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特許7665021アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 26/00 20060101AFI20250411BHJP
   B22D 19/00 20060101ALI20250411BHJP
   C22C 1/10 20230101ALI20250411BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20250411BHJP
【FI】
C22C26/00 Z
B22D19/00 V
C22C1/10 E
C22C21/02
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023523422
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2022020392
(87)【国際公開番号】W WO2022249918
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2021088543
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】太田 寛朗
(72)【発明者】
【氏名】石原 庸介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大助
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-158817(JP,A)
【文献】国際公開第2010/092972(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/065139(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/158993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 18/02,19/00,19/14
C22C 1/02,1/10,21/00,26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する平板状の多孔質材の前記開口部の内周面から離間するように、前記開口部内に、ダイヤモンド粉末を含有する組成物層を含む積層構造を設ける工程と、
アルミニウムを含有する金属の溶融物を、前記多孔質材と前記積層構造との間の空間に圧入し、前記組成物層に含浸させることによって、アルミニウム及びダイヤモンドを含有する複合化部を形成すると共に、前記積層構造の少なくとも側面に金属層を形成する工程と、を有し、
前記積層構造が、第一離型板と、第一無機層と、前記組成物層と、第二無機層と、第二離型板と、をこの順に備える、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法。
【請求項2】
前記開口部が上下方向に貫通する貫通孔である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記開口部が凹部である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第一無機層が、無機繊維含有層及びアルミニウムを含有する金属箔の少なくとも一方である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第二無機層が、無機繊維含有層及びアルミニウムを含有する金属箔の少なくとも一方である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質材の前記開口部の内周面と、前記積層構造と、の距離が0.05~3.50mmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記金属層の平均厚さを調整する工程を更に有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記金属層を形成する工程は溶湯鍛造法によって行われる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記溶融物におけるアルミニウムの含有量が80質量%以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記アルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、アルミニウム及びダイヤモンドを含有する平板状の複合化部と、前記複合化部の一対の主面上に設けられた金属含有層と、前記複合化部の側面上に設けられた金属層と、を有し、前記金属層の平均厚さが0.01~3.00mmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項11】
前記金属含有層及び前記金属層の前記複合化部側とは反対側の面が平滑面である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記平滑面における表面粗さRaが0.5~1.0μmである、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記金属含有層の平均厚さが0.01~0.20mmである、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
前記組成物層は、前記ダイヤモンド粉末と、その他の成分とを含んでもよく、
前記組成物層における前記その他の成分の含有量は、前記組成物層の全量を基準として、3.0質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法。
【請求項15】
前記組成物層は、前記ダイヤモンド粉末からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法。
【請求項16】
前記金属層を形成する工程が、アルミニウムを含有する金属の溶融物を、前記多孔質材と前記積層構造との間の空間に圧入し、前記組成物層に含浸させることによって、アルミニウム及びダイヤモンドを含有する複合化部を形成すると共に、前記積層構造の側面に金属層を形成し、且つ、前記第一無機層及び前記第二無機層と前記複合化部とを接合し、前記複合化部の一対の主面上に金属含有層を形成する工程である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、高い熱伝導率を有するダイヤモンドと、高い熱膨張率を有するアルミニウムとを複合化した材料であり、ヒートシンク等の種々の用途に用いられている。アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造においては、一旦、大判の複合体を調製し、その後、製品形状への加工処理が行われている。しかし、ダイヤモンドを含有し高硬度であるため、安価な機械加工の加工は困難である。そこで、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造には、レーザー加工、ウォータージェット加工、及び放電加工等の方法が用いられている。
【0003】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を放熱部材として使用する場合、例えば、放熱部材は、半導体素子等の他部材に対して金属めっき及びろう材によって接合される。しかし、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、上述のとおりレーザー加工による切断面を有する。当該切断面に露出したダイヤモンド粉末が金属めっきの密着性の低下、又はろう材との接合性の低下を招き、ひいては他部材との接触界面における熱抵抗の増大を招く場合がある。
【0004】
