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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】駆動装置及び空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/18 20060101AFI20250411BHJP
【FI】
H02P25/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024507396
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2022012596
(87)【国際公開番号】W WO2023175893
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】大城 央
(72)【発明者】
【氏名】小林 貴彦
【審査官】加藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-148490(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008756(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021373(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から供給された交流電圧を整流するコンバータと、
前記コンバータによって得られた整流電圧から設定回転速度に対応する交流電圧を生成して電動機に供給するインバータと、
切り替え指令にしたがって前記電動機の巻線の結線状態を切り替える結線切替装置と、
前記電動機の負荷電流を検出する検出部と、
前記インバータ及び前記結線切替装置を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記結線切替装置により第1の結線が選択された後、切り替え前の二次磁束を推定し、前記切り替え前の二次磁束の推定値と前記第1の結線の状態における予め設定された誘起電圧定数とを比較することで減磁レベルを判定し、前記結線切替装置により第2の結線への切り替えが行われた後、切り替え後の二次磁束を推定し、前記切り替え後の二次磁束の推定値と前記第2の結線の状態における予め設定された誘起電圧定数が前記減磁レベルに基づいて補正された値とを比較することで結線切替成否判定を行う
駆動装置。
【請求項2】
前記制御部は、下記の式の補正演算結果判定値の絶対値を下回れば切り替えが正常であると判定する
(二次磁束の推定値)-(誘起電圧定数×減磁レベル値(%)/100)
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記結線切替成否判定の結果、切替状態が異常であると判断した場合、前記電動機を停止させる動作を行う
請求項1又は2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記制御部は、結線の切り替えが実施された時から予め設定された時間が経過した後に前記結線切替成否判定を行う
請求項1からのいずれか1項に記載の駆動装置。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の駆動装置によって駆動される電動機と、
前記電動機を駆動源として冷凍サイクルの冷媒を圧縮する圧縮機と
を備える空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、結線状態が切り替え可能な電動機をインバータによって駆動する駆動装置と、当該駆動装置を有する空気調和装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機が有する固定子の巻線を複数の異なる結線状態のいずれかに切り替える結線切替装置を有していて、電動機の動作中に巻線の結線を切り替えることが可能な駆動装置が知られている。例えば、電流がゼロである状態で電動機の巻線の切り替えを行い、切り替えの前後での誘起電圧及び速度についての値を比較することにより巻線の切り替え判定を行う駆動装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献2は、適応観測器を用いて誘起電圧及び二次磁束を含む磁束情報を推定する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-148490号公報
