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特許7665526ヘリカーゼ阻害剤に対するがん細胞の感受性を予測する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】ヘリカーゼ阻害剤に対するがん細胞の感受性を予測する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20250414BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20250414BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20250414BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20250414BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250414BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20250414BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
G01N33/15 Z
C12N15/113 130Z
A61K31/713
A61P35/00
C12Q1/6869 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021558479
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043487
(87)【国際公開番号】W WO2021100869
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2019210304
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 洋
(72)【発明者】
【氏名】加島 健史
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 清基
(72)【発明者】
【氏名】大手 友貴
(72)【発明者】
【氏名】曽我 真弓
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-019082(JP,A)
【文献】LIEB, Simone et al.,Werner syndrome helicase is a selective vulnerability of microsatellite instability-high tumor cells,eLIFE,2019年03月25日,8:e43333,1-22
【文献】MEISS, Alice E. et al.,Clinicopathologic characterization of breast carcinomas in patients with non-BRCA germline mutations: results from a single institution's high-risk population,Human Pathology,2018年,Volume 82,20-31
【文献】WESSENDORF , Petra et al.,Deficiency of the DNA repair protein nibrin increases the basal but not the radiation induced mutation frequency in vivo,Mutat Res.,2014年,769,11-16
【文献】JIA, Pan-Pan et al.,Role of human DNA2 (hDNA2) as a potential target for cancer and other diseases: A systematic review,DNA Repair,2017年,Volume 59,9-19
【文献】UCHIZAKA, Naoki,MRE11 point mutation from two brothers with lung cancer,日本小児血液学会・日本小児がん学会・日本小児がん看護学会・財団法人がんの子供を守る会公開シンポジウム,Vol.51st-25th-7th-14th,2009年,101
【文献】CHENG, Wen-Hsing et al.,Targeting Werner syndrome protein sensitizes U-2 OS osteosarcoma cells to selenium-induced DNA damage response and necrotic death,Biochemical and Biophysical Research Communications,2012年,420,24-28
【文献】Moles R. et al.,WRN-targeted therapy using inhibitors NSC 19630 and NSC 617145 induce apoptosis in HTLV-1-transformed adult T-cell leukemia cells,Journal of Hematolology & Oncology,2016年,9:121,pp.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
C12Q 1/00- 1/70
G01N33/00-33/98
A61K45/00-45/08
A61P35/00-35/04
A61P43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法であり、
TTKの機能欠失型変異及びRAD50の機能欠失型変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん細胞を、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測する工程、
を含み、
前記ヘリカーゼ阻害剤がWRN阻害剤である、方法。
【請求項2】
がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法であり、
(a)がん細胞におけるTTKの機能欠失型変異及びRAD50の機能欠失型変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記変異が検出されたがん細胞を、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測する工程と、
を含み、
前記ヘリカーゼ阻害剤がWRN阻害剤である、方法。
【請求項3】
がん患者の、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性を予測する方法であり、
がん患者由来の試料に含まれるがん細胞においてTTKの機能欠失型変異及びRAD50の機能欠失型変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測する工程、
を含み、
前記ヘリカーゼ阻害剤がWRN阻害剤である、方法。
【請求項4】
がん患者の、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性を予測する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるTTKの機能欠失型変異及びRAD50の機能欠失型変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測する工程と、
を含み、
前記ヘリカーゼ阻害剤がWRN阻害剤である、方法。
【請求項5】
ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法であり、
がん患者由来の試料に含まれるがん細胞においてTTKの機能欠失型変異及びRAD50の機能欠失型変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別する工程、
を含み、
前記ヘリカーゼ阻害剤がWRN阻害剤である、方法。
【請求項6】
ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるTTKの機能欠失型変異及びRAD50の機能欠失型変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別する工程と、
を含み、
前記ヘリカーゼ阻害剤がWRN阻害剤である、方法。
【請求項7】
前記がん細胞が、MSH3の機能欠失型変異がさらに検出されるがん細胞である、請求項1~のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
TTKの機能欠失型変異及びRAD50の機能欠失型変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異が検出されるがん細胞を含むがんの治療に用いる化合物のスクリーニング方法であり、
ヘリカーゼを阻害するか否かを指標として化合物を選別する工程
を含み、
前記ヘリカーゼがWRNである、方法。
【請求項9】
ヘリカーゼを阻害する化合物を有効成分として含有し、
がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるTTKの機能欠失型変異及びRAD50の機能欠失型変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出し、前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者に投与するための、がんの治療剤であり、
前記ヘリカーゼがWRNである、がん治療剤。
【請求項10】
がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法であり、
RAD50の機能欠失型変異、MRE11の機能欠失型変異、NBNの機能欠失型変異、DNA2の機能欠失型変異、及びRBBP8の機能欠失型変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん細胞を、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測する工程、
を含み、
前記ヘリカーゼ阻害剤がWRN阻害剤である、方法。
【請求項11】
がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法であり、
(a)がん細胞におけるRAD50の機能欠失型変異、MRE11の機能欠失型変異、NBNの機能欠失型変異、DNA2の機能欠失型変異、及びRBBP8の機能欠失型変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記変異が検出されたがん細胞を、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測する工程と、
を含み、
前記ヘリカーゼ阻害剤がWRN阻害剤である、方法。
【請求項12】
がん患者の、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性を予測する方法であり、
がん患者由来の試料に含まれるがん細胞においてRAD50の機能欠失型変異、MRE11の機能欠失型変異、NBNの機能欠失型変異、DNA2の機能欠失型変異、及びRBBP8の機能欠失型変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測する工程、
を含み、
前記ヘリカーゼ阻害剤がWRN阻害剤である、方法。
【請求項13】
がん患者の、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性を予測する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるRAD50の機能欠失型変異、MRE11の機能欠失型変異、NBNの機能欠失型変異、DNA2の機能欠失型変異、及びRBBP8の機能欠失型変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測する工程と、
を含み、
前記ヘリカーゼ阻害剤がWRN阻害剤である、方法。
【請求項14】
ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法であり、
がん患者由来の試料に含まれるがん細胞においてRAD50の機能欠失型変異、MRE11の機能欠失型変異、NBNの機能欠失型変異、DNA2の機能欠失型変異、及びRBBP8の機能欠失型変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別する工程、
を含み、
前記ヘリカーゼ阻害剤がWRN阻害剤である、方法。
【請求項15】
ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるRAD50の機能欠失型変異、MRE11の機能欠失型変異、NBNの機能欠失型変異、DNA2の機能欠失型変異、及びRBBP8の機能欠失型変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別する工程と、
を含み、
前記ヘリカーゼ阻害剤がWRN阻害剤である、方法。
【請求項16】
前記がん細胞が、EXO1の機能欠失型変異、RPA1の機能欠失型変異、RPA2の機能欠失型変異、及びRPA3の機能欠失型変異からなる第3群から選択される少なくとも1種の変異がさらに検出されるがん細胞である、請求項1015のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
RAD50の機能欠失型変異、MRE11の機能欠失型変異、NBNの機能欠失型変異、DNA2の機能欠失型変異、及びRBBP8の機能欠失型変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されるがん細胞を含むがんの治療に用いる化合物のスクリーニング方法であり、
ヘリカーゼを阻害するか否かを指標として化合物を選別する工程
を含み、
前記ヘリカーゼがWRNである、方法。
【請求項18】
ヘリカーゼを阻害する化合物を有効成分として含有し、
がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるRAD50の機能欠失型変異、MRE11の機能欠失型変異、NBNの機能欠失型変異、DNA2の機能欠失型変異、及びRBBP8の機能欠失型変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出し、前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者に投与するための、がんの治療剤であり、
前記ヘリカーゼがWRNである、がん治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリカーゼ阻害剤に対するがん細胞の感受性を予測する方法に関する。また本発明は、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対するがん患者の感受性を予測する方法、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法、がんの治療方法、がんの治療に用いる化合物のスクリーニング方法、及びがん治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゲノムシークエンス技術の急速な進歩によって、がん細胞における固有の遺伝子変異を含むゲノム情報を解読することが可能となっている。その中で、抗がん剤開発では、EGFR遺伝子変異、BRAF遺伝子変異、ALK融合遺伝子等に代表されるような、機能獲得型の遺伝子変異が生じたがん細胞に特異的に、その機能を阻害する阻害剤の創薬がなされている(非特許文献1~3)。これらの遺伝子変異を有するがん細胞を標的とする、同がん細胞に特異的な治療方法は、がんへの選択性が高く、効果の高い治療方法である。
【0003】
また、例えば、MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性)を示すがん細胞においては、その生存がWRN(ウェルナーシンドロームプロテイン)に依存することが報告されており(非特許文献4~7)、WRNを阻害する治療が、かかるMSI-Hを示すがん細胞を特異的に標的にできると考えられている。
【0004】
一方で、ヒトのがん細胞で発見される遺伝子変異には、上記の機能獲得型のみならず、逆に機能欠失型の遺伝子変異も含まれる。機能欠失型の遺伝子変異は、その遺伝子変異特異的な創薬が困難であり、機能獲得型の遺伝子変異を有するがん細胞を標的とする治療とは異なる治療戦略が必要である。
【0005】
機能欠失型変異が生じているがん細胞を特異的に標的化できた数少ない成功例としては、BRCA1/2欠損型腫瘍に対するPARP阻害剤が挙げられる(非特許文献8)。しかしながら、これ以外の機能欠失型変異が生じているがん細胞を特異的に標的とする治療戦略は、現在のところ、依然として開発されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Makoto Maemondoら,NEJM 2010 Jun 24;362(25),p.2380-2388
【文献】Paul B.Chapmanら,NEJM 2011 Jun 30;364(26),p.2507-2516
【文献】D.Ross Camidgeら,J Thorac Oncol.2019 Jul;14(7),p.1233-1243
【文献】Lorn Kategayaら,iScience 13,March 29,2019,p.488-497
【文献】Simone Liebら,eLife 2019,8:e43333,DOI:https://doi.org/10.7554/eLife.43333
【文献】Edmond M.Chanら,Nature.2019 April,568(7753),p.551-556
【文献】Fiona M Behanら,Nature.2019 April,568(7753),p.511-516
【文献】K.Mooreら,NEJM 2018 Dec 27;379(26),p.2495-2505
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものである。本発明は、機能欠失型変異が生じているがん細胞をも特異的に標的とすることが可能な治療戦略の開発を目的とするものであり、より具体的には、TTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異、及び/又は、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されるがん細胞を特異的に標的とする治療戦略の開発を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、先ず、約70株のがん細胞株について網羅的に、siRNAによるWRNの発現抑制をおこない、増殖の抑制が確認された細胞株に共通する変異を解析した。その結果、TTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異(好ましくは、機能欠失型変異)が生じているがん細胞に共通して、WRN等のヘリカーゼの発現抑制や機能阻害を行うと、当該がん細胞の増殖が顕著に抑制される一方、TTKの変異及びRAD50の変異のうちのいずれも生じていない細胞においては、このような増殖抑制が生じないことを見出した。
【0009】
さらに本発明者らは、対象のがん細胞株を追加し、上記約70株のがん細胞株を含む約200株のがん細胞株について網羅的に解析した。その結果、上記第1群から選択される変異に加えて、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異(好ましくは、機能欠失型変異)が生じているがん細胞においても共通して、ヘリカーゼの発現抑制や機能阻害を行うと、当該がん細胞の増殖が抑制されることを見出した。
【0010】
