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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20250414BHJP
【FI】
G03G15/20 555
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021161550
(22)【出願日】2021-09-30
(65)【公開番号】P2023051090
(43)【公開日】2023-04-11
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】山名 真司
【審査官】広瀬 杏奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-093651(JP,A)
【文献】特開2007-323060(JP,A)
【文献】特開2012-047775(JP,A)
【文献】特開2014-178669(JP,A)
【文献】特開2010-002639(JP,A)
【文献】特開2012-042760(JP,A)
【文献】特開2007-173218(JP,A)
【文献】特開2009-098361(JP,A)
【文献】特開2010-078953(JP,A)
【文献】特開2002-372892(JP,A)
【文献】特開2002-023550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 21/14
B41J 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着装置を備えた画像形成装置であって、
前記定着装置の定着部材における通紙部領域の温度を検知する温度センサであって、サーモパイルセンサを使用する第1温度センサと、
前記画像形成装置に備えられる、前記第1温度センサ以外の第2温度センサと、
前記第1温度センサおよび前記第2温度センサの出力信号がオペアンプを介して入力される制御部とを備えており、
前記制御部は、当該画像形成装置の電源ON直後であって、前記定着部材における通紙部領域の温度が等しくなっている状態のイニシャル時において前記第1温度センサの補正値を求める補正処理を実施し、
前記補正処理では、
前記第2温度センサの検出温度に相当する前記第1温度センサの出力電圧を算出して、算出した前記第1温度センサの出力電圧をサーモパイル基準電圧とし、
前記第1温度センサから前記制御部にて検出される電圧をサーモパイル検出電圧とし、
前記サーモパイル基準電圧と前記サーモパイル検出電圧との電圧差分値に基づいて、前記第1温度センサの補正値を求め
前記第1温度センサの出力電圧に前記補正値を加えることで、前記第1温度センサの出力電圧を補正することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成装置であって、
前記第1温度センサの測定誤差に基づく補正最小値が設定されており、
前記制御部は、前記電圧差分値から前記補正最小値を減算した値を前記補正値とすることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の画像形成装置であって、
前記制御部は、前記補正値を補正最大値と比較し、前記補正値が補正最大値を超える場合には、前記補正値を前記補正最大値に変更することを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項3に記載の画像形成装置であって、
前記補正値が補正最大値を超えることが所定回数以上生じた場合に、エラー表示や当該画像形成装置の動作制限を行うことを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の画像形成装置であって、
前記第1温度センサは、通紙部の中央領域の温度を検知するメインサーモパイルセンサと、通紙部の端部領域の温度を検知するサブサーモパイルセンサとを含み、
前記制御部は、前記メインサーモパイルセンサによる検出温度と、前記サブサーモパイルセンサによる検出温度との温度差であるメイン/サブ温度差を所定の温度閾値と比較し、前記メイン/サブ温度差が前記温度閾値を超えることが所定回数以上生じた場合に、エラー表示や当該画像形成装置の動作制限を行うことを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の画像形成装置であって、
