(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】双極板、セルフレーム、セルスタック、及びレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20250414BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20250414BHJP
H01M 8/0226 20160101ALI20250414BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20250414BHJP
H01M 8/0273 20160101ALI20250414BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/0221
H01M8/0226
H01M8/0228
H01M8/0273
(21)【出願番号】P 2023550856
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035909
(87)【国際公開番号】W WO2023053281
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000239079
【氏名又は名称】福岡クロス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】寒野 毅
(72)【発明者】
【氏名】天岡 大和
(72)【発明者】
【氏名】吉田 龍
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-068091(JP,A)
【文献】特開2016-119181(JP,A)
【文献】特開2020-181661(JP,A)
【文献】特開2019-160795(JP,A)
【文献】特開平06-290796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックスフロー電池に用いられる双極板であって、
複数の複合シートと、
積層された前記複合シート同士を接合する第一混合物と
、
前記双極板の表面を構成する第三混合物とを備え、
前記複数の複合シートの各々は、
複数の空隙を含む樹脂シートと、
前記樹脂シートの前記複数の空隙の少なくとも一部に充填された第二混合物とを備え、
前記第一混合物と前記第二混合物との各々は、
複数の導電性粒子と、
前記複数の導電性粒子を前記樹脂シートに固定する樹脂バインダとを含
み、
前記第三混合物は、
複数の導電性粒子と、
前記複数の導電性粒子を前記樹脂シートに固定する樹脂バインダとを含む、
双極板。
【請求項2】
レドックスフロー電池に用いられる双極板であって、
複数の複合シートと、
積層された前記複合シート同士を接合する第一混合物とを備え、
前記複数の複合シートの各々は、
複数の空隙を含む樹脂シートと、
前記樹脂シートの前記複数の空隙の少なくとも一部に充填された第二混合物とを備え、
前記第一混合物と前記第二混合物との各々は、
複数の導電性粒子と、
前記複数の導電性粒子を前記樹脂シートに固定する樹脂バインダとを含
み、
前記複合シートの積層数が7以上である、
双極板。
【請求項3】
前記双極板の表面を構成する第三混合物を備え、
前記第三混合物は、
複数の導電性粒子と、
前記複数の導電性粒子を前記樹脂シートに固定する樹脂バインダとを含む請求項
2に記載の双極板。
【請求項4】
前記樹脂シートの質量割合が3質量%以上15質量%以下である請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載の双極板。
【請求項5】
前記第一混合物は、隣り合う前記複合シートの前記樹脂シートの間に配置されている請求項1
から請求項4のいずれか1項に記載の双極板。
【請求項6】
前記樹脂シートは、複数の樹脂繊維を含む請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の双極板。
【請求項7】
前記樹脂シートは、不織布又は織布である請求項
6に記載の双極板。
【請求項8】
前記複数の樹脂繊維は、ポリプロピレン繊維を含む請求項
6又は請求項
7に記載の双極板。
【請求項9】
前記樹脂シートの厚さが0.1mm以上2mm以下である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の双極板。
【請求項10】
前記双極板の厚さが2mm以上10mm以下である請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の双極板。
【請求項11】
前記双極板の曲げ強度が0.5MPa以上である請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の双極板。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の双極板を備える、
セルフレーム。
【請求項13】
請求項12に記載のセルフレームを備える、
セルスタック。
【請求項14】
請求項13に記載のセルスタックを備える、
レドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、双極板、セルフレーム、セルスタック、及びレドックスフロー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レドックスフロー電池は、複数の電池セルが積層されたセルスタックを備える。電池セルは、正極電極と、負極電極と、正極電極と負極電極との間に配置される隔膜とを備える。セルスタックは、隣り合う電池セルの間を仕切る双極板を備える。
【0003】
特許文献1は、カーボンフェルトが積層された双極板を開示する。この双極板は、カーボンフェルトが双極板の面方向に積層された積層体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の双極板は、レドックスフロー電池に用いられる双極板であって、複数の複合シートと、積層された前記複合シート同士を接合する第一混合物とを備え、前記複数の複合シートの各々は、複数の空隙を含む樹脂シートと、前記樹脂シートの前記複数の空隙の少なくとも一部に充填された第二混合物とを備え、前記第一混合物と前記第二混合物との各々は、複数の導電性粒子と、前記複数の導電性粒子を前記樹脂シートに固定する樹脂バインダとを含む。
【0006】
本開示のセルフレームは、本開示の双極板を備える。
【0007】
本開示のセルスタックは、本開示のセルフレームを備える。
【0008】