また、上記の変異は、例えば、MSI-Hを示すがん細胞でも高頻度で確認される変異の一部である。上記のように、MSI-Hは、ヘリカーゼであるWRNを阻害する治療の標的となるがん細胞選択のための指標とできると考えられている(例えば、非特許文献4~7)。しかしながら、本発明者らは、MSI-Hを示していても、上記の変異、特に、上記第2群から選択される変異のうちのいずれも生じていないがん細胞においては、上記の増殖抑制が生じないことを見出した。よって、上記の新たに見出された変異は、MSI-Hを示すか否かに関わらず、ヘリカーゼを阻害する治療の標的となるがん細胞選択のための指標とすることができ、かつ、MSI-Hよりも前記がん細胞選択のためのより特異的な指標とすることができる。
【0011】
そのため、本発明者らは、ヘリカーゼを阻害する治療が、TTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異、及び/又は、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が生じているがん細胞を標的とする治療のための有望なアプローチとなることを見出した。また、この治療戦略においては、がん患者を前記変異を指標に選別した上で、ヘリカーゼ阻害剤を投与できるため、コンパニオン診断に基づく効率的な治療が可能であることも明らかとなった。
【0012】
さらに、本発明者らは、前記変異が生じているがんの治療に有用な薬剤のスクリーニングを、ヘリカーゼを阻害するか否かを指標に行うことができることをも見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
したがって、本発明は、TTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異、及び/又は、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が生じているがん細胞を特異的に標的とする治療方法及び当該治療方法のためのコンパニオン診断にも関するものであり、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
[1]
がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法であり、
TTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん細胞を、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測する工程、
を含む、方法。
[2]
がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法であり、
(a)がん細胞におけるTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記変異が検出されたがん細胞を、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測する工程と、
を含む、方法。
[3]
がん患者の、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性を予測する方法であり、
がん患者由来の試料に含まれるがん細胞においてTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測する工程、
を含む、方法。
[4]
がん患者の、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性を予測する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測する工程と、
を含む、方法。
[5]
ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法であり、
がん患者由来の試料に含まれるがん細胞においてTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別する工程、
を含む、方法。
[6]
ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別する工程と、
を含む、方法。
[7]
がんを治療する方法であり、
がん患者由来の試料に含まれるがん細胞においてTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん患者に対して、ヘリカーゼ阻害剤を投与する工程、
を含む、方法。
[8]
がんを治療する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者に対して、ヘリカーゼ阻害剤を投与する工程と、
を含む、方法。
[9]
前記ヘリカーゼ阻害剤が、WRN阻害剤である、[1]~[8]のうちのいずれかに記載の方法。
[10]
前記がん細胞が、MSH3の変異がさらに検出されるがん細胞である、[1]~[9]のうちのいずれかに記載の方法。
[11]
TTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異が検出されるがん細胞を含むがんの治療に用いる化合物のスクリーニング方法であり、
ヘリカーゼを阻害するか否かを指標として化合物を選別する工程
を含む、方法。
[12]
ヘリカーゼを阻害する化合物を有効成分として含有し、TTKの変異及びRAD50の変異からなる群から選択される少なくとも1種の変異が検出されるがん細胞を含むがんの治療剤である、がん治療剤。
[13]
前記ヘリカーゼが、WRNである、[11]に記載の方法。
[14]
前記ヘリカーゼが、WRNである、[12]に記載のがん治療剤。
[15]
がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法であり、
RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん細胞を、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測する工程、
を含む、方法。
[16]
がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法であり、
(a)がん細胞におけるRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記変異が検出されたがん細胞を、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測する工程と、
を含む、方法。
[17]
がん患者の、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性を予測する方法であり、
がん患者由来の試料に含まれるがん細胞においてRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測する工程、
を含む、方法。
[18]
がん患者の、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性を予測する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測する工程と、
を含む、方法。
[19]
ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法であり、
がん患者由来の試料に含まれるがん細胞においてRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別する工程、
を含む、方法。
[20]
ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別する工程と、
を含む、方法。
[21]
がんを治療する方法であり、
がん患者由来の試料に含まれるがん細胞においてRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されたがん患者に対して、ヘリカーゼ阻害剤を投与する工程、
を含む、方法。
[22]
がんを治療する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者に対して、ヘリカーゼ阻害剤を投与する工程と、
を含む、方法。
[23]
前記ヘリカーゼ阻害剤が、WRN阻害剤である、請求項[15]~[22]のうちのいずれか一項に記載の方法。
[24]
前記がん細胞が、EXO1の変異、RPA1の変異、RPA2の変異、及びRPA3の変異からなる第3群から選択される少なくとも1種の変異がさらに検出されるがん細胞である、[15]~[23]のうちのいずれか一項に記載の方法。
[25]
RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されるがん細胞を含むがんの治療に用いる化合物のスクリーニング方法であり、
ヘリカーゼを阻害するか否かを指標として化合物を選別する工程
を含む、方法。
[26]
ヘリカーゼを阻害する化合物を有効成分として含有し、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されるがん細胞を含むがんの治療剤である、がん治療剤。
[27]
前記ヘリカーゼが、WRNである、[25]に記載の方法。
[28]
前記ヘリカーゼが、WRNである、[26]に記載のがん治療剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、TTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異、及び/又は、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異を指標として、効率的に、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療への感受性を予測することが可能となる。また、本発明によれば、がん患者由来の試料における前記変異の有無を検出し、当該変異が検出された患者を選別した上で、当該患者に対してヘリカーゼ阻害剤によるがんの治療を施すことができる。このため、がんの治療成績を大きく向上させることが可能となる。また、TTK及びRAD50からなる第1群から選択される少なくとも1種の遺伝子、及び/又は、RAD50、MRE11、NBN(NBS1をコードする遺伝子)、DNA2、及びRBBP8(CtIPをコードする遺伝子)からなる第2群から選択される少なくとも1種の遺伝子に対するオリゴヌクレオチドプローブやプライマー、並びに、TTKタンパク質及びRAD50タンパク質からなる第1群から選択される少なくとも1種のタンパク質、及び/又は、RAD50タンパク質、MRE11タンパク質、NBS1タンパク質、DNA2タンパク質、及びCtIPタンパク質からなる第2群から選択される少なくとも1種のタンパク質に対する抗体を用いることで、上記変異の有無の検出によるコンパニオン診断を効率的に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】試験例1における、がん細胞株のWRN発現抑制による細胞生存率を示すグラフである。
図2】試験例2における、がん細胞株のWRN発現抑制による細胞生存率を示すグラフである。
図3】試験例3における、がん細胞株のWRN発現抑制による細胞生存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
<ヘリカーゼ阻害剤に対するがん細胞の感受性を予測する方法、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対するがん患者の感受性を予測する方法、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法>
本発明において、TTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異(本明細書中、場合により「TTK変異及び/又はRAD50変異」又は「第1群の変異」という)、好ましくは、機能欠失型変異、が生じているがん細胞において、ヘリカーゼを阻害すると、当該がん細胞の増殖を抑制しうることが見出された。さらに追加して、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異(本明細書中、場合により「第2群の変異」という)、好ましくは、機能欠失型変異、が生じているがん細胞においても、ヘリカーゼを阻害すると、当該がん細胞の増殖を抑制しうることが見出された。
【0018】
これらの知見に基づけば、第1群の変異及び/又は第2群の変異を指標として、がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測することができる。したがって、本発明は、
(a)がん細胞におけるTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記変異が検出されたがん細胞を、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測する工程と、
を含む、がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法;並びに、
(a)がん細胞におけるRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記変異が検出されたがん細胞を、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測する工程と、
を含む、がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法(以下、これらを総称して、場合により、「がん細胞感受性予測方法」という)を提供する。
【0019】
また、上記知見に基づけば、第1群の変異及び/又は第2群の変異を指標として、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療への感受性を予測することができる。したがって、本発明は、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測する工程と、
を含む、がん患者のヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性を予測する方法;並びに、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測する工程と、
を含む、がん患者のヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性を予測する方法(以下、これらを総称して、場合により、「がん患者感受性予測方法」という)を提供する。
【0020】
さらに、こうして第1群の変異及び/又は第2群の変異が検出された患者は、ヘリカーゼ阻害剤によるがんの治療に適しているといえるため、第1群の変異及び/又は第2群の変異を指標として、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療が有効な患者と有効でない患者とを選別し、効率的な治療を行うことができる。したがって、本発明は、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別する工程と、
を含む、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法;並びに、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別する工程と、
を含む、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法(以下、これらを総称して、場合により、「がん患者選別方法」という)を提供する。
【0021】
(試料等)
本発明において、癌(上皮性腫瘍)、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫、肉腫、癌肉腫などの悪性新生物等を総称して「がん」といい、前記がんを構成する細胞を「がん細胞」という。第1群の変異及び/又は第2群の変異の有無を検出しうるがん細胞を含むがんとしては、例えば、大腸がん、胃がん、子宮頸がん、子宮体がん、前立腺がん、食道がん、乳がん、肺がん、膀胱がん、頭頸部癌、腎臓がん、卵巣がん、リンパ腫、腺様嚢胞がん、膵臓がんが挙げられるが、これらに限定されない。本発明において、前記がん細胞としては、後述するMSH3の変異をさらに生じているがん細胞や、EXO1の変異、RPA1の変異、RPA2の変異、及びRPA3の変異からなる第3群から選択される少なくとも1種の変異をさらに生じているがん細胞であってもよく、第1群の変異を検出する場合には、MSH3の変異をさらに生じているがん細胞であることが好ましく、第2群の変異を検出する場合には、第3群の変異をさらに生じているがん細胞であることが好ましい。
【0022】
本発明において「がん患者」とは、前記がんに罹患しているヒトのみならず、前記がんに罹患していると疑いのあるヒトであってもよい。本発明の方法において、第1群の変異及び/又は第2群の変異を検出する対象となるがん患者としては特に制限はなく、全てのがん患者を対象とすることができる。
【0023】
本発明において用いられる「がん患者由来の試料」としては、第1群の変異及び/又は第2群の変異の有無を検出しうる生物学的試料であれば、特に制限はないが、好ましくはがん生検検体、血液、尿、体腔液、腫瘍細胞由来循環DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)等の検体である。また、前記検体から得られるタンパク質抽出物や核酸抽出物(mRNA抽出物、mRNA抽出物から調製されたcDNA調製物やcRNA調製物等)であってもよい。本明細書において、「生物学的試料」には、がん患者由来の試料及びがん細胞培養物由来の試料が含まれる。
【0024】
(ヘリカーゼ阻害剤)
本発明における「ヘリカーゼ阻害剤」は、ヘリカーゼを阻害する化合物を少なくとも1種含有する組成物を示し、前記化合物又はその組み合わせのみからなるものであっても、下記の添加成分をさらに含むものであってもよい。本発明における「ヘリカーゼを阻害する化合物」には、ヘリカーゼの活性及びヘリカーゼの発現のうちの少なくともいずれかを阻害する化合物が含まれる。
【0025】
本発明においてヘリカーゼ阻害剤の標的となる「ヘリカーゼ」としては、特に制限されず、例えば、RecQヘリカーゼ(RecQL1、BLM、WRN、RecQL4/RTS、RecQL5)が挙げられ、RecQヘリカーゼであることが好ましく、WRN(ウェルナーシンドロームプロテイン)であることがより好ましい。ヒト由来の天然型WRNをコードするゲノムDNAの典型的な塩基配列を配列番号:1に、ヒト由来の天然型WRNの典型的なアミノ酸配列を配列番号:2に、それぞれ示す。なお、アミノ酸配列の置換、欠失、挿入、及び付加等を伴う変異を生じていないWRN遺伝子(WRNをコードする遺伝子)であっても、多型などによって、配列には個体差が生じうる。
【0026】
化合物が前記ヘリカーゼの活性を阻害することは、例えば、蛍光分子と、消光分子で各鎖を標識した二本鎖DNAと、前記ヘリカーゼとを含む系であって、当該ヘリカーゼ活性により一本鎖DNAにほどかれると蛍光分子と消光分子が離れて蛍光を発する系に、被検化合物を添加して、当該蛍光の発生の抑制を検出することにより確認できる(Sommers JAら,A high-throughput screen to identify novel small molecule inhibitors of the Werner Syndrome Helicase-Nuclease(WRN),PLoS One.2019 Jan 9;14(1):e0210525)。
【0027】
また、化合物が前記ヘリカーゼの発現を阻害することは、例えば、被検化合物で処理した細胞におけるヘリカーゼ(好ましくはWRN)の発現低下を検出することにより確認することができる。ヘリカーゼの発現低下の検出法としては、通常、ヘリカーゼの発現量を転写レベル又は翻訳レベルで検出し、対照(例えば、被検化合物で処理していない細胞の発現量)との比較において、それよりも発現量が少ないことを確認する方法が挙げられる。
【0028】
