(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】絶縁電線および絶縁電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/285 20060101AFI20250415BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20250415BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20250415BHJP
H01B 13/14 20060101ALI20250415BHJP
H01B 13/32 20060101ALI20250415BHJP
【FI】
H01B7/285
H01B13/00 501B
H01B3/44 Z
H01B13/14 Z
H01B13/32
(21)【出願番号】P 2021028683
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】加藤 元晴
(72)【発明者】
【氏名】山崎 直哉
(72)【発明者】
【氏名】多田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】伊與田 文俊
(72)【発明者】
【氏名】大川 徳之
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-066262(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203419(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/241432(WO,A1)
【文献】特開2016-184480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/0869
H01B 7/285
H01B 13/00
H01B 3/44
H01B 13/14
H01B 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体素線が撚り合わされて設けられる導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる外層水密材と、
前記外層水密材の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を有する絶縁電線であって、
前記導体は、硬銅線、硬銅撚り線、硬アルミ撚り線、または鋼心アルミ撚り線からなり、
前記外層水密材は、
メチルメタクリレートの含有量が18重量%以上22重量%未満であるエチレン-メチルメタクリレート共重合体を含む第1樹脂と、
メチルメタクリレートの含有量が22重量%以上28重量%未満であるエチレン-メチルメタクリレート共重合体を含む第2樹脂と、
を混合してなるベース樹脂を含み、
前記ベース樹脂における前記第1樹脂の重量Aに対する前記第2樹脂の重量Bの比B/Aは、1/4以上4以下であり、
前記ベース樹脂の融解温度は、80℃超86℃未満であり、
前記絶縁層は、ポリエチレンを含み、
前記外層水密材は、20℃以上40℃以下の温度に前記導体を予備加熱した状態で、押出成型され、
前記外層水密材および前記絶縁層は、
75℃以上82℃以下の架橋温度で、シラングラフト・水架橋法により架橋され、
所定長さで切断した前記絶縁電線の軸方向の一端に0.5気圧の水圧を24時間加えたときに、前記絶縁電線の前記一端からの水の浸透距離は、1000mm以下であり、
前記絶縁電線を電線把持具により把持し、引張荷重を4.17kNとし、印加時間を10分とした条件下で引張試験を行ったときに、前記絶縁層がずれる長さは、50mm以下であり、
温度を40℃とし、ナイフを用い、前記外層水密材および前記絶縁層を剥ぎ取る際の速度を60秒以下とした条件下で、前記外層水密材および前記絶縁層を前記導体の外周全体に亘って前記絶縁電線の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、前記導体素線を跨ぐよう残存する前記外層水密材の残部は、5個以下である
絶縁電線。
【請求項2】
前記外層水密材および前記絶縁層を前記導体の外周全体に亘って前記絶縁電線の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、隣接する前記導体素線間に形成される溝部の総数に対する、前記外層水密材が残存する前記溝部の数の割合は、7/12以下である
請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記第1樹脂のメルトフローレートは、測定温度190℃、荷重2.12Nとしたときに、1g/10min以上3g/10min未満であり、
前記第2樹脂のメルトフローレートは、測定温度190℃、荷重2.12Nとしたときに、6g/10min以上8g/10min未満である
請求項1または請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記第1樹脂の融解温度は、77℃以上95℃未満であり、
前記第2樹脂の融解温度は、72℃以上88℃未満である
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
複数の導体素線を撚り合わせて導体を形成する工程と、
前記導体の外周を覆うように外層水密材を形成する工程と、
前記外層水密材の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
シラングラフト・水架橋法により前記外層水密材および前記絶縁層を架橋させる工程と、
を有し、
導体を形成する工程では、
前記導体を、硬銅線、硬銅撚り線、硬アルミ撚り線、または鋼心アルミ撚り線により形成し、
前記外層水密材を形成する工程では、
メチルメタクリレートの含有量が18重量%以上22重量%未満であるエチレン-メチルメタクリレート共重合体を含む第1樹脂と、
メチルメタクリレートの含有量が22重量%以上28重量%未満であるエチレン-メチルメタクリレート共重合体を含む第2樹脂と、
を混合してなるベース樹脂を含むよう、前記外層水密材を形成し、
前記ベース樹脂における前記第1樹脂の重量Aに対する前記第2樹脂の重量Bの比B/Aを、1/4以上4以下とし、
前記ベース樹脂の融解温度を、80℃超86℃未満とし、
20℃以上40℃以下の温度に前記導体を予備加熱した状態で、前記外層水密材を押出成型し、
前記絶縁層を形成する工程では、
ポリエチレンを含むよう、前記絶縁層を形成し、
前記外層水密材および前記絶縁層を架橋させる工程では、
75℃以上82℃以下の架橋温度で、前記外層水密材および前記絶縁層を水架橋させる
絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、外層水密材用樹脂組成物、絶縁電線および絶縁電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架空配線用途では、雨水の浸入による導体の腐食を抑制するために、導体の導体素線間および導体と絶縁層との間に水密材を設けた絶縁電線が用いられている。絶縁電線の水密材のうち、導体と絶縁層との間に設けられる外層水密材は、水密特性と、導体と絶縁層とを密着させる密着性と、導体から水密材および絶縁層を剥ぎ取るための皮剥性と、を兼ね備えることが求められている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、水密特性、密着性および皮剥性をバランスよく向上させることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
絶縁電線の外層水密材を形成する外層水密材用樹脂組成物であって、
所定長さで切断した前記絶縁電線の軸方向の一端に0.5気圧の水圧を24時間加えたときに、前記絶縁電線の前記一端からの水の浸透距離は、1000mm以下であり、
前記絶縁電線を電線把持具により把持し、引張荷重を4.17kNとし、印加時間を10分とした条件下で引張試験を行ったときに、絶縁層がずれる長さは、50mm以下であり、
前記外層水密材および前記絶縁層を導体の外周全体に亘って前記絶縁電線の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、導体素線を跨ぐよう残存する前記外層水密材の残部は、5個以下である
外層水密材用樹脂組成物が提供される。
【0006】
本開示の他の態様によれば、
