(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】電動機、送風機および換気扇
(51)【国際特許分類】
H02K 5/16 20060101AFI20250411BHJP
【FI】
H02K5/16
(21)【出願番号】P 2023550785
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2021035628
(87)【国際公開番号】W WO2023053199
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116964
【氏名又は名称】山形 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100120477
【氏名又は名称】佐藤 賢改
(74)【代理人】
【識別番号】100135921
【氏名又は名称】篠原 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100203677
【氏名又は名称】山口 力
(72)【発明者】
【氏名】松岡 篤
(72)【発明者】
【氏名】岡田 順二
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓也
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103973043(CN,A)
【文献】特開平10-014159(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179832(WO,A1)
【文献】特開2015-106944(JP,A)
【文献】国際公開第2020/261420(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K1/17
1/27-1/2798
5/00-5/26
15/00-15/16
21/00-21/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転シャフトと、
前記回転シャフトに固定されたロータと、
前記ロータをその径方向の外側から囲むステータコアと、前記ステータコアに巻かれたコイルとを有するステータと、
内輪と外輪とを有し、前記内輪が前記回転シャフトに接触する軸受と、
前記ステータコアと前記外輪とを導通し、且つ接地されている導通部材と
を有し、
前記ロータは、
第1の磁石部と、前記第1の磁石部の外周に配置された第2の磁石部とを有し、前記径方向において前記ステータコアに対向する対向部と、
前記対向部と前記回転シャフトとを連結する絶縁性の連結部と
を有し、
前記第1の磁石部および前記連結部はフェライトボンド磁石で形成され、
前記第2の磁石部は希土類ボンド磁石で形成され
、
前記対向部の前記回転シャフトの軸方向の長さL1は、前記ステータコアの前記軸方向の長さL2以下である
電動機。
【請求項2】
前記第2の磁石部は、前記第1の磁石部の外周を覆うように設けられている
請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記第2の磁石部は、前記第1の磁石部の外周に周方向に間隔を開けて設けられた複数の第2の磁石部のうちの1つである
請求項1に記載の電動機。
【請求項4】
前記対向部および前記連結部は、前記回転シャフトと一体に成形されている
請求項1から3までの何れか1項に記載の電動機。
【請求項5】
回転シャフトと、
前記回転シャフトに固定されたロータと、
前記ロータをその径方向の外側から囲むステータコアと、前記ステータコアに巻かれたコイルとを有するステータと、
内輪と外輪とを有し、前記内輪が前記回転シャフトに接触する軸受と、
前記ステータコアと前記外輪とを導通し、且つ接地されている導通部材と
を有し、
前記ロータは、
前記径方向において前記ステータコアに対向するフェライトボンド磁石と、
前記フェライトボンド磁石と前記回転シャフトとを連結し、前記フェライトボンド磁石よりも誘電率の低い材料で形成された連結部と
を有し、
前記フェライトボンド磁石の前記回転シャフトの軸方向の長さL1は、前記ステータコアの前記軸方向の長さL2以下である
電動機。
【請求項6】
前記連結部は、樹脂で形成されている
請求項5に記載の電動機。
【請求項7】
前記導通部材は、前記ステータおよび前記軸受を保持する金属製のハウジングである
請求項1から6までのいずれか1項に記載の電動機。
【請求項8】
前記ステータおよび前記軸受を保持する樹脂部を有し、
前記導通部材は、前記ステータと前記軸受とを接続する導電性部材を含む
請求項1から7までのいずれか1項に記載の電動機。
【請求項9】
前記ステータコアと前記外輪と前記導通部材とは、接地電位にあり、
前記回転シャフトと前記内輪とは互いに同電位で、且つ前記接地電位よりも高い電位にある
請求項1から8までのいずれか1項に記載の電動機。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の電動機と、
前記電動機の前記回転シャフトに取り付けられた羽根部と
を備えた送風機。
【請求項11】
請求項10に記載の送風機と、
前記送風機が取り付けられた筐体と
を備えた換気扇。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動機、送風機および換気扇に関する。
【背景技術】
【0002】
ステータを金属製のハウジングで保持した電動機では、ハウジングを接地するのが一般的である。一方、電動機の回転シャフトは、軸受によって支持される。軸受の内輪は回転シャフトに固定され、外輪はハウジングに固定される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-5307号公報(段落0018参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軸受の内輪および外輪のうち、外輪のみがハウジングを介して接地されるため、内輪と外輪との間に電位差が生じる可能性がある。この電位差が大きくなると内輪と外輪との間に放電が発生し、転動体に接触する軌道面に凹凸が生じる。このような現象を、電食と称する。電食が発生すると、転動体が軌道面を走行する際に振動および騒音が発生する。
