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特許7665480ファスナ塗装システム及びファスナ塗装方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】ファスナ塗装システム及びファスナ塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 3/20 20060101AFI20250414BHJP
   B25J 19/00 20060101ALI20250414BHJP
【FI】
B05C3/20
B25J19/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021148649
(22)【出願日】2021-09-13
(65)【公開番号】P2023041334
(43)【公開日】2023-03-24
【審査請求日】2024-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】宮内 智寛
(72)【発明者】
【氏名】松本 洋平
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-025236(JP,A)
【文献】特開2016-097678(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0095708(US,A1)
【文献】特開2021-000623(JP,A)
【文献】特開2015-047602(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0232327(US,A1)
【文献】特開2016-209860(JP,A)
【文献】特開2005-000722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 3/20
B05C 5/02
B25J 1/00 - 21/02
B05B 12/00 - 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体に取付けられたファスナの頭を塗装するファスナ塗装システムであって、
塗料を充填するための空隙を有し、前記物体の表面に縁を接触させることによって前記ファスナの頭を覆うためのカップと、
塗料を貯留し、前記カップ内の前記空隙に前記塗料を供給する供給系と、
前記空隙内における余剰塗料を前記カップから排出させる廃液系と、
前記カップと前記物体との相対位置を変化させる移動機構と、
を有し、
前記カップに、前記塗料を前記空隙内に供給するための供給口、前記空隙内の空気を排出するための通気口及び前記余剰塗料を前記空隙内から排出させるための廃液口を形成したファスナ塗装システム。
【請求項2】
前記カップの縁に弾力性を有するリング状のスポンジを取付けた請求項1記載のファスナ塗装システム。
【請求項3】
前記カップの縁が横たわる面の法線方向を水平方向とした場合において、前記カップの空隙内で開口する前記通気口の高さが前記空隙内で最も高くなるように前記通気口の位置を決定する一方、前記カップの空隙内で開口する前記廃液口の高さが前記空隙内で最も低くなるように前記廃液口の位置を決定した請求項1又は2記載のファスナ塗装システム。
【請求項4】
前記カップの縁が横たわる面の法線方向を水平方向とした場合において、前記カップの開口部の最下部よりも前記空隙の最下部の方が低くなるように前記空隙の壁面を傾斜させる一方、前記開口部の最上部よりも前記空隙の最上部の方が高くなるように前記空隙の壁面を傾斜させた請求項1乃至3のいずれか1項に記載のファスナ塗装システム。
【請求項5】
物体に取付けられたファスナの頭を塗装することによって被塗装品を製造するファスナ塗装方法において、
塗料を充填するための空隙を有するカップであって、塗料を前記空隙内に供給するための供給口、前記空隙内の空気を排出するための通気口及び前記空隙内における余剰塗料を排出させるための廃液口を形成した前記カップと前記物体との相対位置を移動機構で変化させ、前記カップの縁を前記物体の表面に接触させることによって前記ファスナの頭を覆うステップと、
前記空隙内の空気を前記通気口から排出しながら前記空隙内に前記供給口から前記塗料を供給するステップと、
前記空隙内における余剰塗料を前記廃液口から排出させるステップと、
を有するファスナ塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ファスナ塗装システム及びファスナ塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装済の部品をリベット等のファスナで組立てた場合、組立後に防錆等を目的としてファスナの頭を塗装することが必要となる場合が多い。特に、カシメによって頭を形成するリベットのように変形させて使用するリベットの場合には、事前に塗装しておくことができない。そこで、ファスナの頭を密閉して塗装するための装置が提案されている(例えば特許文献1又は特許文献2参照)。また、ブラシを利用してブラケット等の固定具を塗装するための装置も提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-161645号公報
【文献】実開平07-039960号公報
【文献】特表2016-514036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特に航空機部品の場合には、ファスナの頭に塗布された塗料の膜厚が許容範囲内でなければならない、塗装済みの部品に過剰に塗料が付着してはならないといった条件下で高品質な塗装が要求される。しかも、航空機部品の場合には、数メートルにも及ぶサイズのものもあり、仮に塗装ブース等に搬送するとすれば、搬送用の設備が必要となるのみならず、製造期間の増加に繋がる。従って、航空機部品の組立を行った作業エリア又はその近傍のエリアで速やかにファスナの頭を塗装できるようにすることが望まれる。その結果、航空機部品の場合には、非常に多数のリベットで部品が組立てられるものの、刷毛を使用した手作業で行われる場合が殆どである。
【0005】
