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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】アンテナ装置及び無線通信装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 19/06 20060101AFI20250411BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20250411BHJP
   H01Q 15/02 20060101ALI20250411BHJP
   H01Q 21/08 20060101ALI20250411BHJP
【FI】
H01Q19/06
H01Q13/08
H01Q15/02
H01Q21/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023506623
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021011069
(87)【国際公開番号】W WO2022195801
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2024-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】524066085
【氏名又は名称】FCNT合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伴 泰光
(72)【発明者】
【氏名】吉川 学
(72)【発明者】
【氏名】古賀 洋平
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/055366(WO,A1)
【文献】特開平04-097604(JP,A)
【文献】特開2013-219723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 19/06
H01Q 13/08
H01Q 15/02
H01Q 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波を出射する複数のパッチアンテナが基板の同一面上に並べて配置されたアンテナモジュールと、
前記複数のパッチアンテナが並べられた方向の両端に配置された金属製の一対のサイド壁と、
前記ミリ波の出射方向に設けられ、前記複数のパッチアンテナの夫々に対応する複数の貫通孔が形成される金属製の正面壁と、を備え、
記貫通孔間の間隔は、前記パッチアンテナ間の間隔よりも広く設定される
アンテナ装置。
【請求項2】
前記正面壁と前記基板との間は、前記ミリ波の半波長の距離である、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
隣り合った前記貫通孔の間隔は、前記ミリ波の0.1波長から0.7波長の範囲内である、
請求項1またはに記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記複数のパッチアンテナが並べられた方向と直交する方向に長辺を有する長方形に形成され、
前記貫通孔と前記基板との間は、前記ミリ波の半波長の距離である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記基板は、接地されたグランド基板上に設けられ、
前記一対のサイド壁のうちの一方のサイド壁は、前記正面壁と接続されるとともに前記グランド基板上に設けられた給電点から給電される、
請求項1から4のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記一対のサイド壁のうちの他方のサイド壁は、前記正面壁と接続される一方で前記グランド基板との間には隙間が形成される、
請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記正面壁は、前記一方のサイド壁からさらに延長された延長部分を含み、
前記グランド基板と前記延長部分とを接続する導体をさらに備える、
請求項6に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記基板は、接地されたグランド基板上に設けられ、
前記一対のサイド壁のうちの一方のサイド壁と前記基板との間において、前記グランド基板上に設けられた給電点から給電されるとともに前記正面壁に接続された導体をさらに備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記基板は、接地されたグランド基板上に設けられ、