【文献】国際公開第2002/091558号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、結線の切り替えが正しく行われたかを確認するために、結線の切り替えの前後での誘起電圧定数に相当する値を比較することで結線の切り替えの成否が判断される。圧縮機モータが永久磁石型モータで、モータが減磁していた場合、従来の技術には、誘起電圧定数が想定の値よりも小さな値となることから切り替えの判断が難しいという課題がある。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、電動機の減磁レベルによらず、結線切替成否判定を適切に行うことができる駆動装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る駆動装置は、交流電源から供給された交流電圧を整流するコンバータと、コンバータによって得られた整流電圧から設定回転速度に対応する交流電圧を生成して電動機に供給するインバータと、切り替え指令にしたがって電動機の巻線の結線状態を切り替える結線切替装置と、電動機の負荷電流を検出する検出部と、インバータ及び結線切替装置を制御する制御部とを有する。制御部は、結線切替装置により第1の結線が選択された後、切り替え前の二次磁束を推定し、切り替え前の二次磁束の推定値と第1の結線の状態における予め設定された誘起電圧定数とを比較することで減磁レベルを判定し、結線切替装置により第2の結線への切り替えが行われた後、切り替え後の二次磁束を推定し、切り替え後の二次磁束の推定値と第2の結線の状態における予め設定された誘起電圧定数が減磁レベルに基づいて補正された値とを比較することで結線切替成否判定を行う。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る駆動装置は、電動機の減磁レベルによらず、結線切替成否判定を適切に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る駆動装置の構成を示す図
図2】実施の形態1に係る電動機の固定子の巻線及び結線切替装置を詳細に示す図
図3】実施の形態1に係る駆動装置が有する結線切替装置の切替器の詳細を示す配線図
図4】電動機の結線がY結線である場合の固定子の巻線の接続状態を概念的に示す図
図5】電動機の結線がΔ結線である場合の固定子の巻線の接続状態を概念的に示す図
図6】実施の形態1に係る駆動装置が有する制御部の構成を示す図
図7】実施の形態1における結線の切り替えが行われる際の制御シーケンスを説明するための図
図8】実施の形態2に係る空気調和装置の構成を示す図
図9】実施の形態1に係る駆動装置が有する制御部の一部又は全部がプロセッサによって実現される場合のプロセッサを示す図
図10】実施の形態1に係る駆動装置が有する制御部の一部又は全部が処理回路によって実現される場合の処理回路を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、実施の形態に係る駆動装置及び空気調和装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る駆動装置100の構成を示す図である。駆動装置100は、負荷5に接続された電動機1を駆動する装置であって、コンバータ3と、インバータ4と、結線切替装置20と、制御部30とを有する。図1には、電動機1、交流電源2及び負荷5も示されている。
【0011】
コンバータ3は、交流電源2から供給された交流電圧を受けて、当該交流電圧を整流して直流電圧を出力する。以下では、コンバータ3から出力される直流電圧は「母線電圧」と記載される場合がある。コンバータ3は、ダイオードブリッジを用いて整流を行うコンバータであってもよいし、リアクタと制御部30によって制御されるスイッチング素子とを用いて母線電圧を上昇させることができる昇圧コンバータであってもよい。
【0012】
