(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】グアノシン誘導体及びその製造法
(51)【国際特許分類】
C07H 19/167 20060101AFI20250411BHJP
A61K 51/04 20060101ALI20250411BHJP
【FI】
C07H19/167 CSP
A61K51/04 320
(21)【出願番号】P 2023134012
(22)【出願日】2023-08-21
(62)【分割の表示】P 2020519605の分割
【原出願日】2019-05-10
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2018093159
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174791
【氏名又は名称】川口 敬義
(72)【発明者】
【氏名】徐 岩
(72)【発明者】
【氏名】石塚 匠
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101921835(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101550175(CN,A)
【文献】国際公開第2017/040510(WO,A1)
【文献】特開2011-037796(JP,A)
【文献】特開2009-114171(JP,A)
【文献】国際公開第03/051881(WO,A1)
【文献】Journal of Biochemical and Biophysical Methods,1997年,Vol.35,No.1,pp.61-66
【文献】Angew. Chem. Int. Ed.,2011年,Vol.50,No.23,pp.5392-5396
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2012年,Vol.22,No.9,pp.3136-3139
【文献】Tetrahedron Letters,1985年,Vol.26,No.44,pp.5421-5424
【文献】第45回国際核酸化学シンポジウム日本核酸化学会第2 回年会,2018年11月07日,pp.150-151
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式化1で表されるグアノシン誘導体化合物であって,下記式中,
R
1
がOH,R
2
はHであって,
R
3
は,ビニル基で表され,かつ,二重結合のCが,
11
C,
12
C,
13
C,
14
Cのいずれかで表され,
R
4は,H,一リン酸,二リン酸,三リン酸のいずれかで表される,
グアノシン誘導体化合物。
【化1】
【請求項2】
R
4が,Hで表される請求項1に記載のグアノシン誘導体化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のグアノシン誘導体のR
3と,これと反応するレポーター化合物とによりクリック反応を行うクリック反応方法であって,
前記レポーター化合物が,アジド基を有する化合物であるクリック反応方法。
【請求項4】
前記アジド基を有する化合物が,Azidebenzene,Coumarin Azide,Tetramethylrhodamine (TAMRA) azide,Biotin azideのいずれかから選択される請求項3に記載のクリック反応方法。
【請求項5】
請求項1ないし2に記載のグアノシン誘導体を有効成分とし,請求項3又は4のいずれかに記載のクリック反応方法を,細胞ないし生体組織において行うことにより,細胞ないし動物における生体組織を標識する
イメージング剤。
【請求項6】
前記標識が,蛍光標識,発光体による標識,放射標識,核磁気共鳴活性標識,これらのいずれか又は複数から選択される請求項5に記載の
イメージング剤。
【請求項7】
請求項1又は2のグアノシン誘導体化合物を有効成分とする癌イメージング剤。
【請求項8】
前記癌が,脳,大腸,胃癌をはじめとする固形癌である
請求項7に記載の癌イメージング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,グアノシン誘導体及びその製造法に関する。より詳細にいうと本発明は,8位にエチニル基やビニル基などの置換基を有するグアノシン誘導体等に関する。
【背景技術】
【0002】
RNAやDNAなどの核酸に関して,誘導体を細胞内の核酸に結合させ,蛍光標識する技術が研究されている。かかる技術は,核酸の挙動や局在などを可視化しうることから,細胞増殖やタンパク合成などを反映すると考えられ,核酸解析や医学的診断に有用と期待されている。
【0003】
このような核酸標識技術のためには,RNAやDNAを構成する核酸塩基に対応した誘導体が必要である。
すなわち,RNAではアデニン,グアノシン,シトシン,ウリジン,一方,DNAでは,アデニン,グアノシン,シトシン,チミン,これらに関する誘導体が必要である。
【0004】
これらのうち,ピリミジン塩基に関する誘導体は,複数,開発されている。
例えば,DNA型のウリジン誘導体として,5-EdU(5-deoxy-ethynil-uridine, 5-エチニル-デオキシ-ウリジン,非特許文献1,2,4,5)が開発されている。また,RNA型のウリジン誘導体として,5-EU(5-ethynil-uridine, 5-エチニル-ウリジン,非特許文献3)が開発されている。
これらのピリミジン塩基誘導体は,それぞれ細胞内の核酸に取り込まれ,蛍光により核酸標識が可能なことが開示されている。
このように,ピリミジン塩基に関する誘導体は多数開発されているものの,プリン塩基の誘導体は,未だ開発されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】T. Ishizuka, H. S. Liu, K. Ito, Y. Xu, Fluorescence Imaging of Chromosomal DNA using Click Chemistry. Sci. Rep. 6, 33217 (2016)
【文献】Salic, A. & Mitchison, T. J. A chemical method for fast and sensitive detection of DNA synthesis in vivo. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 2415-2420 (2008).
【文献】Jao, C. Y. & Salic, A. Exploring RNA transcription and turnover in vivo by using click chemistry. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105, 15779-15784 (2008).