【0005】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであり、電食の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の電動機は、回転シャフトと、回転シャフトに固定されたロータと、ロータをその径方向の外側から囲むステータコアと、ステータコアに巻かれたコイルとを有するステータと、内輪と外輪とを有し、内輪が回転シャフトに接触する軸受と、ステータコアと外輪とを導通し、且つ接地されている導通部材とを有する。ロータは、第1の磁石部と、第1の磁石部の外周に配置された第2の磁石部とを有し、且つ径方向においてステータコアに対向する対向部と、対向部と回転シャフトとを連結する絶縁性の連結部とを有する。第1の磁石部および連結部はフェライトボンド磁石で形成され、第2の磁石部は希土類ボンド磁石で形成される。対向部の回転シャフトの軸方向の長さL1は、ステータコアの軸方向の長さL2以下である。
本開示の電動機は、回転シャフトと、回転シャフトに固定されたロータと、ロータをその径方向の外側から囲むステータコアと、ステータコアに巻かれたコイルとを有するステータと、内輪と外輪とを有し、内輪が回転シャフトに接触する軸受と、ステータコアと外輪とを導通し、且つ接地されている導通部材とを有する。ロータは、径方向においてステータコアに対向するフェライトボンド磁石と、フェライトボンド磁石と回転シャフトとを連結し、フェライトボンド磁石よりも誘電率の低い材料で形成された連結部とを有する。フェライトボンド磁石の回転シャフトの軸方向の長さL1は、ステータコアの軸方向の長さL2以下である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ボンド磁石で形成された対向部の軸方向の長さL1がステータコアの軸方向の長さL2以下であるため、コイルのコイルエンドと回転シャフトとの間に位置する高誘電率の部分を少なくすることができる。その結果、軸受の内輪と外輪との電位差を低減し、電食の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1の電動機を示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示した線分II-IIにおける電動機の横断面図である。
【
図3】実施の形態1のロータを示す横断面図である。
【
図4】実施の形態1のロータを示す一部切欠き斜視図である。
【
図5】実施の形態1の軸受を示す一部切欠き斜視図である。
【
図6】実施の形態1の軸受の外輪および内輪を示す一部切欠き斜視図である。
【
図8】比較例2の電動機を示す縦断面図(A)および比較例2のロータを示す一部切欠き斜視図(B)である。
【
図9】実施の形態1と比較例2とで軸受電圧比率を比較して示すグラフである。
【
図11】変形例1のロータを示す一部切欠き斜視図である。
【
図12】実施の形態1および変形例1のロータの対向部の長さと、軸受電圧比率との関係を示すグラフである。
【
図14】実施の形態2の電動機を示す縦断面図である。
【
図15】実施の形態2のロータを示す一部切欠き斜視図である。
【
図16】実施の形態2のロータの対向部の長さと、軸受電圧比率との関係を示すグラフである。
【
図17】実施の形態3の電動機を示す縦断面図である。
【
図19】比較例3のロータの対向部の長さと、軸受電圧比率との関係を示すグラフである。
【
図20】実施の形態4の換気扇を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
<電動機の全体構成>
実施の形態1の電動機について説明する。
図1は、実施の形態1の電動機1を示す縦断面図である。電動機1は同期電動機であり、例えば、換気扇(
図20)の送風機9に用いられる。
【0010】
電動機1は、回転シャフト10と、回転シャフト10に固定されたロータ2と、ロータ2を囲むステータ5と、ステータ5が収容されたハウジング6と、回転シャフト10を支持する軸受11,12とを備える。回転シャフト10の中心軸Axは、ロータ2の回転中心を規定する。
【0011】
以下では、中心軸Axの方向を「軸方向」とする。中心軸Axを中心とする径方向を「径方向」とする。中心軸Axを中心とする周方向を「周方向」とする。中心軸Axに平行な面における断面図を縦断面図とし、中心軸Axに直交する面における断面図を横断面図とする。
【0012】
ハウジング6は、軸方向に第1フレーム61と第2フレーム62とを有する。第1フレーム61および第2フレーム62はいずれも、金属、より具体的には鋼板で形成されている。
【0013】
第1フレーム61は、中心軸Axを中心とする円筒状の周壁部61aと、周壁部61aの軸方向一端に形成された底部61bとを有する。周壁部61aの軸方向他端には、環状のフランジ部61eが形成されている。
【0014】
第2フレーム62は、中心軸Axを中心とする円筒状の周壁部62aと、周壁部62aの軸方向一端に形成された底部62bとを有する。周壁部62aの軸方向他端には、環状のフランジ部62eが形成されている。
【0015】
第1フレーム61と第2フレーム62とは、フランジ部61e,62eを互いに突き合わせるように組み合わされている。第1フレーム61と第2フレーム62のフランジ部61e,62eは、接着、締結または溶接によって互いに固定されている。第1フレーム61および第2フレーム62からなるハウジング6は、接地されている。
【0016】
第1フレーム61の底部61bには、軸受11を保持する軸受保持部61cが形成されている。軸受保持部61cは、例えば、底部61bの中央部を筒状に変形させることで形成される。軸受11は軸受保持部61cに嵌合している。
【0017】
第2フレーム62の底部62bには、軸受12を保持する軸受保持部62cが形成されている。軸受保持部62cは、例えば、底部62bの中央部を筒状に変形させることで形成される。軸受12は軸受保持部62cに嵌合している。
【0018】
軸受11,12は、回転シャフト10を回転可能に支持する。軸受11は、ロータ2の後述するフェライトボンド磁石20の内筒部22との当接によって、軸方向に位置決めされる。軸受12は、回転シャフト10に取り付けられたeリング等によって、軸方向に位置決めされる。
【0019】
回転シャフト10は、第1フレーム61の底部61bに形成された開口から外部に突出している。回転シャフト10の先端部には、例えば羽根部90(