そこで、本発明は、簡易な構成でファスナの頭を高品質かつ自動的に塗装できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係るファスナ塗装システムは、物体に取付けられたファスナの頭を塗装するものである。このファスナ塗装システムは、塗料を充填するための空隙を有し、前記物体の表面に縁を接触させることによって前記ファスナの頭を覆うためのカップと、塗料を貯留し、前記カップ内の前記空隙に前記塗料を供給する供給系と、前記空隙内における余剰塗料を前記カップから排出させる廃液系と、前記カップと前記物体との相対位置を変化させる移動機構とを有し、前記カップに、前記塗料を前記空隙内に供給するための供給口、前記空隙内の空気を排出するための通気口及び前記余剰塗料を前記空隙内から排出させるための廃液口を形成したものである。
【0007】
また、本発明の実施形態に係るファスナ塗装方法は、物体に取付けられたファスナの頭を塗装することによって被塗装品を製造するものである。このファスナ塗装方法は、塗料を充填するための空隙を有するカップであって、塗料を前記空隙内に供給するための供給口、前記空隙内の空気を排出するための通気口及び前記空隙内における余剰塗料を排出させるための廃液口を形成した前記カップと前記物体との相対位置を移動機構で変化させ、前記カップの縁を前記物体の表面に接触させることによって前記ファスナの頭を覆うステップと、前記空隙内の空気を前記通気口から排出しながら前記空隙内に前記供給口から前記塗料を供給するステップと、前記空隙内における余剰塗料を前記廃液口から排出させるステップとを有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施形態に係るファスナ塗装システムの構成図。
図2図1に示す移動機構として多関節ロボットを用いた例を示す図。
図3図2に示すカップ及びシリンジを多関節ロボットのアームに固定するためのホルダの詳細構造例を示す斜視図。
図4図1乃至図3に示すカップの第1の構造例を示す縦断面図。
図5図4に示すカップの平面図。
図6図1乃至図3に示すカップの第2の構造例を示す縦断面図。
図7図6に示すOリング用の溝の部分拡大図。
図8図6に示すカップの平面図。
図9図1乃至図3に示すカップの第3の構造例を示す縦断面図。
図10図9に示すカップの平面図。
図11図1に例示されるファスナ塗装システムを用いてファスナの頭を塗装する際の流れを示すフローチャート。
図12】本発明の第2の実施形態に係るファスナ塗装システムに備えられる移動機構の制御装置とカップの構成例を示す図。
図13】本発明の第3の実施形態に係るファスナ塗装システムに備えられる排気系の構成図。
図14】第3の実施形態に係るファスナ塗装システムに備えられるカップの構造例を示す縦断面図。
図15図14に示すカップの平面図。
図16図15に示すカップの位置A-Aにおける断面図。
図17図14に示すカップの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係るファスナ塗装システム及びファスナ塗装方法について添付図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
(ファスナ塗装システムの構成及び機能)
図1は本発明の第1の実施形態に係るファスナ塗装システム1の構成図である。
【0011】
ファスナ塗装システム1は、航空機構造体等の物体Oに取付けられたリベットやボルト等のファスナFの頭Hを自動的に塗装するシステムである。塗装対象を部分的に補修塗りする塗装は、タッチアップと呼ばれる。従って、ファスナ塗装システム1は、ファスナFの頭Hのタッチアップを自動的に行うシステムと言うこともできる。ファスナ塗装システム1による自動塗装の対象となるファスナFの頭Hは、ボルトの頭やリベットの潰されない側における出来頭の他、リベットのカシメ時に潰されて形成される作り頭であっても良い。
【0012】
ファスナ塗装システム1は、ファスナFの頭Hを覆うためのカップ2、カップ2内に塗料Pを供給する供給系3、カップ2内の空気を排出する排気系4、カップ2内における余剰塗料EPをカップ2から排出させる廃液系5及びカップ2と物体Oとの相対位置を変化させる移動機構6で構成することができる。
【0013】
カップ2は、内部に塗料Pを充填するための空隙7を有し、空隙7内にファスナFの頭Hを挿入できるように開口部8が形成される。このため、物体Oの表面にカップ2の縁を接触させることによってファスナFの頭Hをカップ2で覆うことができる。また、カップ2には、供給系3から塗料Pを空隙7内に供給するための供給口2A、排気系4により空隙7内の空気を排出するための通気口2B、廃液系5により余剰塗料EPを空隙7内から排出させるための廃液口2Cが形成される。
【0014】
供給系3は、例えば、塗料Pを貯留するシリンジ(注射筒)9、シリンジ9内に配置されるプランジャ(押子)10、エアを供給してプランジャ10を押し出すことによってシリンジ9から塗料Pを吐出させるディスペンサ11で構成することができる。
【0015】
シリンジ9は、塗料Pを貯留しつつ先端に形成される出口から塗料Pを吐出させる筒状の容器である。シリンジ9内には、プランジャ10が配置され、プランジャ10で密閉されたシリンジ9の出口側における空間に塗料Pが充填される。一方、プランジャ10で仕切られたシリンジ9の入口側における空間にエアを供給すると、空気圧によってプランジャ10を塗料P側に向かって押し出すことができる。
【0016】
ディスペンサ11は、プランジャ10で仕切られたシリンジ9の入口側における空間に適切な流量のエアを供給することによって、シリンジ9から吐出される塗料Pの流量を制御する液体定量吐出装置である。このため、ディスペンサ11は、エアチューブ12でシリンジ9の入口と連結される。
【0017】
シリンジ9の出口はカップ2の供給口2Aと連結される。従って、ディスペンサ11による制御下で所望の流量の塗料Pをシリンジ9からカップ2の空隙7内に供給することができる。尚、市販のルアーロックタイプシリンジの先端には雌ねじが形成されているため、シリンジ9としてルアーロックタイプシリンジを使用する一方、カップ2の供給口2Aに雄ねじを形成すれば、簡易かつ安定的にシリンジ9をカップ2に固定することが可能となる。
【0018】
排気系4は、シリンジ9からカップ2の空隙7内に塗料Pを供給する際に、空隙7内に存在する空気を排出するために設けられる。排気系4は、空気を流すためのエアチューブ13で構成することができる。エアチューブ13の一端は、カップ2の通気口2Bと連結される。エアチューブ13の他端には、空気の逆流を防止するための弁14を連結することができる。弁14としては、電磁弁等の制御信号で開閉する弁を用いても良いが、制御信号が不要な逆止弁(チェック弁)を用いれば、構成を簡易にすることができる。
【0019】
