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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】把持装置及び把持方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/06 20060101AFI20250411BHJP
【FI】
B23Q3/06 304H
B23Q3/06 304K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023138225
(22)【出願日】2023-08-28
(65)【公開番号】P2025032760
(43)【公開日】2025-03-12
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100227835
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼安 直樹
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】徐 陽
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-150337(JP,A)
【文献】特開平06-155210(JP,A)
【文献】特表2022-517186(JP,A)
【文献】特開2022-117740(JP,A)
【文献】特開2002-046036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意形状のワークを複数のクランプ爪を用いて把持する把持装置であって、
基台と、
前記基台上に配置され、前記基台の径方向に沿って延在し、前記基台の軸線周りに回動可能に構成された回動部と、
前記回動部上に配置され、前記基台の径方向に沿って移動可能な案内部と、
前記案内部上に配置され、前記案内部に対して、前記基台の軸線に平行な軸線周りに回転可能に構成されたベースと、
前記ベースにおいて、前記基台の径方向内側に配置され、複数のピンを有する前記クランプ爪と、
前記ベースに配置され、圧力流体を収容すると共に複数の前記ピンと接続されたチャンバを有し、前記チャンバを加圧する微動機構部と、を備え、
前記ワークの形状データを含むワーク情報に基づいて、前記回動部を前記基台の軸線周りに回動させると共に前記案内部を前記基台の径方向に沿って移動させ、前記ベース及び前記クランプ爪を回転させ、前記微動機構部によって前記クランプ爪の複数の前記ピンを前記ワークの形状に倣い押し当てる、ことを特徴とする把持装置。
【請求項2】
前記クランプ爪は、前記ワークのクランプ力を変更可能な力覚センサを備える、請求項1に記載の把持装置。
【請求項3】
前記微動機構部は、前記チャンバの加圧を調整するためのネジを有する、請求項2に記載の把持装置。
【請求項4】
前記ベースは、上下動可能に構成されている、請求項3に記載の把持装置。
【請求項5】
前記ワーク情報は、前記ワークの材質、前記ワークの加工に用いる工具、及び、該工具を用いて行う前記ワークの加工条件の情報を含む、請求項4に記載の把持装置。
【請求項6】
互いに直交する3つの直動送り軸と少なくとも2つの回転送り軸とを有する工作機械において、請求項1から請求項5の何れか1項に記載の把持装置を用いて任意形状のワークを把持する把持方法であって、
前記把持装置は、前記ワークの形状データを含むワーク情報を記憶する記憶部を備え、
(i)前記記憶部に記憶された前記ワーク情報に基づいて、前記工作機械の主軸頭が前記ワークを前記把持装置まで移動することと、
(ii)前記ワーク情報に基づいて、前記回動部を前記基台の軸線周りに回動させ、前記基台の周方向における前記クランプ爪の位置決めをすることと、
(iii)前記ワーク情報に基づいて、前記案内部を前記基台の径方向に沿って移動させ、前記基台の径方向における前記クランプ爪の位置決めをすることと、
(iv)前記ワーク情報に基づいて、前記クランプ爪の複数の前記ピンを前記チャンバによって加圧し、前記ワークの形状に倣い押し当てることと、
を含む、任意形状のワークを把持する把持方法。
【請求項7】
前記記憶部に記憶された前記ワーク情報に基づいて、前記基台の周方向における前記クランプ爪の位置決めをする、請求項6に記載の任意形状のワークを把持する把持方法。
【請求項8】
前記記憶部に記憶された前記ワーク情報に基づいて、前記基台の径方向における前記クランプ爪の位置決めをする、請求項7に記載の任意形状のワークを把持する把持方法。
【請求項9】