複数の導体素線が撚り合わされて設けられる導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる外層水密材と、
前記外層水密材の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を有する絶縁電線であって、
所定長さで切断した前記絶縁電線の軸方向の一端に0.5気圧の水圧を24時間加えたときに、前記絶縁電線の前記一端からの水の浸透距離は、1000mm以下であり、
前記絶縁電線を電線把持具により把持し、引張荷重を4.17kNとし、印加時間を10分とした条件下で引張試験を行ったときに、前記絶縁層がずれる長さは、50mm以下であり、
前記外層水密材および前記絶縁層を前記導体の外周全体に亘って前記絶縁電線の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、前記導体素線を跨ぐよう残存する前記外層水密材の残部は、5個以下である
絶縁電線が提供される。
【0007】
本開示の他の態様によれば、
複数の導体素線を撚り合わせて導体を形成する工程と、
前記導体の外周を覆うように外層水密材を形成する工程と、
前記外層水密材の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
少なくとも前記絶縁層を架橋させる工程と、
を有し、
前記外層水密材を形成する工程では、
20℃以上40℃以下の温度に前記導体を予備加熱した状態で、前記外層水密材を押出成型し、
前記絶縁層を架橋させる工程では、
75℃以上82℃以下の架橋温度で、前記絶縁層を水架橋させる
絶縁電線の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、水密特性、密着性および皮剥性をバランスよく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る絶縁電線の軸方向と直交する断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本開示の一実施形態に係る絶縁電線の製造方法を示す概略図である。
【
図2B】
図2Bは、本開示の一実施形態に係る絶縁電線の製造方法を示す概略図である。
【
図2C】
図2Cは、本開示の一実施形態に係る絶縁電線の製造方法を示す概略図である。
【
図2D】
図2Dは、本開示の一実施形態に係る絶縁電線の製造方法を示す概略図である。
【
図3A】
図3Aは、皮剥性試験を行ったサンプル1の絶縁電線を示す概略図である。
【
図3B】
図3Bは、皮剥性試験を行ったサンプル3の絶縁電線を示す概略図である。
【
図3C】
図3Cは、皮剥性試験を行ったサンプル4の絶縁電線を示す概略図である。
【
図3D】
図3Dは、皮剥性試験を行ったサンプル5の絶縁電線を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
<発明者等の得た知見>
まず、発明者等の得た知見について説明する。
【0011】
外層水密材に求められる3つの特性のうち、水密特性(雨水浸入防止性、または走水防止性)とは、導体素線間や、導体と絶縁層との間における雨水の伝搬を抑制し、雨水による導体の腐食を抑制するための特性である。密着性(電線把持特性、カムラー特性)とは、導体と絶縁層とを密着させることにより、電線把持具(掴線器、カムラー)によって絶縁電線を引っ張った際に、絶縁層がずれたり、破れたりしないための特性である。皮剥性(剥ぎ取り性)とは、圧縮スリーブを介して一対の絶縁電線を圧縮接続する際に、絶縁電線の端末において導体から外層水密材および絶縁層を剥ぎ取るための特性である。
【0012】
外層水密材に求められる皮剥性に関して、従来では、導体の少なくとも一部に残部が残っていたとしても、圧縮スリーブを介して一対の絶縁電線を圧縮接続したときに、導体と圧縮スリーブとの導通がとれれば、問題がないとされてきた。
【0013】
しかしながら、近年では、送電効率を向上させる観点や布設安定性を向上させる観点から、圧縮スリーブを介して一対の絶縁電線を圧縮接続したときの、導体と圧縮スリーブとの接触抵抗を低減させたり、圧縮スリーブの把持性(把持強度)を向上させたりすることが望まれている。そのため、絶縁電線のより厳密な皮剥性が求められている。
【0014】
ここで、発明者等は、絶縁層を剥ぎ取ったときに残存する外層水密材の残部の形態に依存して、以下のような課題が生じる可能性があるという知見を得た。
【0015】
例えば、絶縁層を剥ぎ取ったときに、導体素線を跨ぐよう残存する外層水密材の残部が多いと、残部が残存した導体素線と圧縮スリーブとが当該残部を介して接続され難くなる。このため、導体と圧縮スリーブとの接触抵抗が高くなる可能性がある。
【0016】
また、例えば、絶縁層を剥ぎ取ったときに、隣接する導体素線間に形成される溝部のうち、外層水密材が残存する溝部が多いと、圧縮スリーブを圧縮接続したときに、溝部内の外層水密材の残部に起因して、圧縮スリーブが導体の外周に対して不均一に当接し、該圧縮スリーブが充分に圧縮され難くなる。このため、圧縮スリーブの把持性が低下する可能性がある。
【0017】
このような課題に対し、発明者等が鋭意検討を行ったところ、絶縁電線の製造工程のうちの外層水密材形成工程において導体を所定の温度に予備加熱(予熱)することなどにより、上述の皮剥性を従来よりも向上させることができることを見出した。
【0018】
本開示は、発明者等が見出した上記新規知見に基づくものである。
【0019】
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0020】
[1]本開示の一態様に係る外層水密材用樹脂組成物は、
絶縁電線の外層水密材を形成する外層水密材用樹脂組成物であって、
所定長さで切断した前記絶縁電線の軸方向の一端に0.5気圧の水圧を24時間加えたときに、前記絶縁電線の前記一端からの水の浸透距離は、1000mm以下であり、
前記絶縁電線を電線把持具により把持し、引張荷重を4.17kNとし、印加時間を10分とした条件下で引張試験を行ったときに、絶縁層がずれる長さは、50mm以下であり、
前記外層水密材および前記絶縁層を導体の外周全体に亘って前記絶縁電線の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、導体素線を跨ぐよう残存する前記外層水密材の残部は、5個以下である。
この構成によれば、水密特性、密着性および皮剥性をバランスよく向上させることができる。
【0021】
[2]本開示の他の態様に係る絶縁電線は、
絶縁電線の外層水密材を形成する外層水密材用樹脂組成物であって、
複数の導体素線が撚り合わされて設けられる導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる外層水密材と、
前記外層水密材の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を有する絶縁電線であって、
所定長さで切断した前記絶縁電線の軸方向の一端に0.5気圧の水圧を24時間加えたときに、前記絶縁電線の前記一端からの水の浸透距離は、1000mm以下であり、
前記絶縁電線を電線把持具により把持し、引張荷重を4.17kNとし、印加時間を10分とした条件下で引張試験を行ったときに、前記絶縁層がずれる長さは、50mm以下であり、
前記外層水密材および前記絶縁層を前記導体の外周全体に亘って前記絶縁電線の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、前記導体素線を跨ぐよう残存する前記外層水密材の残部は、5個以下である。
この構成によれば、水密特性、密着性および皮剥性をバランスよく向上させることができる。
【0022】
[3]上記[2]に記載の絶縁電線において、
前記外層水密材および前記絶縁層を前記導体の外周全体に亘って前記絶縁電線の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、隣接する前記導体素線間に形成される溝部の総数に対する、前記外層水密材が残存する前記溝部の数の割合は、7/12以下である。
この構成によれば、圧縮スリーブの把持性を向上させることができる。
【0023】
[4]上記[2]又は[3]に記載の絶縁電線において、
前記外層水密材は、エチレン-(メタ)アクリレート共重合体を含む樹脂組成物により構成される。
この構成によれば、バランスの良い水密特性、密着性および皮剥性を好適に実現することができる。
【0024】
[5]本開示のさらに他の態様に係る絶縁電線の製造方法は、
複数の導体素線を撚り合わせて導体を形成する工程と、
前記導体の外周を覆うように外層水密材を形成する工程と、