前記第1温度センサは前記定着装置外に配置され、前記第2温度センサは前記定着装置内に配置されていることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置に備えられる定着装置では、定着部材(定着ベルトや定着ローラ)の温度を温度センサで検知し、その検知結果に基づくフィードバック制御によって温度制御が行われる。温度センサの出力信号(電圧値)は、オペアンプや保護回路を介して制御部に入力される。このとき、オペアンプにおいて生じる誤差を低減するための補正処理(キャリブレーション)が必要となる。特許文献1には、温度センサとして非接触サーミスタを用いた場合の補正処理の方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-167259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非接触で温度検知を行える温度センサの種類としては、非接触サーミスタ以外にサーモパイルセンサがある。但し、温度センサとしてサーモパイルセンサを用いる場合は、非接触サーミスタを用いる場合とは異なる方法の補正処理が必要となる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、サーモパイルセンサに適した補正処理を行う画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の画像形成装置は、定着装置を備えた画像形成装置であって、前記定着装置の定着部材における通紙部領域の温度を検知する温度センサであって、サーモパイルセンサを使用する第1温度センサと、前記画像形成装置に備えられる、前記第1温度センサ以外の第2温度センサと、前記第1温度センサおよび前記第2温度センサの出力信号がオペアンプを介して入力される制御部とを備えており、前記制御部は、当該画像形成装置の電源ON直後であって、前記定着部材における通紙部領域の温度が等しくなっている状態のイニシャル時において前記第1温度センサの補正値を求める補正処理を実施し、前記補正処理では、前記第2温度センサの検出温度に相当する前記第1温度センサの出力電圧を算出して、算出した前記第1温度センサの出力電圧をサーモパイル基準電圧とし、前記第1温度センサから前記制御部にて検出される電圧をサーモパイル検出電圧とし、前記サーモパイル基準電圧と前記サーモパイル検出電圧との電圧差分値に基づいて、前記第1温度センサの補正値を求めることを特徴としている。
【0007】
上記の構成によれば、制御部は、サーモパイルセンサである第1温度センサの補正値を得ることができる。この補正処理においては、サーモパイル基準電圧とサーモパイル検出電圧との電圧差(電圧差分値)に基づいて電圧補正値を求めるものとなり、電圧値を補正することで、第1温度センサの使用温度域の全体で補正処理を適用することができる。また、この補正処理は、オペアンプの大きなオフセット電圧に特化した補正を行うことができ、複雑な処理や工程を不要とする簡単な仕組みで、大きな不具合を未然に防ぐことができる。
【0008】
また、上記画像形成装置では、前記第1温度センサの測定誤差に基づく補正最小値が設定されており、前記制御部は、前記電圧差分値から前記補正最小値を減算した値を前記補正値とする構成とすることができる。
【0009】
上記の構成によれば、サーモパイル検出電圧がイレギュラーでない場合に、補正値から基準電圧のバラツキ影響によって発生する可能性のある測定誤差の影響を除外することができる。
【0010】
また、上記画像形成装置では、前記制御部は、前記補正値を補正最大値と比較し、前記補正値が補正最大値を超える場合には、前記補正値を前記補正最大値に変更する構成とすることができる。
【0011】
上記の構成によれば、補正値が補正最大値を超えた場合に、その補正値が異常値であると判定され、補正値を補正最大値に変更することでイレギュラー丸め処理が行われる。
【0012】
また、上記画像形成装置は、前記補正値が補正最大値を超えることが所定回数以上生じた場合に、エラー表示や当該画像形成装置の動作制限を行う構成とすることができる。
【0013】
また、上記画像形成装置は、前記第1温度センサは、通紙部の中央領域の温度を検知するメインサーモパイルセンサと、通紙部の端部領域の温度を検知するサブサーモパイルセンサとを含み、前記制御部は、前記メインサーモパイルセンサによる検出温度と、前記サブサーモパイルセンサによる検出温度との温度差であるメイン/サブ温度差を所定の温度閾値と比較し、前記メイン/サブ温度差が前記温度閾値を超えることが所定回数以上生じた場合に、エラー表示や当該画像形成装置の動作制限を行う構成とすることができる。