前記ピンが前記ワークに近接する位置まで前記クランプ爪を移動させた後に、前記チャンバを加圧して前記ピンを前記ワークの形状に倣って押し当てる、請求項8に記載の任意形状のワークを把持する把持方法。
【請求項10】
前記工作機械の前記主軸頭を用いて、前記基台の径方向及び周方向に沿って前記ワークを移動させることによって、前記ワークの前記クランプ爪に対する位置を調整する、請求項9に記載の任意形状のワークを把持する把持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把持装置及び把持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動的に機械加工を行う上で、被加工物を工作機械に安定して取り付けることや工作機械に対して安定して固定することが必要とされる。一方、被加工物は、加工目的に応じて形状や大きさが異なる場合があり、配送用の貨物等のように定型ではないため、例えば、アームで両側から挟み込むように把持しても、被加工物を安定して把持できない可能性がある。このため、特許文献1には、工作機械を使用して機械加工される回転対称のワークピースを支持するためのチャックであって、チャック本体と、少なくとも3つのクランプジョーと、駆動手段としての電動モータと、制御ユニットとを備えるチャックが開示されている。また、特許文献2には、種々の形状の物体を把持する把持ヘッドであって、ベースと、ベースにおいて把持方向に直線的にガイドされ、フレーム及び把持方向に沿って変位可能な複数のピンを備える把持ジョーを備える把持ヘッドが開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されたクランプジョーや特許文献2に記載された把持ヘッドは、被加工物の径方向に沿って移動することはできるものの、被加工物の周方向に沿って移動することはできない。このため、これらの把持装置は、例えば、大きさの異なる相似形状の被加工物を把持することができたとしても、外周形状が大きく異なる被加工物を把持することが困難になる可能性がある。また、被加工物の剛性が部位によって異なる場合に、剛性の低い箇所を避けて把持することが困難になる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6594100号
【文献】特許第6725808号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、任意形状のワークを把持することができる把持装置及び把持方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、任意形状のワークを複数のクランプ爪を用いて把持する把持装置であって、基台と、基台上に配置され、基台の径方向に沿って延在し、基台の軸線周りに回動可能に構成された回動部と、回動部上に配置され、基台の径方向に沿って移動可能な案内部と、案内部上に回転可能に配置されたベースと、ベースにおいて、基台の径方向内側に配置され、複数のピンを有するクランプ爪と、ベースに配置され、圧力流体を収容すると共に複数のピンと接続されたチャンバを有し、チャンバを加圧する微動機構部と、を備え、前記ワークの形状データを含むワーク情報に基づいて、回動部を基台の軸線周りに回動させると共に案内部を基台の径方向に沿って移動させ、ベース及びクランプ爪を回転させ、微動機構部によってクランプ爪の複数のピンをワークの形状に倣い押し当てる、ことを特徴とする把持装置が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、互いに直交する3つの直動送り軸と少なくとも2つの回転送り軸とを有する工作機械において、本発明の把持装置を用いて任意形状のワークを把持する把持方法であって、把持装置は、ワークの形状データを含むワーク情報を記憶する記憶部を備え、(i)記憶部に記憶されたワーク情報に基づいて、工作機械の主軸頭がワークを把持装置まで移動することと、(ii)ワーク情報に基づいて、回動部を基台の軸線周りに回動させ、基台の周方向におけるクランプ爪の位置決めをすることと、(iii)ワーク情報に基づいて、案内部を基台の径方向に沿って移動させ、基台の径方向におけるクランプ爪の位置決めをすることと、(iv)ワーク情報に基づいて、クランプ爪の複数のピンをチャンバによって加圧し、ワークの形状に倣い押し当てることと、を含む、任意形状のワークを把持する把持方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る把持装置によれば、基台と、基台上に配置され、基台の径方向に沿って延在し、基台の軸線周りに回動可能に構成された回動部と、回動部上に配置され、基台の径方向に沿って移動可能な案内部と、案内部上に回転可能に配置されたベースと、ベースにおいて、基台の径方向内側に配置され、複数のピンを有するクランプ爪と、を備える。