前記ヘリカーゼの発現量を転写レベルで検出する方法においては、先ず、被検化合物で処理した細胞からRNA又はcDNAを調製する。前記細胞からRNAを抽出する方法としては特に制限はなく、公知の方法を適宜選択して用いることができ、例えば、フェノールとカオトロピック塩とを用いた抽出方法(より具体的には、トリゾール(Invitrogen社製)、アイソジェン(和光純薬社製)等の市販キットを用いた抽出方法)や、その他市販キット(RNAPrepトータルRNA抽出キット(Beckman Coulter社製)、RNeasy Mini(QIAGEN社製)、RNA Extraction Kit(Pharmacia Biotech社製)等)を用いた方法が挙げられる。さらに、抽出したRNAからのcDNAの調製に用いる逆転写酵素としては、特に制限されることなく、例えば、RAV(Rous associated virus)やAMV(Avian myeloblastosis virus)等のレトロウィルス由来の逆転写酵素や、MMLV(Moloney murine leukemia virus)等のマウスのレトロウィルス由来の逆転写酵素が挙げられる。
【0029】
次いで、オリゴヌクレオチドプライマー又はオリゴヌクレオチドプローブをそれぞれ増幅反応又はハイブリダイゼーション反応に用い、その増幅産物又はハイブリッド産物を検出する。このような方法としては、例えば、RT-PCR法、ノザンブロット法、ドットブロット法、DNAアレイ法、in situハイブリダイゼーション法、RNアーゼプロテクションアッセイ法、mRNA-seqなどを利用できる。当業者であれば、前記ヘリカーゼをコードするcDNAの塩基配列を基に、各方法に適したオリゴヌクレオチドプライマーやオリゴヌクレオチドプローブを常法により設計することができる。
【0030】
前記ヘリカーゼの発現量を翻訳レベルで検出する方法においては、先ず、被検化合物で処理した細胞からタンパク質試料を調製する。次いで、前記ヘリカーゼに特異的な抗体を用いて抗原抗体反応を行い、当該ヘリカーゼを検出する。このような抗体を用いたタンパク質の検出法においては、例えば、前記タンパク質試料に対して、ヘリカーゼに特異的な抗体を添加して抗原抗体反応を行い、ヘリカーゼに対する前記抗体の結合を検出する。ヘリカーゼに特異的な抗体が標識されている場合には、直接的にヘリカーゼを検出することができるが、標識されていない場合には、さらに、当該抗体を認識する標識された分子(例えば、二次抗体やプロテインA)を作用させて、当該分子の標識を利用して、間接的にヘリカーゼを検出することができる。このような方法としては、例えば、免疫組織化学(免疫染色)法、ウェスタンブロッティング法、ELISA法、フローサイトメトリー、イメージングサイトメトリー、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法、抗体アレイを用いた解析法等を利用することができる。
【0031】
使用する抗体の種類や由来などは特に制限はないが、好ましくはモノクローナル抗体である。十分な特異性でヘリカーゼを検出可能である限り、オリゴクローナル抗体(数種~数十種の抗体の混合物)やポリクローナル抗体を用いることもできる。また、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、scFv、sc(Fv)、dsFv、及びダイアボディー等の、抗体の機能的断片やその多量体(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー、ポリマー)を用いることもできる。抗ヘリカーゼ抗体としては、市販品であってもよい。
【0032】
前記ヘリカーゼの検出は、質量分析法(MS)を使用して行うこともできる。特に液体クロマトグラフィーと連結した質量分析計(LC/MS)による解析は鋭敏であるため有利である。質量分析法による検出は、例えば、前記タンパク質試料に対して、当該タンパク質を標識し、標識したタンパク質を分画し、分画したタンパク質を質量分析に供し、質量分析値からヘリカーゼを同定することにより、行うことができる。標識としては、当技術分野で公知の同位体標識試薬を用いることができ、適当な標識試薬を市販品として入手することができる。また分画も当技術分野で公知の方法により行うことができ、例えば市販の強陽イオンカラム等を用いて行うことができる。
【0033】
本発明における「ヘリカーゼを阻害する化合物」としては特に制限はなく、公知の化合物であってもよく、後述のスクリーニングにより同定される化合物であってもよいが、化合物、ポリペプチド、及びポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
前記化合物としては、低分子化合物(分子量900未満)、中分子化合物(分子量900~2000)が挙げられる。前記ポリペプチドには、遺伝子にコードされる完全長のポリペプチドの他、その断片や合成したポリペプチド、環状ポリペプチド、糖ペプチド、非天然型のポリペプチドも含まれる。また、前記ポリペプチドには抗体及び抗原ペプチドも含み、前記抗体としては、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。前記抗体には、完全抗体の他、抗体断片(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、scFv、sc(Fv)、dsFv、及びダイアボディー等)やその多量体、抗体の可変領域を結合させた低分子化抗体も含む。前記ポリヌクレオチドとしては、DNA、RNA、siRNAが挙げられ、完全長のポリヌクレオチドの他、その断片や合成したポリヌクレオチドも含む。
【0035】
本発明における「ヘリカーゼ阻害剤」は、その特性に応じて、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤などの各種剤型とすることができ、また、その剤型に応じて、薬理学上許容される、滅菌水や生理食塩水、植物油、溶剤、基剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、芳香剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、無痛化剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤などの添加成分をさらに含有していてもよく、これらを用いて公知の製剤学的方法により製造することができる。
【0036】
また、本発明に係るヘリカーゼ阻害剤において、前記ヘリカーゼを阻害する化合物の含有量(前記化合物が2種以上である場合にはそれらの合計含有量)は、その剤型や使用目的に応じて適宜調整することができる。
【0037】
(第1群の変異、第2群の変異)
〔TTK〕
本発明における「TTK」は、中心体複製や有糸分裂チェックポイント応答の制御に関与するセリンスレオニンキナーゼ(本明細書中、場合により「TTKタンパク質」という)をコードする遺伝子である。ヒト由来の天然型TTKゲノムDNAの典型的な塩基配列を配列番号:3に、ヒト由来の天然型TTKタンパク質の典型的なアミノ酸配列を配列番号:4に、それぞれ示す。なお、アミノ酸配列の置換、欠失、挿入、及び付加等を伴う変異を生じていないTTKであっても、多型などによって、配列には個体差が生じうる。
【0038】
本発明における「TTKの変異」としては、TTKタンパク質のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び付加が挙げられる。このようなTTKの変異としては、TTKタンパク質が本来有している活性が変化しているものである限り特に制限されないが、TTKタンパク質活性の低下(TTKタンパク質活性の完全な喪失(不活性化)を含む)を引き起こす変異、すなわち、機能欠失型変異であることが好ましい。TTKタンパク質活性の低下は、例えば、TTKにおけるミスセンス変異、全領域にわたるナンセンス変異、又はTTKの全体若しくは部分的な欠失等の遺伝子構造の変化、遺伝子発現量の変化により生じうるが、これらに制限されない。
【0039】
TTKが本来有している遺伝子構造や遺伝子発現量が変化しているか否かは、例えば、次の方法:ゲノムDNAのシークエンスによるTTKの塩基配列の取得;TTKのヌクレオチド配列に特異的に結合するオリゴヌクレオチドプローブによる蛍光検出;TTKのヌクレオチドに特異的に結合するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による検出等により、対照(例えば、健常者や同一患者の非がん組織)との比較において変化しているか否か(好ましくは機能欠失型変異が生じているか否か、mRNAの発現量の場合には減少しているか否か)によって確認及び判定できる。
【0040】
TTKタンパク質が本来有している活性(機能活性)が変化しているか否かは、例えば、次の方法:TTKタンパク質に特異的に結合する抗体を用いた免疫染色法又はウェスタンブロッティング法による検出;及び免疫沈降法などにより精製した細胞内TTKタンパク質が基質ペプチドをリン酸化するかをウェスタンブロット法などにより判別する方法等により、対照(例えば、健常者や同一患者の非がん組織)との比較において変化しているか否か(好ましくは低下しているか否か、すなわち、免疫染色法やウェスタンブロッティング法により検出されるタンパク質の発現量の場合には対照に比べて低下しているか否か、ウェスタンブロッティング法により検出されるタンパク質の分子量の場合には対照と比べて変化しているか否か、リン酸化活性の場合には活性が対照に比べて低下しているか否か)によって確認及び判定できる。
【0041】
このようなTTKタンパク質活性の変化を引き起こす具体的なTTKの変異の例としては、例えば、p.L84*(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1643150)、p.S162Vfs*9(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM3176137)、p.K192Sfs*18(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1446079)、p.Q193Afs*33(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM3176143)、p.R232Sfs*26(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5895418)、p.Q480Hfs*30(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM150902)、p.N606Kfs*3(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7741406)、p.S618Ifs*3(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6811382)、p.E851Kfs*42(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM3176214)、p.R854Gfs*10(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1446097)、p.R854Gfs*10(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM3176218)、p.R854Gfs*39(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM252896)、p.R854Kfs*11(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM253159)、p.K857Nfs*36(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM273397)等が挙げられる。
【0042】
〔RAD50〕
本発明における「RAD50」は、下記のMRE11タンパク質及びNBS1タンパク質と共に複合体(MRN複合体)を形成してDNA修復機構(特に、二本鎖DNA相同末端修復機構)に関与するタンパク質(本明細書中、場合により「RAD50タンパク質」という)をコードする遺伝子である。ヒト由来の天然型RAD50ゲノムDNAの典型的な塩基配列を配列番号:5に、ヒト由来の天然型RAD50タンパク質の典型的なアミノ酸配列を配列番号:6に、それぞれ示す。なお、アミノ酸配列の置換、欠失、挿入、及び付加等を伴う変異を生じていないRAD50であっても、多型などによって、配列には個体差が生じうる。
【0043】
本発明における「RAD50の変異」としては、RAD50タンパク質のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び付加が挙げられる。このようなRAD50の変異としては、RAD50タンパク質が本来有している活性が変化しているものである限り特に制限されないが、RAD50タンパク質活性の低下(RAD50タンパク質活性の完全な喪失(不活性化)を含む)を引き起こす変異、すなわち、機能欠失型変異であることが好ましい。RAD50タンパク質活性の低下は、例えば、RAD50におけるミスセンス変異、全領域にわたるナンセンス変異、又はRAD50の全体若しくは部分的な欠失等の遺伝子構造の変化、遺伝子発現量の変化により生じうるが、これらに制限されない。
【0044】
RAD50が本来有している遺伝子構造や遺伝子発現量が変化しているか否かは、例えば、次の方法:ゲノムDNAのシークエンスによるRAD50の塩基配列の取得;RAD50のヌクレオチド配列に特異的に結合するオリゴヌクレオチドプローブによる蛍光検出;RAD50のヌクレオチドに特異的に結合するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による検出等により、対照(例えば、健常者や同一患者の非がん組織)との比較において変化しているか否か(好ましくは機能欠失型変異が生じているか否か、mRNAの発現量の場合には減少しているか否か)によって確認及び判定できる。
【0045】
RAD50タンパク質が本来有している活性(機能活性)が変化しているか否かは、例えば、次の方法:RAD50タンパク質に特異的に結合する抗体を用いた免疫染色法又はウェスタンブロッティング法による検出;及び免疫沈降法などにより精製した細胞内RAD50タンパク質がMRN複合体の構成タンパク質であるMRE11タンパク質やNBS1タンパク質と結合しているかをウェスタンブロット法などにより判別する方法;及び免疫沈降法などにより精製した細胞内RAD50タンパク質がATPase活性を有しているかをATPase活性測定法により判別する方法等により、対照(例えば、健常者や同一患者の非がん組織)との比較において変化しているか否か(好ましくは低下しているか否か、すなわち、免疫染色法やウェスタンブロッティング法により検出されるRAD50タンパク質の発現量の場合には対照に比べて低下しているか否か、ウェスタンブロッティング法により検出されるタンパク質の分子量の場合には対照と比べて変化しているか否か、ウェスタンブロッティング法により検出されるRAD50タンパク質に結合しているMRN複合体の構成タンパク質であるMRE11タンパク質又はNBS1タンパク質の量が対照と比べて低下しているか否か、ATPase活性の場合には対照と比べて活性が低下しているか否か)によって確認及び判定できる。
【0046】
このようなRAD50タンパク質活性の変化を引き起こす具体的なRAD50の変異の例としては、例えば、p.A149Gfs*10(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7087398)、p.C157Lfs*7(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM9001198)、p.S181Ffs*7(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM9008445)、p.K279Efs*7(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5016099)、p.T410Lfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6941414)、p.K425Tfs*4(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM9494174)、p.L439Kfs*4(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1158978)、p.N459Mfs*2(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8515312)、p.L541Afs*7(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6971853)、p.R617Efs*26(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM4747889)、p.D675Tfs*45(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5016101)、p.Q689Rfs*31(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6761894)、p.K722Gfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6048265)、p.K722Rfs*14(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1433045)、p.E723Gfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM4611459)、p.K722Nfs*6、p.L929Sfs*10(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1740881)、p.N934Ifs*6(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1433049)、p.N934Kfs*10(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1287518)、p.E995Rfs*2(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6962279)、p.L1042Ffs*15(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5617248)、p.Y1182Lfs*2(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1633926)等が挙げられる。
【0047】
〔MRE11、NBN〕
本発明における「MRE11(「MRE11A」としても知られている)」は、上記のRAD50タンパク質と共に複合体(MRN複合体)を形成するタンパク質(本明細書中、場合により「MRE11タンパク質」という)をコードする遺伝子である。MRE11タンパク質は、DNAの端部ではエキソヌクレアーゼとして、内部部位ではエンドヌクレアーゼとして、DNAを分解できるヌクレアーゼである。また、本発明における「NBN」は、上記のRAD50タンパク質と共に複合体(MRN複合体)を形成するタンパク質であるNBS1(本明細書中、場合により「NBS1タンパク質」という)をコードする遺伝子である。これらのタンパク質は互いに関連しあってDNA修復機構(特に、二本鎖DNA相同末端修復機構)に関与する(例えば、Lei Bianら,Molecular Cancer,(2019)18:169,DOI:https://doi.org/10.1186/s12943-019-1100-5;Kwi H Kohら,Laboratory Investigation,(2005)85,p.1130-1138等)。これらのうちのいずれか1種の機能が欠失しても、MRN複合体自体の機能が低下して上記DNA修復機構が正常に機能しないことから、第2群の変異のうち、かかるMRN複合体を形成するタンパク質をコードするRAD50、MRE11、及びNBNについては特に、これらのうちの少なくとも1種の変異を検出することが好ましく、RAD50の変異及びNBNの変異のうちの少なくとも1種の変異を検出することがより好ましい。