インバータ4は、制御部30によって制御され、コンバータ3によって得られた整流電圧から設定回転速度に対応する交流電圧を生成して電動機1に供給する。更に言うと、インバータ4は、コンバータ3から出力された直流電圧を電圧可変かつ周波数可変の交流電圧に変換して電動機1を駆動する。制御部30は、インバータ4が出力する電動機1への負荷電流に基づいてインバータ4を制御する。駆動装置100は、電動機1の負荷電流を検出する検出部6a,6bを更に有する。検出部6a,6bは、図1に示されるように電動機1の負荷電流を直接検出する公知のACCT(Alternating Current Current Transformer)又はDCCT(Direct Current Current Transformer)といった電流センサであってもよいし、後述の図6に示されるようにコンバータ3とインバータ4との間を流れる母線電流を検出して電動機1の負荷電流を推定する構成要素であってもよい。検出部6a,6bが行う検出方法又は推定方法は、限定されない。検出部6a,6bによって検出された負荷電流の情報は、制御部30に取り込まれる。
【0013】
電動機1は三相同期電動機であって、固定子の巻線の端部が電動機1の外部に引き出されており、電動機1の巻線は、Y結線にもなり得るしΔ結線にもなり得る。Y結線はスター結線であり、Δ結線はデルタ結線である。結線切替装置20は、切り替え指令にしたがって電動機1の巻線の結線状態を切り替える。つまり、結線切替装置20は、電動機1の結線を選択する。結線切替装置20は、切替器21,22,23を有する。制御部30は、電動機1をY結線とΔ結線とのうちのどちらの結線で駆動するかを制御する。
【0014】
図2は、実施の形態1に係る電動機1の固定子の巻線及び結線切替装置20を詳細に示す図である。図2に示されるように、電動機1のU相、V相及びW相から成る三つの相の巻線41,42,43の第1の端部41a,42a,43aは、駆動装置100の外部端子41c,42c,43cに接続されている。具体的には、第1の端部41aは駆動装置100の外部端子41cに接続されており、第1の端部42aは駆動装置100の外部端子42cに接続されており、第1の端部43aは駆動装置100の外部端子43cに接続されている。第1の端部41a,42a,43aは、インバータ4のU相、V相及びW相の出力にも接続されている。
【0015】
電動機1の三つの相の巻線41,42,43の第2の端部41b,42b,43bは、駆動装置100の外部端子41d,42d,43dに接続されている。具体的には、第2の端部41bは駆動装置100の外部端子41dに接続されており、第2の端部42bは駆動装置100の外部端子42dに接続されており、第2の端部43bは駆動装置100の外部端子43dに接続されている。外部端子41c,42c,43c,41d,42d,43dは、結線切替装置20に接続されている。
【0016】
結線切替装置20は、上述の通り切替器21,22,23を有する。切替器21には巻線41に流れる電流が流れ、切替器22には巻線42に流れる電流が流れ、切替器23には巻線43に流れる電流が流れる。切替器21は巻線41に流れる電流の経路を切り替える機能を有しており、切替器22は巻線42に流れる電流の経路を切り替える機能を有しており、切替器23は巻線43に流れる電流の経路を切り替える機能を有している。切替器21,22,23としては、電磁的に接点が開閉する電磁接触器が用いられる。当該電磁接触器には、リレー及びコンタクターと呼ばれる構成要素が含まれる。当該電磁接触器の構成は、例えば図3に示される構成であり、励磁コイル211,221,231に電流が流されている場合と、電流が流されていない場合とで、当該電磁接触器は異なる接続状態となる。
【0017】
図3は、実施の形態1に係る駆動装置100が有する結線切替装置20の切替器21,22,23の詳細を示す配線図である。励磁コイル211,221,231については、制御部30から出力される結線選択信号Scにより制御される半導体スイッチ204によって、励磁コイル211,221,231と電源25との接続状態が切り替わり、電流の有無も切り替わる。例えば、結線選択信号Scが第1の値を示している場合、半導体スイッチ204はオフとなり、励磁コイル211,221,231には電流は流れず、結線選択信号Scが第2の値を示している場合、半導体スイッチ204はオンとなり、励磁コイル211,221,231へ電流が流れる。第1の値は例えばLowであり、第2の値は例えばHighである。結線選択信号Scが、十分な電流容量を持つ回路から出力される場合、励磁コイル211,221,231は、半導体スイッチ204を介さずに結線選択信号Scで直接駆動されてもよい。
