(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-10
(45)【発行日】2025-04-18
(54)【発明の名称】微細藻類の培養支援装置、これを用いた微細藻類の培養システム、及び微細藻類の培養支援方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20250411BHJP
C12M 1/36 20060101ALI20250411BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20250411BHJP
【FI】
C12M1/34 D
C12M1/36
C12M1/00 E
(21)【出願番号】P 2024525388
(86)(22)【出願日】2023-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2023040344
【審査請求日】2024-04-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 航
(72)【発明者】
【氏名】林 佳史
(72)【発明者】
【氏名】今村 英二
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-148673(JP,A)
【文献】特開2023-103644(JP,A)
【文献】特開2004-215585(JP,A)
【文献】特開2015-006134(JP,A)
【文献】特開平05-240673(JP,A)
【文献】国際公開第2022/163181(WO,A1)
【文献】特開2018-113951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液の水質、前記培養液に供給する気体の供給量、前記培養液のpHを調整するための薬剤の供給量を種別として、前記種別のうち、少なくともいずれかを計測値として取得する計測値取得部と、
前記計測値を時間の関数として、前記培養液の状態指標を算出する状態指標算出部と、
前記計測値を取得した前記種別に基づき、前記状態指標の警告値を設定する警告値設定部と、
前記状態指標が前記警告値に達するか否かを判定する警告判定部と、
前記警告判定部で前記状態指標が前記警告値に達すると判定された場合に、警告を通知する警告通知部とを備え、
前記状態指標算出部は、光合成に基づき予め時間とともに変動させて作成された参照データ、又は光合成によって変動する時間の関数として蓄積された過去の前記計測値を用いて求めた処理データを、時間の関数である現在の前記計測値から差し引いた数値を二乗した値を前記状態指標として算出する微細藻類の培養支援装置。
【請求項2】
前記参照データ、又は前記処理データをDrefとして、前記計測値からDrefを差し引いた値の二乗である次式(
1)で表される状態指標E3(t)が前記警告値に達するか否かを判定する請求項
1に記載の微細藻類の培養支援装置。
【数1】
ここで、tは時間、D(ti)は時間t
1からt
Nまでの計測値、Nはデータの数、Dref(ti)は時間t
1からt
Nまでの参照データ又は処理データ。
【請求項3】
前記状態指標、前記警告値、予め時間とともに変動させて作成された参照データ、及び時間の関数である過去の前記計測値を用いて求めた処理データの少なくともいずれかを基準データとして記憶させる基準データ保存部と、
前記基準データを、運転条件の変更、培養槽内の微生物活性度の変動、及び季節変動の少なくともいずれかに応じて更新させる基準データ更新部とを備える請求項
1に記載の微細藻類の培養支援装置。
【請求項4】
前記培養液の水質は、前記培養液のpH、溶存二酸化炭素濃度、溶存酸素濃度、微生物濃度、粘度、吸光度、色度、オゾン濃度、及び温度の少なくともいずれかである請求項
1に記載の微細藻類の培養支援装置。
【請求項5】
前記警告通知部から通知を受けた場合に、前記培養液の状態を改善するために供給する気体及び前記培養液のpHを調整するための薬剤のうち、少なくともいずれかの供給量を算出して、前記培養液への供給を支援する供給支援部を備える請求項
1に記載の微細藻類の培養支援装置。
【請求項6】
培養液を貯める培養槽と、前記培養槽に微生物を培養するための基質を供給する基質供給部と、前記培養槽に気体を供給する気体供給部と、前記培養液のpHを調整する薬剤を前記培養槽に供給する薬剤供給部と、
前記培養液の水質、前記培養液に供給する気体の供給量、前記培養液のpHを調整するための薬剤の供給量を種別として、前記種別のうち、少なくともいずれかを計測する測定器と、
前記測定器で計測された計測値を取得し、前記計測値を時間の関数として前記培養液の状態指標を算出するとともに、前記種別に基づき前記状態指標の警告値を設定し、前記警告値に基づき警告を通知する請求項
1から請求項5のいずれか一項に記載の微細藻類の培養支援装置と、
