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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】TIG溶接トーチ用のシールドノズル
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/29 20060101AFI20250414BHJP
【FI】
B23K9/29 L
B23K9/29 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024195549
(22)【出願日】2024-11-08
【審査請求日】2024-11-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年4月23日インテックス大阪にて開催された2024国際ウエルディングショーにて展示
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年6月23日結和株式会社へ試供品の貸し出
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年7月4日株式会社田原組へ公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年7月4日株式会社スチール・コントラプションへ公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年7月4日有限会社アサヒへ公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年7月4日有限会社ティ・ケイ工業へ公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年7月4日森鐵工業株式会社へ公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年7月4日有限会社テクノバルブへ公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年7月4日株式会社片桐鉄工所へ公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和6年7月23日NOCプラザホールで開催された株式会社カネコ商会大感謝祭にて展示
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514088390
【氏名又は名称】ラメール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129001
【弁理士】
【氏名又は名称】林 崇朗
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 祐仁
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-144066(JP,A)
【文献】実開昭53-074436(JP,U)
【文献】米国特許第09338873(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TIG溶接トーチに用いられ、シールドガスを整流するシールドノズルであって、
基端側よりも先端側が拡張した円筒状を成すアルミナ焼結体であるノズル本体と、
複数の金属メッシュを積層した円板状を成し、前記ノズル本体の内側を仕切るスクリーンと
を備え、
前記ノズル本体は、
前記TIG溶接トーチのガスレンズコレットボディの雄ネジ部に嵌め合い可能に構成された雌ネジ部を有する円筒状を成す基端部と、
前記基端部よりも前記先端側において同軸上に前記基端部と隣接し、前記先端側に向けて第1の内径から第2の内径へと拡張する円筒状を成す拡張部と、
前記拡張部よりも前記先端側において同軸上に前記拡張部と隣接し、前記第2の内径を有する円筒状を成す先端部と
を有し、
前記スクリーンは、前記ノズル本体における前記拡張部から前記先端部に亘る内周面のうち前記基端側に向けて前記第2の内径から湾曲して縮小し始める湾曲部に対して、前記基端側に向けて凸状に湾曲した状態で嵌り合い、
前記拡張部の前記長さL1と、前記第2の内径D2との関係は、L1/D2≧0.237を満たす、シールドノズル。
【請求項2】
請求項1に記載のシールドノズルであって、
前記スクリーンは、
積層された前記複数の金属メッシュの中心を抵抗スポット溶接することによって形成され、前記複数の金属メッシュにおいて相互に隣接する前記金属メッシュ同士が接合された抵抗スポット溶接部と、
前記抵抗スポット溶接部の中心を貫通し、前記TIG溶接トーチの電極棒に嵌め合い可能に構成された貫通孔と
を有する、シールドノズル。
【請求項3】
請求項1に記載のシールドノズルであって、