【0018】
切替器21について、共通接点21cはリード線を介して外部端子41dに接続されており、常閉接点21bは中性点ノード24に接続されており、常開接点21aはインバータ4のW相の出力に接続されている。切替器22について、共通接点22cはリード線を介して外部端子42dに接続されており、常閉接点22bは中性点ノード24に接続されており、常開接点22aはインバータ4のV相の出力に接続されている。切替器23について、共通接点23cはリード線を介して外部端子43dに接続されており、常閉接点23bは中性点ノード24に接続されており、常開接点23aはインバータ4のU相の出力に接続されている。
【0019】
励磁コイル211,221,231に電流が流れていない場合、図3に示されるように、切替器21,22,23が常閉接点21b,22b,23bの側に切り替わった状態、すなわち、共通接点21c,22c,23cが常閉接点21b,22b,23bに接続された状態になる。この状態では、巻線41,42,43の第2の端部41b,42b,43bは、切替器21,22,23を介して中性点ノード24において接続される。したがって、電動機1の結線の状態は、Y結線の状態になる。
【0020】
励磁コイル211,221,231に電流が流れている場合、図3に示されている場合と逆に、切替器21,22,23が常開接点21a,22a,23aの側に切り替わった状態、すなわち、共通接点21c,22c,23cが常開接点21a,22a,23aに接続された状態になる。この状態では、巻線41,42,43の第2の端部41b,42b,43bは、切替器21,22,23を介して巻線43,42,41の第1の端部42a,43a,41aに接続される。したがって、電動機1の結線の状態は、Δ結線の状態になる。
【0021】
以上より、結線選択信号Scが第1の値、例えばLowを示す場合、電動機1はY結線の状態になり、結線選択信号Scが第2の値、例えばHighを示す場合、電動機1はΔ結線の状態になる。
【0022】
電動機1がY結線とΔ結線とのうちのいずれへの切り替えも可能である構成の利点について図4及び図5を用いて以下説明する。図4は、電動機1の結線がY結線である場合の固定子の巻線の接続状態を概念的に示す図である。図5は、電動機1の結線がΔ結線である場合の固定子の巻線の接続状態を概念的に示す図である。
【0023】
Y結線時の線間電圧をV、流れ込む電流をIとし、Δ結線時の線間電圧をVΔ、流れ込む電流をIΔとし、各相の巻線に掛かる電圧が等しいとすると、
Δ=V/√3 ・・・(1)
の関係が成り立ち、このとき、
Δ=√3×I ・・・(2)
の関係が得られることが周知されている。
【0024】
Y結線時の電圧V及び電流Iと、Δ結線時の電圧VΔ及び電流IΔとが式(1)及び式(2)の関係を満たす場合、Y結線時とΔ結線時とで電動機1に供給される電力は等しい。つまり、電動機1に供給される電力がY結線時とΔ結線時とで等しい場合、Δ結線の方が電流は大きく、駆動に必要な電圧が低い。Y結線時とΔ結線時との違いは電動機定数にも表れ、電動機1が三相同期電動機である場合、誘起電圧定数φaは、永久磁石の電機子鎖交磁束の実効値であり、理想的には式(3)の関係が成り立つ。
φaY=√3×φaΔ ・・・(3)
φaYはY結線時の誘起電圧定数であり、φaΔはΔ結線時の誘起電圧定数である。Y結線時とΔ結線時とで電動機1の許容電流も異なり、許容電流はΔ結線時の方が大きい。
【0025】
同期電動機が用いられる場合、回転速度が上がると、つまり負荷が大きいと、逆起電力が増加し、駆動に必要な電圧値が増加する。この起電力は、上述のようにY結線の方がΔ結線に比べて大きい。
【0026】
高速での逆起電力を抑制するために、永久磁石の磁力を小さくしたり、固定子の巻線の巻き数を減らしたりすることが考えられる。しかし、そのようにすると、同一の出力トルクを得るための電流が増加するため、電動機1及びインバータ4に流れる電流が増加し、電動機1を駆動する効率が低下する。
【0027】
そこで、回転速度に対応して結線を切り替えることが考えられる。例えば、高速回転が必要な場合、Δ結線とする。こうすることで、駆動に必要な電圧を、Y結線時の1/√3にすることができる。更に言うと、巻線の巻き数を減らす必要がなくなり、電動機1を駆動する効率は低下しない。なお、高速回転は大きい負荷に対応する。
