(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】水素燃料を使用する内燃機関用のピストンリング及び水素燃料を使用する内燃機関におけるピストンリングの腐食抑制方法
(51)【国際特許分類】
F02F 5/00 20060101AFI20250414BHJP
F16J 9/00 20060101ALI20250414BHJP
F16J 9/14 20060101ALI20250414BHJP
F02F 3/00 20060101ALI20250414BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20250414BHJP
F02B 75/08 20060101ALI20250414BHJP
【FI】
F02F5/00 K
F16J9/00 A
F16J9/14
F02F3/00 B
F02F5/00 L
F02M21/02 G
F02B75/08
(21)【出願番号】P 2024182047
(22)【出願日】2024-10-17
【審査請求日】2024-11-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】徳永 茂
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-038981(JP,A)
【文献】特開2015-218905(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008780(WO,A1)
【文献】特開2019-190513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC F02F 5/00、11/00
3/00- 3/28
F16J 1/00- 1/24
7/00-10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素燃料を使用する内燃機関のピストンのリング溝に装着される圧力リングを含むピストンリングであって、
前記圧力リングは、内周面と、外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面と、互いに対向して合口部を形成する一対の合口端部と、を含む環状の本体部を有し、
前記本体部は、前記本体部における前記合口部の周囲に形成された空隙の投影面積を前記本体部の厚さで除算し
た比率が所定の閾値以下となるように構成されて
おり、
前記ピストンには、前記リング溝の下側面と前記ピストンの外周面との間に位置する溝下面取り面が設けられ、
前記本体部には、前記一対の合口端部の一方の第一合口端部と前記本体部の前記外周面との間に位置する第一合口面取り面、前記一対の合口端部の他方の第二合口端部と前記本体部の前記外周面との間に位置する第二合口面取り面、及び、前記一側面及び前記他側面の一方と前記本体部の前記外周面との間に位置する外周下面面取り面が設けられ、
前記圧力リングが前記リング溝に装着されて前記内燃機関のシリンダボアに挿入された状態において、
前記シリンダボアの内周面と前記第一合口面取り面との間には第一合口面取り部が形成され、前記シリンダボアの前記内周面と前記第二合口面取り面との間には第二合口面取り部が形成され、前記シリンダボアの前記内周面と前記外周下面面取り面との間には外周下面面取り部が形成され、
前記シリンダボアの前記内周面と前記溝下面取り面との間には溝下面取り部が形成され、
前記比率Rは、下式で表され、
前記比率Rは、40%以下である、水素燃料を使用する内燃機関用のピストンリング。
式: R=(C1+C2+2×C3+C4)/a1×100
ただし、
C1は、前記本体部の軸方向に沿う前記第一合口面取り部の前記投影面積であり、
C2は、前記本体部の軸方向に沿う前記第二合口面取り部の前記投影面積であり、
C3は、前記本体部の周方向に沿う前記外周下面面取り部の前記投影面積であり、
C4は、前記本体部の軸方向に沿う前記合口部の空隙の面積であり、
a1は、前記本体部の厚さである。
【請求項2】
前記圧力リングの前記一側面及び前記他側面の側面粗さは、Ra0.8μm以下、又は、Rz4μm以下である、請求項
1に記載の水素燃料を使用する内燃機関用のピストンリング。
【請求項3】
水素燃料を使用する内燃機関の圧力リングを含むピストンリングを準備する準備ステップと、前記圧力リングを前記内燃機関のピストンのリング溝に装着する装着ステップと、を備える水素燃料を使用する内燃機関におけるピストンリングの腐食抑制方法であって、
前記準備ステップでは、
内周面と、外周面と、前記内周面に略直交する一側面及び他側面と、互いに対向して合口部を形成する一対の合口端部と、を含む環状の本体部を有するように前記圧力リングを構成し、
前記本体部における前記合口部の周囲に形成された空隙の投影面積を前記本体部の厚さで除算し
た比率が所定の閾値以下となるように前記本体部を構成
し、
前記準備ステップでは、
前記リング溝の下側面と前記ピストンの外周面との間に位置する溝下面取り面を前記ピストンに設け、
前記一対の合口端部の一方の第一合口端部と前記本体部の前記外周面との間に位置する第一合口面取り面、前記一対の合口端部の他方の第二合口端部と前記本体部の前記外周面との間に位置する第二合口面取り面、及び、前記一側面及び前記他側面の一方と前記本体部の前記外周面との間に位置する外周下面面取り面を、前記本体部に設け、
前記圧力リングが前記リング溝に装着して前記内燃機関のシリンダボアに挿入した状態において、
前記シリンダボアの内周面と前記第一合口面取り面との間に第一合口面取り部を形成し、前記シリンダボアの前記内周面と前記第二合口面取り面との間に第二合口面取り部を形成し、前記シリンダボアの前記内周面と前記外周下面面取り面との間に外周下面面取り部を形成し、
