(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】エポキシ系熱界面材料
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20250414BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20250414BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20250414BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/22
C08G59/50
(21)【出願番号】P 2022530648
(86)(22)【出願日】2020-10-06
(86)【国際出願番号】 US2020054397
(87)【国際公開番号】W WO2021108035
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-07-19
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519415100
【氏名又は名称】ディディピー スペシャルティ エレクトロニック マテリアルズ ユーエス,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】グルンダー、セルジオ
(72)【発明者】
【氏名】ルッツ、ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】ルッツ、アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ヒレスハイム、ニーナ
(72)【発明者】
【氏名】コッホ、フェリックス
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-021118(JP,A)
【文献】国際公開第2018/154832(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0403700(US,A1)
【文献】ALUMINIUM HYDROXIDE,日本,日本軽金属株式会社,5-12,https://www.nikkeikin.co.jp/pdf/products/chemical/aluminum_hydroxide.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00-63/10
C08K 3/00-13/08
C08G 59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂組成物Aと硬化組成物Bとを組み合わせることによって調製される熱界面材料(TIM)組成物であって、
(i)前記エポキシ樹脂組成物Aが、芳香族基を含有しない
、310~330g/eqのエポキシ当量(EEW)及び400~800の重量平均分子量を有するエポキシドエーテルから選択される少なくとも1つの液体エポキシ樹脂
であり、
(ii)前記硬化組成物Bが、少なくとも1つの硬化剤を含み、
(iii)前記エポキシ樹脂組成物Aと前記硬化組成物Bとの間の体積比が
1:2~2:1の間の範囲であり、及び
(iv)前記エポキシ樹脂組成物A、前記硬化組成物B、又は両方が三水酸化アルミニウム(ATH)を更に含み、その結果前記ATHが、前記TIM組成物の総重量を基準として
80~95重量%の量で前記TIM組成物中に含まれる、熱界面材料(TIM)組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの硬化剤が、ポリマーアミン、ポリマーアミド、
48~300の分子量を有する低分子量アミン、及びそれらの2つ以上の組合せからなる群から選択される、
請求項1に記載のTIM組成物。
【請求項3】
80~95重量%のATHが、前記エポキシ樹脂組成物Aの総重量を基準として前記エポキシ樹脂組成物A中に含まれ、
80~95重量%のATHが、前記硬化組成物Bの総重量を基準として前記硬化組成物B中に含まれる、
請求項1又は2に記載のTIM組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂組成物A、前記硬化組成物B、又は両方が少なくとも1つの硬化促進剤を更に含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載のTIM組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの硬化促進剤が、第三級アミン、有機スズ触媒、アンモニウム塩、フェノール系触媒、尿素系触媒、及びそれらの混合物からなる群から選択される化合物である、
