(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】特にCCKB受容体陽性の癌もしくは腫瘍の処置および/または診断に使用するための、ラパログと放射標識ガストリンアナログとを含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 51/08 20060101AFI20250414BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20250414BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20250414BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250414BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20250414BHJP
【FI】
A61K51/08 100
A61K31/436
A61K38/10 ZNA
A61P35/00
C07K7/06
(21)【出願番号】P 2023506232
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 EP2021071422
(87)【国際公開番号】W WO2022023541
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/071730
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501494414
【氏名又は名称】パウル・シェラー・インスティトゥート
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ミハル グルズミル
(72)【発明者】
【氏名】ローガー シブリ
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ベーエ
(72)【発明者】
【氏名】アラン ブラン
(72)【発明者】
【氏名】ユン チン
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-501116(JP,A)
【文献】国際公開第2019/057445(WO,A1)
【文献】The Journal of Nuclear Medicine,2013年,Vol.54, No.5,p.762-769
【文献】Eur J Nucl Med Mol Imaging,2016年,Vol.43, Suppl.1,S175, OP585
【文献】The Journal of Nuclear Medicine,2016年,Vol.57, Suppl.2,Abstract No.1435
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CCKB受容体陽性の癌もしくは腫瘍の処置における使用のための、
(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと、
(ii)放射標識ガストリンアナログと
を含む、組成物であって、
前記ラパログが、エベロリムス(RAD001)、テムシロリムス(CCI-779)、リダホロリムス(AP-23573)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物であり、かつ
前記放射標識ガストリンアナログが、下記式(2):
Y-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Dxx-Asp-Phe-NH
2 (2)
[式中、Dxxは、Nle、2-アミノ-5-ヘプテン酸、ホモNle、2-アミノ-4-メトキシブタン酸、Te-Me、Se-MetおよびPhgから選択されるアミノ酸を表し、Yは、放射性核種を含む部分を表す]
を有する、組成物。
【請求項2】
DxxがNleであり、かつ/またはYが、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)または1,4,7-トリアザシクロノナン,1-グルタル酸-4,7-酢酸(NODAGA)である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記放射性核種が、
18F、
124I、
131I、
86Y、
90Y、
177Lu、
111In、
188Re、
64Cu、
67Cu、
149Tb、
161Tb、
89Sr、
44/43Sc、
47Scおよび
153Smからなる群から選択される、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記放射性核種が、
177Lu、
90Yおよび
111Inからなる群から選択される、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記放射性核種が
177Luである、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
前記ラパログがエベロリムス(RAD001)であり、前記放射標識ガストリンアナログが、下記式(3):
DOTA-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH
2 (3)
[式中、DOTAが
177Luをキレートする]
を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
前記(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと、前記(ii)放射標識ガストリンアナログとが、同時にかつ/または順次に、投与され得る分離した剤形に製剤化され、共包装、または別々の包装で共呈示される、請求項1から6までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと、
(ii)放射標識ガストリンアナログと
を含む、キット・オブ・パーツであって、
前記(i)ラパログおよび/または前記(ii)放射標識ガストリンアナログが、請求項1から7までのいずれかにおいて定義されるとおりである、
CCKB受容体陽性の癌もしくは腫瘍の処置における使用のためのキット・オブ・パーツ。
【請求項9】
(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと、
(ii)放射標識ガストリンアナログと
を含む、組み合わせ製品であって、
前記(i)ラパログおよび/または前記(ii)放射標識ガストリンアナログが、請求項1から7までのいずれかにおいて定義されるとおりである、
CCKB受容体陽性の癌もしくは腫瘍の処置における使用のための組み合わせ製品。
【請求項10】
請求項8記載のキット・オブ・パーツ、または請求項9記載の組み合わせ製品であって、前記(i)ラパマイシンおよび/またはラパログが、前記(ii)放射標識ガストリンアナログと共に投与されるか、または前記(ii)放射標識ガストリンアナログの前に投与される、キット・オブ・パーツ、または組み合わせ製品。
【請求項11】
前記(i)ラパマイシンおよび/またはラパログが、前記(ii)放射標識ガストリンアナログの2ヶ月前までに投与される、請求項10記載の使用のため
のキット・オブ・パーツまたは組み合わせ製品。
【請求項12】
前記(i)ラパマイシンおよび/またはラパログが、前記(ii)放射標識ガストリンアナログが投与される前に、1~14日間連続で1日1回投与される、請求項10記載の使用のため
のキット・オブ・パーツまたは組み合わせ製品。
【請求項13】
前記CCKB受容体陽性の癌または腫瘍が、甲状腺髄様癌(MTC)、グリオーマ、胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)、星細胞腫、胃癌、結腸癌、卵巣癌、乳癌、および任意のCCKB受容体陽性の腫瘍または癌から選択される、請求項10から12までのいずれか1項記載の使用のため
のキット・オブ・パーツまたは組み合わせ製品。
【請求項14】
前記CCKB受容体陽性の癌または腫瘍がMTCである、請求項10から13までのいずれか1項記載の使用のため
のキット・オブ・パーツまたは組み合わせ製品。
【請求項15】
前記(i)ラパマイシンおよび/もしくはラパログまたは前記(ii)放射標識ガストリンアナログが、化学療法剤または免疫調節剤などの1つ以上の他の治療剤または治療薬と同時に、その前またはその後に投与される、請求項10から14までのいずれか1項記載の使用のため
のキット・オブ・パーツまたは組み合わせ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疾患の処置および/または診断のための、ラパマイシンおよび/またはラパログと放射標識ガストリンアナログとを含む組成物に関する。特に、本発明は、ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)用途の組成物に関し、これは、哺乳類ラパマイシン標的(mTOR)の阻害を介して放射標識ガストリンアナログの優れた腫瘍取り込みをもたらし、結果として、細胞毒性副作用を防止および/または低減できる一方で、送達および治療効果を改善する。
【0002】
発明の背景
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は、細胞膜を横切って化学シグナルを伝達する機能を担う膜タンパク質のスーパーファミリーを構成している。GPCRにリガンドが結合すると、GPCRの立体構造に変化が起こり、Gタンパク質が活性化および放出できるようになり、その後シグナル伝達経路がトリガーされる。
【0003】
ペプチドリガンドと選択的に結合するGタンパク質共役型受容体(GPCR)の過剰発現により、ヒトの癌に対するペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)の開発が可能になる(Lappano et al. Nat Rev Drug Discov. 2011, 10(1), 47-60)。PRRTの最も重要な目標の一つは、放射標識リガンドの高い腫瘍取り込みを達成することである。したがって、健康な臓器を細胞毒性副作用から守る一方で、腫瘍または癌組織における放射性医薬品の取り込みを増加させる戦略が検討されてきた。
【0004】
アゴニストリガンドベースの治療薬の標的となるGPCRは立体構造の変化を受け、Gタンパク質アルファサブユニット(Ga)上でGDPからGTPへの交換をもたらす。その後、GαおよびGβγサブユニットが受容体から解離すると、プロテインキナーゼAおよびC(PKA;PKC)ならびにホスホイノシチド3キナーゼ(PI3K)およびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)を含む様々なキナーゼシグナル経路が活性化する(O’Hayre et al. Curr Opin Cell Biol. 2014, 27, 126-135)。その後、活性化されたGPCRは、アレスチン媒介性の内在化プロセスを介して脱感作を受け、それによってGPCRは、分解のためにリソゾームへ、または細胞表面へリサイクルし戻すためにエンドゾームへ輸送され得る(Rajagopal et al. Cell Signal. 2018, 41, 9-16)。この内在化プロセスにより、リガンド結合型の放射性核種を標的細胞、例えば癌細胞へ送達することが可能になる。
【0005】
