(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】エレベーターの安全装置
(51)【国際特許分類】
B66B 5/22 20060101AFI20250411BHJP
【FI】
B66B5/22 Z
(21)【出願番号】P 2024524525
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2022021913
(87)【国際公開番号】W WO2023233462
(87)【国際公開日】2023-12-07
【審査請求日】2024-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003568
【氏名又は名称】弁理士法人加藤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】粉川 靖之
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 英一
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-083579(JP,A)
【文献】特開平08-295468(JP,A)
【文献】実開昭57-007763(JP,U)
【文献】特開2003-226477(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101979298(CN,A)
【文献】中国実用新案第210884790(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路を昇降する昇降体に設けられており、前記昇降体の移動を制動する制動機構、
前記昇降体に設けられており、前記制動機構を作動させる作動力を発生する作動機構、及び
前記作動機構から前記制動機構に前記作動力を伝達する伝達機構
を備え、
前記作動機構は、
前記作動力を発生する作動力発生体と、
前記伝達機構に連結されており、かつ前記作動力発生体から前記作動力を受けており、前記制動機構が非作動状態であるときの位置である通常位置と、前記制動機構が作動状態であるときの位置である作動位置との間で変位可能な可動部材と、
前記作動力発生体に抗して前記可動部材を前記通常位置に保持する電磁マグネットと、
前記作動力発生体に抗して前記可動部材を前記作動位置から前記通常位置に復帰させる復帰機構と
を有しており、
前記伝達機構は、前記作動力を引張力として伝達し、圧縮力の伝達を制限するように
、スライド穴と、前記スライド穴に挿入されており、前記スライド穴に沿って移動可能なピンとを有しており、
前記復帰機構は、
前記可動部材とは独立して移動可能な復帰部材と、
前記復帰部材を移動させることによって、前記可動部材を前記作動位置から前記通常位置側へ移動させる駆動装置と
を有しているエレベーターの安全装置。
【請求項2】
昇降路を昇降する昇降体に設けられており、前記昇降体の移動を制動する制動機構、
前記昇降体に設けられており、前記制動機構を作動させる作動力を発生する作動機構、及び
前記作動機構から前記制動機構に前記作動力を伝達する伝達機構
を備え、
前記作動機構は、
前記作動力を発生する作動力発生体と、
前記伝達機構に連結されており、かつ前記作動力発生体から前記作動力を受けており、前記制動機構が非作動状態であるときの位置である通常位置と、前記制動機構が作動状態であるときの位置である作動位置との間で変位可能な可動部材と、
前記作動力発生体に抗して前記可動部材を前記通常位置に保持する電磁マグネットと、
前記作動力発生体に抗して前記可動部材を前記作動位置から前記通常位置に復帰させる復帰機構と
を有しており、
前記伝達機構は、
前記作動機構に連結されている第1ロッドと、
前記制動機構に連結されている第2ロッドと
を有しており、
前記第1ロッドは、前記第1ロッドの軸方向へスライド可能に前記第2ロッドに連結されてい
るエレベーターの安全装置。
【請求項3】
前記第1ロッド及び前記第2ロッドのいずれか一方には、スライド穴が設けられており、
前記第1ロッド及び前記第2ロッドの他方には、ピンが設けられており、
前記ピンは、前記スライド穴に挿入されており、前記スライド穴に沿って移動可能である請求項2記載のエレベーターの安全装置。
【請求項4】
昇降路を昇降する昇降体に設けられており、前記昇降体の移動を制動する制動機構、
前記昇降体に設けられており、前記制動機構を作動させる作動力を発生する作動機構、及び
前記作動機構から前記制動機構に前記作動力を伝達する伝達機構
を備え、
前記作動機構は、
前記作動力を発生する作動力発生体と、
前記伝達機構に連結されており、かつ前記作動力発生体から前記作動力を受けており、前記制動機構が非作動状態であるときの位置である通常位置と、前記制動機構が作動状態であるときの位置である作動位置との間で上下方向へ変位可能な可動部材と、