前記警告を通知された場合に、前記基質供給部、前記気体供給部、及び前記薬剤供給部の少なくともいずれかを制御する制御部と
を備える微細藻類の培養システム。
【請求項7】
培養液の水質、前記培養液に供給する気体の供給量、前記培養液のpHを調整するための薬剤の供給量を種別として、前記種別のうち、少なくともいずれかを計測値として取得するステップと、
前記計測値を時間の関数として、光合成に基づき予め時間とともに変動させて作成された参照データ、又は光合成によって変動する時間の関数として蓄積された過去の前記計測値を用いて求めた処理データを、時間の関数である現在の前記計測値から差し引いた数値を二乗した値を前記培養液の状態指標として算出するステップと、
前記計測値を取得した前記種別に基づき、前記状態指標の警告値を設定するステップと、
前記状態指標が前記警告値に達するか否かを判定するステップと、
前記状態指標が前記警告値に達すると判定された場合に、警告を通知するステップと
を備える微細藻類の培養支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、培養支援装置、これを用いた培養システム、及び微生物の培養支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光合成を通じて成長する微細藻類等の微生物を、食品、燃料、各種素材等の幅広い分野へ活用することが注目され、これらを培養するための技術が検討されている。培養液に目的外の異物が混入すると、目的とする微生物の増殖が阻害され死滅してしまう。そこで特許文献1には、自然界の水源を利用した微細藻類の培養において、培養槽内をアルカリ性に維持することにより、目的外の微生物の増殖を抑え、効率的に微細藻類を培養する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、微細藻類等の微生物の培養においては、窒素、りん等の栄養塩、水、光、CO2等が必要であり、多数の数値を管理する必要がある。またこれらの数値は、光合成、季節等様々な要因により変動するため、即座に目的外の異物等を検知して、培養液を良好な状態に維持することは困難であった。
【0005】
本開示は上述の課題を解決するためになされたものであり、培養液の変動を計測し、目的外の要因を排除して、培養液を良好な状態に維持できる培養支援装置を提供することを目的とする。またこれを用いた培養システム、及び微生物の培養支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る微細藻類の培養支援装置は、培養液の水質、培養液に供給する気体の供給量、培養液のpHを調整するための薬剤の供給量を種別として、種別のうち、少なくともいずれかを計測値として取得する計測値取得部と、計測値を時間の関数として、培養液の状態指標を算出する状態指標算出部と、計測値を取得した種別に基づき、状態指標の警告値を設定する警告値設定部と、状態指標が警告値に達するか否かを判定する警告判定部と、警告判定部で状態指標が警告値に達すると判定された場合に、警告を通知する警告通知部とを備え、状態指標算出部は、光合成に基づき予め時間とともに変動させて作成された参照データ、又は光合成によって変動する時間の関数として蓄積された過去の計測値を用いて求めた処理データを、時間の関数である現在の計測値から差し引いた数値を二乗した値を状態指標として算出するものである。
【0007】
本開示に係る培養システムは、培養液を貯める培養槽と、培養槽内に微生物を培養するための基質を供給する基質供給部と、培養槽に気体を供給する気体供給部と、培養液のpHを調整する薬剤を培養槽に供給する薬剤供給部と、培養液の水質、培養液に供給する気体の供給量、培養液のpHを調整するための薬剤の供給量を種別として、種別のうち、少なくともいずれかを計測する測定器と、測定器で計測された計測値を取得し、計測値を時間の関数として培養液の状態指標を算出するとともに、種別に基づき状態指標の警告値を設定し、警告値に基づき警告を通知する本開示に係る微細藻類の培養支援装置と、警告を通知された場合に、基質供給部、気体供給部、及び薬剤供給部の少なくともいずれかを制御する制御部とを備える。
【0008】
本開示に係る微細藻類の培養支援方法は、培養液の水質、培養液に供給する気体の供給量、培養液のpHを調整するための薬剤の供給量を種別として、種別のうち、少なくともいずれかを計測値として取得するステップと、計測値を時間の関数として、光合成に基づき予め時間とともに変動させて作成された参照データ、又は光合成によって変動する時間の関数として蓄積された過去の計測値を用いて求めた処理データを、時間の関数である現在の計測値から差し引いた数値を二乗した値を培養液の状態指標として算出するステップと、計測値を取得した種別に基づき、状態指標の警告値を設定するステップと、状態指標が警告値に達するか否かを判定するステップと、状態指標が警告値に達すると判定された場合に、警告を通知するステップとを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、培養液の状態を計測値として取得し、計測値を時間の関数として培養液の状態指標を算出するとともに、種別に基づき状態指標の警告値を設定し、警告値に基づき警告を通知することにより、時刻、季節等により変動する培養液の状態を良好な状態に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係る培養システムを示す概略図である。
