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特許7665952活性線硬化型インク、画像形成方法および印刷物
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  • 特許-活性線硬化型インク、画像形成方法および印刷物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】活性線硬化型インク、画像形成方法および印刷物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20250415BHJP
   C09D 11/34 20140101ALI20250415BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20250415BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
C09D11/322
C09D11/34
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41J2/01 127
B41J2/01 501
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020185785
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075173
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 賢治
(72)【発明者】
【氏名】押山 智寛
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/217187(WO,A1)
【文献】特開2019-104866(JP,A)
【文献】特開2020-110949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-54
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性線重合性化合物と、ゲル化剤および結晶化調整剤とを含有する、活性線硬化型インクであって、
前記活性線硬化型インクの全質量に対する着色剤の含有量が0.1質量%未満であり、
前記ゲル化剤は、直鎖部分の炭素数が10以上30以下のアルキル鎖を含み、
前記ゲル化剤は、インクの全質量に対して1.0質量%以上10.0質量%以下であり、
前記結晶化調整剤は、前記ゲル化剤とのCH/π相互作用に係る分子間の結合力である相互作用エネルギー(ΔE)が-1.0eV以下である化合物を含み、
前記結晶化調整剤の含有量は、インクの全質量に対して2質量%以上30質量%以下である、
活性線硬化型インク。
(なお、ΔEは、汎関数をGGA/PBE、基底関数をDNDとして設定し、密度汎関数理論に基づいた電子状態計算プログラムで算出されたE(a)、E(b)、E(a+b)の値を基に、下記式(1)に従って算出された相互作用エネルギーである。
式(1) ΔE=E(a+b)-{E(a)+E(b)}
式(1)中、
E(a)は、前記ゲル化剤のエネルギー、
E(b)は、前記結晶化調整剤のエネルギー
E(a+b)は、前記ゲル化剤と、前記結晶化調整剤とが、相互作用した場合のエネルギー、を示す。)
【請求項2】
活性線重合性化合物と、ゲル化剤と、着色剤および結晶化調整剤とを含有する、活性線硬化型インクであって、
前記ゲル化剤は、直鎖部分の炭素数が10以上30以下のアルキル鎖を含み、
前記ゲル化剤は、インクの全質量に対して1.0質量%以上10.0質量%以下であり、
前記結晶化調整剤は、前記ゲル化剤とのCH/π相互作用に係る分子間の結合力である相互作用エネルギー(ΔE)が-1.0eV以下である化合物を含み、
前記結晶化調整剤の含有量は、インクの全質量に対して2質量%以上30質量%以下である、
活性線硬化型インク。
(なお、ΔEは、汎関数をGGA/PBE、基底関数をDNDとして設定し、密度汎関数理論に基づいた電子状態計算プログラムで算出されたE(a)、E(b)、E(a+b)の値を基に、下記式(1)に従って算出された相互作用エネルギーである。
式(1) ΔE=E(a+b)-{E(a)+E(b)}
式(1)中、
E(a)は、前記ゲル化剤のエネルギー、
E(b)は、前記結晶化調整剤のエネルギー
E(a+b)は、前記ゲル化剤と、前記結晶化調整剤とが、相互作用した場合のエネルギー、を示す。)
【請求項3】
前記着色剤は白色顔料を含む、請求項2に記載の活性線硬化型インク。
【請求項4】
前記白色顔料は酸化チタンを含む、請求項3に記載の活性線硬化型インク。
【請求項5】
インクジェットインクである、請求項1~4のいずれか一項に記載の活性線硬化型インク。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の活性線硬化型インクを用いて形成された印刷層を有する、
印刷物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の活性線硬化型インクを記録媒体に付与する工程と、
前記付与された前記活性線硬化型インクに活性線を照射する工程と、
を含む、画像形成方法。
【請求項8】
前記付与させる工程は、インクジェット法により行われる、請求項7に記載の画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性線硬化型インク、画像形成方法および印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、簡易かつ安価に画像を形成できることから、各種印刷分野で用いられている。インクジェット記録方式に用いるインクとして、活性線重合性化合物を液体成分とする活性線硬化型インクが知られている。活性線硬化型インクは、活性線が照射されると、活性線重合性化合物の重合により硬化して、色材を記録媒体に強固に付着させる。活性線硬化型インクを用いる画像形成方法は、インク吸収性のない記録媒体においても、高い耐捺過性と密着性を有する画像を形成できることから、近年注目されつつある。
【0003】
活性線硬化型インクの一種として、ゲル化剤を配合することで、インク液滴が記録媒体に着弾する際、瞬時に相変化させて液滴の混合を防ぎ、高精細な画像を形成できることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ゲル化可能な薬剤を含み、ゲル化した単体組成物が、ゲルを機械的に破壊してゲル粘度が階段状に低くなった後に60秒よりも長い回復時間を有するチキソトロピー性組成物である、放射線硬化性ホットメルトインクが記載されている。上記放射線硬化性ホットメルトインクにより、インクが記録媒体の表面ですぐに硬化することによる画像の光沢の消失を軽減したとされている。
【0005】
特許文献2には、遊離ラジカル重合によって効果させることが可能な少なくとも1つの硬化性ワックスを含んだ、放射線硬化性ペーストインク組成物が記載されている。上記放射線硬化性ペーストインク組成物は、約20~25℃でペーストであり、40℃より高い温度で液体組成物となることで、少ないエネルギーで硬化させることができ、さらに高品質画像を形成することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2009-510184号公報
【文献】特開2012-236998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2のように、ゲル化剤を含有したインクにより、高精細な画像が得られることが知られている。
【0008】
しかしながら、使用する記録媒体の種類ごとに、物性が異なり、インクが着弾するときの記録媒体の表面温度が異なる。そのため、特許文献1および特許文献2のインクジェットインクでは、使用する記録媒体の表面温度によっては、インク中におけるゲル化剤の結晶サイズが異なることにより、形成される画像の光沢ムラが生じる問題や、ゲル化剤の結晶化不足により酸素透過性が上がり、酸素阻害によるインクの硬化不足になることによって混色による色滲みが生じてしまうという問題がある。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、ゲル化剤を含んでいても、形成される画像の光沢に対する、記録媒体の温度依存性を制御できる、活性線硬化型インク、画像形成方法、およびこれらにより形成される印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に関する活性線硬化型インクは、活性線重合性化合物と、ゲル化剤および結晶化調整剤とを含有する、活性線硬化型インクであって、前記活性線硬化型インクの全質量に対する着色剤の含有量が0.1質量%未満であり、前記ゲル化剤は、直鎖部分の炭素数が10以上30以下のアルキル鎖を含み、前記結晶化調整剤は、前記ゲル化剤との相互作用エネルギーが-1.0eV以下である化合物を含み、前記結晶化調整剤の含有量は、インクの全質量に対して2質量%以上30質量%以下である、活性線硬化型インクである。
【0011】
また、上記課題を解決するための本発明の一実施形態に関する活性線硬化型インクは、活性線重合性化合物と、ゲル化剤と、着色剤および結晶化調整剤とを含有する、活性線硬化型インクであって、前記ゲル化剤は、直鎖部分の炭素数が10以上30以下のアルキル鎖を含み、前記結晶化調整剤は、前記ゲル化剤との相互作用エネルギーが-1.0eV以下である化合物を含み、前記結晶化調整剤の含有量は、インクの全質量に対して2質量%以上30質量%以下である、活性線硬化型インクである。