廃液系5は、カップ2の空隙7内における余剰塗料EPをカップ2の廃液口2Cから排出させるシステムである。余剰塗料EPをカップ2から排出させるためには、空隙7内の余剰塗料EPを吸引すれば良い。そこで、廃液系5は、真空ポンプやエジェクタ等の真空装置15と、廃液トラップ16で構成することができる。
【0020】
廃液トラップ16は、カップ2から回収した余剰塗料EPを溜めるタンクであり、気密性が保たれる。廃液トラップ16内には、重量差によって余剰塗料EPの層と、空気の層が形成される。カップ2の廃液口2Cは、廃液チューブ17で廃液トラップ16と連結される一方、廃液トラップ16と真空装置15はエアチューブ18で連結される。
【0021】
より具体的には、廃液チューブ17の入口がカップ2の廃液口2Cと連結され、廃液チューブ17の出口が余剰塗料EPの層で開口するように廃液チューブ17の出口が配置される。一方、エアチューブ18の入口が空気の層で開口するようにエアチューブ18の入口が配置され、エアチューブ18の出口が真空装置15と連結される。このため、真空装置15を作動させると、廃液トラップ16内における空気の層から空気が吸引されて圧力が低下し、カップ2の廃液口2Cから余剰塗料EPを吸引することができる。
【0022】
尚、カップ2の空隙7内に塗料Pを充填すると、塗料Pの一部が排気用のエアチューブ13に流入することがある。このため、排気用のエアチューブ13に流入した余剰塗料EPについても、廃液チューブ17を介して吸引することが望ましい。試作試験の結果、余剰塗料EPをカップ2内から排出する際には、排気用のエアチューブ13の大気側における端部を大気開放とせずに、弁14を閉じて排気用のエアチューブ13内に大気側からの空気の流入を阻止した方が、排気用のエアチューブ13に流入した余剰塗料EPを良好に吸引できることが確認された。従って、排気用のエアチューブ13の大気側における端部に逆止弁等の弁14を連結することは、主に排気用のエアチューブ13に流入した余剰塗料EPを除去する点においてメリットがある。
【0023】
移動機構6は、塗装対象となるファスナFの頭Hに対するカップ2の相対的な位置決めを行う装置である。すなわち、移動機構6でカップ2及び物体Oの少なくとも一方を移動させることができる。移動機構6は、工作機械の主軸を移動させる駆動軸と同様に、直交3軸方向への平行移動やチルトなど所望の軸を中心とする回転移動を行うことが可能な機械要素で構成できる他、カップ2の位置決めに要求される精度が機械加工等に比べて低いことから、工作機械用の駆動軸と比較して安価で組立工場等への据付も容易な多関節ロボットを用いて構成することもできる。
【0024】
図2は、図1に示す移動機構6として多関節ロボット20を用いた例を示す図であり、図3は、図2に示すカップ2及びシリンジ9を多関節ロボット20のアーム21に固定するためのホルダ22の詳細構造例を示す斜視図である。
【0025】
図2に例示されるような典型的な片持ち構造を有する多関節ロボット20のアーム21でカップ2を移動させることができる。その場合には、カップ2のみならずカップ2と一体化されるシリンジ9についても、エンドエフェクタ23としてアーム21の先端に取付けることが現実的である。尚、多関節ロボット20が有するアーム21はマニピュレータとも呼ばれる。
【0026】
そのために、図3に例示されるように、ルアーロック等で連結されたカップ2とシリンジ9を、スナップフィットで簡易に着脱できるはめ込み式のホルダ22で保持することができる。ホルダ22の端部には、多関節ロボット20のアーム21に固定するためのフランジ24が設けられる。このため、フランジ24を介してアーム21に固定されたホルダ22へのカップ2とシリンジ9の着脱や交換を容易に行うことができる。
【0027】
また、図3に示す例では、サイズ及び重量がアーム21で支持できる程度であることから逆止弁14Aもホルダ22に固定されている。このため、逆止弁14Aとカップ2との間における距離を一定とし、多関節ロボット20のアーム21を動かした場合における排気用のエアチューブ13の干渉リスクを低減することができる。
【0028】
移動機構6を多関節ロボット20で構成するか否かを問わず、移動機構6は移動機構6を駆動するための制御装置6Aと、移動機構6の数値制御(NC:numerical control)制御プログラム等を保存する記憶装置6Bを有する。ファスナFの頭Hに対するカップ2の相対的な位置決めを行うためには、ファスナFの頭Hの位置情報が必要となる。
【0029】
そこで、記憶装置6Bにタッチアップ対象となるファスナFの頭Hの3次元(3D:Three Dimensional)位置情報を含む移動機構6の制御プログラムを保存することができる。そして、記憶装置6Bに保存されたファスナFの頭Hの位置情報を含む移動機構6の制御プログラムに従って制御装置6Aで移動機構6を制御し、ファスナFの頭Hに対するカップ2の相対的な位置決めを行うことができる。
【0030】
カップ2内の空隙7に塗料Pが充填された場合においてカップ2と物体Oの表面との隙間から塗料Pが漏れることを防止するためには、ファスナFの頭Hの周囲における物体Oの表面にカップ2の縁を密着させることが重要である。このため、ファスナFの頭Hを塗装するためには、カップ2内の空隙7及び開口部8の位置が、ファスナFの頭Hの位置からファスナFの長さ方向に離れた位置となるように、カップ2をファスナFの長さ方向に垂直な平面内における2次元(2D:Two Dimensional)方向に位置決めした後、ファスナFの長さ方向に位置決めすることが必要となる。
【0031】
ファスナFの長さ方向におけるカップ2の位置決めは、カップ2内の空隙7に塗料Pが充填された場合においてカップ2と物体Oの表面との隙間から塗料Pが漏れない程度までカップ2の縁が物体Oの表面に密着するようにカップ2の位置を決定する作業となる。このため、ファスナFの長さ方向に垂直な方向におけるカップ2の位置決めよりも、ファスナFの長さ方向におけるカップ2の位置決めの方が、より高い精度が要求される。
【0032】
典型的な多関節ロボット20のアーム21には、力センサ25が標準装備されている。そこで、移動機構6として多関節ロボット20を使用する場合には、力センサ25で測定した物体Oの表面からカップ2への反力に基づいて、カップ2の縁が物体Oの表面に接触したか否かを判定することができる。より具体的には、ファスナFの長さ方向におけるカップ2への物体Oの表面からの抗力を力センサ25で測定し、抗力が閾値に達した場合には、カップ2の縁が物体Oの表面に接触したと判定してファスナFの長さ方向におけるカップ2の位置決めを完了させることができる。
