(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】容器に収容してなる眼科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/02 20060101AFI20250411BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20250411BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20250411BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20250411BHJP
【FI】
A61K47/02
A61P27/02
A61K9/08
A61K47/04
(21)【出願番号】P 2024066075
(22)【出願日】2024-04-16
(62)【分割の表示】P 2024061269の分割
【原出願日】2024-04-05
【審査請求日】2024-04-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】桃原 真美子
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-003364(JP,A)
【文献】特開2021-120404(JP,A)
【文献】特開2022-116147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に収容してなる眼科用組成物であって、
前記眼科用組成物は、
塩化ナトリウム、塩化カリウム及びホウ酸を含有するものであり、
かつ実質的に防腐剤を含有せず、
前記容器への前記眼科用組成物の充填量が
3.8mL以上
4.2mL
以下であり、
前記容器は、前記眼科用組成物と接する部分の一部又は全部がポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂で形成されて
おり、かつマルチドーズ型である、眼科用組成物(但し、下記(i)及び/又は(ii)を除く
。
(i)0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、水溶性高分子、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤が、リン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、およびトロメタモールからなる群より選択される少なくとも1種である水性組成物
(ii)0.005%~0.18%w/wのヘキサン酸,6-(ニトロオキシ)-,(1S,2E)-3-[(1R,2R,3S,5R)-2-[(2Z)-7-(エチルアミノ)-7-オキソ-2-ヘプテン-1-イル]-3,5-ジヒドロキシシクロペンチル]-1-(2-フェニルエチル)-2-プロペン-1-イルエステル、0.5%w/w~1.5%w/wのマクロゴール15ヒドロキシステアラートを含む、溶液形態の眼科用水性組成物)。
【請求項2】
前記容器の開栓後の使用期限が11日以上である、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項3】
前記樹脂が、ポリエチレンである、請求項1又は2に記載の眼科用組成物。
【請求項4】
前記眼科用組成物が、ホウ酸の塩を更に含有するものである、請求項1又は2に記載の眼科用組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の眼科用組成物が、1包装当たり2本以上6本以下含まれる、製品。
【請求項6】
眼科用組成物(但し、下記(i)及び/又は(ii)を除く
。
(i)0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、水溶性高分子、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤が、リン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、およびトロメタモールからなる群より選択される少なくとも1種である水性組成物
(ii)0.005%~0.18%w/wのヘキサン酸,6-(ニトロオキシ)-,(1S,2E)-3-[(1R,2R,3S,5R)-2-[(2Z)-7-(エチルアミノ)-7-オキソ-2-ヘプテン-1-イル]-3,5-ジヒドロキシシクロペンチル]-1-(2-フェニルエチル)-2-プロペン-1-イルエステル、0.5%w/w~1.5%w/wのマクロゴール15ヒドロキシステアラートを含む、溶液形態の眼科用水性組成物)における微生物の増殖を抑制する方法であって、
前記眼科用組成物は、
塩化ナトリウム、塩化カリウム及びホウ酸を含有するものであり、
かつ実質的に防腐剤を含有せず、
前記眼科用組成物と接する部分の一部又は全部がポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂で形成されている
マルチドーズ型容器に前記眼科用組成物を充填することを含み、
前記容器への前記眼科用組成物の充填量が
3.8mL以上
4.2mL
以下である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器に収容してなる眼科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、複数回用量(マルチドーズ)の点眼剤には、点眼剤が細菌、真菌などの微生物に汚染された場合に備え、微生物の増殖を阻害する作用を有する防腐剤が含まれている。一方、防腐剤は細胞毒性を有する成分も含まれており、防腐剤を含む点眼剤を頻繁に又は長期間使用することで角膜上皮障害を引き起こすことが報告されている。
【0003】