【0014】
上記の構成によれば、メイン/サブ温度差が閾値温度を超えたことで、メインサーモパイルセンサおよびサブサーモパイルセンサの何れかに接触不良などの異常が生じたと判断でき、この異常判断に基づいてエラー表示や当該画像形成装置の動作制限を行うことができる。
【0015】
また、上記画像形成装置では、前記第1温度センサは前記定着装置外に配置され、前記第2温度センサは前記定着装置内に配置されている構成とすることができる。
【0016】
第1温度センサのサーモパイルセンサは、耐熱性の点から測定対象からの距離が必要になるので、定着装置内に配置しようとすると所定の空間が必要になる。定着装置外に配置することで所定の空間を削減でき、定着装置の小型化が図れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の画像形成装置は、サーモパイル基準電圧とサーモパイル検出電圧と電圧差分値に基づいて、サーモパイルセンサの電圧補正値を適切に求めることができるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明が適用される画像形成装置における温度制御機構の概略構成を示す模式図である。
図2】第1温度センサおよび第2温度センサに対する補正処理を示すフローチャートである。
図3】サーモパイルセンサの補正値算出方法を示すサブフローチャートである。
図4】メイン/サブ温度差チェックを示すサブフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔実施の形態1〕
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態に係る画像形成装置は、定着ユニットを備えており、定着ユニットの温度制御を行うための温度制御機構を有している。図1は、温度制御機構の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、本温度制御機構は、定着ユニット(定着装置)10、ヒータドライバユニット20およびパワーコントロールユニット30を備えて構成されている。
【0020】
定着ユニット10は、ユニット筐体11の内部に定着部材12および加圧ローラ13を有している。定着部材12の内部には、通紙部の中央領域を加熱するメインヒータ121と端部領域を加熱するサブヒータ122,123とが備えられている。定着ユニット10内の部材温度を検知する温度センサとしては、メインサーモパイルセンサ(第1温度センサ)141、サブサーモパイルセンサ(第1温度センサ)142、接触サーミスタ(第2温度センサ)143および非接触サーミスタ144が備えられている。尚、定着部材12は、定着ベルトであってもよく、定着ローラであってもよい。また定着ベルトを架橋するための加熱ローラと定着ローラとを備える場合は、加熱ローラ内においてメインヒータ121およびサブヒータ122,123が設けられる。
【0021】
メインサーモパイルセンサ141は、定着部材12における通紙部の中央領域の温度を非接触で測定する。サブサーモパイルセンサ142は、定着部材12における通紙部の端部領域の温度を非接触で測定する。尚、メインサーモパイルセンサ141およびサブサーモパイルセンサ142は、実際には定着ユニット10に含まれるものではなく、定着ユニット10外の画像形成装置本体に設置され、ユニット筐体11に設けられた窓(開口)を通して定着部材12の温度測定を行う。接触サーミスタ143は、定着部材12の端部領域の温度を測定する。非接触サーミスタ144は、加圧ローラ13の中央領域の温度を測定する。
【0022】
ヒータドライバユニット20は、メインヒータ121およびサブヒータ122,123を駆動するヒータドライバ21を備えている。パワーコントロールユニット30は、メインサーモパイルセンサ141、サブサーモパイルセンサ142、接触サーミスタ143および非接触サーミスタ144からの出力信号を受けて、ヒータドライバ21をフィードバック制御する制御マイコン(制御部)31を備えている。また、パワーコントロールユニット30は、メインサーモパイルセンサ141、サブサーモパイルセンサ142、接触サーミスタ143および非接触サーミスタ144のそれぞれに対してオペアンプや保護回路を有しており、これらの温度センサの出力信号をオペアンプや保護回路を介して制御マイコン31に入力させている。
【0023】
本温度制御機構は、サーモパイルセンサ(メインサーモパイルセンサ141およびサブサーモパイルセンサ142)に対して検知誤差を低減するための補正値(マシンオフセット補正値)を求める。図2は、この補正値を求めるための補正処理を示すフローチャートである。