前記外層水密材の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
少なくとも前記絶縁層を架橋させる工程と、
を有し、
前記外層水密材を形成する工程では、
20℃以上40℃以下の温度に前記導体を予備加熱した状態で、前記外層水密材を押出成型し、
前記絶縁層を架橋させる工程では、
75℃以上82℃以下の架橋温度で、前記絶縁層を水架橋させる。
この構成によれば、水密特性、密着性および皮剥性をバランスよく向上させることができる。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0026】
<本開示の一実施形態>
(1)絶縁電線(水密絶縁電線)
本開示の一実施形態に係る絶縁電線について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る絶縁電線の軸方向と直交する断面図である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の絶縁電線10は、屋外配電用の電線として用いられるよう構成され、例えば、中心側から外側に向けて、導体100、内層水密材220、外層水密材240、絶縁層(絶縁体、絶縁被覆層)300を有している。
【0028】
導体100は、複数の導体素線110を撚り合わせて設けられている。導体100は、例えば、硬銅線、硬銅撚り線、硬アルミ撚り線、鋼心アルミ撚り線(ACSR)等からなっている。複数の導体素線110は、例えば、同心撚りとなっており、導体素線110の本数は、例えば、19本となっている。
【0029】
なお、導体100は、圧縮されていてもよいし、圧縮されていなくてもよい。
【0030】
内層水密材220は、複数の導体素線110の間に充填されている。内層水密材220は、複数の導体素線110の間の水密特性を向上させるよう構成されている。内層水密材220については、後述する。
【0031】
外層水密材240は、導体100(および内層水密材220)の外周を覆うように設けられている。外層水密材240も、主に導体100と絶縁層300との間の水密特性を向上させるよう構成されている。外層水密材240については、内層水密材220とともに、詳細を後述する。
【0032】
絶縁層300は、外層水密材240(および導体100)の外周を覆うように設けられている。絶縁層300は、例えば、ポリオレフィンをベース樹脂として含む絶縁層用樹脂組成物により構成されている。絶縁層用樹脂組成物のベース樹脂としては、例えば、ポリエチレンである。
【0033】
絶縁層300は、例えば、シラングラフト・水架橋法により架橋されるよう構成されている。絶縁層300を構成する絶縁層用樹脂組成物は、例えば、シランカップリング剤と、架橋剤(遊離ラジカル発生剤)と、触媒(シラノール縮合触媒)と、を含んでいる。その他、絶縁層用樹脂組成物は、例えば、カラーバッチ、老化防止剤などを含んでいても良い。
【0034】
(各寸法等)
導体素線110の外径は、例えば、1mm以上5mm以下である。導体100の断面積は、例えば、14mm2以上500mm2以下である。外層水密材240の厚さは、例えば、0.1mm以上2mm以下である。絶縁層300の厚さは、例えば、1mm以上5mm以下である。絶縁電線10の公称電圧は、例えば、6.6kV以上33kV以下である。
【0035】
(2)絶縁電線の特性
発明者等の鋭意検討により、例えば、以下の特性を兼ね備える絶縁電線10が始めて実現された。
【0036】
本実施形態の絶縁電線10では、所定長さで切断した該絶縁電線10の軸方向の一端に0.5気圧の水圧を24時間加えたときに、絶縁電線10の一端からの水の浸透距離は、例えば、1000mm以下であり、好ましくは、600mm以下である。当該水の浸透距離が1000mm超であると、雨水の浸透に起因して導体100が腐食する可能性がある。これに対し、本実施形態の絶縁電線10では、当該水の浸透距離が1000mm以下であることにより、導体100の腐食を抑制することができる。これにより、絶縁電線10を製品として安定的に維持することができる。さらに当該水の浸透距離が600mm以下であることにより、導体100の腐食を安定的に抑制することができる。
【0037】
なお、上述の水の浸透距離は、短ければ短いほどよい。つまり、水の浸透距離の下限値は0mmであることが好ましく、すなわち、絶縁電線10の一端から水が全く浸透しないことが好ましい。
【0038】
また、本実施形態の絶縁電線10では、該絶縁電線10を所定の電線把持具(例えば、株式会社永木精機製カムラー)により把持し、引張荷重を4.17kNとし、印加時間を10分とした条件下で引張試験を行ったときに、絶縁層300がずれる長さは、例えば、50mm以下であり、好ましくは、5mm以下である。絶縁層300がずれる長さが50mm超であると、例えば、絶縁電線10の張替え作業時等において、絶縁電線10を電線把持具によって把持したときに、絶縁層300が導体100に沿って滑ってしまい、絶縁電線10が電線把持具から抜けてしまう可能性がある。このため、絶縁電線10の落下などの危険性が増す可能性がある。これに対し、本実施形態の絶縁電線10では、絶縁層300がずれる長さが50mm以下であることにより、絶縁電線10を電線把持具によって把持したときに、絶縁層300の滑りを抑制し、絶縁電線10が電線把持具から抜けてしまうことを抑制することができる。その結果、絶縁電線10の落下を抑制することができる。さらに絶縁層300のずれる長さが5mm以下であることにより、絶縁電線10が電線把持具から抜けてしまうことを確実に抑制することができる。
【0039】
なお、上述の絶縁層300がずれる長さは、短ければ短いほどよい。つまり、絶縁層300がずれる長さの下限値は0mmであることが好ましく、すなわち、絶縁層300がずれないことが好ましい。
【0040】
また、本実施形態の絶縁電線10は、従来よりも厳密な皮剥性を満たしている。
【0041】
具体的には、本実施形態の絶縁電線10では、外層水密材240および絶縁層300を導体100の外周全体に亘って絶縁電線10の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、導体素線110を跨ぐよう残存する外層水密材240の残部は、例えば、5個以下であり、好ましくは、3個以下であり、より好ましくは、0個である。なお、「導体素線110を跨ぐよう残存する外層水密材240の残部」とは、導体100の外周において所定の導体素線110に隣接する一対の導体素線110のうちの一方の導体素線110(側の溝部)から該所定の導体素線110を挟んで他方の導体素線110(側の溝部)に亘って繋がるように残存する外層水密材240の残部のことをいう。導体素線110を跨ぐよう残存する外層水密材240の残部が5個超であると、残部が残存した導体素線110と圧縮スリーブとが当該残部を介して接続され難くなる。このため、導体100と圧縮スリーブとの接触抵抗が高くなる可能性がある。これに対し、本実施形態の絶縁電線10では、導体素線110を跨ぐよう残存する外層水密材240の残部が5個以下であることにより、すなわち、導体素線110と圧縮スリーブとの間に介在する外層水密材240の残部を減少させることにより、各導体素線110と圧縮スリーブとを良好に接続することができる。その結果、導体100と圧縮スリーブとの接触抵抗が高くなることを抑制することができる。さらに、導体素線110を跨ぐよう残存する外層水密材240の残部が、好ましくは3個以下、より好ましくは0個であることにより、各導体素線110と圧縮スリーブとを、より良好に且つ確実に接続することができる。
【0042】
また、本実施形態の絶縁電線10では、外層水密材240および絶縁層300を導体100の外周全体に亘って絶縁電線10の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、(導体100の外周において)隣接する導体素線110間に形成される溝部の総数に対する、外層水密材240が残存する溝部の数の割合は、例えば、7/12以下であり、好ましくは、3/12以下である。外層水密材240が残存する溝部の数の割合が7/12超であると、圧縮スリーブを圧縮接続したときに、溝部内の外層水密材240の残部に起因して、圧縮スリーブが導体100の外周に対して不均一に当接し、該圧縮スリーブが充分に圧縮され難くなる。このため、圧縮スリーブの把持性が低下する可能性がある。これに対し、本実施形態の絶縁電線10では、外層水密材240が残存する溝部の数の割合が7/12以下であることにより、圧縮スリーブを圧縮接続したときに、圧縮スリーブを導体100の外周に対して均一に当接させ、該圧縮スリーブを充分に圧縮することができる。その結果、圧縮スリーブの把持性を向上させることができる。さらに、外層水密材240が残存する溝部の数の割合が3/12以下であることにより、圧縮スリーブを強固に圧縮することができる。
