(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】電動機の固定子、圧縮機及び冷凍空調装置
(51)【国際特許分類】
H02K 1/16 20060101AFI20250411BHJP
【FI】
H02K1/16 C
(21)【出願番号】P 2024507210
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2022011311
(87)【国際公開番号】W WO2023175670
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 優樹
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-232762(JP,A)
【文献】特開2012-105410(JP,A)
【文献】特開2011-019398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状のコアバック部と、
前記コアバック部から径方向内側に延びた複数のティース部であって、先端に行くほど細くなる楔形状に周方向両側に突出した楔形部を有する複数のティース部と
を備え、
前記ティース部は、前記楔形部の付け根の径方向の長さである付け根高さKtと、前記楔形部の前記先端の径方向の長さである先端高さKsとが、1<Kt/Ks≦2.85の関係を満たす電動機の固定子。
【請求項2】
前記付け根高さKtと前記先端高さKsとは、2.33≦Kt/Ksの関係を満たす
請求項1に記載の電動機の固定子。
【請求項3】
前記電動機は、回転子に永久磁石が埋め込まれており、
前記付け根高さKtと前記先端高さKsとは、前記永久磁石の幅Wと、前記永久磁石の残留磁束密度Brとに関して、(Kt/Ks)/(W×Br)≦0.0965の関係を満たす
請求項1に記載の電動機の固定子。
【請求項4】
前記電動機は、回転子に永久磁石が埋め込まれており、
前記複数のティース部のうち隣接する2つのティース部についての前記楔形部の前記先端の間の距離Lは、前記永久磁石の幅Wと、前記永久磁石の残留磁束密度Brとに関して、0.06<L/(W×Br)<0.1の関係を満たす
請求項1から3のいずれか1項に記載の電動機の固定子。
【請求項5】
前記電動機は、回転子に永久磁石が埋め込まれており、
前記回転子において前記永久磁石と前記回転子の外径との間に空隙が設けられた
請求項1から4までのいずれか1項に記載の電動機の固定子。
【請求項6】
前記複数のティース部の間にはスロット部が形成され、
前記スロット部には、アルミニウムの巻線が施された
請求項1から5までのいずれか1項に記載の電動機の固定子。
【請求項7】
前記電動機は、回転子に希土類磁石の永久磁石が埋め込まれた
請求項1から6までのいずれか1項に記載の電動機の固定子。
【請求項8】
前記固定子における前記コアバック部及び前記ティース部を形成する鉄心部は、鋼板を積層して構成され、
前記鋼板の厚さtは、前記固定子の内径から回転子の外径までの距離Dと等しい
請求項1から7までのいずれか1項に記載の電動機の固定子。
【請求項9】
前記電動機は、回転子に永久磁石を埋め込むための永久磁石挿入孔が形成されており、
前記永久磁石挿入孔に永久磁石が埋め込まれた
請求項1から8までのいずれか1項に記載の電動機の固定子。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項に記載の電動機の固定子が搭載された圧縮機。
【請求項11】
請求項10に記載の圧縮機が搭載された冷凍空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動機の固定子における部の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の固定子において、ティース部が、先端に行くほど径方向に細くなる楔形状に周方向両側に突出した楔形部を有する構成がある。ティース部が有する楔形部の先端部の高さと付け根の高さとの関係には、誘起電圧波形への影響のみならず、モータ効率に関与するパラメータへの影響がある。モータ効率に関与するパラメータとしては、トルク定数及びインダクタンス等がある。
【0003】
