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特許7665455繊維強化樹脂材料及びその製造方法並びに繊維強化樹脂構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂材料及びその製造方法並びに繊維強化樹脂構造体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/02 20060101AFI20250414BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20250414BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20250414BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20250414BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20250414BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20250414BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20250414BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20250414BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20250414BHJP
   B29K 77/00 20060101ALN20250414BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20250414BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20250414BHJP
【FI】
B32B5/02 B
B32B5/28 A
B32B27/04 Z
B32B25/08
B32B27/34
B29C70/16
B29C70/42
C08J5/04
B29K23:00
B29K77:00
B29K105:08
B29L9:00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021117222
(22)【出願日】2021-07-15
(65)【公開番号】P2023013212
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2024-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 恵介
(72)【発明者】
【氏名】浅利 利洋
(72)【発明者】
【氏名】野村 理明
(72)【発明者】
【氏名】河田 順平
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】中垣 貴紀
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/203552(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/168720(WO,A1)
【文献】特開2013-189634(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221388(WO,A1)
【文献】特開2023-22777(JP,A)
【文献】国際公開第2022/059598(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/202754(WO,A1)
【文献】特開2018-123284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08-15/14
B29C41/00-41/36
41/46-41/52
70/00-70/88
B32B1/00-43/00
C08J5/04-5/10
5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質層と軟質層とが交互に積層された積層構造を有し、
前記硬質層は、引き揃えられた連続炭素繊維と、前記連続炭素繊維同士を結着するポリオレフィンと、を有する繊維集合層であり、
前記軟質層は、ポリオレフィン、ポリアミド及び前記ポリアミドに対する反応性基を有する変性エラストマーが配合された熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層であることを特徴とする繊維強化樹脂材料。
【請求項2】
前記変性エラストマーは、エチレン若しくはプロピレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの共重合体を骨格としたオレフィン系熱可塑性エラストマー、及び/又は、スチレン骨格を有するスチレン系熱可塑性エラストマーである請求項1に記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項3】
前記ポリアミドが、植物由来ポリアミドである請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項4】
前記ポリオレフィン、前記ポリアミド及び前記変性エラストマーの合計量を100質量%とした場合に、前記ポリオレフィンの割合が50質量%以上である請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項5】
繊維含有率が、50体積%未満である請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項6】
繊維含有率が、22~37体積%である請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の繊維強化樹脂材料。
【請求項7】
請求項1乃至のうちのいずれかに記載の繊維強化樹脂材料からなることを特徴とする繊維強化樹脂構造体。
【請求項8】
請求項1乃至のうちのいずれかに記載の繊維強化樹脂材料の製造方法であって、
前記硬質層となる前記連続炭素繊維同士が前記ポリオレフィンによって結着されたシート状物と、
前記軟質層となる前記熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂シートと、を前記積層構造が得られるように積層する積層工程と、
前記積層工程を経て得られた積層物を積層方向へ加熱圧縮する熱圧工程と、を備えることを特徴とする繊維強化樹脂材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂材料及びその製造方法並びに繊維強化樹脂構造体に関する。更に詳しくは、熱可塑性樹脂を利用した繊維強化樹脂材料及びその製造方法並びに繊維強化樹脂構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄等に代表される金属材料を代替し得るものとして繊維強化樹脂、特に補強繊維として炭素繊維を用いた炭素繊維強化樹脂(CFRP)が注目されている。繊維強化樹脂は、強度及び剛性において優れ、尚且つ、金属材料と比較して軽量にできるという点から有望視される。繊維強化樹脂にも、既に様々な複合態様が知られており、なかでも、補強繊維を特定の方向へ引き揃えて配置したユニダイレクションタイプ(UDタイプ)の繊維強化樹脂は、強度及び剛性が最大になることから注目されている。