このため、回動部を基台の軸線周りに回動させることによってクランプ爪を基台の周方向に沿って回動させ、回動部上の案内部を基台の径方向に沿って移動させることによってクランプ爪を基台の径方向に沿って移動させることができる。さらに、ベース及びクランプ爪を回転させることによって、ワークに対するクランプ爪の向きを調整することができる。これによって、ワークの形状データを含むワーク情報に基づいて、ワークに対するクランプ爪の位置を調整することができる。さらに、クランプ爪には、圧力流体を収容すると共に複数のピンと接続されたチャンバを有し、チャンバを加圧する微動機構部が配置されている。このため、ワークの形状や剛性に対応して、クランプ爪の複数のピンの出し入れを調整し、これらをワークの形状に倣い押し当てることができる。これらによって、本発明に係る把持装置は、任意形状のワークを把持することができる。
【0009】
また、本発明に係る把持方法によれば、把持装置は、ワークの形状データを含むワーク情報を記憶する記憶部を備え、記憶部に記憶されたワーク情報に基づいて、工作機械の主軸頭がワークを把持装置まで移動させることができる。さらに、ワーク情報に基づいて、主軸頭が移動したワークの位置に合わせて、回動部を基台の軸線周りに回動させ、基台の周方向におけるクランプ爪の位置決めをすることができると共に、案内部を基台の径方向に沿って移動させ、基台の径方向におけるクランプ爪の位置決めをすることができる。これによって、ワークの形状に応じて、ワークに対するクランプ爪の位置を調整することができる。さらに、クランプ爪の複数のピンをチャンバによって加圧し、ワークの形状に倣い押し当てることができる。このように、本発明に係る把持方法は、任意形状のワークを把持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態に係る把持装置の斜視図を示す。
図2図2は、ワークに対する位置を調整する把持装置の斜視図を示す。
図3図3は、ワークのクランプ位置を固定した把持装置の斜視図を示す。
図4図4は、クランプ爪のワークに対する位置調整の模式図を示す。
図5A図5Aは、クランプ爪のピンのワークに対する位置調整の模式図を示す。
図5B図5Bは、クランプ爪のピンのワークに対する位置調整の模式図を示す。
図5C図5Cは、クランプ爪のピンのワークに対する位置調整の模式図を示す。
図6図6は、把持装置の変形例の模式図を示す。
図7図7は、第2実施形態に係る把持装置の斜視図を示す。
図8図8(a)から図8(c)は、把持したワークの3面加工を行うために姿勢を変更する把持装置の斜視図を示す。
図9図9(a)から図9(c)は、ワークの段取り替えを行う把持装置の斜視図を示す。
図10図10は、側面の加工終了後のワークを取り外した把持装置の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る把持装置を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0012】
(第1実施形態)
図1には、第1実施形態に係る把持装置10の斜視図を示す。把持装置10は、図示しない互いに直交する3つの直動送り軸と少なくとも2つの回転送り軸とを有する工作機械32においてワークWを把持するために使用される。把持装置10は、任意形状、すなわち、外周形状及び剛性が部位によって異なるようなワークWを把持できるように構成されており、基台12と、基台12上に配置され、基台12の径方向に沿って延在する回動部14と、回動部14上に配置された案内部18とを備える。ここでは、3つの回動部14及び案内部18が基台12上に配置されている。基台12は、周方向に沿って形成された基台ガイド溝16と、中心部に配置され、図示しないモータ等の駆動装置によって回転可能に構成された中心軸28とを備える。回動部14は、基台12における径方向内側の端部が中心軸28と連結されると共に、その下面側に形成された嵌込部14aが基台ガイド溝16に嵌め込まれる。このため、回動部14は、基台12の軸線周りに、すなわち、中心軸28周りに回動可能に構成されている。また、把持装置10は、中心軸28と電気的に接続され、中心軸28の回転を制御することによって、回動部14の基台12上の位置を調整するための制御部48を備える。
【0013】
回動部14の上面側には、その長手方向、すなわち、基台12の径方向に沿って回動部ガイド溝20が形成されている。案内部18は、その下面側に形成された嵌込部18aが回動部ガイド溝20に嵌め込まれ、回動部14の長手方向、すなわち、基台12の径方向に沿って移動可能に構成されている。また、案内部18は、制御部48と電気的に接続されており、制御部48は、案内部18の移動を制御することによって案内部18の回動部14に対する位置を調整することができる。