【0043】
なお、外層水密材240が残存する溝部の数の割合は、低ければ低いほどよい。つまり、外層水密材240が残存する溝部の数の割合の下限値は0であることが好ましい。
【0044】
(3)水密材
(外層水密材)
次に、外層水密材240について説明する。本実施形態の外層水密材240は、例えば、以下のように構成されている。
【0045】
本実施形態の外層水密材240は、例えば、エチレン-(メタ)アクリレート共重合体をベース樹脂として含む樹脂組成物(以下、「外層水密材用樹脂組成物」ともいう)により構成されている。なお、ここでいう「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味している。
【0046】
具体的には、外層水密材用樹脂組成物のベース樹脂としては、例えば、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン-メチルメタクリレート共重合体(EMMA)などが挙げられる。
【0047】
本実施形態の外層水密材用樹脂組成物のベース樹脂は、例えば、EMMAである。EMMAは、以下の式(1)に示す構造を有している。
【0048】
【0049】
EMMAは、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)と同様な柔軟性、ゴムに似た弾性、優れた低温特性、優れた電気的特性を有している。一方で、EMMAは、EVAのような酸による腐食が生じないよう構成されている。
【0050】
また、本実施形態の外層水密材240のベース樹脂は、例えば、EMMAを含み互いに特性の異なる2つの樹脂(第1樹脂および第2樹脂)を混合することにより構成されている。第1樹脂は、例えば、機械的強度が高く、硬い性質を有し、皮剥性が良い一方で、密着性が低くなっている。一方、第2樹脂は、例えば、機械的強度が低く、柔らかい性質を有し、水密特性および密着性が良い一方で、皮剥性が劣っている。本実施形態では、外層水密材240が第1樹脂および第2樹脂を混合してなるベース樹脂を含むことにより、絶縁電線10の水密特性、密着性および皮剥性をバランス良く向上させることが可能となる。
【0051】
ここで、第1樹脂および第2樹脂について詳細を説明する。
【0052】
第1樹脂は、例えば、以下の特性を有している。
MMAの含有量:18重量%以上22重量%未満
メルトフローレート:1g/10min以上3g/10min未満
タイプAでのデュロメータ硬さ:75以上92未満
ビカット軟化温度:54℃以上66℃以下
融解温度:77℃以上95℃未満
【0053】
なお、MMAとは、メチルメタクリレートのことである。また、メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210に準拠して測定され、測定温度190℃、荷重2.12Nとしたときの値である。タイプAでのデュロメータ硬さは、JIS K7215に準拠して測定される。ビカット軟化温度は、JIS K7206に準拠して測定される。融解温度は、JIS K7121に準拠して示差走査型熱量計(DSC)により測定される。
【0054】
一方、第2樹脂は、例えば、以下の特性を有している。
MMAの含有量:22重量%以上28重量%未満
メルトフローレート:6g/10min以上8g/10min未満
タイプAでのデュロメータ硬さ:70以上86未満
ビカット軟化温度:42℃以上52℃以下
融解温度:72℃以上88℃未満
【0055】
本実施形態では、外層水密材240のベース樹脂における第1樹脂の重量Aに対する第2樹脂の重量Bの比B/Aは、1/4以上4以下である(A:B=80:20~20:80)。第1樹脂の重量Aに対する第2樹脂の重量Bの比B/Aが1/4未満であると、すなわち、第2樹脂の重量Bが第1樹脂の重量Aよりも所定の比率で小さくなると、外層水密材240は、過度に硬くなるため、皮剥性が良くなる一方で、密着性が低くなる。これに対して、第1樹脂の重量Aに対する第2樹脂の重量Bの比B/Aが1/4以上であることにより、外層水密材240が過度に硬くなることを抑制し、皮剥性を保ちつつ、水密特性および密着性を向上させることができる。一方、第1樹脂の重量Aに対する第2樹脂の重量Bの比B/Aが4超であると、すなわち、第2樹脂の重量Bが第1樹脂の重量Aよりも所定の比率で大きくなると、外層水密材240は、過度に柔らかくなるため、水密特性および密着性が良くなる一方で、皮剥性が低下する。これに対して、第1樹脂の重量Aに対する第2樹脂の重量Bの比B/Aが4以下であることにより、外層水密材240が過度に柔らかくなることを抑制し、水密特性および密着性を保ちつつ、皮剥性を向上させることができる。
【0056】
さらに言えば、本実施形態では、外層水密材240のベース樹脂における第1樹脂の重量Aに対する第2樹脂の重量Bの比B/Aは、1以上7/3以下であることが好ましい(A:B=50:50~30:70)。このように、外層水密材240のベース樹脂において、比較的柔らかい第2樹脂を第1樹脂よりも多く混合することにより、皮剥性を保ちつつ、水密特性および密着性を安定的に向上させることができる。
【0057】
外層水密材240を構成する樹脂組成物は、上記したベース樹脂の他に、例えば、以下の各種添加剤を含んでいる。
【0058】
外層水密材240は、例えば、着色されるよう構成されている。外層水密材240を構成する樹脂組成物は、例えば、カラーバッチを含んでいる。カラーバッチは、例えば、EMMAからなるカラーバッチベース樹脂と、カーボンブラックと、分散剤と、を含んでいる。例えば、カラーバッチベース樹脂の含有量が50重量部に対して、カーボンブラックの含有量は20重量部であり、分散剤の含有量は30重量部である。外層水密材240におけるカラーバッチの含有量は、外層水密材240のベース樹脂を100重量部としたとき、0.5重量部以上5重量部以下である。外層水密材240が所定量のカラーバッチを含むことにより、外層水密材240を着色し皮剥性を視認し易くするとともに、外層水密材240の経年劣化を抑制することができる。
【0059】
また、外層水密材240は、例えば、シラングラフト・水架橋法により架橋されるよう構成されている。外層水密材240を構成する樹脂組成物は、例えば、シランカップリング剤と、架橋剤(遊離ラジカル発生剤)と、触媒(シラノール縮合触媒)と、老化防止剤と、を含んでいる。シランカップリング剤としては、アルコキシシラン化合物が用いられる。具体的には、シランカップリング剤は、例えば、ビニルトリメトキシシランである。外層水密材240におけるシランカップリング剤の含有量は、ベース樹脂を100重量部としたとき、0.5重量部以上5重量部以下である。また、架橋剤としては、有機過酸化物が用いられる。具体的には、架橋剤は、例えば、ジクミルパーオキサイド(DCP)である。外層水密材240における架橋剤の含有量は、ベース樹脂を100重量部としたとき、0.05重量部以上0.5重量部以下である。また、触媒としては、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルト等の金属のカルボン酸塩、有機塩基、無機酸、有機酸などが用いられる。具体的には、触媒は、例えば、ジブチル錫ジラウレートである。外層水密材240における触媒の含有量は、ベース樹脂を100重量部としたとき、0.01重量部以上0.1重量部以下である。また、老化防止剤としては、例えば、フェノール系老化防止剤が用いられる。具体的には、老化防止剤は、例えば、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である。外層水密材240における老化防止剤の含有量は、ベース樹脂を100重量部としたとき、0.01重量部以上0.3重量部以下である。
【0060】
(内層水密材)
次に、内層水密材220について説明する。
【0061】
本実施形態の内層水密材220を構成する内層水密材用樹脂組成物は、特に限定されるものではないが、例えば、外層水密材用樹脂組成物と同様に、エチレン-(メタ)アクリレート共重合体をベース樹脂として含んでいる。
【0062】
なお、内層水密材220は、複数の導体素線110の間に充填されており、絶縁層300と接していない。このため、内層水密材220には、外層水密材240のような皮剥性は要求されない。したがって、内層水密材220は、導体素線110間に浸透し易くするため、外層水密材240よりも柔らかい材料により構成されていてもよい。
【0063】
