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特許7665024ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物および成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/12 20060101AFI20250411BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20250411BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20250411BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20250411BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250411BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20250411BHJP
【FI】
C08L71/12
C08L25/04
C08L23/12
C08K7/14
C08K3/013
C08K5/521
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023525667
(86)(22)【出願日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2022019179
(87)【国際公開番号】W WO2022255015
(87)【国際公開日】2022-12-08
【審査請求日】2023-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2021092559
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 与一
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-117669(JP,A)
【文献】特開平07-003083(JP,A)
【文献】特開2015-078275(JP,A)
【文献】特開平09-082294(JP,A)
【文献】特開2013-133384(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102942738(CN,A)
【文献】特表2012-525477(JP,A)
【文献】特開平08-245891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/00-71/14
C08L 23/00-25/18
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)を含有する、または前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)とスチレン系樹脂(b)とを含有するポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、2~20質量部のポリプロピレンホモポリマー(c)と、1~25質量部の無機充填材(d)(ただし、無機充填材(d)は、難燃剤(e)と、難燃助剤(f)と、リン系安定剤(g)以外の熱安定剤と、黒色顔料(h)と、白色顔料(i)と、を除き、難燃剤(e)は、難燃助剤(f)を除く)とを含有し、
無機充填材(d)の100質量%のうちのガラス繊維の含有割合は、25質量%以上である、
ことを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機充填材(d)の前記ポリプロピレンホモポリマー(c)に対する質量比は、0.5~3.0である、
ことを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリプロピレンホモポリマー(c)のJIS K7210に準拠して測定されるメルトフローレートは、温度230℃および荷重2.16kgの測定条件において、3~40g/10分である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、5~35質量部の難燃剤(e)をさらに含有する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記難燃剤(e)はリン酸エステル系難燃剤である、
ことを特徴とする請求項4に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、0.5~50質量部の難燃助剤(f)をさらに含有する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項7】
前記難燃助剤(f)は、アルカリ土類金属塩、金属水酸化物、窒素含有化合物、無機酸金属化合物、層状複水酸化物から選ばれる少なくとも1種を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項8】
前記難燃助剤(f)は炭酸カルシウムである、
ことを特徴とする請求項6に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項9】
前記無機充填材(d)は、ガラス繊維、マイカ、タルクから選ばれる少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量%のうち、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有割合は55~100質量%であり、前記スチレン系樹脂(b)の含有割合は0~45質量%である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項11】
前記ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量%のうち、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有割合が90~100質量%、前記スチレン系樹脂(b)の含有割合が0~10質量%である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、0.1~20質量部のリン系安定剤(g)をさらに含有する、
ことを特徴とする請求項11に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項13】
前記リン系安定剤(g)は、ホスファイト系化合物およびホスホナイト系化合物のうち少なくとも1種を含む、
ことを特徴とする請求項12に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項14】
前記ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、0.01~2.0質量部の黒色顔料(h)をさらに含有する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項15】
IEC60112に準拠して測定されるCTI値は400V以上であり、
ISO527に準拠して測定される引張強度は60MPa以上である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1または2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなる、
ことを特徴とする成形品。
【請求項17】
電池ユニット筐体である、
ことを特徴とする請求項16に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル系樹脂は、耐熱性、難燃性、電気特性、寸法安定性等の諸特性に優れ、さらには低比重、耐加水分解性等の優れた特性を有する樹脂である。また、ポリフェニレンエーテル系樹脂は、スチレン系樹脂等の各種樹脂を配合することにより、その成形加工性および耐衝撃性を向上させることが可能である。
【0003】
このようなポリフェニレンエーテル系樹脂等を含有するポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、従来、電気部品、電子機器用部品、車両用部品等の各種用途の材料として広く用いられている。ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、その用途に応じて様々な特性が要求される。例えば、組電池等を備えた電池ユニットを保護する保護筐体用の材料としてポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を用いる場合、このポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、電池ユニットの保護筐体として必要な機械的強度および耐熱性の他、高い耐トラッキング性が要求される。
【0004】
例えば、高い耐トラッキング性を有するポリフェニレンエーテル系樹脂組成物として、特許文献1には、ポリフェニレンエーテル系樹脂と、特定の構造を有する水素添加ブロック共重合体および当該水素添加ブロック共重合体の変性物のうち少なくとも一つとを含む樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-137742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の用途によっては、高い機械的強度が要求される場合がある。一般に、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の機械的強度は、ガラス繊維等の充填材を添加することによって強化することが可能である。
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に例示される従来のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物では、ガラス繊維等の充填材を添加した場合、機械的強度は強化されるものの、耐トラッキング性が大幅に低下してしまうという問題があった。