は異なっている。第1の光の光路である第1光路は、第2の光の光路である第2光路と重複する重複区間と、第2光路と重複しない第1非重複区間と、を備えている。第2光路は、前記重複区間と、第1光路と重複しない第2非重複区間と、を備えている。眼科装置は、検眼と対向する見口部をさらに備えている。重複区間は、被検眼と見口部とを結ぶ区間を含む第1重複区間を備えている。眼科装置は、第1重複区間から第1非重複区間と第2非重複区間とに分岐する第1位置に配置される第1ダイクロイックミラーをさらに備えている。第1ダイクロイックミラーは、第1の光を反射する一方で、第2の光を透過する。第1ダイクロイックミラーの裏面には、第1の光の波長帯域に対してARコート(Anti Reflection Coating)が施されている。
【0009】
上記の眼科装置では、前眼部用の第1の光源から出力される第1の光は、第1ダイクロイックミラーで反射され、見口部を通って被検眼の前眼部に照射される。これにより、ダイクロイックミラーを透過した光を前眼部に照射することで生じるゴーストノイズの発生を回避することができる。すなわち、第1ダイクロイックミラーで透過された光を被検眼の前眼部に照射する場合、第1ダイクロイックミラーの裏面反射光も被検眼の前眼部に照射される。虹彩の光の反射強度は強いため、第1ダイクロイックミラーの裏面反射光も虹彩から強く反射され、これによって、断層情報にゴーストノイズが混入することになる。上記の眼科装置では、被検眼の前眼部の断層情報を取得するときは、第1ダイクロイックミラーで反射された第1の光を被検眼の前眼部に照射するため、断層情報にゴーストノイズが混入することを抑制することができる。
さらに、上記の眼科装置では、第1ダイクロイックミラーの裏面には、第1の光の波長帯域に対してARコートが施されている。これによって、被検眼の前眼部の断層情報を取得する際に、第1ダイクロイックミラーの裏面で反射される第1の光の反射光の強度が抑えられ、断層情報にノイズが混入することをさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施例1の眼科装置の前眼部スキャン光学系を説明するための図。
【
図3】実施例1の眼科装置の眼底スキャン光学系を説明するための図。
【
図4】実施例1の眼科装置の全屈折力計測光学系のうち被検眼から反射された光を受光するための受光系の構成を説明するための図。
【
図5】実施例1の眼科装置のフロントモニター光学系を説明するための図。
【
図6】実施例1の眼科装置の位置検出投光系を説明するための図。
【
図7】実施例1の眼科装置の位置検出受光光学系を説明するための図。
【
図8】実施例1の眼科装置の固視標光学系を説明するための図。
【
図9】従来技術に係る眼科装置において、対物レンズの反射ノイズが映り込んだ断層画像の一例。
【
図10】従来技術に係る眼科装置において、全屈折力測定時に撮像される、対物レンズの反射ノイズが映り込んだ画像の一例。
【
図11】ダイクロイックミラーの裏面反射を説明するための図。
【
図12】ダイクロイックミラーの裏面反射により生じるゴーストノイズが映り込んだ被検眼Eの前眼部断層像の一例。
【
図13】ダイクロイックミラーの表面を透過した光の裏面反射を説明するための図。
【
図14】虹彩信号強度を変えたときに取得される前眼部断層像の例
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に開示する眼科装置では、第1の光の光路である第1光路は、前記第2の光の光路である第2光路と重複する重複区間と、第2光路と重複しない第1非重複区間と、を備えていてもよい。第2光路は、前記重複区間と、第1光路と重複しない第2非重複区間と、を備えていてもよい。第1の対物レンズ部は、第1非重複区間に配置されていてもよい。第2の対物レンズ部は、前記第2非重複区間に配置されていてもよい。このような構成によると、第1の光を第1の対物レンズ部を介して被検眼に照射でき、かつ、第2の光を第2の対物レンズ部を介して被検眼に照射することができる。
【0012】