繊維強化樹脂に関する技術としては、下記特許文献1及び2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-119433号公報
【文献】特開2018-123284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、UDタイプの繊維強化樹脂材料は、強度及び剛性が最大になることから注目されるが、脆性破壊を生じるという点において改善の余地があると考えられる。即ち、金属材料は、負荷変形に耐え切れなくなった場合、塑性変形することができるが、UDタイプの繊維強化樹脂は、負荷変形に耐え切れなくなった場合、脆性破壊を起こしてしまう。この脆性破壊を起こし易いという特性が、金属材料を代替するうえで問題となる。
【0005】
従来、多くの繊維強化樹脂材料では、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂など、熱硬化性樹脂が用いられてきた。熱硬化性樹脂は、樹脂としての強度及び剛性に優れるが、破壊歪は小さい傾向にあり、脆性破壊を起こし易くする因子となり得る。この点、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いることで、熱硬化性樹脂と比べて破壊歪を大きくすることができる。このため、熱可塑性樹脂の利用は脆性破壊対策の1つの手段となり得る。
このような観点において、上記特許文献1には、高耐久な曲げ強度及び曲げ弾性率を有することを目的として、(A)(B)(C)がこの順に積層され、(A)がポリアミド系樹脂をマトリクス樹脂とする繊維強化樹脂からなる繊維強化樹脂成形体であり、(B)がポリアミド系樹脂とポリエチレン系樹脂を積層してなり、ポリアミド系樹脂側を(A)繊維強化樹脂成形体側に配置してなる成形体であり、(C)がポリエチレン系樹脂からなる成形体である、という複合成形体が開示されている。
また、上記特許文献2には、割れ難い繊維強化材料を目的として、繊維と、繊維を被覆しているマトリックス材と、を有し、マトリックス材が、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、及び、ポリアミド樹脂に対する反応性基を有する変性エラストマーを配合してなる熱可塑性樹脂組成物である繊維強化材料が開示されている。
【0006】
即ち、上記特許文献1及び2では、いずれも、マトリックス材として熱可塑性樹脂が利用されている。しかしながら、特許文献1では、脆性破壊に関する着眼はなく、積層構造を構成する材料としてポリアミドとポリエチレンとが別層を構成するために、層間における破壊進展を止める手立てがなく、結果的に、脆性破壊を十分に抑制できないという問題がある。一方、上記特許文献2では、割れ難い繊維強化材料が実現され得る点で優れるが、その全体が統一されたマトリックス樹脂から形成されるため、厚さ方向におけるクラック進展を抑制する作用を得難いという点で改善の余地があると考えられる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来に比べて脆性破壊の発生を抑制することができる繊維強化樹脂材料及びその製造方法並びに繊維強化樹脂構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は以下に示される。
[1]本発明の繊維強化樹脂材料は、硬質層と軟質層とが交互に積層された積層構造を有し、
前記硬質層は、引き揃えられた連続炭素繊維と、前記連続炭素繊維同士を結着するポリオレフィンと、を有する繊維集合層であり、
前記軟質層は、ポリオレフィン、ポリアミド及び前記ポリアミドに対する反応性基を有する変性エラストマーが配合された熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層であることを要旨とする。
[2]本発明の繊維強化樹脂材料では、前記変性エラストマーは、エチレン若しくはプロピレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの共重合体を骨格としたオレフィン系熱可塑性エラストマー、及び/又は、スチレン骨格を有するスチレン系熱可塑性エラストマーとすることができる。
[3]本発明の繊維強化樹脂材料では、前記ポリアミドが、植物由来ポリアミドであるものとすることができる。
[4]本発明の繊維強化樹脂材料では、前記ポリオレフィン、前記ポリアミド及び前記変性エラストマーの合計量を100質量%とした場合に、前記ポリオレフィンの割合が50質量%以上であるものとすることができる。
[5]本発明の繊維強化樹脂材料では、繊維含有率が、50体積%未満であるものとすることができる。
[6]本発明の繊維強化樹脂構造体は、本発明の繊維強化樹脂材料からなることを要旨とする。
[7]本発明の繊維強化樹脂材料の製造方法は、前記硬質層となる前記連続炭素繊維同士が前記ポリオレフィンによって結着されたシート状物と、
前記軟質層となる前記熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂シートと、を前記積層構造が得られるように積層する積層工程と、
前記積層工程を経て得られた積層物を積層方向へ加熱圧縮する熱圧工程と、を備えることを要旨とする
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維強化樹脂材料及び繊維強化樹脂構造体によれば、従来に比べて脆性破壊の発生を抑制することができる。とりわけ、破壊歪の大きい繊維強化樹脂材料及び繊維強化樹脂構造体を得ることができる。
本発明の繊維強化樹脂材料の製造方法によれば、従来に比べて脆性破壊し難い繊維強化樹脂材料及び繊維強化樹脂構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
図1】繊維強化樹脂材料の一例の説明図である。
図2】繊維強化樹脂材料の製造方法の一例の説明図である。
図3】軟質層をなす熱可塑性樹脂組成物の相構造の一例の説明図である。
図4】軟質層をなす熱可塑性樹脂組成物の相構造の他例の説明図である。
図5】実施例の繊維強化樹脂材料の断面を拡大して示す説明図である。
図6】実施例の繊維強化樹脂材料の断面を拡大して示す説明図である。
図7】繊維含有率と機械特性との相関を示す相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ここで示される事項は、例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
尚、本明細書では特記しない限り、「XX~YY」の記載は「XX以上YY以下」を意味するものとする。