【文献】Neef, A. B. & Luedtke, N. W. Dynamic metabolic labeling of DNA in vivo with arabinosyl nucleosides. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 20404-20409 (2011).
【文献】Yamakoshi, H. et al. Imaging of EdU, an alkyne-tagged cell proliferation probe, by Raman microscopy. J. Am. Chem. Soc. 133, 6102-6105 (2011).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プリン塩基誘導体について未だ開発がなされていないのは,一つの要因として,合成の難しさがあると考えられる。
すなわち,プリン塩基は化合物としての取扱性が悪く,アグリゲーションを起こし,粘性をもった状態となりやすい。このような事情もあって,プリン塩基誘導体の開発が未だなされていないと考えられる。
上記事情を背景として,本発明では,プリン塩基誘導体の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは,鋭意研究の結果,グアノシンを出発物質として,ブロモ化,糖部位の水酸基の保護および核酸塩基部分の保護,Pd触媒を用いたカップリング反応(エチニル基の導入),これら一連の工程により,グアノシンの8位にエチニル基を導入したグアノシン誘導体の合成に成功し,発明を完成させたものである。
また発明者らは,合成したグアノシン誘導体が,RNAに取り込まれるとともに,クリック反応により細胞標識が可能なことを確認し,発明を完成させたものである。
同様に発明者らは,デオキシグアノシンを出発物質として,ブロモ化,Pd触媒を用いたカップリング反応(エチニル基の導入)により,デオキシグアノシンの8位にエチニル基を導入したデオキシグアノシン誘導体の合成に成功し,発明を完成させたものである。
さらに発明者らは,ビニル基を導入したビニル基導入グアノシン誘導体を完成させ有用性を明らかとすることにより,エチニル基導入グアノシン誘導体もしくはビニル基導入グアノシン誘導体を基礎として発展させた化合物に想到し,発明を完成させたものである。
【0008】
本発明は,下記の構成からなる。
[1]下記式で表されるグアノシン誘導体化合物であって,下記式中,
R
1およびR
2は,いずれか一方がHであって,他方が,H,OH,OCH
3,Fのいずれかで表され,
R
3
は,二重結合を有する化合物で表され,
R
4は,H,一リン酸,二リン酸,三リン酸のいずれかで表される,
ことを特徴とするグアノシン誘導体化合物。
【化1】
[2]前記グアノシン誘導体のR
1およびR
2において,
一方が
1H,
2H,
3Hのいずれかであって,
他方が,
1H,
2H,
3Hのいずれか,又は,
18Fもしくは
19F,
で表される[1]に記載のグアノシン誘導体。
[3]前記グアノシン誘導体のR
3において,
二重結合のCが,
11
C,
12
C,
13
C,
14
Cのいずれかで表される[1]又は[2]に記載のグアノシン誘導体。
[4]R
1およびR
2が,いずれか一方がHであって,他方が,HまたはOHのいずれかで表される[1]から[3]のいずれかに記載のグアノシン誘導体化合物。
[5]R
4が,Hで表される[1]から[4]のいずれかに記載のグアノシン誘導体化合物。
【0009】
[6]さらに,R
3が,下記置換基のいずれかで表される[1]から[5]のいずれかに記載のグアノシン誘導体。
【化3】
[7]R
3が,ビニル基(B5)で表される置換基である[6]に記載のグアノシン誘導体。
【0010】
[8][1]ないし[7]のグアノシン誘導体のR3と,これと反応するレポーター化合物とによりクリック反応を行うクリック反応方法。
[9]前記レポーター化合物が,アジド基を有する化合物である[8]に記載のクリック反応方法。
[10]前記アジド基を有する化合物が,Azidebenzene,Coumarin Azide,Tetramethylrhodamine (TAMRA) azide,Biotin azideのいずれかから選択される[9]に記載のクリック反応方法。
[11][1]ないし[7]に記載のグアノシン誘導体を有効成分とし,[8]から[10]のいずれかに記載のクリック反応方法を,細胞ないし生体組織において行うことにより,細胞ないし動物における生体組織を標識するイメージング剤。
[12]前記標識が,蛍光標識,発光体による標識,放射標識,核磁気共鳴活性標識,これらのいずれか又は複数から選択される[11]に記載のイメージング剤。
【0011】
[13][1]ないし[7]のグアノシン誘導体を有効成分とする癌イメージング剤。
[14]前記癌が,脳,大腸,胃癌をはじめとする固形癌である[13]に記載の癌イメージング剤。
[15]下記式で表される,グアノシン誘導体化合物の製造方法であって,
グアノシンを出発物質として8位をブロモ化するブロモ化工程と,
糖骨格における水酸基を保護する水酸基保護工程と,
核酸塩基部分のカルボニル基を保護するカルボニル基保護工程と,
8位をカップリング反応により,置換基R
3を導入するR
3導入工程と,
全ての保護基を脱離する脱離工程とからなるグアノシン誘導体化合物の製造方法。
【化5】
(式中,R
3は,
二重結合を有する化合物で表される置換基で表される)
【発明の効果】
【0012】
本発明により,プリン塩基誘導体の提供が可能となった。