前記金属メッシュは、縦線と横線とによる平織構造を有し、
前記縦線と前記横線とは、相互に隣接する隣接部において拡散接合されている、シールドノズル。
【請求項4】
請求項1に記載のシールドノズルであって、
前記複数の金属メッシュは、
前記スクリーンにおいて前記基端側の端に位置する第1の金属メッシュと、
前記スクリーンにおいて前記第1の金属メッシュよりも前記先端側に位置する複数の第2の金属メッシュと
を含み、
前記第1の金属メッシュは、前記第2の金属メッシュよりも目が粗く、
前記第1の金属メッシュの外径は、前記第2の内径よりも大きく、
前記第2の金属メッシュの外径は、前記第2の内径よりも小さい、シールドノズル。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のシールドノズルであって、
前記雌ネジ部は、呼び径9/16インチの雌ネジ構造を有する、シールドノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、TIG溶接トーチ用のシールドノズルに関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
TIG溶接トーチ用のシールドノズルは、ガスレンズコレットボディに装着され、ガスレンズコレットボディから放出されるシールドガスを整流する。シールドノズルには、ガスレンズコレットボディの断面よりも拡張した放出口からシールドガスを放出する拡張型のシールドノズルが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1には、拡張型のシールドノズルが記載されている。特許文献1のシールドノズルは、ガラス製のノズル本体と、ノズル本体の内側を仕切るスクリーンとを備える。特許文献1のノズル本体は、基端側よりも先端側が拡張した円筒状を成す。特許文献1のスクリーンは、2つの皿状の金属メッシュを背中合わせに環状金具で連結して成る。特許文献1の環状金具は、電極棒を通す貫通孔を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第9338873号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
拡張型のシールドノズルでは、シールドガスの流路が拡張する過程で乱流が発生しやすいため、シールドガスの整流性の向上が求められる。特許文献1のシールドノズルでは、ノズル本体がガラス製であるため、スクリーンが位置ズレしやすいという問題があった。また、特許文献1のシールドノズルでは、スクリーンにおける皿状の金属メッシュが変形しやすいという問題があった。シールドノズルにおけるスクリーンの位置ズレおよび変形は、シールドガスの乱流を発生させる要因となり、溶接品質を低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示する技術は、以下の形態として実現できる。
本明細書に開示する一形態は、シールドガスを整流するシールドノズルである。このシールドノズルは、基端側よりも先端側が拡張した円筒状を成すアルミナ焼結体であるノズル本体と;複数の金属メッシュを積層した円板状を成し、前記ノズル本体の内側を仕切るスクリーンとを備える。前記ノズル本体は、前記TIG溶接トーチのガスレンズコレットボディの雄ネジ部に嵌め合い可能に構成された雌ネジを有する円筒状を成す基端部と;前記基端部よりも前記先端側において同軸上に前記基端部と隣接し、前記先端側に向けて第1の内径から第2の内径へと拡張する円筒状を成す拡張部と;前記拡張部よりも前記先端側において同軸上に前記拡張部と隣接し、前記第2の内径を有する円筒状を成す先端部とを有する。前記スクリーンは、前記ノズル本体における前記拡張部から前記先端部に亘る内周面のうち前記基端側に向けて前記第2の内径から湾曲して縮小し始める湾曲部に対して、前記基端側に向けて凸状に湾曲した状態で嵌り合う。前記拡張部の前記長さL1と、前記第2の内径D2との関係は、L1/D2≧0.237を満たす。この形態のシールドノズルによれば、ガラス製と比較して製造時の寸法誤差が小さく表面が粗いアルミナ結晶体のノズル本体であるため、ガラス製の場合と比較してノズル本体に対するスクリーンの位置ズレを抑制できる。また、複数の金属メッシュを積層したスクリーンが内周面の湾曲部に対して基端側に向けて凸状に湾曲した状態で嵌り合っているため、スクリーンの位置ズレおよび変形を抑制できる。これによって、シールドガスの整流性を向上させることができる。
【0007】