【0012】
[1]繊維強化樹脂材料
本発明の繊維強化樹脂材料(1)は、硬質層(11)と軟質層(13)とが交互に積層された積層構造(15)を有し、
硬質層(11)は、引き揃えられた連続炭素繊維(111)と、連続炭素繊維同士を結着するポリオレフィン(113)と、を有する繊維集合層(11)であり、
軟質層(13)は、ポリオレフィン、ポリアミド及び前記ポリアミドに対する反応性基を有する変性エラストマーが配合された熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層(13)であることを特徴とする(図1参照)。
【0013】
上記「硬質層(11)」は、引き揃えられた複数本の連続炭素繊維111と、この連続炭素繊維111同士を結着する結着樹脂113であるポリオレフィンと、を有する。硬質層11は、連続炭素繊維111の含有により曲げ弾性率が高くなっており、軟質層13よりも曲げ弾性率が大きい層である。また、硬質層11の構成は、通常、繊維を主体とするものであるという観点からは、繊維集合層11と表現できる。
【0014】
上記「連続炭素繊維(111)」は、硬質層11(繊維集合層11)を構成する構成繊維である。連続炭素繊維111は、硬質層11内、更には、繊維強化樹脂材料1内、において補強材となる。連続炭素繊維111は、繊維長が長い(長繊維)炭素繊維であることを意味する。具体的な長さは限定されないが、例えば、連続炭素繊維111の繊維長は15mm以上とすることができる。この繊維長は、更に50mm以上が好ましく、100mm以上がより好ましく、500mm以上が更に好ましい。最大繊維長は限定されないが、例えば、本繊維強化樹脂材料からなる構造体では、その一端から他端まで一連に連続された炭素繊維を含むことができる。この場合、最大繊維長は、例えば、1×10mm以下とすることができる。
【0015】
尚、硬質層11は、連続炭素繊維以外に、繊維長が短い非連続炭素繊維(短繊維)を含むことができる。非連続炭素繊維を含む場合のその含有量限定されないが、例えば、硬質層11に含まれる繊維全体を100質量%とした場合に、50質量%未満とすることができ、25質量%以下とすることができ、5質量%以下とすることができる。また、非連続炭素繊維の繊維長は限定されないが、15mm未満とすることができる。
【0016】
硬質層11の層厚は限定されないが、例えば、0.01~5000μmとすることができ、0.1~1000μmとすることができ、1~500μmとすることができ、5~250μmとすることができる。硬質層の目付は限定されないが、例えば、0.1~100000g/mとすることができる。
尚、硬質層11の層厚は、走査型電子顕微鏡観察で測定できる。より具体的には、繊維強化樹脂材料の積層方向の断面を拡大した静止画像内において、任意の10ヶ所の厚さを実測し、その平均値を当該層厚とすることができる。
【0017】
連続炭素繊維111は、高い引張強さを有する繊維であることが好ましく、例えば、JIS L1015による引張強さにおいて7cN/dtex以上(通常50cN/dtex)を有する繊維が好ましい。更に、繊維の形態は限定されないが、通常、フィラメントヤーンであるが、モノフィラメントを用いてもよく、マルチフィラメントを用いてもよく、これらを併用してもよい。
また、連続炭素繊維111の種類は限定されず、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0018】
連続炭素繊維は、束(トウ)として用いることができるが、この場合、束を構成する連続炭素繊維の本数は限定されず、例えば、1000本以上とすることができる。この本数は、更に、1000~50000本とすることができ、更に1500~40000本とすることができ、更に2000~30000本とすることができる。
また、連続炭素繊維の太さは限定されないが、例えば、平均直径を1000~30000nm、更には1000~10000nmとすることができる。
【0019】
上記「結着樹脂(113)」は、ポリオレフィンである。ポリオレフィン(以下、単に「PO」と略記することがある)の種類は限定されず、POには、オレフィンの単独重合体(ホモポリマー)及び/又はオレフィンの共重合体(コポリマー)が含まれる。また、POを構成するオレフィンは限定されず、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。即ち、ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ1-ヘキセン、ポリ4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。これら重合体は1種のみで用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記のうち、ポリエチレンには、エチレン単独重合体、及び、エチレンと他のオレフィンとの共重合体が含まれる。このうち、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-へキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体等が挙げられる(但し、全構成単位数のうちの50%以上がエチレンに由来する)。
また、ポリプロピレンには、プロピレン単独重合体、及び、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体が含まれる。このうち、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体を構成する、他のオレフィンとしては、前述の各種オレフィン(但し、プロピレンを除く)が挙げられる。また、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。尚、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体は、全構成単位数のうちの50%以上がプロピレンに由来する。
【0021】
尚、ここでいうPOは、PAに対して親和性を有さないPOであり、且つ、PAに対して反応し得る反応性基を有さないPOである。この点において、PA及びPOに対する相容化剤(変性エラストマー)と異なる。
また、POの分子量は限定されず、例えば、10,000~700,000とすることができ、100,000~600,000とすることができ、200,000~550,000とすることができ、200,000~450,000とすることができる。
この分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量である。また、ポリオレフィンとしてホモポリマーを用いる場合、重量平均分子量の値は、各々数平均分子量の値へ読み換えることができる。
【0022】
硬質層11の繊維含有率は限定されないが、硬質層11全体を100体積%とした場合に、連続炭素繊維の体積含有率の下限は、通常、25体積%以上であり、30体積%以上が好ましく、35体積%以上がより好ましく、40体積%以上が更に好ましく、45体積%以上が特に好ましい。一方、硬質層11の繊維含有率の上限は、通常、90体積%以下であり、80体積%以下とすることができ、70体積%以下とすることができ、65体積%以下とすることができ、60体積%以下とすることができる。