図20)が取り付けられている。そのため、回転シャフト10の突出側は負荷側と称し、その反対側は反負荷側と称する。
【0020】
<ステータの構成>
図2は、
図1に示した線分II-IIにおける電動機1の断面図である。
図2に示すように、ステータ5は、ステータコア50と、ステータコア50に巻き付けられたコイル55とを有する。ステータコア50は、中心軸Axを中心とする環状のヨーク51と、ヨーク51から径方向内側に延在する複数のティース52とを有する。ヨーク51の外周面は、ハウジング6の内周面に嵌合している。
【0021】
ティース52は、周方向に等間隔で配置されている。ティース52の先端部は、エアギャップを介してロータ2の外周面に対向している。ティース52の数は、ここでは12個であるが、12個には限定されない。隣り合うティース52の間には、スロット53が形成されている。
【0022】
コイル55は、例えばマグネットワイヤで構成される。コイル55は、絶縁部54(
図1)を介してティース52に巻かれ、スロット53に収容されている。コイル55のうち、スロット53に収まらず、ステータコア50の軸方向の端面上で延在する部分を、コイルエンド55a(
図1)と称する。
【0023】
図1に示す絶縁部54は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PET(ポリエチレンテレフタレート)またはPBT(ポリブチレンテレフタレート)等の樹脂で形成されている。なお、絶縁部54は、
図2では省略されている。
【0024】
ステータ5の反負荷側には、回路基板45が配置されている。回路基板45は、絶縁部54に固定された図示しないピンによって支持されている。回路基板45には、電動機1を回転駆動するためのインバータ等の駆動回路が搭載されている。なお、回路基板45をハウジング6の外部に配置してもよい。
【0025】
<ロータの構成>
図3は、ロータ2を示す断面図である。ロータ2は、回転シャフト10(
図2)に固定された第1の永久磁石としてのフェライトボンド磁石20と、フェライトボンド磁石20の外周側に設けられた第2の永久磁石としての希土類ボンド磁石30とを有する。フェライトボンド磁石20と希土類ボンド磁石30とは、回転シャフト10と一体に成形されている。
【0026】
フェライトボンド磁石20は、フェライト磁石の磁性粉と樹脂とを含む。フェライトボンド磁石20に含まれる樹脂は、例えばポリアミド(ナイロン)であるが、PPS(Poly Phenylene Sulfide)等であってもよい。フェライト磁石の磁性粉は絶縁性を有し、磁性粉を囲む樹脂も絶縁性を有するため、フェライトボンド磁石20は全体として絶縁性を有する。
【0027】
フェライトボンド磁石20は、4つのS極と4つのN極とを周方向に交互に有するように配向される。フェライトボンド磁石20の極数は8極である。但し、フェライトボンド磁石20の極数は8極に限らず、2極以上であればよい。
【0028】
希土類ボンド磁石30は、希土類磁石の磁性粉と樹脂とを含む。希土類磁石は、例えば、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)およびホウ素(B)を含むネオジム磁石、またはサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、および窒素(N)を含むサマリウム鉄窒素磁石等である。
【0029】
希土類ボンド磁石に含まれる樹脂は、例えばポリアミド(ナイロン)であるが、PPS等であってもよい。希土類磁石の磁性粉は導電性を有するが、磁性粉を囲む樹脂は絶縁性を有するため、希土類ボンド磁石30は全体として絶縁性を有する。
【0030】
希土類ボンド磁石30は、フェライトボンド磁石20と同様、4つのS極と4つのN極とを周方向に交互に有するように配向される。すなわち、希土類ボンド磁石30の極数は8極である。但し、希土類ボンド磁石30の極数は8極に限らず、フェライトボンド磁石20の極数と同数であればよい。
【0031】
フェライトボンド磁石20と希土類ボンド磁石30とは、磁力が異なる。具体的には、希土類ボンド磁石30の磁力は、フェライトボンド磁石20の磁力よりも高い。
【0032】
図4は、ロータ2を示す一部切欠き斜視図である。フェライトボンド磁石20は、中心軸Axを中心とする環状の環状部21と、回転シャフト10(
図1)に固定される内筒部22と、環状部21と内筒部22とをつなぐ接続部23とを有する。
【0033】
環状部21は軸方向に長さL1を有し、内筒部22は軸方向に長さL3を有し、連結部
23は軸方向に長さL4を有する。
図4に示した例では長さL1,L3がL1<L3の関係にあり、内筒部22が環状部21から軸方向の一方の側(ここでは軸受11側)に突出し、軸受11を軸方向に位置決めしている。
【0034】
但し、軸受11をeリング等で位置決めする場合には、L1≧L3とし、内筒部22が環状部21から突出しない構成も可能である。一方、長さL1,L4はL1>L4の関係にあり、接続部23は軸方向において環状部21の内側に収まっている。
【0035】
フェライトボンド磁石20の外周面20b、すなわち環状部21の外周面には、希土類ボンド磁石30が固定されている。フェライトボンド磁石20の内周面20a、すなわち内筒部22の内周面には、回転シャフト10が固定されている。
【0036】
希土類ボンド磁石30は、全体が環状に形成されている。希土類ボンド磁石30の内周面30aは、フェライトボンド磁石20の外周面20bに固定されている。希土類ボンド磁石30の外周面30bは、エアギャップを介してステータ5のティース52(
図2)に対向する。
【0037】
希土類ボンド磁石30の軸方向の長さL1は、フェライトボンド磁石20の対向部25の軸方向の長さL1と同じである。
【0038】
フェライトボンド磁石20の環状部21と希土類ボンド磁石30とを合わせて、対向部25と称する。対向部25は、径方向において、ステータコア50にエアギャップを介して対向する。対向部25の軸方向の長さは、上記の長さL1である。
【0039】
対向部25を構成する環状部21および希土類ボンド磁石30のうち、環状部21は第1の磁石部とも称し、希土類ボンド磁石30は第2の磁石部とも称する。フェライトボンド磁石20の内筒部22および接続部23は、対向部25と回転シャフト10との間に位置する連結部を構成する。
【0040】
フェライトボンド磁石20および希土類ボンド磁石30は、射出成形機を用いたインサート成形により、回転シャフト10と一体に成形されている。