【0024】
画像形成装置の電源がONされると、最初に各温度センサによる検知が行われ(S1)、各温度センサの出力信号が制御マイコン31に入力される(S2)。上述したように、各温度センサの出力信号はオペアンプや保護回路を介して制御マイコン31に入力されるものであり、制御マイコン31は各温度センサの出力信号を電圧値として取得する。
【0025】
制御マイコン31は、取得した電圧値を温度に換算する(S3)。制御マイコン31は、予め実験的に求められたルックアップテーブルまたは換算式を有しており、これらのテーブルまたは式を用いて電圧値を温度に換算する。
【0026】
S3の後、イニシャル時判定が行われる(S4)。本温度制御機構による補正処理は、画像形成装置の電源ON直後、より具体的には前回の電源OFFから十分に時間が経過し、定着部材12において中央領域および端部領域の温度が等しくなっている状態にて実施される。イニシャル時判定では、補正処理が実行可能な状態であるか否か(例えば、前回の電源OFFから所定時間が経過しているか否か)が判定される。イニシャル時判定で補正処理が実行可能と判定されると(S4でYES)、サーモパイルセンサに対する補正処理が開始される。イニシャル時判定で補正処理が実行不可と判定されると(S4でNO)、サーモパイルセンサに対する補正処理は実施されない。
【0027】
この補正処理では、最初に、接触サーミスタ143の検知温度を基準温度とし、この基準温度に相当するサーモパイル基準電圧と、実際に検知されたサーモパイル検出電圧との電圧差(=サーモパイル検出電圧-サーモパイル基準電圧:以下、電圧差分値)を算出する(S5)。
【0028】
接触サーミスタ143による基準温度は、サーモパイルセンサの誤差を含んでいない出力値である基準電圧を得るために、基準となる現在温度として取得されるものである。尚、上記例では、接触サーミスタ143の検知温度を基準温度としているが、基準温度はサーモパイルセンサが赤外線を受光する対象物(例えば、定着ベルト)の温度とすることが望ましく、定着ユニット10が室温に十分なじんでいれば、定着ユニット10内のどこの温度を基準温度としてもよい。
【0029】
サーモパイル基準電圧およびサーモパイル検出電圧は、メインサーモパイルセンサ141およびサブサーモパイルセンサ142のそれぞれについて個別に求められる。ここでのサーモパイル基準電圧は、予め実験的に求められたルックアップテーブルまたは換算式から求められる。すなわち、上述の基準温度をルックアップテーブルまたは換算式への入力とし、その出力としてサーモパイル基準電圧が得られる。また、サーモパイル検出電圧は、オペアンプや保護回路を介して制御マイコン31に入力される電圧値である。
【0030】
電圧差分値が算出されると、この電圧差分値に基づいてサーモパイルセンサの補正値が算出される(S6)。サーモパイルセンサの補正値は、メインサーモパイルセンサ141およびサブサーモパイルセンサ142のそれぞれにおいて個別に求められるものであり、図3のサブフローに沿った手順で求められる。
【0031】
図3のサブフローでは、最初に、電圧差分値から補正最小値を減算した値が補正値とされる(補正値=電圧差分値-補正最小値:S61)。さらに、S61で算出された補正値が補正最大値と比較される(S62)。補正値が補正最大値以下であれば(補正値≦補正最大値:S62でYES)、S61で算出された補正値がそのまま最終的な補正値(すなわち、マシンオフセット補正値)となる。一方、補正値が補正最大値を超えていれば(補正値>補正最大値:S62でNO)、最終的な補正値は補正最大値に変更される(補正値=補正最大値)と共に、第1カウンタ値α(初期値は0)が1増加される(S63)。第1カウンタ値αは、制御マイコン31のメモリに保存される。
【0032】
ここでの補正最大値は、サーモパイル検出電圧がイレギュラーであるか否かを判定するための閾値であり、オペアンプや保護回路で生じる誤差要因の累積最大値に基づき設定される。電圧差分値が補正最大値を超えた場合はサーモパイル検出電圧が異常値であると判定され、補正値を補正最大値に設定することでイレギュラー丸め処理が行われる。一方、補正最小値は、基準電圧のバラツキ影響によって発生する可能性のある測定誤差である、電圧差分値から補正最小値を減算した値を補正値とすることで、サーモパイル検出電圧がイレギュラーでない場合に、補正値から基準電圧の誤差やばらつきの影響を除外することができる。但し、補正値の算出に補正最小値の使用は必須ではなく、S61の演算では、電圧差分値をそのまま補正値としてもよい。