【
図2】実施の形態1に係る状態指標E1(t)と時間tとの関係の例を示す説明図である。
【
図3】実施の形態1に係る状態指標E1(t)と時間tとの関係を示す例である。
【
図4】実施の形態1に係る状態指標S及びPを説明するための薬剤供給量F(t)とpHの関係を示すグラフである。
【
図5】実施の形態1に係る状態指標S及びPを説明するための薬剤供給量F(t)とpHの関係を示すグラフである。
【
図6】実施の形態2に係る計測値と時間tとの関係を示す例である。
【
図7】実施の形態2に係る状態指標Iと時間tとの関係を示す例である。
【
図8】実施の形態3に係るpHと時間tとの関係を示す例である。
【
図9】実施の形態3に係る状態指標E2(t)と時間tとの関係を示す例である。
【
図10】実施の形態3に係る状態指標E2(t)と時間tとの関係を示す例である。
【
図11】実施の形態3に係る状態指標E3(t)と時間tとの関係を示す例である。
【
図12】実施の形態3に係る状態指標E3(t)と時間tとの関係を示す例である。
【
図13】実施の形態4に係る培養支援装置が実行する処理フローを示すフローチャートである。
【
図14】実施の形態4に係る培養支援装置の各機能を実現する処理回路の一例を示す概略構成図である。
【
図15】実施の形態4に係る培養支援装置を示す概略図である。
【
図16】実施の形態4に係る培養支援装置を示す概略図である。
【
図17】実施の形態4に係る培養支援装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態について、図面を用いて説明する。ここで同一内容及び相当部については同一符号を配し、その詳しい説明は省略する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る培養システム1000を示す概略図である。
図1において、培養システム1000には、培養液を貯める培養槽11、培養槽11に所望の微生物を培養するための水、有機物、養分等の基質を供給する基質供給部12、培養槽11に空気、二酸化炭素等の気体を供給する気体供給部13、培養槽11内のpHを調整する薬剤を培養槽11に供給する薬剤供給部14が備えられている。また培養槽11内には、供給された基質、気体、薬剤等を拡散させる拡散器15、培養液を排出するための培養液排出部16が設けられている。
【0013】
また、培養槽11内の培養液の水質を測定する水質測定器111、基質供給部12から培養槽11に供給される基質の量を計測する基質計測器121、気体供給部13から培養槽11に供給される気体の量を計測する気体計測器131、薬剤供給部14から培養槽11に供給される薬剤の量を計測する薬剤計測器141、培養液排出部16から排出される培養液の水質を測定する培養液測定器161が設けられている。
薬剤供給部14は、水質測定器111で測定したpH値を取得し、所望の値からずれた場合に、pHを調整するための薬剤を培養槽11に供給する。培養液排出部16は、培養槽11内の培養液を取り出す手段として用いてもよく、不要な培養液を廃棄する手段として用いてもよい。培養システム1000において、基質供給部12、気体供給部13、薬剤供給部14による供給の制御、拡散器15、培養液排出部16等の制御は、制御部17が担う。
【0014】
さらに、培養システム1000には、培養支援装置100が設けられ、培養支援装置100は、培養液の水質、培養液に供給する気体の供給量、培養液のpHを調整するための薬剤の供給量を種別として、これらの種別のうち、少なくともいずれかを計測値として取得する計測値取得部1と、計測値を時間の関数として培養液の状態指標を算出する状態指標算出部2と、計測値を取得した種別に基づき、状態指標の警告値Aを設定する警告値設定部3と、状態指標が警告値Aに達するか否かを判定する警告判定部4と、警告判定部4で状態指標が警告値Aに達すると判定された場合に警告を通知する警告通知部5とを備える。