甲状腺髄様癌(MTC)は、カルシトニン産生C細胞に由来する神経内分泌腫瘍である。甲状腺癌全体の3~5%を占めており、MTCは比較的稀な癌である(Hadoux et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016, 4(1), 64-71)。残念ながら、従来の化学療法(通常はドキソルビシン単独またはシスプラチンとの併用)に対する反応は一過性に過ぎず、有用性は少数の患者に限られている。さらに、MTC細胞はヨウ素を集積しないため、放射性ヨウ素処置には反応しない(Verburg et al. Methods. 201, 55(3), 230- 237)。現在、MTCは甲状腺癌関連死亡の14%を占めており、これは、特に転移した患者においてより良好な処置が必要であることを示唆している(Roman et al. Cancer. 2006, 107(9), 2134-2142)。
【0006】
GPCRファミリーに属するコレシストキニンB受容体(CCKBR、時にCCK2Rとも呼ばれる)の高発現が、MTC、グリオーマの他に、結腸癌、卵巣癌等も含む様々な癌で検証されている(Reubi et al. Cancer Res. 1997, 57(7), 1377-1386)。さらに、小さなペプチドホルモンミニガストリンは、CCKBRと高い親和性で結合することが知られている。したがって、これまでの研究では、PRRT、特に「セラノスティクス(theranostics)」(治療と診断)用途のための放射標識ガストリンアナログの使用が提案されている(Behr et al. Semin Nucl Med. 2002, 32(2), 97-109; Kolenc-Peitl et al. J Med Chem. 2011, 54(8), 2602-2609; Laverman et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2011, 38(8), 1410-1416)。
【0007】
国際公開第2015/067473号は、177Luで放射標識された式DOTA-(DGlu)6-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH2(PP-F11N)を有するガストリンアナログを開示している。この放射標識ガストリンアナログ(以下、「177Lu-PP-F11N」)は化学的に安定(例えば、タンパク質分解に抵抗性)で、高い腫瘍取り込みの他に、腎臓への低集積性を示す。しかしながら、最近の研究では、177Lu-PP-F11Nは、胃および大腸を含む健康な組織でも、それらの内因性CCKBRの発現により集積する可能性があることが分かっている(Sauter et al. J Nucl Med. 2019, 60(3), 393-399)。
【0008】
上記に鑑みて、本発明の目的は、CCKBR陽性の癌または腫瘍における放射標識ガストリンアナログの優れた取り込みを達成し、したがって、健康な組織における集積による細胞毒性副作用を防止および/または低減できる一方で、送達および治療効果の改善をもたらすPRRT用途の組成物(キット・オブ・パーツ)を提供することである。
【0009】
本発明の更なる目的は、CCKBR陽性の癌もしくは腫瘍を処置および/または診断する方法において使用することができる組成物(キット・オブ・パーツ)を提供することである。
【0010】
発明の概要
本発明は、PRRT用途、特にMTCもしくはグリオーマなどのCCKBR陽性の癌もしくは腫瘍を処置および/または診断する方法において使用することができる組成物(キット・オブ・パーツ、組み合わせ製品)を提供する。本発明者らは、CCKBR発現腫瘍細胞をラパマイシンおよび/またはラパログ、例えばエベロリムス(RAD001)で(前)処置することにより、インビトロおよびインビボの両方で、これらの腫瘍細胞における放射標識ガストリンアナログの優れた取り込みをもたらし、結果として送達および治療効果が改善することを見出した。
【0011】
さらに、驚くべきことに、放射標識ガストリンアナログのインビボでの優れた取り込みは、腫瘍細胞では特異的に起こるが、CCKBRを内因性に発現する消化管などの健康な組織では起こらないことが分かった。その結果、放射標識ガストリンアナログの健康な組織への特異的、または非特異的な集積により生じ得る副作用が防止および/または低減されるようになる。
【0012】
したがって、本発明は、
(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと、
(ii)放射標識ガストリンアナログと
を含む、組成物、キット・オブ・パーツ、および組み合わせ製品に関する。
【0013】
本発明はまた、CCKBR陽性の癌または腫瘍、特にMTC、グリオーマ、胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)、星細胞腫、胃癌、結腸癌、卵巣癌、乳癌、ならびに任意のCCKBR陽性の癌および腫瘍を処置および/または診断する方法における使用のための、上に記載される組成物、キット・オブ・パーツ、および組み合わせ製品に関する。
【0014】
本発明は、特に、以下の実施形態(「項目」)を含む:
1.(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと、
(ii)放射標識ガストリンアナログと
を含む、組成物。
【0015】
2.ラパログが、エベロリムス(RAD001)、テムシロリムス(CCI-779)、リダホロリムス(AP-23573)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物であり、好ましくはエベロリムス(RAD001)である、項目1記載の組成物。
【0016】
3.放射標識ガストリンアナログが、下記式(1):
Y-S-Axx-Bxx-Cxx-Gly-Trp-Dxx-Asp-Phe-NH2 (1)
[式中、
Axxは、Glu、D-Glu、Ala、Asp、Gln、Lys、His、Arg、SerおよびAsnから選択されるアミノ酸、好ましくはGluまたはD-Gluを表し、
Bxxは、Ala、Ser、Val、Cys、ThrおよびGlyから選択されるアミノ酸、好ましくはAlaまたはSerを表し、
Cxxは、Tyr、Ala、Phe、TrpおよびHisから選択されるアミノ酸、好ましくはTyrを表し、
Dxxは、メチオニンと等価なアミノ酸、好ましくは、ノルロイシン、2-アミノ-5-ヘプテン酸、ホモノルロイシン(ホモNle)、2-アミノ-4-メトキシブタン酸、テルロメチオニン(Te-Met)、セレノメチオニン(Se-Met)およびフェニルグリシン(Phg)から選択されるアミノ酸、より好ましくはNleまたはPhgを表し、
Sは、負電荷を含有するアミノ酸、GlnおよびD-Glnから選択される少なくとも1つを含むスペーサー、好ましくは、Glu、D-Glu、β-グルタミン酸(β-Glu)、Gln、D-Gln、AspおよびD-Aspから選択される少なくとも1つのアミノ酸を含むテトラまたはペンタペプチド、より好ましくは、Glu、D-Glu、β-Glu、Gln、D-Gln、AspおよびD-Aspから選択される少なくとも1つのアミノ酸を含むペンタペプチドであり、
Yは、放射性核種を含む部分、例えば、放射性核種をキレートする部分、または放射性核種を共有結合する部分を表す]
を有する、項目1または2記載の組成物。
【0017】
4.放射標識ガストリンアナログが、下記式(2):
Y-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Dxx-Asp-Phe-NH2 (2)
[式中、Dxxは、メチオニンと等価なアミノ酸、好ましくは、Nle、2-アミノ-5-ヘプテン酸、ホモNle、2-アミノ-4-メトキシブタン酸、Te-Me、Se-MetおよびPhgから選択されるアミノ酸を表し、Yは、放射性核種を含む部分、例えば、放射性金属などの放射性核種をキレートする部分、または放射性核種を共有結合する部分を表す]
を有する、項目1から3までのいずれか1つ記載の組成物。
【0018】
5.DxxがNleであり、かつ/またはYが、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)または1,4,7-トリアザシクロノナン,1-グルタル酸-4,7-酢酸(NODAGA)、好ましくはNODAGAである、項目1から4までのいずれか1つ記載の組成物。
【0019】
6.放射性核種が、18F、124I、131I、86Y、90Y、177Lu、111In、188Re、64Cu、67Cu、149Tb、161Tb、89Sr、44/43Sc、47Scおよび153Smからなる群から選択される、項目1から5までのいずれか1つ記載の組成物。
【0020】
7.放射性核種が、177Lu、90Yおよび111Inからなる群から選択される、項目1から6までのいずれか1つ記載の組成物。
【0021】
8.放射性核種が177Luである、項目1から7までのいずれか1つ記載の組成物。
【0022】
9.ラパログがエベロリムス(RAD001)であり、放射標識ガストリンアナログが、下記式(3):
DOTA-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH2 (3)
[式中、DOTAが177Luをキレートする]
を有する、項目1から8までのいずれか1つ記載の組成物。
【0023】
10.(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと(ii)放射標識ガストリンアナログとが、同時にかつ/または連続して、好ましくは連続して投与され得る分離した剤形に製剤化され、共包装、または別々の包装で共呈示される、項目1から9までのいずれか1つ記載の組成物。
【0024】
11.(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと、
(ii)放射標識ガストリンアナログと
を含む、キット・オブ・パーツ。
【0025】
12.(i)ラパログおよび/または(ii)放射標識ガストリンアナログが、項目2から9までのいずれか1つに定義されるとおりである、項目11記載のキット・オブ・パーツ。
【0026】
13.(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと、
(ii)放射標識ガストリンアナログと
を含む、組み合わせ製品。
【0027】
14.(i)ラパログおよび/または(ii)放射標識ガストリンアナログが、項目2から9までのいずれか1つに定義されるとおりである、項目13記載の組み合わせ製品。
【0028】
15.CCKB受容体陽性の癌もしくは腫瘍の処置における使用のための、項目1から10までのいずれか1つ記載の組成物、項目11もしくは12記載のキット・オブ・パーツ、または項目13もしくは14記載の組み合わせ製品であって、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログが、(ii)放射標識ガストリンアナログと共に投与されるか、または(ii)放射標識ガストリンアナログの前に投与される、組成物、キット・オブ・パーツ、または組み合わせ製品。
【0029】
16.(i)ラパマイシンおよび/またはラパログが、(ii)放射標識ガストリンアナログの2ヶ月前まで、好ましくは1~14日前に投与される、項目15記載の使用のための組成物、キット・オブ・パーツまたは組み合わせ製品。
【0030】
17.(i)ラパマイシンおよび/またはラパログが、(ii)放射標識ガストリンアナログが投与される前に、1~14日間連続で、好ましくは2~7日間連続で、例えば5日間連続で1日1回投与される、使用のための組成物、キット・オブ・パーツまたは組み合わせ製品。
【0031】
18.CCKB受容体陽性の癌または腫瘍が、甲状腺髄様癌(MTC)、グリオーマ、胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)、星細胞腫、胃癌、結腸癌、卵巣癌、乳癌、および任意のCCKB受容体陽性の腫瘍または癌から選択される、項目15から17までのいずれか1つ記載の使用ための組成物、キット・オブ・パーツまたは組み合わせ製品。
【0032】
19.CCKB受容体陽性の癌または腫瘍がMTCである、項目15から18までのいずれか1つ記載の使用のための組成物、キット・オブ・パーツまたは組み合わせ製品。
【0033】
