(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】電線用印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20250414BHJP
【FI】
B41J2/01 125
B41J2/01 109
(21)【出願番号】P 2023533517
(86)(22)【出願日】2022-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2022024761
(87)【国際公開番号】W WO2023282053
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2021114066
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002358
【氏名又は名称】新明和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【氏名又は名称】後藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】平塚 智裕
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貴大
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-036908(JP,A)
【文献】中国実用新案第206326998(CN,U)
【文献】特開2001-088280(JP,A)
【文献】特開平05-338116(JP,A)
【文献】実開平05-031027(JP,U)
【文献】米国特許第05237917(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出することにより電線に印刷を行うインクジェットヘッドと、
前記電線の長手方向に前記電線を搬送する搬送装置と、
前記インクジェットヘッドよりも前記電線の搬送方向下流に設けられ、前記電線の印刷部分に空気を吹きかける乾燥装置と、を備え、
前記乾燥装置は、前記電線の搬送経路の周囲を囲むように設けられた筒状部材を備え
、
前記筒状部材の内部には、前記電線が通る内部空間が区画され、
前記筒状部材は、
前記内部空間のうち前記電線の搬送方向の上流側を区画する大径部と、
前記内部空間のうち前記電線の搬送方向の下流側を区画する、前記大径部よりも断面積が小さい小径部と、
前記内部空間のうち、前記電線の搬送方向に関する前記大径部と前記小径部との中間部分を区画し、前記小径部に向かって断面積が小さくなるテーパ部と、
前記大径部に開口し、圧縮空気が供給される供給口と、を備え、
前記大径部は、前記電線の搬送方向の上流側端部に設けられ、前記電線が挿入されるとともに圧縮空気が排出される入口開口部を備え、
前記小径部は、前記電線の搬送方向の下流側端部に設けられ前記電線が出て行く電線出口を備え、
前記電線出口の開口面積は、前記入口開口部の開口面積よりも小さい、
電線用印刷装置。
【請求項2】
前記搬送装置は、前記電線の印刷部分に前記乾燥装置が空気を吹きかけているときに前記電線を搬送するように構成されて
いる、
請求項1に記載の電線用印刷装置。
【請求項3】
前記供給口は、前記電線の長手方向に交差する方向に前記筒状部材を貫通している、
請求項
1または2に記載の電線用印刷装置。
【請求項4】
前記供給口は、前記供給口の貫通方向視において前記電線の搬送経路とずれるように設けられている、
請求項
3に記載の電線用印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線用印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電線に対する印刷が従来から行われている。例えば、特許文献1には、電線の接続先を示す回路情報を電線に印字することを含む、ワイヤーハーネスの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したような電線への印刷は、被印刷物に向かってインクを吐出するインクジェットヘッドを用いて行うことができる。しかしながら、電線に着弾させたインクの乾燥には、時間を要する。