【0033】
S6でサーモパイルセンサの補正値が算出されると、続いて、メインサーモパイルセンサ141およびサブサーモパイルセンサ142の検知温度の温度差がチェックされる(S7)。このメイン/サブ温度差チェックは、図4のサブフローに沿った手順で求められる。
【0034】
図4のサブフローでは、メインサーモパイルセンサ141の検知温度(メイン温度)とサブサーモパイルセンサ142の検知温度(サブ温度)の温度差(メイン/サブ温度差)が所定の閾値温度と比較される(S71)。そして、メイン/サブ温度差が閾値温度を超えた場合(S71でYES)は、前回のメイン/サブ温度差が閾値温度を超えた場合と比べ、メイン温度とサブ温度との大小関係が入れ替わったか否かが判定される(S72)。
【0035】
メイン温度とサブ温度との大小関係の入れ替わりがなければ(S72でNO)、メイン/サブ温度差が閾値温度を超えたことでメインサーモパイルセンサ141およびサブサーモパイルセンサ142の何れかに接触不良などの異常が生じたと判断され、第2カウンタ値β(初期値は0)が1増加される(S73)。メイン温度とサブ温度との大小関係の入れ替わりがあれば(S72でYES)、第2カウンタ値βが1減少される(S74)。但し、第2カウンタ値βは最小値が0とされており、第2カウンタ値βが0の場合はS74の減算は行われない。第2カウンタ値βは、制御マイコン31のメモリに保存される。また、メイン/サブ温度差が閾値温度を超えない場合(S71でNO)は、特に処理は行われずにメイン/サブ温度差チェックを終了する。
【0036】
尚、上記説明では、メイン/サブ温度差チェックをメイン温度とサブ温度との温度差に基づいて行っているが、本発明はこれに限定されるものではなく、温度変換前のメインサーモパイルセンサ141の検知電圧(メイン電圧)とサブサーモパイルセンサ142の検知電圧(サブ電圧)の電圧差(メイン/サブ電圧差)に基づいて行ってもよい。この場合、メイン/サブ電圧差が所定の閾値電圧と比較される。所定の閾値電圧は、サーモパイルの構成素子の個体差誤差の累積の最大値から設定される。
【0037】
図2のメインフローに戻って、S7のメイン/サブ温度差チェック後は、第1カウンタ値αまたは第2カウンタ値βが所定カウント数(例えば、3)に到達したか否かが判定される(S8)。第1カウンタ値αおよび第2カウンタ値βの両方が所定カウント数に到達していなければ(S8でNO)、S6で算出された補正値に基づき、サーモパイル電圧の補正が行われる(S9)。すなわち、制御マイコン31に入力されるサーモパイル検出電圧に算出された補正値を加え、補正サーモパイル電圧とする。尚、S8の判定に用いる所定カウント数は、第1カウンタ値αおよび第2カウンタ値βのそれぞれに対して異なる値であってもよい。
【0038】
一方、第1カウンタ値αおよび第2カウンタ値βの何れか一方でも所定カウント数に到達した場合は(S8でYES)、メインサーモパイルセンサ141またはサブサーモパイルセンサ142に異常があるとして、エラー処理が行われる(S10)。ここで、S8の判定を行うのはノイズなどによる誤検知を避けるためである。
【0039】
エラー処理では、例えば、
・メインヒータ121およびサブヒータ122,123のOFF
・制御マイコン31による制御の停止
・画像形成装置の操作表示部へのエラー表示
・画像形成装置の動作制限
が行われる。尚、エラー表示は、第1カウンタ値αが所定カウント数に到達した場合と、第2カウンタ値βが所定カウント数に到達した場合とで、異なる表示を行うものであってもよい。また、上記エラー処理が行われた場合、第1カウンタ値αおよび第2カウンタ値βは初期値にリセットされる。
【0040】
以上の補正処理により、制御マイコン31は、メインサーモパイルセンサ141およびサブサーモパイルセンサ142のそれぞれに対して補正サーモパイル電圧を得ることができる。その後、制御マイコン31は、補正サーモパイル電圧をルックアップテーブルや換算式によって温度に換算し、この温度に基づいてメインヒータ121およびサブヒータ122,123のフィードバック制御を行う。
【0041】
上述したサーモパイルセンサに対する補正処理は、メインサーモパイルセンサ141およびサブサーモパイルセンサ142に対してユーザの意図しない所定加熱は不要であり、かつ、特別なキャリブレーション回路も不要であるといった利点がある。また、画像形成装置のマシン立上げ時の所定条件を満たすごとに補正処理を行うので、この補正処理をユーザが意識することはない上、温度誤検知による不具合(温度ムラなど)を未然に防ぐことができる。