すなわち,本発明で完成された8-エチニルグアノシン誘導体や8-ビニルグアノシン誘導体により,8位に置換基を有するグアノシン誘導体の合成方法が提供されたものであり,これを用いて,核酸標識を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
8-ビニルグアノシン(8-VG)の合成経路と,8-VGのNMRチャートを示した図。
【
図2】
8-ビニルグアノシンならびにFAM Tetrazineを細胞において反応させた様子を示した図。
【
図5】
8-EG又は8-VGの安定性を調べた結果を示した図。
【
図6】8-エチニルグアノシンの合成経路を示した図。
【
図7】8-エチニルグアノシンのNMRチャートを示した図。
【
図8】8-エチニル-2’-グアノシンの合成経路を示した図。
【
図9】8-エチニル-2’-グアノシンのNMRチャートを示した図。
【
図10】8-エチニルグアノシンならびにアジドゼンゼンとの反応生成物のLC-MS分析結果を示した図。
【
図11】8-エチニルグアノシンならびにアジドゼンゼンとの反応生成物のNMRチャートを示した図。
【
図12】8-エチニルグアノシンならびにアジドゼンゼンとの反応生成物の蛍光の様子を示した図。
【
図13】8-エチニルグアノシンならびにアジドゼンゼンを細胞において反応させた様子を示した図。
【
図14】8-エチニルグアノシンを生体内投与した際の脳における分布とクリック反応の結果を示した図。
【
図15】8-エチニルグアノシンを生体内投与した際の腸における分布とクリック反応の結果を示した図。
【
図16】8-エチニルグアノシンを生体内投与した際の腎臓における分布とクリック反応の結果を示した図。
【
図17】8-エチニルグアノシン(8EG)とエチニルウリジン(EU)のアラマーブルーアッセイによる細胞毒性評価の結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のグアノシン誘導体化合物等について説明を行う。
【0015】
本発明のグアノシン誘導体化合物は,下記式化6で表される化合物ないしこれの塩として定義される。
【0016】
【0017】
前記化6において,R
1およびR
2は,いずれか一方がHであって,他方が,H,OH,OCH
3,Fのいずれかで表される。このような化合物として,下記化7に示す化合物が例示される。
【化7】
すなわち,R
1およびR
2のいずれもがHの場合(D1),デオキシグアノシン誘導体として,DNAに取り込まれることが期待される。また,R
1およびR
2のいずれかがOHの場合(D2,D3),グアノシン誘導体(非デオキシグアノシン誘導体)として,RNAに取り込まれることが期待される。加えて,R
1およびR
2のいずれかがOCH
3の場合(D6),2’がメチル化されたメチルグアノシン誘導体の挙動を検出できることが期待される。さらに,R
1およびR
2のいずれかがFの場合(D4,D5),Fを
18Fなどとすることにより,後述するように標識体としてグアノシン誘導体の挙動を検出できることが期待される。
【0018】
前記化6において,R4は,H,一リン酸,二リン酸,三リン酸のいずれかで表される。
すなわち,R4がHの場合は核酸誘導体として,R4が,一リン酸,二リン酸,三リン酸の場合はリン酸化核酸誘導体として,いずれも核酸への取込や各誘導体の挙動検出などが期待できる。
【0019】
前記化6においてR3は,二重結合または三重結合を有する化合物,アジド基を有する化合物,環状化合物,これらのいずれかで表される置換基である。すなわち,R3は,後述するレポーター化合物とクリック反応を起こし,これにより,蛍光標識等の標識を可能とするものである。
R3は,かかる機能を果たすため,二重結合または三重結合を有する化合物,アジド基を有する化合物,環状化合物,これらのいずれかで表される置換基であるとともに,クリック反応のためのレポーター化合物の構造に応じ,適宜,その構造を変更することができる。
【0020】
R
3は,例えば,下記化8に示す置換基を用いることができる。
【化8】
すなわち,かかるA1からA8に示される置換基は,アジド基を有するレポーター化合物と反応する置換基群である。
R
3は,A1で表される置換基(エチニル基)であることが好ましい。これにより,グアノシン誘導体の構造をコンパクトなものとすることができ,化合物としての安定性ないし核酸取込を向上させる効果を有する。
【0021】
R
3のその他の態様として,下記化9に示す置換基を用いることができる。
【化9】
すなわち,かかるB1からB8に示される置換基は,テトラジン基を有するレポーター化合物と反応する置換基群である。
R
3は,B5で表される置換基(ビニル基)であることが好ましい。これにより,グアノシン誘導体の構造をコンパクトなものとすることができ,化合物としての安定性ないし核酸取込を向上させる効果を有する。
【0022】
R
3のさらにその他の態様として,下記化10に示す置換基を用いることができる。
【化10】
すなわち,かかる置換基は,エチニル基などの三重結合を有するレポーター化合物と反応する置換基群である。
【0023】
本発明のグアノシン誘導体のR
3と,これと反応するレポーター化合物とによりいわゆるクリック反応を行うことができる。
すなわち,クリック反応により,グアノシン誘導体のR
3とレポーター化合物が,互いの分子を結合させ,一つの化合物となる(例えば,
図12a)。また,クリック反応を用いることにより,