【0023】
上記「軟質層(13)」は、ポリオレフィン、ポリアミド及びポリアミドに対する反応性基を有する変性エラストマーが配合された熱可塑性樹脂組成物からなる層である。軟質層13は、連続炭素繊維を含んでおらず、硬質層11よりも曲げ弾性率が小さい層となっている。軟質層13は、この熱可塑性樹脂組成物を主体とするものであるという観点からは、樹脂層13と表現できる。
本繊維強化樹脂材料1では、硬質層11の層間に軟質層13を介することにより、硬質層11で生じたクラックの進展を阻止しつつ、硬質層11と軟質層13との層間における剥離も阻止することができると考えられる。一方で、軟質層13は、耐衝撃性及び曲げ弾性率のバランスに優れる特定の熱可塑性樹脂組成物から形成されるため、硬質層11にクラックを生じたとしても、軟質層13は破断され難く、繊維強化樹脂材料全体としては付加に耐えることができると考えられる。このため、硬質層11で生じたクラックが積層方向に貫通することを阻止して脆性破壊を生じ難くしつつ、破壊歪を大きくすることができているものと考えられる。
【0024】
軟質層13は、硬質層11間に位置する層であり、繊維補強されていない層である。軟質層13の厚さは限定されないが、通常、5000μm以下である。この厚さは、例えば、0.1~2000μmとすることができ、0.2~500μmとすることができ、0.3~250μmとすることができ、0.4~190μmとすることができる。
尚、軟質層13の層厚は、走査型電子顕微鏡観察で測定できる。より具体的には、繊維強化樹脂材料の積層方向の断面を拡大した静止画像内において、任意の10ヶ所の厚さを実測し、その平均値を当該層厚とすることができる。
【0025】
軟質層13を構成する熱可塑性樹脂組成物は、前述の通り、ポリオレフィン、ポリアミド及びポリアミドに対する反応性基を有する変性エラストマーが配合された熱可塑性樹脂組成物である。
【0026】
上述のうち、ポリオレフィンの種類は限定されず、前述した結着樹脂と同様のPOを利用できる。
そして、軟質層13の熱可塑性樹脂組成物を構成するPO(以下、単に「PO13」と略記することがある)と、硬質層11の結着樹脂を構成するPO(以下、単に「PO11」と略記することがある)とは、共通してもよく、共通しなくてもよいが、共通する方が好ましい。
即ち、共通する態様としては、(1)軟質層13が1種のみのPO13から構成され、硬質層11が1種のみのPO11から構成され、PO13とPO11とが同じである態様、(2)軟質層13が1種のPO13を含む複数種のポリオレフィンから構成され、硬質層11が1種のみのPO11から構成され、PO13とPO11とが同じである態様、(3)軟質層13が1種のみのPO13から構成され、硬質層11が1種のPO11を含む複数種のポリオレフィンから構成され、PO13とPO11とが同じである態様、(4)軟質層13が複数種のPO13から構成され、硬質層11が複数種のPO11から構成され、PO13とPO11とが全て同じである態様、などを例示できる。
【0027】
上述のうち、ポリアミド(以下、単に「PA」と略記することがある)の種類は限定されず、例えば、PA6、PA66、PA11、PA610、PA612、PA614、PA12、PA6T、PA6I、PA9T、PAM5T、PA1010、PA1012、PA10T、PAMXD6、PA6T/66、PA6T/6I、PA6T/6I/66、PA6T/2M-5T、PA9T/2M-8T等が挙げられる。これらのポリアミドは、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、本繊維強化樹脂材料では、より大きな破壊歪を得ることができ、脆性破壊を抑制できるという観点からは、植物由来ポリアミド(植物由来の単量体を用いたポリアミド)を選択できる。植物由来ポリアミドとしては、PA11、PA610、PA612、PA614、PA1010、PA1012、PA10T等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの植物由来ポリアミドは、環境性(カーボンニュートラル)及び持続可能性の観点からも好ましいといえる。
【0028】
ポリアミドの分子量は限定されず、例えば、5,000~100,000とすることができ、7,500~50,000が好ましく、10,000~50,000がより好ましい。尚、この分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0029】
上述のうち、変性エラストマーは、ポリアミドに対する反応性基を有したエラストマーである。この変性エラストマーは、更に、ポリアミドに対しては、上述の反応性基を利用して親和性を示すと同時に、別途、ポリオレフィンに対しても親和性を示すエラストマーであることが好ましい。即ち、変性エラストマーは、ポリアミドに対する反応性基を有し、ポリオレフィン及びポリアミドの双方に対して相容性を有する相容化剤であることが好ましい。
尚、変性エラストマーは、熱可塑性樹脂組成物内において、未反応の変性エラストマーとして含まれてもよく、ポリアミドとの反応物として含まれてもよく、これらの両方の形態で含まれてもよい。
【0030】
変性エラストマーが有する反応性基としては、酸無水物基(-CO-O-OC-)、カルボキシル基(-COOH)、エポキシ基{-CO(2つの炭素原子と1つの酸素原子とからなる三員環構造)}、オキサゾリン基(-CNO)及びイソシアネート基(-NCO)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
反応性基は、変性前のエラストマー(未変性エラストマー)に対して、変性により導入することができる。具体的には、エラストマーの酸変性物、エラストマーのエポキシ変性物、及び、エラストマーのオキサゾリン変性物等が挙げられる。これらのなかでも、エラストマーの酸変性物が好ましく、更には、酸無水物又はカルボン酸によるエラストマーの変性物であることがより好ましい。
変性エラストマーは、分子の側鎖又は末端に、酸無水物基又はカルボキシル基を有することが特に好ましい。酸変性量は特に限定されず、例えば、1分子の変性エラストマーに含まれる酸無水物基又はカルボキシル基の数は、1以上であることが好ましく、より好ましくは2~50、更に好ましくは3~30、特に好ましくは5~20である。
これらの変性エラストマーは、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0031】
変性前のエラストマーとしては、例えば、オレフィン系エラストマーやスチレン系エラストマー等が挙げられる。ポリレフィンに対する相容性の観点から、特に、オレフィン系エラストマーが好ましい。