また、内層水密材用樹脂組成物は、例えば、外層水密材240を構成する樹脂組成物と同様に、カラーバッチを含んでいる。
【0064】
内層水密材220は、シラングラフト・水架橋法により架橋されるよう構成されていてもよいし、当該架橋法により架橋されないよう構成されていてもよい。
【0065】
(4)絶縁電線の製造方法
次に、
図2A~
図2Dを用い、本実施形態に係る絶縁電線10の製造方法について説明する。
図2A~
図2Dは、本実施形態に係る絶縁電線の製造方法を示す概略図である。
【0066】
(ステップ1:導体素線形成工程)
まず、伸線機(不図示)により、例えば硬銅線からなる所定本数の導体素線110を形成する。
【0067】
(ステップ2:導体形成工程および内層水密材形成工程)
次に、
図2Aに示すように、導体100の中心を構成することとなる1本の導体素線110をボビン511から送り出す。導体素線110をボビン511から送り出したら、該導体素線110を軸方向に沿って搬送しながら、内層水密材用樹脂組成物が投入された第1内層水密材押出機522に通過させる。これにより、導体素線110の外周を覆うように内層水密材220を押出成型する。
【0068】
上述の導体素線110の外周を覆うように内層水密材220を形成したら、内層水密材220が被覆された導体素線110を中心として、6個のボビン512を回転させながら、該6個のボビン512のそれぞれから導体素線110を送り出す。6個のボビン512のそれぞれから導体素線110を送り出したら、これらの導体素線110を、円形の開口を有する所定のダイス532に通過させる。これにより、内層水密材220が被覆された導体素線110の外周を覆うように、6本の導体素線110を撚り合せることで、導体中間体120を形成する。導体中間体120を形成したら、該導体中間体120をドラム542に巻き取る。
【0069】
次に、
図2Bに示すように、導体中間体120をドラム542から送り出し、該導体中間体120を軸方向に沿って搬送しながら、内層水密材用樹脂組成物が投入された第2内層水密材押出機524に通過させる。これにより、導体中間体120の外周を覆うように内層水密材220を押出成型する。
【0070】
上述の導体中間体120の外周を覆うように内層水密材220を形成したら、内層水密材220が被覆された導体中間体120を中心として、12個のボビン513を回転させながら、該12個のボビン513のそれぞれから導体素線110を送り出す。12個のボビン513のそれぞれから導体素線110を送り出したら、これらの導体素線110を、円形の開口を有する所定のダイス534に通過させる。これにより、内層水密材220が被覆された導体中間体120の外周を覆うように、12本の導体素線110を撚り合せることで、導体100を形成する。導体100を形成したら、該導体100をドラム544に巻き取る。
【0071】
なお、導体100を形成した直後では、加熱された第2内層水密材押出機524の通過によって導体100の温度が所定温度に上昇する。しかしながら、導体100をドラム544に巻き取った後に、該ドラム544を常温で所定時間保管することで、導体100は冷却され、導体100の温度は、例えば、20℃未満まで低下することとなる。
【0072】
(ステップ3:外層水密材形成工程)
次に、
図2Cに示すように、導体100をドラム544から送り出し、該導体100を軸方向に沿って搬送しながら、ヒータ552により所定の温度に導体100を予備加熱する。ここでいう「予備加熱」とは、外層水密材240の押出成型前に予め導体100を加熱することを意味している。
【0073】
このとき、導体100を予備加熱する温度を、例えば、20℃以上40℃以下とする。
【0074】
また、このとき、ヒータ552として、例えば、赤外線を照射するランプヒータを用いる。これにより、導体100を軸方向に沿って搬送しながら、導体100を所定の温度に容易に予備加熱することができる。
【0075】
次に、導体100を軸方向に沿って搬送しながら、外層水密材用樹脂組成物が投入された外層水密材押出機526に通過させる。これにより、導体100の外周を覆うように、外層水密材240を押出成型する。
【0076】
このとき、上述のように、例えば、20℃以上40℃以下の温度に導体100を予備加熱した状態で、外層水密材240を押出成型する。導体100が予備加熱されず、導体100を予備加熱する温度が20℃未満であると、外層水密材押出機526により外層水密材240を押出成型する際に、螺旋状に導体素線110が撚り合わせられた導体100の外周形状に倣って、外層水密材用樹脂組成物を被覆させることが困難となる。この理由は、導体100と外層水密材240間に微細な空隙が形成されてしまい、導体100と外層水密材240がよく密着しない可能性があるからである。その結果、絶縁電線10の水密特性および密着性が低下する可能性がある。これに対し、導体100を予備加熱する温度を20℃以上とすることにより、外層水密材240を押出成型する際に、導体100の外周に対する外層水密材用樹脂組成物の被覆性を向上させることができる。この理由は、導体100と外層水密材240との間における微細な空隙の形成を抑制することができ、導体100と外層水密材240がよく密着するからである。その結果、絶縁電線10の水密特性および密着性を向上させることができる。一方で、導体100を予備加熱する温度が40℃超であると、外層水密材240を押出成型する際に、外層水密材用樹脂組成物の流動性が増し、導体100の外周に対して外層水密材用樹脂組成物が過剰に密着してしまう可能性がある。このため、外層水密材240の皮剥性が低下する可能性がある。これに対し、導体100を予備加熱する温度を40℃以下とすることにより、導体100の外周に対して外層水密材用樹脂組成物が過剰に密着することを抑制することができる。その結果、外層水密材240の皮剥性を確保することができる。
【0077】
また、このとき、例えば、予め、計量混合機(不図示)により、第1樹脂の重量Aに対する第2樹脂の重量Bの比B/Aを1/4以上4以下となるよう、第1樹脂のペレットと第2樹脂のペレットとを混合する。第1樹脂および第2樹脂を混合したら、第1樹脂および第2樹脂を含むベース樹脂と、所定の添加物(カラーバッチ、シランカップリング剤、架橋剤、触媒、老化防止剤)とを混合した外層水密材用樹脂組成物を、外層水密材押出機526のホッパーに投入する。なお、このとき、添加するシランカップリング剤等は、ホッパー下部にてインジェクション方式で投入される。
【0078】
また、このとき、例えば、いわゆる1ショット法(モノシル法ともいう)により、外層水密材押出機526内で、ベース樹脂に対してシランカップリング剤をグラフトさせながら、外層水密材240を押出成型する。これにより、製造工程を簡略化することができる。
【0079】
また、このとき、外層水密材押出機526における外層水密材240の押出温度を、例えば、180℃以上240℃以下とする。外層水密材240の押出温度が180℃未満であると、導体100の外周に対する外層水密材用樹脂組成物の被覆性が低下する可能性がある。また、ベース樹脂に対するシランカップリング剤のグラフト率が低くなる可能性がある。これに対し、外層水密材240の押出温度を180℃以上とすることにより、導体100の外周に対する外層水密材用樹脂組成物の被覆性を向上させることができる。また、ベース樹脂に対するシランカップリング剤のグラフト率を所定値以上とすることができる。一方で、外層水密材240の押出温度が240℃超であると、外層水密材用樹脂組成物の流動性が増し、導体100の外周に対して外層水密材用樹脂組成物が過剰に密着してしまう可能性がある。これに対し、外層水密材240の押出温度を240℃以下とすることにより、導体100の外周に対して外層水密材用樹脂組成物が過剰に密着することを抑制することができる。
【0080】
(ステップ4:絶縁層形成工程)
図2Cに示すように、外層水密材240が被覆された導体100を軸方向に沿って搬送しながら、ポリオレフィンを含むベース樹脂と所定の添加物とを有する絶縁層用樹脂組成物が投入された絶縁層押出機528に通過させる。これにより、外層水密材240の外周を覆うように絶縁層300を押出成型し、外層水密材240および絶縁層300が未架橋な状態である絶縁電線中間体12を形成する。絶縁電線中間体12を形成したら、該絶縁電線中間体12をドラム546に巻き取る。
【0081】
このとき、例えば、いわゆる1ショット法により、絶縁層押出機528内で、絶縁層樹脂組成物のベース樹脂に対してシランカップリング剤をグラフトさせながら、絶縁層300を押出成型する。これにより、製造工程を簡略化することができる。
【0082】
(ステップ5:架橋工程)
次に、