20.(i)ラパマイシンおよび/もしくはラパログまたは(ii)放射標識ガストリンアナログが、化学療法剤または免疫調節剤などの1つ以上の他の治療剤または治療薬と同時に、その前または後に投与される、項目15から19までのいずれか1つ記載の使用のための組成物、キット・オブ・パーツまたは組み合わせ製品。
【0034】
21.CCKB受容体陽性の癌または腫瘍を処置する方法であって、項目1から10までのいずれか1つ記載の組成物、項目11もしくは12記載のキット・オブ・パーツ、または項目13もしくは14記載の組み合わせ製品に含まれる(i)ラパマイシンおよび/またはラパログならびに(ii)放射標識ガストリンアナログの治療有効量を、当該治療有効量を必要としている患者へ投与する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
177Lu-PP-F11Nの細胞取り込みを高めるキナーゼ阻害剤の同定を示す図であり、(1A)実験デザイン:キナーゼ阻害剤処置および対照未処置のA431/CCKBR細胞を、以下の「材料および方法」のセクションに記載されているように、
177Lu-PP-F11Nの細胞取り込みの解析に供し、(1B、C)ボルケーノプロットは、
177Lu-PP-F11Nの細胞取り込みの変化を表し、増殖はそれぞれlog2[比:処置/対照]として示し、BML-257、SC-514およびラパマイシンと記されたドットは、
177Lu-PP-F11Nの取り込みを有意に増加させたキナーゼ阻害剤を表す(P<0.05)。
【
図2】mTORC1活性の阻害が
177Lu-PP-F11Nの内在化を高める図を示し、(2A)内在化および細胞結合活性は、図のように、対照、100nM RAD001および10mM メトホルミン処置したA431/CCKBR細胞、非トランスフェクトA431(陰性対照)およびAR42J細胞において20時間、
177Lu-PP-F11Nでインキュベートしてから1時間後に測定し、すべての実験は3連でアッセイし、各棒は平均値±SDを表し、
**p<0.01、
**p<0.001であり、(2B)Cで使用したライセートの平均タンパク質濃度±SDであり、対照細胞における平均タンパク質濃度を1に設定し、(2C)対照細胞および20時間のRAD001-またはメトホルミン処置したA431/CCKBR細胞から単離した全細胞ライセートについて、リン酸化部位特異的S6抗体を用いたウェスタンブロット解析であり、ブロットをストリップし、ローディング対照用にGAPDH抗体で再プロービングした。
【
図3】
177Lu-PP-F11Nの内在化を高めるためには、RAD001によるCCKBR発現の増加が必要であることを示す図であり、図のように、20時間のRAD001処置(3A)またはルシフェラーゼsiRNA(対照)およびCCKBR siRNAで48時間トランスフェクト(3B)後、A431/CCKBR細胞からのグリコシル化および脱グリコシル化(PNGase F処置)ライセートの抗CCKBR抗体を用いたWB解析であり、ブロットをストリップし、ローディング対照用にGAPDH抗体で再プロービングし、下図;GAPDHに正規化した脱グリコシル化ライセートにおけるCCKBRシグナル強度の定量化であり、未処置または対照のトランスフェクトした細胞からのCCKBR/GAPDH比は1に設定した。
【
図4】RAD001がインビボでCCKBR依存性の
177Lu-PP-F11Nの腫瘍取り込みを増加させる(5日間の処置)図を示し、(4A)A431/CCKBR細胞を免疫不全(ヌード)マウスに移植し、移植から5日後にRAD001、メトホルミンおよび対照(PBS)動物群に三角形で示すように毎日投与し、翌日に生体内分布研究を行い、各棒:尾静脈投与から4時間後に分析した
177Lu-PP-F11Nの生体内分布を、組織1グラム当たりの総注入放射能の%(%注入放射能)として示し、下段:ブロッキングペプチドを共注入した後の生体内分布に対応し、(4B、C)すべての群における処置前(1日目)と処置後(5日目)の腫瘍体積およびマウス体重を示し、各棒は平均値±SDを表す。
【
図5】RAD001がインビボで
177Lu-PP-F11NのCCKBR依存性の腫瘍取り込みを増加させる(5日間の処置)図を示し、(5A)メトホルミン、RAD001および対照(PBS)処置マウスの5日間の
177Lu-PP-F11N注入から2時間後のSPECT/CT画像、下図:対応する放射性腫瘍領域、(5B)1群当たり4腫瘍の放射性領域における
177Lu-PP-F11Nの平均および最大放射能濃度±SD、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001である。
【
図6】RAD001がインビボで
177Lu-PP-F11NのCCKBR依存性の腫瘍取り込みを増加させる(3日間の処置)図を示し、(6)A431/CCKBR細胞を、免疫不全ヌードマウスに移植し、RAD001、メトホルミンおよび対照(PBS)の動物群に3日分の線量を投与し、翌日に生体内分布の研究が行い、各棒:尾静脈投与から4時間後に分析した
177Lu-PP-F11Nの生体内分布を、組織1グラム当たりの総注入放射能の%(%注入放射能)として示した。
【
図7】RAD001がインビボで
177Lu-PP-F11NのCCKBR依存性の腫瘍取り込みを増加させる(3日間の処置)図を示し、(7A)A431/CCKBR細胞を、免疫不全ヌードマウスに移植し、RAD001、メトホルミンおよび対照(PBS)の動物群に3日分の線量を投与し、翌日に生体内分布の研究が行い、各棒:尾静脈投与から4時間後に分析した
177Lu-PP-F11Nの生体内分布を、組織1グラム当たりの総注入放射能の%(%注入放射能)として示し、(7B)3日間の処置前後の腫瘍体積およびマウス体重であり、データは平均値±SDを表し、
*P<0.05である。
【
図8】RAD001で処置した腫瘍におけるネクローシスの増加ならびに有糸分裂像およびKi67陽性細胞の数の減少を示す図であり、RAD001、メトホルミン(Met)およびPBS(対照)で処置したA431/CCKBR-腫瘍から調製したパラフィン切片を、材料および方法に記載したようにHEおよびKi67染色に供し、各棒は、ネクローシス領域のパーセント(8A)、1視野当たり血管の数(8B)を、分析した腫瘍群の平均値±SDとして示し、右図;代表的なHE染色の画像であり、8Bの矢印は血管を示し、8Aのスケールバーは0.5mmであり、8Bでは20μmであり、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001である。
【
図9】RAD001で処置した腫瘍におけるネクローシスの増加ならびに有糸分裂像およびKi67陽性細胞の数の減少を示す図であり、RAD001、メトホルミン(Met)およびPBS(対照)で処置したA431/CCKBR-腫瘍から調製したパラフィン切片を、材料および方法に記載したようにHEおよびKi67染色に供し、各棒は、有糸分裂指数(9A)およびKi67陽性細胞のパーセント(9B)を、分析した腫瘍群の平均値±SDとして示し、右図;代表的なHEおよびKi67染色の画像であり、9Aの矢印は有糸図を示し、9ABのスケールバーは20μmであり、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001である。
【
図10】RAD001および
177Lu-PP-F11Nで処置したマウスにおける腫瘍成長阻害および寿命延長を示す図であり、図のとおり、(10A)実験デザイン:ヌードマウスにA431/CCKBR細胞を移植した後、5または10回の用量のRAD001を単独または60kBqの
177Lu-PP-F11Nと組み合わせて投与し、(10B)対照群および処置群の腫瘍成長曲線である。
【
図11】RAD001および
177Lu-PP-F11Nで処置したマウスにおける腫瘍成長阻害および寿命延長を示す図であり、(
図11)処置開始から13日目、22日目および25日目の腫瘍体積であり、データは平均値±SDを表す。
【
図12】RAD001および
177Lu-PP-F11Nで処置したマウスにおける腫瘍成長阻害および寿命延長を示す図であり、(
図12)対照群および処置群のカプラン・マイヤー曲線として示される生存率である。
【0036】
発明の詳細な説明
1.定義
本明細書で使用される「組成物」という用語は、個々の成分の組み合わせ(すなわち、組み合わせ製品)、すなわち(i)ラパログおよび(ii)放射標識ガストリンアナログであって、互いに物理的に別々に保持されているが隣接しているものを指すと理解されるものとする。このような組成物は、「キット・オブ・パーツ」と呼ばれることがある。いくつかの態様において、本明細書で使用される「組成物」という用語は、例えば、(i)ラパマイシンおよび/もしくはラパログまたは(ii)放射標識ガストリンアナログが1つ以上の他の治療剤または治療薬と同時に使用される場合、個々の成分の物理的混合物を包含するが、ただし、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと(ii)放射標識ガストリンアナログとは互いに物理的に別々に保持されており、例えば、別々の剤形に製剤化されている。
【0037】
「ラパマイシン」(シロリムス、Rapamune(登録商標))という用語はマクロライド化合物を指し、これは、哺乳類ラパマイシン標的(mTOR)を阻害することによって免疫抑制特性を示すことが当該技術分野で知られている。ラパマイシンは、以下の化学構造:
【化1】
を有する。
【0038】
本明細書で使用される「ラパログ」(「ラパマイシンアナログ」を表す)とは、ラパマイシンに構造的に関連する化合物のクラスを指し、これらは、FK結合タンパク質12に結合することによって複合体1(mTORC1)の哺乳類ラパマイシン標的を阻害することが知られている(MacKeigan et al. Neuro-Onc. 2015, 17(12), 1550-1559)。ラパログの例としては、エベロリムス(RAD001、Afinitor(登録商標)、Certican(登録商標))、テムシロリムス(CCI-779、Torisel(登録商標))およびリダホロリムス(AP-23573、MK-8669)が挙げられる。
【0039】
ラパマイシンおよび/またはラパログのmTORC1に対する阻害活性は、以下にさらに記載するように、ウェスタンブロット解析によってリボソームタンパク質S6のリン酸化レベルを測定することにより決定することができる。
【0040】
本明細書で使用される「ガストリンアナログ」という表現は、内因性ペプチドホルモンであるガストリンに構造的に関連し、CCKBRに結合することができる化合物(ペプチド)のクラスを指す。本明細書で使用される「ガストリンアナログ」という表現は、例えばガストリンおよびコレシストキニン(CCK)を含むCCKBR結合内因性ペプチドホルモンに見られるように、C末端アミノ酸配列Gly-Trp-Dxx-Asp-Phe-NH2(ここで、Dxxは、MetまたはMetと等価なアミノ酸である)を含有するすべての化合物を包含することが意味される。ガストリンは、十二指腸のG細胞および胃の幽門部で産生される線状ペプチドホルモンである。それは血流中に分泌される。コードされたポリペプチドはプレプロガストリンであり、これが翻訳後修飾で酵素により切断されてプロガストリン、次いで、主にビッグガストリン(G-34)、リトルガストリン(G-17)、およびミニガストリン(Leu-Glu-Glu-Glu-Glu-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH2)を含む種々の形態のガストリンを産生し、これらはすべて本発明の意味における「ガストリンアナログ」を表す。CCKは、両方の化合物が5つのC末端アミノ酸、すなわちGly-Trp-Met-Asp-Phe-NH2(ここで、Metは、ノルロイシンなどのMetと等価なアミノ酸で置き換えられ得る)を共有するという点でガストリンと構造的に関連するペプチドホルモンである。CCKは、例えばCCK8(Asp-Tyr-Met-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH2)を含むいくつかの形態で天然に存在する。ガストリンアナログは、例えば、そのN末端で、スペーサー、または放射性金属をキレートすることができる部分、例えば1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、または放射性核種を(共有)結合する部分、例えば18Fもしくはヨウ素同位体に共有結合するために化学的に修飾され得る。いくつかの実施態様において、ガストリンアナログは、Alexa Fluor(登録商標)647、IRDye 680RDもしくはDY-700などの医療用途のイメージング部分、またはPhotofrin、ForscamもしくはPhotochlorなどの光増感剤に共有結合するために修飾され得る。