本明細書に開示する眼科装置では、第1スキャン光学系は、第1の光源から出力される第1の光を走査する第1スキャナを備えていてよい。第2スキャン光学系は、第2の光源から出力される第2の光を走査する第2スキャナを備えていてもよい。第1スキャナは、第1非重複区間に配置されており、第2スキャナは、第2非重複区間に配置されていてもよい。このような構成によると、第1スキャナを第1の範囲を光で走査するために適したものとすることができ、また、第2スキャナを第2の範囲を光で走査するために適したものとすることができる。
【0013】
本明細書に開示する眼科装置では、第1の光源から出力される第1の光を走査すると共に、第2の光源から出力される前記第2の光を走査するスキャナをさらに備えていてもよい。スキャナは、重複区間に配置され、第1スキャン光学系と第2スキャン光学系とで共用されていてもよい。第1の対物レンズ部は、スキャナと被検眼の間に配置されていてもよい。第2の対物レンズ部は、スキャナと被検眼の間に配置されていてもよい。このような構成によると、第1スキャン光学系と第2スキャン光学系とでスキャナが共用されているため、光学系の部品点数を削減することができる。また、スキャナを共用することで、装置を小型化することができる。
【0014】
本明細書に開示する眼科装置では、第1の範囲は、被検眼の前眼部であってもよい。第2の範囲は、被検眼の眼底部であってもよい。眼科装置は、被検眼と対向する見口部をさらに備えていてもよい。重複区間は、被検眼と見口部とを結ぶ区間を含む第1重複区間を備えていてもよい。眼科装置は、第1重複区間から第1非重複区間と第2非重複区間とに分岐する第1位置に配置される第1ダイクロイックミラーをさらに備えていてもよい。第1ダイクロイックミラーは、第1の光を反射する一方で、第2の光を透過してもよい。このような構成によると、被検眼の前眼部の断層情報を取得するときは、第1ダイクロイックミラーで反射された第1の光が被検眼の前眼部に照射される。このため、ダイクロイックミラーを透過した光を前眼部に照射することで生じるゴーストノイズの発生を回避することができる。
【0015】
本明細書に開示する眼科装置では、第1ダイクロイックミラーの裏面には、第1の光の波長帯域に対してARコート(Anti Reflection Coating)が施されていてもよい。このような構成によると、被検眼の前眼部の断層情報を取得する際に、第1ダイクロイックミラーの裏面で反射される第1の光の反射光の強度が抑えられ、断層情報にノイズが混入することをさらに抑制することができる。
【0016】
本明細書に開示する眼科装置では、重複区間は、第1非重複区間と第2非重複区間とが合流・分岐する第2位置とスキャナとを結ぶ区間を含む第2重複区間を備えていてもよい。眼科装置は、第2位置に配置される第2ダイクロイックミラーをさらに備えていてもよい。第2ダイクロイックミラーは、第1の光を反射する一方で、第2の光を透過してもよい。このような構成によると、被検眼の前眼部の断層情報を取得するときは、第2ダイクロイックミラーで反射された第1の光が被検眼の前眼部に照射される。このため、ダイクロイックミラーを透過した光を前眼部に照射することで生じるゴーストノイズの発生を回避することができる。
【0017】
本明細書に開示する眼科装置では、第2ダイクロイックミラーの裏面には、前記第1の光の波長帯域に対してARコート(Anti Reflection Coating)が施されていてもよい。このような構成によると、被検眼の前眼部の断層情報を取得する際に、第2ダイクロイックミラーの裏面で反射される第1の光の反射光の強度を抑えることができ、断層情報にノイズが混入することを抑制することができる。
【0018】
本明細書に開示する眼科装置では、第2重複区間の両端の位置のうち第2位置とは異なる第3位置には、第3ダイクロイックミラーがさらに配置されていてもよい。第3ダイクロイックミラーは、第1の光を反射する一方で、第2の光を透過してもよい。また、第3ダイクロイックミラーの裏面には、第1の光の波長帯域に対してARコート(Anti Reflection Coating)が施されていてもよい。このような構成によると、被検眼の前眼部の断層情報を取得する際に、第3ダイクロイックミラーの裏面で反射される第1の光の反射光の強度を抑えることができ、断層情報にノイズが混入することを抑制することができる。
【実施例】
【0019】