防腐剤を含まない点眼液として、1回使い切りの点眼剤であるユニットドーズ点眼剤が知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】成形加工,2003年,15巻,10号,pp.679-682
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ユニットドーズ点眼剤はリキャップができないため、残っても捨てる必要があること、頻回点眼する場合は複数本持ち歩く必要があるため、防腐剤を含まなくても開栓後の消費期間が長いマルチドーズ点眼剤が求められている。
【0006】
防腐剤を含まないマルチドーズ点眼剤は、防腐力の観点から、開栓後短期間で使い切る必要があることが多い。しかしながら、消費者が消費期間内に使い切ることは困難なことが多く、この消費期間を長くする要望が存在する。一方で開栓後の消費期間を長くするためには、眼科用組成物の保存効力を高める必要がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、容器に収容してなる眼科用組成物(容器入り眼科用組成物)の保存効力を向上させる方法、及び保存効力が向上した容器入り眼科用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ホウ酸を含有する眼科用組成物を容器に特定量充填することで保存効力が高まることを見出した。本発明はこの新規な知見に基づくものである。
【0009】
本発明は、例えば、以下の各発明を提供する。
[1]
容器に収容してなる眼科用組成物であって、
前記眼科用組成物は、ホウ酸を含有するものであり、
前記容器への前記眼科用組成物の充填量が3mL以上5mL未満であり、
前記容器は、前記眼科用組成物と接する部分の一部又は全部がポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂で形成されている、眼科用組成物。
[2]
前記容器の開栓後の使用期限が11日以上である、[1]に記載の眼科用組成物。
[3]
前記樹脂が、ポリエチレンである、[1]又は[2]に記載の眼科用組成物。
[4]
前記眼科用組成物が、実質的に防腐剤を含有しない、[1]~[3]のいずれかに記載の眼科用組成物。
[5]
前記眼科用組成物が、ホウ酸の塩を更に含有するものである、[1]~[4]のいずれかに記載の眼科用組成物。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の眼科用組成物が、1包装当たり2本以上6本以下含まれる、製品。
[7]
眼科用組成物における微生物の増殖を抑制する方法であって、
前記眼科用組成物は、ホウ酸を含有するものであり、
前記眼科用組成物と接する部分の一部又は全部がポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂で形成されている容器に前記眼科用組成物を充填することを含み、
前記容器への前記眼科用組成物の充填量が3mL以上5mL未満である、方法。
[8]
前記容器の開栓後の使用期限が11日以上である、[7]に記載の方法。
[9]
前記樹脂が、ポリエチレンである、[7]又は[8]に記載の方法。
[10]
前記眼科用組成物が、実質的に防腐剤を含有しない、[7]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]
前記眼科用組成物が、ホウ酸の塩を更に含有するものである、[7]~[10]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、容器に収容してなる眼科用組成物(容器入り眼科用組成物)の保存効力を向上させる方法、及び保存効力が向上した容器入り眼科用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
〔眼科用組成物〕
本実施形態に係る眼科用組成物は、ホウ酸を含有する。当該眼科用組成物は、眼科用組成物と接する部分の一部又は全部がポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂で形成されている容器に充填されており、その充填量は3mL以上5mL未満である。
【0013】
本実施形態に係る眼科用組成物は、ホウ酸を含有し、かつ特定の容器に特定量充填されていることで、保存効力が高まっている。
【0014】
本実施形態に係る眼科用組成物は、ホウ酸に加え、更にホウ酸の塩を含有していてもよい。
【0015】
ホウ酸及びその塩は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。ホウ酸の塩としては、例えば、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。具体的には、ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等が挙げられる。ホウ酸及びその塩は、水和物であってもよい。本実施形態に係る眼科用組成物が、ホウ酸及びその塩を組み合わせて含有する場合、ホウ酸及びその塩としては、ホウ酸とホウ砂との組み合わせが好ましい。
【0016】
本実施形態に係る眼科用組成物におけるホウ酸の含有量は特に限定されず、例えば、眼科用組成物の総量を基準として、ホウ酸の含有量が、100mL中、0.01g以上、0.1g以上、0.3g以上、0.5g以上、0.7g以上、又は0.9g以上であってよく、3g以下、2g以下、又は1g以下であってよい。
【0017】
本実施形態に係る眼科用組成物が、ホウ酸及びその塩を組み合わせて含有する場合、本実施形態に係る眼科用組成物におけるホウ酸及びその塩の含有量は特に限定されず、例えば、眼科用組成物の総量を基準として、ホウ酸及びその塩の含有量が、100mL中、0.01g以上、0.1g以上、0.3g以上、0.5g以上、0.7g以上、又は0.9g以上であってよく、3g以下、2g以下、又は1g以下であってよい。
【0018】
本実施形態に係る眼科用組成物は、無機塩類を更に含有してもよい。眼科用組成物が無機塩類を更に含有することで、本発明による効果がより顕著に奏される。無機塩類は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。