図12に例示されるように,グアノシン誘導体そのもの,もしくはレポーター化合物(アジドベンゼン)そのものは蛍光を発しないが,これらがクリック反応により一つの化合物となることで蛍光を発するようになり,核酸の標識が可能となる。
【0024】
レポーター化合物は,グアノシン誘導体におけるR3との反応性ならびに反応した場合の蛍光性や標識手法などを考慮して,その構造を,適宜,変更することができる。例えば,R3とレポーター化合物の組み合わせとして,三重結合を有するアルキン(直鎖および環状型)とアジド基を有する化合物,二重結合を有するアルケン(直鎖および環状型)とテトラジン基を有する化合物,カルボニル化合物とヘテロ原子を有する化合物などである。
レポーター化合物として,好ましくは,アジド基を有する化合物を用いることができ,このような化合物として例えば,Azidebenzene,Coumarin Azide,Tetramethylrhodamine (TAMRA) azide,Biotin azideを用いることができる。
【0025】
本発明においてクリック反応方法は,クリック反応を起こしうる限り特に限定する必要はなく種々の環境で用いることができるが,最も好ましくは,細胞ないし生体組織において用いることができる。これにより,細胞や生体組織における核酸の挙動を可視化でき,核酸解析や医学的診断への適用が期待できる。
【0026】
本発明の標識方法においては,細胞ないし生体組織の標識が可能である限り特に限定する必要はなく,種々の手法を用いて行うことができる。
例えば,細胞や病理切片などを用いたインビトロ標識や,ヒトや動物などのインビボ標識などである。
【0027】
本発明の標識方法については,細胞ないし生体組織の標識が可能である限り特に限定する必要はなく,種々の手法を用いることができ,例えば,蛍光標識,発光体による標識,放射標識,核磁気共鳴活性標識,これらのいずれかを単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0028】
標識方法としては,種々の手法を用いることができる。
例えば,グアノシン誘導体おいて用いるH(水素原子)について,1Hのみならず,2Hや3Hを用いるなどである。
2Hを用いる場合は,重水素として,MRIなどの検出により,診断等に用いることができる。
3Hを用いる場合は,トリチウムとしてβ-線を放出することから,放射標識された化合物として試薬などに用いることができる。
かかる場合,グアノシン誘導体のR1およびR2において,いずれか一方を,これら1H,2H,3Hとし,他方をH,OH,OCH3,Fのいずれかとするなどすればよい。
【0029】
また,標識方法における他の手法として,グアノシン誘導体において用いるF(フッ素原子)について,18Fや19Fを用いるなどである。
19Fは,体内にほとんど存在しないことから,19Fを含むグアノシン誘導体化合物とすることにより,バックグラウンドノイズの少ない高い空間・時間分解能を有するMRIのための診断化合物として用いることができる。
18Fは,ポジトロン核種としてβ+線を放出することから,放射標識された化合物として体外検出のための診断薬などに用いることができる。すなわち,実験5や実験9などの動物実験で示される通り,癌においてプリン塩基誘導体の代謝が亢進していることから,プリン塩基誘導体をPET癌診断に利用することができる。特に脳腫瘍では,プリン塩基誘導体を多量に消費していることから、高分解能で疾患に関する情報が得られる。
かかる場合,グアノシン誘導体のR1およびR2において,いずれか一方を18Fや19Fとし,他方をHとするなどすればよい。
【0030】
加えて,標識方法における他の手法として,グアノシン誘導体において用いるC(炭素原子)について,11C,12C,13C,14Cを用いるなどである。
11Cは,18Fと同様,ポジトロン核種としてβ+線を放出することから,放射標識された化合物として体外検出のための診断薬などに用いることができる。
13Cは,12Cと比較すると存在比率が少ないことから,13Cを含むグアノシン誘導体化合物とすることにより,NMRなどに用いるための試薬として用いることができる。
14Cは,3Hと同様,β-線を放出することから,放射標識された化合物として試薬などに用いることができる。
かかる場合,グアノシン誘導体のR3において,二重結合または三重結合のCを,11C,12C,13C,14Cのいずれかとするなどすればよい。
特に,また8-ビニルグアノシン誘導体の合成は比較的容易であることから,入手しやすく,11Cや18Fなどのポジトロン標識体は,医療現場では非常に望ましいと考えられる。また使い方はいままでのポジトロン標識体と変わりないので優れた診断効果が期待できる。
【0031】
さらに,標識方法における他の手法として,グアノシン誘導体において用いるN(窒素原子)について,13N,14N,15Nを用いるなどである。
13Nは,18Fと同様,ポジトロン核種としてβ+線を放出することから,放射標識された化合物として体外検出のための診断薬などに用いることができる。
15Nは,14Nと比較すると存在比率が少ないことから,13Cを含むグアノシン誘導体化合物とすることにより,NMRなどに用いるための試薬として用いることができる。
かかる場合,グアノシン誘導体のR3において,アジド基を有する化合物のNを,13N,14N,15Nのいずれかとするなどすればよい。
【0032】
本発明のグアノシン誘導体について,これを有効成分とする癌イメージング剤として用いることができる。