以下、本実施例に係る眼科装置について説明する。本実施例に係る眼科装置は、被検眼Eの前眼部の断層画像の取得と、被検眼Eの眼底部の断層画像の取得と、被検眼Eの全屈折力の計測等を行うことができる。このため、被検眼Eの状態を総合的に診断するための情報を1台の眼科装置で取得することができる。上記の複数の機能を果たすために、本実施例の眼科装置は、
図1に示す光学系10を備えている。すなわち、光学系10は、前眼部スキャン光学系と、眼底スキャン光学系と、全屈折力計測光学系と、フロントモニター光学系と、位置検出光投光光学系と、位置検出光受光光学系と、固視標光学系と、を備えている。以下、各光学系について説明する。
【0020】
図2に示すように、前眼部スキャン光学系は、前眼部用光源26(第1の光源の一例)と、コリメートレンズ28と、ダイクロイックミラー30と、2次元スキャナ32と、ダイクロイックミラー34と、全反射ミラー40と、対物レンズ42(第1の対物レンズ部の一例)と、ダイクロイックミラー44によって構成されている。
【0021】
前眼部用光源26は、波長掃引型の光源であり、出力される光の波長(波数)が所定の周期で変化する。前眼部用光源26は、長波長の光を出力し、例えば、中心波長が0.95μm以上1.80μm以下の光を出力することができる。本実施例では、前眼部用光源26は、中心波長が1.31μmの光を出力する。長波長の光を用いると、例えば、水晶体の混濁、毛様体、結膜、強膜等の強散乱組織を透過し易くなり、さらに、水の吸収が大きく眼底まで光が到達し難いため、強い光を照射可能である。このため、中心波長が0.95μm以上の光を前眼部用光源26から出力することによって、散乱物質からなる組織への到達度を高くすることができる。また、中心波長が0.95μm以上1.80μm以下の光は、水による分散が少ないため、この範囲の光を被検眼Eに照射すると、画質の良い前眼部OCT画像を取得することができる。また、中心波長が1.80μm以下の光を前眼部用光源12から出力することによって、インジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)系の受光素子によって感度良く対象部位を計測することができる。本実施例では、0.95μm以上1.80μm以下の光を前眼部用光源26から出力することによって、被検眼Eの前眼部の断層画像を好適に撮影することができる。
【0022】
前眼部用光源26から出力される光(第1の光の一例)は、干渉計25を介して図示しない光ファイバから出射され、コリメートレンズ28に入射する。コリメートレンズ28は、前眼部用光源26から出力される光を平行光とする。コリメートレンズ28で平行光となった光は、ダイクロイックミラー30で反射され、2次元スキャナ32に入射される。2次元スキャナ32は、入射する光を被検眼Eの前眼部に対してx方向及びy方向の2方向に走査する。本実施例では、2次元スキャナ32にガルバノスキャナが用いられている。なお、2次元スキャナ32には、ガルバノスキャナ以外のものも用いることができ、例えば、2軸スキャンが可能なMEMSミラーを用いることもできる。2次元スキャナ32から出射された光は、ダイクロイックミラー34及び全反射ミラー40を介して対物レンズ42に入射する。対物レンズ42に入射した光は、対物レンズ42を透過し、ダイクロイックミラー44で反射され、被検眼Eの前眼部近傍で集光し、被検眼Eに照射される。本実施例では、2次元スキャナ32は、対物レンズ42の後側焦点に配置されている。このため、2次元スキャナ32から出射した光は、光軸(光路L12)に対して平行に被検眼Eまで到達する。すなわち、本実施例では、被検眼Eの前眼部に対して光をテレセントリックスキャンで走査する。なお、ダイクロイックミラー44と被検眼Eの間には、見口部45が配置されている。見口部45は、計測時に被検眼Eと対向する位置に配置される。見口部45は、図示しないハウジングに設けられ、このハウジング内に光学系10が収容されている。
【0023】
被検眼Eの前眼部で反射された光は、上述した経路と同一の経路を進み、図示しない光ファイバを介して干渉計25(第1の干渉計の一例)に導かれる。干渉計25は、被検眼Eの前眼部で反射された光と、前眼部用光源26から出力される光から別途生成した参照光とを合波し、合波して得られる干渉光を検出して干渉信号を出力する。本実施例の眼科装置では、干渉計25から出力される干渉信号を処理することで、被検眼Eの前眼部の断層画像が取得される。
【0024】