【0048】
ヒト由来の天然型MRE11ゲノムDNAの典型的な塩基配列を配列番号:9に、ヒト由来の天然型MRE11タンパク質の典型的なアミノ酸配列を配列番号:10に、それぞれ示す。また、ヒト由来の天然型NBNゲノムDNA(NBS1をコードするゲノムDNA)の典型的な塩基配列を配列番号:11に、ヒト由来の天然型NBS1タンパク質の典型的なアミノ酸配列を配列番号:12に、それぞれ示す。なお、アミノ酸配列の置換、欠失、挿入、及び付加等を伴う変異を生じていないMRE11及びNBNであっても、それぞれ、多型などによって、配列には個体差が生じうる。
【0049】
本発明における「MRE11の変異」及び「NBNの変異」としては、それぞれ、MRE11タンパク質のアミノ酸配列及びNBS1タンパク質のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び付加が挙げられる。このようなMRE11の変異及びNBNの変異としては、それぞれ、MRE11タンパク質及びNBS1タンパク質が本来有している活性がそれぞれ変化しているものである限り特に制限されないが、MRE11タンパク質活性の低下(MRE11タンパク質活性の完全な喪失(不活性化)を含む)及びNBS1タンパク質活性の低下(NBS1タンパク質活性の完全な喪失(不活性化)を含む)をそれぞれ引き起こす変異、すなわち、機能欠失型変異であることが好ましい。MRE11タンパク質活性の低下は、例えば、MRE11におけるミスセンス変異、全領域にわたるナンセンス変異、又はMRE11の全体若しくは部分的な欠失等の遺伝子構造の変化、遺伝子発現量の変化により生じうるが、これらに制限されない。NBS1タンパク質活性の低下は、例えば、NBNにおけるミスセンス変異、全領域にわたるナンセンス変異、又はNBNの全体若しくは部分的な欠失等の遺伝子構造の変化、遺伝子発現量の変化により生じうるが、これらに制限されない。
【0050】
MRE11が本来有している遺伝子構造や遺伝子発現量、及びNBNが本来有している遺伝子構造や遺伝子発現量が、それぞれ変化しているか否か、並びに、MRE11タンパク質が本来有している活性(機能活性)、及びNBS1タンパク質が本来有している活性(機能活性)が、それぞれ変化しているか否かは、例えば、RAD50が本来有している遺伝子構造や遺伝子発現量が変化しているか否かを確認及び判定する方法、並びに、RAD50タンパク質が本来有している活性(機能活性)が変化しているか否かを確認及び判定する方法として挙げた方法と同様の方法によって確認及び判定することができる。MRE11タンパク質については、免疫沈降法などにより精製した細胞内MRE11タンパク質が、例えば、基質DNAを切断するかを測定して判別する方法により、対照(例えば、健常者や同一患者の非がん組織)との比較において変化しているか否か(好ましくは低下しているか否か、すなわち、活性が対照に比べて低下しているか否か)によっても確認及び判定できる。
【0051】
MRE11タンパク質活性の変化を引き起こす具体的なMRE11の変異の例としては、例えば、p.I93Ffs*17(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6975993)、p.R188Kfs*9(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8923701)、p.V198*(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6938551)、p.F321Lfs*8(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6927045)、p.N322*(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5176176)、p.F399Sfs*29(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM2061331)、p.T481Hfs*43(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM2061313)、p.Q482Afs*4(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6909136)、p.N511Ifs*13(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1357925)、p.A526Gfs*16(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7513337)、p.Q629Afs*9(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6920246)、p.D647Yfs*28(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6962317)等が挙げられる。
【0052】
また、NBS1タンパク質活性の変化を引き起こす具体的なNBNの変異の例としては、例えば、p.N30Tfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6978819)、p.D61*(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7449862)、p.S72Lfs*20(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8559558)、p.M83Cfs*9(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6722467)、p.G103Efs*6(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM391695)、p.K125Rfs*34(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM28402)、p.V153Kfs*17(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6959155)、p.G206Lfs*26(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6981006)、p.K219Nfs*16(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1740923)、p.K233Sfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM9494223)、p.S240Cfs*8(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6924583)、p.F316Sfs*2(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7450031)、p.N440Kfs*2(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7513565)、p.R466Gfs*18(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1458550)、p.R466Kfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8498945)、p.L490*(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM2790257)、p.N503Kfs*2(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM9061551)、p.E505Gfs*6(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7513880)、p.R551Gfs*8(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1458549)、p.R551Kfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6918499)、p.M553Wfs*6(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6955358)、p.L654Afs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1458548)、p.A713Gfs*29(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6983893)、p.N731Ifs*20(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM30401)等が挙げられる。
【0053】
〔DNA2〕
本発明における「DNA2」は、MRN複合体と共に、DNA修復機構(特に、二本鎖DNA相同末端修復機構)に関与するタンパク質(本明細書中、場合により「DNA2タンパク質」という)をコードする遺伝子である。DNA2タンパク質は、DNAの端部ではエキソヌクレアーゼとして、内部部位ではエンドヌクレアーゼとして、DNAを分解できるヌクレアーゼであり、また2本鎖DNAを1本鎖に解きほぐすことができるヘリカーゼでもある。ヒト由来の天然型DNA2ゲノムDNAの典型的な塩基配列を配列番号:13に、ヒト由来の天然型DNA2タンパク質の典型的なアミノ酸配列を配列番号:14に、それぞれ示す。なお、アミノ酸配列の置換、欠失、挿入、及び付加等を伴う変異を生じていないDNA2であっても、多型などによって、配列には個体差が生じうる。
【0054】
本発明における「DNA2の変異」としては、DNA2タンパク質のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び付加が挙げられる。このようなDNA2の変異としては、DNA2タンパク質が本来有している活性がそれぞれ変化しているものである限り特に制限されないが、DNA2タンパク質活性の低下(DNA2タンパク質活性の完全な喪失(不活性化)を含む)を引き起こす変異、すなわち、機能欠失型変異であることが好ましい。DNA2タンパク質活性の低下は、例えば、DNA2におけるミスセンス変異、全領域にわたるナンセンス変異、又はDNA2の全体若しくは部分的な欠失等の遺伝子構造の変化、遺伝子発現量の変化により生じうるが、これらに制限されない。
【0055】
DNA2が本来有している遺伝子構造や遺伝子発現量が変化しているか否か、並びに、DNA2タンパク質が本来有している活性(機能活性)が変化しているか否かは、例えば、RAD50が本来有している遺伝子構造や遺伝子発現量が変化しているか否かを確認及び判定する方法、並びに、RAD50タンパク質が本来有している活性(機能活性)が変化しているか否かを確認及び判定する方法として挙げた方法と同様の方法によって確認及び判定することができる。
【0056】
このようなDNA2タンパク質活性の変化を引き起こす具体的なDNA2の変異の例としては、例えば、p.K590Nfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8485077)、p.L697Ffs*28(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1348694)、p.L776Ffs*9(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5081629)、p.L776Pfs*24(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7631030)、p.S779Tfs*20(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM4747435)、p.S779Ffs*7(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5092627)、p.S779Hfs*6(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM295321)、p.S779Ffs*21(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM2159320)、p.V825Cfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6645872)、p.I940Lfs*8(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5423531)、p.S975Vfs*4(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1727571)等が挙げられる。
【0057】
〔RBBP8〕
本発明における「RBBP8」は、MRN複合体と共に、DNA修復機構(特に、二本鎖DNA相同末端修復機構)に関与するタンパク質であるCtIP(本明細書中、場合により「CtIPタンパク質」という)をコードする遺伝子である。CtIPタンパク質は、DNAの内部部位ではエンドヌクレアーゼとして、DNAを分解できるヌクレアーゼである。ヒト由来の天然型RBBP8ゲノムDNA(CtIPをコードするゲノムDNA)の典型的な塩基配列を配列番号:15に、ヒト由来の天然型CtIPタンパク質の典型的なアミノ酸配列を配列番号:16に、それぞれ示す。なお、アミノ酸配列の置換、欠失、挿入、及び付加等を伴う変異を生じていないRBBP8であっても、多型などによって、配列には個体差が生じうる。
【0058】
本発明における「RBBP8の変異」としては、CtIPタンパク質のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び付加が挙げられる。このようなRBBP8の変異としては、CtIPタンパク質が本来有している活性がそれぞれ変化しているものである限り特に制限されないが、CtIPタンパク質活性の低下(CtIPタンパク質活性の完全な喪失(不活性化)を含む)を引き起こす変異、すなわち、機能欠失型変異であることが好ましい。CtIPタンパク質活性の低下は、例えば、RBBP8におけるミスセンス変異、全領域にわたるナンセンス変異、又はRBBP8の全体若しくは部分的な欠失等の遺伝子構造の変化、遺伝子発現量の変化により生じうるが、これらに制限されない。
【0059】
RBBP8が本来有している遺伝子構造や遺伝子発現量が変化しているか否か、並びに、CtIPタンパク質が本来有している活性(機能活性)が変化しているか否かは、例えば、RAD50が本来有している遺伝子構造や遺伝子発現量が変化しているか否かを確認及び判定する方法、並びに、RAD50タンパク質が本来有している活性(機能活性)が変化しているか否かを確認及び判定する方法として挙げた方法と同様の方法によって確認及び判定することができる。
【0060】
このようなCtIPタンパク質活性の変化を引き起こす具体的なRBBP8の変異の例としては、例えば、p.R100Pfs*8(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1744943)、p.H183Pfs*11(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM9138797)、p.S231 M235del(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7203765)、p.L286Tfs*24(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1745525)、p.K357Nfs*3(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8188329)、p.H358Tfs*8(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1744941)、p.T375Nfs*2(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8188329)、p.E455Tfs*2(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM4720593)、p.F479Efs*4(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1263883)、p.F650Kfs*16(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM4189100)、p.V672Efs*2(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1190926)、p.K801Efs*14(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7088614)、p.E803Rfs*12(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM2885323)、p.L808Tfs*7(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7513270)等が挙げられる。
【0061】
〔変異の検出〕
本発明における「TTKの変異の検出」、「RAD50の変異の検出」、「MRE11の変異の検出」、「NBNの変異の検出」、「DNA2の変異の検出」、及び「RBBP8の変異の検出」の各方法としては、いずれも特に制限はないが、それぞれ独立して、例えば、下記の方法が挙げられる。
【0062】
本発明において「変異の検出」とは、ゲノムDNA上の各遺伝子の変異を検出することを示し、当該ゲノムDNA上の変異が転写産物における塩基の変化や翻訳産物におけるアミノ酸の変化に反映される場合、前記遺伝子の変異の検出には、これら転写産物や翻訳産物における当該変化を検出すること(すなわち、間接的な検出)も含む。
【0063】
本発明の方法の好ましい態様は、がん細胞の各変異を検出する遺伝子領域(第1群の変異を検出する遺伝子領域:TTK遺伝子領域及びRAD50遺伝子領域から選択される少なくとも1種(本明細書中、場合により「第1群の遺伝子領域」という);第2群の変異を検出する遺伝子領域:RAD50遺伝子領域、MRE11遺伝子領域、NBN遺伝子領域、DNA2遺伝子領域、及びRBBP8遺伝子領域から選択される少なくとも1種(本明細書中、場合により「第2群の遺伝子領域」という))の塩基配列を直接決定することにより、変異を検出する方法である。本発明において「TTK遺伝子領域」、「RAD50遺伝子領域」、「MRE11遺伝子領域」、「NBN遺伝子領域」、「DNA2遺伝子領域」、及び「RBBP8遺伝子領域」とは、それぞれ、TTKを含むゲノムDNA上の一定領域、RAD50を含むゲノムDNA上の一定領域、MRE11を含むゲノムDNA上の一定領域、NBNを含むゲノムDNA上の一定領域、DNA2を含むゲノムDNA上の一定領域、及びRBBP8を含むゲノムDNA上の一定領域を意味する。該領域には、それぞれ独立に、各遺伝子の発現制御領域(例えば、プロモーター領域、エンハンサー領域)や各遺伝子の3’末端非翻訳領域なども含まれる。
【0064】
この方法においては、先ず、生物学的試料からDNA試料を調製する。DNA試料としては、ゲノムDNA試料、及びRNAからの逆転写によって調製されるcDNA試料が挙げられる。
【0065】