特許文献1には、楔形部を有する複数のティース部を備える電動機の固定子が記載されている。特許文献1では、楔形部の付け根高さKtが、隣接するティース部の中心間の距離Pに対して0.13から0.16倍の範囲内に設定される。また、特許文献1では、楔形部の先端高さKsが、隣接するティース部の中心間の距離Pに対して0.017から0.035倍の範囲内に設定される。
【0004】
距離Pは、固定子の半径Rとスロット数Sとを用いて、2×π×R/Sにより計算される。固定子の内径が56mm(ミリメートル)であり、スロット数が9であるとする。内径が56mmなので、半径は28mmである。この場合には、特許文献1では、付け根高さKtの最小値は2.54である。先端高さKsの最小値は、0.33である。付け根高さKtの最大値は3.13である。先端高さKsの最大値は、0.68である。
したがって、Kt/Ksが最大となるのは、付け根高さKtが最大の3.13、先端高さKsが最小の0.33の場合であり、Kt/Ksは9.4になる。Kt/Ksが最小となるのは、付け根高さKtが最小の2.54、先端高さKsが最大の0.68の場合であり、Kt/Ksは3.7になる。つまり、特許文献1では、3.7≦Kt/Ks≦9.4である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された付け根高さKtと先端高さKsとの関係では、電動機の効率が十分に高くなっているとは言えなかった。
本開示は、電動機の効率をより高くできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る電動機の固定子は、
円環状のコアバック部と、
前記コアバック部から径方向内側に延びた複数のティース部であって、先端に行くほど細くなる楔形状に周方向両側に突出した楔形部を有する複数のティース部と
を備え、
前記ティース部は、前記楔形部の付け根の径方向の長さである付け根高さKtと、前記楔形部の前記先端の径方向の長さである先端高さKsとが、1<Kt/Ks≦2.85の関係を満たす。
【発明の効果】
【0008】
本開示では、付け根高さKtと先端高さKsとが1<Kt/Ks≦2.85の関係を満たす。これにより、電動機の効率をより高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】Kt/KsとインダクタンスLdとの関係の説明図。
【
図4】Kt/KsとインダクタンスLqとの関係の説明図。
【
図8】(Kt/Ks)/(W×Br)と鉄損との関係の説明図。
【
図9】常温時におけるL/(W×Br)とトルク定数との関係の説明図。
【
図10】高温時におけるL/(W×Br)とトルク定数との関係の説明図。
【
図11】実施の形態4に係る圧縮機200の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
***構成の説明***
図1を参照して、実施の形態1に係る電動機100の構成を説明する。
電動機100は、磁石埋込形の電動機である。電動機100は、固定子10と、回転子20とを備える。
【0011】
固定子10は、コアバック部11と、複数のティース部12とを備える。コアバック部11は、円環状に形成される。各ティース部12は、コアバック部11から径方向内側に延びて形成される。各ティース部12は、先端に行くほど径方向に細くなる楔形状に周方向両側に突出した楔形部13を先端部分に有する。隣接するティース部12の間にはスロット部14が形成される。スロット部14には、巻線が施される。巻線の材料は、銅等である。実施の形態1では、固定子10は、9本のティース部12を備え、9個のスロット部14が形成されている。実施の形態1では、固定子10の内径は56mmである。
固定子10においてコアバック部11及び各ティース部12を構成する鉄心部は、透磁性が高い電磁鋼板が積層されて構成される。
【0012】
回転子20は、永久磁石30を埋め込むための永久磁石挿入孔21が形成されている。回転子20において鉄心部は、透磁性が高い電磁鋼板が積層されて構成される。
【0013】
楔形部13の付け根15の径方向の長さを付け根高さKtと呼ぶ。楔形部13の周方向先端16の径方向の長さを先端高さKsと呼ぶ。実施の形態1では、付け根高さKtと先端高さKsとが1<Kt/Ks≦2.85の関係を満たす。特に、付け根高さKtと先端高さKsとは、2.33≦Kt/Ksの関係を満たすことが望ましい。