前記作動力発生体に抗して前記可動部材を前記通常位置に保持する電磁マグネットと、
前記作動力発生体に抗して前記可動部材を前記作動位置から前記通常位置に復帰させる復帰機構と
を有しており、
前記伝達機構は、前記作動力を引張力として伝達し、圧縮力の伝達を制限するように構成されており、
前記復帰機構は、
前記可動部材とは独立して移動可能な復帰部材と、
前記復帰部材を移動させることによって、前記可動部材を前記作動位置から前記通常位置側へ移動させる駆動装置と
を有しているエレベーターの安全装置。
【請求項5】
前記可動部材は、可動部材軸を中心として回転可能である請求項1から請求項
3までのいずれか1項に記載のエレベーターの安全装置。
【請求項6】
前記昇降体は、かごであり、
前記作動機構は、前記かごの上部に設けられている請求項1から請求項
4までのいずれか1項に記載のエレベーターの安全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベーターの安全装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベーターの安全装置では、昇降体の過大速度での落下が検知部によって検知されると、電磁石への通電が遮断される。これにより、ばねの圧縮力が解放され、一対の小楔片が引き上げられる。この状態から昇降体がさらに落下すると、一対の連結部を介して、一対の楔片が引き上げられ、昇降体が停止する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のエレベーターの安全装置では、駆動機構と制動機構とが引き上げロッドにより接続されているため、制動動作後の復帰動作時に、引き上げロッドに大きな圧縮力が加わる。このため、引き上げロッドが座屈しないように、引き上げロッドの強度を高くする必要があり、装置全体が重量化する。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、伝達機構の軽量化を図ることができるエレベーターの安全装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るエレベーターの安全装置は、昇降路を昇降する昇降体に設けられており、昇降体の移動を制動する制動機構、昇降体に設けられており、制動機構を作動させる作動力を発生する作動機構、及び作動機構から制動機構に作動力を伝達する伝達機構を備え、作動機構は、作動力を発生する作動力発生体と、伝達機構に連結されており、かつ作動力発生体から作動力を受けており、制動機構が非作動状態であるときの位置である通常位置と、制動機構が作動状態であるときの位置である作動位置との間で変位可能な可動部材と、作動力発生体に抗して可動部材を通常位置に保持する電磁マグネットと、作動力発生体に抗して可動部材を作動位置から通常位置に復帰させる復帰機構とを有しており、伝達機構は、作動力を引張力として伝達し、圧縮力の伝達を制限するように構成されており、復帰機構は、可動部材とは独立して移動可能な復帰部材と、復帰部材を移動させることによって、可動部材を作動位置から通常位置側へ移動させる駆動装置とを有している。
【発明の効果】
【0007】
本開示のエレベーターの安全装置によれば、伝達機構の軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1によるエレベーターを示す概略の構成図である。
【
図4】
図3の制動機構の作動状態を示す側面図である。
【
図6】
図5の制動機構が作動した状態を示す正面図である。
【
図7】
図6の可動部材を作動位置から通常位置に復帰させる途中の状態を示す正面図である。
【
図8】
図7の可動部材を通常位置に復帰させた状態を示す正面図である。
【
図9】実施の形態2によるエレベーターのかごを示す正面図である。
【
図10】実施の形態3によるエレベーターのかごを示す正面図である。
【
図11】実施の形態4によるエレベーターのかごを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1によるエレベーターを示す概略の構成図である。図において、昇降路1の上には、機械室2が設けられている。機械室2には、巻上機3、そらせ車4、エレベーター制御装置5、及び安全監視装置6が設置されている。
【0010】
巻上機3は、駆動シーブ7、図示しない巻上機モーター、及び図示しない巻上機ブレーキを有している。巻上機モーターは、駆動シーブ7を回転させる。巻上機ブレーキは、駆動シーブ7の静止状態を保持する。また、巻上機ブレーキは、駆動シーブ7の回転を制動する。
【0011】