すなわち,本発明のグアノシン誘導体を,静脈注射ないし局所注射などを行い,レポーター化合物を続けて投与することにより,癌のイメージングを行うことができる。かかる場合,実験9などのように,ヒトや動物など,インビボでのイメージングを行うことができる(インビボでの使用)。また,実験5などのように,グアノシン誘導体をインビボで投与を行った後に組織を取り出してレポーター化合物を反応させるなどして用いることができる(ex vivo的使用)。このようにインビボでの使用の場合は癌の局在やタンパク合成能などを評価するための診断薬としての役割を果たすものであり,ex vivo的な使用の場合は,動物実験等の試薬としての役割を果たすものである。
イメージングを行う際の癌については,イメージングが可能である限り特に限定する必要はないが,脳,大腸,胃癌をはじめとする固形癌における癌であることが好ましい。これにより,本発明のグアノシン誘導体における診断効果を向上させる効果を有する。
【0033】
本発明のグアノシン誘導体のうち下記式化11で表されるグアノシン誘導体化合物は,下記一連の工程により,製造することができる。
(1) グアノシンを出発物質として8位をブロモ化するブロモ化工程
(2) 糖骨格における水酸基を保護する水酸基保護工程
(3) 核酸塩基部分のカルボニル基を保護するカルボニル基保護工程
(4) 8位をカップリング反応により,置換基R
3を導入するR
3導入工程
(5) 全ての保護基を脱離する脱離工程
【化11】
(式中,R
3は,二重結合または三重結合を有する化合物,アジド基を有する化合物,環状化合物のいずれかで表される置換基で表される)
【0034】
ブロモ化工程は,グアノシンの8位をブロモ化する工程である(
図6,a)。ブロモ化工程は,グアノシンの8位をブロモ化しうる限り特に限定する必要はなく,種々の条件にて行うことができる。
ブロモ化工程は,一例として,グアノシンを,アセトニトリル/水の溶媒下,NBSと反応させるなどである。
【0035】
水酸基保護工程は,糖骨格における水酸基を保護する工程である。水酸基保護工程は,糖骨格における水酸基を保護しうる限り特に限定する必要はなく,種々の条件にて行うことができる。
水酸基保護工程は,一例として,DMFを溶媒として,イミダゾール存在下,TBSにて保護を行うなどである(
図6,b)。
【0036】
カルボニル基保護工程は,核酸塩基部分のカルボニル基を保護する工程である。カルボニル基保護工程は,核酸塩基部分のカルボニル基を保護しうる限り特に限定する必要はなく,種々の条件にて行うことができる。
カルボニル基保護工程は,一例として,ジオキサンを溶媒として,トリフェニルホスフィンならびにジイソプロピルアゾジカルボキシレート存在下,トリメチルシリルエタノールと反応させ保護を行うなどである(
図6,c)。
【0037】
R
3導入工程は,8位をカップリング反応により,置換基R
3を導入する工程である。R
3導入工程は,8位をカップリング反応により,置換基R
3を導入しうる限り特に限定する必要はなく,種々の条件で行うことができる。また,置換基R
3については,その後の脱離工程等を考慮し,置換基R
3に保護基を付した形で導入してもよい。
R
3導入工程は,一例として,トルエンを溶媒として,テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム存在下,保護基を付した置換基R
3を導入するなどである(
図6,d)。
【0038】
脱離工程は,全ての保護基を脱離する工程である。脱離工程は,保護基の脱離が可能である限り特に限定する必要はなく,種々の条件で行うことができる。
脱離工程は,一例として,THFを溶媒として,フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム存在下,全ての保護基を脱離するなどである(
図6,e)。
【実施例】
【0039】
ここでは,実施例を用いてさらに詳述する。
【0040】
<<実験1,8-エチニルグアノシンの合成>>
1.8-エチニルグアノシンについて,
図6のスキームに従い,合成を行った。
(1) グアノシンを出発物質として,アセトニトリル/水を溶媒として,NBSと反応させ,8位のブロモ化を行った(a,ブロモ化工程)。
(2) 糖骨格部分の水酸基を,DMFを溶媒として,イミダゾール存在下,TBSにて保護を行った(b,水酸基保護工程)。
(3) 塩基部分のカルボニル基を,ジオキサンを溶媒として,トリフェニルホスフィンならびにジイソプロピルアゾジカルボキシレート存在下,トリメチルシリルエタノールにて保護を行った(c,カルボニル基保護工程)。
(4) トルエンを溶媒として,テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム存在下,トリメチルシリルアセチレンと反応させ,8位にエチレン基を導入した(d,R
3導入工程)。
(5) THFを溶媒として,フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム存在下,全ての保護基の脱離を行い,8-エチニルグアノシンを得た(e,脱離工程)。
2.合成した化合物のNMRチャートを,
図7に示す。
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ 10.85 (s, 1H), 6.56 (s, 2H), 5.78 (d, J = 6.5 Hz, 1H), 5.45 (d, J = 6.2 Hz, 1H), 5.10 (d, J = 5.0 Hz, 1H), 4.96-4.92 (m, 2H), 4.78 (s, 1H), 4.14-4.10 (m, 1H), 3.87-3.84 (m, 1H), 3.66-3.61 (m, 1H), 3.56-3.48 (m, 1H).