【0019】
無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の塩化物塩が挙げられる。無機塩類は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウムが好ましい。
【0020】
本実施形態に係る眼科用組成物における無機塩類の含有量は特に限定されず、無機塩類の種類、他の配合成分の種類及び含有量、眼科用組成物の用途及び製剤形態等に応じて適宜設定される。無機塩類の含有量としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、水性組成物の総量を基準として、無機塩類の総含有量が、100mL中、0.0001g以上、0.001g以上、0.01g以上、0.1g以上、0.3g以上、0.4g以上、又は0.5g以上であってよく、1.7g以下、1.5g以下、1g以下、0.8g以下、0.6g以下、又は0.5g以下であってよく、0.5gであってもよい。
【0021】
本実施形態に係る眼科用組成物における塩化カリウムの含有量は特に限定されないが、塩化カリウムの含有量としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、水性組成物の総量を基準として、塩化カリウムの含有量が、100mL中、0.0001g以上、0.001g以上、0.01g以上、0.02g以上、0.05g以上、又は0.1g以上であってよく、0.5g以下、0.3g以下、0.25g以下、0.2g以下、0.15g以下、又は0.1g以下であってよく、0.1gであってもよい。
【0022】
本実施形態に係る眼科用組成物における塩化ナトウムの含有量は特に限定されないが、塩化ナトウムの含有量としては、本発明による効果をより顕著に奏する観点から、例えば、水性組成物の総量を基準として、塩化ナトリウムの含有量が、0.0001g以上、0.001g以上、0.01以上、0.05g以上、0.1g以上、0.2g以上、0.3g以上、又は0.4g以上であってよく、1.2g以下、1g以下、0.7g以下、0.5g以下、又は0.4g以下であってよく、0.4gであってもよい。
【0023】
本実施形態に係る眼科用組成物における塩化カリウムに対する塩化ナトリウムの含有量は、0.0001質量部以上、0.001質量部以上、0.01質量部以上、0.1質量部以上、1質量部以上、3質量部以上、又は4質量部以上であってよく、10000質量部以下、1000質量部以下、100質量部以下、50質量部以下、10質量部以下、5質量部以下、又は4質量部以下であってよく、4質量部であってもよい。
【0024】
本実施形態に係る眼科用組成物における無機塩類の総含有量に対するホウ酸の含有量は、0.001質量部以上、0.01質量部以上、0.1質量部以上、又は0.15質量部以上であってよく、10質量部以下、5質量部以下、1質量部以下、0.5質量部以下、又は0.3質量部以下であってよい。
【0025】
本実施形態に係る眼科用組成物は、pH調節剤を更に含有してもよい。pH調節剤として、例えば、塩酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、クエン酸、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0026】
本実施形態に係る眼科用組成物は、防腐剤を含有していてもよく、含有していなくてもよい。本実施形態に係る眼科用組成物は、防腐剤を含有しなくても保存効力が高まっているため、防腐剤を実質的に含有しなくてもよい。本明細書において「防腐剤」とは、防腐作用を発揮する成分を意味する。本明細書において「防腐剤を実質的に含有しない」とは、防腐剤を全く含有しないか、又は防腐作用を発揮するために必要な量未満の防腐剤を含有していることを意味する。本明細書において「防腐作用を発揮する」とは、当該物質を含む眼科組成物にて、第十八改正日本薬局方に定める保存効力試験法において、基準に適合することを意味する。本明細書において「保存効力が高い」とは、第十八改正日本薬局方に定める保存効力試験法による保存効力が向上していることを意味する。
【0027】
防腐剤としては、例えば、アルキルポリアミノエチルグリシン類、第四級アンモニウム塩(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等)、塩化ポリドロニウム、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、ビグアニド化合物(具体的には、塩酸ポリヘキサニド(ポリヘキサメチレンビグアニド)、グルコン酸クロルヘキシジン、アレキシジン等)等が挙げられる。本実施形態に係る眼科用組成物は、防腐剤を全く含有しないことが好ましい。
【0028】
本実施形態に係る眼科用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記成分の他に種々の薬理活性成分及び生理活性成分から選択される成分を組み合わせて適当量含有していてもよい。当該成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造販売承認基準2017年版(一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会 監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。眼科用薬において用いられる成分として、具体的には、例えば、次のような成分等が挙げられる。
抗アレルギー剤:例えば、クロモグリク酸又はその塩(例えば、クロモグリク酸ナトリウム)、トラニラスト、ペミロラストカリウム、アシタザノラスト、アンレキサノクス、イブジラスト等。