また、インクが乾燥する前に次工程を行うと、印刷が滲む等の不具合が生じやすい。そのため、インクジェット印刷を含む電線の製作には時間が掛かっていた。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、インクジェット方式で電線に印刷を行う電線用印刷装置であって、短時間でインクを乾燥させることができる印刷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電線用印刷装置は、インクを吐出することにより電線に印刷を行うインクジェットヘッドと、前記電線を搬送する搬送装置と、前記インクジェットヘッドよりも前記電線の搬送方向下流に設けられ、前記電線の印刷部分に空気を吹きかける乾燥装置と、を備える。
【0007】
上記電線用印刷装置によれば、電線の印刷部分に乾燥装置が吹きかける空気により、当該部分のインクの乾燥が促進される。そのため、短時間でインクを乾燥させることができる。
【0008】
本発明の好ましい一態様によれば、前記搬送装置は、前記電線の印刷部分に前記乾燥装置が空気を吹きかけているときに前記電線を搬送するように構成されている。前記乾燥装置は、前記電線の搬送方向上流に向かって空気を吹きかける。
【0009】
かかる態様によれば、搬送装置による電線の搬送方向と空気の流れる方向とが逆である。そのため、電線に対する空気の流れの相対速度は、電線の搬送速度と空気の速度とが加算された速度となる。これにより、インクの乾燥がより促進される。
【0010】
本発明の好ましい一態様によれば、前記搬送装置は、前記電線の長手方向に前記電線を搬送する。前記乾燥装置は、前記電線の搬送経路の周囲を囲むように設けられた筒状部材を備えている。前記筒状部材の内部には、前記電線が通る内部空間が区画されている。前記筒状部材は、前記内部空間に開口し圧縮空気が供給される供給口と、前記内部空間から圧縮空気が排出されるように前記内部空間と前記筒状部材の外部とを連通させる開口部と、を備えている。
【0011】
かかる態様によれば、電線の印刷部分が筒状部材によって囲まれる。そのため、筒状部材内に供給する圧縮空気が周囲に拡散しにくく、インクの乾燥効率を向上させることができる。これにより、より短時間でインクを乾燥させることができる。
【0012】
上記態様のうちの好ましい一態様によれば、前記搬送装置は、前記供給口から圧縮空気が供給されているときに前記電線を搬送するように構成されており、前記開口部は、前記供給口よりも前記電線の搬送方向上流に設けられている。
【0013】
かかる態様によれば、搬送装置による電線の搬送方向と圧縮空気の流れる方向とが逆となる。よって、前述した理由により、インクの乾燥がより促進される。
【0014】
上記態様のうちの好ましい一態様によれば、前記開口部は、前記筒状部材の前記電線の搬送方向上流側の端部に設けられている。前記搬送装置は、前記電線を前記開口部から前記筒状部材の前記内部空間に挿入する。
【0015】
かかる態様によれば、筒状部材への電線の入口と、筒状部材からの圧縮空気の出口とが共通化されている。よって、筒状部材の構造をシンプルにできる。
【0016】
筒状部材を備える態様のうちの好ましい一態様によれば、前記筒状部材は、前記電線が通過可能であって前記電線の搬送方向下流側の端部に設けられた電線出口を備えている。前記電線出口の開口面積は、前記開口部の開口面積よりも小さい。
【0017】
かかる態様によれば、電線出口の開口面積が開口部の開口面積よりも小さいため、圧縮空気が開口部に向かって流れやすい。
【0018】
筒状部材を備える態様のうちの好ましい一態様によれば、前記供給口は、前記電線の長手方向に交差する方向に前記筒状部材を貫通している。
【0019】
かかる態様によれば、圧縮空気が電線の周りを旋回しやすくなる。圧縮空気が電線の周りを旋回すると、印刷部分の向きがどのような向きであっても、インクを乾燥させることができる。例えば電線の周方向の捩れ等の理由で、印刷部分の向きが設定された通りの向きでない場合にも、インクを乾燥させることができる。
【0020】
上記態様のうちの好ましい一態様によれば、前記供給口は、前記供給口の貫通方向視において前記電線の搬送経路とずれるように設けられている。
【0021】