(1)本明細書に開示する一形態は、TIG溶接トーチに用いられ、シールドガスを整流するシールドノズルである。このシールドノズルは、基端側よりも先端側が拡張した円筒状を成すアルミナ焼結体であるノズル本体と;複数の金属メッシュを積層した円板状を成し、前記ノズル本体の内側を仕切るスクリーンとを備える。前記ノズル本体は、前記TIG溶接トーチのガスレンズコレットボディの雄ネジ部に嵌め合い可能に構成された雌ネジを有する円筒状を成す基端部と;前記基端部よりも前記先端側において同軸上に前記基端部と隣接し、前記先端側に向けて第1の内径から第2の内径へと拡張する円筒状を成す拡張部と;前記拡張部よりも前記先端側において同軸上に前記拡張部と隣接し、前記第2の内径を有する円筒状を成す先端部とを有する。前記スクリーンは、前記ノズル本体における前記拡張部から前記先端部に亘る内周面のうち前記基端側に向けて前記第2の内径から湾曲して縮小し始める湾曲部に対して、前記基端側に向けて凸状に湾曲した状態で嵌り合う。この形態のシールドノズルによれば、ガラス製と比較して製造時の寸法誤差が小さく表面が粗いアルミナ結晶体のノズル本体であるため、ガラス製の場合と比較してノズル本体に対するスクリーンの位置ズレを抑制できる。また、複数の金属メッシュを積層したスクリーンが内周面の湾曲部に対して基端側に向けて凸状に湾曲した状態で嵌り合っているため、スクリーンの位置ズレおよび変形を抑制できる。これによって、シールドガスの整流性を向上させることができる。
【0008】
(2)上記形態のシールドノズルにおいて、前記スクリーンは、積層された前記複数の金属メッシュの中心を抵抗スポット溶接することによって形成され、前記複数の金属メッシュにおいて相互に隣接する前記金属メッシュ同士が接合された抵抗スポット溶接部と;前記抵抗スポット溶接部の中心を貫通し、前記TIG溶接トーチの電極棒に嵌め合い可能に構成された貫通孔とを有してもよい。この形態のシールドノズルによれば、複数の金属メッシュを組み合わせる構造と、スクリーンにおいて電極棒を貫通させる構造とを、スクリーンの抵抗スポット溶接部および貫通孔によって金属メッシュ以外の部品を使用せずに形成できる。これによって、シールドノズルの軽量化を図ることができる。
【0009】
(3)上記形態のシールドノズルにおいて、前記金属メッシュは、縦線と横線とによる平織構造を有し、前記縦線と前記横線とは、相互に隣接する隣接部において拡散接合されていてもよい。この形態のシールドノズルによれば、縦線と横線との解れが防止されるため、スクリーンの変形をいっそう抑制できる。
【0010】
(4)上記形態のシールドノズルにおいて、前記複数の金属メッシュは、前記スクリーンにおいて前記基端側の端に位置する第1の金属メッシュと;前記スクリーンにおいて前記第1の金属メッシュよりも前記先端側に位置する複数の第2の金属メッシュとを含んでもよい。前記第1の金属メッシュは、前記第2の金属メッシュよりも目が粗い。前記第1の金属メッシュの外径は、前記第2の内径よりも大きい。前記第2の金属メッシュの外径は、前記第2の内径よりも小さい。この形態のシールドノズルによれば、スクリーンの位置ズレおよび変形をいっそう抑制できる。また、ノズル本体にスクリーンを組み付ける作業を容易に行うことができる。
【0011】
(5)上記形態のシールドノズルにおいて、前記雌ネジ部が呼び径9/16インチの雌ネジ構造を有する場合、前記拡張部の前記長さL1と、前記第2の内径D2との関係は、L1/D2≧0.237を満たすことが好ましい。この形態のシールドノズルによれば、シールドノズルの小型軽量化を図りながら、シールドガスの整流性を確保することができる。
【0012】
本明細書に開示する技術は、TIG溶接トーチ用のシールドノズルとは異なる種々の形態で実現できる。本明細書に開示する技術は、例えば、TIG溶接装置、TIG溶接トーチ、シールドノズルのノズル本体、シールドノズルのスクリーンなどの形態で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】TIG溶接トーチを示す説明図である。
図2】シールドノズルの詳細を示す断面図である。
図3】シールドノズルを示す正面図である。
図4】スクリーンの詳細を示す断面図である。
図5】ノズル本体にスクリーンを組み付ける様子を示す説明図である。
図6】ノズル本体の長さL1および内径D2がシールドガスの整流性に与える影響を評価した試験結果を示す表である。
図7】ノズル本体の長さL1および内径D2がシールドガスの整流性に与える影響を評価した試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、TIG溶接トーチ100を示す説明図である。図2は、シールドノズル200の詳細を示す断面図である。図3は、シールドノズル200を示す正面図である。
【0015】
TIG溶接トーチ100は、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接に用いられる器具である。TIG溶接トーチ100は、ハンドル110と、ネック120と、ヘッド130と、バックキャップ140と、ガスレンズコレットボディ160と、電極棒180と、シールドノズル200とを備える。
【0016】