【0014】
案内部18の上方側には、ベース22が案内部18に対して回転可能に配置されている。ベース22は、制御部48と電気的に接続されており、制御部48は、ベース22の回転を制御することによって、基台12の中心軸28側に配置されるワークWに対するベース22の向きを調整することができる。
【0015】
ベース22の前方側、すなわち、基台12の径方向内側には、クランプ爪24が配置されている。クランプ爪24は、中心軸28側へ向けて延在する複数のピン24aを備える。ベース22は、また、圧力流体を収容すると共に複数のピン24aと接続されたチャンバ60(図6参照)を有し、チャンバ60を加圧又は減圧することによってピン24aを出し入れするための微動機構部26を備える。微動機構部26は、制御部48と電気的に接続されており、制御部48は、チャンバ60の加圧又は減圧を制御することによって、ベース22からのピン24aの出し入れを調整することができる。これによって、基台12上に移動されたワークWの形状に倣ってピン24aをワークWへと押し当てることができる。
【0016】
ベース22と案内部18との間には、力覚センサ56(図6参照)が配置されている。力覚センサ56は、ワークWの形状に倣って押し当てたピン24aに対するワークWの反発力を検出することができる。力覚センサ56は、制御部48と電気的に接続されており、制御部48は、力覚センサ56によって検出された反発力を検知し、これに基づいてチャンバ60の加圧又は減圧を制御することができる。これによって、クランプ爪24のピン24aによるワークWへのクランプ力を調整することができる。
【0017】
微動機構部26は、チャンバ60の圧力を調整するための加圧ネジ26aを有する。チャンバ60内を加圧する力は、加圧ネジ26aを回転させるためのトルクに比例するように構成されている。このため、図3に示すように、加圧ネジ26aの上方側から、例えば、レンチ等の工具を差し込んで、加圧ネジ26aを回すことによって、チャンバ60の圧力を増減させることができる。これによって、クランプ爪24のピン24aによるワークWのクランプ力を微調整することができる。
【0018】
図1に示すように、ベース22は、また、案内部18から上下動可能に構成されており、制御部48によってベース22の高さ位置を調整することができる。このため、ワークWに押し当てるクランプ爪24のピン24aの高さ位置を調整することができる。
【0019】
中心軸28の上方側には、上方側へ向けて延在する複数のピン30aを有する中央支持部30が形成されている。このため、基台12上に移動されたワークWを中央支持部30によって下方側から支持することができる。中央支持部30は、制御部48と電気的に接続されており、制御部48は、中心軸28からのピン30aの出し入れを調整することができる。これによって、基台12上に移動されたワークWの形状に倣ってピン30aを押し当てることができる。
【0020】
工作機械32の主軸頭34に取り付けられた主軸36には、チャック38を取り付けることができる。チャック38は、その長手方向に沿ってスライド可能に構成されたアーム40と、アーム40から出し入れ可能に構成されたピン42aを有する可動爪42とを備える。このため、ワーク棚等から取り出したワークWをアーム40及び可動爪42によって安定して把持し、把持装置10の基台12上まで移動させることができる。
【0021】
図2に示すように、主軸36には、チャック38に替えてグリッパ44を取り付けることができる。グリッパ44は、ベース22を上方側から挟み込むことができるように形成されており、ベース22を案内部18に対して回転させることができる。これによって、基台12の中心軸28側に配置されるワークWに対するベース22の向きを調整することができる。
【0022】
また、図3に示すように、主軸36には、チャック38に替えてレンチドライバ46を取り付けることができる。このため、主軸36に取り付けたレンチドライバ46を加圧ネジ26aに差し込み、これを速度制御でなくトルク制御で回転させることができる。これによって、チャンバ60の圧力を増減させることができ、クランプ爪24のピン24aによるワークWのクランプ力を微調整することができる。
【0023】