【0033】
その場合には、移動機構6の制御装置6Aである多関節ロボット20のロボット制御装置26に、カップ2をファスナFの長さ方向に移動させることによってカップ2を物体Oの表面に接近させるアーム21の駆動を行いながら、カップ2への物体Oの表面からの抗力を力センサ25から取得し、力センサ25から取得した抗力が閾値に達した場合にはアーム21の駆動及びファスナFの長さ方向へのカップ2の移動を停止させる機能を設けることができる。
【0034】
もちろん、移動機構6として多関節ロボット20を使用しない場合においても、同様に力センサを設けてカップ2の縁が物体Oの表面に接触したか否かを判定できるようにすることができる。
【0035】
ファスナFの頭Hに対するカップ2の位置決めが完了すると、ファスナFの頭Hをカバーするカップ2の空隙7内に塗料Pを供給することが必要となるが、塗料Pの供給開始タイミングは、カップ2の位置決め完了後とすることが適切である。従って、供給系3によるカップ2内への塗料Pの供給は、移動機構6によるカップ2の移動と連動させることが必要となる。
【0036】
そこで、ロボット制御装置26等の移動機構6の制御装置6Aに、ディスペンサ11の動作開始と動作停止等を指示する制御信号をディスペンサ11に出力する機能を設けることができる。標準的なディスペンサ11には、吐出対象となる液体の流量、流速或いは圧力等の吐出条件を設定及び制御する機能が備えられている。従って、試験等で決定した塗料Pの適切な流量及び吐出圧等の吐出条件を予めディスペンサ11に設定しておけば、移動機構6の制御装置6Aからディスペンサ11のONとOFFを切換えるトリガ信号を出力するのみで、適切な吐出条件でシリンジ9からカップ2内の空隙7に塗料Pを吐出することができる。
【0037】
カップ2内の空隙7に吐出すべき塗料Pの全量は、空隙7の容積よりも大きくすることが、カップ2内の空隙7に空気が残留する不都合の回避に繋がる。すなわち、供給系3は、カップ2内の空隙7に、空隙7の容積よりも多い量の塗料Pを供給するように構成することが好ましい。
【0038】
そこで、ロボット制御装置26等の制御装置6Aに、塗料Pの吐出流量とディスペンサ11の作動時間に基づいて、カップ2内の空隙7に吐出された塗料Pの量を見積もる機能を設け、所要の量の塗料Pがカップ2内の空隙7に供給されたと判定された場合には、ディスペンサ11に動作停止信号を出力することによって、ディスペンサ11の動作状態をOFFに切換える機能を設けることができる。
【0039】
或いは、塗料Pの吐出流量とディスペンサ11の作動時間に基づいて、ディスペンサ11がカップ2内の空隙7に吐出された塗料Pの量を見積もり、所要の量の塗料Pがカップ2内の空隙7に供給されたと判定された場合には、ディスペンサ11が自律的に動作状態をOFFに切換えるように構成しても良い。その場合には、ディスペンサ11からロボット制御装置26等の制御装置6Aにディスペンサ11の動作状態がOFFに切換ったことを通知するようにしても良い。
【0040】
カップ2内の空隙7に塗料Pが充填されると、ファスナFの頭Hがカップ2内で塗料Pに浸された状態となり、ファスナFの頭Hが塗料Pで塗布された効果を得ることができる。その後、廃液系5の真空装置15を作動させ、ファスナFの頭Hに付着しなかった空隙7内の塗料Pが、余剰塗料EPとして廃液口2Cから排出される。
【0041】
従って、ファスナFの頭Hの塗装条件には、供給系3によるカップ2内の空隙7への塗料Pの吐出条件の他、カップ2内の空隙7に塗料Pが充填されてから空隙7内における余剰塗料EPの排出が開始されるまでの待機時間と、余剰塗料EPの圧力等の条件がある。これらの塗装条件についても、カップ2内の空隙7への塗料Pの吐出条件と同様に、試験等によって適切な条件を予め求めておくことができる。
【0042】
カップ2内の空隙7に塗料Pを充填した状態で待機する時間は、ディスペンサ11の動作がOFFに切換ってから、真空装置15が作動するまでの時間に相当する。一方、余剰塗料EPの圧力は、真空装置15の作動条件として設定することができる。
【0043】
そこで、ロボット制御装置26等の移動機構6の制御装置6Aに、真空装置15の動作開始と動作停止等を指示する制御信号を真空装置15に出力する機能を設けることができる。そうすると、ディスペンサ11の動作がOFFに切換ってから、適切な時間が経過した後にロボット制御装置26等の制御装置6Aから真空装置15に動作を開始するトリガ信号を出力することによって、カップ2内の空隙7に塗料Pを充填した状態で待機する時間を制御することが可能となる。
【0044】
このように、ディスペンサ11の動作条件と、真空装置15の動作条件を適切に設定及び制御することによって、塗料Pの吐出流量、塗料Pの吐出圧力、塗料Pの吐出量、塗料Pの吐出完了後における待機時間、余剰塗料EPの圧力等の塗装条件を調節することができる。このため、これらの塗装条件を適切に設定することによって、ファスナFの頭Hに万遍なく塗料Pを付着させることができるのみならず、ファスナFの頭Hに付着した塗料Pの膜厚を好ましい膜厚にすることも可能となる。すなわち、ファスナFの頭Hに付着した塗料Pの膜厚を調整することができる。
【0045】
次にカップ2の詳細構造例について説明する。
【0046】
図4は、図1乃至図3に示すカップ2の第1の構造例を示す縦断面図であり、図5図4に示すカップ2の平面図である。
【0047】
図4乃至図5に例示される第1の構造例のようにカップ2は塗料Pを充填するための空隙7と、ファスナFの頭Hを空隙7内に挿入するための開口部8を有する。そして、開口部8の周囲が、物体Oの表面に接触させるためのカップ2の縁となる。図4乃至図5に示す例では、開口部8の形状が円形となっている。このため、カップ2の縁は環状となっている。
【0048】
また、上述したようにカップ2には塗料Pを空隙7内に供給するための供給口2A、空隙7内の空気を排出するための通気口2B、余剰塗料EPを空隙7内から排出させるための廃液口2Cが形成される。図4乃至図5に示す例では、ルアーロックタイプシリンジの先端にカップ2を連結できるように、供給口2Aを形成する円筒状の部分の外周に雄ねじが形成されている。
【0049】
カップ2は必要な強度を確保できれば樹脂や金属等の任意の材料で構成することができる。従って、カップ2は剛体とすることが現実的である。他方、カップ2内の空隙7に塗料Pが充填された場合に、カップ2の縁と物体Oの表面との間における隙間から塗料Pが漏れないようにすることが清掃作業を軽減する観点から望ましい。その場合、物体Oの表面と接触させるカップ2の縁は、少なくとも一部を剛体ではなく弾性体とすることがカップ2の縁をより確実に物体Oの表面に密着させる観点から好ましい。