TIG溶接トーチ100のハンドル110は、作業者がTIG溶接トーチ100を操作するために手で握る部位である。ハンドル110は、円筒状を成す。ハンドル110には、電源およびシールドガス(例えば、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)をガスレンズコレットボディ160へと供給するケーブル105が挿入される。
【0017】
TIG溶接トーチ100のネック120は、ハンドル110とヘッド130とを接続する。本実施形態では、ネック120は、ハンドル110とヘッド130との間の取り付け角度を調整できるように変形可能に構成されている。ネック120の内部には、ヘッド130へと電源を供給する導通経路が形成されている。ネック120の内部には、ヘッド130へとシールドガスを供給するガス流路が形成されている。
【0018】
TIG溶接トーチ100のヘッド130は、バックキャップ140およびガスレンズコレットボディ160を保持する。ヘッド130は、円筒状を成す。ヘッド130の内部には、ガスレンズコレットボディ160へと電源を供給する導通経路が形成されている。ヘッド130の内部には、ガスレンズコレットボディ160へとシールドガスを供給するガス流路が形成されている。
【0019】
TIG溶接トーチ100のバックキャップ140は、ヘッド130の後端側を密閉する。TIG溶接トーチ100は、作業者がバックキャップ140を締めることによって電極棒180をガスレンズコレットボディ160に固定することが可能に構成されている。
【0020】
ガスレンズコレットボディ160は、電極棒180を保持するとともに、電極棒180の周囲にシールドガスを放出する。ガスレンズコレットボディ160は、円筒状を成す金属体である。図2に示すように、ガスレンズコレットボディ160は、雄ネジ部162と、ガスレンズ部168とを備える。
【0021】
ガスレンズコレットボディ160の雄ネジ部162は、シールドノズル200に嵌り合うネジ山が外周面に形成された部位である。雄ネジ部162の中心軸は、電極棒180の中心軸AX1に一致する。
【0022】
ガスレンズコレットボディ160のガスレンズ部168は、電極棒180を中心とするドーナツ状の金属メッシュを通して、ガスレンズコレットボディ160から電極棒180の周囲に放出されるシールドガスが層流となるようにシールドガスを整流する。
【0023】
TIG溶接トーチ100の電極棒180は、棒状を成すタングステン製の電極である。電極棒180の基端側は、導通状態でガスレンズコレットボディ160の内側に保持されている。電極棒180の先端側は、シールドノズル200の外側に突出する。
【0024】
TIG溶接トーチ100のシールドノズル200は、ガスレンズコレットボディ160に装着される。シールドノズル200は、ガスレンズコレットボディ160から放出されるシールドガスを整流する。シールドノズル200は、ガスレンズコレットボディ160の断面よりも拡張した放出口からシールドガスを放出する拡張型のシールドノズルである。図2図3に示すように、シールドノズル200は、ノズル本体300と、スクリーン400とを備える。
【0025】
シールドノズル200のノズル本体300は、基端302側よりも先端308側が拡張した円筒状を成すアルミナ焼結体である。基端302は、ヘッド130に当接する開口端である。先端308は、電極棒180が突出する方向に開口した開口端である。ノズル本体300は、基端部310と、拡張部320と、先端部330とを有する。
【0026】
ノズル本体300の基端部310は、基端302を形成する。基端部310は、内側に雌ネジ部312を有する円筒状を成す。基端部310の中心軸は、電極棒180の中心軸AX1に一致する。雌ネジ部312は、TIG溶接トーチ100のガスレンズコレットボディ160の雄ネジ部162に嵌め合い可能に構成されている。本実施形態では、雄ネジ部162は、呼び径9/16インチの雌ネジ構造(ユニファイ細目ネジ「9/16-18UNF」)を有する。
【0027】
ノズル本体300の拡張部320は、基端部310よりも先端308側の同軸上において基端部310に隣接する。拡張部320は、先端308側に向け内径D1(第1の内径)から内径D2(第2の内径)へと拡張する円筒状を成す。拡張部320の中心軸は、電極棒180の中心軸AX1に一致する。
【0028】
ノズル本体300の先端部330は、先端308を形成する。先端部330は、拡張部320よりも先端308側の同軸上において拡張部320と隣接する。先端部330は、内径D2を有する円筒状を成す。先端部330の中心軸は、電極棒180の中心軸AX1に一致する。
【0029】