【0041】
具体的には、回転シャフト10を第1の金型内に挿入し、そこに溶融したフェライトボンド磁石材料を充填することで、回転シャフト10と一体にフェライトボンド磁石20を成形する。成形時に極異方性の磁場を印加することで、フェライトボンド磁石20が
図3に示した磁極を有するように配向される。
【0042】
次に、回転シャフト10およびフェライトボンド磁石20を第2の金型に設置し、そこに溶融した希土類ボンド磁石材料を充填することにより、フェライトボンド磁石20の外周面20bに希土類ボンド磁石30を成形する。成形時に極異方性の磁場を印加することで、希土類ボンド磁石30が
図3に示した磁極を有するように配向される。
【0043】
回転シャフト10とフェライトボンド磁石20と希土類ボンド磁石30とが一体に成形されるため、これらが強固に一体化し、また製造コストが低減される。
【0044】
図5は、軸受11を示す一部切欠き斜視図である。軸受11は、回転シャフト10に固定される内輪11aと、ハウジング6に固定される外輪11bと、内輪11aと外輪11bとの間に設けられる複数の転動体11cとを有する。
【0045】
転動体11cは、例えばボールである。内輪11a、外輪11bおよび転動体11cはいずれも、金属製である。また、内輪11aおよび外輪11bに対して軸方向両側には、シールド板11dが設けられている。
【0046】
図6は、軸受11の内輪11aおよび外輪11bを示す一部切欠き斜視図である。内輪11aの外周に沿って、転動体11cを案内する軌道面11eが形成されている。外輪11bの内周に沿って、転動体11cを案内する軌道面11fが形成されている。
【0047】
軌道面11e,11fと転動体11cとの間には、潤滑のためグリスが付与されている。内輪11aと外輪11bとの間には図示しないリテーナが配置され、転動体11cの周方向の間隔を一定に保っている。
【0048】
図5,6には負荷側の軸受11の構成を示したが、反負荷側の軸受12(
図1)も同様の構成を有する。
【0049】
軸受11,12の外輪11b,12bはハウジング6に接触しているため、ハウジング6に嵌合しているステータコア50と同じ電位にある。ハウジング6は、軸受11,12の外輪11b,12bとステータコア50とを導通する導通部材に相当する。
【0050】
<作用>
次に、実施の形態1の作用について、比較例1と対比して説明する。
図7は、比較例1の電動機1Eを示す
縦断面図である。比較例1のロータ2Eは、全体がフェライトボンド磁石20で構成され、希土類ボンド磁石を有さない。
【0051】
フェライトボンド磁石20は、実施の形態1と同様、環状部21と内筒部22と接続部23とを有する。フェライトボンド磁石20の環状部21は、ステータコア50に対向する対向部25を構成する。対向部25の軸方向の長さL1は、ステータコア50の軸方向の長さL2よりも長い(L1>L2)。
【0052】
比較例1では、ロータ2Eの対向部25がステータコア50から軸方向両側に突出している。そのため、ステータ5のコイル55のコイルエンド55aは、径方向において、ロータ2Eの対向部25に対向する。
【0053】
上記の通り、フェライトボンド磁石20は、フェライト磁石の磁性粉とポリアミド等の樹脂とを含む。ポリアミドの比誘電率は概ね3~4であるが、磁性粉を含むためフェライトボンド磁石20の比誘電率は40~200となる。
【0054】
比較例の電動機1Eでは、コイル55のコイルエンド55aと回転シャフト10との間に、誘電率の高いフェライトボンド磁石20の環状部21および内筒部22が存在する。
【0055】
ここで、
図5,6を参照して説明したように、回転シャフト10が回転すると、回転シャフト10と共に内輪11aが回転し、転動体11cも回転する。内輪11aと転動体11cとの間、および外輪11bと転動体11cとの間には、グリスの薄膜が形成される。グリスの薄膜が形成されることにより、内輪11a、外輪11bおよび転動体11cが電気的に絶縁される。
【0056】
軸受11の外輪11bが固定されたハウジング6は接地されているが、内輪11aが固定された回転シャフト10は接地されていない。回転シャフト10の電位によって、内輪11aと外輪11bとの間に電位差が生じる。この電位差がグリスの薄膜の絶縁破壊電圧を超えると、内輪11aと外輪11bとの間に放電が発生する。
【0057】
放電のエネルギーによって内輪11aおよび外輪11bの軌道面11e,11fに凹凸が生じる現象を、電食と称する。軌道面11e,11fに凹凸が生じると、転動体11cが軌道面11e,11fを走行する際に振動および騒音が発生する。ここでは負荷側の軸受11について説明したが、反負荷側の軸受12(
図1)についても同じことが言える。
【0058】
ハウジング6は接地されているため、ハウジング6に接触しているステータコア50および外輪11b,12bの電位は、接地電位(GND)にある。一方、ステータコア50に絶縁部54を介して巻かれたコイル55には電力が供給されるため、コイル55とステータコア50等の間には電位差が生じる。これにより電動機1Eの内部空間に電位分布が生じ、回転シャフト10の電位が生じる。
【0059】
回転シャフト10の電位は、ステータコア50と回転シャフト10と間の静電容量、コイルエンド55aと回転シャフト10との間の静電容量、および軸受11,12の内輪11a,12aと外輪11b,12bとの間の静電容量に依存する。
【0060】
静電容量Cは、相対する2つの導体の距離dおよび対向面積S、並びに導体間に存在する物質の誘電率εによって、C=ε×S/dで表される。
【0061】
上記の通り、比較例1の電動機1E(
図7)では、コイル55のコイルエンド55aと回転シャフト10との間に、フェライトボンド磁石20の環状部21および内筒部22が存在する。すなわちコイルエンド55aと回転シャフト10との間に、誘電率の高い部分が多く存在する。そのため、コイルエンド55aと回転シャフト10との間の静電容量が大きくなり、回転シャフト10の電位が高くなる。その結果、内輪11a,12aと外輪11b,12bとの電位差、すなわち軸受電圧が発生する。
【0062】
また、特許文献1には、コイルエンドの径方向内側に、軸方向に長い複数の導電層を周方向に配置することが開示されている(特許文献1の段落0020参照)。この場合、導電層をステータコアに導通させれば、シールドのような効果によりシャフトの電位を低下させることは可能と考えられる。しかしながら、部品数が多くなって製造コストが増加する上、運転中の部品(すなわち導電層)の脱落、あるいは部品表面に発生する渦電流による効率低下が生じる可能性がある。