すなわち、従来のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物では、電池ユニットの保護筐体等の用途に応じて要求される高い機械的強度と高い耐トラッキング性とを両立させることは困難であった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、高い機械的強度と高い耐トラッキング性とを両立させることができるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物および成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含有する樹脂成分、またはポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系樹脂とを含有する樹脂成分に対して、無機充填材とポリプロピレンホモポリマーとを特定の割合で配合することにより、高い機械的強度と高い耐トラッキング性との両立が可能なポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)を含有する、または前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)とスチレン系樹脂(b)とを含有するポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、2~20質量部のポリプロピレンホモポリマー(c)と、1~25質量部の無機充填材(d)とを含有する、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記無機充填材(d)の前記ポリプロピレンホモポリマー(c)に対する質量比は、0.5~3.0である、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記ポリプロピレンホモポリマー(c)のJIS K7210に準拠して測定されるメルトフローレートは、温度230℃および荷重2.16kgの測定条件において、3~40g/10分である、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、5~35質量部の難燃剤(e)をさらに含有する、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記難燃剤(e)はリン酸エステル系難燃剤である、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、0.5~50質量部の難燃助剤(f)をさらに含有する、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記難燃助剤(f)は、アルカリ土類金属塩、金属水酸化物、窒素含有化合物、無機酸金属化合物、層状複水酸化物から選ばれる少なくとも1種を含む、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記難燃助剤(f)は炭酸カルシウムである、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記無機充填材(d)は、ガラス繊維、マイカ、タルクから選ばれる少なくとも1種である、ことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量%のうち、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有割合は55~100質量%であり、前記スチレン系樹脂(b)の含有割合は0~45質量%である、ことを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量%のうち、前記ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有割合が90~100質量%、前記スチレン系樹脂(b)の含有割合が0~10質量%である、ことを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、0.1~20質量部のリン系安定剤(g)をさらに含有する、ことを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記リン系安定剤(g)は、ホスファイト系化合物およびホスホナイト系化合物のうち少なくとも1種を含む、ことを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、前記ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、0.01~2.0質量部の黒色顔料(h)をさらに含有する、ことを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記の発明において、IEC60112に準拠して測定されるCTI値は400V以上であり、ISO527に準拠して測定される引張強度は60MPa以上である、ことを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る成形品は、上記の発明のいずれか一つに記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなる、ことを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係る成形品は、上記の発明において、電池ユニット筐体である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高い機械的強度と高い耐トラッキング性とを両立させることができるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物および成形品を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物および成形品の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態によって限定されるものではない。また、本明細書において、「~」という表記は、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0029】
[ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物]
本発明の実施形態に係るポリフェニレンエーテル系樹脂組成物(以下、PPE系樹脂組成物(Z)と称する)は、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)を含有する、またはポリフェニレンエーテル系樹脂(a)とスチレン系樹脂(b)とを含有するポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、2~20質量部のポリプロピレンホモポリマー(c)と、1~25質量部の無機充填材(d)とを含有する樹脂組成物である。以下、PPE系樹脂組成物(Z)を構成する各成分、PPE系樹脂組成物(Z)からなる成形品等について詳細に説明する。
【0030】
[ポリフェニレンエーテル含有樹脂]
まず、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)を構成する一成分であるポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)について詳細に説明する。ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)は、少なくともポリフェニレンエーテル系樹脂(a)を含有する樹脂である。例えば、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)としては、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)のみを含有するもの、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)とスチレン系樹脂(b)とを含有するもの(すなわち変性ポリフェニレンエーテル系樹脂)等が挙げられる。変性ポリフェニレンエーテル系樹脂(以下、変性PPE系樹脂と称する)は、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)を主成分として含有し、さらにスチレン系樹脂(b)を含有する。当該変性PPE系樹脂は、必要に応じて、これらポリフェニレンエーテル系樹脂(a)およびスチレン系樹脂(b)以外に他の樹脂成分を含有してもよい。また、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)は、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)を主成分として含有し、さらに、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)およびスチレン系樹脂(b)以外の樹脂成分を含有するものであってもよい。
【0031】
なお、ここでいう主成分とは、対象とする成分中に最も多く含有されている成分である。すなわち、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量%のうち、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有割合は、50質量%を上回る。
【0032】
[ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)]
つぎに、本発明の実施形態に係るポリフェニレンエーテル系樹脂(a)について詳細に説明する。ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)は、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)に用いられる樹脂成分であり、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の主成分としてPPE系樹脂組成物(Z)に含まれる。例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)は、下記の一般式(1)で表される構造単位を主鎖に有する重合体である。ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)は、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。
【0033】
【化1】
【0034】
一般式(1)において、2つのRaは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、第1級アルキル基、第2級アルキル基、アリール基、アミノアルキル基、ハロアルキル基、炭化水素オキシ基、またはハロ炭化水素オキシ基を表す。ただし、これら2つのRaがともに水素原子になることはない。2つのRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、第1級アルキル基、第2級アルキル基、アリール基、ハロアルキル基、炭化水素オキシ基、またはハロ炭化水素オキシ基を表す。
【0035】
aおよびRbとしては、水素原子、第1級アルキル基、第2級アルキル基、またはアリール基が好ましい。第1級アルキル基の好適な例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-アミル基、イソアミル基、2-メチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基またはヘプチル基等が挙げられる。第2級アルキル基の好適な例としては、例えば、イソプロピル基、sec-ブチル基または1-エチルプロピル基等が挙げられる。これらの中でも、Raは、炭素数が1~4の第1級アルキル基、炭素数が1~4の第2級アルキル基、またはフェニル基であることが特に好ましい。Rbは、水素原子であることが特に好ましい。
【0036】
好適なポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の単独重合体としては、例えば、2,6-ジアルキルフェニレンエーテルの重合体等が挙げられる。当該2,6-ジアルキルフェニレンエーテルの重合体としては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジプロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-エチル-6-メチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-プロピル-1,4-フェニレンエーテル)等が挙げられる。
【0037】
好適なポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の共重合体としては、例えば、2,6-ジアルキルフェノール/2,3,6-トリアルキルフェノール共重合体、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)にスチレンをグラフト重合させたグラフト共重合体、2,6-ジメチルフェノール/2,3,6-トリメチルフェノール共重合体にスチレンをグラフト重合させたグラフト共重合体等が挙げられる。当該2,6-ジアルキルフェノール/2,3,6-トリアルキルフェノール共重合体としては、例えば、2,6-ジメチルフェノール/2,3,6-トリメチルフェノール共重合体、2,6-ジメチルフェノール/2,3,6-トリエチルフェノール共重合体、2,6-ジエチルフェノール/2,3,6-トリメチルフェノール共重合体、2,6-ジプロピルフェノール/2,3,6-トリメチルフェノール共重合体等が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチルフェノール/2,3,6-トリメチルフェノールランダム共重合体が特に好ましい。また、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)としては、例えば特開2005-344065号公報に記載されるように、末端基数と銅含有率とが規定されたポリフェニレンエーテル系樹脂を好適に使用することもできる。