請求項4に記載のTIM組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの硬化促進剤が、前記TIM組成物の総重量を基準として
0.01~5重量%の量で含まれる、
請求項4又は5に記載のTIM組成物。
【請求項7】
前記ATHが、
5~100μmの範囲の平均粒子サイズを有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のTIM組成物。
【請求項8】
前記ATHが多峰性の粒子サイズ分布を有する、
請求項1~7のいずれか一項に記載のTIM組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のTIM組成物を含む物品。
【請求項10】
1つ以上の電池セルと冷却ユニットとから形成される電池モジュールを更に含む
請求項9に記載の物品であって、前記電池モジュールが、前記TIM組成物を介して前記冷却ユニットに接続される、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱界面材料及び電池式自動車におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の移動方法と比較して、電池式自動車は、軽量、低減されたCO2排出量などの大きな利点を有している。しかしながら、技術を確実に最適に使用するためには、依然として多くの技術的問題を克服する必要がある。例えば、業界で現在行われている取り組みの1つは、高密度の電池を開発することによって電池式自動車の走行距離を伸ばすことである。そしてこれは、高密度バッテリーのためのより優れた熱管理システムを開発する必要性につながる。
【0003】
電池式自動車では、電池セル又はモジュールは熱界面材料(TIM)によって冷却ユニットに熱的に接続される。そのようなTIMは、典型的には熱伝導性充填剤が充填されたポリマー系材料から形成される。2W/m・K以上の熱伝導率を達成するために、窒化ホウ素又はアルミニウム粉末などの100W/m・K以上の熱伝導率を有する充填剤を使用することができる。しかしながら、そのような充填剤は高価であり研磨性である。より安価で非研磨性の代替品は、三水酸化アルミニウム(ATH)である。約10W/m・Kというその熱伝導率の低さのため、高添加量のATH(すなわち80重量%以上)が必要とされる。更に、TIMもまた熱安定性であることが非常に望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
エポキシ樹脂組成物Aと硬化組成物Bとを組み合わせることによって調製される熱界面材料(TIM)組成物が本明細書において開示され、ここで、(i)エポキシ樹脂組成物Aが、芳香族基を含有しない少なくとも1つの液体エポキシ樹脂を含み、(ii)硬化組成物Bが少なくとも1つの硬化剤を含み、(iii)エポキシ樹脂組成物Aと硬化組成物Bとの間の体積比が約1:10~10:1の間の範囲であり;及び(iv)エポキシ樹脂組成物A、硬化組成物B、又は両方が三水酸化アルミニウム(ATH)を更に含み、その結果ATHがTIM組成物の総重量を基準として約80~95重量%の量でTIM組成物中に含まれる。
【0005】
TIM組成物の更なる実施形態において、エポキシ樹脂組成物Aと硬化組成物Bとの間の体積比は約1:2~2:1である。
【0006】
TIM組成物の尚更なる実施形態において、少なくとも1つの液体エポキシ樹脂は、約200~500g/eqのエポキシ当量(EEW)を有するエポキシドエーテルから選択される。
【0007】
TIM組成物の尚更なる実施形態において、少なくとも1つの液体エポキシ樹脂は、400~800の重量平均分子量を有するエポキシドエーテルから選択される。
【0008】
TIM組成物の尚更なる実施形態において、少なくとも1つの硬化剤は、ポリマーアミン、ポリマーアミド、低分子量アミン、及びそれらの2つ以上の組合せからなる群から選択される。
【0009】
TIM組成物の尚更なる実施形態において、約80~95重量%のATHは、エポキシ樹脂組成物Aの総重量を基準としてエポキシ樹脂組成物A中に含まれ、約80~95重量%のATHは、硬化組成物Bの総重量を基準として硬化組成物B中に含まれる。
【0010】
TIM組成物の尚更なる実施形態において、エポキシ樹脂組成物A、硬化組成物B、又は両方が少なくとも1つの硬化促進剤を更に含む。
【0011】
TIM組成物の尚更なる実施形態において、少なくとも1つの硬化促進剤は、第三級アミン、有機スズ触媒、アンモニウム塩、フェノール系触媒、尿素系触媒、及びそれらの混合物からなる群から選択される化合物である。
【0012】
TIM組成物の尚更なる一実施形態において、少なくとも1種の硬化促進剤は、TIM組成物の総重量を基準として、約0.01~5重量%の量で含まれる。
【0013】