計測値取得部1は、予め設定した取得時間毎に計測値を取得し、取得した計測値を記憶部20に記憶する。状態指標算出部2における状態指標の算出は、予め設定された算出時間に、記憶部20に記憶された計測値を時間の関数として取り込んで実行する。警告通知部5からの警告の通知は、例えば制御部17が警告信号として受信する。制御部17は、警告通知部5から通知を受けた場合、基質供給部12、気体供給部13、及び薬剤供給部14の少なくともいずれかの供給量を制御し、培養槽11内の培養液の水質を改善する。他の処理を行って培養液の水質を改善してもよい。警告通知部5は警告の通知としてアラームを鳴らし、培養システム1000を操作する操作者に処理を促してもよい。
【0015】
計測値取得部1で取得した計測値を用いて培養液の状態指標E1(t)を算出する方法について説明する。例えば、培養槽11内の培養液の水質、培養槽11内の培養液に供給する気体の供給量、培養槽11内の培養液のpHを調整する薬剤の供給量のうち、少なくともいずれかを任意の開始時刻t0から継続して計測した計測値を計測値取得部1で取得する。開始時刻t0から経過した時間をtとした場合、計測値取得部1には時間tの計測値D(t)が取得される。これらの計測値D(t)を用いて、tの関数とした状態指標E1(t)を次式(1)から求める。
【0016】
【数1】
ここでΔtは時間間隔である。例えば
図2に示すように、E1(t)は、種々の要因により時刻とともに変動し、例えば目的外の微生物が繁殖した異常時には急激に変化する。状態指標E1(t)が警告値A以上となり、警告値Aに達した場合、培養液の状態が悪化したとして、警告通知部5より警告信号が制御部17に通知される。現在の状態指標E1(t)が警告値Aに達したか否かは、所定の時間毎に警告判定部4により判定される。警告値Aは、種別に応じて警告値設定部3で設定される。Δtを一定とした場合、状態指標E1(t)を次式(2)として求めてもよい。
【0017】
【0018】
また、状態指標E1(t)は、正に限らず負の値としてもよい。この場合次式(3)又は次式(4)を用い、警告値Aをマイナス側警告値A1、プラス側警告値A2の少なくともいずれかで設定し、現在の状態指標E(t)がマイナスとなった場合は、マイナス側警告値A1以下となった場合に警告値Aに達したと判定し、現在の状態指標E(t)がプラスとなった場合は、プラス側警告値A2以上となった場合に警告値Aに達したと判定すればよい。正常値をマイナス側警告値A1以上プラス側警告値A2以下として、警告値Aをマイナス側警告値A1未満、プラス側警告値A2超としてもよい。
【0019】
【0020】
【0021】
例えば、微生物として微細藻類を培養する場合、培養液には空気中の二酸化炭素が溶け込み、炭酸イオンを生じるとpHが下がる。逆に光合成によって、培養液中の炭酸イオンが消費されるとpHが上がる。日射量が多い時刻と少ない時刻とを比較すると、pH値の変動は異なる。また晴天の時刻と雨天の時刻、高温の時刻と低温の時刻等でも、pH値の変動は異なるため、pHの計測値を追うのみでは、状態が悪化しているか否か判定しにくい。
【0022】
図3は、計測値取得部1において、時刻7時30分から翌日の24時まで、培養槽11内の培養液の水質を測定する水質測定器111から計測値としてpHを取得し、状態指標算出部2において、式(1)を用いて、状態指標E1(t)を算出し、警告値設定部3において種別を培養液の水質の1つであるpHとして状態指標E1(t)との関係から設定された警告値Aを用いて、警告判定部4で状態指標E1(t)が警告値Aに達するか否か判定した数値の例を示したものである。計測値を取得後34時間経過した翌日の17時30分に、状態指標E1(t)が警告値Aに達したため、警告通知部5から、制御部17に警告が通知される。日没後にpHが上昇した事例である。
このように、培養液の状態を計測値として取得し、時間に基づく計測値を用いて培養液の状態指標E1(t)を算出することにより、状態指標E1(t)が設定された警告値Aに達した場合に即座に通知を受けることができる。
【0023】
状態指標は、上記式(1)~式(4)に限らず、他の計測値を時間の関数としたものを用いてもよい。例えば、時間tに関わる複数の変数の関係を用いることができる。
図4は、上述の条件において、pHを調整するために薬剤供給部14から供給した薬剤の時間当たりの供給量F(t)とpHとの関係を示したものである。薬剤は、培養槽11内の培養液のpHを調整するために供給されるものであるため、正常時には、
図4に示す傾きSがSn1となる関係を有する。ところが例えばpHが想定より増大する異常が発生すると、
図4に示すように傾きSが例えばSa1に変化する。したがって状態指標算出部2において、時間tに関わる複数の変数の関係から傾きSを状態指標として算出し、警告値設定部3において例えば領域Rnを外れる傾きを警告値Saとして設定し、警告判定部4で状態指標Sが警告値Saに達するか否かを判定してもよい。
【0024】
この例では、計測値取得部1は2つの種別、培養液のpHを調整するための薬剤の供給量及び培養液の水質の一つであるpHの計測値を取得し、状態指標算出部2はそれぞれの計測値を時間の関数としたプロットの傾きSを状態指標とする。警告値設定部3は、2つの種別の関係から警告値とする傾きSaを設定する。