上記の説明から明らかなように、前眼部スキャン光学系では、光路L3と、光路L4の一部(詳細には、ダイクロイックミラー30と2次元スキャナ32の間の範囲)と、光路L5と、光路L6と、光路L8(すなわち、全反射ミラー40とダイクロイックミラー44の間の範囲)と、光路L12とが、光が通過する経路となる。
【0025】
図3に示すように、眼底スキャン光学系は、眼底用光源76(第2の光源の一例)と、レンズ22と、偏光ビームスプリッタ24と、ダイクロイックミラー30と、2次元スキャナ32と、ダイクロイックミラー34と、ダイクロイックミラー56と、対物レンズ54(第2の対物レンズ部の一例)と、ダイクロイックミラー44によって構成されている。
【0026】
眼底用光源76は、波長固定型の光源である。眼底用光源76は、前眼部用光源26から出力される光とは異なる中心波長を有する光を出力し、例えば、中心波長が0.40μm以上1.15μm以下の光を出力することができる。また例えば、眼底用光源76は、前眼部用光源12が出力する光の半値幅の波長範囲とは異なる波長範囲に半値幅を有する光を出力してもよい。本実施例では、眼底用光源76は、中心波長が0.83μmの光を出力する。中心波長が0.40μm以上1.15μm以下の光は、眼球内での透過率が高い。このため、中心波長が0.40μm以上1.15μm以下の光を光源から出力することによって、当該光を被検眼Eの眼底まで十分に照射することができる。また、中心波長が0.40μm以上0.95μm以下の光は、シリコン系の受光素子の感度が高い。また、中心波長が0.95μm以上1.15μm以下の光は、水による波長分散が少ないため、この範囲の光を被検眼Eに照射すると、画質の良い眼底OCT画像を取得することができる。したがって、中心波長が0.40μm以上1.15μm以下の光を光源から出力することによって、被検眼Eの眼底の断層画像を好適に撮影することができる。
【0027】
眼底用光源76から出力される光(第2の光の一例)は、P偏光成分のみの光となるよう調整された後、干渉計77を介して図示しない光ファイバから出射される。光ファイバから出射された光は、レンズ22、偏光ビームスプリッタ24、ダイクロイックミラー30を透過し、2次元スキャナ32に入射される。2次元スキャナ32は、入射する光を被検眼Eの眼底に対してx方向及びy方向の2方向に走査する。2次元スキャナ32から出射された光は、ダイクロイックミラー34を透過し、ダイクロイックミラー56で反射され、対物レンズ54に入射する。対物レンズ54に入射した光は、対物レンズ54を透過し、ダイクロイックミラー44を透過して、被検眼Eの眼底部近傍で集光し、被検眼Eの眼底に照射される。なお、本実施例の眼科装置では、被検眼Eの眼底に収束光が照射されるように対物レンズ54のパワーが設定されている。また、眼底用光源76から出力される光が出射される光ファイバの出射端の位置は、光軸の方向(光路L4の伸びる方向)に移動可能となっており(すなわち、光路長が調整可能となっており)、被検眼Eの屈折力に応じて移動するようになっている。
【0028】
被検眼Eの眼底部で反射された光は、上述した経路と同一の経路を進み、図示しない光ファイバを介して干渉計77(第2の干渉計の一例)に導かれる。干渉計77は、被検眼Eの眼底部で反射された光と、眼底用光源76から出力される光から別途生成した参照光とを合波し、合波して得られる干渉光を検出して干渉信号を出力する。本実施例の眼科装置では、干渉計77から出力される干渉信号を処理することで、被検眼Eの眼底部の断層画像が取得される。
【0029】
上記の説明から明らかなように、眼底スキャン光学系では、光路L4と、光路L5と、光路L9と、光路L10と、光路L12とが、光が通過する経路となる。したがって、前眼部スキャン光学系と眼底スキャン光学系とでは、光路L4の一部(詳細には、ダイクロイックミラー30と2次元スキャナ32の間の範囲)と、光路L5と、光路L12の部分が重複する経路(重複区間の一例)となっており、光路L8と光路L6と光路L3が前眼部スキャン光学系の光のみの経路(第1非重複区間の一例)となっており、光路L4の他の部分と、光路L9と、光路L10が眼底スキャン光学系の光のみの経路(第2非重複区間の一例)となっている。
【0030】
