(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-14
(45)【発行日】2025-04-22
(54)【発明の名称】ヘッドキャップ及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20250415BHJP
【FI】
B41J2/165 101
B41J2/165 303
B41J2/165 209
(21)【出願番号】P 2021055829
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】楠 佳也
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-291480(JP,A)
【文献】特開2012-176537(JP,A)
【文献】特開2011-104869(JP,A)
【文献】特開2003-175617(JP,A)
【文献】特開2007-245136(JP,A)
【文献】特開2017-100361(JP,A)
【文献】国際公開第2019/150803(WO,A1)
【文献】特開2008-173942(JP,A)
【文献】特開2006-076203(JP,A)
【文献】特開2020-163596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット式の記録ヘッドに被せられるヘッドキャップであって、
洗浄液の貯留空間が上方に向けて開放されたキャップハウジングと、
前記キャップハウジングの開放端に沿って設けられたキャップカバーと、を備え、
前記キャップカバーには前記記録ヘッドが出入り可能な開口が形成され、
前記キャップカバーの開口形状は前記記録ヘッドの外周形状に対応し、前記記録ヘッドの周囲が前記キャップカバーに覆われており、
前記キャップカバーによって洗浄液が貯留空間から零れることが抑えられ、
前記キャップカバーが前記記録ヘッドの各側面に沿った複数のカバー部品によって形成され
、前記複数のカバー部品の合わせ面には凹凸形状が形成され、当該凹凸形状が互いに噛み合うように連結されていることを特徴とするヘッドキャップ。
【請求項2】
前記キャップカバーの開口縁の断面形状が曲面状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のヘッドキャップ。
【請求項3】
前記貯留空間が開放端から底面に向かって面積が狭まるように形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヘッドキャップ。
【請求項4】
前記複数のカバー部品が前記キャップハウジングに揺動可能に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のヘッドキャップ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のヘッドキャップと、
前記記録ヘッドのノズル面をワイピングするワイピングブレードと、を備え、
前記記録ヘッドのうちワイピング動作によってインクの不吐出が解消されない不吐出ヘッドに対して、前記ヘッドキャップを被せていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記ヘッドキャップから前記不吐出ヘッドを離した後に、前記不吐出ヘッドにパージ動作を実施させて、前記ワイピングブレードに前記不吐出ヘッドのノズル面に対するワイピング動作を実施させることを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記不吐出ヘッドのノズル面のワイピング動作後に洗浄終了を報知する報知部を備えていることを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記不吐出ヘッドのノズル面のワイピング動作後に前記不吐出ヘッドにテストパターンを記録させることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドキャップ及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット記録装置では、インクの乾燥による記録ヘッドの目詰まりを解消するために、記録ヘッドからインクを吐き捨てるパージ動作やワイピングブレードでノズル面を洗浄するワイピング動作が実施されている。また、インクジェット記録装置として、記録ヘッドのノズル面をヘッドキャップで封止するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のヘッドキャップには洗浄液が満たされており、洗浄液内に記録ヘッドのノズル面が浸漬されることでノズル面やノズル穴でのインクの固着が抑えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のインクジェット記録装置では、洗浄液によってノズル面が保湿されることで、ノズル面やノズル穴のインクの凝集が抑えられているが、記録ヘッドの内部等で固化したインクの凝集物を分散させることが難しい。また、洗浄液に揺れが生じると、ヘッドキャップから洗浄液が零れ易くなっている。