【0042】
さらに、上述の補正処理は、基準温度とサーモパイルセンサの検出温度との温度差に基づいて温度補正値を求めるのではなく、サーモパイル基準電圧とサーモパイル検出電圧との電圧差(電圧差分値)に基づいて電圧補正値を求めるものとなっている。サーモパイルセンサの検出値に発生する誤差は、その大半がオペアンプのオフセット誤差のように電圧をシフトさせる誤差であるため、電圧差を補正することで、サーモパイルセンサの使用温度域の全体で補正処理を適用することが可能である。
【0043】
また、差動増幅のオペアンプオフセット電圧は、サーモパイルセンサの検知電圧に対して増幅率(例えば5倍)の積で効き、サーモパイルセンサの検知温度に対する影響は他要因に比べて桁違いに大きくなる。上述の補正処理は、その大きなオフセット電圧に特化した補正を行うことで、複雑な処理や工程を不要とする簡単な仕組みで、大きな不具合を未然に防ぐことができる。
【0044】
〔実施の形態2〕
上記実施の形態1では、画像形成装置の電源ON直後に行われる補正処理によってサーモパイルセンサのマシンオフセット補正値を求めることについて説明した。本実施の形態2では、画像形成装置の生産時の検査工程で求められる基板オフセット補正値について説明する。
【0045】
基板オフセット補正値は、パワーコントロールユニット30となるPCU基板に対してオフセット測定をすることで求められる。オフセット測定は、専用回路を備えた測定治具によりPCU基板単体に対して行われる。このとき、PCU基板に対してサーモパイルセンサは未接続であるが、サーモパイルセンサ接続用の入力端子にセンサ出力の代わりに所定電圧が入力される。そして、入力される所定電圧とPCU基板によるオペアンプや保護回路を介してAD変換された後の電圧との電圧差が基板オフセット補正値として取得される。取得された基板オフセット補正値は、制御マイコン31のメモリに記憶される。
【0046】
尚、基板オフセット補正値についても、マシンオフセット補正値と同様に、所定電圧とAD変換後電圧との電圧差をそのまま基板オフセット補正値とするのではなく、所定電圧とAD変換後電圧との電圧差から補正最小値を減算した値を基板オフセット補正値としてもよい。また、所定電圧とAD変換後電圧との電圧差が補正最大値を超えた場合は、補正最大値を基板オフセット補正値としてもよい。あるいは、所定電圧とAD変換後電圧との電圧差が補正最大値を超えた場合は異常と見なし、PCU基板を別のチェック工程へ送るようにしてもよい。尚、基板オフセット補正値に対する補正最小値および補正最大値は、マシンオフセット補正値に対する補正最小値および補正最大値とは、異なる値であってもよい。
【0047】
画像形成装置において基板オフセット補正値が記憶されている場合、マシンオフセット補正値の検出後に基板オフセット補正値とマシンオフセット補正値との比較を行い、絶対値の大きいほうを最終補正値とする。また、基板オフセット補正値とマシンオフセット補正値との正負が逆であり、絶対値が同値になった場合は、累積誤差が補正されているマシンオフセット補正値の方を最終補正値として選択することが好ましい。但し、この場合も、基準温度やサーモパイル電圧のばらつきが大きい場合など、マシンオフセット補正値の信頼性が低い場合は、基板オフセット補正値を最終補正値として選択してもよい。
【0048】
〔実施の形態3〕
画像形成装置の電源がONされ、上述の補正処理によってマシンオフセット補正値が求められた後、定着ユニット10の最初のウォームアップ時(メインヒータ121およびサブヒータ122,123の点灯時)に、サーモパイルセンサで昇温速度を測定してエラー判定することができる。定着ユニット10における最初のウォームアップでは、定着部材12を加熱するためのメインヒータ121およびサブヒータ122,123が同時に連続点灯される期間があり、その期間中においてメインサーモパイルセンサ141およびサブサーモパイルセンサ142のそれぞれの昇温速度が測定される。
【0049】
このとき、ウォームアップされる定着部材12は、中央領域および端部領域の温度が等しい初期状態から加熱を受け、本来であれば規定の昇温速度で温度上昇する。このため、測定されるメイン温度およびサブ温度のそれぞれにおいて、規定の昇温速度に対して所定温度以上の温度差が生じた場合、サーモパイルセンサの検知に異常があるとしてエラー表示を行い、マシンの動作制限を行うことができる。
【0050】