【0063】
これに対し、実施の形態1では、
図1に示したように、ロータ2の対向部25(すなわちフェライトボンド磁石20の環状部21および希土類ボンド磁石30)の軸方向の長さL1が、ステータコア50の軸方向の長さL2以下である(L1≦L2)。言い換えると、ロータ2の対向部25は、ステータコア50から軸方向に突出しない。
【0064】
このように構成されているため、ステータ5のコイルエンド55aは、径方向において、ロータの対向部25に対向しない。その結果、径方向においてコイルエンド55aと回転シャフト10との間に位置する高誘電率の部分は、フェライトボンド磁石20の内筒部22のみとなる。内筒部22の体積は対向部25と比較して十分に小さい。また、ロータ2を、内筒部22が環状部21から軸方向に突出しないように構成した場合には、内筒部22および対向部25のいずれもコイルエンド55aに対向しない。
【0065】
このように、コイルエンド55aと回転シャフト10との間に存在する高誘電率の部分が少ないため、コイルエンド55aと回転シャフト10との間の静電容量を小さくし、回転シャフト10の電位を低下させることができる。
【0066】
外輪11b,12bの電位は接地電位にあるため、内輪11a,12aに接触している回転シャフト10の電位を低下させることで、内輪11a,12aと外輪11b,12bとの電位差を小さくし、電食の発生を抑制することができる。
【0067】
すなわち、ロータ2の対向部25の長さL1をステータコア50の長さL2以下とすることにより、軸受11,12の電食の発生を抑制する効果を得ることができる。
【0068】
図8(A)は、比較例2の電動機1Fを示す縦断面図である。比較例2の電動機1Fのロータ2Fは、環状のフェライトボンド磁石24と、回転シャフト10とフェライトボンド磁石24とを連結する導電性支持体46とを有する。
【0069】
すなわち、比較例2のフェライトボンド磁石24は、実施の形態1のフェライトボンド磁石20のような内筒部22および接続部23を有さない。フェライトボンド磁石24は、その全体で対向部25を構成する。ロータ2Fの対向部25の軸方向の長さL1は、ステータコア50の軸方向の長さL2以下である。
【0070】
図8(B)は、比較例2のロータ2Fを示す斜視図である。導電性支持体46は、円形の電磁鋼板を軸方向に積層したものである。導電性支持体46の内周面46aには回転シャフト10が固定され、導電性支持体46の外周面46bにはフェライトボンド磁石24が固定される。
【0071】
比較例2では、ステータコア50と回転シャフト10との間に導電性支持体46が介在するため、ステータコア50と回転シャフト10との間の静電容量が、ステータコア50と回転シャフト10との距離が狭くなった場合と同様に、大きくなる。そのため、比較例2の電動機1Fでは、軸受電圧の低減効果を得ることは難しい。
【0072】
図9は、実施の形態1の電動機1と比較例2の電動機1Fとで、軸受電圧比率を比較して示すグラフである。縦軸の軸受電圧比率は、コイル55に印加された電圧に対する軸受電圧の比率である。
【0073】
フェライトボンド磁石24の軸方向の長さL1は、ステータコア50の軸方向の長さL2と同じ40mmに設定している。なお、軸受11,12の内輪11a,12aはシャフト10を介して導通され、外輪11b,12bはハウジング6を介して導通されているため、軸受11,12とも軸受電圧比率の値は同じである。
【0074】
図9に示すように、比較例2の電動機1Fでは、実施の形態1の電動機1と比較して軸受電圧の低減効果が小さい。これは、上記の通り、ステータ5と回転シャフト10との間に導電性支持体46が介在することによるものである。
【0075】
実施の形態1では、
図1に示したように、ロータ2の対向部25と回転シャフト10との間にフェライトボンド磁石20の内筒部22および接続部23が介在し、これらは絶縁性を有するため、軸受電圧の低減効果を発揮することができる。
【0076】
<実施の形態の効果>
以上説明したように、実施の形態1の電動機1は、軸受11,12によって支持される回転シャフト10と、回転シャフト10に固定されたロータ2と、ロータ2を囲むステータコア50およびコイル55を有するステータ5とを備える。ロータ2は、ボンド磁石で形成され且つ径方向においてステータコア50に対向する対向部25と、対向部25と回転シャフト10とを連結する絶縁性の連結部(すなわち内筒部22および接続部23)とを有する。対向部25の軸方向の長さL1は、ステータコア50の軸方向の長さL2以下である。
【0077】
このように構成されているため、コイルエンド55aと回転シャフト10との間に位置する高誘電率の部分を少なくし、これによりコイルエンド55aと回転シャフト10との間の静電容量を小さくし、回転シャフト10の電位を低下させることができる。その結果、軸受電圧を低減して電食の発生を抑制することができ、電動機1の振動および騒音を低減することができる。
【0078】
また、ロータ2の対向部25が、フェライトボンド磁石20の環状部21と希土類ボンド磁石30とを有するため、対向部25の長さL1を短くしても高い磁力を発生することができる。また、希土類ボンド磁石30がフェライトボンド磁石20の環状部21を径方向外側から覆うように設けられているため、特に高い磁力を発生することができる。
【0079】
また、ロータ2の対向部25と回転シャフト10との間に、フェライトボンド磁石20の内筒部22および接続部23が介在しているため、導体が介在している場合(
図8(A),(B))と比較して、ステータコア50と回転シャフト10との間の静電容量を小さくすることができる。これにより、軸受電圧をさらに低減し、電食の発生を効果的に抑制することができる。
【0080】
また、フェライトボンド磁石20および希土類ボンド磁石30が、回転シャフト10と一体に成形されているため、フェライトボンド磁石20、希土類ボンド磁石30および回転シャフト10を強固に一体化することができ、また製造コストを低減することができる。
【0081】
なお、実施の形態1のロータ2はフェライトボンド磁石と希土類ボンド磁石で構成されていたが、これらの組み合わせに限らず、2種類のボンド磁石で構成されていればよい。
【0082】
変形例1.