かかる態様によれば、供給口と電線の搬送経路とをずらすことにより、供給口から供給される圧縮空気が印刷部分に直接当たることが防止される。そのため、乾燥していないインクに圧縮空気を直接噴射することによる印刷品質の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る電線用印刷装置によれば、電線に吐出したインクを短時間で乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】一実施形態に係る電線用印刷装置の構成を表す模式図である。
【
図2】印刷後の電線の一例を示す模式的な平面図である。
【
図3】側方から見たガイドパイプの部分断面図である。
【
図4】エア供給口を通るガイドパイプの縦断面図である。
【
図5】側方から見たガイドパイプの断面図であって、圧縮空気の流れを模式的に示す図である。
【
図6】後方から見たガイドパイプの断面図であって、圧縮空気の流れを模式的に示す図である。
【
図7】他の実施形態に係る電線用印刷装置の構成を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[印刷装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る電線用印刷装置10(以下、印刷装置10と呼ぶ)の構成を表す模式図である。以下の説明では、
図1の左側、右側、上側、下側、紙面手前側、および紙面奥側をそれぞれ、印刷装置10の前側、後側、上側、下側、左側、および右側とする。図面中の符号F、Rr、U、D、L、Rは、それぞれ、印刷装置10の前方、後方、上方、下方、左方、および右方を意味する。ただし、以下の説明における各方向は説明の便宜上定めた方向に過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る印刷装置10は、電線5を搬送する搬送装置20と、電線5に印刷を行うインクジェットヘッド30と、電線5に着弾したインクを乾燥させる乾燥装置40と、制御装置70と、を備えている。印刷装置10の前方には、印刷済みの電線5を把持するクランプ90と、図示しない電線5の切断装置と、が設けられている。
【0026】
搬送装置20は、電線5の長手方向に電線5を搬送するように構成されている。本実施形態では、前方が電線5の搬送方向下流である。後方が電線5の搬送方向上流である。ただし、電線5の搬送方向は前後方向に限定されるわけではない。なお、以下では適宜、電線5の搬送方向上流および下流のことを、単に上流および下流とも呼ぶ。
図1に示すように、搬送装置20は、一対の搬送ローラ21と、一方の搬送ローラ21を回転させる搬送モータ22と、を備えている。一対の搬送ローラ21は、向かい合っている。電線5は、一対の搬送ローラ21の間に挟まれている。この状態で一方の搬送ローラ21が回転することにより、電線5は、長手方向に搬送される。
【0027】
インクジェットヘッド30は、搬送装置20の下流に設けられている。搬送装置20は、印刷前の電線5をインクジェットヘッド30に搬送する。インクジェットヘッド30は、インクを吐出することにより電線5に印刷を行うように構成されている。
図2は、印刷後の電線5の一例を示す模式的な平面図である。
図2に示すように、インクジェットヘッド30は、吐出するインクによって、電線5の最外周の被覆6に印字7を形成する。被覆6は、電線5の芯線を覆う絶縁被覆であり、例えば樹脂からなっている。印字7として形成されるものは、例えば、電線5の仕様、用途、向き、型式等の情報を表す文字、記号、図形等である。ただし、電線5に印刷される画像は、上記に限定されるわけではない。印字7の色も特に限定されない。印字7を構成する色は、複数の色であってもよい。
【0028】
インクジェットヘッド30は、下方に向かってインクを吐出する多数のノズル31を備えている。複数のノズル31は、インクジェットヘッド30の下面に設けられている。複数のノズル31は、搬送装置20による電線5の搬送経路R1の上方に位置している。インクジェットヘッド30のノズル31から吐出されるインクは、ここでは、染料や顔料を溶剤に溶解させた溶剤インクである。溶剤インクは、溶剤が揮発することによって固化する。インクジェットヘッド30から吐出されるインクは、溶剤が揮発することによって固化するインクであれば特に限定されない。インクは、例えば、溶剤が水である水性インクであってもよい。溶剤は自然に揮発するため、インクは自然乾燥させることもできる。ただし、インクの自然乾燥には、ある程度の時間を要する。