制御部48は、ワークWの3次元形状データ、ワークWの材質及び各部位の剛性等のデータを含むワーク情報が収録された記憶部48aを有する。記憶部48aに収録されるワーク情報には、ワークWの加工に用いる工具(図示省略)、ワークWの加工対象となる部位及び工具を用いて行うワークWの加工条件等の情報も含む。制御部48は、ワーク情報に基づいて、把持装置10及びチャック38でワークWを把持する際にワークWのどの部位を把持するかを総合的に判断することができる。具体的には、制御部48は、図1に示すように、主軸36に取り付けられたチャック38を用いてワークWを把持する前に、ワーク情報に含まれるワークWの形状データ及び材質のデータからワークWの重心位置を算出する。次に、制御部48は、ワーク情報に含まれる工具、ワークWの加工対象となる部位及びワークWの加工条件からワークWの切削抵抗、すなわち、切削する際にワークWに作用する力及び切削抵抗がワークWに作用する向きを算出する。ここで、ワークWの加工工程が複数ある場合には、加工工程ごとに切削抵抗の大きさ及び向きを算出する。制御部48は、このように算出した切削抵抗の大きさ及び向きに基づいて、ワークWを確実に把持し、かつ、把持するためのクランプ力を最小にすることができる把持位置、すなわち、ワークWに対するクランプ爪24のピン24aの位置を決定する。
【0024】
制御部48は、図1に示すように、算出したワークWの重心位置及び決定したワークWの把持位置に基づいて、チャック38を作動してワークWを把持させる。制御部48は、チャック38がワークWを把持すると、主軸36及びチャック38を基台12の中央支持部30まで移動させ、ワークWを中央支持部30上に載置させる。このとき、ワークWに対するクランプ爪24の位置は、チャック38がワークWを把持している状態で主軸36を回転することによって調整してもよく、また、ワークWを中央支持部30に載置した後に回動部14を回動することによって調整してもよい。
【0025】
図4には、ワークWに対するクランプ爪24の位置決めの一例として、中央支持部30に載置したワークW及び基台12の平面図を模式的に示す。また、同じく図中には基台12の中心を原点とする直行軸であるX軸及びY軸を示す。ここに示す例では、ワークWの切削抵抗を算出した結果、X軸に沿って正方向に作用する切削抵抗及びY軸に沿って負方向に作用する切削抵抗が支配的であることが分かっている。このため、制御部48は、切削抵抗とは反対向きのX軸に沿った負方向及びY軸に沿った正方向へ向けてクランプ力を作用させる、すなわち、クランプ爪24をワークWへ押し付けることができるように、3つのベース22(図4中a、b、c)のうちの2つ(図4中a、c)を回動させて位置決めをする(図4中P1、P3)。さらに、P1及びP3からのクランプ力と釣り合うように、残りのベース22(図4中b)を回動して位置決めする(図4中P2)。これによって、切削抵抗を打ち消すようにクランプ爪24をワークWに押し付けることができるため、任意形状のワークWを安定して把持することができる。
【0026】
図5Aから5Cには、ワークWを把持するために、ワークWに押し当てているクランプ爪24のピン24aを模式的に表す。図5Aに示すように、ワークWは、ワークWに押し付けられたピン24aによって把持されている。切削抵抗などのワークWに作用する力は、ワークWとこれに押し当てられたピン24aによって形成された力の伝達経路LPを通じてベース22に伝達され、力覚センサ56によって検出することができる。また、ピン24aは、ベース22に対して任意の位置でロック可能に構成されており、クランプ爪24でワークWを把持する際には、ピン24aのロック又はアンロックの2つのモードをピン24aごとに切り替えることができる。このため、制御部48は、力覚センサ56によって検出した力の大きさに応じて、ピン24aのロック又はアンロックを切り替えると共に、ワークWに押し当てるピン24aを切り替えることができる。これによって、安定してワークWを把持することができるようにピン24aの位置を最適化することができる。図5Bには、ピン24aをロックした状態を示す。加圧ネジ26aを回転してチャンバ60の圧力を増減することによって、ピン24aのワークWに押し付ける力を増減させることができる。また、チャンバ60の圧力を増加させるのに伴い、ピン24a同士を上下方向に密着させるため、ピン24a同士の間に摩擦力を生じさせる。ピン24aは、この摩擦力によって動きが抑制されるため、ピン24aの位置を安定させることができる。さらに、一部のピン24aをワークWの表面に押し当て、残りのピン24aをワークWの表面から離した状態でロックすることによって、例えば、剛性が低く、ピン24aを押し当てたくない部位や開口が形成されているためピン24aを押し当てることができない部位等を避けてワークWを把持することができる。図5Cには、ピン24aをアンロックした状態を示す。アンロックした状態では、ピン24a自体の拘束力は弱いため、ピン24aをワークWの表面に倣って押し当てることによって、ピン24a全体でワークWを把持することができ、クランプ力を複数のピン24aに分散することができる。
