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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 21/14 20060101AFI20250414BHJP
   H02K 1/276 20220101ALI20250414BHJP
【FI】
H02K21/14 M
H02K1/276
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021177727
(22)【出願日】2021-10-29
(65)【公開番号】P2023066881
(43)【公開日】2023-05-16
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平本 健二
(72)【発明者】
【氏名】難波 雅史
(72)【発明者】
【氏名】米澤 紀男
(72)【発明者】
【氏名】浦田 信也
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 大和
(72)【発明者】
【氏名】服部 宏之
【審査官】加藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-242424(JP,A)
【文献】特開2014-204517(JP,A)
【文献】米国特許第10171014(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第106059237(CN,A)
【文献】独国実用新案第202017007259(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 21/14
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極対数pの3相コイルが配置され、スロット数Z1のスロットを有するステータと、
前記ステータに対して相対的に回転可能であり、互いに分離して配置された第1ロータ及び第2ロータと、を備え、
前記第1ロータは、極対数Z2の磁極及び極対数Z3の磁極を有すると共に、前記第2ロータは、極対数Z2の磁極及び極対数Z3の磁極を有し、
前記極対数p、前記スロット数Z1、前記極対数Z2及び前記極対数Z3は、
Z2=Z1±Z3
Z3=p
の条件を満たし、
前記第1ロータと前記第2ロータとの相対位相角を変化させることが可能なことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記第1ロータ及び前記第2ロータは、それぞれロータ外径部に前記極対数Z2の磁極とロータ内径部に前記極対数Z3の磁極を有することを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転電機であって、
前記第1ロータと前記第2ロータとの相対位相角を変化させることで、ロータ外径部の前記極対数Z2の磁極とロータ内径部の前記極対数Z3の磁極の磁束成分の振幅を変化させることが可能なことを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の回転電機であって、
前記第1ロータの前記極対数Z3の磁極の着磁方向は前記第2ロータの前記極対数Z3の磁極の着磁方向と同方向であるとき、前記第1ロータの前記極対数Z2の磁極の着磁方向は前記第2ロータの前記極対数Z2の磁極の着磁方向と逆方向であることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の回転電機であって、
ロータ外径部の前記極対数Z2の磁極は、ロータ周方向に磁化方向が向けられたスポーク状に配置されていることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の回転電機であって、
機械的機構又は前記ステータに対するステータコイル電流のベクトル制御により前記第1ロータと前記第2ロータとの相対位相角を変化させることが可能なことを特徴とする回転電機。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の回転電機であって、