【0041】
<<実験2,8-エチニル-2’-デオキシグアノシンの合成>>
1.8-エチニル-2’-デオキシグアノシンについて,
図8のスキームに従い,合成を行った。
(1) 2’-デオキシグアノシンを出発物質として,アセトニトリル/水を溶媒として,NBSと反応させ,8位のブロモ化を行った(a)。
(2) DMFを溶媒として,テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム,ヨウ化銅,鳥エチルアミン存在下,トリメチルシリルアセチレンと反応させ,8位にエチレン基を導入し,さらに,THFを溶媒として,フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム下,反応させ,8-エチニル-2’-デオキシグアノシンを得た。
2.合成した化合物のNMRチャートを,
図9に示す。
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ 10.84 (s, 1H), 6.56 (s, 2H), 6.25 (dd, J = 6.5, 8.2 Hz, 1H), 5.27 (d, J = 4.2 Hz, 1H), 4.88 (t, J = 6.0 Hz, 1H), 4.78 (s, 1H), 4.39-4.35 (m, 1H), 3.82-3.78 (m, 1H), 3.64-3.58 (m, 1H), 3.53-3.44 (m, 1H), 3.10-3.03 (m, 1H), 2.10 (ddd, J = 2.7, 6.5, 13.2 Hz, 1H).
【0042】
実験1ならびに2により,8-エチニルグアノシンならびに8-エチニル-2’-デオキシグアノシンの合成が可能となった。これらの化合物を基礎として,リン酸化誘導体を合成することが期待できる。
一例をあげると,8-エチニル-2’-デオキシグアノシンまたは8-エチニルグアノシン(0.1 mmol)に1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(0.15 mmol)を加え,500μLのリン酸トリメチルで溶解させる。その溶液に氷上,塩化ホスホリル(0.13 mmol)を加え,氷上で2時間撹拌する。反応溶液にn-ブチルアミン(0.5 mmol)を加え,続けて,0.5Mピロリン酸トリブチルアンモニウムのDMF溶液(0.5 mmol)を加える。5分後,0.5M重炭酸トリエチルアンモニウム(TEAB)溶液を500μL加え,反応を停止する。反応物をDEAE Sephadex A-25カラムクロマトグラフィーにより精製する。溶出液は50 mM から1 MのTEABのリニアグラジエントとする。
その後,必要に応じ,細胞および動物実験用純度とするため,C18の逆相HPLCにより,さらに精製する。溶出液は100 mM酢酸トリエチルアミン含有10%から50%のアセトニトリル水溶液のリニアグラジエントとする。
【0043】
<<実験3,8-エチニルグアノシンのクリック反応の確認>>
1.8-エチニルグアノシンとアジドベンゼンとのクリック反応について,確認を行った。
【0044】
2.LC-MS解析結果を
図10に示す。図中,aが8-エチニルグアノシン,bがアジドベンゼン,cが反応溶液のLC-MS解析結果を示す。
(1) 硫酸銅存在下,8-エチニルグアノシンとアジドベンゼンを37℃,オーバーナイトで反応させた。
(2) 反応溶液をLC-MSにより解析を行ったところ,8-エチニルグアノシンのピークはほぼ消失し,アジドベンゼンのピークは低くなっていた。また,20.84分に溶出された成分(以下,「クリック反応化合物」)が,推定される化合物と分子量が一致していた。
【0045】
3.NMR分析結果を
図11に示す。
図10で得られた20.84分のピーク(クリック反応化合物)の分離精製を行い,NMR分析を行ったところ,クリック反応化合物の各プロトンの同定を行い,目的とする化合物であることを確認した。
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ 10.81 (s, 1H), 9.38 (s, 1H), 8.03-8.00 (m, 2H), 7.66-7.62 (m, 2H), 7.57-7.52 (m, 1H), 7.02 (dd, J = 6.7, 7.9 Hz, 1H), 6.42 (s, 2H), 5.20 (s, 1H), 5.00 (s, 1H), 4.44-4.41 (m, 1H), 3.83-3.80 (m, 1H), 3.69-3.62 (m, 1H), 3.53-3.49 (m,1H), 3.23-3.14 (m, 1H), 2.16 (ddd, J = 2.6, 6.6, 13.0 Hz, 1H).