図2Dに示すように、温水を有する温水槽560内に、絶縁電線中間体12が巻き付けられたドラム546全体を、所定時間浸漬させる。これにより、少なくとも絶縁層300(本実施形態の場合、外層水密材240および絶縁層300の両方)を水架橋させる。
【0083】
このとき、例えば、75℃以上82℃以下の架橋温度で、外層水密材240および絶縁層300を水架橋させる。架橋温度が75℃未満であると、外層水密材240および絶縁層300が充分に水架橋されない可能性がある。これに対し、架橋温度を75℃以上とすることにより、外層水密材240および絶縁層300を充分に水架橋させることができる。また、ステップ3の予備加熱を組み合わせることにより、導体100の外周に適度に密着した外層水密材用樹脂組成物を最適な温度に溶融させることができ、外層水密材240の皮剥性を確保しつつ、水密性特性も満足させることができる。
【0084】
一方で、架橋温度が82℃超であると、該ステップ5の架橋工程中に、外層水密材240が再度、過剰に溶融し、隣接する導体素線110間に形成される溝部内に外層水密材240が流入し固着してしまう可能性がある。これに対し、架橋温度を82℃以下とすることにより、該ステップ5の架橋工程中に、外層水密材240の再度の過剰な溶融を抑制し、溝部内に外層水密材240が流入し固着してしまうことを抑制することができる。
【0085】
なお、内層水密材220を、シラングラフト・水架橋法により架橋されるよう構成する場合には、予めステップ2の導体形成工程および内層水密材形成工程において内層水密材220のベース樹脂にシランカップリング剤をグラフトさせておき、当該ステップ5の架橋工程において、外層水密材240および絶縁層300とともに、内層水密材220を水架橋させればよい。
【0086】
以上により、本実施形態の絶縁電線10が製造される。
【0087】
(5)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0088】
(a)本実施形態のステップ3の外層水密材形成工程では、20℃以上40℃以下の温度に導体100を予備加熱した状態で、外層水密材240を押出成型する。導体100を予備加熱する温度を20℃以上とすることにより、外層水密材240を押出成型する際に、導体100の外周に対する外層水密材用樹脂組成物の被覆性を向上させることができる。これにより、導体100と外層水密材240との間における微細な空隙の形成を抑制することができ、導体100と外層水密材240とをよく密着させることができる。その結果、絶縁電線10の水密特性および密着性を向上させることができる。また、導体100を予備加熱する温度を40℃以下とすることにより、導体100の外周に対して外層水密材用樹脂組成物が過剰に密着することを抑制することができる。その結果、外層水密材240の皮剥性を確保することができる。具体的には、絶縁層300を剥ぎ取ったときに、特に、導体素線110を跨ぐよう残存する外層水密材240の残部を減少させることができる。このように、本実施形態によれば、絶縁電線10の水密特性、密着性および皮剥性をバランスよく向上させることが可能となる。
【0089】
(b)本実施形態のステップ5の架橋工程では、75℃以上82℃以下の架橋温度で、外層水密材240および絶縁層300を水架橋させる。架橋温度を75℃以上とすることにより、外層水密材240および絶縁層300を充分に水架橋させることができる。また、架橋温度を82℃以下とすることにより、該ステップ5の架橋工程中に、外層水密材240の再度の過剰な溶融を抑制し、隣接する導体素線110間に形成される溝部内に外層水密材240が過剰に流入し固着してしまうことを抑制することができる。その結果、外層水密材240の皮剥性を向上させることができる。具体的には、絶縁層300を剥ぎ取ったときに、特に、隣接する導体素線110間の溝部内に残存する外層水密材240の残部を減少させることができる。このように、本実施形態では、水密特性および密着性を向上させつつ、近年の皮剥性への厳密な要求を満たすことが可能となる。
【0090】
(c)本実施形態の絶縁電線10では、所定長さで切断した該絶縁電線10の軸方向の一端に0.5気圧の水圧を24時間加えたときに、絶縁電線10の一端からの水の浸透距離は、1000mm以下である。これにより、導体100の腐食を抑制することができる。その結果、絶縁電線10を製品として安定的に維持することができる。
【0091】
(d)本実施形態の絶縁電線10では、該絶縁電線10を所定の電線把持具により把持し、引張荷重を4.17kNとし、印加時間を10分とした条件下で引張試験を行ったときに、絶縁層300がずれる長さは、50mm以下である。これにより、絶縁電線10を電線把持具によって把持したときに、絶縁層300の滑りを抑制し、絶縁電線10が電線把持具から抜けてしまうことを抑制することができる。その結果、絶縁電線10の落下を抑制することができる。
【0092】
(e)本実施形態の絶縁電線10では、外層水密材240および絶縁層300を導体100の外周全体に亘って絶縁電線10の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、導体素線110を跨ぐよう残存する外層水密材240の残部は、5個以下である。すなわち、導体素線110と圧縮スリーブとの間に介在する外層水密材240の残部を減少させることにより、各導体素線110と圧縮スリーブとを良好に接続することができる。その結果、導体100と圧縮スリーブとの接触抵抗が高くなることを抑制することができる。
【0093】
(f)本実施形態の絶縁電線10では、外層水密材240および絶縁層300を導体100の外周全体に亘って絶縁電線10の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、隣接する導体素線110間に形成される溝部の総数に対する、外層水密材240が残存する溝部の数の割合は、7/12以下である。これにより、圧縮スリーブを圧縮接続したときに、圧縮スリーブを導体100の外周に対して均一に当接させ、該圧縮スリーブを充分に圧縮することができる。その結果、圧縮スリーブの把持性を向上させることができる。
【0094】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態および変形例について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態および変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0095】
上述の実施形態では、導体素線110の本数が19本である場合について説明したが、導体素線110の本数はこの本数に限られず、例えば、7本であってもよい。
【0096】
上述の実施形態では、外層水密材240のベース樹脂がEMMAのみである場合について説明したが、外層水密材240のベース樹脂は、EMMA以外の他の材料であってもよく、またはEMMAと他の材料とを混合したものであってもよい。
【0097】
上述の実施形態では、外層水密材240のベース樹脂が第1樹脂および第2樹脂を混合することにより構成されている場合について説明したが、外層水密材240のベース樹脂は、1つの樹脂または3種以上の樹脂により構成されていてもよい。
【0098】
上述の実施形態では、外層水密材240がシラングラフト・水架橋法により架橋されるよう構成されている場合について説明したが、外層水密材240が架橋されないよう構成されていてもよい。
【0099】
上述の実施形態では、外層水密材用樹脂組成物がシランカップリング剤としてビニルトリメトキシシランを含んでいる場合について説明したが、外層水密材用樹脂組成物がシランカップリング剤として他の材料を含んでいても良い。
【0100】
上述の実施形態では、外層水密材用樹脂組成物が架橋剤としてジクミルパーオキサイドを含んでいる場合について説明したが、外層水密材用樹脂組成物が架橋剤として他の材料を含んでいても良い。
【0101】
上述の実施形態では、外層水密材用樹脂組成物が触媒としてジブチル錫ジラウレートを含んでいる場合について説明したが、外層水密材用樹脂組成物が触媒として他の材料を含んでいても良い。
【0102】
上述の実施形態では、外層水密材用樹脂組成物が老化防止剤としてチオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を含んでいる場合について説明したが、外層水密材用樹脂組成物が老化防止剤として他の材料を含んでいても良い。
【0103】
上述の実施形態では、ステップ2において、導体形成工程と内層水密材形成工程とを同時に行う場合について説明したが、導体形成工程を行った後に、導体の外側から内層水密材を圧入してもよい。