【0050】
そこで、図4乃至図5に例示されるように開口部8の周囲に形成されるカップ2の縁にOリング30を取付けることができる。これにより、Oリング30で形成されるカップ2の縁を物体Oの表面に密着させることができる。
【0051】
加えて、カップ2の開口部8を概ね水平方向に向けた状態でファスナFの頭Hを覆うように物体Oとカップ2を配置すれば、換言すれば、ファスナFの頭Hが物体Oの表面から概ね水平方向に突出するように物体Oを配置すれば、空隙7内の空気を排出するための通気口2Bを最も高い位置に配置する一方、余剰塗料EPを空隙7内から排出させるための廃液口2Cを最も低い位置に形成することが可能となる。
【0052】
より具体的には、カップ2の縁が横たわる面の法線方向を水平方向とした場合において、カップ2の空隙7内で開口する通気口2Bの高さが空隙7内で最も高くなるように通気口2Bの位置を決定する一方、カップ2の空隙7内で開口する廃液口2Cの高さが空隙7内で最も低くなるように廃液口2Cの位置を決定することができる。
【0053】
そうすると、カップ2の空隙7内に塗料Pを吐出している間には、重力によって塗料Pが下方から徐々に空隙7内に溜まっていくことから、空隙7内に残留する空気を徐々に上方に向かって移動させ、確実に最上部の通気口2B内から空気を排出させることが可能となる。つまり、カップ2の空隙7内への塗料Pの充填が完了した後、カップ2の空隙7内に空気が残留することを防止することができる。その結果、ファスナFの頭Hに万遍なく塗料Pを塗布することが可能となる。
【0054】
一方、カップ2の空隙7内から余剰塗料EPを排出する際には、重力によって下方に向かう余剰塗料EPを最下部の廃液口2Cから確実に排出させることが可能となる。つまり、カップ2の空隙7内からの余剰塗料EPの排出が完了した後、カップ2の空隙7内に余剰塗料EPが残留することを防止することができる。その結果、カップ2の清掃が容易となるのみならず、複数のファスナFの頭Hを順次塗装する場合において、常に新鮮な塗料Pをカップ2の空隙7内に充填することが可能となる。
【0055】
図6は、図1乃至図3に示すカップ2の第2の構造例を示す縦断面図、図7図6に示すOリング30用の溝31の部分拡大図、図8図6に示すカップ2の平面図である。
【0056】
図6乃至図8に例示される第2の構造例のように、Oリング30を物体Oの表面に押し当てた場合において、潰れた状態のOリング30がカップ2の縁から突出しないように、Oリング30を配置するための溝31の深さをOリング30の横断面における直径以上とすることができる。換言すれば、Oリング30を配置するための溝31の底面に、逃げ31Aを形成することができる。
【0057】
そうすると、Oリング30を物体Oの表面に押し付けた場合には、Oリング30が潰れた状態で溝31の内部に完全に押し込まれることになる。このため、Oリング30を物体Oの表面に押し付けた後、潰れたOリング30の弾性力によってOリング30を物体Oの表面に密着させた状態を維持しつつ、Oリング30の存在を原因とするカップ2と物体Oの表面との間における隙間を無くすことができる。その結果、カップ2と物体Oの表面との間に余剰塗料EPが溜まることを回避し、塗装が完了してカップ2を退避させた後、余剰塗料EPが下方に垂れる不都合を防止することができる。
【0058】
加えて、第2の構造例では、空気の流れと、余剰塗料EPの移動が理想的となるように、傾斜する壁面32でカップ2の空隙7が形成されている。すなわち、空隙7の上方については、カップ2の開口部8に向かって徐々に高さが低くなるように空隙7の壁面32がテーパしている。他方、空隙7の下方については、カップ2の開口部8に向かって徐々に高さが高くなるように空隙7の壁面32がテーパしている。
【0059】
より具体的には、カップ2の縁が横たわる面の法線方向を水平方向とした場合において、開口部8の最下部よりも空隙7の最下部の方が低くなるように空隙7の壁面32が傾斜している。一方、カップ2の縁が横たわる面の法線方向を水平方向とした場合において、開口部8の最上部よりも空隙7の最上部の方が高くなるように空隙7の壁面32が傾斜している。
【0060】
この場合、空隙7内に管状かつ横断面がV字状の窪みを形成し、空隙7全体が開口部8に向かって徐々に狭くなるように空隙7の壁面32をテーパさせれば、壁面32の形状が円錐台の側面と同じ形状となり、カップ2の構造がより単純な構造となるので、カップ2の設計と製造が容易となる。
【0061】
このように空隙7の壁面32を傾斜させると、カップ2の空隙7内に塗料Pを吐出している間には、空隙7内に残留する空気をより確実に最上部の通気口2Bに導くことができる。その結果、カップ2の空隙7内への塗料Pの充填が完了した後、カップ2の空隙7内に空気が残留することを一層確実に防止することができる。
【0062】
一方、カップ2の空隙7内から余剰塗料EPを排出する際には、余剰塗料EPをより確実に最下部の廃液口2Cに導くことができる。その結果、カップ2の空隙7内からの余剰塗料EPの排出が完了した後、カップ2の空隙7内に余剰塗料EPが残留することを一層確実に防止することができる。加えて、塗装が完了してカップ2を退避させた後、余剰塗料EPがカップ2の開口部8から下方に垂れる不都合を防止することができる。このため、塗料Pの消費量を削減する効果も得られる。
【0063】
図9は、図1乃至図3に示すカップ2の第3の構造例を示す縦断面図であり、図10図9に示すカップ2の平面図である。
【0064】
図9及び図10に例示される第3の構造例のように、カップ2の縁にOリング30に代えて弾力性を有するリング状のスポンジ33をパッキンとして取付けることができる。すなわち、カップ2の縁をスポンジ33で形成することができる。スポンジ33は、発泡ゴム等の所望の多孔質(ポーラス)材料で構成することができる。
【0065】
特に、両面テープ付のスポンジワッシャが市販されており、スポンジ33をテープで簡易にカップ2の縁に貼り付けることができる。このため、第3の構造例では、第1及び第2の構造例のようなOリング30を埋め込むための溝31が不要となる結果、Oリング30を使用する場合と比較して、供給口2A及び廃液口2Cを開口部8に近付けることができる。
【0066】