前記一対のサイド壁のうちの一方のサイド壁は、前記正面壁と前記グランド基板とに接続され、
前記正面壁は、前記一方のサイド壁からさらに延長された延長部分を含み、
前記グランド基板上に設けられた給電点から給電されるとともに前記延長部分に接続された導体をさらに備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記前記一対のサイド壁のうちの他方のサイド壁は、前記正面壁と接続される一方で前記グランド基板との間には隙間が形成される、
請求項9に記載のアンテナ装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のアンテナ装置を備える、
無線通信装置。
【請求項12】
前記正面壁を筐体の側面の一部に含む、
請求項11に記載の無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置及び無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波を出射するアンテナを複数並べたアンテナ装置において、各アンテナに給電する信号に位相差を与えることで出射するミリ波の指向性を変える「ビームフォーミング」の手法が行われている。
【0003】
ミリ波の出射方向に金属を配置すると、アンテナの性能が低下する。そのため、金属製の筐体を有する通信装置に上記アンテナ装置を適用する場合、金属製の筐体のうちミリ波の出射方向に位置する部分に貫通孔を形成することが行われる。ここで、貫通孔の形成による筐体の剛性低下を補うため、貫通孔中に複数の柱を形成することが行われている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2017/0201011号明細書
【文献】米国特許出願公開第2020/0052376号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
貫通孔中に形成する柱を太くすることで筐体の剛性低下が抑制されるものの、アンテナの性能は低下する。また、貫通孔中に形成する柱を細くすることでアンテナの性能低下が抑制されるものの、筐体の剛性は低下する。また、貫通孔に柱を設けると、ビームフォーミングを行う際のアンテナ性能の劣化が顕著であった。
【0006】
開示の技術の1つの側面は、ビームフォーミングにおけるアンテナ性能の低下を抑制できるアンテナ装置及び無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術の1つの側面は、次のようなアンテナ装置によって例示される。本アンテナ装置は、ミリ波を出射する複数のパッチアンテナが基板の同一面上に並べて配置されたアンテナモジュールと、上記複数のパッチアンテナが並べられた方向の両端に配置された金属製の一対のサイド壁と、上記ミリ波の出射方向に設けられ、上記複数のパッチアンテナの夫々に対応する複数の貫通孔が形成される金属製の正面壁と、を備え、上記複数の貫通孔は、上記複数のパッチアンテナよりも広い間隔で配置される。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術は、ビームフォーミングにおけるアンテナ性能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係るアンテナ装置の一例を示す図である。
図2図2は、ミリ波アンテナモジュールの構成を示す図である。
図3図3は、実施形態に係るアンテナ装置を正面から見た図である。
図4図4は、図3のA-A線における端面を示す端面図である。
図5図5は、第1比較例に係るアンテナ装置の一例を示す図である。
図6図6は、ビームフォーミング時の利得を実施形態に係るアンテナ装置と第1比較例に係るアンテナ装置とで比較する第1の図である。
図7図7は、ビームフォーミング時の利得を実施形態に係るアンテナ装置と第1比較例に係るアンテナ装置とで比較する第2の図である。
図8図8は、ビームフォーミング時の利得を実施形態に係るアンテナ装置と第1比較例に係るアンテナ装置とで比較する第3の図である。
図9図9は、ビームフォーミング時の利得を実施形態に係るアンテナ装置と第1比較例に係るアンテナ装置とで比較する第4の図である。
図10図10は、第2比較例に係るアンテナ装置の一例を示す図である。
図11図11は、実施形態に係るアンテナ装置と第2比較例に係るアンテナ装置の正面方向に対する利得を比較する図である。
図12図12は、柱の太さを変えたアンテナ装置を例示する図である。
図13図13は、貫通孔の幅を変更した場合における正面方向に対するアンテナ装置の利得を例示する図である。
図14図14は、実施形態において、サイド壁の間隔を変更した場合を例示する図である。