【0005】
そこで、本発明は、記録ヘッドの内部のインクの凝集物を分散させると共に、ヘッドキャップから洗浄液を零れ難くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のヘッドキャップは、インクジェット式の記録ヘッドに被せられるヘッドキャップであって、洗浄液の貯留空間が上方に向けて開放されたキャップハウジングと、前記キャップハウジングの開放端に沿って設けられたキャップカバーと、を備え、前記キャップカバーには前記記録ヘッドが出入り可能な開口が形成されている。
【0007】
前記ヘッドキャップにおいて、前記キャップカバーの開口縁の断面形状が曲面状に形成されている。
【0008】
前記ヘッドキャップにおいて、前記貯留空間が開放端から底面に向かって面積が狭まるように形成されている。
【0009】
前記ヘッドキャップにおいて、前記キャップカバーが前記記録ヘッドの各側面に沿った複数のカバー部品によって形成されている。
【0010】
前記ヘッドキャップにおいて、前記複数のカバー部品が前記キャップハウジングに揺動可能に設けられている。
【0011】
本発明の一態様のインクジェット記録装置は、上記に記載のヘッドキャップと、前記記録ヘッドのノズル面をワイピングするワイピングブレードと、を備え、前記記録ヘッドのうちワイピング動作によってインクの不吐出が解消されない不吐出ヘッドに対して、前記ヘッドキャップを被せている。
【0012】
前記インクジェット記録装置は、前記ヘッドキャップから前記不吐出ヘッドを離した後に、前記不吐出ヘッドにパージ動作を実施させて、前記ワイピングブレードに前記不吐出ヘッドのノズル面に対するワイピング動作を実施させる。
【0013】
前記インクジェット記録装置は、前記不吐出ヘッドのノズル面のワイピング動作後に洗浄終了を報知する報知部を備えている。
【0014】
前記インクジェット記録装置は、前記不吐出ヘッドのノズル面のワイピング動作後に前記不吐出ヘッドにテストパターンを記録させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、キャップハウジングが記録ヘッドに被せられると、キャップカバーの開口を通じて洗浄液の貯留空間に記録ヘッドが入り込む。洗浄液に記録ヘッドが浸漬されることで、記録ヘッドの内部にまで洗浄液が行き渡ってインクの凝集物が分散される。これにより、記録ヘッドを交換することなく、インクの不吐出が解消されている。また、洗浄液に揺れが生じても、キャップカバーによって洗浄液が貯留空間から零れることが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態のインクジェット記録装置の模式図である。
【
図2】本実施形態のキャップユニット及びワイプユニットの模式図である。
【
図3】本実施形態のヘッドキャップの上面模式図である。
【
図4】本実施形態の不吐出ヘッドのクリーニング手順の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態の不吐出ヘッドのクリーニング手順の一例を示す図である。
【
図6】変形例のヘッドキャップを示す模式図である。
【
図7】他の変形例のヘッドキャップを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態のヘッドキャップを適用したインクジェット記録装置について説明する。
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置の模式図である。説明の便宜上、
図1における紙面前側を画像形成装置の正面側(前側)とし、左右の向きはインクジェット記録装置を正面から見た方向を基準として説明する。各図に適宜付される矢印L、R、U、Lo、Fr、Rrは、それぞれ画像形成装置の左側、右側、上側、下側、前側、後側を示している。
【0018】
図1に示すように、インクジェット記録装置1は、インクジェット式の記録ヘッド41a-41dからシートSに向けてインクを吐出し、シートSに対して片面印刷及び両面印刷を実行可能に形成されている。インクジェット記録装置1は、各種機器が収容された箱型形状のハウジング10を備えている。ハウジング10の下部にはシートSがセットされる給紙カセット12が収容され、ハウジング10の右側面にはシートSが手差しでセットされる手差しトレイ13が設置されている。ハウジング10の左側面の上側には、記録済みのシートSが積載される排紙トレイ16が設置されている。
【0019】