前記シリンダボアの前記内周面と前記溝下面取り面との間に溝下面取り部を形成し、
前記比率Rは、下式で表され、
前記比率Rは、40%以下である、水素燃料を使用する内燃機関におけるピストンリングの腐食抑制方法。
式: R=(C1+C2+2×C3+C4)/a1×100
ただし、
C1は、前記本体部の軸方向に沿う前記第一合口面取り部の前記投影面積であり、
C2は、前記本体部の軸方向に沿う前記第二合口面取り部の前記投影面積であり、
C3は、前記本体部の周方向に沿う前記外周下面面取り部の前記投影面積であり、
C4は、前記本体部の軸方向に沿う前記合口部の空隙の面積であり、
a1は、前記本体部の厚さである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素燃料を使用する内燃機関用のピストンリング及び水素燃料を使用する内燃機関におけるピストンリングの腐食抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に用いられるピストンリングのうち圧力リングは、ピストンのリング溝に装着されてシリンダボアに挿入された状態で、燃焼室とクランク室との間の気密を保ち、オイル消費量を低減するように機能する。このような圧力リングとして、ガスリークタイプの合口部が形成されているトップリングが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ピストンのリング溝に装着される圧力リングを含むピストンリングについて、水素ガスを含む水素燃料を使用する内燃機関への適合性が検討されている。本発明者は、従来の軽油燃料を使用する内燃機関及びガソリン燃料を使用する内燃機関において発生していなかった種類の腐食が、水素燃料を使用する内燃機関においてピストンリングの側面に発生し得ることを発見した。このような腐食が進行すると、ピストンリングが折損するおそれがあるため、改善の余地がある。
【0005】
本開示は、水素燃料を使用する内燃機関において、ピストンのリング溝に装着される圧力リングを含むピストンリングの側面の腐食の抑制を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者は、ピストンリングの側面の腐食は、水素燃料の燃焼ガスと未燃焼の水素ガスと潤滑油とが混ざり合って引き起こされることを見出した。本発明者は、圧力リングの燃焼室とは反対側に流れ込む水素燃料の燃焼ガスを低減することに着目した。本発明者は、本体部における合口部の周囲に形成された空隙の投影面積を本体部の厚さで除算した合口面積比率が所定の閾値以下となるように本体部を構成することで、ピストンリングの側面の腐食が抑制されることを見出した。
【0007】
本開示の一態様に係るピストンリングは、水素燃料を使用する内燃機関のピストンのリング溝に装着される圧力リングを含むピストンリングであって、圧力リングは、内周面と、外周面と、内周面に略直交する一側面及び他側面と、互いに対向して合口部を形成する一対の合口端部と、を含む環状の本体部を有し、本体部は、本体部における合口部の周囲に形成された空隙の投影面積を本体部の厚さで除算した合口面積比率が所定の閾値以下となるように構成されている。
【0008】
本開示の一態様に係るピストンリングでは、合口面積比率が所定の閾値以下となるように本体部が構成されている。これにより、燃焼室で燃焼した水素燃料の燃焼ガスが、圧力リングの本体部における合口部の周囲に形成された空隙を通って、当該圧力リングの燃焼室とは反対側に流れ込むことを抑制できる。その結果、当該圧力リングの燃焼室とは反対側において、水素燃料の燃焼ガスに起因するピストンリングの側面の腐食の進行を抑制できる。したがって、水素燃料を使用する内燃機関において、ピストンのリング溝に装着される圧力リングを含むピストンリングの側面の腐食の抑制を図ることができる。
【0009】
一実施形態において、ピストンには、リング溝の下側面とピストンの外周面との間に位置する溝下面取り面が設けられ、本体部には、一対の合口端部の一方の第一合口端部と外周面との間に位置する第一合口面取り面、一対の合口端部の他方の第二合口端部と外周面との間に位置する第二合口面取り面、及び、一側面及び他側面の一方と外周面との間に位置する外周下面面取り面が設けられ、圧力リングがリング溝に装着されて内燃機関のシリンダボアに挿入された状態において、シリンダボアの内周面と第一合口面取り面との間には第一合口面取り部が形成され、内周面と第二合口面取り面との間には第二合口面取り部が形成され、内周面と外周下面面取り面との間には外周下面面取り部が形成され、シリンダボアの内周面と溝下面取り面との間には溝下面取り部が形成され、合口面積比率Rは、下式で表され、合口面積比率Rは、40%以下であってもよい。
式: R=(C1+C2+2×C3+C4)/a1×100
ただし、
C1は、本体部の軸方向に沿う第一合口面取り部の投影面積であり、
C2は、本体部の軸方向に沿う第二合口面取り部の投影面積であり、
C3は、本体部の周方向に沿う外周下面面取り部の投影面積であり、
C4は、本体部の軸方向に沿う合口部の空隙の面積であり、
a1は、本体部の厚さである。
【0010】
一実施形態において、圧力リングの一側面及び他側面の側面粗さは、Ra0.8μm以下、又は、Rz4μm以下であってもよい。この場合、圧力リングの一側面及び他側面の側面シール性の悪化が抑制され、一側面及び他側面とリング溝との隙間を通って当該圧力リングの燃焼室とは反対側に燃焼ガスが流れ込むことを抑制することができる。
【0011】
本開示の他の態様は、水素燃料を使用する内燃機関におけるピストンリングの腐食抑制方法であって、水素燃料を使用する内燃機関の圧力リングを含むピストンリングを準備する準備ステップと、圧力リングを内燃機関のピストンのリング溝に装着する装着ステップと、を備える。準備ステップでは、内周面と、外周面と、内周面に略直交する一側面及び他側面と、互いに対向して合口部を形成する一対の合口端部と、を含む環状の本体部を有するように圧力リングを構成し、本体部における合口部の周囲に形成された空隙の投影面積を本体部の厚さで除算した合口面積比率が所定の閾値以下となるように本体部を構成する。
