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  • 特許-非水電解質二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20250414BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20250414BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250414BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/525
H01M10/052
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021103974
(22)【出願日】2021-06-23
(65)【公開番号】P2023003048
(43)【公開日】2023-01-11
【審査請求日】2024-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博文
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 幸重
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7461964(JP,B2)
【文献】特表2022-532884(JP,A)
【文献】特許第7573196(JP,B2)
【文献】特許第7588079(JP,B2)
【文献】特開2018-147790(JP,A)
【文献】国際公開第2020/242138(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極を相互に隔離するセパレータと、非水電解質とを備える非水電解質二次電池であって、
前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体の表面に形成された正極合剤層とを有し、
前記正極合剤層は、前記正極集電体に対向する第1正極合剤層と、前記第1正極合剤層の表面に積層された第2正極合剤層とを含み、
前記第1正極合剤層は、Niと、Caとを含有する第1正極活物質を含み、
前記第2正極合剤層は、Niと、Srとを含有する第2正極活物質を含み、
前記第2正極活物質におけるNiの含有率は、前記第1正極活物質におけるNiの含有率よりも低い、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記第1正極活物質におけるNiの含有率は、Liを除く金属元素の総質量に対して、90質量%超95質量%以下であり、
前記第2正極活物質におけるNiの含有率は、Liを除く金属元素の総質量に対して、80質量%以上90質量%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記第1正極活物質におけるCaの含有率は、Liを除く金属元素の総質量に対して、0.03質量%以上0.5質量%以下であり、
前記第2正極活物質におけるSrの含有率は、Liを除く金属元素の総質量に対して、0.03質量%以上0.5質量%以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池においては、一般的に、金属箔からなる集電体の表面に合剤層が形成された電極が用いられる。合剤層には、Liを可逆的に挿入脱離できる活物質が含まれ、合剤層に含まれる活物質の種類や、合剤層における活物質の分布を変化させることで、電池の特性を変化させることができる。
【0003】
特許文献1には、複数の層からなる合剤層を有する正極が開示され、集電体から離れた層におけるCoの含有率を集電体に近い層におけるCoの含有率よりも高くすることで、電池のサイクル特性が向上することが記載されている。特許文献2には、複数の層からなる合剤層を有する正極が開示され、集電体に近い層におけるMnの含有率を所定以上にしつつ、集電体から離れた層におけるMnの含有率を集電体に近い層におけるMnの含有率よりも低くすることで、高容量を得つつサイクル特性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-255762号公報
【文献】特開2015-115244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、高容量化の観点から、正極活物質としてニッケルコバルト酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物が使用されることがある。リチウム遷移金属複合酸化物におけるNiの含有率を高くすることで、さらなる高容量化を図ることができるが、正極活物質と非水電解質の副反応により、サイクル特性が低下しやすい。特許文献1及び2の技術は、正極活物質におけるNiの含有率を高めて高容量化を図りつつ、副反応によるサイクル特性の低下を抑制する技術については考慮されておらず、未だ改善の余地がある。
【0006】
本開示の目的は、高容量でサイクル特性が向上した非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、正極及び負極を相互に隔離するセパレータと、非水電解質とを備え、正極は、正極集電体と、正極集電体の表面に形成された正極合剤層とを有し、正極合剤層は、正極集電体に対向する第1正極合剤層と、第1正極合剤層の表面に積層された第2正極合剤層とを含み、第1正極合剤層は、Niと、Caとを含有する第1正極活物質を含み、第2正極合剤層は、Niと、Srとを含有する第2正極活物質を含み、第2正極活物質におけるNiの含有率は、第1正極活物質におけるNiの含有率よりも低いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、高容量でサイクル特性が向上した非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の軸方向断面図である。