次に、全屈折力計測光学系について説明する。全屈折力計測光学系の被検眼Eに光を投光する投光系は、眼底スキャン光学系の投光系と同一構成を有している。このため、全屈折力計測光学系の受光系について説明する。
図4に示すように、全屈折力計測光学系は、ダイクロイックミラー44と、対物レンズ54と、ダイクロイックミラー56と、ダイクロイックミラー34と、2次元スキャナ32と、ダイクロイックミラー30と、偏光ビームスプリッタ24と、レンズ20と、ミラー18と、アパ―チャ17、レンズ16、ドーナツレンズ14と、2次元センサ12によって構成されている。
【0031】
図3,4の比較から明らかなように、被検眼Eの眼底で散乱した光の経路は、ダイクロイックミラー44から偏光ビームスプリッタ24までは、眼底スキャン光学系と同一の経路となる。偏光ビームスプリッタ24では、被検眼Eの眼底で散乱した光のうちS偏光成分のみが反射され、レンズ20を介してミラー18に照射される。ミラー18に照射された光は、アパ―チャ17、レンズ16、ドーナツレンズ14を透過し、2次元センサ12の検出面でリング状に結像する。2次元センサ12で結像されたリング像に基づいて、被検眼Eの全屈折力が算出される。なお、本実施例では、ドーナツレンズ14を用いることで、被検眼Eの眼底で散乱した光を2次元センサ12の受光面にリング状に結像させたが、このような例に限られず、例えば、ドーナツレンズ14の代わりにレンズアレイを用い、2次元センサ12の受光面にドットパターンを結像させてもよい。アパ―チャ17、レンズ16、ドーナツレンズ14、2次元センサ12は一体化されており、光軸(光路L1)の方向に移動可能となっており、被検眼Eの全屈折力に応じて移動するようになっている。
【0032】
図5に示すように、フロントモニター光学系は、LED46,48と、ダイクロイックミラー44と、対物レンズ42と、全反射ミラー40と、ダイクロイックミラー34と、アパーチャ70と、レンズ72と2次元センサ74によって構成されている。
【0033】
LED46,48は、被検眼Eの斜め前方に配置されており、被検眼Eの前眼部を照明する。LED46,48は、中心波長が0.76μmの光を被検眼Eに照射する。被検眼Eで反射された光は、ダイクロイックミラー44で反射し、対物レンズ42を透過し、全反射ミラー40で反射し、ダイクロイックミラー34、アパーチャ70、レンズ72を透過し、2次元センサ74上で前眼部の正面画像が結像する。2次元センサ74で撮像された被検眼Eの前眼部像は、図示しない表示装置に表示される。なお、アパーチャ70は、対物レンズ42の後側焦点に配置され、前眼部画像がデフォーカスしていても画像倍率が変わらないようになっている。
【0034】
位置検出光投光光学系は、
図6に示すように、LED68と、レンズ66と、ダイクロイックミラー58と、ダイクロイックミラー56と、対物レンズ54と、ダイクロイックミラー44によって構成されている。LED68は、中心波長が0.94μmの光を出射する。LED68から出射された光は、レンズ66、ダイクロイックミラー58,56、対物レンズ54、ダイクロイックミラー44を透過し、被検眼Eの角膜を照射する。被検眼Eに照射された光は、被検眼Eの角膜表面で鏡面反射し、角膜頂点の延長線上にLED68の発光面の虚像が形成される。
【0035】
位置検出光受光光学系は、光軸(光路L12)に直交する方向(横方向)の角膜頂点位置を検出すると共に、光軸方向(奥行き方向)の角膜頂点位置を検出する。位置検出光受光光学系は、レンズ50と2次元センサ52と、レンズ38と2次元センサ36によって構成されている(
図7参照)。レンズ50と1次元センサ52は、被検眼Eの斜め前方に配置されている。レンズ38と2次元センサ36も、被検眼Eの斜め前方に配置されている。レンズ38及び2次元センサ36と、レンズ50及び1次元センサ52とは、光軸(光路L12)に対して対称な位置に配置されている。被検眼Eの角膜頂点からわずかにずれた位置で反射した光は、斜め方向に反射し、レンズ50を透過し、2次元センサ52にLED68の発光面の虚像が投影される。同様に、被検眼Eの角膜頂点からわずかにずれた位置で反射した光は、レンズ38を透過し、2次元センサ36にLED68の発光面の虚像が投影される。本実施例の眼科装置では、2次元センサ36、52で検出されるLED68の発光面の虚像に基づいて、光軸(光路L12)に直交する方向(横方向)の角膜頂点位置が検出されると共に、光軸方向(奥行き方向)の角膜頂点位置が検出される。