駆動シーブ7及びそらせ車4には、懸架体8が巻き掛けられている。懸架体8としては、複数本のロープ又は複数本のベルトが用いられている。懸架体8の第1端部には、かご9が接続されている。懸架体8の第2端部には、釣合おもり10が接続されている。
【0012】
かご9及び釣合おもり10は、懸架体8により吊り下げられており、駆動シーブ7を回転させることにより昇降路1内を昇降する。エレベーター制御装置5は、巻上機3を制御することにより、かご9の運行を制御する。
【0013】
昇降路1内には、一対のかごガイドレール11と、一対の釣合おもりガイドレール12とが設置されている。一対のかごガイドレール11は、かご9の昇降を案内する。一対の釣合おもりガイドレール12は、釣合おもり10の昇降を案内する。
図1には、1本のかごガイドレール11及び1本の釣合おもりガイドレール12のみが示されている。
【0014】
かご9には、安全装置50が搭載されている。実施の形態1における昇降体は、かご9である。
【0015】
安全監視装置6は、エレベーターが非常状態になっているかどうかを監視する。非常状態としては、かご9の下降速度が過大速度に達した状態、かご9の下方向への加速度が過大加速度に達した状態等が挙げられる。エレベーターが非常状態になると、安全監視装置6は、安全装置50によってかご9を非常停止させる。
【0016】
安全装置50は、制動機構20、作動機構30、及び伝達機構40を有している。
【0017】
制動機構20は、かご9の下部に設けられている。また、制動機構20は、かご9の移動を制動する非常止め装置である。
【0018】
作動機構30は、制動機構20に対して上下方向に間隔をおいて、かご9の上部に設けられている。また、作動機構30は、制動機構20を作動させる作動力を発生する。
【0019】
伝達機構40は、作動機構30から制動機構20に作動力を伝達する。
【0020】
図2は、
図1のかご9の下部を示す正面図である。制動機構20は、作動レバー21、連動レバー22、及び連結棒23を有している。
【0021】
作動レバー21は、水平な作動レバー軸21aを中心として、かご9に対して、作動レバー軸21aとともに回転可能である。連動レバー22は、水平な連動レバー軸22aを中心として、かご9に対して、連動レバー軸22aとともに回転可能である。
【0022】
連結棒23は、作動レバー21に回転可能に連結されているとともに、連動レバー22に回転可能に連結されている。これにより、連結棒23は、作動レバー21と連動レバー22とを連結している。
【0023】
伝達機構40は、第1ロッド41と、第2ロッド42とを有している。第1ロッド41は、作動機構30に連結されている。第2ロッド42は、作動レバー21に回転可能に連結されている。
【0024】
第2ロッド42には、スライド穴42aが設けられている。第1ロッド41には、ピン41aが設けられている。ピン41aは、スライド穴42aに挿入されている。また、ピン41aは、スライド穴42aに沿ってスライド穴42a内を移動可能である。
【0025】
これにより、第1ロッド41は、第1ロッド41の軸方向へスライド可能に第2ロッド42に連結されている。また、このような第1ロッド41と第2ロッド42との連結構造によって、伝達機構40は、作動力を引張力として伝達し、圧縮力の伝達を制限するように構成されている。実施の形態1の伝達機構40は、制動機構20と作動機構30との間での圧縮力の伝達を行わないように構成されている。
【0026】
制動機構20を作動させる際には、
図2の状態から、第1ロッド41が引き上げられる。これにより、第2ロッド42も引き上げられ、作動レバー21は、作動レバー軸21aとともに
図2の反時計方向へ回転する。作動レバー21の回転は、連結棒23を介して連動レバー22に伝達され、連動レバー22は、連動レバー軸22aとともに
図2の時計方向へ回転する。
【0027】
図3は、
図2の制動機構20の要部を示す側面図である。
図4は、
図3の制動機構20の作動状態を示す側面図である。
【0028】
制動機構20は、
図2に示した構成に加えて、枠体24、一対の楔ガイド25、一対の楔ガイドばね26、一対の楔部材27、及び一対の楔連結リンク28を有している。
図3では、一対の楔連結リンク28は省略されている。
【0029】
枠体24は、かご9の下部に固定されている。各楔ガイドばね26は、対応する楔ガイド25と枠体24との間に設けられている。各楔部材27は、対応する楔連結リンク28を介して作動レバー軸21aに連結されている。
【0030】
制動機構20の非作動時には、各楔部材27は、かごガイドレール11に対して間隔をおいて対向している。制動機構20の作動時には、作動レバー軸21aの回転によって、一対の楔部材27が枠体24に対して上方へ動かされる。このとき、各楔部材27は、対応する楔ガイド25に案内されて、かごガイドレール11に近付き、かごガイドレール11に接触する。