生物学的試料からゲノムDNA又はRNAを抽出する方法としては特に制限はなく、公知の方法を適宜選択して用いることができ、例えば、ゲノムDNAを抽出する方法としては、SDSフェノール法(尿素を含む溶液又はエタノール中に保存した組織を、タンパク質分解酵素(proteinase K)、界面活性剤(SDS)、及びフェノールで該組織のタンパク質を変性させ、エタノールで該組織からDNAを沈殿させ抽出する方法)、Clean Columns(登録商標、NexTec社製)、AquaPure(登録商標、Bio-Rad社製)、ZR Plant/Seed DNA Kit(Zymo Research社製)、AquaGenomicSolution(登録商標、Mo Bi Tec社製)、prepGEM(登録商標、ZyGEM社製)、BuccalQuick(登録商標、TrimGen社製)を用いるDNA抽出方法が挙げられる。
【0066】
また、生物学的試料からRNAを抽出する方法及び抽出したRNAからcDNAを調製する方法としては、ヘリカーゼの発現量を転写レベルで検出する方法において挙げた方法と同様の方法が挙げられる。
【0067】
この態様においては、次いで、第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域を含むDNAを単離し、単離したDNAの塩基配列を決定する。該DNAの単離は、例えば、第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部を挟み込むように設計された一対のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ゲノムDNA、或いはRNAを鋳型としたPCR等によって行うことができる。単離したDNAの塩基配列の決定は、マキサムギルバート法やサンガー法など当業者に公知の方法で行うことができる。
【0068】
決定したDNA若しくはcDNAの塩基配列を対照(例えば、生物学的試料が、がん患者由来の試料である場合には、同一患者の非がん組織由来のDNA若しくはcDNAの塩基配列)と比較することにより、生物学的試料のがん細胞における第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の変異の有無を判別することができる。
【0069】
第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の変異を検出するための方法は、DNAやcDNAの塩基配列を直接決定する方法以外に、変異の検出が可能な種々の方法によって行うことができる。
【0070】
例えば、本発明における変異の検出は、以下のような方法によっても行うことができる。先ず、生物学的試料からDNA若しくはcDNA試料を調製する。次いで、第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の変異部位を含む塩基配列に相補的な塩基配列を有し、レポーター蛍光色素及びクエンチャー蛍光色素が標識されたオリゴヌクレオチドプローブを調製する。そして、前記DNA若しくはcDNA試料に、前記オリゴヌクレオチドプローブをハイブリダイズさせ、さらに前記オリゴヌクレオチドプローブがハイブリダイズした前記DNA若しくはcDNA試料を鋳型として、第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の前記変異部位を含む塩基配列を増幅する。そして、前記増幅に伴うオリゴヌクレオチドプローブの分解により、前記レポーター蛍光色素が発する蛍光を検出し、次いで、検出した前記蛍光を対照と比較する。このような方法としては、ダブルダイプローブ法、いわゆるTaqMan(登録商標)プローブ法が挙げられる。
【0071】
さらに別の方法においては、生物学的試料からDNA若しくはcDNA試料を調製する。次いで、DNA二重鎖間に挿入されると蛍光を発するインターカレーターを含む反応系において、前記DNA若しくはcDNA試料を鋳型として、第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の変異部位を含む塩基配列を増幅する。そして、前記反応系の温度を変化させ、前記インターカレーターが発する蛍光の強度の変動を検出し、検出した前記温度の変化に伴う前記蛍光の強度の変動を対照と比較する。このような方法としては、HRM(high resolution melting、高分解融解曲線解析)法が挙げられる。
【0072】
さらに別の方法においては、先ず、生物学的試料からDNA若しくはcDNA試料を調製する。次いで、第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを制限酵素により切断する。次いで、DNA断片をその大きさに応じて分離する。次いで、検出されたDNA断片の大きさを、対照と比較する。このような方法としては、例えば、制限酵素断片長変異(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR-RFLP法等が挙げられる。
【0073】
さらに別の方法においては、先ず、生物学的試料からDNA若しくはcDNA試料を調製する。次いで、第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離する。分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度を対照と比較する。このような方法としては、例えばPCR-SSCP(single-strand conformation polymorphism、一本鎖高次構造変異)法が挙げられる。
【0074】
さらに別の方法においては、先ず、生物学的試料からDNA若しくはcDNA試料を調製する。次いで、第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部を含むDNAを増幅する。さらに、増幅したDNAを、DNA変性剤の濃度が次第に高まるゲル上で分離する。次いで、分離したDNAのゲル上での移動度を対照と比較する。このような方法としては、例えば、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(denaturant gradient gel electrophoresis:DGGE)法が挙げられる。
【0075】
さらに別の方法としては、生物学的試料から調製した第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の変異部位を含むDNA、及び、該DNAにハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブが固定された基板、を用いる方法がある。このような方法としては、例えば、DNAアレイ法等が挙げられる。
【0076】
さらに別の方法においては、先ず、生物学的試料からDNA若しくはcDNA試料を調製する。また、「第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部の塩基の1塩基3’側の塩基及びその3’側の塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー」を調製する。次いで、該DNAを鋳型とし、該プライマーを用いて、蛍光標識ddNTPプライマー伸長反応を行う。次いで、プライマー伸長反応産物をDNAシークエンサーにかけ、伸長反応物の長さと蛍光に基づき塩基配列決定を行う。次いで、DNAシークエンサーの結果から遺伝子型を決定する。次いで、決定した遺伝子型を対照と比較する。このような方法としては、例えば、サンガー法が挙げられる。
【0077】
さらに別の方法においては、先ず、生物学的試料からDNA若しくはcDNA試料を調製する。次いで、5’-「第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部の塩基及びその5’側の塩基配列と相補的な塩基配列」-「第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部の1塩基3’側の塩基及びその3’側の塩基配列とハイブリダイズしない塩基配列」-3’(フラップ)からなるオリゴヌクレオチドプローブを調製する。また、「第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部の塩基及びその3’側の塩基配列と相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプローブ」を調製する。次いで、調製したDNA若しくはcDNA試料に、上記2種類のオリゴヌクレオチドプローブをハイブリダイズさせる。次いで、ハイブリダイズしたDNAを一本鎖DNA切断酵素で切断し、フラップを遊離させる。一本鎖DNA切断酵素としては、特に制限はなく、例えばcleavaseが挙げられる。本方法においては、次いで、フラップと相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドプローブであって、レポーター蛍光及びクエンチャー蛍光が標識されたオリゴヌクレオチドプローブをフラップにハイブリダイズさせる。次いで、発生する蛍光の強度を測定する。次いで、測定した蛍光の強度を対照と比較する。このような方法としては、例えば、Invader法が挙げられる。
【0078】
さらに別の方法においては、先ず、生物学的試料からDNA若しくはcDNA試料を調製する。次いで、第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部を含むDNAを増幅する。そして、増幅したDNAを一本鎖に解離させ、解離させた一本鎖DNAのうち、片鎖のみを分離する。次いで、第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部の塩基の近傍より1塩基ずつ伸長反応を行い、その際に生成されるピロリン酸を酵素的に発光させ、発光の強度を測定する。そして、測定した蛍光の強度を対照と比較する。このような方法としては、例えば、Pyrosequencing法が挙げられる。
【0079】
さらに別の方法においては、先ず、生物学的試料からDNA若しくはcDNA試料を調製する。次いで、第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部を含むDNAを増幅する。次いで、「第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部の塩基の1塩基3’側の塩基及びその3’側の塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー」を調製する。次いで、蛍光偏光色素ラベルしたヌクレオチド存在下で、増幅したDNAを鋳型とし、調製したプライマーを用いて一塩基伸長反応を行う。そして、蛍光の偏光度を測定する。次いで、測定した蛍光の偏光度を対照と比較する。このような方法としては、例えば、AcycloPrime法が挙げられる。
【0080】
さらに別の方法においては、先ず、生物学的試料からDNA若しくはcDNA試料を調製する。次いで、第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部を含むDNAを増幅する。次いで、「第1群の遺伝子領域又は第2群の遺伝子領域の全て又は一部の塩基の1塩基3’側の塩基及びその3’側の塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー」を調製する。次いで、蛍光ラベルしたヌクレオチド存在下で、増幅したDNAを鋳型とし、調製したプライマーを用いて、一塩基伸長反応を行う。次いで、一塩基伸長反応に使われた塩基種を判定する。次いで、判定された塩基種を対照と比較する。このような方法として、例えば、SNuPE法が挙げられる。
【0081】
なお、変異が各タンパク質(第1群の変異を検出する場合:TTKタンパク質及びRAD50タンパク質から選択される少なくとも1種(本明細書中、場合により「第1群のタンパク質」という);第2群の変異を検出する場合:RAD50タンパク質、MRE11タンパク質、NBS1タンパク質、DNA2タンパク質、及びCtIPタンパク質から選択される少なくとも1種(本明細書中、場合により「第2群のタンパク質」という))におけるアミノ酸の変化(例えば、置換、欠失、挿入、付加)を伴うものであれば、生物学的試料から調製される試料はタンパク質であってもよい。このような場合、変異を検出するには、上記変異によりアミノ酸の変化が生じた部位に特異的に結合する分子(例えば、抗体)を用いる方法等を利用することができる。
【0082】
例えば、抗体を用いたタンパク質の検出法においては、先ず、生物学的試料からタンパク質試料を調製する。次いで、第1群のタンパク質又は第2群のタンパク質に特異的な抗体を用いて抗原抗体反応を行い、第1群のタンパク質又は第2群のタンパク質を検出する。このような抗体を用いたタンパク質の検出法としては、ヘリカーゼの発現量を翻訳レベルで検出する方法において、抗体を用いたタンパク質の検出法として挙げた方法と同様の方法を第1群のタンパク質又は第2群のタンパク質に合わせ調整して適宜採用することができる。この方法においては、免疫組織化学によれば、組織におけるがん細胞の形態や分布状態などの付加的な情報も同時に入手しうるという利点もある。
【0083】
使用する抗体の種類や由来などは特に制限はないが、好ましくはモノクローナル抗体である。十分な特異性で第1群のタンパク質又は第2群のタンパク質を検出可能である限り、オリゴクローナル抗体(数種~数十種の抗体の混合物)やポリクローナル抗体を用いることもできる。また、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、scFv、sc(Fv)、dsFv、及びダイアボディー等の、抗体の機能的断片やその多量体(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー、ポリマー)を用いることもできる。抗TTKタンパク質抗体、抗RAD50タンパク質抗体、抗MRE11タンパク質抗体、抗NBS1タンパク質抗体、抗DNA2タンパク質抗体、及び抗CtIPタンパク質抗体としては、それぞれ、市販品であってもよい。
【0084】
第1群のタンパク質又は第2群のタンパク質の検出は、質量分析法(MS)を使用して行うこともできる。特に液体クロマトグラフィーと連結した質量分析計(LC/MS)による解析は鋭敏であるため有利である。質量分析法による検出法としては、ヘリカーゼの発現量を翻訳レベルで検出する方法において、質量分析法による検出法として挙げた方法と同様の方法を第1群のタンパク質又は第2群のタンパク質に合わせ調整して適宜採用することができる。
【0085】
第1群のタンパク質又は第2群のタンパク質の検出は、各タンパク質の活性を測定することによって行うこともできる。これらの活性は適宜公知の方法又はそれに準じた方法を採用することができるが、例えば、TTKタンパク質のリン酸化活性の測定は、リン酸基を蛍光物質等で検出することで測定することができる。また、RAD50タンパク質のATPase活性の測定は、発光ADPアッセイを利用することで測定することができる。例えば、ADP-Glo(Promega社製)を用いることでATPase活性を測定することができる。さらに、MRE11タンパク質のヌクレアーゼ活性の測定は、HeLa S3アッセイ法、活性ゲル法、プラスミドアッセイ法等により測定することができる。
【0086】
〔感受性の予測・がん患者の選別〕
こうして生物学的試料から第1群の変異の検出及び/又は第2群の変異の検出がされた場合、当該生物学的試料が仮にがん細胞と判定された場合には、当該細胞は、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測することができ、また、当該生物学的試料ががん患者由来の試料に含まれるがん細胞である場合には、当該がん細胞において前記変異が検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測することができ、さらに、当該がん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別することができる。
【0087】
ここで、「ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性」及び「ヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性」は、ヘリカーゼ阻害剤ががん細胞に対して治療的効果を発揮し得るか否かを示す指標である。前記感受性には、前記ヘリカーゼ阻害剤によって前記がん細胞の死滅が促進されること及び増殖が抑制されることが含まれる。当該感受性の予測には、感受性の有無の判定のみならず、感受性が期待できる/できない等の評価、感受性がある場合におけるその程度の評価(例えば、高い感受性が期待できる、中程度の感受性が期待できる等の評価)を含めてもよい。したがって、第1群の変異及び/又は第2群の変異の種類や程度に応じて、例えば、中程度の感受性が期待できるレベルで、がん治療の対象となる患者を選別してもよい。
【0088】
一方、がん患者由来の試料から第1群の変異及び/又は第2群の変異が認められなかった場合には、当該患者をヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象から除外することができる。これにより治療の奏功率を向上させることができる。
【0089】
(MSH3)
また、本発明において、ヘリカーゼ阻害剤の標的とするがん細胞が、第1群の変異及び/又は第2群の変異、より好ましくは第1群の変異(TTK変異及び/又はRAD50変異)を有することに加えて、MSH3の変異をさらに有するがん細胞である場合、ヘリカーゼ阻害剤は当該がん細胞の増殖を同等かそれ以上に抑制しうることが見出された。したがって、がん細胞感受性予測方法、がん患者感受性予測方法、及びがん患者選別方法においては、それぞれ独立に、MSH3の変異の検出の有無も指標に加えることができ、本発明は、
がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法であり、
(a)がん細胞におけるTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(c)がん細胞におけるMSH3の変異の有無を検出する工程と、
(d)TTK変異及び/又はRAD50変異に加えてMSH3の変異も検出されたがん細胞を、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測する工程と、
を含む、方法(がん細胞感受性予測方法);
がん患者のヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性を予測する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(c)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるMSH3の変異の有無を検出する工程と、
(d)前記がん細胞においてTTK変異及び/又はRAD50変異に加えてMSH3の変異も検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測する工程と、
を含む、方法(がん患者感受性予測方法);
ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(c)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるMSH3の変異の有無を検出する工程と、
(d)前記がん細胞においてTTK変異及び/又はRAD50変異に加えてMSH3の変異も検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別する工程と、
を含む、方法(がん患者選別方法);
も提供する。
【0090】
本発明における「MSH3」は、ミスマッチ修復タンパク質(本明細書中、場合により「MSH3タンパク質」という)をコードする遺伝子である。ヒト由来の天然型MSH3ゲノムDNAの典型的な塩基配列を配列番号:7に、ヒト由来の天然型MSH3タンパク質の典型的なアミノ酸配列を配列番号:8に、それぞれ示す。なお、アミノ酸配列の置換、欠失、挿入、及び付加等を伴う変異を生じていないMSH3であっても、多型などによって、配列には個体差が生じうる。
【0091】