図2】実施形態の一例における正極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体が円筒形の外装体に収容された円筒形電池を例示するが、電極体は、巻回型に限定されず、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に1枚ずつ積層されてなる積層型であってもよい。また、外装体は円筒形に限定されず、例えば角形、コイン形等であってもよい。金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成されたパウチ型であってもよい。
【0011】
図1は、実施形態の一例である円筒形の二次電池10の軸方向断面図である。図1に示す二次電池10は、電極体14及び非水電解質(図示せず)が外装体15に収容されている。電極体14は、正極11及び負極12がセパレータ13を介して巻回されてなる巻回型の構造を有する。なお、以下では、説明の便宜上、封口体16側を「上」、外装体15の底部側を「下」として説明する。
【0012】
外装体15の上端部が封口体16で塞がれることで、二次電池10の内部は、密閉される。電極体14の上下には、絶縁板17,18がそれぞれ設けられる。正極リード19は絶縁板17の貫通孔を通って上方に延び、封口体16の底板であるフィルタ22の下面に溶接される。二次電池10では、フィルタ22と電気的に接続された封口体16の天板であるキャップ26が正極端子となる。他方、負極リード20は絶縁板18の貫通孔を通って、外装体15の底部側に延び、外装体15の底部内面に溶接される。二次電池10では、外装体15が負極端子となる。なお、負極リード20が巻外端部に設置されている場合は、負極リード20は絶縁板18の外側を通って、外装体15の底部側に延び、外装体15の底部内面に溶接される。
【0013】
外装体15は、例えば、有底円筒形状の金属製外装缶である。外装体15と封口体16の間にはガスケット27が設けられ、二次電池10の内部の密閉性が確保されている。外装体15は、例えば、側面部を外側からプレスして形成された、封口体16を支持する溝入部21を有する。溝入部21は、外装体15の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面でガスケット27を介して封口体16を支持する。
【0014】
封口体16は、電極体14側から順に積層された、フィルタ22、下弁体23、絶縁部材24、上弁体25、及びキャップ26を有する。封口体16を構成する各部材は、例えば、円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材24を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体23と上弁体25とは各々の中央部で互いに接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材24が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、例えば、下弁体23が破断し、これにより上弁体25がキャップ26側に膨れて下弁体23から離れることにより両者の電気的接続が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体25が破断し、キャップ26の開口部26aからガスが排出される。
【0015】
以下、電極体14を構成する正極11、負極12、セパレータ13、及び非水電解質について、特に正極11について詳説する。
【0016】
[正極]
正極11は、正極集電体30と、正極集電体30の表面に形成された正極合剤層とを有する。正極集電体30には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極集電体30の厚みは、例えば、10μm~30μmである。なお、本明細書において、「~」は、「~」の前後の上限及び下限を含む範囲を意味する。
【0017】
正極合剤層は、正極集電体30に対向する第1正極合剤層32と、第1正極合剤層32の表面に積層された第2正極合剤層34とを含む。図2に示すように、正極合剤層は、正極集電体30の両面に形成されることが好ましい。第1正極合剤層32と第2正極合剤層34の合計の厚みは、正極集電体30の片側で、例えば、10μm~150μmであり、好ましくは50μm~100μmである。第1正極合剤層32の厚みと、第2正極合剤層34の厚みの比は、例えば、1:9~9:1である。
【0018】
第1正極合剤層32は、Niと、Caとを含有する第1正極活物質を含み、第2正極合剤層34は、Niと、Srとを含有する第2正極活物質を含む。また、第2正極活物質におけるNiの含有率は、前記第1正極活物質におけるNiの含有率よりも低い。これにより、高容量且つサイクル特性に優れた電池性能を実現することができる。
【0019】
第1正極活物質及び第2正極活物質は、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物である。リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属層、Li層、酸素層を含む層状岩塩構造を有し、Li層に存在するLiイオンが可逆的に出入りすることで、電池の充放電反応が進行する。リチウム遷移金属複合酸化物にCa、Sr等の遷移金属以外の金属元素を含有させることで、リチウム遷移金属複合酸化物と電解質の副反応を抑制することができる。しかし、Ca、Sr等を含有させたリチウム遷移金属複合酸化物を用いても、サイクル特性が大きく低下してしまう場合がある。
【0020】