【0027】
(変形例)
さらに、本実施形態に係る把持装置10の変形例について説明する。本実施形態と同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0028】
図6には、変形例に係る把持装置50の要部を模式的に示す。図中に示すように、回動部は、ガイドレール52によって構成されてもよい。また、案内部は、ガイドレール52に跨って配置されたロッドレスシリンダ54等によって構成されてもよい。さらに、力覚センサ56は、ベース58の内部ではなく、ベース58とロッドレスシリンダ54との間に配置されてもよい。また、ワークWの形状によっては、1つのガイドレール52上にクランプ爪24を有するベース58が複数配置されてもよい。
【0029】
続いて、本実施形態に係る把持装置10及び把持方法の作用及び効果を説明する。
【0030】
本実施形態に係る把持装置10によれば、基台12と、基台12上に配置され、基台12の径方向に沿って延在し、基台12の中心軸28周りに回動可能に構成された回動部14と、回動部14上に配置され、基台12の径方向に沿って移動可能な案内部18と、案内部18上に回転可能に配置されたベース22と、ベース22において、基台12の径方向内側に配置され、複数のピン24aを有するクランプ爪24と、を備える。このため、回動部14を基台12の中心軸28周りに回動させることによってクランプ爪24を基台12の周方向に沿って回動させ、回動部14上の案内部18を基台12の径方向に沿って移動させることによってクランプ爪24を基台12の径方向に沿って移動させることができる。さらに、ベース22及びクランプ爪24を回転させることによって、ワークWに対するクランプ爪24の向きを調整することができる。これによって、ワークWの形状に応じて、ワークWに対するクランプ爪24の位置を調整することができる。さらに、クランプ爪24には、圧力流体を収容すると共に複数のピン24aと接続されたチャンバ60を有し、チャンバ60を加圧する微動機構部26が配置されている。このため、ワークWの形状や剛性に対応して、クランプ爪24の複数のピン24aの出し入れを調整し、これらをワークWの形状に倣い押し当てることができる。これらのことから、把持装置10によって任意形状のワークWを把持することができる。
【0031】
また、本実施形態に係る把持装置10によれば、ベース22と案内部18との間には、力覚センサ56を備える。このため、ワークWの形状に倣って押し当てたピン24aに対するワークWの反発力を力覚センサ56によって検出することができる。これによって、制御部48は、力覚センサ56によって検出された反発力を検知してチャンバ60の加圧又は減圧を制御することができ、クランプ爪24のピン24aによるワークWのクランプ力を調整することができる。
【0032】
さらに、本実施形態に係る把持装置10によれば、微動機構部26は、チャンバ60の圧力を調整するための加圧ネジ26aを有する。このため、主軸36に取り付けたレンチドライバ46を加圧ネジ26aに差し込み、これを回転することができる。これによって、チャンバ60の圧力を増減させることができ、クランプ爪24のピン24aによるワークWのクランプ力を微調整することができる。
【0033】
また、本実施形態に係る把持装置10によれば、ベース22は、上下動可能に構成されている。このため、電気的に接続された制御部48によってベース22の高さ位置を調整することができ、ワークWの形状に応じて、これに押し当てるクランプ爪24のピン24aの高さ位置を調整することができる。
【0034】
さらに、本実施形態に係る把持装置10によれば、ワークWの3次元形状データ、ワークWの材質及び各部位の剛性のデータに加えて、ワークWの加工に用いる工具、ワークWの加工対象となる部位及び工具を用いて行うワークWの加工条件等の情報も含むワーク情報を記憶する記憶部48aを備える。このため、把持装置10は、ワーク情報に基づいて、ワークWを把持する際にワークWのどの部位を把持するかを総合的に判断することができる。これによって、例えば、切削抵抗を打ち消すようにクランプ爪24をワークWに押し付けることができるため、任意形状のワークWを安定して把持することができる。また、制御部48は、力覚センサ56によって検出した力の大きさに応じて、任意の位置でロック可能に構成されたピン24aのロック又はアンロックを切り替えると共に、ワークWに押し当てるピン24aを切り替えることができる。これによって、安定してワークWを把持することができるようにピン24aの位置を最適化することができる。
【0035】