【0031】
各楔部材27がかごガイドレール11に接触すると、かご9の落下方向とは逆向きに制動力が発生し、かご9が停止される。制動力の大きさは、一対の楔ガイドばね26によるかごガイドレール11への一対の楔部材27の押付力と、各楔部材27とかごガイドレール11との間の摩擦係数との積となる。
【0032】
また、連動レバー軸22a側にも、
図3及び
図4に示した構成と同様の構成が設けられている。そして、制動機構20の作動時には、制動機構20によって一対のかごガイドレール11が同時に把持される。
【0033】
図5は、
図1のかご9を示す正面図である。
図6は、
図5の制動機構20が作動した状態を示す正面図である。
【0034】
作動機構30は、作動力発生体31、可動部材32、一対の可動部材ガイド33、電磁マグネット34、可動鉄心35、及び復帰機構36を有している。
【0035】
作動力発生体31は、かご9と可動部材32との間に設けられている。また、作動力発生体31は、制動機構20を作動させる作動力を発生する。作動力発生体31としては、例えばコイルばねが用いられている。
【0036】
可動部材32は、
図5に示す通常位置と、
図6に示す作動位置との間で上下方向へ変位可能である。通常位置は、制動機構20が非作動状態であるときの可動部材32の位置である。このとき、作動力発生体31は圧縮されており、可動部材32は、作動力発生体31から作動力を受けている。作動位置は、制動機構20が作動状態であるときの可動部材32の位置である。
【0037】
可動部材32には、第1ロッド41が回転可能に連結されている。可動部材32が作動位置に変位することによって、第1ロッド41が引き上げられ、制動機構20が作動する。
【0038】
電磁マグネット34は、かご9上に設けられている。可動鉄心35は、可動部材32に設けられている。電磁マグネット34は、可動鉄心35を吸着することによって、作動力発生体31に抗して可動部材32を通常位置に保持する。
【0039】
復帰機構36は、制動機構20の作動後に、作動力発生体31に抗して可動部材32を作動位置から通常位置に復帰させる。また、復帰機構36は、駆動装置37、復帰部材38、及び復帰部材ガイド39を有している。
【0040】
駆動装置37は、復帰モーター37aと、ボールねじ37bとを有している。ボールねじ37bは、かご9上に鉛直に配置されている。復帰モーター37aは、ボールねじ37bを回転させる。
【0041】
復帰部材38には、図示しないねじ孔が設けられている。ねじ孔には、ボールねじ37bが通されている。復帰部材ガイド39は、かご9上に鉛直に立てられている。また、復帰部材ガイド39は、復帰部材38を貫通している。これにより、復帰部材ガイド39は、ボールねじ37bを中心とした復帰部材38の回転を阻止する。
【0042】
ボールねじ37bが回転することによって、復帰部材38は、上下方向へ移動する。復帰部材38は、可動部材32とは独立して、上下方向へ移動可能である。
【0043】
可動部材32が通常位置に位置しているとき、駆動装置37は、可動部材32から離れた位置であって、作動位置よりも上方の位置に位置している。このため、可動部材32は、復帰部材38と干渉せずに、通常位置から作動位置まで変位可能である。
【0044】
図7は、
図6の可動部材32を作動位置から通常位置に復帰させる途中の状態を示す正面図である。
図8は、
図7の可動部材32を通常位置に復帰させた状態を示す正面図である。
【0045】
制動機構20が作動した後、駆動装置37によって復帰部材38を下方へ移動させると、復帰部材38が可動部材32に当たる。その状態から、復帰部材38をさらに下方へ移動させると、可動部材32が通常位置まで変位する。即ち、駆動装置37は、復帰部材38を移動させることによって、可動部材32を作動位置から通常位置側へ移動させる。
【0046】
次に、動作について説明する。エレベーターが非常状態となると、電磁マグネット34への通電を遮断する指令が安全監視装置6から出力される。電磁マグネット34への通電が遮断されると、作動力発生体31のエネルギーが解放され、可動部材32が通常位置から作動位置へ変位し、第1ロッド41が引き上げられる。これにより、制動機構20が作動状態となり、かご9が制動される。
【0047】
制動機構20を非制動状態に復帰させる場合、まず復帰モーター37aに通電することによって復帰部材38が下方へ移動され、可動部材32が通常位置に戻される。このとき、第1ロッド41も下方へ変位するが、ピン41aがスライド穴42a内をスライドするため、第2ロッド42は動かず、伝達機構40に圧縮力は作用しない。
【0048】
可動部材32が通常位置に戻されたら、電磁マグネット34に通電することによって可動部材32が通常位置に保持される。この後、ボールねじ37bを逆回転させることによって、復帰部材38が