抗ヒスタミン剤:例えば、クロルフェニラミン又はその塩、ジフェンヒドラミン又はその塩(例えば、塩酸ジフェンヒドラミン)、イプロヘプチン又はその塩(例えば、塩酸イプロヘプチン)、レボカバスチン又はその塩(例えば、塩酸レボカバスチン)、ケトチフェン又はその塩(例えば、フマル酸ケトチフェン)、ペミロラストカリウム、オロパタジン又はその塩(例えば、オロパタジン塩酸塩)、エピナスチン又はその塩(例えば、エピナスチン塩酸塩)等。
ステロイド剤:例えば、プロピオン酸フルチカゾン、フランカルボン酸フルチカゾン、フランカルボン酸モメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾン、フルニソリド等。
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、エピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸フェニレフリン、dl-塩酸メチルエフェドリン等。
眼筋調節薬剤:例えば、アセチルコリンと類似した活性中心を有するコリンエステラーゼ阻害剤、具体的にはネオスチグミンメチル硫酸塩、トロピカミド、ヘレニエン、硫酸アトロピン、塩酸ピロカルピン等。
消炎剤:例えば、アズレンスルホン酸又はその塩、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アラントイン、トラネキサム酸、リゾチーム、塩化リゾチーム、インドメタシン、プラノプロフェン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ケトプロフェン、フェルビナク、ベンダザック、ピロキシカム、ブフェキサマク、フルフェナム酸ブチル、イプシロン-アミノカプロン酸、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、グリチルリチン酸又はその塩(例えば、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム)、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛等。
ビタミン類:例えば、レチノール又はその誘導体、トコフェロール又はその誘導体、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、ピリドキシン塩酸塩、パンテノール、パントテン酸カルシウム、シアノコバラミン、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム等。
アミノ酸類:例えば、L-アルギニン、グルタミン酸、グリシン、アラニン、リジン、γ-アミノ酪酸、γ-アミノ吉草酸、トリメチルグリシン、タウリン、アスパラギン酸又はそれらの塩等。
収斂剤:例えば、亜鉛華等。
その他:例えば、スルファメトキサゾール、スルフイソキサゾール、スルフイソミジン及びそれらの塩等。
【0029】
本実施形態に係る眼科用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その製剤形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。このような添加物として、例えば、医薬品添加物事典2021(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物等が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性溶媒。
キレート剤:例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA,エデト酸)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
基剤:例えば、オクチルドデカノール、酸化チタン、臭化カリウム、プラスチベース等。
界面活性剤:例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、チロキサポール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ステアリン酸ポリオキシル等の非イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、N-アシルタウリン塩等の陰イオン界面活性剤;ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性イオン界面活性剤等。
増粘剤:例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース系高分子化合物;グアーガム;ヒドロキシプロピルグアーガム;アラビアゴム;カラヤガム;キサンタンガム;寒天;アルギン酸及びその塩(ナトリウム塩等);ヘパリン類似物質、ヘパリン、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリノイド、ヒアルロン酸及びその塩(ナトリウム塩等)、コンドロイチン硫酸及びその塩(ナトリウム塩等)等のムコ多糖類;デンプン;キチン及びその誘導体;キトサン及びその誘導体;カラギーナン;ブドウ糖等の単糖類等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、シクロデキストリン、モノエタノールアミン、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ヨウ化カリウム等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、グリセリン等。
グリコール類:例えば、プロピレングリコール、エチレングリコール等。
油類:例えば、ゴマ油、ヒマシ油、ダイズ油、オリーブ油等の植物油;スクワラン等の動物油;流動パラフィン、ワセリン等の鉱物油等。
【0030】