付け根高さKtと先端高さKsとが上記関係を満たすことが望ましい理由を説明する。以下の説明において、実施の形態1では、永久磁石30の残留磁束密度Brと、永久磁石30の幅Wと、ティース部12間の距離Lと、固定子10と回転子20との間の距離Dとを次の値に固定した。距離Lは、隣接する2つのティース部12についての楔形部13の周方向先端16の間の距離である。距離Dは、固定子の内径から回転子の外径までの距離である。Br=1.39T(テスラ)、W=21.25mm、L=2.385mm、D=0.5mm。そして、Kt/Ksの値を2.03,2.40,3.63のように変化させて計測が行われた結果に基づき説明する。
【0014】
図2を参照して、Kt/Ksと基本波鉄損との関係を説明する。
基本波鉄損は、Kt/Ksが3.7の場合に最少になる。基本波鉄損は、Kt/Ksが小さくなるほど増加する。つまり、Kt/Ksが、特許文献1で規定された範囲における最小値の場合に、基本波鉄損は最少になる。したがって、基本波鉄損だけを考慮した場合には、従来技術である特許文献1で規定されたKt/Ksの範囲における最小値は適切である。
【0015】
図3及び
図4を参照して、Kt/KsとインダクタンスLd,Lqとの関係を説明する。インダクタンスLdはd軸方向のインダクタンスである。インダクタンスLqはq軸方向のインダクタンスである。
Kt/Ksが小さくなるとインダクタンスLd及びインダクタンスLqそれぞれが大きくなる。特に、インダクタンスLqは反比例的に大きくなる。インダクタンスが増加すると、高調波鉄損が低減する。
【0016】
図5を参照して、Kt/Ksと鉄損との関係を説明する。
図5における鉄損は、基本波鉄損と高調波鉄損との合計である。
基本波鉄損は、Kt/Ksが3.7の場合に最少になる。しかし、高調波鉄損は、Kt/Ksが小さくなると少なくなる。その結果、基本波鉄損と高調波鉄損とのバランスにより、合計の鉄損はKt/Ksが2.85の場合に最少になる。
【0017】
回転子20には、永久磁石30が埋め込まれる。永久磁石30の磁力を有効に活用することで、電動機100の銅損を低減することが可能である。永久磁石30の磁力を有効に活用するには、誘起電圧を高くとれるようにする必要がある。後述するように、誘起電圧を高くとれるようにするには、Kt/Ksを2.85よりも小さくする必要がある。
また、電動機100の体格を増加させ、最大出力を高くすることが考えられる。この場合には、巻線は巻きほどかれる。つまり、巻線の巻き数は、少なくなる。その結果、インダクタンスが低下し、高調波鉄損が増加してしまう。この点を考慮すると、インダクタンスを増加させるために、Kt/Ksを2.85よりも小さくする必要がある。
これらのことから、Kt/Ksは、2.85以下にすることが望ましい。
【0018】
楔形部13の付け根15側は、楔形部13の周方向先端16よりも磁束密度が高くなる。このことから、Kt/Ksは1よりも大きくすることが望ましい。
【0019】
したがって、付け根高さKtと先端高さKsとが1<Kt/Ks≦2.85の関係を満たすことが望ましい。
【0020】
図6を参照して、Kt/Ksと誘起電圧との関係を説明する。
誘起電圧は、Kt/Ksが2.33の場合に最大になる。誘起電圧は、Kt/Ksが2.33よりも大きくなっても小さくなっても小さくなる。つまり、Kt/Ksが2.33の場合に、最も永久磁石30の磁力を有効に活用することが可能であり、電動機100の銅損を低減可能である。
このことを考慮すると、Kt/Ksは、2.85以下であり、かつ、2.33以上の範囲が望ましい。
【0021】
***実施の形態1の効果***
以上のように、実施の形態1に係る電動機100の固定子10は、付け根高さKtと先端高さKsとが1<Kt/Ks≦2.85の関係を満たす。これにより、電動機100の効率を高くできる。
【0022】
特に、2.33≦Kt/Ksの関係を満たすようにすることで、鉄損を少なくしつつ、銅損も少なくすることができる。これにより、電動機100の効率を高くできる。
【0023】
***他の構成***
<変形例1>
実施の形態1で説明したKt/Ksの関係を満たすことで、電動機100の効率を高くできる。そのため、要求スペックによっては、多少効率を犠牲にして低騒音化を図ることが考えられる。つまり、効率余剰分を低騒音化に振り分けることが考えられる。
【0024】
図7に示すように、回転子20は、永久磁石挿入孔21と回転子20の外径との間の鉄心部に空隙22が形成されていてもよい。空隙22を形成することにより、回転子20に固定子10が引き付けられる磁気吸引力を抑制することができる。その結果、低騒音化できる。