ハウジング10内の右側部には、給紙カセット12からハウジング10中央の記録ヘッド41a-41dに向けてシートSを搬送する第1の搬送経路21が形成されている。第1の搬送経路21の上流には給紙カセット12のシート束からシートSを取り出す給紙部14が設けられ、第1の搬送経路21の下流にはシートSの送り出しタイミングを調整するレジストローラー装置31が設けられている。また、第1の搬送経路21の下流には手差しトレイ13の給紙経路24が連なり、手差しトレイ13の給紙経路24には手差しトレイ13のシート束からシートSを取り出す給紙部15が設けられている。
【0020】
レジストローラー装置31は、上下に対向する一対のレジストローラー32、33を有している。一対のレジストローラー32、33の下流には記録ヘッド41a-41dと搬送ユニット35が設置されている。一対のレジストローラー32、33は、シートSのスキューを矯正して、記録ヘッド41a-41dによるインクの吐出動作に合わせて搬送ユニット35にシートSを送り出している。記録ヘッド41a-41dは、それぞれブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインクを吐出する。搬送ユニット35は、記録ヘッド41a-41dの下方に設置された張架ローラー36、37に搬送ベルト38を掛け渡して構成されている。
【0021】
搬送ユニット35の下流には、インクの乾燥によってシートSに生じたカールを矯正するデカール装置45が設けられている。デカール装置45の下方には、記録ヘッド41a-41dをキャッピングするキャップユニット51と、記録ヘッド41a-41dをワイピングするワイプユニット71とが設けられている。デカール装置45の下流には排紙トレイ16に向けてシートSを搬送する第2の搬送経路22が形成されている。第2の搬送経路22の中間にはシートSの排出先を切り替える分岐部材25が設けられており、第2の搬送経路22の下流には排紙トレイ16に記録済みのシートSを排出する排紙部17が設けられている。
【0022】
ハウジング10内の上部には、分岐部材25から第1の搬送経路21の下流のレジストローラー装置31にシートSを搬送する第3の搬送経路23が形成されている。第3の搬送経路23の途中には、シートSを表裏反転させるシート反転部26が設けられている。第3の搬送経路23にシートSが搬送されると、シート反転部26によってシートSがスイッチバックされることで、表裏反転されたシートSがレジストローラー装置31に向けて搬送される。これにより、シートSの裏面を上に向けた状態で、レジストローラー32、33から記録ヘッド41a-41dにシートSが搬入される。
【0023】
画像記録時には、給紙部14、15によって給紙カセット12又は手差しトレイ13からシートSが取り出されてレジストローラー装置31に送られる。インクの吐出タイミングに合わせて、レジストローラー装置31から搬送ベルト38にシートSが送られて、記録ヘッド41a-41dによってシートSの表面にカラー画像が記録される。片面記録時には、デカール装置45によってシートSに生じたカールが矯正された後、第2の搬送経路22を通って排紙部17にシートSが搬送されて、排紙部17によって表面に画像が記録されたシートSが排紙トレイ16に排出される。
【0024】
両面記録時には、デカール装置45によってシートSに生じたカールが矯正された後、第3の搬送経路23によって表面記録後のシートSが表裏反転されて、レジストローラー装置31に向けて再び搬送される。レジストローラー装置31から搬送ベルト38にシートSが送られて、記録ヘッド41a-41dによってシートSの裏面に画像が記録される。そして、デカール装置45によってシートSに生じたカールが矯正された後、第2の搬送経路22を通って排紙部17にシートSが搬送されて、排紙部17によって両面に画像が記録されたシートSが排紙トレイ16に排出される。
【0025】
記録ヘッド41a-41dのクリーニング時には、記録ヘッド41a-41dにパージ動作を実施させ、ワイプユニット71にワイピング動作を実施させている。記録ヘッド41a-41dには分散安定性の高いインクが用いられているが、インクが乾燥すると分散安定性が崩れて記録ヘッド41a-41dにインク(顔料)の凝集物が生じる。パージ動作やワイピング動作によってノズル穴やノズル面に固着したインクの凝集物を取り除くことができる。しかしながら、記録ヘッド41a-41dのノズル穴よりも奥を十分に洗浄することができず、記録ヘッド41a-41dの内部に固着したインクの凝集物までは取り除くことが難しい。
【0026】
そこで、本実施形態のインクジェット記録装置1には、記録ヘッド41a-41dの内部にまで洗浄液を行き渡らせるキャップユニット51が設けられている。キャップユニット51には、記録ヘッド41a-41dを洗浄液に浸漬させるように当該記録ヘッド41a-41dに被せられるヘッドキャップ53a-53d(
図2参照)が設けられている。また、キャップユニット51等の振動に伴ってヘッドキャップ53a-53d内の洗浄液が揺れるため、洗浄液が零れるのを防ぐようにヘッドキャップ53a-53dにはキャップカバー58a-58d(
図2参照)が設けられている。
【0027】
図2及び
図3を参照して、キャップユニット及びワイプユニットについて説明する。