低速回転域では起電力の高調波成分が大きくなり、前記低速回転域より高速な高速回転域では起電力の基本波成分が大きくなるように前記第1ロータと前記第2ロータとの相対位相角を変化させることが可能なことを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な回転電機では、ロータ磁力を増大させることによってモータの最大トルクを増加させることができる。しかしながら、発生する誘起電圧も増大し、モータ制御の上限電圧を超えてしまい、高速回転ができなくなる。
【0003】
そこで、回転子の界磁用磁石を第1の界磁用磁石とこれに対して相対回転ができる第2の界磁用磁石から構成し、界磁用磁石の合成した磁極の位相を第1の界磁用磁石に対して回転子の回転に伴い変化させる機構を設けた構成が開示されている(特許文献1)。当該機構において低回転時には第1と第2の界磁用磁石の異なる極性の磁極を並ばせることで、回転の上昇に伴い遠心力によりガバナが動き、第2の界磁用磁石に相対回転力を付与することができる。
【0004】
また、極性の異なる界磁用磁石が回転方向に交互に配置された回転子を軸方向に二分割し、回転子のトルク方向に応じて二分割された回転子の一方を二分割された回転子の他方との相対的な軸方向位置を変化させ、或いは回転子のトルク方向に応じて界磁用磁石の合成した磁極の位相を二分割された回転子の他方の磁極に対して変化させる構成が開示されている(特許文献2)。
【0005】
また、内周側永久磁石を具備する内周側回転子及び外周側永久磁石を具備する外周側回転子との間の相対的な位相を変更可能な回動手段と、外周側回転子に対して一体回転可能に設けられた第1部材と、内周側回転子に対して一体回転可能に設けられるとともに第1部材とで圧力室を内周側回転子の内側に画成する第2部材とを設け、圧力室への作動流体の供給で内周側回転子と外周側回転子との間の相対的な位相を変更する構成が開示されている(特許文献3)。
【0006】
さらに、周方向に沿って複数箇所にステータコイルが配置されたステータと、ステータに対して回転可能であり、回転軸方向に分離して配置された第1ロータと第2ロータと、を備え、第1ロータに対する第2ロータの相対位相差であるロータ間の位相を遷移させるようにステータコイルの電流をベクトル制御する回転電機制御システムが開示されている(特許文献4)。当該構成では、第1ロータと第2ロータとの磁性が同相(同極)の状態と逆相(逆極)の状態とを切り替えることで、低速時は同相として最大トルクを増加させ、高速時は逆相として誘起電圧を低下させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-69743号公報
【文献】特開2002-262534号公報
【文献】特開2007-244040号公報
【文献】特開2014-204517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術によれば、2つのロータの相対位相角を変化させて、各ロータの磁石をロータ内に短絡、又はコイルに鎖交する磁束を相殺させることで、磁石磁束を抑制することができる。しかしながら、磁石磁束を増加することはできない。そのため、モータの相対位相角を変化させることで、高回転まで出力可能にはなるがトルクを増加することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様は、極対数pの3相コイルが配置され、スロット数Z1のスロットを有するステータと、前記ステータに対して相対的に回転可能であり、互いに分離して配置された第1ロータ及び第2ロータと、を備え、前記第1ロータ及び前記第2ロータは、極対数Z2の磁極及び極対数Z3の磁極をそれぞれ有し、前記極対数p、前記スロット数Z1、前記極対数Z2及び前記極対数Z3は、Z2=Z1±Z3,Z3=pの条件を満たし、前記第1ロータと前記第2ロータとの相対位相角を変化させることが可能なことを特徴とする回転電機である。
【0010】
ここで、前記第1ロータ及び前記第2ロータは、それぞれロータ外径部に前記極対数Z2の磁極とロータ内径部に前記極対数Z3の磁極を有することが好適である。
【0011】
また、前記第1ロータと前記第2ロータとの相対位相角を変化させることで、ロータ外径部の前記極対数Z2の磁極とロータ内径部の前記極対数Z3の磁極の磁束成分の振幅を変化させることが可能なことが好適である。
【0012】
また、前記第1ロータの前記極対数Z3の磁極の着磁方向は前記第2ロータの前記極対数Z3の磁極の着磁方向と同方向であるとき、前記第1ロータの前記極対数Z2の磁極の着磁方向は前記第2ロータの前記極対数Z2の磁極の着磁方向と逆方向であることが好適である。
【0013】