オレフィン系エラストマーとしては、炭素数が3~8のα-オレフィンに由来する構造単位を含むα-オレフィン系共重合体であることが好ましく、エチレン・α-オレフィン共重合体、α-オレフィン共重合体、α-オレフィン・非共役ジエン共重合体、又は、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体とすることができる。これらのうち、エチレン・α-オレフィン共重合体、α-オレフィン共重合体、及びエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体が特に好ましい。
【0032】
尚、非共役ジエンとしては、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘキサジエン等の直鎖の非環状ジエン化合物;5-メチル-1,4-ヘキサジエン、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、5,7-ジメチルオクタ-1,6-ジエン、3,7-ジメチル-1,7-オクタジエン、7-メチルオクタ-1,6-ジエン、ジヒドロミルセン等の分岐連鎖の非環状ジエン化合物;テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ[2.2.1]-ヘプタ-2,5-ジエン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロペニル-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、5-シクロヘキシリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン等の脂環式ジエン化合物等が挙げられる。
【0033】
具体的なオレフィンエラストマーとしては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-ペンテン共重合体、プロピレン・1-ヘキセン共重合体、プロピレン・1-オクテン共重合体等が挙げられる。これらのうち、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体及びエチレン・1-オクテン共重合体が好ましい。
【0034】
また、スチレン系エラストマー(即ち、スチレン骨格を有するスチレン系熱可塑性エラストマー)としては、芳香族ビニル化合物と、共役ジエン化合物とのブロック共重合体及びその水素添加物が挙げられる。
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン等のアルキルスチレン;p-メトキシスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
また、共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、メチルペンタジエン、フェニルブタジエン、3,4-ジメチル-1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン等が挙げられる。
【0035】
具体的なスチレン系エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SIS)、スチレン・エチレン/ブチレン・スチレン共重合体(SEBS)、スチレン・エチレン/プロピレン・スチレン共重合体(SEPS)等が挙げられる。
【0036】
酸変性用の酸無水物としては、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ブテニル無水コハク酸等が挙げられる。これらのうち、無水マレイン酸、無水フタル酸及び無水イタコン酸が好ましい。
また、カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられる。
【0037】
軟質層13の熱可塑性樹脂組成物を構成する変性エラストマーとしては、上述の各種変性エラストマーのなかでも、酸無水物変性されたエラストマーが好ましく、特に無水マレイン酸変性されたエラストマーが好ましく、更には、炭素数が3~8のα-オレフィンに由来する構造単位を含むα-オレフィン系共重合体の酸変性物が好ましい。具体的には、エチレン若しくはプロピレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの共重合体を骨格としたオレフィン系熱可塑性エラストマーが好ましく、より具体的には、無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン・1-ブテン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン・1-ヘキセン共重合体及び無水マレイン酸変性エチレン・1-オクテン共重合体等の、無水マレイン酸により変性されたエラストマーが好ましい。具体的には、三井化学株式会社製のα-オレフィンコポリマー「タフマーシリーズ」(商品名)やダウケミカル社製の「AMPLIFYシリーズ」(商品名)等を用いることができる。
【0038】
変性エラストマーの分子量は特に限定されないが、例えば、10,000~500,000とすることができ、20,000~500,000が好ましく、30,000~300,000がより好ましい。
尚、変性エラストマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0039】
軟質層13をなす熱可塑性樹脂組成物に含まれるポリオレフィン(PO)、ポリアミド(PA)及び変性エラストマー(以下、単に「変性ER」ともいう)の各々割合は限定されないが、POとPAと変性ERの含有量の合計を100質量%とした場合に、各々の割合は以下の通りにすることができる。
POの割合は、2~90質量%とすることができ、5~85質量%が好ましく、更に10~83質量%が好ましく、更に15~80質量%が好ましく、更に20~78質量%が好ましく、更に25~75質量%が好ましく、更に30~73質量%が好ましく、更に35~70質量%が好ましい。
PA及び変性ER(これらの一部又は全部は互いに反応されていてもよい)の合計の割合は、10~98質量%とすることができ、15~95質量%が好ましく、更に17~90質量%が好ましく、更に20~85質量%が好ましく、更に22~80質量%が好ましく、更に25~75質量%が好ましく、更に27~70質量%が好ましく、更に30~65質量%が好ましい。
PAの割合は、1~75質量%とすることができ、2~70質量%が好ましく、更に4~65質量%が好ましく、更に6~60質量%が好ましく、更に8~55質量%が好ましく、更に10~50質量%が好ましく、更に12~45質量%が好ましく、更に15~40質量%が好ましい。
変性ERの割合は、1~60質量%とすることができ、2~55質量%が好ましく、更に4~45質量%が好ましく、更に6~40質量%が好ましく、更に8~38質量%が好ましく、更に10~37質量%が好ましく、更に12~36質量%が好ましく、更に15~35質量%が好ましい。
【0040】
また、軟質層13をなす熱可塑性樹脂組成物に含まれるPO及びPAの合計を100質量%とした場合、PAの割合は、1.5~88質量%とすることができ、3~75質量%が好ましく、更に5~70質量%が好ましく、更に10~65質量%が好ましく、更に15~60質量%が好ましく、更に18~55質量%が好ましく、更に20~50質量%が好ましく、更に25~45質量%が好ましい。