特許文献1は、レーザー加工等による切断面の影響を低減するために、切断面に対して更に金属層を設ける方法が開示されている。具体的には、ダイヤモンド粉末を用意する工程1と、アルミニウムを含有するセラミックス及びアルミニウムを含有する金属材料から選択される1種以上のアルミニウム含有材料を用意する工程2と、上下両面にアルミニウム含有材料を配置した上記ダイヤモンド粉末の層を更に離型板で上下から挟んだ状態で上記ダイヤモンド粉末を多孔質体からなる型材のキャビティに充填し、溶湯鍛造法によりアルミニウムを含有する金属を含浸させて、アルミニウムを含有する金属を80体積%以上含有する表面層を上下両面に有する平板状のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の前駆体を作製する工程3と、前駆体の全側面にはアルミニウム含有材料が配置され、前駆体の上下両面には離型板が配置された状態で、多孔質体からなる型材のキャビティに前駆体を充填し、溶湯鍛造法によりアルミニウムを含有する金属を含浸させて、アルミニウムを含有する金属を80体積%以上含有する表面層を全側面に有する平板状のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製する工程4と、を含む全面が表面層で被覆されているアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/158993号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の需要拡大に伴い、加工費を抑え、且つ生産性を向上させるためにより短い時間で上述のような複合体を製造することが望まれており、レーザー加工処理等を経ずに直接、製品形状のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体をより簡便に製造することが望まれている。
【0007】
本開示は、レーザー加工等を行わずに、従来よりも簡便にアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の[1]~[13]を提供する。
[1]
開口部を有する平板状の多孔質材の上記開口部の内周面から離間するように、上記開口部内に、ダイヤモンド粉末を含有する組成物層を含む積層構造を設ける工程と、
アルミニウムを含有する金属の溶融物を、上記多孔質材と上記積層構造との間に圧入し、上記組成物層に含浸させることによって、アルミニウム及びダイヤモンドを含有する複合化部を形成すると共に、上記積層構造の少なくとも側面に金属層を形成する工程と、を有し、
上記積層構造が、第一離型板と、第一無機層と、上記組成物層と、第二無機層と、第二離型板と、をこの順に備える、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法。
[2]
上記開口部が上下方向に貫通する貫通孔である、[1]に記載の製造方法。
[3]
上記開口部が凹部である、[1]に記載の製造方法。
[4]
上記第一無機層が、無機繊維含有層及びアルミニウムを含有する金属箔の少なくとも一方である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
上記第二無機層が、無機繊維含有層及びアルミニウムを含有する金属箔の少なくとも一方である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
上記多孔質材の上記開口部の内周面と、上記積層構造と、の距離が0.05~3.50mmである、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
上記金属層の平均厚さを調整する工程を更に有する、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
上記金属層を形成する工程は溶湯鍛造法によって行われる、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
上記溶融物におけるアルミニウムの含有量が80質量%以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]
上記アルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、アルミニウム及びダイヤモンドを含有する平板状の複合化部と、上記複合化部の一対の主面上に設けられた金属含有層と、上記複合化部の側面上に設けられた金属層と、を有し、上記金属層の平均厚さが0.01~3.00mmである、[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]
上記金属含有層及び上記金属層の上記複合化部側とは反対側の面が平滑面である、[10]に記載の製造方法。
[12]
上記平滑面における表面粗さRaが0.5~1.0μmである、[11]に記載の製造方法。
[13]
上記金属含有層の平均厚さが0.01~0.20mmである、[10]~[12]のいずれかに記載の製造方法。
【0009】
本開示の一側面は、開口部を有する平板状の多孔質材の上記開口部の内周面から離間するように、上記開口部内に、ダイヤモンド粉末を含有する組成物層を含む積層構造を設ける工程と、アルミニウムを含有する金属の溶融物を、上記多孔質材と上記積層構造との間に圧入し、上記組成物層に含浸させることによって、アルミニウム及びダイヤモンドを含有する複合化部を形成すると共に、上記積層構造の少なくとも側面に金属層を形成する工程と、を有し、上記積層構造が、第一離型板と、第一無機層と、上記組成物層と、第二無機層と、第二離型板と、をこの順に備える、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法を提供する。
【0010】
上記アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法においては、多孔質材の開口部が有する内周面(例えば、開口部が貫通孔である場合、内壁の全周)に対して隙間をおいて上記積層構造を設けることによって、その後に圧入されるアルミニウムを含有する金属の溶融物が、上記積層構造の表面に広がり、これによって、表面にアルミニウムを含む金属層を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を直接製造することができる。このため、レーザー加工の必要もなく、また、加工のための工程数も少なく済むことから、従来と比較してより短時間でアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を製造することができる。
【0011】
上述の製造方法は、アルミニウム及びダイヤモンドを含有する複合化部を形成する際に、型枠との間に金属層を形成することによって、直接、製品形状のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を製造する。
【0012】
上記開口部は上下方向に貫通する貫通孔であってよい。上記開口部が貫通孔であることによって、金属層を形成した後に複合体を型枠から取り出すことがより容易なものとなる。
【0013】
上記開口部は凹部であってよい。
【0014】
上記第一無機層は、無機繊維含有層及びアルミニウムを含有する金属箔の少なくとも一方であってよい。
【0015】
上記第二無機層は、無機繊維含有層及びアルミニウムを含有する金属箔の少なくとも一方であってよい。
【0016】
上記多孔質材の上記開口部の内周面と、上記積層構造と、の距離が0.05~3.50mmであってよい。
【0017】
上記製造方法は、上記金属層の平均厚さを調整する工程を更に有してもよい。
【0018】
上記金属層を形成する工程は、溶湯鍛造法によって行われてよい。
【0019】
上記溶融物におけるアルミニウムの含有量が80質量%以上であってよい。
【0020】