【0028】
他方、低速回転では、電動機1の結線をY結線とすることで、電流値をΔ結線時の1/√3にすることができる。さらに、巻数をY結線で低速回転での駆動に適したように設計することが可能となり、Y結線を速度範囲の全域にわたり使用する場合に比べて、電流値を低減することができるため、電動機1を駆動する効率を高めることが可能となる。なお、低速回転は小さい負荷に対応する。
【0029】
以上のことから、回転速度、つまり負荷条件に対応して結線を切り替えることができれば、低負荷時の効率を向上させることができ、高負荷時の高出力化も可能となる。
【0030】
制御部30は、インバータ4及び結線切替装置20を制御する。制御部30は、インバータ4を制御してインバータ4からの出力電圧の周波数及び電圧値を変化させる。制御部30は、結線切替装置20を制御して電動機1の結線を選択する。コンバータ3が昇圧コンバータである場合、制御部30は当該昇圧コンバータも制御して母線電圧を変化させる。
【0031】
図6は、実施の形態1に係る駆動装置100が有する制御部30の構成を示す図である。図6には、駆動装置100が有するすべての構成要素、電動機1、交流電源2及び負荷5が示されている。制御部30は、図6に示されるように、運転指令部31と、インバータ制御部32とを有し、コンバータ3が昇圧コンバータである場合、昇圧コンバータを制御するための制御部も有する。
【0032】
運転指令部31は、周波数指令値ωと、ゼロ選択信号Szと、結線選択信号Scとを出力する。周波数指令値ω及びゼロ選択信号Szはインバータ制御部32に供給される。周波数指令値ωは、運転状態に適した値に設定される。コンバータ3が昇圧コンバータである場合、母線電圧指令値は運転状態に適した値に設定され、母線は任意の値に昇圧される。インバータ制御部32は、インバータ4のスイッチング動作を司るPWM(Pulse Width Modulation)信号Smをインバータ4へ出力し、インバータ4の出力電圧の周波数及び電圧値を変化させる。
【0033】
結線選択信号Scは、Y結線が選択された場合、第1の値、例えばLowを示し、Δ結線が選択される場合、第2の値、例えばHighを示す。
【0034】
ゼロ選択信号Szは、通常は第1の値、例えばLowを示し、後述のゼロ電流制御の期間中には第2の値、例えばHighを示す。
【0035】
運転指令部31は、例えば、電動機1の固定子の巻線をY結線とするかΔ結線とするかの決定及び目標回転速度の決定及び結線の切替成否判定を行い、決定に基づき結線選択信号Sc、周波数指令値ω及びインバータ停止信号Soを出力する。インバータ停止信号Soは、結線状態に異常がない場合、通常は第1の値、例えばLowを示し、後述の結線切替成否判定にて切り替えが失敗したと判断された場合、第2の値、例えばHighを示す。
【0036】
例えば電動機1に接続されている負荷5が空気調和装置である場合、運転指令部31は、室温と設定温度との差が大きいときは電動機1の結線をΔ結線とすることを決め、結線選択信号Scを第2の値、例えばHighを示す信号とし、目標回転速度を比較的高い値に設定し、起動後に上記の目標回転速度に対応する周波数まで徐々に周波数を上昇させる周波数指令値ωを出力する。周波数が目標回転速度に対応する周波数に達したら、運転指令部31は、室温が設定温度に近づくまで、状態を維持し、室温が設定温度に近くなったら、電動機1の結線をY結線に切り替えるために、結線選択信号Scを第1の値、例えばLowを示す信号とし、その後に室温が設定温度に近い状態を維持するための制御を行う。この制御には、周波数の調整、並びに電動機1の停止及び再起動等が含まれる。
【0037】
電動機1が三相同期電動機である場合、理想的には誘起電圧定数φaと二次磁束φdrの値とは同値となるため、二次磁束φdrの推定値の変化に基づいて結線状態を判定することができる。ただし、永久磁石の温度依存性により減磁又は増磁が生じる。例えば、電動機1を構成する永久磁石が高温で減磁する磁石である場合、ある温度を超過すると磁力が元に戻らない不可逆減磁が発生し、電動機1の性能が大幅に低下する。また、結線の切り替えの前後で誘起電圧定数φaの値が変わるため、結線の切り替えの前後での二次磁束φdrの推定値の変化において、結線の切り替えによる現象と減磁による影響とを明確に区別した上で、結線の切り替えの状態を判定する必要がある。
【0038】