図5に示す初期位置に戻される。
【0049】
復帰部材38が初期位置に戻された後、かご9が上方へ動かされる。これにより、各楔部材27によるかごガイドレール11への押し付け力が小さくなり、制動機構20を非制動状態に復帰させることができる。
【0050】
このようなエレベーターの安全装置50では、伝達機構40は、作動機構30からの作動力を引張力として制動機構20に伝達し、圧縮力の伝達は行わない。また、作動機構30には、復帰機構36が設けられている。また、復帰機構36における復帰部材38は、可動部材32とは独立して移動可能になっている。
【0051】
このため、可動部材32が通常位置に戻される際に第1ロッド41が押し下げられても、また、制動機構20の作動時に第2ロッド42が持ち上げられても、伝達機構40に圧縮力が作用せず、伝達機構40の座屈を抑制することができる。これにより、伝達機構40の強度を低減し、伝達機構40の軽量化を図ることができる。
【0052】
また、伝達機構40において、第1ロッド41は、第1ロッド41の軸方向へスライド可能に第2ロッド42に連結されている。このため、伝達機構40による圧縮力の伝達をより確実に制限することができる。
【0053】
また、第2ロッド42にはスライド穴42aが設けられており、第1ロッド41にはピン41aが設けられている。このため、簡単な構造により、伝達機構40による圧縮力の伝達をより確実に制限することができる。
【0054】
ここで、伝達機構40を制動機構20及び作動機構30から切り離した状態における第2ロッド42に対する第1ロッド41の最大スライド量をAとする。即ち、Aは、スライド穴42aの長さである。また、通常位置と作動位置との間の可動部材32の変位量をBとする。このとき、A≧Bであることが好ましく、A>Bであることがさらに好ましい。これにより、伝達機構40による圧縮力の伝達を無くすことができる。
【0055】
また、実施の形態1では、作動機構30がかご9上に配置されているため、作動機構30に対する調整作業及び保守作業を容易に行うことができる。
【0056】
また、実施の形態1では、電磁マグネット34は、強度及び剛性が高いかご9に支持されている。このため、電磁マグネット34を支持するために、ロック機構又は荷重受け部を別途備える必要がない。従って、安全装置50の構成を簡素にすることができる。
【0057】
実施の形態2.
次に、
図9は、実施の形態2によるエレベーターのかご9を示す正面図である。実施の形態2のエレベーターでは、かご9上に支持台51が設けられている。
【0058】
可動部材32は、水平な可動部材軸32aを中心として回転可能に支持台51に設けられている。即ち、可動部材32は、
図9に示す通常位置と、作動位置との間で回転可能である。作動位置は、通常位置から
図9の反時計方向へ回転した位置である。これにより、一対の可動部材ガイド33は用いられていない。
【0059】
作動力発生体31、電磁マグネット34、復帰機構36、及び伝達機構40のうち、作動力発生体31が最も可動部材軸32aの近くに配置されている。即ち、電磁マグネット34、復帰機構36、及び伝達機構40は、作動力発生体31よりも可動部材軸32aから離れて配置されている。
【0060】
復帰機構36及び電磁マグネット34は、作動力発生体31と伝達機構40との間に配置されている。なお、復帰部材ガイド39は、
図9に示されていないが、ボールねじ37bに対して
図9の-X側に配置されている。
【0061】
実施の形態2における他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0062】
このようなエレベーターの安全装置50では、可動部材32が可動部材軸32aを中心として回転可能である。このため、作動力発生体31の伸縮量を拡大して伝達機構40に伝えることができ、作動力発生体31に要求される伸縮量を小さくすることができる。これにより、作動力発生体31を小型化及び低コスト化することができる。
【0063】
また、電磁マグネット34及び駆動装置37に要求される力を小さくすることができ、電磁マグネット34及び駆動装置37の容量を小さくすることができる。これにより、電磁マグネット34及び駆動装置37を小型化及び低コスト化することができる。
【0064】
なお、可動部材32の長手方向における作動力発生体31、電磁マグネット34、復帰機構36、及び伝達機構40の並び順は、必ずしも
図9に示した順番に限らない。可動部材32の長手方向は、
図9のY軸方向である。
【0065】
また、作動力発生体31、電磁マグネット34、復帰機構36、及び伝達機構40の少なくとも2つの部品は、可動部材32の長手方向の同じ位置に任意の順番で並べて配置されてもよい。
【0066】
実施の形態3.