また、ロータ外径部の前記極対数Z2の磁極は、ロータ周方向に磁化方向が向けられたスポーク状に配置されていることが好適である。
【0014】
また、機械的機構又は前記ステータに対するステータコイル電流のベクトル制御により前記第1ロータと前記第2ロータとの相対位相角を変化させることが可能なことが好適である。
【0015】
また、低速回転域では起電力の高調波成分が大きくなり、前記低速回転域より高速な高速回転域では起電力の基本波成分が大きくなるように前記第1ロータと前記第2ロータとの相対位相角を変化させることが可能なことが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高トルク及び高速回転が可能な回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態における回転電機システムの構成を示す図である。
図2】第1の実施の形態における第1ロータの磁極の構成を示す図である。
図3】第1の実施の形態における第2ロータの磁極の構成を示す図である。
図4】第1の実施の形態における相対位相角(スキュー角)と無負荷逆起電圧との関係を示す図である。
図5】第1の実施の形態における相対位相角(スキュー角)と無負荷逆起電圧振幅との関係を示す図である。
図6】第2の実施の形態における第2ロータの磁極の構成を示す図である。
図7】第2の実施の形態における相対位相角(スキュー角)と無負荷逆起電圧振幅との関係を示す図である。
図8】第3の実施の形態における第1ロータの磁極の構成を示す図である。
図9】第3の実施の形態における第2ロータの磁極の構成を示す図である。
図10】第3の実施の形態における相対位相角(スキュー角)と無負荷逆起電圧振幅との関係を示す図である。
図11】第1及び第3の実施の形態におけるq軸磁気回路を説明する図である。
図12】第3の実施の形態における回転電機システムの回転数とトルクとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態における回転電機システム100は、図1に示すように、回転電機102、駆動回路104、電源106及び制御装置108を含んで構成される。回転電機システム100は、例えばハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等に搭載される。回転電機システム100は、駆動力を発生させるモータとして使用可能であると共に、発電機、モータ及び発電機の両方の機能をもつモータジェネレータとしても使用可能である。
【0019】
回転電機102は、筐体10、ステータ12、回転軸14、第1ロータ16、第2ロータ18、ロック機構20、軸受22及び回転角センサ24を含んで構成される。なお、軸受22を設けず、回転軸14に対して第2ロータ18を摺動させるような構成としてもよい。本実施の形態では、センサレス制御として1つの回転角センサ24のみを設けた構成としたが、第1ロータ16及び第2ロータ18のそれぞれに回転角センサ24を設けた構成としてもよい。
【0020】
回転電機102は、制御装置108に制御される駆動回路104によって、電源106から供給される電力を用いて回転軸14に対して駆動力を発生させる。また、回転軸14に与えられた回転エネルギーを駆動回路104によって電力に変換して電源106へ回生させる。駆動回路104は、電源106からの電力を交流に変換するインバータを含んで構成することができる。電源106は、例えば二次電池を含む蓄電システムを含んで構成することができる。
【0021】
筐体10は、回転電機102を機械的に支持するための構成である。筐体10内に、ステータ12、回転軸14、第1ロータ16、第2ロータ18、ロック機構20、軸受22及び回転角センサ24が収納される。
【0022】
ステータ12は、ステータコアとステータコイルを備える。ステータコアは、電磁鋼板を回転軸14の軸方向に積層した積層体からなる中空円筒形状の部材である。ただし、ステータコアを構成する材料は、電磁鋼板に限定されるものではなく、アモルファス金属、ナノ結晶軟磁性材料、圧粉磁芯等の磁性体とすることができる。ステータコイルは、ステータコアの内周面に設けられた複数のスロットに配置されたコイルである。駆動回路104を介して電源106からステータコイルに電流を流すことによって、ステータコイルに磁場を発生させることができる。
【0023】
回転軸14には、第1ロータ16及び第2ロータ18が軸方向に沿って間隔をおいて配置される。本実施の形態における回転電機システム100では、2つに分割された第1ロータ16a,16bの間に第2ロータ18が配置される。