空隙22を形成することにより、回転子20の鉄心部の磁気飽和が増加する。これにより、漏れ経路に磁束がより流れ、誘起電圧の実効値が低下してしまう。そのため、空隙22を形成する場合には、効率低下か、コア幅を増やすことによるコストアップを許容する必要があった。しかし、実施の形態1で説明したKt/Ksの関係を満たすことで、コストアップ無く電動機100の効率を高くできる。そのため、空隙22を形成して、効率余剰分を低騒音化に振り分けることが可能である。
【0025】
<変形例2>
多少効率を犠牲にして直接材料費を低減することも考えられる。つまり、効率余剰分を直接材料費の低減に振り分けることが考えられる。
巻線の材料として、銅ではなくアルミニウムを用いてもよい。銅に代えてアルミニウムを用いることで、効率が低下してしまうが、費用を抑えることができる。
【0026】
<変形例3>
図3及び
図4に示すように、Kt/Ksを小さくした場合におけるインダクタンスLd,Lqの変化は、フェライト磁石を用いた場合に比べて希土類磁石を用いた場合の方が顕著である。
フェライト磁石に比べて希土類磁石の方が磁石の持つ残留磁束密度が大きい。そのため、フェライト磁石を用いた場合に比べて希土類磁石を用いた場合の方が、付け根15の磁気飽和がより厳しくなる。その結果、フェライト磁石を用いた場合に比べて希土類磁石を用いた場合の方が、インダクタンスLd,Lqの変化が大きくなる。
【0027】
そこで、永久磁石30として、希土類磁石を用いることが考えられる。
従来は小型の電動機では、フェライト磁石が広く普及していた。フェライト磁石は、希土類磁石に比べて低価格である。そのため、フェライト磁石と相性の良いKt/Ksが大きい従来技術を適用した電動機が普及していた。
しかし、現在は、希土類磁石の性能が向上している。これにより、希土類磁石を用いて、平面当たりにより磁束を詰め込み小型化した電動機を製造することが可能である。そして、この電動機の方が、鉄心部と磁石と巻線との直接材料費の合計では、フェライト磁石を用いた電動機よりも低価格になっている。ここで、平面当たりの磁束密度が増すことで鉄損の増加が起きる。しかし、実施の形態1で説明したKt/Ksの関係を満たすことで、鉄損増加を抑制できる。そのため、永久磁石30として、希土類磁石を用いることの有効性が増す。
【0028】
<変形例4>
固定子10と回転子20との鉄心部は、電磁鋼板を積層して構成されたプレス品である。プレス工程では、1枚の電磁鋼板から回転子20部分が打ち抜かれた後、固定子10部分が打ち抜かれる。そのため、固定子10と回転子20との間には、ある程度のクリアランスが必要である。クリアランスは、固定子の内径から回転子の外径までの距離D(
図1参照)である。加工精度を担保するためには、クリアランスDが電磁鋼板の板厚t以上であることが望ましい。
距離Dが小さいほど有効に永久磁石の磁束を固定子10に取り込むことができる。そして、その分磁石サイズを小さくすることができる。しかし、距離Dが小さいと、鉄損が大きくなってしまう。そのため、これまでは磁束増加分をすべて有効に活用することはできなかった。しかし、実施の形態1で説明したKt/Ksの関係を満たすことで、鉄損増加を抑制できる。これにより、磁束増加分を有効活用できるため、最も磁石磁束を稼げるD=tを選択することが望ましい。
【0029】
<変形例5>
実施の形態1では、回転子20には永久磁石挿入孔21が形成されており、永久磁石挿入孔21に永久磁石30が埋め込まれた。つまり、電動機100は、IPMモータであった。IPMは、Interior Permanent Magnetの略である。しかし、電動機100は、回転子20の表面に永久磁石30が張り付けられたSPMモータであってもよい。SPMは、Surface Permanent Magnetの略である。
但し、以下の理由から、電動機100は、IPMモータであることが望ましい。電動機100は、鉄損が低減されており、電動機効率への磁気飽和の影響を抑制可能である。そのため、電動機100は、フェライト磁石よりも磁気飽和への影響が強い希土類磁石を使いこなすことができる。希土類磁石を使用する場合、磁石材料単価が高い為、磁石の形状は生産上材料歩留まりのよい四角形状であることが望ましい。IPMモータでは、四角形状の磁石を採用できる。そのため、実施の形態1に係る電動機100と相性がよい。
【0030】
実施の形態2.