【0041】
「ガストリンアナログ」という表現はまた、ガストリン、ビッグガストリン、リトルガストリン、CCK、CCK8またはミニガストリン、特にミニガストリンを指し、ここで、1個、2個もしくはそれを超えるアミノ酸残基が別の天然または非天然アミノ酸残基に置き換えられるが、ただし、得られる「ガストリンアナログ」は、CCKBRに対して薬理活性を維持している。本発明のいくつかの態様において、前述の修飾は、例えば、CCKBRに対する結合親和性および/または薬理活性の向上、血漿安定性の向上、生体内分布の向上等を達成することを可能にし得る。これに関連した薬理活性とは、ガストリンアナログが、ミニガストリンの薬理(アゴニスト)活性の少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%を保持することを意味する。
【0042】
CCKBRに対するガストリンアナログの薬理活性は、Blaekerら(Regulatory Peptides 2004, 118, 111-117)により記載されているように、ガストリンアナログ刺激細胞におけるカルシトニンレベルの細胞内上昇を測定することにより決定することができる。
【0043】
いくつかの実施態様において、「ガストリンアナログ」という表現は、式(DGlu)6-Ala-Tyr-Gly-Trp-X-Asp-Phe-NH2[式中、Xはメチオニンと等価なアミノ酸を表す]を有する化合物に構造的に関連する化合物(ペプチド)を指す。この化合物は、スペーサー、または放射性核種(例えば放射性金属)をキレートすることができる部分、例えばDOTA、または放射性核種を(共有)結合する部分、例えば18Fもしくはヨウ素同位体に共有結合するために修飾され得る。Xがノルロイシンを表し、前述の化合物がDOTAの共有結合によりそのN末端で修飾されている場合、その化合物は「PP-F11N」に対応する。
【0044】
本明細書で使用される「アミノ酸」という用語は、少なくとも1つのアミノ基と少なくとも1つの酸性基、好ましくはカルボキシル基とを含むか、またはそれらから誘導される化合物を指す。アミノ基と酸性基との間の距離は、特に限定されない。α-、β-、およびγ-アミノ酸が適しているが、α-アミノ酸、特にα-アミノカルボン酸が特に好ましい。この用語は、天然に存在するアミノ酸だけでなく、天然には見られない合成アミノ酸も包含する。
【0045】
本明細書で使用される「(D)-アミノ酸」という表現は、任意の天然に存在するアミノ酸または合成アミノ酸の(D)-異性体を指す。例えば、「D-Glu」という表現は、グルタミン酸の(D)-異性体を指す。本明細書で使用される「(D)-アミノ酸」という表現は、グリシンなどの非キラルアミノ酸または他の非キラルアミノ酸を包含することを意味しない。
【0046】
本明細書で使用される「メチオニンと等価なアミノ酸」という表現は、メチオニンと同様の形状および/または電子的特性を有する天然もしくは非天然アミノ酸を指す。本明細書で使用される「等価」という用語は、ノルロイシン(Nle)などのメチオニンと本質的に等価であるアミノ酸を包含することを意味する。メチオニンと等価なアミノ酸の例としては、Nle、2-アミノ-5-ヘプテン酸、ホモノルロイシン(ホモNle)、2-アミノ-4-メトキシブタン酸、テルロメチオニン(Te-Met)、セレノメチオニン(Se-Met)およびフェニルグリシン(Phg)が挙げられる。
【0047】
他に規定がない限り、または文脈によって他に指示されない限り、隣接するアミノ酸基の間のすべての接続は、ペプチド(アミド)結合によって形成される。
【0048】
本明細書で使用される「放射性核種をキレートまたは(共有)結合する部分」という表現は、(i)放射性核種、特に放射性金属に電子を供与してそれと配位錯体を形成することができる、すなわち、少なくとも1つの座標共有結合(双極結合)をそれと形成することによって、または(ii)18Fもしくはヨウ素同位体などの放射性核種を共有結合することができる部分(キレート剤もしくはリガンド)を指す。キレート機構は、キレート剤および/または放射性核種に依存する。例えば、DOTAは、カルボキシレート基およびアミノ基(供与基)を介して放射性核種を配位させ、そうすることで高い安定性を有する錯体を形成すると考えられている(Dai et al. Nature Com. 2018, 9, 857)。
【0049】
「負電荷を含有するアミノ酸」(または「負に帯電したアミノ酸」)という表現は、本明細書では、側鎖が負電荷を持つイオン化可能な基(溶液中)、特にカルボン酸基を含有する、天然または非天然アミノ酸を特徴付けるために使用される。負電荷を含有する天然または非天然アミノ酸の例としては、Glu、D-Glu、β-グルタミン酸(β-Glu)、Asp、D-Asp、2-アミノアジピン酸、2-アミノピメリン酸、および2-アミノスベリン酸が挙げられる。
【0050】
本明細書で使用される「癌」という用語は、哺乳類の組織において、細胞が異常に成長して悪性腫瘍を形成することを特徴とする病理状態を意味し、この腫瘍は、他の組織または身体の一部に浸潤するかまたは広がり、転移として知られる「二次」腫瘍を形成する可能性がある。腫瘍は1つ以上の癌細胞を含む。本明細書で使用される「CCKBR陽性の癌または腫瘍」という表現は、細胞表面上のCCKBRの過剰発現によって特徴付けられる癌または腫瘍を指す(Reubi et al. Cancer Res. 1997, 57(7), 1377-1386)。CCKBR陽性の癌または腫瘍の例としては、MTC、グリオーマ、胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)、星細胞腫、胃癌、結腸癌、卵巣癌および乳癌が挙げられる。
【0051】
本明細書で使用される「内在化」という用語は、分子(例えば放射標識ガストリンアナログ)が細胞膜に抱き込まれ、細胞内に引き込まれる生物学的プロセスを指す。その結果、分子(例えば放射標識ガストリンアナログ)は、細胞内に存在するようになる。
【0052】
(放射性医薬品の)「細胞取り込み」という表現は、分子(例えば放射標識ガストリンアナログ)が細胞膜に内在化および/または結合される生物学的プロセスを指す。その結果、分子(例えば放射標識ガストリンアナログ)は、細胞内だけでなく細胞膜にも存在することができるようになる。
【0053】
(放射性医薬品の)「腫瘍取り込み」という表現は、分子(例えば放射標識ガストリンアナログ)が腫瘍(癌)細胞によって取り込まれる生物学的プロセスを指す。腫瘍への取り込みとしては、分子(例えば放射標識ガストリンアナログ)の腫瘍細胞への取り込みおよび/または腫瘍微小環境におけるその保持が挙げられる。その結果、分子(例えば放射標識ガストリンアナログ)は、腫瘍(癌)細胞内、細胞膜および/または腫瘍微小環境内に存在することができるようになる。
【0054】
本明細書で使用される「共投与」という表現は、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと(ii)放射標識ガストリンアナログとの両方の並行(同時)投与の他に、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログとそれに続いて(ii)放射標識ガストリンアナログとの連続投与も指す。さらに、「共投与」という表現は、i)ラパマイシンおよび/もしくはラパログならびに/または(ii)放射標識ガストリンアナログのそれぞれの投薬量が、投与の過程において変化(増加または減少)させられる投薬スケジュールを包含することを意味する。好ましくは、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと(ii)放射標識ガストリンアナログとは、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログが最初に一定期間にわたって投与され、それに続いて(ii)放射標識ガストリンアナログが投与されるという連続パターンに従って投与される。
【0055】
本明細書で「好ましい」実施形態/特徴に言及する場合、これらの「好ましい」実施形態/特徴の組み合わせも、この「好ましい」実施形態/特徴の組み合わせが技術的に意味を持つ限り、開示されているとみなされるものとする。
【0056】
以下、本発明の説明および特許請求の範囲において、「含有する」、「含む」および「備える」という用語の使用は、言及された要素に加えて、追加の言及されていない要素が存在し得るように理解されるものとする。しかしながら、これらの用語は、より限定された実施形態として、技術的に意味がある限り、追加の言及されていない要素が存在しなくてもよいように、「からなる」という用語も開示するものと理解されたい。
【0057】
文脈が他に指示せず、かつ/または代替的な意味が本明細書に明示的に提供されない限り、すべての用語は、lUPACゴールドブック(2017年11月1日のステータス)、またはThe Dictionary of Chemistry,Oxford,6th Ed.によって反映される、当該技術分野で一般的に受け入れられている意味を有することが意図される。
【0058】
2.概要
本発明は、CCKBR発現腫瘍細胞をラパマイシンおよび/またはラパログ、例えばエベロリムス(RAD001)で(前)処置することにより、CCKBRタンパク質レベルの有意な増加および放射標識ガストリンアナログの優れた取り込みをもたらし、結果として、健康な組織における集積による細胞毒性副作用が防止および/または低減される一方で、送達および治療効果を改善するという発見に基づいている。
【0059】
効率的なPRRTの最も重要な目標の1つは、放射性化合物の高い腫瘍取り込みであり、これは、標的受容体の発現レベルおよび内在化関連活性に大きく依存する。本発明者らは、驚くべきことに、CCKBR陽性の腫瘍細胞(例えばA431/CCKBR細胞)における放射標識ガストリンアナログの取り込みを高めることができる一群のキナーゼ阻害剤を同定した。特に、CCKBR陽性の腫瘍細胞をラパログ(例えばRAD001)で(前)処置すると、CCKBRレベルが有意に上昇し、それに続いて放射標識ガストリンアナログのCCKBR特異的内在化が増加し、その結果、送達および治療効果が改善することが分かった。
【0060】
さらに、放射標識ガストリンアナログのCCKBR特異的な取り込みの向上は、腫瘍細胞で観察されたが、CCKBRを内因性に発現する消化管などの健康な臓器では観察されず、これは、ラパログ処置が優れた腫瘍細胞標的化をもたらすことを示唆していた。その結果、放射標識ガストリンアナログの健康な組織への集積により生じ得る細胞毒性副作用を防止および/または低減することができる。
【0061】
いかなる理論にも縛られることなく、腫瘍細胞は健康な組織と比較して高いmTORC1活性を示すため、それによって、健康な組織へのその集積が防止および/または低減される一方で、腫瘍細胞における優れた効果がもたされると考えられる。
【0062】
3.組成物