更に、軟質層13をなす熱可塑性樹脂組成物に含まれるPA及び変性ERの合計を100質量%とした場合、変性ERの割合は、20~90質量%とすることができ、22~88質量%が好ましく、更に25~86質量%が好ましく、更に27~75質量%が好ましく、29~70質量%が好ましく、更に32~66質量%が好ましく、更に36~60質量%が好ましい。
【0041】
軟質層13をなす熱可塑性樹脂組成物の相構造は限定されないが、下記相構造(1)~(3)を取り得る。
相構造(1):POを含んだ連続相(A)と、連続相(A)中に分散された、PA及び変性ERを含んだ分散相(B)と、を有する相構造(図3参照)。但し、PAを含んだ連続相、及び、この連続相中に分散された分散相、を有する他の相構造は共存されない。
相構造(2):PAを含んだ連続相と、この連続相中に分散された、POを含んだ分散相と、を有する相構造。但し、POを含んだ連続相、及び、この連続相中に分散された分散相、を有する他の相構造は共存されない。
相構造(3):POを含んだ連続相(A)と、連続相(A)中に分散された、PA及び変性ERを含んだ分散相(BA1)と、PAを含んだ連続相(A)と、連続相(A)中に分散された、変性ERを含んだ分散相(BA2)と、を有する相構造(図4参照)。
【0042】
相構造(1)では、更に、相構造(1)中の分散相(B)が、この分散相(B)内における連続相であって、PAを含む連続相(B)と、この連続相(B)内で分散された微分散相であって、変性ERを含む微分散相(B)と、を有することができる(図3参照)。この場合、相構造(1)は、分散相(B)内に更に微分散相(B)を有する多重相構造を呈することになる。尚、相構造(1)において変性ERは、未反応の変性ERであってもよく、PAとの反応物であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0043】
相構造(3)は、連続相(A)と連続相(A)との2つの連続相が共存された共連続相構造を呈することができる。また、連続相(A)内の分散相(BA1)は、この分散相(BA1)内における連続相であって、PAを含む連続相(BA11)と、この連続相(BA11)内で分散された微分散相であって、変性ERを含む微分散相(BA12)と、を有することができる(図4参照)。この場合、相構造(3)は、分散相(BA1)内に更に微分散相(BA12)を有する多重相構造を呈することになる。尚、相構造(3)において変性ERは、未反応の変性ERであってもよく、PAとの反応物であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0044】
相構造(1)において、POは連続相(A)の主成分(連続相A全体に対し、通常70質量%以上であり、100質量%であってもよい)である。また、PA及び変性ERは分散相(B)の主成分(分散相B全体に対し、通常70質量%以上であり、100質量%であってもよい)である。更に、相構造(1)が前述の多重相構造を呈する場合、PAは連続相(B)の主成分(連続相B1全体に対し、通常70質量%以上であり、100質量%であってもよい)である。また、変性ERは微分散相(B)の主成分(微分散相B全体に対し、通常70質量%以上であり、100質量%であってもよい)である。
【0045】
相構造(3)の場合、POは連続相(A)の主成分(連続相A全体に対し、通常70質量%以上であり、100質量%であってもよい)である。また、PA及び変性ERは分散相(BA1)の主成分(分散相BA1全体に対し、通常70質量%以上であり、100質量%であってもよい)である。また、相構造(3)が前述の多重相構造を呈する場合、PAは連続相(BA11)の主成分(連続相BA11全体に対し、通常70質量%以上であり、100質量%であってもよい)である。また、変性ERは微分散相(BA12)の主成分(微分散相BA12全体に対し、通常70質量%以上であり、100質量%であってもよい)である。
また、PAは連続相(A)の主成分(連続相A全体に対し、通常70質量%以上であり、100質量%であってもよい)である。また、変性ERは分散相(BA2)の主成分(分散相BA2全体に対し、通常70質量%以上であり、100質量%であってもよい)である。
【0046】
これらの相構造は、PA及び変性ERの溶融混練物と、POと、を溶融混練することにより、より確実に得ることができる。
尚、耐衝撃樹脂では、変性ERが有する反応性基がPAに対して反応された反応物となることができる。この場合、反応物は、相構造(1)では、例えば、連続相(A)と分散相(B)との界面、及び/又は、連続相(B)と微分散相(B)との界面、に存在できる。同様に、相構造(3)では、例えば、連続相(A)と連続相(A)との界面、連続相(A)と分散相(BA1)との界面、連続相(BA11)と微分散相(BA12)との界面、等に存在できる。
【0047】
各種相構造は、酸素プラズマエッチング処理した後、更に、オスミウムコート処理を施した試験片の処理面を電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM)で観察できる。特に、分散相及び微分散相は、この方法において1000倍以上(通常10,000倍以下)に拡大した画像で観察できる。また、各相を構成する成分は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いた観察時にエネルギー分散型X線分析(EDS)を行うことで特定できる。
【0048】
また、軟質層13は、上述したポリオレフィン、ポリアミド及び変性エラストマー以外にも、必要に応じて他成分を含有できる。他成分としては、各種添加剤が挙げられる。即ち、例えば、造核剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、光安定剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、顔料、染料、分散剤、銅害防止剤、中和剤、気泡防止剤、ウェルド強度改良剤、天然油、合成油、ワックス等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0049】
造核剤及び補強フィラーとしては、タルク、シリカ、クレー、モンモリロナイト、カオリン等のケイ酸塩;炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物;アルミニウム、鉄、銀、銅等の金属;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物;硫酸バリウム等の硫化物;木炭、竹炭等の炭化物;チタン酸カリウム、チタン酸バリウム等のチタン化物;セルロースミクロフィブリル、酢酸セルロース等のセルロース類;フラーレン等のカーボン類等が挙げられる。
【0050】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物、有機ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。