図2は、本実施形態のキャップユニット及びワイプユニットの模式図である。
図3は、本実施形態のヘッドキャップの上面模式図である。
【0028】
図2に示すように、インクジェット記録装置1には、記録ヘッド41a-41dの下方に搬送ユニット35が設置されており、搬送ユニット35の左側にキャップユニット51とワイプユニット71が上下に並んで設置されている。搬送ユニット35にはユニット昇降機構39が連結されており、ユニット昇降機構39によって搬送ユニット35が搬送位置と待機位置の間で昇降される。キャップユニット51及びワイプユニット71にはユニット移動機構75が連結されており、ユニット移動機構75によってキャップユニット51及びワイプユニット71が選択的に洗浄位置と待機位置の間で左右方向に動かされる。
【0029】
記録ヘッド41a-41dのノズル面には多数のノズル穴が形成されている。記録ヘッド41a-41dの内部にはノズル穴に連なる加圧室(不図示)、加圧室に連なる内部流路(不図示)が形成されている。また、加圧室には圧電素子(不図示)が設置されている。インクタンクから加圧室にインクが充填され、圧電素子に駆動電圧が印加させることでノズル穴からインクが吐出される。また、記録ヘッド41a-41dにはヘッド昇降機構42が連結されており、記録ヘッド41a-41dのクリーニング時等にヘッド昇降機構42によって記録ヘッド41a-41dが昇降される。
【0030】
ワイプユニット71のベースプレート72上には、記録ヘッド41a-41dのノズル面をワイピングするワイピングブレード73a-73dが設けられている。ワイピングブレード73a-73dは、ゴム等の弾性材料によってスキージ状に形成されている。ワイピングブレード73a-73dには進退機構(不図示)が連結されており、進退機構(不図示)によってワイピングブレード73a-73dがワイピング方向(紙面に垂直な方向)に動かされる。記録ヘッド41a-41dには洗浄液の塗布部(不図示)が設けられており、ワイピングブレード73a-73dの先端には塗布部から洗浄液が塗布される。
【0031】
キャップユニット51のベースプレート52上には、記録ヘッド41a-41dに被せられるヘッドキャップ53a-53dが設けられている。ヘッドキャップ53a-53dのキャップハウジング54a-54dには、洗浄液の貯留空間55a-55dが上方に向けて開放されている。貯留空間55a-55dは開放端から底面に向かって面積が狭まるように断面視台形状に形成され、貯留空間55a-55dにはインクの凝集物を分散可能な洗浄液が貯留されている。貯留空間55a-55dが断面視矩形状に形成される場合と比較して、貯留空間55a-55dに対する洗浄液の使用量が抑えられている。
【0032】
キャップハウジング54a-54dの底面からベースプレート52を貫通するように供給口56a-56d及び排出口57a-57dが形成されている。供給口56a-56dには供給流路65を通じて供給タンク66が接続されており、排出口57a-57dには排出流路67を通じて排出タンク68が接続されている。供給流路65及び排出流路67にはポンプ(不図示)及びバルブ(不図示)が介在している。ポンプの駆動及びバルブの切り替えによって洗浄液の供給動作と排出動作が実施されて、貯留空間55a-55dに貯留された洗浄液が自動的に入れ替えられている。
【0033】
キャップハウジング54a-54dの開放端には、当該開放端に沿って矩形枠状のキャップカバー58a-58dが設けられている。キャップカバー58a-58dはゴム等の弾性材料でキャップハウジング54a-54dの開放端に装着されている。キャップカバー58a-58dには、記録ヘッド41a-41dが出入り可能な開口59a-59dが形成されている。キャップカバー58a-58dの開口59a-59dを通じて記録ヘッド41a-41dが貯留空間55a-55dに入り込み、記録ヘッド41a-41dが洗浄液に浸漬されて記録ヘッド41a-41dの内部にまで洗浄液が行き渡っている。
【0034】
キャップカバー58a-58dの開口59a-59dの開口形状は記録ヘッド41a-41dの外周形状に対応しており、記録ヘッド41a-41dの周囲がキャップカバー58a-58dに覆われている。キャップカバー58a-58dの開口縁と記録ヘッド41a-41dの外周面に僅かな隙間しか空いていないため、記録ヘッド41a-41dの外周面にキャップカバー58a-58dの開口縁が接触する場合がある。キャップカバー58a-58dが弾性材料で形成されているため、キャップカバー58a-58dの開口縁が欠けることはないが、キャップカバー58a-58dが変形したままキャッピングが実施されるおそれがある。
【0035】
このため、キャップカバー58a-58dの開口縁の断面形状が曲面状に形成されている。本実施形態ではキャップカバー58a-58dの開口縁の断面形状が半円状に形成され、キャップカバー58a-58dの開口縁の頂点が記録ヘッド41a-41dの外周面に点接触している。キャップカバー58a-58dの開口縁と記録ヘッド41a-41dの側面の接触が最小限になって、摩擦によるキャップカバー58a-58dの変形が抑えられている。また、洗浄液に揺れが生じても、キャップカバー58a-58dによって洗浄液が貯留空間55a-55dから零れ難くなっている。