本発明における「MSH3の変異」としては、MSH3タンパク質のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び付加が挙げられる。このようなMSH3の変異としては、MSH3タンパク質が本来有している活性が変化しているものである限り特に制限されないが、MSH3タンパク質活性の低下(MSH3タンパク質活性の完全な喪失(不活性化)を含む)を引き起こす変異、すなわち、機能欠失型変異であることが好ましい。MSH3タンパク質活性の低下は、例えば、MSH3におけるミスセンス変異、全領域にわたるナンセンス変異、又はMSH3の全体若しくは部分的な欠失等の遺伝子構造の変化、遺伝子発現量の変化により生じうるが、これらに制限されない。
【0092】
MSH3が本来有している遺伝子構造や遺伝子発現量が変化しているか否かは、例えば、次の方法:ゲノムDNAのシークエンスによるMSH3の塩基配列の取得;MSH3のヌクレオチド配列に特異的に結合するオリゴヌクレオチドプローブによる蛍光検出;MSH3のヌクレオチドに特異的に結合するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による検出等により、対照(例えば、健常者や同一患者の非がん組織)との比較において変化しているか否か(好ましくは機能欠失型変異が生じているか否か、mRNAの発現量の場合には減少しているか否か)によって確認及び判定できる。
【0093】
MSH3タンパク質が本来有している活性(機能活性)が変化しているか否かは、例えば、次の方法:MSH3タンパク質に特異的に結合する抗体を用いた免疫染色法又はウェスタンブロッティング法による検出;免疫沈降法などにより精製した細胞内MSH3タンパク質がMutSβ複合体の構成タンパク質であるMSH2と結合しているかをウェスタンブロット法などにより判別する方法;及び免疫沈降法などにより精製した細胞内MSH3タンパク質がATPase活性を有しているかをATPase活性測定法により判別する方法等により、対照(例えば、健常者や同一患者の非がん組織)との比較において変化しているか否か(好ましくは低下しているか否か、すなわち、免疫染色法やウェスタンブロッティング法により検出されるMSH3タンパク質の発現量の場合には対照に比べて低下しているか否か、ウェスタンブロッティング法により検出されるタンパク質の分子量の場合には対照と比べて変化しているか否か、ウェスタンブロッティング法により検出されるMSH3タンパク質に結合しているMutSβ複合体の構成タンパク質であるMSH2の量が対照と比べて低下しているか否か、ATPase活性の場合には対照と比べて活性が低下しているか否か)によって確認及び判定できる。
【0094】
このようなMSH3タンパク質活性の変化を引き起こす具体的なMSH3の変異の例としては、例えば、p.A22Rfs*3(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7212418)、p.P67Qfs*13(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5989630)、p.P67Qfs*13(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5356342)、p.V292Mfs*15(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM9494178)、p.K383Gfs*20(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1568178)、p.K383Rfs*32(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1438888)、p.L503Wfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5835081)、p.P783Ffs*19(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM4188468)、p.E797Sfs*3(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8468896)、p.N861Mfs*6(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1438891)、p.L1006Vfs*10(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM3139259)、p.N1020IMfs*40(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1438892)、p.G1062Nfs*12(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM9358418)、p.N212Sfs*2(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM9178646)、p.E261Gfs*43(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5868883)、p.N385Qfs*19(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1735453)、p.Q406Pfs*42(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM9494259)、p.P740Afs*28(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5701238)、p.I785Yfs*18(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM7513821)、p.L821Ffs*3(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM4603915)、p.N861Kfs*8(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8183447)、p.N1020Kfs*17(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8565481)、p.E1092Rfs*24(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8851685)等が挙げられる。
【0095】
MSH3の変異の検出法としては、上記〔変異の検出〕において「TTKの変異の検出」等の方法として挙げた方法と同様の方法をMSH3の変異に合わせ調整して適宜採用することができる。
【0096】
(第3群の変異)
さらに、本発明において、ヘリカーゼ阻害剤の標的とするがん細胞が、第1群の変異及び/又は第2群の変異、より好ましくは第2群の変異を有することに加えて、EXO1の変異、RPA1の変異、RPA2の変異、及びRPA3の変異からなる第3群から選択される少なくとも1種の変異(本明細書中、場合により「第3群の変異」という)をさらに有するがん細胞である場合、ヘリカーゼ阻害剤は当該がん細胞の増殖を同等かそれ以上に抑制しうることが見出された。したがって、がん細胞感受性予測方法、がん患者感受性予測方法、及びがん患者選別方法においては、それぞれ独立に、第3群の変異の検出の有無も指標に加えることができ、本発明は、
がん細胞の、ヘリカーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法であり、
(a)がん細胞におけるRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(c)がん細胞におけるEXO1の変異、RPA1の変異、RPA2の変異、及びRPA3の変異からなる第3群の有無を検出する工程と、
(d)第2群の変異に加えて第3群の変異も検出されたがん細胞を、ヘリカーゼ阻害剤に対して感受性があると予測する工程と、
を含む、方法(がん細胞感受性予測方法);
がん患者のヘリカーゼ阻害剤による治療に対する感受性を予測する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(c)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるEXO1の変異、RPA1の変異、RPA2の変異、及びRPA3の変異からなる第3群の変異の有無を検出する工程と、
(d)前記がん細胞において第2群の変異に加えて第3群の変異も検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤による治療に対して感受性があると予測する工程と、
を含む、方法(がん患者感受性予測方法);
ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象とするがん患者を選別する方法であり、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(c)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるEXO1の変異、RPA1の変異、RPA2の変異、及びRPA3の変異からなる第3群の変異の有無を検出する工程と、
(d)前記がん細胞において第2群の変異に加えて第3群の変異も検出されたがん患者を、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療の対象として選別する工程と、
を含む、方法(がん患者選別方法);
も提供する。
【0097】
〔EXO1〕
本発明における「EXO1」は、DNAのリン酸化エステル結合の加水分解を触媒することにより、一本鎖DNAの3’-OH末端から5’-モノヌクレオチドを遊離させる3’→5’エキソヌクレアーゼであり、またRNase活性を有するタンパク質(本明細書中、場合により「EXO1タンパク質」という)をコードする遺伝子である。EXO1タンパク質のエキソヌクレアーゼ活性は、MRE11タンパク質のエンドヌクレアーゼ活性と協調して、DNA修復機構(特に、二本鎖DNA相同末端修復機構)に関与することが報告されている。ヒト由来の天然型EXO1ゲノムDNAの典型的な塩基配列を配列番号:17に、ヒト由来の天然型EXO1タンパク質の典型的なアミノ酸配列を配列番号:18に、それぞれ示す。なお、アミノ酸配列の置換、欠失、挿入、及び付加等を伴う変異を生じていないEXO1であっても、多型などによって、配列には個体差が生じうる。
【0098】
本発明における「EXO1の変異」としては、EXO1タンパク質のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び付加が挙げられる。このようなEXO1の変異としては、EXO1タンパク質が本来有している活性が変化しているものである限り特に制限されないが、EXO1タンパク質活性の低下(EXO1タンパク質活性の完全な喪失(不活性化)を含む)を引き起こす変異、すなわち、機能欠失型変異であることが好ましい。EXO1タンパク質活性の低下は、例えば、EXO1におけるミスセンス変異、全領域にわたるナンセンス変異、又はEXO1の全体若しくは部分的な欠失等の遺伝子構造の変化、遺伝子発現量の変化により生じうるが、これらに制限されない。
【0099】
EXO1が本来有している遺伝子構造や遺伝子発現量が変化しているか否かは、例えば、次の方法:ゲノムDNAのシークエンスによるEXO1の塩基配列の取得;EXO1のヌクレオチド配列に特異的に結合するオリゴヌクレオチドプローブによる蛍光検出;EXO1のヌクレオチドに特異的に結合するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による検出等により、対照(例えば、健常者や同一患者の非がん組織)との比較において変化しているか否か(好ましくは機能欠失型変異が生じているか否か、mRNAの発現量の場合には減少しているか否か)によって確認及び判定できる。
【0100】
EXO1タンパク質が本来有している活性(機能活性)が変化しているか否かは、例えば、次の方法:EXO1タンパク質に特異的に結合する抗体を用いた免疫染色法又はウェスタンブロッティング法による検出;及び免疫沈降法などにより精製した細胞内EXO1タンパク質が基質一本鎖DNAの3’末端を切断するかを測定して判別する方法等により、対照(例えば、健常者や同一患者の非がん組織)との比較において変化しているか否か(好ましくは低下しているか否か、すなわち、免疫染色法やウェスタンブロッティング法により検出されるタンパク質の発現量の場合には対照に比べて低下しているか否か、ウェスタンブロッティング法により検出されるタンパク質の分子量の場合には対照と比べて変化しているか否か、エキソヌクレアーゼ活性の場合には活性が対照に比べて低下しているか否か)によって確認及び判定できる。
【0101】
このようなEXO1タンパク質活性の変化を引き起こす具体的なEXO1の変異の例としては、例えば、p.E89Dfs*44(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5832542)、p.V142*(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6657048)、p.N159Tfs*9(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5661778)、p.G190Wfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM392303)、p.F215Lfs*9(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM166045)、p.C508Afs*13(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1340675)、p.C508Lfs*7(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM5207739)、p.R723Ffs*20(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM9226806)、p.D731Tfs*4(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6657053)等が挙げられる。
【0102】
EXO1の変異の検出法としては、上記〔変異の検出〕において「TTKの変異の検出」等の方法として挙げた方法と同様の方法をEXO1の変異に合わせ調整して適宜採用することができる。
【0103】
〔RPA1、RPA2、RPA3〕
本発明における「RPA1」、「RPA2」、及び「RPA3」は、それぞれ、互いに相互作用することで複製タンパク質RPA(replication protein)を形成して、MRN複合体と相互作用することが報告されている(例えば、Greg Oakleyら,Biochemistry.,2009 August 11,48(31),p.7473-7481;Ting Liuら,Acta Biochim Biophys Sin,2016,48(7),p.665-670等)タンパク質(本明細書中、場合により、それぞれ、「RPA1タンパク質」、「RPA2タンパク質」、及び「RPA1タンパク質」といい、これらを総称して、場合により「RPA1~3タンパク質」という)をコードする遺伝子である。これらのうちのいずれか1種のタンパク質の機能が欠失しても、前記複合体自体の機能が低下して上記DNA修復機構が正常に機能しないことから、第3群の変異のうち、かかる複合体を形成するタンパク質をコードするRPA1、RPA2、及びRPA3(以下、場合により「RPA1~3」と総称する)においては特に、これらのうちの少なくとも1種の変異を検出することが好ましい。
【0104】
ヒト由来の天然型RPA1~3ゲノムDNAの典型的な塩基配列を、それぞれ、配列番号:19、21、23に示し、ヒト由来の天然型RPA1~3タンパク質の典型的なアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号:20、22、24に示す。なお、アミノ酸配列の置換、欠失、挿入、及び付加等を伴う変異を生じていないRPA1、RPA2、又はRPA3であっても、それぞれ、多型などによって、配列には個体差が生じうる。
【0105】
本発明における「RPA1の変異」、「RPA2の変異」、及び「RPA3の変異」(以下、「RPA1~3の変異」という)としては、それぞれ、RPA1~3タンパク質のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び付加が挙げられる。このようなRPA1~3の変異としては、それぞれ、RPA1~3タンパク質が本来有している活性が変化しているものである限り特に制限されないが、RPA1~3タンパク質活性の低下(RPA1~3タンパク質活性の完全な喪失(不活性化)を含む)を引き起こす変異、すなわち、機能欠失型変異であることが好ましい。RPA1~3タンパク質活性の低下は、それぞれ、例えば、RPA1~3におけるミスセンス変異、全領域にわたるナンセンス変異、又はRPA1~3の全体若しくは部分的な欠失等の遺伝子構造の変化、遺伝子発現量の変化により生じうるが、これらに制限されない。
【0106】
RPA1~3が本来有している遺伝子構造や遺伝子発現量が変化しているか否かは、例えば、次の方法:ゲノムDNAのシークエンスによるRPA1~3の塩基配列の取得;RPA1~3のヌクレオチド配列に特異的に結合するオリゴヌクレオチドプローブによる蛍光検出;RPA1~3のヌクレオチドに特異的に結合するオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR法による検出等により、対照(例えば、健常者や同一患者の非がん組織)との比較において変化しているか否か(好ましくは機能欠失型変異が生じているか否か、mRNAの発現量の場合には減少しているか否か)によって確認及び判定できる。
【0107】
RPA1~3タンパク質が本来有している活性(機能活性)が変化しているか否かは、例えば、次の方法:RPA1~3タンパク質に特異的に結合する抗体を用いた免疫染色法又はウェスタンブロッティング法による検出;及び免疫沈降法などにより精製した細胞内RPA1~3タンパク質が複合体の構成タンパク質であるそれ以外のRPA1~3タンパク質と結合しているかをウェスタンブロット法などにより判別する方法等により、対照(例えば、健常者や同一患者の非がん組織)との比較において変化しているか否か(好ましくは低下しているか否か、すなわち、免疫染色法やウェスタンブロッティング法により検出されるRPA1~3タンパク質の発現量の場合には対照に比べて低下しているか否か、ウェスタンブロッティング法により検出されるタンパク質の分子量の場合には対照と比べて変化しているか否か、ウェスタンブロッティング法により検出される複合体の構成タンパク質であるそれ以外のRPA1~3タンパク質が結合している量が対照と比べて低下しているか否か)によって確認及び判定できる。
【0108】
このようなRPA1~3タンパク質活性の変化を引き起こす具体的なRPA1の変異の例としては、例えば、p.N274Mfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM4722502)、p.N338Kfs*28(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM1745322)、p.E363Gfs*4(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6048715)、p.E418Kfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM111541)、p.E601Vfs*53(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8515054)、p.S609Rfs*46(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM112025)等が挙げられる。また、RPA2の変異の例としては、例えば、p.G34Afs*69(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8537429)、p.V127Gfs*26(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM907939)、p.E158Gfs*5(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM8220461)等が挙げられる。さらに、RPA3の変異の例としては、例えば、p.N50Mfs*6(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM3029082)、p.S64Nfs*26(COSMIC Legacy Mutation ID:COSM6848181)等が挙げられる。