実施の形態2は、永久磁石30の幅W及び残留磁束密度Brを考慮してKt/Ksの範囲を定める点が実施の形態1と異なる。実施の形態2では、この異なる点を説明し、同一の点については説明を省略する。
【0031】
電動機100の体格を増加させ、これに伴い永久磁石30の幅Wが広くなることが考えられる。また、磁力が高い永久磁石30を用いることが考えられる。その結果、永久磁石30の磁力が増加することが考えられる。永久磁石30の磁力が増加すると、合計の鉄損が最小になるKt/Ksの値は変化する。
ティース部12の径方向内側に向かう直線部と、周方向に延びた楔形部13との成す角θ(
図1参照)が一定であるとする。この場合には、磁力増加に伴う付け根高さKtにおける磁気飽和を緩和するためには、Kt/Ksの値を小さくする必要がある。つまり、合計の鉄損が最小になるKt/Ksの値は、2.85よりも小さくなる。
永久磁石30の磁束量は、永久磁石30の幅Wと永久磁石30の残留磁束密度Brとの積で表すことができる。つまり、永久磁石30の磁力は、W×Brによって表される。
【0032】
図8を参照して、(Kt/Ks)/(W×Br)と鉄損との関係を説明する。
図8における鉄損は、基本波鉄損と高調波鉄損との合計である。
鉄損は、(Kt/Ks)/(W×Br)が0.0965の場合に最少になる。鉄損は、(Kt/Ks)/(W×Br)が大きくなっても小さくなっても増加する。
実施の形態1で説明したように、誘起電圧を高くとれるようにすること、電動機100の体格を増加させることが考えられることを考慮すると、(Kt/Ks)/(W×Br)は、0.0965以下の方が望ましい。
【0033】
***実施の形態2の効果***
以上のように、実施の形態2に係る電動機100の固定子10は、付け根高さKtと先端高さKsとが、永久磁石30の幅Wと永久磁石30の残留磁束密度Brとに関して、(Kt/Ks)/(W×Br)≦0.0965の関係を満たす。これにより、永久磁石30の幅Wが広くなった場合、又は、磁力が高い永久磁石30を用いられた場合においても、電動機100の効率を高くできる。
【0034】
実施の形態3.