【0104】
上述の実施形態では、ステップ2において、導体中間体120を形成した後に、該導体中間体120をドラム542に巻き取る場合について説明したが、該導体中間体120をドラム542に巻き取らずに、導体中間体120を軸方向に沿って搬送しながら、第2内層水密材押出機524に通過させてもよい。すなわち、導体100を形成するまでは、ドラムに巻き取ることなく連続的に行ってもよい。
【0105】
上述の実施形態では、ステップ3の外層水密材形成工程において、ヒータ552としてランプヒータを用い、導体100を予備加熱する場合について説明したが、ヒータ552はランプヒータ以外の他のものであってもよい。例えば、ヒータ552として、ドラム544全体を所定の温度に加熱する恒温槽を用いた後、すぐにステップ3の外層水密材押出機526以降の工程で加工を実施してもよい。
【0106】
上述の実施形態では、ステップ3の外層水密材形成工程において、第1樹脂のペレットと第2樹脂のペレットとを計量混合機で混合する場合について説明したが、第1樹脂と第2樹脂とが所定の比率で混合された樹脂のペレットを予め用意しても良い。
【0107】
上述の実施形態では、ステップ3および4において、1ショット法により外層水密材240および絶縁層300をそれぞれ押出成型する場合について説明したが、この場合に限られない。例えば、2ショット法により、シランカップリング剤を予めグラフトさせたベース樹脂と、シラノール縮合触媒を含むマスタバッチと、その他添加物とを押出機に投入して、外層水密材240および絶縁層300をそれぞれ押出成型してもよい。
【実施例】
【0108】
次に、本開示に係る実施例について比較例と共に説明する。
【0109】
(1)絶縁電線の製造
以下のように、サンプル1~6に係る絶縁電線を製造した。
【0110】
[絶縁電線の構成]
サンプル1~6では、絶縁電線の構成を以下の共通の構成とした。
(導体)
導体素線:硬銅線
導体素線の外径:2.00mm
導体素線の本数:19本
導体断面積:80mm2
(内層水密材)
ベース樹脂:第2樹脂
添加剤は下記外層水密材と同じ
(外層水密材)
ベース樹脂:第1樹脂および第2樹脂の混合(合計100重量部)
第1樹脂:住友化学社製アクリフト(登録商標)WH206
第2樹脂:住友化学社製アクリフト(登録商標)WK307
第1樹脂の重量Aに対する前記第2樹脂の重量Bの比B/A:1/4~4
カラーバッチ:大日精化工業株式会社製PE-M 10H397(1.2重量部)
シランカップリング剤:信越化学工業株式会社製KBM-1003(1.25重量部)
架橋剤:日油株式会社製DCP(0.094重量部)
触媒:日東化成株式会社製ネオスタン(登録商標)U-100(0.05重量部)
老化防止剤:BASF社製イルガノックス(登録商標)1035(0.15重量部)
外層水密材厚さ:0.2mm
(絶縁層)
材料:架橋ポリエチレン
絶縁層厚さ:2.5mm
【0111】
[絶縁電線の製造条件]
(内層水密材形成工程)
押出温度:180~240℃
(外層水密材形成工程)
導体予備加熱温度:加熱なし(約18℃)、25~50℃
押出温度:180~240℃
(絶縁層形成工程)
押出温度:180~240℃
(架橋工程)
方法:温水槽浸漬
架橋温度:73~85℃
【0112】
サンプル1~6における絶縁電線の製造条件と、それらの評価結果とを、以下の表1に示す。
【0113】
【0114】
(2)評価
(水密特性試験(雨水浸入性試験))
サンプル1~6の絶縁電線を所定長さ(例えば2.0m)切断する。切断した絶縁電線の軸方向の一端に0.5気圧の水圧を24時間加え、該一端からの水の浸透距離を計測した。
【0115】
(密着性試験(電線把持具引張試験))
サンプル1~6の絶縁電線を電線把持具(株式会社永木精機製カムラー)により把持し、温度を40℃とし、引張荷重を4.17kNとし、印加時間を10分とした条件下で、引張試験を行った。試験の結果、絶縁層がずれた長さが0mm以上50mm以下であった場合を「A」、絶縁層がずれた長さが50mm超であった場合を「B」として評価した。
【0116】
(皮剥性試験)
サンプル1~6の絶縁電線において、温度を40℃とした条件下で、ナイフで外層水密材および絶縁層を剥ぎ取る皮剥性試験を行った。但し、外層水密材および絶縁層を15cm剥ぎ取る際の速度は、60秒以下とした。なお、60秒を超える速度で剥ぎ取った場合、残存する外層水密材は減る傾向にあるが、電線の使用現場での作業効率を考えると、適用は難しい。
【0117】
試験の結果、絶縁層を剥ぎ取ったときに残存する外層水密材の残部の形態を2つの項目に分けて評価した。
【0118】
(i)跨ぎ部
絶縁層を剥ぎ取ったときに、導体素線を跨ぐよう残存する外層水密材の残部(以下、「跨ぎ部」ともいう)が、0個以上5個以下であった場合を「A」とし、5個超であった場合を「B」として評価した。なお、導体素線を跨ぐよう残存する外層水密材の残部が広範囲に亘っている場合は、導体素線の直径と等しい長さを一辺とする正方形の範囲を1個と換算した。
【0119】
(ii)残部あり溝部
絶縁層を剥ぎ取ったときに、隣接する導体素線間に形成される溝部の総数に対する、外層水密材が残存する溝部(以下、「残部あり溝部」ともいう)の数の割合が、7/12以下であった場合を「A」とし、7/12超であった場合を「B」として評価した。なお、サンプル1~5では、導体の最外層における導体素線の数が12本であるため、溝部の総数は12本である。
【0120】
(3)結果
上述の表1、
図3A~
図3Dを用い、
図3A~
図3Dは、それぞれ、皮剥性試験を行ったサンプル1、3~5の絶縁電線を示す概略図である。
【0121】
(サンプル2)
外層水密材形成工程において導体予備加熱なしとし、架橋工程において架橋温度を78~82℃としたサンプル2では、皮剥性試験において、後述するサンプル1と同等の良好な結果が得られた。
【0122】
しかしながら、サンプル2では、水密特性試験において水の浸透距離が2000mm超であり、水密特性試験の結果が他のサンプルよりも大幅に劣っていた。また、サンプル2では、密着性試験において絶縁層がずれた長さが50mm超であり、密着性試験の結果が他のサンプルよりも劣っていた。
【0123】
サンプル2では、架橋工程における架橋温度は適正であったものの、外層水密材形成工程において導体予備加熱を行わなかった。このため、外層水密材を押出成型する際に、導体の外周形状に倣って外層水密材用樹脂組成物を被覆させることが困難であったと考えられる。その結果、サンプル2では、水密特性および密着性が低下していたと考えられる。
【0124】
(サンプル3)
外層水密材形成工程において導体予備加熱温度を50℃超とし、架橋工程において架橋温度を78~82℃としたサンプル3では、水密特性試験および密着性試験において良好な結果が得られた。
【0125】
しかしながら、サンプル3では、皮剥性試験において、
図3Bに示す結果が得られた。
図3Bに示すように、サンプル3では、絶縁電線10の絶縁層300を剥ぎ取った導体100の表面に、多くの外層水密材240の残部242が見られた。導体素線110を跨ぐように残存する外層水密材240の残部242である「跨ぎ部244」は、5個超であった。また、隣接する導体素線110間に形成される溝部112の総数に対する、外層水密材240の残部242が残存する溝部112である「残部あり溝部112a」の数の割合は、7/12超であった。このように、サンプル3では、皮剥性試験の結果が他のサンプルよりも劣っていた。
【0126】
サンプル3では、架橋工程における架橋温度は適正であったものの、外層水密材形成工程において導体予備加熱温度を50℃超とした。このため、外層水密材を押出成型する際に、外層水密材用樹脂組成物の流動性が増し、導体の外周に対して外層水密材用樹脂組成物が過剰に密着してしまったと考えられる。その結果、サンプル3では、水密特性および密着性は向上していたが、皮剥性は低下していたと考えられる。
【0127】
(サンプル4)
外層水密材形成工程において導体予備加熱なしとし、架橋工程において架橋温度を85℃としたサンプル4では、水密特性試験および密着性試験において良好な結果が得られた。
【0128】
サンプル4では、皮剥性試験において、
図3Cに示す結果が得られた。
図3Cに示すように、外層水密材240の跨ぎ部244は、6個であった。また、残部あり溝部112aが多く、その割合は、7/12超(具体的には10/12程度)であった。このように、サンプル4では、皮剥性試験の結果が後述のサンプル1よりも劣っていた。
【0129】