本発明の組成物(キット・オブ・パーツ、組み合わせ製品)は、ヒトおよび獣医学において、ヒトまたは動物の使用のための医薬組成物(製剤)の形態で提供される。典型的には、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと(ii)放射標識ガストリンアナログとは、共投与のための別々の医薬組成物として提示され(キット・オブ・パーツ)、各それぞれの組成物は、治療有効量の(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと(ii)放射標識ガストリンアナログとを含む。
【0063】
本発明のいくつかの態様において、個々の成分(i)および(ii)は、分離した剤形に製剤化され、これらは、共包装されてもよいし、別々の包装で共呈示されてもよい。いくつかの例において、包装された成分(ii)は、非標識ガストリンアナログを含んでもよく、これは、投与の直前に、例えば、以下にさらに記載するように放射性核種をキレートすることによって、放射性核種で標識することができる。
【0064】
組成物(またはキットの各部分)は、担体、希釈剤および他の賦形剤から選択される1つ以上の成分をさらに含むことができる。医薬組成物に使用するための適切な担体、希釈剤および他の賦形剤は、当該技術分野において周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (Gennaro AR, 1985)に記載されている。担体、希釈剤および/または他の賦形剤は、意図された投与経路および薬学的実践に関して選択することができる。組成物は、担体、希釈剤および/もしくは他の賦形剤として、またはそれに加えて、任意の適切な結合剤、潤滑剤、懸濁剤、コーティング剤、可溶化剤を含むことができる。
【0065】
治療有効量の(i)ラパマイシンおよび/もしくはラパログならびに/または(ii)放射標識ガストリンアナログは、日常的に医師によって決定可能である。任意の特定の対象/患者に対する特定の線量レベルおよび投薬頻度は変化し得、使用される特定の薬物化合物の活性、その化合物の代謝安定性および作用時間、患者の年齢、体重、総合的な健康状態、性別、食事、投与の方式および時間、排泄率、薬物の組み合わせ、特定の症状の重症度、ならびに治療を受けている個体を含む様々な要因に依存する。これらの要因は、治療有効線量を決定する際に医師によって考慮される。
【0066】
本明細書で使用されるラパログは、それがmTORC1阻害活性を示し、細胞表面上のCCKBRレベルの向上をもたらすものであれば、特に限定されない。細胞表面上のCCKBRのレベルは、当該技術分野で公知の方法、例えば、以下にさらに説明するように、ウェスタンブロット解析によって決定することができる。ラパマイシンおよび/またはラパログのmTORC1阻害剤活性は、以下にさらに説明するように、ウェスタンブロット解析によってリボソームタンパク質S6のリン酸化レベルを測定することにより決定することができる。
【0067】
一実施形態によれば、ラパログは、エベロリムス(RAD001)、テムシロリムス(CCI-779)、リダホロリムス(AP-23573)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましい一実施形態によれば、ラパログは、エベロリムス(RAD001)である。これらの化合物のいくつかは、Rapamune(登録商標)(シロリムス)、Afinitor(登録商標)またはCertican(登録商標)(エベロリムス)、Torisel(登録商標)(テムシロリムス)という商品名で商業的に入手可能である。
【0068】
例えば、エベロリムス(RAD001)などのラパログは、エベロリムスなどのラパログを含む(分散性)錠剤の形態で、例えば固体分散体として0.1mg~20mg、例えば0.1mg~15mg、好ましくは0.5mg~10mg、例えば5mgの範囲の1日投与量で、例えば経口投与することができる。
【0069】
本明細書で使用される放射標識ガストリンアナログは、CCKBRと結合し、それに対してアゴニスト活性を示すものであれば、特に限定されない。一実施形態において、ガストリンアナログは、下記式(1):
Y-S-Axx-Bxx-Cxx-Gly-Trp-Dxx-Asp-Phe-NH2 (1)
[式中、
Axxは、Glu、D-Glu、Ala、Asp、Gln、Lys、His、Arg、SerおよびAsnから選択されるアミノ酸、好ましくはGluまたはD-Gluを表し、
Bxxは、Ala、Ser、Val、Cys、ThrおよびGlyから選択されるアミノ酸、好ましくはAlaまたはSerを表し、
Cxxは、Tyr、Ala、Phe、TrpおよびHisから選択されるアミノ酸、好ましくはTyrを表し、
Dxxは、メチオニンと等価なアミノ酸、好ましくは、ノルロイシン、2-アミノ-5-ヘプテン酸、ホモノルロイシン(ホモNle)、2-アミノ-4-メトキシブタン酸、テルロメチオニン(Te-Met)およびセレノメチオニン(Se-Met)から選択されるアミノ酸、より好ましくはNleを表し、
Sは、
・負電荷を含有するアミノ酸、
・Glnおよび
・D-Gln
から選択される少なくとも1つを含むスペーサーであり、好ましくは、Sは、Glu、D-Glu、β-グルタミン酸(β-Glu)、Gln、D-Gln、AspおよびD-Aspから選択される少なくとも1つのアミノ酸を含むテトラまたはペンタペプチド、より好ましくは、Glu、D-Glu、β-Glu、Gln、D-Gln、AspおよびD-Aspから選択される少なくとも1つのアミノ酸を含むペンタペプチドであり、
Yは、放射性核種を含む部分、例えば、放射性核種(例えば放射性金属)をキレートする部分、または放射性核種を(共有)結合する部分を表す]で表される。
【0070】
好ましい一実施形態において、ガストリンアナログは、下記式(2):
Y-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-X-Asp-Phe-NH2 (2)
[式中、Xは、ノルロイシン(Nle)、2-アミノ-5-ヘプテン酸、ホモノルロイシン(ホモNle)、2-アミノ-4-メトキシブタン酸、テルロメチオニン(Te-Met)、セレノメチオニン(Se-Met)またはPhgなどのメチオニンと等価なアミノ酸を表し、Yは、放射性核種を含む部分、例えば、放射性核種(例えば放射性金属)をキレートする部分、例えばDOTA、NOTAもしくはNODAGA、好ましくはNODAGA、または放射性核種を(共有)結合する部分を表す]で表される。
【0071】
いくつかの態様において、Y(式(1)および(2)で定義される)は、ペプチドに共有結合するための、すなわち、ペプチド鎖のN末端に共有結合するための、またはN末端アミノ酸の側鎖に共有結合するためのカルボン酸などの官能基を含む。
【0072】
放射性核種をキレートすることができる部分(キレーター)の例としては、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、デフェロキサミン(DFO)、1,4,7-トリアザシクロノナン,1-グルタル酸-4,7-酢酸(NODAGA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-グルタル酸-4,7,10-三酢酸(DOTAGA)、2,2’-(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4-ジイル)二酢酸(NO2A)、1,4、7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン二酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(CYCLAM)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)、1,4,8,11-テトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン-4,11-二酢酸(CB-TE2A)、2,2’,2’’-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)トリアセトアミド(DO3AM)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,7-二酢酸(DO2A)、1,5,9-トリアザシクロドデカン(TACD)、(3a1s,5a1s)-ドデカヒドロ-3a,5a,8a,10a-テトラアザピレン(cis-グリオキサール-シクラム)、1,4,7-トリアザシクロノナン(TACN)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(シクレン)、トリ(ヒドロキシピリジノン)(THP)、3-(((4,7-ビス((ヒドロキシ(ヒドロキシメチル)ホスホリル)メチル)-1,4,7-トリアゾナン-1-イル)メチル)(ヒドロキシ)ホスホリル)プロパン酸(NOPO)、3,6,9,15-テトラアザビシクロ[9.3.1]ペンタデカ-1(15),11,13-トリエン-3,6,9-三酢酸(PCTA),2,2’,2’’,2’’’-(1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン-1,4,7,10-テトライル)四酢酸(TRITA),2,2’,2’’,2’’’-(1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン-1,4,7,10-テトライル)テトラアセトアミド(TRITAM)、2,2’,2’’-(1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン-1,4,7-トリイル)トリアセトアミド(TRITRAM)、trans-N-ジメチルシクラム、2,2’,2’’-(1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-トリイル)トリアセトアミド(NOTAM)、オキソシクラム、ジオキソシクラム、1,7-ジオキサ-4,10-ジアザシクロドデカン、クロスブリジッドシクラム(CB-シクラム)、トリアザシクロノナンホスフィン酸(TRAP)、ジピリドキシル二リン酸(DPDP)、meso-テトラ-(4-スルホナトフェニル)ポルフィン(TPPS4)、エチレンビスヒドロキシフェニルグリシン(EHPG)、ヘキサメチレンジアミン四酢酸、ジメチルホスフィノメタン(DMPE)、メチレンジリン酸、ジメルカプトコハク酸(DMPA)、およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0073】
一実施形態において、Xは、Nle、2-アミノ-4-メトキシブタン酸、Te-Met、Se-Met、2-アミノ-5-ヘプテン酸、ホモNleおよびPhgから選択されるメチオニンと等価なアミノ酸、好ましくはNleを表し、かつ/またはYは、DOTA、DTPA、NOTA、NODAGAおよびTETAから選択される部分、好ましくはDOTA、NOTAまたはNODAGA、より好ましくはNODAGAを表す。一実施形態によれば、XはNleを表し、YはDOTAを表す。
【0074】
式(1)または(2)のガストリンアナログは、プロテアーゼによる分解に対して優れた抵抗性を示し、全身循環において安定である。さらに、式(1)または(2)のガストリンアナログは、腎臓への取り込みおよび集積も非常に少なく、したがって、健康な組織(例えば腎臓)への非特異的な集積による副作用をより一層低減することができる。
【0075】
好ましい一実施形態において、放射標識ガストリンアナログは、下記式(3):
DOTA-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-DGlu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH2 (3)
[式中、DOTAは、好ましくは177Luである放射性核種をキレートする]で表される。
【0076】