【0024】
第1ロータ16a,16bは、回転軸14に固定されている。また、第2ロータ18は、回転軸14に対して回転方向において移動可能に設置されている。すなわち、第2ロータ18は、回転軸14に対して相対的に回転可能とされている。例えば、第2ロータ18は、軸受22を介して回転軸14に取りつけられており、軸受22によって回転軸14に対して回転可能とされている。
【0025】
さらに、第2ロータ18は、回転軸14に対して固定できるようにロック機構20が設けられる。例えば、第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18との間にギアを設け、ロックピンを用いたロック機構20によって回転軸14に対して第2ロータ18が回転しないようにロックすることが可能な構成とされている。ただし、第2ロータ18に設けられるロック機構は、これに限定されるものではなく、第2ロータ18を回転軸14に固定できる機構を有するものであればよい。
【0026】
回転電機システム100の通常の運転時は、ロック機構20によって第2ロータ18を回転軸14に対して回転しないような状態として、第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18の両方が回転軸14の回転に寄与する状態とする。一方、界磁調整時は、ロック機構20を開放して第2ロータ18を回転軸14に対して回転可能として、第1ロータ16(16a,16b)に対して第2ロータ18を相対的に回転させ、周方向の位置を調整することで、ロータ全体としての界磁を調整することができる。
【0027】
このような構成において、ロック機構20を結合状態として回転軸14に対して第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18が回転しない状態(通常運転状態)でステータ12のステータコイルに電流を流して回転磁界を形成することでステータ12に対して回転軸14を回転させる出力トルクを発生させることができる。また、逆に、回転軸14の回転エネルギーをステータ12のステータコイルに流れる電流に変換して回生させることができる。
【0028】
また、ロック機構20を開放状態して回転軸14に対して第2ロータ18が回転可能な状態(調整状態)でステータ12のステータコイルに電流を流して回転磁界を形成することで、第1ロータ16(16a,16b)から回転軸14へ出力トルクを発生させつつ、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18との磁極の相対位相角(スキュー角)を調整することができる。
【0029】
このとき、第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18に回転角センサ24を設け、回転角センサ24から出力される第1ロータ16(16a,16b)の回転角及び第2ロータ18の回転角を受けた制御装置108によって磁極の相対位相角(スキュー角)の調整を行う。すなわち、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18の磁極の相対位相角(スキュー角)を調整する場合、まずロック機構20を開放状態にして回転軸14に対して第2ロータ18が回転可能な状態(調整状態)とする。調整状態において、ステータ12のステータコイルの電流を流すことによって第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18との磁極の相対位相角(スキュー角)を変更する。そして、第1ロータ16(16a,16b)と第2ロータ18との相対位相角(スキュー角)が所望の値となった状態でロック機構20を結合状態にして回転軸14に第1ロータ16(16a,16b)及び第2ロータ18が固定された状態に戻すことができる。なお、ステータ12のステータコイルに流す電流はいわゆるベクトル制御することが好適である。
【0030】
なお、第1ロータ16と第2ロータ18との相対的位相(スキュー角)を調整する方法は、特に限定されるものでなく、第1ロータ16や第2ロータ18を相対的に回転させるためのアクチュエータ等の機械的機構を設けた構成としてもよい。
【0031】