時間に基づく複数の計測値を取得し、時間tに関わる複数の変数の関係から状態指標Sを算出することにより、状態指標Sが設定された警告値Saに達した場合に即座に通知を受けることができる。この場合複数の計測値を考慮しているため、より精度よく異常を検知できる。
【0025】
また状態指標は、複数の計測値の関係を示す座標Pとしてもよい。状態指標算出部2において、時間tに関わる複数の計測値の関係に基づく座標Pを状態指標として算出し、警告値設定部3において警告値とする領域Rnをはずれる座標Paを設定し、警告判定部4で状態指標Pが警告値Paに達するか否かを判定してもよい。
図4に示す例では座標Pが例えばPn1である場合は正常、座標PがPa1である場合は異常と判定される。領域Rnをはずれる領域Raを警告値としてもよい。薬剤の時間当たりの供給量F(t)とpHの2つの種別を用いる例を示したが、培養液中に溶存するCO2(二酸化炭素)の濃度、O2(酸素)の濃度等を含めた3次元の関係を用いてもよい。これらの計測値の他の組み合わせを用いてもよい。
時間tに基づく複数の計測値を取得し、時間tに関わる複数の変数の関係から状態指標Pを算出することにより、状態指標Pが設定された警告値Paに達した場合に即座に通知を受けることができる。さらに精度よく異常を検知できる。
【0026】
このように、培養液の状態を計測値として取得し、時間に基づく計測値を用いて培養液の状態指標を算出し、この状態指標が設定された警告値に達した場合に警告を通知することにより、時刻、季節等により変動する培養液の状態を良好な状態に維持できる。
【0027】
なお、
図4においてpHが増大する異常について説明したが、
図5に示すようにpHが減少する異常が発生した場合も同様に異常を検知できる。正常な傾きSが警告値Saに達するか否かを判定すればよい。
図5に示す例では例えば傾きSn2は正常な状態、傾きSa2が警告値Saに達した状態である。上述と同様に、領域Rnから外れた傾きをSaとすればよい。また座標Pを状態指標、警告値Paとして、正常な領域Rnにある座標Pか、領域Rnから外れた座標Pかを判定してもよい。
【0028】
実施の形態2.
図6、
図7を用いて実施の形態2について説明する。実施の形態1では、時間と計測値、複数の計測値の関係から状態指標を算出する例を示したが、実施の形態2では、複数の計測値の時間変化量を状態指標として算出し、複数の状態指標を用いて判定する点が異なる。それ以外は、実施の形態1と同様である。
【0029】
図6は、計測値取得部1で取得する計測値として、pH、単位時間当たりの薬剤供給量、培養液に溶存するCO2の濃度を用いた場合の計測値と時間との関係を示す。
図6(a)は正常時、
図6(b)は異常発生時の例である。
図6(a)において、測定開始から6時間後に薬剤供給量が急増していることがわかる。時間と計測値のみの関係では、警告通知がなされる可能性がある。そこで、薬剤供給量の増大と他の計測値の関係を知るために、さらに薬剤供給量の変化量と他の計測値の変化量との比率を状態指標Iとして算出する。
【0030】
図7は、薬剤供給量の時間当たりの変化量ΔMとpHの時間当たりの変化量ΔpH、ΔMと溶存CO2濃度の時間当たりの変化量ΔC、及びΔCとΔpHのそれぞれの比率の絶対値をプロットしたものである。
図7(a)では、状態指標I1=|ΔM/ΔpH|、I2=|ΔM/ΔC|、及びI3=|ΔC/ΔpH|の全てが警告値A未満となり、警告値Aに達していない。したがって、計測値はすべて正常値Dnと判定される。薬剤供給量が増えたことでpHが増大し、これにより微生物の代謝が活性化されて溶存CO2が増大する場合があるからである。この場合、薬剤供給量の変化に対する他の計測値の挙動は正常と判定できるため、異常な状態は発生していないと判定される。
【0031】
一方、
図6(b)においても、測定開始から6時間後に薬剤供給量が急増している。
図7(b)においては、状態指標I1、I2が警告値A以上となり警告値に達している。この場合、測定開始から5時間までの計測値は正常値Dnであり、6時間後の計測値は異常値Daであると判定される。薬剤供給量の変化に対する他の計測値の挙動が想定範囲外であるからである。
このように複数の計測値の相関関係から異常値を見つけることで、より正確な異常検知が可能となる。
【0032】
なお、本実施の形態では、状態指標Iを導く変数として、薬剤供給量、pH、溶存CO2濃度の変化量を用いたが、基質供給部12から供給される基質の流量、濃度、水質測定器111で測定される溶存酸素濃度を用いてもよい。その他、微生物濃度、微生物濃度の指標となるMLSS(Mixed Liquor Suspended Solids)、培養液の粘度、吸光度、色度、オゾン濃度、温度等を用いてもよい。例えばMLSSは、活性汚泥処理におけるばっ気槽(エアレーションタンク)内の汚泥混合液の浮遊物質を測定すればよい。
【0033】
実施の形態3.