【0036】
2次元センサ36及び2次元センサ52の検出結果に基づいて、被検眼Eの角膜頂点の位置が検出されると、光学系10を収容するハウジングが図示しない駆動装置によって駆動され、被検眼Eの角膜頂点に対してハウジングを測定位置に位置決めする。これによって、被検眼Eに対して見口部45が位置決めされ、光学系10の対物レンズ42,54が位置決めされる。被検眼Eに対して見口部45(光学系10の対物レンズ42,54等)が位置決めされると、被検眼Eの前眼部断層画像と眼底部断層画像と全屈折力を取得する間、被検眼Eに対して見口部45や対物レンズ42,54等の位置が変わることはない。
【0037】
図8に示すように、固視標光学系は、LED64と、レンズ62と、ミラー60と、ダイクロイックミラー58,56と、対物レンズ54と、ダイクロイックミラー44とで構成されている。LED64は、白色光を出射する。LED64からの光は、被検者が固視するためのシンボルが印刷された画像フィルムを透過し、ミラー60で反射される。ミラー60で反射された光は、ダイクロイックミラー58で反射し、ダイクロイックミラー56、対物レンズ54、ダイクロイックミラー44を透過して被検眼Eに向かって照射される。なお、LED64及び画像フィルムは、光軸方向(光路L20に沿った方向)に移動可能となっており、被検眼Eの全屈折力に応じて位置が調整される。
【0038】
上述の説明から明らかなように、本実施例の眼科装置では、被検眼Eとダイクロイックミラー44との間の光路L12に対物レンズが配置されず、前眼部スキャン光学系専用の光路L8に前眼部スキャン光学系専用の対物レンズ42が配置され、また、眼底スキャン光学系専用の光路L10に眼底スキャン光学系専用の対物レンズ54が配置される。このため、従来技術と比較して、対物レンズ42,54の表面で反射する反射光により生じるノイズが断層画像に混入することを抑制することができる。
【0039】
すなわち、従来技術のように、被検眼Eとダイクロイックミラー44との間の光路L12に共通の対物レンズを配置し、眼底スキャン光学系専用の光路にリレーレンズを配置する構成を採用すると、眼底スキャン光学系では、対物レンズとリレーレンズという2枚のレンズが配置されることになる。すなわち、光を眼底で走査するために必要なレンズパワー(屈折力)は、対物レンズとリレーレンズという2枚のレンズに分散することになる。このため、リレーレンズと対物レンズの間の光の主光線は、走査角度によらず常に光軸に対して平行に近くなり、被検眼側に配置された対物レンズに垂直に近い角度で入射することになる。その結果、対物レンズの表面(すなわち、被検眼と反対側の面)で反射される光によるノイズが眼底用断層画像に映り込むという問題が生じる(
図9参照)。しかしながら、本実施例の眼科装置の眼底スキャン光学系では、光路L10に専用の対物レンズ54が配置され、対物レンズ54と被検眼Eの間にはレンズが配置されず、また、2次元スキャナ32と対物レンズ54の間にもレンズが配置されていない。このため、光を眼底で走査するために必要なレンズパワー(屈折力)は、対物レンズ54によって付与することができる。その結果、対物レンズ54への光の入射角を調整することができ、対物レンズ54で反射される光が断層画像に混入することを抑制することができる。同様に、本実施例の眼科装置の前眼部スキャン光学系では、光路L8に専用の対物レンズ42が配置され、対物レンズ42と被検眼Eの間にはレンズが配置されず、また、2次元スキャナ32と対物レンズ42の間にもレンズが配置されていない。このため、光を前眼部で走査するために必要なレンズパワー(屈折力)は、対物レンズ42によって付与することができる。その結果、対物レンズ42への光の入射角を調整することができ、対物レンズ42で反射される光が断層画像に混入することを抑制することができる。
【0040】
また、従来技術のように、被検眼Eとダイクロイックミラー44との間の光路L12に共通の対物レンズを配置し、眼底スキャン光学系専用の光路にリレーレンズを配置する構成を採用すると、全屈折力計測光学系の受光系に対物レンズとリレーレンズの2枚のレンズが配置されることになる。このため、リレーレンズと対物レンズの間の光の主光線が光軸に対して平行に近くなり、被検眼側に配置された対物レンズに垂直に近い角度で入射することになる。その結果、被検眼Eの眼底部で反射された像だけではなく、対向レンズの表面(被検眼と反対側の面)で反射される光により生じる像がノイズとして混入される。例えば、