図15図15は、実施形態に係るアンテナ装置の利得と第1変形例に係るアンテナ装置の利得とを比較する第1の図である。
図16図16は、実施形態に係るアンテナ装置の利得と第1変形例に係るアンテナ装置の利得とを比較する第2の図である。
図17図17は、サイド壁の間隔の夫々において最も高い利得をプロットした図である。
図18図18は、実施形態に係るアンテナ装置の利得と第1変形例に係るアンテナ装置の利得とを比較する第1の図である。
図19図19は、実施形態に係るアンテナ装置の利得と第1変形例に係るアンテナ装置の利得とを比較する第2の図である。
図20図20は、サイド壁の間隔の夫々において最も高い利得をプロットした図である。
図21図21は、貫通孔の形状のバリエーションを例示する第1の図である。
図22図22は、貫通孔の形状のバリエーションを例示する第2の図である。
図23図23は、貫通孔の形状のバリエーションを例示する第3の図である。
図24図24は、貫通孔の形状のバリエーションを例示する第4の図である。
図25図25は、貫通孔の形状のバリエーションを例示する第5の図である。
図26図26は、実施形態において、パッチアンテナの配置の一例を示す図である。
図27図27は、ミリ波アンテナモジュールを上下に2段重ねた状態を例示する第1の図である。
図28図28は、ミリ波アンテナモジュールを上下に2段重ねた状態を例示する第2の図である。
図29図29は、図27に例示するアンテナ装置を正面から見た状態を示す図である。
図30図30は、図28に例示するアンテナ装置を正面から見た状態を示す図である。
図31図31は、貫通孔の数を変動させたときにおけるアンテナ装置の利得を示す図である。
図32図32は、サイド壁や正面壁をパッチアンテナとは別のアンテナの一部として利用する例を示す第1の図である。
図33図33は、サイド壁や正面壁をパッチアンテナとは別のアンテナの一部として利用する例を示す第2の図である。
図34図34は、アンテナ装置を実装した無線通信装置の一例を示す図である。
図36図36は、無線通信装置の筐体の一部としてアンテナ装置の正面壁を利用する例を示す第1の図である。
図35図35は、無線通信装置の筐体の一部としてアンテナ装置の正面壁を利用する例を示す第2の図である。
図37図37は、無線通信装置の筐体の一部としてアンテナ装置の正面壁を利用する例を示す第3の図である。
図38図38は、無線通信装置の筐体の一部としてアンテナ装置の正面壁を利用する例を示す第4の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
以下に示す実施形態の構成は例示であり、開示の技術は実施形態の構成に限定されない。実施形態に係るアンテナ装置は、例えば、以下の構成を備える。本実施形態に係るアンテナ装置は、ミリ波を出射する複数のパッチアンテナが基板の同一面上に並べて配置されたアンテナモジュールと、上記複数のパッチアンテナが並べられた方向の両端に配置された金属製の一対のサイド壁と、上記ミリ波の出射方向に設けられ、上記複数のパッチアンテナの夫々に対応する複数の貫通孔が形成される金属製の正面壁と、を備える。そして、上記複数の貫通孔は、上記複数のパッチアンテナよりも広い間隔で配置される。
【0011】
本アンテナ装置では、正面壁には、複数のパッチアンテナの夫々に対応する複数の貫通孔が形成される。そして、貫通孔は、複数のパッチアンテナよりも広い間隔で配置されていることから、正面視において、貫通孔の位置とパッチアンテナの位置とはずれている。そのため、パッチアンテナから出射されたミリ波は、正面視において貫通孔の位置とパッチアンテナの位置とが重なっている場合と比較して、正面壁で反射される可能性が高くなる。正面壁で反射されたミリ波は、サイド壁や基板で反射されて正面壁から出射される。反射されて貫通孔から出射されるミリ波は、正面方向とは異なる方向にも出射される。本アンテナ装置は、このようにミリ波が出射される構成とすることで、ビームフォーミングにおけるアンテナ性能の低下を抑制することができる。
【0012】
また、本アンテナ装置は、正面壁には、複数の貫通孔の間に柱が形成されることになる。そのため、このような柱が形成されていないアンテナ装置と比較して、本アンテナ装置の剛性は高められる。
【0013】
以下、図面を参照して上記アンテナ装置についてさらに説明する。図1は、実施形態に係るアンテナ装置1の一例を示す図である。図1に例示するアンテナ装置1は、ミリ波アンテナモジュール11、グランド基板12、サイド壁13,13及び正面壁14を備える。
【0014】
グランド基板12は、接地された基板である。ミリ波アンテナモジュール11は、グランド基板12上に設けられる。図2は、ミリ波アンテナモジュール11の構成を示す図である。ミリ波アンテナモジュール11は、平面視において長方形状に形成された基板112の同一面上に4つのパッチアンテナ111を一列に並べたモジュールである。パッチアンテナ111の夫々には、給電点113が接続される。パッチアンテナ111の夫々は、給電点113から給電を受けて、ミリ波を出射する。
