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特許7665878電線、ヒーターおよびカーシート用ヒーター
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  • 特許-電線、ヒーターおよびカーシート用ヒーター 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-11
(45)【発行日】2025-04-21
(54)【発明の名称】電線、ヒーターおよびカーシート用ヒーター
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/08 20060101AFI20250414BHJP
   H01B 13/02 20060101ALI20250414BHJP
【FI】
H01B5/08
H01B13/02 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2025503471
(86)(22)【出願日】2024-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2024034913
【審査請求日】2025-01-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤志
(72)【発明者】
【氏名】大達 剛
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-55179(JP,A)
【文献】特開2012-229343(JP,A)
【文献】特開2021-190170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/08
H01B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電熱線として用いられる電線であって、
複数の素線が撚り合わされた撚線と、
前記撚線を被覆する絶縁層と、
を有し、
前記撚線の外径をXmmとし、前記撚線の撚りピッチをYmmとしたときに、Y/Xは10~100であることを特徴とする、電線。
【請求項2】
請求項1に記載の電線であって、前記Y/Xは10~50であることを特徴とする、電線。
【請求項3】
請求項1に記載の電線であって、前記撚線と、前記絶縁層との密着荷重は0.5~20Nであることを特徴とする、電線。
【請求項4】
請求項1に記載の電線であって、前記素線はCu-Ag合金素線であることを特徴とする、電線。
【請求項5】
請求項に記載の電線を電熱線として含むことを特徴とする、ヒーター。
【請求項6】
請求項に記載のヒーターを有することを特徴とする、カーシート用ヒーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線、ヒーターおよびカーシート用ヒーターに関する。
【背景技術】
【0002】
素線を撚り合わせて撚線とし、撚線を絶縁層で被覆した電線が知られている。このような電線は例えば車載用の電線として用いられ得る。特許文献1は上記の様な構成を有する車載用の電線を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/026365号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の様な電線は、その端末の絶縁層を剥離して導体である撚線を露出させる端末加工が施されることがある。このような端末加工の際に、撚線と絶縁層との密着性が高すぎると絶縁層とともに撚線の表面(素線の表面)が剥がれて撚線が損傷することがある。
【0005】
撚線と絶縁層との密着性を低下させるための技術としては、撚線と絶縁層との間に潤滑剤を充填することで滑り性を向上させて密着性を低下させることが知られている。しかし、このような技術を用いると潤滑剤を充填させた分に応じて電線の外径が大きくなってしまう。
【0006】
本発明の目的は、潤滑剤を使用しなくても撚線と絶縁層との密着性を低下させることができる電線、当該電線を有するヒーター、および当該ヒーターを有するカーシート用ヒーターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
複数の素線が撚り合わされた撚線と、
前記撚線を被覆する絶縁層と、
を有し、
前記撚線の外径をXmmとし、前記撚線の撚りピッチをYmmとしたときに、Y/Xは10~100であることを特徴とする、電線が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、
電熱線として用いられる上記の電線を電熱線として含むことを特徴とする、ヒーターが提供される。
【0009】
本発明の他の態様によれば、
上記のヒーターを有することを特徴とする、カーシート用ヒーターが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、潤滑剤を使用しなくても撚線と絶縁層との密着性を低下させることができる電線、当該電線を有するヒーター、および当該ヒーターを有するカーシート用ヒーターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは電線の横断面図であり、図1Bは電線が有する撚線の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態に係る撚線について説明するが、本発明は実施の形態に制限されない。本明細書では、数値範囲を示す「~」の記載に関し、下限値および上限値はその数値範囲に含まれる。