図10に示すように、最外周側に位置する円状の像(眼底部で反射された光による像)だけではなく、内側の円状の像(対物レンズで反射された光による像)が含まれることになる。本実施例の眼科装置の全屈折力計測光学系の受光系では、光路L10に対物レンズ54が配置され、対物レンズ54と被検眼Eの間にはレンズが配置されず、また、2次元スキャナ32と対物レンズ54の間にもレンズが配置されていない。このため、対物レンズ54の表面で反射される光が、屈折力計測光学系で撮像される画像に混入することを抑制することができる。
【0041】
また、本実施例の眼科装置では、前眼部スキャン光学系の光路と眼底スキャン光学系の光路とを分岐及び合流させるためにダイクロイックミラー30,34,44,56が用いられている。ここで、前眼部スキャン光学系の光路に配置されているダイクロイックミラー30(請求項でいう第3ダイクロイックミラーの一例),ダイクロイックミラー34(請求項でいう第2ダイクロイックミラーの一例),ダイクロイックミラー44(請求項でいう第1ダイクロイックミラーの一例)のそれぞれは、前眼部スキャン光学系の光に対して反射するように構成されている。これによって、前眼部断層画像に、被検眼Eの虹彩のゴーストノイズが発生することを抑制することができる。すなわち、
図11に示すように、前眼部スキャン光学系の光84がダイクロイックミラーDMを透過する構成とすると、ダイクロイックミラーDMの出射面80側で反射された光が、ダイクロイックミラーDMの入射面82側でさらに反射(裏面反射)され、この光86が被検眼Eに照射されることになる。被検眼Eの虹彩は、光の反射強度が大きい。このため、
図12に示すように、光84による前眼部像だけではなく、光86が虹彩により反射されることによる像(ゴーストノイズ)が発生することになる。本実施例の眼科装置では、前眼部スキャン光学系の光路に配置されているダイクロイックミラー30,34,44は、前眼部スキャン光学系の光に対して全て反射するように構成されているため、上述したゴーストノイズが前眼部断層画像に発生することを抑制することができる。
【0042】
なお、ダイクロイックミラー30,34,44の裏面には、前眼部スキャン光学系の光(例えば、中心波長が1.31μmの光)に対してARコートが施されていてもよい。これによって、ダイクロイックミラー30,34,44の裏面で反射される前眼部スキャン光学系の光の反射強度を低くでき、前眼部断層画像にゴーストノイズが発生することを好適に抑制することができる。
すなわち、前眼部スキャン光学系の光をダイクロイックミラーで反射する構成を採用しても、
図13で示すように、ダイクロイックミラーDMの表面80に入射した光90の大部分(例えば、98%)は反射光92となるが、その一部(例えば、2%)はダイクロイックミラーDM内を透過し、ダイクロイックミラーDMの裏面82で反射する。ダイクロイックミラーDMの裏面82で反射された光94は、ダイクロイックミラーDMの表面80を透過し、表面を透過した光96が被検眼Eの前眼部に照射される。このため、ダイクロイックミラーDMの裏面82で反射される光94の強度が大きいと、この反射光94によるゴーストノイズが前眼部断層情報に発生することとなる。したがって、ダイクロイックミラー30,34,44の裏面に、前眼部スキャン光学系の光に対してARコート(例えば、1%以下)を施すことで、前眼部断層情報にゴーストノイズが発生することを好適に抑制することができる。
【0043】
例えば、前眼部は、眼底に比べて組織の散乱特性が多様であり、角膜や水晶体のような透明組織を十分なコントラストで撮影するためには、