本明細書で使用される放射性核種は、ベータ線および/またはガンマ線を放出する、過剰な核エネルギーを有する任意の天然に存在するまたは人工的に生成された原子から選択され得る。一実施形態において、放射性核種は、18F、124I、131I、86Y、90Y、177Lu、111In、188Re、64Cu、67Cu、149Tb、161Tb、89Sr、44/43Sc、47Scおよび153Smからなる群から選択される。
【0077】
好ましい一実施形態によれば、放射性核種は、177Lu、90Yおよび111Inからなる群から選択され、より好ましくは、177Luである。
【0078】
4.疾患を処置および/または診断する方法における組成物の使用
i)ラパマイシンおよび/またはラパログならびに(ii)放射標識ガストリンアナログを含む本発明の組成物(キット・オブ・パーツ)は、疾患を処置および/または診断するために、特にCCKBR陽性の癌または腫瘍を処置および/または診断するために使用することができる。いくつかの態様において、処置は、処置を受けない場合の対象の予想される生存期間と比較して、対象の生存期間を延ばすことができる。
【0079】
組成物(キット・オブ・パーツ)によって処置される疾患は、CCKBRの発現によって特徴付けられる癌などの任意の新生物疾患とすることができる。CCKBR陽性の癌または腫瘍の非限定的な例としては、甲状腺髄質癌(MTC)、グリオーマ、胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)、星細胞腫、胃癌、結腸癌、卵巣癌および乳癌が挙げられる。例示的な疾患はMTCである。
【0080】
一実施形態によれば、本発明の組成物は、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと(ii)放射標識ガストリンアナログとを、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと(ii)放射標識ガストリンアナログとを必要としている患者へ共投与することにより、CCKBR陽性の癌もしくは腫瘍を処置または診断する方法において使用される。本発明のすべての態様において、1つ以上のラパログと1つ以上の放射標識ガストリンアナログとを共投与することができる。ラパログと放射標識ガストリンアナログとの共投与は、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログと(ii)放射標識ガストリンアナログとの両方の並行(同時)投与の他に、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログとそれに続いて(ii)放射標識ガストリンアナログとの連続投与も含む。2つ以上のラパログが存在する場合、これらは、個々に各々単独で、かつ/またはラパマイシン/ラパログカクテルとして一緒に投与することができる。同様に、2つ以上の放射標識ガストリンアナログが存在する場合、これらもまた、個々に各々単独で、かつ/またはカクテルとして一緒に投与することができる。
【0081】
いかなる理論にも縛られることなく、共投与は、mTOR経路を阻害するためにCCKBR陽性の腫瘍細胞をラパログに十分に曝露し、放射標識ガストリンアナログに同じ腫瘍細胞を曝露する前に細胞表面上のCCKBR密度の増加を達成することを可能し、それによって腫瘍細胞への放射標識ガストリンアナログの優れた標的化が達成されると考えられる。したがって、共投与は、この結果を達成する放射標識ガストリンアナログと組み合わせてラパログを投与する任意の方法を含む。
【0082】
ラパマイシンおよび/またはラパログと放射標識ガストリンアナログとは、並行(同時)または互いに独立して、例えば、(i)mTOR阻害剤、特にラパマイシンおよび/またはラパログが、(ii)放射標識ガストリンアナログの前に所定の時間にわたって投与されるという連続投与パターンに従って投与することができる。
【0083】
一実施形態によれば、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログは、(ii)放射標識ガストリンアナログと同時に、または(ii)放射標識ガストリンアナログの前に投与される。したがって、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログは、(ii)放射標識ガストリンアナログと同じ日に、一緒にまたは互いに数時間以内に投与することができるが、約2ヶ月前まで投与することもできる。
【0084】
好ましい一実施形態によれば、(i)ラパマイシンおよび/またはラパログは、(ii)放射標識ガストリンアナログの前に最初に投与される。投与スケジュールは、ラパログおよび放射標識ガストリンアナログと同様に、患者ニーズおよび疾患状態(進行)に合わせて調整することができる。投与スケジュールによって追求される目的は、成分(i)を投与して、CCKBR陽性の腫瘍細胞の表面上のCCKBR発現を増加させ、それによって放射標識ガストリンアナログの標的化および取り込みを向上させることである。
【0085】
好ましくは、ラパマイシンおよび/またはラパログは、(ii)放射標識ガストリンアナログの投与前に、予め2ヶ月までの期間、好ましくは1~14日間にわたって、例えば、3日間などの2~5日間連続で投与される。特に、成分(i)は、(ii)放射標識ガストリンアナログが投与される前に、1~14日間連続で、好ましくは2~7日間連続で、例えば3日間または5日間連続で、1日1回または数回、好ましくは1日1回投与することができる。
【0086】
さらに、共投与は、ラパログの1回以上の用量の投与後、数週間以内に(ii)放射標識ガストリンアナログを2回以上投与することを含む。したがって、ラパマイシンおよび/またはラパログは、放射標識ガストリンアナログのその後の投与の度に再投与する必要はないが、放射標識ガストリンアナログ処置の過程において1回だけ、または間欠的に投与することもできる。
【0087】
ラパログは、ラパログを含む(分散性)錠剤の形態で、例えば固体分散体として0.1mg~20mg、例えば0.1mg~15mg、好ましくは0.5mg~10mg、例えば5mgの範囲の1日投与量で、例えば経口投与することができる。
【0088】
放射標識ガストリンアナログは、1日1回または数回投与することができる。
【0089】
一実施形態において、本発明の組成物は、化学療法剤および/または免疫調節剤などの1つ以上の他の治療剤または治療薬と同時に、その前またはその後に投与することができる。使用できる治療剤または治療薬の例としては、アルキル化剤、アルカロイドまたはキナーゼ阻害剤などの抗腫瘍剤、免疫調節剤、ならびにそれらの薬学的に許容される塩および誘導体が挙げられる。
【0090】
5.放射標識ガストリンアナログの調製
以下では、放射標識ガストリンアナログの調製のための方法を提供する。ガストリンアナログは、オンレジンペプチドカップリングおよび収束戦略を含む、標準的なFmocベースの固相ペプチド合成(SPPS)に依存して合成することができる。本発明のガストリンアナログを調製し、放射標識するために使用することができる一般的な戦略および方法論は、当業者によく知られており、また、以下にさらに記載される。
【0091】
6.実施例
6.1略語のリスト
DIEA:ジイソプロピルエチルアミン
DMEM:ダルベッコ変法イーグル培地
DMF:ジメチルホルムアミド
DMSO:ジメチルスルホキシド
DTT:ジチオスレイトール
ESI:エレクトロスプレーイオン化法
FCS:ウシ胎児血清
HATU:1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート
HBTU:3-[ビス(ジメチルアミノ)メチリウミル]-3H-ベンゾトリアゾール-1-オキシドヘキサフルオロホスファート
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
IU:国際単位
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
RPMI:ロズウェルパーク記念研究所
SQD:シングル四重極検出器
SPECT:単光子放射型コンピュータ断層撮影法
SPPS:固相ペプチド合成法
TBST:Tween20入りトリス緩衝生理食塩水
TFA:トリフルオロ酢酸
TIS:トリイソプロピルシラン
UPLC:超高速液体クロマトグラフィー
【0092】
6.2 材料および方法
本発明の組成物を評価するために、以下の材料および方法を使用した。
【0093】
6.2.1 細胞培養、トランスフェクションおよび処理
前述(Aloj et al., J Nucl Med 2004, 45(3), 485-94)のとおり生成されたCCKBRを過剰発現するヒト類表皮癌A431安定細胞株をDMEM中で培養し、一方、ラット膵腺房細胞株AR42Jを、10%FCS、2mMグルタミンおよび抗生物質(0.1mg/mLストレプトマイシン、100IUペニシリン)を添加したRPMI培地中で、37℃および、5%CO2にて培養した。
【0094】
CCKBR特異的ノックダウンのために、CCKBRに対する二重鎖siRNAまたはルシフェラーゼに対する対照二重鎖(Microsynth社)をOptimem(Gibco社)中で最終濃度100nMにて使用した:CCKBRseq1センスRNA5’-UAUACGAGUAGUAGCACCAdTdT-3’、CCKBRseq2センスRNA5’-CCGCCAAAGGAUGGAGUACdTdT-3’および対照センスRNA5’-CGUACGCGGAAUACUUCGAdTdT-3’。60~80%コンフルエントの細胞に、ユーザーマニュアルに従ってLipofectamin 3000を使用してsiRNAをトランスフェクトした。全タンパク質ライセートをWB解析に供した。
【0095】
DMSOまたは水で希釈したRAD001またはメトホルミン(いずれもSelleckchem製)による処置をそれぞれ指示された時点で行い、PBS洗浄した細胞を後述の解析に使用した。
【0096】
6.2.2 ガストリンアナログの調製
本明細書に記載されるガストリンアナログは、Activo-P-11自動ペプチド合成装置(Activotec社)およびリンクアミドレジン(投入:0.60mmol/g;Novabiochem社)を用いたオンレジンペプチドカップリングおよび収束戦略を含む標準FmocベースのSPPSによって調製した。
【0097】
アミド結合形成のためのカップリング反応は、DIEA(6当量)の存在下、HBTU(2.9当量)で活性化した3当量のFmocアミノ酸を用いて室温で30分かけて行った。Fmoc脱保護は、DMF中の20%ピペリジン溶液で行う。N末端標識部分のカップリングは、DIEA(6当量)の存在下、HATU(2.9当量)で活性化した3当量のDOTAトリス-t-Buエステル(Novabiochem社)を用いて室温で30分かけて行うことができる。
【0098】
TFA/TIS/水(95/2.5/2.5、v/v/v)で60分間処理し、側鎖を同時に脱保護した状態でレジンからペプチドを切断した。切断混合物を濃縮した後、粗ペプチドを冷ジエチルエーテルで沈殿させ、遠心分離を行った。
【0099】
ペプチドは、XSelectペプチドCSH C18 OBD Prepカラム(130Å、5μm、19mm×150mm)を備えたSQD質量分析計に結合したWaters Autopurification HPLCシステムで、溶媒系 (水中0.1%TFA)およびB(アセトニトリル中0.1%TFA)を用いて流速25mL/分で30分にわたってBの20~60%グラジエントで精製した。適切なフラクションを関連付け、濃縮し、凍結乾燥した。純度は、CSH C18カラム(130Å、1.7μm、2.1mm×50mm)を備えたSQD質量分析計に結合したWaters Acquity UPLCシステムで、溶媒系A(水中0.1%TFA)および (アセトニトリル中0.1%TFA)を用いて流速0.6mL/分で5分にわたってBの5~85%グラジエントで決定した。
【0100】
MS分析は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)インターフェースを用いて、ポジティブモードおよびネガティブモードで行った。
【0101】