【0029】
乾燥装置40は、インクジェットヘッド30よりも電線5の搬送方向下流に設けられている。搬送装置20は、インクジェットヘッド30によって印刷が行われた後の電線5をインクジェットヘッド30の下方から乾燥装置40へと搬送する。乾燥装置40は、電線5の印刷部分に空気を吹きかけることにより、電線5上のインクを乾燥させる装置である。ただし、乾燥装置40は、空気以外の気体を電線5の印刷部分に吹きかけてもよい。乾燥装置40は、インクの溶剤を迅速に揮発させることにより、インクを短時間で固化させる。
図1に示すように、乾燥装置40は、電線5の搬送経路R1の周囲を囲むように設けられた筒状のガイドパイプ50と、ガイドパイプ50に圧縮空気を供給するエア供給部60と、を備えている。ガイドパイプ50の内部には、電線5が通る内部空間S1が区画されている。ここでは、ガイドパイプ50は、電線5が挿入される挿入孔51を有している。挿入孔51の径方向内方の空間は、内部空間S1を構成している。搬送装置20は、挿入孔51内を通過するように電線5を搬送する。
【0030】
図3は、側方から見たガイドパイプ50の部分断面図である。
図4は、
図3のIV-IV断面図である。
図4は、左右方向および上下方向に延びる面で切断したガイドパイプ50の縦断面を示している。
図3および
図4に示すように、ガイドパイプ50は、内部空間S1を形成する挿入孔51と、内部空間S1に開口したエア供給口52と、エア供給口52に接続されるエア継手61(
図1参照)のための継手座面53と、を備えている。エア供給口52は、外部のエアコンプレッサ80(
図1参照)によって生成された圧縮空気が供給される孔である。
【0031】
挿入孔51は、ガイドパイプ50を前後方向に貫通している。
図3に示すように、挿入孔51は、大径部51aと、小径部51bと、テーパ部51cと、入口開口部51dと、電線出口51eと、を備えている。大径部51aは、挿入孔51の上流側部分を形成している。
図4に示すように、大径部51aは、円筒状の形状を有している。
図3に示すように、大径部51aの直径は、電線5の直径よりも大きく構成されている(電線5の搬送経路R1を参照)。ここでは、大径部51aの直径は、電線5の直径の1.5倍よりも大きい。挿入孔51に電線5が挿入された状態では、大径部51aの内壁と電線5との間には、円筒状の隙間が形成される。
【0032】
入口開口部51dは、内部空間S1とガイドパイプ50の外部とを連通させるように開口している。ここでは、入口開口部51dは、ガイドパイプ50の上流側の端部に設けられている。入口開口部51dは、大径部51aの上流側の端部である。搬送装置20は、入口開口部51dから電線5をガイドパイプ50内部空間S1に挿入する。詳しくは後述するが、入口開口部51dは、エア供給口52から供給された圧縮空気を内部空間S1から排出する排気口でもある。
【0033】
小径部51bは、挿入孔51の下流側部分を形成している。
図4に示すように、小径部51bも、円筒状の形状を有している。小径部51bは、前後方向視において、大径部51aと同心円を形成している。小径部51bの直径は、大径部51aの直径よりも小さく、電線5の直径とほぼ同じである。小径部51bの直径は、電線5が通過可能なように、電線5の直径よりも僅かに大きい。テーパ部51cは、大径部51aと小径部51bとの間に形成されている。テーパ部51cは、電線5の搬送方向下流に向かうほど直径が小さくなるテーパ形状を有している。
【0034】
電線出口51eは、ガイドパイプ50の下流側の端部に設けられている。電線出口51eは、電線5が通過可能なように構成された電線5の出口である。電線出口51eは、ここでは、小径部51bの下流側の端部である。電線出口51eの開口面積は、入口開口部51dの開口面積よりも小さく構成されている。
【0035】
図3に示すように、エア供給口52は、ガイドパイプ50の側面に開口している。