本実施形態に係る眼科用組成物は、例えば、点眼剤(点眼液又は点眼薬ともいう。また、点眼剤には人工涙液を含む。更に、点眼剤にはコンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む。)、洗眼剤(洗眼液又は洗眼薬ともいう。また、洗眼剤にはコンタクトレンズ装用中に洗眼可能な洗眼剤を含む。)、コンタクトレンズ用組成物[コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用組成物(コンタクトレンズ消毒剤、コンタクトレンズ用保存剤、コンタクトレンズ用洗浄剤、コンタクトレンズ用洗浄保存剤)、コンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼剤の両方の用途に用いられる、コンタクトレンズ装着点眼液等]として用いることができる。なお、「コンタクトレンズ」は、ハードコンタクトレンズ、及びソフトコンタクトレンズ(イオン性及び非イオン性の双方を包含し、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ及び非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの双方を包含する)を含む。本実施形態に係る眼科用組成物の好適な一例として、点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ用組成物が挙げられ、より好適な例として、点眼剤、特に人工涙液が挙げられる。
【0031】
本実施形態に係る眼科用組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されない。眼科用組成物のpHとしては、例えば、4.0~9.5、5.0~9.0、5.5~8.5、6.0~8.0、6.5~7.5、6.8~7.4、6.9~7.3、又は7.0~7.2であってよい。
【0032】
本実施形態に係る眼科用組成物は、必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節することができる。適切な浸透圧比は、眼科用組成物の用途、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定され得るが、例えば、0.5~5.0、0.6~3.0、0.7~2.2、0.8~2.0、0.85~1.5、0.9~1.4、0.9~1.3又は1.0~1.2であってよい。浸透圧比は、第十八改正日本薬局方に基づき、286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(凝固点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500~650℃で40~50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いることができる。
【0033】
本実施形態に係る眼科用組成物の粘度は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば、特に限定されるものではない。本実施形態に係る眼科用組成物の粘度としては、例えば、回転粘度計(RE550型粘度計、東機産業社製、ローター;1°34’×R24)で測定した20℃における粘度が0.5~120mPa・s、0.6~100mPa・s、0.7~70mPa・s、0.8~40mPa・s、0.9~30mPa・s、1~20mPa・s、1~10、1~5mPa・s、1~3mPa・s又は1~1.5mPa・sであってよい。
【0034】
(容器)
本実施形態に係る眼科用組成物は、容器に収容してなる。当該容器は、眼科用組成物と接する部分の一部又は全部がポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂で形成されている。容器は、眼科用組成物と接触する部分を有する包装体であればよく、例えば、眼科用組成物を収容する容器本体部分、容器の吐出部を含む部分(例えば、ノズル、中栓)、吸い上げチューブ、キャップ等で構成されていてもよい。
【0035】
ポリオレフィン系樹脂は、1種単独のオレフィンを重合させたポリマー、2種以上のオレフィンを共重合させたポリマーのいずれであってもよい。これらのポリマーには、構成成分として重合可能な他のモノマーが含まれていてもよい。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等を含む。)、ポリプロピレン(アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレンを含む。)、エチレン-プロピレン共重合体、ポリメチルペンテン等が挙げられる。これらの中でも、ユーザビリティ、例えばスクイズ力(点眼容器から点眼薬を滴下するために必要な力)や、一滴量の均一性等の観点から、ポリエチレン及びポリプロピレンが好ましく、ポリエチレンがより好ましい。
【0036】
ポリエステル系樹脂は、1種又は2種以上のポリカルボン酸と1種又は2種以上のポリアルコールとを縮重合させたポリマーであってよい。当該ポリマーには、構成成分として重合可能な他のモノマーが含まれていてもよい。ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートが挙げられる。
【0037】
本実施形態に係る容器は、眼科用組成物と接する部分の一部又は全部がポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂で形成されている。ここで、眼科用組成物を収容する容器のうち眼科用組成物と接する部分は、例えば、眼科用組成物を収容する容器本体部分(容器が複数の層からなる構造の場合、最も内側の層)、中栓、穴あき中栓が挙げられる。例えば、容器が穴あき中栓(ノズル)を有する容器の場合、穴あき中栓以外の眼科用組成物を収容する容器本体部分等が上記樹脂で形成されていてもよく、容器全体が上記樹脂で形成されていてもよい。本実施形態に係る容器は、ブローフィルシール(BFS)法によって成形された上記記載の樹脂の容器であってもよい。
【0038】