【0015】
図1に戻り、サイド壁13,13は、パッチアンテナ111が基板112上に並べられた方向の両端に配置された一対の金属製の壁である。また、正面壁14は、パッチアンテナ111がミリ波を出射する方向に設けられる金属製の壁である。正面壁14には、パッチアンテナ111の夫々に対応する4つの貫通孔141が形成される。そして、4つの貫通孔141の間には、柱142が形成される。正面壁14及びサイド壁13,13は、例えば、銅で形成される。
【0016】
ここで、アンテナ装置1及びミリ波アンテナモジュール11のサイズの一例について説明する。図1を参照して、アンテナ装置1の各サイズは、例えば、以下の通りである。サイド壁13,13の間隔W1は、例えば、25mmである。正面壁14の厚さT1は、例えば、1mmである。正面壁14の高さH1は、例えば、6.2mmである。正面壁14に形成される貫通孔141のピッチ(間隔)W2は、例えば、6.8mmである。サイド壁13の奥行Dは、例えば、5mmである。サイド壁13の幅T2は、例えば、1mmである。また、図2を参照して、ミリ波アンテナモジュール11の各サイズは、例えば、以下の通りである。基板112の幅W3は、例えば、23mmである。基板112の高さH2は、例えば、4.2mmである。パッチアンテナ111のピッチ(間隔)W4は、例えば、5.7mmである。
【0017】
ここで、奥行Dは、ミリ波アンテナモジュール11から正面壁14までの距離に略一致する。そして、パッチアンテナ111が出射する電波はミリ波(例えば、周波数27GHz)であることから、奥行Dは、パッチアンテナ111が出射するミリ波の波長の0.5倍(0.5波長)となることが理解できる。
【0018】
図3は、実施形態に係るアンテナ装置1を正面から見た図である。図3では、パッチアンテナ111のうち、柱142の背後に位置する部分は点線で示している。上記の通り、アンテナ装置1では、パッチアンテナ111を配置する間隔よりも、貫通孔141を配置する間隔を長く設定している。そのため、正面視において、パッチアンテナ111の位置と貫通孔141の位置とは互いにずれている。このようにパッチアンテナ111と貫通孔141とが配置されるため、アンテナ装置1の正面視において、パッチアンテナ111の少なくとも一部は柱142によって隠れるようになる。
【0019】
図4は、図3のA-A線における端面を示す端面図である。図4では、パッチアンテナ111から出射されるミリ波を矢印で模式的に示している。ミリ波アンテナモジュール11から正面壁14までの距離が0.5波長である場合、図4の丸印Rで例示するように、貫通孔141において複数のパッチアンテナ111から出射された電波は同位相で合成される。そのため、アンテナ装置1では、正面壁14や貫通孔141を設けないでパッチアンテナ111の夫々からミリ波を出射させる場合よりも、利得が改善する。
【0020】
(第1比較例)
ここで、第1比較例について説明する。図5は、第1比較例に係るアンテナ装置500の一例を示す図である。アンテナ装置500は、正面壁14に代えて正面壁514を備える点で、実施形態に係るアンテナ装置1とは異なる。正面壁514は、アンテナ装置500の正面視において枠状に形成される。そして、アンテナ装置500の正面視において正面壁514の枠内に収まるように、全てのミリ波アンテナモジュール11が配置される。すなわち、正面壁514には、アンテナ装置1の正面壁14とは柱142が設けられない点で異なる。
【0021】
図6から図9は、ビームフォーミング時の利得を実施形態に係るアンテナ装置1と第1比較例に係るアンテナ装置500とで比較する図である。図6から図9において、アンテナ装置1の利得は実線で示され、アンテナ装置500の利得は点線で示される。図6は、隣のパッチアンテナとの位相差が0度の設定でビームフォーミングを行った場合の利得を例示する。図7は、隣のパッチアンテナとの位相差が30度の設定でビームフォーミングを行った場合の利得を例示する。図8は、隣のパッチアンテナとの位相差が60度の設定でビームフォーミングを行った場合の利得を例示する。図9は、隣のパッチアンテナとの位相差が90度の設定でビームフォーミングを行った場合の利得を例示する。
【0022】
図6から図8を参照すると、いずれの方向に対してビームフォーミングを行っても、第1比較例に係るアンテナ装置500よりも実施形態に係るアンテナ装置1の方が、利得が改善されていることが理解できる。すなわち、実施形態に係るアンテナ装置1は、ビームフォーミングにおけるアンテナ性能の低下を抑制することができる。また、柱142を備えるアンテナ装置1は、柱142を備えないアンテナ装置500よりも剛性が高まると考えられる。