6.2.3 ガストリンアナログの放射標識化
上記のように調製したN末端DOTAコンジュゲート型のガストリンアナログPP-F11N(DOTA-(DGlu)6-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe)と177Lu(ITG GmbH社から入手可能)との核種/ペプチド比1:30の溶液を、0.4M 酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.5)で調製し、90℃で15分標識化を行った。
【0102】
ルテチウムの組み込みはC18カラムを用いた標準HPLCで解析し、95%を上回る効率に達した。標識後すぐに、ガンマカウンターを用いて、標的放射線実験用に放射標識ガストリンアナログの適切な希釈液を調製した。
【0103】
6.2.4 キナーゼ阻害剤ライブラリースクリーン
Isoplate 96 TC(PerkinElmer社)に1ウェル当たり25,000個の細胞を播種し、10μMのキナーゼ阻害剤(KIs)で18時間処置した(Screen-well(登録商標)キナーゼ阻害剤ライブラリー、Enzo Life Sciences AG社)。翌日、10,000cpmの177Lu-PP-F11N(上記のように調製)を各ウェルに添加し、標準的な組織培養条件で2時間プレートをインキュベートした。ブロッキング対照は、4μMのミニガストリンLEEEEEAYGWMDF(PSL GmbH社)の存在下で行った。
【0104】
放射性上清を除去した後、細胞をULTIMA GOLD高引火点LSCカクテル(Sigma社)50piに再懸濁し、水平シェーカー上で2時間室温にてインキュベートした。MicroBeta 2450マイクロプレートカウンター(PerkinElmer社)を用いて、1ウェル当たり30秒以内に放射能を測定した。3連でスクリーンアッセイした。
【0105】
6.2.5 増殖アッセイ
上記のように処置前の細胞を96ウェルプレートに播種し、細胞増殖をCellTiter 96 AQueous非放射性細胞増殖アッセイ(Promega社)により製造元の指示に従って解析した。ホルマザンに生体内還元されたMTSの吸光度を、マイクロプレートリーダー(PerkinElmer社)を用いて、650nmを基準として570nmで測定した。アッセイは3連で行った。
【0106】
6.2.6 インビトロ放射標識ペプチド内在化アッセイ
2.5×105個の細胞を6ウェルプレートに播種した。8時間後、細胞を適切な阻害剤(指示どおり)で20時間処理した。翌日、PBSで洗浄した細胞を100,000cpmの177Lu-PP-F11N(0.1%BSAを含むDMEM中)と共に標準TC条件でインキュベートした。ブロッキング実験のために、ミニガストリン(PSL GmbH社)を4μMの濃度で使用した。1時間または2時間のインキュベーション後、放射性培地(PBS洗浄と一緒に)を回収し、細胞をグリシン緩衝液(pH=2)で5分間、室温にて2回洗浄に供した後、1M NaOHで15分間、37℃にて溶解ステップに供した。3つの回収したフラクション(培地/PBS;グリシン洗浄;溶解した細胞)をすべてCobra IIオートガンマカウンター(Packard社)で測定した;177Lu-PP-F11Nの内在化および膜結合フラクションを総放射能に対する%で示した。総放射能の0.1%未満のブロッキングペプチド(それぞれグリシン洗浄細胞またはNaOH溶解細胞の非特異的結合または内在化の対照)を用いた実験の結果(データは示さず)を、得られた結果から差し引いた。NaOH溶解細胞ライセートのタンパク質濃度を、NanoPhotometer(登録商標)UV-Vis P-Class(Implen社)を用いた分光光度計により測定した。
【0107】
6.2.7 WB解析
S235/S236におけるphospho-S6(D57.2.2F)およびGAPDH(14C10)に対する抗体をCell Signaling Technology社から得て、一方、抗CCKBR(ab77077)をAbcam社から得た。細胞を溶解緩衝液(50mMトリス-HCl pH7.5、150mM NaCl、1%Triton X、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、1mM NaFおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche社)を添加したSDS0.1%)中でホモジナイズした。50μgのタンパク質抽出物のアリコートをSDS-PAGEで分離し、エレクトロブロッティングによりPVDF膜(Millipore社)に転写した。膜はTBST(0.1%Tween 20)中の5%スキムミルクで1時間ブロックし、TBST中の2%BSAで一晩一次抗体をインキュベートし、その後HRPコンジュゲート型の二次抗体で2時間インキュベートした。タンパク質特異的なシグナルは化学発光試薬(ECL)によって検出し、シグナルはImageQuant RT ECL Imager(GE Healthcare社)を用いて取得した。
【0108】
6.2.8 脱グリコシル化
CCKBR検出の前に、タンパク質ライセートを脱グリコシル化に供した。簡単に言うと、18μLの全細胞ライセート(約50μg)を2μLの10×変性緩衝液(5%SDS、0.4M DTT)と混合し、室温で10分間インキュベートした。次に、4μLの10×Glycobuffer(0.5M リン酸ナトリウム、pH7.5)、4μLの10% Tween-20および10μLの水を加えた。最後に2μLのPNGase F(Sigma社)を加え、混合し、遠心分離で回収した。反応は37℃で一晩行い、その後にWB解析を行った。
【0109】
6.2.9 動物実験
本研究では、ヒトA431/CCKBR異種移植マウスモデルを使用した。重要なのは、A431-CCK2R異種移植片を持つ免疫不全マウスが、甲状腺髄様癌(MTC)患者における第1相臨床試験の規制承認に必要な放射標識ミニガストリンアナログの薬物動態、生体内分布、線量測定または毒性の前臨床評価に以前に使用されたことである(Maina et al., Eur J Pharm Sci. 2016;91:236-42)。
【0110】
免疫不全のCD-1雌ヌードマウス(Charles Rivers社、ドイツ国)を実験の1週間前飼育した。腫瘍移植の前に、A431/CCKBR細胞を採取し、0.9%NaClを含有する0.1mLの滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の500万個の細胞を、イソフルラン/酸素吸入で麻酔したマウスに皮下注射した(動物1匹当たり2個の腫瘍)。5日後、動物を3つの実験群に無作為に振り分け、腫瘍サイズをキャリパーで非侵襲的に測定した。RAD001(3mg/kg)、メトホルミン(200mg/kg)またはPBS(対照)を、指示どおりに、3日間または5日間連続して腹腔内注射により毎日投与した。処置サイクル中、いずれの群においても急性毒性の兆候は観察されなかった。処置後、マウスは177Lu-PP-F11Nを尾静脈に投与され(マウス1匹当たり約150kBqを0.1mLの滅菌PBSの容量で)、4時間後にマウスはCO2で人道的安楽死に供した。死後解剖した腫瘍および臓器の重量を測定し、ガンマカウンターでその放射能を測定した。終了時、身体または臓器の重量、総合的な健康状態、または解剖学的構造における有意な差は観察されなかった。すべての実験はスイスの動物保護法に従って行った。
【0111】
6.2.10 SPECT/IT
静脈内注射の前に、177Lu-PP-F11NをHPLCで精製し、SpeedVacで濃縮後、PBSで希釈した(100μlで10MBq)。メトホルミン、RAD001またはPBS(対照)で処置したA431/CCKBR腫瘍を持つヌードマウスにおける177Lu-PP-F11Nの腫瘍取り込みを、製造元の指示に従ってX線コンピュータ断層撮影(multipinhole small-animal NanoSPECT/CTカメラ、Mediso Medical Imaging Systems社)と組み合わせた単光子放射型コンピュータ断層撮影(SPECT)によって監視した。すべてのマウスを注射の2時間後に犠牲にし、10分間のCT後に5時間のSPECTスキャンに直接使用した。画像再構成、加工および相対的定量化は、VivoQuant 3.0 Patch1ソフトウェアを使用して行った。放射性腫瘍領域の選択および解析には大津の二値化および結合閾値を適用した。
【0112】
6.2.11 免疫化学
ホルマリン固定したA431/CCKBR腫瘍のパラフィン切片を脱パラフィン化に供した。再水和したスライドは、10mMクエン酸緩衝液、pH6.0、98℃で60分間前処理した後、PBS中4%無脂肪乳で90分間インキュベートした。アビジン/ビオチンブロッカー(Invitrogen社)処理および検出には、製造元の指示に従いABC法を用いた。Ki67に対するモノクローナル抗体(Thermo Scientific社、SP6)については、ユーザーマニュアルに従い、自動機器試薬システム(Discovery XT、Ventana Medical System Inc.社)を使用してシグナルを記録した。ヘマトキシリンでカウンター染色した切片の画像を撮影し(ニコン社、YTHM)、ImageAccess Enterprise7およびImageJソフトウェアを用いて解析した(Schneider et al. Nat Methods 2012, 9(7), 671-675)。
【0113】
6.2.12 統計解析
GraphPad Prism 7.00 for Windowsを用い、2群の解析には両側Studentのt検定を行い、一方、3群以上の解析には一元配置分散分析の後に多重比較検定を行った。P<0.05の値は、統計的に有意であるとみなされた。
【0114】
実施例1:放射標識ガストリンアナログのインビトロでの内在化-キナーゼ阻害剤ライブラリースクリーン
ガストリンアナログの内在化率に影響を与える経路を調べるために、キナーゼ阻害剤のライブラリー(80個の化合物)を、MTC A431/CCKBR細胞における
177Lu-PP-F11N取り込みを測定するために、上記の手順に従ってスクリーニングした。スクリーニングアッセイの概要を
図1Aに示している。
【0115】
簡単に言うと、細胞を10μMのキナーゼ阻害剤による処理に18時間供した。翌日、10.000cpmの177Lu-PP-F11N(上記のように調製)を各ウェルに添加し、プレートを標準組織培養条件で2時間インキュベートした。放射性上清を除去した後、細胞を再懸濁し、水平シェーカー上で2時間、室温にてインキュベートした。MicroBeta 2450マイクロプレートカウンターを用いることにより、1ウェル当たり30秒以内に放射能を測定した。
【0116】
3つの阻害剤、すなわち、BML257、SC-514およびラパマイシンにより、
177Lu-PP-F11Nの取り込みが未処置の対照と比較して24~26%向上することが分かった(
図1B)。マッチング増殖アッセイでは、これら3つの阻害剤の細胞増殖に有意な変化は示されず、これは、キナーゼ阻害後の細胞数が増加したことに起因して取り込みが向上したのではないことを示唆していた(
図1C)。BML-257およびラパマイシンは、AKT/mTORC1経路を標的化することが知られている。
【0117】
BML257およびSC-514は、以下の化学構造:
【化2】
を有するキナーゼ阻害剤である。
【0118】
実施例2:RAD001およびメトホルミンにより誘発された放射標識ガストリンアナログのインビトロでの内在化
AKT/mTORC1シグナル伝達への干渉をさらに調べるために、MTC A431/CCKBR細胞における177Lu-PP-F11Nの内在化を、十分に特徴付けられ臨床的に承認されたmTORC1阻害剤RAD001(エベロリムス)およびメトホルミンを使用して評価した。
【0119】
アッセイのために、細胞をメトホルミンまたはRAD001で20時間処理し、177Lu-PP-F11Nの内在化を上記の手順に従って測定した。
【0120】