図4に示すように、エア供給口52は、電線5の長手方向(ここでは、前後方向)に交差する方向にガイドパイプ50を貫通している。ここでは、エア供給口52は、電線5の搬送方向である前後方向に直交するように、斜め左右方向にガイドパイプ50を貫通し、大径部51aの内壁に到達している。かかるエア供給口52の配置により、入口開口部51dは、エア供給口52よりも電線5の搬送方向上流に位置する。また、電線出口51eは、かかるエア供給口52の配置により、エア供給口52よりも電線5の搬送方向下流に位置する。
【0036】
エア供給口52の内壁には、ネジ52aが形成されている。エア継手61は、ネジ52aと噛み合うネジ部を有しており、エア供給口52に接続される。エア供給口52の外側の端部(ガイドパイプ50の外面に露出した端部)の周囲には、エア供給口52の軸線Ax1と直交するように、継手座面53が形成されている。
【0037】
図3に示すように、エア供給口52(ここでは、実質的なエア供給口52、すなわち、エア継手61内の流路を意味し、符号52bで示す、
図4も参照)は、エア供給口52の貫通方向視において、電線5の搬送経路R1とずれるように設けられている。エア供給口52の軸線Ax1は、挿入孔51の軸線Ax2(電線5の搬送経路R1の中心線でもある)と交差しないようにずれている。
【0038】
エア供給部60は、エア供給口52への圧縮空気の供給を制御している。圧縮空気は、外部のエアコンプレッサ80によって生成されている。ただし、印刷装置10は、エアコンプレッサのような圧縮空気を発生させる装置を備えていてもよい。
図1に示すように、エア供給部60は、エア継手61と、エア流路62と、開閉バルブ63と、減圧弁64と、流量調節弁65と、ヒータ66と、を備えている。
【0039】
エア継手61は、エア供給口52のネジ52aに噛み合わされている。エア継手61は、継手座面53に当接している。エア流路62は、エアコンプレッサ80とエア継手61とを接続している。エア流路62は、ここでは、可撓性を有するチューブである。エア流路62の一端はエア継手61に接続され、他端はエアコンプレッサ80に接続されている。
【0040】
開閉バルブ63、減圧弁64、および流量調節弁65は、エア流路62に設けられている。開閉バルブ63は、エア流路62を閉鎖し、または開放する。開閉バルブ63は、例えば、電磁バルブである。開閉バルブ63は、制御装置70に接続され、制御装置70によって制御されている。制御装置70の制御に従って開閉バルブ63がエア流路62を開放または閉鎖することによって、圧縮空気が乾燥装置40に供給され、または供給停止される。減圧弁64は、エアコンプレッサ80によって生成された圧縮空気の圧力を、乾燥装置40での使用に適した圧力まで減圧している。流量調節弁65は、圧縮空気の流量を、乾燥装置40での使用に適した流量に調整している。
【0041】
ヒータ66は、エア流路62内の圧縮空気を加熱している。ここでは、ヒータ66は、エア流路62に巻きつけられたテープ状のヒータである。ヒータ66は、エア流路62を加熱することによって、エア流路62内の圧縮空気を加熱している。ヒータ66による加熱によって乾燥装置40内の電線5には常温(乾燥装置40周辺の気温)よりも暖かい空気が吹きつけられる。ヒータ66の温度は、制御装置70によって制御されていてもよい。または、制御装置70はヒータ66の作動および停止だけを制御し、ヒータ66の温度はヒータ66が制御していてもよい。
【0042】
上記したエア供給部60の構成は好適な一例であり、これに限定されない。エア流路62はチューブには限定されず、例えば、可撓性を有さない配管であってもよい。開閉バルブ63は電磁バルブには限定されず、例えば、モータ駆動のバルブであってもよい。ヒータ66は巻き付け可能なシート状のヒータには限定されず、通過する空気を加熱する熱風発生機であってもよい。ヒータ66は、ガイドパイプ50を加熱してもよい。乾燥装置40は、ヒータ66を備えなくてもよい。乾燥装置40は、開閉バルブ63、減圧弁64、または流量調節弁65を必ずしも備えなくてもよい。
【0043】