【0012】
また、上記課題を解決するための一実施形態に関する画像形成方法は、上記活性線硬化型インクを記録媒体に付与する工程と、上記付与された前記活性線硬化型インクに活性線を照射する工程と、を含む、画像形成方法である。
【0013】
また、上記課題を解決するための一実施形態に関する印刷物は、上記活性線硬化型インクを用いて形成された印刷層を有する、印刷物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によりゲル化剤を含んでいても、形成される画像の光沢に対する、記録媒体の温度依存性を制御できる、活性線硬化型インク、画像形成方法およびこれらにより形成される印刷物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に関するインクジェット用の画像形成装置の概念を示す側面図である
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
【0017】
[活性線硬化型インク]
本発明の一実施形態に関する活性線硬化型インクは、活性線重合性化合物と、ゲル化剤および結晶化調整剤とを含有する、活性線硬化型インクであって、前記活性線硬化型インクの全質量に対する着色剤の含有量が0.1質量%未満であり、前記ゲル化剤は、直鎖部分の炭素数が10以上30以下のアルキル鎖を含み、前記結晶化調整剤は、前記ゲル化剤との相互作用エネルギーが-1.0eV以下である化合物を含み、前記結晶化調整剤の含有量は、インクの全質量に対して2質量%以上30質量%以下である、活性線硬化型インクである。
【0018】
また、本発明の他の実施形態に関する活性線硬化型インクは、活性線重合性化合物と、ゲル化剤と、着色剤および結晶化調整剤とを含有する、活性線硬化型インクであって、前記ゲル化剤は、直鎖部分の炭素数が10以上30以下のアルキル鎖を含み、前記結晶化調整剤は、前記ゲル化剤との相互作用エネルギーが-1.0eV以下である化合物を含み、前記結晶化調整剤の含有量は、インクの全質量に対して2質量%以上30質量%以下である、活性線硬化型インクである。
【0019】
ゲル化剤を含んだ活性線硬化型インクは、インク液滴が記録媒体に着弾するときに、ゲル化剤が結晶化することで液滴がゲル化して仮固定(ピニング)することができる。これにより液滴どうしの混合を防ぐことができる。そして、ゲル化したインク液滴に、電子線、紫外線などの活性線を照射することで、インク中の活性線重合性化合物が重合を開始し、インク液滴が硬化して硬化膜を形成する。このような活性線硬化型インクを用いることで、高精細な画像が得られる。
【0020】
しかしながら、上述のように記録媒体の種類によって表面温度が異なることにより、形成される画像の画質に差が生じてしまう。
【0021】
具体的には、記録媒体の種類によっては、記録媒体を下方(裏面側)から加熱した場合、インク着弾面までの熱の伝わり方が異なるため、記録媒体の表面温度が異なる。また、記録媒体の種類によっては、記録媒体を上方(インク着弾面側)から加熱した場合、記録媒体表面の保温されやすさが異なる。このため、保温されにくい記録媒体は、保温されやすい記録媒体に比べて、表面から熱が逃げやすく、インク着弾時の表面温度が低くなる。
【0022】
記録媒体の表面温度が高い場合、インクがゲル化する温度に下がるまでに時間がかかり、ゆっくりと結晶化するため、形成された画像内でゲル化剤の結晶サイズがばらつき、結晶サイズが小さい部分と大きい部分が混在してしまう。結晶サイズが小さい部分では、結晶配置が緻密であるため、画像表面を略平坦にできるが、結晶サイズが大きい部分では、結晶サイズが小さい部分よりも画像表面が凸凹のある形状となる。このため、画像内において、結晶サイズが小さい部分と大きい部分とで、光の反射率が異なり、画像の光沢ムラが生じてしまう。
【0023】
一方で、記録媒体の表面温度が低くなると、冷却速度の増加により、結晶化に要する時間が不足するため、結晶化が十分に進行しにくくなる。これにより、酸素透過性が上がるため、インクの硬化が阻害されてしまう。これにより、ゲル化されたインク液滴の硬化速度が低下し、硬化する前に、インクが記録媒体上でゆっくりと広がり、異なる色のインクの液滴どうしが記録媒体上で混ざり合うことで、混色による色滲みが生じてしまう。
【0024】
そこで、本発明者らが鋭意研究したところ、直鎖部分の炭素数が10以上30以下のアルキル鎖を有するゲル化剤を含んだ活性線硬化型インクに、水素結合性や双極子相互作用が低く、かつ、二重結合を有する疎水的な化合物を含む結晶化調整剤を添加することで、ゲル化剤の結晶が、基材温度によらず結晶サイズを安定させることが見出された。これについて、詳細は明らかではないが、ゲル化剤の炭素鎖におけるCH部分と、結晶化調整剤に含まれる化合物のπ電子との間にCH/π相互作用が働いていると考えられる。CH/π相互作用が形成されると、結晶化調整剤とゲル化剤の間に親和的な力が働き、結晶化調整剤が均一な結晶核として働き、結晶化が進行し、インク内においてゲル化剤の結晶サイズが一定サイズになる。これにより、結晶化調整剤を添加しないときよりも、温度の影響を受けにくくなるため、記録媒体の表面温度が高いときでも、結晶サイズを一定に保つことができると考えられる。これにより、形成された画像表面の状態を略均一化させることができるため、画像の光沢ムラが抑制されると考えられる。
【0025】
さらに、上記のように、結晶化調整剤が結晶核として働くことで、温度の影響を受けずに結晶化が進行しやすくなる。これにより、酸素阻害が抑制され、結晶化調整剤を添加しないときよりもインクの硬化速度が向上することで、記録媒体上で、インク液滴どうしが混ざり合うことが抑制されるため、基材温度が十分に高くないときでも、インクの混色が抑制されると考えられる。
【0026】
さらに、上記結晶化調整剤が、上記CH/π相互作用に係る分子間の結合力である相互作用エネルギーの値が-1.0eV以下である化合物を含むことで、ゲル化剤のCH部分との結合力が強くなる。結合力が強くなると、結晶化調整剤が、ゲル化剤に近づき、結晶核として働きやすくなるため、よりゲル化剤の結晶サイズのばらつきを抑えることができる。さらに、ゲル化剤の結晶化が進行しやすくなり、インクの硬化速度を向上させることができると考えられる。
【0027】
これらの理由により、本発明の活性線硬化型インクは、ゲル化剤を含んでいても、記録媒体の表面温度によらず、形成される画像の光沢ムラおよび混色による色滲みが抑制されると考えられる。
【0028】
(結晶化調整剤)
本発明の活性線硬化型インクは、結晶化調整剤を含む。上記結晶化調整剤は、直鎖部分の炭素数が10以上30以下のアルキル鎖を含むゲル化剤と、CH/π相互作用を形成する化合物を含む。
【0029】
CH/π相互作用は、CH基(アルキル基のCHなど)の水素と、二重結合(C=C、C=O、C=N)や芳香環のπ電子との間に働く弱い親和的な力である。CH/π相互作用の単位あたりのエネルギーは小さいが、アルキル基は一般に複数のCHを有しており、芳香環も複数のπ電子雲を有しているため、多数のCH/π相互作用が同時に働くことが可能である。例えば、複数の芳香環を有している化合物を用いた場合、ゲル化剤との間で、CH/π相互作用が複数形成され、これらをまとめると結合力(以下、相互作用エネルギーと称する)が十分に高くなると考えられる。
【0030】
本発明において、上記ゲル化剤とCH/π相互作用を形成する化合物は、上記ゲル化剤との相互作用エネルギーが-1.0eV以下である。本発明において、相互作用エネルギーの値が小さいほど、CH/π相互作用による結合力が強く働いていることを示す。ゲル化剤の結晶サイズを一定にさせる観点から、上記ゲル化剤と上記化合物との相互作用エネルギーが-4.0eV以上-1.0eV以下であることが好ましく、-4.0eV以上-1.5eV以下であることがより好ましく、-4.0eV以上-2.0eV以下であることがさらに好ましい。相互作用エネルギーが上記範囲にあることで、画像の光沢ムラおよび混色を抑制することができる。
【0031】
相互作用エネルギーの値は、例えば、Materials Studio 2019(ダッソー・システムズ社製)のDmolを使用して算出することができる。上記の方法による相互作用エネルギーの算出は、密度汎関数理論に基づいた電子状態計算プログラムによるものである。本発明では、相互作用エネルギーを算出するにあたり、汎関数をGGA/PBE、基底関数をDNDとして設定し、下記の計算式(1)に従って、相互作用エネルギーΔEを算出した。なお、式(1)においてE(a)はゲル化剤のエネルギー、E(b)は上記ゲル化剤とCH/π相互作用を形成する化合物のエネルギー、E(a+b)はゲル化剤と上記ゲル化剤とCH/π相互作用を形成する化合物が、相互作用した場合のエネルギーである。E(a)、E(b)、E(a+b)を求める際には、上記計算ソフトDmolを用いて、分子の基底状態における最安定な幾何構造を求め、その分子の全エネルギーを算出する。例えば、E(a)はゲル化剤単分子の最安定構造を計算して、その全エネルギーをDmolから求める。E(b)は結晶化調整剤単分子の最安定構造を計算して、その全エネルギーをDmolから求める。E(a+b)はゲル化剤と結晶化調整剤の最も安定な配座に対する全エネルギーを求める。
ΔE=E(a+b)―{E(a)+E(b)} (1)
【0032】