本実施形態に係る容器の液接地面の穴の口径は、例えば、φ0.1~2mm、0.3~1.5mm、0.3~1mmが挙げられる。
【0039】
本実施形態に係る容器の先端の口径は、例えば、φ1~4mm、1.5~3mm、2~2.5mmが挙げられる。
【0040】
本実施形態に係る容器が、穴あき中栓(ノズル)である場合、ノズルの先端の口径は例えばφ1~4mm、1.5~3mm、2~2.5mmが挙げられる。
【0041】
本実施形態に係る容器の形状及び容量は特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。例えば、容器が、点眼剤を収容する容器の場合、例えば、容量が5mL以上20mL以下、6mL以上15mL以下、7mL以上12mL、7mL以上10mL又は7.5mL以上9mL以下であってよい。
【0042】
本実施形態に係る容器は、複数回の使用量が収容されるマルチドーズ型であってもよく、単回の使用量が収容されるユニットドーズ型であってもよい。本発明による効果をより顕著に奏するという観点から、本実施形態に係る容器は、マルチドーズ型であるのが好ましい。
【0043】
本実施形態に係る眼科用組成物は、本実施形態に係る容器に3mL以上5mL未満の充填量で充填される。これにより、保存効力が高まるという効果が奏される。本発明による効果をより顕著に奏するという観点から、充填量は、例えば、3.2mL以上4.8mL以下、3.4mL以上4.6mL以下、3.6mL以上4.4mL以下、3.8mL以上4.2mL以下、又は4mLであってよい。
【0044】
本実施形態に係る眼科用組成物の充填率は、本発明による効果をより顕著に奏するという観点から、30~70%、40~60%又は45~55%であってよい。
【0045】
本実施形態に係る眼科用組成物の容器の開栓後の使用期限は、特に制限されず、眼科用組成物の用途、製剤形態、使用方法等に応じて適宜設定され得る。本実施形態に係る眼科用組成物は、保存効力が高まるという効果が奏されることから、当該使用期限をより長く設定してもよい。当該使用期限としては、例えば、10日以上30日以下の範囲内、11日以上20日以下の範囲内、12日以上18日以下の範囲内、13日以上16日以下の範囲内、14日以上15日以下の範囲内、又は14日であってよい。
【0046】
本実施形態に係る眼科用組成物は、例えば、当該眼科用組成物(容器入り眼科用組成物)が、1包装当たり2本以上6本以下含まれる製品として構成されていてもよい。1包装当たりの本数は、例えば、2本以上6本以下、3本以上5本以下、4本以上5本以下、又は5本であってよい。当該製品は、通常、紙製の包装体(パッケージ)に容器入り眼科用組成物を複数本収容した形態で構成される。
【0047】
上述した本発明は、眼科用組成物における微生物の増殖を抑制する方法であって、眼科用組成物は、ホウ酸を含有するものであり、眼科用組成物と接する部分の一部又は全部がポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂で形成されている容器に前記眼科用組成物を充填することを含み、容器への眼科用組成物の充填量が3mL以上5mL未満である、方法と捉えることもできる。当該方法における具体的な態様については、上述した具体的な態様を特に制限なく適用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
〔試験例1:保存効力試験〕
表1に示す組成で、常法に従い眼科用組成物を調製した。その後、0.2μmメンブランフィルターでろ過し滅菌した。
【表1】
【0050】
調製した各眼科用組成物をポリエチレンで形成された容器(容量:7.8mL、材質:LDPE、胴径φ20mm、全高39.85mm)に4mL又は5mLずつ充填した。充填量4mLの場合の充填率は51%、充填量5mLの場合の充填率は64%である。ポリエチレンで形成された中栓(材質:LLD-PE、穴径φ0.3mm)を容器にはめ込み、ポリプロピレンで形成されたキャップを装着した。その後、各眼科用組成物の保存効力試験を第十八改正日本薬局方に基づいて実施した。Staphylococcus aureusを、ソイビーン・カゼイン・ダイジェストカンテン斜面培地の表面に接種して、30~35℃で24時間培養を行った。培養菌体を白金耳で無菌的に採取し、適量の滅菌生理食塩水に浮遊させて、約1×107cfu/mLの生菌を含む細菌浮遊液を調製した。調製した菌液を表2及び表3に示す接種菌数となるように各眼科用組成物に接種し、よく攪拌して試料とした。菌を含む試料を20~25℃にて静置した。菌液の接種から3日後及び7日後に各試料を採取し、計数に適切な濃度となるように調整し、ペトリフィルム培地に播種した。30~35℃で2~3日間培養後、観察されたコロニー数をカウントすることにより生菌数を求めた。接種菌数と3日後及び7日後の試料中の生菌数を比較して、菌数の減少量を菌残存率及びLog reductionとして算出した。結果を表2及び表3に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
緩衝剤としてホウ酸を含有する眼科用組成物(試験例1及び2)をポリエチレンで形成された容器に4mL充填したときに、菌残存率の低下、及びLog reductionの向上が認められた。
【0054】
製剤例を表4~表7に示す。各製剤は容器への充填量が3mL以上5mL未満であってよい。
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【要約】
【課題】保存効力が向上した容器入り眼科用組成物を提供すること。
【解決手段】容器に収容してなる眼科用組成物であって、前記眼科用組成物は、ホウ酸を含有するものであり、前記容器への前記眼科用組成物の充填量が3mL以上5mL未満であり、前記容器は、前記眼科用組成物と接する部分の一部又は全部がポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂で形成されている、眼科用組成物。
【選択図】なし