シールドノズル200の小型軽量化を図る観点から、ノズル本体300の軸方向(図2の中心軸AX1)において、拡張部320の長さL1は、先端部330の長さL2より短いことが好ましく、より短いほど好ましい。ただし、シールドガスの整流性を確保する観点から、雌ネジ部312が呼び径9/16インチの雌ネジ構造である場合、拡張部320の長さL1と、先端部330の内径D2との関係は、L1/D2≧0.237を満たすことが好ましく、L1/D2≧0.263を満たすことがいっそう好ましい。L1/D2の値とシールドガスの整流性との関係については後述する。
【0030】
ノズル本体300は、拡張部320から先端部330に亘る内周面として、隣接部322と、湾曲部324と、傾斜面326と、湾曲部328と、内周面332とを有する。隣接部322は、基端部310の雌ネジ部312に隣接し、第1の内径である内径D1を有する部位である。湾曲部324は、拡張部320の径方向内側へ凸状に湾曲した状態で、先端308側に向け内径D1から拡張し始める部位である。傾斜面326は、先端308側に向けて傾斜して湾曲部324と湾曲部328との間を繋ぐ面である。湾曲部328は、拡張部320の径方向外側へ凸状に湾曲した状態で、基端302側に向け内径D2から縮小し始める部位である。内周面332は、湾曲部328に隣接し、第2の内径である内径D2を有する部位である。
【0031】
シールドノズル200のスクリーン400は、ノズル本体300の内側を仕切る。スクリーン400は、図2に示すように、ノズル本体300の拡張部320における湾曲部328に対して、基端302側に向けて凸状に湾曲した状態で嵌り合う。これによって、スクリーン400は、ノズル本体300の先端308から電極棒180の周囲に放出されるシールドガスが層流となるようにシールドガスを整流する。
【0032】
図4は、スクリーン400の詳細を示す断面図である。図4に示すスクリーン400の形状は、ノズル本体300に組み付ける前の状態を示す。スクリーン400は、複数の金属メッシュ410を積層した円板状を成す。スクリーン400は、抵抗スポット溶接部402と、貫通孔404とを有する。
【0033】
スクリーン400は、円板状を成す複数の金属メッシュ410を積層して成る。本実施形態では、複数の金属メッシュ410は、基端302側から順に5枚の金属メッシュ410a,410b,410c,410d,410eを含む。本明細書の説明では、スクリーン400における複数の金属メッシュの各々を総称する場合には符号「410」を使用し、スクリーン400における複数の金属メッシュの個々を区別する場合には符号「410」に「a,b,c,・・・」を付した符号を使用する。
【0034】
金属メッシュ410の各々は、縦線417と横線419とによる平織構造415を有する。金属メッシュの縦線417と横線419とは、相互に隣接する隣接部418において拡散接合されている。本実施形態では、金属メッシュ410の材質は、ステンレス鋼である。
【0035】
スクリーン400の金属メッシュ410aは、スクリーン400において基端302側の端に位置する第1の金属メッシュである。スクリーン400の金属メッシュ410b~410eは、第1の金属メッシュ410よりも先端308側に位置する複数の第2の金属メッシュである。
【0036】
本実施形態では、金属メッシュ410aのメッシュ数は、40メッシュ(1インチ当たり40個の目開き)であり、金属メッシュ410b~410eのメッシュ数は、100メッシュ(1インチ当たり100個の目開き)である。本実施形態では、金属メッシュ410aの外径D5は、金属メッシュ410b~410eの外径D6と同じ外径である。ノズル本体300にスクリーン400を組み付ける前の状態において、金属メッシュ410aの外径D5および金属メッシュ410b~410eの外径D6は、ノズル本体300の先端部330の内径D2より約1~2%大きい。
【0037】
スクリーン400の抵抗スポット溶接部402は、積層された複数の金属メッシュ410の中心の1点を抵抗スポット溶接することによって形成された溶接痕である。抵抗スポット溶接部402において、複数の金属メッシュ410において相互に隣接する金属メッシュ410同士が接合されている。図4に示すように、抵抗スポット溶接部402は、抵抗スポット溶接されていない無溶接部406よりも厚み方向に圧縮されている。抵抗スポット溶接部402の中心には、貫通孔404が形成されている。抵抗スポット溶接部402は、貫通孔404を囲むドーナツ状を成す。本実施形態では、抵抗スポット溶接部402の外径は、約7.0mmである。
【0038】
スクリーン400の貫通孔404は、抵抗スポット溶接部402の中心を打ち抜き加工することによって形成される。貫通孔404は、抵抗スポット溶接部402の中心を貫通する。貫通孔404は、電極棒180に嵌め合い可能に構成されている。本実施形態では、貫通孔404の直径は、約2.5mmである。
【0039】