本開示のレドックスフロー電池は、本開示のセルスタックを備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係るレドックスフロー電池の構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、レドックスフロー電池に備えるセルスタックの構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る双極板を示す概略斜視図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る双極板の断面を拡大して示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る双極板における複合シートの構成を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る双極板における複合シート同士の境界部分の近傍を拡大して示す概略図である。
【
図7】
図7は、変形例に係る双極板の断面を拡大して示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、変形例に係る双極板における複合シートの構成を示す概略断面図である。
【
図9】
図9は、変形例に係る双極板における複合シート同士の境界部分の近傍を拡大して示す概略図である。
【
図10】
図10は、変形例に係る双極板における表面部分の近傍を拡大して示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示が解決しようとする課題]
レドックスフロー電池において、機械的強度に優れる双極板が望まれている。
【0011】
レドックスフロー電池に用いられる双極板は、隣り合う電池セルの正極電極と負極電極とを電気的に接続すること、隣り合う電池セル間で電解液を混合させないことが主な役割である。そのため、双極板は、導電性を有すること、電解液を通さない遮液性を有することが必要である。また、双極板は、例えばセルフレームの製造時など、ハンドリングした際に曲げ応力が作用することがある。この曲げ応力は、双極板が割れる要因となり得る。そのため、双極板を使用した部品の生産性の観点から、双極板は、ハンドリング時の曲げ応力に耐えられる高い機械的強度を有することが求められる。従来、双極板の機械的強度を向上することについて、十分に検討されていなかった。
【0012】
本開示は、機械的強度に優れる双極板を提供することを目的の一つとする。本開示は、上記双極板を備えるセルフレーム、上記セルフレームを備えるセルスタック、及び上記セルスタックを備えるレドックスフロー電池を提供することを別の目的の一つとする。
【0013】
[本開示の効果]
本開示の双極板は機械的強度に優れる。本開示のセルフレーム、本開示のセルスタック、及び本開示のレドックスフロー電池は、機械的強度に優れる双極板を備える。
【0014】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0015】
(1)本開示の実施形態に係る双極板は、レドックスフロー電池に用いられる双極板であって、複数の複合シートと、積層された前記複合シート同士を接合する第一混合物とを備え、前記複数の複合シートの各々は、複数の空隙を含む樹脂シートと、前記樹脂シートの前記複数の空隙の少なくとも一部に充填された第二混合物とを備え、前記第一混合物と前記第二混合物との各々は、複数の導電性粒子と、前記複数の導電性粒子を前記樹脂シートに固定する樹脂バインダとを含む。
【0016】
本開示の双極板は、第一混合物によって、複数の複合シートが積層された状態で一体化されている。本開示の双極板は機械的強度に優れる。その理由は、樹脂シートが補強材として機能するからである。上記の双極板は、従来から使用されていたプラスチックカーボンからなる双極板と比較して、高い機械的強度を有する。プラスチックカーボンからなる双極板は、樹脂にカーボン粒子が混合された混合物を成形したものである。本開示の双極板は、樹脂シートが層状に積み重なった構造をしている。そのため、本開示の双極板は複合シートの積層方向の曲げに対して強い。本開示の双極板は、例えばハンドリング時の曲げ変形による割れの発生を抑制できる。
【0017】
本開示の双極板は、導電性及び遮液性を有する。遮液性とは、双極板が電解液を通さない性質のことをいう。本開示の双極板は、第二混合物に含まれる複数の導電性粒子が樹脂シートの内部に分散した状態で保持されている。そのため、本開示の双極板は導電性を確保できる。また、本開示の双極板は、複数の複合シートが積層されることによって、複合シートの積層方向に連通するような空隙が形成され難い。樹脂シートに第二混合物が充填されていることで、樹脂シートには上記空隙が少ない。そのため、本開示の双極板は電解液の遮液性を確保できる。
【0018】
(2)上記の双極板の一形態として、前記樹脂シートの質量割合が3質量%以上15質量%以下であってもよい。
【0019】
上記の形態は、双極板の機械的強度と導電性とを確保し易い。
【0020】
(3)上記の双極板の一形態として、前記第一混合物は、隣り合う前記複合シートの前記樹脂シートの間に配置されている。
【0021】
上記の形態は、第一混合物によって、隣り合う複合シート同士を接合し易い。
【0022】
(4)上記の双極板の一形態として、前記双極板の表面を構成する第三混合物を備え、前記第三混合物は、複数の導電性粒子と、前記複数の導電性粒子を前記樹脂シートに固定する樹脂バインダとを含む。
【0023】
上記の形態は、双極板の表面が第三混合物で構成されていることで、双極板の表面の導電性が向上する。
【0024】
(5)上記の双極板の一形態として、前記樹脂シートは、複数の樹脂繊維を含む。
【0025】
複数の樹脂繊維を含む樹脂シートは、繊維間に空隙を有する。上記の形態は、繊維間の空隙に第二混合物が充填される。
【0026】
(6)上記(5)に記載の双極板の一形態として、前記樹脂シートは、不織布又は織布であってもよい。
【0027】
上記の形態は、繊維間の空隙に充填される第二混合物が多くなることで、双極板の導電性を高めることができる。
【0028】
(7)上記(5)又は(6)に記載の双極板の一形態として、前記複数の樹脂繊維は、ポリプロピレン繊維を含む。
【0029】
上記の形態は、双極板の機械的強度を高めることができる。
【0030】
(8)上記の双極板の一形態として、前記複合シートの積層数が7以上であってもよい。
【0031】
上記の形態は、双極板の機械的強度と遮液性とを確保し易い。
【0032】
(9)上記の双極板の一形態として、前記樹脂シートの厚さが0.1mm以上2mm以下であってもよい。
【0033】
上記の形態は、双極板の機械的強度と遮液性とを確保しつつ、双極板の薄型化を実現し易い。
【0034】
(10)上記の双極板の一形態として、前記双極板の厚さが2mm以上10mm以下であってもよい。
【0035】
上記の形態は、双極板の機械的強度と遮液性とを確保しつつ、双極板の薄型化を実現できる。
【0036】
(11)上記の双極板の一形態として、前記双極板の曲げ強度が0.5MPa以上であってもよい。
【0037】
上記の形態は、曲げに強く、双極板に割れが生じ難い。
【0038】
(12)本開示の実施形態に係るセルフレームは、上記(1)から(11)のいずれか1つに記載の双極板を備える。
【0039】
本開示のセルフレームは、機械的強度に優れる双極板を備える。セルフレームの製造時に双極板が割れ難いため、本開示のセルフレームは生産性に優れる。
【0040】
(13)本開示の実施形態に係るセルスタックは、上記(12)に記載のセルフレームを備える。