結線切替成否判定のため、まず、結線の切り替え前の第1の結線状態における誘起電圧定数φaと結線の切り替え後の第2の結線状態における誘起電圧定数φaとが予め設定される。誘起電圧定数φaの設定値は、例えば、電動機1が設計された際の設計値が用いられてもよい。制御部30は、結線の切り替え前の二次磁束φdrを推定する。二次磁束φdrを推定する方法として、上述の通り特許文献2は、適応観測器を用いて誘起電圧及び二次磁束φdrを含む磁束情報を推定する方法を開示している。制御部30は、当該方法と同様の方法用いることによって、二次磁束φdrを推定する。
【0039】
制御部30は、推定した二次磁束φdrの値と第1の結線状態における予め設定された誘起電圧定数φaとを比較することで減磁レベルを以下の式(4)に基づいて演算する。
減磁レベル値(%)=二次磁束φdrの推定値/誘起電圧定数φa×100 ・・・(4)
【0040】
制御部30は、結線の切り替え後に結線切替成否判定を行う場合、結線の切り替え後の二次磁束φdrの値を推定し、結線の切り替え後の、つまり第2の結線状態における誘起電圧定数φaと減磁レベルとを比較して結線切替成否判定を行う場合、式(4)で得られる減磁レベルを考慮して判定を行う。
【0041】
結線切替動作が実施された後、制御部30は、結線の切り替え後の二次磁束φdrを再度推定し、二次磁束φdrの推定値と結線の切り替え後の第2の結線状態における予め設定された誘起電圧定数φaとを比較し、結線切替成否判定を行う。具体的には、判定値Kが定められ、制御部30は、以下の補正式(5)の補正演算結果と判定値Kとを比較し、演算結果が判定値Kの絶対値を下回れば切り替えが正常であると判定する。
(二次磁束φdrの推定値)-(誘起電圧定数φa×減磁レベル値(%)/100) ・・・(5)
【0042】
なお、判定値Kを定めるに当たり、減磁による影響以外に二次磁束φdrの推定値に影響を与える結線の切り替え後の制御収束性のバラツキを考慮し、制御部30は、判定値Kに正負の尤度を持たせて判定を実施する。更に言うと、制御部30は、結線切替成否判定を行う場合、切り替え後の二次磁束φdrの推定値と第2の結線の状態における予め設定された誘起電圧定数φaが減磁レベルに基づいて補正された値とを比較するとき、判定値Kに正負の尤度を持たせて結線切替成否判定を行う。これにより、駆動装置100は、結線の切り替えが正常に行われたにもかかわらず切り替えが失敗したと判定することを防止することができる。
【0043】
制御部30は、結線切替成否判定において切り替えが失敗したと判断した場合、インバータ停止信号Soを第2の値、例えばHighを示す信号とすることでPWM信号Smを非アクティブにし、電動機1を停止させる。更に言うと、制御部30は、結線切替成否判定の結果、切替状態が異常であると判断した場合、電動機1を停止させる動作を行う。
【0044】
次に、結線切替動作について詳細を説明する。
【0045】
運転指令部31は、Y結線とΔ結線とのうちの一方から他方への切り替えのために結線選択信号Scの値を変化させるとともに、結線の切り替え動作中にゼロ選択信号Szの値を一時的に変化させる。
【0046】
例えば、結線の切り替えに際し、運転指令部31は、通常Lowを示すゼロ選択信号Szを、一時的にHighを示す信号とする。ゼロ選択信号SzがHighを示す期間中に、運転指令部31は、結線選択信号Scを、Highを示す信号からLowを示す信号に、又はLowを示す信号からHighを示す信号に切り替える。
【0047】
インバータ制御部32は、インバータ4を制御するため、電動機1の負荷電流を検出する検出部から供給される情報に基づいて、PWM信号Smを生成してインバータ4に供給する。PWM信号Smが供給されたインバータ4は、PWM信号Smにしたがって出力の電圧値と周波数とを変化させて電動機1を駆動する。なお、図6では、母線電流Idcについての情報から電動機1の負荷電流を推定する例が示されている。
【0048】
以下、電動機1の運転中に結線切替装置20を動作させる際の駆動装置100の動作について説明する。
【0049】
電動機1が運転中、すなわち、結線切替装置20を構成する切替器21,22,23に電流が流れている状態で、励磁コイル211,221,231に流れる電流が操作された場合、具体的には励磁コイル211,221,231がオフからオンに又はオンからオフに切り替えられた場合、共通接点21c,22c,23cの接続は、常閉接点21b,22b,23bに、又は常開接点21a,22a,23aに切り替わる。切り替わりが起きるときにインバータ4から電動機1への給電が続いていたとすると、切替器21,22,23の接点間にアーク放電が発生し、これにより接点溶着が発生する可能性がある。