TIM組成物の尚更なる実施形態において、ATHは、約5~100μmの範囲の平均粒子サイズを有する。
【0014】
TIM組成物の尚更なる実施形態において、ATHは多峰性の粒子サイズ分布を有する。
【0015】
以下に説明されるTIM組成物を含む物品が本明細書において更に開示される。
【0016】
この物品の更なる実施形態において、それは、1つ以上の電池セルと冷却ユニットとから形成される電池モジュールを更に含み、電池モジュールは、TIM組成物を介して冷却ユニットに接続される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本技術分野に公知であるように、二成分エポキシ系接着剤において、硬化は周囲条件で行うことができ、接着剤は、使用するまで別々に保たれる、少なくとも2つの異なった組成物(エポキシ樹脂組成物と硬化組成物)を含むようにする。エポキシ樹脂組成物は一般的に、様々な理由で1つ以上のエポキシ樹脂並びに他の成分及び添加剤を含有する。一方、硬化組成物は一般的に、1つ以上の硬化剤(hardening agents)又は硬化剤(curing agents)を含有する。また、硬化組成物は一般的に、様々な理由で他の添加剤を含有する。硬化組成物は一般的に、エポキシ樹脂を含まない。更に、(非高温での硬化を可能にする)少なくとも1つの硬化促進剤又は触媒がエポキシ樹脂組成物又は硬化組成物又は両方に含有されるのが好ましい。
【0018】
本明細書において、エポキシ樹脂組成物Aと硬化組成物Bとを組み合わせることによって調製される、二成分エポキシ系熱界面材料(TIM)組成物が開示される。エポキシ樹脂組成物Aは、芳香族基を含有しない少なくとも1つの液体エポキシ樹脂を含み、硬化組成物Bは、少なくとも1つの硬化剤を含む。本開示に従って、エポキシ樹脂A及び硬化組成物Bは、約1:10~10:1の範囲の体積比でTIM組成物中に含まれる。更に、エポキシ樹脂組成物A、硬化組成物B、又は両方が三水酸化アルミニウム(ATH)を更に含み、その結果TIM組成物の総重量を基準として約80~95重量%のATHが最終の二成分エポキシ系TIM組成物中に含まれる。
【0019】
ここで使用される液体エポキシ樹脂は、開環反応によって重合可能である、少なくとも1つのオキシラン環を有する任意の有機化合物であり得る。エポキシドとしても知られているこのような材料には、モノマー及びポリマーの両方のエポキシドが含まれる。ここで使用される液体エポキシ樹脂は、芳香環を有さず、例えば、脂肪族、脂環式、複素環式、又は脂環式であり得、更にはそれらの組合せであり得る。ここで使用される液体エポキシ樹脂は、良い粘着性及び接着性をもたらすために低いTg(例えば、室温よりも低い)を有するように選択される。ここで使用されるポリマーエポキシドとしては、限定しないが、末端エポキシ基を有する線状ポリマー(例えば、ポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテル)、オキシラン骨格単位を有するポリマー(例えば、ポリブタジエンポリエポキシド)、及びエポキシ側基を有するポリマー(例えば、グリシジルメタクリレートポリマー又はコポリマー)が挙げられる。エポキシ樹脂の重量平均分子量は、約90~2000、約200~2000、約300~1600、約340~1000、約400~800、又は約600~700であり得る。エポキシ樹脂は、約100~1000g/eq、約150~800g/eq、約200~500g/eq、又は約300~400g/eqのエポキシ当量(EEW)を有することができる。
【0020】
例示的な脂肪族エポキシドとしては、限定しないが、脂肪族多価アルコール又はそのアリレンオキシド付加物のポリグリシジルエーテル;脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステル;グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートのビニル重合によって合成されたホモポリマー;及びグリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートとその他のビニルモノマーのビニル重合によって合成されたコポリマーが挙げられる。更なる具体例としては、限定しないが、例えば1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリトリトールヘキサグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、及びポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどの多価アルコールのグリシジルエーテル;プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、及びグリセロールなどの脂肪族多価アルコールに1つ以上のアルキレンオキシドを付加することによって得られるポリエーテルポリオールポリグリシジルエーテル;及び脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステルが挙げられる。