この場合に検出できるサーモパイルセンサの異常は、例えば、サーモパイルセンサのレンズ面に異物が付着した場合のような異常である。このような異常は、定着部材12の加熱が行われない初期状態では赤外線の受光量に変化が生じにくく異常の判別が困難であるが、加熱中であれば赤外線受光量に差が生じるため異常検出が可能となる。
【0051】
また、定着ユニット10に対する温度調整中(メインヒータ121およびサブヒータ122,123へのフィードバック制御中)は、比較する基準温度がないために、上記の異常判別は困難であるが、初期状態からの昇温中は所定内の最大電力でヒータが連続通電されるため、昇温条件が一定であり規定の昇温速度を基準とすることで異常判別が可能となる。
【0052】
このように、上述のウォームアップ時の異常判定では、基準となる規定の昇温速度と比較することにより、ユーザが意識することなく、通紙前にサーモパイルセンサの異常を検知することができる。また、ウォームアップ時の異常判定をより簡易的に行うため、メインサーモパイルセンサ141により検知されるメイン温度と、サブサーモパイルセンサ142により検知されるメイン温度との昇温速度差を所定値と比較し、昇温速度差が上記所定差以上のときに、エラー表示を行い、マシンの動作制限を行うようにしてもよい。
【0053】
<実施例1>
上記実施の形態1では、サーモパイル基準電圧とサーモパイル検出電圧との電圧差(電圧差分値)、補正最小値、および補正最大値によってマシンオフセット補正値を検出する方法について説明した。
【0054】
電圧差分値は、オペアンプによるオフセット誤差、リーク電流およびAD変換誤差などのマシン固有誤差によって発生するものであり、これらのマシン固有誤差の累積最大値が補正最大値とされる。また、補正最小値は、サーモパイルセンサの出力電圧のバラつきや基準電圧のバラつきなどの測定誤差を考慮して設定されるものであり、例えば、測定誤差分布の3σ(標準偏差の3倍)を補正最小値とする。
【0055】
ここで、補正最小値を15mV、補正最大値を20mVとした場合のマシンオフセット補正値の算出例を以下の(ケース1)~(ケース4)に示す。
【0056】
(ケース1):電圧差分値が18mVの場合
電圧差分値-補正最小値=3mV<補正最大値であるため、マシンオフセット補正値は3mVとなる。
【0057】
(ケース2):電圧差分値が-25mVの場合
電圧差分値がマイナスの場合は、補正最小値もマイナスの値として減算する。また、補正最大値の比較は絶対値にて行われる。これより、
電圧差分値-補正最小値=-25mV-(-15mV)=-10mV、かつ、10mV<補正最大値であるため、マシンオフセット補正値は-10mVとなる。
【0058】
(ケース3):電圧差分値が40mVの場合
電圧差分値-補正最小値=25mV>補正最大値であるため、マシンオフセット補正値は補正最大値の20mVとなる。
【0059】
(ケース4):電圧差分値が32mVの場合
電圧差分値-補正最小値=17mV<補正最大値であるため、マシンオフセット補正値は17mVとなる。
【0060】
<実施例2>
上記実施の形態2では、所定電圧とAD変換後電圧との電圧差、補正最小値、および補正最大値によって基板オフセット補正値を検出する方法について説明した。ここで、補正最小値を6mV、補正最大値を10mVとした場合の基板オフセット補正値の算出例を以下の(ケース5)~(ケース7)に示す。
【0061】
(ケース5):電圧差が10mVの場合
電圧差-補正最小値=4mV<補正最大値であるため、基板オフセット補正値は4mVとなる。
【0062】
(ケース6):電圧差が-12mVの場合
基板オフセット補正値についても、電圧差がマイナスの場合は、補正最小値もマイナスの値として減算する。また、補正最大値の比較は絶対値にて行われる。これより、
電圧差-補正最小値=-12mV-(-6mV)=-6mV、かつ、6mV<補正最大値であるため、基板オフセット補正値は-6mVとなる。
【0063】
(ケース7):電圧差分値が17mVの場合
電圧差分値-補正最小値=11mV>補正最大値であるため、マシンオフセット補正値は補正最大値の10mVとなる。
【0064】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10 定着ユニット(定着装置)
11 ユニット筐体
12 定着部材
121 メインヒータ
122,123 サブヒータ
13 加圧ローラ
141 メインサーモパイルセンサ(第1温度センサ)
142 サブサーモパイルセンサ(第1温度センサ)
143 接触サーミスタ(第2温度センサ)
144 非接触サーミスタ
20 ヒータドライバユニット
21 ヒータドライバ
30 パワーコントロールユニット
31 制御マイコン(制御部)
図1
図2
図3
図4