【0050】
しかし、電動機1の回転速度をゼロにしてしまうと、再始動に必要なトルクが増加し、電動機1の起動時の電流が増加したり、電動機1が再起動することができなくなったりするおそれがある。例えば、電動機1が空気調和装置の圧縮機を負荷とする場合、圧縮機を駆動するために電動機1の回転速度をゼロにした直後は、冷媒の状態が安定していないため、再始動に必要なトルクが増加する。電動機1の回転速度をゼロにしてから、十分に冷媒の状態が安定するのに必要な時間が経過した後に、再始動を行うことも考えられる。その場合、圧縮機が冷媒を加圧することができなくなり、冷房能力又は暖房能力の低下により、室温の所望温度からの乖離が大きくなってしまうおそれがある。
【0051】
結線切替装置20に流れる電流がゼロとなるよう制御し、その状態で結線切替装置20に切り替え動作を行わせれば、切り替えの際に切替器21,22,23の接点間にアーク放電が発生することを防ぐことができる。このようにすれば、切り替えのために、電動機1の回転速度をゼロにする必要がなくなる。
【0052】
結線切替装置20に流れる電流がゼロとなるようにするには、電動機1に流れる電流を検出してインバータ4のスイッチング動作により、電流がゼロとなるように制御する方法がある。又は、インバータ4のスイッチング動作を停止することにより電流を遮断する方法がある。又は、それら両方の方法を併用することにより、結線切替装置20に流れる電流がゼロとなることを実現することができる。
【0053】
図7は、実施の形態1における結線の切り替えが行われる際の制御シーケンスを説明するための図である。図7では、Y結線からΔ結線への切り替えが想定されている。図7(A)は、結線切替装置20に流れる電流を示している。図7(B)は、ゼロ選択信号Szのタイムチャートを示している。図7(C)は、結線選択信号Scのタイムチャートを示している。図7(D)は、二次磁束φdrの推定値と、誘起電圧定数φaとを示している。
【0054】
ゼロ選択信号SzがLowを示す信号からHighを示す信号となる前に、制御部30は、切り替え前の二次磁束φdrを推定し、電動機1の減磁レベルを演算する。結線の切り替え後、電動機1に電流を再度通流する際の制御が安定するまでの制御応答の時定数と、二次磁束φdrの推定における収束速度とにより、結線の切り替え直後に二次磁束φdrを推定すると、誤った推定が行われるおそれがある。そこで、二次磁束φdrの推定値が安定した後に、すなわち、結線の切り替えが実施された時から予め設定された時間が経過した後に、制御部30は、二次磁束φdrを再度推定し、結線切替成否判定を行う。
【0055】
そのようにすることで、制御部30は、結線の切り替えが正常に行われたにもかかわらず切り替えが失敗したと判定すること、又は、切り替えが失敗したにも関わらず切り替えが正常に行われたと判定することを防止することができる。
【0056】
なお、図7では、Y結線からΔ結線への切り替えが想定されているが、Δ結線からY結線への切り替えも同様に行われる。但し、Δ結線からY結線への切り替えが行われる場合、図7(C)の結線選択信号Scの内容は、LowからHighではなく、HighからLowに切り替わる。
【0057】
上述のように、実施の形態1に係る駆動装置100が有する制御部30は、結線切替装置20により第1の結線が選択された後、切り替え前の二次磁束を推定し、切り替え前の二次磁束の推定値と第1の結線の状態における予め設定された誘起電圧定数とを比較することで減磁レベルを判定し、結線切替装置20により第2の結線への切り替えが行われた後、切り替え後の二次磁束を推定し、切り替え後の二次磁束の推定値と第2の結線の状態における予め設定された誘起電圧定数が減磁レベルに基づいて補正された値とを比較することで結線切替成否判定を行う。したがって、駆動装置100は、結線の切り替え後の二次磁束φdrの推定値と予め設定された結線の切り替え後の状態における誘起電圧定数φaを減磁レベルに基づいて補正された値とを比較することで、電動機1の減磁レベルによらず、結線切替成否判定を適切に行うことができる。
【0058】
実施の形態2.