図8~
図12を用いて実施の形態3について説明する。実施の形態3では、pH、温度等昼夜で周期的に変動する計測値を扱う場合に差分処理を行う例を示す。それ以外は、実施の形態1と同様である。
日照時は光合成によって培養液中のCO2を消費するためpHが上がる。したがって
図8に示すようにpHは時間tとともに変動する。そこで参照データDrefを準備し、計測値Dから差し引いた値を状態指標E2(t)とする。E2(t)は例えば次式で表される。
【0034】
【0035】
ここで、tは時間、D(ti)は時間t1からtNまでの計測値、Nはデータの数である。参照データDref(ti)は時間t1からtNまでの参照データである。参照データDref(ti)は想定データとして作成したデータでもよいし、理想データとして作成したデータでもよい。過去の計測値でもよく、過去の計測値から求めた平均値等でもよい。
【0036】
図9は、時刻0時から4日後の24時まで、水質測定器111で測定したpH値を計測値取得部1で取得し、同様にして96時間測定した参照データDrefを差し引いて算出した状態指標E2(t)と時間との関係を示したグラフである。
図9において、状態指標E2(t)は、いずれの時間tにおいてもマイナス側警告値A1、プラス側警告値A2に達していないため、正常と判定される。一方、他のデータについて、同様にして算出した状態指標E2(t)と時間との関係を示す
図10のグラフでは、測定開始後80時間までの状態指標E2(t)は、マイナス側警告値A1及びプラス側警告値A2に達していないためデータDnは正常と判定され、86時間後のデータDaは、状態指標E2(t)がプラス側警告値A2以上となるため状態指標E2(t)が警告値に達すると判定される。
【0037】
このように、周期的な計測値の変動を差し引いて状態指標を算出すれば、異常な状態を把握しやすくできる。同様に周期的な変動を差し引いた計測値を用いて、実施の形態1又は実施の形態2で述べた状態指標E1(t)、S、P、Iを算出して、他の状態指標としてもよい。想定される変動を除いた計測値を用いることにより、さらに精度よく異常を検知できる。
【0038】
また、同様にして参照データDrefを準備し、計測値Dから差し引いた値の二乗を状態指標E3(t)としてもよい。E3(t)は例えば次式で表される。
【0039】
【0040】
ここで、tは時間、D(ti)は時間t1からtNまでの計測値、Nはデータの数である。参照データDref(ti)は時間t1からtNまでの参照データである。参照データDref(ti)は想定データとして作成したデータでもよいし、理想データとして作成したデータでもよい。過去の計測値でもよく、過去の計測値から求めた平均値等でもよい。
【0041】
図11は、時刻0時から4日後の24時まで、水質測定器111で測定したpH値を計測値取得部1で取得し、同様にして96時間測定した参照データDrefを差し引いて算出した状態指標E3(t)と時間との関係を示したグラフである。
図11において、状態指標E3(t)は、いずれの時間tにおいても警告値A3に達していないため、正常と判定される。一方他のデータについて、同様にして算出した状態指標E3(t)と時間との関係を示す
図12のグラフでは、測定開始後80時間までの状態指標E3(t)は、警告値A3に達していないためデータDnは正常と判定され、86時間後のデータDaは、状態指標E3(t)が警告値A3以上となり警告値に達すると判定される。
【0042】
このように、状態指標算出部2は、予め時間とともに変動させて作成された参照データ、又は蓄積された時間の関数である過去の計測値を用いて求めた処理データを、時間の関数である現在の計測値から差し引いた数値、又はこの数値を二乗した値を状態指標として算出することにより、周期的な計測値の変動を差し引いた値を状態指標とできるため、異常な状態を把握しやすく、さらに精度よく異常を検知できる。また二乗値を用いることにより、マイナス側の警告値を考慮する必要がなく算出フローを簡略化できる。
【0043】
また、計測値をそれぞれの標準偏差で割った数値の二乗を状態指標としてもよい。計測値の分布を拡げることにより、分布から外れた警告値を見つけやすくできる。
【0044】
実施の形態4.