【0012】
本開示の他の態様に係る水素燃料を使用する内燃機関におけるピストンリングの腐食抑制方法では、合口面積比率が所定の閾値以下となるように本体部を構成する。これにより、燃焼室で燃焼した水素燃料の燃焼ガスが、圧力リングの本体部における合口部の周囲に形成された空隙を通って、当該圧力リングの燃焼室とは反対側に流れ込むことを抑制できる。その結果、当該圧力リングの燃焼室とは反対側において、水素燃料の燃焼ガスに起因するピストンリングの側面の腐食の進行を抑制できる。したがって、水素燃料を使用する内燃機関において、ピストンのリング溝に装着される圧力リングを含むピストンリングの側面の腐食の抑制を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示のいくつかの態様によれば、水素燃料を使用する内燃機関において、ピストンのリング溝に装着される圧力リングを含むピストンリングの側面の腐食の抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係るピストンリングの斜視図である。
【
図2】合口部の周囲に形成された空隙を説明するための要部拡大図である。
【
図3】(a)は、トップリングの合口部の一例の要部拡大図である。(b)は、トップリングの外周下面面取り部の一例の要部拡大図である。
【
図5】合口面積比率と腐食指数との関係を示す図である。
【
図6】実施例1のピストンリングの側面の状態を示す図である。
【
図7】実施例2のピストンリングの側面の状態を示す図である。
【
図8】比較例1のピストンリングの側面の状態を示す図である。
【
図9】比較例2のピストンリングの側面の状態を示す図である。
【
図10】ダブルステップ形状の合口部の一例を示す拡大斜視図である。
【
図11】ダブルアングル形状の合口部の一例を示す拡大斜視図である。
【
図12】トリプルステップ形状の合口部の一例を示す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照しながら本開示に係る実施形態について説明する。図面の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。以下の説明において、「上側」はピストンの頂面側(上死点側、燃焼室側)に対応し、「下側」はピストンのスカート側(下死点側、クランクケース側)に対応する。なお、以下の説明において、断面形状とは、ピストンリングの中心軸を含む断面に沿う断面形状を意味する。以下の説明及び図面において、各寸法及び各投影面積は、ピストン及びピストンリングの軸線がシリンダボアの軸線に対して傾いていない状態(同心となっている状態)での数値に対応するものとする。
【0016】
図1は、実施形態に係るピストンリングの斜視図である。
図1に示されるように、ピストンリング1は、水素燃料を使用する内燃機関のピストンのリング溝に装着される圧力リングを含む。ピストンリング1は、例えば、トップリング(圧力リング)10、セカンドリング20、及びオイルリング30を含む。ピストンリング1は、ピストンのリング溝に装着された状態で内燃機関のシリンダボアに挿入される。ピストンリング1は、シリンダボアの内壁に対して摺動することで、燃焼室側とクランク室側との間のガスシール機能、及び、オイル消費量の低減機能を奏する。
【0017】
ピストンリング1は、水素燃料を使用する内燃機関に適用される。ここでの内燃機関は、例えば車両等に搭載される4サイクルのレシプロエンジンである。この内燃機関で用いられるエンジンオイルは、金属元素を含む添加物を含有している。エンジンオイルが含む金属元素としては、例えばCa,S,P,Zn等が挙げられる。
【0018】
トップリング10は、環状の本体部11を有している。本体部11は、側面(一側面)11a、側面(他側面)11b、内周面11c、外周面11d、合口端部(第一合口端部)13、及び合口端部(第二合口端部)14を含んでいる。側面11a,11bは、内周面11cに略直交している。
図1の例では、側面11aは本体部11の上面であり、側面11bは本体部11の下面である。合口端部13,14は、互いに対向して合口部15を形成する。以下の説明では、側面11aと側面11bとを結ぶ方向をトップリング10の幅方向とし、内周面11cと外周面11dとを結ぶ方向をトップリング10の厚さ方向とする。トップリング10の幅方向は、シリンダボアの軸方向D1に相当する。トップリング10の厚さ方向は、シリンダボアの径方向D2に相当する。本体部11が環状に延在している方向は、シリンダボアの周方向D3に相当する。
【0019】
本体部11は、厚さ方向が長辺かつ幅方向が短辺となる断面略長方形状をなしている。本体部11は、例えば複数の金属元素を含有する鋳鉄或いは鋼(スチール)を用い、十分な強度、耐熱性、及び弾性をもって形成されている。
【0020】
本体部11の表面には、表面改質が施されて硬質膜が形成されてもよい。硬質膜は、例えば、物理気相成長法(PVD法)を用いて形成される物理気相成長膜(PVD膜)である。これにより、硬質膜を十分な硬度で形成できる。硬質膜は、チタン(Ti)及びクロム(Cr)の少なくとも一種と、炭素(C)、窒素(N)、及び酸素の少なくとも一種とを含むイオンプレーティング膜、若しくはダイヤモンドライクカーボン膜である。具体例としては、硬質膜は、窒化チタン膜、窒化クロム膜、炭窒化チタン膜、炭窒化クロム膜、酸窒化クロム膜、クロム膜、又はチタン膜である。耐摩耗性及び耐スカッフ性などの観点から、硬質膜は、窒化クロム膜でもよい。硬質膜は積層体であってもよく、例えば窒化クロム膜及びダイヤモンドライクカーボン膜等を含んでもよい。