図8は、実施の形態2に係る空気調和装置200の構成を示す図である。空気調和装置200は、実施の形態1で説明された駆動装置100を有する。実施の形態2では、駆動装置100は、空気調和装置200が有する圧縮機904を駆動する電動機1を駆動する。つまり、空気調和装置200は、駆動装置100によって駆動される電動機1を有する。空気調和装置200は、電動機1を駆動源として冷凍サイクル900の冷媒を圧縮する圧縮機904を更に有する。
【0059】
冷凍サイクル900は、四方弁902の切り替え動作により暖房運転又は冷房運転を行うことができる。暖房運転時には、実線の矢印が示すように、冷媒は、圧縮機904で加圧されて送り出され、四方弁902、室内熱交換器906、膨張弁908、室外熱交換器910及び四方弁902を通って圧縮機904に戻る。冷房運転時には、破線の矢印が示すように、冷媒は、圧縮機904で加圧されて送り出され、四方弁902、室外熱交換器910、膨張弁908、室内熱交換器906及び四方弁902を通って圧縮機904に戻る。
【0060】
交流電源2に接続された駆動装置100は可変速制御を行って電動機1を駆動し、電動機1は圧縮機904を駆動する。暖房運転時には、室内熱交換器906は凝縮器として機能し、室外熱交換器910は蒸発器として機能する。冷房運転時には、室外熱交換器910は凝縮器として機能し、室内熱交換器906は蒸発器として機能して熱を吸収する。膨張弁908は、冷媒を減圧して膨張させる。
【0061】
室内の温度調整の程度により、圧縮機904の圧力比が変動し、室内の設定温度と室内の実際の温度とが大きく離れている場合、駆動装置100は、電動機1の回転速度を大きくし、高圧縮状態を生じさせる。
【0062】
上述のように、実施の形態2に係る空気調和装置200は、実施の形態1で説明された駆動装置100を有するので、圧縮機904を停止させずに、駆動状況に対応して電動機1の結線の切り替えを行うことができ、ひいては空気調和についての空調運転を継続することができる。すなわち、空気調和装置200は、ユーザの快適性を向上させることができる。また、結線切替成否判定が正しく行われるため、空気調和装置200は、結線の切り替えの異常時において駆動装置100が有するインバータ4を停止させることができ、結線が異常である状態での運転が継続することを防止することができる。
【0063】
図9は、実施の形態1に係る駆動装置100が有する制御部30の一部又は全部がプロセッサ91によって実現される場合のプロセッサ91を示す図である。つまり、制御部30の一部又は全部の機能は、メモリ92に格納されるプログラムを実行するプロセッサ91によって実現されてもよい。プロセッサ91は、CPU(Central Processing Unit)、処理システム、演算システム、マイクロプロセッサ、又はDSP(Digital Signal Processor)である。図9には、メモリ92も示されている。
【0064】
制御部30の一部又は全部の機能がプロセッサ91によって実現される場合、当該一部又は全部の機能は、プロセッサ91と、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせとによって実現される。ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ92に格納される。プロセッサ91は、メモリ92に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、制御部30の一部又は全部の機能を実現する。
【0065】
制御部30の一部又は全部の機能がプロセッサ91によって実現される場合、駆動装置100は、制御部30によって実行されるステップの一部又は全部が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ92を有する。メモリ92に格納されるプログラムは、制御部30が実行する手順又は方法の少なくとも一部をコンピュータに実行させるものであるともいえる。
【0066】
メモリ92は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の不揮発性若しくは揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク又はDVD(Digital Versatile Disk)等である。
【0067】
図10は、実施の形態1に係る駆動装置100が有する制御部30の一部又は全部が処理回路93によって実現される場合の処理回路93を示す図である。つまり、制御部30の一部又は全部は、処理回路93によって実現されてもよい。
【0068】
処理回路93は、専用のハードウェアである。処理回路93は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらを組み合わせたものである。
【0069】
制御部30の一部は、制御部30の残部とは別個の専用のハードウェアによって実現されてもよい。
【0070】
制御部30の複数の機能について、当該複数の機能の一部がソフトウェア又はファームウェアで実現され、当該複数の機能の残部が専用のハードウェアで実現されてもよい。このように、制御部30の複数の機能は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって実現することができる。
【0071】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略又は変更することも可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 電動機、2 交流電源、3 コンバータ、4 インバータ、5 負荷、6a,6b 検出部、20 結線切替装置、21,22,23 切替器、21a,22a,23a 常開接点、21b,22b,23b 常閉接点、21c,22c,23c 共通接点、24 中性点ノード、25 電源、30 制御部、31 運転指令部、32 インバータ制御部、41,42,43 巻線、41a,42a,43a 第1の端部、41b,42b,43b 第2の端部、41c,41d,42c,42d,43c,43d 外部端子、91 プロセッサ、92 メモリ、93 処理回路、100 駆動装置、200 空気調和装置、204 半導体スイッチ、211,221,231 励磁コイル、900 冷凍サイクル、902 四方弁、904 圧縮機、906 室内熱交換器、908 膨張弁、910 室外熱交換器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10