そうすると、カップ2を退避させた後、カップ2の開口部8から余剰塗料EPが垂れることを回避しつつ余剰塗料EPを廃液口2Cに容易に導いて排出及び回収できるのみならず、空隙7の容積を小さくすることができる。このため、Oリング30を使用する場合と比較して、余剰塗料EP及び塗料Pの消費量を削減する効果が得られる。
【0067】
しかも、典型的なOリング30と異なり、スポンジ33の場合には、微細な穴が潰れることによって、物体Oの表面の形状に追従して容易に変形する。このため、カップ2の縁を物体Oの表面に厳密に垂直に押付けなくてもスポンジ33を物体Oの表面に密着させることができる。
【0068】
加えて、スポンジ33は液体の吸収性を有することから、スポンジ33を貼り付けたカップ2の縁と物体Oの表面との間に余剰塗料EPが流れ込んだとしても、余剰塗料EPをスポンジ33で吸収することができる。すなわち、塗装が完了してカップ2を物体Oの表面から引離すと、スポンジ33は元の形状に戻りながら内部の微細な穴に余剰塗料EPを吸収する。従って、カップ2の縁が物体Oの表面に厳密に垂直に押付けられず、スポンジ33近傍に余剰塗料EPが流れ込んだとしても、カップ2を退避させた後、余剰塗料EPが下方に垂れる不都合を回避することができる。
【0069】
つまり、スポンジ33は、カップ2の空隙7内に塗料Pを吐出している間には、塗料Pの漏れを防止するパッキンとして機能する一方、塗装が完了した後は、余剰塗料EPを吸い取って下方に垂れることを防止する吸収材として機能する。
【0070】
尚、物体Oの表面は、必ずしも法線方向が厳密に水平方向になるとは限らず、また、物体Oの表面が平面ではなく、曲率が小さな曲面や法線方向が僅かに異なる複数の平面となる場合もある。このため、第1乃至第3の構造例のいずれのカップ2を使用する場合においても、実際の塗装時には、物体Oの表面の位置及び形状に応じてカップ2の縁が横たわる面の法線方向を水平方向に対して0度以上45度以下の範囲で傾斜させても良い。
【0071】
カップ2を傾斜させる場合、特に、第3の構造例のカップ2を使用すれば、カップ2の空隙7内への塗料Pの吐出中において最も良好に塗料Pの漏れを防止できるのみならず、塗装完了後にカップ2を退避させた後においても、余剰塗料EPが下方に垂れる不都合を最も良好に防止することができることが試作試験によって確認された。
【0072】
(ファスナ塗装方法)
次に、ファスナ塗装システム1を用いて物体Oに取付けられたファスナFの頭Hを塗装することによって被塗装品を製造するファスナ塗装方法について説明する。
【0073】
図11は、図1に例示されるファスナ塗装システム1を用いてファスナFの頭Hを塗装する際の流れを示すフローチャートである。
【0074】
まずステップS1において、カップ2をファスナFの軸線上とするための、ファスナFの長さ方向に垂直な方向へのカップ2の位置決めが行われる。具体的には、記憶装置6Bに保存されたファスナFの位置情報を含む制御プログラムが制御装置6Aに読み込まれ、カップ2の開口部8の中心位置と、ファスナFの中心軸が略同一直線上となるように、制御装置6Aによる制御下において移動機構6が駆動する。移動機構6が図2に例示されるような多関節ロボット20であれば、ロボット制御装置26による制御によって、アーム21が駆動する。
【0075】
これにより、カップ2と物体Oとの相対位置が変化し、カップ2の開口部8をファスナFの頭Hに向けて、ファスナFの頭HからファスナFの長さ方向に離れた位置にカップ2が位置決めされる。
【0076】
次に、ステップS2において、カップ2でファスナFの頭Hを密閉するための、ファスナFの長さ方向におけるカップ2の位置決めが行われる。具体的には、カップ2の縁が物体Oの表面に接触するように、ファスナFの位置情報を含む制御プログラムに基づいて制御装置6Aが移動機構6を制御する。このため、移動機構6が駆動し、カップ2がファスナFの長さ方向に平行移動する。その結果、カップ2の縁が物体Oの表面に徐々に接近し、最終的に物体Oの表面に接触する。
【0077】
カップ2の縁が物体Oの表面に接触すると、物体Oの表面から抗力を受ける。このため、移動機構6が図2に例示されるような力センサ25を備えた多関節ロボット20である場合には、力センサ25で物体Oの表面からの抗力が検出され、抗力が検出されたことが力センサ25からロボット制御装置26に通知される。これにより、ロボット制御装置26は、カップ2の縁が物体Oの表面に接触したことを検知し、アーム21の駆動を停止することができる。
【0078】
ファスナFの長さ方向におけるカップ2の位置決めが完了すると、カップ2の縁に設けられたOリング30やスポンジ33等のパッキンが物体Oの表面に密着し、ファスナFの頭Hはカップ2で覆われることになる。すなわち、ファスナFの頭Hの周囲はカップ2で密閉される。
【0079】
次に、ステップS3において、カップ2内に塗料Pが充填される。具体的には、制御装置6Aからディスペンサ11を作動させるためのトリガ信号がディスペンサ11に出力される。このため、ディスペンサ11が作動し、エアがシリンジ9内に供給される。これにより、シリンジ9内のプランジャ10が空気圧で押下され、シリンジ9内の塗料Pがシリンジ9の先端からカップ2の供給口2Aに向かって吐出される。シリンジ9から吐出された塗料Pは、カップ2の供給口2Aから空隙7内に供給される。
【0080】
カップ2内の空隙7は、物体Oの表面で閉鎖された空間となっているため、塗料Pが流入すると空気の圧力が上昇する。このため、空隙7内の空気は、通気口2Bから排出される。換言すれば、カップ2内の空隙7で液面が徐々に上昇する塗料Pによって、空隙7内の空気が通気口2Bから押し出される。
【0081】
通気口2Bに入った空気は、エアチューブ13及び弁14を通って大気中に放出される。このため、空隙7内における空気の圧力は、ある程度までしか上昇せず、空隙7内への塗料Pの吐出を持続することができる。すなわち、空隙7内の空気を通気口2Bから排出しながら塗料Pが空隙7内に供給される。
【0082】
そして、物体Oの表面で閉鎖されたカップ2内における空間の容積より僅かに多い量の塗料Pが空隙7内に供給される。これにより、空隙7内の空気を完全に通気口2Bから排出し、空隙7内を完全に塗料Pで満たすことができる。その結果、ファスナFの頭Hに万遍なく塗料Pを付着させることができる。
【0083】
尚、塗料Pの一部は、通気口2Bに進入し、エアチューブ13にも流入し得るが、エアチューブ13内で塗料Pが留まるように塗料Pの総吐出量が定められるため、塗料Pが弁14を通って外部に溢れることはない。すなわち、カップ2内の空隙7に空隙7の容積よりも多く、かつ弁14から溢れない程度の量の塗料Pがカップ2内の空隙7に吐出されたタイミングでディスペンサ11が停止するようにディスペンサ11が制御される。