第1ロータ16(16a,16b)は、回転軸14に固定される基部と、基部の外周側に電磁鋼板を軸方向に積層した積層体を備える。ただし、積層体を構成する材料は、電磁鋼板に限定されるものではなく、アモルファス金属、ナノ結晶軟磁性材料、圧粉磁芯等の磁性体とすることができる。当該積層体には、複数の第1磁石及び第2磁石がそれぞれ周方向に沿って配置されている。
【0032】
本実施の形態では、ステータ12の内周壁に24個のスロットを等間隔(等角度)に設けて3相のステータコイルを分布巻線として配置した場合、3相のステータコイルに正弦波電流を通電すると8極の基本波回転磁界が形成される。また、基本波回転磁界とは逆方向に回転する40極の高調波回転磁界(5次高調波回転磁界)も併せて形成される。
【0033】
第1ロータ16(16a,16b)は、図2の部分断面図に示すように、周方向に沿って等間隔に配置された第1磁石30及び第2磁石32を備える。図2において、第1磁石30及び第2磁石32の磁極の方向をそれぞれS極からN極に向かう矢印で示している。
【0034】
第1磁石30として、第1ロータ16の外周(ロータ周方向)に沿って等間隔(等角度)に40極の磁極が設けられる。また、第2磁石32として、第1ロータ16の外周に沿って等間隔(等角度)に8極の磁極が設けられる。本実施の形態の回転電機システム100では、第1磁石30が第1ロータ16の最外周であるロータ外径部に配置され、第1磁石30の内側のロータ内径部に第2磁石32が配置された構成としている。ただし、これに限定されるものではなく、第1磁石30と第2磁石32との配置を入れ替えてもよい。
【0035】
第2ロータ18は、電磁鋼板を軸方向に積層した積層体を備える。ただし、積層体を構成する材料は、電磁鋼板に限定されるものではなく、アモルファス金属、ナノ結晶軟磁性材料、圧粉磁芯等の磁性体とすることができる。第2ロータ18は、図3の部分断面図に示すように、当該積層体の周方向に沿って等間隔に配置された第1磁石34及び第2磁石36を備える。図3において、第1磁石34及び第2磁石36の磁極の方向をそれぞれS極からN極に向かう矢印で示している。
【0036】
本実施の形態では、第2ロータ18では、第1ロータ16と同様に第1磁石34及び第2磁石36が配置される。すなわち、第1磁石34として、第2ロータ18の外周に沿って等間隔(等角度)に40極の磁極が設けられる。また、第2磁石36として、第2ロータ18の外周に沿って等間隔(等角度)に8極の磁極が設けられる。本実施の形態では、第1磁石34が第2ロータ18の最外周に配置され、第1磁石34の内側に第2磁石36が配置された構成としている。ただし、これに限定されるものではなく、第1磁石34と第2磁石36との配置を入れ替えてもよい。
【0037】
以下、第1ロータ16及び第2ロータ18における8極の第2磁石32及び第2磁石36が形成する空間磁界を基本波、40極の第1磁石30及び第1磁石34が形成する空間磁界を高調波(5次高調波)として記載する。
【0038】
また、第1ロータ16に対して第2ロータ18を相対的に回転させ、第1磁石30と第1磁石34及び第2磁石32と第2磁石36の磁極の方向が一致する状態を第1ロータ16と第2ロータ18との相対位相角(スキュー角)が0と定義する。
【0039】
図4(a)~図4(c)は、相対位相角(スキュー角)がそれぞれ0、45°及び9°における電気角に対する無負荷逆起電圧の変化を示す。図4(a)に示すように、相対位相角(スキュー角)が0のときには、第1ロータ16及び第2ロータ18において第1磁石30と第1磁石34及び第2磁石32と第2磁石36の着磁方向が同一である。したがって、基本波及び5次高調波の両方が最大の振幅で変動する。図4(b)に示すように、相対位相角(スキュー角)が45°のときには、第1ロータ16及び第2ロータ18において第1磁石30と第1磁石34及び第2磁石32と第2磁石36の着磁方向がそれぞれ逆方向となる。したがって、基本波及び5次高調波の両方がほぼ0となる。
【0040】
これらに対して、図4(c)に示すように、相対位相角(スキュー角)が9°のときには、第1ロータ16及び第2ロータ18において第1磁石30と第1磁石34の着磁方向は逆方向となるが、第2磁石32と第2磁石36の着磁方向は逆方向にならない。その結果、5次高調波はほぼ0となるが、基本波はある程度の振幅で変動する。
【0041】