【0041】
本開示のセルスタックは、上述した本開示のセルフレームを備えることから、機械的強度に優れる双極板を備える。セルスタックの製造時に双極板が割れ難いため、本開示のセルスタックは生産性に優れる。
【0042】
(14)本開示の実施形態に係るレドックスフロー電池は、上記(13)に記載のセルスタックを備える。
【0043】
本開示のレドックスフロー電池は、上述した本開示のセルスタックを備えることから、機械的強度に優れる双極板を備える。レドックスフロー電池の組み立て時に双極板が割れ難いため、本開示のレドックスフロー電池は生産性に優れる。
【0044】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の双極板、セルフレーム、セルスタック、及びレドックスフロー電池の具体例を、図面を参照して説明する。以下、レドックスフロー電池を「RF電池」と呼ぶ場合がある。図中の同一符号は同一又は相当部分を示す。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
以下、先に、RF電池、セルスタック、セルフレームについて説明し、その後、双極板について詳しく説明する。
【0045】
<RF電池>
図1を参照して、RF電池1を説明する。RF電池1は、代表的には、交流/直流変換器7や変電設備71を介して発電部8及び負荷9に接続される。RF電池1は、発電部8で発電された電力を充電したり、充電した電力を負荷9に放電したりすることが可能である。発電部8は、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーを利用した発電設備やその他一般の発電所である。RF電池1は、例えば、負荷平準化用途、瞬低補償、非常用電源などの用途、自然エネルギー発電の出力平滑化用途に利用される。
【0046】
RF電池1は、電池セル100に電解液を循環させることで充放電を行う。RF電池1は、電池セル100と、電解液を貯留するタンクと、電池セル100とタンクとの間で電解液を循環させる循環流路とを備える。タンクは、正極電解液を貯留する正極電解液タンク106と、負極電解液を貯留する負極電解液タンク107とを有する。循環流路は、電池セル100と各タンクとの間を接続する配管を有する。
【0047】
電解液には、例えば、バナジウム系電解液、チタン-マンガン系電解液などが使用される。バナジウム系電解液は、正極電解液及び負極電解液の両方が、活物質としてバナジウムイオンを含有する。チタン-マンガン系電解液は、正極電解液が活物質としてマンガンイオンを含有し、負極電解液が活物質としてチタンイオンを含有する。
【0048】
(電池セル)
電池セル100は、正極電極104と、負極電極105と、隔膜101とを備える。隔膜101は正極電極104と負極電極105との間に配置される。電池セル100は隔膜101によって正極セル102と負極セル103とに分かれている。正極電極104は正極セル102に配置されている。負極電極105は負極セル103に配置されている。
【0049】
正極セル102には、正極電解液が供給される。負極セル103には、負極電解液が供給される。RF電池1は、
図1に示すように、電池セル100と正極電解液タンク106との間を接続する往路配管108及び復路配管110を備える。また、RF電池1は、電池セル100と負極電解液タンク107との間を接続する往路配管109及び復路配管111を備える。往路配管108,109には、ポンプ112,113が設けられている。正極電解液は、ポンプ112によって正極電解液タンク106から往路配管108を通って正極セル102に供給される。正極セル102を通り正極セル102から排出された正極電解液は、復路配管110を通って正極電解液タンク106に戻される。つまり、往路配管108及び復路配管110によって、正極電解液の循環流路が構成されている。負極電解液は、ポンプ113によって負極電解液タンク107から往路配管109を通って負極セル103に供給される。負極セル103を通り負極セル103から排出された負極電解液は、復路配管111を通って負極電解液タンク107に戻される。つまり、往路配管109及び復路配管111によって、負極電解液の循環流路が構成されている。
【0050】
<セルスタック>
RF電池1はセルスタック2を備える。セルスタック2は、複数の電池セル100が積層された構造を有する。セルスタック2は、例えば
図2に示すように、サブスタック200sをその両側から2枚のエンドプレート210で挟み込み、締付機構230で締め付けることで構成されている。
図2は、複数のサブスタック200sを備えるセルスタック2を示している。サブスタック200sは、積層体と、積層体の両端に設けられる給排板220とを備える。積層体は、セルフレーム120、正極電極104、隔膜101、負極電極105の順に繰り返し積層される。給排板220には、上述した
図1に示す往路配管108,109及び復路配管110,111が接続される。セルスタック2における電池セル100の積層数は適宜選択できる。
【0051】
<セルフレーム>
セルフレーム120は、双極板10を備える。本実施形態のセルフレーム120は、双極板10と、双極板10の外周に設けられた枠体122とを有する。双極板10は、
図1に示すように、隣り合う電池セル100の間を仕切る。双極板10は、隣り合う電池セル100の正極電極104と負極電極105との間に配置される。双極板10の表面は、正極電極104と向かい合う第一の面と、負極電極105と向かい合う第二の面とを有する。枠体122は、
図2に示すように、双極板10の外周に設けられる。枠体122の内側には、双極板10の表面と枠体122の内周面とにより凹部122rが形成される。凹部122rは、双極板10の両側にそれぞれ形成されている。双極板
10の第一の面側の凹部122rには正極電極104が配置される。双極板
10の第二の面側の凹部122rには負極電極105が配置される。各凹部122rは、上述した
図1に示す正極セル102及び負極セル103の各セル空間を形成する。
【0052】
枠体122の材質は樹脂である。枠体122を構成する樹脂は、例えば、塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、フッ素樹脂などである。フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられる。枠体122は、例えば、双極板10の外周に樹脂を射出成形することで形成されている。
【0053】
セルスタック2では、
図1に示すように、隣り合う各セルフレーム120の双極板10の間に1つの電池セル100が設けられる。各セルフレーム120の枠体122の間には、電解液の漏洩を抑制する環状のシール部材127が配置される。シール部材127は、例えばOリングなどである。
【0054】