実施の形態3は、隣接する2つのティース部12の間の距離Lの範囲を定める点が実施の形態1,2と異なる。実施の形態3では、この異なる点を説明し、同一の点については説明を省略する。
【0035】
隣接する2つのティース部12についての楔形部13の周方向先端16の間の適正な距離L(
図1参照)は、永久磁石30の磁力によって変化する。隣接するティース部12間での漏れ磁束に起因してトルク定数が低下する。そのため、適正な距離Lを検討するには、トルク定数の変化を追うことが適切である。
【0036】
図9及び
図10を参照して、L/(W×Br)とトルク定数との関係を説明する。
図9では、常温時におけるL/(W×Br)とトルク定数との関係が示されている。
図9に示すように、常温時においては、L/(W×Br)が大きくなると、トルク定数が増加する。L/(W×Br)が0.08でトルク定数は概ね最大になる。なお、L/(W×Br)が0.06を境に、L/(W×Br)が大きくなることに伴うトルク定数の増加の傾きが緩やかになる。
図10では、高温時におけるL/(W×Br)とトルク定数との関係が示されている。
図10に示すように、高温時においては、L/(W×Br)が0.08でトルク定数は概ね最大になる点は常温時と変わらない。しかし、L/(W×Br)が0.08より大きくなると、トルク定数が低下する。なお、L/(W×Br)が0.1を境に、L/(W×Br)が大きくなることに伴うトルク定数の増加の傾きが急になる。
【0037】
以上を踏まえると、L/(W×Br)が、0.06より大きく、0.1より小さい範囲であれば、トルク定数に大きな変化はない。そのため、距離Lは、永久磁石30の幅Wと永久磁石30の残留磁束密度Brとに関して、0.06<L/(W×Br)<0.1の関係を満たすことが望ましい。
【0038】
***実施の形態3の効果***
以上のように、実施の形態3に係る電動機100の固定子10は、距離Lは、永久磁石30の幅Wと永久磁石30の残留磁束密度Brとに関して、0.06<L/(W×Br)<0.1の関係を満たす。これにより、電動機100の効率を高くできる。
【0039】
実施の形態4.
実施の形態4は、電動機100を圧縮機200に搭載する点が実施の形態1~3と異なる。実施の形態4では、この異なる点を説明し、同一の点については説明を省略する。
実施の形態4では、圧縮機200としてロータリー圧縮機を用いて説明する。
【0040】
***構成の説明***
図11を参照して、実施の形態4に係る圧縮機200の構成を説明する。
圧縮機200は、シェル210と、シェル210内に配設された圧縮機構220と、圧縮機構220を駆動する電動機100とを備えている。電動機100は、実施の形態1~3で説明されたものである。圧縮機200は、さらに、電動機100と圧縮機構220とを動力伝達可能に連結するシャフト230(クランクシャフト)を有している。シャフト230は、電動機100の回転子20のシャフト孔23(
図1参照)に嵌合する。
【0041】
シェル210は、例えば鋼板で形成された密閉容器である。シェル210は、電動機100及び圧縮機構220を覆う。シェル210は、上部シェル211と下部シェル212とを有している。上部シェル211には、圧縮機200の外部から電動機100に電力を供給するための端子部としての気密端子213(ガラス端子)と、圧縮機200内で圧縮された冷媒を外部に吐出するための吐出管214とが取り付けられている。気密端子は、密閉容器の壁面に埋め込まれている。下部シェル212には、電動機100及び圧縮機構220が収容されている。
【0042】
圧縮機構220は、シャフト230に沿って、円環状の第1シリンダ221及び円環状の第2シリンダ222を有している。第1シリンダ221及び第2シリンダ222は、シェル210(下部シェル212)の内周部に固定されている。第1シリンダ221の内周側には、円環状の第1ピストン223が配置されている。第2シリンダ222の内周側には、円環状の第2ピストン224が配置されている。第1ピストン223及び第2ピストン224は、シャフト230と共に回転するロータリーピストンである。
【0043】
第1シリンダ221と第2シリンダ222との間には、仕切板225が設けられている。仕切板225は、中央に貫通穴を有する円板状の部材である。第1シリンダ221及び第2シリンダ222のシリンダ室には、シリンダ室を吸入側と圧縮側とに分けるベーン(図示せず)が設けられている。第1シリンダ221と第2シリンダ222と仕切板225とは、ボルトによって一体に固定されている。
【0044】
第1シリンダ221の上側には、第1シリンダ221のシリンダ室の上側を塞ぐように、上部フレーム226が配置されている。第2シリンダ222の下側には、第2シリンダ222のシリンダ室の下側を塞ぐように、下部フレーム227が配置されている。上部フレーム226及び下部フレーム227は、シャフト230を回転可能に支持している。