培養支援装置100を用いた微生物の培養支援方法について説明する。
図13は、実施の形態4に係る培養支援装置100が実行する処理ルーチンを示すフローチャートである。
まず、培養液の水質、培養液に供給する気体の供給量、培養液のpHを調整するための薬剤の供給量を種別として、種別のうち、少なくともいずれかを計測値として取得する(ステップS101)。そして、計測値を時間の関数として、培養液の状態指標を算出する(ステップS102)。そして計測値を取得した種別に基づき、状態指標の警告値を設定する(ステップS103)。次いで、状態指標が警告値に達するか否かを判定する(ステップS104)。そして、状態指標が警告値に達すると判定された場合に(ステップS104のYES)、警告を通知する(ステップS105)。状態指標が警告値に達しないと判定された場合には(ステップS104のNO)ステップS101に戻る。そして支援を継続する場合は(ステップS106のYES)ステップS101に戻り、支援を継続しない場合は(ステップS106のNO)処理を終了する。
【0045】
ここで、ステップS101における計測値の取得は、予め設定した取得時間毎に行い、記憶部20に記憶される。ステップS102における状態指標の算出は、予め設定された算出時間に、記憶部20に記憶された計測値を時間の関数として取り込んで実行する。
例えば、取得時間10分、算出時間24時間として、10分毎に取得した計測値を24時間分取り込んで状態指標を算出する。1時間毎に取得した100時間分の計測値を用いてもよい。取得時間、算出時間は任意であり組み合わせも任意である。取得時間、算出時間を複数設定して複数の処理を行ってもよい。これらの計測値、状態指標を常時表示させてもよい。計測値取得部1で常時計測値を取得し、状態指標算出部2で過去の計測値を含めて時間の関数として取り込んだ計測値から培養液の状態指標を算出すればよい。
【0046】
ここで、培養支援装置100の各機能は、処理回路によって実現される。
図14は、培養支援装置100の各機能を実現する処理回路の一例を示す概略構成図である。培養支援装置100は、プロセッサ30、記憶装置201、通信I/F(インターフェース)40等を有している。
プロセッサ30には、例えば、CPU(Central Processing Unit)が用いられる。記憶装置201は、プロセッサ30との間においてデータを送受信し、データを記憶する。
培養液の水質、培養液に供給する気体の供給量、培養液のpHを調整するための薬剤の供給量等の計測値は、通信I/F40を介して各測定器、計測器から取得される。計測値取得部1、状態指標算出部2、警告値設定部3、警告判定部4、警告通知部5の各演算、判定はプロセッサ30にて実行される。計測値取得部1で取得された計測値、状態指標算出部2で用いる演算式等は記憶装置201に記憶される。培養支援装置100の指令は通信I/F40を介して制御部17へ送信される。
【0047】
プロセッサ30、記憶装置201は1つで共有して使用してもよく、複数あってもよい。またプロセッサ30には、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いた論理回路、及び各種の信号処理回路が備えられていてもよい。プロセッサ30として、同じ種類のもの又は異なる種類のものが複数備えられることにより、各処理が複数の演算処理装置によって分担して実行されてもよい。
【0048】
複数の記憶装置201としては、例えば、プロセッサ30からのデータの読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、プロセッサ30からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read Only Memory)、ハードディスク(HDD)等が備えられる。
【0049】
培養支援装置100の各機能は、プロセッサ30が、記憶装置201に記憶されたソフトウェア又はプログラムを実行し、ハードウェアと協働することにより実現される。培養支援装置100に設定される設定データは、ソフトウェア又はプログラムの一部として、記憶装置201に記憶されていてもよく、ユーザにより入力されるようにしてもよい。培養支援プログラム202が記録された非一時的な記録媒体203が配布され、培養支援装置100(記憶装置201)にインストールされてもよい。
【0050】
このように、培養液の水質、培養液に供給する気体の供給量、培養液のpHを調整するための薬剤の供給量を種別として、種別のうち、少なくともいずれかを計測値として取得するステップと、計測値を時間の関数として、培養液の状態指標を算出するステップと、計測値を取得した種別に基づき、状態指標の警告値を設定するステップと、状態指標が警告値に達するか否かを判定するステップと、状態指標が警告値に達すると判定された場合に、警告を通知するステップとを備えることにより、時刻、季節等で変動する培養液の状態を良好な状態に維持できる。