【0084】
次に、ステップS4において、カップ2の空隙7内における余剰塗料EPが廃液口2Cから排出される。すなわち、カップ2内への塗料Pの充填が完了し、所要の待機時間が経過した後、真空装置15の作動によってカップ2の空隙7内における余剰塗料EPが吸引される。
【0085】
具体的には、制御装置6Aから真空装置15を作動させるためのトリガ信号が真空装置15に出力される。このため、真空装置15が作動し、エアチューブ18を介して廃液トラップ16内における空気の層から空気が吸引される。これにより、廃液トラップ16内における空気の層の圧力が負圧となり、廃液トラップ16内における余剰塗料EPの液面が上昇する。その結果、カップ2の空隙7内及びエアチューブ13内から余剰塗料EPが廃液口2C及び廃液チューブ17を介して廃液トラップ16内に吸引及び回収される。
【0086】
尚、余剰塗料EPの吸引時には、エアチューブ13の大気側における端部に連結される逆止弁等の弁14が閉じられる。このため、エアチューブ13内を空気が逆流することはなく、カップ2の空隙7内は密閉状態となる。その結果、余剰塗料EPの吸引を良好に行うことが可能となる。
【0087】
次に、ステップS5において、カップ2が退避位置に移動する。すなわち、ロボット制御装置26等の制御装置6Aによる制御下において多関節ロボット20等の移動機構6が駆動し、カップ2が物体Oの表面から引離される。これにより、ファスナFの頭Hの局所的な塗装、すなわちタッチアップが完了する。
【0088】
そして、他に塗装すべきファスナFの頭Hが残っている場合には、再びステップS1からステップS5までの動作や操作等を繰返すことにより、全てのファスナFの頭Hの塗装を行うことができる。すなわち、ファスナFの頭Hが塗装された物体Oからなる被塗装品を製造することができる。
【0089】
(効果)
以上のファスナ塗装システム1及びファスナ塗装方法は、ファスナFの頭Hを覆うことが可能な気密性を有するカップ2を多関節ロボット20等の移動機構6で保持し、シリンジ9やディスペンサ11等からなる供給系3でカップ2内に塗料Pを充填した後、真空装置15等からなる廃液系5でカップ2内の余剰塗料EPを排出できるようにしたものである。
【0090】
このため、ファスナ塗装システム1及びファスナ塗装方法によれば、ファスナFの頭Hの塗装作業を自動化することができる。その結果、ファスナFの頭Hの塗装に要する労力や作業時間を、作業者が手作業で塗装する場合に比べて削減することができる。
【0091】
特に、カップ2内に供給される塗料Pの吐出条件、カップ2内に塗料Pを充填してから余剰塗料EPを排出までの待機時間及び余剰塗料EPの排出圧等の塗装条件を適切に設定することにより、作業者が手作業で塗装する場合に比べて塗装品質のばらつきを低減して均一化できるのみならず、塗装後における塗料Pの膜厚を調整することができる。
【0092】
また、ファスナ塗装システム1のオペレータが塗料Pを扱う機会が減るので、作業者が手作業で塗装する場合に比べて安全性を向上することもできる。
【0093】
(第2の実施形態)
図12は本発明の第2の実施形態に係るファスナ塗装システム1Aに備えられる移動機構6の制御装置6Aとカップ2の構成例を示す図である。
【0094】
図12に示された第2の実施形態におけるファスナ塗装システム1Aは、センサ40で取得した情報に基づいてファスナFの頭Hに対するカップ2の相対位置を補正できるようにした構成が第1の実施形態におけるファスナ塗装システム1と相違する。第2の実施形態におけるファスナ塗装システム1Aの他の構成及び作用については第1の実施形態におけるファスナ塗装システム1と実質的に異ならないため、センサ40の配置例を示すカップ2と、移動機構6の制御装置6Aのみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。尚、図12において、カップ2は開口部8側から見た形状が図示されている。
【0095】
特に片持ち構造を有する多関節ロボット20の場合、アーム21の位置決め精度では、十分な精度でカップ2を位置決めできない場合がある。また、物体Oやカップ2の固定位置における誤差が大きい場合にも、十分な精度でカップ2を位置決めできない場合がある。
【0096】
そこで、センサ40を利用してファスナFの頭Hに対するカップ2の相対位置を補正することができる。位置補正に実用的なセンサ40としては、光学カメラ40Aや距離センサ40Bが挙げられる。光学カメラ40Aを用いれば、ファスナFの頭Hを撮影して画像データを取得し、取得した画像データを対象とする画像認識処理によってファスナFの頭Hの輪郭を抽出したり、抽出したファスナFの頭Hの輪郭に基づいてファスナFの頭Hの中心位置を2次元的に求めたりすることができる。
【0097】
一方、3つ以上の距離センサ40Bを用いれば、各距離センサ40Bから対象物までの距離を測定することによって、原理的に対象物の3D位置を求めることができる。或いは、2つ以上の光学カメラ40AでファスナFの頭Hが写りこんだ2フレームの画像データを取得すれば、フレーム間の相違に基づいて幾何学的にファスナFの頭Hまでの距離を含む3D位置を求めることができる。
【0098】
ファスナFの頭Hの輪郭や中心の2D位置を検出できれば、ファスナFの長さ方向に垂直な平面内においてカップ2の開口部8の中心位置と、ファスナFの頭Hの中心位置が、ファスナFの長さ方向に平行な同一直線上となるように、カップ2の2D位置を補正することができる。
【0099】
一方、ファスナFの頭Hの輪郭や中心の3D位置を検出できれば、ファスナFの長さ方向に垂直な平面内におけるカップ2の2D位置のみならず、カップ2の向きも補正することが可能となる。すなわち、カップ2の縁が横たわる平面と、物体Oの表面が互いに平行となるようにカップ2の向きを補正することができる。
【0100】
このため、目標とするカップ2の位置決め精度に応じた数及び種類のセンサ40を適切な位置に配置して、カップ2の位置を補正することができる。センサ40は、ファスナFの頭Hが視野内となれば測定データを座標変換できるので、多関節ロボット20のアーム21やエンドエフェクタ23など、カップ2に対して相対移動しない移動機構6の所望の部位に配置しても良いし、移動機構6の外部など、カップ2に対して相対移動しない所望の部位に配置しても良い。
【0101】