図10は、変形例1の電動機1Aを示す
縦断面図である。
図11は、変形例1の電動機1Aのロータ2Aを示す斜視図である。
図10,11に示すように、変形例1の電動機1Aでは、ロータ2Aがフェライトボンド磁石20で構成され、希土類ボンド磁石30を有さない。
【0083】
フェライトボンド磁石20は、実施の形態1と同様、環状部21と内筒部22と接続部23とを有する。フェライトボンド磁石20の環状部21は、対向部25を構成する。対向部25の軸方向の長さL1は、ステータコア50の軸方向の長さL2以下である(L1≦L2)。対向部25は、ステータコア50から軸方向に突出しない。
【0084】
フェライトボンド磁石20は、射出成形機を用いたインサート成形により、回転シャフト10と一体に成形される。成形時に極異方性の磁場を印加することで、フェライトボンド磁石20が
図3に示した磁極を有するように配向される。
【0085】
一般に、フェライトボンド磁石の磁力は、希土類ボンド磁石の磁力よりも低い。そのため、希土類ボンド磁石を有さない変形例1のロータ2Aの磁力は、希土類ボンド磁石を有する実施の形態1のロータ2の磁力よりも低い。
【0086】
一方、希土類ボンド磁石では、導電性の磁性粉が樹脂に囲まれているが、フェライトボンド磁石では、絶縁性の磁性粉が樹脂に囲まれている。すなわち、フェライトボンド磁石の全体としての導電性は、希土類ボンド磁石の全体としての導電性よりも低い。そのため、実施の形態1よりも変形例1の方が、コイルエンド55aと回転シャフト10との間の静電容量が小さい。
【0087】
図12は、電界解析によって求めた、実施の形態1および変形例1のロータ2,2Aの対向部25の長さL1と軸受電圧比率との関係を示すグラフである。横軸は、対向部25の長さL1を示す。縦軸の軸受電圧比率は、コイル55に印加された電圧に対する軸受電圧の比率である。なお、上記の通り、軸受11,12の軸受電圧比率は同じである。
【0088】
ここでは、ステータコア50の軸方向の長さL2を40mmと一定にし、ロータ2,2Aの対向部25の軸方向の長さL1を36mmから58mmまで変化させている。
【0089】
図12に示すように、実施の形態1および変形例1のいずれにおいても、ロータ2,2Aの対向部25の長さL1が長くなるほど軸受電圧が増加している。また、対向部25の長さL1がステータコア50の長さL2よりも長い領域、すなわちL1>L2となる領域では、実施の形態1の軸受電圧は変形例1の軸受電圧よりも高い。
【0090】
一方、対向部25の長さL1がステータコア50の長さL2以下となる領域、すなわちL1≦L2の領域では、実施の形態1と変形例1との軸受電圧の差がなくなり、いずれも軸受電圧が低く抑えられている。
【0091】
このことから、実施の形態1の電動機1および変形例1の電動機1Aのいずれにおいても、対向部25の長さL1をステータコア50の長さL2以下とすることにより軸受電圧を低減し、電食の発生を抑制できることが分かる。
【0092】
なお、実施の形態1のロータ2はフェライトボンド磁石20と希土類ボンド磁石30とで構成され、変形例1のロータ2Aはフェライトボンド磁石20で構成されているが、ロータを希土類ボンド磁石のみ、あるいは他種類のボンド磁石のみで構成してもよい。但し、ロータを希土類ボンド磁石のみで構成すると軸受電圧が高くなり過ぎる傾向があるため、フェライトボンド磁石を含むことが望ましい。
【0093】
変形例2.
図13は、変形例2のロータ2
Bを示す横断面図である。実施の形態1のロータ2では、環状の希土類ボンド磁石30がフェライトボンド磁石20の外周面20bを覆っていた。これに対し、変形例2のロータ2Bでは、フェライトボンド磁石20の外周面20bに沿って複数の希土類ボンド磁石31が配置されている。
【0094】
希土類ボンド磁石31は周方向に等間隔に配置されている。希土類ボンド磁石31の数はロータ2Bの極数と同数である。周方向に隣り合う希土類ボンド磁石31は、互いに逆極性に着磁されている。
【0095】
フェライトボンド磁石20の外周面20b、すなわち環状部21(
図4)の外周面には、希土類ボンド磁石31が配置される複数の凹部20cが形成されている。フェライトボンド磁石20の環状部21と希土類ボンド磁石31により、対向部25が形成される。
【0096】
変形例2のロータ2Bは、フェライトボンド磁石20と希土類ボンド磁石31とを有するため、実施の形態1と同様に、ロータ2Bの対向部25の軸方向の長さL1を短くしても高い磁力を発生することができる。
【0097】
実施の形態2.
次に、実施の形態2について説明する。
図14は、実施の形態2の電動機1Cを示す縦断面図である。実施の形態2のロータ2Cは、環状のフェライトボンド磁石24と、回転シャフト10とフェライトボンド磁石24とを連結する連結部としての樹脂部40とを有する。
【0098】
すなわち、実施の形態2のフェライトボンド磁石24は、実施の形態1のフェライトボンド磁石20のような内筒部22および接続部23を有さない。フェライトボンド磁石24は、その全体で対向部25を構成する。ロータ2Cの対向部25の軸方向の長さL1は、ステータコア50の軸方向の長さL2以下である。
【0099】
図15は、ロータ2Cを示す斜視図である。樹脂部40は、回転シャフト10(
図14)に固定される内筒部42と、内筒部42を径方向外側から囲む環状の環状部41と、環状部41と内筒部42とをつなぐ接続部43とを有する。フェライトボンド磁石24は、環状部41に固定されている。
【0100】
樹脂部40は、PBT、ポリアミド(ナイロン)、または液晶ポリマー(LCP)等の樹脂で形成されており、絶縁体である。樹脂部40を形成する樹脂の比誘電率は概ね4であり、フェライトボンド磁石24の比誘電率よりも十分に低い。
【0101】
フェライトボンド磁石24を、より誘電率の低い樹脂部40を介して回転シャフト10に固定することにより、コイルエンド55aと回転シャフト10との間の静電容量を小さくすることができる。その結果、軸受11,12の軸受電圧を低減し、電食の発生を抑制することができる。
【0102】
図16は、電界解析によって求めた、実施の形態2のロータ2Cのフェライトボンド磁石24の軸方向の長さL1と軸受電圧比率との関係を示すグラフである。横軸は、対向部25の長さL1を示す。縦軸の軸受電圧比率は、コイル55に印加された電圧に対する軸受電圧の比率である。なお、上記の通り、軸受11,12の軸受電圧比率は同じである。
【0103】
図16から、フェライトボンド磁石24の長さL1がステータコア50の長さL2以下のとき(L1≦L2)に、特に軸受電圧が低くなっていることが分かる。また、
図12と
図16とを比較すると、実施の形態2では実施の形態1よりも軸受電圧が低いことが分かる。これは、フェライトボンド磁石24とシャフト10との間に低誘電率の樹脂部40を介在させたことによる。
【0104】
なお、フェライトボンド磁石24の外周側に希土類ボンド磁石30を設けてもよい。希土類ボンド磁石30を設けることで、ロータ2Cの高磁力化を図ることができる。
【0105】
上述した点を除き、実施の形態2の電動機1Cは、実施の形態1の電動機1と同様に構成されている。
【0106】
以上説明したように、実施の形態2の電動機1Cは、フェライトボンド磁石24を、これよりも誘電率の低い樹脂部40を介して回転シャフト10に連結しているため、コイルエンド55aと回転シャフト10との間の静電容量を小さくすることができる。これにより、軸受11,12の軸受電圧を低減し、電食の発生を抑制することができる。
【0107】
実施の形態3.