上記ゲル化剤とCH/π相互作用を形成する化合物は、複数の芳香環を有することが好ましい。具体的には、2個以上6個以下の芳香環を有することが好ましく、2個以上3個以下の芳香環を有することがより好ましい。上記化合物が有する芳香環の数が上記範囲にあることで、ゲル化剤のCHドナー(電子供与体)の部分構造と安定な配座を形成しやくなるとなる。また、ゲル化剤のCH基の水素と芳香環のπ電子との間で起こるCH/π相互作用を、多くの点で形成させることができる。
【0033】
上記複数の芳香環は、それぞれ間に、例えば、エステル結合、スルフィド結合、アミド結合等を含んでいてもよい。
【0034】
上記芳香環は、特に限定されないが、具体的な例として、ベンゼン環、芳香族ヘテロ環、芳香族縮合環等が挙げられる。
【0035】
上記芳香族ヘテロ環の具体的な例には、ピリジン環、チアゾール環、イソチアゾール環、チオフェン環、テトラヒドロチオフェン環、フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、ピロール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、ピラゾール環、トリアゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾイミダゾール環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾチアゾール環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環等が挙げられる。
【0036】
上記芳香族縮合環の具体的な例には、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、インデン環等が挙げられる。
【0037】
上記化合物は1個以上のベンゼン環を有することが好ましく、2個以上6個以下のベンゼン環を有することがより好ましく、3個以上5個以下のベンゼン環を有することがさらに好ましい。上記化合物が上記範囲のベンゼン環を有することにより、相互作用エネルギーの値を小さくし、より結合力を高めることができる。
【0038】
また、上記と同様の理由から、上記化合物は、5員複素環を有することが好ましく、2つ以上5つ以下の5員複素環を有することがより好ましく、2つ以上4つ以下の5員複素環を有することがさらに好ましい。上記複素5員環はヘテロ原子として硫黄原子、酸素原子、窒素原子を含んでもよく、これらのうち、窒素原子を含むことが好ましい。上記5員複素環が窒素原子を含むことで、πアクセプター性(電子受容性)が強くなる。窒素原子は、上記複素5員環に1つ以上3つ以下含まれることが好ましい。
【0039】
上記化合物が有する芳香環は、置換基を有していてもよい。πアクセプター性を高める観点から、上記置換基は芳香族炭化水素環(例えばベンゼン環、ナフタレン環、コロネン環、トリフェニレン環、アントラセン環等)、芳香族複素環のいずれかであることが好ましい。また、上記置換基はアルキル基、アルコキシ基のいずれかを有しても良い。上記アルキル基は、エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合等を構造中に含んでいてもよい。上記アルキル基の炭素数は1以上5以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。
【0040】
上記化合物が複数の芳香環を有する場合、芳香環どうしが単結合されていてもよいし、間にエステル結合、アミド結合等を介してもよいし、ヘテロ原子を介して単結合されていてもよい。
【0041】
上記化合物の含有量は、本発明の活性線硬化型インクの全質量に対して、2質量%以上30質量%以下である。ゲル化剤とのCH/π相互作用により、画像の光沢ムラを抑制する観点から、2質量%以上10質量%以下であることが好ましく、3質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、5質量%8質量%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
上記化合物は下記化合物等が例示される。
【0043】
【化1】
【0044】
【化2】
【0045】
【化3】
【0046】
【化4】
【0047】
【化5】
【0048】
【化6】
【0049】
上記化合物は、上記活性線硬化型インク中に1種類のみが含まれていてもよいし2種類以上が含まれていてもよい。
【0050】
上記の例示化合物のうち、上記例示した化合物(1)~(37)のうち、化合物(5)、(8)、(10)、(12)、(15)~(17)、(19)、(22)~(31)、(33)のような、ベンゼン環と5員複素環をそれぞれ少なくとも2つ有しているものが好ましい。
【0051】
(活性線重合性化合物)
上記活性線重合性化合物は、活性線の照射により重合および架橋する化合物である。活性線重合性化合物の例には、ラジカル重合性化合物およびカチオン重合性化合物が含まれる。これらのうち、活性線重合性化合物は、ラジカル重合性化合物であることが好ましい。
【0052】
なお、上記活性線の例には、電子線、紫外線、α線、γ線およびエックス線などが含まれる。これらのち、紫外線および電子線が好ましく、紫外線がより好ましい。
【0053】
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物(モノマー、オリゴマー、ポリマーあるいはこれらの混合物)である。ラジカル重合性化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物の例には、不飽和カルボン酸とその塩、不飽和カルボン酸エステル化合物、不飽和カルボン酸ウレタン化合物、不飽和カルボン酸アミド化合物およびその無水物、アクリロニトリル、スチレン、不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタンなどが挙げられる。不飽和カルボン酸の例には、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸などが含まれる。
【0055】
ラジカル重合性化合物は、不飽和カルボン酸エステル化合物であることが好ましく、(メタ)アクリレートであることがより好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタアクリレートを意味し、「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0056】
単官能の(メタ)アクリレートの例には、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸およびt-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0057】
多官能の(メタ)アクリレートの例には、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートおよびトリプロピレングリコールジアクリレートを含む2官能の(メタ)アクリレート、ならびに、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレートを含む3官能以上の(メタ)アクリレートが含まれる。
【0058】
ラジカル重合性化合物は、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドで変性された(メタ)アクリレート(以下、単に「変性(メタ)アクリレート」ともいう。)を含むことが好ましい。変性(メタ)アクリレートは、感光性がより高い。また、変性(メタ)アクリレートは、高温下でも他の成分とより相溶しやすい。さらには、変性(メタ)アクリレートは、硬化収縮が少ないため、活性線照射時の印刷物のカールをより生じさせにくい。
【0059】
カチオン重合性化合物の例には、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物およびオキセタン化合物などが含まれる。
【0060】
上記エポキシ化合物の例には、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3′,4′-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンモノエポキサイド、ε-カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3′,4′-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1-メチル-4-(2-メチルオキシラニル)-7-オキサビシクロ[4,1,0]ヘプタン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサノン-メタ-ジオキサンおよびビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテルなどの脂環式エポキシ樹脂、1,4-ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセリンなどの脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドなど)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどを含む脂肪族エポキシ化合物、ならびに、ビスフェノールAまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAまたはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル、およびノボラック型エポキシ樹脂などを含む芳香族エポキシ化合物などが含まれる。