【0013】
[電線の構成]
図1Aは、本発明の一実施の形態に係る電線1の概略横断面図であり、図1Bは電線1が有する撚線10の概略側面図である。図1A、Bに示されるように、電線1は複数の素線11が撚り合わされた撚線10と、撚線10を被覆する絶縁層20とを有する。電線1の外径は、例えば、0.4~2mm程度である。
【0014】
ここで電線1の撚線10において、撚線10の外径をXmmとし、撚線10の撚りピッチをYとしたときに、Y/Xは10~100である。
Y/Xが10以下だと、素線11の延在方向(らせんの方向)が電線1の長手方向に対して大きく傾くことになり密着度があがり、反対にY/Xが100以上だと、素線11の延在方向の傾きが小さくなり密着度が小さくなる。
【0015】
具体的には、Y/Xが10以上であることで電線1において撚線10と絶縁層20との密着が大きくなりすぎず、端末加工の際に撚線10が損傷することを抑制できる。すなわち、Y/Xが10以上であることで電線1の長さあたりの撚線10と絶縁層20との接触面積が大きくなりすぎず、密着度を抑制できると考えられる。この観点からY/Xは15以上であることが好ましい。
【0016】
一方、Y/Xが100以下であることで撚線10において素線11同士の密着荷重が小さくなりすぎず、端末加工の際に絶縁層20から撚線10が抜け出てしまうことを抑制できる。すなわち、Y/Xが100以下であることで、電線1の長さあたりの撚線10と絶縁層20との接触面積が小さくなりすぎず、密着度を保持できると考えられる。この観点からY/Xは80以下であることが好ましく、50以下であることがさらに好ましい。これらのY/Xと端末加工性との関係の詳細は実施例を示しつつ後述する。撚線10と絶縁層20との密着荷重は、0.5~20Nであることが好ましい。密着荷重が0.5N以下だと、端末加工の際に絶縁層20から撚線10が抜け出てしまう。また、密着荷重が20N以上だと、絶縁層20を剥離する際に、密着性が高いため強い力が必要となり、ワイヤーストリッパーが撚線10に接触し傷をつける恐れがある。
【0017】
なお、撚りピッチYは、図1Bに示されるように、撚られて螺旋状になっている複数の素線11の内の1つ(図1Bの斜線が付された素線11)に着目して、この素線11をたどっていき、素線11が撚線10の中心軸(螺旋軸)の周りを一回り(360°回転)したときの撚線10の軸方向の長さである。
【0018】
一方、外径Xは、撚線の外径はマイクロメーター又はビデオマイクロスコープによる直接測定又は素線11の外径とその本数から計算式(外径=1.155×素線11の外径×√より線本数)にて導出した。
【0019】
以下、電線1が有する撚線10および絶縁層20の詳細について説明する。
【0020】
(撚線)
撚線10は上述のように複数の素線11が撚られて構成されている。撚線10が有する素線11の数は特に制限されない。撚線10が有する素線11の数は、例えば5~40本程度である。撚線10の撚りピッチYおよび外径Xは、上記のY/Xを満たせば特に制限されない。撚線10の撚りピッチYは、例えば2~60mm程度である。一方、撚線10の外径Xは、例えば0.1~0.6mm程度である。撚線10の導体抵抗は特に制限されない。
【0021】
図1Aに示されるように、素線11は、導体11aと導体11aを被覆する皮膜11bとを有する。本実施の形態において、素線11はエナメル線であり、導体11aはエナメル線の導体であり、皮膜11bはエナメル皮膜である。素線11の外径は、例えば0.03mm~0.08mm程度である。
【0022】
導体11aは、導電性を有すれば特に制限されない。導体11aの材料の例には、金属および金属合金が含まれる。金属および金属合金の例には、Cu、Ag、Cu-Ag合金などが含まれる。本実施の形態において導体11aの材料は、Cu-Ag合金であり、素線11は、Cu-Ag合金線の表面に皮膜11bが形成されたCu-Ag合金素線である。Cu-Ag合金のCu含有量、Ag含有量は特に制限されない。本実施の形態においてCu-Ag合金は、例えばAgを2~11質量%含有し、残部がCuおよび不可避不純物である。
【0023】
素線11がエナメル線である場合、エナメル皮膜は公知のワニスを、導体11aに塗布および焼き付けして形成された絶縁皮膜であればよい。絶縁皮膜を構成するワニスの例には、ポリビニルアセタール(例えばポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなど)、ポリウレタン、ナイロン、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリエステルイミド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドなどが含まれる。
【0024】
(絶縁層)
絶縁層20は、撚線10を絶縁できれば特に制限されない。絶縁層20の材料の例には、樹脂等が含まれる。より具体的には絶縁層20の材料の例には、フッ素樹脂、オレフィン樹脂、ナイロン樹脂、シリコーン等が含まれる。具体的には樹脂の例には、ETFE、FEP、PFA、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等が含まれる。
【0025】