制御装置70は、搬送装置20、インクジェットヘッド30、および乾燥装置40に接続され、これらの動作を制御している。制御装置70の構成は特に限定されない。制御装置70は、例えば、中央演算処理装置(CPU)と、CPUが実行するプログラムなどが格納されたROMと、RAMなどを備えていてもよい。制御装置70の処理部は、ソフトウェアによって構成されていてもよいし、ハードウェアによって構成されていてもよい。また、各処理部は、プロセッサであってもよいし、回路であってもよい。制御装置70は、例えば、プログラマブルコントローラやコンピュータなどであってもよい。制御装置70は、印刷装置10のための専用のコンピュータであってもよく、パーソナルコンピュータなどの汎用のコンピュータであってもよい。制御装置70は、クラウド上のコンピュータであってもよい。
【0044】
[印字プロセス]
以下では、印刷装置10によって電線5に印字を行うプロセスの一例について説明する。ただし、以下に説明する印字プロセスは好適な一例に過ぎず、電線5への印字プロセスは下記に限定されない。電線5への印字プロセスの好適な一例によれば、最初のステップにおいて、搬送装置20により、電線5がインクジェットヘッド30の下方に搬送される。インクジェットヘッド30は、電線5が下方を通過中に駆動され、搬送されている電線5の被覆6に所定の印字7を印刷する。この時点で、印字7のインクはまだ乾燥しておらず、例えば他の物が触れると滲んだり消えたりする状態にある。
【0045】
本実施形態では、電線5の搬送が開始されるのと同時またはほぼ同時に、エア供給部60は、ガイドパイプ50への圧縮空気の供給を開始する。ただし、ガイドパイプ50への圧縮空気の供給が開始されるタイミングは特に限定されるわけではない。
【0046】
電線5へのインクの吐出が完了すると、電線5は、搬送装置20によって、ガイドパイプ50の挿入孔51に挿入される。搬送装置20は、電線5を入口開口部51dからガイドパイプ50内に挿入する。搬送装置20は、そのまま電線5の搬送を継続する。これにより、電線5の前端部は、挿入孔51の小径部51bに挿入される。電線5は必ずしも直線状には成形されておらず、若干湾曲したり屈折していたりする場合があるが、そのような電線5も、テーパ部51cにより小径部51b内に誘導される。電線5は、周方向に捩れてしまうこともあり、その場合、印字7は上方を向いていないこともある。
【0047】
その後、電線5の前端部は、電線出口51eからガイドパイプ50の外部に出る。電線5のうちガイドパイプ50の外部に出た部分は、クランプ90の爪の内方を通過する。このとき印字7のインクの乾燥は完了しインクは固化しているため、クランプ90に触れても、印字7は滲んだり消えたりしない。クランプ90よりもさらに搬送方向下流側に設けられた切断装置(図示せず)に所定の長さだけ電線5が突入すると、電線5の搬送は停止される。電線5は、この位置でクランプ90によって把持され、切断装置によって所定の長さに切断される。この後は、電線5が既にガイドパイプ50に挿入されている状態で、上記と同様の印字7の印刷、乾燥、および電線5の切断が繰り返される。
【0048】
以下では、電線5が挿入されたガイドパイプ50の内部の状態について説明する。
図5は、側方から見たガイドパイプ50の断面図であって、圧縮空気の流れを模式的に示す図である。
図6は、後方から見たガイドパイプ50の断面図であって、圧縮空気の流れを模式的に示す図である。
図5および
図6の矢印Wは、圧縮空気の流れを示している。
図6に示すように、エア供給口52からガイドパイプ50の内部空間S1内に流れ込む圧縮空気は、前後方向視において、電線5の搬送経路R1の周りを旋回するように流れる。本実施形態では、エア供給口52(ここでは、実質的なエア供給口52b)は、その軸線Ax1方向の延長が電線5の搬送経路R1と交差しないように設けられている。そのため、エア供給口52から内部空間S1内に流れ込む圧縮空気は、電線5の搬送経路R1の周りを旋回するように流れやすい。また、エア供給口52から内部空間S1内に流れ込む圧縮空気は、電線5、特に印字7には直接吹きつけられない。
【0049】
図5に示すように、電線5が挿入孔51の小径部51bに挿入された後では、電線出口51eは、電線5により概ね塞がれている。そのため、圧縮空気の流れWのガイドパイプ50からの出口は、入口開口部51dにほぼ限定される。これにより、圧縮空気は電線5の搬送方向上流側に向かって流れる。