また、脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル、フェノール、クレゾール、ブチルフェノール又はアルキレンオキシドの付加によって得られるそのポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル、高級脂肪酸のグリシジルエステル、エポキシ化大豆油、オクチルエポキシステアレート、ブチルエポキシステアレート、及びエポキシ化ポリブタジエンも含まれ得る。
【0021】
例示的な脂環式エポキシ化合物としては、少なくとも1つの脂環式環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル、及びシクロヘキセン環含有化合物又はシクロペンテン環含有化合物を酸化剤でエポキシ化することによって得られるシクロヘキセンオキシド含有化合物又はシクロペンテンオキシド含有化合物が挙げられる。
【0022】
ここで使用される液体エポキシ樹脂は、市販の製品から選択され得る。例えば、Dow Chemical Companyから入手できるD.E.R.(商標)732、D.E.R.(商標)732p、又はD.E.R.(商標)736エポキシ樹脂;及びHuntsmanからのAraldite(商標)DY-Cなどのポリエーテルポリオールのグリシジルエーテル。
【0023】
硬化組成物Bは、エポキシ樹脂のエポキシ基と架橋することができる少なくとも1つの硬化剤(curing agent)又は硬化剤(hardener)を含む。任意の硬化剤(curing agent)又は硬化剤(hardener)、例えば、二成分エポキシのために適したものを用いることができる。例示的な硬化剤としては、限定しないが、ポリマーアミン、ポリマーアミド、低分子量アミン、及びそれらの2つ以上の組合せが挙げられる。
【0024】
適切なポリマーアミンは少なくとも2つの反応性-NH基を有する任意のポリアミンであり得、すなわちそれらは、少なくとも1つの第一アミン(-NH2)基又は少なくとも2つの第二アミン(-NH)基、又はそれらの組合せを有することができる。例示的なポリアミンとしては、ポリエーテルジアミン、ポリエーテルトリアミン、及びそれらの混合物が挙げられる。ここで使用されるポリエーテルアミンは直鎖又は分岐状であり得、それらは任意の適切な分子量を有することができる。一実施形態において、ポリエーテルアミンは、約200~6000、又は1000超、又は3000超の範囲の分子量を有することができる。
【0025】
適切な市販のポリエーテルアミンとしては、HuntsmanからJeffamineの商品名で販売されているものが挙げられる。適切なポリエーテルジアミンとしては、D、ED及びDRシリーズのJeffamineが挙げられる。これらには、Jeffamine D-230、D-400、D-2000、D-4000、HK-511、ED-600、ED-900、ED-2003、EDR-148及びEDR-176が含まれる。
【0026】
適切なポリエーテルトリアミンとしては、TシリーズのJeffamineが挙げられる。これらには、Jeffamine T-403、T-3000及びT-5000が含まれる。
【0027】
適切なポリアミドには、二量体化脂肪酸とポリアミンとの反応生成物が含まれる。そのようなポリアミドの例としては、Versamid(登録商標)115、Versamid(登録商標)125及びVersamid(登録商標)の商品名でCognisから入手可能なものが挙げられる。
また、低分子量(非ポリマー)アミンもまた、硬化剤として硬化組成物B中に含まれ得、それらは架橋剤及び/又は鎖延長剤として機能し、第一アミン及び/又は第二アミンを含む。
【0028】
低分子量アミンは、少なくとも約48g/モル又は少なくとも約60g/モル、及び最大約300g/モル、約250g/モル、又は200g/モルの分子量を有し得る。例示的な低分子量アミンとしては、限定しないが、トリエチレンテトラミン(TETA)、ジエチレントリアミン(DETA)、イソホロンジアミン(IPDA)、及びエチレンジアミンが挙げられる。
【0029】
本明細書で使用されるATHは、一峰性のATH粉末であっても、多峰性の粒子サイズ分布(例えば二峰性、三峰性など)を有するATH粉末であってもよい。ATH粉末の平均粒子サイズは、約5~100μmの範囲であり得る。また、多峰性ATH粉末が使用される場合、最も小さい粒子の平均粒子サイズは約10μm未満であってよい一方で、最も大きい粒子の平均粒子サイズは約50μmを超えてもよい。更に、本明細書で使用されるATH粉末は、シラン、チタン酸塩、カルボン酸塩などで表面処理することもできる。