上述の製造方法によって得られる上記アルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、アルミニウム及びダイヤモンドを含有する平板状の複合化部と、上記複合化部の一対の主面上に設けられた金属含有層と、上記複合化部の側面上に設けられた金属層と、を有し、上記金属層の平均厚さが0.01~3.00mmであってよい。金属層の平均厚さが所定範囲であることによって、得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、複合化部と金属層との接合面において優れた熱衝撃耐性をも発揮し得る。
【0021】
上記金属含有層及び上記金属層の上記複合化部側とは反対側の面が平滑面であってよい。
【0022】
上記平滑面における表面粗さRaが0.5~1.0μmであってよい。
【0023】
上記金属含有層の平均厚さが0.01~0.20mmであってよい。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、レーザー加工等を行わずに、従来よりも簡便にアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を製造する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法の一例を説明するための模式図である。
図2図2は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の一例を示す斜視図である。
図3図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の一例を示す上面図である。
図5図5は、実施例における測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、場合によって図面を参照し、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0027】
本明細書において例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書において「~」で表される範囲は、特に断らない限り上限値及び下限値を含み、例えば、「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。
【0028】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法の一実施形態は、開口部を有する平板状の多孔質材の開口部の内周面から離間するように、開口部内に、ダイヤモンド粉末を含有する組成物層を含む積層構造を設ける工程(以下、積層構造敷設工程ともいう)と、アルミニウムを含有する金属の溶融物を、多孔質材と積層構造との間に圧入し、組成物層に含浸させることによって、アルミニウム及びダイヤモンドを含有する複合化部を形成すると共に、積層構造の少なくとも側面に金属層を形成する工(以下、金属層形成工程ともいう)程と、金属層の平均厚さを調整する工程(以下、層厚調整工程ともいう)と、を有する。なお、層厚調整工程は任意の工程であって、省略することができる。層厚調整工程は、例えば、金属層形成工程によって形成される金属層の平均厚さが0.01~3.00mmであれば、省略してよい。
【0029】
図1は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法の一例を説明するための模式図である。図1の(a)は、積層構造敷設工程を示し、図1の(b)は、金属層形成工程を示し、図1の(c)は、上述の製造方法によって得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の一例を示す模式断面図である。図1において、多孔質材50の有する開口部は、上下方向に貫通する貫通孔とした。しかし、開口部は、例えば、多孔質材50の一方の主面側に開口を有する凹部であってもよい。また、開口部は、目的のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100としてより均質なものを得る観点から、多孔質材50の中央に一つ設けられることが望ましいが、特に限定されず、例えば、一つの多孔質材50に複数の開口部が設けられてもよく、開口部が形成される位置も適宜調整してよい。以下の説明では、開口部が貫通孔である例に基づいて説明するが、開口部が凹部である場合、図1の(a)における金属板60の一方が、多孔質材50と同じ材料で一体となっているものと読み替えてよい。
【0030】
積層構造敷設工程では、2枚の金属板60の間に設置され、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100の型となる枠材である多孔質材50の有する開口部の内側に、多孔質材50の開口部の内周面50aから離れるように、隙間を設けて積層構造30を設ける工程である。多孔質材50の有する開口部内に積層構造30を設ける方法は、特に限定されるものではないが、例えば、金属板60上に多孔質材50を設置し、その後、積層構造30の構成する各層を順次積層していく方法であってもよく、別途形成した積層構造30を多孔質材50の有する開口部の内側に挿入する方法であってもよい。多孔質材50の開口部の内周面50aと、積層構造30の外周面との間に隙間(距離g)を設ける手段は、例えば、後に除去可能な所定厚さのスペーサーを開口部の内周面50aに接するように設け、スペーサーの内側(多孔質材50側とは反対側の空間)に積層構造30を形成又は挿入した後、スペーサーを除去する方法であってもよい。なお、図1は、積層構造30を一つ設けた例で示したが、多孔質材50の開口部の内側に、多孔質材50の厚さ方向に沿って、複数の積層構造30を積層してもよい。
【0031】
多孔質材50の開口部の内周面50aと、積層構造30の外周面との距離gは、目的とするアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の側面に形成する金属層の厚さに応じて調整することができる。多孔質材50の開口部の内周面50aと、積層構造30の外周面との距離gは、例えば、0.05~3.50mm、0.05~2.50mm、又は0.05~1.00mmであってよい。
【0032】
金属板60は、例えば、鉄板、及びステンレス板等を用いることができる。
【0033】
多孔質材50は、後述する金属層形成工程において、アルミニウムを含有する金属の溶融物を圧入又は浸透させることが可能な耐熱性を有する多孔質材が使用される。多孔質材50は、例えば、黒鉛又は窒化ホウ素からなる多孔質焼結体(例えば、等方性黒鉛型材等)、及びアルミナ繊維で構成される多孔質体等を用いることができる。多孔質材50の開口部の形状は、目的とするアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100の形状に応じて調整することができる。本開示の製造方法では、多孔質材50の開口部の形状を調整することによって、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100の形状を変更できることから、従来の方法におけるレーザー加工等による成形とは異なり、設計の自由度に優れる。
【0034】
積層構造敷設工程において設ける積層構造30は、第一離型板6aと、第一無機層4aと、組成物層2と、第二無機層4bと、第二離型板6bと、をこの順に備える。第一無機層4a及び第二無機層4bは、同一であっても、異なってもよい。
【0035】
組成物層2は、例えば、ダイヤモンド粉末のみで構成されてもよく、またその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、シリカ等の結合剤であってよい。組成物層2がその他成分を含む場合、その他成分の含有量は、組成物層2の全量を基準として、例えば、0.5~3.0質量%であってよい。
【0036】