熱安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾエート系化合物等が挙げられる。
帯電防止剤としては、ノニオン系化合物、カチオン系化合物、アニオン系化合物等が挙げられる。
難燃剤としては、ハロゲン系化合物、リン系化合物(窒素含有リン酸塩化合物、リン酸エステル等)、窒素系化合物(グアニジン、トリアジン、メラミン又はこれらの誘導体等)、無機化合物(金属水酸化物等)、ホウ素系化合物、シリコーン系化合物、硫黄系化合物、赤リン系化合物等が挙げられる。
難燃助剤としては、アンチモン化合物、亜鉛化合物、ビスマス化合物、水酸化マグネシウム、粘土質珪酸塩等が挙げられる。
【0051】
上記「積層構造」は、硬質層11と軟質層13とが交互に積層された構造である。この積層構造は、本繊維強化樹脂材料1の製造時には、硬質層11となる連続炭素繊維同士がポリオレフィンにより結着されてなるシート状物S11と、軟質層13となる樹脂シートS13と、を交互に積層することによって形成される。より具体的には、例えば、交互に積層したこれらのシートの積層物1’を、その積層方向へ加熱及び加圧を行い、積層物1’を圧縮し、シート同士を一体化させることで、本繊維強化樹脂材料1を得ることができる。このような操作により、硬質層11と軟質層13とが強固に一体化されて、全体として1層化された繊維強化樹脂材料1を得ることができる。
【0052】
とりわけ、本繊維強化樹脂材料1では、硬質層11の結着樹脂113としてポリオレフィンが含まれ、軟質層13の熱可塑性樹脂組成物を構成分としてポリオレフィンを含む。このため、硬質層11と軟質層13との界面の接合を向上させ、衝撃や加重が付加された場合に両層間における層間剥離を抑制できる。従って、上記構成を有さない繊維強化樹脂材料と比較し、本繊維強化樹脂材料1はより大きな破壊歪を得ることができる。
上述の破壊歪の向上は、更に、硬質層11においてポリオレフィンが結着樹脂113の主成分(結着樹脂全体100質量%とした場合に50質量%以上)であり、尚且つ、軟質層13において、ポリオレフィンが熱可塑性樹脂組成物の主成分(結着樹脂全体100質量%とした場合に50質量%以上)である場合には、より顕著に得ることができる。
上述の破壊歪の向上は、加えて、軟質層13の熱可塑性樹脂組成物に含まれる変性エラストマーが、オレフィン系エラストマーである場合に、より顕著に得ることができる。
そして、上述の破壊歪の向上は、硬質層11においてポリプロピレンが結着樹脂113の主成分(結着樹脂全体100質量%とした場合に50質量%以上)であり、軟質層13において、ポリプロピレンが熱可塑性樹脂組成物の主成分(結着樹脂全体100質量%とした場合に50質量%以上)であり、軟質層13の熱可塑性樹脂組成物に含まれる変性エラストマーが、プロピレン・1-ブテン共重合体である場合に、とりわけ顕著に得ることができる。
【0053】
硬質層11(シート状物S11)は、結着樹脂113を含むため、上述のように、加熱及び加圧を行っても、硬質層11内への軟質層13の含浸は少ないか、或は、含浸されない。結果的に、軟質層13を構成する熱可塑性樹脂組成物が、軽度(例えば、硬質層11の表面部分のみ)に含浸された又は含浸されていない硬質層11と、硬質層11内へ含浸されず、2層の硬質層11間に配置された熱可塑性樹脂組成物からなる軟質層13と、が交互に積層された積層構造が形成される。
【0054】
本繊維強化樹脂材料における積層構造を構成する硬質層11と軟質層13との層数は限定されないが、例えば、2層の硬質層11と、その層間に配置された1層の軟質層13と、からなる積層構造とすることができる。また、2層の軟質層13と、その層間に配置された1層の硬質層11と、からなる積層構造とすることができる。更に、例えば、各々、2層以上100000層以下とすることができ、3層以上10000層以下とすることができ、4層以上1000層以下とすることができ、5層以上100層以下とすることができる。尚、本繊維強化樹脂材料は、上述の積層構造のみからなってもよいが、非積層構造を含んでもよい。
【0055】
尚、本繊維強化樹脂材料は、硬質層11、軟質層13及び積層構造15以外の他層を有さなくてもよいし、有してもよい。他層としては、意匠層、接合層(他材料との接合に利用される層)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0056】
[2]繊維強化樹脂材料の製造方法
前述した繊維強化樹脂材料は、どのように製造してもよいが、積層工程と熱圧工程とを備える方法により製造することができる。
このうち、積層工程は、硬質層11となるシート状物S11と、軟質層13となる樹脂シートS13と、を積層構造が得られるように積層する工程である。
また、熱圧工程は、積層工程を経て得られた積層物1’を積層方向へ加熱圧縮する工程である(図2参照)。
【0057】
上記「シート状物(S11)」は、硬質層11となるシート状のものであって、引き揃えられた複数本の連続炭素繊維111と、この連続炭素繊維111同士を結着する結着樹脂113であるポリオレフィンと、を有する。連続炭素繊維111については前述の通りであり、実質的には、繊維強化樹脂材料1となる前後において変化されない。
上記「樹脂シート(S13)」は、軟質層13の樹脂分である熱可塑性樹脂組成物がシート状にされたものである。この樹脂シートS13を構成する熱可塑性樹脂組成物は前述の通りであり、実質的には、繊維強化樹脂材料となる前後において変化されない。
【0058】
積層工程において、シート状物S11と樹脂シートS13とは、目的とする積層構造が得られるように積層すればよい。但し、この積層時には、目的とする積層構造が1回の熱圧工程によって得られるよう積層してもよいが、2回以上の熱圧工程を介して得られるよう積層することもできる。即ち、例えば、積層により上述の積層構造が得られる分割された積層構造を形成し、これらの各々を別々に加熱圧縮して、複数の予備積層構造を得たうえで、これらの予備積層構造を更に積層したうえで、得られた積層物を加熱圧縮して、目的とする繊維強化樹脂材料1を得ることもできる。即ち、分割しながら、最終的に一体化させて繊維強化樹脂材料1を得ることができる。
また、各積層時には、熱圧工程以前にシート同士が離間されないように、シート同士を接着する接着剤等を介在させてもよいし、介在させなくてもよい。
【0059】
また、熱圧工程で付与する加熱温度及び加圧圧力は限定されず、シート状物S11に用いる結着樹脂の種類や、樹脂シートS13に用いる熱可塑性樹脂組成物の種類により適宜の範囲にすることができる。例えば、シート状物S11に用いる結着樹脂としてポリプロピレンを選択し、樹脂シートS13を構成する熱可塑性樹脂組成物として、ポリプロピレンとポリアミド11とプロピレン由来構造を含んだオレフィン系エラストマーとを用いる場合、加熱温度は、140℃以上270℃以下とすることができ、160℃以上260℃以下とすることができ、180℃以上250℃以下とすることができる。また、加圧圧力は、0MPaを超えて9.81MPa以下とすることができ、0MPaを超えて9.0MPa以下とすることができ、0MPaを超えて7.0MPa以下とすることができる。
また、1枚の繊維強化樹脂材料1を得るに際して、複数回の熱圧工程を課す場合には、各々工程における加熱温度及び加圧圧力は、同じであってもよく異なってもよい。