【0021】
合口部15は、本体部11の一部が分断された空隙である。合口端部13,14は、それぞれ本体部11の自由端となっている部分である。合口端部13は、一対の合口端部13,14の一方である。合口端部14は、一対の合口端部13,14の他方である。合口端部13,14は、軸方向D1に沿って平面となる端面となっており、合口部15は、いわゆるストレート形状の合口となっている。トップリング10をリング溝に装着したピストン2をシリンダボア3に挿入した状態で、合口端部13,14の間には、常温で周方向D3に寸法s1の隙間(合口隙間)が形成される(
図3(a)参照)。
【0022】
セカンドリング20は、環状の本体部21を有している。本体部21は、側面21a、側面21b、内周面21c、外周面21d、合口端部23、及び合口端部24を含んでいる。側面21a,21bは、内周面21cに略直交している。
図1の例では、側面21aは本体部21の上面であり、側面21bは本体部21の下面である。合口端部23,24は、互いに対向して合口部25を形成する。
【0023】
本体部21は、厚さ方向が長辺かつ幅方向が短辺となる断面略長方形状をなしている。本体部21は、例えば複数の金属元素を含有する鋳鉄或いは鋼(スチール)を用い、十分な強度、耐熱性、及び弾性をもって形成されている。本体部21の表面には、トップリング10と同様に表面改質が施されて硬質膜が形成されてもよい。
【0024】
合口部25は、本体部21の一部が分断された空隙である。合口端部23,24は、それぞれ本体部21の自由端となっている部分である。
【0025】
オイルリング30は、互いに対向する一対のレール31及びスペーサエキスパンダ32を有している。一対のレール31の各々は、オイルリング30のサイドレールである。スペーサエキスパンダ32は、一対のレール31の間に配置される。本実施形態では、一対のレール31、及びスペーサエキスパンダ32は、3ピースのオイルリング30を構成する。なお、一対のレール31の各々には、合口部が形成される。各レール31は、トップリング10と同様の材料から形成されていてもよい。オイルリング30は、いわゆる3ピースオイルリングであるが、3ピースオイルリングに限定されない。オイルリングは、2ピースオイルリングであってもよい。
【0026】
図2は、合口部の周囲に形成された空隙を説明するための要部拡大図である。
図3(a)は、トップリングの合口部の一例の要部拡大図である。
図3(b)は、トップリングの外周下面面取り部の一例の要部拡大図である。
図2、
図3(a)、及び
図3(b)に示されるように、本体部11は、面取り面13a,14a及び面取り面11eを含んでいる。
【0027】
面取り面13aは、合口端部13と外周面11dとの間に位置し、かつ、合口端部13と外周面11dとを接続している面(第一合口面取り面)である。面取り面13aは、合口端部13と外周面11dとがなす角部が面取りされることによって形成される面である。面取り面13aとシリンダボア3の内周面3aとの間には、合口面取り部(第一合口面取り部)16が形成される。合口面取り部16は、合口端部13と外周面11dとがなす角部の面取りによって、本体部11から除去された部分に相当する空隙である。
【0028】
面取り面14aは、合口端部14と外周面11dとの間に位置し、かつ、合口端部14と外周面11dとを接続している面(第二合口面取り面)である。面取り面14aは、合口端部14と外周面11dとがなす角部が面取りされることによって形成される面である。面取り面14aとシリンダボア3の内周面3aとの間には、合口面取り部(第二合口面取り部)17が形成される。合口面取り部17は、合口端部14と外周面11dとがなす角部の面取りによって、本体部11から除去された部分に相当する空隙である。
【0029】
図2に示されるように、本実施形態では、面取り面13a,14aは、合口端部13,14と外周面11dとがなす角部を45度でC面取りした面である。この場合、
図3(a)に示されるように、面取り面13aの面取り寸法をxとすると、軸方向D1に沿って見た合口面取り部16の面積(投影面積)C1は、一辺の長さがxの直角二等辺三角形の面積として表すことができる。このため、面積C1は、C1=x
2/2と表される。同様に、面取り面14aの面取り寸法をyとすると、軸方向D1に沿って見た合口面取り部17の面積(投影面積)C2は、C2=y
2/2と表すことができる。
【0030】
面取り面11eは、側面11bと外周面11dとの間に位置し、かつ、側面11bと外周面11dとを接続している面(外周下面面取り面)である。面取り面11eは、外周面11dと側面11bとがなす角部が面取りされることによって形成される面である。面取り面11eとシリンダボア3の内周面3aとの間には、外周下面面取り部18が形成される。外周下面面取り部18は、側面11bと外周面11dとがなす角部の面取りによって、本体部11から除去された部分に相当する空隙である。
【0031】
面取り面11eは、外周面11dと側面11bとがなす角部を任意の角度(例えば、45度)で面取りした面、又は、当該角部をR面取りした面である。
図3(b)に示されるように、本実施形態では、面取り面11eは、外周面11dと側面11bとがなす角部を任意の角度で面取りした面である。この場合、
図3(b)に示されるように、軸方向D1に沿った面取り面11eの寸法をzh、径方向D2に沿った面取り面11eの寸法をzaとすると、周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18の面積(投影面積)C3は、直角を挟む辺の長さが寸法zh及び寸法zaの直角三角形の面積として表すことができる。このため、面積C3は、C3=zh×za/2と表される。