図12に示す例では、1つの光学カメラ40Aと、等間隔で配置された3つの距離センサ40Bが、スポンジ33をパッキンとして縁に貼り付けたカップ2の外周面に取付けられている。このため、カップ2の向きを含む3D位置の補正が可能である。具体的には、光学カメラ40Aで撮影したファスナFの頭Hの画像に基づいてファスナFの頭Hの中心位置を2次元的に求め、求めたファスナFの頭Hの中心位置から3つの距離センサ40Bまでの距離が等しくなるように制御装置6Aで移動機構6を制御すれば、カップ2の向きを含む3D位置を補正することができる。
【0102】
もちろん、距離センサ40Bを不等間隔で配置した場合には、ファスナFの頭Hの中心位置から各距離センサ40Bまでの距離が、それぞれ理想的な距離となるように、制御装置6Aで移動機構6を制御すれば良い。また、スポンジ33に代えてOリング30やその他のパッキンをカップ2の縁に取付けても良い。
【0103】
尚、各センサ40から画像データや距離データ等の測定データを取得し、データ処理を行って移動機構6の制御信号を生成する機能は、制御装置6Aに設けることができる。
【0104】
以上の第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果に加えて、カップ2の位置決め精度を向上できるという効果を得ることができる。
【0105】
(第3の実施形態)
図13は本発明の第3の実施形態に係るファスナ塗装システム1Bに備えられる排気系4の構成図である。
【0106】
図13に示された第3の実施形態に係るファスナ塗装システム1Bは、排気系4を構成するエアチューブ13の大気側における端部に圧縮空気供給装置50を連結した構成が第1の実施形態におけるファスナ塗装システム1及び第2の実施形態におけるファスナ塗装システム1Aと相違する。第3の実施形態に係るファスナ塗装システム1Bの他の構成及び作用については第1の実施形態におけるファスナ塗装システム1及び第2の実施形態におけるファスナ塗装システム1Aと実質的に異ならないため、排気系4の構成のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0107】
図13に示すように排気系4を構成するエアチューブ13の一端をカップ2の通気口2Bと連結する一方、エアチューブ13の大気側となる他端には、逆止弁14A等の弁14に加えて、圧縮空気供給装置50を連結することができる。圧縮空気供給装置50は、圧縮空気を封入したタンク51の出口に開閉バルブ52を設けて所望の流量の圧縮空気を供給できるようにした装置である。
【0108】
圧縮空気供給装置50の開閉バルブ52は、移動機構6の制御装置6Aからの制御信号で所望のタイミングで開閉できるようになっている。このため、真空装置15の動作状態と連動して、圧縮空気供給装置50の開閉バルブ52を開閉することができる。
【0109】
排気用のエアチューブ13に圧縮空気供給装置50を連結すると、余剰塗料EPをカップ2の廃液口2Cから排出させる際に、エアチューブ13内に圧縮空気を流入させることができる。すなわち、カップ2内から余剰塗料EPを吸引するために真空装置15を作動させている間は、圧縮空気供給装置50の開閉バルブ52を開いてエアチューブ13内に圧縮空気を供給することができる。このため、排気用のエアチューブ13内に入り込んだ余剰塗料EPを圧縮空気でカップ2の廃液口2Cに向けて押し出すことができる。
【0110】
図14は、第3の実施形態に係るファスナ塗装システム1Bに備えられるカップ2の構造例を示す縦断面図、図15は、図14に示すカップ2の平面図、図16は、図15に示すカップ2の位置A-Aにおける断面図、図17は、図14に示すカップ2の斜視図である。尚、図14乃至図17では、カップ2の縁に取付けられるOリング30やスポンジ33等のパッキンの図示が省略されている。
【0111】
余剰塗料EPの排出時に排気用のエアチューブ13に圧縮空気を供給する場合、圧縮空気はエアチューブ13及び通気口2Bを通ってカップ2の空隙7内に流れ込むことになる。そこで、塗料Pが付着したファスナFの頭Hに圧縮空気が当たって塗装むらが生じないように、通気口2Bの向きを工夫して、圧縮空気を空隙7内の壁面に沿って流すようにすることができる。
【0112】
具体的には、図14乃至図17に例示されるように、カップ2の空隙7内で開口する通気口2B内を流れる圧縮空気の流線がファスナFの頭Hに向かわないように通気口2Bの向きと形状を決定することができる。そのためには、通気口2Bの内壁の接線が、ファスナFの頭Hが配置される空隙7の中央に向かわないように通気口2Bの向きと形状を決定すれば良い。
【0113】
図14乃至図17に示す例では、カップ2の外壁内において通気口2Bが2本に分岐しており、カップ2の外側にはエアチューブ13を連結できるように単一の通気口2Bが開口する一方、カップ2の内側では2本の通気口2Bが開口している。そして、カップ2の内側で開口する2本の通気口2Bの向きは、それぞれ通気口2Bの中心軸が、概ねカップ2内の空隙7を形成する壁面の接線方向となっている。このため、図17に例示されるように、圧縮空気をカップ2内の空隙7を形成する壁面に沿って流すことができる。その結果、圧縮空気の供給に起因する塗装むらの発生を回避することができる。
【0114】
以上の第3の実施形態によれば、第1の実施形態又は第2の実施形態と同様な効果に加えて、排気用のエアチューブ13内に入り込んだ余剰塗料EPを良好に排出できるという効果を得ることができる。
【0115】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0116】
1、1A、1B…ファスナ塗装システム、2…カップ、2A…供給口、2B…通気口、2C…廃液口、3…供給系、4…排気系、5…廃液系、6…移動機構、6A…制御装置、6B…記憶装置、7…空隙、8…開口部、9…シリンジ(注射筒)、10…プランジャ(押子)、11…ディスペンサ、12…エアチューブ、13…エアチューブ、14…弁、14A…逆止弁(チェック弁)、15…真空装置、16…廃液トラップ、17…廃液チューブ、18…エアチューブ、20…多関節ロボット、21…アーム、22…ホルダ、23…エンドエフェクタ、24…フランジ、25…力センサ、26…ロボット制御装置、30…Oリング、31…溝、31A…逃げ、32…壁面、33…スポンジ、40…センサ、40A…光学カメラ、40B…距離センサ、50…圧縮空気供給装置、51…タンク、52…開閉バルブ、O…物体、F…ファスナ、H…頭、P…塗料、EP…余剰塗料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17