スクリーン400を製造する際には、スクリーン400の製造者は、金属メッシュ410の素材である金属メッシュシートを用意する。その後、製造者は、金属メッシュシートを熱処理する。これによって、金属メッシュシートにおける縦線417と横線419との隣接部418が拡散接合される。その後、作業者は、金属メッシュシートを打ち抜き加工することによって、複数の金属メッシュ410を作製する。その後、製造者は、積層した複数の金属メッシュ410における中心の1点をスポット溶接することによって、抵抗スポット溶接部402を形成する。その後、製造者は、抵抗スポット溶接部402の中心でもある複数の金属メッシュ410の中心を打ち抜き加工することによって、貫通孔404を形成する。これらの工程を経て、スクリーン400が完成する。
【0040】
図5は、ノズル本体300にスクリーン400を組み付ける様子を示す説明図である。ノズル本体300にスクリーン400を組み付ける際、シールドノズル200の製造者は、ノズル本体300と、スクリーン400と、治具500とを用意する。
【0041】
治具500は、第1の円柱部510と、第2の円柱部520と、中心軸530とを備える。第1の円柱部510は、ノズル本体300の先端部330とほぼ同じ外径を有する。第2の円柱部520は、ノズル本体300の先端部330の内径D2に緩く嵌る外径を有する。第2の円柱部520の高さは、先端部330の長さL2とほぼ同じである。第2の円柱部520は、第1の円柱部510と同軸上において第1の円柱部510の上方に隣接する。中心軸530は、第2の円柱部520の上方に突出する。中心軸530は、第1の円柱部510および第2の円柱部520の軸上に位置する。
【0042】
シールドノズル200の製造者は、治具500の中心軸530をスクリーン400の貫通孔404に通した状態で、第2の円柱部520の上面522に当接する位置までスクリーン400を移動させる。その後、製造者は、第1の円柱部510の上面512に先端308が当接する位置までノズル本体300を移動させる。これによって、図2に示すようにノズル本体300にスクリーン400が組み付けられる。その後、作業者は、治具500からシールドノズル200を取り外す。これらの工程を経て、シールドノズル200が完成する。
【0043】
図6および図7は、ノズル本体30の長さL1および内径D2がシールドガスの整流性に与える影響を評価した試験結果を示す表である。図6および図7の評価試験において、試験者は、ノズル本体300の長さL1および内径D2がそれぞれ異なる複数のシールドノズル200を試料として用意した。各試料の長さL1および内径D2は、図6および図7に示す値のとおりである。各試料における各部の値は、いずれもL0=11,5mm、L2=10mm、D1=14.8mmである。各試料の雌ネジ部312は、ユニファイ細目ネジ「9/16-18UNF」である。各試料のスクリーン400は、40メッシュの金属メッシュ410aと、100メッシュの金属メッシュ410b~410eのメッシュ数との組み合わせである。
【0044】
試験者は、それぞれの試料を装着したTIG溶接トーチ100から放出されるシールドガスの流れをシュリーレン撮影によって可視化した。評価試験に使用したTIG溶接トーチ100の各部品は、次のとおりである。
ヘッド130:米国ミラー社製「1726」
バックキャップ140:米国ミラー社製「57Y04」
ガスレンズコレットボディ160:米国ミラー社製「45V44」
【0045】
試験者は、シュリーレン撮影された画像に表れたシールドガスの流れを目視で確認した。そして、試験者は、シールドノズル200から放出されるシールドガスの流れのうち、ノズル本体300の先端308から20mmまでの評価範囲における乱流の発生状態に基づいて、シールドガスの整流性を評価した。
【0046】
図6および図7の試験結果において、評価「良」は、シールドガスの評価範囲において目立つ乱流が発生しなかった評価結果を示す。評価「可」は、シールドガスの評価範囲において僅かに乱流の発生が確認されるものの、一般的に要求される溶接品質を確保できるとの評価結果を示す。評価「不可」は、シールドガスの評価範囲において顕著な乱流の発生が確認され、一般的に要求される溶接品質を確保できない可能性があるとの評価結果を示す。図6および図7の試験結果によれば、シールドガスの整流性を確保する観点から、ノズル本体30の長さL1と内径D2との関係は、L1/D2≧0.237を満たすことが好ましく、L1/D2≧0.263を満たすことがいっそう好ましいことが分かる。
【0047】
以上説明したシールドノズル200によれば、ガラス製と比較して製造時の寸法誤差が小さく表面が粗いアルミナ結晶体のノズル本体300であるため、ガラス製の場合と比較してノズル本体300に対するスクリーン400の位置ズレを抑制できる。また、複数の金属メッシュ410を積層したスクリーン400が内周面の湾曲部328に対して基端302側に向けて凸状に湾曲した状態で嵌り合っているため、スクリーン400の位置ズレおよび変形を抑制できる。これによって、シールドガスの整流性を向上させることができる。
【0048】