【0032】
図2に示されるように、燃焼室からトップリング10を介してセカンドリング20側に流れる燃焼ガスGは、合口部15、合口面取り部16,17、及び外周下面面取り部18の少なくとも一つを通過する。外周下面面取り部18を通過する燃焼ガスGは、合口端部13に隣接する外周下面面取り部18aを通過する燃焼ガスG1と、合口端部14に隣接する外周下面面取り部18bを通過する燃焼ガスG2と、を含むと考えられる。そのため、外周下面面取り部18における燃焼ガスGの流通面積は、周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18aの面積C31と、周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18bの面積C32と、の和に相当すると考えられる。
【0033】
本実施形態では、面積C31及び面積C32は、互いに等しい。ここでは、面積C31及び面積C32を、代表して面積C3と表すことがある。なお、面積C31及び面積C32は、互いに異なっていてもよい。
【0034】
燃焼室からトップリング10を介してセカンドリング20側に流れる燃焼ガスGの流量は、本体部11における合口部15の周囲に形成された空隙の投影面積に応じて増減する。合口部15の周囲に形成された空隙の投影面積は、各面取り部によって本体部11から除去された部分に相当する空隙の燃焼ガスGの流通方向への投影面積であり、燃焼ガスGの流通方向に直交する空隙形状の断面積に相当する。ここでの空隙の投影面積は、トップリング10をリング溝に装着したピストン2をシリンダボア3に挿入した状態で、軸方向D1に沿って見た合口面取り部16の面積C1、軸方向D1に沿って見た合口面取り部17の面積C2、周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18の面積C3、及び、軸方向D1に沿って見た合口部15の空隙の面積(投影面積)C4の総和で表すことができる。
【0035】
図3(a)に示されるように、トップリング10をリング溝に装着したピストン2をシリンダボア3に挿入した状態で、ピストン2の外周面2aとシリンダボア3の内周面3aとの間は、径方向D2に寸法g1の隙間が形成される。具体的には、寸法g1は、(シリンダボア3の内径-ピストン2のセカンドランドの上端部の直径)/2の値とすることができる。
【0036】
ピストン2の外周面2aには、複数のリング溝2bが形成されている。複数のリング溝2bは、ピストンの頂面側から順に、トップリング10が組み付けられるリング溝、セカンドリング20が組み付けられるリング溝、及び、オイルリング30が組み付けられるリング溝を含む。複数のリング溝2bには、複数のピストンリング1がそれぞれ組み付けられている。
【0037】
図4は、リング溝の一例の要部拡大図である。
図4には、トップリング10が組み付けられるリング溝2bが示されている。リング溝2bは、径方向D2内側に窪む凹部であり、軸方向D1において対向する一対の上側面2cと下側面2dとを含む。ピストン2には、リング溝2bの下側面2dとピストン2の外周面2aとの間に位置する溝下面取り面2eが設けられている。シリンダボア3の内周面3aと溝下面取り面2eとの間には、溝下面取り部2fが形成されている。なお、
図3(a)において符号2aの一点鎖線は、ピストン2の外周面2aの径方向D2に沿う位置に対応しており、
図4では符号2aの位置(溝下面取り面2eの下端位置)と対応している。
【0038】
溝下面取り面2eは、ピストン2の外周面2aとリング溝2bの下側面2dとがなす角部が面取りされることによって形成される面である。ピストン2の外周面2aの延長線と溝下面取り面2eとの間には、溝下面取り部2fが形成される。溝下面取り部2fは、外周面2aと下側面2dとがなす角部の面取りによって、ピストン2におけるリング溝2bの下側面2dの径方向D2外側の端部から除去された部分に相当する空隙である。溝下面取り部2fは、径方向D2に寸法paの隙間が形成されることで、ピストン2の外周面2aとシリンダボア3の内周面3aとの間の寸法g1の隙間と共に、合口部15の空隙の面積C4と等価な長方形状の空隙を画定する。つまり、本実施形態では、ピストン2に取り付けられた状態でシリンダボア3に挿入されたトップリング10を軸方向D1に沿って見たときの合口部15の空隙の面積C4は、(g1+pa)×s1と表すことができる。
【0039】
本体部11は、本体部11における合口部15の周囲に形成された空隙の上述の投影面積を本体部11の厚さa1で除算した合口面積比率(比率)が所定の閾値以下となるように構成されている。一例として、合口面積比率Rは、下式(1)で表される。
式1:R=(C1+C2+2×C3+C4)/a1×100
={(g1+pa)×s1+C1+C2+2×C3}/a1×100
ただし、
C1:本体部11の軸方向D1に沿う合口面取り部16の面積
C2:本体部11の軸方向D1に沿う合口面取り部17の面積
C3:本体部11の周方向D3に沿う外周下面面取り部18の面積
C4:本体部11の軸方向D1に沿う合口部15の空隙の面積
a1:本体部11の厚さ
g1:ピストン2の外周面2aとシリンダボア3の内周面3aとの隙間の寸法
pa:溝下面取り部2fの本体部11の径方向に沿う寸法
s1:合口端部13と合口端部14との隙間の寸法
【0040】
なお、周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18aの面積C31と、周方向D3に沿って見た外周下面面取り部18bの面積C32とが互いに異なる場合には、上式(1)中の「2×C3」は、「C31+C32」に置き換えられてもよい。
【0041】