【0036】
図3に示すように、キャップカバー58aは、記録ヘッド41aの左右側面に沿った一対のカバー部品61と、記録ヘッド41aの前後側面に沿った一対のカバー部品62とによって形成されている。カバー部品61とカバー部品62の合わせ面には凹凸形状が形成され、この凹凸形状が互いに噛み合うように連結されている。例えば、カバー部品61とカバー部品62の合わせ面の表面側(紙面前側)を実線で示し、この合わせ面の裏面側(紙面奥側)を破線で示すと、合わせ面の表面側と裏面側ではカバー部品61とカバー部品62の凹凸形状が逆転している。このように、一対のカバー部品61とカバー部品62が互いに噛み合わされている。
【0037】
複数のカバー部品61、62が一体化していないため、複数のカバー部品61、62の相互の変形の伝達が最小限に抑えられている。例えば、カバー部品61の開口縁が記録ヘッド41aの側面に当たって応力が生じても、カバー部品61、62の合わせ面でカバー部品61からカバー部品62に応力が伝わり難くなる。これにより、キャップカバー58aに複雑な応力が作用し難くなって、キャップカバー58aの耐久性が向上されている。なお、キャップカバー58b-58dも同様に複数のカバー部品61、62によって構成されて、キャップカバー58b-58dの耐久性が向上されている。
【0038】
図2に戻り、インクジェット記録装置1には装置各部を制御するコントローラー78が設けられている。コントローラー78によって記録ヘッド41a-41dによるパージ動作及びテストパターンの記録動作、ワイプユニット71によるワイピング動作、キャップユニット51によるキャッピング動作等が制御されている。なお、コントローラー78は、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の論理回路、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサー、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリによって構成されている。
【0039】
コントローラー78では、通常のクリーニング手順と不吐出ヘッドのクリーニング手順が制御される。通常のクリーニング手順ではパージ動作、ワイピング動作、テストパターンの記録動作が実施される。不吐出ヘッドのクリーニング手順では、不吐出ヘッドに対してキャッピング動作、パージ動作、ワイピング動作、テストパターンの記録動作が実施される。また、コントローラー78には報知部として表示部79が接続されている。表示部79には、不吐出ヘッドに対するクリーニング手順の終了後に洗浄終了を示すメッセージが表示される。
【0040】
図4及び
図5を参照して、不吐出ヘッドのクリーニング手順について説明する。なお、
図4及び
図5は、本実施形態の不吐出ヘッドのクリーニング手順の一例を示す図である。
【0041】
図4の左図に示すように、記録ヘッド41a-41dのうちインクの不吐出が解消されていない記録ヘッド41aが不吐出ヘッドとして選択される。この場合、記録ヘッド41a-41dに対するパージ動作及びワイピング動作が実施された後、記録ヘッド41a-41dのテストパターンの記録結果に基づいて不吐出ヘッドが選択される。不吐出ヘッドとして記録ヘッド41aが選択されると、記録ヘッド41aの下方にヘッドキャップ53aが位置付けられる。ヘッドキャップ53aの貯留空間55aに供給口56aから洗浄液が供給されて、貯留空間55aに記録ヘッド41aを浸漬するのに十分な量の洗浄液が貯留される。
【0042】
図4の中央図に示すように、記録ヘッド41aにヘッドキャップ53aが被せられる。記録ヘッド41aがキャップカバー58aの開口59aを通じて貯留空間55aの洗浄液に浸漬される。このとき、キャップカバー58aの開口縁と記録ヘッド41aの側面の摩擦が最小限になって、キャップカバー58aの変形が抑えられている。記録ヘッド41aのノズル穴から洗浄液が入り込み、記録ヘッド41aの内部まで洗浄液が行き渡る。記録ヘッド41aにヘッドキャップ53aが被せられた状態で、一定時間が経過するまで停止されて内部に固着したインクの凝集物が洗浄液によって分散される。
【0043】
図4の右図に示すように、記録ヘッド41aからヘッドキャップ53aが離されて、ヘッドキャップ53aの貯留空間55aから排出口57aを通じて洗浄液が排出される。このようなキャッピング動作では、動作中にヘッドキャップ53aが振動して、貯留空間55aの洗浄液の液面に揺れが生じている。液面の揺れによって貯留空間55aの壁面に向かって洗浄液がせり上がるが、貯留空間55aの壁面の上端にはキャップカバー58aが庇状に設けられているため、キャップカバー58aによって洗浄液が貯留空間55aから零れることが防がれている。
【0044】