図5に示すように、圧縮空気は、電線5の周りを螺旋状に旋回しながら、電線5の搬送方向上流側に向かって流れる。入口開口部51dの開口面積は、少なくとも電線出口51eの開口面積よりも大きく、従って、電線5の断面積よりも大きい。よって、入口開口部51dは、電線5によって塞がれない。これにより、電線5の搬送方向上流側に向かう圧縮空気の流れWが生み出される。
【0050】
電線5の周りを螺旋状に旋回しながら電線5の搬送方向上流側に向かう圧縮空気の流れWは、印字7のインクの乾燥にとって有利に作用する。まず、ガイドパイプ50が電線5の搬送経路R1の周囲を囲むように筒状に形成されていることにより、ガイドパイプ50内に供給された圧縮空気が周囲に拡散しにくい。そのため、例えば自由空間で印字7に圧縮空気を吹きつけるよりも、より短時間でインクを乾燥させることができる。また、使用する圧縮空気の量を節約することもできる。さらには、ガイドパイプ50が筒状に形成されていることにより、エア供給口52から供給された圧縮空気は、ガイドパイプ50の内部空間S1内で渦を巻く。これにより、例えば電線5の周方向の捩れ等の理由で、印字7の向きが設定された通りの向きでない場合にも、渦巻いた圧縮空気が印字7に吹きつけられる。本実施形態に係る乾燥装置40によれば、印字7の向きが設定された通りの向きでない場合でも(さらに言うと、印字7の向きがどのような向きであっても)、印字7のインクを乾燥させることができる。
【0051】
本実施形態では、エア供給口52は、電線5の長手方向に交差する方向にガイドパイプ50貫通している。これによって、圧縮空気が電線5の周りをより旋回しやすくなる。さらに、本実施形態では、エア供給口52(ここでは、実質的なエア供給口52b)は、エア供給口52の貫通方向視において、電線5の搬送経路R1とずれるように設けられている。これによっても、圧縮空気の電線5周りの旋回が促進される。また、エア供給口52から流れ込む圧縮空気が印字7に直接当たることが防止される。印字7の乾燥していないインクに圧縮空気を直接噴射すると、インクを吹き飛ばしたり移動させたりして印字7の品質を低下させるおそれがある。本実施形態に係る乾燥装置40によれば、そのようなおそれを低減することができる。
【0052】
本実施形態では、ガイドパイプ50内の圧縮空気の流れWは搬送方向上流側に向かっており、かかる流れ方向は、搬送装置20による電線5の搬送方向と逆方向である。搬送装置20は、エア供給口52から内部空間S1内に圧縮空気が供給されている状態において、電線5を下流側に搬送している。そのため、電線5に対する圧縮空気の流れWの相対速度は、電線5の搬送速度と圧縮空気の速度とが加算された速度となる。その結果、電線5に対する圧縮空気の流れWの相対速度が速くなり、印字7のインクの乾燥がより促進される。かかる圧縮空気の流れは、エア供給口52よりも電線5の搬送方向上流に入口開口部51dが設けられていることによって発生する。なお、本実施形態では、入口開口部51dは、ガイドパイプ50の上流側の端部に設けられており、ガイドパイプ50内への電線5の入口と、ガイドパイプ50からの圧縮空気の出口とを兼ねている。これにより、ガイドパイプ50の構造がシンプルなものとなっている。
【0053】
さらに本実施形態では、電線出口51eの開口面積は、入口開口部51dの開口面積よりも小さい。これにより、ガイドパイプ50内の圧縮空気が電線5の搬送方向上流側に向かいやすくなる。本実施形態では、電線出口51eの開口面積は電線5の断面積とほぼ同じ大きさであるため、電線出口51eを電線5が通過すると、電線出口51eは、電線5によりほぼ閉鎖される。これにより、ガイドパイプ50内の圧縮空気が電線5の搬送方向上流側に向かって流れる。
【0054】
本願発明者は、圧縮空気が電線5の周りを螺旋状に旋回しながら電線5の搬送方向上流側に向かうように流れる(
図5および
図6のように流れる)ことを、シミュレーションにより確認している。また、本願発明者は、本実施形態に係る印刷装置10を使用することにより、自然乾燥よりも遥かに短時間で印字7のインクを乾燥できることを確認している。圧縮空気の温度は印字7の乾燥の短時間化に寄与するが、エア流路62内を流れて入れ替わっていく空気の温度を維持することが難しいため、圧縮空気は加熱してもしなくてもよい。本願発明者の試行によれば、圧縮空気の温度が常温であっても、印字7のインクを短時間で乾燥させることができる。ただし、例えば熱風発生機等によれば、エア供給口52に供給する空気の温度を安定して維持することもできる。