また、シールドノズル200によれば、複数の金属メッシュ410を組み合わせる構造と、スクリーン400において電極棒180を貫通させる構造とを、スクリーン400の抵抗スポット溶接部402および貫通孔404によって金属メッシュ410以外の部品を使用せずに形成できる。これによって、シールドノズル200の軽量化を図ることができる。
【0049】
また、シールドノズル200によれば、スクリーン400における金属メッシュ410の縦線417と横線419とが隣接部418において拡散接合されている。そのため、縦線417と横線419との解れが防止されるため、スクリーン400の変形をいっそう抑制できる。
【0050】
また、シールドノズル200によれば、雌ネジ部312が呼び径9/16インチの雌ネジ構造を有する場合、ノズル本体300における長さL1と内径D2との関係は、L1/D2≧0.237を満たすことが好ましく、L1/D2≧0.263を満たすことがいっそう好ましい。これによって、シールドノズル200の小型軽量化を図りながら、シールドガスの整流性を確保することができる。
【0051】
本明細書に開示する技術は、上述した実施形態、実施例および変形例に限られない。本明細書に開示する技術は、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現できる。上述した実施形態、実施例および変形例における技術的特徴のうち、発明の概要の欄に記載した各形態における技術的特徴に対応するものは、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、差し替えおよび組み合わせる可能である。また、本明細書中に必須なものとして説明されていない技術的特徴は、必要に応じて削除できる。
【0052】
上述した発明は、呼び径9/16インチ以外の雌ネジ部312を有するシールドノズル200に適用することができる。
【0053】
スクリーン400における金属メッシュ410のメッシュ数、枚数および外径はそれぞれ適宜変更することができる。スクリーン400に用いる40メッシュの金属メッシュ410の枚数が1枚である場合、シールドガスの整流性の観点から、100メッシュの金属メッシュ410の枚数は3枚よりも5枚の方が好ましい。この場合、基端302側の端に位置する金属メッシュ410aが40メッシュであることが好ましいが、スクリーン400における複数の金属メッシュ410のうち中央に挟まれた金属メッシュ410のいずれかが40メッシュであってもよい。
【0054】
また、ノズル本体300にスクリーン400を組み付ける作業性を向上させる観点からは、金属メッシュ410aは、金属メッシュ410b~410eよりも目が粗いことが好ましい。その上で、ノズル本体300にスクリーン400を組み付ける前の状態において、金属メッシュ410aの外径D5は、ノズル本体300の内径D2より約1~2%大きく、金属メッシュ410b~410eの外径D6は、ノズル本体300の内径D2より約1~2%小さいことが好ましい。
【符号の説明】
【0055】
30…ノズル本体
100…TIG溶接トーチ
105…ケーブル
110…ハンドル
120…ネック
130…ヘッド
140…バックキャップ
160…ガスレンズコレットボディ
162…雄ネジ部
168…ガスレンズ部
180…電極棒
200…シールドノズル
300…ノズル本体
302…基端
308…先端
310…基端部
312…雌ネジ部
320…拡張部
322…隣接部
324…湾曲部
326…傾斜面
328…湾曲部
330…先端部
332…内周面
400…スクリーン
402…抵抗スポット溶接部
404…貫通孔
406…無溶接部
410,400a~400e…金属メッシュ
415…平織構造
417…縦線
418…隣接部
419…横線
500…治具
510…第1の円柱部
512…上面
520…第2の円柱部
522…上面
530…中心軸
AX1…中心軸
D1…内径
D2…内径
D5…外径
D6…外径
【要約】
【課題】シールドガスの整流性を向上させることができるTIG溶接トーチ用のシールドノズルを提供する。
【解決手段】TIG溶接トーチ用のシールドノズルは、基端側よりも先端側が拡張した円筒状を成すアルミナ焼結体であるノズル本体と;複数の金属メッシュを積層した円板状を成し、ノズル本体の内側を仕切るスクリーンとを備える。ノズル本体は、TIG溶接トーチのガスレンズコレットボディの雄ネジ部に嵌め合い可能に構成された雌ネジ部を有する円筒状を成す基端部と;先端側に向けて第1の内径から第2の内径へと拡張する円筒状を成す拡張部と;第2の内径を有する円筒状を成す先端部とを有する。クリーンは、ノズル本体における拡張部から先端部に亘る内周面のうち基端側に向けて第2の内径から湾曲して縮小し始める湾曲部に対して、基端側に向けて凸状に湾曲した状態で嵌り合う。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7