【0109】
RPA1~3の変異の検出法としては、上記〔変異の検出〕において「TTKの変異の検出」等の方法として挙げた方法と同様の方法をRPA1~3の変異にそれぞれ合わせ調整して適宜採用することができる。
【0110】
(ヘリカーゼ)
さらに、本発明に係るヘリカーゼ阻害剤の標的であるヘリカーゼが正常に発現していない場合及び/又は正常に機能していない場合には、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療を効果的に実施することができないおそれがある。したがって、がん細胞感受性予測方法、がん患者感受性予測方法、及びがん患者選別方法においては、さらに、ヘリカーゼをコードする遺伝子の変異及びヘリカーゼの発現低下の検出も指標に加えることができる。
【0111】
ヘリカーゼをコードする遺伝子の変異の検出法としては、上記〔変異の検出〕において「TTKの変異の検出」等の方法として挙げた方法と同様の方法をヘリカーゼをコードする遺伝子(例えば、WRN遺伝子)の変異に合わせ調整して適宜採用することができる。また、ヘリカーゼの発現低下の検出法としては、上述のとおりである。
【0112】
<がんを治療する方法>
本発明は、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるTTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者に対して、ヘリカーゼ阻害剤を投与する工程と、
を含む、がんを治療する方法;並びに、
(a)がん患者由来の試料に含まれるがん細胞におけるRAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異の有無を検出する工程と、
(b)前記がん細胞において前記変異が検出されたがん患者に対して、ヘリカーゼ阻害剤を投与する工程と、
を含む、がんを治療する方法(本明細書中、これらを総称して、場合により「がん治療方法」という)も提供する。
【0113】
本発明のがん治療方法において、第1群の変異の検出、第2群の変異の検出、及びヘリカーゼ阻害剤としては、それぞれ、上述のとおりである。
【0114】
がん患者に対するヘリカーゼ阻害剤の投与は、経口的な投与であっても非経口的な投与(例えば、静脈投与、動脈投与、局所投与)であってもよい。
【0115】
また、がん患者に対するヘリカーゼ阻害剤の投与量は、ヘリカーゼを阻害してがんを治療するのに有効な量であればよく、ヘリカーゼを阻害する化合物の性質、がん患者の年齢、体重、症状、健康状態、がんの進行状況などに応じて、適宜選択されるものであるため一概にはいえないが、例えば、ヒトに投与する場合、ヘリカーゼを阻害する化合物の量で、1日当たり、0.001~100,000mg、好ましくは、0.01~5,000mgである。がん患者に対するヘリカーゼ阻害剤の投与頻度としても同様に、一概にはいえないが、例えば、1日あたり1回、又は2~4回に分けて投与され、適当な間隔で繰り返すのが好ましい。前記投与量及び投与頻度は、医師の判断によって必要により適宜増減されうる。
【0116】
これにより、がん患者における第1群の変異及び/又は第2群の変異を有するがん細胞において、さらにヘリカーゼが阻害され、がん細胞の死滅の促進及び/又は増殖の抑制により、がんを治療することができる。
【0117】
治療対象となるがんとしては、例えば、大腸がん、胃がん、子宮頸がん、子宮体がん、前立腺がん、乳がん、肺がん、膀胱がん、食道がん、頭頸部癌、腎臓がん、卵巣がん、リンパ腫、腺様嚢胞がん、膵臓がんが挙げられるが、これらのがんに限定されない。
【0118】
<変異の有無を検出するための試薬>
また、本発明は、上記の方法において、第1群の変異及び/又は第2群の変異の有無を検出するための試薬であり、
(i)TTK及びRAD50からなる第1群から選択される1種の遺伝子に特異的に結合するオリゴヌクレオチドプライマー、
(ii)TTK及びRAD50からなる第1群から選択される1種の遺伝子に特異的に結合するオリゴヌクレオチドプローブ、及び
(iii)TTKタンパク質及びRAD50タンパク質からなる第1群から選択される1種のタンパク質に特異的に結合する抗体、
のうちの少なくともいずれかの分子を有効成分とする試薬;並びに、
(i)RAD50、MRE11、NBN、DNA2、及びRBBP8からなる第2群から選択される1種の遺伝子に特異的に結合するオリゴヌクレオチドプライマー、
(ii)RAD50、MRE11、NBN、DNA2、及びRBBP8からなる第2群から選択される1種の遺伝子に特異的に結合するオリゴヌクレオチドプローブ、及び
(iii)RAD50タンパク質、MRE11タンパク質、NBS1タンパク質、DNA2タンパク質、及びCtIPタンパク質からなる第2群から選択される1種のタンパク質に特異的に結合する抗体、
のうちの少なくともいずれかの分子を有効成分とする試薬を提供する。
【0119】
上記オリゴヌクレオチドプライマーは、各遺伝子のゲノムDNAやcDNAの塩基配列情報(例えば、配列番号:3、5、9、11、13、15)に基づき、上記した方法や増幅する領域に即したプライマーとなるように、また、目的の遺伝子以外の遺伝子の増幅産物が極力生じないように設計すればよい。このようなオリゴヌクレオチドプライマー設計は、当業者であれば、常法により行うことができる。オリゴヌクレオチドプライマーの長さは、通常15~50塩基長、好ましくは15~30塩基長であるが、方法及び目的によってはこれより長くても短くてもよい。
【0120】
上記オリゴヌクレオチドプローブは、各遺伝子のゲノムDNAやcDNAの塩基配列情報(例えば、配列番号:3、5、9、11、13、15)に基づき、上記した方法やハイブリダイズさせる領域に即したプローブとなるように、また、目的の遺伝子以外の遺伝子へのハイブリダイズが極力生じないように設計すればよい。このようなオリゴヌクレオチドプローブ設計は、当業者であれば、常法により行うことができる。オリゴヌクレオチドプローブの長さは、通常、15~200塩基長、好ましくは15~100塩基長、さらに好ましくは15~50塩基長であるが、方法及び目的によってはこれより長くても短くてもよい。
【0121】
オリゴヌクレオチドプローブは、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5’端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、及びクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、又はビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0122】
上記のオリゴヌクレオチドプライマー及びオリゴヌクレオチドプローブは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。オリゴヌクレオチドプローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。また、本発明のオリゴヌクレオチドプライマー及びオリゴヌクレオチドプローブは、天然のヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチド(DNA)やリボヌクレオチド(RNA))のみから構成されていなくともよく、非天然型のヌクレオチドにてその一部又は全部が構成されていてもよい。非天然型のヌクレオチドとしては、PNA(polyamide nucleic acid)、LNA(登録商標、locked nucleic acid)、ENA(登録商標、2’-O,4’-C-Ethylene-bridged nucleic acids)、及びこれらの複合体が挙げられる。
【0123】
上記第1群のタンパク質又は第2群のタンパク質に特異的に結合する抗体は、ポリクローナル抗体であれば、抗原(各タンパク質(例えば、TTKタンパク質等)、その部分ペプチド、又はこれらを発現する細胞など)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィーなど)によって、精製して取得することができる。また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法によって作製することができる。
【0124】
ハイブリドーマ法としては、代表的には、コーラー及びミルスタインの方法(Kohler&Milstein, Nature 1975;256:495)が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原(各タンパク質(例えば、TTKタンパク質等)、その部分ペプチド、又はこれらを発現する細胞など)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球などである。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞又はリンパ球などに対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。抗体産生細胞及びミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同一の動物種起源のものである。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、第1群のタンパク質又は第2群のタンパク質に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。第1群のタンパク質又は第2群のタンパク質に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、又はハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得することができる。
【0125】
組換えDNA法は、上記抗体をコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入し、本発明の抗体を組換え抗体として産生させる方法である(例えば、P.J.Delves,Antibody Production:Essential Techniques,1997 WILEY、P.Shepherd and C.Dean Monoclonal Antibodies,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS,Vandamme AMら,Eur.J.Biochem.1990;192:767-775)。抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖又は軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖及び軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(WO94/11523号公報等)。抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内又は培養液から分離・精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離・精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジ又はブタなど)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
【0126】
こうして得られた抗体若しくはその遺伝子を基に、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、scFv、sc(Fv)、dsFv、及びダイアボディー等の、抗体の機能的断片やその多量体(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー、ポリマー)を調製することができる。
【0127】
直接的に第1群のタンパク質又は第2群のタンパク質に結合した抗体量を検出する場合、得られた抗TTKタンパク質抗体、抗RAD50タンパク質抗体、抗MRE11タンパク質抗体、抗NBS1タンパク質抗体、抗DNA2タンパク質抗体、抗CtIPタンパク質抗体等は、直接、酵素、放射性同位体、蛍光色素又はアビジン-ビオチン系等により標識して用いられる。一方、第1群のタンパク質又は第2群のタンパク質に結合した抗体量を、二次抗体などを利用して検出する間接的検出方法を実施する場合、得られた抗タンパク質抗体(例えば、抗TTKタンパク質抗体等)(一次抗体)は標識する必要はなく、検出に際しては、当該抗体を認識する標識された分子(例えば、二次抗体やプロテインA)を用いればよい。
【0128】
本発明の試薬においては、有効成分としての上記分子の他、必要に応じて、滅菌水や生理食塩水、緩衝剤、保存剤など、試薬として許容される他の成分を含むことができる。さらに、MSH3の変異又は第3群の変異の検出のための各オリゴヌクレオチドプライマー、オリゴヌクレオチドプローブ、及び抗体のうちの少なくともいずれかの分子をさらに含むか、当該分子を含む試薬をさらに組み合わせてもよい。
【0129】
<がんの治療に用いる化合物のスクリーニング方法・がん治療剤>
本発明は、
ヘリカーゼを阻害するか否かを指標として化合物を選別する工程
を含む、TTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異が検出されるがん細胞を含むがんの治療に用いる化合物のスクリーニング方法;並びに、
ヘリカーゼを阻害するか否かを指標として化合物を選別する工程
を含む、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されるがん細胞を含むがんの治療に用いる化合物のスクリーニング方法;(以下、これらを総称して、場合により「化合物のスクリーニング方法」という)も提供する。
【0130】
また、上記化合物のスクリーニング方法でスクリーニングされたヘリカーゼを阻害する化合物をそれぞれ用いて、
ヘリカーゼを阻害する化合物を有効成分として含有し、TTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異が検出されるがん細胞を含むがんの治療剤である、がん治療剤;並びに、
ヘリカーゼを阻害する化合物を有効成分として含有し、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異が検出されるがん細胞を含むがんの治療剤である、がん治療剤(以下、これらを総称して、場合により「がん治療剤」という)も提供することができる。
【0131】
本発明の化合物のスクリーニング方法に適用する被験化合物としては特に制限はなく、例えば、上記のヘリカーゼを阻害する化合物の例として挙げた化合物、ポリペプチド、及びポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくとも1種(ただしヘリカーゼを阻害するか否かは既知でなくてよい)が挙げられる。また、前記被検化合物としてより具体的には、例えば、合成低分子化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、ペプチドライブラリー、siRNA、抗体、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)の抽出液及び培養上清、精製又は部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物又は動物由来の抽出物、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリーが挙げられる。また、前記被験化合物は、公知のヘリカーゼ阻害剤の誘導体であってもよい。
【0132】
ヘリカーゼを阻害するか否かを指標として化合物を選別する方法(スクリーニング)においては、上記のヘリカーゼの活性又は発現の阻害の確認系に、被験化合物を作用させて、その後のヘリカーゼ活性又は発現を検出すればよい。検出の結果、対照(例えば、被験化合物を添加しない場合)におけるヘリカーゼ活性又は発現と比較して、当該活性又は発現が低下していれば、ヘリカーゼが阻害されたと評価することができる。
【0133】
前記スクリーニングにおいて、化合物による阻害の有無を評価される「ヘリカーゼ」としては、特に制限されず、例えば、RecQヘリカーゼ(RecQL1、BLM、WRN、RecQL4/RTS、RecQL5)が挙げられ、RecQヘリカーゼであることが好ましく、WRN(ウェルナーシンドロームプロテイン)であることがより好ましい。
【0134】
本発明の化合物のスクリーニング方法により同定された化合物は、薬理学上許容される上記のヘリカーゼ阻害剤で挙げた添加成分等と適宜混合し、公知の製剤学的方法で製剤化することにより、医薬品として、がん治療剤とすることができる。
【実施例
【0135】
以下、試験例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0136】
(試験例1)
1.実験材料及び方法
(1)細胞株
先ず、約70株のがん細胞株について、siRNAによるWRNの発現抑制をおこない、増殖の抑制が確認された細胞株と増殖が抑制されなかった細胞株とをそれぞれ選択した。以下の試験では、選択した細胞株の一部として、HCT 116、KM12、SW48、CW-2、HT-29、NCI-H716(大腸がん)、RL95-2、C-33A、COLO-684(子宮がん)、SNU-1、GSU(胃がん)を、試験対象のがん細胞株として用いた例を示す。
【0137】
HCT 116は、TTK、RAD50、及びMSH3の全てに変異を有するがん細胞株である。KM12、RL95-2、及びC-33Aは、少なくともTTK及びRAD50に変異を有するがん細胞株である。SNU-1は、少なくともTTK及びMSH3に変異を有するがん細胞株である。SW48は、少なくともTTKに変異を有するがん細胞株である。CW-2は、少なくともRAD50に変異を有するがん細胞株である。COLO-684、GSU、HT-29、及びNCI-H716は、TTK及びRAD50のいずれにも変異を有さず、かつ、MSH3の変異が報告されていないがん細胞株である。これらのがん細胞株及びその由来組織(Tissue)と、各がん細胞株におけるTTK、RAD50、及びMSH3の変異の情報(機能欠失型変異を生じさせる遺伝子変異の情報)とを下記の表1に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
表1中、「*1」はBroad instituteが作成しているがん細胞株データベース:「Cancer Cell Line Encyclopedia(CCLE)」に、「*2」はMol Cell.2018 Jul 19;71(2)、p.319-331.e3に、「*3」はEur J Cancer.2000 May;36(7)、p.925-931に、それぞれ開示された変異であることを示し、「N.I.」は、変異に関する情報が公知になっていないことを示す。
【0140】
(2)短鎖干渉(si)RNA