【0039】
ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の分子量は、クロロホルムを溶媒として温度30℃で測定された固有粘度から換算して得られる粘度平均分子量において、上記固有粘度が0.2dl/g以上であることが好ましく、0.3dl/g以上であることがより好ましい。ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の粘度平均分子量を、上記固有粘度が0.2dl/g以上である場合のものとすることにより、PPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度が向上する傾向にある。また、上記固有粘度は0.8dl/g以下であることが好ましく、0.6dl/g以下であることがより好ましい。ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の粘度平均分子量を、上記固有粘度が0.8dl/g以下である場合のものとすることにより、PPE系樹脂組成物(Z)の流動性が向上し、この結果、PPE系樹脂組成物(Z)の成形加工が容易になる傾向にある。また、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の粘度平均分子量は、固有粘度が異なる2種類以上のポリフェニレンエーテル系樹脂を併用することにより、上記固有粘度が0.2~0.8dl/gの範囲内である場合のものとしてもよい。
【0040】
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)は、2,6-ジメチルフェノール等のモノマーをアミン銅触媒の存在下、酸化重合する等の方法によって製造することができる。その際、反応条件を選択することにより、固有粘度を所望の範囲に制御することができる。例えば、当該固有粘度の制御は、重合温度、重合時間、触媒量等の条件を選択することによって達成可能である。
【0041】
なお、上述したポリフェニレンエーテル系樹脂(a)としては、1種類のポリフェニレンエーテル系樹脂を単独で用いてもよいし、2種類以上のポリフェニレンエーテル系樹脂を混合して用いてもよい。
【0042】
[スチレン系樹脂(b)]
つぎに、本発明の実施形態に係るスチレン系樹脂(b)について詳細に説明する。スチレン系樹脂(b)は、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)に用いられる樹脂成分であり、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の一成分としてPPE系樹脂組成物(Z)に含まれる。この場合、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)は、変性PPE系樹脂である。例えば、スチレン系樹脂(b)としては、スチレン系単量体の重合体、スチレン系単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体、およびスチレン系グラフト共重合体等が挙げられる。
【0043】
より具体的には、スチレン系樹脂(b)として、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(MABS樹脂)、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン共重合体(AES樹脂)、スチレン・IPN型ゴム共重合体等の樹脂、または、これらの混合物が挙げられる。また、スチレン系樹脂(b)は、シンジオタクティクポリスチレン等のように立体規則性を有するものであってもよい。これらの中でも、スチレン系樹脂(b)としては、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレンが好ましい。
【0044】
スチレン系樹脂(b)の重量平均分子量(Mw)は、例えば、50,000以上であり、100,000以上であることが好ましく、150,000以上であることがより好ましい。また、スチレン系樹脂(b)のMwの上限は、例えば、500,000以下であり、400,000以下であることが好ましく、300,000以下であることがより好ましい。なお、スチレン系樹脂(b)のMwは、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー等の測定方法によって測定することができる。
【0045】
なお、スチレン系樹脂(b)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、スチレン系樹脂(b)は、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法または塊状重合法等の方法によって製造することができる。また、スチレン系樹脂(b)としては、1種類のスチレン系樹脂を単独で用いてもよいし、2種類以上のスチレン系樹脂を混合して用いてもよい。
【0046】
このようなスチレン系樹脂(b)は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)中に、この主成分であるポリフェニレンエーテル系樹脂(a)よりも少ない含有割合で含まれる。例えば、PPE系樹脂組成物(Z)の耐熱性向上(良好な荷重たわみ温度)の観点から、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量%のうち、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有割合は55質量%以上であり、スチレン系樹脂(b)の含有割合は45質量%以下であることが好ましい。さらに、PPE系樹脂組成物(Z)の難燃性および機械的強度の向上という観点から、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量%のうち、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有割合は65質量%以上であり、スチレン系樹脂(b)の含有割合は35質量%以下であることがより好ましい。特に、PPE系樹脂組成物(Z)からなる成形品の薄肉化および高い難燃性が要求される場合、当該ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有割合は80質量%以上であり、当該スチレン系樹脂(b)の含有割合は20質量%以下であることが好ましく、当該ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有割合が85質量%以上であり、当該スチレン系樹脂(b)の含有割合が15質量%以下であることがより好ましく、当該ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有割合が90質量%以上であり、当該スチレン系樹脂(b)の含有割合が10質量%以下であることがより一層好ましい。また、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量%のうち、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有割合は100質量%以下であってもよく、スチレン系樹脂(b)の含有割合は0質量%以上であってもよい。
【0047】
本発明の実施形態において、PPE系樹脂組成物(Z)の耐熱性は、例えば、JIS K7191-2またはISO75-2に準拠して測定される荷重たわみ温度によって表される。PPE系樹脂組成物(Z)の荷重たわみ温度は、上記ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有により、所定値以上に高めることが可能である。例えば、PPE系樹脂組成物(Z)の荷重たわみ温度は、1.80MPaの荷重が加えられた測定条件下において、100℃以上であることが好ましい。
【0048】
[他の樹脂成分]
つぎに、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)に含有される樹脂成分のうち、上述したポリフェニレンエーテル系樹脂(a)およびスチレン系樹脂(b)以外である他の樹脂成分について詳細に説明する。ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)は、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度および耐トラッキング性等の特性の向上効果を損なわない範囲において、上述したポリフェニレンエーテル系樹脂(a)およびスチレン系樹脂(b)以外に他の樹脂成分を含有してもよい。
【0049】
詳細には、上記他の樹脂成分として、例えば、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂等が挙げられる。当該熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレンコポリマー樹脂等のオレフィン系樹脂等が挙げられる。また、当該熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0050】
ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)は、上記他の樹脂成分として、2種類以上の熱可塑性樹脂を含有してもよいし、2種類以上の熱硬化性樹脂を含有してもよいし、これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂を2種類以上組み合わせたものを含有してもよい。また、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量%のうち、上記他の樹脂成分の含有割合は、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0051】
[ポリプロピレンホモポリマー(c)]
つぎに、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)を構成する一成分であるポリプロピレンホモポリマー(c)について詳細に説明する。ポリプロピレンホモポリマー(c)は、プロピレンを単独重合してなる結晶性樹脂であり、PPE系樹脂組成物(Z)の耐トラッキング性の向上を主な目的としてPPE系樹脂組成物(Z)に含有される。
【0052】
ポリプロピレンホモポリマー(c)の密度は、特に限定されるものではないが、JIS K7112に準拠した測定方法によって得られる値で、約0.9g/cm3 程度である。
【0053】
ここで、プロピレンが重合してなるポリプロピレン樹脂を含有する樹脂組成物においては、一般に、ポリプロピレンの結晶性を向上させることを目的として、芳香族カルボン酸の金属塩またはタルク等の核剤を配合する場合がある。しかし、ポリプロピレン樹脂に核剤を配合した場合、このポリプロピレン樹脂を含有する樹脂組成物の耐トラッキング性が悪化する恐れがある。したがって、本発明の実施形態に係るポリプロピレンホモポリマー(c)は、核剤を含有していないポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
【0054】