本願発明者らは、上記課題に対し鋭意検討を行った結果、サイクル特性が低下する際には、正極合剤層の表面に近い部分で、正極合剤層の正極集電体30に近い部分に比べて、電解質の塩濃度のバラツキが大きくなっていたり、第1正極活物質及び第2正極活物質からの遷移金属元素の溶出により負極活物質が劣化して負極の容量が低下したりする現象が発生していることが判明した。即ち、本願発明者らは、正極11が、上記の第1正極合剤層32及び第2正極合剤層34を含むことで、上記の現象を抑制できることを見出した。正極合剤層の表面に近い部分では、Srの効果により、電解質の塩濃度にバラツキが生じた場合でも副反応による反応抵抗の上昇を抑制している。正極集電体30に近い部分では、Ni含有率を高めて高容量を図りつつ、Caの効果により第1正極活物質からの遷移金属元素の溶出を抑制して負極12を過度に劣化させないようにしている。
【0021】
第1正極活物質におけるNiの含有率は、Liを除く金属元素の総質量に対して、90質量%超95質量%以下であってもよく、第2正極活物質におけるNiの含有率は、Liを除く金属元素の総質量に対して、80質量%以上90質量%以下であってもよい。これにより、電池のさらなる高容量化を図ることができる。なお、第1正極活物質及び第2正極活物質を構成するNi、Ca、Sr等の元素の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES)等により測定することができる。
【0022】
第1正極活物質におけるCaの含有率は、Liを除く金属元素の総質量に対して、0.03質量%以上0.5質量%以下であってもよく、第2正極活物質におけるSrの含有率は、Liを除く金属元素の総質量に対して、0.03質量%以上0.5質量%以下であってもよい。これにより、サイクル特性の低下をより顕著に抑制することができる。
【0023】
第1正極活物質は、Ni、Ca以外に、Co、Al等の元素を含んでもよい。第1正極活物質におけるCoの含有率は、Liを除く金属元素の総質量に対して、0質量%~15質量%が好ましく、1質量%~10質量%がより好ましい。第1正極活物質におけるAlの含有率は、Liを除く金属元素の総質量に対して、0質量%~10質量%が好ましく、0質量%~5質量%がより好ましい。
【0024】
第2正極活物質は、Ni、Sr以外に、Co、Al等の元素を含んでもよい。第2正極活物質におけるCoの含有率は、Liを除く金属元素の総質量に対して、0質量%~20質量%が好ましく、5質量%~15質量%がより好ましい。第2正極活物質におけるAlの含有率は、Liを除く金属元素の総質量に対して、0質量%~10質量%が好ましく、0質量%~5質量%がより好ましい。
【0025】
第1正極活物質及び第2正極活物質は、例えば、複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子である。二次粒子を構成する一次粒子の粒径は、例えば、0.05μm~1μmである。一次粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される粒子画像において外接円の直径として測定される。
【0026】
第1正極活物質及び第2正極活物質の二次粒子の体積基準のメジアン径(D50)は、例えば、1μm~30μm、好ましくは3μm~20μmである。D50は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から50%となる粒径を意味し、中位径とも呼ばれる。複合酸化物(Z)の粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000II)を用い、水を分散媒として測定できる。
【0027】
第1正極活物質において、Caは、二次粒子の表面、又は、二次粒子を構成する一次粒子同士の間の界面に存在することが好ましい。これにより、遷移金属元素の溶出をより顕著に抑制することができる。Caは、二次粒子の表面、又は、一次粒子同士の間の界面において、Ca化合物を形成していてもよい。Ca化合物としては、例えば、CaO、Ca(OH)、及びCaCOを挙げることができる。
【0028】
第2正極活物質において、Srは、二次粒子の表面、又は、二次粒子を構成する一次粒子同士の間に存在することが好ましい。これにより、電解液との副反応をより顕著に抑制することができる。Srは、二次粒子の表面、又は、一次粒子同士の間の界面において、Sr化合物を形成していてもよい。Sr化合物としては、例えば、SrO、Sr(OH)、SrCOを挙げることができる。
【0029】
第1正極合剤層32及び第2正極合剤層34は、第1正極活物質又は第2正極活物質以外に、導電剤、結着剤等を含んでもよい。
【0030】
第1正極合剤層32又は第2正極合剤層34に含まれる導電剤としては、例えば、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、黒鉛等のカーボン系粒子などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
第1正極合剤層32又は第2正極合剤層34に含まれる結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
第1正極合剤層32及び第2正極合剤層34は、例えば、第1正極活物質、導電剤、及び結着剤を含む第1正極合剤スラリーと、第2正極活物質、導電剤、及び結着剤を含む第2正極合剤スラリーを用いて製造される。具体的には、正極集電体30の両面に第1正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させて第1正極合剤層32を形成した後、第1正極合剤層32の表面の略全域に第2正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させて第2正極合剤層34を形成する。その後、ローラ等を用いて第1正極合剤層32及び第2正極合剤層34を圧延することで、正極11を作製できる。なお、上記方法では、第1正極合剤スラリーを塗布、乾燥させてから、第2正極合剤スラリーを塗布したが、第1正極合剤スラリーを塗布後、乾燥前に、第2正極合剤スラリーを塗布してもよい。また、第1正極合剤スラリーを塗布、乾燥させて圧延した後に、第2正極合剤スラリーを塗布してもよい。