図2に示すように、セルフレーム120の枠体122は、給液マニホールド123,124及び排液マニホールド125,126を有する。本例では、正極電解液は、給液マニホールド123から給液スリット123sを介して正極電極104に供給される。正極電極104に供給された正極電解液は、排液スリット125sを介して排液マニホールド125に排出される。同様に、負極電解液は、給液マニホールド124から給液スリット124sを介して負極電極105に供給される。負極電極105に供給された負極電解液は、排液スリット126sを介して排液マニホールド126に排出される。給液マニホールド123,124及び排液マニホールド125,126は枠体122を貫通するように形成されている。給液マニホールド123,124及び排液マニホールド125,126は、セルフレーム120が積層されることによって各電解液の流路を構成する。これら各流路は、給排板220を介して
図1に示す往路配管108,109及び復路配管110,111の各配管にそれぞれつながっている。セルスタック2は、上記各流路によって、各電池セル100に正極電解液及び負極電解液を流通させることが可能である。
【0055】
<双極板>
図3から
図6を参照して、実施形態に係る双極板10を説明する。実施形態に係る双極板10の特徴の一つは、
図4に示すように、複数の複合シート11が積層された構造を有する点にある。双極板10は、
図5に示す複数の複合シート11と、
図6に示す第一混合物30aとを備える。第一混合物30aは、積層された複合シート11同士を接合する。複数の複合シート11の各々は、
図6に示すように、樹脂シート20と、第二混合物30bとを備える。樹脂シート20は、
図6に示すように、複数の空隙24を含む。第二混合物30bは、樹脂シート20の複数の空隙24の少なくとも一部に充填されている。第一混合物30aと第二混合物30bとの各々は、複数の導電性粒子31と、樹脂バインダ32とを含む。
【0056】
図4は、
図3のIV-IV断面の一部を示す。
図4に示す双極板10の断面は、双極板10の厚さ方向に沿って切断した断面である。双極板10の厚さ方向は双極板10の表面に直交する方向である。双極板10の厚さ方向は複合シート11の積層方向に相当する。
図5は、隣り合う複合シート11の断面を拡大して示す。
図6は、
図5のVI線で囲む部分を拡大して示す。
図5、
図6では、便宜上、樹脂バインダ32をハッチングで示している。
図5、
図6では、樹脂シート20の構成、空隙24の形状及び大きさ、第一混合物30a及び第二混合物30bの構成を簡略化して模式的に示している。図中、矢印Zは厚さ方向を示す。
【0057】
双極板10は、樹脂シート20が補強材として機能することで、機械的強度に優れる。また、双極板10は、導電性を有すると共に、電解液を通さない遮液性を有する。
【0058】
双極板10の形状は適宜選択できる。本例では、双極板10は、平面視において矩形状である。双極板10の厚さは、例えば2mm以上10mm以下である。双極板10の厚さが大きいほど、双極板10の機械的強度が向上する。また、双極板10の厚さが大きいほど、双極板10の厚さ方向、即ち複合シート11の積層方向に連通するような空隙が形成され難い。そのため、双極板10の遮液性が向上する。双極板10の厚さが2mm以上であれば、双極板10の機械的強度と遮液性とを確保し易い。双極板10の厚さが10mm以下であれば、双極板10の薄型化を図ることができる。双極板10が薄型化されることにより、セルスタック2を小型化でき、ひいてはRF電池1を小型化できる。また、双極板10が薄いほど、双極板10の電気抵抗が小さくなる。双極板10の厚さは、更に4mm以上8mm以下でもよい。
【0059】
双極板10の曲げ強度は、例えば0.5MPa以上である。双極板10の曲げ強度が0.5MPa以上であれば、双極板10は曲げに強く割れ難い。曲げ強度は、3点曲げ試験による曲げ強度である。双極板10の曲げ強度は、例えば0.8MPa以上、1.0MPa以上が好ましい。双極板10の曲げ強度は、更に2MPa以上、5MPa以上でもよい。双極板10の曲げ強度の上限は、実用的には例えば40MPaである。即ち、双極板10の曲げ強度は、例えば0.5MPa以上40MPa以下である。
【0060】
双極板10の引張強度は、例えば2MPa以上である。双極板10の引張強度が2MPa以上であれば、双極板として十分な引張強度を有する。双極板10の引張強度は、更に6MPa以上、20MPa以上でもよい。双極板10の引張強度の上限は、実用的には例えば40MPaである。即ち、双極板10の引張強度は、例えば2MPa以上40MPa以下である。
【0061】
双極板10の体積抵抗率は、例えば2.0Ω・cm以下である。双極板10の体積抵抗率が2.0Ω・cm以下であれば、双極板は良好な導電性を有する。双極板10の体積抵抗率は、例えば1.5Ω・cm以下、1.0Ω・cm以下が好ましい。双極板10の体積抵抗率は、更に0.5Ω・cm以下、0.3Ω・cm以下、0.2Ω・cm以下でもよい。双極板10の体積抵抗率の下限は、例えば0.05Ω・cmである。即ち、双極板10の体積抵抗率は、例えば0.05Ω・cm以上2.0Ω・cm以下である。体積抵抗率は、双極板の面方向の体積抵抗率である。双極板の面方向とは、双極板の厚さ方向と直交する方向である。
【0062】
(複合シート)
複合シート11は、
図6に示すように、樹脂シート20の空隙24に充填された第二混合物30bを備える。樹脂シート20は、第二混合物30bによって、複数の空隙24の少なくとも一部が埋められている。したがって、樹脂シート20には、第二混合物30bによって埋められていない空隙24が少ない。本例では、樹脂シート20の空隙24のほぼ全てに第二混合物30bが充填されている。つまり、樹脂シート20の内部の全体にわたって第二混合物30bが実質的に充填されている。第二混合物30bに含まれる複数の導電性粒子31が樹脂シート20の内部に分散した状態で保持されることで、双極板10の導電性を確保できる。
【0063】
また、
図4に示すように、複数の複合シート11が積層されることで、複合シート11の積層方向に連通するような空隙24(
図6参照)が形成され難い。その結果、双極板10の遮液性を確保できる。複合シート11の積層数は適宜選択できる。
図4では、説明の便宜上、複合シート11の積層数を3としている。複合シート11の積層数は、例えば7以上である。複合シート11の積層数と樹脂シート20の数とは一致する。複合シート11の積層数が多いほど、樹脂シート20の数が増える。そのため、双極板10の機械的強度を高めることができる。また、複合シート11の積層数が多いほど、複合シート11の積層方向に連通するような空隙24が形成され難い。そのため、遮液性が向上する。複合シート11の積層数が7以上であれば、双極板10の機械的強度と遮液性とを確保し易い。複合シート11の積層数の上限は、例えば80である。複合シート11の積層数が80以下であれば、双極板10の薄型化を図ることができる。複合シート11の積層数は、更に15以上60以下、20以上50以下でもよい。
【0064】
(樹脂シート)
樹脂シート20は、樹脂からなるシートである。樹脂シート20は、複数の空隙24(
図6参照)を含む3次元構造を有する。空隙24は、樹脂シート20の表面から内部まで連続した開空隙を備える。開空隙は、樹脂シート20の内部から外部につながっている空隙である。更に、空隙24は、樹脂シート20の表面に開口せず、樹脂シート20内に孤立した閉空隙を含んでもよい。閉空隙は、樹脂シート20の内部に存在し、外部とつながっていない空隙である。樹脂シート20の形態は、例えば、繊維集合体、スポンジなどのいずれの形態でもよい。樹脂シート20は公知のものを用いることができる。繊維集合体については後述する。