組成物層2を構成するダイヤモンド粉末は、天然ダイヤモンドの粉末であっても、人造ダイヤモンドの粉末であってもよく、その両者の混合物であってもよい。ダイヤモンド粉末としては、表面にβ型炭化ケイ素層が形成されたダイヤモンド粒子を使用することもできる。このようなダイヤモンド粒子は、後述する金属層形成工程においてアルミニウムを含む金属の溶融物と接触させる際に、熱伝導率の低い金属炭化物(例えば、炭化アルミニウム(Al))の生成を抑制することができ、ひいては、得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100の熱伝導率をより向上させることができる。
【0037】
ダイヤモンド粉末は、熱伝導率を向上させる観点から、その粒度分布が調整されていてもよい。ダイヤモンド粉末は、好ましくは、体積基準の粒度分布曲線において複数のピークを有する。このようなダイヤモンド粉末は、平均粒子径の異なる2種以上の粉末の混合粉末であってよい。ダイヤモンド粉末は、体積基準の粒度分布曲線において、例えば、粒子径が5~25μmの領域に第一ピークを有し、粒子径が55~195μmの領域に第二ピークを有してよい。第一ピークは、好ましくは粒子径が10~20μmの領域にある。第二ピークは、好ましくは粒子径が100~180μmの領域にある。
【0038】
本明細書における平均粒子径は、累積粒度分布の累積値が50%となる粒子径(メジアン径、d50)である。本明細書における平均粒子径は、ISO 13320:2009の記載に準拠し、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置を用いて測定する。レーザー回折散乱法粒度分布測定装置としては、例えば、ベックマンコールター社製の「LS-13 320」(装置名)等を使用できる。
【0039】
ダイヤモンド粉末は、望ましくは、粒子径の大きな粉末を比較的多く含有する。ダイヤモンド粉末は、体積基準の粒度分布曲線において、粒子径が1~35μmの領域における面積をAとし、粒子径が45~205μmの領域における面積をBとした場合に、Aに対するBの比率(B/Aの値)が、例えば、1.5以上、2.3以上、4.0以上、又は9.0以上であってよい。上記B/Aの値が上記範囲内であることによって、ダイヤモンドの充填量を向上させることができ、また得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100の熱伝導率を向上させることができる。
【0040】
本明細書における粒度分布は、コールター法に基づき測定される値を意味する。
【0041】
第一無機層4a及び第二無機層4bは、互いに独立に、例えば、無機繊維含有層及びアルミニウムを含有する金属箔の少なくとも一方であってよい。
【0042】
無機繊維含有層は、後述する金属層形成工程において、アルミニウムを含有する金属の溶融物を圧入又は含浸することが可能なように、例えば、無機繊維のメッシュで構成される。無機繊維は、例えば、金属繊維、又はセラミックス繊維であってよい。セラミックス繊維としては、例えば、アルミナ繊維、及びガラス繊維などであってよい。アルミニウムを含有する金属箔は、例えば、アルミニウム箔、及びアルミニウム合金箔等であってよい。
【0043】
第一無機層4a及び第二無機層4bの厚さは、互いに独立に、例えば、0.01mm以上、0.02mm以上、又は0.03mm以上であってよい。第一無機層4a及び第二無機層4bの厚さの下限値が上記範囲内であることで、ダイヤモンド粉末がアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100の表面に露出すること等をより十分に抑制することができる。第一無機層4a及び第二無機層4bの厚さは、互いに独立に、例えば、0.20mm以下、0.15mm以下、0.10mm以下、0.08mm以下、又は0.06mm以下であってよい。第一無機層4a及び第二無機層4bの厚さの上限値が上記範囲内であることで、得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100の厚さ方向の熱伝導率が低下することをより十分に抑制することができる。上記厚さは、上述の範囲内で調整でき、例えば、0.01~0.20mm、又は0.02~0.15mmであってよい。
【0044】
本明細書における第一無機層4a及び第二無機層4bの厚さは、マイクロメーターによって測定することができ、面内の5点で測定した値の算術平均値である。第一無機層4a及び第二無機層4bの厚さは、得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100の熱伝導率等を向上させ、かつ熱膨張係数の差によるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100の反りを抑制する観点から、同一の厚さであることが望ましい。
【0045】
第一離型板6a及び第二離型板6bは、後述する金属層形成工程において、アルミニウムを含有する金属の溶融物を圧入し、組成物層2に含浸させる際に十分に圧力を印加できるよう緻密な構造を有する板を使用できる。第一離型板6a及び第二離型板6bは、例えば、ステンレス板、及びセラミックス板等を使用できる。第一離型板6a及び第二離型板6bの組成物層2側の主面には、離型剤が塗布されていてよく、離型処理されていてもよい。このような離型剤としては、例えば、黒鉛、窒化ホウ素及びアルミナ等が挙げられる。第一離型板6a及び第二離型板6bとしては、例えば、組成物層2側の主面上にアルミナゾル等によるコーティング層を形成した後、更に離型剤を付着させた離型板を使用することができる。このような離型板を用いることで、より安定した離型を行うことができ、得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100の主面をより平滑なものとすることができる。
【0046】
金属層形成工程では、アルミニウムを含有する金属の溶融物を、多孔質材50を介して、多孔質材50と積層構造30との間に供給することによって、アルミニウム及びダイヤモンドを含有する複合化部を形成すると共に、積層構造30の少なくとも側面に金属層を形成する。金属層形成工程では、金属層24に加えて、第一無機層4a及び第二無機層4bの内部、又は第一無機層4a及び第二無機層4bの組成物層2側の主面上に、アルミニウムを含有する金属の溶融物が浸透し、金属含有層22a,22bが形成されてもよい。第一無機層4a及び第二無機層4bが無機繊維のメッシュで構成される場合には、当該工程においてメッシュ中に、アルミニウムを含有する金属の溶融物が含浸し、金属含有層が形成されるとともに、複合化部と金属含有層とが強固に接合する。また第一無機層4a及び第二無機層4bがアルミニウムを含有する金属箔である場合には、それ自体が金属含有層を構成し、第一無機層4a及び第二無機層4bの組成物層2側の主面上に、アルミニウムを含有する金属の溶融物が浸透することで、複合化部と金属含有層とが強固に接合する。
【0047】
金属層形成工程において、アルミニウムを含有する金属の溶融物を供給する方法は、例えば、高圧下で金属の溶融物を対象物に含浸させる、いわゆる高圧鍛造法であってよい。熱伝導率により優れるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100を得る観点からは、金属層形成工程において溶湯鍛造法を用いることが望ましい。金属層形成工程は、例えば、積層構造敷設工程において調製した積層体自体を溶融物が充填された容器に浸漬し、溶融物に圧力をかけることで行われる。これによって、多孔質材50が有する細孔を介して、溶融物が浸透し、多孔質材50の開口部の内周面50aと積層構造の外周面との間に供給され、その後、組成物層2の内部にまで溶融物が含浸することによって複合化が生じる。
【0048】