【0060】
[3]繊維強化樹脂構造体
本発明の繊維強化樹脂構造体は、前述した繊維強化樹脂材料からなる。この繊維強化樹脂構造体は、繊維強化樹脂成形体といい換えることができる。
本繊維強化樹脂構造体の用途は特に限定されないが、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の外装材、内装材、構造材(ボディシェル、車体、航空機用胴体)及び衝撃吸収材等として用いることができる。これらのうち自動車用品としては、自動車用外装材、自動車用内装材、自動車用構造材、自動車用衝撃吸収材、エンジンルーム内部品等が挙げられる。
【0061】
具体的には、バンパー、スポイラー、カウリング、フロントグリル、ガーニッシュ、ボンネット、トランクリッド、カウルルーバー、フェンダーパネル、ロッカーモール、ドアパネル、ルーフパネル、インストルメントパネル、センタークラスター、ドアトリム、クオータートリム、ルーフライニング、ピラーガーニッシュ、デッキトリム、トノボード、パッケージトレイ、ダッシュボード、コンソールボックス、キッキングプレート、スイッチベース、シートバックボード、シートフレーム、アームレスト、サンバイザ、インテークマニホールド、エンジンヘッドカバー、エンジンアンダーカバー、オイルフィルターハウジング、車載用電子部品(ECU、TVモニター等)のハウジング、エアフィルターボックス、ラッシュボックス等のエネルギー吸収体、フロントエンドモジュール等のボディシェル構成部品などが挙げられる。
【0062】
更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。即ち、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥等)の表装材、構造材、更には、ユニットバス、浄化槽などとすることができる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等として用いることもできる。また、家電製品(薄型TV、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、携帯電話、携帯ゲーム機、ノート型パソコン等)の筐体及び構造体などの成形体とすることもできる。
【実施例
【0063】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]使用材料について
(1-1)シート状物S11(硬質層11となる)
ポリプロピレンを結着樹脂として、引き揃えの連続炭素繊維同士を結着したユニダイレクションタイプのシート状物(三井化学株式会社製、品名「TAFNEX」、厚さ160μm、繊維含有率50体積%)を用いた。
【0064】
(1-2)樹脂シートS13(軟質層13となる)
熱可塑性樹脂組成物T:ポリプロピレンとPA11と変性エラストマーとのポリプロピレン母相を有する複合樹脂(トヨタ紡織株式会社製)、具体的には、ポリプロピレン(重量平均分子量320000のホモポリマー)と、PA11(アルケマ社製、品名「リルサン BMN O」、重量平均分子量18000)と、変性エラストマー(無水マレイン酸変性エチレン・ブテン共重合体、三井化学株式会社製、品名「タフマー MH7020」)と、を質量割合55%:25%:20%で用いた複合材料であり、PA11と変性エラストマーとの溶融混錬物を、ポリプロピレンと更に溶融混錬して得られた熱可塑性樹脂組成物T。
樹脂シートS131:熱可塑性樹脂組成物Tを厚さ15μmに成形したもの
樹脂シートS132:熱可塑性樹脂組成物Tを厚さ25μmに成形したもの
樹脂シートS133:熱可塑性樹脂組成物Tを厚さ160μmに成形したもの
【0065】
[2]繊維強化樹脂材料の作製
(1)実施例の繊維強化樹脂材料
(1-1)実施例1-1~1-3
23枚のシート状物S11と、24の樹脂シートS131とを、交互に積層(合計層厚4040μm)した後、温度230℃且つ圧力0.3~5.0MPaの条件で加熱及び加圧を行って実施例1-1~1-3の繊維強化樹脂材料を得た。
【0066】
(1-2)実施例2-1~2-5
22枚のシート状物S11と、23の樹脂シートS132とを、交互に積層(合計層厚4095μm)した後、温度230℃且つ圧力0.3~5.0MPaの条件で加熱及び加圧を行って実施例2-1~2-5の繊維強化樹脂材料を得た。
【0067】
(1-3)実施例3-1~3-5
12枚のシート状物S11と、13の樹脂シートS133とを、交互に積層(合計層厚4000μm)した後、温度230℃且つ圧力0.3~5.0MPaの条件で加熱及び加圧を行って実施例3-1~3-5の繊維強化樹脂材料を得た。
【0068】
(2)比較例の繊維強化樹脂材料
25枚のシート状物S11を積層(合計層厚4000μm)した後、温度230℃且つ圧力0.3~5.0MPaの条件で加熱及び加圧を行って比較例1-1~1-5の繊維強化樹脂材料を得た。
【0069】
(3)機械特性の測定
JIS K7074に準じて、試験片(幅10mm、厚さ9mm、長さ80mm)を支点間距離80mm、曲げ速度5mm/分にて、3点曲げ試験を行い、曲げ応力、曲げ弾性率及び破壊歪を測定し、各々表1に実測値及び平均値を示した。
【0070】
【表1】
【0071】
(4)断面観察
実施例2-1及び比較例1-1の各試験片を用い、各試験片に上記(3)の測定時と同様に負荷を掛けた。その後、各試験片の断面を走査型電子顕微鏡で1000倍に観察して得られた像を図5(実施例2-1)と図6(比較例1-1)に示した。
【0072】
(5)実施例の効果
表1の結果から、曲げ応力(1/10倍値)、曲げ弾性率及び破壊歪(10倍値)の各パラメータの平均値と、繊維含有率Vfとの相関を図7に示した。また、破壊歪(10倍値)のプロットにおいては実測値の範囲を併せて示した。図7からは、曲げ応力及び曲げ弾性率は、繊維含有率に比較的リニアに相関し、繊維含有率の増大に応じて高い値が得られることが分かる。一方で、破壊歪に関しては、繊維含有率との相関が、曲げ応力及び曲げ弾性率とは異なる傾向を示していることが分かる。
【0073】
更に、図5及び図6の結果から、クラックCは、図6の比較例では、厚み方向へ貫通しているのに対して、図5の実施例では、クラックCは、硬質層11を貫通するが、軟質層13においてクラック進展が阻害されていることが分かる。また、このクラックC近傍において、硬質層11と軟質層13との界面に層間剥離は認められず、両層は強固に接合されていることが分かる。
【0074】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここに掲げる開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【符号の説明】
【0075】
1;繊維強化樹脂材料、1’;積層物、
11;硬質層、111;連続炭素繊維、113;結着樹脂(ポリオレフィン)、
13;軟質層、
15;積層構造、
11;シート状物、
13;樹脂シート、
C;クラック。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7