【0061】
上記ビニルエーテル化合物の例には、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル-o-プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、およびオクタデシルビニルエーテルなどを含むモノビニルエーテル化合物、ならびにエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、およびトリメチロールプロパントリビニルエーテルなどを含むジまたはトリビニルエーテル化合物などが含まれる。
【0062】
上記オキセタン化合物の例には、3-ヒドロキシメチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-ノルマルブチルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシメチル-3-ベンジルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシエチル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-メチルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-エチルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-プロピルオキセタン、3-ヒドロキシプロピル-3-フェニルオキセタン、3-ヒドロキシブチル-3-メチルオキセタン、1,4ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタンおよびジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテルなどが含まれる。
【0063】
活性線重合性化合物の含有量は、例えば、上記活性線硬化型インクの全質量に対して1質量%以上97質量%以下とすることができる。
【0064】
(活性線重合開始剤)
上記活性線硬化型インクは、活性線重合開始剤を含有してもよい。
【0065】
活性線重合開始剤は、活性線の照射により上記活性線重合性化合物の重合および架橋を開始させる化合物である。なお、電子線の照射により画像を形成するときなど、活性線重合開始剤なしでも上記活性線重合性化合物の重合および架橋が開始できるとき、上記活性線硬化型インクは、活性線重合開始剤を含有しなくてもよい。
【0066】
活性線重合開始剤は、上記活性線硬化型インクがラジカル重合性化合物を有するときはラジカル開始剤とすることができ、上記活性線硬化型インクがカチオン重合性化合物を有するときはカチオン開始剤(光酸発生剤)とすることができる。
【0067】
ラジカル重合開始剤には、分子内結合開裂型のラジカル重合開始剤と分子内水素引き抜き型のラジカル重合開始剤とが含まれる。
【0068】
分子内結合開裂型のラジカル重合開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-メチルチオフェニル)プロパン-1-オン、および2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノンなどを含むアセトフェノン系の開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、およびベンゾインイソプロピルエーテルなどを含むベンゾイン類、2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドなどを含むアシルホスフィンオキシド系の開始剤、ならびに、ベンジルおよびメチルフェニルグリオキシエステルなどが含まれる。
【0069】
分子内水素引き抜き型のラジカル重合開始剤の例には、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、および3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンなどを含むベンゾフェノン系の開始剤、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントンなどを含むチオキサントン系の開始剤、ミヒラーケトン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノンなどを含むアミノベンゾフェノン系の開始剤、10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、9,10-フェナンスレンキノン、ならびにカンファーキノンなどが含まれる。
【0070】
カチオン系の重合開始剤の例には、光酸発生剤が含まれる。光酸発生剤の例には、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、およびホスホニウムなどを含む芳香族オニウム化合物のB(C 、PF 、AsF 、SbF 、CFSO 塩など、スルホン酸を発生するスルホン化物、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物、ならびに鉄アレン錯体などが含まれる。
【0071】
活性線重合開始剤の含有量は、活性線の照射によって活性線硬化型インクが十分に硬化し、かつ活性線硬化型インクの吐出性を顕著に低下させない範囲において、任意に設定することができる。たとえば、活性線硬化型インクは、その全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下の活性線重合開始剤を含有することが好ましく、4質量%以上8質量%以下の活性線重合開始剤を含有することがより好ましく、4質量%以上6質量%以下の活性線重合開始剤を含有することがさらに好ましい。
【0072】
(ゲル化剤)
ゲル化剤は、記録媒体に着弾したインクの液滴をゲル化して仮固定(ピニング)することができる化合物であればよい。ゲル化剤は、上記活性線硬化型インクを加熱状態ではゾル化させ、室温付近ではゲル化させる。これにより、加熱されてゾル化された活性線硬化型インクをインクジェットヘッドから吐出させ、かつ、記録媒体に着弾して冷却してゲル化された活性線硬化型インクを仮固化させて、インクのピニング性を高めることができる。記録媒体に着弾したインクがゲル化してピニングされると、インクの濡れ広がりが抑えられて隣り合うドットが同一しにくくなるため、より高精細な画像を形成することができる。
【0073】
ゲル化剤は、活性線硬化型インクのゲル化温度より高い温度で、インクに含有される活性線重合性化合物に溶解し、かつ、インクのゲル化温度以下の温度で、インク中で結晶化する化合物であることが好ましい。ゲル化温度とは、加熱によりゾル化または液体化した上記活性線硬化型インクを冷却したときに、インクがゾルからゲルに相転移し、インクの粘度が急変する温度を意味する。具体的には、ゾル化または液体化したインクを、レオメータ(たとえばAnton Paar社製、MCR300)で粘度を測定しながら冷却していったおきに、粘度が急激に上昇した温度を、そのインクのゲル化温度とすることができる。
【0074】
ゲル化剤は、インクのゲル化温度以下の温度で、インク中で結晶化して、板状に結晶化
したゲル化剤によって形成された三次元空間にラジカル重合性化合物が内包される構造を
形成することが好ましい(このような構造を、以下「カードハウス構造」という。)。カードハウス構造が形成されると、液体状の活性線重合性化合物が上記空間内に保持されるため、インクが記録媒体に付着して形成されたドットがより濡れ広がりにくくなり、インクのピニング性がより高まる。インクのピニング性が高まると、インクが記録媒体に付着して形成されたドット同士が合一しにくくなる。
【0075】
カードハウス構造をより形成させやすくする観点からは、インク中で溶解しているラジカル重合性化合物とゲル化剤とが相溶していることが好ましい。
【0076】
結晶化によるカードハウス構造の形成に好適なゲル化剤の例には、ケトンワックス、エステルワックス、石油系ワックス、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、硬化ヒマシ油、変性ワックス、高級脂肪酸、高級アルコール、ヒドロキシステアリン酸、N-置換脂肪酸アミドおよび特殊脂肪酸アミドを含む脂肪酸アミド、高級アミン、ショ糖脂肪酸のエステル、合成ワックス、ジベンジリデンソルビトール、ダイマー酸ならびにダイマージオールが含まれる。
【0077】
上記ケトンワックスの例には、ジリグノセリルケトン、ジベヘニルケトン、ジステアリルケトン、ジエイコシルケトン、ジパルミチルケトン、ジラウリルケトン、ジミリスチルケトン、ミリスチルパルミチルケトンおよびパルミチルステアリルケトンが含まれる。
【0078】
上記エステルワックスの例には、ベヘニン酸ベヘニル、イコサン酸イコシル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸パルミチル、パルミチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、セロチン酸ミリシル、ステアリン酸ステアリル、パルミチン酸オレイル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルが含まれる。上記エステルワックスの市販品の例には、EMALEXシリーズ、日本エマルジョン株式会社製(「EMALEX」は同社の登録商標)、リケマールシリーズおよびポエムシリーズ、理研ビタミン株式会社製(「リケマール」および「ポエム」はいずれも同社の登録商標)が含まれる。