【0046】
4.クリック反応化合物の蛍光の様子を
図12に示す。
(1) クリック反応化合物は,470nm(λex=342nm)の蛍光を発光することが確認された(c)。
(2) 加えて,UV照射による蛍光検出が可能なことが確認された(b)。
【0047】
5.これらの結果から,8-エチニルグアノシンは,アジドベンゼンとクリック反応が可能なこと,ならびに反応生成物が蛍光を発するとともに,UV照射による蛍光検出が可能であることが示された。
【0048】
<<実験4,8-エチニルグアノシンのRNA取込ならびにクリック反応の確認>>
1.8-エチニルグアノシンがRNAに取り込まれること,ならびに取り込まれたのちクリック反応を起こすかどうかを調べるために検討を行った。
【0049】
2.下記に従い,HeLa細胞の染色を行った。
(1) 10%FBS含DMEM中,5% CO2存在下,37℃でHaLa細胞を5×105培養した。
(2) 終濃度100μMで8-エチニルグアノシン(ストック溶液は10 mM DMSO溶液)を培地に添加し,24時間インキュベーションを行った。
(3) RNase Aを使用する場合は,ここで終濃度200 μg/mLとなるように添加し,45分室温でインキュベーションを行った。
(4) PBSで3回洗浄した。
(5) 細胞染色液の成分は以下の通り(3.5 cm dish一枚分の量)。カッコ内は終濃度を示す。
1.0 M Tris (pH 8.5)を100 μL(100 mM),50 mM CuSO4を20 μL(1.0 mM),10 mM Alexa Fluor 488 azideを2.5 μL(25 μM),Milli Q水を627.5 μL,0.5 M Ascorbic acidを200 μL(100 mM)。
(6) 1時間室温でインキュベーション後,PBSで3回洗浄した。
(7) Hoechst染色を行った。
(8) 蛍光顕微鏡で観察を行った。
【0050】
3.結果を
図13に示す。
(1) Hoechst染色により,RNaseAの存在下・非存在下,いずれにおいても核が染まっていた(a,d)。
(2) Alexa Fluor 488 azideにより,RNaseA存在下では染色は確認されなかったが(e),RNaseA非存在下においては染色が確認された(b)。
(3) これらの合成画像において,RNAの染色と核の染色は一致していた(c)。
(4) この結果から,8-エチニルグアノシンがRNAに取り込まれており,これがクリック反応により,RNAを染色していることが確認された。
【0051】
<<実験5,8-エチニルグアノシンによる生体内RNA標識>>
1.8-エチニルグアノシンが生体内においてRNAに取り込まれること,ならびに取り込まれたのちクリック反応を起こすかどうかを調べるために検討を行った
【0052】
2.下記に従い,実験を行った。
(1) 8-エチニルグアノシン溶液(4mg/mL,4% DMSO/PBS solution)を,マウス1匹に対して0.5mL(8-EGで2mg/body),尾静脈より投与を行った。
(2) イソフルランで麻酔後,頚椎脱臼を行い,各組織を抽出した。
(3) 抽出した組織を,10% ホルマリンで24時間,固定を行い,パラフィン包埋後,1μmの厚さで薄切切片を作製した。
(4) 薄切切片に対して,TMR-N3によりクリック反応を行い,DAPI封入剤により核の染色を行い,蛍光顕微鏡で観察を行った。
【0053】
3.結果を
図14から
図16に示す。それぞれ
図14が脳,
図15が腸,
図16が腎臓の結果である。
(1) 脳において細胞核の染色が確認されるとともに,TMR-azideにより,細胞核と一致した位置に蛍光が確認された。一方,controlでは細胞核の染色が確認されたにも関わらず,TMR-azideによる蛍光は確認されなかった。このことから,8-EGは,投与後,BBBを通過して,脳組織へ移行し,RNAに組み込まれていることが示された。加えて,TMR-azideによるクリック反応が,生体組織内においても可能であることが確認された。
(2) 腸および腎臓においては,いずれにおいても細胞核の蛍光は確認できるものの,TMR-azideによる蛍光は確認できなかった。このことから,8-EGは,腸ならびに腎臓において,取り込まれていないと考えられた。
【0054】
<<実験6,8-エチニルグアノシンの細胞毒性評価>>
1.8-エチニルグアノシンの細胞毒性を評価することを目的として検討を行った。
【0055】
2.アラマーブルーアッセイにより評価を行った。
(1) 細胞としては,HeLaを用い,これを1×103 cell/wellで96穴プレートに播種した。
(2) 8-EGまたはcontrolとしてエチニルウリジン(EU)を,各濃度に調製し,37℃で,48時間または72時間,インキュベーションを行い,580/610nmの蛍光を測定した。