【0065】
樹脂シート20は、電解液に対する耐性を有すると共に、機械的特性に優れることが好ましい。樹脂シート20を構成する樹脂は、例えば、PP、PE、PTFE、ポリアミド(PA)などである。ポリアミドには、アラミドが含まれる。これらの樹脂のうち、機械的特性、電解液に対する耐性、コストなどの観点から、PPが好ましい。
【0066】
樹脂シート20の質量割合は、例えば3質量%以上15質量%以下である。樹脂シート20の質量割合が多いほど、双極板10の機械的強度が向上する。樹脂シート20の質量割合が3質量%以上であれば、双極板10の機械的強度を確保し易い。樹脂シート20の質量割合が多くなると、双極板10の電気抵抗が高くなる。樹脂シート20の質量割合が15質量%以下であることで、双極板10の電気抵抗を低くできる。樹脂シート20の質量割合は、更に7質量%以上9.5質量%以下でもよい。
【0067】
樹脂シート20の質量割合は、双極板10全体の質量を100%としたときの、樹脂シート20の質量の割合である。樹脂シート20の質量割合は、双極板10の質量をM、樹脂シート20の質量をMaとすると、[(Ma/M)×100]で表される。樹脂シート20の質量は、複合シート11から第一混合物30aや第二混合物30bを除いた質量である。樹脂シート20の質量は、例えば、次のようにして測定する。双極板10を溶剤に漬けて、上記各混合物に含まれる樹脂バインダ32を溶剤で溶かす。溶剤は、樹脂バインダ32を溶かすが、樹脂シート20を溶かさない溶剤を選択する。溶剤には、例えばトルエン、キシレン、エステル、ベンゼンなどを用いることができる。樹脂バインダ32を溶かした後、樹脂シート20を洗浄する。樹脂シート20を洗浄することで、樹脂シート20に付着している導電性粒子31を洗い落とす。樹脂シート20を乾燥した後、樹脂シート20の質量を測定する。
【0068】
樹脂シート20の厚さは、例えば0.1mm以上2mm以下である。樹脂シート20の厚さが大きいほど、双極板10の機械的強度が向上する。また、樹脂シート20の厚さが大きいほど、樹脂シート20の厚さ方向に連通するような空隙24(
図6参照)が形成され難い。そのため、遮液性が向上する。樹脂シート20の厚さが0.1mm以上であれば、双極板10の機械的強度と遮液性とを確保し易い。樹脂シート20の厚さが2mm以下であれば、双極板10の薄型化を図ることができる。樹脂シート20の厚さは、更に0.15mm以上1mm以下でもよい。ここでいう樹脂シート20の厚さは、樹脂シート20が圧縮されていない状態での厚さである。
【0069】
樹脂シート20の空隙率は、例えば20体積%以上95体積%以下である。樹脂シート20の空隙率が大きいほど、樹脂シート20の内部に充填される第二混合物30bの充填率を高くすることができる。つまり、導電性粒子31の質量割合が増える。その結果、双極板10の導電性が向上する。樹脂シート20の空隙率が20体積%以上であることで、双極板10の導電性を高めることができる。樹脂シート20の空隙率が大きくなると、樹脂シート20の機械的強度が低下する。即ち、双極板10の機械的強度が低下する。樹脂シート20の空隙率が95体積%以下であることで、双極板10の機械的強度を確保し易い。樹脂シート20の空隙率は、更に30体積%以上90体積%以下でもよい。
【0070】
樹脂シート20の空隙率は、樹脂シート20の見かけの体積を100%としたときの、空隙の体積の割合である。樹脂シート20の空隙率は、樹脂シート20の見かけの体積をV、空隙の体積をVpとすると、[(Vp/V)×100]で表される。見かけの体積は、空隙を含む樹脂シート20の体積である。樹脂シート20の空隙率は、例えばアルキメデス法を用いて測定できる。樹脂シート20の空隙率の測定は、上述した溶剤を用いて樹脂シート20から上記各混合物を除去して行う。
【0071】
〈繊維集合体〉
本例では、樹脂シート20は、
図5に示すように、複数の樹脂繊維22を含む繊維集合体である。繊維集合体は、複数の樹脂繊維22によって構成されたシートである。繊維集合体は、
図6に示すように、樹脂繊維22間に空隙24を有する。この空隙24に第二混合物30bが充填されている。即ち、樹脂シート20が繊維集合体である場合、樹脂繊維22間の空隙24に第二混合物30bが充填されていることによって、繊維集合体の内部に複数の導電性粒子31が保持されている。
【0072】
繊維集合体としては、例えば、不織布、織布、ペーパーなどが挙げられる。不織布及び織布は、複数の樹脂繊維22同士が絡み合って形状が維持される。ペーパーは、複数の樹脂繊維22同士が結着されて形状が維持される。不織布は、独立した個々の樹脂繊維22を交絡したものである。織布は、複数の樹脂繊維22同士を撚り合わせた糸を織ったものである。不織布又は織布は、樹脂繊維22同士を結着する結着材を含むペーパーに比べて、樹脂繊維22間に多くの空隙24が存在する。そのため、不織布又は織布は空隙率が比較的大きい。樹脂シート20が不織布又は織布である場合、樹脂シート20の内部に充填される第二混合物30bが多くなり易い。その結果、導電性粒子31の質量割合を増やすことができる。特に、不織布は、織布に比較して、樹脂繊維22間に微細な空隙が均一に分布する点で有利である。繊維集合体は公知のものを用いることができる。
【0073】
樹脂繊維22は、例えば、PP、PE、PTFE、PAなどの繊維である。樹脂繊維22は、機械的特性、電解液に対する耐性、コストなどの観点から、PP繊維が好ましい。PP繊維を含む繊維集合体は機械的強度を確保し易い。
【0074】
樹脂繊維22の平均径は、例えば5μm以上50μm以下である。樹脂繊維22の平均径が5μm以上であることで、繊維集合体の機械的強度を確保し易い。樹脂繊維22の平均径が50μm以下であることで、樹脂繊維22は適切な可撓性を有することができる。よって、繊維集合体は良好な可撓性を有する。樹脂繊維22の平均径は、更に10μm以上40μm以下でもよい。
【0075】
樹脂繊維22の平均径は、例えば、次のようにして測定できる。繊維集合体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する。SEM像を画像解析することにより、樹脂繊維22の断面の面積を算出する。樹脂繊維22の断面は、樹脂繊維22の長手方向に直交する断面である。樹脂繊維22の径は、樹脂繊維22の断面積と等しい面積を持つ円の直径とする。樹脂繊維22の平均径は、例えば10本以上の樹脂繊維22の径の平均値とする。樹脂繊維22の測定数は、更に20本以上、30本以上でもよい。観察時のSEMの加速電圧は例えば10kV以上20kV以下とする。観察時のSEMの倍率は例えば100倍以上500倍以下とする。
【0076】
(混合物)
第一混合物30aと第二混合物30bとの各々は、