【0023】
(第2比較例)
図10は、第2比較例に係るアンテナ装置600の一例を示す図である。アンテナ装置600は、サイド壁13を備えない点で、第1比較例に係るアンテナ装置500とは異なる。図11は、実施形態に係るアンテナ装置1と第2比較例に係るアンテナ装置600の正面方向に対する利得を比較する図である。図11を参照すると理解できるように、サイド壁13を備えるアンテナ装置1は、サイド壁13を備えないアンテナ装置600よりも正面方向に対する利得が改善されていることが理解できる。アンテナ装置1では、パッチアンテナ111から出射された電波をサイド壁13によって反射させて貫通孔141から出射させることもできることから、このような利得の改善がみられると考えられる。また、また、柱142及びサイド壁13を備えるアンテナ装置1は、柱142及びサイド壁13を備えないアンテナ装置600よりも剛性が高まると考えられる。
【0024】
以上より、サイド壁13及び複数の貫通孔141、柱142を備えるアンテナ装置1は、アンテナ装置500やアンテナ装置600に対して、通信性能及び筐体の剛性について改善されているということができる。
【0025】
(貫通孔141の幅の変更)
以上説明したアンテナ装置1は、例えば、柱142の太さを変更してもよい。図12は、柱142の太さを変えたアンテナ装置1を例示する図である。図12の(A)では、貫通孔141の幅W5は3.45mm(4つの貫通孔141の幅合計で13.8mm)に設定される。図12の(B)では、貫通孔141の幅W5は2.3mm(4つの貫通孔141の幅合計で9.2mm)に設定される。図12の(C)では、貫通孔141の幅W5は1.15mm(4つの貫通孔141の幅合計で4.6mm)に設定される。
【0026】
アンテナ装置1の柱142の太さ(ひいては、貫通孔141の幅W5)は、図12に例示するように様々に変更することができる。例えば、貫通孔141及び柱142の幅は、例えば、以下のように決定することができる。サイド壁13、13の間隔W1(図1参照)のうち、柱142に割り当てる割合を決定する。例えば、間隔W1のうち80%を柱142に割り当てる場合、間隔W1を0.8倍した数を柱142の数(図12の例では「3」)で割ることで、柱142の幅を算出することができる。また、貫通孔141の幅は、間隔W1を(1-0.8)倍した数を貫通孔141の数(図12の例では「4」)で割ることで、貫通孔141の幅を算出することができる。
【0027】
図13は、貫通孔141の幅を変更した場合における正面方向に対するアンテナ装置1の利得を例示する図である。図13では、縦軸が利得を示し、横軸が貫通孔141の幅の合計値を示す。また、図13では、第2比較例に係るアンテナ装置600の利得を点線Bで示す。図13では、さらに、正面視における貫通孔141の中心とパッチアンテナ111の中心とを一致させた場合(図13において「△(まる)」で示す)と、正面視における貫通孔141の中心とパッチアンテナ111の中心とを一致させない場合(図13において「〇(まる)」で示す)とを示す。なお、正面視における貫通孔141の中心とパッチアンテナ111の中心とを一致させない場合は、実施形態に係るアンテナ装置1に相当する。
【0028】
図13を参照すると、パッチアンテナ111の中心と貫通孔141の中心を一致させない(パッチアンテナ111の中心と貫通孔141の中心とをずらす)ことで、アンテナ装置1の正面方向における利得を改善できることが理解できる。また、貫通孔141の幅の合計を5mm以上とすることで、アンテナ装置600よりも正面方向における利得が改善できることが理解できる。換言すれば、貫通孔141の幅の合計をミリ波体の電波の0.5波長以上とすることで、アンテナ装置600よりも正面方向における利得が改善できることが理解できる。
【0029】
図14は、実施形態において、サイド壁13、13の間隔を変更した場合を例示する図である。図14は、アンテナ装置1を上方向から見た図となっている。図14の(A)→(B)→(C)の順で、サイド壁13の間隔W1を延長している。なお、図14では、間隔W1の延長に伴い、正面壁14及びグランド基板12の幅も延長している。その一方で、図14の(A)→(B)→(C)においてミリ波アンテナモジュール11の幅は一定としている。すなわち、パッチアンテナ111のピッチは変更されていない。
【0030】