WRNの発現抑制には、ON-TARGETplus individual siRNA(Dharmacon社製)を用いた。トランスフェクションには、Lipofectamine RNAiMAX(Invitrogen社製)を用いた。また、被験物質にはWRN siRNA(WRN siRNA1、Dharmacon社商品コード:J-010378-06、配列番号:25)を、陰性対照には非標的化siRNA(non-target siRNA1、Dharmacon社商品コード:D-001810-01、配列番号:26)を、それぞれ用いた。各siRNAは、5×siRNA buffer(Dharmacon社製:B-002000-UB-100)をnuclease free water(Ambion社製:AM9932)を用いて5倍希釈した1×siRNA bufferを用いて溶解した。
【0141】
(3)WRNの発現抑制試験
各がん細胞株において、WRN発現抑制による細胞障害活性を評価した。各細胞株を下記の表2に記載の培養液を用いてそれぞれ細胞培養フラスコ(Corning社製:430641U)にて培養し、細胞表面をPBS(Nacalai tesque社製:14249-24)で洗浄した後に、トリプシン(Nacalai tesque社製:35554-64)を添加し、37℃で5分間インキュベーションした後、各培養液を用いて懸濁した。自動セルカウンター(Chemometec社製:NC-200)及びVia1-Casette(Chemometec社製:941-0011)を用いて細胞数を測定した後、下記の表3に示す細胞濃度となるように各細胞株液を各培養液で調整した。96ウェルプレート(Greiner bio-one社製)に各細胞株液を100μL/ウェルずつ播種し、細胞数が表3に示す播種数となるようにそれぞれ播種した。
【0142】
次いで、Lipofectamine RNAiMAX(Thermo Fischer Scienctific社製:13778150)をOpti-MeM(Thermo Fischer Scientific社製:31985-062)を用いて50倍希釈した後に、120nMの被検物質(WRN siRNA1)又は非標的化siRNA(non-target siRNA1)と等量混合した。混合液を20μL/ウェルずつ上記の細胞を播種したプレートに添加した後、プレートを振盪し、終濃度10nMのsiRNAをそれぞれトランスフェクションした。
【0143】
37℃インキュベータにて7日間培養後、CellTiter-Glo2.0 Cell Viability Assay(Promega社製:G9243)を50μL/ウェルずつ添加し、室温で5分間インキュベートした後、EnVision(PerkinElmer社製)を用いてルミネッセンスを測定し、細胞生存のマーカーである細胞内ATP量を測定した。WRN発現抑制による細胞生存率は、陰性対照をトランスフェクションして7日間培養後の各がん細胞株における細胞内ATP量を100%として算出した。各がん細胞株のWRN発現抑制による細胞生存率(%survival)を図1に示す。
【0144】
【表2】
【0145】
【表3】
【0146】
2.結果
図1に示したように、WRNの発現抑制試験では、TTKの変異及びRAD50の変異のうちの少なくともいずれかの変異を有する7つのがん細胞株全てにおいて、細胞生存率が70%以下(図1では特に40%以下)と、顕著な細胞生存率の低下が認められた。また、試験を行った他のがん細胞株についても同様に、TTKの変異及びRAD50の変異のうちの少なくともいずれかの変異を有するがん細胞株において、顕著な細胞生存率の低下が認められた。この結果から、TTKの変異及びRAD50の変異からなる群(第1群)から選択される少なくとも1種の変異が生じているがん細胞株の生存は、ヘリカーゼの機能に強く依存していることが示され、これらのがん細胞において、ヘリカーゼの発現抑制を行うと、当該がん細胞の増殖が顕著に抑制されることが明らかとなった。
【0147】
(試験例2)
1.実験材料及び方法
(1)細胞株
さらに、上記約70株のがん細胞株を含む約200株のがん細胞株について、siRNAによるWRNの発現抑制をおこない、増殖の抑制が確認された細胞株と増殖が抑制されなかった細胞株とをそれぞれ選択した。以下の試験では、選択した細胞株の一部として、HCT 116、KM12、LS411N、SNU-407、SNU-C5、RKO、CW-2、CCK-81、HT-29(大腸がん)、RL95-2、AN3 CA、C-33A、SIHA、JHUEM-3(子宮がん)、IM95、MKN1(胃がん)、TOV-21G、PA-1(卵巣がん)を、以下の試験対象のがん細胞株として用いた例を示す。
【0148】
HCT 116は、上記のTTK、RAD50、及びMSH3に加えて、少なくともDNA2に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。KM12は、上記のTTK及びRAD50に加えて、少なくともDNA2、RBBP8、及びEXO1に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。LS411Nは、少なくともMRE11、DNA2、RBBP8、及びEXO1に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。SNU-407は、少なくともDNA2、RBBP8、及びEXO1に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。SNU-C5は、少なくともRAD50に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。RKOは、少なくともRAD50及びRPA3に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。CW-2は、上記のRAD50に加えて、少なくともRPA1に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。CCK-81は、少なくともRBBP8に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。RL95-2は、上記のRAD50に加えて、少なくともDNA2に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。AN3 CAは、少なくともDNA2に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。C-33Aは、上記のRAD50に加えて、少なくともDNA2、RPA1に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。IM95は、少なくともRAD50、NBN、DNA2、及びRBBP8に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。TOV-21Gは、少なくともNBNに変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。HT-29、SIHA、JHUEM-3、MKN1、及びPA-1は、TTK、RAD50、MRE11、NBN、DNA2、RBBP8、EXO1、RPA1、RPA2、及びRPA3のいずれにも変異を有さないがん細胞株である。これらのがん細胞株及びその由来組織(Tissue)と、各がん細胞株におけるRAD50、MRE11、NBN、DNA2、RBBP8、EXO1、RPA1、及びRPA3のtruncating変異の有無の情報とを下記の表4に示す。
【0149】
表4に記載の各変異は、Broad instituteが作成しているがん細胞株データベース:「Cancer Cell Line Encyclopedia(CCLE)」にそれぞれ開示された変異である。また、表4において「N.I.」は、少なくとも機能欠失型変異を生じさせるTruncating 変異に関する情報が公知になっていないことを示す。
【0150】
【表4】
【0151】
(2)短鎖干渉(si)RNA
WRNの発現抑制には、ON-TARGETplus individual siRNA(Dharmacon社製)を用いた。トランスフェクションには、Lipofectamine RNAiMAX(Invitrogen社製)を用いた。また、被験物質にはWRN siRNA(WRN siRNA1、Dharmacon社商品コード:J-010378-06、配列番号:25)を、陰性対照には、非標的化siRNA(non-target siRNA1、Dharmacon社商品コード:D-001810-01、配列番号:26)又は非標的化siRNA(non-target siRNA2、Dharmacon社商品コード:D-001810-03、配列番号:27)を用いた。各siRNAは、5×siRNA buffer(Dharmacon社製:B-002000-UB-100)をnuclease free water(Ambion社製:AM9932)を用いて5倍希釈した1×siRNA bufferを用いて溶解した。
【0152】
(3)WRNの発現抑制試験
各がん細胞株において、WRN発現抑制による細胞障害活性を評価した。各細胞株を下記の表5に記載の培養液を用いてそれぞれ細胞培養フラスコ(Corning社製:430641U)にて培養し、細胞表面をPBS(Nacalai tesque社製:14249-24)で洗浄した後に、トリプシン(Nacalai tesque社製:35554-64)を添加し、37℃で5分間インキュベーションした後、各培養液を用いて懸濁した。自動セルカウンター(Chemometec社製:NC-200)及びVia1-Casette(Chemometec社製:941-0011)を用いて細胞数を測定した後、細胞数が下記の表6に示す播種数となるように、96ウェルプレート(Greiner bio-one社製)に100μL/ウェルずつそれぞれ播種した。
【0153】
次いで、HCT 116、KM12、LS411N、SNU-407、SNU-C5、RKO、CW-2、CCK-81、HT-29、RL95-2、AN3 CA、C-33A、SIHA、JHUEM-3、IM95、及びTOV-21Gに関しては、Lipofectamine RNAiMAX(Thermo Fischer Scienctific社製:13778150)をOpti-MeM(Thermo Fischer Scientific社製:31985-062)を用いて50倍希釈した後に、120nMの被検物質(WRN siRNA1)又は非標的化siRNA(non-target siRNA1)と等量混合した。混合液を20μL/ウェルずつ上記の細胞を播種したプレートに添加した後、プレートを振盪し、終濃度10nMのsiRNAをそれぞれトランスフェクションした。また、MKN1及びPA-1に関しては、Lipofectamine RNAiMAX(Thermo Fischer Scienctific社製:13778150)をOpti-MeM(Thermo Fischer Scientific社製:31985-062)を用いて50倍希釈した後に、12nMの被検物質(WRN siRNA1)又は非標的化siRNA(non-target siRNA2)と等量混合した。混合液を20μL/ウェルずつ上記の細胞を播種したプレートに添加した後、プレートを振盪し、終濃度1nMのsiRNAをそれぞれトランスフェクションした。
【0154】
37℃インキュベータにて7日間培養後、CellTiter-Glo2.0 Cell Viability Assay(Promega社製:G9243)を20μL/ウェルずつ添加し、室温で5分間インキュベートした後、EnVision(PerkinElmer社製)を用いてルミネッセンスを測定し、細胞生存のマーカーである細胞内ATP量を測定した。WRN発現抑制による細胞生存率は、陰性対照をトランスフェクションして7日間培養後の各がん細胞株における細胞内ATP量を100%として算出した。各がん細胞株のWRN発現抑制による細胞生存率(%survival)を図2に示す。
【0155】
【表5】
【0156】
【表6】
【0157】
2.結果
図2に示したように、WRNの発現抑制試験では、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異のうちの少なくともいずれか、特に、RAD50の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異のうちの少なくともいずれかの変異を有する13のがん細胞株全てにおいて、細胞生存率が70%以下と、細胞生存率の低下が認められた。また、試験を行った他のがん細胞株についても同様に、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異のうちの少なくともいずれかの変異を有するがん細胞株において、顕著な細胞生存率の低下が認められた。この結果から、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる群(第2群)から選択される少なくとも1種の変異が生じているがん細胞株の生存は、ヘリカーゼの機能に強く依存していることが示され、これらのがん細胞において、ヘリカーゼの発現抑制を行うと、当該がん細胞の増殖が顕著に抑制されることが明らかとなった。
【0158】
(試験例3)
1.実験材料及び方法
(1)細胞株
HCT 116を試験対象のがん細胞株として用いた。HCT 116は、上記のとおり、少なくともTTK、RAD50、MSH3、及びDNA2に変異(truncating変異)を有するがん細胞株である。
【0159】
(2)短鎖干渉(si)RNA
WRNの発現抑制には、ON-TARGETplus individual siRNA(Dharmacon社製)を用いた。トランスフェクションには、Lipofectamine RNAiMAX(Invitrogen社製)を用いた。また、siRNAにはWRN siRNA(WRN siRNA2、Dharmacon社商品コード:J-010378-07、配列番号:28)を用いた。siRNAは、5×siRNA buffer(Dharmacon社製:B-002000-UB-100)をnuclease free water(Ambion社製:AM9932)を用いて5倍希釈した1×siRNA bufferを用いて溶解した。
【0160】
(3)トランスフェクション
WRNの過剰発現には、ViaFect Transfection Reagent(Promega社製)を用いた。siRNA耐性型の野生型WRN遺伝子(配列番号:29)をpCMV-3Tag-1aベクターにクローニングしたプラスミドを対照物質、siRNA非耐性型の野生型WRN遺伝子としての上記ヒト由来の天然型WRNをコードするゲノムDNAの典型的な塩基配列(配列番号:1)をpCMV-3Tag-1aベクターにクローニングしたプラスミドを被験物質1、K577Mの変異を導入したヘリカーゼ活性を欠失したsiRNA耐性型のK577MWRN遺伝子(K577MWRN、配列番号:30)をpCMV-3Tag-1aベクターにクローニングしたプラスミドを被験物質2、としてそれぞれ用いた。
(4)WRNのレスキュー試験
HCT 116がん細胞株において、WRN発現抑制を行いつつ、siRNA耐性型の野生型WRN遺伝子、又はsiRNA非耐性型の野生型WRN遺伝子、又はsiRNA耐性型のK577MWRN遺伝子を過剰発現させたときの細胞障害活性をそれぞれ評価した。先ず、HCT 116細胞株を上記の表2に記載の培養液を用いてそれぞれ細胞培養フラスコ(Corning社製:430641U)にて培養し、細胞表面をPBS(Nacalai tesque社製:14249-24)で洗浄した後に、トリプシン(Nacalai tesque社製:35554-64)を添加し、37℃で5分間インキュベーションした後、前記培養液を用いて懸濁した。自動セルカウンター(Chemometec社製:NC-200)及びVia1-Casette(Chemometec社製:941-0011)を用いて細胞数を測定した後、各培養液で7500個/76μLとなるように調整し、76μL/ウェルずつ播種した。
【0161】
次いで、Opti-MeM(Thermo Fischer Scientific社製:31985-062)を用いて、siRNA(WRN siRNA2)の終濃度が5nM、Lipofectamine RNAiMAX(Thermo Fischer Scienctific社製:13778150)が100倍希釈となるようにこれらを混合した。混合液を室温で20分間インキュベートした後、19μL/ウェルずつ上記の細胞を播種したプレートに添加し、プレートを振盪することで、終濃度1nMのsiRNAをトランスフェクションした。
【0162】
翌日、対照物質(siRNA耐性型の野生型WRN遺伝子のプラスミド)、又は被験物質1(siRNA非耐性型の野生型WRN遺伝子のプラスミド)若しくは被検物質2(siRNA耐性型のK577MWRN遺伝子のプラスミド)を0.1μgと、ViaFect Transfection Reagent 0.3μLとを、10μLのOpti-MeMに混合した。混合液を室温で20分間インキュベートした後、10μL/ウェルずつ上記のsiRNAをトランスフェクションしたウェルに添加し、プレートを振盪することで、siRNA耐性型の野生型WRN遺伝子、siRNA非耐性型の野生型WRN遺伝子、又はsiRNA耐性型のK577MWRN遺伝子を、それぞれ過剰発現させた。
【0163】
37℃インキュベータにて6日間培養後、CellTiter-Glo2.0 Cell Viability Assay(Promega社製:G9243)を50μL/ウェルずつ添加し、室温で5分間インキュベートした後、EnVision(PerkinElmer社製)を用いてルミネッセンスを測定し、細胞生存のマーカーである細胞内ATP量を測定し、その平均を算出した(n=3(N1,N2,N3))。WRN発現抑制による細胞生存率は、対照物質をトランスフェクションして6日間培養後の各がん細胞株における細胞内ATP量を100%として算出した。各がん細胞株に対照物質、被験物質1、又は被検物質2をトランスフェクションしたときの、各細胞生存率(%survival)を図3に示す。対照物質と被験物質1又は2との間、並びに、被験物質1と被検物質2との間にてそれぞれT検定を行った。T検定の結果、p<0.01の場合に有意差があると判定した。
【0164】
2.結果
図3に示したように、対照物質(siRNA耐性型の野生型WRN遺伝子のプラスミドをトランスフェクションした株)と、被験物質1(siRNA非耐性型の野生型WRN遺伝子のプラスミドをトランスフェクションした株)又は被検物質2(siRNA耐性型のK577MWRN遺伝子のプラスミドをトランスフェクションした株)と、の間で有意差が認められ、被験物質1と被検物質2との間では有意差が認められなかった。これらの結果及び上記試験例1~2の結果から、少なくとも上記変異が生じているがん細胞の生存は、確かに、WRNのヘリカーゼの機能に強く依存していることが示され、かかるがん細胞においてヘリカーゼの発現抑制を行うと、当該がん細胞の増殖が顕著に抑制されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0165】
以上説明したように、本発明によれば、TTKの変異及びRAD50の変異からなる第1群から選択される少なくとも1種の変異、及び/又は、RAD50の変異、MRE11の変異、NBNの変異、DNA2の変異、及びRBBP8の変異からなる第2群から選択される少なくとも1種の変異を指標として、効率的に、ヘリカーゼ阻害剤によるがん治療への感受性を予測することが可能となる。また、本発明によれば、がん患者由来の試料における前記変異の有無を検出し、当該変異が検出された患者を選別した上で、当該患者に対してヘリカーゼ阻害剤によるがんの治療を施すことができる。このため、がんの治療成績を大きく向上させることが可能となる。また、TTK及びRAD50からなる第1群から選択される少なくとも1種の遺伝子、及び/又は、RAD50、MRE11、NBN、DNA2、及びRBBP8からなる第2群から選択される少なくとも1種の遺伝子に対するオリゴヌクレオチドプローブやプライマー、並びに、TTKタンパク質及びRAD50タンパク質からなる第1群から選択される少なくとも1種のタンパク質、及び/又は、RAD50タンパク質、MRE11タンパク質、NBS1タンパク質、DNA2タンパク質、及びCtIPタンパク質からなる第2群から選択される少なくとも1種のタンパク質に対する抗体を用いることで、上記変異の有無の検出によるコンパニオン診断を効率的に行うことが可能となる。
図1
図2
図3
【配列表】
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