図6に示すように、複数の導電性粒子31と、樹脂バインダ32とを含む混合物である。第一混合物30aは隣り合う複合シート11同士を接合する。第一混合物30aに含まれる樹脂バインダ32が、複合シート11同士を接合する接着剤として機能する。本例では、第一混合物30aと第二混合物30bとは同じ混合物である。第一混合物30aと第二混合物30bとが同じ場合、第一混合物30a、及び第二混合物30bの各々に含まれる導電性粒子31の材質、及び樹脂バインダ32の材質が同じである。第一混合物30aと第二混合物30bとが同じ場合、第一混合物30aにおける導電性粒子31の含有量、及び樹脂バインダ32の含有量と、第二混合物30bにおける導電性粒子31の含有量、及び樹脂バインダ32の含有量とは実質的に同じである。導電性粒子31の含有量が実質的に同じとは、第一混合物30aにおける導電性粒子31の含有量と第二混合物30bにおける導電性粒子31の含有量との比が0.9以上1.1以下の範囲内であることを意味する。樹脂バインダ32の含有量が実質的に同じとは、第一混合物30aにおける樹脂バインダ32の含有量と第二混合物30bにおける樹脂バインダ32の含有量との比が0.9以上1.1以下の範囲内であることを意味する。また、本例では、隣り合う複合シート11同士が接触している。第一混合物30aは、各樹脂シート20の空隙24に充填された第二混合物30bのうち、隣り合う複合シート11の境界を構成する部分である。換言すれば、樹脂シート20の表面に開口する空隙24に充填された第二混合物30bの一部が第一混合物30aを兼ねる。
【0077】
〈導電性粒子〉
導電性粒子31は、導電性を有すると共に、電解液に対する所定の耐性を有する。導電性粒子31は、例えば炭素粒子、金属粒子である。炭素粒子を構成する炭素は、例えば、黒鉛、カーボンブラックなどである。金属粒子を構成する金属は、例えば、金、銀、銅、スズ、鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、アルミニウム、及びチタンからなる群より選択される金属又はその合金である。導電性粒子31は、導電性、電解液に対する耐性、コストなどの観点から、炭素粒子が好ましい。
【0078】
導電性粒子31は、樹脂シート20の内部に分散した状態を樹脂バインダ32によって保持される。導電性粒子31の形状は、代表的には、球状である。導電性粒子31の形状は、球状の他、針状、薄板状などでもよい。導電性粒子31の平均粒径は、例えば20nm以上100μm以下である。導電性粒子31の平均粒径は、樹脂シート20の平均孔径よりも小さいことが好ましい。樹脂シート20の平均孔径は、例えば水銀圧入法により測定できる。樹脂シート20の平均孔径の測定は、上述した溶剤を用いて樹脂シート20から上記各混合物を除去して行う。
【0079】
導電性粒子31の平均粒径は、例えば、次のようにして測定できる。複合シート11の断面をSEMで観察する。SEM像を画像解析することにより、導電性粒子31の断面の面積を算出する。導電性粒子31の粒径は、導電性粒子31の断面積と等しい面積を持つ円の直径とする。導電性粒子31の平均粒径は、例えば20個以上の導電性粒子31の粒径の平均値とする。導電性粒子31の測定数は、更に50個以上、100個以上でもよい。観察時のSEMの加速電圧は例えば10kV以上20kV以下とする。観察時のSEMの倍率は例えば100倍以上500倍以下とする。
【0080】
導電性粒子31の質量割合は、例えば55質量%以上95質量%以下である。導電性粒子31の質量割合が多いほど、双極板10の導電性が向上する。導電性粒子31の質量割合が55質量%以上であれば、双極板10の導電性を確保し易い。導電性粒子31の質量割合が多くなると、樹脂バインダ32の割合が減少し易い。導電性粒子31の質量割合が95質量%以下であることで、樹脂バインダ32の減少を抑制できる。導電性粒子31の質量割合は、更に60質量%以上85質量%以下、60質量%以上70質量%以下でもよい。導電性粒子31の質量割合は、双極板10全体の質量を100%としたときの、導電性粒子31の質量の割合である。導電性粒子31の質量割合は、双極板10の質量をM、導電性粒子31の質量をMbとすると、[(Mb/M)×100]で表される。導電性粒子31の質量は、例えば、次のようにして測定する。上述した溶剤を用いて、上記各混合物に含まれる樹脂バインダ32を溶かす。樹脂シート20から分離した導電性粒子31の質量を測定する。
【0081】
〈樹脂バインダ〉
樹脂バインダ32は、複数の導電性粒子31を樹脂シート20に固定する。樹脂バインダ32は、例えば、PE、PP、塩素化ポリオレフィン、PTFE、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などの樹脂である。樹脂バインダ32は、樹脂シート20を構成する樹脂と同じであってもよいし、異なってもよい。製造上の観点から、樹脂バインダ32の軟化点は、樹脂シート20の軟化点よりも低いことが好ましい。その理由については後述する。
【0082】
樹脂バインダ32の質量割合は、例えば5質量%以上40質量%以下である。樹脂バインダ32の質量割合が5質量%以上であることで、樹脂バインダ32によって導電性粒子31を樹脂シート20に固定し易い。樹脂バインダ32の質量割合が40質量%以下であることで、導電性粒子31の割合を多くすることができる。その結果、双極板10の導電性が向上する。樹脂バインダ32の質量割合は、更に10質量%以上30質量%以下、20質量%以上30質量%以下でもよい。樹脂バインダ32の質量割合は、双極板10全体の質量を100%としたときの、樹脂バインダ32の質量の割合である。樹脂バインダ32の質量割合は、双極板10の質量をM、樹脂バインダ32の質量をMcとすると、[(Mc/M)×100]で表される。樹脂バインダ32の質量割合は、例えば、上述した樹脂シート20の質量割合と導電性粒子31の質量割合とを100%から引くことによって算出できる。
【0083】
[変形例]
図7から
図10を参照して、双極板10の変形例を説明する。
図7は、
図4と同様に、双極板10の断面の一部を示している。
図8は、
図5と同様に、隣り合う複合シート11の断面を拡大して示す。
図9は、
図8のIX線で囲む部分を拡大して示す。
図10は、双極板10の表面部分の断面を拡大して示す。
図8から
図10では、便宜上、樹脂バインダ32をハッチングで示している。
図8から
図10では、樹脂シート20の構成、空隙24の形状及び大きさ、第一混合物30a及び第二混合物30bの構成を簡略化して模式的に示している。変形例に係る双極板10は、隣り合う複合シート11の樹脂シート20の間に第一混合物30aを有する点で、上述した実施形態と異なる。以下、変形例の双極板10について、上述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0084】
(第一混合物30a)
第一混合物30aは、
図7、
図8に示すように、隣り合う複合シート11の樹脂シート20の間に配置されている。第一混合物30aは、複数の導電性粒子31と、樹脂バインダ32とを含む混合物で層状に形成されている。第一混合物30aは、