アルミニウムを含有する金属の溶融物は、例えば、アルミニウムに加えて、その他の金属を含んでもよい。その他の金属は、例えば、ケイ素、マグネシウム、及び銅等が挙げられる。その他金属としては、ケイ素及びマグネシウムの少なくともいずれかを含むことが好ましい。溶融物が上述の金属を含むことで、溶融物の融点を低下させることができ、含浸時の溶融粘度を低下させることが可能であることから、組成物層2中のダイヤモンド粉末の粒子同士で構成される空隙にも十分に溶融物を浸透させることができる。このような作用によって、得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100における複合化部の密度をより向上させることができる。溶融物がケイ素を含む場合、融点をより低下させることができ、溶融物がマグネシウムを含む場合、複合化部と金属層との結合をより強固なものとすることができる。
【0049】
溶融物がアルミニウムに加えて、その他の金属を含む場合、その他の金属の含有量は、溶融物全量を基準として、2~20質量%、2~15質量%、又は5~15質量%であってよい。
【0050】
溶融物を組成物層2に含浸させる際には、積層構造30、多孔質材50、及び金属板60を加熱しておくことが望ましい。加熱温度の下限値は、例えば、520℃以上、又は540℃以上であってよい。加熱温度の下限値を上記範囲内とすることによって、溶融物を組成物層2より容易に含浸させることができ、金属層形成工程における複合化をより安定に行うことができる。加熱温度の上限値は、例えば、750℃以下、又は700℃以下であってよい。加熱温度の上限値を上記範囲内とすることによって、アルミニウムとの複合化の際に炭化アルミニウム(Al)が形成されることをより抑制することができ、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100の熱伝導率をより向上することができる。加熱温度は、上述の範囲内で調整してよく、例えば、520~750℃、又は540~700℃とすることができる。
【0051】
溶融物を組成物層2に含浸させる際の圧力は、例えば、20MPa以上、30MPa以上、40MPa以上、又は50MPa以上であってよい。溶融物を組成物層2に含浸させる際の圧力の下限値が上記範囲内とすることによって、金属層形成工程における複合化をより安定して行うことができ、得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100の熱伝導率をより向上させることができる。溶融物を組成物層2に含浸させる際の圧力は、例えば、150MPa以下、100MPa以下、又は80MPa以下であってよい。溶融物を組成物層2に含浸させる際の圧力は、上述の範囲内で調整してよく、例えば、20~150MPaであってよい。
【0052】
層厚調整工程は、金属層24の平均厚さを0.01~3.00mmに調整する。当該工程によって、金属層の平均厚さ、表面粗さRa、寸法、寸法精度等を調整することができる。当該工程では、必要に応じて、金属含有層22a,22bの平均厚さを調整することもできる。
【0053】
層厚調整工程に先んじて、金属板60及び多孔質材50を取り外し、金属含有層22a及び金属含有層22bからそれぞれ第一離型板6a及び第二離型板6bをはく離する。
【0054】
金属層24の平均厚さの調整手段は、通常の金属加工で採用される加工方法を採用でき、例えば、研磨、平面研削等で行うことができる。
【0055】
上述の製造方法は、積層構造敷設工程、金属層形成工程、及び層厚調整工程に加えて、その他の工程を有してもよい。その他の工程は、例えば、アニール工程、及び表面処理工程等が挙げられる。
【0056】
アニール工程は、上記層厚調整工程の前に金属層24を形成した後に、比較的低温で加熱処理を行うことによって、複合化部10、金属層24等が有し得る歪みなどを低減する工程である。当該工程によって、より熱伝導率に優れるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100を製造できる。アニール工程における加熱温度は、例えば、400~550℃、又は400~500℃であってよい。アニール工程における加熱時間は、例えば、10分間以上、又は20分間以上であってよく、また24時間以下、又は12時間以下であってよい。
【0057】
本開示に係る製造方法において、上記アルミニウムを含有する金属の溶融物におけるアルミニウムの含有量が、例えば、80質量%以上であってよい。本開示に係る製造方法においてはまた、金属含有層22a、金属含有層22b及び金属層24のいずれもアルミニウムの含有量が、例えば、80質量%以上であってよい。この場合、研磨などの通常の金属加工法でより容易に加工を行うことができる。上述のアルミニウムの含有量は、85質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよく、金属含有層22a及び金属含有層22bにおけるアルミニウムの含有量は100質量%(すなわち、アルミニウムからなる金属箔)であってもよい。
【0058】
図2は、上述の製造方法によって得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の一例を示す斜視図である。図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102は、アルミニウム及びダイヤモンドを含有する平板状の複合化部10と、複合化部10の表面上に設けられた被覆層20と、を有する。被覆層20は、複合化部10の一対の主面上に設けられた金属含有層22a及び22bと、複合化部10の側面上に設けられる金属層24とを有する。アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102は、上述の製造方法の説明によって得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100と同一であってよい。
【0059】
複合化部10の厚さtは、例えば、0.4~6.0mm、0.4~5.0mm、又は0.4~4.0mmであってよい。厚さtの下限値が上記範囲内であることで、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102を、例えば、ヒートシンク等に使用する際にも充分な強度を確保できる。厚さtの上限値が上記範囲内であることで、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102として、十分な熱伝導率を確保すると共に、生産コストの上昇を抑制できる。
【0060】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の両主面を構成する金属含有層22a及び22bの厚さの合計値(2t)は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の厚さTを基準として、例えば、20%以下、15%以下、10%以下であってよい。金属含有層22a及び22bの厚さの合計値(2t)が上記範囲内であることで、熱伝導率を確保しつつ、めっき性を向上させることができる。
【0061】
複合化部10の両主面上に設けられた上記金属含有層22a,22bの平均厚さtは、例えば、0.01~0.20mm、又は0.02~0.15mmであってよい。複合化部10の両主面上に設けられた上記金属含有層22a,22bの平均厚さtは、第一無機層4a及び第二無機層4bの厚さを調整すること等によって調整できる。
【0062】
複合化部10の側面における金属層24の平均厚さeは、例えば、0.01~3.00mmである。複合化部10の側面における金属層24の平均厚さeは、上述のアルミニウム-ダイヤモンド系複合の製造方法における多孔質材50の開口部の内周面50aと積層構造30の外周面との距離、及び層厚調整工程等によって調整できる。
【0063】