次に、実施の形態3について説明する。
図17は、実施の形態3の電動機1Dを示す縦断面図である。実施の形態1の電動機1では、ステータ5が金属製のハウジング6で保持されていたが、実施の形態3の電動機1Dでは、ステータ5がモールド樹脂部80で保持されている。
【0108】
樹脂部としてのモールド樹脂部80は、不飽和ポリエステルを含有するBMC(バルクモールディングコンパウンド)で形成される。モールド樹脂部80は、ステータ5を径方向外側および反負荷側から覆うように形成されている。
【0109】
モールド樹脂部80は、負荷側に開口部81を有し、反負荷側に軸受保持部82を有する。ロータ2Aは、開口部81からステータ5の内部に挿入される。ステータ5とモールド樹脂部80とで、モールドステータ8が構成される。
【0110】
負荷側の軸受11は、モールド樹脂部80の開口部81に取り付けられた金属製のブラケット71によって保持される。ブラケット71は、軸受11を支持する筒状部71aと、筒状部71aから径方向外側に延在する板状部71bと、開口部81の周囲の段差部に嵌合する嵌合部71cとを有する。ブラケット71の筒状部71aは、軸受11の外輪11bに接触する。ブラケット71は、導電性部材あるいは第1の導電性部材とも称する。
【0111】
反負荷側の軸受12は、導電性のキャップ72によって保持される。キャップ72は、例えば有底の円筒状であり、モールド樹脂部80の軸受保持部82によって径方向外側から覆われている。キャップ72は、軸受12の外輪12bに接触する。キャップ72は、導電性部材あるいは第2の導電性部材とも称する。
【0112】
実施の形態1ではハウジング6が接地されていたが、実施の形態3ではモールド樹脂部80が絶縁性であり、接地することができない。そこで、実施の形態3では、ブラケット71およびキャップ72が接地されている。
【0113】
より具体的には、ブラケット71に設けた導電性のピン85と、ステータコア50の負荷側に設けた導電性のピン56とを、リード線58で電気的に接続する。また、キャップ72に設けた導電性のピン86と、ステータコア50の反負荷側に設けた導電性のピン57とを、リード線59で電気的に接続する。
【0114】
回路基板45にはインバータ等の駆動回路が搭載されており、図示しないリード線を介して、電動機1Dの外部のグラウンドに接地されている。そのため、軸受11の外輪11bは、ブラケット71、リード線58および回路基板45を介して接地される。また、軸受12の外輪12bは、キャップ72、リード線59および回路基板45を介して接地される。
【0115】
電動機1Dは、変形例1で説明したロータ2Aを有している。ロータ2Aの環状部21の長さL1は、ステータコア50の長さL2以下である。なお、ロータ2Aの代わりに、実施の形態1のロータ2、変形例2のロータ2B、あるいは実施の形態2のロータ2Cを用いてもよい。
【0116】
上述した点を除き、実施の形態3の電動機1Dは、実施の形態1の電動機1と同様に構成されている。
【0117】
図18は、比較例3の電動機1Gを示す縦断面図である。比較例3の電動機1Gでは、負荷側の軸受11は金属製のブラケット71によって保持されているが、ブラケット71は接地されていない。また、反負荷側の軸受12を保持する金属製のキャップ72は設けられていない。すなわち、軸受11,12の外輪11b,12bはいずれも、接地されていない。
【0118】
反負荷側の軸受12では、外輪12bが回路基板45に近接しており、回路基板45はリード線によって接地されているため、外輪12bの電位は接地電位に近い。一方、内輪12aは回転シャフト10に接触しており、回転シャフト10とコイルエンド55aとの間には静電容量が存在するため、内輪12aの電位は接地電位よりも高くなりやすい。そのため、内輪12aと外輪12bとの電位差が発生しやすい。
【0119】
一方、負荷側の軸受11では、内輪11aは回転シャフト10に接触しており、回転シャフト10とコイルエンド55aとの間には静電容量が存在するため、内輪11aの電位は高くなりやすい。但し、軸受11が回路基板45から離間しており、外輪11bの電位が接地電位にないため、内輪11aと外輪11bとの電位差は発生しにくい。
【0120】
図19は、比較例3の電動機1Gにおけるロータ2Aの環状部21の長さL1と、軸受11,12のそれぞれにおける軸受電圧との関係を示すグラフである。
図19に示されているように、負荷側の軸受11の軸受電圧に対し、反負荷側の軸受12の軸受電圧が大きい。
【0121】
また、
図19では、軸受11,12のいずれの軸受電圧も、長さL1によらず一定である。これは、比較例3の電動機1Gでは、軸受11,12の外輪11b,12bが導通されていないため、上述したL1≦L2の関係による軸受電圧の低減効果が得られないことによる。
【0122】
これに対し、実施の形態3では、
図17に示したように、軸受11の外輪11bがブラケット71およびリード線58を介して接地され、軸受12の外輪12bがキャップ72およびリード線59を介して接地されている。すなわち、軸受11,12の外輪11b,12bの電位が、接地電位となる。
【0123】
そのため、軸受11,12が導電性のハウジング6で保持されていた実施の形態1と同様に、ロータ2Aの対向部25の軸方向の長さL1をステータコア50の軸方向の長さL2以下とすることで、コイルエンド55aと回転シャフト10との間の静電容量を小さくし、軸受11,12の軸受電圧を低減することができる。
【0124】
以上説明したように、実施の形態3の電動機1Dは、ステータコア50がモールド樹脂部80で保持され、軸受11の外輪11bがブラケット71およびリード線58を介して接地され、軸受12の外輪12bがキャップ72およびリード線59を介して接地されており、且つ、ロータ2Aの環状部21の長さL1がステータコア50の長さL2以下である。そのため、コイルエンド55aと回転シャフト10との間の静電容量を小さくし、軸受11,12の軸受電圧を低減し、電食の発生を抑制することができる。
【0125】
実施の形態4.