図9に示すように、樹脂シート20の空隙24に充填されておらず、樹脂シート20の表面に露出している。隣り合う複合シート11同士は、接触しておらず、第一混合物30aを介して接合されている。樹脂シート20の間に第一混合物30aが配置されている場合、双極板10に含まれる混合物の量が多くなる。第一混合物30aは、第二混合物30bと同じであってもよいし、異なってもよい。第一混合物30aと第二混合物30bとが異なる場合、例えば、第一混合物30aに含まれる導電性粒子31の材質と、第二混合物30bに含まれる導電性粒子31の材質とが異なることがある。第一混合物30aと第二混合物30bとが異なる場合、例えば、第一混合物30aに含まれる樹脂バインダ32の材質と、第二混合物30bに含まれる樹脂バインダ32の材質とが異なることがある。変形例では、第一混合物30aと第二混合物30bとは同じ混合物である。つまり、第一混合物30a、及び第二混合物30bの各々に含まれる導電性粒子31の材質、及び樹脂バインダ32の材質が同じである。また、第一混合物30aにおける導電性粒子31の含有量と第二混合物30bにおける導電性粒子31の含有量とが実質的に同じである。第一混合物30aにおける樹脂バインダ32の含有量と第二混合物30bにおける樹脂バインダ32の含有量とが実質的に同じである。
【0085】
変形例では、第一混合物30aは複合シート11同士を接合する接着層として機能する。第一混合物30aの厚さは、例えば5μm以上300μm以下である。第一混合物30aの厚さは、隣り合う複合シート11の互いの樹脂シート20の間の距離である。つまり、互いに向かい合う樹脂シート20の表面間の距離である。第一混合物30aの厚さが5μm以上であることで、第一混合物30aが接着層として十分に機能し易い。第一混合物30aの厚さが300μm以下であることで、双極板10の薄型化を図ることができる。第一混合物30aの厚さは、更に10μm以上250μm以下でもよい。
【0086】
更に、変形例では、
図7に示すように、双極板10の表面に第三混合物30cを備える。第三混合物30cは、複数の複合シート11のうち、積層方向の最外側に配置された複合シート11の表面を覆う。第三混合物30cは、
図10に示すように、複数の導電性粒子31と、樹脂バインダ32とを含む混合物である。第三混合物30cは、上記混合物で層状に形成されている。第三混合物30cは、樹脂シート20の空隙24に充填されておらず、樹脂シート20の表面に露出している。
【0087】
第三混合物30cは、第一混合物30aや第二混合物30bと同じであってもよいし、異なってもよい。変形例では、第一混合物30aと第二混合物30bと第三混合物30cとは同じ混合物である。つまり、第一混合物30a、第二混合物30b、及び第三混合物30cの各々に含まれる導電性粒子31の材質、及び樹脂バインダ32の材質が同じである。また、第一混合物30aにおける導電性粒子31の含有量と、第二混合物30bにおける導電性粒子31の含有量と、第三混合物30cにおける導電性粒子31の含有量とが実質的に同じである。第一混合物30aにおける導電性粒子31の含有量と第二混合物30bにおける導電性粒子31の含有量との比、第一混合物30aにおける導電性粒子31の含有量と第三混合物30cにおける導電性粒子31の含有量との比、及び、第二混合物30bにおける導電性粒子31の含有量と第三混合物30cにおける導電性粒子31の含有量との比のそれぞれが、0.9以上1.1以下の範囲内である場合、導電性粒子31の含有量が実質的に同じとみなす。第一混合物30aにおける樹脂バインダ32の含有量と、第二混合物30bにおける樹脂バインダ32の含有量と、第三混合物30cにおける樹脂バインダ32の含有量とが実質的に同じである。第一混合物30aにおける樹脂バインダ32の含有量と第二混合物30bにおける樹脂バインダ32の含有量との比、第一混合物30aにおける樹脂バインダ32の含有量と第三混合物30cにおける樹脂バインダ32の含有量との比、及び、第二混合物30bにおける樹脂バインダ32の含有量と第三混合物30cにおける樹脂バインダ32の含有量との比のそれぞれが、0.9以上1.1以下の範囲内である場合、樹脂バインダ32の含有量が実質的に同じとみなす。
【0088】
{実施形態の効果}
実施形態に係る双極板10は、樹脂シート20が補強材として機能することから、機械的に強度に優れる。特に、樹脂シート20が双極板10の厚さ方向に積層された構造であるため、双極板10は、曲げに強く割れ難い性質を有する。
【0089】
更に、変形例に係る双極板10は、第一混合物30aによって、隣り合う複合シート11同士を接合し易い。変形例に係る双極板10は、双極板10の表面が第三混合物30cによって構成されている。つまり、双極板10の表面部分は樹脂シート20を含んでいない。そのため、双極板10の表面の導電性が向上する。
【0090】
<双極板の製造方法>
実施形態に双極板10は、例えば、以下の工程を備える製造方法によって製造できる。双極板の製造方法は、導電性コンパウンドのシートと樹脂シートとを交互に積層した積層体を作製する工程と、積層体をプレスする工程とを備える。
【0091】
(積層体を作製する工程)
導電性コンパウンドのシートは、複数の導電性粒子と、樹脂バインダとを混合した混合物を原料に用いて、原料をシート状に成形することで作製できる。導電性コンパウンドのシートは、例えば押出機を用いて成形すればよい。積層体は、導電性コンパウンドのシートと樹脂シートとを交互に必要な枚数だけ積層することで作製する。
【0092】
(積層体をプレスする工程)
積層体を加熱した状態で積層方向にプレスすることで、積層された複合シート同士を接合する。例えば、金型に積層体を入れ、金型を加熱することにより積層体を加熱しながらプレスする。プレス時の加熱温度は、導電性コンパウンドのシートに含まれる樹脂バインダが溶融する温度以上とする。樹脂バインダが溶融することで、溶融した樹脂バインダと共に、導電性粒子が樹脂シートの内部に充填される。積層体をプレスした後、冷却することで、複数の複合シートが積層された双極板が得られる。溶融された樹脂バインダが冷却されて固化することによって、導電性粒子を樹脂シートに固定できると共に、隣り合う複合シート同士を接合できる。導電性コンパウンドのシートを構成する混合物は、双極板の完成時に、上述した第一混合物、第二混合物、第三混合物を構成するものである。
【0093】
更に、プレス条件は、樹脂シートの形状を維持するため、樹脂シートが溶融状態とならないような加熱温度及びプレス時間とすることが好ましい。樹脂シートの形状を維持することで、樹脂シートの機械的強度の低下を抑制できる。したがって、樹脂バインダの軟化点は樹脂シートを構成する樹脂の軟化点よりも低いことが好ましい。換言すれば、樹脂シートを構成する樹脂の軟化点は樹脂バインダの軟化点よりも高いことが好ましい。例えば、樹脂バインダはポリエチレンとし、樹脂シートを構成する樹脂はポリプロピレンとすることができる。この場合、プレス時の加熱温度は例えば150℃以上200℃以下とする。プレス時間は例えば3分以上15分以下とする。
【0094】
[試験例1]
複合シートを用いた双極板の試料を作製した。
【0095】
樹脂シートと、導電性コンパウンドのシートとを用意した。樹脂シートは、ポリプロピレン繊維からなる不織布である。不織布の厚さは0.5mmである。このときの不織布の厚さは、外力が作用していない状態、即ち自然状態での厚さである。ポリプロピレン繊維の平均径は10μmである。ポリプロピレンの融点は160℃である。