【0055】
[他の実施形態]
以上、好適な一実施形態について説明した。しかし、上記実施形態は一例に過ぎず、他にも様々な実施形態が可能である。例えば、上記した実施形態では、印字7のインクへの圧縮空気の吹きつけは電線5を移動させながら行われたが、電線を停止させて行われてもよい。上記した実施形態では、圧縮空気が出て行く入口開口部51dは電線5の搬送方向上流に向かって開口していたが、電線の搬送方向下流、またはその他の方向に向かって開口していてもよい。圧縮空気が出て行く開口部は、電線が挿入される入口開口部でなくてもよい。
【0056】
上記した実施形態では、ガイドパイプ50は電線出口51eを有していたが、電線出口51eを有さなくてもよい。その場合、電線は、インクの乾燥後、搬送方向上流側に戻されてもよい。電線の搬送方向は、電線の長手方向に限定されない。電線は、例えば、その長手方向に交差する方向に平行移動または旋回移動されてもよい。
【0057】
ガイドパイプ50を一例とする筒状部材の構成は特に限定されない。筒状部材は、電線の搬送経路の周囲を囲むように設けられ、圧縮空気が供給されるエア供給口と、圧縮空気が排出されるように開口した開口部と、を備えていれば足り、それ以上限定されない。例えば、エア供給口は、電線の搬送経路と略平行に設けられていてもよい。また、筒状部材は、印字のインクを乾燥させる際に筒状であればよく、インクの乾燥時以外は他の形状であってもよい。例えば、筒状部材は可動部を有し、形状が変わるように構成されていてもよい。
【0058】
さらには、電線用印刷装置は、ガイドパイプ50のような筒状部材を備えていなくてもよい。
図7は、他の実施形態に係る電線用印刷装置10の構成を表す模式図である。以下の実施形態の説明では、上記した実施形態と同じ機能を奏する部材には同じ符号を使用する。
図7に示すように、この実施形態に係る電線用印刷装置10は、インクを吐出することにより電線5に印刷を行うインクジェットヘッド30と、少なくともインクジェットヘッド30によって印刷が行われた後の電線5を搬送する搬送装置20と、筒状部材を備えない乾燥装置40と、を備えている。乾燥装置40は、最初の実施形態と同様に、インクジェットヘッド30よりも電線5の搬送方向下流に設けられている。本実施形態に係る乾燥装置40は、電線5の印刷部分に空気を吹きかけるエアノズル41を備えている。エアノズル41は、エア流路62を介して、外部のエアコンプレッサ80に接続されている。エア流路62には、開閉バルブ63、減圧弁64、流量調節弁65、およびヒータ66が設けられている。本実施形態では、空気はエアノズル41から電線5上の印字7に直接吹きつけられる。
【0059】
図7に示すように、本実施形態では、乾燥装置40は、電線5の搬送方向上流に向かって空気を吹きかけるように構成されている。搬送装置20は、最初の実施形態と同様、電線5の印刷部分に乾燥装置40が空気を吹きかけているときに電線5を搬送するように構成されている。これにより、空気の流れWと電線5との間の相対速度が増加する。ただし、乾燥装置40は、電線5の搬送方向上流に向かって空気を吹きかけるように構成されていなくてもよい。例えば、乾燥装置40は、電線5の搬送方向に直交する方向に空気を吹きかけるように構成されていてもよい。なお、本明細書では、「ある方向に向かって空気を吹きかける」とは、例えば最初の実施形態のように、流路の構成によって所定の方向に向かう空気の流れを作ること全般を含む。
【0060】
図7に示す実施形態によっても、印字7のインクを自然乾燥よりも短時間で乾燥させることができる。エアノズル41の数量は特に限定されず、複数であってもよい。電線5上の印字7に吹きかける空気は、エアコンプレッサ等によって生成した圧縮空気でなくてもよい。乾燥装置40は、例えば、電線5上の印字7に空気を吹きかける送風ファンを備えていてもよい。
【0061】
その他、特に言及しない限り、実施形態は本発明を限定しない。
【符号の説明】
【0062】
5 電線
7 印字
10 電線用印刷装置
20 搬送装置
30 インクジェットヘッド
40 乾燥装置
50 ガイドパイプ(筒状部材)
51 挿入孔
51d 入口開口部(開口部)
51e 電線出口
52 エア供給口(供給口)