所定の閾値は、セカンドリング20の側面21aに腐食が生じることを抑制するようにトップリング10の各部寸法を設定するための合口面積比率Rの閾値である。所定の閾値は、40%以下の値とすることができる。所定の閾値は、40%であってもよいし、35%であってもよいし、30%であってもよい。
【0042】
また、トップリング10の本体部11の側面11a及び側面11bの側面粗さは、Ra0.8μm以下、又は、Rz4μm以下であってもよい。側面11a及び側面11bの側面粗さが上記Ra又はRz粗さの値以下である場合、側面11a及び側面11bの表面に深い窪みができにくくなり、その窪みの空間に水素燃料又はエンジンオイルの成分由来のイオンが停滞する状態が生じにくくなる。そのようなイオンによる腐食の促進と、粗さに応じた表面の凹凸によって腐食に係る物質が物理的に滞留して腐食が誘発されることと、が生じにくくなることが予想される。側面11a及び側面11bの側面粗さは、Ra0.02μm以上であってもよい。側面11a及び側面11bの側面粗さは、Rz0.1μm以上であってもよい。
【0043】
ところで、水素燃料を使用する内燃機関におけるピストンリング1の腐食抑制方法は、準備ステップと、装着ステップと、を備える。
【0044】
準備ステップでは、水素燃料を使用する内燃機関のトップリング10を含むピストンリング1を準備する。準備ステップでは、トップリング10の燃焼室とは反対側に位置するセカンドリング20を準備する。準備ステップでは、オイルリング30を準備してもよい。
【0045】
準備ステップでは、内周面11cと、外周面11dと、内周面11cに略直交する側面11a及び側面11bと、互いに対向して合口部15を形成する一対の合口端部13,14と、を含む環状の本体部11を有するようにトップリング10を構成する。
【0046】
準備ステップでは、本体部11における合口部15の周囲に形成された空隙の投影面積を本体部11の厚さa1で除算した合口面積比率Rが所定の閾値以下となるように本体部11を構成する。準備ステップでは、上式(1)に従って合口面積比率Rを算出し、合口面積比率Rが40%以下となるように本体部11を構成してもよい。なお、ピストン2における寸法paについては、準備ステップにおいて、合口面積比率Rが40%以下となるようにピストン2の溝下面取り面2eを構成してもよいし、合口面積比率Rが40%以下となるようなピストン2を選定してもよい。
【0047】
装着ステップでは、準備ステップによって準備されたトップリング10を、内燃機関のピストン2のトップリング10用のリング溝2bに装着する。装着ステップでは、準備ステップによって準備されたセカンドリング20を、内燃機関のピストン2のセカンドリング20用のリング溝2bに装着する。
【0048】
このようにトップリング10及びセカンドリング20をリング溝2bに装着したピストン2を、内燃機関のシリンダボア3に挿入する。この状態で、常温において合口面積比率Rが所定の閾値以下となるため、水素燃料を使用する内燃機関において、ピストンリング1のセカンドリング20の本体部21の側面21aが腐食することを抑制し得る。
【0049】
以上、説明したピストンリング1及びピストンリング1の腐食抑制方法では、合口面積比率Rが所定の閾値(例えば40%)以下となるように本体部11が構成されている。これにより、燃焼室で燃焼した水素燃料の燃焼ガスが、トップリング10の本体部11における合口部15の周囲に形成された空隙を通って、トップリング10の燃焼室とは反対側に位置するセカンドリング20側に流れ込むことを抑制できる。その結果、トップリング10の燃焼室とは反対側において、水素燃料の燃焼ガスに起因するセカンドリング20の側面21aの腐食の進行を抑制できる。したがって、水素燃料を使用する内燃機関において、ピストン2のリング溝2bに装着されるトップリング10を含むピストンリング1の側面(セカンドリング20の側面21a)の腐食の抑制を図ることができる。
【0050】
トップリング10の本体部11の側面11a及び側面11bの側面粗さは、Ra0.8μm以下、又は、Rz4μm以下である。これにより、トップリング10の側面11a及び側面11bの側面シール性の悪化が抑制され、側面11a及び側面11bとリング溝2bとの隙間を通ってトップリング10の燃焼室とは反対側に燃焼ガスが流れ込むことを抑制することができる。
【0051】
なお、上記実施形態において「トップリング10の燃焼室とは反対側」として、セカンドリング20の側面21aと同様の環境下にあるトップリング10の本体部11の側面11bにおいても、燃焼ガスが流れ込むことを抑制することにより、水素燃料の燃焼ガスに起因する腐食の進行を抑制できる。また、上記実施形態のほか、水素燃料を使用する内燃機関において3本以上の圧力リングを含むピストンリングを用いる場合であっても、上記実施形態における「トップリング10の燃焼室とは反対側」と同様の環境が生じるのであれば、燃焼室側から3本目以降の圧力リングの側面を腐食の抑制を図る対象とすることができる。
【実施例】
【0052】
本開示を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0053】
図5は、合口面積比率と腐食指数との関係を示す図である。
図5のグラフの横軸は、トップリングの合口面積比率(%)である。
図5のグラフの縦軸は、腐食指数(%)である。腐食指数は、セカンドリングの側面における腐食が発生した部分の面積の割合である。
【0054】
図5のグラフにおいて、黒色四角形のプロットは、水素燃料を使用する内燃機関での値を示しており、白抜き円形のプロットは、ディーゼルエンジンでの値を示している。左の2つの黒色四角形のプロットは、白抜き円形のプロットの後ろに隠れているが、左から実施例1、実施例2に対応する。右の2つの黒色四角形のプロットは、左から比較例1、比較例2に対応する。3つの白抜き円形のプロットは、従来例に対応する。
【0055】