次に、
図10は、実施の形態3によるエレベーターのかご9を示す正面図である。実施の形態3では、可動部材軸32aが可動部材32の長手方向の中間部に設けられている。復帰機構36は、可動部材軸32aに対して、作動力発生体31、電磁マグネット34、及び伝達機構40とは反対側に配置されている。
【0067】
復帰部材38は、可動部材32の下方に配置されている。可動部材32を作動位置から通常位置に復帰させる場合、復帰部材38は上方へ移動される。
【0068】
実施の形態3における他の構成は、実施の形態2と同様である。
【0069】
このように、可動部材32が可動部材軸32aを中心として回転可能であることにより、作動力発生体31、電磁マグネット34、復帰機構36、及び伝達機構40の配置自由度を向上させることができる。
【0070】
なお、実施の形態1~3において、伝達機構40の座屈を抑制できれば、必ずしも伝達機構40による圧縮力の伝達を完全に無くさなくてもよい。
【0071】
また、実施の形態1~3において、第1ロッド41にスライド穴が設けられ、第2ロッド42にピンが設けられてもよい。
【0072】
また、実施の形態1~3において、第1ロッド41を第2ロッド42にスライド可能に連結する構成は、スライド穴とピンとの組み合わせに限らない。
【0073】
実施の形態4.
次に、
図11は、実施の形態4によるエレベーターのかご9を示す正面図である。実施の形態4における伝達機構40として、可撓性を有する索条体43が用いられている。索条体43の上端部は、可動部材32に接続されている。索条体43の下端部は、作動レバー21に接続されている。
【0074】
索条体43としては、例えばロープ、ワイヤ、又はベルトが用いられている。索条体43は、作動機構30からの作動力を引張力として制動機構20に伝達し、制動機構20と作動機構30との間での圧縮力の伝達は行わない。
【0075】
実施の形態4における他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0076】
このように、索条体43からなる伝達機構40を用いた場合も、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、伝達機構40の構成を簡単にすることができ、伝達機構40をさらに軽量化することができる。
【0077】
なお、実施の形態2、3の伝達機構40を実施の形態4の索条体43に代えてもよい。
【0078】
また、伝達機構40は、1本以上のロッドと索条体との組み合わせであってもよい。例えば、実施の形態1~3における第1ロッド41又は第2ロッド42の代わりに索条体が用いられてもよい。また、2本のロッドが索条体により連結されてもよい。
【0079】
また、実施の形態1~4において、可動部材32に電磁マグネット34が設けられ、かご9に可動鉄心35が設けられてもよい。
【0080】
また、実施の形態1~4において、可動鉄心35が省略され、電磁マグネット34によって可動部材32が直接吸着されてもよい。
【0081】
また、実施の形態1~4において、駆動装置37の構成は、復帰モーター37aによってボールねじ37bを回転させる構成に限定されない。駆動装置37の構成は、復帰部材38を移動させることができれば、例えば、台形ねじ、又はベルトを用いた構成であってもよい。
【0082】
また、復帰機構36は、必ずしも可動部材32を通常位置まで復帰させなくてもよい。即ち、復帰機構36によって可動部材32が通常位置の近くまで戻された後、電磁マグネット34の吸引力によって可動部材32が通常位置まで戻されてもよい。
【0083】
また、安全装置50は、釣合おもり10に搭載されてもよい。即ち、昇降体は、釣合おもり10であってもよい。
【0084】
また、制動機構20は、昇降体の下部以外、例えば上部に配置されてもよい。
【0085】
また、作動機構30は、昇降体の上部以外、例えば下部に配置されてもよい。
【0086】
また、エレベーター全体のレイアウトは、
図1のレイアウトに限定されるものではない。例えば、ローピング方式は、2:1ローピング方式であってもよい。
【0087】
また、エレベーターは、機械室レスエレベーター、ダブルデッキエレベーター、ワンシャフトマルチカー方式のエレベーター等であってもよい。ワンシャフトマルチカー方式は、上かごと、上かごの真下に配置された下かごとが、それぞれ独立して共通の昇降路を昇降する方式である。
【符号の説明】
【0088】
1 昇降路、9 かご(昇降体)、20 制動機構、30 作動機構、31 作動力発生体、32 可動部材、32a 可動部材軸、34 電磁マグネット、36 復帰機構、37 駆動装置、38 復帰部材、40 伝達機構、41 第1ロッド、41a ピン、42 第2ロッド、42a スライド穴、43 索条体、50 安全装置。