図14に示すように、虹彩散乱の信号強度はSN比で少なくとも47dB以上が好適で、水晶体から角膜まで一度に撮影するには50dB以上がより好適となる。すなわち、虹彩散乱の信号強度がSN比で45dBの画像では角膜の裏面を明確に認識することができないが、虹彩散乱の信号強度がSN比で47dBの画像では角膜の裏面を認識することができ、虹彩散乱の信号強度がSN比で50dBの画像では角膜の裏面を明確に認識することができる。一方、ダイクロイックミラーDMの裏面にARコートを施さない場合、ダイクロイックミラーDMを透光した光の裏面反射による反射光94の強度を十分に低下させることができず、前眼部断層像に虹彩のゴーストノイズが発生することになる。例えば、ダイクロイックミラーDMの表面反射率を97%とし、前眼部スキャン光を優先的に反射する構成を採用しても、ダイクロイックミラーDMの裏面にARコートをしないと、ダイクロイックミラーDMの裏面反射率は4%となる。このため、ダイクロイックミラーDMの裏面反射光は、ダイクロイックミラーDMの表面反射光に対して消光比-44dBとなり、ゴーストノイズが発生することになる。一方、ダイクロイックミラーDMの裏面にARコートを施すと、ダイクロイックミラーDMの裏面反射率は2%以下となる。このため、ダイクロイックミラーDMの裏面反射光は、ダイクロイックミラーDMの表面反射光に対して消光比-47dB以下となり、ゴーストノイズを抑えることができる。なお、ダイクロイックミラーDMを透過させる場合(
図11に示す場合)は、さらにゴーストノイズを抑えることが難しくなる。例えば、ダイクロイックミラーDMの表面透過率を97%とし、かつ、ダイクロイックミラーDMの裏面にARコートを施しても(例えば、裏面反射率0.5%)としても、ダイクロイックミラーDMの裏面反射によるゴースト信号消光比は-38dBとしかならず、ゴーストノイズを抑えることができない。
そこで、ダイクロイックミラーDMの裏面に、前眼部スキャン光学系の光の波長帯域に対してARコート(2%以下)を施すことで、ダイクロイックミラーDMの裏面反射によるゴースト信号消光比を-47dB以下にすることができる。すなわち、ダイクロイックミラーDMの表面80で反射される光92のパワーに対して、ダイクロイックミラーDMの裏面82で反射される光96のパワーが-47dB以下となる。これによって、前眼部断層像に虹彩のゴーストノイズが発生することを抑制することができる。
【0044】
ここで、ダイクロイックミラーDMの裏面には、一般的に透過する光の波長に対してARコートが施される。すなわち、本実施例に係る光学系の構成を有する場合、ダイクロイックミラーDMの裏面には、通常は眼底スキャン光学系の光に対してARコートが施される。この理由は、反射側の波長の光(すなわち、前眼部スキャン光学系の光)のうち、ミラー面を透過して裏面で反射する光成分は、裏面で反射した後、再度ミラー面を透過する際に大部分が反射するため大きく減衰してノイズとなりにくいのに対して、透過側の波長の光(すなわち、眼底スキャン光学系の光)のうち、ミラー面で反射してさらに裏面で反射する光成分は、裏面で反射した後、ミラー面を透過する際にほとんど減衰しないため、ノイズとなりやすいためである。
なお、前眼部断層像の虹彩信号強度はSN比47dB以上であるのに対して、眼底部断層画像では、網膜色素上皮の信号強度は30dB程度となる。このため、ダイクロイックミラーDMの裏面に透過する光(すなわち、眼底スキャン光学系の光)の波長に対して優先的にARコートを施さなくても、眼底部断層画像に網膜色素上皮のゴーストノイズが発生するといった問題は生じない。
【0045】
また、上述した実施例では、前眼部スキャン光学系と眼底スキャン光学系とで2次元スキャナ32を共用したが、このような例に限られない。例えば、前眼部スキャン光学系に専用の2次元スキャナを配置し、眼底スキャン光学系に専用の他の2次元スキャナを配置してもよい。また、上述した実施例では、前眼部スキャン光学系に1枚の対物レンズ(単レンズ)42を配置したが、前眼部スキャン光学系に配置する対物レンズを同一の鏡筒内に収容される複数のレンズの組合せ(例えば、凸レンズと凹レンズ又は非球面レンズ等との組合せ)によって構成してもよい。同様に、眼底スキャン光学系に配置された1枚の対物レンズ54を同一の鏡筒内に収容される複数のレンズの組合せにより構成される対物レンズに置き換えてもよい。なお、複数枚のレンズの組合せで対物レンズ部を構成する場合は、空気との境界面の数が最少となるように、これらのレンズを貼り合わせて構成してもよい。
【0046】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0047】
26:前眼部用光源
32:2次元スキャナ
34,40,44,56:ダイクロイックミラー
42,54:対物レンズ
76:眼底用光源