図5は、第1ロータ16と第2ロータ18の相対位相角(スキュー角)に対する無負荷逆起電圧振幅の関係を示す。相対位相角(スキュー角)が0のときは、基本波及び5次高調波における無負荷逆起電圧振幅はそれぞれ極大値を示し、回転電機システム100全体として高トルクを出力することができる。相対位相角(スキュー角)が9°のときは、基本波はある程度の無負荷逆起電圧振幅を示すが、5次高調波に対する無負荷逆起電圧振幅はほぼ0となる。したがって、回転電機システム100全体として出力トルクを制限することができる。さらに、相対位相角(スキュー角)が45°になると、基本波及び5次高調波のいずれにおいても無負荷逆起電圧振幅はほぼ0となる。したがって、回転電機システム100全体として出力トルクをほぼ0にすることができる。
【0042】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態における回転電機システム100では、図6の部分断面図に示すように、第2ロータ18の第1磁石34の磁極の着磁方向を第1の実施の形態における第2ロータ18の第1磁石34と逆向きに配置した構成とする。図6において、第1磁石34及び第2磁石36の磁極の方向をそれぞれS極からN極に向かう矢印で示している。他の構成については、第1の実施の形態における回転電機システム100と同様とする。
【0043】
図7は、本実施の形態における第1ロータ16と第2ロータ18の相対位相角(スキュー角)に対する無負荷逆起電圧振幅の関係を示す。相対位相角(スキュー角)が0のときは、基本波の無負荷逆起電圧振幅は極大値を示すが、5次高調波に対する無負荷逆起電圧振幅は極小値となりほぼ0を示す。相対位相角(スキュー角)が45°では、基本波の無負荷逆起電圧振幅は極小値となりほぼ0を示すが、5次高調波に対する無負荷逆起電圧振幅は極大値を示す。また、相対位相角(スキュー角)が36°において、基本波及び5次高調波の無負荷逆起電圧振幅の合計は最小値を示す。
【0044】
本実施の形態によれば、第1ロータ16と第2ロータ18の相対位相角(スキュー角)を調整することによって、基本波と5次高調波の無負荷逆起電圧振幅をそれぞれ単独で最大にすることができる。したがって、回転電機システム100の出力トルクの制御性を高めることができる。
【0045】
なお、本実施の形態のように第2ロータ18の第1磁石34の着磁方向を変更することによって第1ロータ16と第2ロータ18とにおいて磁場の分布が変化するため、第1ロータ16及び第2ロータ18の各々において形状や構成の最適化を行うことが好適である。第1ロータ16と第2ロータ18を異なる形状や構成に最適化することで回転電機システム100の性能をより高めることができる。
【0046】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態における回転電機システム100では、図8及び図9の部分断面図に示すように、第1ロータ16及び第2ロータ18の第1磁石30及び第1磁石34が周方向に磁化方向が向けられたスポーク状に配置される。図8及び図9において、第1磁石30、第2磁石32、第1磁石34及び第2磁石36の磁極の方向をそれぞれS極からN極に向かう矢印で示している。
【0047】
なお、本実施の形態では、第1ロータ16の第1磁石30と第2ロータ18の第1磁石34において着磁が逆方向となるように構成している。
【0048】
図10は、本実施の形態における第1ロータ16と第2ロータ18の相対位相角(スキュー角)に対する無負荷逆起電圧振幅の関係を示す。第2の実施の形態と同様に、相対位相角(スキュー角)が0のときは、基本波の無負荷逆起電圧振幅は極大値を示すが、5次高調波に対する無負荷逆起電圧振幅は極小値となりほぼ0を示す。相対位相角(スキュー角)が45°では、基本波の無負荷逆起電圧振幅は極小値となりほぼ0を示すが、5次高調波に対する無負荷逆起電圧振幅は極大値を示す。また、相対位相角(スキュー角)が36°において、基本波及び5次高調波の無負荷逆起電圧振幅の合計は最小値を示す。
【0049】
図11に、第1及び第2の実施の形態における回転電機システム100と第3の実施の形態における回転電機システム100の磁気回路の違いを示す。図11において、q軸電流磁束を破線矢印で示している。なお、図11では第1ロータ16について図示したが、第2ロータ18についても同様である。
【0050】
第1及び第2の実施の形態における回転電機システム100では、図11(a)に示すように、基本波を使用する際にq軸磁気回路上に第1磁石30(又は第1磁石34)が配置されているため、第1ロータ16及び第2ロータ18における磁気抵抗が高い。その結果、q軸電流磁束が比較的小さくなり、基本波を使用する際にリラクタンストルクを十分に活用できない。
【0051】