【0079】
上記石油系ワックスの例には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスおよびペトロラクタムを含む石油系ワックスが含まれる。
【0080】
上記植物系ワックスの例には、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、ホホバ固体ロウおよびホホバエステルが含まれる。
【0081】
上記動物系ワックスの例には、ミツロウ、ラノリンおよび鯨ロウが含まれる。
【0082】
上記鉱物系ワックスの例には、モンタンワックスおよび水素化ワックスが含まれる。
【0083】
上記変性ワックスの例には、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体、12-ヒドロキシステアリン酸誘導体およびポリエチレンワックス誘導体が含まれる。
【0084】
上記高級脂肪酸の例には、ベヘン酸、アラキジン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸,ラウリン酸、オレイン酸、およびエルカ酸が含まれる。
【0085】
上記高級アルコールの例には、ステアリルアルコールおよびベヘニルアルコールが含まれる。
【0086】
上記ヒドロキシステアリン酸の例には、12-ヒドロキシステアリン酸が含まれる。
【0087】
上記脂肪酸アミドの例には、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミドおよび12-ヒドロキシステアリン酸アミドが含まれる。上記脂肪酸アミドの市販品の例には、ニッカアマイドシリーズ、日本化成株式会社製(「ニッカアマイド」は同社の登録商標)、ITOWAXシリーズ、伊藤製油株式会社製、およびFATTYAMIDシリーズ、花王株式会社社製が含まれる。
【0088】
上記N-置換脂肪酸アミドの例には、N-ステアリルステアリン酸アミドおよびN-オレイルパルミチン酸アミドが含まれる。
【0089】
上記特殊脂肪酸アミドの例には、N,N’-エチレンビスステアリルアミド、N,N’-エチレンビス-12-ヒドロキシステアリルアミドおよびN,N’-キシリレンビスステアリルアミドが含まれる。
【0090】
上記高級アミンの例には、ドデシルアミン、テトラデシルアミンおよびオクタデシルアミンが含まれる。
【0091】
上記ショ糖脂肪酸のエステルの例には、ショ糖ステアリン酸およびショ糖パルミチン酸が含まれる。
【0092】
上記ショ糖脂肪酸のエステルの市販品の例には、リョートーシュガーエステルシリーズ、三菱化学フーズ株式会社製(「リョートー」は同社の登録商標)が含まれる。
【0093】
上記合成ワックスの例には、ポリエチレンワックスおよびα-オレフィン無水マレイン酸共重合体ワックスが含まれる。
【0094】
上記合成ワックスの市販品の例には、UNILINシリーズ、Baker-Petrolite社製(「UNILIN」は同社の登録商標)が含まれる。
【0095】
上記ジベンジリデンソルビトールの例には、1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトールが含まれる。
【0096】
上記ジベンジリデンソルビトールの市販品の例には、ゲルオールD、新日本理化株式会社製(「ゲルオール」は同社の登録商標)が含まれる。
【0097】
上記ダイマージオールの市販品の例には、PRIPORシリーズ、CRODA社製(「PRIPOR」は同社の登録商標)が含まれる。
【0098】
ゲル化剤は、ピニング性を高める観点および結晶化調整剤に含まれる化合物とのCH/π相互作用を形成しやすくする観点から、ケトンワックス、エステルワックス、石油系ワックス、脂肪酸アミド、のいずれかであることが好ましく、ケトンワックス、エステルワックスおよび脂肪酸アミドのいずれかであることがより好ましく、ケトンワックスおよびエステルワックスであることがさらに好ましい。これによりゲル化剤のCHドナー性(電子供与性)が有効に機能しうると考えられる。
【0099】
本発明の活性線硬化型インクに含まれるゲル化剤は、直鎖部分の炭素数が10以上30以下のアルキル鎖を有する。また、上記炭素数は12以上26以下であることが好ましい。上記範囲の炭素数を有することで、ゲル化剤と結晶化調整剤に含まれる化合物とがCH/π相互作用を形成しやすくなり、画像の光沢ムラおよび混色を抑制することができる。また、直鎖部分の炭素数が10以上であると、上記カードハウス構造において十分な空間が生じ、ラジカル重合性化合物が上記空間内に内包されやすくなる。30以下であると、インクがゾル化する温度が過度に高まらないため、インク射出時に、インクを過度に加熱する必要がなくなる。
【0100】
アルキル鎖の末端に極性基を有さず、インク中でのゲル化剤の安定性を向上させる観点から、ゲル化剤は、下記一般式(G1)および(G2)で表される化合物であることが好ましい。
【0101】
式(G1):R-CO-R
(式(G1)において、RおよびRは、いずれも炭素数が10以上30以下である、分岐鎖を有してもよい直鎖状の炭化水素基である。)
【0102】
式(G2):R-COO-R
(式(G2)において、RおよびRは、いずれも炭素数が10以上30以下である、分岐鎖を有してもよい直鎖状の炭化水素基である。)
【0103】
上記式(G1)で表されるケトンワックスの例には、ジリグノセリルケトン(炭素数:23-24)、ジベヘニルケトン(炭素数:21-22)、ジステアリルケトン(炭素数:17-18)、ジエイコシルケトン(炭素数:19-20)、ジパルミチルケトン(炭素数:15-16)、ジミリスチルケトン(炭素数:13-14)、ジラウリルケトン(炭素数:11-12)、ラウリルミリスチルケトン(炭素数:11-14)、ラウリルパルミチルケトン(11-16)、ミリスチルパルミチルケトン(13-16)、ミリスチルステアリルケトン(13-18)、ミリスチルベヘニルケトン(13-22)、パルミチルステアリルケトン(15-18)、バルミチルベヘニルケトン(15-22)、およびステアリルベヘニルケトン(17-22)、等が含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、カルボニル基で分断される2つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
【0104】
式(G1)で表されるケトンワックスの市販品の例には、18-Pentatriacontanon、Alfa Aeser社製、Hentriacontan-16-on、Alfa Aeser社製およびカオーワックスT1、花王社製(「カオーワックス」は同社の登録商標)が含まれる。
【0105】
式(G2)で表される脂肪酸またはエステルワックスの例には、ベヘニン酸ベヘニル(炭素数:21-22)、イコサン酸イコシル(炭素数:19-20)、ステアリン酸ステアリル(炭素数:17-18)、ステアリン酸パルミチル(炭素数:17-16)、ステアリン酸ラウリル(炭素数:17-12)、パルミチン酸セチル(炭素数:15-16)、パルミチン酸ステアリル(炭素数:15-18)、ミリスチン酸ミリスチル(炭素数:13-14)、ミリスチン酸セチル(炭素数:13-16)、ミリスチン酸オクチルドデシル(炭素数:13-20)、オレイン酸ステアリル(炭素数:17-18)、エルカ酸ステアリル(炭素数:21-18)、リノール酸ステアリル(炭素数:17-18)、オレイン酸ベヘニル(炭素数:18-22)およびリノール酸アラキジル(炭素数:17-20)が含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、エステル基で分断される2つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
【0106】
式(G2)で表されるエステルワックスの市販品の例には、ユニスターM-2222SLおよびスパームアセチ、日油社製(「ユニスター」は同社の登録商標)、エキセパールSSおよびエキセパールMY-M、花王社製(「エキセパール」は同社の登録商標)、EMALEXCC-18およびEMALEXCC-10、日本エマルジョン社製ならびにアムレプスPC、高級アルコール工業社製(「アムレプス」は同社の登録商標)が含まれる。これらの市販品は、二種類以上の混合物であることが多いため、必要に応じて分離・精製してインクに含有させてもよい。
【0107】
ゲル化剤の含有量は、インクの全質量に対して1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上7.5質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以上3.5質量%以下であることがさらに好ましい。ゲル化剤の含有量を1.0質量%以上とすることで、インクのピニング性を十分に高め、より高精細な画像を形成することができる。ゲル化剤の含有量を10.0質量%以下とすることで、ゲル化剤の結晶の量を制御し、画像の光沢ムラを抑制することができ、かつ、インク硬化膜の表面近傍におけるワックスの量をより適切に制御して、活性線硬化型インクの硬化性をより高め、混色を抑制することができる。
【0108】
(着色剤)
本発明の他の実施形態における活性線硬化型インクは着色剤を含有する。
【0109】
着色剤は、染料または顔料であるが、インクの構成成分に対して良好な分散性を有し、かつ対候性に優れることから、顔料が好ましい。顔料は、形成すべき画像の色彩などに応じて、たとえば、黄(イエロー)顔料、赤またはマゼンタ顔料、青またはシアン顔料、黒顔料および白色顔料から選択することができる。