A431/CCKBR細胞をメトホルミンおよびRAD001で処置すると、
177Lu-PP-F11Nの内在化が、対照細胞の16.2%と比較して、それぞれ21.1%および24.3%増加した(1.3および1.5の比[処置/対照])。さらに、AR42J細胞をRAD001で処置すると、
177Lu-PP-F11Nの内在化が、対照細胞の5.7%と比較して10%増加し、[RAD001/対照]の比は1.7であった。RAD001またはメトホルミン処置された細胞では、膜結合活性に有意な差はなかった(
図2A)。RAD001およびメトホルミンで処置されたA431/CCKBR細胞の他に、RAD001で処置されたAR42J細胞のタンパク質レベルは、対照と比較して、それぞれ80%、79%および84%に減少した(
図2B)。
【0121】
RAD001およびメトホルミン処置の効果をWB解析によって調べ、処置された細胞から得られたタンパク質ライセートにおいて、リボソームタンパク質S6のSer235/236におけるmTORC1制御されたリン酸化の欠如を示した(
図2C)。
【0122】
実施例3.RAD001により誘発されたCCKBR発現およびインビトロでの
177Lu-PP-F11Nの内在化
A431 /CCKBR細胞におけるCCKBRの発現を、RAD001で処置した細胞で評価した。結果は
図3Aに示している。
【0123】
50nMまたは100nMのRAD001で処置すると、CCKBR発現が増加することが分かり(約2.2倍)、これは、RAD001で処置した細胞における放射標識ガストリンアナログの内在化の増加が、CCKBR発現上昇に起因していることを示唆していた。内因性CCKBRの検出はRNA干渉によって確認され、それによってCCKBRに対する二重siRNAをトランスフェクションすると、ルシフェラーゼ遺伝子に対する二重siRNAをトランスフェクトした対照細胞と比較して、CCKBR発現レベルが55%に減少した(
図3B)。
【0124】
実施例4:RAD001で処置したMTC腫瘍におけるインビボでの177Lu-PP-F11NのCCKBR特異的な内在化(5日間の処置)
RAD001およびメトホルミンのインビボでの効果を調べるために、A431/CCKBR細胞を免疫不全ヌードマウスに皮下移植し、腫瘍形成後5日後に、マウスを上記のようにRAD001、メトホルミンまたはPBS(対照)による処置に供した。
【0125】
生体内分布解析は、RAD001で処置した動物における
177Lu-PPF-11Nの腫瘍取り込みにおいて統計的に有意な増加を示し(P=0.0057)、[RAD001/対照]の比は1.79であり、一方、メトホルミンでの処置は、
177Lu-PP-F11N内在化を中程度にしか増加させず、[メトホルミン/対照]の比は1.14であり、統計的有意性に達しなかった(
図4A)。
【0126】
さらに、健康な臓器における
177Lu-PP-F11Nの生体内分布には、すべての群で有意差がなかった。放射標識ガストリンアナログを非標識ブロッキングペプチドミニガストリン(CCKBR結合の競合物質)と一緒に共投与することにより、3群すべてにおいて
177Lu-PP-F11Nの腫瘍取り込みが大幅に減少し、放射標識ガストリンアナログがCCKBR特異的に結合することが実証された(
図4Aの下段)。
【0127】
図4Bおよび4Cに示すように、RAD001/
177Lu-PP-F11Nによる処置は、腫瘍体積を有意に減少させ、一方、マウス全体の重量は影響を受けなかった。対照的に、メトホルミン/
177Lu-PP-F11Nによる処置は、腫瘍体積またはマウスの体重に影響を与えなかった。
【0128】
観察された腫瘍取り込みの増加が、RAD001と対照群との腫瘍量の違いに影響されているかどうかをさらに調べるために、サイズが一致する腫瘍群で統計解析を実施した。50~150mgまたは50~180mgの範囲のRAD001で処置した腫瘍は、腫瘍量の有意差なしに177Lu-PP-F11Nの取り込みにおいて統計的に有意な増加を示すことが分かり、これは、RAD001処置が腫瘍量非依存的に放射標識ミニガストリンの腫瘍取り込みを増加させることを示唆していた(データは示さず)。
【0129】
更なるSPECT/CTイメージングにより、A431/CCKBR腫瘍を持つヌードマウスにおいて、RAD001による処置の5日間後、対照と比較して
177Lu-PP-F11Nの腫瘍への取り込みが増加したことが確認された(
図5A)。取得した画像の相対的定量化は、対照と比較して、RAD001で処置した腫瘍における放射標識ミニガストリンの平均および最大濃度が有意に高い(P<0.001)ことを示した(
図5B)。平均濃度および最大濃度の比[RAD001/対照]はそれぞれ3.11および3.17に達し、一方、メトホルミン処置では、平均濃度および最大濃度の比[メトホルミン/対照]はそれぞれ1.03および1.17で有意な変化を示さなかった。
【0130】
実施例5:RAD001で処置したCCKBR腫瘍のインビボにおける177Lu-PP-F11NのCCKBR特異的な内在化(3日間の処置)
5回未満の用量のRAD001が177Lu-PP-F11N腫瘍取り込みを増加させるかどうかを調べるために、同じA431/CCKBR異種移植マウスモデルを、RAD001(3回の用量)、メトホルミンまたはPBS(対照)で3日間処置に供した。
【0131】
生体内分布解析から、RAD001で処置した動物群では
177Lu-PP-F11Nの腫瘍取り込みが統計的に有意に増加し(P=0.0016)、[RAD001/対照]の比は1.56であり(
図6)、一方、ブロッキングペプチド(ミニガストリン)と一緒に共注入すると、CCKBR特異的な取り込みを示す
177Lu-PP-F11N腫瘍取り込みを大幅に減少させた。メトホルミンの3回の用量は、
177Lu-PP-F11Nの取り込みに有意な影響を与えなかった(
図7A)。
【0132】
健康な臓器における
177Lu-PP-F11Nの生体内分布には、すべての群で有意な差はなかった。RAD001の1日3回の用量は、マウス全体の重量に影響を与えることなく腫瘍体積を有意に減少させたが、メトホルミン処置は、腫瘍体積またはマウスの体重に影響を与えなかった(
図7B)。
【0133】
実施例6:RAD001で処置したCCKBR腫瘍のインビボにおけるネクローシス、有糸分裂像およびKi67陽性細胞数
RAD001、メトホルミンおよびPBS(対照)の1日5回の用量で処置したA431/CCKBR腫瘍を持つヌードマウスから調製したパラフィン腫瘍切片を、免疫組織化学に供した。RAD001およびPBS群には5個の腫瘍が含まれ、メトホルミン群では4個の腫瘍が解析された。
【0134】
図8Aに示すように、RAD001による処置は、PBSで処置した腫瘍(1.4±1.2%)と比較してネクローシス(10.6±6.4%)を増加させたが、一方、メトホルミンは、対照と比較して有意差を示さなかった。血管数の解析は、解析した群間の統計的な差を示さず、これは、観察された放射標識ミニガストリンのインビボでの取り込みの増加が、RAD001で処置した腫瘍におけるCCKBR発現の増加によるものであることを示唆していた(
図8B)。有糸分裂指数(0.75±0.36%)およびKi67陽性細胞数(61±8.6%)の減少は、有糸分裂指数1.08±0.2%およびKi67陽性細胞80±3.1%を示す対照腫瘍と比較して、RAD001で処置した腫瘍において検出された(
図9Aおよび
図9B)。
【0135】
メトホルミン処置は、対照と比較して、有糸分裂の数値またはKi67陽性細胞の数に有意な変化を引き起こさなかった。
【0136】
実施例7:A431/CCKBR腫瘍を持つヌードマウスにおけるRAD001と
177Lu-PP-F11Nとの併用処置に対する治療効果の評価
併用処置の治療効果を評価するために、
図10Aに示すように、免疫不全のA431/CCKBR腫瘍を持つヌードマウスの腫瘍成長および平均生存期間を、RAD001単独、または
177Lu-PP-F11Nと組み合わせて5または10回の用量投与後に調べた。
【0137】
動物治療研究
動物実験のために、CCKBRを過剰発現するヒト類表皮癌A431細胞株が、以前に生成され、Luigi Aloj博士の好意により提供された。A431/CCKBR細胞は、10%FCS、2mMグルタミンおよび抗生物質(0.1mg/mLストレプトマイシン、100IUペニシリン)を添加したDMEM中、37℃、5%CO2で培養した。腫瘍移植に先立ち、0.9%NaClを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)0.1mL中のA431/CCKBR細胞5×106個を、イソフルラン/酸素吸入で麻酔したCD-1雌ヌードマウス(Charles Rivers社、ドイツ国)に皮下注射した。6日後、動物を実験群に無作為に振り分け、腫瘍サイズをキャリパーで非侵襲的に測定した。RAD001(3mg/kg)、またはPBS(対照)を、指示どおりに、毎日腹腔内注射で5日または10日間投与した。100μLのPBS中のHPLC精製60MBqの177Lu-PPF11Nを静脈内注射し、一方、対照群には100μLのPBSを注射した。腫瘍の直径およびマウスの体重を毎日記録した。腫瘍体積は、式V=(W2×L)/2を用いて計算した。腫瘍体積が1.5cm3を超えたら、ヌードマウスを犠牲にした。さらに、すべての群に存在する体調不良のマウス(合計n=2)または潰瘍化した腫瘍を持つマウス(合計n=7)は、早期に犠牲にした。これらのマウスは解析から除外した。すべての実験は、スイスの動物保護法に従って行った。
【0138】
この実験では、すべての統計解析にGraphPad Prism 7.00 for Windowsを使用した。多重比較検定のためにBenjamini、KriegerおよびYekutieliの2段階線形ステップアップ法(two-stage linear step-up procedure)を組み合わせた一元配置分散分析をすべての処置群に使用した。Log-rank(Mantel-Cox)検定を、処置群と対照群との生存曲線の違いを比較するために行った。エンドポイントは、生存曲線における死亡と定義した。P≦0.05の値は、統計的に有意であるとみなした。
【0139】
結果
RAD001および
177Lu-PP-F11Nの両方の単独処置の他に、それらの組み合わせも腫瘍成長を有意に阻害した(
図10B)。すべてのマウスがすべての群でまだ存在する13日目に、対照群の平均腫瘍体積は0.97cm
3に達した。
177Lu-PP-F11N、5、10回の用量のRAD001、および
177Lu-PP-F11Nと組み合わせた5または10回の用量のRAD001で処置したマウスの平均腫瘍サイズは、対照群と比較して有意に減少し(P<0.05)、それぞれ0.63、0.31、0.11および0.15または0.08cm
3に達した(
図11)。5回または10回のRAD001と
177Lu-PP-F11Nとで処置したマウスの腫瘍成長は、
177Lu-PP-F11Nの単剤療法と比較して有意に減少した。
【0140】
22日目、5または10回の用量のRAD001と
177Lu-PP-F11Nとで並行処置したマウスの平均腫瘍サイズは、それぞれRAD001のみを5または10回の用量で投与した群と比較して有意に縮小した。25日目、10回の用量のRAD001と
177Lu-PP-F11Nとで並行処置したマウスの平均腫瘍サイズは、10回の用量のRAD001での単剤療法と比較して有意に縮小した。
図12のカプラン・マイヤー曲線に示すように、すべての処置が、対照群と比較して寿命を増加させた。
【0141】
対照群のメディアン生存期間は19.5日であり、一方、177Lu-PP-F11N、5または10回の用量のRAD001、177Lu-PP-F11Nと組み合わせた5または10回の用量のRAD001で処置したマウスのメディアン生存期間は、以下の表1に示すように、それぞれ28、27、32、36および43日に延長された。
【0142】
【0143】
治療中、体重の一定の増加があり、対照群と処置マウス群との間に有意な差はなかった(データは示さず)。
【配列表】