以上の説明のとおり、本実施形態に係る把持装置10及び把持方法は、任意形状のワークWを安定して把持することができる。
【0036】
(第2実施形態)
以下、図7から図10を用いて第2実施形態に係る把持装置70及び把持方法について説明する。第1実施形態と同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0037】
図7に示すように、本実施形態に係る把持装置70は、工作機械(図示省略)に設けられた基台としての傾斜旋回台62上に配置されている。傾斜旋回台62は、工作機械に配置された互いに直交する3つの直動送り軸及び2つの回転送り軸(何れも図示省略)によって、直動及び回動可能に構成されている。このため、把持装置70によって把持されたワークWと加工用工具(図示省略)とを直交する3つの直動送り軸に沿って相対移動させることができると共に、2つの回転送り軸周りに相対的に回動させることができる。
【0038】
把持装置70は、傾斜旋回台62上に配置され、傾斜旋回台62の径方向に沿って延在し、傾斜旋回台62の軸線周りに回動可能に構成された回動部64と、回動部64上に配置され、傾斜旋回台62の径方向に沿って移動可能な案内部(図示省略)上に回転可能に配置されたベース66とを備える。また、把持装置70は、ベース66において、傾斜旋回台62の径方向内側に配置され、複数のピンを有するクランプ爪24を備える。
【0039】
図8(a)から図8(c)に示すように、クランプ爪24によって把持された傾斜旋回台62上のワークWは、回転送り軸を回動させることによって、クランプ爪24が押し当てられていない3面をそれぞれ上方側へ向けることができる。これによって、図8(a)に示すワークW上面、図8(b)及び図8(c)に示すワークWの長辺側の側面を機械加工することができる。
【0040】
図9(a)に示すように、上面及び長辺側の側面を加工したワークWの段取り替えを行うために、ワークWは、クランプ爪24及びベース66をワークWから遠ざけることによって解放される。解放されたワークWは、主軸36に取り付けたチャック38によって把持された状態で持ち上げられる。持ち上げられたワークW(図中の一点鎖線)は、図9(b)に示すように、主軸36を回転することによって回動するチャック38と共に向きを変える。向きを変えたワークWは、あらためて回動部64上に載置され、クランプ爪24によって把持される。このため、図9(c)に示すように、クランプ爪24によって当初は把持されていたワークWの短辺側の側面(図中の矢印で指し示す面)を加工することができる。
【0041】
図10に示すように、短辺側の側面が加工されたワークWは、再度クランプ爪24から解放され、チャック38によって持ち上げられる。持ち上げられたワークWは、回動部64側に加工用工具(図示省略)を取付けることによって、ワークWの底面も加工することができる。
【0042】
公知の把持装置では、加工途中にワークWの段取りを替える、すなわち、ワークWを持ち替えようとすると、持ち替えによる加工位置のズレが発生する場合がある。この点に関して、本実施形態に係る把持装置70によれば、ワークWの形状データを含むワーク情報に基づいて、回動部64を傾斜旋回台62の軸線周りに回動させると共にベース66及びクランプ爪24を回転させ、クランプ爪24をワークWの形状に倣い押し当てることができる。このため、加工途中にワークWの段取り替えがあったとしても、ワークWの形状データを含むワーク情報に基づいて、詳細に把持装置70の位置合わせをすることができ、適切な把持位置においてワークWの段取り替えをすることができる。これによって、ワークWの加工精度を向上させることができる。
【0043】
以上の説明のとおり、本実施形態に係る把持装置70及び把持方法は、任意形状のワークWを安定して、かつ、加工精度を確保できるように把持することができる。
【0044】
以上、把持装置10、50、70の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者が想到する範囲において、上記の実施形態の様々な変形が本発明の実施形態に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
10 把持装置
12 基台
14 回動部
18 案内部
22 ベース
24 クランプ爪
24a ピン
26 微動機構部
32 工作機械
34 主軸頭
48a 記憶部
50 把持装置
52 ガイドレール(回動部)
54 ロッドレスシリンダ(案内部)
56 力覚センサ
58 ベース
60 チャンバ
62 傾斜回転台(基台)
64 回動部
66 ベース
70 把持装置
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10