実施例1では、合口面積比率が35%となるようにトップリングの各部寸法を設定した。具体的な一例として、実施例1のトップリングの各部寸法は、合口隙間の寸法s1が0.20mm、本体部の厚さa1が4.2mm、径方向D2に沿った面取り面11eの寸法zaが0.35mm、軸方向D1に沿った面取り面11eの寸法zhが0.35mm、ピストン2の外周面2aとシリンダボア3の内周面3aとの径方向D2に沿う隙間の寸法g1が0.29mm、溝下面取り部2fの本体部11の径方向に沿う寸法paが0.06mm、であった。実施例1のトップリングの各部寸法から算出される各面積は、合口面取り部16の面積C1が0.35mm2、合口面取り部17の面積C2が0.35mm2、外周下面面取り部18の面積C3が0.35mm2、合口部15の空隙の面積C4が0.0702mm2、であった。この場合の合口面積比率Rは、35.0であった。
【0056】
合口隙間の寸法s1は、トップリングがシリンダボア(又はシリンダボアを模した筒状治具)に挿入された状態で一対の合口端部の間に隙間ゲージを挿入することによって測定され得る。寸法x、寸法y、寸法zh、寸法za、及び、寸法paは、各面取り部の輪郭形状から測定され得る。輪郭形状は、手動で測定されてもよく、画像処理ソフトによって測定されてもよい。トップリングの本体部の厚さa1は、マイクロメータによって測定され得る。実施例2では、合口面積比率が40%となるようにトップリングの各部寸法を設定した。比較例1では、合口面積比率が43%となるようにトップリングの各部寸法を設定した。比較例2では、合口面積比率が47.8%となるようにトップリングの各部寸法を設定した。
【0057】
図5のグラフを得る実験として、水素燃料を使用する内燃機関を搭載した車両の実車走行を想定した評価条件で、内燃機関を運転した。評価条件は、油温と水温とが低温となる条件と高温となる条件とを繰り返すようにした。評価条件は、内燃機関が低負荷の状態と高負荷の状態とを繰り返すようにした。評価条件は、内燃機関が低回転の状態と高回転の状態とを繰り返すようにした。評価条件は、評価中に内燃機関が断続的に一時停止する期間を設けた。
【0058】
上述の評価条件で内燃機関を運転した後、デジタルマイクロスコープにてセカンドリングの上側の側面を撮影した。セカンドリングの上側の側面において、撮影対象は、腐食が最も進行している部分とした。セカンドリング20の側面21aの全体を目視で観察し、腐食が最も進行している部分(領域)を特定した。撮影倍率20倍で撮影したものを
図6~
図9に示す。
図6~
図9において、腐食が発生した部分の色が濃く写っている。セカンドリング20の材料のスチールが化学変化をして生じた化合物の色であり、腐食が発生していない部分と比べて色が違って写っている。
【0059】
図6は、実施例1のセカンドリングの上側の側面の状態を示す画像である。
図6の画像では、セカンドリングの側面に変色は見られず、腐食は発生していなかった。
【0060】
図7は、実施例2のセカンドリングの上側の側面の状態を示す画像である。
図7の画像でも、セカンドリングの側面に変色は見られず、腐食は発生していなかった。
【0061】
図8は、比較例1のセカンドリングの上側の側面の状態を示す画像である。
図8の画像では、セカンドリングの側面に変色が生じた部分が不均一に見られ、軽微な腐食が発生していることが確認できた。
【0062】
図9は、比較例2のセカンドリングの上側の側面の状態を示す画像である。
図9の画像では、セカンドリングの側面に変色が生じた部分が広範囲にわたって見られ、
図8の例よりも腐食が進行していることが確認できた。
【0063】
図6~
図9の箇所を電子顕微鏡にて反射電子組成像(Compo像)で撮影(撮影倍率40倍)した後に、イメージアナライザーというソフトを使って二値化により解析した。輝度閾値を130とした。腐食が発生した部分が黒色、腐食が発生していない部分が白色、の2相に区分して、全体の面積に対する黒色部分の面積の割合を百分率で算出し、腐食指数を算出した。腐食指数は、セカンドリングの上側の側面の全体のうち腐食が発生した部分の面積の割合である。
【0064】
図5に示されるように、合口面積比率が35%である実施例1の腐食指数は、0%であった。合口面積比率が40%である実施例2の腐食指数は、0%であった。合口面積比率が43%である比較例1の腐食指数は、18%であった。合口面積比率が48%である比較例2の腐食指数は、57%であった。
【0065】
本発明者は、合口面積比率が43~45程度の圧力リングを、水素燃料を使用する内燃機関のピストンのリング溝に装着して実験したところ、セカンドリング20の側面21aに腐食の発生を発見した。従来例のディーゼルエンジンでは、合口面積比率が40%を超えても、腐食は生じなかった。これに対し、水素燃料を使用する内燃機関では、合口面積比率Rが40%以上になると腐食が確認され、47.8%では急激な腐食の増加がみられた。このような腐食は、水素燃料の燃焼ガスと未燃焼の水素ガスと潤滑油とが混ざり合って引き起こされる、水素燃料を使用する内燃機関に特有の現象と考えた。
【0066】
図5~
図9の結果により、実施例1,2では腐食が発生しなかったのに対し、比較例1では軽微な腐食が発生したため、合口面積比率が40%を超えると、セカンドリングの上側の側面に腐食が発生し始めることがわかった。また、実施例1,2では腐食が発生していないのに対し、比較例2では、比較例1よりも大きく腐食が進行した。合口面積比率が45%を超えると、セカンドリングの上側の側面の腐食が進行しやすいことがわかった。したがって、水素燃料を使用する内燃機関においては、トップリング合口面積比率を40%以下に設定することが、セカンドリングの側面の腐食を抑制するために重要であることが確認できた。
【0067】