【0030】
本開示に従って、ATH粉末がエポキシ樹脂組成物A、硬化組成物B、又は両方に含まれ得る。そして本明細書で開示される二成分エポキシ系TIM組成物を形成するために、エポキシ樹脂組成物Aと硬化組成物とが約1:10~10:1、又は約1:4~4:1、又は約1:2~2:1の範囲の体積比で、又は約1:1で組み合わせられ、しかも、TIM組成物中のATHの最終含有量が組成物の総重量を基準として約80~95重量%又は約80~92重量%の範囲であるようにATH粉末がエポキシ樹脂組成物A、硬化組成物B、又は両方に含まれる。
【0031】
一実施形態において、エポキシ樹脂組成物Aと硬化組成物Bの各々が約80~95重量%、又は約80~92重量%のATHを含み、エポキシ樹脂組成物Aと硬化組成物Bとが約1:1の体積比で組み合わせられ、二成分エポキシ系TIM組成物を形成する。
【0032】
更に、最大約10重量%、又は約1~10重量%、又は約2~7重量%、又は約2~5重量%の沈降炭酸カルシウムをエポキシ樹脂組成物A、硬化組成物B、又は両方に添加することができる。何らかの特定の理論に拘束されるものではないが、任意選択的な沈降炭酸カルシウムの添加は、ATHの沈降防止を改善することができると考えられる。
【0033】
更に、TIM組成物の硬化を速めるために、1つ以上の硬化促進剤(触媒)がエポキシ樹脂組成物A、硬化組成物B、又は両方に含まれ得る。硬化促進剤は好ましくは、一方で低分子量アミンとポリアミンとの間の反応を触媒することによって、他方でエポキシ樹脂との反応を触媒することによって作用する。ここで使用される硬化促進剤としては、限定しないが、第三級アミン、有機スズ触媒、アンモニウム塩、フェノール系触媒、尿素系触媒、及びそれらの混合物を挙げることができる。典型的な第三級アミンとしては、例えば、トリス-2,4,6-ジメチルアミノメチルフェノール(Evonikから商品名Ancamine K54として入手可能)及びジアザビシクロウンデセン(DBU)(Evonikから商品名PolycatSA1/10として入手可能)のフェノール塩、トリエチレンジアミン(DABCO)が挙げられる。例示的な有機スズ触媒としては、例えば、ジオクチルスズジネオデカノエート(例えば、Galata Chemicalsから商品名FomrezUL38として入手可能)が挙げられる。例示的なアンモニウム塩としては、例えば、テトラブチルアンモニウムブロミドが挙げられる。例示的な尿素系触媒としては、例えば、イソホロンジイソシネートとジメチルアミン(Evonikから商品名Omicure(商標)U35として入手可能)との反応生成物及びメチレンジフェニルジイソシアネートとジメチルアミンとの反応生成物が挙げられる。
【0034】
硬化剤及び任意選択の硬化促進剤は、必要とされる硬化温度を低下させ且つ二成分TIM組成物の組み合わせられた部分が適切な温度で硬化することを可能にする適切な比率及び量で使用されるのがよい。硬化温度は好ましくは、約100℃未満、より好ましくは90℃未満、又は60℃未満、又は50℃未満、又は40℃未満である。TIM組成物は好ましくは周囲温度で、例えば、20℃又は25℃又はそれらの間で硬化する。特に好ましい最低硬化温度はない。一般的に、しかしながら、硬化温度は一般的に、0℃超、10℃超、又は15℃超である。硬化は、例えば、10℃~40℃、より好ましくは15℃~35℃の範囲で行われ得るのが好ましい。例えば、硬化時間を更に低減するか又はより完全な硬化を得るために、本発明のTIM組成物を加熱することは差し支えない。
【0035】
本開示に従って、硬化促進剤は、TIM組成物の総重量を基準として約0.01~5重量%、又は約0.05~2.5重量%、又は約0.1~2重量%の量でTIM組成物中に含まれ得る。
更に、エポキシ樹脂組成物Aは任意選択的に、他の適切な添加剤、例えば可塑剤、安定剤、定着剤、充填剤、着色剤等を更に含むことができる。このような任意選択の添加剤は、エポキシ樹脂組成物Aの総重量を基準として最大約10重量%、又は最大約8重量%、又は最大約5重量%の量で存在し得る。
【0036】
本開示に従って、二成分エポキシ系TIMは、エポキシ樹脂組成物Aと硬化組成物Bとを組み合わせ、その後に、(例えば、スタティックミキサを使用して)混合及び(好ましくは周囲温度で)硬化を行なうことによって調製される。
【0037】
本明細書では、電池パックシステムであって、その中の冷却ユニット又はプレートが上述したエポキシ系熱界面ペースト材料を介して電池モジュール(1つ以上の電池セルから形成される)に結合されており、その結果熱をそれらの間で伝導することができる、電池パックシステムが更に開示される。一実施形態では、電池パックシステムは電池式自動車で使用されるものである。
本願発明には以下の態様が含まれる。
項1.