図4は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の一例を示す上面図である。アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の側面に形成された金属層24の平均厚さeは、ヒートサイクル試験などによって熱衝撃を受けた場合のクラックの発生等をより抑制する観点から、ある程度の厚さに調整することができる。アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の両側面における金属層24の平均厚さeの合計値(2e)は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の外形寸法Lを基準として、例えば、30%以下、20%以下、15%以下、又は10%以下であってよい。なお、外係寸法は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の辺の長さの最大値を意味するものとする。
【0064】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の上面図において、金属層24の面積をCとし、金属含有層22aの面積をDとしたとき、Cは、Dを基準として、例えば、50.0%以下、40.0%以下、又は30.0%以下であってよい。Cはまた、Dを基準として、例えば、0.1%以上、又は0.5%以上であってよい。アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の上面図にける金属層24の面積C(アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の上面図にける外縁を含む帯状の領域の面積)は上述の範囲内で調整してよく、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の上面図にける金属含有層22aの面積Dを基準として、例えば、0.1~50.0%であってよい。
【0065】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の上面図において、金属層24の4角における曲率半径は、例えば、0.5mm以上、0.7mm以上、又は1.0mm以上であってよい。曲率半径が上記範囲内であることで、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体102の取扱い性を向上させることができ、運搬中などに他の部材を傷つけることを抑制することもできる。金属層24の4角における曲率半径は、例えば、5.0mm以下、又は4.0mm以下であってよい。
【0066】
金属含有層22a,22b及び金属層24の少なくとも一方の、前記複合化部10側とは反対側の面が平滑面であってもよい。金属含有層22a,22bの複合化部10側とは反対側の面が平滑面であってよい。金属層24の複合化部10側とは反対側の面が平滑面であってよい。上述の平滑面における表面粗さRaは、例えば、0.5~1.0μm、又は0.5~0.8μmであってよい。表面粗さRaが上記範囲内であることで、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102を、例えば、ヒートシンク等の放熱部材として使用する際の、他部材との接合面における熱抵抗をより低下させることができる。
【0067】
本明細書における表面粗さRaは、JIS B 0601:1994「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ」に記載された算術平均粗さを意味し、ライン接触式の測定器によって測定することができる。ライン接触式の測定としては、例えば、株式会社ミツトヨ製の「表面粗さ測定機サーフテスト SJ-301」(製品名)等を使用できる。
【0068】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102における、金属含有層22a、22bの平面度は、10mm×10mmサイズに換算して、例えば、0.020mm以下、又は0.010mm以下であってよい。平面度が上記範囲内であることによって、他部材の接合における接合層のバラつきを抑制し、より高い放熱性を得ることができる。
【0069】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102を構成する金属層24におけるアルミニウムの含有量の下限値は、例えば、80質量%以上、82質量%以上、84質量%以上、又は86質量%以上であってよい。アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102を構成する金属層24におけるアルミニウムの含有量の上限値は、例えば、98質量%以下、96質量%以下、94質量%以下、92質量%以下、90質量%以下、又は88質量%以下であってよい。
【0070】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102を構成する金属含有層22a、22bにおけるアルミニウムの含有量の下限値は、例えば、90質量%以上、92質量%以上、94質量%以上、96質量%以上、又は98質量%以上であってよい。アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102を構成する金属含有層22a、22bにおけるアルミニウムの含有量の上限値は、特に限定されるものではなく、100質量%(すなわち、アルミニウムからなる層)であってもよいが、例えば、99質量%以下であってよい。
【0071】
本明細書におけるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の両主面における金属含有層、及び側面における金属層のアルミニウム含有量は、エネルギー分散型X線分析装置によって測定される値を意味する。
【0072】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102は熱伝導性に優れる。アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102の25℃における熱伝導率は、例えば、400W/mK以上、450W/mK以上、又は500W/mK以上とすることができる。
【0073】
本明細書における熱伝導率は、レーザーフラッシュ法によって測定される値を意味する。測定には、例えば、理学電機社製の「LF/TCM-8510B」(製品名)等を使用できる。
【0074】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102は加熱時の変形が低く抑制されている。アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102の25℃から400℃に加熱した場合の線膨張係数は、例えば、5.0×10-6~10.0×10-6-1、5.5×10-6~9.0×10-6-1、又は5.5×10-6~8.5×10-6-1とすることができる。
【0075】
本明細書における線膨張係数は、熱膨張計を用いて測定される値を意味する。測定には、例えば、セイコー電子工業社製の「TMA300」(製品名)等を使用できる。
【0076】
上述のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102は、熱伝導率に優れることから、放熱部材等として好適に使用できる。本開示に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、一般的な半導体素子と同等レベルの熱膨張率を有することから、半導体素子の放熱部材としても有用である。ここで、半導体素子としては、窒化ガリウム(GaN)、ガリウムひ素(GaAs)、及び炭化ケイ素(SiC)等の高出力が要求される半導体レーザー素子、並びに、GaN-HEMT(High Electron Mobility Transistor:HEMT、高電子移動度トランジスタ)素子、及びGaAs-HEMT素子などの高周波素子等が挙げられる。
【0077】