以上、本開示をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本開示は上記実施形態に限定されるものではない。本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0068】
トップリング10の外周面11dの形状は、バレルフェース形状、偏心バレルフェース形状、又はテーパフェース形状の何れであってもよい。セカンドリング20の断面形状は、スクレーパ、バランススクレーパ、ナピア、又はバランスナピアの何れであってもよい。セカンドリング20の外周面21dの形状は、テーパフェース形状、バレルフェース形状、又は偏心バレルフェース形状の何れであってもよい。
【0069】
圧力リングの合口部は、ストレート形状の合口に限定されない。例えば、圧力リングの合口部は、いわゆるダブルステップの特殊形状の合口部であってもよい。
図10に示すトップリング40のように、合口部45においては、本体部41の側面41a側には、一方の合口端部43から他方の合口端部44に向かって突出する第1の突出部46と、他方の合口端部44において第1の突出部46を受ける第1の受け部47とが設けられていてもよい。また、本体部41の側面41b側には、他方の合口端部44から一方の合口端部43に向かって突出する第2の突出部48と、一方の合口端部43において第2の突出部48を受ける第2の受け部49とが設けられていてもよい。
【0070】
圧力リングの合口部は、いわゆるダブルアングルの特殊形状の合口部であってもよい。
図11に示すトップリング50のように、合口部55は、環状の本体部51の一部に形成されていてもよい。本体部51は、幅方向の端面である一方の側面51a及び他方の側面51bと、厚さ方向の端面である内周面51c及び外周面51dとによって、厚さ方向が長辺かつ幅方向が短辺となる断面略長方形状をなしていてもよい。合口部55は、本体部51の一方の端面53と、他方の端面54と、端面53に設けられた突出部56と、他方の端面54側に設けられた受け部57とによって構成されていてもよい。受け部57は側面51aの途中から外周面51dと途中に至る傾斜面58を有し、突出部56は受け部57に対応する形状を有してもよい。
【0071】
圧力リングの合口部は、いわゆるトリプルステップの特殊形状の合口部であってもよい。
図12に示すトップリング60のように、合口部65は、環状の本体部61の一部に形成されていてもよい。本体部61は、幅方向の端面である一方の側面61a及び他方の側面61bと、厚さ方向の端面である内周面61c及び外周面61dとによって、厚さ方向が長辺かつ幅方向が短辺となる断面略長方形状をなしていてもよい。外周面61dが傾斜している場合は、側面61a及び側面61bの長さは互いに異なってもよい。合口部65は、環状の本体部61の両端部に設けられた合口端部63,64を含んでもよい。
【0072】
トリプルステップ形状とは、合口部65を三方向から見た際にステップ形状を呈しているものである。トップリング60の場合、上側の側面61a側から見たとき、下側の側面61b側から見たとき、及び、外周面61d側から見たときに、合口部65がステップ形状となっていてもよい。合口端部63及び合口端部64の対向面は、本体部61の内周面61c側の略半分における対向面66,67と比較して、本体部61の外周面61d側の略半分では、側面61a側において合口端部64が合口端部63側に突出し、側面61b側において合口端部63が合口端部64側に突出するように凹凸が形成されていてもよい。
【0073】
上記実施形態では、合口面積比率Rは、上式(1)で表されたが、この例に限定されない。合口面積比率は、圧力リングの本体部における合口部の周囲に形成された空隙の投影面積を本体部の厚さで除算したものであればよい。
【0074】
上記実施形態では、トップリング10の本体部11の側面11a及び側面11bの側面粗さは、Ra0.8μm以下、又は、Rz4μm以下であったが、この例に限定されない。
【0075】
上記実施形態では、合口面積比率Rが所定の閾値以下となるようにトップリング10の本体部11を構成したが、圧力リングがトップリング10であってセカンドリング20の側面21aの腐食を抑制する例に限定されない。圧力リングがセカンドリングであって、セカンドリングの燃焼室とは反対側に位置するピストンリングの側面の腐食を抑制する態様であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1…ピストンリング、2…ピストン、2a…外周面、2b…リング溝、2d…下側面、2e…溝下面取り面、2f…溝下面取り部、3…シリンダボア、3a…内周面、10…トップリング(圧力リング)、11…本体部、11a…側面(一側面)、11b…側面(他側面)、11c…内周面、11d…外周面、13…合口端部(第一合口端部)、14…合口端部(第二合口端部)、15…合口部、16…合口面取り部(第一合口面取り部)、17…合口面取り部(第二合口面取り部)、18,18a,18b…外周下面面取り部、C1,C2,C3,C4…面積(投影面積)、D1…軸方向、D2…径方向、D3…周方向、g1,pa,s1,x,y,za,zh…寸法、R…合口面積比率。
【要約】
【課題】水素燃料を使用する内燃機関において、ピストンのリング溝に装着される圧力リングを含むピストンリングの側面の腐食の抑制を図る。
【解決手段】水素燃料を使用する内燃機関用のピストンリング1は、水素燃料を使用する内燃機関のピストンのリング溝に装着されるトップリング10を含むピストンリングであって、トップリング10は、内周面11cと、外周面11dと、内周面11cに略直交する側面11a及び側面11bと、互いに対向して合口部15を形成する一対の合口端部13,14と、を含む環状の本体部11を有する。本体部11は、本体部11における合口部15の周囲に形成された空隙の投影面積を本体部11の厚さで除算した合口面積比率が所定の閾値以下となるように構成されている。
【選択図】
図1