【0033】
[負極]
負極12は、負極集電体と、負極集電体の表面に形成された負極合剤層とを有する。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極集電体の厚みは、例えば、5μm~30μmである。
【0034】
負極合剤層は、負極集電体の両面に形成されることが好ましい。負極合剤層の厚みは、例えば、負極集電体の片側で10μm~150μmである。負極合剤層は、例えば、負極活物質、及び結着剤を含む。負極は、例えば、負極集電体の両面に負極活物質、結着剤等を含む負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラ等を用いて負極合剤層を圧延することで作製できる。
【0035】
負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、一般的には黒鉛等の炭素材料が用いられる。黒鉛は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛のいずれであってもよい。また、負極活物質として、Si、Sn等のLiと合金化する金属、Si、Sn等を含む金属化合物、リチウムチタン複合酸化物などを用いてもよい。例えば、SiO(0.5≦x≦1.6)で表されるSi含有化合物、又はLi2ySiO(2+y)(0<y<2)で表されるリチウムシリケート相中にSiの微粒子が分散したSi含有化合物などが、黒鉛と併用されてもよい。
【0036】
負極合剤層に含まれる結着剤としては、正極の場合と同様に、PTFE、PVDF等の含フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどを用いてもよいが、好ましくはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)が用いられる。また、負極合剤層には、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などが含まれていてもよい。負極合剤層には、例えば、SBRと、CMC又はその塩が含まれる。
【0037】
[セパレータ]
セパレータ13は、正極11及び負極12を相互に隔離する機能を有する。セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造であってもよく、積層構造を有していてもよい。また、セパレータ13の表面には、アラミド樹脂等の耐熱性の高い樹脂層、無機化合物のフィラーを含むフィラー層が設けられていてもよい。
【0038】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができる。非水溶媒は、これら溶媒の水素原子の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。ハロゲン置換体としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状炭酸エステル、フッ素化鎖状炭酸エステル、フルオロプロピオン酸メチル(FMP)等のフッ素化鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0039】
上記エステル類の例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル等の鎖状カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0040】
上記エーテル類の例としては、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等の鎖状エーテルなどが挙げられる。
【0041】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩の例としては、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiSCN、LiCFSO、LiCFCO、Li(P(C)F)、LiPF6-x(C2n+1(1<x<6,nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li、Li(B(C)F)等のホウ酸塩類、LiN(SOCF、LiN(C2l+1SO)(C2m+1SO){l,mは0以上の整数}等のイミド塩類などが挙げられる。リチウム塩は、これらを1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。これらのうち、イオン伝導性、電気化学的安定性等の観点から、LiPFを用いることが好ましい。リチウム塩の濃度は、例えば非水溶媒1L当り0.8モル~1.8モルとすることが好ましい。
【実施例
【0042】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
[正極活物質の作製]
第1正極活物質としては、Liを除く金属元素を表1に示す質量比で含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子を用いた。なお、当該リチウム遷移金属複合酸化物において、Liと、Liを除く金属元素とのモル比は、1:1である。また、当該リチウム遷移金属複合酸化物は、Ni、Co、及びAlを表1に示す質量比で含む複合酸化物と、CaOと、Li源であるLiOHとを混合し、焼成して得た。
【0044】
第2正極活物質としては、Liを除く金属元素を表1に示す質量比で含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子を用いた。なお、当該リチウム遷移金属複合酸化物において、Liと、Liを除く金属元素とのモル比は、1:1である。また、当該リチウム遷移金属複合酸化物は、Ni、Co、及びAlを表1に示す質量比で含む複合酸化物と、SrOと、Li源であるLiOHとを混合し、焼成して得た。