エポキシ樹脂組成物Aと硬化組成物Bとを組み合わせることによって調製される熱界面材料(TIM)組成物であって、
(i)前記エポキシ樹脂組成物Aが、芳香族基を含有しない少なくとも1つの液体エポキシ樹脂を含み、
(ii)前記硬化組成物Bが、少なくとも1つの硬化剤を含み、
(iii)前記エポキシ樹脂組成物Aと前記硬化組成物Bとの間の体積比が約1:10~10:1の間の範囲であり、及び
(iv)前記エポキシ樹脂組成物A、前記硬化組成物B、又は両方が三水酸化アルミニウム(ATH)を更に含み、その結果前記ATHが、前記TIM組成物の総重量を基準として約80~95重量%の量で前記TIM組成物中に含まれる、熱界面材料(TIM)組成物。
項2.
前記エポキシ樹脂組成物Aと前記硬化組成物Bとの間の体積比が約1:2~2:1である、項1に記載のTIM組成物。
項3.
前記少なくとも1つの液体エポキシ樹脂が、約200~500g/eqのエポキシ当量(EEW)を有するエポキシドエーテルから選択される、項1又は2に記載のTIM組成物。
項4.
前記少なくとも1つの液体エポキシ樹脂が、400~800の重量平均分子量を有するエポキシドエーテルから選択される、項1、2又は3のいずれか一項に記載のTIM組成物。
項5.
前記少なくとも1つの硬化剤が、ポリマーアミン、ポリマーアミド、低分子量アミン、及びそれらの2つ以上の組合せからなる群から選択される、項1~4のいずれか一項に記載のTIM組成物。
項6.
約80~95重量%のATHが、前記エポキシ樹脂組成物Aの総重量を基準として前記エポキシ樹脂組成物A中に含まれ、約80~95重量%のATHが、前記硬化組成物Bの総重量を基準として前記硬化組成物B中に含まれる、項1~5のいずれか一項に記載のTIM組成物。
項7.
前記エポキシ樹脂組成物A、前記硬化組成物B、又は両方が少なくとも1つの硬化促進剤を更に含む、項1~6のいずれか一項に記載のTIM組成物。
項8.
前記少なくとも1つの硬化促進剤が、第三級アミン、有機スズ触媒、アンモニウム塩、フェノール系触媒、尿素系触媒、及びそれらの混合物からなる群から選択される化合物である、項7に記載のTIM組成物。
項9.
前記少なくとも1つの硬化促進剤が、前記TIM組成物の総重量を基準として約0.01~5重量%の量で含まれる、項7又は8に記載のTIM組成物。
項10.
前記ATHが、約5~100μmの範囲の平均粒子サイズを有する、項1~9のいずれか一項に記載のTIM組成物。
項11.
前記ATHが多峰性の粒子サイズ分布を有する、項1~10のいずれか一項に記載のTIM組成物。
項12.
項1~11のいずれか一項に記載のTIM組成物を含む物品。
項13.