【0110】
黄顔料の例には、C.I.Pigment Yellow(以下、単に「PY」ともいう。)1、PY3、PY12、PY13、PY14、PY17、PY34、PY35、PY37、PY55、PY74、PY81、PY83、PY93、PY94,PY95、PY97、PY108、PY109、PY110、PY137、PY138、PY139、PY153、PY154、PY155、PY157、PY166、PY167、PY168、PY180、PY185、およびPY193などが含まれる。
【0111】
赤あるいはマゼンタ顔料の例には、C.I.Pigment Red(以下、単に「PR」ともいう。)3、PR5、PR19、PR22、PR31、PR38、PR43、PR48:1、PR48:2、PR48:3、PR48:4、PR48:5、PR49:1、PR53:1、PR57:1、PR57:2、PR58:4、PR63:1、PR81、PR81:1、PR81:2、PR81:3、PR81:4、PR88、PR104、PR108、PR112、PR122、PR123、PR144、PR146、PR149、PR166、PR168、PR169、PR170、PR177、PR178、PR179、PR184、PR185、PR208、PR216、PR226、およびPR257、C.I.Pigment Violet(以下、単に「PV」ともいう。)3、PV19、PV23、PV29、PV30、PV37、PV50、およびPV88、ならびに、C.I.PigmentOrange(以下、単に「PO」ともいう。)13、PO16、PO20、およびPO36などが含まれる。
【0112】
青またはシアン顔料の例には、C.I.Pigment Blue(以下、単に「PB」ともいう。)1、PB15、PB15:1、PB15:2、PB15:3、PB15:4、PB15:6、PB16、PB17-1、PB22、PB27、PB28、PB29、PB36、およびPB60などが含まれる。
【0113】
緑顔料の例には、C.I.Pigment Green(以下、単に「PG」ともいう。)7、PG26、PG36、およびPG50などが含まれる。
【0114】
黒顔料の例には、C.I.Pigment Black(以下、単に「PBk」ともい
う。)7、PBk26、およびPBk28などが含まれる。
【0115】
白色顔料は、白色インクが硬化してなる硬化膜に白色を呈させる顔料であればよい。白色顔料の例には、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および水酸化アルミニウムなどの無機顔料が含まれる。これらのうち、酸化チタンが好ましい。
【0116】
上記酸化チタンの結晶形態は、ルチル型、アナターゼ型およびブルーカイト型のいずれでもよいが、白色顔料をより小粒径化しやすくする観点からは、比重が小さいアナターゼ型が好ましく、形成される画像の隠蔽性をより高める観点からは、可視光領域における屈折率が大きいルチル型が好ましい。
【0117】
本発明の一実施形態において、着色剤の含有量は、インク全質量に対して0.1質量%未満である。
【0118】
本発明の他の実施形態において、着色剤の含有量は、インク全量に対して0.1質量%以上10質量%であることが好ましく、1質量%以上5質量%であることがより好ましい。白色顔料の含有量は、3質量%以上8質量%以下であることが好ましい。
【0119】
[顔料分散剤]
本発明の活性線硬化型インクジェットインクには、顔料分散剤が含まれていてもよい。インクに顔料分散剤を含ませることで、顔料の分散性を高めることができる。顔料分散剤に、3級アミンを有するくし型ブロックコポリマー(以下、単にコポリマーともいう。)を含むとより好ましい。なお、本発明において、くし型ブロックコポリマーとは、主鎖を形成する直鎖状のポリマーに対し、主鎖を構成するモノマーの1単位ごとに側鎖として別の種類のポリマーがグラフト重合したコポリマーをいう。
【0120】
顔料分散剤の含有量は、限定されないが、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。顔料分散剤の含有量は、0.5質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましい。
【0121】
顔料分散剤は、コポリマーの他に、たとえば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、およびステアリルアミンアセテート等の顔料分散剤を含有してもよい。顔料分散剤の市販品の例には、Avecia社製のSolsperseシリーズや、味の素ファインテクノ株式会社製のPBシリーズ等が含まれる。
【0122】
コポリマーは、3級アミンを有することで、顔料への吸着性を有する官能基であるアミンの電子密度が増大し、強い塩基性が発揮されるため、顔料表面の酸性基に強固に吸着することができる。そのため、インクジェットインクが吐出される85℃近傍でも、本発明に係るコポリマーは顔料から解離しにくい。また、本発明に係るコポリマーとして、主鎖に3級アミンを有するものを用いると、側鎖が光重合性化合物と相溶し、顔料分散剤そのものが分散しやすいので、顔料分散剤が吸着した顔料の分散性をよくすることもできる。
【0123】
アミンの置換基は特に限定されないが、炭素原子数1又は2のアルキル基等が好ましい。
【0124】
コポリマーは、上記条件を満たす顔料分散剤であれば、その種類は特に限定されない。このような顔料分散剤の好ましい例には、ビックケミー社製のBYK-2164、BYK-168、BYK N-22024、アルタナ社製のBYK JET-9150、BYK JET-9151、BASF社製のEfka 4310、Efka 4320、Efka 4401、Avecia社のSOLSPERSE 39000、味の素ファインテクノ株式会社製のアジスパーPB-824等が含まれる。
【0125】
2級又は1級のアミンを有するくし型ブロックコポリマーのアミンが有する水素を、公知の方法で他の置換基で置き換えて、アミンを3級化してもよい。たとえば、くし型ブロックコポリマーが有する2級アミン又は1級アミンを、還元触媒の存在下でデシルアルコール等のアルコールと反応させて、アルキル基で置換された3級アミンとすることができる。
【0126】
本発明の活性線硬化型インクジェットインクは、必要に応じて分散助剤をさらに含んでもよい。分散助剤は、顔料に応じて選択されればよい。
【0127】
顔料分散剤および分散助剤の合計量は、顔料に対して1質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0128】
本発明の活性線硬化型インクジェットインクは、必要に応じて顔料を分散させるための分散媒体をさらに含んでもよい。分散媒体として溶剤をインクに含ませてもよいが、形成された画像における溶剤の残留を抑制するためには、前述のような光重合性化合物(特に粘度の低いモノマー)を分散媒体として用いることが好ましい。
【0129】
顔料の分散は、たとえばボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、およびペイントシェーカー等により行うことができる。顔料の分散は、顔料粒子の体積平均粒子径が、好ましくは0.08μm以上0.5μm以下、最大粒子径が好ましくは0.3μm以上10μm以下、より好ましくは0.3μm以上3μm以下となるように行われることが好ましい。顔料の分散は、顔料、分散剤、および分散媒体の選定、分散条件、およびろ過条件等によって、調整される。
【0130】
(その他の成分)
本発明の活性線硬化型インクは、本発明の効果を奏する範囲において、界面活性剤、重合禁止剤、および保湿剤などのその他の成分をさらに含有してもよい。
【0131】
界面活性剤の例には、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸
塩類および脂肪酸塩類などのアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテ
ル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類およびポ
リオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類などのノニオン性界面活
性剤、アルキルアミン塩類および第四級アンモニウム塩類などのカチオン性界面活性剤、
ならびにシリコーン系やフッ素系の界面活性剤が含まれる。
【0132】
重合禁止剤の例には、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p-ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-t-ブチル-p-ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ-p-ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシムおよびシクロヘキサノンオキシムが含まれる。
【0133】
(物性)
インクジェットヘッドからの射出性をより高める観点からは、インクジェットインクの80℃における粘度は3mPa・s以上20mPa・s以下であることが好ましい。また、着弾して常温に降温した際にインクを十分にゲル化させる観点からは、インクジェットインクの25℃における粘度は1000mPa・s以上であることが好ましい。
【0134】