絶縁層20の厚さは、所望の絶縁機能を発揮できれば特に制限されない。電線1が電熱線として使用される場合、絶縁層20の厚さは熱を伝えやすい厚さであることが好ましい。絶縁層20の厚さは、例えば0.05~0.2mm程度であればよい。絶縁層20は、撚線10の周りに絶縁層20を形成する材料を押出し成形することで形成され得る。
【0026】
(効果)
本発明の実施の形態に係る電線1は、撚線10と絶縁層20との密着性を低減されている。そのため、電線1の端末加工の際に撚線10の損傷が抑制される。また、撚線10と絶縁層20との密着性が低すぎることも抑制されている。そのため、電線1の端末加工の際に撚線10が抜け出ることが抑制され、端末加工がしやすい。
【0027】
また、本実施の形態に係る電線1によれば、潤滑剤を用いることなく撚線10と絶縁層20との密着性を低減できる。このため電線1の外径を大きくせずに密着性を低減できる。また、本実施の形態に係る電線1では、外部から繰り返し力が加わっても撚線10と絶縁層20との間の摩擦が小さいため撚線10が損傷しにくい。そのため、当該電線1がヒーターの電熱線として使用された場合、外部から力が加わっても撚線10の断線などの損傷が抑制される。たとえば、本実施の形態に係る電線1は、カーシート用ヒーターなど繰り返し荷重のかかる電熱線などに適する。
【実施例
【0028】
以下、実施例を示しつつ、本発明についてより詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0029】
サンプル1~160の電線を製造した。以下、まず、サンプル1の電線の製造方法および評価を説明する。次に、サンプル2~160の電線についてはサンプル1の電線の製造方法および評価と異なる点のみを説明する。なお、各サンプルのパラメータおよび評価結果については表1~9に示した。
【0030】
(サンプル1の電線の製造)
3質量%のAgを含有し残部がCuおよび不可避的不純物からなるCu基合金の鋳造ロッド及び中間まで冷間加工された線材に熱処理を施したのち、0.05mmまで冷間加工を行うことでCu-Ag合金線材を製造した。得られたCu-Ag合金線材に、ワニス塗布および焼き付けを施して、Cu-Ag合金線材をエナメル被覆し、直径が0.06mmのCu-Ag合金素線を11本準備した。準備した11本の素線を、撚りピッチが1.3mmとなるように撚り合わせて撚線を得た。得られた撚線の外径を測定したところ0.26mmであった。すなわち、サンプル1の撚線のY/Xは5.0であった。
【0031】
得られた撚線の周りにETFE樹脂を押出し成形して0.1mmの厚さの絶縁層を形成した。得られた電線の外径は0.46mmであった。
【0032】
(サンプル1の電線の評価)
〈密着荷重〉
撚線と絶縁層との密着性を調べた。密着性は、ISO6722-2の5.9項のstrip forceに従って試験した。具体的には、サンプル1の電線を75mmに切断したサンプルを用意し、そのサンプルの片側25mmの絶縁層を剥離させた。撚線の外径以上であり、電線の外径未満である穴を有する治具を備える引っ張り試験機を用意した。治具の穴に絶縁層の一部を剥離させて露出した撚線を挿入して、引っ張り試験機に電線を設置した。治具を250mm/minで引っ張ることで撚線と絶縁層との密着荷重の測定を行った。
【0033】
〈絶縁層の剥離性〉
ワイヤーストリッパーを用いて電線の絶縁層を剥離する端末加工を行った。この際の絶縁層の剥離性について以下の基準で評価した。
○:素線の皮膜および導体に傷なし
×:素線の導体に傷発生
【0034】
〈撚線抜けの有無〉
上述の端末加工を行った際に撚線が絶縁層から抜け出るか否を以下の基準で評価した。
○:撚線の抜けなし
×:撚線の抜けあり
【0035】
〈総合評価〉
上記の絶縁層の剥離性および撚線抜けの有無に基づいて以下のように電線を総合評価した。
○:絶縁層の剥離性および撚線抜けの有無の両方が○であった。
×:絶縁層の剥離性および撚線抜けの有無のいずれかに×があった。
【0036】
(サンプル2~160の電線の製造および評価)
表1~9に示される条件に変更した以外はサンプル1の電線と同様にしてサンプル2~160の電線を製造し、評価した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
【表6】
【0043】
【表7】
【0044】
【表8】
【0045】
【表9】
【0046】
表1~9に示されるように、Y/Xを10~100としたサンプルは総合評価が良好であった。これはY/Xが10以上であることで撚線と絶縁層との密着が大きくなりすぎず、絶縁層を剥離する際に撚線が損傷しなかったためと考えられる。一方で、Y/Xが100以下であることで電線の長さあたりの撚線と絶縁層との接触面積が小さくなりすぎず、密着度を保持できることから、端末加工の際に撚線抜けが起きなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、端末加工のしやすい電線を提供することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 電線
10 撚線
11 素線
11a 導体
11b 皮膜
20 絶縁層
【要約】
本発明の電線(1)は、複数の素線(11)が撚り合わされた撚線(10)と、前記撚線(10)を被覆する絶縁層(20)と、を有し、前記撚線(10)の外径をXmmとし、前記撚線(10)の撚りピッチをYmmとしたときに、Y/Xは10~100である。
図1