ポリプロピレンホモポリマー(c)のメルトフローレート(以下、MFRと適宜称する)は、JIS K7210に準拠して測定されるものであり、例えば、温度230℃および荷重2.16kgの測定条件において、0.5~100g/10分であることが好ましく、2.0~50g/10分であることがより好ましく、3.0~40g/10分であることがより一層好ましく、3.0~30g/10分であることが特に好ましい。ポリプロピレンホモポリマー(c)の上記測定条件におけるMFRが0.5g/10分未満である場合、ポリプロピレンホモポリマー(c)を含有するPPE系樹脂組成物(Z)の加工性(成形性)が損なわれることがある。ポリプロピレンホモポリマー(c)の上記測定条件におけるMFRが3.0g/10分未満である場合、当該MFRが3.0g/10分以上の場合と比べて、ポリプロピレンホモポリマー(c)によるPPE系樹脂組成物(Z)の耐トラッキング性の向上効果が低下することがある。このため、当該MFRは、3.0g/10分以上であることがより好ましい。また、ポリプロピレンホモポリマー(c)の上記測定条件におけるMFRが100g/10分を超える場合、ポリプロピレンホモポリマー(c)を含有するPPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度が損なわれることがある。PPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度の低下を抑制するという観点から、当該MFRは、40g/10分以下であることがより好ましい。
【0055】
なお、本実施形態においては、ポリプロピレンホモポリマー(c)として、1種のポリプロピレンホモポリマーを単独で用いてもよいし、2種以上のポリプロピレンホモポリマーを配合して用いてもよい。
【0056】
本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)において、ポリプロピレンホモポリマー(c)の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、2質量部以上であることが好ましく、4質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがより一層好ましく、6質量部以上であることが特に好ましい。また、ポリプロピレンホモポリマー(c)の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、19質量部以下であることがより好ましく、18質量部以下であることがより一層好ましく、17質量部以下であることが特に好ましい。この範囲内の含有量のポリプロピレンホモポリマー(c)がPPE系樹脂組成物(Z)に含まれることにより、このPPE系樹脂組成物(Z)の耐トラッキング性を向上させることができる。
【0057】
PPE系樹脂組成物(Z)の耐トラッキング性は、絶縁物のトラッキングの起こり難さを示す指標である比較トラッキング指数(以下、CTI値と称する)によって表される。PPE系樹脂組成物(Z)のCTI値は、IEC60112に準拠して測定されるものであり、上記ポリプロピレンホモポリマー(c)の含有により、所定値以上に高めることが可能である。例えば、PPE系樹脂組成物(Z)のCTI値は、400V以上であることが好ましく、500V以上であることがより好ましく、525V以上であることがより一層好ましく、550V以上であることが特に好ましい。
【0058】
上記ポリプロピレンホモポリマー(c)の含有量が2質量部未満である場合、ポリプロピレンホモポリマー(c)による耐トラッキング性の向上効果が得られなくなる。すなわち、PPE系樹脂組成物(Z)のCTI値は、目標とする値に向上しない。また、上記ポリプロピレンホモポリマー(c)の含有量が20質量部を超える場合、PPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度が低下する。さらには、ポリプロピレンホモポリマー(c)が燃焼し易い樹脂であることから、PPE系樹脂組成物(Z)の難燃性も損なわれる。
【0059】
[無機充填材(d)]
つぎに、本発明の実施形態に係る無機充填材(d)について詳細に説明する。無機充填材(d)は、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)を構成する一成分であり、PPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度の向上を主な目的として、PPE系樹脂組成物(Z)に含有される。
【0060】
このような無機充填材(d)としては、例えば、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ミルドファイバー、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、酸化チタン、窒化硼素、チタン酸カリウィスカー、シリカ、マイカ、タルク、ワラストナイト等が挙げられる。これらの中でも、添加量に対するPPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度の向上効果が高いことから、無機充填材(d)は、ガラス繊維、マイカ、タルクから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ガラス繊維であることが特に好ましい。
【0061】
なお、無機充填材(d)の形状等には、特に制限はない。また、無機充填材(d)としては、1種類の無機充填材を単独で用いてもよいし、2種類以上の無機充填材を配合して用いてもよい。
【0062】
無機充填材(d)として好適に用いられるガラス繊維は、平均直径が20μm以下のものである。また、PPE系樹脂組成物(Z)の物性バランス(耐熱剛性、衝撃強度)をより一層高めるという観点、並びにPPE系樹脂組成物(Z)の成形反りをより一層低減させるという観点から、当該ガラス繊維は、平均直径が1~15μmのものであることが特に好ましい。
【0063】
無機充填材(d)としてのガラス繊維は、その長さが特定されるものでなく、長繊維タイプ(ロービング)または短繊維タイプ(チョップドストランド)等から選択して用いることができる。この場合におけるガラス繊維の集束本数は、100~5000本程度であることが好ましい。また、混練後のPPE系樹脂組成物(Z)中に含まれるガラス繊維の平均長さが0.1mm以上であるならば、無機充填材(d)は、いわゆるミルドファイバーまたはガラスパウダーと称せられるストランドの粉砕品であってもよいし、連続単繊維系のスライバーのものであってもよい。また、無機充填材(d)としてのガラス繊維は、その原料ガラスの組成が無アルカリのものであってもよい。当該ガラス繊維としては、例えば、Eガラス、Cガラス、Sガラス等が挙げられる。これらの中でも、無機充填材(d)としては、Eガラスが好ましい。
【0064】
また、無機充填材(d)としては、樹脂との密着性を向上させるため、カップリング剤等の表面処理剤によって表面処理されたものを用いることがより好ましい。表面処理が施された無機充填剤(d)を用いた場合、耐久性、耐湿熱性、耐加水分解性、耐ヒートショック性に優れる傾向にある。表面処理剤としては、従来公知の任意のものを使用でき、具体的には、例えば、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系やチタネート系等の種々のカップリング剤が好ましく挙げられる。これらの中では、アミノシラン系、エポキシシラン系、ビニルシラン系の表面処理剤が好ましく、具体的には例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランおよびγ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシド キシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい例として挙げられる。これらのシラン化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。さらに、無機充填材(d)としては、上記表面処理剤に加え、必要に応じて、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウム塩等の帯電防止剤、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤等の混合物で表面処理されたものを用いることもできる。
【0065】
本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)において、無機充填材(d)を2種以上配合して用いる場合、当該配合した無機充填材(d)の100質量%のうち、ガラス繊維の含有割合は、25質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがより一層好ましい。この範囲内のガラス繊維を無機充填材(d)の一成分として用いることにより、PPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度を効果的に向上させることができる。
【0066】
本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)において、無機充填材(d)の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、1質量部以上であり、3質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、6質量部以上であることがより一層好ましい。また、無機充填材(d)の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、25質量部以下であり、23質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、19質量部以下であることがより一層好ましい。この範囲内の含有量の無機充填材(d)がPPE系樹脂組成物(Z)に含まれることにより、このPPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度を向上させることができ、さらには、寸法精度の向上および他の材料(金属材等)との熱膨張係数差の低下を図ることができる。また、PPE系樹脂組成物(Z)において、無機充填材(d)の上記ポリプロピレンホモポリマー(c)に対する質量比((d)/(c))の下限は、0.5以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.7以上であることがより一層好ましい。当該質量比((d)/(c))の上限は、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましく、1.5以下であることがより一層好ましい。
【0067】
また、無機充填材(d)の含有量が、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、12質量部以下である場合、上記ポリプロピレンホモポリマー(c)の含有量は、2~18質量部であることが好ましく、4~16質量部であることがより好ましく、5~15質量部であることがより一層好ましい。また、無機充填材(d)の含有量が、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、12質量部を超える場合、上記ポリプロピレンホモポリマー(c)の含有量は、7~20質量部であることが好ましく、8~19質量部であることがより好ましく、9~18質量部であることがより一層好ましい。
【0068】
本発明の実施形態において、PPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度は、例えば、引張強度によって表される。PPE系樹脂組成物(Z)の引張強度は、ISO527に準拠して測定されるものであり、上記無機充填材(d)の含有により、所定値以上に高めることが可能である。例えば、PPE系樹脂組成物(Z)の引張強度は、59MPa以上であることが好ましく、60MPa以上であることがより好ましい。