インクジェットインクのゲル化温度は、40℃以上70℃以下であることが好ましい。インクのゲル化温度が40℃以上であると、記録媒体に着弾後、インクが速やかにゲル化するため、ピニング性がより高くなる。インクのゲル化温度が70℃以下であると、インク温度が通常80℃程度であるインクジェットヘッドからのインクジェットインクの射出時にインクがゲル化しにくいため、より安定してインクを射出することができる。
【0135】
インクジェットインクの80℃における粘度、25℃における粘度およびゲル化温度は、レオメータにより、インクの動的粘弾性の温度変化を測定することにより求めることができる。具体的には、インクを100℃に加熱し、剪断速度11.7(1/s)、降温速度0.1℃/sの条件で25℃まで冷却したときの、粘度の温度変化曲線を得る。そして、80℃における粘度と25℃における粘度は、粘度の温度変化曲線において80℃、25℃における粘度をそれぞれ読み取ることにより求めることができる。ゲル化温度は、粘度の温度変化曲線において、粘度が200mPasとなる温度として求めることができる。
【0136】
レオメータは、Anton Paar社製 ストレス制御型レオメータ PhysicaMCRシリーズを用いることができる。コーンプレートの直径は75mm、コーン角は1.0°とすることができる。
【0137】
(活性線硬化型インクの調製方法)
上記活性線硬化型インクは、上述した各成分を混合して、調製することができる。このとき、各成分の溶解性を高めるため、加熱しながら混合することが好ましい。
【0138】
なお、顔料と顔料分散剤と、を含む顔料分散液をあらかじめ調製しておき、これに残りの成分を添加して混合してもよい。このときも、顔料分散剤などの溶解性を高めるため、顔料および分散剤などを加熱しながら混合して顔料分散液を調製することが好ましい。
【0139】
[画像形成方法]
本発明の一実施形態に関する画像形成方法は、上述した活性線硬化型インクを用いて画像を形成する方法に関する。上記画像形成方法は、上述した活性線硬化型インクを用いる以外は、従来公知の画像形成方法を同様に実施することができる。
【0140】
具体的には、上記画像形成方法は、1)上述した活性線硬化型インクを記録媒体に付与する工程と、2)上記付与された上記活性線硬化型インクに活性線を照射する工程と、を含む。
【0141】
(付与する工程)
本工程では、上記活性線硬化型インクを記録媒体の、形成すべき画像に応じた位置に付与する。
【0142】
記録媒体へ付与する方法は特に限定されず、ロールコーターやスピンコーターなどを用いて上記活性線硬化型インクインクを基材の表面に塗布してもよいし、スプレー塗布、浸漬法、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷などの方法を基材の表面に付与してもよいし、インクジェット法で上記活性線硬化型インクを基材の表面に着弾させてもよい。これらのうち、より精細な記録物を形成する観点からは、インクジェット法が好ましい。
【0143】
インクジェットヘッドからの吐出方式は、オンデマンド方式とコンティニュアス方式のいずれでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドは、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型およびシェアードウォール型などの電気-機械変換方式、ならびにサーマルインクジェット型およびバブルジェット(「バブルジェット」はキヤノン社の登録商標)型などの電気-熱変換方式などのいずれでもよい。
【0144】
また、インクジェットヘッドは、スキャン式およびライン式のいずれのインクジェットヘッドでもよいが、ライン式であることが好ましい。
【0145】
上記活性線硬化型インクの液滴は、加熱されてゾル化した状態でインクジェットヘッドから吐出される。インクジェットヘッドからのインクの吐出性を高める観点からは、インクジェットヘッドに充填されたときのインクの温度を、インクのゲル化温度+10℃以上、ゲル化温度+30℃以下に設定することが好ましい。インクジェットヘッド内の上記活性線硬化型インクの温度が、ゲル化温度+10℃以上であると、インクジェットヘッド内もしくはノズル表面でインクがゲル化することによる吐出性の低下が生じにくい。一方、インクジェットヘッド内のインクの温度がゲル化温度+30℃以下であると、高温による成分の劣化が生じにくい。また、吐出される際の上記活性線硬化型インクの粘度は、7mPa・s以上15mPa・s以下であることが好ましく、8mPa・s以上13mPa・s以下であることがより好ましい。
【0146】
上記活性線硬化型インクの加熱方法は、特に制限されない。例えば、ヘッドキャリッジを構成するインクタンク、供給パイプおよびヘッド直前の前室インクタンクなどのインク供給系、フィルター付き配管ならびにピエゾヘッドなどの少なくともいずれかをパネルヒーター、リボンヒーターおよび保温水などによって加熱することができる。
【0147】
吐出されるときの上記活性線硬化型インクの液滴量は、記録速度および画質をより高める観点から、2pL以上20pL以下であることが好ましい。
【0148】
記録媒体への付着は、上記吐出された活性線硬化型インクをそのまま記録媒体に着弾させて付着させてもよいし、上記吐出された活性線硬化型インクを中間転写体に着弾させて中間画像を形成し、上記中間画像を中間転写体から記録媒体に転写して付着させてもよい。
【0149】
(照射する工程)
本工程では、第1の工程で記録媒体に付着させた上記活性線硬化型インクの液滴に活性線を照射して上記液滴を硬化させる。これにより、上記活性線硬化型インクの硬化膜からなる画像が形成される。
【0150】
活性線は、たとえば電子線、紫外線、α線、γ線、およびエックス線などから選択することができるが、紫外線または電子線であることが好ましい。上記紫外線は、360nm以上410nm以下にピーク波長を有する光であることが好ましい。また、上記紫外線は、LED光源から照射されることが好ましい。LEDは従来の光源(例えばメタルハライドランプなど)と比較して、輻射熱が少ない。したがって、LEDは、活性線照射時に、インクが溶け難く、光沢ムラなどを生じさせ難い。
【0151】
[印刷物]
本発明の一実施形態に関する印刷物は、上述した活性線硬化型インクを用いて形成された印刷層を有する印刷物である。
【0152】
上記印刷物は、上記活性線硬化型インクを用いて形成された印刷層を有していれば、特に限定されない。上記印刷層を形成する方法は、上述した画像形成方法でもよいし、その他の公知の方法でもよい。
【0153】
記録媒体は、特に制限されず、通常の非コート紙、コート紙などの他、合成紙ユポ(「ユポ」は株式会社ユポ・コーポレーションの登録商標)、軟包装に用いられる各種プラスチックおよびそのフィルムを用いることができる。各種プラスチックフィルムとしては、例えば、PPフィルム、PETフィルム、OPSフィルム、OPPフィルム、ONyフィルム、PVCフィルム、PEフィルム、TACフィルムがある。その他のプラスチックとしては、ポリカーボネート、(メタ)アクリル樹脂、ABS、ポリアセタール、PVA、ゴム類などが使用できる。また、記録媒体は、金属類や、ガラス類などであってもよい。
【0154】
[画像形成装置]
本発明のさらに他の実施形態に関する画像形成装置は、上記方法を実施可能な画像形成装置である。
【0155】
図1は、本実施形態に関する画像形成装置100の概念を示す側面図である。なお、画像形成装置100はインクジェット用の画像形成装置であるが、本発明はこれに限定されない。
【0156】
図1に示されるように、画像形成装置100は、インクジェットヘッド110、搬送部120、および照射部130を有する。なお、図1において、矢印は記録媒体の搬送方向を示す。
【0157】
(インクジェットヘッド110)
インクジェットヘッド110は、ノズル111の吐出口が設けられたノズル面113を、画像を形成する際に搬送部120に対向する面に有しており、搬送部120によって搬送される記録媒体200に対して活性線硬化型インクを吐出する。活性線硬化型の吐出性を高める観点から、インクジェットヘッド110は、インクの温度を調整してインクを低粘度に調整するための温度調整手段を有してもよい。温度調整手段の例には、パネルヒーター、リボンヒーターおよび保温水による加熱手段が含まれる。
【0158】
インクジェットヘッド110は、記録媒体の搬送方向に直行する方向の幅が記録媒体200よりも小さいスキャン式のインクジェットヘッドでもよく、記録媒体の搬送方向に直行する方向の幅が記録媒体200よりも大きいライン式のインクジェットヘッドでもよい。
【0159】
ノズル111は、ノズル面113に吐出口を有する。ノズル111の数は、画像形成に使用するインクの数(例えば4つ)以上であればよい。インクジェットヘッド110が複数のノズル111を有する場合、装置の構成を単純化して制御を容易にする観点からは、複数のノズル111は、ほぼ等間隔となるように記録媒体の搬送方向に並んで設けられることが好ましい。
【0160】
インクジェットヘッド110は、吐出されて記録媒体200に着弾するインクの量を変更可能に構成される。たとえば、インクジェットヘッド110は、制御部に制御されて、圧電素子の振動幅を変更したり、一部のノズルからインクを吐出させなくしたりすることができるように構成される。
【0161】
(搬送部120)
搬送部120は、画像を形成する際に、インクジェットヘッド110の鉛直方向直下において、インクジェットヘッド110に対向する記録媒体200が移動するように、記録媒体200を搬送する。たとえば、搬送部120は、駆動ローラ121および従動ローラ122、ならびに搬送ベルト123を有する。