図15及び図16は、実施形態に係るアンテナ装置1の利得と第1変形例に係るアンテナ装置500の利得とを比較する図である。図15では、アンテナ装置1及びアンテナ装置500のサイド壁13の間隔W1を変更したときにおける、アンテナ装置500よりも高利得となる柱142の幅を例示する。なお、図15の例では、間隔W1が変更されても貫通孔141の幅は一定である。図16では、アンテナ装置1のサイド壁13の間隔W1を変更したときにおける、間隔W1を23mmで固定したアンテナ装置500よりも高利得となる柱142の幅を例示する。図15及び図16の縦軸は柱142の1本あたりの幅(mm)を示し、横軸はサイド壁13の間隔W1(mm)を示す。また、図15及び図16において、「×(バツ)」印は、それぞれの間隔W1において利得が最大となった柱142の幅を示す。また、図17は、サイド壁13の間隔W1の夫々において最も高い利得をプロットした図である。図17の縦軸は正面方向の利得(dBi)を示し、横軸は間隔W1(mm)を示す。
【0031】
図15及び図16を参照すると、柱142の幅が1mmから8mmの範囲で、アンテナ装置1の利得はアンテナ装置500の利得を上回ることが多い。そして、柱142の幅が1mmから8mmは、周波数27GHzのミリ波の場合、0.1波長から0.7波長に相当する。そのため、周波数27GHzのミリ波をパッチアンテナ111が出射する場合、4つの貫通孔141の間に形成される3本の柱142夫々の幅は、0.1波長から0.7波長に設定されることが好ましい。すなわち、貫通孔141の間隔は、0.1波長から0.7波長であることが好ましい。また、図17を参照すると、サイド壁13の間隔W1は、23mmから33mm程度、または、40mmから44mm程度が好ましい。そして、サイド壁13の間隔W1が1mmから8mmは、周波数27GHzのミリ波の場合、2波長から2.9波長、または、3.6波長から3.9波長に設定されることが好ましい。
【0032】
図18及び図19は、実施形態に係るアンテナ装置1の利得と第1変形例に係るアンテナ装置500の利得とを比較する図である。図18では、アンテナ装置1及びアンテナ装置500のサイド壁13の間隔W1を変更したときにおける、アンテナ装置500よりも高利得となる柱142の幅を例示する。ここで、図18では、図15とは異なり貫通孔141の幅も間隔W1の変更に応じて変更する。すなわち、図18の例では、間隔W1が長くなるほど、貫通孔141の幅も広くしている。図19では、アンテナ装置1のサイド壁13の間隔W1を変更したときにおける、間隔W1を23mmで固定したアンテナ装置500よりも高利得となる柱142の幅を例示する。図18及び図19の縦軸は柱142の1本あたりの幅(mm)を示し、横軸はサイド壁13の間隔W1(mm)を示す。また、図18及び図19において、「×(バツ)」印は、それぞれの間隔W1において利得が最大となった柱142の幅を示す。また、図20は、サイド壁13の間隔W1の夫々において最も高い利得をプロットした図である。図20の縦軸は正面方向の利得(dBi)を示し、横軸は間隔W1(mm)を示す。
【0033】
図18及び図19を参照すると、柱142の幅が1mmから13mmの範囲で、アンテナ装置1の利得はアンテナ装置500の利得を上回ることが多い。そして、柱142の幅が1mmから13mmは、周波数27GHzのミリ波の場合、0.1波長から1.2波長に相当する。そのため、周波数27GHzのミリ波をパッチアンテナ111が出射する場合、4つの貫通孔141の間に形成される3本の柱142夫々の幅は、0.1波長から1.2波長に設定されることが好ましい。すなわち、貫通孔141の間隔は、0.1波長から1.2波長であることが好ましい。また、図20を参照すると、サイド壁13の間隔W1は、23mmから45mm程度が好ましい。そして、サイド壁13の間隔W1が23mmから45mmは、周波数27GHzのミリ波の場合、2波長から4波長に設定されることが好ましい。
【0034】
以上説明した実施形態では、アンテナ装置1の正面視においてパッチアンテナ111と貫通孔141とがずれるように設けられる。すなわち、アンテナ装置1の正面視において、パッチアンテナ111の少なくとも一部は柱142によって隠れるようになる。そのため、パッチアンテナ111から出射されたミリ波は、正面視において貫通孔141を介してパッチアンテナ111の全体が視認可能となっている場合と比較して、正面壁14で反射される可能性が高くなる。正面壁14で反射されたミリ波は、サイド壁13,13やグランド基板12で反射されてパッチアンテナ111から出射される。反射されて貫通孔141から出射されるミリ波は、正面方向とは異なる方向にも出射される。アンテナ装置1は、このようにミリ波が出射される構成とすることで、ビームフォーミングにおけるアンテナ性能の低下を抑制することができる。
【0035】
ここで、アンテナ装置1では、ミリ波アンテナモジュール11から正面壁14までの距離が、パッチアンテナ111が出射するミリ波の波長の0.5倍の距離に設定される。このように設定されることで、パッチアンテナ111から直接貫通孔141を通過するミリ波と、パッチアンテナ111から出射されて、正面壁14、サイド壁13、グランド基板12で反射されてパッチアンテナ111から出射されるミリ波とを同位相で合成することができる。そのため、アンテナ装置1は、ビームフォーミングにおけるアンテナ性能の低下をより一層抑制することができる。