【0069】
上記無機充填材(d)の含有量が1質量部未満である場合、無機充填材(d)による機械的強度の向上効果が得られなくなる。すなわち、PPE系樹脂組成物(Z)の引張強度は、目標とする値に向上しない。また、上記無機充填材(d)の含有量が25質量部を超える場合、PPE系樹脂組成物(Z)の耐トラッキング性が著しく悪化する。この場合、PPE系樹脂組成物(Z)は、耐トラッキング性として、例えば400V以上のCTI値を確保することができなくなる。
【0070】
[難燃剤(e)]
つぎに、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)に適用される難燃剤(e)について詳細に説明する。PPE系樹脂組成物(Z)は、上述したポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)、ポリプロピレンホモポリマー(c)および無機充填材(d)に加え、さらに、難燃剤(e)を含有していてもよい。難燃剤(e)は、PPE系樹脂組成物(Z)の用途に応じて要求される難燃性をPPE系樹脂組成物(Z)に付与するために用いられる。この難燃剤(e)の含有により、PPE系樹脂組成物(Z)は、より優れた難燃性を有するものとなる。
【0071】
難燃剤(e)は、PPE系樹脂組成物(Z)の難燃性を向上させるものであれば特に限定されないが、上述したポリフェニレンエーテル系樹脂(a)との相性が良いリン系難燃剤であることが好ましい。リン系難燃剤の中でも、難燃剤(e)は、リン酸エステル系難燃剤であることがより好ましい。また、難燃剤(e)としては、1種類の難燃剤を単独で用いてもよいし、組成が異なる2種類以上の難燃剤を併用してもよい。
【0072】
特に、難燃剤(e)としてリン系難燃剤を用いる場合、当該リン系難燃剤は、例えば、下記の一般式(2)で表されるリン酸エステル系難燃剤であることが好ましい。
【0073】
【化2】
【0074】
一般式(2)において、R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立して、アリール基を示す。当該アリール基は、置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。Xは、2価の芳香族基を示す。当該2価の芳香族基は、他に置換基を有していてもよいし、置換基を有していなくてもよい。nは、0~5の整数を示す。
【0075】
1、R2、R3、R4の各々によって示されるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、Xによって示される2価の芳香族基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、またはビスフェノールから誘導される基等が挙げられる。これらR1、R2、R3、R4およびXの各々における置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。また、整数nが0である場合、一般式(2)で表されるリン酸エステル系難燃剤は、リン酸エステルである。整数nが1~5のいずれかである場合、一般式(2)で表されるリン酸エステル系難燃剤は、縮合リン酸エステルである。当該縮合リン酸エステルは、混合物であってもよい。
【0076】
このようなリン酸エステル系難燃剤としては、例えば、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシノールビスホスフェート、あるいはこれらの置換体、縮合体等が挙げられる。当該リン酸エステル系難燃剤として好適に用いることができる市販の縮合リン酸エステルは、例えば、大八化学工業社製の「CR733S」(レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート))、「CR741」(ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート))、「PX-200」(レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート))、ADEKA社製の「FP500」(レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート))等であり、容易に入手可能である。
【0077】
本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)が難燃剤(e)を含有する場合、この難燃剤(e)の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、12質量部以上であることがより一層好ましい。また、難燃剤(e)の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して35質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、27質量部以下であることがより一層好ましく、25質量部以下であることが特に好ましい。この範囲内の含有量の難燃剤(e)がPPE系樹脂組成物(Z)に含まれることにより、このPPE系樹脂組成物(Z)の難燃性を向上させることができる。詳細には、PPE系樹脂組成物(Z)が耐トラッキング性の向上を目的として上記ポリプロピレンホモポリマー(c)を含有した場合、ポリプロピレンホモポリマー(c)の燃焼し易さに起因してPPE系樹脂組成物(Z)の難燃性が低下する恐れがある。これに対し、難燃剤(e)は、上記の含有量でPPE系樹脂組成物(Z)に含有されることにより、ポリプロピレンホモポリマー(c)に起因する難燃性の低下を抑制して、PPE系樹脂組成物(Z)の難燃性を改善することができる。
【0078】
本発明の実施形態において、PPE系樹脂組成物(Z)の難燃性は、例えば、UL94規格に準拠した燃焼性試験(以下、UL94V試験と称する)に基づいて判定される燃焼レベル(V-0、V-1、V-2等のグレード)によって表される。PPE系樹脂組成物(Z)の難燃性は、上記難燃剤(e)の含有により、UL94V試験に基づく燃焼レベルのいずれか(例えばV-1以上)を満足する程に改善することが可能である。
【0079】
上記難燃剤(e)の含有量が5質量部未満である場合、難燃剤(e)は、PPE系樹脂組成物(Z)に含有されても当該PPE系樹脂組成物(Z)に難燃性を付与することができないことがある。また、上記難燃剤(e)の含有量が35質量部を超える場合、PPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度および耐熱性が低下することがある。
【0080】
また、上記無機充填材(d)の含有量が、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、12質量部以上である場合、PPE系樹脂組成物(Z)に難燃性を付与するためには、上記難燃剤(e)の含有量は、15~35質量部であることが好ましく、18~30質量部であることがより好ましく、19~27質量部であることがより一層好ましい。
【0081】
[難燃助剤(f)]
つぎに、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)に適用される難燃助剤(f)について詳細に説明する。PPE系樹脂組成物(Z)は、上述したポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)、ポリプロピレンホモポリマー(c)および無機充填材(d)等に加え、さらに、難燃助剤(f)を含有していてもよい。難燃助剤は(f)は、PPE系樹脂組成物(Z)の難燃性の付与および耐トラッキング性の改善を目的としてPPE系樹脂組成物(Z)に配合される成分である。
【0082】
このような難燃助剤(f)は、アルカリ土類金属塩(例えば、炭酸カルシウムなどの炭酸塩、リン酸水素カルシウムなどのリン酸(水素)塩など)、金属水酸化物(例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、アルミナ水和物(ベーマイト)など)、無機酸金属化合物(例えば、(含水)ホウ酸亜鉛、(含水)ホウ酸カルシウム、(含水)ホウ酸アルミニウムなどの(含水)ホウ酸金属塩、(含水)スズ酸亜鉛などの(含水)スズ酸金属塩など)、窒素含有化合物(例えば、アミノトリアジン化合物(メラミン;グアナミン;メラム、メレムなどのメラミン縮合物など)、アミノトリアジン化合物の塩、前記アミノトリアジン化合物の有機酸又は無機酸塩(具体的にはメラミンシアヌレートなどのシアヌール酸塩、ポリリン酸メラミンなどのリン酸塩)など)、層状複水酸化物(ハイドロタルサイトなど)、硫酸金属塩(硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウムなど)、金属硫化物(硫化亜鉛、硫化モリブデン、硫化タングステンなど)、が挙げられる。これらのうち、好ましい難燃助剤(f)は、アルカリ土類金属塩、金属水酸化物、窒素含有化合物、無機酸金属化合物、層状複水酸化物である。すなわち、難燃助剤(f)は、アルカリ土類金属塩、金属水酸化物、窒素含有化合物、無機酸金属化合物、層状複水酸化物から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。難燃助剤(f)としてより好ましいものは、アルカリ土類金属塩(例えば炭酸カルシウム)である。これらの難燃助剤(f)は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0083】
また、難燃助剤(f)は、表面処理されていてもよい。難燃助剤(f)に施される表面処理は、特に限定されるものではないが、例えば、脂肪酸、樹脂酸、珪酸、燐酸、シランカップリング剤、アルキルアリールスルホン酸またはその塩等による表面処理等である。この脂肪酸としては、炭素数6~31の飽和または不飽和脂肪酸、好ましくは炭素数12~28の飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。中でも、分散性と製造時のハンドリング性との観点から、脂肪酸によって表面処理された難燃助剤(f)が好ましい。難燃助剤(f)として、脂肪酸で表面処理された炭酸カルシウムを用いた場合、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)に難燃助剤(f)がより均一分散し、これにより、PPE系樹脂組成物(Z)の耐トラッキング性および難燃性が一層優れたものになる。
【0084】
本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)が難燃助剤(f)を含有する場合、この難燃助剤(f)の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましい。また、難燃助剤(f)の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがより一層好ましい。この範囲内の含有量の難燃助剤(f)がPPE系樹脂組成物(Z)に含まれることにより、このPPE系樹脂組成物(Z)に難燃性を付与するとともに、このPPE系樹脂組成物(Z)の耐トラッキング性を向上させることができる。
【0085】
例えば、PPE系樹脂組成物(Z)が難燃性の向上を目的として上記難燃剤(e)を含有した場合、難燃剤(e)が短絡の原因となる炭化層(チャー)の形成を促進して、PPE系樹脂組成物(Z)の耐トラッキング性が低下する恐れがある。これに対し、難燃助剤(f)は、上記の含有量でPPE系樹脂組成物(Z)に含有されることにより、難燃剤(e)に起因する耐トラッキング性の低下を抑制して、PPE系樹脂組成物(Z)の耐トラッキング性を改善する(CTI値を向上させる)ことができる。また、難燃助剤(f)を単独で用いた場合においても、難燃助剤(f)の脱水または分解による吸熱希釈作用によって、炭化成分の発生抑制および、揮散を促進させることで耐トラッキング性の向上も可能である。これに加え、難燃助剤(f)は、難燃剤(e)によるPPE系樹脂組成物(Z)の難燃性の付与を支援することができ、これにより、難燃剤(e)と協同してPPE系樹脂組成物(Z)の難燃性を向上させる。