次に、実施の形態4について説明する。実施の形態4は、上述した各実施の形態および各変形例の電動機が適用される送風機9と、送風機9を備えた換気扇100に関する。
図20は、換気扇100を示す断面図である。
図21は、換気扇100を示す斜視図である。換気扇100は、屋内の天井に配置され、排気ダクトを介して室内空気を屋外に排気するものである。換気扇100は、ダクト換気扇とも呼ばれる。
【0126】
換気扇100は、送風機9と、送風機9が取り付けられた筐体101とを備える。送風機9は、実施の形態1で説明した電動機1と、電動機1の回転シャフト10に取り付けられた羽根部90とを有する。なお、実施の形態1で説明した電動機1の代わりに、実施の形態2、3または各変形例で説明した電動機を用いてもよい。
【0127】
羽根部90はシロッコファンとも呼ばれ、軸方向に対向する主板92と側板93との間に、複数の翼94を周方向に配列したものである。主板92は、回転シャフト10に固定されている。羽根部90が回転することにより、中心軸Axから径方向外側に向かう空気の流れが発生する。
【0128】
筐体101は、鋼板または樹脂で形成された直方体状の容器である。筐体101は、軸方向に対向する天板103および底板104と、これらの間に形成された側壁102とを有する。天板103は、電動機1を装着する開口部108を有する。電動機1は、第1フレーム61側が筐体101の内部に収まるように開口部108に装着され、フランジ部61e,62eが開口部108の周囲に固定される。
【0129】
底板104の外周縁は、天井板200の下面に固定される。底板104には、矢印Aで示すように室内から空気を吸い込むためのグリル105が形成される。
【0130】
筐体101の側壁102には、空気を筐体101の外部に排出するための通風ダクト106が取り付けられている。通風ダクト106には、屋外につながる図示しない排気ダクトが接続される。
【0131】
電動機1が駆動されると、回転シャフト10に固定された羽根部90が回転する。これにより、矢印Aで示すように室内の空気がグリル105から筐体101に吸い込まれる。筐体101に吸い込まれた空気は、羽根部90によって径方向外側に向かい、通風ダクト106を介して筐体101から排出され、排気ダクトを介して屋外に排気される。
【0132】
換気扇100は屋内の天井に設置されるため、振動および騒音が屋内に伝わりやすい。換気扇100の駆動源として実施の形態1で説明した電動機1を用いることにより、軸受11,12の電食に起因する振動および騒音を低減することができる。そのため、屋内に伝わる振動および騒音を低減し、静音性を高めることができる。
【0133】
また、軸受11,12の電食の発生が抑制されるため、換気扇100の寿命を長くし、信頼性を向上することができる。実施の形態1で説明した電動機1の代わりに、実施の形態2、3または各変形例で説明した電動機を用いた場合も同様である。
【0134】
ここでは、シロッコファンを用いた換気扇について説明したが、羽根部の形態はシロッコファンには限らず、プロペラファン、クロスフローファン等であってもよい。
【0135】
また、各実施の形態および各変形例で説明した電動機を有する送風機は、換気扇に限らず、レンジフード、浴室乾燥機、扇風機、除湿器、空気調和装置等に用いてもよい。
【0136】
以上、望ましい実施の形態について具体的に説明したが、本開示は上記の実施の形態に限定されるものではなく、各種の改良または変形を行なうことができる。
【符号の説明】
【0137】
1,1A,1B,1C,1D 電動機、 2,2A,2B,2C ロータ、 5 ステータ、 6 ハウジング(導通部材)、 8 モールドステータ、 9 送風機、 10 回転シャフト、 11,12 軸受、 11a,12a 内輪、 11b,12b 外輪、 11c,12c 転動体、 11e,11f 軌道面、 20 フェライトボンド磁石、 21 環状部、 22 内筒部(連結部)、 23 接続部(連結部)、 24 フェライトボンド磁石、 25 対向部、 30 希土類ボンド磁石、 31 希土類ボンド磁石、 40 樹脂部、 45 回路基板、 50 ステータコア、 51 ヨーク、 52 ティース、 53 スロット、 54 絶縁部、 55 コイル、 55a コイルエンド、 56,57 ピン、 58,59 リード線(導通部材、導電性部材)、 61 第1フレーム、 61c,62c 軸受保持部、 61e,62e フランジ部、 62 第2フレーム、 71 ブラケット、 72 キャップ、 80 モールド樹脂部、 85,86 ピン、 90 羽根部、 100 換気扇、 101 筐体、 106 通風ダクト。