これに対して、第3の実施の形態における回転電機システム100では、図11(b)に示すように、基本波を使用する際にq軸磁気回路上に第1磁石30(又は第1磁石34)が配置されておらず、第1磁石30(又は第1磁石34)の間の電磁鋼板(又は、アモルファス金属、ナノ結晶軟磁性材料、圧粉磁芯等の磁性体)を磁束が通過する。したがって、第1ロータ16及び第2ロータ18における磁気抵抗が第1及び第2の実施の形態における回転電機システム100に比べて低くなる。その結果、q軸電流磁束が第1及び第2の実施の形態における回転電機システム100に比べて大きくなり、基本波を使用する際にリラクタンストルクを十分に活用することができ、基本波駆動時において出力トルクを増大させることができる。
【0052】
図12は、第3の実施の形態における回転電機システム100において相対位相角(スキュー角)により基本波と5次高調波の切り替えを行ったときの回転数と出力トルクとの関係を計算した結果を示す。図12では、相対位相角(スキュー角)を0としてステータ12のステータコイルに第1ロータ16及び第2ロータ18の回転と同期する駆動周波数の3相電流を流したときの特性(基本波駆動時)と、相対位相角(スキュー角)を45°としてステータ12のステータコイルに第1ロータ16及び第2ロータ18の回転に対して5倍の駆動周波数の3相電流を流したときの特性(5次高調波駆動時)を示している。
【0053】
図12の計算結果によれば、低速回転域では起電力の高調波成分が大きくなり、低速回転域より高速な高速回転域では起電力の基本波成分が大きくなるように第1ロータ16と第2ロータ18との相対位相角(スキュー角)を変化させることによって、低速回転時における高出力トルクと、高速回転時における高出力が両立できることが確認できる。
【0054】
なお、5次高調波の回転磁界の回転方向は、基本波の回転磁界の回転方向とは逆になるので、5次高調波による駆動時におけるステータ12への電流指令値の回転方向は基本波による駆動時におけるステータ12への電流指令値の回転方向とは逆方向となる。また、基本波による駆動時における最高回転数における駆動周波数を駆動周波数の上限とすると、5次高調波による駆動時の場合には基本波による駆動時に対して1/5の回転数までの駆動となる。
【0055】
また、第1~第3の実施の形態における回転電機システム100では、ステータ12に24個のスロットを設けて8極の3相磁界を形成し、第1ロータ16及び第2ロータ18において8極の基本波と40極の高調波(5次高調波)を切り替える構成としたがこれに限定されるものではない。すなわち、ステータのスロット数Z1、3相コイルの極対数p、第1磁石30及び第1磁石34の極対数Z2、第2磁石32及び第2磁石36の極対数Z3が以下の条件を満たせばよい。
【0056】
[数1]
Z2=Z1±Z3
Z3=P
【0057】
なお、上記第1~第3の実施の形態では、ステータのスロット数Z1=24、3相コイルの極対数p=4、第1磁石30及び第1磁石34の極対数Z2=20、第2磁石32及び第2磁石36の極対数Z3=4である。
【0058】
以上のように、上記実施の形態における回転電機システム100によれば、第1ロータ16及び第2ロータ18の相対位相角(スキュー角)を調整することで、第1ロータ16及び第2ロータ18により形成される界磁磁束のギャップ中の磁束密度分布において基本波と高調波を切り換えることができる。これによって、高調波を増加させ、ステータ12のステータコイルに供給する3相電流の周波数を第1ロータ16及び第2ロータ18の同期周波数に対して増加させることで磁気ギア効果により回転電機システム100を高い出力トルクで駆動することができる。また、基本波を増加させることで、ステータ12のステータコイルに供給する3相電流の周波数を第1ロータ16及び第2ロータ18の同期周波数に近づければ回転電機システム100を高速回転させることができ、さらに高出力にもできる。また、第1ロータ16及び第2ロータ18の相対位相角(スキュー角)を調整することで無負荷逆起電圧を抑制することもできる。
【符号の説明】
【0059】
10 筐体、12 ステータ、14 回転軸、16 第1ロータ、18 第2ロータ、20 ロック機構、22 軸受、24 回転角センサ、30,34 第1磁石、32,36 第2磁石、100 回転電機システム、102 回転電機、104 駆動回路、106 電源、108 制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12