【0086】
難燃助剤(f)の含有量が0.5質量部未満である場合、難燃助剤(f)は、PPE系樹脂組成物(Z)に含有されても当該PPE系樹脂組成物(Z)の耐トラッキング性を向上させることができない恐れがあり、さらには、当該PPE系樹脂組成物(Z)に難燃性を付与することもできない恐れがある。また、上記難燃助剤(f)(例えばアルカリ土類金属塩)の含有量が50質量部を超える場合、PPE系樹脂組成物(Z)の剛性や耐衝撃性等の機械特性および耐熱性が低下する恐れがある。
【0087】
また、上記無機充填材(d)の含有量が、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、12質量部以下である場合、上記難燃助剤(f)の含有量は、0.5~50質量部であることが好ましく、2~40質量部であることがより好ましく、5~25質量部であることがより一層好ましい。また、上記無機充填材(d)の含有量が、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、12質量部を超える場合、上記難燃助剤(f)の含有量は、3~50質量部であることが好ましく、5~40質量部であることがより好ましく、10~30質量部であることがより一層好ましい。このような範囲内の含有量の難燃助剤(f)がPPE系樹脂組成物(Z)に含まれることにより、難燃助剤(f)の添加によるPPE系樹脂組成物(Z)の耐トラッキング性および難燃性をより効果的に向上させることができる。さらには、PPE系樹脂組成物(Z)の耐熱性の低下、機械特性の低下、流動性の低下といった望まれない事態を抑制することができる。
【0088】
また、PPE系樹脂組成物(Z)中に含まれるポリフェニレンエーテル系樹脂(a)とスチレン系樹脂(b)とポリプロピレンホモポリマー(c)と無機充填剤(d)との合計の含有量は、PPE系樹脂組成物(Z)の100質量%に対して、95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがより一層好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。当該合計の含有量を上記の範囲内にすることにより、耐トラッキング性と機械的強度とが良好なPPE系樹脂組成物(Z)を得ることができる。
【0089】
また、PPE系樹脂組成物(Z)が難燃剤(e)および難燃助剤(f)をさらに含有する場合、PPE系樹脂組成物(Z)中のポリフェニレンエーテル系樹脂(a)とスチレン系樹脂(b)とポリプロピレンホモポリマー(c)と無機充填剤(d)と難燃剤(e)と難燃助剤(f)との合計の含有量は、PPE系樹脂組成物(Z)の100質量%に対して、95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、98質量%以上であることがより一層好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。当該合計の含有量を上記の範囲内にすることにより、耐トラッキング性と機械的強度とが良好なPPE系樹脂組成物(Z)を得ることができる。
【0090】
[リン系安定剤(g)]
つぎに、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)に適用されるリン系安定剤(g)について詳細に説明する。PPE系樹脂組成物(Z)は、上述したポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)、ポリプロピレンホモポリマー(c)および無機充填材(d)等に加え、さらに、リン系安定剤(g)を含有していてもよい。リン系安定剤(g)は、PPE系樹脂組成物(Z)の製造および成形工程における溶融混練時や使用時の熱安定性を向上させることと、PPE系樹脂組成物(Z)の難燃性の付与とを目的として、PPE系樹脂組成物(Z)に含有される成分である。
【0091】
リン系安定剤(g)としては、例えば、ホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物等が挙げられる。これらの化合物は、リン系安定剤(g)として、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。リン系安定剤(g)は、ホスファイト系化合物およびホスホナイト系化合物のうち、少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0092】
ホスファイト系化合物の具体例としては、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)ホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジ-トリデシルホスファイト-5-t-ブチル-フェニル)ブタン、トリス(ミックスドモノ及びジ-ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(フェニル-ジアルキルホスファイト)等が挙げられる。これらの中でも、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイトが好ましい。
【0093】
ホスホナイト系化合物の具体例としては、例えば、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4-トリメチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3-ジメチル-5-エチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-t-ブチル-5-エチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4-トリブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4,6-トリ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。これらの中でも、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイトが好ましい。
【0094】
本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)がリン系安定剤(g)を含有する場合、このリン系安定剤(g)の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1.0質量部以上であることがより一層好ましく、2.0質量部以上であることが特に好ましい。また、このリン系安定剤(f)の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、20.0質量部以下であることが好ましく、10.0質量部以下であることがより好ましく、7.0質量部以下であることがより一層好ましく、5.0質量部以下であることが特に好ましい。この範囲内の含有量のリン系安定剤(g)がPPE系樹脂組成物(Z)に含まれることにより、PPE系樹脂組成物(Z)の製造および成形工程における溶融混練時や使用時の熱安定性を向上させるとともに、このPPE系樹脂組成物(Z)の難燃性を向上させることができる。また、この範囲内の含有量のリン系安定剤(g)がPPE系樹脂組成物(Z)に含まれる場合、PPE系樹脂組成物(Z)中のポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量%のうち、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)の含有割合は90~100質量%であり、スチレン系樹脂(b)の含有割合は0~10質量%であることが好ましい。
【0095】
[黒色顔料(h)]
つぎに、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)に適用される黒色顔料(h)について詳細に説明する。PPE系樹脂組成物(Z)は、上述したポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)、ポリプロピレンホモポリマー(c)および無機充填材(d)等に加え、さらに、調色を目的として、黒色顔料(h)を含有していてもよい。
【0096】
黒色顔料(h)としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、またはこれらの熱可塑性樹脂マスターバッチ等が挙げられる。PPE系樹脂組成物(Z)が黒色顔料(h)を含有する場合、黒色顔料(h)の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、2.0質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、1.0質量部以下であることがより一層好ましく、0.5質量部以下であることが特に好ましい。この黒色顔料(h)の含有量の下限値は、PPE系樹脂組成物(Z)の調色が可能であれば特に定めるものではないが、0.01質量部以上であることが好ましい。この範囲内の含有量の黒色顔料(h)がPPE系樹脂組成物(Z)に含まれることにより、PPE系樹脂組成物(Z)の耐トラッキング性を損なうことなく調色することができる。
【0097】
[白色顔料(i)]
つぎに、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)に適用される白色顔料(i)について詳細に説明する。PPE系樹脂組成物(Z)は、上述したポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)、ポリプロピレンホモポリマー(c)および無機充填材(d)等に加え、さらに、調色を目的として、白色顔料(i)を含有していてもよい。
【0098】
白色顔料(i)としては、例えば、酸化チタン、硫化亜鉛等が挙げられる。PPE系樹脂組成物(Z)が白色顔料(i)を含有する場合、白色顔料(i)の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、7.0質量部以下であることが好ましく、4.0質量部以下であることがより好ましく、3.0質量部以下であることがより一層好ましく、2.0質量部以下であることが特に好ましい。この白色顔料(i)の含有量の下限値は、PPE系樹脂組成物(Z)の調色が可能であれば特に定めるものではないが、0.01質量部以上であることが好ましい。この範囲内の含有量の白色顔料(i)がPPE系樹脂組成物(Z)に含まれることにより、PPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度を損なうことなく調色することができる。
【0099】
[添加剤]
つぎに、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)に適用される添加剤について詳細に説明する。PPE系樹脂組成物(Z)は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、上述したポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)、ポリプロピレンホモポリマー(c)および無機充填材(d)等の成分以外に、その他の添加剤を含有してもよい。この添加剤としては、例えば、トラッキング防止剤、リン系安定剤(g)以外の熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐侯性改良剤、発泡剤、滑剤、可塑剤、流動性改良剤、分散剤、導電剤、帯電防止剤、黒色顔料(h)または白色顔料(i)以外の着色剤等が挙げられる。