1つ以上の電池セルと冷却ユニットとから形成される電池モジュールを更に含む項12に記載の物品であって、前記電池モジュールが、前記TIM組成物を介して前記冷却ユニットに接続される、物品。
【実施例】
【0038】
材料
・EP-1-エピクロロヒドリンとポリプロピレングリコールとの反応生成物であり、約650の重量平均MW及び約310~330g/eqのEEWを有するエポキシ樹脂;
・EP-2-エピクロロヒドリンとビスフェノールAとの反応生成物であり、約350の重量平均MW及び約176~185g/eqのEEWを有するエポキシ樹脂;
・PU-Pre-Covestroから得られる、トルエンジイソシネート(TDI)をベースとした芳香族ポリイソシアネートプレポリマー;
・可塑剤-SASOLから得られる1,2-ベンゼンカルボン酸のジ-C8~C10アルキルエステル;
・ATH-二峰性分布の三水酸化アルミニウム;
・CaCO3-Cary Companyから得られる沈降炭酸カルシウム;
・触媒-Momentiveから得られるジオクチルスズジネオデカノエート;
・着色剤-エポキシ樹脂中の緑色発色団。
・ポリアミン-1-商品名Jeffamine(商標)D-2000としてHuntsmanから得られる、約2000の平均分子量を有するポリオキシプロピレンジアミン;
・ポリアミン-2-商品名Jeffamine(商標)T-3000としてHuntsmanから得られる、約3000の平均分子量を有するポリエーテルアミン(トリアミン);
・促進剤-Evonikから得られるトリス-2,4,6-ジメチルアミノメチルフェノール;
・脂肪酸-不飽和C16~C18脂肪酸のメチルエステル;
・シラン-ヘキサデシルトリメトキシシラン;
【0039】
試験方法
圧入力:試験材料を40mmアルミニウムシリンダーで厚さ5mmから0.3mmに1mm/sで圧縮することによって試験材料の圧入力を測定した。力たわみ曲線をモニタし、0.5mmにおける力を記録した。
【0040】
熱伝導率(TC):試験材料の熱伝導率をASTM 5470に従って測定した。
【0041】
垂直サイクルブリーディング試験:18gのTIMを鋼板とガラス板との間に用いることによって、電着塗装鋼板の層とガラス板の層との間に挟まれた試験試料(二成分TIM)からなるサンドイッチ構造物(鋼/TIM/ガラス)を作製し、(スペーサーを使用して)3mmの厚さに圧縮した。48時間後に、次いでサンドイッチ構造物を4週間の間気候サイクル試験に暴露し、ここで、各サイクルは、終えるのに12時間かかり、-40℃(非制御湿度)で4時間、温度を80℃に調節するために4時間、及び80℃で4時間、80%の相対湿度からなった。次に、サンドイッチパネルを試験後に目視検査し、亀裂の形成、相分離、及び滑りのない試料を「良」と評価し、それ以外を「不良」と評価した。
【0042】
熱安定性:各々の試料の二成分TIMを加圧して厚さ2mmのプラックにして、その後に、7日間室温で硬化した。硬化したプラックを7日間110℃に置き、その後に、色彩の変化及び機械的特性(脆性など)について目視検査した。そして試料の弾性率及び引張強さをISO527-2に従って測定した。
【0043】
引き抜き圧:2つの(2)アルミニウムシリンダー(直径25mm)を0.5mmの厚さの二成分TIMで接着し、23℃及び50%相対湿度で7日間硬化した。次に2つのシリンダーを0.5mm/sの速度でZwick張力計上で引き離し、力たわみ曲線を測定した。最大力(破断点)を記録し、面積で割り、MPa単位の引き抜き圧を得た。
【0044】
比較例CE1~CE2及び実施例E1
比較例CE1~CE1及び実施例E1の各々において、表1に列挙された成分を混合することによって組成物A及び組成物Bを別々に調製した。組成物A及びB(未硬化)の各々について圧入力を測定し、記録した。その後、並列カートリッジ及び空圧作動式塗布ガンを使用して、組成物A及びBを一緒に混合し、その後に、スタティックミキサを使用して混合した。TIM材料の圧入力、熱伝導率、垂直サイクルブリーディング試験、熱安定性、及び引き抜き圧を測定し、結果を表1に記載する。
【0045】
ポリウレタン系TIMと比較して、本明細書において実証されたようにエポキシ系TIMは、非常に改良された熱安定性を有する。更に、芳香環を有するエポキシ樹脂が使用されるとき、エポキシ樹脂組成物Aの圧入力が非常に高くなり、有用であることができないことをデータは実証する。特に、CE2において二成分TIMを形成する際、スタティックミキサを使用する手動式塗布ガンで組成物Aを塗布したが、塗布は終えるのに非常に長い時間を要した。更に、CE2のTIMは、ずっと高い弾性率(294MPa)及び引き抜き圧(0.2MPa)を有し、それらは熱界面材料の塗布に有用ではない。更に、E1においてTIMの機械的特性は、7日間110℃での熱老化の後でも維持された。
【0046】