上述のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102は、例えば、めっき層を形成しためっき部品として使用することもできる。めっき部品の一実施形態は、平板状のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体と、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体上に設けられた金属めっき層と、を有し、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体が上述のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体である。
【0078】
めっき部品における金属めっき層は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体側から、ニッケルめっき層と金めっき層とをこの順に有してもよい。この場合、ニッケルめっき層の平均厚さが、0.5~6.5μmであり、金めっき層の平均厚さが、0.5μm以上であることが好ましい。ニッケルめっき層の平均厚さを上記範囲内とすることで、めっき層におけるピンホール等の欠陥の発生を抑制し、かつめっき部品を使用する際の高温環境下においても、めっき膜のはく離、及びクラック等の発生をより十分に抑制することができる。
【0079】
めっき層の形成には、一般的なめっき法を用いることができる。めっき法としては、例えば、電解めっき法、無電解めっき法等を使用できる。金属含有層22a、22b、及び金属層24に対してニッケルめっきを行う場合には、例えば、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体100,102の表面の少なくとも一部を亜鉛等で置換する前処理を行ってもよい。このような前処理を行うことによって、めっき層の密着性をより向上させることができる。
【0080】
ニッケルめっきを行った場合、その表面には、さらに厚さが0.5~6.5μmのアモルファスのニッケル合金めっきを施すことがより好ましい。この場合、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の表面に、ダイヤモンド粉末が露出していても、ピンホール等の発生を抑制することができるため、アモルファスニッケル合金めっきを形成する手段は、無電解めっき法であることが好ましい。この場合のアモルファスニッケル合金めっきは、ニッケルとリン(P)とを例えば5~15重量%含有する合金めっきであってよい。
【0081】
また、接合温度の上昇、実使用時の温度負荷の増加に伴い、アモルファスのニッケル合金めっきが結晶化し、その際の体積変化によりマイクロクラックが発生し、その後の温度負荷でクラックが伸展するといった場合が生じ得ることから、ニッケル合金めっき層は、例えば0.5μm~2μmの厚さであることが好ましい。
【0082】
高温でろう材による接合を行う用途で使用する場合には、めっき部品の最表面に金めっき層を設けることが望ましい。金めっき層の厚さは、接合を十分に強固なものとする観点から、例えば、0.01μm以上であってよい。金めっき層の厚さは、コストを抑制する観点から、例えば、4.00μm以下であってよい。
【0083】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、共通する構成については互いの説明を適用することができる。また本開示は、上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例
【0084】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0085】
(実施例1)
平均粒子径が130μmの高純度ダイヤモンド粉末(ダイヤモンドイノベーション株式会社製)と、平均粒子径が15μmの高純度ダイヤモンド粉末(ダイヤモンドイノベーション株式会社製)とを、質量比で7対3の割合で混合し、混合粉末を用意した。また縦:43.4mm×横:43.4mm×厚さ:2mmのステンレス板(SUS430材)の表面に、アルミナゾルをコーティングし350℃で30分間焼き付け処理を行った後、黒鉛系離型剤を表面に塗布して離型板を作製した。
【0086】
次に、厚さ:12mmの鉄板の上に、縦:80mm×横:80mm×厚さ:5.5mmの外形を有し、中央部に厚さ方向に貫通する開口部(縦:50.2mm×横:50.2mm、かつ4角の曲率半径が1.0mm)を有する等方性黒鉛型材(気孔率:20体積%)を用意し、開口部の内周面に接するように厚さ3.40mmのスペーサーを配置した。スペーサーで囲われる空間に、離型板、及び純アルミニウム箔(アルミニウムの含有量:100質量%、厚さ:0.05mm、第一無機層(後の金属含有層)に相当)をこの順に積層させ、この上に上述の混合粉末を充填し、厚さ:2.00mmの組成物層を形成した。上記組成物層の上に更に純アルミニウム箔(アルミニウムの含有量:100質量%、厚さ:0.05mm、第二無機層(後の金属含有層)に相当)及び離型板をこの順に積層し積層構造を設けた。その後、スペーサーを取り除き、等方性黒鉛型材と積層構造との間に空間を形成した。スペーサーを取り除いた後、もう一枚の鉄板を重ねたブロック状の構造物を得た(図1の(a)に示すのと同様の構造を形成した。積層構造敷設工程)。
【0087】
ブロック状の構造物を、電気炉内で650℃に予備加熱した後、予め加熱して置いた内径:300mmのプレス型の中に収めた。ケイ素12質量%、マグネシウム1質量%、及びアルミニウム87質量%の組成を有する金属の混合物を800℃で溶融させ溶融物(溶湯)とし、これを予備加熱されたブロック状の構造物が収められたプレス型の中に注ぎ、100MPaの圧力を20分間付与することによって、溶融物を内部へと浸透させた(金属層形成工程)。その後、室温まで冷却した。金属の溶融物中のアルミニウムの含有量は、溶融前の金属の混合物に対する固体発光分光分析を用いて測定することによって決定した。
【0088】
冷却後、湿式バンドソーにて等方性黒鉛型材の形状に沿ってその少し内側を切断し、鉄板、等方性黒鉛型材、及び離型板をはがした。その後、含浸時の歪み除去のために450℃で3時間アニール処理を行った(アニール工程)。アニール処理を行った後、アニール処理物の表面を研磨することによって、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得た。
【0089】
<アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の物性測定>
得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体について、外形寸法、金属含有層及び金属層の平均厚さ、側面の金属層の割合、金属層のアルミニウム含有量、並びに、曲率半径を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
[外形寸法の測定]
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の外形寸法はノギスを用いて測定した。
【0091】
[金属含有層、及び金属層の平均厚さの測定]
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の両主面における金属含有層、及び側面における金属層の厚さは、以下のようにして測定した。図5に示すように、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の中線(図5中、破線で示す)に沿って、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体をダイヤモンド加工治具で切断する。その後、図5中で、○印を付した4箇所の端部において、両主面、及び側面を含む切断面の部分を走査型電子顕微鏡で100倍の画像を取得した。最表面、側面からダイヤモンド粉末までの距離を200μm間隔で5点測定した。4箇所で同様の測定を行い、その算術平均値を金属層の平均厚さとした。
【0092】
[上面視における金属層の割合]
上述の測定によって取得した外形寸法、及び金属層の平均厚さの値から以下の式を用いて、上面視における金属層の割合を算出した。