【0100】
上記添加剤のうち、リン系安定剤(g)以外の熱安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、硫黄系化合物、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの化合物は、当該熱安定剤として、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0101】
ヒンダードフェノール系化合物の具体例として、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス〔3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリトール-テトラキス〔3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2-チオ-ジエチレンビス〔3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレート、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマイド)等が挙げられる。これらの中でも、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス〔3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカンが好ましい。
【0102】
硫黄系化合物の具体例としては、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリチルテトラキス(3-テトラデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリチルテトラキス(3-トリデシルチオプロピオネート)、チオビス(N-フェニル-β-ナフチルアミン)、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、トリラウリルトリチオホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、特に、チオエーテル構造を有するチオエーテル系酸化防止剤は、酸化された物質から酸素を受け取って還元するため、上記熱安定剤として好適に用いることができる。上記硫黄系化合物の分子量の下限は、通常、200以上であり、好ましくは500以上である。上記硫黄系化合物の分子量の上限は、通常、3000以下である。
【0103】
酸化亜鉛としては、例えば、平均粒子径が0.02~1μmのものが好ましく、平均粒子径が0.08~0.8μmのものがより好ましい。
【0104】
例えば、PPE系樹脂組成物(Z)が上記熱安定剤を含有する場合、上記熱安定剤の含有量は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、0.001~1質量部であることが好ましく、0.01~0.7質量部であることがより好ましく、0.02~0.5質量部であることがより一層好ましい。上記熱安定剤の含有量の下限が0.001質量部以上であることにより、PPE系樹脂組成物(Z)の熱安定性の改善効果を十分に得ることができる。また、上記熱安定剤の含有量の上限が1質量部以下であることにより、PPE系樹脂組成物(Z)を成形する際の金型の汚染発生や、PPE系樹脂組成物(Z)の機械的強度の低下等を防止することができる。
【0105】
PPE系樹脂組成物(Z)は、上記のような添加剤のうち、1種類の添加剤を含有していてもよいし、2種類以上を配合した添加剤を含有していてもよい。PPE系樹脂組成物(Z)は、含有した各添加剤の機能をそれぞれ有効に発揮させることができる。例えば、PPE系樹脂組成物(Z)に耐侯性改良剤およびトラッキング防止剤を配合した場合、PPE系樹脂組成物(Z)の耐候性や耐トラッキング性を発揮させることができる。
【0106】
[PPE系樹脂組成物(Z)の製造方法]
つぎに、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)の製造方法について詳細に説明する。PPE系樹脂組成物(Z)の製造方法は、特定の方法に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。当該製造方法として、例えば、上述したポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)、ポリプロピレンホモポリマー(c)および無機充填材(d)等、必要に応じて配合される各種成分を混練機によって溶融混練し、その後、冷却固化する溶融混練方法や、適当な溶媒に上記各種成分を添加し、溶解する成分同士または溶解する成分と不溶解成分とを懸濁状態で混ぜる溶液混合法等が挙げられる。当該製造方法において用いられる混練機としては、例えば、単軸混練押出機、多軸混練押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラム等が挙げられる。また、上記溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素およびその誘導体等が挙げられる。
【0107】
工業的コストの観点から、PPE系樹脂組成物(Z)の製造方法としては、溶融混練法が好ましい。当該溶融混練法において、混練温度および混練時間は、要望されるPPE系樹脂組成物(Z)や混練機の種類等の条件により、任意に選ぶことができる。例えば、混練温度は、200~350℃であることが好ましく、220~320℃であることがより好ましい。混練時間は、20 分以下であることが好ましい。混練温度が350℃を上回る場合、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)に含まれるポリフェニレンエーテル系樹脂(a)またはスチレン系樹脂(b)の熱劣化が生じる恐れがある。この結果、PPE系樹脂組成物(Z)の成形品において、物性の低下または外観不良が生じる恐れがある。
【0108】
[成形品]
つぎに、本発明の実施形態に係る成形品について詳細に説明する。本発明の実施形態に係る成形品は、上述したPPE系樹脂組成物(Z)からなる成形品であり、例えば、PPE系樹脂組成物(Z)をペレッタイズして得られるペレットを各種の成形法で成形することにより、製造することができる。また、当該成形品は、上記ペレットを経由せずに、混練機で溶融混練されたPPE系樹脂組成物(Z)を直接、成形することによって製造してもよい。
【0109】
PPE系樹脂組成物(Z)の成形方法は、特定の方法に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、PPE系樹脂組成物(Z)の成形方法としては、射出成形、射出圧縮成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱成形、回転成形、積層成形、プレス成形等の各種成形方法が挙げられる。
【0110】
上記の成形方法によって製造された成形品は、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)からなるため、PPE系樹脂組成物(Z)に含まれる各種成分の優れた特性を有する。特に、当該成形品は、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)およびスチレン系樹脂(b)等による優れた耐熱性、加工性を保持しつつ、無機充填材(d)等による高い機械的強度とポリプロピレンホモポリマー(c)等による高い耐トラッキング性とを両立させたものとなっている。さらに、当該成形品は、上記の特性に加え、難燃剤(e)等による高い難燃性や、低比重、高い寸法精度、耐加水分解性、寸法安定性および機械特性等の優れた特性を有することができる。このような成形品は、自動車関連部品、電子機器関連部品および電池関連部品等の各種用途に広く用いることができる。
【0111】
具体的には、本発明の実施形態に係る成形品が適用される自動車関連部品として、例えば、自動車用の外装部品、外板部品、内装部品、アンダーフード部品等が挙げられる。より具体的には、自動車用の外装部品または外板部品として、バンパー、フェンダー、ドアパネル、モール、エンブレム、エンジンフード、ホイルカバー、ルーフ、スポイラー、エンジンカバー等の部品が挙げられる。自動車用の内装部品として、インストゥルメントパネル、コンソールボックストリム等が挙げられる。
【0112】
また、本発明の実施形態に係る成形品が適用される電子機器関連部品として、例えば、コンピュータ用部品、コンピュータ周辺機器用部品、OA機器用部品、テレビ用部品、ビデオデッキ用部品、各種ディスクプレーヤ用部品、これらの電子機器用のキャビネットやシャーシ、冷蔵庫用部品、空調機器用部品、液晶プロジェクタ用部品等が挙げられる。
【0113】
また、本発明の実施形態に係る成形品が適用される電池関連部品として、例えば、電池ユニット筐体、二次電池用の電解槽、直接メタノール燃料電池用の燃料ケース、燃料電池用の配水管等の部品が挙げられる。
【0114】
また、本発明の実施形態に係る成形品は、上述した自動車関連、電子機器関連および電池関連以外の分野(その他の分野)の部品に適用することも可能である。例えば、当該その他の分野の部品として、水冷用タンク、ボイラー用の外装ケース、インクジェットプリンタのインク周辺部品・部材およびシャーシ等が挙げられる。これらの他に、本発明の実施形態に係る成形品は、水配管、継ぎ手等の成形体、シートまたはフィルムを延伸して得られるリチウムイオン電池用セパレータ等に適用することも可能である。
【0115】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)は、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)を含む、またはポリフェニレンエーテル系樹脂(a)とスチレン系樹脂(b)とを含むポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)を含有し、このポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、ポリプロピレンホモポリマー(c)を2~20質量部、無機充填材(d)を1~25質量部、含有している。このため、ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)およびスチレン系樹脂(b)による優れた耐熱性、加工性(成形性)および機械特性が得られるとともに、無機充填材(d)によって機械的強度を強化することができ、さらには、この無機充填材(d)に起因して低下する耐トラッキング性を、ポリプロピレンホモポリマー(c)によって改善することができる。この結果、PPE系樹脂組成物(Z)は、優れた耐熱性を保持しつつ、高い機械的強度と高い耐トラッキング性とを両立させることができる。
【0116】
また、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、さらに難燃剤(e)を5~35質量部、含有している。これにより、上述したポリプロピレンホモポリマー(c)に起因して低下する難燃性を、難燃剤(e)によって改善することができる。この結果、PPE系樹脂組成物(Z)は、上述したポリプロピレンホモポリマー(c)による耐トラッキング性の改善効果を享受しつつ、優れた難燃性を有することができる。
【0117】
また、本発明の実施形態に係るPPE系樹脂組成物(Z)は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂(A)の100質量部に対して、さらに難燃助剤(f)を0.5~50質量部、含有している。これにより、上述した無機充填材(d)または難燃剤(e)に起因して低下する耐トラッキング性を、ポリプロピレンホモポリマー(c)および難燃助剤(f)によって改善できるとともに、難燃助剤(f)によって難燃性を向上させることができる。この結果、PPE系樹脂組成物(Z)は、高い耐トラッキング性を保持しつつ、より優れた難燃性を有することができる。