【0045】
[正極の作製]
第1正極活物質95質量部と、導電剤としての黒鉛5質量部とを混合し、混合物を作製した。この混合物と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、95:5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えながら混錬して、第1正極合剤スラリーを調製した。次に、第1正極合剤スラリーを厚み16μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面にドクターブレード法により塗布し、塗膜を乾燥させて第1正極合剤層(未圧縮状態)を形成した。
【0046】
第2正極活物質95質量部と、導電剤としての黒鉛5質量部とを混合し、混合物を作製した。この混合物と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、95:5の質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えながら混錬して、第2正極合剤スラリーを調製した。次に、第2正極合剤スラリーを第1正極合剤層の表面にドクターブレード法により塗布し、塗膜を乾燥させることにより、第1正極合剤層の表面の全域に第2正極合剤層を積層した。ローラを用いて第1正極合剤層及び第2正極合剤層を圧延して合剤層密度が3.6g/cmとなるようにした後、所定の電極サイズに切断して、帯状の正極を作製した。圧延後において、第1正極合剤層の厚みと第2正極合剤層の厚みは略同じであった。また、正極の一部に正極集電体が露出した露出部を設け、当該露出部にAl製の正極リードの一端を超音波溶接で固定した。
【0047】
[負極の作製]
人造黒鉛と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)とを、96:2:2の質量比で混合し、水を適量加えて、負極合剤スラリーを調製した。次に、当該負極合剤スラリーを厚み12μmの銅箔からなる負極集電体の両面にドクターブレード法により塗布し、塗膜を乾燥させた。ローラを用いて乾燥した塗膜を圧延して合剤層密度が1.55g/cmとなるようにした後、所定の電極サイズに切断して、帯状の負極を作製した。また、負極の一部に負極集電体が露出した露出部を設け、当該露出部にNi製の負極リードの一端を超音波溶接で固定した。
【0048】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを、20:20:60の体積比(25℃、1気圧)で混合した。当該混合溶媒にLiPFを1.2mol/Lの濃度で溶解させて電解液を調製した。
【0049】
[二次電池の作製]
上記の正極及び負極を、オレフィン系樹脂からなる微多孔膜のセパレータを介して渦巻状に巻回することにより、巻回型の電極体を作製した。当該電極体の上下に絶縁板をそれぞれ配置し、電極体を外装缶内に収容した。外装缶の外形は、高さが65mm、直径が18であった。負極リードを有底円筒形状の外装缶の底部に溶接し、正極リードを封口体にそれぞれ溶接した。外装缶内に非水電解質を注入した後、ガスケットを介して封口体により外装缶の開口部を封止して、非水電解質二次電池を作製した。
【0050】
[容量維持率の評価]
上記二次電池を、環境温度25℃の下、0.5Cの定電流で4.2Vまで充電し、4.2Vの定電圧で1/50Cになるまで充電を行った。その後、0.2Cの定電流で2.5Vになるまで放電を行い、この時の放電容量を初期放電容量とした。
【0051】
次に、二次電池を、環境温度25℃の下、0.5Cの定電流で4.2Vまで充電し、4.2Vの定電圧で1/50Cになるまで充電を行った後、1.0Cの定電流で2.5Vになるまで放電を行った。この充放電を1サイクルとして、500サイクル行った。
【0052】
サイクル試験の二次電池を、環境温度25℃の下、0.5Cの定電流で4.2Vまで充電し、4.2Vの定電圧で1/50Cになるまで充電を行った。その後、0.2Cの定電流で2.5Vになるまで放電を行い、この時の放電容量を500サイクル後放電容量とした。初期放電容量と500サイクル後放電容量から、下記式により容量維持率を算出した。
容量維持率(%)=(500サイクル後放電容量÷初期放電容量)×100
【0053】
<実施例2~18、比較例1~22>
第1正極活物質及び第2正極活物質として、Liを除く金属元素を表1及び表2に示す質量比で含むリチウム遷移金属複合酸化物粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして二次電池を作製し、評価を行った。なお、リチウム遷移金属複合酸化物粒子を作製する際のZr、Y、Nb、及びMgの原料としては、各々、ZrO、Y、Nb、及びMgOを用いた。
【0054】
実施例の容量維持率を表1に示し、比較例の容量維持率を表2に示す。なお、表1におけるα及びβは、各々、第1正極活物質及び第2正極活物質におけるNi、Co、Al以外の金属元素を示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
いずれの実施例においても、比較例に比べて容量維持率が高かった。即ち、実施例においては、高容量、且つ、サイクル特性が向上した二次電池を得ることができた。特に実施例1~10では、実施例11~18に比べて容量維持率が高く、第1正極合剤層におけるNi及びCaの含有率、並びに、第2正極合剤層におけるNi及びSrの含有率により好ましい範囲があることがわかった。
【符号の説明】
【0058】
10 二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、15 外装体、16 封口体、17,18 絶縁板、19 正極リード、20 負極リード、21 溝入部、22 フィルタ、23 下弁体、24 絶縁部材、25 上弁体、26 キャップ、26a 開口部、27 ガスケット、30 正極集電体、32 第1正極合剤層、34 第2正極合剤層
図1
図2