【0051】
なお、実施の形態1~4において、警告通知部5から培養システム1000の制御部17へ警告信号を通知する例について説明したが、
図15に示すように培養支援装置100内の供給支援部7に警告信号を通知してもよい。警告通知部5から警告の通知を受けた供給支援部7は、計測値取得部1から、水質測定器111で測定された溶存酸素濃度、微生物濃度、MLSS、培養液の粘度、吸光度、色度、オゾン濃度、温度等を取得し、警告のレベルを分析する。そして培養システム1000の基質供給部12、気体供給部13、及び薬剤供給部14の少なくともいずれかの供給量を制御し、培養槽11内の培養液の水質を改善する。他の処理を行って改善してもよい。分析した警告のレベルに応じて、培養システム1000を操作する操作者に処理を促してもよい。
【0052】
また、状態指標算出部2で状態指標を算出し、警告値設定部3で警告値を設定する例について説明したが、
図16に示すように、これらのデータうち基準として用いる基準データを記憶させる基準データ保存部8を設け、運転条件の変更、培養槽内の微生物活性度の変動、季節変動等に応じて、基準データ更新部9で基準データを更新させて、更新させた基準データにより、状態指標の算出、警告値の設定を行ってもよい。
また、予め時間とともに変動させて作成された参照データ、時間の関数である過去の計測値を用いて求めた基準データを基準データ保存部8に記憶させて、これらのデータを基準データ更新部9で運転条件の変更、培養槽内の微生物活性度の変動、季節変動等に応じて基準データを更新させてもよい。
基準データ保存部8は、記憶部20内に設けてもよく、記憶部20外に設けてもよい。
【0053】
状態指標、警告値、予め時間とともに変動させて作成された参照データ、及び時間の関数である過去の計測値を用いて求めた処理データの少なくともいずれかを基準データとして記憶させる基準データ保存部8と、基準データを、運転条件の変更、培養槽11内の微生物活性度の変動、及び季節変動の少なくともいずれかに応じて更新させる基準データ更新部9を備えることにより、最新の基準データを用いて状態指標、警告値、参照データ、処理データ等を用いることができるため、より正確な異常検知が可能となり、時刻、季節等により変動する培養液の状態を良好な状態に維持できる。
【0054】
また、計測値取得部1で取得した計測値を記憶部20に記憶させる例について説明したが、
図17に示すように培養支援装置100外にデータベース50を設けて計測値を記憶させてもよい。培養支援装置100の例えば状態指標算出部2は、無線回線10を用いてデータベース50からに計測値を取り込む。有線回線を用いてもよい。
また種々の状態指標、警告値、基準データ等を、データベース50に記憶させて、必要に応じ呼び出してもよい。
【0055】
どの状態指標を用いるかは、培養支援装置100の稼動前に選択してもよく、すべてをモニタしてもよい。段階的に切り替えるように設定してもよい。
また培養支援装置100は、培養槽11に隣接させて配置させてもよく、遠隔地に配置させてもよい。制御部17に警告信号を送信する、供給支援部7から基質供給部12、気体供給部13、薬剤供給部14等を制御する等の処理ができればよい。
【0056】
本開示は、様々な例示的な実施の形態が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。したがって、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0057】
1 計測値取得部、2 状態指標算出部、3 警告値設定部、4 警告判定部、5 警告通知部、7 供給支援部、8 基準データ保存部、9 基準データ更新部、10 無線回線、11 培養槽、12 基質供給部、13 気体供給部、14 薬剤供給部、15 拡散器、16 培養液排出部、17 制御部、20 記憶部、30 プロセッサ、40 通信I/F、50 データベース、111 水質測定器、121 基質計測器、131 気体計測器、141 薬剤計測器、161 培養液測定器、100 培養支援装置、201 記憶装置、202 培養支援プログラム、203 記録媒体、1000 培養システム
【要約】
培養液の水質、培養液に供給する気体、培養液のpHを調整するための薬剤を種別として、種別のうち、少なくともいずれかを計測値として取得する計測値取得部(1)と、計測値を時間の関数として、培養液内の状態指標を算出する状態指標算出部(2)と、計測値を取得した種別に基づき、状態指標の警告値を設定する警告値設定部(3)と、状態指標が警告値に達するか否か判定する警告判定部(4)と、警告判定部で状態指標が警告値に達すると判定された場合に、警告を通知する警告通知部(5)とを備える培養支援装置(100)を設ける。