【0096】
導電性コンパウンドの原料として、炭素粒子と、ポリエチレンとを用意した。炭素粒子と、ポリエチレンとを混合した混合物を押出機で成形して、導電性コンパウンドのシートを作製した。導電性コンパウンドのシートの厚さは0.5mmである。炭素粒子の平均粒径は20μmである。ポリエチレンの融点は130℃である。導電性コンパウンドのシートの面積は、樹脂シートに用いた不織布の面積と同じである。
【0097】
ポリプロピレン繊維からなる不織布と導電性コンパウンドのシートとを交互に積層することで、積層体を作製した。1枚の不織布と1枚の導電性コンパウンドのシートの組み合わせを1層として、積層数は10とした。
【0098】
不織布の質量割合、炭素粒子の質量割合、及びポリエチレンの質量割合は、表1に示す質量割合となるように調整した。試験例1では、不織布の質量割合は不織布の空隙率を変えることで調整した。また、試料No.1からNo.3については、双極板全体のポリエチレンの質量割合が30質量%となるように、導電性コンパウンドのシートを構成する炭素粒子及びポリエチレンの各々の質量割合を調整した。試料No.4からNo.7については、双極板全体のポリエチレンの質量割合が20質量%となるように、導電性コンパウンドのシートを構成する炭素粒子及びポリエチレンの各々の質量割合を調整した。
【0099】
得られた積層体を金型に入れてプレスすることで、双極板を作製した。プレス時の加熱温度は150℃とした。プレス時間は10分とした。プレス圧力は40MPaとした。得られた双極板を所定のサイズに打ち抜いて、試料No.1からNo.7の双極板を得た。
【0100】
試料No.1からNo.7の双極板の厚さは3mmである。試料No.1からNo.7の双極板の面積は6000mm
2である。試料No.1からNo.7の双極板について、双極板の厚さ方向に切断した断面を顕微鏡で観察したところ、双極板の厚さ方向に複合シートが積層された構造を有していた。複合シートの積層数は10である。複合シートは、樹脂シートである不織布と、不織布の空隙に充填された第二混合物とを備える。また、全ての試料の双極板は、
図7から
図10に示す変形例と同じように、樹脂シートの間に第一混合物を備え、双極板の表面に第三混合物を備えていた。第一混合物、第二混合物、及び第三混合物は、導電性コンパウンドのシートを構成する炭素粒子及びポリエチレンによって構成されている。
【0101】
比較として、炭素粒子とポリエチレンとの混合物を成形することで、プラスチックカーボンからなる双極板を作製した。炭素粒子の質量割合、及びポリエチレンの質量割合は、表1に示す質量割合となるように調整した。この双極板を試料No.10とする。試料No.10の双極板は、樹脂シートとして不織布を含んでいない。試料No.10の双極板の厚さは3mmである。試料No.10の双極板の面積は試料No.1からNo.7の双極板の面積と同じである。
【0102】
各試料について、双極板の機械的強度及び導電性を評価した。機械的強度は、曲げ強度及び引張強度を評価した。導電性は、体積抵抗率を評価した。その結果を表1に示す。
【0103】
双極板の曲げ強度の測定は、JIS K7171:2016に準拠して行った。ここでは、3点曲げ試験による曲げ強度を求めた。試験片はJIS K7100:1999に準じて温度23℃、相対湿度50%に設定した恒温恒湿槽内に12時間保管した。試験片のサイズは幅10mm×長さ80mmとした。支点間距離は64mmとした。直径10mmの押さえ棒を速度20mm/分にて下降させて試験片の中央部に荷重を加え、最大荷重P(N)を測定する。測定装置には、株式会社オリエンテック社製、テンシロンRTE-1210を用いた。また、双極板の引張強度の測定は、JIS K7161:2014に準拠して行った。試験片のサイズはJIS3号ダンベルとした。測定装置には、株式会社オリエンテック社製、テンシロンRTE-1210用いた。ここでは、引張速度5mm/minの条件で引張試験を実施した。
【0104】
双極板の体積抵抗率は、四端子法にて測定した。測定装置には、菊水電子株式会社製、デジタルマルチメータDME1600を用いた。試験片のサイズは幅50mm×長さ50mmとした。測定した体積抵抗率は、双極板の面方向の体積抵抗率である。
【0105】
【0106】
表1に示す結果から、複合シートが積層された構造を有する試料No.1からNo.7の双極板は、プラスチックカーボンからなる試料No.10の双極板に比較して、曲げ強度及び引張強度が高く、機械的強度に優れることが分かる。試料No.1からNo.7が試料No.10に比較して高い機械的強度を有する理由は、複合シートに含まれる不織布が補強材として機能するためと考えられる。
【0107】
また、表1に示す結果から、不織布の質量割合が多いほど、曲げ強度及び引張強度が高く、機械的強度が向上することが分かる。例えば、試料No.2からNo.7は、曲げ強度が0.5MPa以上、かつ、引張強度が2.0MPa以上、更に曲げ強度が1.0MPa以上、かつ、引張強度が6.0MPa以上を満たしており、優れた機械的強度を有していることが分かる。特に、試料No.3からNo.7は、曲げ強度が2.0MPa以上、かつ、引張強度が20MPa以上であり、機械的強度により優れる。一方で、不織布の質量割合が少ないほど、面方向の体積抵抗率が高く、導電性が向上することが分かる。例えば、試料No.1からNo.6は、面方向の体積抵抗率が1.5Ω・cm以下、更に1.0Ω・cm以下を満たしており、優れた導電性を有していることが分かる。特に、試料No.1からNo.5は、面方向の体積抵抗率が0.5Ω・cm以下であり、導電性により優れる。試料No.2からNo.5は、試料No.1とNo.6に比べて、機械的強度と導電性とのバランスがよい。
【0108】
更に、試料No.1からNo.7の全ての試料について、双極板の遮液性を評価した。その結果、全ての試料は遮液性を確保できていた。遮液性の評価は、次のようにして行った。各試料の双極板を用いて試験用の電池セルを構成する。試験用の電池セルを用いて充放電試験を行い、電池セルが正常に動作することを確認する。充放電試験において電池セルが正常に動作した場合、双極板が遮液性を有していると評価する。
【符号の説明】
【0109】
1 RF電池
2 セルスタック
10 双極板
11 複合シート
20 樹脂シート、22 樹脂繊維、24 空隙
30a 第一混合物、30b 第二混合物、30c 第三混合物
31 導電性粒子、32 樹脂バインダ
7 交流/直流変換器、71 変電設備
8 発電部、9 負荷
100 電池セル
101 隔膜、102 正極セル、103 負極セル
104 正極電極、105 負極電極
106 正極電解液タンク、107 負極電解液タンク
108,109 往路配管、110,111 復路配管
112,113 ポンプ
120 セルフレーム
122 枠体、122r 凹部
123,124 給液マニホールド、125,126 排液マニホールド
123s,124s 給液スリット、125s,126s 排液スリット
127 シール部材
200s サブスタック
210 エンドプレート、220 給排板、230 締付機構