上面視における金属層の割合=100-[(外形寸法)-2(金属層の平均厚さ)]÷[外形寸法]×100
【0093】
[金属含有層及び金属層のアルミニウム含有量の測定]
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の両主面における金属含有層、及び側面における金属層のアルミニウム含有量を、エネルギー分散型X線分析装置によって測定した。
【0094】
[曲率半径の測定]
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の4角における曲率半径は、CNC(Computer Numerical Control)画像測定機によって、測定した。
【0095】
<アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の評価>
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体について、後述する方法に沿って外周の欠けの有無、及び熱衝撃耐性を評価した。結果を表1に示す。
【0096】
[外周の欠けの有無]
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体について、鉄板、等方性黒鉛型材、離型板をはがした直後の側面を倍率10倍の実体顕微鏡で観察し、その結果を以下の基準で評価した。
A:四隅を含む外周部全域のアルミニウムを主成分とする金属層に、直径100μm以上の欠けが生じていない。
B:四隅を含む外周部全域のアルミニウムを主成分とする金属層に、直径100μm以上の欠けが1つ以上生じている。
【0097】
[熱衝撃耐性]
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体に対して以下の条件でヒートサイクル試験を行った。具体的には、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を-40℃に保持した気相に30分間さらし、その後125℃に保持した気相に30分間さらすことを1回とするサイクルを100回繰り返した。その後、複合体表面を倍率10倍の実体顕微鏡及び超音波探傷装置で観察し、得られた結果を以下の基準で評価した。
A:複合化部と金属層との界面において、顕微鏡観察、超音波探傷いずれにおいても割れが確認されなかった。
B:複合化部と金属層との界面において、顕微鏡観察、超音波探傷いずれかで割れが確認された。
【0098】
(実施例2~8)
開口部の内周面と、積層構造の外周面との離間距離を表1に記載したとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0099】
(実施例9~11)
多孔質材の開口部のサイズを変更し、且つ開口部の内周面と、積層構造の外周面との離間距離を表1に記載したとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0100】
(実施例12及び13)
開口部の内周面と、積層構造の外周面との離間距離を表1に記載したとおりに変更し、且つ第一金属箔、第二金属箔にアルミニウム合金箔を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0101】
(実施例14及び15)
開口部の内周面と、積層構造の外周面との離間距離を表1に記載したとおりに変更し、且つ溶湯に含まれるアルミニウムの含有量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0102】
(実施例16)
スペーサーで囲われる空間に、離型板、及びアルミナ繊維(厚さ:0.05mm、気孔率:90%、第一無機層に相当)をこの順に積層し、また、それらの上に形成した組成物層の上に更にアルミナ繊維(厚さ:0.05mm、気孔率:90%、第二無機層に相当)及び離型板をこの順に積層し積層構造を設けるよう変更したこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0103】
(実施例17)
実施例1で得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体に対して金属層の平面研削を行うことによって、実施例17のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0104】
(実施例18)
スペーサーで囲われる空間に積層する純アルミニウム箔の厚さを0.01mmへ変更したこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0105】
(実施例19)
スペーサーで囲われる空間に積層する純アルミニウム箔の厚さを0.2mmへ変更したこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0106】
(比較例1)
開口部の内周面と、積層構造の外周面との離間距離を表1のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。その結果、側面に金属層を有しないアルミニウム-ダイヤモンド系複合体が得られた。
【0107】
(比較例2)
開口部の内周面と、積層構造の外周面との離間距離を4.0mmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0108】
(比較例3)
多孔質材の開口部のサイズを変更し、且つ開口部の内周面と、積層構造の外周面との離間距離を表1に記載したとおりに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0109】
<アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の物性測定>
実施例2~19及び比較例1~3で作製したアルミニウム-ダイヤモンド系複合体のそれぞれについて、実施例1と同様に、外形寸法、金属含有層及び金属層の平均厚さ、側面の金属層の割合、金属層のアルミニウム含有量、並びに、曲率半径を測定した。結果を表1、表2に示す。なお、比較例2では、製造の途中で組成物層からの粉漏れが発生し、良好なアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を製造することができなかった。そのため、評価対象から外した。
【0110】
<アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の評価>
実施例2~15、比較例1及び3で調製したアルミニウム-ダイヤモンド系複合体のそれぞれについて、実施例1と同様に、外周の欠けの有無、及び熱衝撃耐性を評価した。結果を表1に示す。なお、比較例1で作製したアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は側面に金属層を有していないため、熱衝撃試験の判定を行うことができなかった。そのため、評価対象から外した。また、比較例2では、製造の途中で組成物層からの粉漏れが発生し、良好なアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を製造することができなかった。そのため、評価対象から外した。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0113】
本開示によれば、レーザー加工等を行わずに、従来よりも簡便にアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を製造する方法を提供できる。
【符号の説明】
【0114】
2…組成物層、4a…第一無機層、4b…第二無機層、6a…第一離型板、6b…第二離型板、10…複合化部、20…被覆層、22a,22b…金属含有層、24…金属層、30…積層構造、50…多孔質材、50a…開口部の内周面、60…金属板、100,102…アルミニウム-ダイヤモンド系複合体。

図1
図2
図3
図4
図5