【0118】
また、上述したPPE系樹脂組成物(Z)の成形加工により、当該PPE系樹脂組成物(Z)の効果を享受する成形品を容易に得ることができる。このような成形品は、素材であるPPE系樹脂組成物(Z)の構成成分を選択することにより、用途に応じて要求される各種特性(耐熱性、耐トラッキング性および機械的強度等)を有することができる。
【実施例
【0119】
以下、実施例を示して、本発明について更に具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0120】
(実施例1~43、比較例1~9)
[ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の成分]
実施例1~43および比較例1~9の各々におけるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物(PPE系樹脂組成物)の各成分は、表1-1~1-3に示す通りである。実施例1~43の各々では、表1-1、1-2に示すポリフェニレンエーテル系樹脂(a)、スチレン系樹脂(b)、ポリプロピレンホモポリマー(c)、無機充填材(d)、難燃剤(e)、難燃助剤(f)、リン系安定剤(g)、その他の安定剤(k)、黒色顔料(h)、白色顔料(i)が必要に応じて用いられる。なお、その他の安定剤(k)は、上述したPPE系樹脂組成物(Z)に必要に応じて添加される添加剤の一例である。比較例1~9の各々では、表1-1、1-2に示す各成分と、表1-3に示すポリオレフィン(x)とが必要に応じて用いられる。ポリオレフィン(x)は、ポリプロピレンホモポリマー(c)以外のポリオレフィンであり、ポリプロピレンホモポリマー(c)の代わりに用いられる。
【0121】
ポリフェニレンエーテル系樹脂(a)としては、表1-1に示す成分(a-1)または成分(a-2)が用いられる。スチレン系樹脂(b)としては、表1-1に示す成分(b-1)、成分(b-2)または成分(b-3)が用いられる。ポリプロピレンホモポリマー(c)としては、表1-1に示す成分(c-1)、成分(c-2)、成分(c-3)、成分(c-4)、成分(c-5)または成分(c-6)が用いられる。無機充填材(d)としては、表1-1に示す成分(d-1)、成分(d-2)、成分(d-3)または成分(d-4)が用いられる。難燃剤(e)としては、表1-2に示す成分(e-1)または成分(e-2)が用いられる。難燃助剤(f)としては、表1-2に示す成分(f-1)、成分(f-2)、成分(f-3)、成分(f-4)、成分(f-5)または成分(f-6)が用いられる。リン系安定剤(g)としては、表1-2に示す成分(g-1)が用いられる。その他の安定剤(k)としては、表1-2に示す成分(k-1)、すなわち、リン系安定剤(g)以外の熱安定剤が用いられる。黒色顔料(h)としては、表1-2に示す成分(h-1)が用いられる。白色顔料(i)としては、表1-2に示す成分(i-1)または成分(i-2)が用いられる。ポリオレフィン(x)としては、表1-3に示す成分(x-1)、成分(x-2)、成分(x-3)、成分(x-4)、成分(x-5)または成分(x-6)が用いられる。
【0122】
表1-1、1-3に記載されるMFRは、JIS K7210に準拠して測定されるメルトフローレートである。当該MFRの測定条件のうち、温度は、表1-1、1-3に示す通りである。なお、荷重は、表1-1、1-3に示されていないが、2.16kgである。
【0123】
【表1-1】
【0124】
【表1-2】
【0125】
【表1-3】
【0126】
[PPE系樹脂組成物のペレットの製造方法]
実施例1~43および比較例1~9の各々では、上記表1-1~1-3に示した各成分を、後述の表2-1~2-7に示した割合(質量部)で混合し、二軸押出機(芝浦機械社製:TEM18SS)を用いて、シリンダー温度を280℃にし、スクリュー回転数を350rpmにして、上記各成分の混合物を溶融混練した。これにより、PPE系樹脂組成物を作製した。その後、このPPE系樹脂組成物のストランドを押し出し、押し出したストランドをカット(ペレッタイズ)することにより、このPPE系樹脂組成物のペレットを得た。
【0127】
[PPE系樹脂組成物の成形品の製造方法]
実施例1~43および比較例1~9の各々では、上述したPPE系樹脂組成物のペレットを、80℃で2時間、乾燥させた後、射出成形機(芝浦機械社製:EC75SX)に供給し、この射出成形機により、ISO15103に準拠した成形方法に従って、ISO3167タイプA試験片(以下、ISO試験片と称する)を射出成形した。この射出成形時の条件として、シリンダー温度は280℃とし、金型温度は70℃とした。
【0128】
また、実施例1~43および比較例1~9の各々では、上述した乾燥後のペレットを射出成形機(日精樹脂工業社製:NEX80-9E)に供給し、この射出成形機により、PPE系樹脂組成物からなる、縦×横×厚さ=60mm×60mm×3mmの成形品を作製した。この射出成形時のシリンダー温度および金型温度は、上述したISO試験片の場合と同様である。
【0129】
[耐トラッキング性の評価]
実施例1~43および比較例1~9の各々では、上述したPPE系樹脂組成物の成形品について、耐トラッキング性の評価を行った。詳細には、上述したように作製した縦×横×厚さ=60mm×60mm×3mmの成形品を用い、IEC60112(使用電解液:溶液A、滴下数:50滴)に準拠した測定方法により、当該成形品のトラッキング破壊が発生しない最大電圧、すなわちCTI値(単位:V)を測定した。
【0130】
[機械的強度の評価]
実施例1~43および比較例1~9の各々では、上述したPPE系樹脂組成物の成形品について、機械的強度の評価を行った。詳細には、上述したように作製したISO試験片を用い、ISO527に準拠した測定方法により、温度23℃および湿度50%の環境下で、引張強度(単位:MPa)および引張破壊ひずみ(単位:%)を測定した。
【0131】
[耐熱性の評価]
実施例1~43および比較例1~9の各々では、上述したPPE系樹脂組成物の成形品について、耐熱性の評価を行った。詳細には、上述したISO試験片の平行部を機械加工して、縦×横×厚さ=80mm×10mm×4mmの短冊形状の試験片を作製し、この試験片を用いて、ISO75-2に準拠した測定方法により、荷重1.80MPaの条件下で荷重たわみ温度(単位:℃)を測定した。
【0132】
[難燃性の評価]
実施例1~43および比較例1~9の各々では、上述したPPE系樹脂組成物の成形品について、難燃性の評価を行った。詳細には、上述したように得られたPPE系樹脂組成物のペレットを、80℃で2時間、乾燥させた後、射出成形機(芝浦機械社製:EC75SX)に供給し、この射出成形機により、PPE系樹脂組成物からなる、縦×横×厚さ=125mm×13mm×1.5mmの燃焼性試験用試験片を成形した。この射出成形時の条件として、シリンダー温度は280℃とし、金型温度は70℃とした。
【0133】
つぎに、上記のように得られた燃焼性試験用試験片について、UL94規格に準拠した垂直燃焼性試験(UL94V試験:1.5mmt)を行った。実施例1~43および比較例1~9の各々における難燃性の評価では、この垂直燃焼性試験に基づくグレードを判定し、当該グレードを満足しない場合は不良(NG)と判定した。なお、当該グレードは、良好なものから順にV-0、V-1、V-2と分類される。
【0134】
[評価結果]
実施例1~43および比較例1~9の各々におけるPPE系樹脂組成物の各成分の含有割合(質量部)および上記各評価の結果を、表2-1~2-7に示す。なお、表2-1~2-7中の「DTUL」は、上述した荷重たわみ温度を意味する。
【0135】
実施例1~43では、表2-1~2-6に示すように、耐トラッキング性、機械的強度、難燃性および耐熱性の各評価結果が得られた。詳細には、実施例1~43の各々における耐トラッキング性の評価結果として、表2-1~2-6に示すCTI値が得られた。実施例1~43のいずれにおいても、CTI値は400V以上であった。特に、実施例1~8、11~43では、CTI値が550V以上であり、中でも、実施例2~4、7、8、11~18、21、23~27、29~43では、CTI値が575V以上であった。また、実施例1~43の各々における機械的強度の評価結果として、表2-1~2-6に示す引張強度および引張破壊ひずみの各値が得られた。特に、引張強度は、実施例1~43のいずれにおいても59MPa以上であり、中でも、実施例1~42では60MPa以上であった。以上より、実施例1~43のいずれにおいても、CTI値≧400Vという高い耐トラッキング性と、引張強度≧59MPaという高い機械的強度とを両立させることが可能であった。
【0136】
また、難燃性の評価結果では、実施例1~43のうち、PPE系樹脂組成物に難燃助剤(f)(成分(f-1)~(f-6)のいずれか)が含有されていない実施例6と、PPE系樹脂組成物に難燃剤(e)(成分(e-1)、(e-2)のいずれか)が含有されていない実施例28とにおいてのみ「NG」であったが、これ以外の実施例1~5、7~27、29~43の全てにおいて、UL94V試験に基づくグレード「V-1」を満足していた。中でも、実施例18、29、30、40~42においてはグレード「V-0」を満足していた。また、実施例1~43の各々における耐熱性の評価結果として、表2-1~2-6に示すDTULが得られた。実施例1~43のいずれにおいても、DTULは100℃以上であり、優れた耐熱性を保持することができた。
【0137】
一方、表2-7に示すように、比較例1のPPE系樹脂組成物は、ポリプロピレンホモポリマー(c)(成分(c-2))が含有されているものの、無機充填材(d)が含有されていない樹脂組成物である。このような比較例1では、耐トラッキング性を示すCTI値は400V以上であったが、機械的強度を示す引張強度は59MPa未満であった。また、比較例8のPPE系樹脂組成物は、20質量部を超えるポリプロピレンホモポリマー(c)(成分(c-2))が含有されている樹脂組成物である。このような比較例8では、耐トラッキング性を示すCTI値は400V以上であったが、機械的強度を示す引張強度は59MPa未満であった。また、比較例9のPPE系樹脂組成物は、ポリプロピレンホモポリマー(c)の含有量は20質量部以下であるが、25質量部を超える無機充填材(d)(成分(d-1))が含有されている樹脂組成物である。このような比較例9では、機械的強度を示す引張強度は59MPa以上であったが、耐トラッキング性を示すCTI値は400V未満であった。
【0138】
また、表2-7に示すように、比較例2~7のPPE系樹脂組成物は、ポリプロピレンホモポリマー(c)ではなくポリオレフィン(x)(成分(x-1)~(x-6))が含有された樹脂組成物である。このような比較例2~7では、「CTI値が400V未満」および「引張強度が59MPa未満」の少なくとも一つに該当し、CTI値≧400Vという高い耐トラッキング性と、引張強度≧59MPaという高い機械的強度とを両立できていなかった。
【0139】
また、難燃性の評価結果について、比較例1~4、6、7はUL94V試験に基づくグレード「V-1」を満足していたが、比較例5、8、9は「NG」であった。耐熱性の評価結果について、比較例2~9ではDTULが100℃以上であったが、比較例1ではDTULが100℃未満であった。
【0140】
【表2-1】
【0141】
【表2-2】
【0142】
【表2-3】
【0143】
【表2-4】
【0144】
【表2-5】
【0145】
【表2-6】
【0146】
【表2-7】
【0147】
なお、本発明は、上述した実施形態および実施例によって限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明に係るPPE系樹脂組成物は、高い機械的強度と高い耐トラッキング性とを両立できるので、電池ユニット筐体等の各種の成形品に極めて好適に利用することができる。