サンプル4では、外層水密材形成工程において導体予備加熱を行わなかったため、当該工程の時点では、導体の外周に対する外層水密材の被覆性は必ずしも良くなかったと考えられる。しかしながら、架橋工程において架橋温度を82℃超としたため、当該工程中に、外層水密材が再度溶融していたと考えられる。このため、導体の外周に対する外層水密材の密着性が良くなる一方で、隣接する導体素線間の溝部内に外層水密材が流入し固着してしまったと考えられる。その結果、サンプル4では、水密特性および密着性は向上したが、皮剥性が低下していたと考えられる。
【0130】
(サンプル5)
外層水密材形成工程において導体予備加熱温度を25~35℃とし、架橋工程において85℃としたサンプル5では、水密特性試験および密着性試験において良好な結果が得られた。
【0131】
しかしながら、サンプル5では、皮剥性試験において、
図3Dに示す結果が得られた。
図3Dに示すように、外層水密材240の跨ぎ部244は、11個であった。また、残部あり溝部112aが多く、その割合は、7/12超(具体的には12/12程度)であった。このように、サンプル5では、皮剥性試験の結果が後述のサンプル1よりも劣っていた。
【0132】
サンプル5では、外層水密材形成工程において導体予備加熱を適正な温度で行ったため、当該工程の時点では、導体の外周に対する外層水密材の被覆性は良かったものと考えられる。しかしながら、架橋工程において架橋温度を82℃超としたため、当該工程中に、外層水密材が再度溶融していたと考えられる。このため、導体の外周に対する外層水密材の密着性が増し、また、隣接する導体素線間に形成される溝部内に外層水密材が流入し固着してしまったと考えられる。その結果、サンプル5では、水密特性および密着性は向上したが、皮剥性が低下していたと考えられる。
【0133】
(サンプル6)
外層水密材形成工程において導体予備加熱温度を25~35℃とし、架橋工程において73℃としたサンプル6では、密着性試験および皮剥性において良好な結果が得られた。
【0134】
しかしながら、サンプル6では、水密特性試験において水の浸透距離が1000mm超であり、水密特性試験の結果が他のサンプルよりも劣っていた。
【0135】
サンプル6では、外層水密材形成工程において導体予備加熱を適正な温度で行ったため、当該工程の時点では、導体の外周に対する外層水密材の被覆性は良かったものと考えられる。しかしながら、架橋工程において架橋温度を75℃未満としたため、外層水密材および絶縁層が充分に水架橋されておらず、加えて外層水密材の最適な再溶融が十分でなかったと考えられる。その結果、サンプル6では、水密特性が低下していたと考えられる。
【0136】
(サンプル1)
上述のサンプル2~5に対し、外層水密材形成工程において導体予備加熱温度を25~35℃とし、架橋工程において78~82℃としたサンプル1では、水密特性試験および密着性試験において良好な結果が得られた。
【0137】
また、サンプル1では、皮剥性試験において、
図3Aに示す結果が得られた。
図3Aに示すように、外層水密材240の跨ぎ部244は、全く無く、多くとも5個以下であった。また、残部あり溝部112aも少なく、その割合は、7/12以下(多くとも2/12程度)であった。さらに、残部あり溝部112a内における残部242の長さは、10mm以下であった。このように、サンプル1では、皮剥性試験の結果が最も良好であった。
【0138】
サンプル1では、外層水密材形成工程において導体予備加熱温度を20℃以上とすることにより、外層水密材を押出成型する際に、導体の外周に対する外層水密材用樹脂組成物の被覆性を向上させることができたことを確認した。その結果、絶縁電線の水密特性および密着性を向上させることができたことを確認した。
【0139】
また、サンプル1では、外層水密材形成工程において導体予備加熱温度を40℃以下とすることにより、導体の外周に対して外層水密材用樹脂組成物が過剰に密着することを抑制することができたことを確認した。その結果、外層水密材の皮剥性を確保することができたことを確認した。具体的には、皮剥性試験での跨ぎ部を減少させることができたことを確認した。
【0140】
また、サンプル1では、架橋工程において架橋温度を75℃以上82℃以下とすることで、外層水密材および絶縁層を充分に水架橋させることができた。また、該架橋工程中に、外層水密材の再度の過剰な溶融を抑制し、隣接する導体素線間の溝部内に外層水密材が流入し固着してしまうことを抑制することができたことを確認した。その結果、絶縁電線の水密特性を向上させつつ、外層水密材の皮剥性を向上させることができたことを確認した。具体的には、皮剥性試験での残部あり溝部を減少させることができたことを確認した。
【0141】
このように、サンプル1では、水密特性および密着性を向上させつつ、近年の皮剥性への厳密な要求を満たすことが可能となることを確認した。
【0142】
<本開示の好ましい態様>
以下に、本開示の好ましい態様について付記する。
【0143】
(付記1)
絶縁電線の外層水密材を形成する外層水密材用樹脂組成物であって、
所定長さで切断した前記絶縁電線の軸方向の一端に0.5気圧の水圧を24時間加えたときに、前記絶縁電線の前記一端からの水の浸透距離は、1000mm以下であり、
前記絶縁電線を電線把持具により把持し、引張荷重を4.17kNとし、印加時間を10分とした条件下で引張試験を行ったときに、絶縁層がずれる長さは、50mm以下であり、
前記外層水密材および前記絶縁層を導体の外周全体に亘って前記絶縁電線の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、導体素線を跨ぐよう残存する前記外層水密材の残部は、5個以下である
外層水密材用樹脂組成物。
【0144】
(付記2)
複数の導体素線が撚り合わされて設けられる導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられる外層水密材と、
前記外層水密材の外周を覆うように設けられる絶縁層と、
を有する絶縁電線であって、
所定長さで切断した前記絶縁電線の軸方向の一端に0.5気圧の水圧を24時間加えたときに、前記絶縁電線の前記一端からの水の浸透距離は、1000mm以下であり、
前記絶縁電線を電線把持具により把持し、引張荷重を4.17kNとし、印加時間を10分とした条件下で引張試験を行ったときに、前記絶縁層がずれる長さは、50mm以下であり、
前記外層水密材および前記絶縁層を前記導体の外周全体に亘って前記絶縁電線の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、前記導体素線を跨ぐよう残存する前記外層水密材の残部は、5個以下である
絶縁電線。
【0145】
(付記3)
前記外層水密材および前記絶縁層を前記導体の外周全体に亘って前記絶縁電線の軸方向に15cm剥ぎ取ったときに、隣接する前記導体素線間に形成される溝部の総数に対する、前記外層水密材が残存する前記溝部の数の割合は、7/12以下である
付記2に記載の絶縁電線。
【0146】
(付記4)
前記外層水密材は、エチレン-(メタ)アクリレート共重合体を含む樹脂組成物により構成される
付記2又は付記3に記載の絶縁電線。
【0147】
(付記5)
前記樹脂組成物は、
メチルメタクリレートの含有量が18重量%以上22重量%未満であるエチレンメチルメタクリレート共重合体を含む第1樹脂と、
メチルメタクリレートの含有量が22重量%以上28重量%未満であるエチレンメチルメタクリレート共重合体を含む第2樹脂と、を混合してなるベース樹脂を含み、
前記ベース樹脂における前記第1樹脂の重量Aに対する前記第2樹脂の重量Bの比B/Aは、1/4以上4以下である
付記2から付記4のいずれか1つに記載の絶縁電線。
【0148】
(付記6)
複数の導体素線を撚り合わせて導体を形成する工程と、
前記導体の外周を覆うように外層水密材を形成する工程と、
前記外層水密材の外周を覆うように絶縁層を形成する工程と、
少なくとも前記絶縁層を架橋させる工程と、
を有し、
前記外層水密材を形成する工程では、
20℃以上40℃以下の温度に前記導体を予備加熱した状態で、前記外層水密材を押出成型し、
前記絶縁層を架橋させる工程では、
75℃以上82℃以下の架橋温度で、前記絶縁層を水架橋させる
絶縁電線の製造方法。
【符号の説明】
【0149】
10 絶縁電線
12 絶縁電線中間体
100 導体
110 導体素線
112 溝部
112a 残部あり溝部
120 導体中間体
220 内層水密材
240 外層水密材
242 残部
244 跨ぎ部
300 絶縁層
511 ボビン
512 ボビン
513 ボビン
522 第1内層水密材押出機
524 第2内層水密材押出機
526 外層水密材押出機
528 絶縁層押出機
532,534 ダイス
542,544,546 ドラム
552 ヒータ
560 温水槽