図5の左図に示すように、ヘッドキャップ53aから記録ヘッド41aを離した後に、記録ヘッド41aによって再びパージ動作が実施される。パージ動作によって記録ヘッド41aの内部やノズルに残った洗浄液が吐出される。
図5の中央図に示すように、記録ヘッド41aの下方にワイピングブレード73aが位置付けられ、ワイピングブレード73aによって記録ヘッド41aのノズル面に対して再びワイピング動作が実施される。ワイピング動作によって記録ヘッド41aのノズル面に残った異物が掻き取られる。キャッピング動作、パージ動作、ワイピング動作によって記録ヘッド41aのインクの不吐出が解消される。
【0045】
そして、
図5の右図に示すように、記録ヘッド41aのノズル面のワイピング動作後に、記録ヘッド41aの下方に搬送ユニット35が位置付けられる。そして、表示部79に洗浄終了を示すメッセージが表示されると共に、記録ヘッド41aによってテストパターンの記録動作が実施される。洗浄終了を示すメッセージによって記録ヘッド41aの復帰がユーザーに知らされると共に、テストパターンの記録結果によって記録ヘッド41aのインクの不吐出が再確認される。記録ヘッド41aの不吐出が解消していないときには、上記のクリーニング手順が繰り返されてもよいし、記録ヘッド41aの交換作業が実施されてもよい。
【0046】
以上、本実施形態によれば、キャップハウジング54a-54dが記録ヘッド41a-41dに被せられると、キャップカバー58a-58dの開口59a-59dを通じて洗浄液の貯留空間55a-55dに記録ヘッド41a-41dが入り込む。洗浄液に記録ヘッド41a-41dが浸漬されることで、記録ヘッド41a-41dの内部にまで洗浄液が行き渡ってインクの凝集物が分散される。これにより、記録ヘッド41a-41dを交換することなく、インクの不吐出が解消されている。また、洗浄液に揺れが生じても、キャップカバー58a-58dによって洗浄液が貯留空間55a-55dから零れることが抑えられる。
【0047】
なお、本実施形態では、キャップハウジングの開放端にキャップカバーが設けられているが、キャップカバーはキャップハウジングの開放端に沿って設けられていればよい。例えば、
図6に示すヘッドキャップ80のように、キャップカバー82がキャップハウジング81の開放端に沿っていれば、キャップハウジング81の内周面にキャップカバー82が設けられていてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、キャップカバーの各カバー部品がキャップハウジングに揺動不能に装着されているが、
図7に示すヘッドキャップ84のように、キャップカバー86の各カバー部品87がキャップハウジング85に揺動可能に取り付けられていてもよい。各カバー部品87の揺動によってキャップハウジング85の貯留空間88に対する記録ヘッド89の出入りがガイドされる。
【0049】
また、本実施形態では、キャップカバーが複数のカバー部品によって形成されたが、キャップカバーが一部品で形成されていてもよい。
【0050】
また、本実施形態では、キャップカバーの開口縁の断面形状が曲面状に形成されているが、キャップカバーの開口縁の断面形状は特に限定されない。例えば、キャップカバーの開口縁と記録ヘッドの側面の摩擦が十分に低減されていれば、キャップカバーの開口縁の断面形状が平坦状に形成されていてもよい。
【0051】
また、本実施形態では、貯留空間が開放端から底面に向かって面積が狭まる断面視台形状に形成されたが、記録ヘッドの内部まで洗浄液を行き渡らせることができる程度に洗浄液を貯留できれば、貯留空間の断面形状は特に限定されない。
【0052】
また、本実施形態では、報知部として表示部を例示したが、報知部は不吐出ヘッドのノズル面のワイピング動作後に洗浄終了を報知可能なランプやスピーカーでもよい。すなわち、ランプによって洗浄終了が発光報知されてもよいし、スピーカーによって洗浄終了が音声報知されてもよい。
【0053】
また、本実施形態において、シート状の記録媒体が例示されているが、帯状の記録媒体が使用されてもよい。また、記録媒体には、プラスチックフィルム、記録紙、布等が使用されてもよい。
【0054】
なお、本実施形態を説明したが、他の実施形態として、上記実施形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0055】
また、本発明の技術は上記の実施形態に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方によって実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0056】
1 :インクジェット記録装置
41a-41d:記録ヘッド
53a-53d:ヘッドキャップ
54a-54d:キャップハウジング
55a-55d:貯留空間
58a-58d:キャップカバー
59a-59d:開口
61 :カバー部品
62 :カバー部品
73a-73d:ワイピングブレード
79 :表示部(報知部)