【0162】
駆動ローラ121および従動ローラ122は、記録媒体200の搬送方向に所定の間隔をあけるとともに、記録媒体200の搬送方向に直交する方向に延在した状態で配置される。駆動ローラ121は、不図示の駆動源によって回転する。
【0163】
搬送ベルト123は、その上に乗せられた記録媒体200を搬送するためのベルトであり、駆動ローラ121および従動ローラ122に架け渡されている。搬送ベルト123は、たとえば、記録媒体200よりも幅広に形成された無端のベルトとすることができる。このとき、駆動源が駆動ローラ121を回転させると、駆動ローラ121に追従して搬送ベルト123が周回して、搬送ベルト123上の記録媒体200が搬送される。
【0164】
(照射部130)
照射部130は、光源を有し、搬送部120の上面に光源から活性線を照射する。これにより、搬送される記録媒体200上に着弾した活性線硬化型インクの液滴に活性線を照射して、液滴を硬化させることができる。照射部130は、インクジェットヘッド110よりも下流側で搬送部120の直上に配設することができる。
【0165】
(その他の構成)
画像形成装置100は、上記構成以外にも、吐出前の活性線硬化型インクを貯蔵するためのインクタンク(不図示)、インクタンクとインクジェットヘッド110とをインクが流通可能に連通するインク流路(不図示)、ならびに、インクジェットヘッド110、搬送部120、および照射部130の動作を制御する制御部(不図示)を有していてもよい。
【0166】
また、画像形成装置100は、中間転写体および転写部(いずれも不図示)を有してもよい。このとき、インクジェットヘッド110は、中間転写体に対して活性線硬化型インクを吐出して中間転写体の表面に着弾させ、活性線硬化型インクの液滴が集合してなる中間画像を中間転写体の表面に形成する。その後、転写部は、中間転写体の表面から記録媒体の表面へと、中間画像を転写する。そして、照射部130は、記録媒体の表面に転写された中間画像に活性線を照射して、活性線硬化型インクの液滴を硬化させる。
【実施例
【0167】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、これらの記載によって本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0168】
1.活性線硬化型インクジェットインクの調製
インクジェトインク材料として以下の成分(活性線重合性化合物、活性線重合開始剤、ゲル化剤、重合禁止剤、界面活性剤、顔料分散液)と、上記結晶化調整剤に含まれる化合物の例示化合物のいずれかと、を用いた。
【0169】
1-1.活性線重合性化合物
トリプロピレングリコールジアクリレート(表1ではTPGDAと記載)
トリメチロールプロパントリアクリレート(表1ではTMPTAと記載)
ネオペンチルグリコールジアクリレート(表1ではNPGDAと記載)
2PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート(表1では2PO-NPGDA)
【0170】
1-2.活性線重合開始剤
IRGACURE TPO(BASF社製)(表1ではIRC TPOと記載)
IRGACURE 819(BASF社製)(表1ではIRC 819と記載)
【0171】
1-3.ゲル化剤
以下に示す、化合物(式(A)~(C))を、ゲル化剤として用いた。
【化7】
【0172】
1-4.重合禁止剤
Irgastab UV10(BASF社製)
【0173】
1-5.界面活性剤
KF-352(信越化学工業株式会社製)
【0174】
1-6.顔料分散液
(シアン顔料分散液の調製)
顔料分散剤であるEfka4310(BASF社製)を9.0質量%、活性線重合性化合物であるトリメチロールプロパントリアクリレート(EM232、エターナルケミカル社製)を71.0質量%、ステンレスビーカーに入れ、これを65℃のホットプレート上で加熱しながら、1時間加熱撹拌した。混合液を室温まで冷却し、さらに顔料であるNX-053ブルーC.I.Pigment Blue-15:4(大日精化工業株式会社製)を20.0質量%加えた。この溶液を、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gとともにガラス瓶に入れて密栓し、ペイントシェーカー(セイワ技研社製)にて5時間分散処理した。その後、ジルコニアビーズを除去して、シアン顔料分散液を得た。
【0175】
(白色顔料分散液の調製)
顔料分散液であるPB824(味の素ファインテクノ株式会社製)9.0質量%、活性線重合性化合物であるトリプロピレングリコールジアクリレート(APG-200、新中村化学工業株式会社製)71.0質量%をステンレスビーカーに入れ、65℃のホットプレート上で加熱しながら1時間加熱撹拌溶解した。混合液を室温まで冷却し、さらに顔料として酸化チタン(堺化学工業株式会社製、TCR-52)20.0質量%を加えて、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れ、密栓し、ペイントシェーカー(セイワ技研社製)にて5時間分散処理した。その後、ジルコニアビーズを除去して、白色顔料分散液を得た。
【0176】
2.インクの調製
表1に記載されたインク成分に従って、混合し、80℃に加熱して撹拌した。その後、当該混合液を加熱しながら、テフロン(ケマーズ社の登録商標)3μmのメンブレンフィルター(ADVANTEC社製(登録商標))で濾過を行い、インク1~24を得た。なお、表1における、「添加化合物」の欄における「No.」は、上述の[活性線硬化型インク]で示した、上記一般式(1)で表される化合物の例示化合物に付された番号に対応している。インク21~23に用いられた比較1~2の化合物は下記に示した。
【0177】
【化8】
【0178】
3.評価
得られたインクを用いて、以下のように画像を形成し、そのときの光沢ムラ、混色滲みの評価を行った。
【0179】
(画像形成方法)
ノズル径20μm、ノズル数512ノズル(256ノズル×2列、千鳥配列、1列のノズルピッチ360dpi)のピエゾヘッドを用いて、印刷用コート紙(OKトップコート、米坪量128g/m、王子製紙株式会社製)に、以下に示す方法で、画像を形成した。
【0180】
インクジェットヘッドの温度を80℃に設定し、1滴の液滴量が2.5plとなる条件で、液滴速度を約6m/sで出射させて、1440dpi×1440dpiの解像度で記録した。記録速度は500mm/sとした。画像形成は、23℃、55%RHの環境下で行った。画像を形成した後、記録装置の下流部に配置した波長395nmのLEDランプ(Phoseon Technology社製)で、画像に紫外線を照射してインクを硬化させた。また、基材の温度は、裏面からの加熱により、38℃または45℃となるように設定した。
【0181】
(光沢ムラ・粒状観)
上記の条件で印刷した5cm×5cmのベタ画像について、光沢のばらつき、および、粒状性の硬化膜が発生を目視で確認し、以下の基準に基づいて評価した。
◎:光沢が均一であり、粒状性が低い。
○:光沢がやや不均一であったが、粒状性は低い。
△:光沢が不均一であったが、粒状性は低い。
×:光沢が不均一であり、粒状性も高い。
【0182】
(混色滲み体制の評価)
上記の条件で印刷したベタ画像上に、他色の着色剤を用いたインクを用いて、細線画像を印字し、各細線の滲み具合を目視観察し、以下の基準に基づいて評価した。
○:目視で全く滲みが認められない。
△:目視では滲みは確認できないが、10×10倍のスコープでは確認できる。
×:目視で明らかな滲みが認められる。
【0183】
上記インクNo.1~24の光沢ムラ、滲みの評価結果を表2に示した。
【0184】
【表1】
【0185】
【表2】
【0186】
〈結果および考察〉
インクNo.1~18では、ゲル化剤との相互作用が-1.0eV以下である化合物を添加したことにより、2つの基材温度において、光沢ムラおよび混色が抑制され、光沢ムラおよび混色の温度依存性が解消された。これは、添加した化合物とゲル化剤とのCH/π相互作用により、結晶化調整剤が結晶核となり、ゲル化剤の結晶サイズを一定にすることができ、また、結晶化が促進されることで、酸素阻害が抑制されたためであると考えられる。
【0187】
一方で、ゲル化剤との相互作用が-1.0eV以下である化合物を含まないインク19、20、およびゲル化剤との相互作用が-1.0eV以上である化合物を含むインク21~23は、光沢ムラおよび混色の温度依存性を解消できなかった。これは、ゲル化剤とCH/π相互作用を形成ないため、基材温度が高いときに、結晶サイズを一定に保つことができず、光沢ムラが生じ、また、基材温度が低いときに、結晶化が十分に進行せず、混色が生じたと考えられる。
【0188】
また、インク24では、結晶化調整剤の添加量が2質量%よりも少ないため、CH/π相互作用が十分に形成されず、光沢ムラおよび混色が生じやすくなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明の活性線硬化型インクは、ゲル化剤を含んでいても、光沢ムラを抑制することを可能にした。そのため、本発明は外観を損ねるだけでなく、画像濃度の低下や光沢変動を抑えた印刷物の製造を可能にし、同分野における、技術の進展および普及に貢献することが期待される。
【符号の説明】
【0190】
100 画像形成装置
110 インクジェットヘッド
111 ノズル
113 ノズル面
120 搬送部
121 駆動ローラ
122 従動ローラ
123 搬送ベルト
130 照射部
200 記録媒体
図1