【0056】
3.結果を
図17に示す。グラフ中,縦軸が580/610nmの蛍光強度を,横軸がそれぞれの基質濃度(μM)を示す。
(1) 48時間後において,いずれの濃度においても,8EGは,EUよりも蛍光の値が大きく,細胞生存率が高かった(
図17,左)。
(2) 72時間後において,1000μMにおいてはEUの方が高かったものの,これより低い濃度においてはほぼ同等,もしくは8EGの方が高い値であった。
(3) これらの結果から,8EGは,EUよりも毒性が低いと考えられた。
【0057】
<<実験7,8-ビニルグアノシンの合成>>
1.8-ビニルグアノシンについて,
図1のスキームに従い,合成を行った。
(1) グアノシンを出発物質として,アセトニトリル/水を溶媒として,NBSと反応させ,8位のブロモ化を行った(a)。
(2) N-メチルビロリドンを溶媒として,テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム存在下,トリブチルビニルチンと反応させ,8位にビニル基を導入した(b)。
2.合成した化合物のNMRチャートを,
図1に示す。
1H-NMR (400 MHz, DMSO-d
6) δ 10.72 (s, 1H), 6.97 (dd, J = 11.0, 17.0 Hz, 1H), 6.46 (br s, 2H), 6.12 (dd, J = 2.1, 17.0 Hz, 1H), 5.80 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 5.42 (dd, J = 2.1, 11.0 Hz, 1H), 5.33 (d, J = 6.2 Hz, 1H), 5.12 (t, J = 5.5 Hz, 1H), 5.06 (d, J = 4.5 Hz, 1H), 4.52 (q, J = 6.5 Hz, 1H), 4.08 (m, 1H), 3.85 (q, J = 3.4 Hz, 1H), 3.64 (m, 1H), 3.59 (m, 1H).
【0058】
<<実験8,8-ビニルグアノシンのRNA取込ならびにクリック反応の確認>>
1.8-ビニルグアノシンがRNAに取り込まれること,ならびに取り込まれたのちクリック反応を起こすかどうかを調べるために検討を行った。
【0059】
2.実験4に準じて,検討を行った。結果を,
図2に示す。
(1) Hoechst染色により,8-ビニルグアノシン(8-VG)の存在下・非存在下,いずれにおいても核が染まっていた。
(2) FAM Tetrazineにより,8-VG非存在下では蛍光は確認されなかったが,8-VG存在下においては蛍光が確認された。
(3) これらの合成画像において,RNAの染色と核の染色は一致していた。
(4) この結果から,8-VGがRNAに取り込まれており,これがクリック反応により,RNAを染色していることが確認された。
【0060】
<<実験9,マウス癌モデルを用いたインビボでのクリック反応の確認>>
1.マウス癌モデルを用いて,8-EGならびに8-VGが,インビボでのクリック反応が可能かどうかを確認することを目的に検討を行った。
【0061】
2.
図3に準じて,実験を行った。
(1) ヌードマウスに,脳腫瘍細胞株(U87細胞)を皮下に移植し,マウス癌モデルの作製を行った。
(2) 移植2週間後に,マウス癌モデルに,8-EG又は8-VG溶液を,1個体あたり5mgとなるよう腫瘍部位に3日間投与した。
(3) 8-EG又は8-VGの3日間の投与から24時間後に,BODIPY-Tet及びAlexa-azide溶液を,8-VG又は8-EGを投与したマウスにそれぞれ0.1mgとなるよう尾静脈から投与し,24時間後に,蛍光検出器により撮像を行った。
【0062】
3.結果を
図4に示す。
(1) 8-VGにおいて,PBSのみ投与では蛍光が検出されなかったものの(a),8-VGを投与したマウスでは明確に検出が可能であった(b,c)。
(2) 同様に,8-EGにおいて,PBSのみ投与では蛍光が検出されなかったものの(e),8-EGを投与したマウスでは明確に検出が可能であった(f,g)。
(3) これらの結果は,実験5における結果と整合するものであり,8-EGならびに8-VGは脳腫瘍を検出しうることが分かった。
【0063】
<<実験10,8-EGないし8-VGの安定性評価>>
1.8-EGないし8-VGの化合物安定性を調べることを目的に検討を行った。
【0064】
2.8-EG又は8-VGを,5% DMSO/PBSに溶解させ,これを37℃で72時間インキュベーションを行った。
3.結果を,
図5に示す。いずれの化合物も,インキュベーション前(B)と比較して,インキュベーション後(A)のHPLCチャートに変化は認められず,高い純度を保持したままであった。
4.このことから,8-EG及び8-VGが安定であることが示唆された。