【0036】
また、アンテナ装置1では、貫通孔141の間に柱142が形成されることから、柱142が設けられないアンテナ装置500よりもアンテナ装置1の剛性を高めることができる。さらに、アンテナ装置1では、サイド壁13,13が設けられることから、サイド壁13,13が設けられないアンテナ装置600よりもアンテナ装置1の剛性を高めることができる。
【0037】
<変形例>
以上説明したアンテナ装置1では、貫通孔141の形状は正面視において長方形状に形成される。しかしながら、貫通孔141の形状は長方形状に限定されるわけではなく、様々な形状に形成されてもよい。図21から図25は、貫通孔141の形状のバリエーションを例示する図である。図21では、正面視において十字型となる貫通孔141が例示される。図22では、正面視において正方形となる貫通孔141が例示される。図23では、正面視においてバツ印(傾いた十字型)となる貫通孔141が例示される。図24では、正面視において菱形となる貫通孔141が例示される。図25では、正面視において円形となる貫通孔141が例示される。図21から図25に例示するような形状を貫通孔141に採用することで、アンテナ装置1を直交偏波に対応させることができる。このように、貫通孔141は様々な形状を採用することができる。また、アンテナ装置1においては、異なった形状の貫通孔141が混在してもよい。例えば、アンテナ装置1は、図21に例示する十字型の貫通孔141と、図24に例示する菱形の貫通孔141を備えてもよい。
【0038】
また、パッチアンテナ111は、図2に例示するように、正面視において正方形となる配置(上下の辺がミリ波アンテナモジュール11の上下の辺と平行、左右の辺がミリ波アンテナモジュール11の左右の辺と平行)に限定されず、傾いて配置されてもよい。図26は、実施形態において、パッチアンテナ111の配置の一例を示す図である。図26では、パッチアンテナ111の配置を示すため、正面壁14を外した状態が例示される。図26に例示するように、パッチアンテナ111の夫々は、正面視において菱形(図2の状態から45度傾けた状態)に配置されてもよい。
【0039】
また、アンテナ装置1において、ミリ波アンテナモジュール11は上下に2段重ねて配置されてもよい。この場合、上下に2段重ねたミリ波アンテナモジュール11のパッチアンテナ111夫々に対して、貫通孔141が配置されればよい。図27及び図28は、ミリ波アンテナモジュール11を上下に2段重ねた状態を例示する図である。図27及び図28では、アンテナ装置1の上下にも上下壁15が設けられている。
【0040】
図29は、図27に例示するアンテナ装置1を正面から見た状態を示す図である。図30は、図28に例示するアンテナ装置1を正面から見た状態を示す図である。図29及び図30では、正面視において正面壁14の背後に隠れる部分を点線で示す。図29に例示するように、アンテナ装置1の正面視において、パッチアンテナ111の上下方向の中心と貫通孔141の上下方向の中心とが略一致するように、パッチアンテナ111と貫通孔141の位置関係が設定されてもよい。また、図30に例示するように、アンテナ装置1の正面視において、短手方向の貫通孔141の間隔を拡大させた位置関係が設定されてもよい。
【0041】
また、以上説明した実施形態や変形例では、パッチアンテナ111の数と貫通孔141の数とが一致していたが、貫通孔141はパッチアンテナ111よりも多く設けられてもよい。図31は、貫通孔141の数を変動させたときにおけるアンテナ装置1の利得を示す図である。図31の縦軸はアンテナ装置1の利得(dBi)を示し、横軸は正面壁14に設けられた貫通孔141の幅の合計(mm)を示す。図31において、グラフAは貫通孔141の数が2個の場合を、グラフBは貫通孔141の数が3個の場合を、グラフCは貫通孔141の数が4個の場合を、グラフDは貫通孔141の数が8個の場合を、グラフEは貫通孔141の数が16個の場合を、夫々示す。また、横点線Fは、アンテナ装置500の利得を例示する。
【0042】
図31を参照すると、貫通孔141の数を4個より増やしても、貫通孔141の幅の合計を適宜調整することで、アンテナ装置500よりも高い利得を実現し得ることが理解できる。例えば、貫通孔141の数を4個とした場合、貫通孔141の幅の合計を5mm以上とすることで、アンテナ装置1の利得をアンテナ装置500よりも高くすることができる。すなわち、27GHzのミリ波をパッチアンテナ111が出射する場合には、貫通孔141の幅の合計が0.45波長以上であれば、アンテナ装置1の利得をアンテナ装置500よりも高くすることができる。