【0045】
シェル210の下部シェル212の底部には、圧縮機構220の各摺動部を潤滑する冷凍機油(図示せず)が貯留されている。冷凍機油は、シャフト230の内部に軸方向に形成された孔内を上昇し、シャフト230の複数箇所に形成された給油孔から各摺動部に供給される。
【0046】
電動機100の固定子10は、焼き嵌めによりシェル210の内側に取り付けられている。固定子10の巻線には、上部シェル211に取り付けられた気密端子213から、電力が供給される。
【0047】
シェル210には、冷媒ガスを貯蔵するアキュムレータ240が取り付けられている。アキュムレータ240は、例えば、下部シェル212の外側に設けられた保持部によって保持されている。シェル210には、一対の吸入パイプが取り付けられ、この吸入パイプを介してアキュムレータ240からシリンダに冷媒ガスが供給される。
【0048】
冷媒としては、例えば、R410A、R407CまたはR22等を用いてもよい。しかし、地球温暖化防止の観点からは、低GWP(地球温暖化係数)の冷媒を用いることが望ましい。低GWPの冷媒としては、例えば、以下の冷媒を用いることができる。
(1)組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素を用いることができる。例えばHFO(Hydro-Fluoro-Orefin)-1234yf(CF3CF=CH2)を用いることができる。HFO-1234yfのGWPは4である。
(2)組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素を用いてもよい。例えばR1270(プロピレン)を用いてもよい。R1270のGWPは3であり、HFO-1234yfより低いが、可燃性はHFO-1234yfより高い。
(3)組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素又は組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素の少なくともいずれかを含む混合物を用いてもよい。例えばHFO-1234yfとR32との混合物を用いてもよい。上述したHFO-1234yfは低圧冷媒のため圧損が大きくなる傾向があり、冷凍サイクル(特に蒸発器)の性能低下を招く可能性がある。そのため、HFO-1234yfよりも高圧冷媒であるR32又はR41との混合物を用いることが実用上は望ましい。
【0049】
圧縮機200の基本動作は、以下の通りである。
アキュムレータ240から供給された冷媒ガスは、吸入パイプを通って第1シリンダ221及び第2シリンダ222の各シリンダ室に供給される。電動機100が駆動されて回転子20が回転すると、回転子20と共にシャフト230が回転する。そして、シャフト230に嵌合する第1ピストン223及び第2ピストン224が各シリンダ室内で偏心回転し、各シリンダ室内で冷媒を圧縮する。圧縮された冷媒は、電動機100の回転子20に設けられた穴(図示せず)を通ってシェル210内を上昇し、吐出管から外部に吐出される。
【0050】
圧縮機200は、空気調和機等の冷凍サイクルに用いられる。これにより、冷凍空調装置が構成される。
【0051】
***実施の形態4の効果***
以上のように、実施の形態4に係る圧縮機200は、実施の形態1~3に係る電動機100を用いて構成される。圧縮機200は、直接材料費の半分以上を電動機100が占める。実施の形態1~3に係る電動機100を圧縮機200に用いることで、より設計自由度を高くできる。そして、高効率又は低原価に特化した圧縮機200を構成すること等ができる。
【0052】
さらに、圧縮機200を用い冷凍空調装置を構成することで、高効率又は低原価に特化した冷凍空調装置を構成することができる。
【0053】
以上、本開示の実施の形態及び変形例について説明した。これらの実施の形態及び変形例のうち、いくつかを組み合わせて実施してもよい。また、いずれか1つ又はいくつかを部分的に実施してもよい。なお、本開示は、以上の実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
100 電動機、10 固定子、11 コアバック部、12 ティース部、13 楔形部、14 スロット部、15 付け根、16 周方向先端、20 回転子、21 永久磁石挿入孔、22 空隙、23 シャフト孔、30 永久磁石、200 圧縮機、210 シェル、211 上部シェル、212 下部シェル、213 気密端子、214 吐出管、220 圧縮機構、221 第1シリンダ、222 第2シリンダ、223 第1ピストン、224 第2ピストン、225 仕切板、226 上部フレーム、227 下部フレーム、230 シャフト、240 アキュムレータ。