【0043】
アンテナ装置1では、サイド壁13や正面壁14をパッチアンテナ111とは別のアンテナの一部として利用してもよい。以下では、実施形態に係るアンテナ装置1のサイド壁13や正面壁14をアンテナの一部として利用する構成について説明する。
【0044】
図32の例では、アンテナ装置1において、一方のサイド壁13がサイド壁13aに置き換えられる。サイド壁13aは、正面壁14と接する一方で、グランド基板12との間には隙間が形成される。そして、サイド壁13aとグランド基板12との間に形成される隙間には給電点21が配置されてサイド壁13aに対して給電が行われる。このような構成によって、サイド壁13a、正面壁14、サイド壁13及びグランド基板12によるループアンテナを形成することができる。
【0045】
図33の例では、アンテナ装置1において、双方のサイド壁13がサイド壁13aに置き換えられる。そして、一方のサイド壁13aとグランド基板12との間には給電点21が配置されて、当該一方のサイド壁13aに対して給電が行われる。このような構成によって、サイド壁13a、正面壁14、サイド壁13aによる逆Lアンテナを形成することができる。
【0046】
図34は、アンテナ装置1を実装した無線通信装置800の一例を示す図である。無線通信装置800は、平面視において略矩形状に形成された筐体801を備える。アンテナ装置1は、平面視において矩形状に形成された筐体801の各辺にひとつずつ設けられている。そして、無線通信装置800において、アンテナ装置1の正面壁14は、筐体801の一部(側壁の一部)を形成する。
【0047】
図35から図38では、無線通信装置800の筐体801の一部として正面壁14を利用する例について説明する。図36の例では、サイド壁13、13のうちの一方と基板11との間において、基板11上に給電点21が設けられる。そして、給電点21から給電を受けるとともに正面壁14に接続される追加導体22が設けられる。このような構成によっても、サイド壁13,13、正面壁14及び追加導体22によってラダーループアンテナを形成することができる。
【0048】
図35の例では、サイド壁13,13の一方から正面壁14が延長された延長部分14aが形成される。延長部分14aには貫通孔141は設けられない。そして、延長部分14aと給電点21とに接続された追加導体22が設けられる。なお、図35では、理解を助けるため、正面壁14と延長部分14aとの境界に点線を描いている。このような構成によれば、サイド壁13,13、正面壁14及び追加導体22によってラダーループアンテナが形成される。なお、延長部分14aの長さは、ラダーループアンテナを動作させる電波の周波数に応じて適宜決定すればよい。
【0049】
図37の例では、図35に例示した構成において、一方のサイド壁13がグランド基板12との間に隙間12aを形成するサイド壁13aに置き換えられる。隙間12aが形成されることで、追加導体22、延長部分14a、正面壁14及びサイド壁13aによる逆Fアンテナが形成される。
【0050】
図38の例では、図35と同様に正面壁14は、無線通信装置の筐体801の一部として利用され、延長部分14aも形成される。そして、サイド壁13,13は、サイド壁13a、13aに置き換えられる。延長部分14aとグランド基板12との間には、延長部分14aとグランド基板12とに接続される追加導体22aが設けられる。サイド壁13a、13aのうちの一方のサイド壁13aとグランド基板12との間には給電点21が設けられ、給電点21から当該一方のサイド壁13aに給電が行われる。このような構成によって、追加導体22a、延長部分14a、サイド壁13a、正面壁14及びサイド壁13aによる逆Fアンテナを形成することができる。
【0051】
以上説明したように、アンテナ装置1では、パッチアンテナ111のみならず、正面壁14,サイド壁13,13をアンテナとして動作させることもできる。
【0052】
以上で開示した実施形態や変形例はそれぞれ組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0053】
1・・アンテナ装置
11・・ミリ波アンテナモジュール
12・・グランド基板
12a・・隙間
13・・サイド壁
13a・・サイド壁
14・・正面壁
14a・・延長部分
15・・上下壁
21・・給電点
22・・追加導体
22a・・追加導体
141・・貫通孔
142・・柱
111・・パッチアンテナ
112・・基板
113・・給電点
500・・アンテナ装置
514・・正面壁
600・・アンテナ装置
800・・無線通信装置
801・・筐体
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